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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20231024BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20231024BHJP
   G01S 13/72 20060101ALI20231024BHJP
   G01S 13/44 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
G01S7/02 216
G01S13/931
G01S13/72
G01S13/44
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020063440
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162448
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 悠介
(72)【発明者】
【氏名】黒野 泰寛
【審査官】石原 徹弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-081007(JP,A)
【文献】特開2016-075524(JP,A)
【文献】特開2015-068724(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182002(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体(50)に搭載されたレーダ装置(19)であって、
不等間隔に配置された複数のアンテナ素子(21)を備えるアレイアンテナ(20)と、
前記アレイアンテナにより受信された受信信号から物標の観測値のうちの観測距離を検出するように構成された距離検出部(32,S10,S200)と、
前記受信信号から方位スペクトラムを算出し、算出した前記方位スペクトラムのピークから前記物標の観測値のうちの観測方位を検出するように構成された方位検出部であって、前記方位スペクトラムにおいて、折り返しの位置関係になっている複数の位置にピークが存在する場合に、前記複数の位置のピークのうち最も電力値が高いピークから前記観測方位を検出するように構成された方位検出部(31,S10,S200)と、
前記観測方位及び前記観測距離の時系列から前記物標を追跡するように構成された物標追跡部(33,S30~S80,S220~S260)と、
前記物標追跡部により追跡される前記物標がグレーティングゴーストか否か判定するグレーティング判定を実行するように構成されたグレーティング判定部(39,S100~S150,S300~S330,S350~S380,S400~S440)と、を備え、
前記物標追跡部は、
各物標の前記観測値の検出回数を算出するように構成された検出回数算出部(34,S50~S70,S240~S260)と、
前記物標の過去の位置から予測される現在の位置である予測値を算出して、算出した前記予測値を前記観測値と関連付けする関連付け処理部(S30,S220)と、
前記予測値と前記観測値のうち少なくとも一方から現在の位置である推定値を算出する推定部(S40,S45,S55,S230,S245,S255)であって、今サイクルで前記予測値と関連付けられた前記観測値がある場合には、前記予測値及び前記観測値のフィルタ処理により前記推定値を算出し、今サイクルで前記予測値と関連付けられた前記観測値がない場合には、前記予測値を前記推定値とする外挿処理を実行するように構成された推定部と、
追跡中の前記物標の評価値を算出するように構成された評価値算出部であって、前記物標追跡部により追跡中の物標のうちの任意に選択した基準物標と、前記物標追跡部により追跡中の物標のうちの前記基準物標の折り返し位置に存在する物標である対象物標とのうち、前記対象物標の前記評価値を増加させるように構成された評価値算出部と、を備え、
前記グレーティング判定部は、
第1の算出処理を実行して前記グレーティングゴーストの可能性の高さを表す判定値を算出して、算出した前記判定値が設定された第1のゴースト閾値以上である場合に、前記物標がグレーティングゴーストであると判定するように構成されており、又は、
第2の算出処理を実行して前記判定値を算出して、算出した前記判定値が設定された第2のゴースト閾値以下である場合に、前記物標がグレーティングゴーストであると判定するように構成されており、
前記第1の算出処理は、前記物標追跡部により追跡中の物標ごとに、前記評価値を前記検出回数で除算して前記判定値を算出する処理であり、
前記第2の算出処理は、前記物標追跡部により追跡中の物標ごとに、前記検出回数を前記評価値で除算して前記判定値を算出する処理である、
レーダ装置。
【請求項2】
前記グレーティング判定部(S130,S140)は、
前記第1の算出処理を実行して、算出した前記判定値が前記第1のゴースト閾値よりも小さい第1の実体閾値以下である場合に、前記物標が実体であると判定するように構成されており、又は、
前記第2の算出処理を実行して、算出した前記判定値が前記第2のゴースト閾値よりも大きい第2の実体閾値以上である場合に、前記物標が実体であると判定するように構成されている、
請求項に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記グレーティング判定部(S150)は、
前記第1の算出処理を実行して、算出した前記判定値が前記第1のゴースト閾値よりも小さく、且つ前記第1の実体閾値よりも大きい場合に、前回の処理サイクルにおける前記グレーティング判定の判定結果を引き継ぐように構成されており、又は、
前記第2の算出処理を実行して、算出した前記判定値が前記第2のゴースト閾値よりも大きく、且つ前記第2の実体閾値よりも小さい場合に、前回の処理サイクルにおける前記グレーティング判定の判定結果を引き継ぐように構成されている、
請求項に記載のレーダ装置。
【請求項4】
移動体(50)に搭載されたレーダ装置(19)であって、
不等間隔に配置された複数のアンテナ素子(21)を備えるアレイアンテナ(20)と、
前記アレイアンテナにより受信された受信信号から物標の観測値のうちの観測距離を検出するように構成された距離検出部(32,S10,S200)と、
前記受信信号から方位スペクトラムを算出し、算出した前記方位スペクトラムのピークから前記物標の観測値のうちの観測方位を検出するように構成された方位検出部であって、前記方位スペクトラムにおいて、折り返しの位置関係になっている複数の位置にピークが存在する場合に、前記複数の位置のピークのうち最も電力値が高いピークから前記観測方位を検出するように構成された方位検出部(31,S10,S200)と、
前記観測方位及び前記観測距離の時系列から前記物標を追跡するように構成された物標追跡部(33,S30~S80,S220~S260)と、
前記物標追跡部により追跡される前記物標がグレーティングゴーストか否か判定するグレーティング判定を実行するように構成されたグレーティング判定部(39,S100~S150,S300~S330,S350~S380,S400~S440)と、
前記物標追跡部により追跡中の物標のうちの任意に選択した物標である基準物標の速度、及び前記物標追跡部により追跡中の物標のうちの前記基準物標の折り返し位置に存在する物標である対象物標の速度が設定された速度閾値以上の場合に、前記観測値の検出シーンが第1のシーンであると判定し、前記基準物標の速度及び前記対象物標の速度の少なくとも一方が前記速度閾値未満の場合に、前記観測値の検出シーンが第2のシーンであると判定するように構成されたシーン判定部(36,S280)と、
前記物標追跡部により追跡される物標ごとに、前記受信信号の時系列の電力平均値を算出するように構成された電力平均値算出部(37,S290)と、を備え、
前記物標追跡部は、
各物標の前記観測値の検出回数を算出するように構成された検出回数算出部(34,S50~S70,S240~S260)と、
前記物標の過去の位置から予測される現在の位置である予測値を算出して、算出した前記予測値を前記観測値と関連付けする関連付け処理部(S30,S220)と、
前記予測値と前記観測値のうち少なくとも一方から現在の位置である推定値を算出する推定部(S40,S45,S55,S230,S245,S255)であって、今サイクルで前記予測値と関連付けられた前記観測値がある場合には、前記予測値及び前記観測値のフィルタ処理により前記推定値を算出し、今サイクルで前記予測値と関連付けられた前記観測値がない場合には、前記予測値を前記推定値とする外挿処理を実行するように構成された推定部と、を備え、
前記グレーティング判定部は、
前記シーン判定部により前記第1のシーンと判定された場合に、第3の算出処理を実行し、且つ、前記シーン判定部により前記第2のシーンであると判定された場合に、第5の算出処理を実行するように構成されており、又は、
前記シーン判定部により前記第1のシーンと判定された場合に、第4の算出処理を実行し、且つ、前記シーン判定部により前記第2のシーンであると判定された場合に、第6の算出処理を実行するように構成されており、
前記第3の算出処理は、前記基準物標と、前記対象物標とのうち、前記検出回数が少ない方の前記グレーティングゴーストの可能性の高さを表す判定値を増加させ、前記検出回数が多い方の前記判定値を減少させる処理であり、
前記第4の算出処理は、前記基準物標と前記対象物標とのうち、前記検出回数が少ない方の前記判定値を減少させ、前記検出回数が多い方の前記判定値を増加させる処理であり、
前記第5の算出処理は、前記基準物標及び前記対象物標のうち、前記電力平均値が小さい方の前記判定値を増加させ、前記電力平均値の大きい方の前記判定値を減少させる処理であり、
前記第6の算出処理は、前記基準物標及び前記対象物標のうち、前記電力平均値が小さい方の前記判定値を減少させ、前記電力平均値が大きい方の前記判定値を増加させる処理であり、
前記グレーティング判定部は、
前記第3の算出処理又は前記第5の算出処理を実行して、算出した前記判定値が設定された第3のゴースト閾値以上である場合に、前記物標がグレーティングゴーストであると判定するように構成されており、又は、
前記第4の算出処理又は前記第6の算出処理を実行して、算出した前記判定値が設定された第4のゴースト閾値以下である場合に、前記物標がグレーティングゴーストであると判定するように構成されている、
レーダ装置。
【請求項5】
前記グレーティング判定部(S420,S430)は、
前記第3の算出処理又は前記第5の算出処理を実行して、算出した前記判定値が前記第3のゴースト閾値よりも小さい第3の実体閾値以下である場合に、前記物標が実体であると判定するように構成されており、又は、
前記第4の算出処理又は前記第6の算出処理を実行して、算出した前記判定値が前記第4のゴースト閾値よりも大きい第4の実体閾値以上である場合に、前記物標が実体であると判定するように構成されている、
請求項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記グレーティング判定部(S440)は、
前記第3の算出処理又は前記第5の算出処理を実行して、算出した前記判定値が前記第3のゴースト閾値よりも小さく、且つ前記第3の実体閾値よりも大きい場合に、前回の処理サイクルにおける前記グレーティング判定の判定結果を引き継ぐように構成されており、又は、
前記第4の算出処理又は前記第6の算出処理を実行して、算出した前記判定値が前記第4のゴースト閾値よりも大きく、且つ前記第4の実体閾値よりも小さい場合に、前回の処理サイクルにおける前記グレーティング判定の判定結果を引き継ぐように構成されている、
請求項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
移動体(50)に搭載されたレーダ装置(19)であって、
不等間隔に配置された複数のアンテナ素子(21)を備えるアレイアンテナ(20)と、
前記アレイアンテナにより受信された受信信号から物標の観測値のうちの観測距離を検出するように構成された距離検出部(32,S10,S200)と、
前記受信信号から方位スペクトラムを算出し、算出した前記方位スペクトラムのピークから前記物標の観測値のうちの観測方位を検出するように構成された方位検出部であって、前記方位スペクトラムにおいて、折り返しの位置関係になっている複数の位置にピークが存在する場合に、前記複数の位置のピークのうち最も電力値が高いピークから前記観測方位を検出するように構成された方位検出部(31,S10,S200)と、
前記観測方位及び前記観測距離の時系列から前記物標を追跡するように構成された物標追跡部(33,S30~S80,S220~S260)と、
前記物標追跡部により追跡される前記物標がグレーティングゴーストか否か判定するグレーティング判定を実行するように構成されたグレーティング判定部(39,S100~S150,S300~S330,S350~S380,S400~S440)と、を備え、
前記物標追跡部は、
各物標の前記観測値の検出回数を算出するように構成された検出回数算出部(34,S50~S70,S240~S260)と、
前記物標の過去の位置から予測される現在の位置である予測値を算出して、算出した前記予測値を前記観測値と関連付けする関連付け処理部(S30,S220)と、
前記予測値と前記観測値のうち少なくとも一方から現在の位置である推定値を算出する推定部(S40,S45,S55,S230,S245,S255)であって、今サイクルで前記予測値と関連付けられた前記観測値がある場合には、前記予測値及び前記観測値のフィルタ処理により前記推定値を算出し、今サイクルで前記予測値と関連付けられた前記観測値がない場合には、前記予測値を前記推定値とする外挿処理を実行するように構成された推定部と、を備え、
前記グレーティング判定部は、
第3の算出処理又は第4の算出処理を実行するように構成されており、
前記第3の算出処理は、前記物標追跡部により追跡中の物標のうちの任意に選択した物標である基準物標と、前記物標追跡部により追跡中の物標のうちの前記基準物標の折り返し位置に存在する物標である対象物標とのうち、前記検出回数が少ない方の前記グレーティングゴーストの可能性の高さを表す判定値を増加させ、前記検出回数が多い方の前記判定値を減少させる処理であり、
前記第4の算出処理は、前記基準物標と前記対象物標とのうち、前記検出回数が少ない方の前記判定値を減少させ、前記検出回数が多い方の前記判定値を増加させる処理であり、
前記グレーティング判定部は、
前記第3の算出処理を実行して、算出した前記判定値が設定された第3のゴースト閾値以上である場合に、前記物標がグレーティングゴーストであると判定するように構成されており、又は、
前記第4の算出処理を実行して、算出した前記判定値が設定された第4のゴースト閾値以下である場合に、前記物標がグレーティングゴーストであると判定するように構成されている、
レーダ装置。
【請求項8】
前記検出回数算出部(S60,S70,S250,S260)は、前記観測値、前記予測値及び前記推定値のうちのいずれかが示す方位が所定値以上である物標を前記基準物標として選択する、
請求項のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記物標のうち所定の条件を満たす物標に対する警報を出力させるように構成された警報制御部(40)を更に備え、
前記警報制御部は、前記グレーティング判定部によりグレーティングゴーストであると判定された物標に対する警報の出力を抑制するように構成されている、
請求項1~のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のアンテナ装置は、メインローブとグレーティングローブとに電力差が生じるように、アレイアンテナのアレイ間隔を設定し、電力差でグレーティングゴーストを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5472187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記アンテナ装置をレーダ装置に適用した場合、メインローブとグレーティングローブとの間に十分な電力差があれば、グレーティングゴーストの判定が可能である。しかしながら、多数の物体が存在する実際の道路環境においては、ノイズの影響があるため、単純に電力値を比較しても、安定したグレーティングゴーストの判定は難しい。一方、メインローブとグレーティングローブとの間の電力差を大きくしようとすると、アンテナ設計に制約がかかり、アンテナ設計の自由度が低下する。
【0005】
本開示は、アンテナ設計の自由度の低下を抑制しつつ、安定したグレーティングゴーストの判定が可能なレーダ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、移動体(50)に搭載されたレーダ装置(19)である。レーダ装置は、アレイアンテナ(20)と、距離検出部(32,S10,S200)と、方位検出部(31,S10,S200)と、物標追跡部(S33,S30~S80,S220~S260)と、グレーティング判定部(39,S100~S150,S300~S330,S350~S380,S400~S440)と、を備える。アレイアンテナは、不等間隔に配置された複数のアンテナ素子(21)を備える。距離検出部は、アレイアンテナにより受信された受信信号から物標の観測値のうちの観測距離を検出するように構成される。方位検出部は、受信信号から方位スペクトラムを算出し、算出した方位スペクトラムのピークから物標の観測値のうちの観測方位を検出するように構成され、方位スペクトラムにおいて、折り返しの位置関係になっている複数の位置にピークが存在する場合に、複数の位置のピークのうち最も電力値が高いピークから観測方位を検出するように構成される。物標追跡部は、観測方位及び観測距離の時系列から物標を追跡するように構成される。グレーティング判定部は、物標追跡部により追跡される物標がグレーティングゴーストか否か判定するグレーティング判定を実行するように構成される。物標追跡部は、各物標の観測値の検出回数を算出するように構成された検出回数算出部(34,S50~S70,S240~S260)を含む。グレーティング判定部は、検出回数算出部により算出された検出回数に基づいて、グレーティング判定を実行するように構成されている。
【0007】
本開示の1つの局面によれば、不等間隔に配置されたアンテナ素子を備えるアレイアンテナを用いることにより、実体信号とゴースト信号との間に電力差が生じる。また、受信信号から算出された方位スペクトラムにおいて、折り返しの位置関係になっている複数の位置にピークが存在する場合に、最も電力値が高いピークから観測方位が検出され、観測
方位に対応する観測距離が検出される。
【0008】
さらに、検出された観測方位及び観測距離の時系列から物標が追跡される。そして、追跡される各物標の観測値の検出回数が算出される。瞬時的には、ゴースト信号の電力値が、実体信号の電力値を上回り、ゴースト信号の観測値が検出されることがある。しかしながら、受信信号の時系列で比較すると、実体信号の電力値がゴースト信号の電力値を上回る頻度が多くなる。すなわち、受信信号の時系列で比較すると、実体信号の観測値の検出頻度とゴースト信号の観測値の検出頻度とに差が生じる。したがって、検出回数に基づいてグレーティング判定を実行することにより、アンテナ設計の自由度の低下を抑制しつつ、安定したグレーティンゴーストの判定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】レーダ装置の車両における搭載位置及び検知範囲の一例を示す図である。
図2】レーダ装置の構成を示すブロック図である。
図3】アレイアンテナの構成を示す模式図である。
図4】方位スペクトラムの一例を示す図である。
図5】移動物により移動物ゴーストが生じる第1シーンを説明する図である。
図6】第1シーンでの認識結果を示す図である。
図7】静止物により移動物ゴーストが生じる第2シーンを説明する図である。
図8】第2シーンでの認識結果を示す図である。
図9】第1実施形態に係るグレーティング判定処理を示す図である。
図10】第1実施形態に係る第1シーンでのグレーティング判定のシミュレーション結果を示す図である。
図11】第1実施形態に係る第2シーンでのグレーティング判定のシミュレーション結果を示す図である。
図12A】第2実施形態に係る判定処理の一部を示す図である。
図12B】第2実施形態に係る判定処理の残りの部分を示す図である。
図13】第2実施形態に係る第1シーンでのグレーティング判定のシミュレーション結果を示す図である。
図14】第2実施形態に係る第2シーンでのグレーティング判定のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
(第1実施形態)
<1-1.構成>
まず、本実施形態に係るレーダ装置10の構成について、図1~3を参照して説明する。図1に示すように、レーダ装置10は、車両50の前方中央(例えば、前方バンパの中央)に搭載されて、車両50の前方を検知エリアRdとしている。車両50は、前方に向けてミリ波の電磁波を送信し、送信されたミリ波が物体に反射して生じた反射波を受信する。
【0011】
なお、2台以上のレーダ装置10が車両50に搭載されていてもよい。レーダ装置10は、車両50の前方中央以外、例えば、後方中央、右前側方、左前側方、右後側方、左後側方などに搭載されていてもよい。また、レーダ装置10は、車両50以外の移動体、例えば、船舶、航空機、電車などに搭載されていてもよい。
【0012】
レーダ装置10は、アレイアンテナ20と信号処理部30とを備える。
アレイアンテナ20は、信号処理部30から供給された送信信号に基づいて送信波を送信するとともに、受信した受信波に基づいて受信信号を信号処理部30へ供給する。図3
に示すように、アレイアンテナ20は、複数のアンテナ素子21を備える。複数のアンテナ素子21は、隣り合うアンテナ素子21の間隔がd1やd2などになるように配置されている。d2はd1と異なる値である。すなわち、複数のアンテナ素子21は、不当間隔に配置されている。レーダ装置10は、各アンテナ素子21での受信信号の位相差から物標の方位を検出する、いわゆる位相モノパルス方式のレーダ装置である。
【0013】
信号処理部30は、アレイアンテナ20に送信信号を供給するとともに、アレイアンテナ20から受信信号を受け取り、受信信号を処理して、車両50の周囲の物標を認識する。そして、信号処理部30は、物標の認識結果に基づいて、警戒が必要な物標に対する警報を出力させる。
【0014】
信号処理部30は、CPUを含むマイクロコンピュータを備え、メモリに記憶されているプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。具体的には、信号処理部30は、方位検出部31、距離検出部32、物標追跡部33、判定部39、及び警報制御部40の機能を備える。物標追跡部33は、実線と破線で示すように、検出回数算出部34、及び評価値算出部38の機能を備える。
【0015】
方位検出部31、距離検出部32、物標追跡部33、及び判定部39は、受信信号に基づいて、物標の観測値を検出し、物標を追跡して、物標がグレーティングゴーストか否か判定する。警報制御部40は、追跡中の物標のうち所定の条件を満たす物標に対する警報を図示しないスピーカ等から出力させる。所定の条件は、物標が移動物であることなどである。また、警報制御部40は、グレーティングゴーストであると判定された物標に対する警報の出力を抑制する。方位検出部31、距離検出部32、物標追跡部33、及び判定部39の詳細は後述する。
【0016】
<1-2.グレーティング判定処理>
レーダ装置10は、各アンテナ素子21が受信する受信信号の位相差から物標の観測方位を検出する。この場合、位相差ΔφとΔφ±360°×n、nは自然数、を識別することができないことに基づく、位相の折り返しが生じる。そのため、所定値以上の方位角の領域である広角領域では、位相折返しに起因するいわゆるグレーティングゴーストの影響により、実際には物標が存在していない方位に物標が検出されることがある。方位角は、レーダ装置10の光軸を0°とした車両50の左右方向の角度である。
【0017】
ここで、図4に示すように、アレイアンテナ20の複数のアンテナ素子21は、メインローブの電力値がグレーティングローブの電力値よりも大きくなるように、不等間隔で配置されている。複数のアンテナ素子21の配置の詳細は、特許文献1を参照されたい。
【0018】
しかしながら、多数の物体が存在する実際の道路環境においては、ノイズの影響があるため、必ずしもメインローブの電力値がグレーティングローブの電力値よりも大きくなるとは限らない。そのため、単純に電力値を比較しても、安定したグレーティング判定ができないことがある。
【0019】
安定したグレーティング判定ができないと、グレーティングゴーストを実体として認識する可能性がある。以下に説明する第1シーンと第2シーンでは、グレーティングゴーストを移動物として認識する可能性がある。
【0020】
図5は、第1シーンの状況を示し、図6は、第1シーンにおける認識結果を示す。第1シーンは、車両50の進行方向を横切るように左方向から物標Ta1が車両50に近づいている状況である。物標Ta1は、車両50の周辺車両である。
【0021】
第1シーンでは、物標Ta1から到来した受信信号の位相折り返しに起因して、車両50の進行方向の右側にグレーティングゴーストGaが生じる。グレーティングゴーストGaは、物標Taが車両50の左側から車両50aへ近づくのに応じて、車両50の右側から車両50aへ近づく。そのため、グレーティング判定を誤ると、車両50の進行方向を横切るように右方向から車両50に近づく物標Ta2が検出される。
【0022】
図7は、第2シーンの状況を示し、図8は、第2シーンにおける認識結果を示す。第2シーンは、車両50の左側に、複数の静止物Tb11,Tb12,Tb13,Tb14が存在する状況である。静止物Tb11,Tb12,Tb13,Tb14は、例えば路側壁などである。車両50が静止物Tb11に近づき、静止物Tb11が折り返しの可能性がある位置になると、車両50に対して所定の位置Pに、静止物Tb11に基づくグレーティングゴーストGbが生じる。車両50が走行を続け、静止物Tb11が折り返しの可能性がある位置から外れると、静止物Tb12が折り返しの可能性がある位置になり、車両50に対して所定の位置Pに、静止物Tb12に基づくグレーティングゴーストGbが生じる。
【0023】
さらに、車両50が走行を続けると、車両50に対して所定の位置Pに、静止物Tb13に基づくグレーティングゴーストGbが生じ、続いて、静止物Tb4に基づくグレーティングゴーストGbが生じる。したがって、車両50が静止物Tb11,Tb12,Tb13,Tb14の右側を走行すると、車両50に対して所定の位置PにグレーティングゴーストGbが発生し続ける。そのため、グレーティング判定を誤ると、車両50と同じ方向に同じ速度で移動する物標Tb2が検出される。
【0024】
このように、グレーティングゴーストを誤って判定すると、存在しない物標に対して警報が出力される可能性がある。そこで、より適切にグレーティングゴーストの誤判定を抑制するため、以下に説明する判定処理を実行する。
【0025】
本実施形態に係るグレーティング判定処理を、図9のフローチャートを参照して説明する。信号処理部30は、本処理を繰り返し実行する。
まず、S10では、方位検出部31及び距離検出部32が、物標ごとに、物標の観測値を検出する。物標は、方位検出部31及び距離検出部32が、初めてその物標の観測値を検出した処理サイクルにおいて生成される。生成される物標には、実体に対応する物標と、グレーティングゴーストに対応する物標が含まれ得る。
【0026】
さらに、距離検出部32が、複数のアンテナ素子21により受信された複数の受信信号から複数の距離スペクトラムを算出し、複数の距離スペクトラムのピークから物標の観測距離を検出する。さらに、方位検出部31が、複数の距離スペクトラムの各々のピークから方位スペクトラムを算出し、算出した方位スペクトラムのピークから物標の観測方位を検出する。具体的には、方位検出部31は、方位スペクトラムにおいて、折り返しの位置関係になっている複数の位置にピークが存在する場合に、複数の位置のピークのうち最も電力値が高いピークから観測方位を検出する。
【0027】
続いて、S20では、物標追跡部33が、未処理の物標が存在するか否か判定する。具体的には、物標追跡部33は、現在の処理サイクルにおいて存在する追跡中の物標のうち、以降のS30~S80の処理が未実行の物標が存在するか否か判定する。S20において、未処理の物標が存在すると判定された場合は、未処理の物標のうちの1つの物標を選択してS30の処理へ進み、選択した物標について、S30~S80の処理を実行する。
【0028】
S30では、物標追跡部33は、関連付け処理を実行する。関連付け処理は、過去の処理サイクルの物標の情報と、今回の処理サイクルの物標の観測値とを関連付ける処理であ
る。具体的には、物標追跡部33は、物標の過去の位置から予測される現在の位置である予測値を算出する。過去の位置は、前回の処理サイクルにおいて算出された推定値である。予測値及び推定値は、方位及び距離、あるいは、X座標値及びY座標値を要素として有する。物標追跡部33は、予測値が示す現在の位置が、今回の処理サイクルの観測値が示す位置と近い場合に、予測値を観測値に関連付ける。物標追跡部33は、各処理サイクルにおいて関連付け処理を実行して、観測方位及び観測距離の時系列から物標を追跡する。
【0029】
続いて、S40では、物標追跡部33は、算出した予測値と関連付けられた観測値が存在するか否か判定する。過去の処理サイクルにおいて、実体を示す物標と、実体の折り返し位置に生じるグレーティングゴーストを示す物標とが生成されている場合、今回の処理サイクルでは、実体を示す物標とグレーティングゴーストを示す物標のうちの一つの物標の観測値しか検出されない。S40において、観測値が存在すると判定された場合は、S45の処理へ進み、観測値が存在しないと判定された場合は、S55の処理へ進む。
【0030】
S45では、物標追跡部33は、フィルタ処理を実行する。具体的には、物標追跡部33は、S30において関連づけられた予測値及び観測値に、カルマンフィルタ等のフィルタを用いたフィルタ処理を実行して、今回の処理サイクルの推定値を算出する。
【0031】
続いて、S50では、検出回数算出部34が、物標の検出回数に「1」を加算して、S60の処理へ進む。ここで、上述した第1シーンでは、実体を示す物標の検出回数は、グレーティングゴーストを示す物標の検出回数よりも多くなる。一方、上述した第2シーンでは、車両50の走行に応じて、異なる実体を示す物標が検出されるのに対して、一つのグレーティングゴーストを示す物標が検出され続ける。そのため、実体を示す物標の検出回数が、グレーティングゴーストを示す物標の検出回数よりも必ずしも多くならず、双方の検出回数が同程度になることもある。
【0032】
一方、S55では、物標追跡部33は、外挿処理を実行して、S60の処理へ進む。具体的には、物標追跡部33は、S30において算出した予測値を、今回の処理サイクルの推定とする。
【0033】
続いて、S60において、検出回数算出部34が、物標の方位の絶対値が閾値以上であるか否か判定する。この方位は、今回の処理サイクルの観測値、予測値、及び推定値のいずれかが示す方位である。予測値及び推定値が、X軸座標値及びY座標値を要素とする場合は、X座標値及びY座標値から算出される方位である。
【0034】
位相の折り返しに起因するグレーティングゴーストは、観測方位が閾値以上の場合に発生し得る。そこで、ここでは、グレーティングゴーストが発生し得る観測方位であるか否か判定する。S60において、観測方位の絶対値が閾値以上であると判定した場合は、すなわち、グレーティングゴーストが発生し得ると判定した場合は、S70の処理へ進む。一方、S60において、観測方位の絶対値が閾値未満であると判定した場合は、すなわち、グレーティングゴーストが発生し得ないと判定した場合は、S20の処理へ戻る。
【0035】
S70では、検出回数算出部34が、対象物標を選択する。具体的には、検出回数算出部34は、S20で選択した物標を基準物標とする。さらに、検出回数算出部34は、追跡中の物標のうち基準物標の折り返し位置に存在する物標を対象物標として選択する。実体を示す物標が基準物標になることもあれば、グレーティングゴーストを示す物標が基準物標になることもある。しかしながら、上述した第1シーン及び第2シーンでは、グレーティングゴーストを示す物標が対象物標として選択される回数は、実体を示す物標が対象物標として選択される回数よりも多くなる。特に、第2シーンでは、車両50の走行に応じて、異なる実体を示す物標が検出されるのに対して、一つのグレーティングゴーストを
示す物標が検出され続ける。そのため、第2シーンでは、グレーティングゴーストを示す物標が対象物標として選択される回数は、実体を示す物標が対象物標として選択される回数よりも著しく多くなる。
【0036】
続いて、S80では、評価値算出部38が、S70において選択された対象物標の評価値に予め設定されている加算値を加算する。評価値及び加算値は正の値である。そして、S80の処理の実行後、S20の処理へ戻り、追跡中の物標のうちの次の物標について、S20~S80の処理を実行する。
【0037】
S20において、未処理の物標が存在しないと判定された場合はS90の処理へ進む。S90では、判定部39が、グレーティングゴーストの判定が未実行の物標が存在するか否か判定する。具体的には、判定部39は、現在の処理サイクルにおいて存在する追跡中の物標のうち、以降のS100~S150の処理が未実行の物標が存在するか否か判定する。S90において、未実行の物標が存在すると判定された場合は、S100の処理へ進み、物標ごとに、S100~S150の処理を実行する。一方、S90において、未実行の物標が存在しないと判定された場合は、本処理を終了する。
【0038】
S100では、判定部39は、物標がグレーティングゴーストである可能性の高さを表す判定値を算出する。具体的には、判定部39は、S80において算出された物標の評価値を、S50において算出された検出回数で除算して、判定値を算出する。
【0039】
上述したように、第1シーンでは、グレーティングゴーストを示す物標の評価値は、実体を示す物標の評価値よりも大きくなり得り、グレーティングゴーストを示す物標の検出回数は、実体を示す物標の検出回数よりも小さくなり得る。また、第2シーンでは、グレーティングゴーストを示す物標の評価値は、実体を示す物標の評価値よりも著しく大きくなり得り、グレーティングゴーストを示す物標の検出回数は、実体を示す物標の検出回数と同程度になり得る。したがって、第1シーン及び第2シーンの双方のシーンにおいて、グレーティングゴーストを示す物標の判定値は、実体を示す物標の判定値よりも十分に大きくなる。
【0040】
続いて、S110では、判定部39が、S100において算出された判定値が、ゴースト閾値以上か否か判定する。ゴースト閾値は、物標がグレーティングゴーストを示す物標か否か判定するための予め設定された値である。S110において、判定値がゴースト閾値以上であると判定された場合は、S120において、判定部39が、物標がグレーティングゴーストを示す物標と判定して、S90の処理へ戻る。
【0041】
一方、S110において、判定値がゴースト閾値未満であると判定された場合は、S130の処理へ進む。S130では、判定部39が、S100において算出された判定値が、実体閾値以下か否か判定する。実体閾値は、物標が実体を示す物標か否か判定するための予め設定された値であり、ゴースト閾値よりも小さい値である。S130において、判定値が実体閾値以下であると判定された場合は、S140において、判定部39が、物標が実体を示す物標であると判定して、S90の処理へ戻る。
【0042】
一方、S130において、判定値が実体閾値よりも大きいと判定された場合は、S150の処理へ進む。S150では、判定部39が、前回の処理サイクルにおいて実行したグレーティング判定処理の判定結果を引き継ぐ。すなわち、判定部39は、判定値が実体閾値よりも大きく且つゴースト閾値未満である場合は、前回の処理サイクルにおいて物標がグレーティングゴーストを示す物標か実体を示す物標かを判定した結果を引き継ぐ。その後、S90の処理へ戻る。
【0043】
<1-3.シミュレーション結果>
図10に、第1シーンにおけるグレーティング判定のシミュレーション結果を示し、図11に、第2シーンにおけるグレーティング判定のシミュレーション結果を示す。
【0044】
第1シーンでは、ターゲットを示す物標の判定値は、処理サイクルが増加しても増加が抑制されているのに対して、グレーティングゴーストを示す物標の判定値は、処理サイクルの増加に伴い増加している。
【0045】
また、第2シーンでは、処理サイクルの増加に伴い、静止物Tb11→Tb12→Tb13の順に検出されているが、静止物のそれぞれを示す物標の判定値は増加が抑制されている。一方、グレーティングゴーストを示す物標の判定値は、処理サイクルの増加に伴い増加している。
【0046】
したがって、第1シーン及び第2シーンの双方において、処理サイクルの増加に伴い、ターゲットを示す物標の判定値とグレーティングゴーストを示す物標の判定値との差が増加している。よって、第1シーン及び第2シーンの双方において、判定値に基づいて、ターゲットを示す物標とグレーティングゴーストを示す物標とを適切に判別することができる。
【0047】
<1-4.効果>
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)受信信号の時系列で比較すると、実体を示す物標の検出頻度とグレーティングゴーストを示す物標の検出頻度とに差が生じる。したがって、検出回数に基づいてグレーティング判定を実行することにより、アンテナ設計の自由度の低下を抑制しつつ、安定したグレーティンゴーストの判定を実現することができる。
【0048】
(2)基準物標と基準物標の折り返し位置に存在する対象物標のうち、今回検出されていない対象物標の方が、グレーティングゴーストである可能性が高い。そこで、対象物標の評価値を増加させ、基準物標の評価値と対象物標の評価値との差を広げる。そして、検出回数と評価値とから判定値を算出することにより、判定値に基づいて、安定してグレーティングを判定することができる。
【0049】
(3)移動体の周囲に存在する複数の静止物に起因したグレーティングゴーストが時系列で連続して発生した場合、グレーティングゴーストの検出回数が実体の検出回数と近くなることがある。しかしながら、時系列で連続して発生するグレーティングゴーストの評価値は、実体の評価値と比べて高くなる。よって、検出回数と評価値との比を判定値とし、判定値とゴースト閾値とを比較することより、高精度にグレーティングゴーストを判定することができる。
【0050】
(4)判定値と実体閾値とを比較することにより、高精度に実体を判定することができる。また、ゴースト閾値と実体閾値とを異なる値に設定して、閾値にヒステリシスを持たせることにより、グレーティング判定のばたつきを抑制することができる。
【0051】
(5)今回の処理サイクルにおいて、判定値がゴースト閾値と実体閾値との間の値である場合には、前回の処理サイクルにおけるグレーティング判定の判定結果が引き継がれるため、グレーティング判定のばたつきを抑制することができる。
【0052】
(6)位相の折り返しに起因するグレーティングゴーストは、観測方位が所定値以上の場合に発生し得る。グレーティングゴーストが発生し得る観測方位の物標を基準物標として選択することにより、グレーティングゴーストが発生しない観測方位の物標に対するグ
レーティング判定の実行を抑制することができる。ひいては、不要な処理の実行を抑制することができる。
【0053】
(7)グレーティングゴーストであると判定された物標に対する警報の出力が抑制される。これにより、グレーティングゴーストに対する不要なアプリケーションの作動を抑制することができる。
【0054】
(第2実施形態)
<2-1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0055】
前述した第1実施形態では、検出回数と評価値とから判定値を算出していた。これに対し、第2実施形態では、第1シーンと第2シーンとを判別し、第1シーンでは検出回数から判定値を算出し、第2シーンでは受信信号の時系列の電力平均値から判定値を算出する点で、第1実施形態と相違する。具体的には、図2に鎖線で示すように、第2実施形態に係る信号処理部30は、評価値算出部38の代わりに、シーン判定部36と電力平均値算出部37とを備える。
【0056】
<2-2.グレーティング判定処理>
次に、第2実施形態の信号処理部30が実行するグレーティング判定処理について、図12A及び図12Bのフローチャートを参照して説明する。
【0057】
まず、S200~S260では、図9のS10~S70と同様の処理を実行する。
続いて、S270では、シーン判定部36が、S260において選択した対象物標のうち未処理の対象物標が存在するか否か判定する。具体的には、シーン判定部36は、S260において選択した対象物標のうち、以降のS280~S380の処理が未実行の物標が存在するか否か判定する。S270において、未処理の対象物標が存在すると判定された場合はS280の処理へ進み、対象物標ごとに、S280~S380の処理を実行する。一方、S270において、未処理の対象物標が存在しないと判定された場合はS210の処理へ戻る。
【0058】
S280では、シーン判定部36が、観測値の検出シーンが、第1シーンか第2シーンかを判定する。具体的には、シーン判定部36は、基準物標又は対象物標が静止物か否か判定する。シーン判定部36は、基準物標及び対象物標の双方が移動物である場合は第1シーンと判定し、基準物標又は対象物標が静止物である場合は第2シーンと判定する。また、シーン判定部36は、物標の速度が予め設定された速度閾値以上の場合に移動物であると判定し、物標の速度が速度閾値未満の場合に静止物であると判定する。
【0059】
S280において、基準物標又は対象物標が静止物であると判定された場合、すなわち、観測値の検出シーンが第2シーンであると判定された場合は、S290の処理へ進む。一方、S280において、基準物標及び対象物標の双方が移動物であると判定された場合、すなわち、観測値の検出シーンが第1シーンであると判定された場合は、S340の処理へ進む。
【0060】
S290では、電力平均値算出部37が、基準物標及び対象物標のそれぞれの受信信号の時系列の平均電力値を算出し、基準物標の平均電力値が対象物標の平均電力値よりも大きいか否か判定する。受信信号のそれぞれについてみると、実体を示す物標の電力値よりもグレーティングゴーストを示す物標の電力値が大きくなることが有り得る。しかしなが
ら、第2シーンでは、受信信号の時系列でみると、実体を示す物標の電力値がグレーティングゴーストを示す物標の電力値よりも大きくなる頻度が高くなる。したがって、実体を示す物標の平均電力値は、対象物標の平均電力値よりも大きくなる。
【0061】
S290において、基準物標の平均電力値が対象物標の平均電力値よりも大きいと判定された場合は、基準物標が実体を示す物標である可能性が比較的高く、対象物標がグレーティングゴーストを示す物標である可能性が比較的高い。よって、この場合、S300において、判定部39は、対象物標の判定値に予め設定されている加算値を加算して、判定値を算出する。また、S310において、判定部39は、対象物標の判定値から予め設定されている減算値を減算して、判定値を算出する。加算値及び減算値は正の値である。その後、S270の処理へ戻る。
【0062】
一方、S290において、基準物標の平均電力値が対象物標の平均電力値以下であると判定された場合は、基準物標がグレーティングゴーストを示す物標である可能性が比較的高く、対象物標が実体を示す物標である可能性が比較的高い。よって、この場合、S320において、判定部39は、対象物標の判定値から減算値を減算して判定値を算出し、S330において、判定部39は、基準物標の判定値に加算値を加算して判定値を算出する。その後、S270の処理へ戻る。
【0063】
また、S340では、判定部39が、基準物標の検出回数が対象物標の検出回数よりも多いか否か判定する。第1シーンでは、実体を示す物標の検出回数が、グレーティングゴーストを示す物標の検出回数よりも多くなる。
【0064】
S340において、基準物標の検出回数が対象物標の検出回数よりも多いと判定された場合は、基準物標が実体を示す物標である可能性が比較的高く、対象物標がグレーティングゴーストを示す物標である可能性が比較的高い。よって、この場合、S350において、判定部39は、対象物標の判定値に加算値を加算して判定値を算出し、S360において、判定部39は、対象物標の判定値から減算値を減算して判定値を算出する。その後、S270の処理へ戻る。
【0065】
一方、S340において、基準物標の検出回数が対象物標の検出回数以下であると判定された場合は、基準物標がグレーティングゴーストを示す物標である可能性が比較的高く、対象物標が実体を示す物標である可能性が比較的高い。よって、この場合、S370において、判定部39は、対象物標の判定値から減算値を減算して判定値を算出し、S380において、判定部39は、基準物標の判定値に加算値を加算して判定値を算出する。その後、S270の処理へ戻る。
【0066】
また、S210において、未処理の物標が存在しないと判定された場合はS390の処理へ進む。S390では、判定部39が、グレーティングゴーストの判定が未実行の物標が存在するか否か判定する。具体的には、判定部39は、現在の処理サイクルにおいて存在する追跡中の物標のうち、以降のS400~S440の処理が未実行の物標が存在するか否か判定する。S390において、未実行の物標が存在すると判定された場合は、S400の処理へ進み、物標ごとに、S400~S440の処理を実行する。一方、S390において、未実行の物標が存在しないと判定された場合は、本処理を終了する。
【0067】
S400~S440では、S110~S150と同様の処理を実行する。
<2-3.シミュレーション結果>
図13に、第1シーンにおけるグレーティング判定のシミュレーション結果を示し、図14に、第2シーンにおけるグレーティング判定のシミュレーション結果を示す。
【0068】
第1シーンでは、ターゲットを示す物標の判定値は、処理サイクルの増加に伴い減少して0以下の値になっているのに対して、グレーティングゴーストを示す物標の判定値は、処理サイクルの増加に伴い増加して正の値になっている。
【0069】
また、第2シーンでは、処理サイクルの増加に伴い、静止物Tb11→Tb12→Tb13の順に検出されている。静止物のそれぞれを示す物標の判定値は、処理サイクルの増加に伴い減少して0以下の値になっている。一方、グレーティングゴーストを示す物標の判定値は、処理サイクルの増加に伴い増加して正の値になっている。
【0070】
したがって、第1シーン及び第2シーンの双方において、処理サイクルの増加に伴い、ターゲットを示す物標の判定値とグレーティングゴーストを示す物標の判定値との差が増加している。よって、第1シーン及び第2シーンの双方において、判定値に基づいて、ターゲットを示す物標とグレーティングゴーストを示す物標とを適切に判別することができる。
【0071】
<2-4.効果>
以上説明した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)、(4)~(7)に加え、以下の効果が得られる。
【0072】
(8)基準物標と基準物標の折り返し位置に存在する対象物標のうち、検出回数が少ない方がグレーティングゴーストである可能性が高い。そこで、基準物標と対象物標とのうち検出回数が少ない方の判定値を増加させ、検出回数が多い方の判定値を減少させ、実体である可能性が高い物標の評価値と、グレーティングゴーストである可能性が高い物標の評価値との差を広げる。これにより、判定値に基づいて、安定してグレーティングを判定することができる。
【0073】
(9)基準物標の速度及び対象物標の速度の双方が速度閾値以上の場合には、基準物標及び対象物標の双方が移動物である第1のシーンと判定することができる。一方、基準物標の速度及び対象物標の速度のうちの少なくとも一方が速度閾値未満の場合には、基準物標及び対象物標の少なくとも一方が静止物である第2のシーンと判定することができる。
【0074】
(10)第1のシーンでは、基準物標及び対象物標のいずれも静止物ではないため、検出回数が少ないほどグレーティングゴーストである可能性が高い。よって、検出回数に基づいて判定値を算出することにより、安定してグレーティングゴーストを判定することができる。一方、第2のシーンでは、基準物標及び対象物標のいずれかが静止物であるため、グレーティングゴーストの検出回数が実体の検出回数に近づくことがある。よって、第2のシーンでは、基準物標及び対象物標の受信信号の時系列の電力平均値に基づいて判定値を算出することにより、グレーティング判定の精度を向上させることができる。
【0075】
(11)基準物標と対象物標のうち、受信信号の時系列の電力平均値が小さい方がグレーティングゴーストである可能性が高い。そこで、第2のシーンでは、基準物標と対象物標のうち電力平均値が小さい方の判定値を増加させて、電力平均値が大きい方の判定値を減少させることによって、実体である可能性が高い物標の判定値と、グレーティングゴーストである可能性が高い物標の判定値との差を広げる。これにより、第2のシーンにおいて、判定値に基づいて、安定してグレーティングを判定することができる。
【0076】
(12)検出回数又は電力平均値に基づいて算出された判定値とゴースト閾値とを比較することにより、高精度にグレーティングゴーストを判定することができる。
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限
定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0077】
(a)第1実施形態では、評価値を検出回数で除算して判定値を算出し、判定値とゴースト閾値(以下、第1のゴースト閾値)及び実体閾値(以下、第1の実体閾値)と比較して、グレーティングを判定したが、これに限定されるものではない。例えば、検出回数を評価値で除算して判定値を算出し、判定値が第2のゴースト閾値以下である場合に、物標がグレーティングゴーストを示す物標であると判定してもよい。さらに、判定値が第2のゴースト閾値よりも大きい第2の実体閾値以上である場合に、物標が実体を示す物標であると判定してもよい。また、判定値が第2のゴースト閾値よりも大きく且つ第2の実体閾値よりも小さい場合に、前回の処理サイクルにおけるグレーティング判定の判定結果を引き継いでもよい。
【0078】
(b)第2実施形態では、第1シーンにおいて、基準物標及び対象物標のうち、検出回数が少ない方の判定値を増加させ、検出回数が多い方の判定値を減少させた。また、第2シーンにおいて、基準物標及び対象物標のうち、電力平均値が小さい方の判定値を増加させ、電力平均値が大きい方の判定値を減少させた。そして、判定値とゴースト閾値(以下、第3のゴースト閾値)及び実体閾値(以下、第3の実体閾値)とを比較して、グレーティングを判定したが、これに限定されるものではない。例えば、第1シーンにおいて、基準物標及び対象物標のうち、検出回数が少ない方の判定値を減少させ、検出回数が多い方の判定値を増加させ、第2シーンにおいて、基準物標及び対象物標のうち、電力平均値が小さい方の判定値を減少させ、電力平均値が大きい方の判定値を増加させてもよい。さらに、判定値が第4のゴースト閾値以下である場合に、物標がグレーティングゴーストを示す物標であると判定し、判定値が第4のゴースト閾値よりも大きい第4の実体閾値以上である場合に、物標が実体を示す物標であると判定してもよい。また、判定値が第4のゴースト閾値よりも大きく且つ第4の実体閾値よりも小さい場合に、前回の処理サイクルにおけるグレーティング判定の判定結果を引き継いでもよい。
【0079】
(c)本開示に記載のレーダ装置10の信号処理部30及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のレーダ装置10の信号処理部30及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のレーダ装置10の信号処理部30及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。レーダ装置10の信号処理部30に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0080】
(d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0081】
(e)上述したレーダ装置の他、当該レーダ装置を構成要素とするシステム、レーダ装置の信号処理部としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、グレーティング判定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0082】
10…レーダ装置、20…アレイアンテナ、21…アンテナ素子、31…方位検出部、32…距離検出部、33…物標追跡部、34…検出回数算出部、39…判定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14