(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ケンペロール類縁体含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20231024BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20231024BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20231024BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231024BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231024BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
A61K31/352
A23L33/10
A61K31/7048
A61P11/00
A61P21/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2019539613
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2018032104
(87)【国際公開番号】W WO2019044964
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/031214
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【氏名又は名称】釜平 双美
(72)【発明者】
【氏名】池田 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】溝上 翼
(72)【発明者】
【氏名】阿比留 康弘
(72)【発明者】
【氏名】秋山 稔
(72)【発明者】
【氏名】小山 あゆ子
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535218(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104777(WO,A1)
【文献】特表2013-542924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケンペロールおよび/またはケンペロール 3-O-グルコシドを含有する
、ヒトに投与されるための運動効率向上組成物であって、1日あたり
ケンペロール換算値として0.1mg~
200mg
経口投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
該運動効率向上が持久力の向上である、請求項1に記載の運動効率向上組成物。
【請求項3】
該運動効率向上が息切れ軽減である、請求項1に記載の運動効率向上組成物。
【請求項4】
ケンペロールおよび/またはケンペロール 3-O-グルコシドを含有する
、ヒトに投与されるための疲労軽減組成物であって、1日あたり
ケンペロール換算値として0.1mg~
200mg
経口投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項5】
該ケンペロールおよび/またはケンペロール 3-O-グルコシドを、
ケンペロール換算値として0.1mg~200mg含有することを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
該ケンペロールおよび/またはケンペロール 3-O-グルコシドを、
ケンペロール換算値として0.5mg~100mg含有することを特徴とする、請求項1~
5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】
該ケンペロールおよび/またはケンペロール 3-O-グルコシドが、1回あたり
ケンペロール換算値として0.1mg~200mg投与されることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項8】
該ケンペロールおよび/またはケンペロール 3-O-グルコシドが、1回あたり
ケンペロール換算値として0.5mg~100mg投与されることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項9】
低酸素状態である対象に投与されることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項10】
飲食品である、請求項1~
9のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項11】
医薬組成物である、請求項1~
9のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、運動効率向上組成物、疲労軽減組成物および動体視力改善組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
激しいトレーニングをするアスリートのみならず、一般人の日常的な労働(例えば家事、荷物運び、階段の昇降)においても運動効率の向上、疲労軽減、動体視力改善は非常に重要である。酸素利用はエネルギー産生の指標であり、スポーツや日常生活において、疲れや息切れを感じることなく持続的に「運動」ができるには、酸素利用効率を向上することがカギとなる。
一般に安静時の動脈血酸素飽和度は96%以上が正常とされているが、激しい運動時には93~88%まで低下する(非特許文献1)。また動脈血酸素飽和度(安静時)は、20代では約97%であるものの加齢と共にこの数値は低下し、60代では約93%となる(非特許文献2)。すなわち激しいスポーツのときの急激な酸素状態の低下に加え、一般人の日常生活においても加齢や労働、また悪天候(低気圧)や無呼吸症候群などにより酸素状態の低下は起こりうる。
スポーツのときのみならず一般人の日常生活においても酸素状態の低下は起こりうるため、通常の酸素状態に加え酸素状態が低下している場合であっても、酸素利用効率を改善でき、運動効率を向上し、疲れをためにくくすることができ、または動体視力を改善できるものであって、日常的に継続して安全に摂取できる製剤が望まれる。
【0003】
ケンペロールは茶、ブロッコリー、グレープフルーツ、キャベツ、ケール、豆類、キクヂシャ、セイヨウニラネギ、トマト、イチゴ、ブドウ、メキャベツ、リンゴ、キヌア、西洋わさび等多くの食用植物に含まれる天然フラボノイドの一種である。
【0004】
ケンペロールを含む天然フラボノイドについてはその多様な生理作用に着目した研究がなされており、例えば、ケンペロールのミトコンドリア機能への関与(特許文献1、特許文献2、および非特許文献3)、およびケンペロールの細胞エネルギー消費および甲状腺ホルモンへの影響(非特許文献4)が挙げられるが、これらはいずれもインビトロの研究に関するものである。
特許文献3はクエルセチンの乳酸濃度への影響について開示するものであるが、他のフラボノイドを使った具体的な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/171333号
【文献】特開2007-228855号公報
【文献】特表2013-542924号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Williams JH, Powers SK, Stuart MK (1986) Hemoglobin desaturation in highly trained athletes during heavy exercise. Med Sci Sports Exerc 18: 168-173
【文献】Wilkins, R.L. et al. Clinical assessment in respiratory care, (2004), Relationship between Age, PaO, and Saturation
【文献】M. Montero, C.D. Lobaton, E. Hernandez-Sanmiguel, et al., Direct activation of the mitochondrial calcium uniporter by natural plant flavonoids, Biochem. J. 384 (2004) 19-24.
【文献】da-Silva WS, Harney JW, Kim BW, Li J, Bianco SD, Crescenzi A, Christoffolete MA, Huang SA, Bianco AC 2007 The small polyphenolic molecule kaempferol increases cellular energy expenditure and thyroid hormone activation. Diabetes 56:767-776
【文献】Oxygen uptake effciency slope (OUES) : その生理学的基礎と臨床応用、東海大学スポーツ医科学雑誌 11, 9-14, 1999-03、東海大学
【0007】
本明細書において引用する先行技術文献の開示は全て参照することにより、本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願の課題は、酸素利用効率を向上する(つまり酸素を利用する能力が高める)ことで運動効率の低下を抑制または運動効率を向上できもしくは疲労を軽減することができ、または動体視力の低下を抑制または動体視力を改善できる組成物あって、通常の酸素状態に加え酸素状態が低下している場合であってもこれらの作用を奏しうる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ケンペロール含有組成物のヒトへの経口投与により、日常生活程度の軽度の運動から激しいスポーツに相当する強度の運動にわたる広い強度範囲の運動において、酸素利用効率は増加し、運動効率は向上し、疲労感は軽減され、動体視力は改善されることを見出し、本願発明に至った。
【0010】
本願発明は、下記を提供する:
[1]式I:
【化1】
(式I)
[式中、
R
1は-OH、または-OCH
3であり;
R
2はH、または-OHであり;
R
3はH、-OH、または-OCH
3であり;
R
4は-OH、または-OCH
3であり;
R
5はH、または-OHであり;および
R
6はH、-OH、または-OCH
3であり;
ただし、
【化2】
を除く]
を有するケンペロール類縁体またはその配糖体を含有する運動効率向上組成物。
[2]該運動効率向上が持久力の向上である、[1]に記載の運動効率向上組成物。
[3]該運動効率向上が息切れ軽減である、[1]に記載の運動効率向上組成物。
【0011】
[4]式I:
【化3】
(式I)
[式中、
R
1は-OH、または-OCH
3であり;
R
2はH、または-OHであり;
R
3はH、-OH、または-OCH
3であり;
R
4は-OH、または-OCH
3であり;
R
5はH、または-OHであり;および
R
6はH、-OH、または-OCH
3であり;
ただし、
【化4】
を除く]
を有するケンペロール類縁体またはその配糖体を含有する疲労軽減組成物。
【0012】
[5]式I:
【化5】
(式I)
[式中、
R
1は-OH、または-OCH
3であり;
R
2はH、または-OHであり;
R
3はH、-OH、または-OCH
3であり;
R
4は-OH、または-OCH
3であり;
R
5はH、または-OHであり;および
R
6はH、-OH、または-OCH
3であり;
ただし、
【化6】
を除く]
を有するケンペロール類縁体またはその配糖体を含有する動体視力改善組成物。
【0013】
[6]該ケンペロール類縁体の配糖体が、式I中、
R1、R2、R4、およびR6の少なくとも1つが-OR7、-OR7R8、または-OR7R8R9から独立して選択され;
R7がグルコース残基であり;および
R8およびR9がグルコース残基、マンノース残基、ガラクトース残基、フコース残基、ラムノース残基、アラビノース残基、キシロース残基、フルクトース残基、グルクロン酸残基、またはアピオース残基から独立して選択される;
[1]~[5]のいずれか1つに記載の組成物。
【0014】
[7]該ケンペロール類縁体またはその配糖体が下記からなる群から選択される、[1]~[6]のいずれか1つに記載の組成物:
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
およびそれらの配糖体。
【0015】
[8]該ケンペロール類縁体またはその配糖体が、ケンペロールまたはケンペロール 3-O-グルコシドである、[1]~[7]のいずれか1つに記載の組成物。
【0016】
[9]該ケンペロール類縁体またはその配糖体を、ケンペロール類縁体換算値として0.1mg~200mg含有することを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組成物。
【0017】
[10]該ケンペロール類縁体またはその配糖体を、ケンペロール類縁体換算値として0.5mg~100mg含有することを特徴とする、[1]~[9]のいずれか1つに記載の組成物。
【0018】
[11]該ケンペロール類縁体またはその配糖体が、1回あたりケンペロール類縁体換算値として0.1mg~200mg投与されることを特徴とする、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
【0019】
[12]該ケンペロール類縁体またはその配糖体が、1回あたりケンペロール類縁体換算値として0.5mg~100mg投与されることを特徴とする、[1]~[11]のいずれか1つに記載の組成物。
【0020】
[13]該ケンペロール類縁体またはその配糖体が、1日あたりケンペロール類縁体換算値として0.1mg~600mg投与されることを特徴とする、[1]~[12]のいずれか1つに記載の組成物。
【0021】
[14]該ケンペロール類縁体またはその配糖体が、1日あたりケンペロール類縁体換算値として0.5mg~200mg投与されることを特徴とする、[1]~[13]のいずれか1つに記載の組成物。
【0022】
[15]低酸素状態である対象に投与されることを特徴とする、[1]~[14]のいずれか1つに記載の組成物。
【0023】
[16]飲食品である、[1]~[15]のいずれか1つに記載の組成物。
【0024】
[17]医薬組成物である、[1]~[15]のいずれか1つに記載の組成物。
【0025】
さらに本願発明は、運動効率向上組成物、疲労軽減組成物、または動体視力改善組成物の製造における、ケンペロール類縁体またはその配糖体の使用を提供する。
【0026】
さらに本願発明は、ケンペロール類縁体またはその配糖体を投与することを含む、運動効率を向上する方法、疲労を軽減する方法、または動体視力を改善する方法を提供する。
【0027】
加えて本願発明は、運動効率向上、疲労軽減、または動体視力改善における使用のためのケンペロール類縁体またはその配糖体を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の組成物は酸素利用効率(酸素を利用する能力)を上げることができ、それにより日常の動作およびスポーツを含むあらゆる「運動」においてその効率を向上すること、例えば息切れが軽減された状態、または持久力が向上した状態で運動できることを可能にしうる。本発明の組成物は、息切れ軽減組成物あるいは、持久力向上組成物としても用いることができる。加えて、本発明の組成物は疲労を軽減することができ、スポーツや日常の家事等を、疲れを感じずに行うことが可能となり得る。さらに本発明の組成物は動体視力を改善し得、例えばスポーツでの成果の向上に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】各運動強度における酸素利用量(VO
2)を示す。
【
図2】漸増負荷運動開始後の酸素消費効率(VO
2/VE)を示す。
【
図3】漸増負荷運動における各用量の酸素摂取効率勾配(OUES)を示す。
【
図4】漸増負荷運動における各用量の最大酸素利用量(VO
2peak)を示す。
【
図5】漸増負荷運動における各用量の最大運動負荷量を示す。
【
図6-1】階段上り時相当の酸素利用量における運動強度(%HR)と自覚運動強度(RPE)。
【
図6-2】ジョギング時相当の酸素利用量における運動強度(%HR)と自覚運動強度(RPE)。
【
図7】漸増負荷運動前後の横方向動体視力(DVA)を示す。
【
図8】低酸素環境下における各化合物のATP産生への影響を示す。
【
図9-1】ヒラメ筋(Sol)におけるATP含量を示す。
【
図10】400m疾走1本目と2本目のタイムの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、運動効率向上組成物、疲労軽減組成物、または動体視力改善組成物に関し、これらの組成物はケンペロール類縁体またはその配糖体を含有することを特徴とするものである。
【0031】
本発明の組成物において、ケンペロール類縁体は、
式I:
【化18】
(式I)
[式中、
R
1は-OH、または-OCH
3であり;
R
2はH、または-OHであり;
R
3はH、-OH、または-OCH
3であり;
R
4は-OH、または-OCH
3であり;
R
5はH、または-OHであり;および
R
6はH、-OH、または-OCH
3であり;
ただし、
【化19】
を除く]
を有する化合物である。
【0032】
本発明の組成物にはケンペロール類縁体の配糖体が含まれうる。ケンペロール類縁体の配糖体は生体内でそのアグリコンに変換され得るため、アグリコンと同様の活性を有し得る。
【0033】
本発明の組成物において、ケンペロール類縁体の配糖体は、該ケンペロール類縁体の少なくとも1つ以上(好ましくは1~2個、より好ましくは1個)のヒドロキシ基において、1つ以上(好ましくは1~3個、より好ましくは1個)の糖残基を有する糖鎖がグリコシド結合した化合物を意味する。糖残基の好ましい例として、グルコース残基、マンノース残基、ガラクトース残基、フコース残基、ラムノース残基、アラビノース残基、キシロース残基、フルクトース残基、グルクロン酸残基、またはアピオース残基が挙げられる。
【0034】
さらに好ましいケンペロール類縁体の配糖体の例として、式I中、
R1、R2、R4、およびR6の少なくとも1つが-OR7、-OR7R8、または-OR7R8R9から独立して選択され;
R7がグルコース残基であり;および
R8およびR9がグルコース残基、マンノース残基、ガラクトース残基、フコース残基、ラムノース残基、アラビノース残基、キシロース残基、フルクトース残基、グルクロン酸残基、またはアピオース残基から独立して選択される;
化合物が挙げられる。
【0035】
好ましいケンペロール類縁体およびその配糖体の例として、下記のケンペロール類縁体およびその配糖体が挙げられる:
。
【0036】
さらに好ましいケンペロール類縁体の例としてケンペロールが挙げられ、その配糖体の例としてケンペロール 3-O-グルコシドが挙げられる。
【0037】
本発明の組成物において、ケンペロール類縁体またはその配糖体は、ケンペロール類縁体とケンペロール類縁体の配糖体が組み合わされて含まれていてもよい。
本発明の組成物において、ケンペロール類縁体は単一のケンペロール類縁体であっても複数の種類のケンペロール類縁体が組み合わされていてもよい。
本発明の組成物において、ケンペロール類縁体の配糖体は単一のケンペロール類縁体の配糖体であっても複数の種類のケンペロール類縁体の配糖体が組み合わされていてもよい。
【0038】
本発明の組成物に使用されるケンペロール類縁体またはその配糖体は、その形態や製造方法等によって何ら制限されるものではない。例えばケンペロールを選択した場合には、ケンペロールを多く含むと知られる植物から公知の方法により抽出したものをそのまま用いることもできるし、合成品を用いることもできる。当該植物由来のケンペロール類縁体の配糖体はそのまま使用されてもよいし、公知の方法により(例えば酵素処理により)そのアグリコンたるケンペロール類縁体に変換されていてもよい。飲食品や医薬組成物とする場合、有効量を配合するためには、濃縮、精製等の操作によって含有量を高めたものを用いることが好ましい。この場合の濃縮方法、精製方法は公知のものを利用することができる。
【0039】
本明細書中、「ケンペロール類縁体換算値」とはケンペロール類縁体の配糖体の量をそのアグリコンたるケンペロール類縁体の量に換算した値を意味する。具体的には、配糖体の量を分子量で除すことで得られた配糖体のモル数に、アグリコンの分子量をかけることで算出できる。
【0040】
本発明の組成物中(飲食品、医薬組成物等)に含まれるケンペロール類縁体またはその配糖体の量、1回の投与あたりに投与されるケンペロール類縁体またはその配糖体の量、および1日あたりに投与されるケンペロール類縁体またはその配糖体の量は、目的の効果が発揮される範囲であれば特に制限されず、組成物の形態や投与回数、対象の健康状態等に応じて適宜選択されうる。本発明の組成物の投与期間は目的の効果が発揮される範囲であれば特に制限されず、単回であっても、継続的に投与されても良い。運動効率向上、疲労軽減、または動体視力改善の効果を継続的に得るために、本発明の組成物は長期間にわたり継続して投与されることが望ましく、例えば2日間、3日間、1週間、10日間、1箇月、3箇月以上投与されうる。
【0041】
本発明の組成物には、組成物の全重量にもよるが、ケンペロール類縁体またはその配糖体がケンペロール類縁体換算値として、例えば0.1mg~200mg、好ましくは0.5mg~100mg、さらに好ましくは1mg~30mg、最も好ましくは2mg~10mg含まれる。該ケンペロール類縁体換算値の下限値の例として0.1mg、0.5mg、1mg、2mg、および2.5mgが挙げられ、上限値の例として200mg、150mg、100mg、50mg、30mg、25mg、15mg、10mg、5mg、3mg、および2.5mgが挙げられ、該ケンペロール類縁体換算値の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。
【0042】
本発明の組成物は、ケンペロール類縁体またはその配糖体が、1回の投与あたり、ケンペロール類縁体換算値として、例えば0.1mg~200mg、好ましくは0.5mg~100mg、さらに好ましくは1mg~30mg、最も好ましくは2mg~10mg投与されるものであり得る。該ケンペロール類縁体換算値の下限値の例として0.1mg、0.5mg、1mg、2mg、および2.5mgが挙げられ、上限値の例として200mg、150mg、100mg、50mg、30mg、25mg、15mg、10mg、5mg、3mg、および2.5mgが挙げられ、該ケンペロール類縁体換算値の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。
【0043】
本発明の組成物おいて、ケンペロール類縁体またはその配糖体は1日あたりケンペロール類縁体換算値として、例えば0.1mg~600mg、好ましくは0.5mg~200mg、さらに好ましくは1mg~100mg投与され得る。該ケンペロール類縁体換算値の下限値の例として0.1mg、0.5mg、1mg、2mg、および2.5mgが挙げられ、上限値の例として600、300、200mg、150mg、100mg、50mg、30mg、25mg、15mg、10mg、5mg、3mg、および2.5mgが挙げられ、該ケンペロール類縁体換算値の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。1日あたりに投与されうるケンペロール類縁体またはその配糖体が1回の投与で投与されても、複数回(例えば2回、3回、4回、および5回)に分けて投与されてもよい。
【0044】
本発明の組成物は好ましくは経口投与製剤として製剤化されることが好ましく、製剤型は特に限定されないが、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、チュアブル錠、菓子類(クッキー、ビスケット、チョコレート菓子、チップス、ケーキ、ガム、キャンディー、グミ、饅頭、羊羹、プリン、ゼリー、ヨーグルト、アイスクリーム、シャーベットなど)、パン、麺類、ご飯類、シリアル食品、飲料(液剤、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、粉末飲料、果実飲料、乳飲料、ゼリー飲料など)、スープ(粉末、フリーズドライ)、味噌汁(粉末、フリーズドライ)等の通常の食品形態であり得る。
【0045】
本発明の組成物は飲食品または医薬組成物であり得、例えば機能性表示食品、特定保健用食品、健康食品、栄養補助食品(サプリメント)、医療用食品などの飲食品として利用されうる。
【0046】
本発明の組成物はケンペロール類縁体またはその配糖体の他に、薬学的に許容される基剤や担体、食品に使用可能な添加物等を添加して、経口投与製剤に製剤化されうる。本発明の組成物に使用されるケンペロール類縁体またはその配糖体以外の材料はケンペロール類縁体の安定性を害さないものが望ましく、更に本発明の組成物の目的とする効果(例えば酸素利用効率向上、運動効率向上、疲労軽減、または動体視力改善)を害するものでないことが望ましい。
【0047】
本発明において「酸素利用効率向上」とは、酸素を利用する能力が高まることを意味する。具体例として、本願実施例に記載の酸素消費効率(VO2/VE)の増加に加え、所定の運動強度下での酸素利用量(VO2)の増加、酸素摂取効率勾配(OUESの増加)、および最大酸素利用量(VO2peak)の増加が挙げられる。
【0048】
本明細書において「運動」とは体を動かすことを意味し、日常の家事、荷物運び、階段の昇降、スポーツ等あらゆる態様を含む。
【0049】
本発明において「運動効率向上」とは、あらゆる運動の場面で、体をより楽に動かせられることを意味する。例えば持久力が向上してより楽な状態で長く運動を継続することが可能であり、または息切れが軽減された状態でより楽に運動することができることが挙げられる。運動効率向上の指標の例としては、所定の運動強度下での酸素利用量(VO2)の増加、酸素消費効率(VO2/VE)の増加、酸素摂取効率勾配(OUESの増加)、最大酸素利用量(VO2peak)の増加、最大運動負荷量の増加、所定の酸素利用量(VO2)下での運動強度の減少、または自覚運動強度の減少(これらの用語は本願実施例に説明される)が挙げられる。
本願発明の組成物が運動効率向上のために投与される場合、その用量および投与回数は特に限定されず、例えば上記に例示する投与量、投与回数、投与期間で投与されうる。
【0050】
本発明において疲労軽減とは、あらゆる運動の場面で、より疲れが少なく運動できることを意味する。疲労軽減の指標の例としては運動強度または自覚運動強度(これらの用語は本願実施例に説明される)が減少することが挙げられる。
本願発明の組成物が疲労軽減のために投与される場合、その用量および投与回数は特に限定されず、例えば上記に例示する投与量、投与回数、投与期間で投与されうる。
【0051】
本発明において動体視力改善とは、動体視力の低下を防ぐまたは動体視力を向上することを意味する。
本願発明の組成物が動体視力改善のために投与される場合、その用量および投与回数は特に限定されず、例えば上記に例示する投与量、投与回数、投与期間で投与されうる。
【0052】
本発明の組成物は酸素利用効率を向上する(つまり酸素を利用する能力が高まる)効果を有し得る。従って、本発明の組成物は酸素利用効率向上剤としても使用されうる。
【0053】
本発明において、低酸素状態とは体内の酸素が不足している状態を意味し、例えば動脈血酸素飽和度が95%未満の状態であることが挙げられる。
本発明の組成物は低酸素状態の対象においても酸素利用効率を向上する効果を有し得るため、当該低酸素状態の対象においても、運動効率向上、疲労軽減、動体視力改善に寄与しうる。
【0054】
本発明の組成物の投与対象は特に限定されないが、好ましくはヒトである。スポーツの前後、屋外での作業の前後、日常の労動(階段の上り下り、家事など)の前後、日頃の疲れが抜けないと感じるとき、効率的に作業をしたいとき、加齢で動きが鈍くなったと感じたときに投与することが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、製剤例および試験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[製剤例1]クッキー(ケンペロール含量2.5mg)
キヌア抽出物* 37重量%
メープルシロップ 22重量%
牛乳 22重量%
バター(含塩) 15重量%
グラニュー糖 4重量%
合 計 100重量%
これらを混合し、常法によりオーブン温度約140℃で20分間焼成して、クッキーを製造した。クッキー1枚あたりのケンペロールの含量は2.5mg(HPLCによる)であった。
キヌア抽出物*:酵素処理によりケンペロール配糖体をケンペロールアグリコンに変換した抽出物。
【0056】
[製剤例2]カプセル状食品(ケンペロール含量2.5mg)
エタノール抽出酵素処理キヌア粉末** 48重量%
ゼラチン製カプセル 52重量%
合 計 100重量%
エタノール抽出酵素処理キヌア粉末をゼラチン製カプセルに充填して作製した。カプセル1個あたりケンペロールの含量は2.5mg(HPLCによる)であった。
エタノール抽出酵素処理キヌア粉末**:50%エタノールによりキヌア粒からケンペロール配糖体を抽出した後、酵素処理によりケンペロール配糖体をケンペロールアグリコンに変換した抽出物。
【0057】
<試験例1:自転車こぎ漸増負荷運動試験>
健常成人男性25名に対して、3用量のケンペロール含有クッキー状食品(ケンペロールとして、2.5mg、10mg、25mgを含む)およびプラセボクッキー状食品(ケンペロールを含まない)を試験食品として、1日1回8日間の連続摂取を、クロスオーバー法にて4セット繰り返した。摂取1日目(単回摂取時)および摂取8日目(連続摂取時)の試験食品摂取3時間後から、呼気ガスを採取しながら自転車こぎ漸増負荷運動を実施し、酸素利用量を算出した。運動中は、心拍数および自覚的運動強度をモニターした。また、運動前後に動体視力を測定した。各評価項目の詳細を以下に示す。
【0058】
<1:酸素利用量(VO
2)の評価>
酸素利用量(VO
2)(mL/min/kg)を、吸った息(大気)に含まれる酸素の量と呼気ガスに含まれる酸素の量の差より算出した。
自転車こぎ漸増負荷運動において、ペダルの重さが被験者の限界に近づくと心拍数(HR)は最大となる。安静時の心拍数から最大心拍数までの心拍数の増加を運動強度の100%として、各運動強度における酸素利用量(VO
2)をプロットした。
すなわち、例えば運動強度50%HRの場合、下式:
100×(x-安静時心拍数)/(最大心拍数-安静時心拍数)=50%HR
中の「x」の心拍数を示すときの酸素利用量(VO
2)が「運動強度50%HRにおける酸素利用量(VO
2)」となる。
結果を
図1に示す。
図1に示されるとおり、単回摂取後および連続摂取後共に、運動強度50%、60%、70%、80%、90%、および100%の全てにおいて、ケンペロールを摂取した方がケンペロールを摂取しない場合に比べて、酸素利用量は増加したことが確認された。
【0059】
<2:酸素消費効率(VO
2/VE)の評価>
酸素消費効率を下式により算出した。
酸素消費効率(VO
2/VE)=酸素利用量/換気量
図2に示されるとおり、単回摂取後および連続摂取後共に、ケンペロールを摂取した方がケンペロールを摂取しない場合に比べて、酸素消費効率(VO
2/VE)の増加が認められた。
【0060】
<3:酸素摂取効率勾配(OUES)の評価>
漸増負荷運動開始時から1分毎の換気量とVO
2を利用して酸素摂取効率勾配(OUES)を算出した。具体的には横軸に「換気量(VE)のlog値」、縦軸に「VO
2」をプロットした直線性のグラフを得、その一次関数グラフの傾きをOUESとする。詳しくは非特許文献5を参照。
図3に示されるとおり、単回摂取後および連続摂取後共に、ケンペロールを摂取した方がケンペロールを摂取しない場合に比べて、酸素摂取効率勾配(OUES)は増加し、漸増負荷運動の間を通して酸素が効率良く利用できたことが確認された。
【0061】
<4:最大酸素利用量(VO
2peak)の評価>
図4に示すとおり、単回摂取後および連続摂取後共に、ケンペロールを摂取した方がケンペロールを摂取しない場合に比べて、最大酸素利用量(VO
2peak)(mL/min/kg)は増加した。
【0062】
<5:最大運動負荷量の評価>
図5に示すとおり、単回摂取後および連続摂取後共に、ケンペロールを摂取した方がケンペロールを摂取しない場合に比べて、最大運動負荷量(ペダルの重さ(watt))は増加した。
【0063】
<6:日常生活における運動強度への影響>
階段を上る際およびジョギング時の酸素利用量(VO
2)は一般にそれぞれ14mL/min/kgおよび24.5mL/min/kgであるとの報告がある。
漸増負荷運動において、酸素利用量(VO
2)が階段の上りおよびジョギングにそれぞれ相当する14mL/min/kgおよび24.5mL/min/kgのときの運動強度(%HR)と自覚運動強度(RPE)を評価した。
酸素利用量(VO
2)および運動強度(%HR)の算出方法は上記と同じである。
自覚運動強度(RPE)は、下記の表に従って漸増負荷運動開始時から1分間隔で被験者が評価し、各被験者の回答値を平均して算出した。
図6-1および6-2に示すとおり、階段を上る際およびジョギング時に相当する酸素利用量(VO
2)の両方において、単回摂取後および連続摂取後共に、ケンペロールを摂取した方がケンペロールを摂取しない場合に比べて、運動強度および自覚運動強度は低下した。
【0064】
上記1~6の評価結果に示されたとおり、ケンペロール含有食品の摂取により、同じ運動強度下で酸素利用量、酸素利用効率は増加した。さらに最大運動負荷量が増大した。また、同じ酸素利用量下での運動強度を想定した場合、心拍数は低下しており、被験者は持久力が向上して息切れなく楽に運動できる可能性が示唆された。このように運動効率が向上したため、被験者の疲労感も軽減すると考えられる。実際、ケンペロール含有食品の摂取により、被験者が自覚する運動強度は低下しており、息切れや疲労感は軽減された。したがって、本組成物は息切れ軽減組成物及び/又は持久力向上組成物及び/又は酸素利用向上組成物として使用できることが示唆された。
【0065】
<7:動体視力への影響>
漸増負荷運動の前と後(運動後約 1 分以内)に横方向動体視力(DVA)および奥行方向動体視力(KVA)を測定して、動体視力への影響を調べた。
【0066】
(1)横方向動体視力(DVA:Dynamic Visual Acuity)の測定
測定機器:
動体視力計 HI-10Dynamic Vision Tester(興和株式会社)
測定方法:
被験者を中心として円弧上を水平に移動するランドルト氏環の視認しうる最も速いスピードを測定した。目標物は回転するごとに自動的に徐々に減速していき、ランドルト氏環の切れ目が分かったとき、被験者は手元のスイッチを押し、切れ目の方向(上下左右)を答えさせた。デジタル表示されたそのときの回転数を記録用紙に記載し、検査成績とした。結果を
図7に示す。
【0067】
<試験例2:低酸素環境下におけるATP産生への影響>
馬血清により分化させたC
2C
12骨格筋細胞を得、種々の化合物(最終濃度20μM)あるいは陰性対照としてジメチルスルホキシド(DMSO)を添加し、低酸素インキュベータ(3%O
2)にて24時間培養後、細胞中のATP含量を東洋ビーネット(株)製キット(ルシフェラーゼ発光法)を用いて定量した。
活性値はDMSO添加サンプルのATP含量を100%としたときの%値にて表示した。
結果を
図8に示す。
【0068】
<試験例3:ラットにおけるケンペロールまたはケンペロール 3-O-グルコシドの影響>
9週齢雄性SDラットに対して、ケンペロール(KMP;1.0mg/kg体重)、またはケンペロール 3-O-グルコシド(K3G;KMPアグリコン換算値として0.1、0.2または1mg/kg体重)を毎朝9時に1日1回、8日間連続経口投与した(酸素21%で飼育した)。投与8日目に、Cont群は酸素21%に1時間暴露した後、それ以外の群は酸素濃度12%に1時間暴露した後、ヒラメ筋(Sol)、全脳を摘出し、組織中のATP含量を測定した。
結果を
図9-1~-2に示す。
【0069】
<試験例4:400m走のパフォーマンスへの影響>
健常成人男性13名に対して、ケンペロール含有カプセル状食品:SNR14(ケンペロールとして10mgを含む)およびプラセボカプセル状食品:Placebo(ケンペロールを含まない)を試験食品として、単回摂取、2群2期クロスオーバー比較試験を行った。
試験食品摂取から3時間後に400mを全力疾走し、90分のインターバルの後、再度、400mを全力疾走した。疾走中は呼吸回数および心拍数をモニターした。
電子式スパイロメータ オートスパイロ(ミナト医科学株式会社)を用いて、400m疾走前後に呼気筋力を最大口腔内圧法により測定した。立位にて3回深呼吸をさせ、限界まで息を吸わせた後、鼻からの空気漏れを防ぎながら測定用マウスピースに全力で息を吐かせることで呼気筋力を測定した。
【0070】
図10に400m疾走1本目と2本目のタイムの変化を示すグラフを示す。プラセボ食品摂取群では、1本目に対し2本目では平均-0.11秒であったのに対し、ケンペロール含有食品摂取群では平均-0.77秒であった。
【0071】
図11に疾走中の呼吸回数を示すグラフを示す。2本目の疾走において、プラセボ食品摂取群と比較してケンペロール含有食品摂取群は疾走中の総呼吸回数が有意に低く、50m毎の各呼吸数(回/分)についてもケンペロール含有食品摂取群は有意に低かった。
【0072】
図12に疾走中の運動強度を示すグラフを示す。2本目の疾走において、プラセボ食品摂取群と比較してケンペロール含有食品摂取群は疾走中の運動強度は有意に低かった。
【0073】
図13に呼気筋力の変化を示すグラフを示す。
図13に示すとおり、プラセボ食品摂取群と比較してケンペロール含有食品摂取群は呼気筋力の低下が有意に抑制された。
【0074】
図14に心拍数の変化を示すグラフを示す。
図14に示すとおり、プラセボ食品摂取群と比較してケンぺロール含有食品摂取群は1本目の走行では200-250m時に、2本目の走行ではスタート後-150m時に心拍数が有意に低値を示した。
【0075】
疾走後の感想として、プラセボ食品摂取群と比較して、ケンペロール含有食品摂取群の被験者からは、「楽」「回復が早い」「体が動く」というコメントが多かった。
ケンペロール含有食品は、「楽」、「回復が早い」などの体感を伴いつつ、運動パフォーマンスを向上しうる。
【0076】
試験例4の結果に示すとおり、ケンペロール含有食品の摂取により、運動強度が低下した。さらに、ケンぺロール含有食品の摂取により、呼吸筋力低下の抑制、及び心拍数上昇の抑制が認められたことから、息切れの改善による運動効率の向上や、疲労感が軽減すると考えられる。実際、ケンペロール含有食品の摂取により、被験者が自覚する感想からも、運動強度は低下しており、運動効率の向上や疲労感が軽減された。したがって、本組成物は心拍数上昇抑制組成物及び/又は息切れ軽減組成物及び/又は持久力向上組成物として使用できることが示唆された。