(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】マイコプラズマ・ニューモニエの免疫測定方法及び免疫測定器具
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20231024BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231024BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231024BHJP
C07K 16/44 20060101ALI20231024BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
G01N33/569 F
G01N33/53 D
G01N33/543 521
C07K16/44
C12N15/31 ZNA
(21)【出願番号】P 2020069825
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小樋山 理沙
(72)【発明者】
【氏名】高野 智洋
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 恭
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/025968(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194797(WO,A1)
【文献】特開2013-072663(JP,A)
【文献】特開2017-009571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質に対して特異的に反応するモノクローナル抗体であって、PPQPGから成るアミノ酸配列を含むペプチドに特異的に反応するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片と、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質及びP30タンパク質との抗原抗体反応を利用した、マイコプラズマ・ニューモニエの免疫測定方法。
【請求項2】
前記ペプチドのアミノ酸配列がPPQPGFPPKR又はGMPPQPGFPPKRである、請求項1記載の免疫測定方法。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が標識または固相の少なくともいずれか一方に使用される、前記免疫測定方法がサンドイッチ法である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記免疫測定方法がイムノクロマトグラフィー法である請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体により認識される前記2種類以上の抗原が複合体を形成している請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法を行うための免疫測定器具であって、前記モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が標識または固相の少なくともいずれか一方に使用される、免疫測定器具。
【請求項7】
イムノクロマト試験片である請求項6記載の免疫測定器具。
【請求項8】
前記被検対象がマイコプラズマ・ニューモニエである請求項6又は7記載の免疫測定器具。
【請求項9】
マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質に対して特異的に反応するモノクローナル抗体であって、PPQPGから成るアミノ酸配列を含むペプチドに特異的に反応するモノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエの免疫測定方法及びそのための免疫測定器具並びにそれに用いられるモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、特定の抗原のみを認識するため、その特定の抗原の検出に広く用いられている。例えば、マイコプラズマ・ニューモニエを免疫測定する方法であって、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を認識するモノクローナル抗体を固相に固定化したサンドイッチ法による免疫測定方法が特許文献1に記載されている。
【0003】
ポリクロ―ナル抗体は様々な抗原や抗原決定域を認識する種々の抗体が混在したものであり、モノクローナル抗体はある特定の抗原の、ある特定領域のみを認識するという性質から、ポリクローナル抗体と比較して、一般的に特異性が高い。その一方、抗体と結合可能な抗原の種類とその総数において、ポリクロ―ナル抗体に対して、モノクローナル抗体で劣ることは容易に想定される。これは、モノクローナル抗体およびそれを用いた免疫測定方法及び免疫測定器具において、感度の低さをもたらす。
【0004】
本出願人は、この課題を解決すべく、先に、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質及びP30タンパク質の両方に特異的に結合するモノクローナル抗体を発明し、特許出願した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO 2015/025968
【文献】WO 2016/194797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されているモノクローナル抗体は、単一のモノクローナル抗体でマイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質及びP30タンパク質の両方に特異的に結合する、有用なものであるが、P1タンパク質及びP30タンパク質に対する親和性がより高いモノクローナル抗体があれば、免疫測定の感度をさらに向上させることができるので有利であることは言うまでもない。
【0007】
本発明の目的は、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質及びP30タンパク質の両方に特異的に結合するモノクローナル抗体であって、特許文献2に記載されているモノクローナル抗体よりもマイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質及びP30タンパク質に対する親和性が高い新規なモノクローナル抗体、並びに該モノクローナル抗体を用いたマイコプラズマ・ニューモニエの免疫測定方法及びそのための免疫測定器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質に対して特異的に反応するモノクローナル抗体であって、PPQPGから成るアミノ酸配列を含むペプチドに特異的に反応するモノクローナル抗体を用いることにより、特許文献2に記載のモノクローナル抗体を用いる免疫測定方法よりも高感度にマイコプラズマ・ニューモニエを測定可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質に対して特異的に反応するモノクローナル抗体であって、PPQPGから成るアミノ酸配列を含むペプチドに特異的に反応するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片と、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質及びP30タンパク質との抗原抗体反応を利用した、マイコプラズマ・ニューモニエの免疫測定方法。
(2) 前記ペプチドのアミノ酸配列がPPQPGFPPKR又はGMPPQPGFPPKRである、(1)記載の免疫測定方法。
(3) 前記モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が標識または固相の少なくともいずれか一方に使用される、前記免疫測定方法がサンドイッチ法である(1)記載の方法。
(4) 前記免疫測定方法がイムノクロマトグラフィー法である(2)記載の方法。
(5) 前記モノクローナル抗体により認識される前記2種類以上の抗原が複合体を形成している(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) (1)記載の方法を行うための免疫測定器具であって、前記モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が標識または固相の少なくともいずれか一方に使用される、免疫測定器具。
(7) イムノクロマト試験片である(6)記載の免疫測定器具。
(8) 前記被検対象がマイコプラズマ・ニューモニエである(6)又は(7)記載の免疫測定器具。
(9) マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質に対して特異的に反応するモノクローナル抗体であって、PPQPGから成るアミノ酸配列を含むペプチドに特異的に反応するモノクローナル抗体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法は、特許文献2に記載されている方法よりも検出感度が改善されている。また、本発明により、本発明の新規な検出方法に用いる免疫測定器具及びモノクローナル抗体が提供された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法により検出される被検対象は、マイコプラズマ・ニューモニエであり、抗原がP1タンパク質とP30タンパク質である。なお、被検対象を定量又は半定量する場合でも、定量や半定量は、必然的に「検出」を伴うので、本発明で言う「検出」に包含される。
【0013】
本発明の方法では、上記2種類の抗原と特異的に反応するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いて免疫測定を行う。ここで、「特異的に反応する」とは、抗原抗体反応する、という意味であり、タンパク質と該抗体が混じり合う液系において、該抗体が抗原のタンパク質成分と検出可能なレベルで抗原抗体反応を起こさないか、または何らかの結合反応や会合反応を起こしたとしても、該抗体の抗原との抗原抗体反応よりも明らかに弱い反応しか起こさないことを意味する。
【0014】
本発明のモノクローナル抗体を基に、抗原結合部位のみを分離させた抗原結合性断片も本発明の方法に使用することができる。すなわち、公知の方法により作製された、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体(scFv)などの特異的な抗原結合性を有する断片(抗原結合性断片)を用いる場合も本発明の範囲に含まれる。また、モノクローナル抗体のクラスはIgGに限定されず、IgMやIgYでもよい。
【0015】
本発明の方法に用いるモノクローナル抗体は、公知の免疫学的手法を用い、上記2種類の抗原を含む複合体や抽出物、又は2種類の抗原のうちの1つの抗原若しくはその部分ペプチドを被免疫動物に免疫し、被免疫動物の細胞を用いてハイブリドーマを作製することにより得ることができる。免疫に用いるペプチドの長さは特に限定されないが、好ましくは5アミノ酸以上、より好ましくは10アミノ酸以上のペプチドを用いて免疫原とすることができる。免疫原は培養液から得ることもできるが、任意の抗原をコードするDNAをプラスミドベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入して発現させることにより得ることもできる。免疫原とする任意の抗原またはその部分ペプチドは以下に例示するようなタンパク質と融合タンパク質として発現させ、精製の後、または未精製のまま免疫原として用いることもできる。融合タンパク質の作製には、当業者が「タンパク質発現・精製タグ」として一般的に用いる、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、チオレドキシン(TRX)、Nusタグ、Sタグ、HSVタグ、FRAGタグ、ポリヒスチジンタグなどが利用できる。これらとの融合タンパク質は、消化酵素を用いて任意の抗原あるいはその部分ペプチド部分とそれ以外のタグ部分とを切断し、分離精製した後に免疫原として用いることが好ましい。
【0016】
免疫した動物からのモノクローナル抗体の調製は、周知のケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))により容易に行うことができる。すなわち、免疫した動物から、脾細胞やリンパ球等の抗体産生細胞を回収し、これを常法によりマウスミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを作製し、得られたハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングし、クローニングされた各ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のうち、動物の免疫に用いた抗原と抗原抗体反応するモノクローナル抗体を選択する。
【0017】
本発明の方法に用いるモノクローナル抗体は、2種類の抗原を認識するものであるから、このようにして選択された、2種類の抗原のうちの一つを認識するモノクローナル抗体について、さらに、もう1つの抗原を認識するモノクローナル抗体をスクリーニングする。本発明の方法に用いるモノクローナル抗体は、このようにして得られる、2種類の抗原の両方を認識するモノクローナル抗体であって、PPQPG(配列番号1)から成るアミノ酸配列を含むペプチドに特異的に反応するモノクローナル抗体をスクリーニングすることにより得ることができる。スクリーニングに用いるペプチドとしては、PPQPGから成るアミノ酸配列を含むペプチドであり、例えば、アミノ酸配列がPPQPGFPPKR(配列番号2)から成るペプチド及びGMPPQPGFPPKR(配列番号3)から成るペプチドを用いることができる。
【0018】
腹水や培養上清からのモノクローナル抗体の精製は、公知のイムノグロブリン精製法を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析による分画法、PEG分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲルろ過法などが挙げられる。また免疫動物種とモノクローナル抗体のクラスに応じて、プロテインA、プロテインG、プロテインLのいずれかを結合させた担体を用いたアフィニティクロマトグラフィー法によっても精製することが可能である。
【0019】
本発明の免疫測定方法では、上記のようにして作製した2種類の抗原と特異的に反応するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片(以下、実施例の前までの記述において、文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、「抗体」は、「抗体又はその抗原結合性断片」を意味する)と検体中のマイコプラズマ・ニューモニエとの抗原抗体反応を利用した免疫測定により測定する。このための免疫測定法としては、競合法、凝集法、ウェスタンブロット法、免疫染色法、サンドイッチ法など、当業者にとって周知のいずれの方法も用いることができる。なお、本発明において、「測定」には、定量、半定量、検出のいずれもが包含される。
【0020】
免疫測定としては、サンドイッチ法が好ましい。サンドイッチ法自体は免疫測定の分野において周知であり、例えばイムノクロマトグラフィー法やELISA法により行うことができる。これらのサンドイッチ法自体はいずれも周知であり、本発明の方法は、上記した本発明の2種類以上の抗原を認識するモノクローナル抗体を用いること以外は、周知のサンドイッチ法により行うことができる。
【0021】
サンドイッチ法には、抗原を認識する2種類の抗体(固相に固定化される抗体と、標識抗体)が用いられるが、本発明の方法では、これらの2種類の抗体のうち、少なくともいずれか一方が、上記した2種類の抗原を認識するモノクローナル抗体である。後述するように、固相に固定化される抗体は、単位面積当りに固定化可能な抗体量が限られているので、感度向上という本発明の目的をより良く達成するためには、少なくとも固定化抗体に上記した2種類の抗原を認識するモノクローナル抗体を用いることが好ましい。なお、単一の分子又は単一の複合体の中に、該モノクローナル抗体により認識される抗原が少なくとも2種類存在する場合には、単一種類の該モノクローナル抗体を固相化抗体及び標識抗体として用いてサンドイッチ法を行うことも可能である。
【0022】
サンドイッチ法を検出原理とする免疫測定において、抗体が固定化される固相としては、抗体を公知技術により固定可能なものは全て用いることができ、例えば、毛細管作用を有する多孔性薄膜(メンブレン)、粒子状物質、試験管、樹脂平板など公知のものを任意に選択できる。また、抗体を標識する物質としては、酵素、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色粒子、コロイド粒子などを用いることができる。前述の種々の材料による免疫測定法の中でも、特に臨床検査の簡便性と迅速性の観点から、メンブレンを用いたラテラルフロー式の免疫測定法が好ましい。
【0023】
本発明では、2種類以上の抗原を認識するモノクローナル抗体を用いてラテラルフロー式に免疫測定を行うことができる免疫測定器具をも提供する。本発明が提供する免疫測定器具は、測定対象物(抗原)を捕捉する抗体(抗体1)が固定化された検出領域を有する支持体、移動可能な標識抗体(抗体2)を有する標識体領域、検体を滴加するサンプルパッド、展開された検体液を吸収する吸収帯、これら部材を1つに貼り合わせるためのバッキングシートから成り、抗体1および抗体2の少なくとも一方が本発明の2種類以上の抗原を認識するモノクローナル抗体である免疫測定器具である。
【0024】
なお、検出領域の数および標識体領域に含まれる標識抗体の種類は1に限られるものではなく、複数の測定対象物に対応する抗体を用いることで、2以上の抗原を同一の免疫測定器具にて検出することができる。
【0025】
本発明の方法により、免疫測定の感度が向上する原理は以下の通りであると考えられる。サンドイッチ法においては、固相に固定化された抗体が用いられるが、固相の単位面積当りに固定化可能な抗体の量は限られている。また、抗原抗体反応の時間も限られている。特に、イムノクロマトグラフィー法では、検体又は検体を用いて調製された試料(検体の希釈物など)が、上流から流れて来て検出領域を通過する間だけ抗原抗体反応が行われるので、この時間内に抗体に結合できなかった抗原は、そのまま検出領域よりも下流に流れて行き、検出されることはない。検体中の抗原量が少ない場合には、固相化抗体として、1種類の抗原を認識する1種類のモノクローナル抗体を用いる(通常のサンドイッチ法)よりも、2種類以上の抗原を認識するモノクローナル抗体を用いた場合の方が、抗体に結合する抗原の量が増えるので、感度が向上する。また、固相化抗体として、それぞれ1種類の抗原を認識するモノクローナル抗体を2種類組み合わせて用いた場合、固相化される各モノクローナル抗体の量は、それぞれ、全固相化抗体量の半分であるから、抗原抗体反応の時間が短い場合には、ある抗原が、この抗原と結合可能なモノクローナル抗体と所定の方向で衝突して結合する確率は、固相化抗体の全部がその抗原を認識するモノクローナル抗体である場合と比較すると1/2になる。一方、2種類以上の抗原を認識するモノクローナル抗体を用いる場合には、2種類以上の抗原のいずれでも、固相化抗体と所定の方向で衝突すれば抗体と結合するので、固相化抗体に捕捉される抗原量は、それぞれ1種類の抗原を認識するモノクローナル抗体を2種類組み合わせて用いる場合よりも多くなり、従って、免疫測定の感度が向上する。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0027】
<実施例1> 抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体の作製
1.マイコプラズマ・ニューモニエ抗原の調製
マイコプラズマ・ニューモニエを培養し、その培養液を60℃、30分間の熱処理で不活化したもの抗原として用いた。
【0028】
2.抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体の作製
上記1.のマイコプラズマ不活化抗原をBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3×63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37°Cインキュベーター中で維持し、マイコプラズマ・ニューモニエP1抗原を固相したプレートとマイコプラズマ・ニューモニエP30抗原を固相したプレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。
【0029】
その結果、表1に示されるとおり抗マイコプラズマ・ニューモニエP1抗体、抗マイコプラズマ・ニューモニエP30抗体及び抗マイコプラズマ・ニューモニエP1・P30抗体を産生するハイブリドーマ細胞株が複数得られた。
【0030】
【0031】
なお、このELISAに用いたP1、P30は、ゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーにより調製した。取得した細胞株をプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。得られた腹水から、プロテインAカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィー法によりIgGを精製し、精製抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体を複数得た。
【0032】
<実施例2>
[合成ペプチドを用いたELISA法によるエピトープの解析]
P30のアミノ酸リピート配列部位から以下に示すペプチドを作製した。
【0033】
(合成ペプチド)
ペプチド1-1:GFPPQPGMAP(配列番号4)
ペプチド1-2:QPGMAPRPGM(配列番号5)
ペプチド1-3:APRPGMPPHP(配列番号6)
ペプチド1-4:GMPPHPGMAP(配列番号7)
ペプチド1-5:HPGMAPRPGF(配列番号8)
ペプチド1-6:APRPGFPPQP(配列番号9)
ペプチド1-7:APRPGMQPPR(配列番号10)
ペプチド1-8:GMQPPRPGMP(配列番号11)
ペプチド1-9:PGMPPQPGFP(配列番号12)
ペプチド1-10:PPQPGFPPKR(配列番号2)
ペプチド1-11:PGMAPRPGMPPH(配列番号13)
ペプチド1-12:PGMAPRPGFPPQ(配列番号14)
ペプチド1-13:GMPPQPGFPPKR(配列番号3)
【0034】
実施例1で得られたモノクローナル抗体P1-30Aab及びP1-30Babについて、上記の合成ペプチドに対する反応を以下に示すELISA法により評価した。ELISA法による測定には、合成ペプチドを固相した96ウェルプレート(NUNC社)を用いた。 合成ペプチド(2.0μg/ml)を、上記のプレートに100μl/ウェルで添加し、1晩反応させた。その後、1×TBS Bufferで洗浄し、Blocking Buffer (1%BSA/TBS)を200μL/ウェルで添加した。Blocking Bufferを捨て、実施例1 2.を希釈した抗体を100μL/ウェル加え、30分間反応させた。その後、1x洗浄Bf 200μLで洗浄し、標識抗体液HRP標識Polyclonal Rabbit Anti-Mouse Immunoglobulins(P0260;Dako社)を100μL/ウェル添加し、2 w/v% BSAを含むTBS(pH 7.0))を50μl/ウェルで添加し、30分間反応させた。その後、Buffer IIで洗浄し、HRPの基質であるOPDを含む基質液を100μl/ウェルで添加して10分間静置し、2 N 硫酸を100μl/ウェルで添加して反応を停止させた。各ウェル中の反応液の450 -630nmの吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて測定した。
【0035】
その結果、いずれの抗体もP30のアミノ酸リピート配列部位に対する反応が見られた。
モノクローナル抗体P1-30Aab(本発明のモノクローナル抗体)はペプチド1-10及び1-13に強く反応した。また、ペプチド1-1及び1-9にも反応した。以上の結果より、モノクローナル抗体P1-30Aabは「PPQPG(Pro-Pro-Gln-Pro-Gly)」を含むペプチド配列に反応性を有することが確認された。一方で、モノクローナル抗体P1-30BabはP1に反応を示すが、P1のアミノ酸配列にはPPQPGは存在せず、代わりに似た配列としてPPHPが存在する。
【0036】
<実施例3> マイコプラズマ・ニューモニエを測定する免疫測定器具
1.抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体のニトロセルロースメンブレンへの固定化
実施例1で作製した抗体を1.0mg/mLになるように精製水で希釈した液及び抗マウスIgG抗体を準備し、PETフィルムで裏打ちされたニトロセルロースメンブレンのサンプルパッド側に抗体、吸収体側に抗マウスIgG抗体をそれぞれ線状に塗布した。その後、ニトロセルロースメンブレンを45°C、30分間乾燥させ、抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体固定化メンブレンを得た。本実施例において抗体固定化メンブレンと呼ぶ。
【0037】
2.抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体の着色ポリスチレン粒子への固定化
実施例1で作製した抗体を1.0mg/mLになるように精製水で希釈し、これに着色ポリスチレン粒子を0.1%になるように加え、攪拌後、カルボジイミドを1%になるように加え、さらに攪拌する。遠心操作により上清を除き、50mM Tris(pH9.0)、3%BSAに再浮遊し、抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体結合着色ポリスチレン粒子を得た。本実施例において、抗体固定化粒子と呼ぶ。
【0038】
3.マイコプラズマ・ニューモニエを測定する試験片の作製
1で作製した抗体固定化メンブレンと他部材(バッキングシート、吸収体、サンプルパッド)とを貼り合せて5mm幅に切断し、マイコプラズマ・ニューモニエ試験片とした。これらを本実施例において、試験片と呼ぶ。
【0039】
イムノクロマト感度
<実施例4> マイコプラズマ・ニューモニエを測定する免疫測定器具の感度比較
実施例1で得られた抗P1-P30モノクローナル抗体(P1-30Aab、P1-30Bab)及び抗P1モノクローナル抗体(P1ab)、抗P30モノクローナル抗体(P30ab)を表2の組み合わせで実施例3の手順によりP1P30、P30試験片及びP1×P1P30の3種類作製した。
【0040】
【0041】
各試験片に、任意に希釈したマイコプラズマ・ニューモニエ抗原と2で作製した抗体固定化粒子とを含む検体浮遊液を50μL滴加し、15分間静置した。抗マウスIgG抗体及び抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体の両方の塗布位置で発色を目視で確認できた場合に+と判定した。抗マウスIgG抗体の塗布位置のみで発色を目視で確認でき、抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体の塗布位置で発色を目視で確認できない場合は-と判定した。また、抗マウスIgG抗体の塗布位置で発色を目視で確認できない場合は無効と判定した。
【0042】
各試験片の結果を表3に示す。
【0043】
【0044】
表3に示される通り、本発明のモノクローナル抗体であるP1-30Babを用いた免疫測定器具は、他の抗体を用いた免疫測定器具と比較して優れた感度を示した。
【配列表】