IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 協同油脂株式会社の特許一覧

特許7372213摩擦中和除電式潤滑機構を有する正電位に帯電する車両
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】摩擦中和除電式潤滑機構を有する正電位に帯電する車両
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/06 20060101AFI20231024BHJP
   C10M 147/02 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 145/14 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 145/22 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 149/06 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 149/18 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 145/20 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 159/10 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 125/02 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 105/18 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 105/32 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 107/34 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 107/50 20060101ALI20231024BHJP
   F16C 17/00 20060101ALI20231024BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20231024BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 171/00 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 151/04 20060101ALI20231024BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20231024BHJP
   B60C 19/08 20060101ALN20231024BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20231024BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20231024BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20231024BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20231024BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20231024BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
B60R16/06 Z
C10M147/02
C10M145/14
C10M145/22
C10M149/06
C10M149/18
C10M145/20
C10M159/10
C10M125/02
C10M101/02
C10M107/02
C10M105/18
C10M105/32
C10M107/34
C10M107/50
F16C17/00
F16C19/18
F16C19/38
C10M171/00
C10M151/04
C10M169/04
B60C19/08
C10N20:06 Z
C10N50:10
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:32
C10N30:00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020102946
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021195015
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 淳一
(72)【発明者】
【氏名】兼原 洋治
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 健一朗
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】谷村 公
(72)【発明者】
【氏名】小森谷 智延
【審査官】佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-141167(JP,A)
【文献】特開2004-169862(JP,A)
【文献】特開2005-097532(JP,A)
【文献】特開2005-325309(JP,A)
【文献】国際公開第2010/010789(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/06
C10M 147/02
C10M 145/14
C10M 145/22
C10M 149/06
C10M 149/18
C10M 145/20
C10M 159/10
C10M 125/02
C10M 101/02
C10M 107/02
C10M 105/18
C10M 105/32
C10M 107/34
C10M 107/50
F16C 17/00
F16C 19/18
F16C 19/38
C10M 171/00
C10M 151/04
C10M 169/04
B60C 19/08
C10N 20/06
C10N 50/10
C10N 40/02
C10N 40/04
C10N 40/32
C10N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構を有し、走行することにより正の電位に帯電する車両において、
前記摩擦機構の部材の少なくとも一方を金属材料で形成し、
前記摩擦機構の部材との極微小から動的な摩擦力により、前記摩擦力に応じた摩擦帯電列表において前記摩擦機構の部材の少なくとも一方の金属材料よりも負の電位を発生する樹脂からなる第一の添加剤微粒子を電気絶縁性の基油に均一に混合した潤滑剤が、前記摩擦機構の極微小から動的な部材の隙間に配置されており、
前記第一の添加剤微粒子が前記摩擦機構の部材と摩擦接触している間、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が開始され、
さらに摩擦接触した以降も前記負の電位に帯電した前記第一の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し素早く自由に移動循環する際、前記摩擦接触した箇所以外の前記摩擦機構の部材の表面の正電位にクーロン力により引き寄せられることによって、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が継続できることを特徴とし、
前記電気絶縁性の基油に、導電性の第二の添加剤微粒子が均一に混合され、
負の電位に帯電した前記第一の添加剤微粒子及び導電性の前記第二の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し、互いに素早く自由に移動循環する際、浮遊する前記第一の添加剤微粒子から前記第二の添加剤微粒子へ、帯電した負の電位を搬送するようになり、
負に帯電した導電性の前記第二の添加剤微粒子も前記摩擦機構の部材の隙間表面の正電位にクーロン力により引き寄せられ、前記摩擦機構の部材の正電位を素早く中和除電・低減でき、
前記電気絶縁性の基油が、パラフィン系鉱油であり、
前記第一の添加剤微粒子が、ポリテトラフルオロエチレンであり、
前記第二の添加剤微粒子が、カーボンブラックであり、
前記潤滑剤が、芳香族ジウレア化合物である増ちょう剤を含有するグリース組成物であり、
前記極微小から動的な摩擦機構は、金属製車軸転がり軸受であることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記第一の添加剤微粒子は、一次粒径が、0.05~1 μmの範囲である、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記第一の添加剤微粒子は、一次粒径が、0.1~0.5 μmの範囲である、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記第一の添加剤微粒子を、前記潤滑剤の総質量に対して、0.1~15質量%の範囲で均一に混合した、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両。
【請求項5】
前記第一の添加剤微粒子を、前記潤滑剤の総質量に対して、5~10質量%の範囲で均一に混合した、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記第二の添加剤微粒子は、一次粒径が、1~100 nmの範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の車両。
【請求項7】
前記第二の添加剤微粒子は、一次粒径が、5~50 nmの範囲である、請求項6に記載の車両。
【請求項8】
前記第二の添加剤微粒子を、前記潤滑剤の総質量に対して、0.1~15質量%の範囲で均一に混合した、請求項17のいずれか一項に記載の車両。
【請求項9】
前記第二の添加剤微粒子を、前記潤滑剤の総質量に対して、5~10質量%の範囲で均一に混合した、請求項8に記載の車両。
【請求項10】
前記第一の添加剤微粒子と前記第二の添加剤微粒子との質量割合を、前記潤滑剤の総質量に対して、それぞれ5~10質量%の同等比率になるように均一に混合した、請求項19のいずれか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦中和除電式潤滑機構を有する正電位に帯電する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、フッ素油、導電性物質および増稠剤からなる導電性グリースにおいて、導電性物質としてDBP吸油量が250ml/100g以下のカーボンブラック5~20重量%および増ちょう剤として平均一次粒子径が1.0μm以下の含フッ素樹脂粒子2~9重量%をそれぞれ配合してなる導電性グリースを記載する。
【0003】
特許文献2~9は、いずれも、正電位に帯電する車両の軸受機構において、特定部材の外表面に空気イオン化自己放電式除電器を配置し、電荷を空気中にコロナ放電させることにより、周囲の負の空気イオンを引き寄せることで、自己放電式除電器の周囲の部位の電荷を中和除電することを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5321587号公報
【文献】特許第6281501号公報
【文献】特許第6380211号公報
【文献】特許第6124020号公報
【文献】特許第6248962号公報
【文献】特許第6304147号公報
【文献】特許第6183383号公報
【文献】特許第6160603号公報
【文献】特許第6365316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の導電性グリースを、正電位に帯電する車両の摩擦機構に用いた場合においては、除電できる電位は車体の正電位に制限され、改善の余地があった。
【0006】
特許文献2~9に記載の空気イオン化自己放電式除電器は、いずれも、帯電電位が高い程、除電効果が大きい。しかしながら、除電できる電位はコロナ放電限界の電位に制限され、改善の余地があった。
【0007】
それ故、本発明は、正電位に帯電する車両の摩擦中和除電式潤滑機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、
少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構を有し、走行することにより正の電位に帯電する車両において、
前記摩擦機構の部材の少なくとも一方を金属材料で形成し、
前記摩擦機構の部材との極微小から動的な摩擦力により、前記摩擦力に応じた
摩擦帯電列表の負の電位を発生する樹脂から成る添加剤微粒子1(例えば、PTFE微粒子)を、
電気絶縁性の基油に均一に混合した潤滑剤を、
前記摩擦機構の極微小から動的な部材の隙間に配置することにより、
前記樹脂から成る添加剤微粒子1が前記摩擦機構の部材と摩擦接触している間、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が開始され、さらに摩擦接触した以降も
前記負の電位に帯電した樹脂から成る添加剤微粒子1が、
前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し素早く自由に移動循環する際、前記摩擦接触以外の
前記摩擦機構の部材の表面の正電位にクーロン力により引き寄せられ、
よって、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が継続できる事を特徴する車両の構成により、車両の正の電位を顕著に低下することを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(1) 少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構を有し、走行することにより正の電位に帯電する車両において、
前記摩擦機構の部材の少なくとも一方を金属材料で形成し、
前記摩擦機構の部材との極微小から動的な摩擦力により、前記摩擦力に応じた摩擦帯電列表において前記摩擦機構の部材の少なくとも一方の金属材料よりも負の電位を発生する樹脂からなる第一の添加剤微粒子を電気絶縁性の基油に均一に混合した潤滑剤が、前記摩擦機構の極微小から動的な部材の隙間に配置されており、
前記第一の添加剤微粒子が前記摩擦機構の部材と摩擦接触している間、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が開始され、
さらに摩擦接触した以降も前記負の電位に帯電した前記第一の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し素早く自由に移動循環する際、前記摩擦接触した箇所以外の前記摩擦機構の部材の表面の正電位にクーロン力により引き寄せられることによって、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が継続できることを特徴とする車両。
(2) 前記第一の添加剤微粒子は、一次粒径が、0.05~1 μmの範囲である、前記実施形態(1)に記載の車両。
(3) 前記第一の添加剤微粒子は、一次粒径が、0.1~0.5 μmの範囲である、前記実施形態(2)に記載の車両。
(4) 前記第一の添加剤微粒子を、前記潤滑剤の総質量に対して、0.1~15質量%の範囲で均一に混合した、前記実施形態(1)~(3)のいずれかに記載の車両。
(5) 前記第一の添加剤微粒子を、前記潤滑剤の総質量に対して、5~10質量%の範囲で均一に混合した、前記実施形態(4)に記載の車両。
(6) 前記第一の添加剤微粒子が、ポリテトラフルオロエチレン、塩化ビニル、アクリル、ポリエスエル、ポリフタルアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイト、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びゴムからなる群より選択される、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の車両。
(7) 前記第一の添加剤微粒子が、ポリテトラフルオロエチレンである、前記実施形態(6)に記載の車両。
(8) 前記電気絶縁性の基油に、導電性の第二の添加剤微粒子が均一に混合され、
負の電位に帯電した前記第一の添加剤微粒子及び導電性の前記第二の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し、互いに素早く自由に移動循環する際、浮遊する前記第一の添加剤微粒子から前記第二の添加剤微粒子へ、帯電した負の電位を搬送するようになり、
負に帯電した導電性の前記第二の添加剤微粒子も前記摩擦機構の部材の隙間表面の正電位にクーロン力により引き寄せられ、前記摩擦機構の部材の正電位を素早く中和除電・低減できることを特徴する前記実施形態(1)~(7)のいずれかに記載の車両。
(9) 前記第二の添加剤微粒子は、一次粒径が、1~100 nmの範囲である、前記実施形態(8)に記載の車両。
(10) 前記第二の添加剤微粒子は、一次粒径が、5~50 nmの範囲である、前記実施形態(8)又は(9)に記載の車両。
(11) 前記第二の添加剤微粒子を、前記潤滑剤の総質量に対して、0.1~15質量%の範囲で均一に混合した、前記実施形態(8)~(10)のいずれかに記載の車両。
(12) 前記第二の添加剤微粒子を、前記潤滑剤の総質量に対して、5~10質量%の範囲で均一に混合した、前記実施形態(8)~(11)のいずれかに記載の車両。
(13) 前記第二の添加剤微粒子が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、グラフェン、及び黒鉛からなる群より選択される、前記実施形態(8)~(12)のいずれかに記載の車両。
(14) 前記第二の添加剤微粒子が、カーボンブラックである、前記実施形態(13)に記載の車両。
(15) 前記第一の添加剤微粒子と前記第二の添加剤微粒子との質量割合を、前記潤滑剤の総質量に対して、それぞれ5~10質量%の同等比率になるように均一に混合した、前記実施形態(8)~(14)のいずれかに記載の車両。
(16) 前記電気絶縁性の基油に、固体含有量(質量%)の合計が15~20質量%となるように、増ちょう剤の固体含有量(質量%)を調合し、粘度指数を合わせたグリース潤滑剤とし、前記増ちょう剤は石鹸系材料及び非石鹸系材料からなる群より選択される、前記実施形態(1)~(15)のいずれかに記載の車両。
(17) 前記電気絶縁性の基油は、パラフィン系鉱油及びナフテン系鉱油からなる群より選択される、前記実施形態(1)~(16)のいずれかに記載の車両。
(18) 前記電気絶縁性の基油は、パラフィン系鉱油である、前記実施形態(17)に記載の車両。
(19) 前記電気絶縁性の基油は、1-デセンを出発原料とするポリα-オレフィン油及びα-オレフィンとエチレンとのコオリゴマー油を含む炭化水素系合成油、フェニルエーテル系合成油、エステル系合成油、ポリグリコール系合成油、シリコーン油、並びに炭素及び水素原子のみからなる炭化水素系合成油からなる群より選択される、前記実施形態(1)~(18)のいずれかに記載の車両。
(20) 前記摩擦機構の部材の他の一方を摩擦帯電列表の正の電位を発生する材料とし、前記第一の添加剤微粒子に発生する負の電位を高め、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電・低減効果を高めるように構成した、前記実施形態(1)~(19)のいずれかに記載の車両。
(21) 前記摩擦機構の部材の他の一方が、レーヨン、ナイロン、ポリフタルアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイト、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される材料によって形成されている、前記実施形態(20)に記載の車両。
(22) 前記極微小から動的な摩擦機構は、転動輪と転がり摩擦するベアリングである、前記実施形態(1)~(21)のいずれかに記載の車両。
(23) 前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに摺動摩擦する軸受である、前記実施形態(1)~(21)のいずれかに記載の車両。
(24) 前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに回転摩擦するギヤである、前記実施形態(1)~(21)のいずれかに記載の車両。
(25) 前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに回転摩擦するウオームギヤである、前記実施形態(1)~(21)のいずれかに記載の車両。
(26) 前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに回転摩擦するベルトである、前記実施形態(1)~(21)のいずれかに記載の車両。
(27) 前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに摺動摩擦するピストン及びシリンダである、前記実施形態(1)~(21)のいずれかに記載の車両。
(28) 前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに摺動摩擦するスライドレールである、前記実施形態(1)~(21)のいずれかに記載の車両。
(29) 前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに摺動摩擦するスリーブ及びスプラインである、前記実施形態(1)~(21)のいずれかに記載の車両。
(30) 前記摩擦機構の潤滑剤が配置された部材近傍の外表面に、前記摩擦機構の正の電位により周囲の空気をイオン化し、前記摩擦機構の正の電位を中和除電する空気イオン化自己放電式除電器を配置し、前記摩擦機構の潤滑剤が配置された部材の電位を低下させ、前記潤滑剤の中和除電との相乗効果により、負の電位まで除電可能とした、前記実施形態(1)~(29)のいずれかに記載の車両。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、走行時の車両の正の電位を顕著に低下させることができる摩擦中和除電式潤滑機構を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一態様の車両において、潤滑剤に含まれる第一の添加剤微粒子と少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構との間の中和除電を説明する概念図である。
図2図2は、本発明の一態様の車両における中和除電の効果を説明する概念図である。
図3図3は、本発明の一態様の車両において、潤滑剤に含まれる第一の添加剤微粒子と少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構との間の中和除電の一形態を説明する概念図である。
図4図4は、本発明の一態様の車両において、潤滑剤に含まれる第一の添加剤微粒子と少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構との間の中和除電の別の一形態を説明する概念図である。
図5図5は、本発明の一態様の車両の一実施形態を示す概略図である。
図6図6は、極微小から動的な摩擦機構が車軸転がり軸受用ハブベアリングである本発明の一態様の車両の一実施形態において、車軸転がり軸受用ハブベアリングを概略的に示す拡大部分断面図である。
図7図7は、本発明の一態様の車両の別の一実施形態を示す概略図である。
図8図8は、極微小から動的な摩擦機構がステアリングシャフトのクロスジョイントである本発明の一態様の車両の一実施形態において、ステアリングシャフトのクロスジョイントを概略的に示す拡大部分断面図である。
図9図9は、本発明の一態様の車両の別の一実施形態を示す概略図である。
図10図10は、極微小から動的な摩擦機構がブレーキペダルである本発明の一態様の車両の一実施形態において、ブレーキペダルを概略的に示す拡大部分断面図である。
図11図11は、極微小から動的な摩擦機構が電動式パワーステアリングギヤである本発明の一態様の車両の一実施形態において、電動式パワーステアリングギヤを概略的に示す拡大部分断面図である。
図12図12は、極微小から動的な摩擦機構がステアリングシャフトのスリーブ及びスプラインである本発明の一態様の車両の一実施形態において、ステアリングシャフトのスリーブ及びスプラインを概略的に示す拡大部分断面図である。
図13図13は、本発明の一態様の車両の別の一実施形態において、ブレーキのマスター・レリーズのシリンダ及びピストンを概略的に示す拡大部分断面図である。
図14図14は、極微小から動的な摩擦機構がデファレンシャルギヤである本発明の一態様の車両の別の一実施形態を示す概略図である。
図15図15は、本発明の一態様の車両の別の一実施形態を示す概略図である。
図16図16は、極微小から動的な摩擦機構がCVT金属ベルトである本発明の一態様の車両の一実施形態において、CVT金属ベルトを収容するトランスミッションケースを概略的に示す拡大部分断面図である。
図17図17は、極微小から動的な摩擦機構がサンルーフのスライドレールである本発明の一態様の車両の別の一実施形態を示す概略図である。
図18図18は、極微小から動的な摩擦機構がシートのスライドレールである本発明の一態様の車両の別の一実施形態を示す概略図である。
図19図19は、本発明の一態様の車両において、第一の添加剤微粒子のみを含む潤滑剤を適用する実施形態と、第一の添加剤微粒子及び第二の添加剤微粒子を含む潤滑剤を適用する実施形態との間の除電効果を比較する概念図である。
図20図20は、本発明の一態様の車両において、空気イオン化自己放電式除電器のみを有する参考例と、第一の添加剤微粒子のみを含む潤滑剤を適用する実施形態と、第一の添加剤微粒子及び第二の添加剤微粒子を含む潤滑剤を適用する実施形態との間の除電効果を比較する概念図である。
図21図21は、操縦安定性の測定試験におけるレーンチェンジ時のステアリング操舵角を経時的に示すグラフである。
図22図22は、実施例1及び比較例1の試験車両において、60°/秒のステアリング操舵角における車両ヨー角加速度の値を示すグラフである。
図23図23は、実施例2及び比較例1の試験車両において、走行中のフェンダーライナーの電位の経時変化を示すグラフである。(a)は比較例1の試験車両の測定結果を、(b)は実施例2の試験車両の測定結果を、それぞれ示す。(a)及び(b)において、横軸は経過時間(秒)であり、縦軸は電位(kV)である。
図24図24は、実施例1、実施例3及び比較例1の潤滑剤において、摩擦機構の極微小から動的な部材の隙間に配置されていた除電グリース放電特性評価装置による放電速度の指標となる電圧降下時間(放電速度の逆数)を示すグラフである。
図25図25は、実施例において摩擦力に応じて金属材料よりも負の電位を発生する樹脂からなる第一の添加剤微粒子、及び実施例において摩擦力に応じて金属材料よりも正の電位を発生する樹脂を示す摩擦帯電列表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0013】
<1. 車両>
本発明者らは、少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構を有し、走行することにより正の電位に帯電する車両において、
前記摩擦機構の部材の少なくとも一方を金属材料で形成し、
前記摩擦機構の部材との極微小から動的な摩擦力により、前記摩擦力に応じた摩擦帯電列表において前記摩擦機構の部材の少なくとも一方の金属材料よりも負の電位を発生する樹脂からなる第一の添加剤微粒子(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子)を電気絶縁性の基油に均一に混合した潤滑剤を、前記摩擦機構の極微小から動的な部材の隙間に配置することにより、
前記樹脂からなる第一の添加剤微粒子が前記摩擦機構の部材と摩擦接触している間、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が開始され、
さらに摩擦接触した以降も前記負の電位に帯電した樹脂からなる第一の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し素早く自由に移動循環する際、前記摩擦接触した箇所以外の前記摩擦機構の部材の表面の正電位にクーロン力により引き寄せられ、
よって、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が継続できることを特徴する車両の構成により、車両の正の電位を顕著に低下することを見出した。
【0014】
本発明の別の一態様は、
前記電気絶縁性の基油に、導電性の第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)を均一に混合し、前記負の電位に帯電した第一の添加剤微粒子及び前記導電性の第二の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し、互いに素早く自由に移動循環する際、前記浮遊する第一の添加剤微粒子から前記第二の添加剤微粒子へ、帯電した負の電位を搬送するようになり、前記負に帯電した導電性の第二の添加剤微粒子も前記摩擦機構の部材の隙間表面の正電位にクーロン力により引き寄せられ、前記摩擦機構の部材の正電位を素早く中和除電できることを特徴する車両の構成により、車両の正の電位をさらに顕著に低下することを見出した。
【0015】
本発明のさらに別の一態様は、
前記摩擦機構の潤滑剤が配置された部材近傍の外表面に、前記摩擦機構の正の電位により周囲の空気をイオン化し、前記摩擦機構の正の電位を中和除電する空気イオン化自己放電式除電器を配置し、前記摩擦機構の潤滑剤が配置された部材の電位を低下させ、前記潤滑剤の中和除電との相乗効果することを特徴する車両の構成により、車両を負の電位まで除電可能とすることを見出した。
【0016】
本態様の車両において、潤滑剤に含まれる第一の添加剤微粒子と少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構との間の中和除電を説明する概念図を図1に、本態様の車両における中和除電の効果を説明する概念図を図2に、それぞれ示す。本発明の各態様において、前記のような作用効果を奏する理由は、以下のように説明することができる。なお、本発明の各態様は、以下の作用及び原理に限定されるものではない。車両の車体は、走行することにより、タイヤと路面との摩擦及び/又は外乱等に起因して、通常は、正に帯電している。他方、空気は、通常は正に帯電している。このため、車両が走行する際、車体の表面において、空気との間に静電的な反発力が生じ、車体の表面付近の空気流に対し、車両から遠ざかる方向に斥力が生じる。また、車両のタイヤも、通常は、路面との接触に起因して、正に帯電している。特に、近年、省エネルギータイヤへの要請の高まりにより、タイヤに使用されるシリカの含有量が増加している。このような高シリカ含有量のタイヤは、正に帯電する傾向が高い。前記のような帯電の結果、車両は、所望の空力性能及び/又は走行性能を得ることができず、結果として操縦安定性等が低下し得る。このような、走行することにより例えば車体が正の電位に帯電する車両の「少なくとも2部位からなる」極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)に、本態様の
前記摩擦機構の部材の少なくとも一方を金属材料で形成し、
前記摩擦機構の部材との極微小から動的な摩擦力により、前記摩擦力に応じた摩擦帯電列表において前記摩擦機構の部材の少なくとも一方の金属材料よりも負の電位を発生する樹脂からなる第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)を電気絶縁性の基油に均一に混合した潤滑剤を、前記摩擦機構の極微小から動的な部材の隙間に配置することにより、
前記樹脂からなる第一の添加剤微粒子が前記摩擦機構の部材と摩擦接触している間、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が開始され、
さらに摩擦接触した以降も前記負の電位に帯電した樹脂からなる第一の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し素早く自由に移動循環する際、前記摩擦接触した箇所以外の前記摩擦機構の部材の表面の正電位にクーロン力により引き寄せられ(図3及び4)、
よって、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が継続できることを特徴する車両
の構成を適用することにより、例えば、前記極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)を介して車体の表面及び/又はタイヤ等に帯電した正の電荷を除去して、車両本来の性能に近づいて、操縦安定性等を向上させることができる。
【0017】
本発明の各態様において、車両の操縦安定性は、「走る、曲がる、止まる」等の車両の基本的な運動性能の中で、主として操舵に関する運動性能の安定性を意味する。車両の操縦安定性は、例えば、車両の運転者が能動的にステアリング操舵をする際の該車両の追従性及び応答性、並びに、車両の運転者が能動的にステアリング操舵をしない際の車両のコース保持性、及び路面形状又は横風等の外的要因に対する収束性等に基づき定義することができる。本発明の各態様において、車両の操縦安定性のみに、限定するものではないが、例えば、本発明の一態様の前記電気絶縁性の基油に、導電性の第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)を均一に混合し、前記負の電位を発生した第一の添加剤微粒子及び前記第二の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し、互いに素早く自由に移動循環する際、前記浮遊する第一の添加剤微粒子から前記第二の添加剤微粒子へ、帯電した負の電位を搬送するようになり、前記負に帯電した第二の添加剤微粒子も前記摩擦機構の部材の隙間表面の正電位に引き寄せられ、前記摩擦機構の部材の正電位を素早く中和除電・低減できることを特徴する試験車両を準備し、該試験車両の車体の電位を定量的に測定することができる。前記方法の場合、例えば、本実施態様の有無で、該試験車両を手動運転クローズドループ走行し、フェンダーライナーのタイヤトレッド面と対向する同じ部位の表面電位を、非接触電位測定し、比較することができる。
【0018】
本発明の各態様において、車両は、4輪、2輪又はその他の数のゴムタイヤ車輪を有する車両であって、エンジン又はモーター等の原動機を備える車両を意味する。以下、本明細書において、前記定義に包含される手動運転車及び自動運転車を、単に「車両」と記載する。
【0019】
本態様が適用される車両において、空気イオン化自己放電式除電器を車体に配置する(例えば、バンパー、ホイールハウス又はアンダーカバー等にも貼付する)ことができる。空気イオン化自己放電式除電器は、限定するものではないが、例えば、外表面に放電突起を有した、アルミニウム箔粘着テープ、又はメタリック若しくはカーボン粒子塗料であることが好ましい。空気イオン化自己放電式除電器を本態様の車両に適用することにより、空気イオン化自己放電式除電器を介して車体の表面及び/又はタイヤ等に帯電した正の電荷を一次除去できるので、本態様の摩擦中和除電式潤滑機構により、負の電位までの二次除電が可能となり、該車両の操縦安定性等をさらに向上させることができる。
【0020】
本態様の車両において、前記極微小から動的な摩擦機構は、車軸転がり軸受のような該車両に搭載される種々の機構に適用することができる。本態様の車両において、車軸転がり軸受は、車両において、車軸を支持する転がり軸受であって、当該技術分野において、車輪支持用転がり軸受装置、車軸軸受、ハブユニット、ハブベアリング、ホイールハブベアリング又はホイールベアリング等と呼称される金属製部材を意味する。車軸転がり軸受は、通常は、自動車等の車輪を取り付けるためのハブ輪を、複列の転がり軸受を介して回転自在に支持する構造を有する。前記潤滑剤が適用される自動車等の金属製車軸転がり軸受は、例えば、複列アンギュラ玉軸受又は複列円錐ころ軸受のような当該技術分野において通常使用される各種の軸受であればよい。
【0021】
本態様の車両において、前記極微小から動的な摩擦機構は、車軸転がり軸受を含む該車両に搭載される種々の機構に適用することができる。例えば、前記極微小から動的な摩擦機構は、転動輪と転がり摩擦するベアリングであることが好ましく、車両の操縦安定性を向上させるための車軸転がり軸受用ハブベアリング、無段変速機(CVT)ジョイント又は各種電動モータベアリングであることがより好ましい。本実施形態の車両は、例えば、特許第6281501号公報に開示される車両に適用することができる。例えば、極微小から動的な摩擦機構が車軸転がり軸受用ハブベアリングである本態様の車両の一実施形態を図5に、該実施形態において、車軸転がり軸受用ハブベアリングを概略的に示す拡大部分断面図を図6に、それぞれ示す。図5に示すように、本実施形態の車両は、車輪1012と、車体1022と、軸受1016と、ハブ1058と、車軸1082と、ユニバーサルジョイント1086と、中間軸1088とを有する。車軸1082の内端は、ユニバーサルジョイント1086により中間軸1088の外端に連結されている。図6に示すように、軸受1016は、回転レース部材としてのインナレースと、静止レース部材としてのアウタレースと、インナレースとアウタレースとの間に介装された複数の転動体としてのボール1056とを有している。ハブ1058は、ナックルと共働して軸受1016を支持する回転支持部材を構成している。軸受1016の内部空間には、潤滑剤としてのグリース1066が充填され、ボール1056とインナレース及びアウタレースとの間の摩擦がグリース1066によって低減されるようになっている。軸受1016の両端には、樹脂製のシール部材が配置され、例えば圧入によりアウタレースに固定されている。よって、アウタレースとシール部材との間にて電荷の移動が可能である。ハブ1058のフランジ部の円筒状の表面には、短冊状をなす空気イオン化自己放電式除電器1110Aが周方向に延在するよう接着により固定されていることが好ましい。ナックルの車両横方向の外面及びブレーキバックプレートの車両横方向の内面には、短冊状をなす空気イオン化自己放電式除電器1110B及び1110Cが径方向に垂直に延在するよう接着により固定されていることが好ましい。さらに、車両横方向の内側のシール部材の外表面には、短冊状をなす空気イオン化自己放電式除電器1110Dが周方向に延在するよう接着により固定されていることが好ましい。
【0022】
本態様の車両の別の一実施形態において、前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに摺動摩擦する軸受であることが好ましく、ブレーキペダル若しくはクラッチペダル、ブレーキマスタ若しくはクラッチマスタ、又はショックアブソーバー、プロペラシャフト若しくはステアリングシャフトのクロスジョイントであることがより好ましい。本実施形態の車両は、例えば、特許第6124020号公報、特許第6281501号公報、特許第6304147号公報又は特許第6380211号公報に開示される車両に適用することができる。例えば、極微小から動的な摩擦機構がステアリングシャフトのクロスジョイントである本態様の車両の一実施形態を図7に、該実施形態において、ステアリングシャフトのクロスジョイントを概略的に示す拡大部分断面図を図8に、それぞれ示す。図7に示すように、本実施形態の車両2050は、左右の車輪と、サスペンション2010と、ショックアブソーバー2036と、ボールジョイント2044とを有する。サスペンション2010は、車輪支持部材(ナックル)及び複数のリンクを有する。サスペンション2010及び車輪支持部材(ナックル)は、ボールジョイント2044及び複数のリンクを介して連結されている。図8に示すように、ボールジョイント2044は、ボール部材2044Xとボール部材2044Xを枢動可能に支持するソケット2044Yとを含み、ソケット2044Yはリンク2016の外端と一体に形成されている。ボール部材2044Xのボール部とソケット2044Yとの間には樹脂製のシート部材2044Sが介装されており、ボール部とシート部材2044Sとの間の摺動部は潤滑剤であるグリース2044Gにて潤滑されている。ボール部材2044Xはステム部2044XSを有し、ステム部2044XSは車輪支持部材2012に設けられたスリーブ部に取り付けられている。ボールジョイント2044のソケット2044Yの円筒状の外表面には、空気イオン化自己放電式除電器2110Dが固定されていることが好ましい。
【0023】
例えば、極微小から動的な摩擦機構がブレーキペダル又はクラッチペダルである本態様の車両の一実施形態を図9に、該実施形態において、ブレーキペダル又はクラッチペダルを概略的に示す拡大部分断面図を図10に、それぞれ示す。図9に示すように、本実施形態の車両3012は、ステアリングホイール3014と、ステアリングホイール3014の回転変位を操舵アクチュエータへ伝達する変異伝達系と、ブレーキペダル(図示せず)とを有する。図10に示すように、ブレーキペダル3102は、ペダル3104とブラケット3106とを有している。ブラケット3106は、車体に固定されたベース部3106Aと、ベース部3106Aと一体に形成され車両の横方向へ隔置された一対の板状の支持部3106Bとを有している。ペダル3104及びブラケット3106は、導電性を有する金属にて形成されているが、これらの少なくとも一方が樹脂にて形成されてもよい。ペダル3104の上端部にはボス部3104Aが設けられており、ボス部3104Aには車両の横方向に沿って延在する枢軸3108が挿通されている。枢軸3108は両端にて一対の支持部3106Bにより支持されており、これによりペダル3104は枢軸3108の軸線3110の周りに枢動可能に支持されている。ボス部3104Aと枢軸3108との間には、ペダル3104が軸線3110の周りに円滑に枢動し得るよう、潤滑剤であるグリース3112が介装されている。ブレーキペダル3102には、空気イオン化自己放電式除電器3128Aが、枢軸3108に近接してペダル3104の一方の外表面に貼着により固定されていることが好ましい。
【0024】
本態様の車両の別の一実施形態において、前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに摺動摩擦するピストン及びシリンダであることが好ましく、ブレーキ又はクラッチのマスター・レリーズのシリンダ及びピストンであることがより好ましい。本実施形態の車両は、例えば、特許第6248962号公報に開示される車両に適用することができる。例えば、極微小から動的な摩擦機構がブレーキのマスター・レリーズのシリンダ及びピストンである本態様の車両の一実施形態において、ブレーキのマスター・レリーズのシリンダ及びピストンを概略的に示す拡大部分断面図を図13に示す。図13に示すように、本実施形態の車両は、車輪4012と、車輪4012と共に回転軸線の周りに回転する回転部材であるブレーキディスク4020と、摩擦部材であるブレーキパッド4022及び4024と、ブレーキディスク4020にブレーキパッド4022及び4024を押圧する押圧装置とを有している。スライドピン4040及びスライドピン孔4044の摺動部、即ちスライドピン4040の円筒状の表面及びスライドピン孔4044の壁面は、潤滑剤としてのグリース4050にて潤滑されている。ブレーキディスク4020の段差部の円筒状の外表面には、短冊状をなす自己放電式除電器4070Aが周方向に延在するよう接着により固定されていることが好ましい。ブレーキパッド4024の裏板の上面及び下面には、短冊状をなす空気イオン化自己放電式除電器4070Bが実質的に周方向に延在するよう接着により固定されていることが好ましい。キャリパ支持部材のスライドピン4040を受け入れる部位の外表面には、短冊状をなす空気イオン化自己放電式除電器4070Cが接着により固定されていることが好ましい。キャリパの各フランジ部には、短冊状をなす空気イオン化自己放電式除電器4070Dが実質的に径方向に延在するよう接着により固定されていることが好ましい。キャリパの径方向外側の表面及び径方向内側の表面には、それぞれ短冊状をなす空気イオン化自己放電式除電器4070E及び4070Fが径方向及び軸線に垂直に延在するよう接着により固定されていることが好ましい。さらに、キャリパの車両横方向外側の端面には、短冊状をなす空気イオン化自己放電式除電器4070Gが径方向及び軸線に垂直に延在するよう接着により固定されていることが好ましい。
【0025】
本態様の車両の別の一実施形態において、前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに回転摩擦するギヤであることが好ましく、デファレンシャルギヤ又は変速ギヤであることがより好ましい。例えば、極微小から動的な摩擦機構がデファレンシャルギヤである本態様の車両の一実施形態を示す概略図を図14に示す。図14に示すように、本実施形態の車両は、車軸5018と、デファレンシャルギアユニット5053とを有する。デファレンシャルギアユニット5053は、潤滑剤としてのグリースにより潤滑されている。デファレンシャルギアユニット5053の外表面には、空気イオン化自己放電式除電器5100が固定されていることが好ましい。
【0026】
本態様の車両の別の一実施形態において、前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに回転摩擦するウオームギヤであることが好ましく、電動式パワーステアリング(PS)ギヤ又はステアリングギアであることがより好ましい。本実施形態の車両は、例えば、特許第6124020号公報に開示される車両に適用することができる。極微小から動的な摩擦機構が電動式PSギヤである本態様の車両の一実施形態を図9に、該実施形態において、電動式PSギヤを概略的に示す拡大部分断面図を図11に、それぞれ示す。図9に示すように、本実施形態の車両3012は、ステアリングホイール3014と、ステアリングホイール3014の回転変位を操舵アクチュエータへ伝達する変異伝達系と、電動式PSギヤ装置(図示せず)とを有する。図11に示すように、電動式パワーステアリング装置3082は、ウオームギヤ3084を回転軸線3086の周りに回転駆動する電動機3088を有している。回転軸線3086は、アッパステアリングシャフト3020の回転軸線3036から隔置されて回転軸線3036に垂直に延在している。ウオームギヤ3084はアッパステアリングシャフト3020に一体的に設けられたウオームホイール3090と噛合している。ウオームギヤ3084及びウオームホイール3090は、ハウジング3092内に収容されている。ハウジング3092内にはウオームギヤ3084とウオームホイール3090との間の摩擦を軽減する潤滑剤としてのグリース3094が充填されている。電動式パワーステアリング装置3082のハウジング3092の外表面には、空気イオン化自己放電式除電器3100が固定されていることが好ましい。
【0027】
本態様の車両の別の一実施形態において、前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに回転摩擦するベルトであることが好ましく、CVT金属ベルトであることがより好ましい。例えば、極微小から動的な摩擦機構がCVT金属ベルトである本態様の車両の一実施形態を示す概略図を図15に、該実施形態において、CVTを概略的に示す拡大部分断面図を図16に、それぞれ示す。図15に示すように、本実施形態の車両6010は、トランスアクスル6014と、自動変速機6016と、自動変速機6016を収容するトランスミッションケース6020とを有する。自動変速機6016は、ベルト式無段変速機6034を有し、ベルト式無段変速機6034は、有効径が可変のプライマリプーリ6070及びセカンダリプーリ6074と、プライマリプーリ6070及びセカンダリプーリ6074に巻きかけられたCVTベルト6076と、油圧アクチュエータ6070a及び6074aとを有する。CVTベルト6076は、潤滑剤としてのグリースにより潤滑されている。図16に示すように、トランスミッションケース6020の外表面には、空気イオン化自己放電式除電器6100が固定されていることが好ましい。
【0028】
本態様の車両の別の一実施形態において、前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに摺動摩擦するスライドレールであることが好ましく、シートのスライドレール、サンルーフのスライドレール又はブレーキパット保持部であることがより好ましい。例えば、極微小から動的な摩擦機構がサンルーフのスライドレールである本態様の車両の一実施形態を示す概略図を図17に示す。図17に示すように、本実施形態の車両は、スライドパネル7003と、左右のルーフサイドレール7050とを有する。ルーフサイドレール7050は、潤滑剤としてのグリースにより潤滑されている。スライドパネル7003の外表面には、空気イオン化自己放電式除電器7100が固定されていることが好ましい。
【0029】
例えば、極微小から動的な摩擦機構がシートのスライドレールである本態様の車両の一実施形態を示す概略図を図18に示す。図18に示すように、本実施形態の車両は、シートと、シートのスライドレール8010と、ロアレール8011と、アッパレール8012とを有する。ロアレール8011及びアッパレール8012は、潤滑剤としてのグリースにより潤滑されている。ロアレール8011の外表面には、空気イオン化自己放電式除電器8100が固定されていることが好ましい。
【0030】
本態様の車両の別の一実施形態において、前記極微小から動的な摩擦機構は、互いに摺動摩擦するスリーブ及びスプラインであることが好ましく、プロペラシャフト若しくはステアリングシャフトのスリーブ及びスプライン、ボールねじ又はボールスプラインであることがより好ましい。本実施形態の車両は、例えば、特許第6124020号公報に開示される車両に適用することができる。例えば、極微小から動的な摩擦機構がステアリングシャフトのスリーブ及びスプラインである本態様の車両の一実施形態を図9に、該実施形態において、ステアリングシャフトのスリーブ及びスプラインを概略的に示す拡大部分断面図を図12に、それぞれ示す。図9に示すように、本実施形態の車両3012は、ステアリングホイール3014と、ステアリングホイール3014の回転変位を操舵アクチュエータへ伝達する変異伝達系と、アッパステアリングシャフト3020と、インターミディエットシャフト3028と、スプライン軸3028Sとを有する。図12に示すように、アッパシャフト部3028U及びロアシャフト部3028Lの互いに嵌合する部分には、スプライン軸受3028B及びスプライン軸3028Sを有するスプライン接続部3028Aが設けられている。スプライン軸受3028B及びスプライン軸3028Sは、回転軸線3046の周りに均等に隔置され回転軸線3046に沿って延在する複数のスプライン溝及びスプライン歯を有している。各スプライン歯は対応するスプライン溝に嵌入し、スプライン溝及びスプライン歯の噛み合い部には、潤滑剤としてのグリース3048が充填されている。スプライン接続部3028Aの外表面には、空気イオン化自己放電式除電器3098が固定されていることが好ましい。
【0031】
本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構に適用される潤滑剤において、電気絶縁性の基油は、当該技術分野で通常使用される鉱油及び合成油のような各種の基油から適宜選択することができる。前記潤滑剤に含有される鉱油は、パラフィン系鉱油及びナフテン系鉱油のいずれであってもよく、パラフィン系鉱油であることが好ましい。前記鉱油は、例えば、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、及び水素化精製等から選択される1種以上の任意の精製手段を適宜組み合わせて製造されたものであることが好ましい。前記潤滑剤に含有される合成油は、例えば、1-デセンを出発原料とするポリα-オレフィン油及びα-オレフィンとエチレンとのコオリゴマー油のような炭化水素系合成油、フェニルエーテル系合成油、エステル系合成油、ポリグリコール系合成油、並びにシリコーン油等の公知の合成油のいずれであってもよく、炭素及び水素原子のみからなる炭化水素系合成油であることが好ましい。
【0032】
前記電気絶縁性の基油は、前記で例示した鉱油及び合成油のいずれかから構成されていてもよく、複数の鉱油及び/又は合成油の混合物として構成されていてもよい。前記電気絶縁性の基油は、鉱油のみからなることが好ましい。前記電気絶縁性の基油が鉱油のみからなる場合、コストを軽減することができる。前記特徴を有する電気絶縁性の基油を含有することにより、前記潤滑剤は、本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構に適用する場合に所望の流動性を発現することができる。
【0033】
前記潤滑剤において、電気絶縁性の基油は、40℃において40~200 mm2/sの範囲の動粘度を有することが好ましく、60~100 mm2/sの範囲の動粘度を有することがより好ましい。電気絶縁性の基油の動粘度が前記下限値未満である場合、前記潤滑剤を適用する本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)において十分な油膜を形成することができず、極微小から動的な摩擦機構の摩擦面(例えば、車軸転がり軸受の転動面)に損傷が発生する可能性がある。また、電気絶縁性の基油の動粘度が前記上限値を超える場合、前記潤滑剤の粘性抵抗が増加して、前記潤滑剤を適用する本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)においてトルクの増大及び発熱を生じる可能性がある。それ故、前記範囲の動粘度を有する電気絶縁性の基油を含有する場合、前記潤滑剤は、該潤滑剤を適用する本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構において十分な油膜を形成して、所望の流動性を発現することができる。
【0034】
本発明の各態様において、電気絶縁性の基油等の動粘度は、限定するものではないが、例えば、ガラス細管粘度計を用いて、JIS K2283に基づき測定することができる。
【0035】
前記潤滑剤において、増ちょう剤は、当該技術分野で通常使用される石鹸系材料及び非石鹸系材料のような各種の材料から適宜選択することができる。石鹸系材料としては、例えば、リチウム石鹸等を挙げることができる。また、非石鹸系材料としては、例えば、ジウレア化合物又はフッ素粉末のような有機系材料に加えて、シリカ粉末、チタニア、アルミナ又は炭素繊維のような無機系材料を挙げることができる。本発明の各態様において、ジウレア化合物は、通常は、式(I):
【化1】
で表される化合物である。式(I)中、R1及びR2は、互いに独立して、置換若しくは非置換のC6~C20アルキル又は置換若しくは非置換のC6~C18アリールであることが好ましく、置換若しくは非置換のC6~C18アリールであることがより好ましく、置換若しくは非置換のフェニルであることがさらに好ましく、R1及びR2がいずれも4-メチルフェニルであることが特に好ましい。本発明の各態様において、R1及びR2が、互いに独立して、置換若しくは非置換のC6~C18アリールである、前記式(I)で表されるジウレア化合物を、「芳香族ジウレア化合物」と記載する場合がある。前記潤滑剤に含有される増ちょう剤は、ジウレア化合物若しくはリチウム石鹸、又はそれらの混合物であることが好ましく、ジウレア化合物であることがより好ましく、芳香族ジウレア化合物であることがさらに好ましい。前記特徴を有する増ちょう剤を含有することにより、本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構に適用される潤滑剤は、高い流入性を発現することができる。
【0036】
前記増ちょう剤は、前記潤滑剤の混和ちょう度が220~385の範囲となる量で該潤滑剤に含有されることが好ましい。前記混和ちょう度は、265~340の範囲であることがより好ましい。前記要件を満たす増ちょう剤の含有量は、該潤滑剤の総質量に対して固体含有量(質量%)の合計が約15~20質量%となるように調合し、通常は2~30質量%の範囲であり、典型的には3~25質量%の範囲であり、特に4~20質量%の範囲である。増ちょう剤の含有量が前記上限値を超える場合、前記潤滑剤を適用する本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)において、該潤滑剤が十分に行き渡らない可能性がある。また、増ちょう剤の含有量が前記下限値未満の場合、前記潤滑剤が過度に軟化し、該潤滑剤を適用する本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)から漏洩する可能性がある。それ故、前記範囲の混和ちょう度を有する増ちょう剤を含有する場合、前記潤滑剤は、該潤滑剤を適用する本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)から漏洩することなく、所望の流動性を発現することができる。
【0037】
なお、前記潤滑剤の混和ちょう度は、例えば、JIS K2220 7に基づき測定することができる。
【0038】
本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構に適用される潤滑剤において、摩擦帯電列表の負の電位を発生する樹脂からなる第一の添加剤微粒子は、PTFE、塩化ビニル、アクリル、ポリエスエル、ポリフタルアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイト、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びゴムからなる群より選択されることが好ましく、PTFE粒子であることがより好ましい。前記で例示した第一の添加剤微粒子の樹脂は、金属材料又は摩擦帯電列表の正の電位を発生する材料との摩擦により、負に帯電しやすい材料であることが知られている。それ故、本態様の走行することにより正の電位に帯電する車両の少なくとも2部位からなる極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)において、
前記摩擦機構の部材の少なくとも一方を金属材料で形成し、
前記摩擦機構の部材との極微小から動的な摩擦力により、前記摩擦力に応じた摩擦帯電列表において前記摩擦機構の部材の少なくとも一方の金属材料よりも負の電位を発生する樹脂からなる第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)を電気絶縁性の基油に均一に混合した潤滑剤を、前記摩擦機構の極微小から動的な部材の隙間に配置することにより、
前記樹脂からなる第一の添加剤微粒子が前記摩擦機構の部材と摩擦接触している間、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が開始され、
さらに摩擦接触した以降も前記負の電位に帯電した樹脂からなる第一の添加剤微粒子が、前記電気絶縁性の基油の中で浮遊し素早く自由に移動循環する際、前記摩擦接触した箇所以外の前記摩擦機構の部材の表面の正電位にクーロン力により引き寄せられ、
よって、前記摩擦機構の部材の正電位の中和除電が継続できることを特徴する車両の構成により、車両の正の電位を顕著に低下することを見出した。例えば、前記極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)を介して車体の表面及び/又はタイヤ等に帯電した正の電荷を除去して、本来の車両性能に近づいて、操縦安定性等を向上させることができる。
【0039】
前記第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)の一次粒径が、0.05~1 μm (50~1000 nm)の範囲であることが好ましく、0.1~0.5 μm(100~500 nm)の範囲であることがさらに好ましい。前記第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)の含有量は、前記潤滑剤の総質量に対して、0.1~15質量%の範囲であることが好ましく、5~10質量%の範囲であることがより好ましい。前記第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)の含有量が前記下限値未満の場合、前記潤滑剤を適用する本態様の車両の表面及び/又はタイヤの正の帯電電位の除去が不十分となる可能性がある。また、前記第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)の含有量が前記上限値を超える場合、前記潤滑剤の流動性が低下し、該潤滑剤を適用する本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)において、該潤滑剤が十分に行き渡らない可能性がある。
【0040】
前記潤滑剤において、前記第一の添加剤微粒子に帯電した負の電位を搬送する導電性の第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)を前記電気絶縁性の基油に均一に混合することにより、前記摩擦機構の部材の正電位をさらに顕著に低下できるように構成することが好ましい。前記第二の添加剤微粒子は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、グラフェン、及び黒鉛等の導電性材料として通常使用される各種の形態を有するものから適宜選択することができる。前記第二の添加剤微粒子は、カーボンブラックであることが好ましい。前記第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)の一次粒径は、1~100 nmの範囲であることが好ましく、5~50 nmの範囲であることがより好ましい。前記第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)の含有量は、前記潤滑剤の総質量に対して、0.1~15質量%の範囲であることが好ましく、5~10質量%の範囲であることがより好ましい。前記第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)の含有量が前記下限値未満の場合、前記潤滑剤の中和除電が不十分となり、該潤滑剤を適用する車両の車体の表面及び/又はタイヤ等に帯電した正の電荷の除去が不十分となる可能性がある。また、前記第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)の含有量が前記上限値を超える場合、前記潤滑剤の流動性が低下し、該潤滑剤を適用する本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)において、該潤滑剤が十分に行き渡らない可能性がある。それ故、前記特徴を有する前記第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)を含有することにより、前記潤滑剤は、本態様の車両の極微小から動的な摩擦機構(例えば、車軸転がり軸受)に適用する場合、該車両の操縦安定性等を向上させることができる(図19及び20)。
【0041】
さらに、前記第一の添加剤微粒子と前記第二の添加剤微粒子との質量割合は、前記潤滑剤の総質量に対して、それぞれ約5~10質量%の同等比率になるように、前記電気絶縁性の基油に均一に混合することが好ましいことを見出した。
【0042】
前記潤滑剤は、所望により、当該技術分野で通常使用される1種以上のさらなる添加物を含有することができる。さらなる添加物としては、限定するものではないが、例えば、前記第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)及び前記第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)以外の固体添加物(例えば、二硫化モリブデン、グラファイト又はメラミンシアヌレート(MCA)等)、極圧剤(例えば、硫化オレフィン、硫化エステル又は硫化油脂等)、耐摩耗剤(例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、亜鉛ジチオフォスフェート又は亜鉛ジチオカーバメート等)、油性剤(例えば、アルコール類、アミン類、エステル類又は動植物系油脂等)、酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤又はアミン系酸化防止剤)、錆止め剤(例えば、脂肪酸アミン塩類、ナフテン酸亜鉛類又は金属スルフォネート類等)、及び金属不活性化剤(例えば、ベンゾトリアゾール類又はチアジアゾール類等)を挙げることができる。前記潤滑剤がさらなる添加物を含有する場合、該さらなる添加物は、前記で例示した添加物のいずれかから構成されていてもよく、複数の添加物の混合物として構成されていてもよい。
【0043】
<2. 潤滑剤の製造方法>
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の車両に適用される潤滑剤の製造方法に関する。本態様の方法は、特に限定されず種々の方法を適用することができる。例えば、本態様の方法は、電気絶縁性の基油と、第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)及び第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)を含む添加剤とを混合する工程(以下、「混合工程」とも記載する)を含む。
【0044】
本態様の方法において、グリース組成物の実施形態の潤滑剤を製造する場合、混合工程は、電気絶縁性の基油と、第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)及び第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)を含む添加剤と、増ちょう剤とを混合することによって実施されることが好ましい。
【0045】
本態様の方法において、混合工程は、ロールミル、フライマミル、シャーロットミル又はホモゲナイザ等の当該技術分野において通常使用される混練手段を用いて実施することができる。混合工程において、各種成分を混合する順序は特に限定されない。例えば、電気絶縁性の基油に、第一の添加剤微粒子(例えば、PTFE微粒子)及び第二の添加剤微粒子(例えば、カーボンブラック微粒子)を含む添加剤及び場合により増ちょう剤を同時に添加して混合してもよく、或いは別々に(例えば、連続的に又は所定の間隔を空けて)添加して混合してもよい。
【実施例
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
<I:潤滑剤の調製>
電気絶縁性の基油(パラフィン系鉱油、動粘度:75 mm2/s(40℃))に、増ちょう剤(芳香族ジウレア化合物、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート及びp-トルイジンの反応生成物)、第一の添加剤微粒子(PTFE微粒子、一次粒径:0.18~0.20 μm(180~200 nm))、第二の添加剤微粒子(カーボンブラック、一次粒径:10~20 nm)、及びその他の添加剤(酸化防止剤、錆止め剤及び耐摩耗剤)を加えて、3本のロールミルで混練して、実施例1及び比較例1のグリース組成物の形態である潤滑剤を調製した。芳香族ジウレア化合物の構造を下記に示す。実施例1及び比較例1の潤滑剤における各成分の含有量を表1に示す。表中、各成分の含有量は、潤滑剤の総質量に対する質量%として示す。
【化2】
【0048】
【表1】
【0049】
<II:潤滑剤の性能評価>
[混和ちょう度の測定試験]
実施例1及び比較例1の潤滑剤の混和ちょう度を、JIS K2220 7に基づき測定した。その結果、実施例1及び比較例1の潤滑剤の混和ちょう度は、いずれも300であった。
【0050】
[操縦安定性の測定試験]
実施例1及び比較例1の潤滑剤を、車軸転がり軸受(JTEKT社製、複列アンギュラ玉軸受を有するハブユニット)に封入した。この車軸転がり軸受を、試験車両の前後及び左右の4輪に組み付けした。試験車両の仕様を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
実施例1及び比較例1の試験車両を、70 km/hの速度で走行させた。走行中、図21に示すレーンチェンジ時の操舵方法に基づき、レーンチェンジを繰り返した。図21に示す操舵方法では、0°→-30°→0°のステアリング操舵角の変化を、1秒間で実施する(以下、このステアリング操舵角の変化を「60°/秒のステアリング操舵角」とも記載する)。前記走行試験において、実施例1及び比較例1の試験車両のステアリング操舵角及び車両ヨー角加速度を測定した。ステアリング操舵角は、車両搭載の舵角センサー及びCANデータロガーによって測定した。また、車両ヨー角加速度は、ジャイロセンサー(CROSSBOW製NAV440CA-200)によって測定した。
【0053】
試験車両の操縦安定性を定量的に測定するために、試験車両の操縦に対する該試験車両の応答性を評価した。本試験では、試験車両の操縦を、ステアリング操舵角によって、試験車両の挙動の応答性を、車両ヨー角加速度によって、それぞれ測定した。実施例1及び比較例1の試験車両において、60°/秒のステアリング操舵角における車両ヨー角加速度の値を図22に示す。
【0054】
図22に示すように、実施例1の試験車両の車両ヨー角加速度の値は、比較例1の試験車両の値と比較して、顕著に高い値であった。この結果から、実施例1の潤滑剤の使用により、本来の車両性能が発揮され、試験車両のステアリング操舵に対する該試験車両の応答性が向上し、結果的に該試験車両の操縦安定性が向上したことが明らかとなった。
【0055】
[車体の帯電除去効果の測定試験]
実施例1の潤滑剤において、増ちょう剤の含有量を3質量%、カーボンブラックの含有量を5質量%、PTFEの含有量を10質量%、その他の添加剤の含有量を1.8質量%、基油の含有量を残部に変更した他は前記と同様の条件で、実施例2の潤滑剤を調製した。実施例2の潤滑剤を用いて、前記と同様の条件で試験車両を準備した。
【0056】
実施例2及び比較例1の試験車両を、発進から約100 km/hの速度で走行させた。走行中、非接触表面電位測定器(0.1~5 kVの範囲の正極及び負極の表面電位を測定可能)を用いて、左後輪の後部におけるタイヤトレッド面の電位及びフェンダーライナー(タイヤトレッド面に対向する部品)の電位を測定した。フェンダーライナー電位の経時変化を図23に示す。図中、(a)は比較例1の試験車両の測定結果を、(b)は実施例2の試験車両の測定結果を、それぞれ示す。(a)及び(b)において、横軸は経過時間(秒)であり、縦軸は電位(kV)である。
【0057】
図23に示すように、比較例1の試験車両の場合、+0.34~-0.24 kVの範囲で電位が変動した。これに対し、実施例2の試験車両の場合、+0.09~-0.12 kVの範囲で電位が変動した。前記結果から、実施例2の潤滑剤を用いることにより、車体の正電位及び/又はタイヤの帯電が除去されて、車両走行時の車体の帯電電位変動が約1/3に低減されることが明らかとなった。
【0058】
[潤滑剤の電圧降下時間の測定試験]
実施例1の潤滑剤において、増ちょう剤の含有量を19質量%、PTFEの含有量を5質量%、その他の添加剤の含有量を1.8質量%、基油の含有量を残部に変更した他は前記と同様の条件で、実施例3の潤滑剤を調製した。実施例1、実施例3及び比較例1の潤滑剤を用いて、電圧降下時間の測定試験を行った。それぞれの潤滑剤を一対の電極に挟み、一方の電極表面から非接触で強制帯電(プラス)を行い、非接触で帯電量を測定した(静電圧)。静電圧が0.2kV以下まで降下する時間を計測し、その値を電圧降下時間とした。
【0059】
図24に示すように、比較例1(PTFEおよびカーボンブラックの添加なし)の潤滑剤の場合、電圧降下時間の平均値は42.2秒であった。これに対し、実施例3(PTFE添加)の潤滑剤の場合、電圧降下時間の平均値は27.6秒であった。前記結果から、実施例3の潤滑剤を用いることにより、帯電が中和されることが明らかとなった。さらに、実施例1(PTFEおよびカーボンブラック添加)の潤滑剤の場合、電圧降下時間の平均値は1.0秒以内であった。前記結果から、実施例1の潤滑剤を用いることにより、帯電がより一層中和されることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0060】
2050、3012、6010…車両
1066、2044G、3094、3112、4050…潤滑剤又はグリース
1110A~1110D、2110D、3100、3128A、4070A~4070G、5100、6100、7100、8100…空気イオン化自己放電式除電器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25