(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】堅牢なマイクロ流体試料デジタル化のためのトラップアレイ
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231024BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20231024BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20231024BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231024BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N37/00 101
G01N35/08 A ZNA
C12Q1/686 Z
(21)【出願番号】P 2019542122
(86)(22)【出願日】2018-02-02
(86)【国際出願番号】 US2018016693
(87)【国際公開番号】W WO2018144906
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-02-02
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518223823
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド,カレッジ パーク
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】デボー,ドン エル
(72)【発明者】
【氏名】スポジト,アレックス
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0352552(US,A1)
【文献】特開2009-178167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
G01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第一のマイクロ流体チャネルが内部に設けられており、該第一のマイクロ流体チャネルが注入口及び排出口と連通しており、試料が前記注入口を通じて前記第一のマイクロ流体チャネル中に導入される基板と、
前記第一のマイクロ流体チャネルから分岐している複数の試料トラップと、
前記第一のマイクロ流体チャネル及び前記排出口と流体連通しており、前記第一のマイクロ流体チャネルから余分な試料を除去するように構成されたキャピラリーポンプと、
前記基板に結合された封止層と、
を備える自動装填式マイクロ流体デバイスであって、
少なくとも1つの第二のマイクロ流体チャネルが不混和性流体注入口及び前記排出口と流体連通しており、該第二のマイクロ流体チャネルは該不混和性流体注入口と該排出口との間で前記複数の試料トラップの各々と流体連通し、該複数の試料トラップは該第二のマイクロ流体チャネルの
側面に
互いに対向する列をなして配列されており、前記第一のマイクロ流体チャネルと前記第二のマイクロ流体チャネルとは少なくとも一部が前記複数の試料トラップを間に挟んで互いに平行に走り、不混和性流体が前記不混和性流体注入口を通じて前記第二のマイクロ流体チャネル中に導入されるように構成されており、
前記複数のトラップの各々は、前記試料トラップの前記試料による自動充填を最適化するように選択され
た幾何学的パラメータを有し、試料の前進する流体フロント部が前記第一のマイクロ流体チャネルの1又は2以上の表面でピンニングさ
れ、該流体フロント部が
最初のピンニング点で膨張して
前進のための臨界角に達すると、該流体フロント部が試料トラップ壁に沿って広がることで、試料が試料トラップに進入するように構成された、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記幾何学的パラメータは、チャネル幅、トラップ幅、トラップ深さ、チャネル高さ、及びトラップ高さを含む、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記試料トラップは、前記マイクロ流体チャネルの同側面から分岐している側方突出部である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記試料トラップは、前記マイクロ流体チャネルの両側面から分岐している側方突出部である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記試料トラップは、前記マイクロ流体チャネルの両側面から分岐している側方突出部であり、中心線がずれている、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記封止層は、薄いフィルムである、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記薄いフィルムの厚さは、200μmである、請求項
6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
各試料トラップは、事前に沈着された試薬を含む、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
各々の事前に沈着された試薬は、デバイス作製の間に封止層上にプリントされる、請求項
8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
前記事前に沈着された試薬は、前記試料中の標的核酸を増幅するためのプライマーを含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)試薬であり、該PCR試薬はパラフィンワックス中に封入されていることで、試料導入の間にプライマーが封入されたままになることを保証する、請求項
8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
前記事前に沈着された試薬は、前記試料中の標的核酸を増幅するためのプライマーを含むループ介在等温増幅(LAMP)試薬であり、該LAMP試薬はパラフィンワックス中に封入されていることで、試料導入の間にLAMP試薬が封入されたままになることを保証する、請求項
8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
前記プライマーは、サーモサイクリングの前に温度の適用により放出される、請求項
10に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
前記キャピラリーポンプは、吸収材メンブレンである、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
前記吸収材メンブレンは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレンである、請求項
13に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
前記基板は、熱可塑性ポリマーから作製される、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
前記基板は、環状オレフィンポリマー(COP)から作製される、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
前記試料は、前記注入口へとピペットにより注入される、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
前記トラップは、900μm四方及び250μmの深さの寸法を有する、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
余分な試料を前記キャピラリーポンプにより前記マイクロ流体チャネルから除去した後に、不混和性流体を前記デバイス中に装填することで、各試料トラップは完全に隔離される、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
前記不混和性流体は、シリコーン油である、請求項
19に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
少なくとも1つの第一のマイクロ流体チャネルが内部に設けられている基板であって、該第一のマイクロ流体チャネルが注入口及び排出口並びに該第一のマイクロ流体チャネルから分岐している複数の試料トラップと流体連通しており、少なくとも1つの第二のマイクロ流体チャネルが不混和性流体注入口及び前記排出口と流体連通しており、該第二のマイクロ流体チャネルは該不混和性流体注入口と該排出口との間で前記複数の試料トラップの各々と流体連通し、該複数の試料トラップは該第二のマイクロ流体チャネルの
側面に
互いに対向する列をなして配列されており、前記第一のマイクロ流体チャネルと前記第二のマイクロ流体チャネルとは少なくとも一部が前記複数の試料トラップを間に挟んで互いに平行に走り、前記第一のマイクロ流体チャネルが、前記注入口とキャピラリーポンプとを接続し、その間に試料トラップを有し、該基板に封止層が結合されている、基板を準備することと、
試料を前記第一のマイクロ流体チャネル中に前記注入口を通じて導入することで、該試料を前記試料トラップに自動装填することと、
余分な試料を前記第一のマイクロ流体チャネルから前記キャピラリーポンプにより除去することと、
不混和性流体を前記第二のマイクロ流体チャネル中に前記不混和性流体注入口を通じて導入することと、
前記第二のマイクロ流体チャネルを不混和性流体で充填することで、前記複数の試料トラップを隔離することと、
を含む方法であって、
前記複数の試料トラップの各々は、該試料トラップの試料によるピンニングを介した自動充填を最適化するように選択され
た幾何学的パラメータを有し、試料の前進する流体フロント部が前記第一のマイクロ流体チャネルの1又は2以上の表面でピンニングさ
れ、該流体フロント部が
最初のピンニング点で膨張して
前進のための臨界角に達すると、該流体フロント部が試料トラップ壁に沿って広がることで、試料が試料トラップに進入するように構成された、方法。
【請求項22】
前記幾何学的パラメータは、チャネル幅、トラップ幅、トラップ深さ、チャネル高さ、及びトラップ高さを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
前記複数の試料トラップは、前記第一のマイクロ流体チャネルの同側面から分岐する、請求項
21に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の試料トラップは、前記第一のマイクロ流体チャネルの両側面から分岐する、請求項
21に記載の方法。
【請求項25】
前記複数の試料トラップは、前記第一のマイクロ流体チャネルの両側面から分岐し、中心線がずれている、請求項
21に記載の方法。
【請求項26】
前記封止層は、薄いフィルムの層である、請求項
21に記載の方法。
【請求項27】
前記薄いフィルムの層の厚さは、200μmである、請求項
26に記載の方法。
【請求項28】
各試料トラップは、事前に沈着された試薬を含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項29】
前記事前に沈着された試薬は、
前記基板を準備する間に各試料トラップ中に
沈着されることで、各試料トラップ内で異なる反応が行われる、請求項
28に記載の方法。
【請求項30】
前記事前に沈着された試薬は、前記試料中の標的核酸を増幅するためのプライマーを含むループ介在等温増幅(LAMP)試薬であり、該LAMP試薬はパラフィンワックス中に封入されていることで、試料導入の間にLAMP試薬が封入されたままになることを保証する、請求項
28に記載の方法。
【請求項31】
前記事前に沈着された試薬は、前記試料中の標的核酸を増幅するためのプライマーを含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)試薬であり、該PCR試薬はパラフィンワックス中に封入されていることで、試料導入の間にプライマーが封入されたままになることを保証する、請求項
28に記載の方法。
【請求項32】
前記キャピラリーポンプは、吸収材メンブレンである、請求項
21に記載の方法。
【請求項33】
前記吸収材メンブレンは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレンである、請求項
32に記載の方法。
【請求項34】
前記試料は、前記注入口へとピペットにより注入される、請求項
21に記載の方法。
【請求項35】
前記プライマーは、サーモサイクリングの前に温度の適用により前記パラフィンワックスから放出される、請求項
31に記載の方法。
【請求項36】
前記トラップは、900μm四方及び250μmの深さの寸法を有する、請求項
21に記載の方法。
【請求項37】
余分な試料を前記キャピラリーポンプにより前記マイクロ流体チャネルから除去した後に、不混和性流体を前記デバイス中に装填することで、各試料トラップは完全に隔離される、請求項
21に記載の方法。
【請求項38】
前記不混和性流体は、シリコーン油である、請求項
21に記載の方法。
【請求項39】
前記基板は、熱可塑性ポリマーから作製される、請求項
21に記載の方法。
【請求項40】
前記基板は、熱可塑性の環状オレフィンポリマー(COP)から作製される、請求項
21に記載の方法。
【請求項41】
自動装填式マイクロ流体デバイスを作製する方法であって、
基板を準備することと、
前記基板中に、少なくとも1つの第一のマイクロ流体チャネル並びにチャンバ、注入口、排出口、及び前記第一のマイクロ流体チャネルから分岐している複数の試料トラップを含むマイクロ流体形状を作製し、その際、前記マイクロ流体チャネルが前記注入口と前記チャンバとを接続し、その間に前記試料トラップを有するように構成することと、
前記基板中に、不混和性流体注入口及び前記排出口と流体連通する少なくとも1つの第二のマイクロ流体チャネルを作製し、該第二のマイクロ流体チャネルが該不混和性流体注入口と該排出口との間で該第二のマイクロ流体チャネルの
側面に
互いに対向する列をなして配列された前記複数の試料トラップの各々と流体連通し、前記第一のマイクロ流体チャネルと前記第二のマイクロ流体チャネルとは少なくとも一部が前記複数の試料トラップを間に挟んで互いに平行に走るように構成することと、
前記第一のマイクロ流体チャネルから余分な試料を除去するために少なくとも1つの吸収材メンブレンを前記チャンバ中に挿入することと、
前記基板をスポッティングステージに貼り付けられた封止層に嵌め合わせて、前記少なくとも1つの第1及び第2のマイクロ流体チャネル及び前記複数の試料トラップを封止し、その際、前記封止層は、その上に沈着された試薬を有するように構成することと、
圧力を適用することで、前記封止層を前記基板に結合させることと、
を含む、方法。
【請求項42】
前記基板に前記封止層を結合させる前にコンタクトプリンティングによってピンスポッティングツールにより前記封止層に試薬を沈着させることを更に含む、請求項
41に記載の方法。
【請求項43】
軟質パラフィンワックスの保護層を、乾燥された試薬スポットの上を覆って沈着させる前に、試薬スポットを乾燥させることを更に含む、請求項
41に記載の方法。
【請求項44】
前記試薬は、プライマー及びポリエチレングリコール(PEG)を含む、請求項
41に記載の方法。
【請求項45】
前記吸収材メンブレンは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレンである、請求項
41に記載の方法。
【請求項46】
前記基板は、熱可塑性の環状オレフィンポリマー(COP)から作製される、請求項
41に記載の方法。
【請求項47】
前記トラップは、前記チャネルの両側面から分岐し、中心線がずれている、請求項
41に記載の方法。
【請求項48】
前記試料トラップは、前記マイクロ流体チャネルの同側面から分岐している側方突出部である、請求項
41に記載の方法。
【請求項49】
前記試料トラップは、前記マイクロ流体チャネルの両側面から分岐している側方突出部である、請求項
41に記載の方法。
【請求項50】
前記封止層は、薄いフィルムの層である、請求項
41に記載の方法。
【請求項51】
前記薄いフィルムの層の厚さは、200μmである、請求項
50に記載の方法。
【請求項52】
前記トラップは、900μm四方及び250μmの深さの寸法を有する、請求項
51に記載の方法。
【請求項53】
前記複数のトラップの各々は、前記試料トラップの前記試料による自動充填を最適化するように選択され
た幾何学的パラメータを有し、試料の前進する流体フロント部が前記第一のマイクロ流体チャネルの1又は2以上の表面でピンニングさ
れ、該流体フロント部が
最初のピンニング点で膨張して
前進のための臨界角に達すると、該流体フロント部が試料トラップ壁に沿って広がることで、試料が試料トラップに進入するように構成されており、該幾何学的パラメータは、チャネル幅、トラップ幅、トラップ深さ、チャネル高さ、及びトラップ高さを含む、請求項
41に記載の方法。
【請求項54】
少なくとも1つの第一のマイクロ流体チャネルが内部に設けられており、試料が該第一のマイクロ流体チャネル中に注入口を通じて導入される基板と、
前記第一のマイクロ流体チャネルから分岐している、それぞれ試薬を含む複数の試料トラップと、
前記第一のマイクロ流体チャネル及び排出口と流体連通しており、前記マイクロ流体チャネルを不混和性流体で充填して前記複数の試料トラップを隔離する前に、前記第一のマイクロ流体チャネルから余分な試料を除去するように構成されたキャピラリーポンプとを備え、
少なくとも1つの第二のマイクロ流体チャネルが不混和性流体注入口及び前記排出口と流体連通しており、該第二のマイクロ流体チャネルは該不混和性流体注入口と該排出口との間で前記複数の試料トラップの各々と流体連通し、該複数の試料トラップは該第二のマイクロ流体チャネルの
側面に
互いに対向する列をなして配列されており、前記第一のマイクロ流体チャネルと前記第二のマイクロ流体チャネルとは少なくとも一部が前記複数の試料トラップを間に挟んで互いに平行に走っている自動装填式トラップアレイチップと、
温度を検知するための前記自動装填式トラップアレイチップの背面にパターン化された電極と、
前記自動装填式トラップアレイチップと光学的に連絡しているLEDアレイと、
前記トラップアレイチップの蛍光イメージングの実施のためのCMOSイメージャと、
前記試料中の標的核酸の増幅を制御するためのルーティングボードと、
を備えるUSBシェルを備えるデバイス。
【請求項55】
各試料トラップは、デバイス作製の間に封止層上にプリントされた事前に沈着された試薬を含む、請求項
54に記載のデバイス。
【請求項56】
前記事前に沈着された試薬は、試料導入の間にLAMP試薬が封入されたままになることを保証するパラフィンワックス中に封入されたループ介在等温増幅(LAMP)試薬である、請求項
55に記載のデバイス。
【請求項57】
前記キャピラリーポンプは、吸収材メンブレンである、請求項
54に記載のデバイス。
【請求項58】
前記吸収材メンブレンは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレンである、請求項
57に記載のデバイス。
【請求項59】
前記不混和性流体は、シリコーン油である、請求項
54に記載のデバイス。
【請求項60】
前記基板は、熱可塑性の環状オレフィンポリマー(COP)から作製される、請求項
54に記載のデバイス。
【請求項61】
前記試料は、前記注入口へとピペットにより注入される、請求項
54に記載のデバイス。
【請求項62】
余分な試料を前記チャネルから前記吸収材メンブレンによって除去した後に、前記不混和性流体を前記デバイス中に装填することで、各トラップが完全に隔離される、請求項
57に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2017年6月2日に出願された米国仮特許出願第62/514,501号及び2017年2月2日に出願された米国仮特許出願第62/453,763号の利益を主張するものであり、これら仮特許出願は、その開示内容を引用することにより、本明細書の一部をなす。
【0002】
本出願は配列表とともに電子形式において出願されている。その配列表は、「3400-327_ST25.txt」と題し、2018年2月2日に作成され、サイズ2000バイトであった。配列表の電子形式の情報は、本出願の一部であり、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0003】
本発明は、外部の流動制御又は操作を一切必要としない受動的なマイクロ流体試料デジタル化のためのデバイスに関する。さらに、本発明によるデバイスは、多重増幅反応のために使用することができる。
【背景技術】
【0004】
試料デジタル化、又は試料容量のより小さい部分への分離は、ゲノミクス、臨床診断、及び創薬のための多くの用途において必要とされる重要な作業である。初期試料溶液から個別の流体容量のアレイを形成する従来のアプローチは、ロボットの流体処理に頼っていた。しかしながら、このアプローチは、扱いにくく高価な機器を必要とし、多工程アッセイにおける拡張性に不利に働き、一般的にマイクロリットル範囲の細分化された(discretized:個別化された)試料容量に限定される。さらに、沈着のためにマイクロウェルプレート等の開放型の基板が必要であることにより、外部汚染のリスクが高まり、試料の蒸発を抑える必要性が生じ、実施することができるアッセイ作業の種類が制約される。
【0005】
閉鎖型の流動システム内で自動式の試料デジタル化を可能にするために、様々なマイクロ流体技術が開発されている。マイクロ流体的なデジタル化に関する最も一般的なアプローチの1つは、液滴生成、すなわち試料容量を不混和性相内で分散させて、個々の液滴により画成された小さな均一なリアクターを生成する能動的なデジタル化法である。マイクロ流体的な液滴生成装置は、連続的な分散相の流速を調節することで、デジタル化された試料容量の容量及び生成速度を制御することを可能にし、高密度アレイの形成のために容易に使用することができる。しかしながら、液滴生成は、能動的なデジタル化法であり、単分散された液滴形成のための連続的で正確な流動制御を必要とし、流体インターフェイスハードウェア及び流動制御ハードウェアの使用を要することから、最終的なデバイスの複雑さ及び価格が増加する。さらに、液滴生成過程の能動的な性質のため、得られる液滴は、一般的に操作及びアッセイ分析のために下流側に追加の機構を必要とする。流体力学を使用した光学的又は音響的な操作による液滴の捕捉及び放出を介した下流側での制御のための一連の方法が調査されている一方で、これらの作業の追加は、マイクロ流体力学によって与えられる簡素化、値頃感、及び集積化を失わせる可能性がある。
【0006】
誘電体上のエレクトロウェッティング(EWOD)は、個別の試料容量のオンデマンド形成と共に、後続のアッセイ作業のための個々の液滴の制御された操作を可能にする代替的な能動的なデジタル化技術である。EWOD技術では、外部電位の印加により液滴とその下にある基板との間の表面接触角を制御することにより、液滴全体に毛管力の差が生まれ、ひとまとめの試料を直接的な電圧制御により分離及び輸送することが可能となる。この独特な機能性にもかかわらず、EWODデバイスは、電極アドレッシングに関連する拡張可能性において課題を呈し、動作のために高い電圧を要求し、そして信頼性の高いデバイス動作のために必要とされる誘電性層及び電極層の両方を画成するために比較的複雑な作製法を必要とする。
【0007】
より簡単かつより堅牢な試料細分化の方法のための要求により促されて、数多くの受動的なデジタル化法が開発された。受動的な試料デジタル化は、流体の流れの正確な制御又は能動的な制御要素の使用を必要としない、空間的にインデックス化された位置内で自動的に個別の容量がオンチップで生成するような方法を活用する。能動的なデジタル化に対するこれらの受動的な方法の主な利点は、区画化に必要な機器が大幅に削減又は排除されることであり、これらの技術は、低価格で簡単な作業が重要な考慮事項であるデバイスで使用するために極めて適したものとなる。
【0008】
受動的な試料デジタル化の概念を、様々な開放型の流体プラットフォームに適用することに成功しており、そこでは試料は、順次のウェルのプライミングと周囲の場の選択的デウェッティングとによりパターン化されたマイクロウェルのアレイ内で細分化される一方で、個々の流体容量はウェル内に固着されたままとなる。同様に、ウェル内の疎水性表面上での親水性領域又は多孔質吸収材料の選択的パターン化を使用することで、特定の位置で濡れを引き起こす一方で、余分な試料を容易に除去することが可能となる。
【0009】
関連方法を密封型のマイクロ流体システムに適用することで、閉鎖型のマイクロチャネル中で試料の受動的な細分化が可能となった。様々なデバイスの形状が調査されているが、それらは、試料を圧力駆動流、真空、又は遠心操作によりマイクロチャネル中に導入して、マイクロチャネル壁の一方に流体連結された一連のウェルをプライミングした後に、不混和性油相を導入することで、残留試料をマイクロチャネルから除去する同様のアプローチを共用している。油の流れは、充填されたウェルから試料を奪い去るのに役立ち、こうしてデジタル化された水性流体容量が取り残される。チップを再充填するために使用される油相は、試料容量を完全に隔離し、蒸発を防ぐためにも役立つ。これらのデバイスでは、通常は、その高い通気性により基板材料としてポリジメチルシロキサン(PDMS)が選択され、こうしてプライミングの間に気泡を捕捉することなくウェルのデッドエンド充填が可能となる。また該デバイスは一般的に、試料の導入前に油相で充填されており、それにより疎水性のPDMSウェルへの水性試料の充填が増強され、最終的に油を再充填する間の試料の保持が改善される。したがって、外部の流動制御又は操作を一切用いない受動的な自動細分化に対応する試料デジタル化への新たなアプローチが必要とされる。
【0010】
マルチプレックスPCR(mPCR)は、単独のPCR反応で複数の配列標的の増幅及び検出を可能にすることにより、核酸分析のスループットを向上させるアプローチである。例えば、mPCRは、細菌試料からの抗生物質耐性遺伝子の分析に広く適用され、一連のmPCRアッセイが、抗生物質耐性の腸内細菌科、腸球菌、コレラ菌、及び黄色ブドウ球菌の同定のために開発されている。しかしながら、mPCRのプライマー設計及びバリデーションの複雑さは、相変わらず新しいアッセイ開発のための大きな制約である。より根本的には、プライマーの競合は多重化の深さを制限し、ここで5重のアッセイが名目上の最大値に相当し、そしてリアルタイムPCR(qPCR)で使用される蛍光プローブのスペクトル重複は、単独の反応で検出され得るアンプリコンの数を更に制限する。異なるプライマー組を使用した一連の個々のマイクロリットル容量のmPCR反応を伴う順次のmPCRアプローチが最近になって登場したが、アッセイに時間がかかる。
【0011】
mPCRの代替として、空間的に隔離された反応ウェルのアレイで複数の個々のPCR反応を実施することにより多重化が実現され得る。組み込まれた試薬を備える多重化PCRに対応する市販のマイクロウェルプレートプラットフォームが開発されているが、高い消耗品費用及びシステム操作のための複雑な機器の必要性によって制約される。試薬及びインフラの要件を減らしつつ半自動式のアッセイ作業を可能にすることによって、これらの制約に対処するために、幾つかのマイクロ流体技術が調査されている。アプローチとしては、遠心操作を使用して、特定のPCRプライマー組を収容するオンチップ反応チャンバに試料を能動的に送達する遠心マイクロ流体力学の使用と、1つの基板上の隔離されたプライマー組を、チップ要素間での相対運動によって2つ目の基板上の個々の反応チャンバと組み合わせる再構成可能なマイクロ流体デバイスの使用とが挙げられる。しかしながら、これらのアプローチは、依然として作業のために重要な対応機器に頼っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、最小限の手動入力で高度に拡張可能な多重化PCRが実施されるように設計された低価格のマイクロ流体プラットフォームが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、試料トラップ(試料ウェルとも呼ばれる)アレイを含むマイクロ流体デバイスに関する。具体的には、本発明によるトラップアレイの配置及び形状は、外部の流動制御又は操作を一切必要としない試料トラップ内での受動的な自動細分化に対応する試料デジタル化を実施することを可能にする。
【0014】
本発明の1つの態様においては、自動装填式マイクロ流体デバイス及びマイクロ流体デバイスの装填方法が提供される。具体的には、該マイクロ流体デバイスは、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルが内部に設けられた基板を含む。1つの実施の形態においては、該基板は、熱可塑性ポリマーから作製される。上記マイクロ流体チャネルは、注入口及び排出口と流体連通している。試料は、注入口を通じてマイクロ流体チャネル中に導入される。さらに、マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体チャネルから分岐している複数の試料トラップを備える。複数のトラップの各々は、試料トラップへの試料の装填を最適化するように選択された幾何学パラメータを有する。マイクロ流体チャネルと流体連通しているキャピラリーポンプは、マイクロ流体チャネルから余分な試料を除去するように構成されている。余分な試料がマイクロ流体チャネルから除去された後に、不混和性相をマイクロ流体チャネル中に装填することで、各試料トラップは完全に隔離される。封止層は、高温の基板に結合される。さらに、各試料トラップは、作製の間にマイクロ流体デバイス中に組み込まれた試薬を含むことで、各試料トラップ内で異なる反応が行われる。
【0015】
本発明の更に別の態様においては、自動装填式マイクロ流体デバイスの作製方法が提供される。具体的には、1つの基板中に少なくとも1つのマイクロ流体チャネル及びマイクロ流体形状(features)が設けられる。1つの実施の形態においては、該基板は、熱可塑性ポリマーから作製される。マイクロ流体形状には、チャンバ、注入口、排出口、及びマイクロ流体チャネルから分岐している試料トラップが含まれる。マイクロ流体チャネルは、注入口とチャンバとを連結し、その間に試料トラップが配置される。次に、余分な試料をマイクロ流体チャネルから除去するために、少なくとも1つの吸収材メンブレンがチャンバ中に挿入される。熱可塑性基板を、スポッティングステージに貼り付けられた封止層に嵌め合わせることで、少なくとも1つのマイクロ流体チャネル及び試料トラップが封止される。1つの実施の形態においては、試薬は封止層上に沈着される。最後に、圧力をかけることで、封止層を基板に結合させる。1つの実施の形態においては、該方法は、封止層を熱可塑性基板に結合させる前に、試薬を封止層に沈着させることを更に含む。例としては、限定されるものではないが、試薬は、ピンスポッティングツールによってコンタクトプリンティングを通じて封止層に沈着され得る。
【0016】
本発明の更に別の態様においては、USBシェルを備えるデバイスが提供される。該USBシェルは、試料トラップアレイを有する自動充填式チップと、温度を検知するための自動装填式チップの背面にパターン化された電極と、自動装填式トラップアレイと光学的に連絡しているLEDアレイと、トラップアレイの蛍光イメージングの実施のためのCMOSイメージャと、生物学的試料中の標的核酸の増幅を制御するためのルーティングボードとを備えている。
【0017】
自動装填式チップは、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルが内部に設けられた基板を含む。1つの実施の形態においては、該基板は、熱可塑性ポリマーから作製される。試料は、注入口を通じてマイクロ流体チャネル中に導入される。試薬を含む複数の試料トラップは、マイクロ流体チャネルから分岐している。キャピラリーポンプは、上記チャネル及び排出口と流体連通している。キャピラリーポンプは、余分な試料をマイクロ流体チャネルから除去した後に、マイクロ流体チャネルを不混和性相で充填することで、試料トラップが隔離されるように構成されている。
【0018】
1つの実施の形態においては、各試料トラップは、作製の間にマイクロ流体デバイス中に組み込まれた試薬を含むことで、各試料トラップ内で異なる生物学的反応が行われる。1つの実施の形態においては、試薬は、パラフィンワックス中に封入されており、こうして試料装填の間に試薬は封入されたままとなる。生物学的反応の実施前に温度を適用することにより、パラフィンワックスからプライマーが放出される。
【0019】
本発明の1つの実施の形態においては、試料トラップは、マイクロ流体チャネルの同側面又は両側面(中心線のずれあり又はなし)から分岐している側方突出部である。更に別の実施の形態においては、試料トラップは、マイクロ流体チャネルの下にある垂直のトラップである。1つの実施の形態においては、チャネルと、注入口/排出口と、試料トラップと、チャンバとを含むマイクロ流体形状は、熱可塑性基板においてフライス加工される。あるいは上記マイクロ流体形状は、2工程のエンボス法で熱可塑性基板上に作製され得る。
【0020】
例としては、限定されるものではないが、試料トラップは、900μm四方(square)及び250μmの深さの寸法を有し得る。更に別の実施の形態においては、封止層は薄いフィルムであり、それは1つの実施の形態においては、200μmの厚さを有する。
【0021】
1つの実施の形態においては、キャピラリーポンプは、作製された吸収材メンブレンであり、それは1つの実施の形態においては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から作製される。基板は、環状オレフィンポリマー(COP)から作製され得る。試料は、ピペットにより注入口中に注入され得る。
【0022】
本特許ファイル又は出願ファイルはカラー仕上げの少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(複数の場合もある)を伴うこの特許又は特許出願公開のコピーは、要請に基づき、必要な手数料を支払うことにより、特許商標庁から提供される。
【0023】
引用することにより、本明細書の一部をなす添付図面は、本開示の主題の種々の実施形態を示す。図面中、同様の参照符号が同一の要素又は機能が類似する要素を示す。さらに、参照符号の一番左側の数字は、その参照符号が最初に現れた図面を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1Aは自動装填式デジタル化(SLD)デバイスのワークフロー及び構造要素を図示しており、
図1BはSLDデバイス上の片側のトラップ配置を図示しており、
図1CはSLDデバイス上の両側のトラップ配置を図示しており、
図1DはSLDデバイス上の互い違いのトラップ配置を図示している。
【
図2A】片側のトラップ配置を有するSLDデバイスでの試料装填過程を図示している。
【
図2B】フローフロント部が可変の前進するフロント部の角度θaで反対側のトラップ壁に触れる瞬間の片側のトラップ配置についての幾何学的表現を図示している。
【
図2C】片側のトラップ配置を有する
図2AのSLDデバイスについての前進するフロント部の角度θaに対するトラップアスペクト比(TAR)の依存性を図示している。
【
図2D】片側のトラップ配置を有する
図2AのSLDデバイスについての流体アスペクト比(FAR)に対するTARの依存性を図示している。
【
図2F】片側のトラップ設計のための幾何学的モデルである。
【
図3A】両側のトラップ配置を有するSLDデバイスについての試料装填過程を図示している。
【
図3B】フロント部が可変の前進するフロント部の角度θaで反対側のトラップ壁に触れる瞬間の両側のトラップ配置についての幾何学的表現を図示している。
【
図3C】両側のSLDデバイスについての前進するフロント部の角度θaに対するTARの依存性を図示している。
【
図3D】両側のSLDデバイスについてのFARに対するTARの依存性を図示している。
【
図3F】両側のトラップ設計のための幾何学的モデルである。
【
図4A】互い違いのトラップ配置を有するSLDデバイスについての装填過程を図示している。
【
図4B】流動フロント部が可変の前進するフロント部の角度θaで反対側のトラップ壁に触れる瞬間の互い違いのトラップ配置についての幾何学的表現を図示している。
【
図4C】互い違いのトラップ配置を有する
図4AのSLDデバイスについての前進するフロント部の角度θaに対するTARの依存性を図示している。
【
図4D】互い違いのトラップ配置を有する
図4AのSLDデバイスについてのFARに対するTARの依存性を図示している。
【
図4F】互い違いのトラップ設計のための幾何学的モデルである。
【
図5】種々のアスペクト比での種々のトラップ配置についての試料装填率を図示している。各々のトラップ配置についての2つのデータセット(明色及び暗色)は、主チャネルとトラップとの間の高さの差を表す。
【
図6】
図6Aは片側の配置についての設計領域を図示しており、
図6Bは両側の配置についての設計領域を図示しており、
図6Cは互い違いの配置についての設計領域を図示している。
【
図7A】本発明の1つの実施形態によるトラップアレイを有するSLDチップの画像である。
【
図7B】
図7Aの装填されたSLDデバイス中の容量分布のヒストグラムである。
【
図7C】本発明の別の実施形態によるトラップアレイを有するSLDチップを図示している。
【
図8A】本発明の1つの実施形態によるSLDチップの概要(image and schematic)を示している。
【
図8B】
図8Aに示されるSLDチップの作製方法を図示するフローチャートである。
【
図9】
図8AのSLDチップ中での試料の自動装填により再水和されるPEG及びフルオレセイン塩の画像列を図示している。
【
図10】
図10Aは乾燥後のPEG/プライマーのスポットの画像であり、
図10Bはパラフィンワックスのキャップ層により覆われたPEG/プライマーのスポットの画像であり、
図10Cは
図8AのSLDチップにおけるパラフィンでキャップされたプライマーのスポットの画像である。
【
図11】プライマー及びPEGのプリント溶液と混合されたフルオレセイン塩の温度制御放出を裏付ける画像列である。
【
図12A】SLDプラットフォーム上の2工程の多重アッセイの実験設計を図示している。
【
図12B】pUC19鋳型及びpBR322鋳型が装填されたチップに関する実験結果の表である。
【
図13】
図13A~
図13Cは、核酸の精製及び濃縮とトラップチップ作業とを切り離したピペットベースの試料調製を図示している。
【
図14】垂直のトラップを有するSLDデバイスについての充填過程を図示している。
【
図16】ループ介在等温増幅(LAMP)反応スキームを図示している。
【
図17】
図17Aはトラップチップの下方に配置されるCMOSイメージャを図示しており、
図17Bは蛍光色素を使用するコンタクトイメージングの結果を図示している。
【
図18】USBスティック中に組み込まれた再使用可能なCMOS接触蛍光システムを図示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、外部の流動制御又は操作を一切必要としない受動的な自動細分化に対応する試料デジタル化に関する。その技術は、マイクロチャネル内の幾何学的不連続部での流体の制御されたピンニングを活用し、熱可塑性プラスチックを含む規定の表面特性を有する任意の材料から製造されたデバイスに適用され得る。具体的には、本技術により、熱可塑性の環状オレフィンポリマー(COP)の適度な表面エネルギーを活用して、該ポリマーのマイクロ流体デバイスにおける水性試料デジタル化が可能となり、外部のポンプ又はその他の流動制御要素を一切必要としない完全に受動的な自動細分化が実現される。
【0026】
さらに、完全なトラップの充填が生ずるトラップ深さ対トラップ幅の最大比を予測するために分析モデルを使用した。そのモデルは、パラメータを変化させたトラップ形状で作製された一連のデバイスを使用する充填過程の実験的評価を通じて検証した。最後に、そのモデルは、高アスペクト比の互い違いのトラップアレイの設計及び作製の予測ツールとして使用され、こうして、充填過程の信頼性を高密度形式で評価することが可能となった。
【0027】
図1Aは、注入口116と、主マイクロ流体チャネル102と、試料トラップ104と、キャピラリーポンプ106と、排出口112とを備える自動装填式デジタル化(SLD)デバイス100におけるワークフローの説明図である。試料トラップ104は、主マイクロ流体チャネル102の側面から出ている側方突出部である。試料溶液110は、注入口116で受容され、主チャネル102に沿って流れて、試料トラップ104が充填される。1つの実施形態においては、試料溶液110は、ピペット108により注入口116に送達される。余分な試料を主チャネル102から取り除くために、主チャネル102は、排出口112で終わる大きなチャンバ118中に終端する。チャンバ118は、組み込まれたキャピラリーポンプ106を有するので、主チャネル102を、試料の蒸発を減らすために不混和性相で再充填することができると共に、望ましくない試料の汚染を防ぐために各々のデジタル化された試料容量を不混和性バリアで封入することができる。1つの実施形態においては、キャピラリーポンプは、吸収材メンブレンの形である。例としては、限定されるものではないが、吸収材メンブレンは、親水性変性されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)から作製され得る。試料トラップ104は、トラップ形状の設計において最大の柔軟性を与えるために、主チャネル102の側面にある。1つの実施形態においては、SLDデバイス100は、熱可塑性ポリマーで構築されており、界面活性剤を有する水性試験溶液が装填される。例としては、限定されるものではないが、熱可塑性ポリマーは、弱疎水性ポリマーである環状オレフィンポリマー(COP)であり得る。
【0028】
図1Aで更に示されるように、試料110は、注入口116で受容される(工程122)。次に、試料110は、主チャネル102に沿って進み、トラップ104を充填する(工程124)。工程126において、余分な試料がキャピラリーポンプ106によって吸収され、主チャネル102は空の状態となる(工程128)。次いで、工程130においては、主チャネル102に不混和性相120を装填することで、各試料トラップ104を完全に隔離する。1つの実施形態においては、不混和性相120は油であり得る。
【0029】
前進する試料フロント部の角度θa(
図2F、
図3F、及び
図4F)は、SLDデバイス100の装填の物理的過程において重要な要因であり、試料溶液と基板との間の表面相互作用及び注入口における液頭に対する重力の効果の関数である。1つの実施形態においては、自動装填を達成するために、試料溶液に少量の界面活性剤(例としては、限定されるものではないが、0.06%(重量/重量))を添加した。各トラップ104は、
図2B、
図3B、及び
図4Bを参照して定義されるトラップアスペクト比(TAR)及び流体アスペクト比(FAR)により特徴付けられる。具体的には、TAR=f
y/w
t及びFAR=w
c/w
tであり、ここで、w
cは主チャネル幅であり、w
tはトラップ幅であり、そしてf
yは試料がトラップ中を進む距離である。
【0030】
例えば、試料トラップ104がアッセイ試薬で事前にスポッティングされることになっており、デジタル化された容量が細分化したままであると予想されるのであれば、装填の間に試薬が主要な試料流中に拡散して下流のトラップの汚染を引き起こすこととなる深さよりもトラップの深さの方が大きくなるようにTARを設計することができる。さらに、TARは、分析のために保持される容量の、デバイスのプライミングに必要な試料の量に対するパーセンテージを決定する。
【0031】
図1Aで示されるように、ほぼ主チャネルの容量が失われる。それというのも、その容量は、試料フロント部をキャピラリーポンプ(PVDFメンブレン)106へと動かすために必要とされるからである。不混和性相(油)120を再充填するために、余分な試料は吸い取られて主チャネル102から出て行く。さらに、表面張力による装填の物理的過程により、トラップの高さ(d
t)対主チャネルの高さ(d
c)の比は1を超えることはできない。それというのも、その場合に前進するフロント部は、その侵入に必要とされる界面膨張のため、トラップの迂回に優勢となるからである。トラップ高さ(d
t)及び主チャネル高さ(d
c)は、主チャネル102及びトラップ104についての垂直方向寸法を指す。
【0032】
最後に、互いのトラップの配置は、表面張力駆動系における重要な要因である。それというのも、それはトラップ装填の間のフロント部の構造に寄与し、それは最終的にトラップ形状のタイプ、より具体的には効果的に装填することができるトラップアスペクト比に寄与するからである。
【0033】
試料トラップ104の空間的配置は、3つの異なる構成に分類することができる:
図1Bに示されるような、全てが主チャネル102の一方の側面に沿ったトラップ(片側(SS))、
図1Cに示されるような、主チャネル102の両側に直接隣り合ったトラップ(両側(DS))、
図1Dに示されるような、主チャネル102の両方の側面にあるが、中心線が互いにずれているトラップ(互い違い(S))。
図1Aは、互い違いの配置におけるトラップ104を示す。
【0034】
1つの実施形態においては、
図1AによるSLDデバイスは、コンピュータ数値制御型の3軸CNC装置を使用して、プラーク中にチャネル及びマイクロウェルの形状を設けることにより作製された。例としては、限定されるものではないが、プラークは、COPプラークであり得る。親水性変性されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)吸着材メンブレンを、特定のサイズに切断した。プラークを、デカヒドロナフタレンのエタノール溶液中に浸し、エタノールですすぎ、N
2により風乾させた。次いで吸収材メンブレンをプラーク中のチャンバに手動で並べた後に、封止層をホットプレス中で基板に押しつけて、結合を完了させた。1つの実施形態においては、封止層は薄いフィルムである。例としては、限定されるものではないが、薄いフィルムの厚さは、約200μmであり得る。
【0035】
図2Aは、片側のトラップ配置(
図1B)を有するSLDデバイスについての試料装填の間に撮影された画像を示す。片側の配置は、主チャネル102の同側面から分岐しているトラップ104からなる。
図2Bに示されるような、この配置についての装填過程は、試料流がトラップの入口に達したときに始まる。トラップに面した試料フロント部の側面は、形状寸法の変化によりピンニングされるが、表面エネルギーは、前進するフロント部のその他の側面を主チャネル壁に沿って動かすこととなる。前進のための臨界角がピンニング点に達すると、フロント部はトラップ内に広がり始める。表面張力が界面を安定化するため、前進するフロント部の角度(θa)は、界面の両側で等しくなる。前進するフロント部は、最終的にトラップの反対側の壁と接触することとなる。この時点で、そのフロント部はもはやトラップを充填することができない。それというのもトラップは、それに先だって空気を捕捉していたからである。フロント部が反対側の壁に触れているときのフロント部の形状は、それがトラップ中を進む距離(f
y)を決定することとなる。フロント部が反対側のトラップ壁に触れた後に、表面張力はトラップの両側でそのピンニングされていない接触角φを回復させることとなり、これは全ての配置に当てはまる。ピンニングされていない接触角φは、基板の材料の特性である、熱可塑性表面上での水の接触角であり、任意の所与の基板について測定することができる。
【0036】
図2B及び
図2Fは、フロント部が様々なθaで反対側のトラップ壁に触れる瞬間の片側の配置についての幾何学的表現を示す。
図2Fに示される幾何学的モデルは、片側の配置において界面が反対側の壁に触れたときの界面の最終的な形状に対してθa及び流体アスペクト比(FAR)が有する関係を図示している。
図2Fの幾何学モデルから、最大TARをパラメータで予測する方法として、一連の方程式及び界面が壁と触れる各点について解くための制約を使用して解析解を導き出す。界面曲率が一定であると仮定して計算が行われる。
図2Fに関して、x
0、y
0、y
a、及びrは、未知であり、x
a=0、x
b=w
t、x
c=y
a、y
b=w
c、y
c=0、φ及びθは既知である。さらに、y
a≧w
cであり、かつr
1≧0である。方程式(1)~(4)は、
図2Fに示される幾何学を記載している。
x
0
2+(y
a-y
0)
2=r
1
2 (1)
(w
t-x
0)
2+(w
c-y
0)
2=r
1
2 (2)
(y
a-x
0)
2+y
0
2=r
1
2 (3)
tanφ=x
0/(y
a-y
0)、φ=θa-π/2 (4)
方程式(1)~(4)を、f
y=y
a-w
cについて解く。
【0037】
θaに対するTAR(f
y/w
t)の依存性は、寸法w
t=390μm及びw
c=200μmを有する実験用SLDデバイスについて
図2Cにプロットされている。θaの範囲は、45゜の下限により規定される。それというのもこの点を下回ると、界面は負の曲率を有することとなるため、半径曲率が各点にて正で等しいと仮定される方程式系によって規定することはできないからである。物理的な意味では、θa<45°は試料と基板との間の高い濡れ性を示すため、高アスペクト比の装填は考慮されない。これらのパラメータで達成可能な最高のTARは、θa=45゜で1:1である。θa→180゜とすると、f
y→w
cになるため、TARは、漸近的に0に近づく。
【0038】
FAR(w
c/w
t)に対するTARの依存性は、実験的条件に相当する固定値θa=90゜を使用してSLDデバイスについて
図2Dにプロットされている。調査されたFAR範囲の上限は5であった。それというのもこれらのアスペクト比では、トラップの装填に必要とされる犠牲となる試料容量が、保持された試料を大幅に上回ることとなるからである(3.8%の試料効率)。このプロットは、FAR→0とすると、達成可能な最高のTARは1:1であり、それはFAR→∞とすると0に減衰する。この配置のために最適な設計は、FARを最小化すること、そして1:1に近いTAR、及び99.7%の理論試料効率を達成することである。
【0039】
図3Aは、両側のSLDについての装填過程の間に撮影された画像を示す。両側の配置は、主チャネル102の両側面から分岐しているトラップ104を示す。このトラップ配置についての装填過程は、試料流がトラップ入口に達したときに始まる。界面は、フロント部がトラップ壁の下方に広がり始める時点のθaに達するまで、トラップへの分岐部の両側でピンニングされる。トラップが完全に整列されていないか、又はピンニング点が完全な90°角ではないために、異なる時間にθaに達すると、界面は非対称になる可能性がある。この非対称性は、界面の不安定性を引き起こすため、各々のトラップ中への異なる進行距離がもたらされることとなる。最終的に、前進するフロント部はトラップの反対側の壁と接触し、それに先行して空気ポケットが形成されるためトラップの充填を停止する。片側のモデルと同様に、フロント部が反対側の壁に触れるときのフロント部の形状は、それがトラップ中を進む距離を決定することとなる。
【0040】
図3B及び3Fに示される幾何学的モデルは、両側の配置において界面が反対側の壁に触れたときの界面の最終的な形状に対してθa及びFARが有する関係を図示している。この
図3Fの幾何学モデルからTARをパラメータで予測する方法として、一連の特定の方程式及び界面が壁と触れる各点について解くための制約を使用して解析解を導き出す。計算は、界面曲率が一定であり、かつ両方のトラップ壁に沿って界面が対称的に前進すると仮定して行われる。
図3F(要素302)に関して、x
0、y
0、y
a、及びrは、未知であり、x
a=0、x
b=w
t、y
c=0、y
b=w
c/2、y
0=0、φ及びθは既知である。さらに、y
a≧w
c/2であり、r
1≧0であり、かつθ
lim(FAR)である。方程式(1)~(3)は、
図3F(要素302)に示される幾何学を記載している。
x
0
2+y
a
2=r
1
2 (1)
(w
t-x
0)
2+(w
c/2)
2=r
1
2 (2)
tanφ=x
0/y
a;φ=θa-π/2 (3)
【0041】
方程式(1)~(3)を、f
y=y
a-w
c/2について解く。
図3F(要素304)に関して、曲率が一定である場合に、x
0=w
t/2であり、かつy
a=w
c/2;tanφ
lim=w
t/w
cであり、かつθ
lim=φ
lim+π/2である。
【0042】
θaに対するTARの依存性は、実験用デバイスに合わせるために寸法w
t=390μm及びw
c=200μmを有するSLDデバイスについて
図3Cにプロットされている。SSモデルとは異なって、θaは、DSモデル内では下限値を有しないが、それにもかかわらず、試料溶液の濡れ性のためθa>45゜に制約される。θaの上限値は、FARの関数であり、
図3Fで導き出される。w
t=390μm及びw
c=200μmを有する実験デバイスについては、θaの上限値は152゜である。θa=45゜でTARは約2.2であり、θaが増大すると、θa=152゜でTARは0に減衰する。
【0043】
FARに対するTARの依存性は、実験的条件に相当する固定値θa=90゜と仮定して実験用SLDデバイスについて
図2Dにプロットされている。調査されたFAR範囲の上限は5であった。それというのもこれらのアスペクト比では、試料の装填に必要とされる犠牲となる容量が、保持された容量を大幅に上回ることとなるからである(13.8%の試料効率)。このプロットは、FAR→0とすると、達成可能な最高のTARは1:1であり、それはFAR→∞とすると0に減衰する。この配置のために最適な設計は、FARを最小化して、1:1に近いTAR、及び99.9%の理論試料効率を達成することである。
【0044】
図4Aは、互い違いのSLDデバイスについての装填過程の間に撮影された画像を図示している。互い違いの配置は、主チャネル102の両側面から分岐しているトラップ104の配置を示すが、正反対に整列するのではなく、それらは中心線がずれている。
【0045】
図4Aに示されるような、互い違いのトラップ配置についての装填過程は、試料流がトラップ入口に達したときに始まる。界面は開口部でピンニングされるが、フロント部のその他の側は、主チャネルを横切ることが可能である。反対側のトラップ入口でピンニングされるまで、主チャネルに沿って流れ続けることとなる。フロント部が両側でピンニングされると、界面が膨張することにより、最初のピンニング点で前進のための臨界角に達することが可能となる。次いでフロント部は、最初のトラップ壁の下方に広がり始め、最終的にトラップの反対側の壁と接触し、それに先行して空気ポケットが形成されるためトラップの充填を停止する。フロント部が反対側の壁に触れているときのフロント部の形状は、それがトラップ中を進む距離を決定することとなる。
【0046】
図4B及び
図4Fに示される幾何学的モデルは、互い違いの配置において界面が反対側の壁に触れたときの界面の最終的な形状に対してθa、FAR、及びピンニングオフセット比(POR)が有する関係を図示している。ピンニングオフセット(PO)は、トラップの開口部への入口と、その反対側のトラップへの開口部によって確立されるピンニング点とを隔てる距離として定義される。PORは、トラップ幅(w
t)に正規化された正確なPOである。POは主チャネルの各々の側で異なっている。それというのも、互い違いの側では、ピンニングオフセットがバリア壁を含むからである。こうして、互い違いの並びにおけるピンニングオフセットPO
*=(w
t-PO)+w
bである。
図4F(要素402)の幾何学モデルから、TARをパラメータで予測する方法として、一連の特定の方程式及び界面が壁と触れる各点について解くための制約を使用して解析解を導き出す。界面曲率が一定であると仮定して計算が行われる。
図4F(要素402)に関しては、界面曲率が一定であると仮定して計算が行われる。変数x
0、y
0、y
a、及びrは、未知であり、x
a=0、x
b=w
t、x
c=p、y
b=y
0、y
c=0、φ及びθは既知である。さらに、y
a≧w
c、y
0≧w
cであり、r
l≧0である。方程式(1)~(4)は、
図4F(要素402)に示される幾何学を記載している。
x
0
2+(y
a-y
0)
2=r
1
2 (1)
(w
t-x
0)
2=r
1
2 (2)
(p+x
0)
2+y
0
2=r
1
2 (3)
tanφ=x
0/(y
a-y
0);φ=θa-π/2 (4)
方程式(1)~(4)を、f
y=y
a-w
cについて解く。
【0047】
図4F(要素404)に関しては、界面曲率が一定であると仮定して計算が行われる。変数x
0、y
0、y
a、及びrは、未知であり、x
a=0、x
b=w
t、y
a=p
lim(p
limは、ピンニングオフセット(PO)とも呼ばれる)、y
c=0、φ及びθは既知である。さらに、y
a≧w
cであり、r
l≧0である。方程式(1)~(4)は、
図4F(要素404)に示される幾何学を記載している。
x
0
2+(p
lim-y
0)
2=r
1
2 (1)
(w
t-x
0)
2+(w
c-y
0)
2=r
1
2 (2)
(p
lim+x
0)
2+y
0
2=r
1
2 (3)
tanφ=x
0/(p
lim-y
0) (4)
方程式(1)~(4)を、片側のモデルを使用してp
lim(TAR,θa)について解く。p>P
limであれば、その配置の場合にはピンニングは生じない。
【0048】
θaに対するTARの依存性は、寸法w
t=390μm及びw
c=200μm及びPOR=0.55を有する実験用SLDデバイスについて
図4Cにプロットされている。DSモデルと同様に、θaは、下限値を有しないが、試料溶液の濡れ性のためθa>45゜に制約される。θa=45゜でTARは試験デバイスについては約3.7であり、θaが増大するにつれて、θa=180゜でTARは0に減衰する。
【0049】
FARに対するTARの依存性は、固定値θa=90゜を使用して様々なPORで実験用SLDデバイスについて
図4Dにプロットされている。調査されるFAR範囲は、そのモデルのため1の上限を有していた。このプロットは、FAR→0とすると2:1の達成可能な最高のTARを示し、それはFAR→1とすると線形に1に減衰する。この配置のために最適な設計は、FAR及びPORを最小化して、2:1に近いTAR、及び99.9%の理論試料効率を達成することである。
【0050】
図4Dはまた、比較のために片側のモデル(SS)及び両側のモデル(DS)をプロットしている。DSのTAR及びSSのTARは、FAR→0とすると1となる同じ極限値を有するが、DSのTARは、FAR→∞とするとSSのTARよりも小さい速度で0に減衰する。PORがFARの関数である極限値(
図4Fを参照)に近づくと、SのTARの依存性は、それが片側の配置であるかのように振る舞う。これは、物理的に説明することができる。それというのも十分に高いPORでは、フロント部がピンニング点に到達して、その影響に屈し得る前に、フロント部は反対側のトラップに触れるからである。全体として、互い違いのモデルでは、充填アスペクト比が1より大きい場合に、両側の配置及び片側の配置の両方よりも劇的な改善が予測される。さらに、互い違いの配置により、トラップ内の事前に沈着された試薬の拡散長さを制御することができるため、交差汚染の危険性が軽減され、これは或る特定の用途に必要とされるものである。
【0051】
以前に報告されたデジタル化プラットフォームは、通常、油相と界面活性剤とで作業を開始するが、それが試料/基板の相互作用を抑制することから、デジタル化の有効性は、圧力駆動流の制御に大きく依存する。他方では、油の開始工程を排除し、その代わりに基板の表面エネルギーを利用することにより、不必要なワークフローが排除されるだけでなく、表面エネルギーを活用することで、デジタル化の有効性を向上させることが可能である。
【0052】
図5は、種々のアスペクト比での種々のトラップ配置の装填率(%)を図示している。各々のトラップ配置についての2つのデータセット(明色及び暗色)は、主チャネルとトラップとの間の高さの差を表す。実験用SLDデバイスのモデルからのずれを生じ得る、整列の非対称性に起因する界面の不安定性、鋭くないピンニング点、及び表面粗さ等の幾つかの重要な考慮事項が存在する。実際に、これらの効果は、急激な低下とは対照的に、予測されるTAR極限値付近の装填率の減衰に関して勾配をもたらす。別の重要な違いは、トラップが上部に湾曲部を有し、モデルに導入することが困難であるように湾曲部を通り抜ける場合に界面力学が変化することである。湾曲部に達すると充填は自発的になると想定するだけでは足りない。それというのも限界では界面が不安定になり、また反対側の壁に非常に近くなるからである。これに対処するため、実験用デバイスで定義されているTARは、湾曲部が始まる場所とは異なって、上部に湾曲部を有する。それというのも充填は、その地点以降で自発的となると想定されるからである。これは、装填率の限界をモデルにより予測される理論上の限界を上回るまで押し上げ、湾曲区間においては、改善されたが絶対的ではない充填が占めている。
【0053】
1つの実施形態においては、様々なトラップアスペクト比、主チャネルの高さ(dc)対トラップ高さ(dt)比、及びトラップ配置の35個の異なるSLDデバイスを、試験用に作製した。各々の装填試験のために、脱イオン水、グリセロール、青色の食品用染料(イメージング用)、及び低い濃度のTriton X100界面活性剤(0.06%(重量/重量))の試験溶液を使用した。界面活性剤は、自動充填を促すために添加された。試料溶液の測定された前進接触角は、90゜であった。
【0054】
更に別の実施形態においては、35個のSLDチップの各々は、w
c=200μm及びw
t=390μmを有していた。それというのもこれらは、コンピュータ数値制御(CNC)機械加工により高品質で繰り返しもたらされ得る最小の寸法であるからである。さらに、主チャネル高さ対トラップ高さの比を、装填の間のトラップにおける改善された毛細管現象の効果を調査するために変動させた。各チップ上のトラップの全体量は、SS構成の場合は15個であり、DS構成の場合は30個であり、S構成の場合は29個であるため、全てのトラップは、顕微鏡の実視野内で目視することができた。各チップに、2μLの試験溶液を装填し、その後に引き続き顕微鏡下で試験して、装填に成功したトラップの量を調べた。SLDトラップが空気を捕捉せずにその中に試料溶液を装填可能にする能力、すなわちその装填率は、各々の設計が評価される性能の測定基準であった。より具体的には、デバイス内のトラップの総数に対する、試料で完全に充填されたトラップの割合を、デバイス当たりに5回の試験で記録した。その際、装填率は、これらの5回の試験の平均である。気泡の捕捉は、閉鎖型のマイクロ流体システムにおける熱膨張が悪影響を及ぼすため、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が使用されるデジタル化用途には特に懸念される。さらに、不完全な充填は、均一なアリコートが適切な定量化のために必要とされる用途、例えばデジタルqPCRにおいて不適切となる。
図5に示されるような装填率の結果は、数値モデルにより予測されるように、TARが1を超えると、各々の配置についてのトラップの装填率に大きな差があることを示している。互い違いの配置は、TAR>1で高い装填率を維持することから、理想的でない条件でさえもピンニング効果が大きいことが示される。
【0055】
図6A~
図6Cは、片側の配置、両側の配置、及び互い違いの配置についての設計領域をそれぞれ図示している。幾何学的モデルのトラップアスペクト比の閾値は、黒色の破線で示され、緑色で網掛けされた領域は、モデルが高い装填率を有すると予測するパラメータの組み合わせに相当する。各々のパラメータの組み合わせのデータ点は、黒色の実線でプロットされて結ばれ、その影は、各々のFAR/PORについて色分けされている。モデルの閾値を超えるデータ点は、より暗色で網掛けされ、それに対応して装填率の急激な低下を示しているが、一方で、より透過性の影は、高い装填率が予想される領域に該当するデータに相当する。
【0056】
1つの実施形態においては、46個の異なるSLDチップ(15個のS、15個のSS、及び16個のDS)を試験することで、装填率をパラメータで評価した。DS構成及びSS構成についての0.01、0.26、0.51、及び1.00のFARを有するSLDデバイス、並びに互い違いの配置についての0.55のFARと0.01、0.13、0.26、0.51、及び1.00のPORとを有するSLDデバイスを作製し、同じ装填プロトコルを使用して試験した。
図6A~
図6Cは、片側の配置(
図6A)、両側の配置(
図6B)、及び互い違いの配置(
図6C)についての設計領域を示す。各モデルは、限界付近で装填率の減衰の勾配を示す。また、理想的ではない条件にもかかわらず、互い違いの設計では、PORが増加するにつれて減衰するTAR>1での非常に良好な装填率を有することも保持される。
【0057】
図7Aは、装填作業後のSLDチップアレイ700の撮影画像である。1つの実施形態においては、SLDチップアレイ700は、試料が装填され、トラップ104の隔離のために油で再充填された768個のトラップ104を有する。SLDチップの拡張性を裏付けるために、768個のトラップアレイを、128個のトラップ104を各々が含む6個の並列のチャネルで作製した。SLDチップの堅牢な充填機構により、特定のアッセイ/用途及び時間の制約に応じて、並列の主チャネルと任意の数の直列のトラップとの任意の組み合わせを設計する柔軟性が与えられる。
【0058】
1つの例示的な実施形態においては、アレイ中のトラップ104は、1.1のトラップアスペクト比を有するように設計され、完全に充填された場合に約11nLの試料を保持した。デバイスの装填のために、2.1μLの試料溶液を各々の並列のチャネル中に導入し、それにより128個のトラップ及び犠牲的な129番目のトラップが約1.5分間で装填された。129番目のトラップは、犠牲的なトラップとして働くので、128番目のトラップがピンニング点を有することとなる。装填の間に、768個のトラップのうち765個のトラップは、デバイスの設計について上述したモデルに密接に従って、空気の捕捉なく装填された(99.6%)。全体として、12.6μLの試料溶液を使用することで、デバイス全体は、約5分間で推定される60%の試料保持率で装填された。
【0059】
図7Bは、SLDアレイにおける捕捉された容量のヒストグラムを示す。MATLAB画像解析スクリプトをアレイの合成画像で使用することで、ピクセルカウントに基づいて面積測定又は各トラップを取得した。各トラップについて収集された1.36(nL)の容量の標準偏差が測定された。
【0060】
図7Cは、本発明の別の実施形態による自動装填式チップを図示している。自動装填式チップは、試料注入口702と、油注入口704と、排出口706と、試料注入チャネル710と、油再充填チャネル708と、試料トラップ712とを備える。試料トラップ712は、試料注入チャネル710及び油再充填チャネル708の両方と流体連通している。各トラップは、高β角の疎水性バルブを通じて油再充填チャネル708に接続されていることで、試料充填の間に試料がトラップチャンバ712から再充填チャネル708へと漏出することが防止される。さらに、各トラップ712は、凍結乾燥された試薬を含む。1つの実施形態においては、凍結乾燥された試薬は、核酸増幅反応の実施のためのプライマーを含む。事前に沈着された試薬は、試料中の標的核酸を増幅させるためのプライマーを含む、ループ介在等温増幅(LAMP)試薬、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)試薬、核酸配列ベース増幅(NASBA)試薬、ヘリカーゼ依存性増幅(HAD)試薬、鎖置換増幅(SDA)試薬、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)試薬、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)試薬、又はローリングサイクル増幅(RCA)試薬であり得る。
【0061】
例示的な実施形態1.チップ作製
図8Bに示される本発明の1つの態様においては、
図8Aに示されるチップ800等の自動装填式デジタル化(SLD)デバイスを、熱可塑性プラスチックから作製した。1つの実施形態においては、高い透明性、低い自己蛍光性、低い吸水性、及び低いガス透過性のため、PCRに適した基板材料となる、COPが使用される。マイクロ流体形状は、単一工程のエンボス加工(全ての形状が同じ高さである場合)、2工程のエンボス加工(高さが異なる場合)、フライス加工だけでなく、射出成形及び熱可塑性プラスチックのパターン化のためのその他の一般的な技術を含む幾つもの方法により作製され得る。
【0062】
具体的には、
図8Bの実施形態において、チャネル層824を、2工程のエンボス加工法(工程802)において熱可塑性基板から作製した。1つの実施形態においては、マイクロ流体チャネル102、試料トラップ104、注入口/排出口112/116、及びキャピラリーポンプチャンバ106を含む複数のマイクロ流体形状を生成するために、CNC機械加工を使用して型824を作製した。次いで、型824に対して熱可塑性基板826を押しつけた。工程804において、その基板を溶剤に曝す。工程802及び工程804の基板作製と並行して、試薬820を、工程808において封止層818上にピンスポッティングする。1つの実施形態においては、試薬は、スクロース中にプライマーを含む。次いで、その試薬を工程810で凍結乾燥した。またチャネル層826は、ピンスポッティングステージ818上の突出しているピンに位置合わせすることができるよう、各々の角にある位置合わせ穴816を用いてフライス加工されるので、こうして毎回ピンスポッタに対して同じ起点で位置合わせが維持されることとなる(工程806)。
【0063】
1つの実施形態においては、2つのPVDFメンブレンを、クラフトカッターを使用してパターン化した後に、チャネル層826上の事前にフライス加工されたチャンバ106中に挿入した。メンブレンの前面の先細った形状は、主チャネルから余分な試料を取り除くという点で最高の性能を提供した。次いで、フライス加工された基板を、スポッティングステージ818上で表を下にして、沈着された試薬820を有する薄いフィルムCOPに嵌め合わせた。COPフィルム上のテープを上部の基板の周りに巻き付けて、適切な圧力を加えて工程806での結合が完了するまで、それを一緒に保持した。工程812で、電極のフォトリソグラフィーを実施し、続いて工程814でAuの沈着及び剥離を行った。
【0064】
1つの例示的な実施形態においては、
図8Aに示されるSLDチップのチャネル層を、2mm厚のCOPプラーク(例としては、限定されるものではないが、Zeonor 1020、Zeon Chemicals社(ケンタッキー州、ルイビル))において3軸CNC装置(例としては、限定されるものではないが、MDX-650、Roland DGA社(カリフォルニア州、アーバイン))を使用して250μmの深さまでチャネル及びマイクロウェルの形状をフライス加工することにより作製した。5μmの細孔サイズを有する125μm厚の親水性変性されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレン(例としては、限定されるものではないが、SVLP04700、EMD Millipore社(マサチューセッツ州、ニューベッドフォード))を、自動式のクラフトカッター(例としては、限定されるものではないが、Cameo Digital Craft Cutting Tool、Silhouette America社(ユタ州、オレム))を使用してパターン化した。SLDチップのキャップ層を、50μm厚の環状オレフィンコポリマー(COC)フィルム(例としては、限定されるものではないが、Zeonex 1420、Zeon Chemicals社)からパターン化した。COCフィルムを、移動を防ぐためにピンスポッティングステージにテープで貼り付けた。20%(重量/重量)のポリエチレングリコール(PEG)からなるプライマー溶液を、毛細管作用を使用してピン中に装填し、ピンがフィルムと接触したときに沈着させた。沈着後にPEG/プライマースポットを45℃で15分間にわたり完全に乾燥させてから、軟質パラフィンワックス(例としては、限定されるものではないが、Vaseline、Unilever社(米国))の保護層を、乾燥されたPEGスポットの上部を覆って温度42℃で沈着させた。次いでマイクロチャネル基板を、エタノール中35%(重量/重量)のデカリン(例としては、限定されるものではないが、ThermoFisher Scientific社(イリノイ州、ロックフォード))に1.5分間曝し、100%のエタノールですすぎ、そしてN
2で風乾させた。2つの同一のパターン化がなされたPVDFメンブレンを、250μmの全厚まで積み重ね、COP基板中の合わせチャンバ中に挿入した。次に、デカリンで溶媒和されたチャネル基板とキャップ層とを、整列ステージ中に取り付けられたピンを使用して整列させ、嵌め合わせることで、チャネル及びマイクロウェルを封止した。次いで、チップ集成物を、200psi及び23℃で10分間にわたりホットプレス(例としては、限定されるものではないが、AutoFour/15、Carver Inc.社(インディアナ州、ウォバシュ))中に置いて、結合を完了させた。
【0065】
更に別の例示的な実施形態においては、特注のピンスポッティングツールを、PCR試薬のCOPフィルム上への制御された沈着のために準備した。該ツールは、X軸、Y軸、及びZ軸の制御のためのステッパモータ(例としては、限定されるものではないが、LV141-02-10、Parker Hannifin Corp.社(オハイオ州、クリーブランド))に取り付けられた3つのリニアアクチュエータ(例としては、限定されるものではないが、MX45S、Parker Hannifin Corp.社(オハイオ州、クリーブランド))からなっていた。反復精度が30μmの光電センサ(例としては、限定されるものではないが、PMY44P、Parker Hannifin Corp.社(オハイオ州、クリーブランド))を使用して、起点を較正し、アクチュエータを損傷から守るためにリミットストップを設けた。モーターを、1μmの位置決め分解能を可能にするモータードライバ(例としては、限定されるものではないが、ED-Drive、Parker Hannifin Corp.社(オハイオ州、クリーブランド))によって駆動し、Arduino Unoマイクロコントローラ(例としては、限定されるものではないが、Adafruit社(ニューヨーク州、ニューヨーク))及びグラフィカルインターフェース用のGRBLオープンソースソフトウェアを使用して制御した。Z軸アクチュエータにより、ナノリットル規模の容量をコンタクトプリンティングで沈着させる様々なサイズのピン(例としては、限定されるものではないが、Xtend Microarray Pin、LabNext, Inc.社(ニュージャージー州、ウェストニューヨーク))の高さを制御した。スポッティングステージは、スポッタへのチャネル層の全体的な位置決めのために機械的な整列ピンを備えていた。そのステージはまた、2つのペルチェヒータを備えていた。1つは、スポッティングフィルムの下に配置されており、1つは、ワックス浴の加熱のために周辺位置に配置されていた。
【0066】
例示的な実施形態2.チップ作製
図1A及び
図7AによるSLDデバイスを、COPプラーク(例としては、限定されるものではないが、2mm厚のプラーク、Zeonor 1020、Zeon Chemicals社(ケンタッキー州、ルイビル))においてコンピュータ数値制御された3軸CNC装置(例としては、限定されるものではないが、MDX-650、Roland DGA社(カリフォルニア州、アーバイン))を使用してチャネル及びマイクロウェル形状をフライス加工することにより作製した。親水性変性されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)吸収材メンブレン(例としては、限定されるものではないが、SVL04700、EMD Millipore社(マサチューセッツ州、ニューベッドフォード))を、自動式のクラフトカッター(例としては、限定されるものではないが、Cameo Digital Craft Cutting Tool、Silhouette America社(ユタ州、オレム))を使用して特定のサイズに切断した。フライス加工されたCOPプラークを、35%(重量/重量)のデカヒドロナフタレン(例としては、限定されるものではないが、ThermoFisher Scientific社(イリノイ州、ロックフォード))のエタノール溶液中に1.5分間にわたり浸漬し、エタノールですすぎ、そしてN
2で風乾させた。次いで、上記吸収材メンブレンを、COPプラーク中の事前にフライス加工されたチャンバに手動で整列させてから、多層デバイスを、200psi及び23℃で10分間にわたりホットプレス(例としては、限定されるものではないが、AutoFour/15、Carver Inc.社(インディアナ州、ウォバシュ))中で加圧して、結合を完了させた。
【0067】
例示的な実施形態3.自動装填及びデジタル化作業
本発明による全てのSLDデバイスの装填実験は、ピペットを使用して0.06%(重量/重量)のTritonX100(Sigma Aldrich社)、グリセロール、及び青色の食品用染料を含有する2μLの脱イオン水を手動で装填することにより実施した。試料でデバイスをプライミングし、吸収材メンブレンから余分な試料を除去したら、チップを顕微鏡(例としては、限定されるものではないが、AZ100、Nikon Instruments社(テキサス州、ルイスビル))下でイメージングして、装填に成功したトラップの数を特定した。小さな気泡の捕捉、又はウェルの不完全な装填は、不成功とみなすものとする。30個以下のトラップを有するデバイスの場合には、プライミング及び除去は、約30秒間で達成されるが、一方で、より高い密度のデバイスは、約5分以内でプライミング及び除去が行われた。
【0068】
本発明の1つの実施形態によるSLDデバイスは、最小限の手動入力で高度に拡張可能な多重化PCRが実施されるように提供される。具体的には、
図8Aは、注入口116、排出口112、キャピラリーポンプ106、マイクロチャネル102を備える熱可塑性の自動装填式チップ800を図示している。マイクロチャネル102は、注入口116と排出口112にあるキャピラリーポンプ806とを連結し、その間に互い違いのウェル(トラップ)104を有する。マイクロウェル104のアレイは、個別の試料容量を隔離するために役立ち、その一方で、作製の間にチップ中に組み込まれたPCR試薬は、各々の細分化された容量内で異なる反応が行われることを可能にする。
【0069】
試薬は、パラフィンワックスマトリックスに配列特異的PCRプライマーをピンスポットすることによりウェル中に組み込まれ、こうして試料導入の間にプライマーが封入されたままとなり、その一方で、サーモサイクリング前に温度により制御された放出が可能となる。1つの実施形態においては、試薬は凍結乾燥される。更に別の実施形態においては、試薬は、圧電インクジェット、スクリーン印刷、及び固相沈着により沈着され得る。
【0070】
試料自体は、注入口116中にピペットによって手動で沈着され、その際、マイクロウェルアレイ全体の受動的な充填及び細分化は、
図1Aに示されるようにキャピラリーポンプ作用によって達成される。熱可塑性の反応チャンバの効果的な自動充填は、高アスペクト比のマイクロウェル(トラップ)の高度に繰り返し可能な充填を促進する幾何学的な流体ピンニングを使用する互い違いのアレイ設計の使用により達成される。1つの実施形態においては、キャピラリーポンプ106は、PVDFメンブレンである。
【0071】
1つの例示的な実施形態においては、パラフィンワックスで覆われた試薬を収容し、希釈試料から効果的なPCRのために十分な反応容量をもたらす一方で、依然として信頼性の高い自動充填及びデジタル化をもたらすために、900μm四方及び250μmの深さのマイクロウェル寸法が選択された。
【0072】
1つの実施形態においては、チップの装填は、試料溶液をチップ800の入口116中にピペッティングすることにより実施した。余分な試料を、組み込まれたPVDFメンブレン106によって下流で除去し、その後に不混和性相をチップ800中に装填することで、各反応ウェル(トラップ)を完全に隔離した。装填されたら、1片のPCR対応接着テープを使用して、チップの上側を封止した。次いで、そのチップを、マイクロコントローラにより制御されるペルチェ素子を備えるサーモサイクラー上に載置した。マイクロコントローラにより実行されるソフトウェアが規定するPCRルーチンを実行した。マイクロコントローラにより、PCR反応の伸長工程の間に蛍光出力を収集するために、チップの真上に配置されたLED光源(示していない)及びCCDカメラ(示していない)を作動させた。
【0073】
1つの例示的な実施形態においては、3.75μLの試料溶液を、チップ800の注入口116中にピペッティングした。余分な試料を、組み込まれたPVDFメンブレン806によって下流で除去し、その後に5μLのシリコーン油(例えば、AR20、Sigma-Aldrich社(ミズーリ州、セントルイス))を装填した。PCR反応は、95℃での120秒間のホットスタートに続いて、95℃で15秒、60℃及び72℃で30秒の20サイクルからなっていた。マイクロコントローラにより、452nmのLED光源及びCCDカメラを作動させて、伸長工程(72℃)の間の蛍光出力を収集した。
【0074】
試料導入の間の組み込まれたプライマーの再水和の防止は、SLDチップの適切な機能化のために必須である。再水和を減速させないと、プライマーは、流体フロント部により運ばれ、下流に輸送されて、後続の試料トラップが交差汚染される。
【0075】
1つの実施形態においては、組み込まれたプライマーのための溶解遅延マトリックスのために、多糖類を選択した。具体的には、水中での溶解度、及びポリメラーゼ連鎖反応との一般的な生体適合性のために、スクロース、デキストラン、及びポリエチレングリコール(PEG)を選択した。各々を、10%(重量/重量)から40%(重量/重量)の範囲の濃度で溶解させ、フルオレセイン塩と一緒に混合した。具体的には、1つの例示的な実施形態においては、各々のポリマーについて20%(重量/重量)の濃度が、沈着時間及び溶解時間について適切な粘度のバランスを取ることに成功することが判明した。種々の混合物を、COP基板上にスポッティングし、乾燥させた。比較的大きな容量を有する水滴をスポットに加え、蛍光を経時的に記録した。このようにして、各々の添加剤について概算の溶解時間(拡散に制限される)を測定した。
【0076】
それに応じて、スクロール、デキストラン、及びPEGのスポットを、SLDデバイス中に導入した。次いで、試料溶液を自動装填させることで、試料トラップ中の移流の効果を確認した。トラップ内の蛍光を経時的に記録して、移流を加味して概算の溶解時間を決定した。
図9は、試料溶液が
図8Aに示されるようなチップを通して自動装填されているときの、PEG20%(重量/重量)及びフルオレセイン塩のスポットからの経時的な蛍光画像を示す。
【0077】
更に別の実施形態においては、試料装填の間にプライマーをトラップに保持するためにゼラチンを試験した。ゼラチンは、拡散に制限される輸送を改善し、その融点より高く加熱すると、導入された色素を完全に排出し得るが、デバイスの試験の間にゲルが水和されると、移流が溶解を左右し、スクロース及びPEGと同様の時間規模でフルオレセイン塩を分散することとなる。
【0078】
1つの実施形態においては、移流の効果を緩和するために、パラフィンワックス、つまり一般式CnH2n+2の炭化水素を含む疎水性材料を使用した。パラフィンワックスは、PCRに対応していること、及び乾燥された試薬を流れに対して保護可能であることの両方が示されている。プライマースポットの上を覆うパラフィンの堅牢なコーティングは、プライマーの溶解に対する無期限の保護バリアをもたらす。試料溶液が装填された後に、パラフィンをその融点より高く加熱することで、対応する試料トラップ(反応チャンバ)中にプライマーを分散させることができた。表1は、上述の添加剤に関するスポッティング及び溶解のデータをまとめている。
【0079】
【0080】
温度制御は、パラフィンワックスのスポッティングの成功における不可欠な要素であった。1つの例示的な実施形態においては、試料装填の間に下にあるプライマーを完全に保護するために、十分に厚いパラフィン層(30μm超)が必要とされた。十分な厚さを得るためには、温度を、溶液の粘度を保つために37℃のパラフィン溶融温度より高いが、パラフィン溶液がCOPの表面上で容易に濡れてトラップの範囲外にワックス層が広がり周囲の結合表面を損なうこととなる50℃より低く保つ必要があった。ピンは完全に自由に浮いている必要があり、そうでなければ、ステージとの接触の間に損傷が発生する場合がある。1つの実施形態においては、固体のピンが高温のワックス浴(例としては、限定されるものではないが、T=100℃)に浸され、収縮する場合にピンの外径より僅かに大きい少量のワックスを保持することとなる「ピックアンドプレース」技術。次いで、そのピンを、42℃(37℃のワックス溶融温度の直ぐ上)で保持された基板と接触させると、ワックスは、プライマースポットを覆う十分な厚さの盛り上がりを生ずる粘度で溶融することとなる。
【0081】
試薬の組み込み及び制御放出
1つの実施形態においては、プライマー溶液への添加剤としてPEGを含んでいた。例としては、限定されるものではないが、PEG濃度は、20%(重量/重量)であり得る。PEGは、乾燥したオリゴマーの長期安定性を改善するために役立つだけでなく、スポッティング溶液の粘度を増加させ、スポットのばらつきを低減するために役立つ。さらに、乾燥すると、PEG添加剤は結晶化して固体となり、それはプライマーを視覚化する手法として機能するため、後続のワックス沈着との適切な整列を容易に特徴付けることができた。1つの例示的な実施形態においては、
図10Aに図示されるように、プライマーと混合されたPEG20%(重量/重量)を有する300μm直径のピン先端を使用することで、113.5μmの名目スポットサイズ(標準偏差σ=2.1μm)がもたらされた。スポット1002は、COPフィルムと45°の接触角を有し、約0.2nLの推定される沈着容量がもたらされる。
【0082】
PEG/プライマーのスポットのためのキャップ層1004としてパラフィンワックスを使用した。200μmの直径のピンを使用することで、
図10Bに示されるように、249.4μmの名目パラフィンワックススポットサイズ(標準偏差σ=6.3μm)が得られた。
図10Cに示されるように、パラフィンでキャップされたプライマーを、トラップの上部中央1006中にスポッティングした。それというのも、それは、装填の間に捕捉された反応容量の中央であるからである。パラフィンは、プライマーの上を覆う堅牢な保護層をもたらし、メタノール、イソプロパノール、及び脱イオン水を、デバイスを通して数回繰り返し流す間の再水和を防ぐ。
【0083】
図11は、プライマー溶液にフルオレセイン塩を添加することによる組み込まれたプライマーの放出を図示している。チップに油を装填し、チップを油で再充填したところ、スポットの蛍光において測定可能な差はなかった。次いで、チップを70℃まで加熱したときに画像を撮影し、温度が約65℃に達したときに当初のスポットから蛍光が分散することが示された。
【0084】
図8Aに示されるようなSLDチップの適切な自動装填は、試料溶液とチップの基板との表面相互作用に依存している。表面張力に駆動されるトラップの装填のモデルを、
図2A~
図2D、
図2F、
図3A~
図3D、
図3F、及び
図4A~
図4D、
図4Fを参照して考察した。しかしながら、PCR試薬を試料トラップ中に組み込むために、疎水性材料(パラフィンワックス)をトラップの表面に沈着させることで、
図2A~
図2D、
図2F、
図3A~
図3D、
図3F、及び
図4A~
図4D、
図4Fに関して先に論じられた結果からの装填率における偏差がもたらされる。パラフィンのスポットを導入した後に、水性試料溶液は、疎水性ワックスの表面を迂回し、パラフィンの盛り上がりを越えてトラップ中に気泡を残すこととなる。この欠陥を克服するために、疎水性のワックスの盛り上がりを乗り越えるためにより小さな圧力変化しか必要とされないようにチャネルの深さを大きくした。しかしながら、トラップの深さには制限がある必要があった。それというのも、自動装填及び除去の間の剪断誘起型の分離は、チャネルの深さの増加により悪影響を受けることとなるからである。1つの実施形態においては、250μmのトラップ深さは、信頼性の高い気泡なしの装填のために最適である一方で、また除去の間の十分な試料の保持をもたらすことが分かった。900μm(幅)×900μm(長さ)×250μm(深さ)のトラップの寸法で、92nLの平均捕捉容量(RSD=9.2%)が得られた。画像解析を使用して捕捉された試料の表面積を測定し、それをトラップの深さにより乗算することによりデジタル化された容量を外挿した。
【0085】
マルチプレックスPCR
特定の組み込まれたプライマー組に基づいて異なる鋳型DNAを検出する能力は、
図1A、
図7A、及び
図8Aを参照して先に論じられたSLDチップの、細菌種特定及び抗生物質耐性スクリーニングにおける潜在的な使用のための有用性を証明するにあたり重要であった。プライマー組は、2つの筋書き、すなわち1)鋳型と適合したプライマー組は増幅するが、適合しないプライマーは増幅しないこと、2)両方のプライマー組が、装填された鋳型により増幅する場合に、オンチップ高解像度融解曲線分析(HRMA)の間にそれらの各々の融解温度(Tm)を区別することができることを示すように設計された。1番目の筋書きを実現するために、2つのプライマー組p19及びp322を、p19プライマー組がプラスミドpUC19鋳型を増幅し、p322プライマー組がそれを増幅しないように設計した。2番目の筋書きの場合には、p19はプラスミドpBR322鋳型でも増幅することが保証されたため、pBR322鋳型を装填した場合に、p19及びp322の両方のプライマー組が増幅されるが、異なる融解温度を有するアンプリコンが得られる。
【0086】
1つの例示的な実施形態においては、pUC19及びpBR322プラスミドを、30ng/μLに希釈した。各々の鋳型を、等容量の市販のマスターミックス及びEDTAバッファーと混合して、10ng/μLの最終濃度、又は反応当たり約2.0ngを有する試料溶液を形成した。上記マスターミックスは、産物のバリデーションのためのPCR反応産物のオンチップ蛍光検出及び高解像度融解曲線分析(HRMA)を可能にするためのDNAインターカレート色素であるLCGreenを含んでいた。pUC19フォワードプライマー(5’-GACCTACACCGAACTGAGATACC-3’)(配列番号1)及びリバースプライマー(5’-TCCGACCCTGCCGCTTAC-3’)(配列番号2)、並びにpBR322フォワードプライマー(5’-TGCTCAACGGCCTCAACCTA-3’)(配列番号3)及びリバースプライマー(5’-AGTCATAAGTGCGGCGACGA-3’)(配列番号4)を設計した。1つの実施形態においては、Primer3Plusソフトウェアを使用して、プライマーを設計した。両方のプライマー組を希釈して、ストック溶液を5mMで形成した。プライマープリント溶液は、反応容量における500μMの最終プライマー濃度のため、10×の5mMのプライマーストック、2×のバッファー(Novella Oligo Dilution Buffer、Canon US Life Sciences社(メリーランド州、ロックビル))、及び3×の50%PEG溶液を含有した。
【0087】
図12Aは、予想される実験成果をまとめた図解である。p19プライマー及びpBR322鋳型は、p19プライマー及びpUC19鋳型と同様のTmを有するアンプリコンを産生した。1つの実施形態においては、両方のプライマー組を、同じサーモサイクリング条件(95℃で15秒、60℃及び72℃で30秒の20サイクル)下で増幅するように設計した。例としては、限定されるものではないが、アッセイを、事前にRoche社のLC480で実施し、HRMAにより、p19プライマー及びpBR322鋳型の反応によってp322プライマー及びpBR322鋳型により産生されるアンプリコンよりも2.3℃低いTmを有するアンプリコンが得られることが確認された。
【0088】
SLDチップは、ワークフローを最小限に抑えるように設計されており、試料を別個の反応に細分化するために必要とされるのは、2つのピペッティング工程(1つは試料用で、1つは油用)だけである。これは、60秒足らずで装填された16個のトラップデバイスで実験的に実現された。pUC19鋳型及びpBR322鋳型が装填されたチップについてそれぞれ75%及び100%のトラップ装填率が達成された。HRMAは、p19で充填されたトラップが、平均Tm=86.4℃(標準偏差σ=0.3℃)を有するアンプリコンを産生することを示した。pBR322鋳型が装填されたチップは、全てのトラップの装填に成功した。p19プライマーで充填されたトラップは、平均Tm=87.3℃(標準偏差σ=0.7℃)を有する産物を増幅し、p322プライマーで充填されたトラップは、平均Tm=89.5℃(標準偏差σ=0.7℃)を有するアンプリコンを産生した。p19/pBR322とp322/pBR322アンプリコンとの間の2.2℃のTmの差は、LC480で測定されたアンプリコンのTmにおける差と良好に一致している。
【0089】
試料調製が必要であることは、診療現場で使用するために設計されたあらゆる核酸診断に対する大きな課題である。本発明の1つの実施形態においては、試料調製はマイクロ流体増幅及びSLD検出のプラットフォームから切り離され、こうして核酸抽出、精製、及び濃縮の方法を、バックエンド分析のための汎用的なマイクロ流体プラットフォームを維持しながら特定の試料の種類に関して変更することが可能となる。具体的には、試料調製は、官能化されたピペット先端を使用して実施される。ワークフローの例は、
図13A~
図13Cに示されており、ここで、特注のピペット先端は、DNAの捕捉及び放出のために使用される多孔質ポリマーモノリスのキトサン官能化を利用している。
【0090】
図13Aに示されるように、粗製試料はキトサンモノリスを通じて吸い込まれ、ここで、電荷相互作用により多孔質表面上に遊離の核酸が捕捉される。先端中に組み込まれたプレフィルター要素は、試料から粒子及び細胞デブリを除去するためにも役立つ。1つの実施形態においては、プレフィルター要素は、キトサンモノリス1302である。具体的には、1mm厚のキトサンモノリス要素1302は、モノリスの面積1平方ミリメートル当たり100ngを上回る装填レベルでDNAを捕捉するために十分である。捕捉後に、試料をpH5のバッファーで洗浄して、汚染物質を除去し(
図13B)、その後に、pH8.8の増幅バッファーをピペット中に装填し、濃縮されたDNAを直接的にトラップチップ中に溶出させるために使用した(
図13C)。更に別の実施形態においては、この方法は、ピペットではなく、リンスバッファー及び溶出バッファーがシリンジ本体に事前に装填されたシリンジを使用することにより簡素化される。
【0091】
したがって、診療現場での使用のために扱いやすい方法での試料調製と増幅との切り離しに加えて、このアプローチは、DNA濃縮及び精製のためのカオトロピック塩の必要性を排除し、ワールドトゥーチップ(world-to-chip)インターフェイスの課題を解決し、そして複雑又は嵩張る機器を必要とせずに核酸溶出の間の試料容量の信頼性の高い制御を可能にする。
【0092】
核酸増幅を使用する多重アッセイは、高い特異度及び感度で複数のバイオマーカーを迅速に検出する能力がヘルスケアに変革的な影響を与え得る診療現場の環境に特別な可能性を提供する。しかしながら、確立されたPCRベースの核酸診断は、多重化に対応する重要な機器を必要とするため、診療現場で扱いにくく、費用がかかり、診療現場での使用を困難にする。さらに、従来のPCRは、多くの診療現場での用途には遅すぎる。
【0093】
本発明の1つの態様によれば、診療現場の環境におけるこれらの制限を克服し、多重化された核酸診断を使用するためのマイクロ流体プラットフォームが提供される。該プラットフォームは、外部のポンプ又はバルブ、基板の調製、又は試薬の導入を一切必要としない多重増幅及び検出のために必要な全ての試薬を含む多数の隔離された反応チャンバ中に初期試料容量を自動的に分離するように設計された熱可塑性チップを使用している。同時のオンチップ増幅は、ループ介在等温増幅(LAMP)を使用することにより達成され、こうしてシステムレベルの多重化の要求が大幅に簡素化される。具体的には、コンタクトイメージングの使用により、システムは非常に小型であり、最終的に全ての機能をノートブック又はタブレットコンピュータを使用したアッセイ作業及び読み出しに対応するUSBスティック形式に組み込むことができる。
【0094】
LAMPは、60℃~65℃で操作し、アンプリコンにループを形成することでDNA配列を指数関数的に増幅し、DNAの融解なしでのプライマーの結合が可能となる。指数関数的増幅に加えて、その方法は、熱サイクル時間が排除されるだけでなく、Bstポリメラーゼが継続的に発生するため迅速である。
【0095】
増幅反応は、10分ほどの早さで飽和に達し得る。高められた特異性のために、LAMP反応(Tanner et al., "Simultaneous multiple target detection in real-time loop-mediated isothermal amplification," Biotechniques, vol. 53, no. 2, pp. 81-89, 2012)を、
図16に示す。初期融解工程の後に、プライマーF2及びF3は、標的に結合する(工程1602)。F2は、F1cに結合し、それがFDとハイブリダイズする。FDはドナー蛍光体を含み、一方で、F1cはクエンチャーを含む。工程1604において、F2で結合するポリメラーゼは、鋳型との相補物を伸長し、一方F3で結合するポリメラーゼはまた、他の鎖を外しながら鋳型を伸長する。その鎖が外れると、F1での自己ハイブリダイゼーションによりループが形成される。このループの形成はまたFDを外し、それにより蛍光の増加がもたらされる(工程1606)。次に、B1c、B2c、及びB3cで逆方向に同様の過程が起こる(工程1608)。最終的に、この第1回目のコピー形成により、各々の端部にループを有する鎖が生成される(工程1610)。そのループは、DNAの更なる融解なくプライマーの到達を可能にするため、指数関数的に増加する速度でこれらのループベースの構造の繰り返しのコピー形成に導く。ループ構造の各々のコピー形成時にFD鎖が継続的に外れるため、指数関数的に増加する速度でシグナルも生成される。
【0096】
1つの例示的な実施形態においては、多重化LAMPアッセイに対応する使い捨て型の熱可塑性のマイクロ流体チップは、2.5cm2未満の実装面積に最大1024個の反応チャンバ(例としては、限定されるものではないが、32×32ウェル、100nL容量)の高密度アレイを有するCOP基板において作製される。Bstポリメラーゼ及び標的特異的プライマーを含む凍結乾燥LAMP試薬は、ワックスマトリックス中にマイクロアレイのスポッティングによりオンチップで組み込まれ、こうして試薬の制御放出が可能となる。正確な温度制御を支持する白金薄膜ヒーター及びサーミスタがチップ表面にパターン化されている。
【0097】
したがって、空間的に多重化された等温増幅を使用して最大1024個の独立した遺伝子標的を迅速に増幅することができる単純で自動式の使い捨て可能なプラットフォームは、患者の近くの環境に比類なく適している。
【0098】
本発明の主要な進歩は、等温増幅技術としてのオンチップ多重化LAMPの開発である。PCRとは異なり、LAMP反応は一定温度で実施され、迅速なサーモサイクリングの必要性が排除される。このように等温増幅への移行により、デバイスのシステムレベルの作業が大幅に簡素化されるため、USBへの組み込みが可能となる。LAMP増幅に関連するより低い温度(通常は60℃~65℃)は、熱に誘発される気泡形成の影響を軽減するのに役立つ。さらに、各々のLAMP反応は標的遺伝子上の異なる領域を特定するための複数のプライマーを使用するので、特異性がPCRよりも大幅に増大する一方で、ループプライマーを添加すると反応が加速され、アッセイ時間に関してPCRよりも高速にアンプリコンを生成することができる。
【0099】
図7Aに示されるような互い違いのトラップアレイは、自動式の試料充填及び細分化されたPCRを可能にするのに成功したが、チップ結合に関連する作製上の課題のため、進展は制限された。本発明の1つの態様においては、試料トラップが、単一の線形マイクロチャネルの側面から出ている側方突出部ではなく、面状のマイクロチャネルの下にある垂直のウェルとして作製される新しいアレイ設計。
図15A及び
図15Bは、互い違いのトラップ設計(
図15A)と、面状の垂直のトラップ設計(
図15B)との比較を示している。
図15A及び
図15Bに示される各々のチップは、試料入口116、充填チャネル102、トラップアレイ104、及びキャピラリーポンプ106を備える。
【0100】
初期状態1502は、試料入口116で試料を受容する前の2つのトラップアレイ配置を示す。互い違いのトラップ設計は、
図15Aに示され、面状の垂直のトラップ設計は、
図15Bに示されている。各試料トラップ(ウェル)104は、増幅反応の実施のためのLAMP試薬1510を含む。Cr/Au電極1512がチップに取り付けられている。試料は、試料注入口116を通じて導入され、試料トラップ104を充填する(工程1504)。余分な試料が、組み込まれたキャピラリーポンプ(PVDFメンブレン)106によって除去された後に、チャネル102中に油を導入することで、試料トラップが隔離される(工程1506)。工程1508において、Cr/Au電極1512は、LAMP試薬の熱支援放出をもたらし、試料中の標的核酸を増幅する。
【0101】
垂直のトラップの充填過程は、
図14に示されている。1つの実施形態においては、50μmから250μmの範囲の面内寸法及び50μmから100μmの範囲の高さを有する正方形のトラップの効果的な装填の実証に成功し、その際、試料の充填及び油再充填の間の細分化が達成された。UV/オゾンへの曝露によるマイクロウェルを含む熱可塑性表面の活性化により、表面上に負に荷電した基の高密度な層が生成されて、高い表面エネルギーが得られ、油再充填の間のトラップ内の別個の試料容量の親水的固着が促進されることにより、チップの充填が容易になる。表面活性化の使用はまた、親水性デバイスにおいて毛管力がより高くなるため、互い違いのトラップアレイよりも充填過程の速度を大幅に増大させる。1つの実施形態においては、反対側のチャネル表面上に互い違いの2Dトラップの第2の組をパターン化して、達成可能なトラップ容量を増加させることによって、互い違いのトラップアレイの概念を、垂直のトラップ設計に適合させることができる。
【0102】
垂直の設計のウェルは結合界面から遠くに位置しているので、気泡の形成は、増幅又はアッセイの読み取りに影響を与えず、こうして高いチップ歩留まりのために堅牢な溶媒結合法の使用を可能にするが、一方で、充填チャネルの2D形状により、単一の注入口から迅速に(例としては、限定されるものではないが、30秒未満で)充填される、試料トラップの大きなアレイが可能となる。PCRにおいて必要とされる高温を避けることで、熱に誘発される気泡形成を減らすことが可能となる。
【0103】
多重増幅を可能にするために、標的特異的なLAMPプライマー及びポリメラーゼは、個々のトラップチャンバ中での機械的スポッティングにより沈着され、初期のLAMP加熱工程の間に制御可能に放出される。PEGマトリックス中にPCRプライマーを沈着させるための効果的な技術であって、パラフィンワックス封入が、熱的に制御される試薬放出を支持し、それにより試料充填の間のトラップ間のプライマーの相互干渉が妨げられる技術が提供される(
図10A~
図10C)。
【0104】
1つの例示的な実施形態においては、面状の垂直のトラップチップ設計と試薬スポッティングとの組み合わせにより、組み込まれた試薬を含む1024個のトラップの32×32アレイが達成可能となる。トラップチャンバは、約100nLのウェル容量をもたらす500μmの直径及び500μmの高さの寸法を有し、アレイ全体については約100μLの全試料容量を有する。このアレイ設計は、2.5cm2の実装面積内にあるため、USBスティック中に組み込まれた単純なコンタクトイメージングシステムを使用してアレイ全体からの光学的検出が可能となる。
【0105】
トラップアレイチップ1802及びLEDアレイ1814と一緒に、USBスティック1800中に組み込まれた再利用可能なCMOS接触蛍光システム1806が、
図18に示されている。SLDチップにおいて温度制御のために使用される外部熱電装置(例えば、サーモサイクラー)は、組み込まれた薄膜Cr/Au電極に置き換えられ、こうしてデバイスの所要電力は大幅に削減される。具体的には、Cr/Au電極(
図15A及び
図15Bにおける要素1512)は、温度検知及び操作のためにチップ背面上にパターン化される。該電極は、チップの上面又は底面からの光学的アクセスの遮断を避けるために、各トラップの周辺に配置される。全てのインターフェイス電子機器は、スタンプサイズのマイクロコントローラを使用して単独のプリント回路基板1810上に実装される。
【0106】
トラップアレイ1802の蛍光イメージングは、前面LED照明1814及びCMOSコンタクトイメージャ1806を使用した背面検出を使用して実行されることから、システム内の一切の光学的集束コンポーネントが不要となる。CMOSイメージャ1806をイメージング表面に近接して配置することにより、高解像度の光学的検出を実現することができる。励起フィルターガラス1816は、LED光源1414とトラップアレイチップ1802との間に配置され、発光フィルターガラス1804は、トラップアレイチップとCMOS検出器1806との間に配置される。
【0107】
外部機器を一切必要とせずにラップトップコンピュータから操作される迅速な多重化診断の実現により、小さな診療所、個人の診療所、従来の研究所インフラ又はその他のリソースへのアクセスが制限されたリモート環境、そして最終的には家庭での使用に及ぶ環境への扉が開かれる。このために、標準的なSPI(12C)インターフェイスに対応するCMOSチップを使用して、USB通信を簡素化することができ、その際、ホストコンピュータ上でJava(登録商標)コードを使用することで、SPI制御及びイメージャからのデータ収集と共に、LED光源1814及び薄膜温度制御要素の制御が行われる。
【0108】
図17A及び
図17Bに示されるように、むき出しの消費者向けのCMOSイメージャチップを使用して、高い忠実度の蛍光画像が達成される。
図17Aは、トラップチップの下方に配置されるむき出しのCMOSイメージャを示している。
図17Bは、蛍光色素を使用するコンタクトイメージングの結果を示している。各トラップ1704及び油で充填されたチャネル1702で検出される蛍光シグナルが、
図17Bに示されている。
【0109】
本発明を説明する文脈において(特に添付の特許請求の範囲の文脈において)「1つの(a、an)」及び「その(the)」という用語並びに類似の指示物を使用することは、本明細書において他に指示されない限り、又は文脈によって明確に否定されない限り、単数形及び複数形の両方を含むと解釈されるべきである。「備える(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、他に言及されない限り、オープンエンドの用語(すなわち、「含むが、それに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。本明細書において値の範囲を列挙することは、本明細書において他に指示されない限り、その範囲内に入る別々の各値を個々に参照する簡潔な方法としての役割を果たすことを意図するにすぎず、本明細書において個々に列挙されたかのように、別々の各値が本明細書に組み込まれる。本明細書において説明される全ての方法は、本明細書において他に指示されない限り、又は文脈によって明確に否定されない限り、任意の適切な順序において実行することができる。本明細書において与えられるありとあらゆる例、又は例示する用語(例えば、「等の(such as)」)の使用は、本発明の理解をより容易にすることを意図するにすぎず、別に特許請求されない限り、本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書における文言は、任意の特許請求されない要素を、本発明を実施する上で不可欠であると示すものと解釈されるべきでない。
【0110】
本開示の主題について、特徴の様々な組合せ及び部分的組合せを含む幾つかの例示的な実施形態を参照してかなり詳細に記載し示したが、当業者は、他の実施形態並びにその変形形態及び変更形態を、本開示の範囲内に包含されるものとして容易に理解するであろう。さらに、こうした実施形態、組合せ及び部分的組合せの記載は、請求項に係る主題が、請求項に明示的に列挙されているもの以外の特徴又は特徴の組合せを必要とするということを意味するようには意図されていない。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に包含される全ての変更形態及び変形形態を含むように意図されている。