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7372215焼成体用組成物及びこれを用いた焼成体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】焼成体用組成物及びこれを用いた焼成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/622 20060101AFI20231024BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20231024BHJP
   C04B 35/16 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C04B35/622 040
C04B38/00 303Z
C04B35/16 ZAB
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020120723
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022024276
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-03-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513129391
【氏名又は名称】幅口 裕光
(74)【代理人】
【識別番号】100137970
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 康央
(72)【発明者】
【氏名】幅口 裕光
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2002-0044899(KR,A)
【文献】特開2004-269271(JP,A)
【文献】特開2001-146444(JP,A)
【文献】特開2004-262728(JP,A)
【文献】特開2000-247698(JP,A)
【文献】特開2016-132586(JP,A)
【文献】特開2001-151543(JP,A)
【文献】特開昭63-123845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰(a)を、含有率が70重量%以上の主材とし、焼成による緻密化を促進する媒融物として、下水汚泥焼却灰(b)と、酸化鉄含有成分として、電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末、使用した使い捨てカイロから選ばれた1種以上(c)と、を含むことを特徴とする焼成用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の焼成用組成物に、結合剤を加えて、造粒成形し、又は型枠内で加圧成形した後、大気中で焼成して得られることを特徴とする焼成体の製造法。
【請求項3】
前記媒融物が、更に、酸化鉄成分として、銅スラグ、亜鉛スラグのうち、1種類以上を含むことを特徴とする請求項2に記載の焼成体の製造法。
【請求項4】
前記媒融物中の酸化鉄成分(c)が、焼成用組成物中5重量%~20重量%であることを特徴とする請求項2に記載の焼成体の製造法。
【請求項5】
前記媒融物中の下水汚泥焼却灰(b)が、焼成用組成物中、5重量%以上~20重量%以下であり、酸化鉄成分(c)が、焼成用組成物中5重量%~10重量%であることを特徴とする請求項2に記載の焼成体の製造法。
【請求項6】
前記焼成組成物中の石炭灰(a)が、1100℃で焼成したとき、比重が1.5以下であることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の焼成体の製造方法。
【請求項7】
造粒成形した粒径が、6mm~24mmの造粒成形物であり、大気中で焼成して人工骨材として用いることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の焼成体の製造法。
【請求項8】
大気中の焼成温度が1080℃~1220℃であり、焼成後の比重が1.4~2.4であることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の焼成体の製造方法。
【請求項9】
製鋼スラグの破砕物と、石炭灰と、請求項2乃至請求項5のいずれかの媒融物を有する焼成用組成物を、造粒成形し、又は型枠内で加圧成形した後、大気中で焼成して得られることを特徴とする焼成体の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成体用組成物及びこれを用いた焼成体の製造方法に関する。特に、産業廃棄物である石炭灰、下水汚泥焼却灰、電気炉酸化スラグ、銅スラグ、亜鉛スラグ等の酸化鉄成分含有物を使用した焼成体用組成物及びこれを用いた焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭灰は、石炭を燃料とする火力発電所から大量に排出されており、その石炭灰の資源化利用については、特にセメント製造原料のうち粘土の代替原料としてセメント工場で多量に使用されている。「石炭灰全国実態調査報告書(平成29年度実績)平成31年3月、一般財団法人石炭エネルギーセンター」の「表10 平成29年度石炭灰有効利用分野別の内容内訳」の利用分野別の内訳よれば、セメント分野におけるセメント原材料としての利用量は、石炭灰の全有効利用量の67.8%である。
【0003】
また、電気炉酸化スラグ及び銅、亜鉛の非金属精錬過程で発生する非鉄金属スラグは、酸化鉄の化学成分を多く含有するものであるが、道路舗装の路盤材及びアスファルトコンクリート舗装用骨材、土工用材、地盤改良用材等として資源化利用されている。
【0004】
一方、下水処理場で発生する下水汚泥は、汚泥処理施設における処理工程で脱水汚泥となり、最終的にその脱水汚泥を減容化する目的で焼却炉により焼却して灰(以下、「下水汚泥焼却灰」という。)として排出されている。この下水汚泥焼却灰については、その多くが埋立て条件を満たすために事前に一定の処理を行って、埋立て処分をしている。
【0005】
なお、石炭灰及び製鋼スラグ並びに非鉄金属スラグの資源化需要は、景気状況や公共投資予算の施行事業内容の影響を受ける要素が高いことから、産業廃棄物の更なる有効利用の研究及び技術開発が喫緊の課題である。そのうえで、新たな石炭灰などの有効利活用の生産環境の実現は、社会課題の一つである産業廃棄物の資源化による循環型社会の形成に寄与し得る。更に、埋立て処分場の延命化に繋がることが期待される。
【0006】
以前より、石炭灰を利用した人工骨材の製造方法が種々考案されている。例えば、特許文献1には、土木、建築用普通コンクリート用骨材として使用することができる高強度人工骨材を得るとともに、石炭灰の用途を拡大しその有効利用を図ることを目的として、石炭灰の粒度分布を一定範囲ごとに調整した後、当該石炭灰及び石灰石粉末(炭酸カルシウム)に粘結材と水を加えて造粒し、その造粒物を焼成して高強度人工骨材を得ることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、高強度及び低吸水率の人工骨材を製造するために、事前に石炭灰に含まれる磁鉄鉱を除去した石炭灰を配合することが開示されている。その焼成体である人工骨材の物性は、絶乾密度が1.50g/cm3以上、2.00g/cm3以下で、吸水率が0.1質量%以上、6質量%以下、圧懐荷重が、粒径5mm以上、10mm未満は0.5kN以上、又は、粒径10mm以上、15mm未満は1.0kN以上の焼成体が得られるとされている。
【0008】
また、特許文献3には、石炭灰50部、頁岩33部、水17部の配合で、その焼成後の比重は、1.63、圧壊強度は、1600Nの人工軽量骨材、及び、石炭灰47部、下水汚泥焼却灰31部、水22部の配合で、その焼成後の比重は、1.35、圧壊強度は、1450Nの人工軽量骨材、の製造方法が開示されている。この方法においては、天然資源の頁岩を配合すること及び下水汚泥焼却灰を配合することで軽量化を図ることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平7-206491
【文献】特開2001-151543
【文献】特開2007-269539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、先行特許文献1の方法では、高強度骨材製造の前提として造粒物の主材である石炭灰について、事前に粒度分布範囲を調整することが必要であり、工程が煩雑であった。また、先行特許文献2の方法では、高強度骨材製造の前提として石炭灰から磁鉄鉱の除去を要し、かなり煩雑であった。これら特許文献1及び2に開示された製造方法は、製造工程が多く、発生する費用も割高となる問題があった。更に、先行特許文献3の方法では、需要先が限定されるので天然資源の使用は循環型社会の形成に全面的には寄与せず、また下水汚泥焼却灰を使用しての骨材の軽量化による資源化は、近年の国内における軽量骨材の需要量の低迷から、新たな循環型社会の形成を担う材料資源には至らないという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、煩雑な工程を経ることなく、簡単な製造方法で産業廃棄物の資源化ができ、物性の優れた焼成体の製造方法を実現することを課題とした。例えば、大気下の焼成条件で、比重2.1乃至2.3の焼成体で、吸水率3%以下、好ましくは1%以下、圧壊強度は、2000N以上で、好ましくは4000N以上の人工骨材や、大気下の焼成条件で、比重2.1乃至2.3の焼成体で、吸水率10%以下で、実用強度の土木建築資材の実現である。
【0012】
人工骨材は、産業廃棄物のみを原料とした焼成用組成物を使用することができ、産業廃棄物のリサイクル、有効活用する課題がある。焼成用組成物を焼成して人工骨材とするとき、例えば、焼成温度1180℃程度の焼成によって、平均粒径約12.1mm程度の焼成体を得て、吸水率1.0%以下で、圧壊強度が4300Nを超えるものが望まれる。さらに、磯焼け抑制資材(鉄イオン発生材料)及び平板状にした場合などの壁面タイル兼電磁波抑制材等の環境改善材料等の土木・建築資材に広く利用したい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、鋭意検討の結果、次発明を提供するものである。
[1] 石炭灰(a)を主材に、焼成による緻密化を促進する媒融物として、下水汚泥焼却灰(b)と、酸化鉄含有成分として、電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末、使用した使い捨てカイロから選ばれた1種以上(c)と、を含むことを特徴とする焼成用組成物、を提供する。
[2] [1]に記載の焼成用組成物に、結合剤を加えて、造粒成形し、又は型枠内で加圧成形した後、大気中で焼成して得られることを特徴とする焼成体の製造法、を提供する。
[3] 前記媒融物が、更に、酸化鉄成分として、銅スラグ、亜鉛スラグのうち、1種類以上を含むことを特徴とする[2]に記載の焼成体の製造法、を提供する。
[4] 前記媒融物中の酸化鉄成分(c)が、焼成用組成物中5重量%~20重量%であることを特徴とするの[2]に記載の焼成体の製造法、を提供する。
[5] 前記媒融物中の下水汚泥焼却灰(b)が、焼成用組成物中、5重量%以上~20重量%以下であり、酸化鉄成分(c)が、焼成用組成物中5重量%~10重量%であることを特徴とするの[2]に記載の焼成体の製造法、を提供する。
[6] 前記焼成組成物中の石炭灰(a)が、1100℃で焼成したとき、比重が1.5以下であることを特徴とする[2]乃至[5]のいずれかに記載の焼成体の製造方法を、提供する。
[7] 造粒成形した粒形が、6mm~24mmの造粒成形物であり、大気中で焼成して人工骨材として用いることを特徴とするの[2]乃至[5]のいずれかに記載の焼成体の製造法、を提供する。
[8] 大気中の焼成温度が1080℃~1220℃であり、焼成後の比重が1.4~2.4であることを特徴とする[2] 乃至[5]記載の焼成体の製造方法、を提供する。
[9] 製鋼スラグの破砕物と、石炭灰と、[3]乃至[5]の媒融物を有する焼成用組成物を、造粒成形し、又は型枠内で加圧成形した後、大気中で焼成して得られることを特徴とするの焼成体の製造法、を提供する。
【0014】
本発明は、各種産業廃棄物のうち、下水汚泥焼却灰、酸化鉄成分等が、主材の石炭灰の焼成に際し、緻密化を促進させる媒融物として機能し石炭灰成形物の空隙を埋めるため、その間詰材料として、好適であり、多くの産業廃棄物に適用可能であることを見出したものである。
【0015】
石炭灰
特に、限定するものでないが、JISフライアッシュ(2種)であって、超々臨界圧(USC)石炭火力発電所から搬出された石炭灰が好ましい。未燃炭素分が少ないからである。超々臨界圧(USC)石炭火力発電所では、石炭の燃焼過程でボイラー及び煙道等の設備に発生するスラッギング及びファウリングの防止のため、その対策として燃料に使用する石炭については、その燃焼により発生する灰は高温の溶融温度領域であることや排出される灰分量その他影響成分を分析して燃料用石炭を選定している。本願発明の石炭灰は、高い溶融温度の石炭灰を主に使用した。しかし、石炭灰の溶融温度が1,250℃程度以下である低い溶融温度の石炭灰を使用することについては、本発明において妨げるものではない。石炭灰の主要成分の代表値を表1に示した。未燃炭素量は、4.5質量%以下であることが好ましい。焼成雰囲気が還元雰囲気になりにくいことが好ましいからである。
【0016】
【表1】
【0017】
下水汚泥焼却灰
脱水汚泥を減容化する目的で高温焼却炉により焼却して灰にし、発生した灰を集塵機で捕集したものである。媒融剤として構成される。媒融剤としての効果は、主成分に石炭灰との共通成分であるK2O量の影響が大である。その含有範囲は、1.9~3.6重量%が好ましい。下水汚泥焼却灰の粒径は、粒径の範囲が1μm~300μmで、粒径100μm以下の粒径の重量累計が90%以上であることが好ましい。また、石炭灰の平均粒径より小さいことが好ましい。主材である石炭灰の粒子間隙に酸化鉄成分ともに入り込む態様となるからである。下水汚泥焼却灰の主要成分の代表値を表2に示した。
【0018】
【表2】
【0019】
都市ごみ焼却灰
なお、都市ごみについて清掃工場で焼却処理されて焼却灰、焼却飛灰となり、更に溶融処理によって溶融スラグ、溶融メタル、溶融飛灰が排出される。これらの産業廃棄物に(「都市ごみ等に含まれる金属資源の挙動に関する研究(1)~(4)東京都環境科学研究所年報 2012~2014」より)についても、下水汚泥焼却灰と同様の化学組成物及び元素組成物を含むため、本発明における目的の機能を果たす材料に含めるものとする。特に、K2Oが、1.9~3.6質量%含まれることが好ましい。
【0020】
下水汚泥焼却灰は、酸化鉄成分とともに、5重量%以上~20重量%以下用いることが好ましい。
【0021】
酸化鉄含有成分
酸化鉄含有成分として、電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末、使用した使い捨てカイロが好ましい。鉄酸化物系の結晶質の鉱物、あるいはガラス組成で良いが、化学成分表示で、FeOと表示される部位を有する酸化鉄、FeOを含む複合酸化物、又は水酸化鉄やその脱水和物である酸化鉄含有成分が好ましい。Fe・FeO(磁鉄鉱:Fe)で表されるものを含む。しかし、酸化が進んだヘマタイトは含まない。本願では、低炭素量の石炭灰も利用可能で、還元雰囲気になりにくい条件下での焼成であっても発泡の原因となるガス発生が比較的抑制できて、焼成温度等の焼成条件が制御しやすく、目指す比重で比較的高強度の焼成体が得られる。酸化鉄含有成分は、媒融剤として、下水汚泥焼却灰ともに、5重量%以上~20重量%以下用いることが好ましい。
【0022】
電気炉酸化スラグ
鉄スクラップを溶解、精錬する際に発生するスラグのうち、酸化精錬工程から排出される酸化スラグである。徐冷スラグも急冷スラグも含む。還元スラグように遊離石灰を多量に含まず、比較的安定な組成であり、FeO成分を有することが条件である。
【0023】
磁鉄鉱粉末
天然磁鉄鉱の化学成分Feを有する。これを含有する黒浜土等の顔料を用いることも可能である。実験例では、黒浜土顔料(以下、黒浜土。)を用いた。
【0024】
使用した使い捨てカイロ
発熱後の金属鉄粉末の処理粉末である。例えば、使用した使い捨てカイロの内容処理物で、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、それらの脱水和物、残留鉄を含んでも良い。
【0025】
電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末、使用した使い捨てカイロ(以下、使い捨てカイロ)は、石炭灰の平均粒径より小さい平均粒径を有することが好ましい。媒融剤としての効果を発揮しやすいからである。粒度分布としては、特に、200メッシュ以下(74μm目開き篩全通)であることが好ましい。
【0026】
造粒成形し、又は型枠内で加圧成形した後、大気中で焼成して得られることを特徴とする焼成体の製造法であるが、造粒成形は、噴霧ドライ方式、パンペレタイジング方式等であり、加圧成形する型枠の形状は、平板、矩形体、直方体等で、土木建築材料としての形状に対応するものである。
【0027】
結合材
結合剤は、各種の配合材料を混練成形した後に、乾燥して焼成の炙りに入るまでの一連の製造工程間で、成形品のハンドリング中における破損を防止する目的で配合の材料に添加するものであり、例えば澱粉糊、廃糖蜜、メチルセルローズ、カルボキシルメチルセルローズ、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、デキストリン、パルプ廃液等の有機質材料のほかに、ベントナイト、珪酸ソーダ、珪酸カリ、燐酸アルミニュウム等の無機質材料等も使用できる。
【0028】
造粒成形、型枠内加圧成形には、水や有機溶媒を用いることができる。加圧成形には、自重による放置成形が含まれる。また、本願発明での焼成は大気中で行い、還元性雰囲気を必要としない。また、炉形式で、一部還元雰囲気となることを妨げるものではない。
【0029】
銅スラグ、亜鉛スラグは、FeOで示される第一鉄イオンを有する酸化鉄を有するものであれば、本願で使用することができる。
【0030】
電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末、使用した使い捨てカイロから選ばれた1種以上(c)が、焼成用組成物中5重量%~20重量%であって、10重量%~20重量%が好ましい。
【0031】
石炭灰(a)が、1100℃で焼成したとき、比重が1.5以下であることが好ましい。この焼成温度の昇温過程の制御が容易で、焼成体の良好な密度が得られるからである。
【0032】
造粒成形した粒径が、6mm~24mmの造粒成形物であり、大気中で焼成して圧壊強度が大であり、比重、吸水率が適切であれば、人工骨材等に適している。人工骨材に特化すれば、造粒する粒径が6mm未満及び24mmを超えるとコンクリート用骨材の粗骨材の粒径範囲である13mmから20mmの範囲を焼成造粒物がその粒径を逸脱するからである。より好ましくは、13mm~15mmである。24mmより大きいと焼成に時間がかかり、6mmより小さいと実用性に欠けるからである
【0033】
大気中の焼成温度が1080℃~1220℃であり、焼結後の比重が1.4~2.4であることが好ましく、また、1170℃~1190℃の焼成温度で、2.1~2.3であること、が好ましい。この範囲で安定的な焼成が可能であるからである。
【0034】
製鋼スラグの破砕物と、石炭灰と、[3]乃至[5]の媒融物を有する焼成用組成物を、造粒成形し、又は型枠内で加圧成形して焼成した。
【0035】
人工骨材としての吸水率
本願発明を人工骨材として用いるとき、1170℃~1190℃の焼成温度で、吸水率が1.0%以下であることが好ましい。粒状の人工骨材では、水/セメント比を低く設定することが可能となり、固化体の調製やその制御が容易となり、セメント固化体の物性にも良い影響があるからである。
【0036】
他の用途での吸水率
人工骨材用途以外の土木建築用途での焼成体の利用及び活用は、比重1.55程度で吸水率を20%超と高めに設定して緑化の際の土壌保水材料に使用することができるが、吸水率を3%以下にすることによって、人工骨材以外にも防犯砂利として、敷地内に撒きだして使用した場合には、人が歩き難く、高い音がするので防犯効果が期待できる。
このとき、材料に、高い強度(3400N~5200N)が求められる。
【0037】
圧壊強度が、2000N以上であれば、種々の土木建築資材として実用可能であるが、人工骨材としては、4000N以上が好ましく、4300N以上が特に、好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、煩雑な工程を経ることなく、簡単な製造方法で石炭灰(a)、下水汚泥焼却灰(b)と、電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末、使い捨てカイロ等の廃棄物のみを原料として焼成用組成物を構成でき、例えば、大気下の焼成条件で、比重2.1乃至2.3の焼成体で、吸水率3%以下、好ましくは1%以下、圧壊強度は、2000N以上で、好ましくは4000N以上の人工骨材や、大気下の焼成条件で、比重1.85程度の焼成体で、吸水率10%以下の、実用強度の土木建築資材が得られ、更に高吸水率で裏込め材や保水材も製造できる。
【0039】
本焼成用組成物を焼成して人工骨材とするとき、例えば、焼成温度1180℃程度の焼成によって、平均粒径約12.1mm程度の焼成体を得ると、その物性は吸水率1.0%以下で、圧壊強度が4300Nを超える。また、本人工骨材は、産業廃棄物のみを原料とした焼成用組成物を使用することができ、産業廃棄物のリサイクル、有効活用に好適である。また、磯焼け抑制資材(鉄イオン発生材料)及び平板状にした場合などの壁面タイル兼電磁波抑制材等の環境改善材料及び土木・建築資材に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を、さらに詳細な実験例に基づき説明する。
【0041】
JISフライアッシュ(2種)に該当する石炭灰(A)、石炭灰(B)、石炭灰(C)を使用した。超々臨界圧(USC)石炭火力発電所で排出された石炭灰である。石炭灰(B)は、単味での焼成体の色合いが、薄いベージュ色であり、他の石炭灰(A),(C)の2種類では、こげ茶色であることと比較すると石炭灰(B)は含有する酸化鉄が、目視による色別判断から少ない。粒子径は、ともに、97%頻度累計が200μm以下、72%頻度累計が80μm以下である。
【0042】
用いた下水汚泥焼却灰は、下水汚泥焼却灰(A)、下水汚泥焼却灰(B)である。なお、下水汚泥焼却灰(A)は焼却炉内フリーボード部での焼却温度が800℃の焼却炉から得た焼却灰であり、下水汚泥焼却灰(B)は焼却炉内フリーボード部での焼却温度が850℃の焼却炉から得た焼却灰である。焼却温度850℃で焼却するのは、温室効果ガスであるNO(一酸化二窒素)の排出を削減できるからである。粒度分布は、最大粒径400μm程度で、粒径100μm以下の粒径の重量累計が90%以上であるものを使用した。下水汚泥を流動層焼却炉で焼却して排ガスに含まれる飛灰を廃熱ボイラー及び微細飛灰をサイクロン、乾式電気集塵機で捕集して各灰を移送等コンベアで灰ホッパに収容したものである。下水汚泥焼却灰(A)の主要物質の化学成分は、表3の通りである。
【0043】
【表3】
【0044】
電気炉酸化スラグは、製品名:CKハイパー7号(株式会社星野産商製造)で、最大粒径が300μm以下の原粉を用意した。これを加工し、粉末程度を変えたものを2種類作製して使用した。各配合表では、電気炉酸化スラグ(A)、電気炉酸化スラグ(B)と表示した。
【0045】
なお、電気炉酸化スラグ(A)は、当該製品の粒径範囲が300μm以下であるものを目開き150μmの篩を使用して、当該スラグがその篩を通過した部分を焼成体用組成物材料としたものである。電気炉酸化スラグ(B)は、当該製品の粒径範囲が300μm以下であるものを粉砕専用機器(ディスク型振動ミル)で10分間、粉砕して焼成体用組成物材料とし200メッシュ以下(74μm目開き篩全通)としたものである。電気炉酸化スラグの成分について、主要な化学成分組成を表4に示した。酸化鉄成分材料は、石炭灰の平均粒径、下水汚泥焼却灰の平均粒径より小さい平均粒径を有するものを用いることが好ましい。
【0046】
使い捨てカイロ
市販の使い捨てカイロから、使用後3日経過で、粉体を取り出し、洗浄後、乾燥加熱し、粉砕後、目開き150μm篩を通過させて使用した。
【0047】
【表4】
【0048】
焼成温度パターンは、常温から1000℃までを120分で昇温し、1020℃までは、その昇温速度を維持して、各焼成最高温度である、1020℃から1220℃までは、各温度に応じて、5分から100分間で昇温し、その後、各焼成最高温度の保持時間を15分間とし、自然徐冷により焼成物を得た。以下、焼成最高温度を焼成温度と略して表現することがある。電気炉は、モトヤマ製:SH-2035Dである。
【0049】
本願発明で、比重及び吸水率の測定は、島津分析天びんAUX120及び比重測定キットSMK‐401(株式会社島津製作所製)を使用して行った。比重とは、SMK-401を使用して本装置の測定方法に準拠して測定した値であり、密度(g/cm3)で表現される値と同値である。また、圧壊強度の測定は、JSCE-C505(高強度フライアッシュ人工骨材の圧かい荷重試験方法)に準拠して行った。
【0050】
【表5】
【0051】
実験例32は、石炭灰(A)と酸化鉄の黒浜(以下、黒浜土)及び下水汚泥焼却灰(A)の配合比率(以下、配合比率という。)は、90:5:5、実験例33の配合比率は、85:10:5、実験例34は、配合比率は、85:5:10、実験例35の配合比率は、80:10:10、実験例36は、80:5:15である。実験例37は、75:10:15である。
【0052】
上記の各配合に対して、表5に示したそれぞれ結合剤と水を所定量(単位:g)加えて造粒物(各試料9個)を作製した。
【0053】
石炭灰(A)、石炭灰(C)に対して表5に示した配合の焼成体用組成物を前記焼成パターンにより焼成した。表6には、焼成体の比重、7には、吸水率(wt%)を示した。
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
焼成体の比重の変化
表5の組成の造粒物を焼成温度1020℃から1220℃間において、40℃間隔で6回実験した焼成による焼成体の比重及び吸水率の物性試験結果を示した。焼成体の緻密化の主要尺度として、比重を用いた。比重は、1170℃か、これを超えて速やかに(1180℃に達する前に)2.0以上となること、好ましくは2.1以上2.3以下となること、容易に溶融発泡化しないことを基準とした。石炭灰と下水汚泥焼却灰等を配合した造粒物について、石炭灰と下水汚泥焼却灰等の組成成分の変動の影響を受けて、造粒物の焼成溶融温度が低くなって、その緻密化が過度に促進されて焼成制御が困難になるからである。
【0057】
黒浜土を添加することにより、下水汚泥焼却灰が自ら持つ媒融剤としての機能と相まって、さらに高めて作用した結果、焼成体が緻密化された。また、実験例32と実験例33の黒浜土の配合比率の違いによる焼成体の変化については、酸化鉄の比率を高くして、下水汚泥焼却灰による酸化鉄の媒融剤としての機能を高められ、緻密化が更に促進された。なお、実験例34、35の焼成体用組成物は、焼成最高温度1180℃を超えた昇温過程で、比重は最高値に達したものと想定できる。
【0058】
また、実験例34と実験例35の比較でも、下水汚泥焼却灰による酸化鉄の媒融剤としての機能を高めた結果、焼成体の比重は大きくなった。
【0059】
比較例9と実験例36、37の結果も上記と同様であるが、実験例36、37の最高焼成温度1180℃における焼成においては、比重が低下したことから焼成体が発泡化し、実験例36、37の焼成体用組成物の造粒焼成体は、焼成最高温度1140℃を超えた昇温過程で、比重は最高値に達したものと想定できる。
【0060】
主材である石炭灰(A)を配合して造粒した焼成体用組成物を焼成した結果から、主材である石炭灰(A)に黒浜土を焼成体用組成物の全体量に対して、内割りで5重量%以上~10重量%以下及び下水汚泥焼却灰を焼成体用組成物の全体量に対して、内割りで5重量%以上~15重量%以下を配合して効果があることを確認した。
【0061】
比較例7は、石炭灰(C)と酸化鉄(黒浜土)及び下水汚泥焼却灰(A)の配合比率を90:0:10とした配合であり、黒浜土を除いた。実験例44は、石炭灰(C)と酸化鉄(黒浜土)及び下水汚泥焼却灰(A)の配合比率は、90:5:5で、実験例45の配合比率は、85:10:5で、実験例46は、85:5:10である。実験例47は、80:10:10である。実験例48は、80:5:15で、実験例49は、75:10:15である。
【0062】
石炭灰(C)を用いても、石炭灰(A)を用いたときと、同様の傾向の効果が得られた。
【0063】
このことから、黒浜土を造粒物の作製において、石炭灰(C)においても、その焼成体用組成物に添加することにより、下水汚泥焼却灰が自ら持つ媒融剤としての機能と相まって、焼成体の緻密化が、顕著に現れた。
【0064】
石炭灰(A)を配合して造粒した成形物を焼成した結果と同様の配合割合で効果が得られた。即ち、酸化鉄(黒浜土)を焼成体用組成物の全体量に対して、内割りで5重量%以上~10重量%以下、下水汚泥焼却灰を焼成体用組成物の全体量に対して、内割りで5重量%以上~15重量%以下含有させることが好ましい。
【0065】
表8に、石炭灰(B)も加えて、酸化鉄を含有配合した焼成体用組成物の造粒物の配合組成、表9に各焼成体用組成物の焼成温度1140℃から1190℃間において、10℃間隔で6回実施した焼成による焼成体の比重、表10に各配合(単位:g)の焼成体の吸水率(wt%)測定結果、表11に圧壊強度(N)の物性試験結果を示す。圧壊強度は各造粒焼成物5個の測定結果の平均値で、最大圧壊強度でリミッター設定の4500Nを超えた場合は、その個数を記載した。
【0066】
【表8】
【0067】
実験例50は、石炭灰(A)と下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を90:10とした比較例である。実験例51は、石炭灰(A)と酸化鉄(黒浜土)、下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を82.5:7.5:10とした。実験例52は、石炭灰(A)と電気炉酸化スラグ(A)及び下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を80:10:10とした。実験例53は、石炭灰(B)と下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を80:20とした比較例である。実験例54は、石炭灰(B)と黒浜土、下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を72.5:7.5:20とした。実験例55は、石炭灰(B)と電気炉酸化スラグ(A)、下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を70:10:20とした配合である。実験例56は、石炭灰(C)と下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を90:10とした比較例である。実験例57は、石炭灰(C)と黒浜土、下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を82.5:7.5:10とした配合である。
【0068】
【表9】
【0069】
【表10】
【0070】
【表11】
【0071】
造粒物は、焼成最高温度1140℃から1190℃の間、10℃間隔で焼成して得られた焼成体の比重と吸水率、圧壊荷重を測定した。
【0072】
実験例54、55は、酸化鉄を含むが、実験例51、52、57に比べて比重や吸水率の発現において、若干見劣りする。
このことから、黒浜土及び電気炉酸化スラグ(A)を造粒物の作製において、下水汚泥焼却灰が自ら持つ媒融剤としての機能と相まって、酸化鉄の媒融剤としての機能を高めるが、石炭灰(B)を用いた実験例54、55については、FeOを有する酸化鉄を用いてもなお、改善の余地のあることが判った。
【0073】
また、酸化鉄を焼成体用組成物に加えたことにより、高比重(2.1程度)及び低吸水率(3.0%未満)を確保する焼成の踊り場現象(焼成温度範囲1170℃~1190℃)が発現した。焼成の踊り場が発現したことは、下水汚泥焼却灰の持つ自らの媒融剤としての機能と相まって、酸化鉄の媒融剤としての機能を高める活性剤となって作用した結果により、発現した特徴となる効果である。このことは、造粒物等の成形体の焼成において、焼成の温度管理に余裕が生じ、製品の品質管理が容易にできる効果がある。
【0074】
平均圧壊強度
実験例53の造粒焼成体の平均圧壊強度は、1993Nから3527Nと大きくなった。実験例54の造粒焼成体の平均圧壊強度は、2312Nから1180℃の最高焼成温度で3946Nとなり、1190℃ではリミットの圧壊荷重である4500Nを超えた。
【0075】
石炭灰(A)と、200メッシュ目開き篩全通の酸化鉄、下水汚泥焼却灰(B)の配合表(単位:g)を表12に示す。酸化鉄には電気炉酸化スラグ(B)を用いた。酸化鉄を含有しない例は、実験例58、63、67である。造粒物を焼成温度1140℃から1190℃の間において10℃間隔で、焼成して得られた比重と吸水率、圧壊強度の試験結果は、表13、表14(単位:wt%)、表15(単位:N)に示したとおりである。また、表16には、焼成後の造粒径の測定値(mm)を示した。表17には、焼成前後の粒径比の参考値、表18は、1180℃での造粒径の変化(収縮測定結果)を示し、表19は、実験例の組成表(単位:g)をまとめた。
【0076】
【表12】
【0077】
【表13】
【0078】
【表14】
【0079】
【表15】
【0080】
【表16】
【0081】
実験例58は、石炭灰(A)と電気炉酸化スラグ(B)、下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を90:0:10とした比較例であり、実験例59は、82.5:7.5:10とし、実験例60は、80:10:10とした焼成体用組成物である。比重、吸水率、圧壊強度を比較した結果、1150℃からの昇温過程で実験例59、60は実験例58の諸物性試験数値を概ね上回る結果となった。
【0082】
このことから、電気炉酸化スラグ(B)(200メッシュ全通)を造粒物の作製において、その焼成体用組成物に添加することにより、下水汚泥焼却灰が自ら持つ媒融剤としての機能と相まって、焼成体の緻密化が、電気炉酸化スラグ(A)を配合した場合より更に顕著に現れた結果となった。また、酸化鉄を焼成体用組成物に加えたことにより、高比重(2.2程度)及び低吸水率(3.0%未満)を確保する焼成の踊り場現象(焼成温度範囲1170℃~1190℃)が発現し、造粒物等の成形体の焼成において、焼成の温度管理に余裕が生じ、製品の品質管理が容易にできる効果がある。
【0083】
実験例63は、石炭灰(B)と電気炉酸化スラグ(B)、下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を80:0:20とした比較例である。実験例64は、石炭灰(B)と電気炉酸化スラグ(B)及び下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を72.5:7.5:20とし、実験例65は、70:10:20とした配合である。
【0084】
石炭灰(B)と酸化鉄、下水汚泥焼却灰(A)を用いると、比重や吸水率が石炭灰(A)、石炭灰(C)を用いた実験例に比べて、若干焼成温度を高めにする必要があったが、200メッシュ全通の電気炉酸化スラグ(B)、下水汚泥焼却灰(B)の使用によって低めにシフトした。この改善効果は、FeO含有酸化鉄の微粒化効果によるものであると考える。
【0085】
造粒品の焼成による粒径変化等に関連して、実験例63の造粒焼成体の焼成温度1140℃から1190℃の各焼成最高温度において得られた焼成体の粒径の変化は、焼成前の粒径範囲が14.89mmから15.13mmであったが、焼成温度の上昇過程で、14.44mmから13.10mmへと焼成により緻密化し、粒径は縮小した。平均圧壊強度は焼成最高温度1140℃での1531Nから焼成最高温度1180℃で2355Nと大きくなり、1190℃の焼成最高温度では、2223Nであった。
【0086】
実験例64の造粒焼成体の焼成温度1140℃から1190℃の各焼成最高温度において得られた焼成体の粒径の変化は、焼成前の粒径範囲が14.87mmから15.03mmであったが、焼成温度1140℃から1190℃までの焼成最高温度の上昇により、13.57mmから12.29mmmと昇温により緻密化し、粒径が縮小した。また、平均圧壊強度は焼成最高温度1140℃での1970Nから焼成最高温度1180℃で4808Nと大きくなり、1190℃の焼成最高温度では、4717Nであった。
【0087】
実験例65の造粒焼成体の焼成温度1140℃から1190℃の各焼成最高温度において得られた焼成体の粒径の変化は、焼成前の粒径範囲が14.65mmから14.91mmであったが、焼成温度1140℃から1190℃までの焼成最高温度の上昇により、13.47mmから12.32mmと昇温により緻密化し、粒径が縮小した。また、平均圧壊強度は焼成最高温度1140℃での2062Nから焼成最高温度1170℃で4620Nとなり、1180℃では、4800Nと大きくなった。なお、1190℃の焼成最高温度では、4378Nであった。
【0088】
実験例67は、石炭灰(C)と電気炉酸化スラグ(B)、下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を90:0:10とした比較例である。実験例68は、石炭灰(C)と電気炉酸化スラグ(B)及び下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を82.5:7.5:10とし、実験例69は、80:10:10とした焼成体用組成物である。
【0089】
実験例67と比べて実験例68、69の比重、吸水率、平均圧壊強度は、1140℃からの昇温過程で比重、吸水率、圧壊強度の試験結果のすべてで、良好な数値となり、更に200メッシュ全通としなかった酸化鉄の場合に比べて、比重、吸水率での効果改善が認められた。
【0090】
このことから、電気炉酸化スラグ(B)(200メッシュ全通)の造粒物の作製において、その焼成体用組成物に添加することにより、下水汚泥焼却灰が自ら持つ媒融剤としての機能と相まって、酸化鉄の媒融剤としての機能を高める活性剤として作用した結果、焼成体の緻密化が、電気炉酸化スラグ(A)を配合した場合より更に顕著に現れた結果となった。
また、酸化鉄を焼成体用組成物に加えたことにより、高比重(2.2程度)及び低吸水率(3.0%未満)を安定的に得られる焼成の踊り場現象(焼成温度範囲1170℃~1190℃)が発現した。造粒物等の成形(型)品の焼成において、焼成の温度管理に余裕が生じ、製品の品質管理が容易にできる効果がある。
【0091】
造粒物の粒径
実験例61は、石炭灰(A)と酸化鉄(使い捨てカイロ)及び下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を82.5:7.5:10とし、実験例62は、石炭灰(A)と酸化鉄(使い捨てカイロ)及び下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を80:10:10とした焼成体用組成物である。それぞれに結合剤と水を加えて造粒物(各試料9個)を作製した。
【0092】
実験例70は、石炭灰(C)と使い捨てカイロ、下水汚泥焼却灰(B)の配合比率を82.5:7.5:10とし、実験例71は、配合比率を80:10:10とした。実験例70の焼成温度1140℃から1190℃の各焼成最高温度において得られた焼成体の粒径の変化は、焼成前の粒径範囲が14.35mmから14.57mmであったが、焼成最高温度の上昇により、13.38mmから12.08mmと焼成による緻密化により縮小した。実験例71の焼成温度1140℃から1180℃の各焼成最高温度において得られた焼成体の粒径変化は、焼成前の粒径範囲が14.21mmから14.31mmであったが、焼成最高温度の上昇により、13.18mmから11.95mmと焼成による緻密化により縮小した。なお、1190℃の最高焼成温度での粒径が12.12mmであったことから、若干の過焼成となった。すると、緻密化すると強度も高くなる傾向も考慮して、造粒成形した粒形が、13mm~15mmの造粒成形物であり、大気中で焼成して人工骨材として用いることが好ましい。
【0093】
実験例67と実験例70、71の焼成により緻密化して粒径が縮小することについて、昇温過程の焼成最高温度1140℃から1180℃における粒径の測定結果は、すべての焼成最高温度で、実験例70、71は実験例67の測定数値を上回って緻密化する結果となった。電気炉酸化スラグ(B)を造粒物の作製において、その焼成体用組成物に添加することにより、下水汚泥焼却灰が自ら持つ媒融剤としての機能と相まって、酸化鉄の媒融剤としての機能を高める活性剤として作用した結果、焼成体の緻密化が造粒径に現れた結果となった。また、使い捨てカイロを酸化鉄とする造粒物の作製において、その焼成体用組成物に添加することにより、その焼成体の緻密化を促進させることも、焼成による粒径の縮小現象から確認できた。
【0094】
酸化鉄を含有しない実験例58、63、67に比べて、酸化鉄を焼成体用組成物に加えたことにより、高比重(2.2程度)及び低吸水率(3.0%未満)を安定的に得られる焼成の踊り場現象(焼成温度範囲1170℃~1190℃)が発現した。造粒物等の成形体の焼成において、焼成の温度管理に余裕が生じ、製品の品質管理が容易にできる効果がある。
【0095】
【表17】
【0096】
上記表17は、実験例58乃至71(66を除く)において、焼成後粒径平均値を焼成前粒径中央値で除した数値であり、焼成前後の粒径比の参考値である。1180℃焼成において、実験例58、63、67を除く、石炭灰、電気炉酸化スラグ(B)又は使い捨てカイロ、下水汚泥焼却灰(B)を用いた実験例において、0.82から0.85を保ち、ほぼ、0.84から0.85である
【0097】
【表18】
【0098】
表18には、石炭灰(B)と下水汚泥焼却灰(A)を80:20として、1180℃で同様の収縮を測定した結果である。組成が一定であれば、一定温度の焼成で粒径が変化しても収縮率が一定で、焼成前後の粒径比が保たれることが示される。
【0099】
仮に、1180℃での収縮率を84%とすると、造粒物の焼成後の粒径を、5mm~20mmとした場合、焼成前の造粒粒径は、6mm~24mmとなる。表19に実験例58乃至71の組成(単位:g)を纏めた。
【0100】
【表19】
【0101】
主材の石炭灰の選定方法
大気中の焼成温度が1080℃~1220℃であり、焼結後の比重が1.4~2.4であることが好ましく、また、1170℃~1190℃の焼成温度で、2.1~2.3であること、を満たすための主材石炭の選定を行った。表20の焼成体用組成物表(単位:g)によって作製した造粒物を焼成最高温度範囲1020℃~1220℃間において、40℃間隔の昇温で6回の焼成により得られた造粒焼成体を調製した。
【0102】
【表20】
【0103】
【表21】
【0104】
【表22】
【0105】
主材の石炭灰A,B,C配合表であり、表22(単位:g)に示した。この焼成体用組成物によって作成した造粒物を焼成最高温度範囲1140℃~1190℃間において、10℃間隔の昇温で6回の焼成により得られた造粒焼成体を製造した。各焼成体の比重、吸水率(wt%)の試験結果を表23示す。
【0106】
【表23】
【0107】
1140℃における比重の最高値は、石炭灰(A)の1.541である。前記各種石炭灰を主材にして下水汚泥焼却灰(A)を配合した造粒物で、実験例2の配合の場合、比重が1.5を超えてから最大の比重となる2.2程度までの焼成温度範囲は60℃程度であり、他の実験例の比重変化も同様の傾向である。
【0108】
酸化鉄及び下水汚泥焼却灰(A)を配合した実験例59、64、68の焼成体の場合、比重が1.6を超えてから最大の比重となる2.2程度までの焼成温度範囲は40℃程度であり、他の実験例の比重変化も同様の傾向である。上記に記載の焼成結果の内容を踏まえ、主材の石炭灰については、例えば人為的に、高温溶融温度の石炭灰と低温溶融温度の石炭灰をブレンドして得た石炭灰を単味で配合して作製した、造粒物を焼成して比重を調整することができた。
【0109】
このような石炭灰を使用することによって焼成温度範囲を低くして資源化材料を生産することは、省エネにつながる効果がある。このことから本発明においては、主材として使用する石炭灰の性質(特に主材単味の造粒物の焼成結果による比重の値)を特定することは、本発明による産業廃棄物の資源化方法における重要な技術要素である。
【0110】
石炭灰単味で、焼成温度1100℃の焼成造粒物の比重で1.5以上だと、溶融温度が低く、緻密化がはやすぎて焼成制御が困難であるので、本発明において使用する主材の石炭灰は、当該石炭灰を単味で配合して造粒した焼成体の焼成最高温度1100℃における比重が、1.5未満である石炭灰を主材として使用した。
【0111】
実験例75は、電気炉酸化スラグ等を目開き500μm篩で全通に破砕又は粉砕化した。この実験例において空隙の間詰材として使用した、石炭灰(B)と下水汚泥焼却灰(A)の配合比率は、87対13である。実験例75の電気炉酸化スラグの破砕材料と間詰材の配合比率は、90対10である。実験例76の配合比率は、80対20である。実験例77の配合比率は、75対25である。表24に、実験例75乃至77の組成と比重、吸水率、強度を示した。
【0112】
【表24】
【0113】
焼成最高温度1170℃、1180℃、1190℃による3回の焼成の結果、得られた造粒焼成体の物性ついて、焼成体用組成物実験例75、実験例76の造粒物においては、焼成最高温度の上昇とともに比重は大きくなり、吸水率は低くなった。また、圧壊強度は高くなる傾向はあったが、焼成体用組成物実験例76における電気炉酸化スラグの破砕材料と間詰材の配合比率が80対20程度までは、焼成による緻密化は少ない。
【0114】
しかし、焼成体用組成物実験例77の配合による造粒物を焼成最高温度1170℃、1180℃、1190℃で3回実験した焼成の結果、焼成最高温度1190℃で得られた造粒焼成体は、比重は大きくなり、吸水率は低くなり、圧壊強度は高くなった。このことから、焼成体用組成物実験例77の配合である電気炉酸化スラグの破砕材料と間詰材の配合比率は75対25であり、この配合比率を基準値として、この配合以上に間詰材の量を多くすることにより、造粒物の焼成による空隙部分の焼結緻密化及び粉砕物間の焼成固着が実現する。
【0115】
これにより、産業廃棄物である電気炉酸化スラグ等を破砕又は粉砕した材料を使用して造粒物や平板状等に成形し、焼成体を製造することで、更に産業廃棄物の資源化利用が高まった。