(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】バリ取り工具及びバリ取り方法
(51)【国際特許分類】
B23C 3/12 20060101AFI20231024BHJP
B23D 79/00 20060101ALI20231024BHJP
B23B 31/08 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B23C3/12 B
B23D79/00 A
B23B31/08 B
(21)【出願番号】P 2020184658
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 充
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-214234(JP,A)
【文献】特開2004-142064(JP,A)
【文献】特開2005-349549(JP,A)
【文献】特開2012-030316(JP,A)
【文献】実開昭62-046518(JP,U)
【文献】独国実用新案第202004015603(DE,U1)
【文献】韓国登録特許第10-2062846(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/12
B23D 79/00
B23B 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャンク軸に沿って配置されたシャンク、
前記シャンクの内部に広がる機構室
及び前記機構室の先端部に配置された座面を有するハウジングと、
第1フランジ部を有し、前記シャンク軸に沿って往復できるリカバリーロッドと、
傾動シャフトであって、
前記第1フランジ部と対向して配置された第2フランジ部、及び、
前記座面に支持され、前記シャンク軸上に傾動中心を有する球面ブッシュ、を有し、
前記傾動中心を通る傾動軸に沿って配置され、前記傾動中心を中心に傾動できる傾動シャフトと、
前記リカバリーロッドを前記傾動シャフトに向けて付勢する弾性部材と、
前記傾動シャフトに対して予め定められた回転角度だけ回転できるように前記傾動シャフトに配置され、刃物を固定するホルダと、
前記ホルダに前記傾動軸に沿って移動可能なプランジャを有し、
前記傾動シャフトに対して前記ホルダが前記シャンクの回転方向とは逆方向に
相対的に回転したときに前記第1フランジ部と前記第2フランジ部が離間して、前記プランジャを前記リカバリーロッドと前記傾動軸上で接触させる回転直動変換機構と、
前記ハウジング及び前記傾動シャフトのいずれか一方に配置された転動溝と、前記ハウジング及び前記傾動シャフトの他方に配置された転動体保持部と、前記転動溝と前記転動体保持部との間に配置され、前記転動溝に沿って転動する転動体と、を含み、前記ハウジングの回転を前記傾動シャフトに伝達する回転伝達機構と、
を備える、バリ取り工具。
【請求項2】
前記回転直動変換機構は、
前記傾動シャフトに対して前記ホルダが前記シャンクの回転方向とは逆方向に前記回転角度だけ
相対的に回転したときに、前記プランジャを前記リカバリーロッドと前記傾動中心で接触させる、
請求項1のバリ取り工具。
【請求項3】
前記回転直動変換機構は、
前記ホルダに対する前記プランジャの回転を制限する回り止め機構と、
前記プランジャにらせん状に形成されたカム溝と、
前記傾動シャフト及び前記カム溝を前記傾動軸に垂直に貫通して前記傾動シャフトに配置され、前記カム溝に摺動するカムピンと、
を有する、
請求項1又は2のバリ取り工具。
【請求項4】
前記回り止め機構は、
前記プランジャを径方向に貫通して前記プランジャの軸方向に延びる長穴と、
前記長穴を貫通し、前記ホルダに径方向に延びて配置された回り止めピンと、を有する、
請求項3のバリ取り工具。
【請求項5】
前記転動溝は、前記機構室の円筒内周面に、前記シャンク軸の回りに均等に、前記シャンク軸を通過する平面上に配置され、
前記転動体保持部は、前記第2フランジ部の外周部に、前記傾動軸の回りに均等に、前記傾動軸に垂直な平面上に配置された、
請求項1~4のいずれか1項のバリ取り工具。
【請求項6】
前記転動溝は、前記第2フランジ部の外周部に、前記傾動軸の回りに均等に、前記傾動軸を通過する平面上に配置され、
前記転動体保持部は、前記機構室の円筒内周面に、前記シャンク軸の回りに均等に、前
記シャンク軸に垂直な平面上に配置された、
請求項1~4のいずれか1項のバリ取り工具。
【請求項7】
前記転動溝は、前記座面に、前記シャンク軸の回りに均等に、前記シャンク軸を通過する平面上に配置され、
前記転動体保持部は、前記球面ブッシュに、前記傾動軸の回りに均等に、前記傾動軸に垂直な平面上に配置された、
請求項1~4のいずれか1項のバリ取り工具。
【請求項8】
前記転動溝は、前記球面ブッシュに、前記傾動軸の回りに均等に、前記傾動軸を通過する平面上に配置され、
前記転動体保持部は、前記座面に、前記シャンク軸の回りに均等に、前記シャンク軸に垂直な平面上に配置された、
請求項1~4のいずれか1項のバリ取り工具。
【請求項9】
ハウジング及び傾動シャフトのいずれか一方に配置された転動溝と、前記ハウジング及び前記傾動シャフトの他方に配置された転動体保持部との間に配置された転動体が、前記転動溝と前記転動体保持部との間のシャンク軸の回りの相対回転を制限して、前記ハウジングの回転を前記傾動シャフトに伝達し、
非加工時において、リカバリーロッドの第1フランジ部が前記傾動シャフトの第2フランジ部に向かって付勢し、
加工時において、
ワークから受けた切削抵抗によって刃物を保持するホルダが前記傾動シャフトに対して前記刃物の回転方向と逆方向に
相対的に回転し、
回転直動変換機構が前記ホルダの回転を変換してプランジャを前記リカバリーロッド側に移動させ、
前記プランジャが前記リカバリーロッドを押し上げて、前記リカバリーロッドと傾動軸上で接触し、前記第1フランジ部が前記第2フランジ部と離間し、
前記傾動シャフトと一体となって回転する前記刃物が前記ワークを切削する、
バリ取り方法。
【請求項10】
更に、
前記ホルダがあらかじめ定められた回転角度だけ回転し、前記プランジャが前記リカバリーロッドと傾動中心で接触する、
請求項9のバリ取り方法。
【請求項11】
更に、
弾性部材が前記リカバリーロッドを前記傾動シャフトに向かって付勢する、
請求項9又は10のバリ取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリ取り工具及びバリ取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸に装着されるシャンクと、シャンクと一体に回転する工具保持部材と、工具保持部材をシャンク軸に対して傾動自在に支持して、工具保持部材をシャンクに付勢する傾動付勢手段を持つ支持部材と、を備えるバリ取り工具が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のバリ取り工具を用いてバリ取りをするときに、工具が振動する場合があった。本発明は、工具が振動しにくいバリ取り工具及びバリ取り方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の側面は、バリ取り工具であって、
シャンク軸に沿って配置されたシャンク、前記シャンクの内部に広がる機構室及び前記機構室の先端部に配置された座面を有するハウジングと、
前記シャンク軸の回りに、前記シャンク軸に平行に配置され、前記機構室に固定された複数の伝達ロッドと、
第1フランジ部を有し、前記シャンク軸に沿って往復できるリカバリーロッドと、
傾動シャフトであって、
前記第1フランジ部と対向して配置された第2フランジ部、及び、
前記座面に支持され、前記シャンク軸上に傾動中心を有する球面ブッシュ、を有し、
前記傾動中心を通る傾動軸に沿って配置され、前記傾動中心を中心に傾動できる傾動シャフトと、
前記リカバリーロッドを前記傾動シャフトに向けて付勢する弾性部材と、
前記傾動シャフトに対して予め定められた回転角度だけ回転できるように前記傾動シャフトに配置され、刃物を固定するホルダと、
前記ホルダに前記傾動軸に沿って移動可能なプランジャを有し、前記傾動シャフトに対して前記ホルダが前記シャンクの回転方向とは逆方向に相対的に回転したときに前記第1フランジ部と前記第2フランジ部が離間して、前記プランジャを前記リカバリーロッドと前記傾動軸上で接触させる回転直動変換機構と、
前記ハウジング及び前記傾動シャフトのいずれか一方に配置された転動溝と、前記ハウジング及び前記傾動シャフトの他方に配置された転動体保持部と、前記転動溝と前記転動体保持部との間に配置され、前記転動溝に沿って転動する転動体と、を含み、前記ハウジングの回転を前記傾動シャフトに伝達する回転伝達機構と、
を備える。
本発明の第2の側面は、バリ取り方法であって、
ハウジング及び傾動シャフトのいずれか一方に配置された転動溝と、前記ハウジング及び前記傾動シャフトの他方に配置された転動体保持部との間に配置された転動体が、前記転動溝と前記転動体保持部との間の傾動軸周りの相対回転を制限して、前記ハウジングの回転を前記傾動シャフトに伝達し、
非加工時において、リカバリーロッドの第1フランジ部が前記傾動シャフトの前記第2
フランジ部に向かって付勢し、
加工時において、
ワークから受けた切削抵抗によって刃物を保持するホルダが前記傾動シャフトに対して前記刃物の回転方向と逆方向に相対的に回転し、
回転直動変換機構が前記ホルダの回転を変換してプランジャを前記リカバリーロッド側に移動させ、
前記プランジャが前記リカバリーロッドを押し上げて、前記リカバリーロッドと傾動軸上で接触し、前記第1フランジ部が前記第2フランジ部と離間し、
前記傾動シャフトと一体となって回転する前記刃物が前記ワークを切削する、
方法である。
【0006】
バリ取り工具は、マシニングセンタ、ターニングセンタなどの工作機械に装着され、回転工具として利用される。バリ取り工具は、シャンクが工具主軸に装着され、バリ取り工具全体が工具主軸と共に回転する。
説明の都合上、刃物が取り付けられる側を先端側と、シャンクが配置された側を基端側と呼ぶ。
【0007】
リカバリーロッド、球面ブッシュ、座面、ホルダ、プランジャ及び刃物は、シャンクの中心軸であるシャンク軸上に配置される。
回転伝達機構は、ハウジングの回転を傾動シャフトに伝達する。回転伝達機構は、転動溝と、転動体保持部と、転動体とを含む。転動溝は、ハウジング及び傾動シャフトのいずれか一方に配置され、転動体保持部は、ハウジング及び傾動シャフトの他方に配置される。転動体は、転動溝と転動体保持部との間に配置され、転動溝に沿って転動する。
【0008】
刃物がワークに接触したときに、刃物が切削抵抗を受ける。刃物がワークから受けた切削抵抗によって、刃物を保持するホルダが傾動シャフトに対してバリ取り工具の回転方向と逆方向に回転する。回転量は、回転直動変換機構の構造によって定められている。
なお、刃物は、ブラシを含んで良い。
【0009】
回転直動変換機構は、プランジャを有する。プランジャは傾動シャフトの中心軸である傾動軸に沿って移動する。回転直動変換機構はホルダの回転方向と逆方向の回転に伴い、プランジャを基端方向に押し上げる。ホルダの所定の回転角に対して、構造的に定められたストロークだけプランジャが往復する。
ホルダがバリ取り工具の回転方向と逆方向に回転すると、プランジャは弾性部材の付勢力に抗してリカバリーロッドを基端側へ押し上げる。プランジャは、リカバリーロッドを押し上げて、第1フランジ部と第2フランジ部とを離間させる。プランジャの頂部は傾動軸上でリカバリーロッドと当接し、傾動シャフトは自由に傾動できる。この状態において、バリ取りが可能である。
ホルダがバリ取り工具の回転方向と逆方向の端まで回転すると、プランジャの頂部は、リカバリーロッドと傾動中心付近で接触する。
回転直動変換機構は、例えば、円筒溝カム機構である。円筒溝カム機構は、カムピン及びプランジャを有する。プランジャはカム溝を有し、ホルダの内側に往復可能かつ、回転不能に配置される。プランジャは傾動軸に沿って移動する。プランジャの頂部は傾動軸上にある。カムピンは傾動シャフトに、傾動軸と垂直に延びて固定される。カム溝は好ましくはプランジャを貫通する。カム溝はプランジャの円筒面状にらせんを描く開口を持つ。カムピンは、カム溝に摺動する。
ホルダは傾動軸に垂直な平面上に、傾動軸を中心に扇形に広がる旋回穴を持つ。カムピンは旋回穴を貫通する。旋回穴の中心角はカム溝の回転角以上である。
ホルダが傾動シャフトに対して工具の回転方向に回転するに従って、プランジャは、先端方向へ移動する。プランジャが先端方向の端部にあるときに、第1フランジ部は第2フランジ部と当接する。好ましくは、このときにプランジャの頂部はリカバリーロッドと当接する。
【0010】
刃物がワークに接触しないとき、ばねの付勢力によって、リカバリーロッドはプランジャを押し下げる。回転直動変換機構は、プランジャを押し下げるときに、ホルダを傾動シャフトに対してバリ取り工具の回転方向に回転させる。これにより、ホルダ及びプランジャは、初期位置に戻る。そして、第1フランジ部が第2フランジ部と接触する。このとき、傾動シャフトは傾動できない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、工具が振動しにくいバリ取り工具及びバリ取り方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の非加工時におけるバリ取り工具の縦断面図
【
図8】第1実施形態の加工時におけるバリ取り工具の縦断面図
【
図11】第1実施形態の傾動シャフトが傾いた状態のバリ取り工具を示す縦断面図
【
図12】第2実施形態の非加工時におけるバリ取り工具の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、実施形態のバリ取り工具100は、シャンク11を持つハウジング1、回転伝達機構102、傾動シャフト4、リカバリーロッド5、ばね6、ホルダ7、球面ブッシュ24及び回転直動変換機構9を含む。回転直動変換機構9は、プランジャ8、カム溝85、カムピン84、回り止め機構87を含む。
バリ取り工具100はシャンク11をマシニングセンタ等である工作機械の主軸(不図示)に装着されて、バリ取り工具100全体が刃物101と一体となって回転して使用される。
以下、説明の都合上、シャンク軸15又は傾動軸43に沿った方向を上下方向と呼ぶ場合がある。
【0014】
ハウジング1はボディ12、機構室13及び座面14を有する。ハウジング1は調整ねじ61を有しても良い。シャンク11は、例えばストレートシャンクである。シャンク11は、シャンク軸15に沿って延びる。
ボディ12はシャンク11の先端側に配置される。ボディ12はシャンク軸15を中心とする円筒状である。
機構室13は、シャンク軸15を中心とする段付き円筒であり、シャンク11及びボディ12の内部に広がっている。機構室13は基端部に配置された小径部13aと先端部に配置された大径部13bを持つ。小径部13aにブッシュ53が配置されて良い。小径部13aはシャンク11の基端側に開口13cを持っても良い。開口13cには雌ねじ11aが配置される。調整ねじ61は、雌ねじ11aにねじ込まれる。
座面14は機構室13の先端部に配置される、先端側に向けて縮径する直円錐面状の内面である。なお、座面14は、凹状の球面であっても良い。
【0015】
球面ブッシュ24は凸面である球面24aを持つ。球面24aの中心が傾動中心25である。球面24aは、座面14に内接する。球面ブッシュ24は座面14上を摺動する。
【0016】
リカバリーロッド5は、ステム52及び第1フランジ部51を有する。第1フランジ部51はシャンク軸15を中心とする円板である。リカバリーロッド5は凸部56及び当接部54を有しても良い。凸部56は円筒状であり、第1フランジ部51の先端部に配置される。凹部51bは、凸部56の先端部のシャンク軸15上に配置される。当接部54は凹部51bに装着される。当接部54の先端面54aは、シャンク軸15に垂直な平面である。先端面54aは、第1フランジ部51の外周部よりも先端側に突出しても、基端側に窪んでも、同一面でも良い。
ステム52は円筒状であり、小径部13a内に配置される。ステム52は、小径部13a又はブッシュ53に摺動自在に支持されている。
リカバリーロッド5はステム52が小径部13aにガイドされて上下方向に往復できる。
【0017】
ばね6は、例えばコイルばね、皿ばねである。ばね6は、リカバリーロッド5を先端方向に付勢する。ばね6はリカバリーロッド5と調整ねじ61に支持される。調整ねじ61は、ばね6の初期長さを調整する。
【0018】
傾動シャフト4は、ロッド部42及び第2フランジ部41を含む。傾動シャフト4は傾動軸43に沿って延びる。傾動軸43は傾動中心25を通る。傾動シャフト4は、球面ブッシュ24を介して座面14に支持される。
ロッド部42は中空円筒状である。ロッド部42は第2フランジ部41の先端側に配置され、ハウジング1の下方に延びる。第2フランジ部41は傾動軸43を中心とする円板である。第2フランジ部41の外周部45は、上下方向に延びて良い。
【0019】
図1、
図2に示すように、回転伝達機構102は、一組の転動溝121と、一組のボール保持穴122と、ボール123を有する。
転動溝121は、機構室13の円筒内周面13fに配置される。転動溝121は、シャンク軸15を通過する平面上に配置される。具体的には、転動溝121は、シャンク軸15を通過する平面と、傾動中心25を中心とする半径Rの球面との交差部に、上下に延びて配置される。転動溝121の横断面は半円状である。ここで、横断面とは、転動溝121が延びる方向に垂直な断面である。転動溝121は、シャンク軸15の回りに円周上に均等に分配される。
ボール保持穴122は、例えば直円錐である。ボール保持穴122は、傾動中心25を通過し、傾動軸43に垂直な平面上に、円周上に均等に配分されて外周部45に配置される。ボール保持穴122の数は、転動溝121の数と同一である。
ボール123は、それぞれのボール保持穴122と、転動溝121の間に配置される。ボール123は、ボール保持穴122に保持されて、転動溝121を転動する。
【0020】
ハウジング1の回転は、転動溝121、ボール123、ボール保持穴122を介して、傾動シャフト4に伝達する。言い換えれば、ボール123が、転動溝121とボール保持穴122との間のシャンク軸15の回りの相対回転を制限して、ハウジング1の回転を傾動シャフト4に伝達する。
【0021】
なお、転動溝121が第2フランジ部41の外周部45に、ボール保持穴122が機構室13の円筒内周面13fに配置されて良い。この場合、転動溝121は、第2フランジ部41の外周部45に、傾動軸43の回りに均等に、傾動軸43を通過する平面上に配置される。ボール保持穴122は、機構室13の円筒内周面13fに、シャンク軸15の回りに均等に、シャンク軸15に垂直な平面上に配置される。
【0022】
図1及び
図5に示すように、ホルダ7はロッド部42の径方向内側に配置される。ホルダ7は、傾動軸43の軸方向への移動が抑制されて、傾動軸43を中心に旋回角78(
図4参照)だけ回転できるように支持される。
バリ取り工具100は、ボール保持穴42a、環状溝71及びボール72を含んで良い。
ボール保持穴42aはロッド部42に配置される。ボール保持穴42aは、半径方向に延びて円周上に等間隔に複数(
図5では2個)形成される。
環状溝71は、略半円の縦断面を持ち、ホルダ7の円周方向に延びる。環状溝71は全周にわたって配置されて良い。
ボール72はボール保持穴42aと環状溝71の間に保持され、環状溝71を転動する。
なお、ボール保持穴42aは半径方向に延びてロッド部42を貫通して良い。この場合、ボール保持穴42aの径方向外側に保持筒73が配置される。保持筒73は、中空円筒状をなし、ボール保持穴42aの外側に配置される。ボール72は保持筒73によって保持される。
【0023】
図1及び
図4に示すように、ホルダ7は、保持穴74及び旋回穴77を有し、中空円筒状である。
保持穴74は、傾動軸43に沿って延びる円筒穴である。保持穴74はホルダ7を貫通する。
旋回穴77は傾動軸43に垂直な平面に沿って延びる。
図4を参照して、旋回穴77は傾動軸43を中心として扇状に広がる。旋回穴77の広がる中心角が旋回角78である。旋回穴77の上下方向の幅はカムピン84の直径よりも大きい。旋回角78は、回転角φ以上である。
ホルダ7はコレット75を有して良い。コレット75は保持穴74の先端部に装着される。コレット75は刃物101を保持する。例えば保持穴74は雌ねじ74aを有し、コレット75は、その外周部に雄ねじ75aを持つ。コレット75は雌ねじ74aにねじ締結される。
【0024】
図6に示すように、プランジャ8は砲弾状をなし、筒部82、頂部81及びカム溝85を持つ。プランジャ8は、保持穴74の内部に配置される。
筒部82は傾動軸43を中心とする円筒である。筒部82は中空で良い。筒部82は保持穴74と摺動する。
頂部81は筒部82の基端側に突出して配置される。頂部81は半球状である。頂部81は当接部54に当接する。頂部81の中心は傾動軸43上に配置される。
【0025】
カム溝85はらせん溝である。カム溝85は傾動軸43に直交する方向にプランジャ8を貫通する。カム溝85は筒部82の円筒面82aに開口85aを持つ。開口85aは円筒面82aに沿ってらせんを描くように構成される。開口85aは刃物101の回転方向に沿って回るにつれて先端方向に向かう。例えば、刃物101が基端方向から見て時計回りに回転するときは、開口85aは右上がりのらせんである。カム溝85は、
図7に示すように、次式を満たす。
L=φDtanA
ここで、
A:らせん溝のリード角
φ:回転角(rad)
D:プランジャ(カム溝の部分)の径
L:プランジャの移動ストローク
【0026】
例えば、リード角Aは15°~20°で、回転角φは60°~120°である。カム溝85の幅は、カムピン84の直径に実質的に等しい。
【0027】
プランジャ8が基端方向の端部にあるときに、頂部81の頂点86は傾動中心25の近傍に位置する。
【0028】
回り止め機構87は、ホルダ7に対するプランジャ8の回転を制限する。回り止め機構87は、例えば保持穴79と、長穴83と、回り止めピン76とを有する。
図1及び
図3に示すように、保持穴79はホルダ7に配置される。保持穴79は傾動軸43に直交して延びて、ホルダ7を貫通する。保持穴79の内径は回り止めピン76の外径と実質的に同一である。
長穴83はプランジャ8に配置される。長穴83は、傾動軸43に直交する方向に筒部82を貫通する。長穴83は傾動軸43に沿って延びる。長穴83の上下方向の長さは、プランジャ8の移動ストロークLと実質的に同じである。
回り止めピン76は保持穴79に支持される。回り止めピン76はホルダ7の径方向に延びてホルダ7に配置される。回り止めピン76は長穴83を貫通する。回り止めピン76は長穴83と摺動する。
プランジャ8は、ホルダ7に対して、回転が制限され、軸方向に移動できる。
【0029】
図4に示すように、カムピン84は径方向に延びて、ロッド部42に配置される。カムピン84はロッド部42に固定されて良い。保持筒73は、カムピン84を保持して良い。カムピン84は旋回穴77及びカム溝85を貫通する。カムピン84は旋回穴77及びカム溝85と摺動する。
【0030】
本実施形態のバリ取り工具100の動作について説明する。
シャンク11が工作機械の主軸(不図示)に装着される。ハウジング1は主軸と共に回転する。ハウジング1の回転は、回転伝達機構102を介して傾動シャフト4に伝達する。刃物101、ホルダ7及び傾動シャフト4が一体となって回転する。
【0031】
図1に示すように、刃物101がワーク103(
図8参照)に接触していないときは、ばね6の弾性力によって第1フランジ部51が第2フランジ部41に当接し、第2フランジ部41を付勢する。傾動軸43とシャンク軸15が一致した状態に保持される。
【0032】
工作機械はバリ取り工具100を回転しながら、移動させる。刃物101がワーク103に接触する。すると、刃物101は切削抵抗を受けて、ホルダ7は傾動シャフト4に対して、バリ取り工具100の回転方向と逆方向に回転する。
図8~10に示すように、回転直動変換機構9によって、プランジャ8は基端方向へ移動する。プランジャ8がリカバリーロッド5を基端方向に押し上げる。第1フランジ部51は第2フランジ部41と離間する。頂部81は、傾動軸43がシャンク軸15に一致する状態において傾動軸43上で当接部54と当接する。傾動シャフト4は傾動できる状態となる。
ホルダ7が傾動シャフト4に対して回転角φだけ回転すると、プランジャ8は基端方向端まで移動する。頂部81と当接部54との接触位置は傾動中心25の近傍となる。
【0033】
主軸の移動に伴って、刃物101はワーク103の稜線に沿って移動しながらワーク103を削る。このとき、ばね6の弾性力によってリカバリーロッド5は、プランジャ8、カムピン84を介して傾動シャフト4を先端方向に付勢する。球面ブッシュ24は座面14と摺動して支持された状態を保ち、傾動シャフト4は傾動中心25を中心に傾動できる(
図11参照)。
【0034】
再び刃物101がワーク103から離間すると、刃物101は切削抵抗を受けない。そしてばね6の弾性力によってリカバリーロッド5がプランジャ8を先端方向に押し下げる。リカバリーロッド5はブッシュ53にステム52がガイドされてスムーズに移動する。プランジャ8が先端方向に移動するにつれて、ホルダ7は傾動シャフト4に対して、刃物101の回転方向に回転する。第1フランジ部51は第2フランジ部41に当接する。傾動軸43はリカバリーロッド5の先端方向への移動と共にシャンク軸15に対する傾斜を小さくする。リカバリーロッド5とプランジャ8が先端方向の端まで到達する。傾動軸43はシャンク軸15と一致する。
本実施形態によれば、工具が振動しにくいバリ取り工具100及びバリ取り方法を提供できる。
【0035】
(第2実施形態)
図12、
図13に示すように、本実施形態のバリ取り工具200は、
図1、
図2に示す回転伝達機構102に替えて、回転伝達機構202を含む。バリ取り工具200のそれ以外の構成は、バリ取り工具100と同一である。
【0036】
回転伝達機構202は、一組の転動溝221と、一組のボール保持穴222と、ボール223を有する。
転動溝221は、座面14に配置される。転動溝221は、シャンク軸15を通過する平面上に配置される。具体的には、転動溝221は、シャンク軸15を通過する平面と、傾動中心25を中心とする球面との交差部に、上下に延びて配置される。転動溝221の横断面は半円状である。ここで、横断面とは、転動溝221が延びる方向に垂直な断面である。転動溝221は、シャンク軸15の回りに円周上に均等に分配される。
ボール保持穴222は、例えば半球状の窪みである。ボール保持穴222は、傾動軸43に垂直な平面上に、円周上に均等に配分されて球面ブッシュ24の球面24a上に配置される。ボール保持穴222の数は、転動溝221の数と同一である。
ボール223は、それぞれのボール保持穴222と、転動溝221の間に配置される。ボール223は、ボール保持穴222に保持されて、転動溝221を転動する。
【0037】
ハウジング1の回転は、転動溝221、ボール223、ボール保持穴222を介して、傾動シャフト4に伝達する。
【0038】
なお、転動溝221が球面ブッシュ24の球面24a上に、ボール保持穴222が座面14に配置されて良い。この場合、転動溝221は、球面ブッシュ24に、傾動軸43の回りに均等に、傾動軸43を通過する平面上に配置される。ボール保持穴222は、座面14に、シャンク軸15の回りに均等に、シャンク軸15に垂直な平面上に配置される。
【0039】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 ハウジング
11 シャンク
13 機構室
13f 円筒内周面
14 座面
15 シャンク軸
24 球面ブッシュ
25 傾動中心
4 傾動シャフト
41 第2フランジ部
43 傾動軸
45 外周部
5 リカバリーロッド
51 第1フランジ部
6 ばね(弾性部材)
61 調整ねじ
7 ホルダ
71 環状溝
72 ボール
76 回り止めピン(回り止め機構)
8 プランジャ
81 頂部
83 長穴(回り止め機構)
84 カムピン(回転直動変換機構)
85 カム溝(回転直動変換機構)
87 回り止め機構
9 回転直動変換機構
100,200 バリ取り工具
101 刃物
102,202 回転伝達機構
121,221 転動溝
122,222 ボール保持穴(転動体保持部)
123,223 ボール(転動体)