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特許7372237細胞質内での半減期が変化した抗原結合分子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】細胞質内での半減期が変化した抗原結合分子
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20231024BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231024BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20231024BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231024BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C12P21/08
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C07K16/46
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020523093
(86)(22)【出願日】2019-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2019021984
(87)【国際公開番号】W WO2019235426
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2018107051
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】寺西 佑理
(72)【発明者】
【氏名】セーボレー 那沙
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆
(72)【発明者】
【氏名】廣庭 奈緒香
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0037634(US,A1)
【文献】特表2012-505833(JP,A)
【文献】特表2016-509476(JP,A)
【文献】国際公開第2016/177984(WO,A1)
【文献】特開2011-052012(JP,A)
【文献】特表2016-528168(JP,A)
【文献】国際公開第2009/086320(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/052556(WO,A1)
【文献】FOSS Stian,et al.,TRIM21 Immune Signaling Is More Sensitive to Antibody Affinity Than Its Neutralization Activity,The Journal of Immunology,2016年,vol.196,p.3452-3459
【文献】CLIFT Dean et al.,A Method for the Acute and Rapid Degradation of Endogenous Proteins,Cell,2017年,vol.172,p.1692-1706
【文献】RHODES A. David et al.,TRIM21 and the Function of Antibodies inside Cells,Trends in Immunology,2017年,vol.38,no.12,p.916-926
【文献】Immunological Reviews,2015年,vol.268,328-339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/08
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-16/46
C12Q 1/00- 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、
(a) TRIM21結合ドメインを有する親抗原結合分子を提供し、
(b) 当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入して改変TRIM21結合ドメインを含む候補抗原結合分子を取得し、
(c) 当該改変TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティを決定し、
(d) (i) 当該改変TRIM21結合ドメインが、当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインよりも高い又は低い結合アフィニティでTRIM21に結合し;かつ
(ii) 一定量の当該候補抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該候補抗原結合分子量が、同量の当該親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して増加又は減少している
場合に、当該候補抗原結合分子を好適な抗原結合分子であると特定する、
ことを含み、
当該抗原結合分子が、抗体、抗体断片または抗体誘導体である、方法。
【請求項2】
前記候補抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する候補抗原結合分子量と、同量の前記親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量とを比較する
ことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原結合分子の細胞質抗原の除去能が、前記親抗原結合分子と比較して減少又は増加している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記改変が、さらに、前記親抗原結合分子と比較して前記抗原結合分子の細胞質中でのプロテアソーム分解耐性を増加又は減少させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法であって、さらに、
() 請求項1~のいずれか1項に記載の方法で作製された前記抗原結合分子をコードする遺伝子と作動可能に連結された適切なプロモーターを含む発現ベクターを取得し、
() 当該ベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を培養して前記抗原結合分子を生産させ、
() 宿主細胞培養物から前記抗原結合分子を回収する、
ことを含む、方法。
【請求項6】
前記抗原結合分子が、FcRn結合ドメインを含み、前記改変が当該FcRn結合ドメインのFcRnへの結合を実質的に変化させない、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記抗原結合分子が、FcRn結合ドメインを含み、前記改変が、前記親抗原結合分子と比較して、当該FcRn結合ドメインのFcRnへの結合を増加又は減少させる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項又はに記載の方法であって、さらに、前記FcRn結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、親FcRn結合ドメインと比較して、当該FcRn結合ドメインのFcRnへの結合を増加又は減少をもたらす、方法。
【請求項9】
前記抗原結合分子が細胞質への侵入能を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記改変が、前記抗原結合分子の細胞質への侵入能を著しく減少させない、請求項に記載の方法。
【請求項11】
TRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することが、EU253、EU309、EU311、EU312、EU314、EU315、EU345、EU428、EU432、EU433、EU434、EU435、EU436、EU437、EU438、EU439及びEU440からなる群より選択される1又はそれ以上の位置にアミノ酸置換を導入することを含みここで数字EUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法
【請求項12】
前記1又はそれ以上の位置のアミノ酸置換EU253F、EU314K、EU428R、EU434G、EU436DおよびEU437Vからなる群より選択される1又はそれ以上のアミノ酸置換であり、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、請求項11に記載の方法
【請求項13】
親抗原結合分子と比較して抗原結合分子の細胞質中での半減期を増加又は減少させる方法であって、当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、当該TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらし、当該抗原結合分子が、抗体、抗体断片又は抗体誘導体である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改変TRIM21結合ドメインを含み細胞質内での半減期が変化した抗原結合分子、当該抗原結合分子を含む医薬組成物、当該抗原結合分子の使用方法、TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の細胞質中での半減期を増加または減少させる方法、および改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が増加または減少した抗原結合分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は高い親和性で特異的に抗原と結合するタンパク質である。低分子化合物からタンパク質まで様々な分子が抗原となることが知られている。モノクローナル抗体の作製技術が開発されて以降、抗体改変技術が発達し、特定の分子を認識する抗体の取得が容易となった。
【0003】
抗体は、血漿中での安定性が高く副作用が少ないことから、医薬品として注目されている。抗体は、抗原に結合する作用、アゴニスト作用やアンタゴニスト作用だけでなく、ADCC(Antibody Dependent Cytotoxicity:抗体依存性細胞傷害活性), ADCP(Antibody Dependent Cell phagocytosis:抗体依存性細胞鈍食作用)、CDC(補体依存性細胞傷害活性)といったエフェクター細胞による細胞傷害活性(エフェクター機能とも言う)を誘導する。このような抗体の機能を利用して、癌、免疫疾患、慢性疾患、感染症等の医薬品が開発されている(Nat Rev Drug Discov. 2018 Mar;17(3):197-223.(非特許文献1))。
【0004】
一方、全長のIgG分子は分子量が約150kDaと大きく、一般には細胞透過性を示さないため、抗体医薬品の標的抗原は細胞膜上の抗原や細胞外抗原に限られている。そこで、細胞内で抗体または抗体フラグメントを発現させる intrabody や、細胞透過異性ペプチド (cell penetrationg peptide; CPP)を融合した抗体-CPP複合体、protein transfection 法などが開発され、細胞内の抗原に対して抗体を作用させる技術として報告されている (MAbs. 2011 Jan-Feb;3(1):3-16. (非特許文献2))。また、例えば、全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus; SLE)の患者やMRL-mpj/lpr lupusモデルマウスから同定された抗DNA自己抗体が、細胞質侵入能を示すことも報告されている (Sci Rep. 2015 Jul 9;5:12022. (非特許文献3)、Mol Immunol. 2015 Oct;67(2 Pt B):377-87.(非特許文献4))。
【0005】
細胞にエンドサイトーシスで取り込まれた抗体は、通常はFc領域で胎児性Fc受容体(neonatal Fc receptor; FcRn)に結合し、血漿中にリサイクルさせることでリソソームで分解されることを回避する。一方、細胞質に移行した抗体は、細胞質Fcレセプターであるtripartite motif 21 (TRIM21)に結合する。TRIM21はE3 ubiquitin ligaseである。抗ウイルス抗体が抗原に結合して細胞質に移行すると、当該抗体のFc領域にTRIM21が結合し、さらにTRIM21が自己ポリユビキチン化されることで、TRIM21に結合したウイルス抗体複合体はプロテアソームに誘導されて分解されることが報告されている (Trends Immunol. 2017 Dec;38(12):916-926. (非特許文献5))。抗human adenovirus type 5 (AdV5) 抗体において、TRIM21結合アフィニティを100倍程度弱めた抗体においてもAdV5を中和することができ、一方でTRIM21依存的なNF-kBシグナルの活性化を防ぐことができることが報告されている (J Immunol. 2016 Apr 15;196(8):3452-3459. (非特許文献6))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Carter PJ, Lazar GA. Nat Rev Drug Discov. 2018 Mar;17(3):197-223.
【文献】Marschall AL, Frenzel A, Schirrmann T, Schungel M, Dubel S. MAbs. 2011 Jan-Feb;3(1):3-16.
【文献】Weisbart RH, Chan G, Jordaan G, Noble PW, Liu Y, Glazer PM, Nishimura RN, Hansen JE. Sci Rep. 2015 Jul 9;5:12022.
【文献】Im SR, Im SW, Chung HY, Pravinsagar P, Jang YJ. Mol Immunol. 2015 Oct;67(2 Pt B):377-87.
【文献】Rhodes DA, Isenberg DA. Trends Immunol. 2017 Dec;38(12):916-926.
【文献】Foss S, Watkinson RE, Grevys A, McAdam MB, Bern M, Hoydahl LS, Dalhus B, Michaelsen TE, Sandlie I, James LC, Andersen JT. J Immunol. 2016 Apr 15;196(8):3452-3459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、非限定的な一態様において、その目的は、改変TRIM21結合ドメインを含み細胞質内での半減期が変化した抗原結合分子、当該抗原結合分子を含む医薬組成物、当該抗原結合分子の使用方法、TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の細胞質中での半減期を増加または減少させる方法、および改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が増加または減少した抗原結合分子の製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
非限定的な一態様において、本発明者らは、鋭意研究の結果、TRIM21に対する結合アフィニティが減少または増加した改変TRIM21結合ドメインを有する抗原結合分子が、親抗原結合分子と比較して、細胞質中での半減期が増加または減少することを見出した。また、本発明者らは、TRIM21結合ドメインの特定の位置における置換によって、当該TRIM21結合ドメインを有する抗原結合分子の、細胞質中における半減期が増加または減少することを見出した。
【0009】
本開示はこのような知見に基づくものであり、具体的には以下に例示的に記載する実施態様を包含するものである。
[1] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、
親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、当該抗原結合分子のTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらし、
一定量の当該抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量が、同量の当該親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して増加又は減少している、方法。
[2] [1]に記載の方法であって、さらに、前記改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量を、同量の前記親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較することを含む、方法。
[3] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、
親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、当該抗原結合分子のTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす、
当該抗原結合分子の細胞質中での半減期が、当該親抗原結合分子と比較して増加又は減少している、方法。
[4] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、当該TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティの増加又は減少をもたらし、
当該抗原結合分子の細胞質抗原の除去能が、当該親抗原結合分子と比較して減少又は増加している、方法。
[5] 前記TRIM21が、ヒトTRIM21及び/又はマウスTRIM21である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記改変が、さらに、前記親抗原結合分子と比較して前記抗原結合分子の細胞質中でのプロテアソーム分解耐性を増加又は減少させる、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の方法であって、さらに、
(a) [1]~[6]のいずれかに記載の方法で作製された前記抗原結合分子をコードする遺伝子と作動可能に連結された適切なプロモーターを含む発現ベクターを取得し、
(b) 当該ベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を培養して前記抗原結合分子を生産させ、
(c) 宿主細胞培養物から前記抗原結合分子を回収する、
ことを含む、方法。
[8] 前記TRIM21結合ドメインが抗体Fc領域である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記TRIM21結合ドメインがIgG Fc領域である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10] 前記TRIM21結合ドメインがヒトIgG Fc領域である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 前記TRIM21結合ドメインがヒトIgG Fc領域CH2-CH3ドメインである、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、EU253、EU309、EU311、EU312、EU314、EU315、EU345、EU428、EU432、EU433、EU434、EU435、EU436、EU437、EU438、EU439及びEU440からなる群より選択され、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、EU253、EU314、EU315、EU428、EU432、EU433、EU434、EU435、EU436およびEU437からなる群より選択され、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、EU253F、EU314K、EU428R、EU434G、EU436DおよびEU437Vからなる群より選択される1又はそれ以上のアミノ酸置換を含み、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15] 前記改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の熱安定性が、前記親抗原結合分子と比較して著しく低下していない、前記[1]~[12]に記載の方法。
[16] 前記熱安定性が、Tm値で表される、[15]に記載の方法。
[17] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、EU253、EU309、EU311、EU315、EU428、EU435、EU438およびEU440からなる群より選択され、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、[15]または[16]に記載の方法。
[18] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、表5(1)および(2)のグループ1に記載されるアミノ酸改変またはその組み合わせから選択される、 [15]から[17]のいずれかに記載の方法。
[19] 前記抗原結合分子が、さらにFcRn結合ドメインを含み、前記改変が当該FcRn結合ドメインのFcRnへの結合を実質的に変化させない、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[20] 前記抗原結合分子が、さらにFcRn結合ドメインを含み、前記改変が、前記親抗原結合分子と比較して、当該FcRn結合ドメインのFcRnへの結合を増加又は減少させる、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[21] [19]または[20]に記載の方法であって、さらに、前記FcRn結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、親FcRn結合ドメインと比較して、当該FcRn結合ドメインのFcRnへの結合を増加又は減少をもたらす、方法。
[22] 前記FcRn結合ドメインが抗体Fc領域である、[19]~[21]のいずれかに記載の方法。
[23] 前記FcRn結合ドメインがIgG Fc領域である、[19]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24] 前記FcRn結合ドメインがヒトIgG Fc領域である、[19]~[23]のいずれかに記載の方法。
[25] 前記FcRn結合ドメインがヒトIgG Fc領域CH2-CH3ドメインである、[19]~[24]のいずれかに記載の方法。
[26] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、EU309, EU311, EU312, EU428, EU433, EU434, EU436, 及びEU438からなる群より選択され、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、[19]~[25]のいずれかに記載の方法。
[27] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、表4(2)のグループA, C, EおよびGに含まれるアミノ酸改変からなる群より選択される、[19]~[25]のいずれかに記載の方法。
[28] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、EU253, EU309, EU311, EU312, EU314, EU315, EU345, EU428, EU432, EU433, EU434, EU435, EU436, EU437, EU438, EU439及びEU440からなる群より選択され、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、[19]~[25]のいずれかに記載の方法。
[29] 前記1又はそれ以上のアミノ酸改変が、表4(2)のグループB, D, FおよびHに含まれるアミノ酸改変からなる群より選択される、[19]~[25]のいずれかに記載の方法。
[30] 前記抗原結合分子が、さらにプロテインA結合ドメインを含み、前記改変が当該プロテインA結合ドメインのプロテインAへの結合を実質的に変化させない、[1]~[12]、[15]~[16]および[19]~[25]のいずれかに記載の方法。
[31] 前記プロテインA結合ドメインが抗体Fc領域である、前記[30]に記載の方法。
[32] 前記プロテインA結合ドメインがIgG Fc領域である、前記[30]または[31]に記載の方法。
[33] 前記プロテインA結合ドメインがヒトIgG Fc領域である、前記 [30]~[32]のいずれかに記載の方法。
[34] 前記プロテインA結合ドメインがヒトIgG Fc領域CH2-CH3ドメインである、前記 [30]~[33]のいずれかに記載の方法。
[35] 前記抗原結合分子が細胞質への侵入能を有する、 [1]~[34]のいずれかに記載の方法。
[36] 前記抗原結合分子が、1又はそれ以上の細胞質侵入ドメインを有する、[35]に記載の方法。
[37] 前記細胞質侵入ドメインが、抗体可変領域、ペプチド部分、及び核酸部分から選択される、[36]に記載の方法。
[38] 前記ペプチド部分が細胞侵入ペプチド(CPP)であり、前記核酸部分がホスホロチオエートDNA(PS-DNA)である、[37]に記載の方法。
[39] 前記改変が、前記抗原結合分子の細胞質への侵入能を著しく減少させない、 [35]~[38]のいずれかに記載の方法。
[40] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、
(a) TRIM21結合ドメインを有する親抗原結合分子を提供し、
(b) 当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入して改変TRIM21結合ドメインを含む候補分子を取得し、
(c) 当該改変TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティを決定し、
(d) 当該改変TRIM21結合ドメインが、当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインよりも高い又は低い結合アフィニティでTRIM21に結合する場合に、当該候補分子を好適な分子であると特定し、
(e) 当該好適な分子をコードする遺伝子と作動可能に連結された適切なプロモーターを含む発現ベクターを取得し、
(d) 当該ベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を培養して当該好適な分子を生産させ、
(e) 宿主細胞培養物から当該好適な分子を回収する、
ことを含み、
当該好適な分子の細胞質中での半減期が、親抗原結合分子と比較して増加又は減少している、方法。
[41] [40]に記載の方法であって、さらに、
(a) [40]で好適な分子であると特定された候補分子をコードする遺伝子と作動可能に連結された適切なプロモーターを含む発現ベクターを取得し、
(b) 当該ベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を培養して前記抗原結合分子を生産させ、
(c) 宿主細胞培養物から前記抗原結合分子を回収する、
ことを含む、方法。
[42] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子をスクリーニングする方法であって、
(a) TRIM21結合ドメインを有する親抗原結合分子を提供し、
(b) 当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入して改変TRIM21結合ドメインを含む候補分子を取得し、
(c) 当該改変TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティを決定し、
(d) 当該改変TRIM21結合ドメインが、当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインよりも高い又は低い結合アフィニティでTRIM21に結合する場合に、当該候補分子を好適な分子であると特定する、
ことを含み、
当該好適な分子の細胞質中での半減期が、親抗原結合分子と比較して増加又は減少している、方法。
[43] 親抗原結合分子と比較して抗原結合分子の細胞質中での半減期を増加又は減少させる方法であって、当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、当該TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす、方法。
[44] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、
親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに、EU253, EU428, EU433,およびEU435からなる群より選択される1つ又は複数の位置において、アミノ酸改変を導入することを含み、
一定量の当該抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量が、同量の当該親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して増加しており、
数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、方法。
[45] 前記1つ又は複数の位置におけるアミノ酸改変が、I253F, M428R, H433A,およびH435Aからなる群より選択される1つ又は複数のアミノ酸改変である、[44]に記載の方法。
[46] 前記1つ又は複数の位置におけるアミノ酸改変が、I253F, および/または M428Rである、[44]または[45]に記載の方法。
[47] 前記抗原結合分子が、細胞質への侵入能を有する、[44]~[46]のいずれかに記載の方法。
[48] 改変FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、親抗原結合分子のFcRn結合ドメインに、EU253, EU428, EU433,およびEU435からなる群より選択される1つ又は複数の位置において、アミノ酸改変を導入することを含み、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、方法。
[49] 前記1つ又は複数の位置におけるアミノ酸改変が、I253F, M428R, H433A,およびH435Aからなる群より選択される1つ又は複数のアミノ酸改変である、[48]に記載の方法。
[50] 前記1つ又は複数の位置におけるアミノ酸改変が、I253F, および/または M428Rである、[48]または[49]に記載の方法。
[51] 一定量、前記改変FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量が、同量の当該親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して増加している、[48]~[50]のいずれかに記載の方法。
[52] 前記抗原結合分子が、細胞質への侵入能を有する、[48]~[51]のいずれかに記載の方法。
[53] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子であって、当該改変TRIM21結合ドメインが、野生型のTRIM21結合ドメインと比較してTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす1又はそれ以上のアミノ酸改変を含み、当該改変の無いTRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子と比較して細胞質中での半減期が増加又は減少した抗原結合分子。
[54] 前記改変TRIM21結合ドメインが、EU253、EU309、EU311、EU312、EU314、EU315、EU345、EU428、EU432、EU433、EU434、EU435、EU436、EU437、EU438、EU439及びEU440からなる群より選択される1又はそれ以上の位置にアミノ酸置換を含み、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、[53]に記載の抗原結合分子。
[55] 前記改変TRIM21結合ドメインが、EU253, EU314, EU315, EU428, EU432, EU433, EU434, EU435, EU436及びEU437からなる群より選択される1又はそれ以上の位置にアミノ酸置換を含み、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、 [53]または[54]に記載の抗原結合分子。
[56] 前記改変TRIM21結合ドメインがEU253F、EU314K、EU428R、EU434G、EU436DおよびEU437Vからなる群より選択される1又はそれ以上のアミノ酸置換を含み、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、[53]~[55]のいずれかに記載の抗原結合分子。
[57] 細胞質への侵入能を有する、 [53]~[56]のいずれかに記載の抗原結合分子。
[58] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子であって、当該改変TRIM21結合ドメインが、EU253, EU428, EU433,およびEU435からなる群より選択される1つ又は複数の位置においてアミノ酸改変を含み、
当該改変の無いTRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子と比較して細胞質中での半減期が増加しており、
数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、抗原結合分子。
[59] 前記1つ又は複数の位置におけるアミノ酸改変が、I253F, M428R, H433A,およびH435Aからなる群より選択される1つ又は複数のアミノ酸改変である、 [58]に記載の抗原結合分子。
[60] 前記1つ又は複数の位置におけるアミノ酸改変が、I253F, および/または M428Rである、[58]または[59]に記載の抗原結合分子。
[61] 細胞質への侵入能を有する、[58]~[60]のいずれかに記載の抗原結合分子。
[62] 改変FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子であって、当該改変FcRn結合ドメインが、EU253, EU428, EU433,およびEU435からなる群より選択される1つ又は複数の位置においてアミノ酸を改変含み、数字がEUナンバリングであらわされる置換の位置を示す、抗原結合分子。
[63] 前記1つ又は複数の位置におけるアミノ酸改変が、I253F, M428R, H433A,およびH435Aからなる群より選択される1つ又は複数のアミノ酸改変である、 [62]に記載の抗原結合分子。
[64] 前記1つ又は複数の位置におけるアミノ酸改変が、I253F, および/または M428Rである、[62]または[63]に記載の抗原結合分子。
[65] 一定量、前記改変FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量が、同量の当該親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して増加している、[62]~[64]のいずれかに記載の方法。
[66]細胞質への侵入能を有する、[62]~[65]のいずれかに記載の抗原結合分子。
[67] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、当該TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらし、当該抗原結合分子のNF-kBシグナリング経路を活性化させる能力が、親抗原結合分子と比較して増加又は減少している、方法。
[68] 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法であって、当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、当該TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティの増加又は減少をもたらし、
当該抗原結合分子の炎症及び抗腫瘍反応を誘導する能力が、親抗原結合分子と比較して増加又は減少している、方法。
[69] 試料細胞中の細胞質抗原をイメージングする方法であって、改変TRIM21結合ドメインを含むラベルされた抗原結合分子を試料細胞と接触させることを含み、当該改変TRIM21結合ドメインが、野生型のTRIM21結合ドメインと比較してTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む、方法。
[70] 試料細胞中の細胞質抗原をイメージングする方法であって、改変TRIM21結合ドメインを含むラベルされた抗原結合分子を試料細胞にマイクロインジェクションすることを含み、当該改変TRIM21結合ドメインが、野生型のTRIM21結合ドメインと比較してTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む、方法。
[71] 前記抗原結合分子が、細胞質抗原結合ドメインを有する、[69]または[70]に記載の方法。
[72] [53]~[66]のいずれかに記載の抗原結合分子をコードする核酸。
[73] [72]に記載の核酸を含むベクター。
[74] [72]に記載の核酸、又は、[73]に記載のベクターを含む細胞。
[75] [74]に記載の細胞を培養することを含む、[53]~[66]のいずれかに記載の抗原結合分子を製造する方法。
[76] [53]~[66]のいずれかに記載の抗原結合分子、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の細胞質における挙動を示す模式図である。図1aはTRIM21への結合能を減弱した抗体の例である。TRIM21結合能を減弱した抗体はユビキチン-プロテアソーム系のリクルートが減少し、プロテアソームによる分解が抑制されるため、細胞質により多く蓄積することが可能であり、より多くの細胞質抗原に作用することが可能である。図1bはTRIM21への結合能を増強した抗体の例である。TRIM21結合能を増強した抗体はユビキチン-プロテアソーム系のリクルートが促進され、プロテアソームにおける分解が促進されるため、結合した細胞質抗原をプロテアソームでより多く分解することが可能である。
図2】3D8VH-G4T1E356K.Avi/hT4VL-KT0(WT)およびWTにhTRIM21結合能を減弱させる公知の改変H433AまたはH435Aを導入した抗体について、CHO細胞における細胞質中での蓄積を、抗体を含む培地を除去した後2時間後にBirAアッセイで評価した結果を示す図である。66kDaの下の矢印で示される部分に表示されるバンドが、BirAによってビオチン標識された抗体を表すHRPの発光シグナルである。
図3】3D8VH-G4T1E356K.Avi/hT4VL-KT0(WT)およびWTにhTRIM21結合能を減弱させる公知の改変H433AまたはH435Aを導入した抗体について、Hela細胞における細胞質中での蓄積を、抗体を含む培地を除去した後2時間後にBirAアッセイで評価した結果を示す図である。66kDaの下の矢印で示される部分に表示されるバンドが、BirAによってビオチン標識された抗体を表すHRPの発光シグナルである。
図4】3D8VH-G1m.Avi/hT4VL-KT0(WT)およびWTにhTRIM21結合能を減弱または増強させる改変を導入した抗体について、CHO細胞における細胞質中での蓄積を、抗体を含む培地を除去した後2時間後および4時間後に、BirAアッセイで評価した結果を示す図である。66kDaの下の矢印で示される部分に表示されるバンドが、BirAによってビオチン標識された抗体を表すHRPの発光シグナルである。
図5】3D8VH-G1m.Avi/hT4VL-KT0(WT)およびWTにhTRIM21結合能を減弱または増強させる改変を導入した抗体について、Hela細胞における細胞質中での蓄積を、抗体を含む培地を除去した後2時間後および4時間後に、BirAアッセイで評価した結果を示す図である。66kDaの下の矢印で示される部分に表示されるバンドが、BirAによってビオチン標識された抗体を表すHRPの発光シグナルである。
図6】hTRIM21結合能を減弱または増強させる改変を導入した抗体について、Hela細胞における細胞質中での蓄積を蛍光顕微鏡を用いたイメージング解析で評価した結果を示す図である。図6(1)は各検出時間における蛍光シグナルを細胞数で標準化した値をプロットしたグラフであり、縦軸は蛍光シグナル(A.U.: Arbitrary Unit)、横軸は抗体を含む培地を除去した後の時間である。図6(2)は各検出時間における蛍光顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
I.定義
本明細書の趣旨での「アクセプターヒトフレームワーク」は、下で定義するヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに由来する、軽鎖可変ドメイン (VL) フレームワークまたは重鎖可変ドメイン (VH) フレームワークのアミノ酸配列を含む、フレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに「由来する」アクセプターヒトフレームワークは、それらの同じアミノ酸配列を含んでもよいし、またはアミノ酸配列の変更を含んでいてもよい。いくつかの態様において、アミノ酸の変更の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、または2以下である。いくつかの態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列またはヒトコンセンサスフレームワーク配列と、配列が同一である。
【0012】
用語「抗原結合分子」は、その最も広い意味において、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。一態様において、抗原結合分子は、TRIM21結合ドメインを有する抗体、抗体断片、または抗体誘導体である。
【0013】
「アフィニティ」は、分子(例えば、抗体)の結合部位1個と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度のことをいう。別段示さない限り、本明細書で用いられる「結合アフィニティ」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合アフィニティのことをいう。分子XのそのパートナーYに対するアフィニティは、一般的に、解離定数 (Kd) により表すことができる。アフィニティは、本明細書に記載のものを含む、当該技術分野において知られた通常の方法によって測定され得る。結合アフィニティを測定するための具体的な実例となるおよび例示的な態様については、下で述べる。
【0014】
「アフィニティ成熟」抗体は、改変を備えていない親抗体と比較して、1つまたは複数の超可変領域 (hypervariable region: HVR) 中に抗体の抗原に対するアフィニティの改善をもたらす1つまたは複数の改変を伴う、抗体のことをいう。
【0015】
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0016】
本明細書で用いられる「アゴニスト」抗原結合分子または「アゴニスト」抗体は、それが結合する抗原の生物学的活性を有意に増強する抗体である。
【0017】
本明細書で用いられる「阻止」抗原結合分子または「阻止」抗体、あるいは「アンタゴニスト」抗原結合分子または「アンタゴニスト」抗体は、それが結合する抗原の生物学的活性を(部分的にまたは完全にのいずれでも)有意に阻害する抗体である。
【0018】
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab’-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および、抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0019】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」は、競合アッセイにおいてその参照抗体が自身の抗原へする結合を50%以上阻止する抗体のことをいい、また逆にいえば、参照抗体は、競合アッセイにおいて前述の抗体が自身の抗原へする結合を50%以上阻止する。例示的な競合アッセイが、本明細書で提供される。
【0020】
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体のことをいう。
【0021】
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
【0022】
本明細書でいう用語「細胞傷害剤」は、細胞の機能を阻害するまたは妨げる、および/または細胞の死または破壊の原因となる物質のことをいう。細胞傷害剤は、これらに限定されるものではないが、放射性同位体(例えば、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212PbおよびLuの放射性同位体);化学療法剤または化学療法薬(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド類(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン、または他のインターカレート剤);増殖阻害剤;核酸分解酵素などの酵素およびその断片;抗生物質;例えば、低分子毒素または細菌、真菌、植物、または動物起源の酵素的に活性な毒素(その断片および/または変異体を含む)などの、毒素;および、以下に開示される、種々の抗腫瘍剤または抗がん剤を含む。
【0023】
「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因する、抗体のアイソタイプによって異なる生物学的活性のことをいう。抗体のエフェクター機能の例には次のものが含まれる:C1q結合および補体依存性細胞傷害(complement dependent cytotoxicity:CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity: ADCC);貪食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;および、B細胞活性化。
【0024】
ある剤(例えば、薬学的製剤)の「有効量」は、所望の治療的または予防的結果を達成するために有効である、必要な用量におけるおよび必要な期間にわたっての、量のことをいう。
【0025】
本明細書で用語「Fc領域」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異体Fc領域を含む。一態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細書では別段特定しない限り、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。
【0026】
本明細書において、Fc領域または定常領域中のアミノ酸改変または置換は、EUナンバリングシステムとアミノ酸との組合せによって表され得る。たとえば、S424Nは、EUナンバリング424位のセリン(Ser)のアスパラギン(Asn)への置換を表す。また、EU424Nは、424位のアミノ酸(種類を問わない)のアスパラギン(Asn)への置換を表す。
【0027】
本明細書で用語「Fc領域含有抗体」は、Fc領域を含む抗体のことをいう。Fc領域のC末端リジン(EUナンバリングシステムにしたがえば残基447)またはFc領域のC末端グリシン-リジン(残基446-447)は、例えば抗体の精製の間にまたは抗体をコードする核酸の組み換え操作によって除去され得る。したがって、本開示によるFc領域を有する抗体を含む組成物は、G446-K447を伴う抗体、G446を伴いK447を伴わない抗体、G446-K447が完全に除去された抗体、または上記3つのタイプの抗体の混合物を含み得る。
【0028】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残基のことをいう。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0029】
用語「全長抗体」、「完全抗体」、および「全部抗体」は、本明細書では相互に交換可能に用いられ、天然型抗体構造に実質的に類似した構造を有する、または本明細書で定義するFc領域を含む重鎖を有する抗体のことをいう。
【0030】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)のことをいう。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされたまたは選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
【0031】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。
【0032】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択群において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。一態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。一態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
【0033】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体のことをいう。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体のことをいう。
【0034】
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらにしたがって番号付けされる。
【0035】
「イムノコンジュゲート」は、1つまたは複数の異種の分子にコンジュゲートされた抗体である(異種の分子は、これに限定されるものではないが、細胞傷害剤を含む)。
【0036】
「個体」または「被験体」は哺乳動物である。哺乳動物は、これらに限定されるものではないが、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、ならびに、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む。特定の態様では、個体または被験体は、ヒトである。
【0037】
「単離された」抗体は、そのもともとの環境の成分から分離されたものである。いくつかの態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点分離法 (isoelectric focusing: IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフ(例えば、イオン交換または逆相HPLC)で測定して、95%または99%を超える純度まで精製される。抗体の純度の評価のための方法の総説として、例えば、Flatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007) を参照のこと。
【0038】
「単離された」核酸は、そのもともとの環境の成分から分離された核酸分子のことをいう。単離された核酸は、その核酸分子を通常含む細胞の中に含まれた核酸分子を含むが、その核酸分子は染色体外に存在しているかまたは本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。
【0039】
「TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子をコードする単離された核酸」は、抗原結合分子をコードする1つまたは複数の核酸分子のことをいい、1つのベクターまたは別々のベクターに乗っている核酸分子、および、宿主細胞中の1つまたは複数の位置に存在している核酸分子を含む。TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が抗体である場合、「TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子をコードする単離された核酸」は、抗体の重鎖および軽鎖(またはその断片)をコードする1つまたは複数の核酸分子のことをいい、1つのベクターまたは別々のベクターに乗っている核酸分子、および、宿主細胞中の1つまたは複数の位置に存在している核酸分子を含む。
【0040】
本明細書でいう用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体のことをいう。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、生じ得る変異抗体(例えば、自然に生じる変異を含む変異抗体、またはモノクローナル抗体調製物の製造中に発生する変異抗体。そのような変異体は通常若干量存在している。)を除いて、同一でありおよび/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるものである、という抗体の特徴を示し、何らかの特定の方法による抗体の製造を求めるものと解釈されるべきではない。例えば、本開示にしたがって用いられるモノクローナル抗体は、これらに限定されるものではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含んだトランスジェニック動物を利用する方法を含む、様々な手法によって作成されてよく、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法および他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0041】
「裸抗体」は、異種の部分(例えば、細胞傷害部分)または放射性標識にコンジュゲートされていない抗体のことをいう。裸抗体は、薬学的製剤中に存在していてもよい。
【0042】
「天然型抗体」は、天然に生じる様々な構造を伴う免疫グロブリン分子のことをいう。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VH) を有し、それに3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)が続く。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VL) を有し、それに定常軽鎖 (CL) ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプの1つに帰属させられてよい。
【0043】
用語「細胞質侵入抗原結合分子」は、生きている細胞の細胞質中に侵入することができる抗原結合分子をいう。細胞質中への侵入方法は特に限定されず、エンドサイトーシス(endocytosis) 過程を介して取り込まれた後に、エンドソーム脱出(endosome escape)を経ても良いし、それ以外の方法であっても良い。エンドソーム脱出以外の例としては、抗原結合分子が、細胞膜を直接透過する場合が挙げられる。同一の抗原結合分子が、エンドソーム脱出と細胞膜の直接透過の両方の方法で、細胞質中に侵入してもよい。エンドソーム脱出とは異なる方法で、細胞質中に侵入することのできる抗原結合分子が報告されている(例えば、WO2013102659)。一態様において、細胞質侵入抗原結合分子は抗体または抗体誘導体である。別の一態様において、細胞質侵入抗原結合分子は、細胞質侵入ドメインを含む。
【0044】
用語「細胞質侵入ドメイン」は、生きている細胞の細胞質中に侵入することができるドメインをいう。細胞質中への侵入方法は特に限定されず、エンドサイトーシス(endocytosis) 過程を介して取り込まれた後に、エンドソーム脱出(endosome escape)を経ても良いし、それ以外の方法であっても良い。エンドソーム脱出以外の例としては、抗原結合分子が、細胞膜を直接透過する場合が挙げられる。同一の抗原結合分子が、エンドソーム脱出と細胞膜の直接透過の両方の方法で、細胞質中に侵入してもよい。細胞質侵入ドメインは、細胞質侵入能を有するものであればその種類を問わないが、好ましい一態様において、抗体の可変領域(重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域)、抗体の定常領域、ペプチド部分、核酸部分である。細胞質侵入ドメインが抗体の可変領域または定常領域である場合、細胞質侵入ドメインは、当該可変領域または定常領域の一部であっても良いし、全部であっても良い。細胞質侵入ドメインであるペプチド部分の例としては、細胞膜透過ペプチド(cell-penetrating peptide、CPP)、膜透過ペプチド(protein transduction domain、PTD)などが挙げられる(例えば、WO2017156630参照)。細胞質侵入ドメインである核酸部分の例としては、phosophorothioate骨格を有するオリゴ核酸が挙げられる(例えば、WO2015031837参照)。一態様において、細胞質侵入抗原結合分子は、細胞質侵入能を有しない抗原結合分子と細胞質侵入ドメインの融合体または複合体である。
【0045】
用語「添付文書」は、治療用品の商用パッケージに通常含まれ、そのような治療用品の使用に関する、適応症、用法、用量、投与方法、併用療法、禁忌、および/または警告についての情報を含む使用説明書のことをいうために用いられる。
【0046】
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとしたときの、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の、百分率比として定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における技術の範囲内にある種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign (DNASTAR) ソフトウェア、またはGENETYX(登録商標)(株式会社ゼネティックス)などの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。
【0047】
ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁 (U.S. Copyright Office, Wasington D.C., 20559) に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社 (Genentech, Inc., South San Francisco, California) から公に入手可能であるし、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる。すべての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落で述べたとおりALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
【0048】
用語「薬学的製剤」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される被験体に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物のことをいう。
【0049】
「薬学的に許容される担体」は、被験体に対して無毒な、薬学的製剤中の有効成分以外の成分のことをいう。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。
【0050】
用語「TRIM21」は、別名を、トリパータイトモチーフ含有タンパク質21(Tripartite motif-containing protein 21)、E3ユビキチン-タンパク質リガーゼTRIM21(E3 ubiquitin-protein ligase TRIM21)又はRo52といい、E3ユビキチンリガーゼ活性を有するタンパク質である。また、TRIM21は、N末端側にRING, B-Box, coiled-coilの3つのドメインを有し、これら3ドメインを共通に有する、トリパータイト(tripartite)モチーフ(TRIM)ファミリーのメンバーである。TRIM21は、C末端のB30.2ドメイン(PRYSPRYドメイン)が、抗体FcドメインのCH2-CH3ドメイン、特にCH2-CH3ドメイン界面(CH2-CH3 domain interface)に結合することができる。TRIM21は、病原体に結合し細胞質内に取り込まれた抗体のFcドメインに高い親和性で結合し、ユビキチン・プロテアソーム系をリクルートして、抗体が結合した病原体(RNA/DNAウイルス、バクテリア)を分解することが報告されている。また、TRIM21 は、細胞質内に取り込まれた抗体の Fc 領域へ結合して NFκBシグナルや IFN シグナルを介して自然免疫応答を活性化し、細胞内感染の検出システムとして機能することも報告されている。
【0051】
本明細書でいう用語「TRIM21」は、別段示さない限り、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源からの任意の天然型TRIM21のことをいう。この用語は、「全長」のプロセシングを受けていないTRIM21も、細胞中でのプロセシングの結果生じるいかなる形態のTRIM21も包含する。この用語はまた、自然に生じるTRIM21の変異体、例えば、スプライス変異体や対立遺伝子変異体も包含する。例示的なヒトTRIM21のアミノ酸配列を、配列番号:1(NCBI accession: NP_003132)に、核酸配列を配列番号:2(NCBI accession: NM_003141)に示した。例示的なマウスTRIM21のアミノ酸配列を、配列番号:3(GenBank accession: CAJ18544)に、核酸配列を配列番号:4(GenBank accession: CT010336)に示した。また、例示的なヒトTRIM21のPRYSPRYドメインのアミノ酸配列を、配列番号:5に示し、例示的なマウスTRIM21のPRYSPRYドメインのアミノ酸配列は配列番号:6に示した。
【0052】
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」など)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のためにも、臨床的病態の経過の間にも実施され得る。治療の望ましい効果は、これらに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。いくつかの態様において、本開示の抗原結合分子は、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
【0053】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインのことをいう。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
【0054】
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子のことをいう。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。
【0055】
本明細書で用いられる表現「実質的に減少した」、「実質的に増加した」または「実質的に異なる」は、2つの数値の間(通常、ある分子に関するものと、参照/比較用分子に関するものの間)の差が、当業者がそれら2つの数値の間の差が該数値(例えば、KD値)によって測定される生物学的特徴の観点で統計学的に有意であるとみなす程度に、充分に大きいことをいう。
【0056】
本明細書で用いられる用語「実質的に類似の」、「実質的に変化しない」または「実質的に同じ」は、2つの数値の間(例えば、本開示の抗原結合分子に関するものと、参照/比較用抗原結合分子に関するものの間)の類似性が、当業者がそれら2つの数値の間の差が該数値(例えば、KD値)によって測定される生物学的特徴の観点でほとんどまたはまったく生物学的および/または統計学的に有意性がないとみなす程度に、充分高いことをいう。
【0057】
II.組成物および方法
一局面において、本開示は、抗原結合分子中のTRIM21結合ドメインの改変が、細胞質中での抗原結合分子の半減期に影響を及ぼすという発見に一部基づくものである。特定の態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が提供される。本開示の抗原結合分子は、例えば、細胞質抗原に起因する疾患の診断または治療のために、有用である。
【0058】
A.改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子
一局面において、本開示は、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子であって、親抗原結合分子と比較して細胞質中での半減期が増加又は減少した抗原結合分子を提供する。一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、野生型のTRIM21結合ドメインと比較してTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、EU253, EU309, EU311, EU312, EU314, EU315, EU345, EU428, EU432, EU433, EU434, EU435, EU436, EU437, EU438, EU439, およびEU440からなる群より選択される1つ又は複数の位置において、TRIM21結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む。本開示の抗原結合分子はまた、さらなる位置に置換を含み得る。
【0059】
本開示の改変TRIM21結合ドメインは、2つ以上の位置に置換を含んでもよく、これは本開示で置換の「組み合わせ」と称される。例えば、組み合わせ「EU424/EU434/EU436」によって規定されるTRIM21結合ドメインは、EU424位、EU434位、およびEU436位に置換を含むTRIM21結合ドメインである。一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、表1-1に記載されたアミノ酸置換の組み合わせのうちの少なくとも1つを含む。これらアミノ酸置換の組み合わせの具体例が、表5および6において例示される。
【0060】
【表1-1】
【0061】
本明細書で用いられる「TRIM21結合ドメイン」という用語は、TRIM21に直接または間接的に結合するタンパク質ドメインを意味する。一態様において、TRIM21は哺乳動物TRIM21であり、好ましくはヒトTRIM21であってよい。さらに好ましい一態様において、TRIM21結合ドメインは、ヒトTRIM21及びマウスTRIM21の両方に結合する。TRIM21に直接結合するTRIM21結合ドメインの例は、抗体Fc領域である。一方、ヒトTRIM21結合活性を有する、IgGなどのポリペプチドに結合し得る領域は、IgG等を介してヒトTRIM21に間接的に結合することができる。したがって、このようなヒトTRIM21結合ドメインは、ヒトTRIM21結合活性を有するポリペプチドに結合する領域であってよい。
【0062】
一態様において、TRIM21、好ましい一態様において哺乳動物TRIM21、より好ましい一態様においてヒトTRIM21に直接結合するTRIM21結合ドメインは、Fc領域または抗原結合分子のFc領域である。具体的には、TRIM21結合ドメインは抗体のFc領域である。好ましい一態様において、TRIM21結合ドメインは哺乳動物Fc領域であり、より好ましい一態様においてヒトFc領域である。具体的には、本開示のTRIM21結合ドメインは、ヒト免疫グロブリンの第2および第3定常ドメイン(CH2およびCH3)、より好ましい一態様においてヒンジ、CH2、およびCH3を含むFc領域である。好ましい一態様において、免疫グロブリンはIgGである。好ましい一態様において、TRIM21結合ドメインはヒトIgG1のFc領域である。
【0063】
「TRIM21に対する結合アフィニティが増加する」とは、親抗原結合分子のTRIM21に対する結合アフィニティと比較して増加するこという。「TRIM21に対する結合アフィニティが減少する」とは、親抗原結合分子のTRIM21に対する結合アフィニティと比較して減少することをいう。
【0064】
本明細書における用語「親抗原結合分子」は、本開示のアミノ酸改変、すなわち、TRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含まない抗原結合分子であって、その他の部分は改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子と同一であるものをいう。親抗原結合分子は、野生型のFc領域を含む抗原結合分子であっても良いし、改変Fc領域を含む抗原結合分子であっても良い。抗原結合分子は、好ましい一態様において抗体または抗体誘導体である。用語「野生型」は、自然界に存在する配列をいう。
【0065】
結合アフィニティを、解離定数 (KD) により表す場合、「TRIM21に対する結合アフィニティが増加する」ことは、親抗原結合分子がTRIM21に結合するときのKD値よりも、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子がTRIM21に結合するときのKD値が小さいことによって示され得る。また、「TRIM21に対する結合アフィニティが減少する」ことは、親抗原結合分子がTRIM21に結合するときのKD値よりも、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子がTRIM21に結合するときのKD値が大きいことによって示され得る。
【0066】
TRIM21に対する結合アフィニティを測定する場合、その条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、本開示の実施例に記載されているように、HBS-Pバッファー、25℃、pH7.4の条件 において測定することが可能である。また、抗原結合分子またはTRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティ(KD)の測定は、当業者に公知の方法で行うことが可能であり、例えば、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定することが可能である。抗原結合分子(またはTRIM21結合ドメイン)のTRIM21に対する結合アフィニティの測定は、例えば、抗原結合分子(またはTRIM21結合ドメイン)を固定化したチップへ、TRIM21をアナライトとして流すことで評価することが可能である。
【0067】
TRIM21は、細胞質内に取り込まれた抗体のFc領域へ結合してNF-kappaBシグナルやIFNシグナルを介して自然免疫応答・炎症を活性化する。TRIM21への結合アフィニティが減少したFcを含む抗ヒト5型アデノウイルス抗体が活性化するNF-kappaBシグナルは、野生型のFcを含む抗ヒト5型アデノウイルス抗体が活性化するNF-kappaBシグナルよりも減少することが報告されている(Nat Immunol. 2013 Apr;14(4):327-36)。したがって、一態様において、TRIM21に対する結合アフィニティの減少をもたらすアミノ酸改変を含む改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、NF-kappaBシグナルの活性化能が減少している。本開示が提供する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を治療用組成物として用いる場合、NF-kappaBシグナルの活性化能が減少した抗原結合分子は、副作用としての炎症反応が発現しないまたは低減されていることが期待できる。
【0068】
B.改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が増加した抗原結合分子
一局面において、本開示は、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子であって、親抗原結合分子と比較して細胞質中での半減期が増加した抗原結合分子を提供する。改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が細胞質抗原結合ドメインを含む場合、当該抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、細胞質抗原の除去能が低下していることが期待できる。または、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が、細胞質抗原に対するアゴニスト抗原結合分子またはアンタゴニスト抗原結合分子である場合、当該抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、長いまたは増強されたアゴニスト活性またはアンタゴニスト活性を発揮することが期待できる。一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、野生型のTRIM21結合ドメインと比較してTRIM21に対する結合アフィニティの増加または減少をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。好ましい一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、野生型のTRIM21結合ドメインと比較して、ヒトTRIM21またはマウスTRIM21に対する結合アフィニティの減少をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。さらに好ましい一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、野生型のTRIM21結合ドメインと比較して、ヒトTRIM21およびマウスTRIM21に対する結合アフィニティの減少をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。
【0069】
置換後のアミノ酸(親TRIM21結合ドメイン中のアミノ酸を置換するアミノ酸)は、本明細書において具体的に言及されない限り、アラニン(Ala、A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン酸(glu、E)、グルタミン(gln、Q)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、スレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、およびバリン(val、V)からなる群を含むがこれらに限定されない任意のアミノ酸であってよい。
【0070】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が増加した抗原結合分子は、EU253, EU309, EU311, EU312, EU314, EU315, EU345, EU428, EU432, EU433, EU434, EU435, EU436, EU437, EU438, EU439, およびEU440からなる群より選択される1つ又は複数の位置において、TRIM21結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む。好ましい一態様において、本開示の抗原結合分子は、EU253, EU314, EU315, EU428, EU432, EU433, EU434, EU435, EU436, およびEU437からなる群より選択される1つ又は複数の位置において、TRIM21結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む。置換後のアミノ酸は、本明細書において具体的に言及されない限り、任意のアミノ酸であってよい。
【0071】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が増加した抗原結合分子は、野生型のTRIM21結合ドメインと比較してTRIM21に対する結合アフィニティの減少をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。
そのようなアミノ酸改変として、EU253, EU314, EU315, EU428, EU432, EU433, EU434, EU435, EU436, およびEU437に対する好ましい置換後のアミノ酸を表1-2に示す。好ましい一態様において、本開示の抗原結合分子は、表1-2に記載されたアミノ酸置換のうちの少なくとも1つを含む。別の態様において、本開示の抗原結合分子はアミノ酸改変の組み合わせを含んでいても良く、そのようなアミノ酸置換の組み合わせの具体例が、表5および6において例示される。
【0072】
【表1-2】
【0073】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が増加した抗原結合分子は、野生型のTRIM21結合ドメインと比較してTRIM21に対する結合アフィニティの増加をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。そのようなアミノ酸改変の例として、EU253のPheへの置換が挙げられる。
【0074】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の細胞質中での半減期が増加するとは、a)改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の、当該細胞の細胞質中に存在する抗原結合分子量が、b)親抗原結合分子を細胞と接触させた後の、当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して、増加することを意味する。ここで、前記a)およびb)における細胞は、同一の細胞株(Cell Line)由来である。好ましい一態様において、当該細胞株は、Hela細胞株、CHO細胞株、又はHepG2細胞株である。細胞に接触させる抗原結合分子の量は、任意に決定されてよいが、前記a)における抗原結合分子量と前記b)における親抗原結合分子量は同量である。抗原結合分子と細胞との接触は、インキュベーションおよびマイクロインジェクションを含む任意の方法で行われる。
【0075】
一態様において、細胞質中に存在する抗原結合分子量は、当該抗原結合分子を細胞と接触させた後、0時間後、0.25時間後、0.5時間後、1時間後、1.5時間後、2時間後、2.5時間後、3時間後、3.5時間後、4時間後、4.5時間後、5時間後、5.5時間後、6時間後、6.5時間後、7時間後、7.5時間後、8時間後、8.5時間後、9時間後、9.5時間後、10時間後、11時間後、12時間後、13時間後、14時間後、15時間後、および/または16時間後に測定される。細胞質中に存在する抗原結合分子量は、当該抗原結合分子を細胞と接触させた後、一度だけ測定しても良いし、複数回測定しても良い。細胞質中に存在する細胞質中に存在する抗原結合分子量を複数回測定することによって、時間の経過に伴う、細胞質中に存在する抗原結合分子量の変化を観察することが可能である。
【0076】
例えば、抗原結合分子を細胞と接触させた後、0時間後、0.5時間後、1時間後、2時間後、および2時間後の各時点、または、2時間後および4時間後の各時点で、細胞質中の抗原結合分子量を測定することによって、各時点における、a) 細胞質中に存在する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子量、およびb)細胞質中に存在する親抗原結合分子量を比較することが可能である。この場合、任意の時点において、a) 細胞質中に存在する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子量が、b)細胞質中に存在する親抗原結合分子量より多い場合、又は、抗原結合分子を細胞と接触させた後、a) 細胞質中に存在する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が検出されなくなるまでの時間が、b) 細胞質中に存在する親抗原結合分子が検出されなくなるまでの時間より長い場合に、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の細胞質中での半減期が増加したことが示される。
【0077】
好ましい一態様において、a)改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の、任意の時点における当該細胞の細胞質中に存在する抗原結合分子量は、b)同時点における当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量の、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、または少なくとも10倍である。別の好ましい一態様において、抗原結合分子を細胞と接触させた後、a) 細胞質中に存在する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が検出されなくなるまでの時間は、b) 細胞質中に存在する親抗原結合分子が検出されなくなるまでの時間の、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、または少なくとも10倍である。
【0078】
一態様において、任意の時点における細胞質中に存在する抗原結合分子量をHRP発光シグナルまたは蛍光シグナルであらわす場合、a)改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の、任意の時点におけるHRP発光シグナル強度または蛍光シグナル強度は、b) 親抗原結合分子を細胞と接触させた後の、a)と同時点におけるHRP発光シグナル強度または蛍光シグナル強度の、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、または少なくとも10倍である。別の好ましい一態様において、a) 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後、HRP発光シグナルまたは蛍光シグナルが検出されなくなるまでの時間は、b) 親抗原結合分子を細胞と接触させた後、HRP発光シグナルまたは蛍光シグナルが検出されなくなるまでの時間の、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、または少なくとも10倍である。
【0079】
C.改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が減少した抗原結合分子
一局面において、本開示は、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子であって、親抗原結合分子と比較して細胞質中での半減期が減少した抗原結合分子を提供する。当該改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が細胞質抗原結合ドメインを含む場合、当該抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、細胞質抗原の除去能が向上していることが期待できる。一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、野生型のTRIM21結合ドメインと比較してTRIM21に対する結合アフィニティの増加をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。好ましい一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、野生型のTRIM21結合ドメインと比較して、ヒトTRIM21またはマウスTRIM21に対する結合アフィニティの増加をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。さらに好ましい一態様において、改変TRIM21結合ドメインは、野生型のTRIM21結合ドメインと比較して、ヒトTRIM21およびマウスTRIM21に対する結合アフィニティの増加をもたらす、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。
【0080】
置換後のアミノ酸(親TRIM21結合ドメイン中のアミノ酸を置換するアミノ酸)は、本明細書において具体的に言及されない限り、アラニン(Ala、A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン酸(glu、E)、グルタミン(gln、Q)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、スレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、およびバリン(val、V)からなる群を含むがこれらに限定されない任意のアミノ酸であってよい。
【0081】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が減少した抗原結合分子は、EU253, EU309, EU311, EU312, EU314, EU315, EU345, EU428, EU432, EU433, EU434, EU435, EU436, EU437, EU438, EU439, およびEU440からなる群より選択される1つ又は複数の位置において、TRIM21結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む。好ましい一態様において、本開示の抗原結合分子は、EU253, EU309, EU311, EU312, EU314, EU315, EU428, EU432, EU434, EU436, EU437, EU438, EU439, およびEU440からなる群より選択される1つ又は複数の位置において、TRIM21結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む。置換後のアミノ酸は、本明細書において具体的に言及されない限り、任意のアミノ酸であってよい。
【0082】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の細胞質中での半減期が減少するとは、a)改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の、当該細胞の細胞質中に存在する抗原結合分子量が、b)親抗原結合分子を細胞と接触させた後の、当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して、減少することを意味する。ここで、前記a)およびb)における細胞は、同一の細胞株(Cell Line)由来である。好ましい一態様において、当該細胞は、Hela細胞株、CHO細胞株、又はHepG2細胞株である。細胞に接触させる抗原結合分子の量は、任意に決定されてよいが、前記a)における抗原結合分子量と前記b)における親抗原結合分子量は同量である。抗原結合分子と細胞との接触は、インキュベーションおよびマイクロインジェクションを含む任意の方法で行われる。
【0083】
一態様において、細胞質中に存在する抗原結合分子量は、当該抗原結合分子を細胞と接触させた後、0時間後、0.25時間後、0.5時間後、1時間後、1.5時間後、2時間後、2.5時間後、3時間後、3.5時間後、4時間後、4.5時間後、5時間後、5.5時間後、6時間後、6.5時間後、7時間後、7.5時間後、8時間後、8.5時間後、9時間後、9.5時間後、10時間後、11時間後、12時間後、13時間後、14時間後、15時間後、および/または16時間後に測定される。細胞質中に存在する抗原結合分子量は、当該抗原結合分子を細胞と接触させた後、一度だけ測定しても良いし、複数回測定しても良い。細胞質中に存在する抗原結合分子量を複数回測定することによって、時間の経過に伴う、細胞質中に存在する抗原結合分子量の変化を観察することが可能である。
【0084】
例えば、抗原結合分子を細胞と接触させた後、0時間後、0.5時間後、1時間後、1.5時間後、および2時間後の各時点で、細胞質中の抗原結合分子量を測定することによって、各時点における、a) 細胞質中に存在する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子量、およびb)細胞質中に存在する親抗原結合分子量を比較することが可能である。この場合、任意の時点において、a) 細胞質中に存在する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子量が、b)細胞質中に存在する親抗原結合分子量より少ない場合、又は、抗原結合分子を細胞と接触させた後、a) 細胞質中に存在する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が検出されなくなるまでの時間が、b) 細胞質中に存在する親抗原結合分子が検出されなくなるまでの時間より短い場合に、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の細胞質中での半減期が増加したことが示される。
【0085】
好ましい一態様において、a)改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の、任意の時点における当該細胞の細胞質中に存在する抗原結合分子量は、b)同時点における当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量の、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、または0.3倍以下である。別の好ましい一態様において、抗原結合分子を細胞と接触させた後、a) 細胞質中に存在する改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が検出されなくなるまでの時間は、b) 細胞質中に存在する親抗原結合分子が検出されなくなるまでの時間の、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、または0.3倍以下である。
【0086】
任意の時点における細胞質中に存在する抗原結合分子量をHRP発光シグナルまたは蛍光シグナルであらわす場合、好ましい一態様において、a)改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の、任意の時点におけるHRP発光シグナル強度または蛍光シグナル強度は、b) 親抗原結合分子を細胞と接触させた後の、a)と同時点におけるHRP発光シグナル強度または蛍光シグナル強度の、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、または0.3倍以下である。別の好ましい一態様において、a) 改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後、HRP発光シグナルまたは蛍光シグナルが検出されなくなるまでの時間は、b) 親抗原結合分子を細胞と接触させた後、HRP発光シグナルまたは蛍光シグナルが検出されなくなるまでの時間の、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、または0.3倍以下である。
【0087】
D.FcRn結合ドメイン
本明細書「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体のことをいう。Fc受容体は、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球、および肥満細胞などの免疫細胞の表面上のタンパク質である。Fc受容体は、感染細胞または侵入病原体に付着した抗体のFc(結晶性フラグメント)領域に結合し、食細胞または細胞傷害性細胞を刺激して、抗体媒介性食作用または抗体依存性細胞介在性細胞傷害によって微生物または感染細胞を破壊する。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む。(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997) を参照のこと。)FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126:330-41 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
【0088】
用語「Fc受容体」または「FcR」はまた、母体のIgGの胎児への移動(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))ならびに免疫グロブリンのホメオスタシスの調節を担う、新生児型受容体FcRnを含む。FcRnへの結合を測定する方法は公知である(例えば、Ghetie and Ward., Immunol. Today 18(12):592-598 (1997); Ghetie et al., Nature Biotechnology, 15(7):637-640 (1997); Hinton et al., J. Biol. Chem. 279(8):6213-6216 (2004); WO2004/92219 (Hinton et al.)を参照のこと)。
【0089】
インビボでのヒトFcRnへの結合およびヒトFcRn高アフィニティ結合ポリペプチドの血漿半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクトされたヒト細胞株においてまたは変異Fc領域を伴うポリペプチドが投与される霊長類において測定され得る。WO2000/42072 (Presta) は、FcRに対する結合が増加したまたは減少した抗体変異体を記載している。例えば、Shields et al. J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001) も参照のこと。
【0090】
本明細書で用いられる「FcRn結合ドメイン」という用語は、FcRnに直接または間接的に結合するタンパク質ドメインを意味する。好ましい一態様においてFcRnは哺乳動物FcRnであり、より好ましい一態様においてヒトFcRnである。FcRnに直接結合するFcRn結合ドメインの例は、抗体Fc領域である。一方、ヒトFcRn結合活性を有する、アルブミンまたはIgGなどのポリペプチドに結合し得る領域は、アルブミン、IgG等を介してヒトFcRnに間接的に結合することができる。したがって、このようなヒトFcRn結合領域は、ヒトFcRn結合活性を有するポリペプチドに結合する領域であってよい。
【0091】
一態様において、FcRn、好ましい一態様において哺乳動物FcRn、より好ましい一態様においてヒトFcRnに直接結合するFcRn結合ドメインは、Fc領域または抗原結合分子のFc領域である。具体的には、FcRn結合ドメインは抗体のFc領域である。好ましい一態様において、FcRn結合ドメインは哺乳動物Fc領域であり、より好ましい一態様においてヒトFc領域である。具体的には、本開示のFcRn結合ドメインは、ヒト免疫グロブリンの第2および第3定常ドメイン(CH2およびCH3)、より好ましい一態様においてヒンジ、CH2、およびCH3を含むFc領域である。好ましい一態様において、免疫グロブリンはIgGである。好ましい一態様において、FcRn結合ドメインはヒトIgG1のFc領域である。
【0092】
一態様において、FcRn結合ドメインは、TRIM21結合ドメインと別個のドメインであってもよい。別の一態様において、FcRn結合ドメインとTRIM21結合ドメインは、全部または一部が互いに重なり合っていてもよい。好ましい一態様において、FcRn結合ドメインとTRIM21結合ドメインは同一のFc領域であり、より好ましい一態様において、同一のヒトFc領域である。
【0093】
一態様において、本開示における改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、実質的に同じFcRnへの結合アフィニティを有する。一態様において、本開示における改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、増強したFcRnへの結合アフィニティを有する。別の一態様において、本開示における改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、減少したFcRnへの結合アフィニティを有する。
【0094】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含み、親抗原結合分子と比較して、増強したFcRnへの結合アフィニティを有する抗原結合分子は、表4(2)のグループA, C, EおよびGに含まれるアミノ酸改変からなる群より選択される、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。別の態様において、改変TRIM21結合ドメインを含み、親抗原結合分子と比較して、減少したFcRnへの結合アフィニティを有する抗原結合分子は、表4(2)のグループB, D, FおよびHに含まれるアミノ酸改変からなる群より選択される、1又はそれ以上のアミノ酸改変を含む。
【0095】
E.プロテインA結合ドメイン
本明細書で用いられる「プロテインA」という用語は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)という細菌の細胞壁で最初に見いだされた56kDaのMSCRAMM表面タンパク質を指すことを意図している。これはspa遺伝子によってコードされ、その調節はDNAトポロジー、細胞浸透圧、およびArIS-ArIRと呼ばれる二成分系によって制御される。免疫グロブリンと結合するその能力が理由で、これは生化学的研究において用途が見いだされている。これは、フォールディングして3ヘリックスバンドルとなる5つの相同なIg結合ドメインで構成される。各ドメインは、哺乳動物種の多くに由来するタンパク質、特にIgGと結合することができる。これはほとんどの免疫グロブリンの重鎖Fc領域(FcRn受容体の保存的な結合部位と重なり合う)と結合し、さらにヒトVH3ファミリーのFab領域とも相互作用する。血清中でのこれらの相互作用を通じて、IgG分子は、単にそれらのFab領域のみを介してではなく、それらのFc領域を介しても細菌と結合し、それにより、細菌はオプソニン作用、補体活性化および食作用を破綻させる。
【0096】
本明細書で用いられる「プロテインA結合ドメイン」という用語は、プロテインAに直接または間接的に結合するタンパク質ドメインを意味する。プロテインAに直接結合するプロテインA結合ドメインの例は、抗体Fc領域である。好ましい一態様において、プロテインA結合ドメインは哺乳動物Fc領域であり、より好ましい一態様においてヒトFc領域である。一態様において、プロテインA結合ドメインは、FcRn結合ドメインと重なり合う。
【0097】
一態様において、本開示における改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、実質的に同じ、増強または減少したプロテインAへの結合アフィニティを有する。好ましい一態様において、本開示における改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、実質的に同じプロテインAへの結合アフィニティを有する。
【0098】
F.安定性
本開示において、「安定性」とは、例えば抗原結合分子の熱力学的な安定性を意味するが、これに制限されない。抗原結合分子の熱力学的な安定性は、例えばCH2領域の熱変性中点(Tm)などを指標として評価や判断をすることができる。即ち本発明の抗原結合分子の安定性は、熱変性中点(Tm)を指標として評価あるいは判断することが好ましい。TmはCD(circular dichroism;円二色性)、DSC(differential scanning calorimetry;示査走査型熱量計)、DSF(differential scanning fluorometry;示査走査型蛍光定量法)により測定することが可能である。
【0099】
熱安定性評価を実施する際に用いられる上述の手法は、IgGの形のサンプルを測定に供した場合にCH2、CH3、ならびにFabの3領域の熱安定性を独立して評価することが可能である。Fc領域のCH2とCH3ではCH2のほうが熱安定性が低いことから、CH2の熱安定性を向上させることがFc領域の熱安定性向上につながると考えられる。
【0100】
また、IgGは高度に制御された立体構造を保っており、各領域の立体構造や物理学的安定性が相互に影響する。つまり、ある領域に導入した改変が他の領域にも影響を及ぼし、IgG全体の立体構造や物理学的安定性を変化させる場合がある。このため、改変導入の効果を評価するにあたっては、IgGの形で評価を実施することが望ましい。以上の理由から、本開示ではIgGの形で作製した改変抗体のCH2領域の熱安定性評価を実施した。
【0101】
抗体のFc領域の改変は、抗体の物性に悪影響を与えることが知られている。例えばADCC活性を増強させた改変型Fc領域では、熱変性中点が約20℃低下することが報告されている(Biol Crystallogr. 2008 Jun;64(Pt 6):700-4)。また、ADCC活性を低下させた改変型Fc領域は、熱変性中点が約5℃低下すること、加水分解酵素による分解が起こりやすいこと、酸性条件下で分解がおこりやすいことが報告されている(Immunol Lett. 2006 Aug;106(2):144-53、Pharm Res. 2008 Aug;25(8):1881-90、Biochem Biophys Res Commun. 2006 Mar;341(3):797-803)。さらに、血中滞留性を向上させた改変型Fc領域では、熱安定性や保存安定性の低下が報告されている(WO2007092772)。
【0102】
一態様において、本開示は、TRIM21結合ドメインに改変を含むにもかかわらず、親抗原結合分子と比較して安定性が著しく低下していない、実質的に低下していない(維持されている)、または安定性が向上している抗原結合分子を提供する。好ましくは、TRIM21結合ドメインは、抗体のFc領域である。
【0103】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の安定性が低下していない(維持されている)とは、例えば、上記の測定方法に基づいて求めた被検抗原結合分子のTRIM21結合ドメイン中のTmが、対照となる親抗原結合分子のTRIM21結合ドメイン中のTmと同等であることをいう。別の態様において、改変TRIM21結合ドメインポリペプチドの安定性が向上しているとは、例えば、上記の測定方法に基づいて求めた被検抗原結合分子のTRIM21結合ドメイン中のTmが、対照となる親抗原結合分子のTRIM21結合ドメイン中のTmよりも高いことをいい、例えば、0.1度以上、好ましくは0.2度以上、0.3度以上、0.4度以上、0.5度以上、1度以上、2度以上、3度以上、4度以上、5度以上、10度以上、20度以上向上していることをいう。
【0104】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子であって、親抗原結合分子と比較して安定性が低下していない(維持されている)、または安定性が向上している抗原結合分子は、表5(1)および(2)のグループ1に記載されるアミノ酸改変またはその組み合わせを含む。
【0105】
G.細胞質侵入抗原結合分子
一局面において、本開示における抗原結合分子は、細胞質侵入能を有する。一態様において、本開示における抗原結合分子は、細胞質侵入ドメインを含む。更なる一態様において、本開示における抗原結合分子は、細胞質侵入ドメインおよび細胞質抗原結合ドメインを有する。好ましい一態様において、細胞質侵入ドメインは、抗体の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域である。
【0106】
本明細書における用語「抗原結合ドメイン」とは、抗原の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成る抗原結合分子の部分をいう。抗原の分子量が大きい場合、抗原結合ドメインは抗原の特定部分にのみ結合することができる。当該特定部分はエピトープと呼ばれる。抗原結合ドメインは一または複数の抗体の可変ドメインより提供され得る。好ましい一態様において、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)、抗体重鎖可変領域(VH)、または、抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)の組合せを含む。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
【0107】
本開示の抗原結合分子における「細胞質抗原結合ドメイン」は、細胞質中に発現する抗原中に存在するエピトープに結合することができる。「細胞質抗原」は、細胞によって発現され、細胞質内に存在する抗原構造を表す。細胞質抗原は、タンパク質であっても良いし、DNAやRNA等の核酸であっても良い。本開示の抗原結合分子が、細胞質抗原結合ドメインを含む場合、当該抗原結合分子は、細胞質中において当該細胞質抗原に結合し、当該抗原の機能を中和・阻害・活性化すること等が可能となる。
【0108】
H.抗体
本開示のさらなる局面において、上述の態様の任意のものによる抗原結合分子は抗体であり、好ましい一態様において、キメラ、ヒト化、またはヒト抗体を含む、モノクローナル抗体である。一態様において、抗原結合分子は、TRIM21結合ドメインを含む限り、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、またはF(ab’)2断片などの、抗体断片である。別の態様において、抗体は、例えば、完全IgG1抗体や、本明細書で定義された他の抗体クラスまたはアイソタイプの、全長抗体である。
【0109】
さらなる局面において、上述の態様の任意のものによる改変TRIM21結合ドメインを含む抗体は、単独または組み合わせで、以下の項目1~7に記載の任意の特徴を取り込んでもよい。
【0110】
1.抗体断片
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片は、これらに限定されるものではないが、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、および scFv断片、ならびに、後述する他の断片を含む。特定の抗体断片についての総説として、Hudson et al. Nat. Med. 9:129-134 (2003) を参照のこと。scFv断片の総説として、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp.269-315 (1994);加えて、WO93/16185;ならびに米国特許第5,571,894号および第5,587,458号を参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含みインビボ (in vivo) における半減期の長くなったFabおよびF(ab')2断片についての論説として、米国特許第5,869,046号を参照のこと。
【0111】
ダイアボディは、二価または二重特異的であってよい、抗原結合部位を2つ伴う抗体断片である。例えば、EP404,097号; WO1993/01161; Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003); Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993) 参照。トリアボディ (triabody) やテトラボディ (tetrabody) も、Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003) に記載されている。
【0112】
シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分、または軽鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分を含む、抗体断片である。特定の態様において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1参照)。
【0113】
抗体断片は、これらに限定されるものではないが、本明細書に記載の、完全抗体のタンパク質分解的消化、組み換え宿主細胞(例えば、大腸菌 (E. coli) またはファージ)による産生を含む、種々の手法により作ることができる。
【0114】
2.キメラおよびヒト化抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、キメラ抗体である。特定のキメラ抗体が、例えば、米国特許第4,816,567号;および、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984) に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはサルなどの非ヒト霊長類に由来する可変領域)およびヒト定常領域を含む。さらなる例において、キメラ抗体は、親抗体のものからクラスまたはサブクラスが変更された「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片も含む。
【0115】
特定の態様において、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、親非ヒト抗体の特異性およびアフィニティを維持したままでヒトへの免疫原性を減少させるために、ヒト化される。通常、ヒト化抗体は1つまたは複数の可変ドメインを含み、当該可変ドメイン中、HVR(例えばCDR(またはその部分))は非ヒト抗体に由来し、FR(またはその部分)はヒト抗体配列に由来する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト定常領域の少なくとも一部分を含む。いくつかの態様において、ヒト化抗体中のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性またはアフィニティを回復または改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基の由来となった抗体)からの対応する残基で置換されている。
【0116】
ヒト化抗体およびその作製方法は、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)において総説されており、また、例えば、Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989); 米国特許第5,821,337号、第7,527,791号、第6,982,321号、および第7,087,409号;Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005)(特異性決定領域 (specificity determining region: SDR) グラフティングを記載);Padlan, Mol. Immunol. 28:489-498 (1991) (リサーフェイシングを記載); Dall’Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005) (FRシャッフリングを記載);ならびに、Osbourn et al., Methods 36:61-68 (2005) およびKlimka et al., Br. J. Cancer, 83:252-260 (2000) (FRシャッフリングのための「ガイドセレクション」アプローチを記載) において、さらに記載されている。
【0117】
3.ヒト抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当該技術分野において知られる種々の手法によって製造され得る。ヒト抗体は、van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-74 (2001) および Lonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008) に、概説されている。
【0118】
4.ライブラリ由来抗体
本開示の抗体は、所望の1つまたは複数の活性を伴う抗体についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることによって単離してもよい。例えば、ファージディスプレイライブラリの生成や、所望の結合特性を備える抗体についてそのようなライブラリをスクリーニングするための、様々な方法が当該技術分野において知られている。そのような方法は、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001) において総説されており、さらに例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554;Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992); Marks and Bradbury, in Methods in Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003); Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004); Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004); Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);およびLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004) に記載されている。
【0119】
5.多重特異性抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合特異性を有する、モノクローナル抗体である。二重特異性抗体は、全長抗体としてまたは抗体断片として調製され得る。
【0120】
「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能的抗原結合部位を伴う改変抗体も、本明細書では含まれる(例えば、米国特許出願公開第2006/0025576号A1参照)。
【0121】
本明細書で抗体または断片は、「デュアルアクティングFab」または「DAF」も含む(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号参照)。
【0122】
6.抗体変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体のアミノ酸配列変異体も、考慮の内である。例えば、抗体の結合アフィニティおよび/または他の生物学的特性を改善することが、望ましいこともある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入すること、または、ペプチド合成によって、調製されてもよい。そのような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列からの欠失、および/または抗体のアミノ酸配列中への挿入、および/または抗体のアミノ酸配列中の残基の置換を含む。最終構築物が所望の特徴(例えば、抗原結合性)を備えることを前提に、欠失、挿入、および置換の任意の組合せが、最終構築物に至るために行われ得る。
【0123】
a)置換、挿入、および欠失変異体
特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換的変異導入の目的部位は、HVRおよびFRを含む。保存的置換を、表2の「好ましい置換」の見出しの下に示す。より実質的な変更を、表2の「例示的な置換」の見出しの下に提供するとともに、アミノ酸側鎖のクラスに言及しつつ下で詳述する。アミノ酸置換は目的の抗体に導入されてもよく、産物は、例えば、保持/改善された抗原結合性、減少した免疫原性、または改善したADCCまたはCDCなどの、所望の活性についてスクリーニングされてもよい。
【0124】
【表2】
【0125】
アミノ酸は、共通の側鎖特性によって群に分けることができる:
(1) 疎水性:ノルロイシン、メチオニン (Met)、アラニン (Ala)、バリン (Val)、ロイシン (Leu)、イソロイシン (Ile);
(2) 中性の親水性:システイン (Cys)、セリン (Ser)、トレオニン (Thr)、アスパラギン (Asn)、グルタミン (Gln);
(3) 酸性:アスパラギン酸 (Asp)、グルタミン酸 (Glu);
(4) 塩基性:ヒスチジン (His)、リジン (Lys)、アルギニン (Arg);
(5) 鎖配向に影響する残基:グリシン (Gly)、プロリン (Pro);
(6) 芳香族性:トリプトファン (Trp)、チロシン (Tyr)、フェニルアラニン (Phe)。
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを、別のクラスのものに交換することをいう。
【0126】
置換変異体の1つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト化またはヒト抗体)の1つまたは複数の超可変領域残基の置換を含む。通常、その結果として生じ、さらなる研究のために選ばれた変異体は、親抗体と比較して特定の生物学的特性における修飾(例えば、改善)(例えば、増加したアフィニティ、減少した免疫原性)を有する、および/または親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持しているであろう。例示的な置換変異体は、アフィニティ成熟抗体であり、これは、例えばファージディスプレイベースのアフィニティ成熟技術(例えば本明細書に記載されるもの)を用いて適宜作製され得る。簡潔に説明すると、1つまたは複数のHVR残基を変異させ、そして変異抗体をファージ上に提示させ、特定の生物学的活性(例えば、結合アフィニティ)に関してスクリーニングを行う。
【0127】
改変(例えば、置換)は、例えば抗体のアフィニティを改善するために、HVRにおいて行われ得る。そのような改変は、HVRの「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟プロセスの間に高頻度で変異が起こるコドンによってコードされる残基(例えば、Chowdhury, Methods Mol. Biol. 207:179-196 (2008) を参照のこと)および/または抗原に接触する残基において行われ得、得られた変異VHまたはVLが結合アフィニティに関して試験され得る。二次ライブラリからの構築および再選択によるアフィニティ成熟が、例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O’Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, (2001)) に記載されている。アフィニティ成熟のいくつかの態様において、多様性は、任意の様々な方法(例えば、エラープローンPCR、チェーンシャッフリングまたはオリゴヌクレオチド指向変異導入)によって成熟のために選択された可変遺伝子に導入される。次いで、二次ライブラリが作製される。次いで、このライブラリは、所望のアフィニティを有する任意の抗体変異体を同定するためにスクリーニングされる。多様性を導入する別の方法は、いくつかのHVR残基(例えば、一度に4~6残基)を無作為化するHVR指向アプローチを含む。抗原結合に関与するHVR残基は、例えばアラニンスキャニング変異導入またはモデリングを用いて、具体的に特定され得る。特に、CDR-H3およびCDR-L3がしばしば標的化される。
【0128】
特定の態様において、置換、挿入、または欠失は、そのような改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に減少させない限り、1つまたは複数のHVR内で行われ得る。例えば、結合アフィニティを実質的に減少させない保存的改変(例えば、本明細書で提供されるような保存的置換)が、HVRにおいて行われ得る。そのような改変は、例えば、HVRの抗原接触残基の外側であり得る。上記の変異VHおよびVL配列の特定の態様において、各HVRは改変されていないか、わずか1つ、2つ、もしくは3つのアミノ酸置換を含む。
【0129】
変異導入のために標的化され得る抗体の残基または領域を同定するのに有用な方法は、Cunningham and Wells (1989) Science, 244:1081-1085によって記載される、「アラニンスキャニング変異導入」と呼ばれるものである。この方法において、一残基または一群の標的残基(例えば、荷電残基、例えばアルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン、およびグルタミン酸)が同定され、中性または負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニンもしくはポリアラニン)で置き換えられ、抗体と抗原の相互作用が影響を受けるかどうかが決定される。この初期置換に対して機能的感受性を示したアミノ酸位置に、さらなる置換が導入され得る。あるいはまたは加えて、抗体と抗原の間の接触点を同定するために、抗原抗体複合体の結晶構造を解析してもよい。そのような接触残基および近隣の残基を、置換候補として標的化してもよく、または置換候補から除外してもよい。変異体は、それらが所望の特性を含むかどうかを決定するためにスクリーニングされ得る。
【0130】
アミノ酸配列の挿入は、配列内部への単一または複数のアミノ酸残基の挿入と同様、アミノ末端および/またはカルボキシル末端における1残基から100残基以上を含むポリペプチドの長さの範囲での融合も含む。末端の挿入の例は、N末端にメチオニル残基を伴う抗体を含む。抗体分子の他の挿入変異体は、抗体のN-またはC-末端に、酵素(例えば、ADEPTのための)または抗体の血漿半減期を増加させるポリペプチドを融合させたものを含む。
【0131】
b)グリコシル化変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加させるまたは減少させるように改変されている。抗体へのグリコシル化部位の追加または削除は、1つまたは複数のグリコシル化部位を作り出すまたは取り除くようにアミノ酸配列を改変することにより、簡便に達成可能である。
【0132】
抗体がFc領域を含む場合、そこに付加される炭水化物が改変されてもよい。哺乳動物細胞によって産生される天然型抗体は、典型的には、枝分かれした二分岐のオリゴ糖を含み、当該オリゴ糖は通常Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN-リンケージによって付加されている。例えば、Wright et al. TIBTECH 15:26-32 (1997) 参照。オリゴ糖は、例えば、マンノース、N‐アセチルグルコサミン (GlcNAc)、ガラクトース、およびシアル酸などの種々の炭水化物、また、二分岐のオリゴ糖構造の「幹」中のGlcNAcに付加されたフコースを含む。いくつかの態様において、本開示の抗体中のオリゴ糖の修飾は、特定の改善された特性を伴う抗体変異体を作り出すために行われてもよい。
【0133】
一態様において、Fc領域に(直接的または間接的に)付加されたフコースを欠く炭水化物構造体を有する抗体変異体が提供される。例えば、そのような抗体におけるフコースの量は、1%~80%、1%~65%、5%~65%または20%~40%であり得る。フコースの量は、例えばWO2008/077546に記載されるようにMALDI-TOF質量分析によって測定される、Asn297に付加されたすべての糖構造体(例えば、複合、ハイブリッド、および高マンノース構造体)の和に対する、Asn297における糖鎖内のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域の297位のあたりに位置するアスパラギン残基を表す(Fc領域残基のEUナンバリング)。しかし、複数の抗体間のわずかな配列の多様性に起因して、Asn297は、297位の±3アミノ酸上流または下流、すなわち294位~300位の間に位置することもあり得る。そのようなフコシル化変異体は、改善されたADCC機能を有し得る。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号 (Presta, L.) ;第2004/0093621号 (Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd) を参照のこと。「脱フコシル化」または「フコース欠損」抗体変異体に関する刊行物の例は、US2003/0157108; WO2000/61739; WO2001/29246; US2003/0115614; US2002/0164328; US2004/0093621; US2004/0132140; US2004/0110704; US2004/0110282; US2004/0109865; WO2003/085119; WO2003/084570; WO2005/035586; WO2005/035778; WO2005/053742; WO2002/031140; Okazaki et al. J. Mol. Biol. 336:1239-1249 (2004); Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004) を含む。脱フコシル化抗体を産生することができる細胞株の例は、タンパク質のフコシル化を欠くLec13 CHO細胞(Ripka et al. Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許出願公開第US2003/0157108号A1、Presta, L;およびWO2004/056312A1、Adams et al.、特に実施例11)およびノックアウト細胞株、例えばアルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子FUT8ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004);Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);およびWO2003/085107を参照のこと)を含む。
【0134】
例えば抗体のFc領域に付加された二分枝型オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている、二分されたオリゴ糖を有する抗体変異体がさらに提供される。そのような抗体変異体は、減少したフコシル化および/または改善されたADCC機能を有し得る。そのような抗体変異体の例は、例えば、WO2003/011878 (Jean-Mairet et al.) ;米国特許第6,602,684号 (Umana et al.);およびUS2005/0123546 (Umana et al.) に記載されている。Fc領域に付加されたオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体変異体も提供される。そのような抗体変異体は、改善されたCDC機能を有し得る。そのような抗体変異体は、例えば、WO1997/30087 (Patel et al.);WO1998/58964 (Raju, S.); およびWO1999/22764 (Raju, S.) に記載されている。
【0135】
c)Fc領域変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体のFc領域に、本明細書で提供されるTRIM21結合ドメインにおけるアミノ酸置換とは異なる1つまたは複数のアミノ酸修飾を導入して、それによりFc領域変異体を生成してもよい。Fc領域変異体は、1つまたは複数のアミノ酸ポジションのところでアミノ酸修飾(例えば、置換)を含む、ヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域)を含んでもよい。
【0136】
特定の態様において、すべてではないがいくつかのエフェクター機能を備える抗体変異体も、本開示の考慮の内であり、当該エフェクター機能は、抗体を、そのインビボでの半減期が重要であるが、特定のエフェクター機能(補体およびADCCなど)は不要または有害である場合の適用に望ましい候補とするものである。CDCおよび/またはADCC活性の減少/欠乏を確認するために、インビトロ および/またはインビボ の細胞傷害測定を行うことができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合測定は、抗体がFcγR結合性を欠く(よってADCC活性を欠く蓋然性が高い)一方でFcRn結合能を維持することを確かめるために行われ得る。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、一方単球はFcγRI、FcγRII、FcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-492 (1991) の第464頁のTable 3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロ測定法(アッセイ)の非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、 Hellstrom, I. et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986) 参照)および Hellstrom, I et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985);米国特許第5,821,337号(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987) 参照)に記載されている。あるいは、非放射性の測定法を用いてもよい(例えば、ACT1(商標)non-radioactive cytotoxicity assay for flow cytometry (CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);および、CytoTox 96(登録商標)non-radioactive cytotoxicity assays 法 (Promega, Madison, WI) 参照)。このような測定法に有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞 (peripheral blood mononuclear cell: PBMC) およびナチュラルキラー (natural killer: NK) 細胞を含む。あるいはまたは加えて、目的の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 95:652-656 (1998) に記載されるような動物モデルにおいて、インビボで評価されてもよい。また、抗体がC1qに結合できないこと、よってCDC活性を欠くことを確認するために、C1q結合測定を行ってもよい。例えば、WO2006/029879 および WO2005/100402のC1qおよびC3c結合ELISAを参照のこと。また、補体活性化を評価するために、CDC測定を行ってもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996);Cragg, M.S. et al., Blood 101:1045-1052 (2003);およびCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004) 参照)。さらに、FcRn結合性およびインビボでのクリアランス/半減期の決定も、当該技術分野において知られた方法を用いて行い得る(例えばPetkova, S.B. et al., Int'l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006) 参照)。
【0137】
減少したエフェクター機能を伴う抗体は、Fc領域残基238、265、269、270、297、327、および329の1つまたは複数の置換を伴うものを含む(米国特許第6,737,056号)。このようなFc変異体は、残基265および297のアラニンへの置換を伴ういわゆる「DANA」Fc変異体(米国特許第7,332,581号)を含む、アミノ酸ポジション265、269、270、297、および327の2つ以上の置換を伴うFc変異体を含む。
【0138】
FcRsへの増加または減少した結合性を伴う特定の抗体変異体が、記述されている。(米国特許第6,737,056号;WO2004/056312、およびShields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001) を参照のこと。)
【0139】
特定の態様において、抗体変異体は、ADCCを改善する1つまたは複数のアミノ酸置換(例えば、Fc領域のポジション298、333、および/または334(EUナンバリングでの残基)のところでの置換)を伴うFc領域を含む。
【0140】
いくつかの態様において、例えば米国特許第6,194,551号、WO99/51642、およびIdusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000) に記載されるように、改変された(つまり、増加したか減少したかのいずれかである)C1q結合性および/または補体依存性細胞傷害 (CDC) をもたらす改変が、Fc領域においてなされる。
【0141】
増加した半減期、および新生児型Fc受容体(FcRn:母体のIgG類を胎児に移行させる役割を負う(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976) and Kim et al., J. Immunol. 24:249 (1994)))に対する増加した結合性を伴う抗体が、米国特許出願公開第2005/0014934号A1(Hinton et al.) に記載されている。これらの抗体は、Fc領域のFcRnへの結合性を増加する1つまたは複数の置換をその中に伴うFc領域を含む。このようなFc変異体は、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、または434の1つまたは複数のところでの置換(例えば、Fc領域残基434の置換(米国特許第7,371,826号))を伴うものを含む。
【0142】
一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗体は、さらに、FcRnへの結合性を増加する1つまたは複数の置換をFc領域に含むことができる。別の一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗体は、さらに、FcRnへの結合性を減少する1つまたは複数の置換をFc領域に含むことができる。
【0143】
Fc領域変異体の他の例については、Duncan & Winter, Nature 322:738-40 (1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;およびWO94/29351も参照のこと。
【0144】
d)システイン改変抗体変異体
特定の態様において、抗体の1つまたは複数の残基がシステイン残基で置換された、システイン改変抗体(例えば、「thioMAbs」)を作り出すことが望ましいだろう。特定の態様において、置換を受ける残基は、抗体の、アクセス可能な部位に生じる。それらの残基をシステインで置換することによって、反応性のチオール基が抗体のアクセス可能な部位に配置され、当該反応性のチオール基は、当該抗体を他の部分(薬剤部分またはリンカー‐薬剤部分など)にコンジュゲートして本明細書でさらに詳述するようにイムノコンジュゲートを作り出すのに使用されてもよい。特定の態様において、以下の残基の任意の1つまたは複数が、システインに置換されてよい:軽鎖のV205(Kabatナンバリング);重鎖のA118(EUナンバリング);および重鎖Fc領域のS400(EUナンバリング)。システイン改変抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号に記載されるようにして生成されてもよい。
【0145】
e)抗体誘導体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、当該技術分野において知られておりかつ容易に入手可能な追加の非タンパク質部分を含むように、さらに修飾されてもよい。抗体の誘導体化に好適な部分は、これに限定されるものではないが、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの非限定的な例は、これらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール (PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ1,3ジオキソラン、ポリ1,3,6,トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれでも)、および、デキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール類(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、および、これらの混合物を含む。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、その水に対する安定性のために、製造において有利であるだろう。ポリマーは、いかなる分子量でもよく、枝分かれしていてもしていなくてもよい。抗体に付加されるポリマーの数には幅があってよく、1つ以上のポリマーが付加されるならそれらは同じ分子であってもよいし、異なる分子であってもよい。一般的に、誘導体化に使用されるポリマーの数および/またはタイプは、これらに限定されるものではないが、改善されるべき抗体の特定の特性または機能、抗体誘導体が規定の条件下での療法に使用されるか否か、などへの考慮に基づいて、決定することができる。
【0146】
別の態様において、抗体と、放射線に曝露することにより選択的に熱せられ得る非タンパク質部分との、コンジュゲートが提供される。一態様において、非タンパク質部分は、カーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線はいかなる波長でもよく、またこれらに限定されるものではないが、通常の細胞には害を与えないが抗体‐非タンパク質部分に近接した細胞を死滅させる温度まで非タンパク質部分を熱するような波長を含む。
【0147】
H.組み換えの方法および構成
例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるとおり、抗体は組み換えの方法や構成を用いて製造することができる。一態様において、本明細書に記載の改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子をコードする、単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードしてもよい。さらなる態様において、このような核酸を含む1つまたは複数のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。さらなる態様において、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。このような態様の1つでは、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または、(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第一のベクターと抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二のベクターを含む(例えば、形質転換されている)。一態様において、宿主細胞は、真核性である(例えば、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞)またはリンパ系の細胞(例えば、Y0、NS0、Sp2/0細胞))。一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の発現に好適な条件下で、上述のとおり当該抗原結合分子をコードする核酸を含む宿主細胞を培養すること、および任意で、当該抗原結合分子を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収することを含む、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を作製する方法が提供される。
【0148】
改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の組み換え製造のために、(例えば、上述したものなどの)抗原結合分子をコードする核酸を単離し、さらなるクローニングおよび/または宿主細胞中での発現のために、1つまたは複数のベクターに挿入する。そのような核酸は、従来の手順を用いて容易に単離および配列決定されるだろう(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることで)。
【0149】
本開示の抗原結合分子が抗体である場合、抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞を含む。例えば、抗体は、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合は、細菌で製造してもよい。細菌での抗体断片およびポリペプチドの発現に関して、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、および第5,840,523号を参照のこと。(加えて、大腸菌における抗体断片の発現について記載したCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp.245-254も参照のこと。)発現後、抗体は細菌細胞ペーストから可溶性フラクション中に単離されてもよく、またさらに精製することができる。
【0150】
原核生物に加え、部分的なまたは完全なヒトのグリコシル化パターンを伴う抗体の産生をもたらす、グリコシル化経路が「ヒト化」されている菌類および酵母の株を含む、糸状菌または酵母などの真核性の微生物は、抗体コードベクターの好適なクローニングまたは発現宿主である。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)および Li et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006) を参照のこと。
【0151】
多細胞生物(無脊椎生物および脊椎生物)に由来するものもまた、グリコシル化された抗体の発現のために好適な宿主細胞である。無脊椎生物細胞の例は、植物および昆虫細胞を含む。昆虫細胞との接合、特にSpodoptera frugiperda細胞の形質転換に用いられる、数多くのバキュロウイルス株が同定されている。
【0152】
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、および第6,417,429号(トランスジェニック植物で抗体を産生するための、PLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照のこと。
【0153】
脊椎動物細胞もまた宿主として使用できる。例えば、浮遊状態で増殖するように適応された哺乳動物細胞株は、有用であろう。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40で形質転換されたサル腎CV1株 (COS-7);ヒト胎児性腎株(Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977) などに記載の293または293細胞);仔ハムスター腎細胞 (BHK);マウスセルトリ細胞(Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980) などに記載のTM4細胞);サル腎細胞 (CV1);アフリカミドリザル腎細胞 (VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞 (HELA);イヌ腎細胞 (MDCK);Buffalo系ラット肝細胞 (BRL 3A);ヒト肺細胞 (W138);ヒト肝細胞 (Hep G2);マウス乳癌 (MMT 060562);TRI細胞(例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982) に記載);MRC5細胞;および、FS4細胞などである。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR- CHO細胞 (Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980)) を含むチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞;およびY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に好適な特定の哺乳動物宿主細胞株の総説として、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003) を参照のこと。
【0154】
I.測定法(アッセイ)
本明細書で提供される改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子は、当該技術分野において知られている種々の測定法によって、同定され、スクリーニングされ、または物理的/化学的特性および/または生物学的活性について明らかにされてもよい。
【0155】
1.TRIM21に対する結合アフィニティの測定
特定の態様において、本明細書で提供される抗原結合分子は、TRIM21に対して、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数 (KD) を有する。
【0156】
一態様において、結合アフィニティおよびKDは、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によって測定される。一態様において、RIAは、目的の抗原結合分子のTRIM21結合ドメインおよびTRIM21を用いて実施される。例えば、抗原(TRIM21またはFcRnなど)に対する抗原結合分子(IgG抗体)の溶液中結合アフィニティは、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原によりIgG抗体を平衡化させ、次いで結合した抗原を抗IgG抗体でコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される。(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。測定条件を構築するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート (Thermo Scientific) を50mM炭酸ナトリウム (pH9.6) 中5μg/mlの捕捉用の抗IgG抗体 (Cappel Labs) で一晩コーティングし、その後に室温(およそ23℃)で2~5時間、PBS中2% (w/v) ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート (Nunc #269620) において、100 pMまたは26 pMの [125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997) における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)目的の抗原結合分子の段階希釈物と混合する。次いで、目的の抗原結合分子を一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるよう、より長時間(例えば、約65時間)継続され得る。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標)、Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター (Packard) においてプレートを10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各抗原結合分子の濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選択する。
【0157】
別の態様によれば、結合アフィニティおよびKDは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000、BIACORE(登録商標)-3000、Biacore(登録商標)T200またはBiacore(登録商標)4000 (GE Healthcare) を用いる測定法が、およそ10反応単位 (response unit: RU) の抗原結合分子が固定されたCM5チップを用いて25℃で実施される。一態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ (CM5、GE Healthcare) は、供給元の指示にしたがいN-エチル-N’- (3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド (EDC) およびN-ヒドロキシスクシンイミド (NHS) を用いて活性化される。抗原結合分子は、およそ10反応単位 (RU) のタンパク質の結合を達成するよう、5μl/分の流速で注入される前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて5μg/ml(およそ0.2μM)に希釈される。抗原結合分子の注入後、未反応基をブロックするために1Mエタノールアミンが注入される。キネティクスの測定のために、25℃、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤含有PBS (PBST) 中の抗原(TRIM21またはFcRnなど)の2倍段階希釈物 (0.78nM~500nM) が注入される。結合速度 (kon) および解離速度 (koff) は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、結合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算される。平衡解離定数 (KD) は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999) を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、分光計(例えばストップフロー式分光光度計 (Aviv Instruments) または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計 (ThermoSpectronic))において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS、pH7.2中20nMの抗原結合分子の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、バンドパス16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって決定され得る。更なる態様において、抗原結合分子の結合アフィニティは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて、後述の実施例に記載の方法で確認することができる。
【0158】
2.細胞質中の抗原結合分子の測定
一態様において、細胞質中の抗原結合分子は、当該抗原分子を細胞と接触させた後、任意の時点において測定される。抗原結合分子と細胞との接触は、インキュベーションおよびマイクロインジェクションを含む任意の方法で行われる。抗原結合分子と細胞との接触をインキュベーションによって行う場合、インキュベーション時間およびインキュベーション後、細胞質中の抗原結合分子の測定までの時間は任意に決定される。例えば、細胞質中に存在する抗原結合分子を、当該抗原結合分子を細胞と接触させた後一度だけ測定する場合は、抗原結合分子と細胞を1時間、2時間、3時間、4時間、5時間または6時間インキュベートした後、抗原結合分子を含む培地を除去し、直ちに細胞質中の抗原結合分子を測定してよい。例えば、細胞質中に存在する抗原結合分子を、当該抗原結合分子を細胞と接触させた後、複数回測定する場合は、抗原結合分子と細胞を1時間、2時間、3時間、4時間、5時間または6時間インキュベートした後、抗原結合分子を含む培地を除去し、抗原結合分子を含まない新たな培地で0時間、0.25時間、0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、6時間、6.5時間、7時間、7.5時間、8時間、8.5時間、9時間、9.5時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、および/または16時間インキュベートした後、細胞質中の抗原結合分子を測定してよい。本開示において、任意の時点における細胞質中に存在する抗原結合分子は、細胞質中における抗原結合分子が検出可能な適宜の方法で測定されてよい。そのような方法として、BirA assay、蛍光顕微鏡によるイメージング、Split-GFPなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0159】
a) BirA assay
一態様において、任意の時点における細胞質中に存在する抗原結合分子量は、BirA アッセイにおいて、ビオチン化されたAvi tagと抗原結合分子の融合体を、標識されたビオチン結合タンパク質で検出することにより評価することができる。ビオチン標識されたAvi tagは、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定される。例えば、ビオチン化されたAvi tagをストレプトアビジンHRP(Streptavidin-HRP)で検出する場合、細胞質中に存在する抗原結合分子量は、HRPの発光シグナルの強度により表すことができる。BirAアッセイは当業者に公知の方法であり、例えば、W.P.R. Verdurmen et al., Journal of Controlled Release 200 (2015) 13-22、および本開示の実施例に記載されている。細胞質中に存在する抗原結合分子量を決定するためのアッセイにおいて用いられる条件は、当業者によって適宜選択され得、したがって特に限定されない。また、細胞質中においてビオチン化されたAvi tagと抗原結合分子の融合体は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質でも標識され得る。具体的には、放射性標識または蛍光標識などが公知である。BirAアッセイにおける、標識されたビオチン結合タンパク質の検出(例えば、ストレプトアビジンHRPにおけるHRP発光シグナルの検出)は、当業者に公知の方法によって適宜行われ得る。具体的には、ウェスタンブロッティング(western blotting)またはキャピラリーイムノアッセイ(capillary immuno assay)(ProteinSimple社)などが公知である。
【0160】
b) 蛍光顕微鏡によるイメージング
別の一態様において、任意の時点における細胞質中に存在する抗原結合分子量は、当該抗原結合分子に結合する標識されたタンパク質で検出することにより評価することができる。例えば、抗原結合分子がIgG抗体を含む場合、細胞質中に存在する抗原結合分子を、標識された抗IgG抗体で検出することができる。標識は、例えば、放射性標識または蛍光標識などが公知である。標識された抗原結合分子の検出は、当業者に公知の方法によって適宜行われ得る。例えば、本明細書および本開示の実施例に記載されているように、蛍光顕微鏡を用いて蛍光シグナルをイメージングすることにより、標識された抗原結合分子を検出することができる。
【0161】
c) Split-GFP
別の一態様において、任意の時点における細胞質中に存在する抗原結合分子量は、split-GFP相補的システムにおいて、GFP蛍光シグナルを検出することにより評価することができる。具体的な方法は当業者に公知であり、例えば、WO2016/013870に記載されている。具体的には、緑色蛍光タンパク質であるGFPを1~10番、11番の断片で分けると、蛍光を示す特性が除去されて、もし二つの断片の距離が近くなって結合すると、蛍光を示す特性を回復することができる(Cabantous et al.,2005)。このような特性を利用して、GFP1~10番の断片は、細胞質に発現させて、GFP11番の断片は、抗原結合分子の任意の部位に融合させる。この方法において、GFP蛍光が観察されれば、GFPの2つの断片が結合していること、すなわち抗原結合分子が細胞質中に存在することが示される。
【0162】
J.抗原結合分子の改変方法、製造方法およびスクリーニング方法
(1)抗原結合分子の改変方法
一局面において、本開示は、TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の改変方法であって、親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、(i)当該抗原結合分子のTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす、(ii)当該抗原結合分子の細胞質中での半減期の増加又は減少をもたらす、(iii)当該抗原結合分子の細胞質抗原の除去能の低下又は向上をもたらす、かつ/あるいは(iv)当該抗原結合分子の細胞質中でのプロテアソーム分解耐性の増加又は減少をもたらす、改変方法を提供する。
一態様において、一定量の改変された抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量は、同量の親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して増加又は減少している。一態様において、前記改変方法は、改変されたTRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量を、同量の前記親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較することをさらに含む。 一態様において、親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに導入される1又はそれ以上のアミノ酸改変は、1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/又は付加であってよく、例えば1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/又は付加である。別の一態様において、改変TRIM21結合ドメインのアミノ酸配列は、改変前の親TRIM21結合ドメインのアミノ酸配列と70%以上同一であり、例えば80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上同一である。
【0163】
(2)抗原結合分子の製造方法
一局面において、本開示は、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の製造方法であって、親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入することを含み、当該改変が、当該親抗原結合分子と比較して、(i)当該抗原結合分子のTRIM21に対する結合アフィニティの減少又は増加をもたらす、(ii)当該抗原結合分子の細胞質中での半減期の増加又は減少をもたらす、(iii)当該抗原結合分子の細胞質抗原の除去能の低下又は向上をもたらす、かつ/あるいは(iv)当該抗原結合分子の細胞質中でのプロテアソーム分解耐性の増加又は減少をもたらす、製造方法を提供する。
一態様において、一定量の改変された抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量は、同量の親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して増加又は減少している。一態様において、前記製造方法は、改変されたTRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量を、同量の前記親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較することをさらに含む。
一態様において、前記製造方法は、
(a) 前記改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子をコードする遺伝子と作動可能に連結された適切なプロモーターを含む発現ベクターを取得し、
(b) 当該ベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を培養して前記抗原結合分子を生産させ、
(c) 宿主細胞培養物から前記抗原結合分子を回収する、
ことをさらに含む。
【0164】
(3)抗原結合分子のスクリーニング方法
一局面において、本開示は、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子のスクリーニング方法であって、
(a) TRIM21結合ドメインを有する親抗原結合分子を提供し、
(b) 当該親抗原結合分子のTRIM21結合ドメインに1又はそれ以上のアミノ酸改変を導入して改変TRIM21結合ドメインを含む候補分子を取得し、
(c) 当該候補分子の(i)改変TRIM21結合ドメインのTRIM21に対する結合アフィニティ、(ii)細胞質中での半減期、(iii)細胞質抗原の除去能、又は(iv)細胞質中でのプロテアソーム分解耐性を決定し、
(d) 当該候補分子が、当該親抗原結合分子と比較して、(i)TRIM21に対する結合アフィニティが減少又は増加している、(ii)細胞質中での半減期が増加又は減少している、(iii)細胞質抗原の除去能が低下又は向上している、かつ/あるいは(iv)細胞質中でのプロテアソーム分解耐性が増加又は減少している場合に、当該候補分子を好適な分子であると特定する、
ことを含む、スクリーニング方法を提供する。 一態様において、一定量の前記好適な分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該好適な分子の量は、同量の親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較して増加又は減少している。一態様において、前記スクリーニング方法は、改変されたTRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する当該抗原結合分子量を、同量の前記親抗原結合分子を細胞と接触させた後の当該細胞の細胞質中に存在する親抗原結合分子量と比較することをさらに含む。
【0165】
(4)細胞質抗原のイメージング方法
別の一局面において、本開示は、本開示の改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子、前記改変方法により改変された抗原結合分子、前記製造方法により製造された抗原結合分子、または前記スクリーニング方法により好適な分子として特定された抗原結合分子を使用することを含む、試料細胞中の細胞質抗原をイメージングする方法を提供する。
また別の一局面において、本開示は、試料細胞中の細胞質抗原のイメージングにおいて使用するための、本開示の改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子、前記改変方法により改変された抗原結合分子、前記製造方法により製造された抗原結合分子、または前記スクリーニング方法により好適な分子として特定された抗原結合分子を提供する。
また別の一局面において、本開示は、細胞質抗原のイメージング剤の製造における、本開示の改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子、前記改変方法により改変された抗原結合分子、前記製造方法により製造された抗原結合分子、または前記スクリーニング方法により好適な分子として特定された抗原結合分子の使用を提供する。
これらの局面の一態様において、使用される抗原結合分子は、それ自体が細胞質侵入能を有するか、又は細胞質侵入能を有するように修飾されており、細胞と接触する(例えば、細胞と共にインキュベートされる)ことによって、細胞質に侵入することができる。これらの局面の別の一態様において、使用する抗原結合分子は、細胞質内にマイクロインジェクションされる。これらの局面の特定の態様において、使用される抗原結合分子は標識されている。
これらの局面の一態様において、使用される抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、細胞質中での半減期が増加している、細胞質抗原の除去能が低下している、細胞質中でのプロテアソーム分解耐性が増加している、NF-kBシグナリング経路を活性化させる能力が低下している、かつ/あるいは炎症及び抗腫瘍反応を誘導する能力が低下している。
【0166】
K.イムノコンジュゲート
本開示はまた、1つまたは複数の細胞傷害剤(例えば化学療法剤または化学療法薬、増殖阻害剤、毒素(例えば細菌、真菌、植物もしくは動物起源のタンパク質毒素、酵素的に活性な毒素、もしくはそれらの断片)または放射性同位体)にコンジュゲートされた本明細書の改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子を含むイムノコンジュゲートを提供する。
【0167】
L.細胞質抗原のノックダウンのための方法
特定の態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が、細胞質中での半減期が減少しており、かつ細胞質抗原結合ドメインを含む場合、当該抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、細胞質抗原の除去能が向上している。したがって、本明細書で提供される、改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が減少した抗原結合分子は、細胞質抗原をタンパク質レベルでノックダウンするのに有用である。本明細書で用いられる用語「ノックダウン」は、特定のタンパク質の発現量または存在量が減少することを意味する。具体的には、細胞質抗原がタンパク質レベルでノックダウンされると、一細胞あたりの細胞質抗原量が減少する。
【0168】
M.診断および検出のための方法および組成物
特定の態様において、本明細書で提供される改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子のいずれも、生物学的サンプルにおける細胞質抗原の存在を検出するのに有用である。本明細書で用いられる用語「検出」は、定量的または定性的な検出を包含する。
【0169】
一態様において、診断方法または検出方法において使用するための、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が提供される。さらなる局面において、生物学的サンプル中の細胞質抗原の存在を検出する方法が提供される。特定の態様において、この方法は、細胞質抗原への改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の結合が許容される条件下で本明細書に記載の改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子と生物学的サンプルを接触させること、および改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子と細胞質抗原の間で複合体が形成されたかどうかを検出することを含む。そのような方法は、インビトロの方法またはインビボの方法であり得る。
【0170】
さらなる一態様において、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が、細胞質中での半減期が増加している場合、当該抗原結合分子は、親抗原結合分子と比較して、長時間細胞質中に存在することができる。したがって、本明細書で提供される、改変TRIM21結合ドメインを含み、細胞質中での半減期が増加した抗原結合分子は、細胞質抗原をイメージング等の方法で検出するのに有用である。また、細胞質中での半減期が増加した抗原結合分子を用いることによって、検出時の細胞質中の抗原結合分子濃度を増加させることができるから、細胞質抗原の検出感度が上がることも期待できる。
【0171】
特定の態様において、標識されている、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が提供される。標識は、直接的に検出される標識または部分(例えば、蛍光標識、発色標識、高電子密度標識、化学発光標識、および放射性標識)ならびに、例えば酵素反応または分子間相互作用を通じて間接的に検出される部分(例えば酵素またはリガンド)を含むが、これらに限定されない。例示的な標識は、これらに限定されるものではないが、以下を含む:放射性同位体32P、14C、125I、3Hおよび131I、希土類キレートなどの発蛍光団またはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)などのルシフェラーゼ、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ (horseradish peroxidase: HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、単糖オキシダーゼ(例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼおよびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、ウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼなどの複素環オキシダーゼ、過酸化水素を用いて色素前駆体を酸化する酵素(例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼ、またはミクロペルオキシダーゼ)と連結されたもの、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定なフリーラジカル類、ならびにこれらに類するもの。
【0172】
N.薬学的製剤
本明細書に記載の改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の薬学的製剤は、所望の純度を有する抗原結合分子を、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体 (Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)) と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製される。薬学的に許容される担体は、概して、用いられる際の用量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、これらに限定されるものではないが、以下のものを含む:リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む、抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、またはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む、単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの、砂糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール (PEG) などの非イオン系表面活性剤。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体は、さらに、可溶性中性活性型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質 (sHASEGP)(例えば、rHuPH20 (HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.) などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質)などの間質性薬剤分散剤を含む。特定の例示的sHASEGPおよびその使用方法は(rHuPH20を含む)、米国特許出願公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。一局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つまたは複数の追加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0173】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水溶液抗体製剤は、米国特許第6,171,586号およびWO2006/044908に記載のものを含み、後者の製剤はヒスチジン-アセテート緩衝液を含んでいる。
【0174】
本明細書の製剤は、治療される特定の適応症のために必要であれば1つより多くの有効成分を含んでもよい。互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものが好ましい。このような有効成分は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。
【0175】
有効成分は、例えば液滴形成(コアセルベーション)手法によってまたは界面重合によって調製されたマイクロカプセル(それぞれ、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル、およびポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル)に取り込まれてもよいし、コロイド状薬剤送達システム(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)に取り込まれてもよいし、マクロエマルションに取り込まれてもよい。このような手法は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980) に開示されている。
【0176】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例は、抗原結合分子を含んだ固体疎水性ポリマーの半透過性マトリクスを含み、当該マトリクスは例えばフィルムまたはマイクロカプセルなどの造形品の形態である。
【0177】
生体内 (in vivo) 投与のために使用される製剤は、通常無菌である。無菌状態は、例えば滅菌ろ過膜を通して濾過することなどにより、容易に達成される。
【0178】
O.治療的方法および治療用組成物
本明細書で提供される改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子のいずれも、治療的な方法において使用されてよい。
一局面において、医薬品としての使用のための、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が提供される。特定の態様において、治療方法における使用のための、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子が提供される。このような態様の1つにおいて、方法は、当該個体に少なくとも1つの(例えば後述するような)追加治療剤の有効量を投与する工程を、さらに含む。上記態様の任意のものによる「個体」は、好適にはヒトである。
【0179】
さらなる局面において、本開示は医薬品の製造または調製における改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の使用を提供する。このような態様の1つにおいて、方法は、当該個体に少なくとも1つの追加治療剤の有効量を投与する工程を、さらに含む。上記態様の任意のものによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0180】
さらなる局面において、本開示は、本明細書で提供される改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の任意のものを含む、薬学的製剤を提供する(例えば上述の治療的方法の任意のものにおける使用のための)。一態様において、薬学的製剤は、本明細書で提供される改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の任意のものと、薬学的に許容される担体とを含む。別の態様において、薬学的製剤は、本明細書で提供される改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の任意のものと、少なくとも1つの追加治療剤とを含む。
【0181】
本開示の抗原結合分子(および、任意の追加治療剤)は、非経口投与、肺内投与、および経鼻投与、また局所的処置のために望まれる場合は病巣内投与を含む、任意の好適な手段によって投与され得る。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与を含む。投薬は、投与が短期か長期かに一部応じて、例えば、静脈内注射または皮下注射などの注射によるなど、任意の好適な経路によってなされ得る。これらに限定されるものではないが、単回投与または種々の時点にわたる反復投与、ボーラス投与、および、パルス注入を含む、種々の投薬スケジュールが本明細書の考慮の内である。
【0182】
本開示の抗原結合分子は、優良医療規範 (good medical practice) に一致したやり方で、製剤化され、投薬され、また投与される。この観点から考慮されるべきファクターは、治療されているその特定の障害、治療されているその特定の哺乳動物、個々の患者の臨床症状、障害の原因、剤を送達する部位、投与方法、投与のスケジュール、および医療従事者に公知の他のファクターを含む。抗原結合分子は、必ずしもそうでなくてもよいが、任意で、問題の障害を予防するまたは治療するために現に使用されている1つまたは複数の剤とともに、製剤化される。そのような他の剤の有効量は、製剤中に存在する抗原結合分子の量、障害または治療のタイプ、および上で論じた他のファクターに依存する。これらは通常、本明細書で述べたのと同じ用量および投与経路で、または本明細書で述べた用量の約1から99%で、または経験的/臨床的に適切と判断される任意の用量および任意の経路で、使用される。
【0183】
疾患の予防または治療のために、本開示の抗原結合分子の適切な用量(単独で用いられるときまたは1つまたは複数の他の追加治療剤とともに用いられるとき)は、治療される疾患のタイプ、抗原結合分子が抗体である場合は当該抗体のタイプ、疾患の重症度および経過、抗原結合分子が予防的目的で投与されるのか治療的目的で投与されるのか、薬歴、患者の臨床歴および抗原結合分子に対する応答、ならびに、主治医の裁量に依存するだろう。抗原結合分子は、患者に対して、1回で、または一連の処置にわたって、好適に投与される。疾患のタイプおよび重症度に応じて、例えば、1回または複数回の別々の投与によるにしても連続注入によるにしても、約1μg/kgから15 mg/kg(例えば、0.1mg/kg~10mg/kg)の抗原結合分子が、患者に対する投与のための最初の候補用量とされ得る。1つの典型的な1日用量は、上述したファクターに依存して、約1μg/kgから100mg/kg以上まで、幅があってもよい。数日またはより長くにわたる繰り返しの投与の場合、状況に応じて、治療は通常疾患症状の所望の抑制が起きるまで維持される。抗原結合分子の1つの例示的な用量は、約0.05mg/kg から約 10mg/kgの範囲内である。よって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、もしくは 10mg/kgの1つまたは複数の用量(またはこれらの任意の組み合わせ)が、患者に投与されてもよい。このような用量は、断続的に、例えば1週間毎にまたは3週間毎に(例えば、患者が約2から約20、または例えば約6用量の抗原結合分子を受けるように)、投与されてもよい。高い初回負荷用量の後に、1回または複数回の低用量が投与されてもよい。この療法の経過は、従来の手法および測定法によって、容易にモニタリングされる。
【0184】
上述の製剤または治療的方法のいずれについても、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の代わりにまたはそれに追加して、本開示のイムノコンジュゲートを用いて実施してもよいことが、理解されよう。
【0185】
P.製品
本開示の別の局面において、上述の障害の治療、予防、および/または診断に有用な器材を含んだ製品が、提供される。製品は、容器、および当該容器上のラベルまたは当該容器に付属する添付文書を含む。好ましい容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが含まれる。容器類は、ガラスやプラスチックなどの、様々な材料から形成されていてよい。容器は組成物を単体で保持してもよいし、症状の治療、予防、および/または診断のために有効な別の組成物と組み合わせて保持してもよく、また、無菌的なアクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、皮下注射針によって突き通すことのできるストッパーを有する静脈内投与用溶液バッグまたはバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1つの有効成分は、本開示の抗原結合分子である。ラベルまたは添付文書は、組成物が選ばれた症状を治療するために使用されるものであることを示す。さらに製品は、(a)第一の容器であって、その中に収められた本開示の抗原結合分子を含む組成物を伴う、第一の容器;および、(b)第二の容器であって、その中に収められたさらなる細胞傷害剤またはそれ以外で治療的な剤を含む組成物を伴う、第二の容器を含んでもよい。本開示のこの態様における製品は、さらに、組成物が特定の症状を治療するために使用され得ることを示す、添付文書を含んでもよい。あるいはまたは加えて、製品はさらに、注射用制菌水 (BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液などの、薬学的に許容される緩衝液を含む、第二の(または第三の)容器を含んでもよい。他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジなどの、他の商業的観点またはユーザの立場から望ましい器材をさらに含んでもよい。
【0186】
上述の製品のいずれについても、改変TRIM21結合ドメインを含む抗原結合分子の代わりにまたはそれに追加して、本開示のイムノコンジュゲートを含んでもよいことが、理解されよう。
【実施例
【0187】
以下は、本開示の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
【0188】
前述の発明は、明確な理解を助ける目的のもと、実例および例示を用いて詳細に記載したが、本明細書における記載および例示は、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書で引用したすべての特許文献および科学文献の開示は、その全体にわたって、参照により明示的に本明細書に組み入れられる。
【0189】
[実施例1]
コンセプト
上述の背景技術に記載のとおり、抗ウイルス抗体が抗原に結合して細胞質に移行すると、当該抗体のFc領域にTRIM21が結合し、さらにTRIM21が自己ポリユビキチン化されることで、TRIM21に結合したウイルス抗体複合体はプロテアソームに誘導されて分解されることが報告されている(Trends Immunol. 2017 Dec;38(12):916-926.)。このとき、ウイルスに結合した抗体もウイルスとともに分解されてしまう。
【0190】
一方で、細胞質中抗原に対して作用する抗体については、抗体のTRIM21結合能を減弱させる変異を同定することで、細胞質中における抗体の半減期を延長させることが期待できる。抗体の細胞質中の半減期を延長させることで抗体の細胞質への蓄積を高め、細胞質抗原に対する作用を高めることが可能になる(図1a)。
【0191】
また、Dean Clift et al は、抗体を細胞質にマイクロインジェクションで導入することで、細胞質中の抗原をTRIM21を介して分解できることを報告している (Cell. 2017 Dec 14;171(7):1692-1706.e18)。TRIM21に対する抗体の結合能を高めることができれば、細胞質中の抗原と抗体の複合体のプロテアソームへの誘導を向上させることができ、細胞質抗原の分解を促進させることが可能である(図1b)。
【0192】
そこで、抗体の定常領域にアミノ酸変異導入を行い、TRIM21結合能を減弱または増強する改変を同定した。さらに、取得した改変を細胞質侵入抗体に導入し、抗体の細胞質中における半減期を延長または短縮することを検証した。
【0193】
[実施例2]
抗体への変異導入及び抗体の調製
抗IL6R抗体であるMRAH-G1d/MRAL-KT0の重鎖可変領域 MRAH(配列番号:7)、重鎖定常領域G1d(配列番号:8)、軽鎖可変領域MRAL(配列番号:9)、軽鎖定常領域KT0(配列番号:10)を鋳型とし、抗体の重鎖定常領域をコードする遺伝子に当業者公知の方法で変異導入を行い、表3に示すアミノ酸改変を導入した変異体(各改変ポジションについて18変異体)の発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。
【0194】
抗体の発現ベクターをExpi293細胞 (Thermo Fisher Scientific)に、一過性に導入し抗体の発現を行った。得られた培養上清から、Bravo AssayMAP (Agilent)とProtein A (PA-W) Cartrige (Agilent)を用いて、またはMabSelect SuRe pcc (5mL) (GE Healthcare) とAKTA Xpress (GE Healthcare)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。なお、精製抗体は必要に応じてAmicon Ultra-4 (30K) (Merck Millipore)を用いて濃縮した。
【0195】
【表3】
【0196】
[実施例3]
Human TRIM21及びmouse TRIM21の調製
Human TRIM21のPRYSPRYドメイン(hTRIM21)およびmouse TRIM21のPRYSPRYドメイン(mTRIM21)を次の方法で調整した。
Human TRIM21(NCBI accession: NP_003132)及びmouse TRIM21(GenBank accession: CAJ18544)のPRYSPRYドメインであるhuman TRIM21. PRYSPRY (配列番号:5)とmouse TRIM21. PRYSPRY (配列番号:6)のN末端に6xHisタグを付加したタンパク質をコードする遺伝子をpET28aベクターに導入した発現ベクターをそれぞれ、当業者公知の方法で 大腸菌BL21 (DE3) 株に導入した。2種類の発現株は、50 μg/mL Kanamycin を含む 1 LのLB培地を使用して37℃で振とう培養し、OD600nmが0.5-0.6に達した時点で、終濃度0.2 mM IPTGを添加した後、温度を18℃に下げさらに18時間培養してTRIM21を発現させた。
【0197】
遠心分離で回収した菌体に、cOmplete Protease Inhibitor Cocktail (Roche) とBenzonase Nuclease (Merck) を添加した30 mL の lysis buffer (50 mM Tris-HCl, pH8.0, 300 mM NaCl, 20 mM imidazole, 10% glycerol, 3 mM β-ME)を加えて、sonicationをかけ菌体を破砕した。破砕後に遠心分離した上清は0.22 μm フィルターで濾過してから、50 mM Tris-HCl, pH8.0, 300 mM NaCl, 20 mM imidazole, 10% glycerol, 3 mM β-ME で平衡化したNi-NTA agaroseカラム(QIAGEN)にかけた。カラムは平衡化bufferで洗浄してから、吸着したタンパク質をimidazole濃度を 300mMに上げることにより溶出した。
【0198】
溶出画分は、AMICON ULTRA,10 KDa cutoff (Merck)で濃縮後、さらに20 mM Tris-HCl pH8.0, 60 mM NaCl, 0.5 mM TCEPで10倍に希釈してから、同bufferで平衡化したMono Q 5/50 GLカラム (GE Helthcare) にかけ、pass through画分を精製TRIM21として回収した。精製TRIM21は、AMICON ULTRA, 10 KDa cutoffを使用して、濃縮しながらHBS-EP buffer(GE Helthcare)に溶媒を交換した。精製タンパク質の濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いてタンパク質濃度を算出した (Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0199】
[実施例4]
表面プラズモン共鳴(SPR)による抗体のTRIM21及びFcRnへの結合能評価
センサーチップSeries S CM3 (Cat.# BR-1005-36, GE Healthcare)に10 mM sodium acetate buffer pH4.5 (Cat.# BR-1003-50, GE Healthcare) にて10 μg/mLに調製したrProtein L(Cat.# 6530-1, BioVision)をAmine Coupling Kit ( Cat.# BR-1000-50, GE Healthcare)を用いて1フローセルあたり約2000 RUを固定化し、rProL-CM3チップを作成した。
【0200】
実施例2で調製した抗体のhTRIM21とmTRIM21に対する結合を確認する目的で、HBS-P buffer で0.60 μg/mLに調製した抗体を25℃、流速10 μL /minで60秒反応させて約200 RUの抗体をrProL-CM3チップ上に捕捉した。続けて、アナライトとしてHBS-P bufferで100 nMに調製したhTRIM21またはmTRIM21を流速30μL /minで120秒間作用させた後、120秒間解離相を検出し、抗体とhTRIM21及びmouse TRIM21の結合量を測定した。
【0201】
また、human FcRn (hFcRn)に対する結合を確認する目的で、リン酸バッファー(0.05 M sodium phosphate, 0.15 M NaCl, pH 6.0, 0.05 w/v % P20)(Nacalai Tesque) で1.29 μg/mLに調製した抗体を25℃、流速10 μL /minで60秒反応させて約400 RUの抗体をrProL-CM3チップ上に捕捉した。続けてアナライトとしてリン酸バッファーで1 μMに調製したhFcRnを流速10 μL /minで120秒間作用させた後、120秒間解離相を検出し、抗体とhuman FcRnの結合量を測定した。なお、hFcRnはWO2013/046704に記載の方法で調製した。
【0202】
各アナライトと抗体の結合量は、抗体のrProL-CM3チップへの固定化量で標準化した。その結果、(1)hTRIM21及びmTRIM21への結合を減弱する改変、(2)hTRIM21への結合を減弱しmTRIM21への結合は維持または増強される改変、(3)mTRIM21への結合を減弱しhTRIM21への結合は維持または増強される改変、及び(4)hTRIM21及びmTRIM21への結合を増強する改変が同定された。さらに上記(1)~(4)に該当する改変のうちhFcRnへの結合を維持または増強する改変、あるいはhFcRnへの結合を減弱する改変が同定された。 実施例2で調製した抗体変異体をhTRIM21, mTRIM21, hFcRn結合への影響で分類した結果を表4(1)に、上記(1)~(4)に該当する改変を表4(2)に示す。なお、表4(1)のグループ「その他」は、hTRIM21およびmTRIM21への結合量が測定できなかった分類を表す。また、表4(1)の「+」は対照抗体(MRAH-G1d/MRAL-KT0)と比較して増加した結合量を、「-」は対照抗体(MRAH-G1d/MRAL-KT0)と比較して減少した結合量を表す。
【0203】
【表4】
【0204】
[実施例5]
細胞質に移行した抗体のビオチンライゲースを使用したアッセイによる検出
TRIM21に対する結合能の調節が抗体の細胞質中における半減期に及ぼす影響を評価するため、W.P.R. Verdurmen et al. / Journal of Controlled Release 200 (2015) 13-22に記載の方法を参考に細胞質に移行した抗体を検出した。すなわち、下記に記載の方法でビオチンライゲース (BirA) を発現させた細胞とBirAによってビオチン標識することが知られている公知のタグ配列Avi tag (Protein Science 1999, 8:921-929. )を付加した抗体をインキュベートし、抗体が細胞質に移行すると、細胞質中で発現しているBirAによってAvi tagにビオチンが付加される。ビオチン標識された抗体をStreptavidin-HRPで検出することで、細胞質中に存在する抗体量を評価することができる。
【0205】
(1) 細胞と抗体の反応
実施例4の結果に基づき、hTRIM21及び/またはmTRIM21及び/またはhFcRn結合能を減弱または増減する改変I253F、L314K、M428R、N434G、Y436D、T437Vを選択し、細胞質中における抗体の分解を評価した。また、公知のhTRIM21結合能を減弱させる改変H433A、H435Aについても同様に評価した (J Immunol. 2016 Apr 15;196(8):3452-3459)。WO2016013871及びBiochemical and Biophysical Research Communications 379(2009)314-318に記載の公知の細胞質侵入抗体 3D8VH-G1m.Avi/hT4VL-KT0の重鎖可変領域 3D8VH(配列番号:11)、重鎖定常領域G1m.Avi(配列番号:12)、軽鎖可変領域hT4VL(配列番号:13)、軽鎖定常領域KT0(配列番号:10)または3D8VH-G4T1E356K.Avi/hT4VL-KT0の重鎖可変領域 3D8VH(配列番号:11)、重鎖定常領域G4T1E356K.Avi(配列番号:14)、軽鎖可変領域hT4VL(配列番号:13)、軽鎖定常領域KT0(配列番号:10)に実施例2に記載の方法で、選択した改変を重鎖定常領域に導入し、抗体を調製した。この時、抗体の重鎖をコードする遺伝子にAvi tag コードする遺伝子を連結し、重鎖のC末端にAvi tagが融合された抗体を調製した。
【0206】
10% FBS (Sigma Aldrich, Cat# 182012-500ML) とPenicillin-Streptomycin (Gibco, Cat# 15140-122)を含むMinimum Essential Medium Eagle (Sigma, Cat# M4655-500ML)で調製したHeLa細胞懸濁液をCostar(登録商標) 48 well cell culture cluster Flat bottom with Lid (Corning, Cat# 3548)に250 μL/well (4.5×104細胞/mL)で播種し、37℃、5% CO2条件下で一晩培養した。また、10% FBS (Sigma Aldrich, Cat# 182012-500ML) とPenicillin-Streptomycin (Gibco, Cat# 15140-122)を含むHam's F-12 Nutirent Mix (Gibco, Cat# 11765-054 )で調製したIL6R(GenPept登録番号NP_000556)を当業者公知の方法で過剰発現させたFlp-In-CHO細胞(Invitrogen)(CHO+IL6R細胞)細胞の懸濁液をCostar(登録商標) 48 well cell culture cluster Flat bottom with Lid (Corning, Cat# 3548)に250 μL/well (3.0×104細胞/well)で播種し、37℃、5% CO2条件下で一晩培養した。
【0207】
次に、Opti-MEM(登録商標) I (1x) (Gibco, Cat# 31985-062)及びLipofectamin 3000 kit(Life Technologies, Cat# L3000-015)を用いて、当業者公知の方法でHela細胞およびCHO細胞にBiotin ligase (BirA) (配列番号:15)の発現ベクターを一過性に導入し、37℃、5% CO2条件下で一晩培養することでBirAを発現させた。
培養上清を除去した後、抗体(終濃度 2 μM)、D-Biotin (Sigma Aldrich, Cat# B4501-10G)(終濃度0.1 mM)を含む培地を225 μL/well 添加し、37℃で1時間インキュベートした。抗体を含む溶液をアスピレーターで除去し、250 μLのD-PBS(-)で3回洗浄した。その後、培地を250μL/well添加し、37℃で2時間または4時間インキュベートした。その後、培地を除去し、D-PBS (-) で洗浄した。Accutase(Nacalai Tesque, Cat# 12679-54)を100 μL/well添加して37℃でインキュベートした後、800 μL/wellの培地を添加して細胞をマイクロチューブに回収した。遠心分離 (400×g、2分)して上清を除去し、800 μLのD-PBS(-)を添加して再度遠心分離を行い上清を除去した。Sample Buffer Solution with 3-Mercapto-1,2-propanediol (Wako, Cat# 199-16132)を等量のMQと混合し、予め96℃に加熱した後、回収した細胞に10 uLを加えて、直ちに96℃で8分間加熱した。その後、サンプルを氷冷した後、-20℃で保存した。
【0208】
(2)ビオチン標識された抗体の検出
(1)で調製した細胞破砕液中の、ビオチン標識された抗体をSimple Western Wes (Protein Simple)及び12-230 kDa Wes Separation Module, 8 x 25 capillary cartridges (Protein Simple, Cat# SM-W004)を用いて検出した。調製した細胞破砕液を室温で融解した後、遠心分離 (15,000 rpm, 3分間)し、上清を回収した。上清をMQで8倍に希釈した後、10X Sample Bufer 20 μL、400 mM DTT 20 μL、Fluorescent Standard 1本を予め混合して調製した5×Fluorescent Master Mix と4:1の容量比で混合した。 95℃で5分間加熱した後、撹拌後に氷上で保存し測定サンプルとした。また、Luminol-S 200 μLとPeroxide 200 μLを混合してHRP基質を調製した。
【0209】
12-230 kDa Wes Separation Module, 8 x 25 capillary cartridgesのPre-filled Micro PlateのA列に測定サンプルを3 μL、B列にAntibody Diluent IIを10 μL、C列にStreptavidin-HRPを10 μL、E列にHRP基質を15 μL添加し、測定を実施した。なお、予めMilliQ 16 μL、10×Sample Buffer 2 2 μL、400 mM DTT 2 μL及びBiotin Ladder 1本を混合して調製したBiotin Ladder 5 μLを分子量マーカーとして用いて同時に測定を行った。各試薬はSimple Western Wes (Protein Simple)及び12-230 kDa Wes Separation Module, 8 x 25 capillary cartridges (Protein Simple, Cat# SM-W004)とBiotin Detection Module for Wes, Peggy Sue or Sally Sue (Cat# DM-004)に付属のものを用いた。
【0210】
Wesによる測定は、Separation Matrix Load Time 200秒、Stacking Matrix Load Time 15秒、Sample Load Time 9秒、Separation Time 25秒、Separation voltage 375 V、Standards Exposure 4秒、EE Immobilization Time 230秒、Matrix washes 3回、Matrix Wash Soak Time 150秒、Wash Soak Time 150秒、Antibody Diluent Time 5分、Primary Antibody Time 30分、Washes 2回、Wash Soak Time 150秒、Detection Profile HDRで実施した。
【0211】
また、Streptavidin-HRPの代わりに、β-Actin (13E5) Rabbit mAb (HRP conjugate) (Cell Signaling, Cat#5125S) をAntibody Diluent IIで50倍希釈して用い、測定サンプル中に含まれるactinを検出した。この時、細胞破砕液を室温で融解した後、遠心分離 (15,000 rpm, 3分間)し、回収した上清をMQで2倍に希釈して測定サンプルの調製に用いた。
検出したHRPシグナルをCompass for Simple Western Version 3.1.7 (Protein Simple)を用いて解析し、図2~5に示すようなレーン画像を作成した。
【0212】
その結果、hTRIM21結合能を減弱させる公知の改変H433AまたはH435Aを重鎖定常領域に導入した3D8VH-G4T1E356K.Avi/hT4VL-KT0について、CHO細胞及びHela細胞と1時間インキュベートし、抗体を除去して2時間後に回収した細胞の破砕液中から、BirAによってビオチン標識された抗体を検出した。検出された抗体重鎖に相当する約60kDaのタンパク質は、改変を導入していない3D8VH-G4T1E356K.Avi/hT4VL-KT0と比べて高いHRPの発光シグナルを示した(図2図3)。これはTRIM21結合能を減弱する改変を重鎖定常領域に導入した細胞質侵入抗体が細胞質により多く蓄積したことを示唆している。
【0213】
また、実施例4の結果に基づき選択した、hTRIM21結合能を減弱または増強させる改変を導入した3D8VH-G1m.Avi/hT4VL-KT0について、CHO細胞及びHela細胞と1時間インキュベートし、その2時間後及び4時間後に回収した細胞の破砕液中から、BirAによってビオチン標識された抗体を検出した。改変を導入していない3D8VH-G1m.Avi/hT4VL-KT0は、抗体を除去した2時間後には抗体重鎖に相当する約60kDaのタンパク質が検出されるのに対し、4時間後には検出されず、細胞質に移行した抗体が分解されていることが示唆された。一方、改変M428RやI253Fを導入した抗体については、4時間後でも検出された(図4図5)。
【0214】
[実施例6]
蛍光顕微鏡を用いた細胞質中の抗体のイメージング解析
公知の細胞内移行抗体3D8VH-G1m.Avi/hT4VL-KT0(重鎖可変領域 3D8VH(配列番号:11)、重鎖定常領域G1m.Avi(配列番号:12)、軽鎖可変領域hT4VL(配列番号:13)、軽鎖定常領域KT0(配列番号:10))及びその重鎖定常領域に実施例2に記載の方法で、選択した改変を導入した抗体を調製し、蛍光顕微鏡を用いたイメージング解析を実施した。
【0215】
10% FBS(Sigma Aldrich, Cat# 182012-500ML)とPenicillin-Streptomycin(Gibco, Cat# 15140-122)を含むMinimum Essential Medium Eagle(Sigma, Cat# M4655-500ML)で調製したHeLa細胞懸濁液を、I型コラーゲンが底面にコーティングされた96 well plate(Corning, Cat# 354649)に50 μL/well(6.0×105細胞/mL)で播種し、37℃、5% CO2条件下で一晩培養した。翌日、培養上清を除去し、抗体(終濃度 3 μM)を含む培地を30 μL/well 添加し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、抗体を含む培地をアスピレーターで除去し、抗体を含まない培地50μL/wellに交換し、37℃で0.5時間または1時間または2時間インキュベートした。なお、この時点で固定処理を実施する試料については、そのまま洗浄の過程に進んだ。所定のインキュベート後、試料より培地を除去し、D-PBS (-) で洗浄した。さらに、細胞膜上に残存する抗体を除去する目的で、200 mM Glycine(和光純薬工業, Cat# 077-00735)-HCl(和光純薬工業, Cat# 083-01095)、150 mM NaCl(和光純薬工業, Cat# 191-01665)、pH 2.5から成る洗浄液にて30秒洗浄する操作を2回実施した。その後、4%‐パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(ナカライテスク, Cat# 09154-56)を室温にて15分作用させることで、固定処理を実施した。次いで、0.5% Triton X-100(Bio-rad, Cat# 161-0407)および5% FBSを含むPBSにて、4℃で一晩インキュベートすることで、透過処理を実施した。なお、透過処理に用いた溶液は、その後の標識抗体とのインキュベーションや洗浄のステップにも使用した。細胞内移行抗体の標識は、Goat Anti-Human IgG-Alexa Fluor 488(SouthernBiotech, Cat# 2040-30)を250倍希釈し、4℃で1時間インキュベートすることで実施した。このとき、細胞体を可視化するためにHCS CellMask Deep Red(Thermo, Cat# H32721)を10000倍希釈して併せて添加した。最後にPBSにて2回洗浄し、測定試料とした。試料の測定は、IN Cell Analyzer 6000(GEヘルスケア社製)を用いた。
【0216】
その結果、改変を導入していない3D8VH-G1m.Avi/hT4VL-KT0と比較して、改変M428RやI253Fを導入した抗体は、細胞と抗体をインキュベートした直後において高い蛍光シグナルを示し、細胞質への蓄積量が増加していることが示唆された(図6)。また、細胞を抗体とインキュベート後に蛍光の経時変化を観察した結果、1時間後においても改変M428RやI253Fを導入した抗体は、改変を導入していない抗体と比較して高い蛍光シグナルを示した。
以上より、TRIM21結合能を減弱する改変を導入した細胞質侵入抗体について、細胞質におけるTRIM21依存的な分解を抑制することができることが示され、抗体の細胞質中における半減期を延長できることが示された。また、I253F改変を導入した細胞質侵入抗体についても、抗体の細胞質中における半減期を延長できることが示された。本開示を用いることで、抗体-CPP複合体や細胞質侵入抗体など、細胞質に移行する機能を有した抗体を細胞質により蓄積させ、かつその作用時間を延長させることが可能であり、その抗原(細胞質中抗原)に対する作用を強めることが可能である。
【0217】
[実施例7]
細胞質侵入抗体による細胞質抗原の分解誘導
TRIM21結合能を増強した細胞質侵入抗体が、細胞質中の抗原をプロテアソームにリクルートすることでプロテアソームにおける細胞質抗原の分解誘導を示すことを、蛍光顕微鏡を用いたイメージング解析により検証する。
実施例5に記載の公知の細胞質侵入抗体 3D8 の細胞質侵入ドメインと、抗GFP抗体の抗原結合部位を有する二重特異性抗体 3D8//aGFPを当業者公知の方法で調製する。この時、実施例2に記載の方法で、選択した改変を重鎖定常領域に導入した抗体も調製する。
当業者公知の方法でHela細胞にGFPを一過性に発現させたGFP-HeLa細胞を調製し、10% FBSとPenicillin-Streptomycinを含むMinimum Essential Medium Eagleで培養する。GFP-HeLa細胞懸濁液を調製し、I型コラーゲンが底面にコーティングされた96 well plateに50 μL/well(6.0×105細胞/mL)で播種し、37℃、5% CO2条件下で一晩培養する。翌日、培養上清を除去し、抗体(終濃度 3 μM)を含む培地を30 μL/well 添加し、37℃で0.5時間から16時間インキュベートする。任意の時点で細胞を回収し、IN Cell Analyzer 6000を用いてGFPの蛍光を検出する。または、抗体添加後37℃、5% CO2条件下で培養し、継時的なGFPの蛍光シグナルの変化を蛍光顕微鏡を用いてタイムラプス観察する。
その結果、TRIM21に対する結合を増強する改変を導入していない3D8//aGFPを添加した細胞と比較して、改変を導入した3D8//aGFPを添加した細胞は、同時点において低いGFP蛍光シグナルを示す。また、改変を導入していない3D8//aGFPを添加した細胞と比較して、改変を導入した3D8//aGFPを添加した細胞は、継時的なGFPの蛍光シグナルの観察において、より短時間でGFPの蛍光シグナルが減少する。
以上より、TRIM21結合能を増強する改変を導入した細胞質侵入抗体について、細胞質におけるTRIM21依存的な細胞質抗原の分解を促進できることが示される。
【0218】
[実施例8]
TRIM21に対する結合を増強した改変を含みかつKRAS結合能を有する細胞質侵入抗体の細胞増殖阻害能の評価
細胞質侵入能と活性型KRAS結合能を示す公知の抗体RT11 (Nat Commun. 2017 May 10;8:15090.)の重鎖定常領域に実施例2に記載の方法で、選択した改変を導入した抗体を調製する。TRIM21結合能を増強した細胞質侵入抗体が、細胞質中の抗原をプロテアソームにリクルートすることで、細胞質抗原であるKRASタンパク質の分解を誘導し、細胞増殖阻害活性を増強できることを検証する。
Hela細胞、PAC-1細胞(KRAS G12D変異株)及びNIH3T3 細胞は10% FBSとPenicillin-Streptomycinを含むDMEM培地、37℃、5% CO2条件下で一晩培養される。SW480細胞(KRAS G12V変異株)、LoVo細胞(KRAS G13D変異株)、Colo320DM細胞、AsPC-1細胞 (KRAS G12D変異株)、HT1080細胞 (NRAS Q61K変異株) 及びH1299細胞 (NRAS Q61K変異株)は10% FBSとPenicillin-Streptomycinを含むRPMI1640培地、37℃、5% CO2条件下で一晩培養される。
細胞培養液をI型コラーゲンが底面にコーティングされた24 well plateに200μL/well(1×104細胞/Well)で播種し、37℃、5% CO2条件下で一晩培養する。翌日、培養上清を除去し、抗体RT11(終濃度 1、5、10、15、20、または40 μM)を含む培地を200 μL/well 添加し、37℃でインキュベートする。72時間後に培養上清を除去し、再び同濃度の抗体RT11を含む培地を200μL/well添加する。その3日後に細胞をトリパンブルーで染色し、細胞の生存率を算出する。抗体RT11を添加した際の細胞生存率とPBSを添加した条件における生存率との比を抗体RT11による細胞増殖阻害率として算出する。この時、抗体RT11は重鎖定常領域に実施例2に記載の方法でTRIM21に対する結合を減弱または増強する改変を導入した抗体も用いる。TRIM21に対する結合を減弱または増強する改変を導入した抗体RT11は、改変を導入していない抗体RT11と比較して、統計学的に有意に高い細胞増殖阻害率を示す。
以上より、TRIM21に対する結合を減弱または増強する改変を導入した細胞質侵入抗体において、細胞質中への蓄積を促進、及び細胞質中での半減期を延長することによって、細胞質抗原に対する作用を高めることが可能である。
【0219】
[実施例9]
示査走査型蛍光定量法による改変抗体のTm評価
抗体のFc領域の改変は、抗体の物性に悪影響を与えることが知られている。例えばADCC活性を増強させた改変型Fc領域では、熱変性中点が約20℃低下することが報告されている(Biol Crystallogr. 2008 Jun;64(Pt 6):700-4)。また、ADCC活性を低下させた改変型Fc領域は、熱変性中点が約5℃低下すること、加水分解酵素による分解が起こりやすいこと、酸性条件下で分解がおこりやすいことが報告されている(Immunol Lett. 2006 Aug;106(2):144-53、Pharm Res. 2008 Aug;25(8):1881-90、Biochem Biophys Res Commun. 2006 Mar;341(3):797-803)。さらに、血中滞留性を向上させた改変型Fc領域では、熱安定性や保存安定性の低下が報告されている(WO2007092772)。 抗体のFc領域におけるTRIM21の結合部位の変異導入も熱安定性を低下すると考えられたことから、実施例2に記載の方法に従い公知の細胞内移行抗体3D8VH-G1m /hT4VL-KT0.Avi(重鎖可変領域 3D8VH(配列番号:11)、重鎖定常領域G1m(配列番号:16)、軽鎖可変領域hT4VL(配列番号:13)、軽鎖定常領域KT0.Avi(配列番号:17))の重鎖定常領域に改変を導入した抗体を調製し、Rotor-Gene Q(QIAGEN)を用いた示査走査型蛍光定量法を用いて改変抗体の変性温度(Tm)を評価した。なお、本手法は、抗体の熱安定性評価法として広く知られている示唆走査型熱量計を用いたTm評価と良好な相関を示すことが既に報告されている(Journal of Pharmaceutical Science 2010 ; 4 : 1707-1720)。
【0220】
5000倍濃度のSYPRO orange(Invitrogen)をPBS(Sigma)により希釈後、抗体溶液と混和することにより測定サンプルを調製した。各サンプルを20 μLずつ測定用チューブにセットし、240℃ /hrの昇温速度で30℃から99℃まで温度を上昇させた。昇温度に伴う蛍光変化を470 nm(励起波長)/ 555 nm(蛍光波長)において検出を行った。データはRotor-Gene Q Series Software(QIAGEN)を用いて蛍光遷移が認められた温度を算出し、この値をTm値とした。
【0221】
その結果、表5(1)及び(2)に示すように、TRIM21結合能を減弱または増強する変異を導入した抗体について、変異を導入していない抗体(WT)と比較してTm値が維持または上昇している改変が見出された。表5(1)および(2)それぞれについて、これらの改変を、Tm値が維持または上昇している改変(グループ1)と、それ以外の改変(グループ2)に分類した。
【0222】
【表5】
【0223】
[実施例10]
表面プラズモン共鳴(SPR)による抗体のhTRIM21へのアフィニティ測定
センサーチップSeries S CM3 (Cat.# BR-1005-36, GE Healthcare)に10 mM sodium acetate buffer pH4.5 (Cat.# BR-1003-50, GE Healthcare) にて10 μg/mLに調製したrProtein L(Cat.# 6530-1, BioVision)をAmine Coupling Kit ( Cat.# BR-1000-50, GE Healthcare)を用いて1フローセルあたり約2500 RUを固定化し、rProL-CM3チップを作成した。
実施例2に記載の方法で調製した抗体のhTRIM21に対する結合を確認する目的で、HBS-P buffer で0.50 μg/mLに調製した抗体を25℃、流速10 μL /minで60秒間反応させて抗体をrProL-CM3チップ上に捕捉した。続けて、アナライトとしてHBS-P bufferで200 nM, 100 nM, 50 nM, 25 nM, 12.5 nMに調製したhTRIM21を流速30μL /minで180秒間ずつ連続して作用させた後、300秒間解離相を検出し、抗体とhTRIM21の結合アフィニティ及び抗体のキャプチャー量当たりのhTRIM21結合量 (Bidning/Capture)をBiacore T200 Evaluation Software Version 2.0 (GE Healthcare) を用いて算出した(表6)。
【0224】
【表6】
N.D.は結合レスポンスが弱くアフィニティを算出できなかったことを意味する
【産業上の利用可能性】
【0225】
本開示の、改変TRIM21結合ドメインを含み細胞質中での半減期が増加した抗原結合分子は、従来の抗原結合分子より長く細胞質中にとどまることができ、治療用、診断または検出用抗原結合分子として有用である。また、改変TRIM21結合ドメインを含み細胞質中での半減期が減少した抗原結合分子は、従来の抗原結合分子より細胞質抗原の除去能が向上していることが期待でき、治療用抗原結合分子として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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