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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】多芯ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/20 20060101AFI20231024BHJP
   H01B 11/06 20060101ALI20231024BHJP
   H01B 11/12 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01B11/20
H01B11/06
H01B11/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020511714
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019013033
(87)【国際公開番号】W WO2019194033
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-10-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2018072538
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】早川 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】大塚 順
【合議体】
【審判長】中野 裕二
【審判官】篠塚 隆
【審判官】野崎 大進
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-072774(JP,A)
【文献】特開2002-304917(JP,A)
【文献】特開2003-297154(JP,A)
【文献】特開2011-096574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7/00-7/22
H01B11/00-11/22
H02G7/00-7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の二芯平行電線を有し、前記複数本の二芯平行電線が互いに撚り合わされている多芯ケーブルであって、
前記二芯平行電線は、
前記二芯平行電線の長さ方向に対して平行に配置された二本の導体と、
前記二本の導体の周囲を覆う絶縁層と、
前記絶縁層に縦添えされる状態で前記絶縁層の周囲を覆う第1のシールドテープと、
前記第1のシールドテープの内側に配置されるドレイン線と、
前記第1のシールドテープを覆う外被と、を備え、
前記絶縁層は、前記絶縁層の断面において前記二本の導体が並ぶ方向を左右方向とし、この左右方向に対する垂直方向を上下方向とするとき、前記二本の導体の上下に、左右方向に延びる第1平坦部と、前記第1平坦部に対向する第2平坦部と、を有し、前記二本の導体の左右に、第1半円周部と、前記第1半円周部に対向する第2半円周部と、を有し、
前記絶縁層の前記二芯平行電線の長さ方向に垂直な断面は、短軸の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸の長さとする長円形状であり、前記長円形状における外形線と長軸の垂直二等分線との交点を含む部分である前記第1平坦部に溝を有し、
前記ドレイン線は、その一部が、前記絶縁層よりも前記第1のシールドテープ側に突出するように前記溝に保持されており、
前記導体の断面積は0.16mm以下であって、
前記二芯平行電線の撚り合わせの撚りピッチは150mm以上225mm以下である、多芯ケーブル。
【請求項2】
前記溝は、前記ドレイン線の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さを有する、請求項1に記載の多芯ケーブル。
【請求項3】
前記ドレイン線は、断面が円形であり、
前記溝は、前記ドレイン線の側面に沿う円弧上の底面を有する、請求項1又は請求項2に記載の多芯ケーブル。
【請求項4】
断面において、前記第1のシールドテープは前記溝を有する面に対向する側の前記絶縁層の側面において二本の導体の中心同士の間隔の0.7倍から1.3倍の長さで重複している、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多芯ケーブル。
【請求項5】
前記二芯平行電線の外周にはドレイン線に対応する部分に膨らみを有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多芯ケーブル。
【請求項6】
前記第1のシールドテープは、巻き付け開始位置から巻き付け終了位置までの領域を覆う重なり部を有し、
前記重なり部は前記第2平坦部に配置される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多芯ケーブル。
【請求項7】
他のドレイン線が前記第2平坦部に形成された溝に配置される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の多芯ケーブル。
【請求項8】
前記導体は銅線であり、
前記ドレイン線は錫めっき銅線である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多芯ケーブルに関する。
【0002】
本出願は、2018年4月4日出願の日本出願第2018-072538号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、2本の導体を有する一次ケーブルを一対含むデータ伝送ケーブルが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6403887号
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る多芯ケーブルは、
複数本の二芯平行電線を有し、前記複数本の二芯平行電線が互いに撚り合わされている多芯ケーブルであって、
前記二芯平行電線は、
前記二芯平行電線の長さ方向に対して平行に配置された二本の導体と、
前記二本の導体の周囲を覆う絶縁層と、
前記絶縁層に縦添えされる状態で前記絶縁層の周囲を覆う第1のシールドテープと、
前記第1のシールドテープの内側に配置されるドレイン線と、
前記第1のシールドテープを覆う外被と、を備え、
前記絶縁層の前記二芯平行電線の長さ方向に垂直な断面は、短軸の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸の長さとする長円形状であり、前記長円形状における外形線と長軸の垂直二等分線との交点を含む部分に溝を有し、
前記ドレイン線は、その一部が、前記絶縁層よりも前記第1のシールドテープ側に突出するように前記溝に保持されており、
前記二芯平行電線の撚り合わせの撚りピッチは250mmより短い。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の一実施形態に係る多芯ケーブルの構成を示す断面図である。
図2図1に示す多芯ケーブルに含まれる二芯平行電線の構成を示す断面図である。
図3】多芯ケーブルの撚りピッチを説明する模式図である。
図4】他の一実施形態に係る多芯ケーブルの構成を示す断面図である。
図5】さらに他の一実施形態に係る多芯ケーブルの構成を示す断面図である。
図6】実施例の電気的特性(Scd21)を説明するための図である。
図7】比較例の電気的特性(Scd21)を説明するための図である。
図8】実施例の電気的特性(Scd21-Sdd21)を説明するための図である。
図9】比較例の電気的特性(Scd21-Sdd21)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【本開示が解決しようとする課題】
【0007】
複数本の二芯平行電線を含む多芯ケーブルにおいて、多芯ケーブルの電気的特性を高めるために改善の余地があった。
【0008】
本開示は、電気的特性を向上可能な多芯ケーブルを提供することを目的とする。
【本開示の効果】
【0009】
本開示によれば、電気的特性を向上可能な二芯平行電線を提供することができる。
<本開示の実施形態の概要>
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る多芯ケーブルは、
複数本の二芯平行電線を有し、前記複数本の二芯平行電線が互いに撚り合わされている多芯ケーブルであって、
前記二芯平行電線は、
前記二芯平行電線の長さ方向に対して平行に配置された二本の導体と、
前記二本の導体の周囲を覆う絶縁層と、
前記絶縁層に縦添えされる状態で前記絶縁層の周囲を覆う第1のシールドテープと、
前記第1のシールドテープの内側に配置されるドレイン線と、
前記第1のシールドテープを覆う外被と、を備え、
前記絶縁層の前記二芯平行電線の長さ方向に垂直な断面は、短軸の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸の長さとする長円形状であり、前記長円形状における外形線と長軸の垂直二等分線との交点を含む部分に溝を有し、
前記ドレイン線は、その一部が、前記絶縁層よりも前記第1のシールドテープ側に突出するように前記溝に保持されており、
前記二芯平行電線の撚り合わせの撚りピッチは250mmより短い。
【0010】
上記構成の多芯ケーブルによれば、捩じれに強い多芯ケーブルを構成することができ、多芯ケーブルの電気的特性が安定しやすくなり、電気的特性を向上させることができる。
【0011】
(2)上記(1)に係る多芯ケーブルにおいて、前記溝は、前記ドレイン線の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さを有していてもよい。
【0012】
(3)上記(1)または(2)に係る多芯ケーブルにおいて、前記ドレイン線は、断面が円形であり、前記溝は、前記ドレイン線の側面に沿う円弧上の底面を有していてもよい。
【0013】
(4)上記(1)~(3)のいずれかに係る多芯ケーブルにおいて、断面において、前記第1のシールドテープは前記溝を有する面に対向する側の前記絶縁層の側面において二本の導体の中心同士の間隔の0.7倍から1.3倍の長さで重複していてもよい。
【0014】
(5)上記(1)~(4)のいずれかに係る多芯ケーブルにおいて、前記二芯平行電線の外周にはドレイン線に対応する部分に膨らみを有していてもよい。
【0015】
(6)上記(1)~(5)のいずれかに係る多芯ケーブルにおいて、前記二本の導体は、それぞれ、0.16mm以下の断面積で形成されていてもよい。
【0016】
上記構成によれば、多芯ケーブルに求められる柔軟性を維持しながら、撚り合わせによる捩じれに強く、電気的特性が安定しやすい多芯ケーブルを提供することができる。
<本開示の実施形態の詳細>
本開示の実施形態に係る多芯ケーブルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0017】
なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
(実施形態)
図1は、本開示の一実施形態に係る多芯ケーブル100の構成を示す断面図である。図2は、多芯ケーブル100に含まれる二芯平行電線1の構成を示す断面図である。多芯ケーブル100は、例えば、デジタルデータを高速で送受信する通信機器などに用いられる電線として用いることができる。
【0018】
図1に示すように、多芯ケーブル100は、複数本の二芯平行電線1と、第2のシールドテープ110と、編組120と、外被130を含んでいる。本例では、8本の二芯平行電線1が互いに撚り合わされて多芯ケーブル100を形成している。
【0019】
第2のシールドテープ110は、二芯平行電線1の周囲に巻き付けられている。第2のシールドテープ110は、金属層111を樹脂テープ112に貼り付けまたは蒸着した金属層付き樹脂テープで形成されている。第2のシールドテープ110は、本例では、金属層111が二芯平行電線1側に配置され、樹脂テープ112が金属層111の外側に配置されている。金属層111は、例えばアルミニウムである。樹脂テープ112は、例えばポリエステルである。
【0020】
なお、第2のシールドテープ110は縦添えで巻き付けられていてもよく、横巻きで巻き付けられていてもよい。また、第2のシールドテープ110は上記した構成に限らず、樹脂テープ112が二芯平行電線1側に配置され、金属層111が樹脂テープ112の外側に配置されている構成であってもよい。
【0021】
編組120は、第2のシールドテープ110の外周に形成されている。編組120は、例えば焼きなまし(アニール)処理された錫めっき銅線の素線を複数本編組することにより形成されている。
【0022】
外被130は、編組120の周囲を覆うように形成されている。外被130は、例えばPVC(塩化ビニル樹脂)などの樹脂で形成されている。
【0023】
本例では、多芯ケーブル100に含まれる複数本の二芯平行電線1の構成は同一であるので、以下、図1に示す8本の二芯平行電線1のうちの1本について、図2を用いて説明する。
【0024】
多芯ケーブル100に含まれる二芯平行電線1は、図2に示すように、二本の導体2と、二本の導体2の周囲に形成された絶縁層3と、を備えている。また、二芯平行電線1は、絶縁層3の周囲に巻き付けられた第1のシールドテープ4と、第1のシールドテープ4の内側に配置されたドレイン線5と、第1のシールドテープ4を覆うように形成された外被6と、を備えている。
【0025】
二本の導体2は、互いに略同一の構造を有し、二芯平行電線1の長さ方向に対して平行に配置されている。図2に示すL1は、二本の導体2の中心同士の間隔である。
【0026】
導体2は、例えば銅やアルミニウム、またはそれらを主として含む合金などの導体、錫や銀などでメッキされた導体等で形成された単線または撚り線である。導体2に用いられる上記導体の寸法は、AWG(American Wire Gauge)の規格において、AWG26以下(断面積が0.16mm以下)であり、好ましくはAWG26~AWG36(断面積が0.01mm~0.16mm)である。本例では、導体2の断面積は、0.128mmである。このように、導体2の断面積を0.16mm以下(AWG26以下)とすることにより、多芯ケーブル100を使用する場所や形状に応じて曲げる等の柔軟性を維持することができ、多芯ケーブル100の電気的特性が安定しやすくなる。
【0027】
二本の導体2の周囲を覆う絶縁層3は、例えばポリオレフィンなどの誘電率が低い熱可塑性の樹脂で構成されている。絶縁層3は、例えば押出機から供給されて押し出し成形され、導体2に一括被覆されることにより形成されている。絶縁層3は、二芯平行電線1の長さ方向に垂直な断面が、長円形状で形成されている。このように、二本の導体2の周囲に押し出し被覆により絶縁層3を形成することにより、二芯平行電線1を撚り合わせたときに生じる捩じれに強い多芯ケーブル100を構成することができる。
【0028】
なお、本明細書において「断面」とは、二芯平行電線の長手方向から見た断面を意味する。また、「長円形状」とは、楕円形状、円形を扁平にした小判型形状、および二本の平行線を円弧状の曲線でつないだ形状等を含む形状を意味する。
【0029】
絶縁層3は、絶縁層3の断面において二本の導体2が並ぶ方向を左右方向とし、この左右方向に対する垂直方向を上下方向とするとき、二本の導体2の上下に、左右方向に延びる平坦部31、32を有している。また、絶縁層3は、二本の導体の左右に、半円周部33、34を有している。
【0030】
絶縁層3の断面は、短軸L2の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸L3の長さとする長円形状で形成されていている。より好ましくは、絶縁層3の断面は、短軸L2の2倍を長軸L3の長さとする長円形状で形成されている。本例では、絶縁層3の断面の長円形状は、例えば、AWG26の設計において長軸3.14mm×短軸1.57mm程度、AWG28の設計において長軸2.24mm×短軸1.12mm程度、AWG30の設計において長軸1.80mm×短軸0.90mm程度、AWG36の設計において長軸0.78mm×短軸0.39mm程度である。
【0031】
ここで、絶縁層3の厚さ方向(図2の上下方向)の偏肉率について説明する。厚さ方向の偏肉率とは、導体2の上下それぞれにおける絶縁層3の厚さT1,T2について、厚さの最小値/厚さの最大値の比率である。偏肉率は、二芯平行電線1の長さ方向において、絶縁層3の厚さの最小値/最大値が1.0に近い値であることが好ましい。絶縁層3の厚さ方向の偏肉率が1.0の場合、絶縁層3の厚さT1と厚さT2とは同一である。絶縁層3の厚さT1と厚さT2とが同一の場合、二芯平行電線1は良好な電気的特性を有する。絶縁層3の偏肉率は、絶縁樹脂の押し出し条件を調整することにより、1.0に近づけることができる。偏肉率の調整は、例えば絶縁樹脂の押し出し時の樹脂圧、スクリューの速度、導体2の線速、樹脂流路の形状等を調整することにより、行うことができる。
【0032】
二芯平行電線1の電気的特性は、絶縁層3の厚さ方向の偏肉率が小さいと悪化する。良好な電気的特性の観点から許容されうる絶縁層3の偏肉率は0.85以上である。二芯平行電線1の長さ方向において、絶縁層3の厚さは変動し得る。二芯平行電線1の電気的特性を安定させるためには、長さ方向における絶縁層3の厚みの変動は小さいことが望ましい。この絶縁層3の厚さの変動を考慮した好ましい偏肉率は、二芯平行電線1の長さ5mの範囲において、0.85以上1.0以下である。本例では、二本の導体2の少なくとも一方の上及び下に位置する絶縁層3の厚さの最小値/最大値が、二芯平行電線1の長さ5mの範囲において、0.85以上1.0以下となるように、絶縁層3が形成されている。
【0033】
絶縁層3は、長円形状における外形線と長軸L3の垂直二等分線との交点を含む部分に、溝35を有している。平坦部31、32の両方に溝35が形成されていてもよいが、電気的特性をより向上させるためには、平坦部31,32のうちのいずれか一方に溝35を形成することが好ましい。本例では、溝35は、図2に示すように、平坦部31に形成されている。
【0034】
溝35は、ドレイン線5の外形に合わせた形状に形成されている。ドレイン線5の断面形状が円形である場合、溝35は、その底部がドレイン線5に沿う円弧状に形成される。別の言い方をすれば、溝35は、ドレイン線5の側面に沿う円弧状の底面を有する。ドレイン線5の断面が円形以外、例えば矩形の場合、溝35の底部は矩形状に形成される。
【0035】
また、溝35は、ドレイン線5の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さを有する。溝35の深さがドレイン線5の外径または厚みの0.5倍よりも浅い場合には、ドレイン線5が溝35から外れて蛇行してしまうおそれがある。溝35の深さがドレイン線5の外径または厚みの0.9倍より大きいと、ドレイン線5は、溝35内に入り込み過ぎて第1のシールドテープ4に対して接触状態が不安定になってしまい、二芯平行電線1の電気的特性が安定しないおそれがある。
【0036】
溝35の深さは、より好ましくは、ドレイン線5の外径または厚みの0.6倍以上0.8倍以下である。更に好ましくは、溝35の深さは、ドレイン線5の外径または厚みの0.7倍である。本例では、溝35は、その底部が断面円形のドレイン線5に沿う円弧状に形成され、最も深い箇所が0.18mm程度の深さ(ドレイン線の外径の0.72倍)となるように形成されている。このような深さで溝35を形成することにより、ドレイン線5は、絶縁層3よりも第1のシールドテープ4側に出るように溝35に保持され、確実に第1のシールドテープ4と接触する。
【0037】
第1のシールドテープ4は、例えばアルミニウムなどの金属層41をポリエステルなどの樹脂テープに貼り付けまたは蒸着した金属層付樹脂テープで形成されている。第1のシールドテープ4は、絶縁層3の周囲及びドレイン線5の外側に縦添えで巻き付けられている。別の言い方をすれば、第1のシールドテープ4は絶縁層3に縦添えされる状態で絶縁層3の周囲を覆う。第1のシールドテープ4は、第1のシールドテープ4の巻き付け開始位置42から巻き付け終了位置43までの領域を重ねて覆う重なり部44を有している。重なり部44は、絶縁層3の平坦部31,32のいずれか一方に配置されている。本例では、図2に示すように、重なり部44は、溝35に対向する平坦部32に配置されている。
【0038】
重なり部44は、左右方向(図2における左右方向)の長さが、二本の導体2の中心同士の間隔L1の0.7倍から1.3倍の長さに形成されている。別の言い方をすれば、断面において、第1のシールドテープ4は溝35を有する面に対向する側の絶縁層3の側面において二本の導体2の中心同士の間隔L1の0.7倍から1.3倍の長さで重複している。このように構成することにより、二芯平行電線1の電気的特性が安定しやすくなる。
【0039】
第1のシールドテープ4は、金属層41が絶縁層3およびドレイン線5側を向くように巻き付けられている。本例では、第1のシールドテープ4は、縦添えで絶縁層3及びドレイン線5を覆うように巻き付けられている。第1のシールドテープ4の巻き付け開始位置42および巻き付け終了位置43が二芯平行電線1の長さ方向に平行になるように巻き付けられている。
【0040】
第1のシールドテープ4は、重なり部44に接着剤を設けて、この接着剤で重なり部44における第1のシールドテープ4同士を固着させて、第1のシールドテープ4が巻かれた形状を維持しても良い。
【0041】
ドレイン線5は、例えば、銅やアルミニウム等の導体線である。ドレイン線5は、第1のシールドテープ4の内側であって、二芯平行電線1の長尺方向に平行な方向(図1の紙面奥行き方向)に縦添えされ、絶縁層3の溝35内に保持されている。ドレイン線5の断面形状は、円形でも良く、矩形でもよい。
【0042】
本例では、ドレイン線5は、焼きなまし(アニール)処理された錫めっき銅線で、断面が円形で形成されている。ドレイン線5の直径は、例えば0.18~0.3mmである。本例では、AWG26の設計において、溝35の深さは上記した0.18mm程度であり、ドレイン線5の直径は0.25mm程度であるので、ドレイン線5は、ドレイン線5の一部(本例でAWG26の設計では0.07mm程度)が絶縁層3の平坦部31よりも第1のシールドテープ4側に出るように、溝35に保持されている。また、二芯平行電線1の外周にはドレイン線5に対応する部分に膨らみを有する。
【0043】
このように構成されることにより、第1のシールドテープ4の金属層41がドレイン線5に確実に接触するので、二芯平行電線1の電気的特性が安定しやすくなる。また、ドレイン線5が溝35内に保持されるので、ドレイン線5が絶縁層3上で蛇行することが防止される。これにより、二芯平行電線1の電気的特性が向上する。
【0044】
外被6は、例えばポリエステルなどの樹脂テープで形成されている。外被6は、第1のシールドテープ4の外周を覆うように、例えば螺旋状(横巻き)に巻かれている。外被6を構成する樹脂は、耐熱性を高めるために架橋されても良い。本例では、外被6は、ポリエステルテープを同方向に二重に横巻きで巻き付けて形成されている。なお、樹脂テープを二重に巻き付けて外被6を形成する場合、巻き付け方向は同方向に限らず、逆方向でも良い。
【0045】
なお、溝35は、本例では平坦部31のみに形成されているが、二芯平行電線の特性インピーダンスを調整し易くする観点および絶縁層3を製造しやすくする観点からは、平坦部31,32にそれぞれ溝35を形成してもよい。平坦部31,32にそれぞれ溝35が形成された場合、ドレイン線5が両溝または片溝に配置される。ドレイン線5がいずれか一方の溝35に配置される場合、ドレイン線5が配置されない溝35は、しわが寄らないように緊張させた状態の第1のシールドテープ4で覆われる。このように構成することにより、第1のシールドテープ4が溝35の中に入り込んで電気的特性が悪くなることを防ぐことができる。
【0046】
図3は、多芯ケーブル100が有する複数本の二芯平行電線1同士を集合させて撚り合わせた状態を示す模式図である。図3における符号1は、多芯ケーブル100の第2のシールドテープ110、編組120及び外被130を外した状態で、多芯ケーブル100に含まれる8本の二芯平行電線の内の1本を示している。
【0047】
図3に示すように、二芯平行電線1は、一方向に回転する螺旋状に撚り合わされている。複数本の二芯平行電線1の撚り合わせは、一方向撚り(S撚りまたはZ撚り)であってもよいし、長手方向に撚り方向が反転(SZ撚り)されていてもよい。
【0048】
二芯平行電線1が、多芯ケーブル100の断面視で周方向に一回転して位置P1から再び位置P1と重なる位置に至った位置をP2とするとき、P1からP2までの長手方向の長さが二芯平行電線1の撚りピッチPの一周期である。ここで、撚りピッチPは、250mmより短い。本例では、撚りピッチPは175mmである。
【0049】
ここで、例えば高速通信に用いられる多芯ケーブルは、電気的特性をより良好にすることが求められている。この多芯ケーブルは、高速通信に用いる信号線である二芯平行電線を複数本撚り合わせて構成されている。撚り合わせられる電線が単芯線を2本組み合わせた二芯平行電線である場合、撚り合わせに伴って二芯平行電線が捩じられる。この捩じれにより、二芯平行電線内の2本の単芯線が個別に動いてしまうおそれがあった。この単芯線が個別に動いてしまうと、二芯平行電線を有する多芯ケーブルの電気的特性が十分ではなくなるおそれがあった。
【0050】
そこで、本発明者らは、複数本の二芯平行電線を有する多芯ケーブルの構成を検討し、二本の導体2の周囲に一括押し出し被覆により形成された絶縁層3を備えた二芯平行電線1を複数本用いた多芯ケーブル100において、電気的特性が良好であることを見出した。
【0051】
さらに、本発明者らは、多芯ケーブル100の撚りピッチPを検討した。そして、複数本の二芯平行電線1の撚りピッチPが250mmより短い多芯ケーブル100において、電気的特性が良好であることを見出した。
【0052】
二芯平行電線1の撚りピッチPに対する電気的特性(Scd21、Scd21-Sdd21)の関係を、表1を示す。なお、Scd21は、ポート1からポート2における作動モードからコモンモードへの変換量のことであり、ミックスモードSパラメータの1つである。また、Scd21-Sdd21とは、差動モード出力に対する相対的なコモンモード出力である。表1において、Aは電気的特性が不良、Bは電気的特性がやや不良、Cは電気的特性が良好、Dは電気的特性が更に良好であった。
【0053】
【表1】
表1に示したとおり、撚りピッチPが250mmより短い多芯ケーブルにおいて、電気的特性はC(良好)またはD(更に良好)であることが見出された。撚りピッチPが225mm以下の多芯ケーブルにおいて電気的特性がC(良好)であり、撚りピッチPが175mm以下の多芯ケーブルにおいて電気的特性がD(更に良好)であることが見出された。
【0054】
以上説明したように、本開示の一態様に係る多芯ケーブル100は、二本の導体2の周囲に一括押し出し被覆により形成された絶縁層3を備えた二芯平行電線1を複数本有している。このため、多芯ケーブル100が有する8本の二芯平行電線1のそれぞれにおいて、二本の導体2が個別に動くことを防ぐことができ、捩じれに強い多芯ケーブルを構成することができる。これにより、多芯ケーブル100の電気的特定が安定しやすいので、多芯ケーブル100の電気的特性を向上させることができる。また、撚りピッチPが250mmより短い多芯ケーブル100において、電気的特性が良好であることを見出した。これにより、電気的特性を向上させた多芯ケーブル100を提供することができる。
【0055】
また、本開示の一態様に係る多芯ケーブル100において、二芯平行電線1の二本の導体2は、それぞれ、0.128mm以下の断面積で形成されている。
上記構成によれば、多芯ケーブルに求められる柔軟性を維持しながら、撚り合わせによる捩じれに強く、電気的特性が安定しやすい多芯ケーブルを提供することができる。
【0056】
なお、多芯ケーブル100が有する二芯平行電線1の本数は、上記実施形態で説明した8本に限らない。例えば、図4に示す4本の二芯平行電線1を有する多芯ケーブル100Aであってもよく、図5に示す2本の二芯平行電線1を有する多芯ケーブル100Bであってもよい。多芯ケーブル100A、100Bの構成は、二芯平行電線1の本数以外は図1図3に示した多芯ケーブル100の構成と同様であるので、図4図5に同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0057】
次に、本開示の実施例について説明する。下記の実施例、比較例の二芯平行電線を作成し、それぞれの二芯平行電線について電気的特性(Scd21、Scd21-Sdd21)試験を行った。
(実施例)
実施例の多芯ケーブル100の構成は、図1図3に示した第一実施形態の構成であり、下記のように設定した。
【0058】
AWG26の銅線(直径0.41mm、断面積0.16mmの導体2)を二本平行に並べ、その周囲をポリオレフィン(絶縁層3)で押し出し成形より一体被覆した。絶縁層3は、長軸2.74mm×短軸1.37mmの長円形状の断面となるように形成した。絶縁層3の上方向の平坦部31には、その底部が円弧状で最も深い箇所の深さが0.18mmの溝35を形成した。
【0059】
焼きなまし(アニール)処理された錫めっき銅線を、断面が円形状となるように形成して、直径0.25mmのドレイン線5を形成した。1本のドレイン線5を、絶縁層3の溝35内に配置した。ドレイン線5は、ドレイン線5の一部(0.07mm)が絶縁層3の平坦部31よりも第1のシールドテープ4側に出るように、溝35に保持させた。
【0060】
真空蒸着法を用いてアルミニウムをポリエステル樹脂テープに蒸着して、アルミニウム蒸着ポリエステル樹脂テープ(第1のシールドテープ4)を形成した。絶縁層3及びドレイン線5の外周面上に、第1のシールドテープ4のアルミニウムの面が内側に配置されるようにして、第1のシールドテープ4を縦添えで巻き付けた。第1のシールドテープ4の外側に、二枚のポリエステルテープを螺旋状に巻きつけて、外被6とした。
【0061】
上記構成の二芯平行電線1を8本集合させて、撚りピッチPを175mmとして互いに撚り合わせた。8本の二芯平行電線1の周囲に第2のシールドテープ110を巻き付けた。第2のシールドテープ110の外周に編組120を形成し、編組120の周囲に外被130を形成して、多芯ケーブル100を形成した。
【0062】
上記構成の実施例の多芯ケーブル100を、長さ5mとして、0GHzから19GHzの高周波信号を伝送し、電気的特性(Scd21、Scd21-Sdd21)を求めた。
(比較例)
比較例においては、二芯平行電線を8本集合させて、撚りピッチを300mmとして互いに撚り合わせて、多芯ケーブルを形成した。その他の構成は実施例の構成と同様の構成とした。
(試験結果)
以上の実施例および比較例について、それぞれ10例の電気的特性(Scd21、Scd21-Sdd21)の結果を比較した。
【0063】
(電気的特性(Scd21)の試験結果)
実施例の電気的特性(Scd21)を図6に、比較例の電気的特性(Scd21)を図7に示す。
【0064】
図6図7を比較して、電気的特性(Scd21)は、比較例では図7に示す通り8GHz~18GHzにおける最大値が-22dBであったが、実施例では図6に示す通り最大値が-27dBであった。このように、実施例では、8GHz~18GHzにおける最大値が比較例よりも5dB低い値に抑えられており、良好な電気的特性であった。
【0065】
また、各例のばらつきも、比較例では図7に示す通り-27dB~-22dBにばらつきがあったが、実施例では図6に示す通り-27dBより大きいばらつきは無く、実施例の電気的特性(Scd21)が良好であった。
【0066】
(電気的特性(Scd21-Sdd21)の試験結果)
実施例の電気的特性(Scd21-Sdd21)を図8に、比較例の電気的特性(Scd21-Sdd21)を図9に示す。この電気的特性(Scd21-Sdd21)は、最大値が-10dB以下である場合に良好である。
【0067】
比較例では図9に示す通り10GHz~20GHzにおいて最大値が-6dBであって-10dBより大きく、電気的特性が良好といえなかった。実施例では図8に示す通り最大値が-12dBであって-10dB以下であり、実施例の電気的特性が良好であった。
【0068】
各例のばらつきも、図9に示す比較例では10GHz~20GHzにおいて-10dBより大きい範囲にばらつきがあった。図8に示す実施例では0GHz~19GHzにおいて-12dBより大きいばらつきは無く、実施例の電気的特性(Scd21-Sdd21)が良好であった。
【0069】
以上の結果から、撚りピッチ300mmで構成された多芯ケーブルよりも、撚りピッチP175mmで構成された多芯ケーブル100の方が、良好な電気的特性(Scd21、Scd21-Sdd21)であることが確認できた。
【0070】
以上、本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本開示を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 二芯平行電線
2 導体
3 絶縁層
4 第1のシールドテープ
5 ドレイン線
6 外被
31、32 平坦部
33、34 半円周部
35 溝
41 金属層
42 巻き付け開始位置
43 巻き付け終了位置
44 重なり部
100、100A、100B 多芯ケーブル
110 第2のシールドテープ
111 金属層
112 樹脂テープ
120 編組
130 外被
L1 (導体2の中心同士の)間隔
L2 短軸
L3 長軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9