(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】制御変数の実際値の算出による燃料電池の反応物質の改質装置の制御変数の制御
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0432 20160101AFI20231024BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20231024BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20231024BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20231024BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20231024BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20231024BHJP
【FI】
H01M8/0432
G05B11/36 Q
G05B13/04
H01M8/0438
H01M8/04492
H01M8/04701
(21)【出願番号】P 2020528935
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2018083105
(87)【国際公開番号】W WO2019110433
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-22
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】398055255
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(72)【発明者】
【氏名】カンシャール・ヤーノシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヤクベク・シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】キューゲレ・クリストフ
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-190913(JP,A)
【文献】特開2006-066300(JP,A)
【文献】特表2008-524107(JP,A)
【文献】特開2006-086071(JP,A)
【文献】特開2005-052808(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0062291(US,A1)
【文献】特開2003-112902(JP,A)
【文献】特表2019-530129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池(2)の反応物質用の改質装置(3)の少なくとも1つの制御変数(RGn)の実際値を算出するための方法であって、前記制御変数の実際値(RGnist)の測定値が、測定センサ(Sn)によって測定される当該方法において、
前記制御変数のモデル値(R^Gn)が、前記改質装置(3)のモデル(Σ^)によって計算され、
前記制御変数の実際値のモデル値(R^Gnm)が、前記測定センサ(Sn)用のセンサモデル(S^n)によって計算され、
前記制御変数(RGn)用の補正値(RGcorr)が、前記測定センサ(Sn)によって測定される
前記制御変数の実際値(RGnist)と前記センサモデル(S^n)によって計算される前記制御変数の実際値のモデル値(R^Gnm)とから計算され、
少なくとも1つの制御変数の実際値(R^Gnist)が、前記補正値(RGcorr)と前記改質装置(3)のモデル(Σ^)によって計算された前記制御変数のモデル値(R^Gn)との和として計算され、このときに、前記制御変数のこの実際値(R^Gnist)は、前記制御変数の実際値のモデル値(R^Gnm)を計算するために前記センサモデル(S^n)内でも使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記改質装置(3)内で測定される測定変数(m)が、この改質装置(3)の前記モデル(Σ^)内で処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記改質装置(3)の状態変数(x)が、この改質装置(3)の前記モデル(Σ^)によって計算され、前記状態変数(x)は、前記センサモデル(S^n)内で処理されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
燃料電池(2)の反応物質の改質装置(3)の制御変数(RGn)の制御において、
前記制御変数の目標値(RGNsoll)と前記制御変数の実際値(RGnist)との間の偏差が、前記制御によって相殺され、請求項1~3のいずれか1項に記載の前記制御変数の実際値(RGnist)を制御するために算出されることを特徴とする制御。
【請求項5】
反応物質用の改質装置(3)内の燃料電池(2)の反応物質の制御変数(RGn)を制御するための装置であって、測定センサ(Sn)が、前記制御変数の実際値(RGnist)の測定値を測定するために設けられていて、前記制御変数の目標値(RGnsoll)と前記制御変数の実際値(RGnist)との間の偏差を相殺するコントローラ(R)が実装されている制御ユニット(15)が設けられている当該装置において、
前記制御変数の
モデル値(R^Gn)を計算する前記改質装置(3)のモデル(Σ^)が設けられていること、
前記制御変数の実際値のモデル値(R^Gnm)を計算する前記測定センサ(Sn)用のセンサモデル(S^n)が設けられていること、
前記制御変数(RGn)用の補正値(RGcorr)を、前記測定センサ(Sn)によって測定される前記制御変数(RGnist)の実際値と前記センサモデル(S^n)によって計算される前記制御変数の実際値のモデル値(R^Gnm)とから計算する補正装置(Ω)が設けられていること、及び
前記コントローラ(R)は、前記制御変数の実際値(R^Gnist)として、前記補正値(RGcorr)と前記改質装置(3)のモデル(Σ^)によって計算された前記制御変数のモデル値(R^Gn)との和を使用し、このときに、前記センサモデル(S^n)も、前記制御変数の実際値のモデル値(R^Gnm)を計算するために前記制御変数のモデル化されたこの実際値(R^Gnist)を使用することを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の反応物質用の改質装置の少なくとも1つの制御変数の実際値を算出するための方法であって、当該制御変数の実際値の測定値が、測定センサによって測定される当該方法に関し、反応物質用の改質装置内の燃料電池の反応物質の制御変数を制御するための装置であって、測定センサが、当該制御変数の実際値の測定値を測定するために設けられていて、当該制御変数の目標値と当該制御変数の実際値との間の偏差を相殺するコントローラが実装されている制御ユニットが設けられている当該装置に関し、燃料電池の反応物質の改質装置の制御変数の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を規則通りに且つ効率的に稼働させるためには、供給されるガス(反応物質)の、特に温度、湿度、圧力及び質量流量に関する改質が、非常に重要である。当該反応物質の不完全な改質が、電力損失を引き起こし得るか、又は最悪の場合には燃料電池又は燃料電池スタックの損傷及び破壊を引き起こし得る。例えばプロトン交換膜型燃料電池(PEMFC)のような、多くの燃料電池の場合、特に、供給される空気として供給される、例えば酸素のような反応物質の相対湿度は、正確に制御される必要がある重要なパラメータである。
【0003】
したがって、燃料電池の可能性を発揮できるようにするためには、反応物質の改質の正確な制御が必要である。その結果、特に燃料電池の過渡的で且つハイダイナミックな稼働の場合は、多大な労力が必要である。この場合、(ハイ)ダイナミックな稼働又は過渡的な稼働は、特に、燃料電池の出力変数(電圧、電流)の速い変化を意味する。特に、開発者が、燃料電池を(当該燃料電池の出力変数及び負荷の変化率を検査する目的で)通常は動的に試験運転させるテストベッド上で当該燃料電池を開発する場合は、当該多大な労力は問題である。しかし、例えば自動車内の燃料電池の実際の稼働中にも、当該改質は、反応物質の燃料電池の過渡的で且つハイダイナミックな稼働を可能にしなければならない。特に、ダイナミックは、ダイナミックシステムが定常状態に達するのではなくて、変化と変化との間の過渡的な挙動が形成されるような急激な変化を意味する。
【0004】
反応物質の改質を正確に制御するためには、制御された変数の実際値を測定技術的に検出し、コントローラに提供することが必要である。したがって、メータリングインフラストラクチャ(Messinfrastruktur)(測定センサ、測定値処理装置、測定値評価装置等)も、測定変数が時間的に非常に速く且つ非常に激しく変化し得る過渡的でハイダイナミックな稼働中に実際値を検出できなくてはならない。したがって、当該メータリングインフラストラクチャに対する要求は同様に高い。測定値を検出するために使用される測定センサが、変化する物理条件(例えば、温度、圧力、質量流量、湿度)自体によって頻繁に影響されることによって、当該実際値の検出は、さらに妨害される。それ故に、当該測定センサの較正が、専ら制限されて可能であるか又は非常に面倒である。このため、回避不可能な遅延時間が、測定値の取得中に発生する。すなわち、測定値が、直後ではなくて、所定の時間後に初めて入手可能である。結果として、得られた測定結果は不正確である。したがって、特に過渡的でハイダイナミックな稼働中に得られた測定結果は、実際に発生する物理的な測定変数に一致しない。その結果、燃料電池の反応物質の改質の制御性が低下する。この場合、特に、相対湿度の測定が、この問題によって損なわれることが確認された。当該実際値の不正確な測定も、特に、燃料電池の過渡的でハイダイナミックな稼働中に電力損失を引き起こし得るか、又は燃料電池の損傷若しくは破壊を引き起こし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】オーストリア特許出願公開第516385号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Plant R.S.等の「Parameterization of Atmospheric Convection」、Vol.1、Imperial College Press 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、実際値を制御変数の制御中に使用できるようにするため、燃料電池の反応物質の制御変数の少なくとも1つの実際値を可能な限り小さい測定誤差で算出する方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、当該制御変数のモデル値が、当該改質装置のモデルによって計算され、当該制御変数の実際値のモデル値が、当該測定センサ用のセンサモデルによって計算され、当該制御変数用の補正値が、当該測定センサによって測定される当該制御変数の実際値と当該センサモデルによって計算される当該制御変数の実際値のモデル値とから計算され、少なくとも1つの制御変数の実際値が、当該補正値と当該改質装置のモデルによって計算された当該制御変数のモデル値との和として計算され、このときに、当該制御変数のこの実際値は、当該制御変数の実際値のモデル値を計算するために当該センサモデル内でも使用されることによって解決される。
【0009】
この方法によって、制御変数の実際値を算出する場合、例えば圧力、湿度、質量流量、温度のような周囲条件に対する測定センサの依存性がモデル化され得て、したがって、過渡挙動中のセンサ誤差もモデル化され得る。これにより、当該センサ誤差が補正され得て、制御用の実際値の品質が向上され得る。最大の利点は、測定変数の本当の実際値が評価され得て、一定のセンサ誤差及び動的なセンサ誤差が補正され得ることにある。このことは、特に((測定センサを含む)改質装置が定常状態にない)動的な稼働中に有益である。何故なら、従来では、不可能であったからである。当該一定の場合には、当該センサ誤差の補正は、オフセット調整と較正とに制限される。
【0010】
次いで、こうして算出されたモデル化された制御変数の実際値は、当該制御変数の制御中に燃料電池の反応物質の改質装置内で使用され得る。
【0011】
以下に、本発明を、本発明の好適な構成を概略的に且つ限定しないで例示する
図1~3を参照して詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】反応物質の制御用の反応物質の制御変数のモデル化された実際値の算出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を、プロトン交換膜型燃料電池(PEMFC)用のテストベッド1を例に挙げて、普遍性を制限することなしに、
図1を参照して説明する。当然に、燃料電池2は、電源として機械又は設備内で使用されてもよく、別の種類の燃料電池でもよい。このとき、当該燃料電池のための改質及び制御が、この機械又は設備内で実行される。したがって、以下で燃料電池2の稼働が言及されているときは、テストベッド1上での燃料電池2の稼働と、機械又は設備内での燃料電池2の実際の稼働とが考えられる。多くの場合、ただ1つの燃料電池スタックも、テストベッド1に配置される。当該燃料電池スタックは、本発明においては同様に燃料電池2とみなされる。
【0014】
図1による例では、プロトン交換膜型燃料電池2は、テストベッド1に設置されていて、テストベッド1で稼働される。よく知られているように、燃料電池2は、陰極Cを有する。第1反応ガス、例えば空気としての酸素が、第1反応物質としてこの陰極Cに供給され、第2反応ガス、例えば水素H
2が、第2反応物質としてこの陽極Aに供給される。当該両反応ガスは、燃料電池2の内部で高分子膜によって互いに分離されている。電圧Uが、陰極Cと陽極Aとの間で取り出され得る。この基本構造及び燃料電池2の機能は、良く知られているので、ここでは詳しく説明しない。
【0015】
少なくとも1つの反応物質、通常は、酸素を搬送する反応物質、特に空気が、改質装置3内で改質される。改質装置3内では、改質のn≧1の個数の制御変数RGn、例えば、改質された反応ガスの圧力p、相対湿度φ、温度T及び質量流量m
・が設定される。
図1では、これらの4つの例示された制御変数RGnが、陰極Cの入力部に示されている。同様に、陽極側の反応物質も、当然に改質され得る。この場合、コントローラRが、少なくとも1つのアクチュエータAnに対する制御の時間ステップごとに、当該制御によって制御すべき制御変数RGnに対して補正変数SGnを計算することによって、少なくとも1つの制御変数RGnの値が、制御変数RGnsollの予め設定されている目標値に制御されることを、「改質」は意味する。
【0016】
したがって、適切なアクチュエータAnが、制御変数RGnを制御するために改質装置3内に設けられている。例えば、反応物質を加湿して当該反応物質の相対湿度φを制御するため加湿装置4と、当該反応物質の温度を制御して当該反応物質の温度Tを制御するための温度制御御装置5と、当該反応物質の質量流量m・を制御するための質量流量制御装置6と、当該反応物質の圧力pを制御するための圧力制御装置7とが、アクチュエータAnとして設けられている。
【0017】
当然に、改質装置3に接続されているか又は同様に改質装置3内に配置されている、少なくとも1つの反応物質用の貯蔵器8も設けられている。例えば、当該貯蔵器8は、圧縮された乾燥している反応物質、例えば空気を有する蓄圧器である。空気を使用する場合のガス貯蔵器8の代わりに、外気が浄化されてもよく、例えば濾過され、圧縮され、乾燥等されてもよい。
【0018】
例えば、温度制御装置5は、電気式の加熱装置若しくは冷却装置又は熱交換器である。オーストリア特許出願公開第516385号明細書に記載されているような装置も、温度制御装置5として使用されてもよい。
【0019】
この実施の形態では、加湿装置4が、水蒸気発生器9と、水蒸気用の質量流量制御器10と、混合室11とを有する。商業的に入手可能で適切で制御可能な既存の質量流量制御器が、水蒸気用の質量流量制御器10として使用され得て、反応物質用の質量流量制御装置6としても使用され得る。燃料電池2用の圧縮された反応物質を生成するため、水蒸気が、混合室11内で貯蔵器8から供給されたガスと混合される。
【0020】
当然に、加湿装置4の別の構成も考えられる。例えば、水が、貯蔵器8から当該ガスに供給、例えば噴射されてもよい。
【0021】
この例では、制御可能な開口部横断面によって反応物質の圧力pを制御する背圧弁が、圧力制御装置7として排気ガス側で、すなわち燃料電池2の後方で使用される。当該背圧弁7は、ガス改質装置3内の燃料電池2の下流に配置されている。当該配置は、当該圧力を燃料電池2の前方で制御することを可能にする。これにより、当該圧力制御は、ガス改質装置3の別の構成要素内の起こり得る圧力損失から影響を受けない。
【0022】
それ故に、希望した制御変数RGn、例えば、所定の温度T、所定の相対湿度φ、所定の圧力p及び/又は所定の質量流量m・を呈する反応物質が、混合室11の後方の、燃料電池2又は燃料電池2の陰極C若しくは陽極Aに接続されている反応物質導管12内に供給される。
【0023】
しかしながら、
図1に基づいて説明されている改質装置3のこの構成は、例示にすぎず、当然に改質装置3の別の構成も考えられ、アクチュエータAn、ここでは加湿装置4、質量流量制御装置6、温度制御装置5及び圧力制御装置7とは違う具体的な構成も考えられる。特に、反応物質のより少ない又はより多い又は別の制御変数RGnが、改質装置3内で制御されてもよい。このため、より少ない又はより多い又は別のアクチュエータAnも設けられ得る。
【0024】
少なくとも1つの制御変数RGnを制御できるようにするため、対応するアクチュエータAn、例えば
図1に示されているような加湿装置4、質量流量制御装置6、温度制御装置5及び圧力制御装置7が、それぞれの補正変数SGnによって制御可能である。この場合、補正変数SGnは、コントローラRが実装されている制御ユニット15によって計算される。その結果、制御変数の実際値RGistが、予め設定されている目標値RGnsollに追従する。
図1に示された実施の形態では、加湿装置4は、水蒸気用の質量流量調整器10を介して補正変数u
Sによって制御され、質量流量制御装置6は、補正変数u
Gによって制御され、温度制御装置5は、補正変数Q
・によって制御され、圧力制御装置7は、補正変数u
Nによって制御される。それぞれのアクチュエータAnが、補正変数SGnによって制御され、制御変数RGnを希望通りに変更するため、そのアクチュエータAnが調整される。
【0025】
制御変数の実際値RGnistと制御変数の目標値RGnsollとの間の偏差をコントローラRによって相殺するためには、制御変数の実際値RGnistも、制御変数RGnを制御するために必要になる。例えば、制御変数の目標値RGnsollと制御変数の実際値RGnistとの間の差が、コントローラRに供給される。
図2にしめされているように、このコントローラRは、実装された制御規則にしたがって当該差から補正変数SGnを計算する。当該補正変数SGnは、改質装置3内の対応するアクチュエータAnによって設定される。この場合、制御変数の実際値RGnistは、改質装置3の適切な位置に、例えば反応物質導管12内に従来通りに配置されている測定センサSnによって測定される。この場合、測定センサSnは、制御変数RGnを直接に測定する必要はなくて、制御変数RGnに固有の測定値が測定されてもよい。多くの場合、この測定は、冒頭で述べた制限を受ける。それ故に、制御変数の実際値RGnistの測定の品質を改善するため、本発明によれば、測定センサSnによって検出された測定値が、制御のために直接に使用されるのではなくて、以下で
図3を参照して説明するように、補正した測定値が使用される。
【0026】
補正変数SGnが供給される改質装置3の適切なモデルΣ^から、新しい制御変数R^Gnが、補正変数SGnに対する応答として計算される。別のアクチュエータAnが、改質装置3内に含まれていて、モデルΣ^が、改質装置3の別の補正変数SGnを必要とする場合、改質装置3の当該別の補正変数SGnも、モデルΣ^にさらに供給される。同様に、改質装置3の必要な測定値も、モデルΣ^に供給され得る。適切なセンサモデルS^nが、制御変数RGnから当該制御変数RGnの測定値に対するモデル値R^Gnmを計算する。このため、必要であれば、同様にモデルΣ^内で計算され得る改質装置3の状態変数xも、センサモデルS^nに供給され得る。測定センサSnによって検出された制御変数RGnの実際値istと、センサモデルS^nによって計算されたモデル値R^Gnmとが、補正装置Ωに供給される。制御変数RGの補正値RGcorrが、この補正装置Ω内で計算される。適切な補正値RGcorrと改質装置3のモデルΣ^内で計算された制御変数R^Gnとの和が、モデル化された制御変数の実際値R^Gnistとして制御のために使用される。制御変数RGnのモデル値R^GnmをセンサモデルS^nから計算するため、該モデル化された制御変数の実際値R^Gnistは、センサモデルS^nにも供給される。
【0027】
改質装置3のモデルΣ^、センサモデルS^n及び補正装置Ωは、例えば制御ユニット15内の適切なソフトウェアとして実装され得るが、当然に、適切なハードウェア及び/又はソフトウェアとしてそれぞれ別々に又は共通に実装されてもよい。
【0028】
制御のために制御変数の実際値RGnistを取得するこの方法は、特に改質された反応物質の相対湿度φに対して適しているが、圧力p、温度T又は質量流量m・のような別の制御変数RGnに対して使用されてもよい。
【0029】
図1による改質装置3は、例えば以下で説明する数学的で物理的なモデルΣ^によってモデル化され得る。この場合、当然に、別のモデルが使用されてもよく、訓練済みモデルが使用されてもよい。
【0030】
以下に、改質装置3用の典型的なモデルΣ^を記す。
【0031】
ガスの質量MGと、混合室11内に流入するガスの質量流量m・
G,inと、混合室11から流出するガスの質量流量m・
G,outと、混合室11内に流入する水蒸気の質量流量m・
S,inと、混合室11から流出する水蒸気の質量流量m・
S,outとによる
【0032】
【数1】
が、混合室11内の質量収支から得られる。改質装置3内の総質量mと、ガスの質量m
Gと、水蒸気の質量m
Sと、反応物質の質量流量とによる
【0033】
【数2】
によって、混合室11からのガスと水蒸気との質量流量が与えられている。この場合、当然に、m=m
G+m
Sが成立する。
【0034】
【数3】
が、改質装置3のエネルギー収支から導かれる。
【0035】
この場合、Uは、内部エネルギーを示し、hは、(ここと以下とでインデックスGによって付記された)ガスと(ここと以下とでインデックスSによって付記された)水蒸気と(ここと以下とでインデックスを付記されていない)反応物質とに固有のエンタルピーを示し、uiは、ガスと水蒸気とに固有の内部エネルギーを示す。知られているように、当該ガスに固有のエンタルピーhは、一定の圧力の場合の固有の熱容量cpとガスの温度Tとの積である。水蒸気の場合は、潜熱r0がさらに加算される。ガスの内部エネルギーuiは、一定の体積の場合の固有の熱容量cvとガスの温度Tとの積である。水蒸気の場合は、潜熱r0がさらに加算される。当該全ての変数が適用され、質量収支が考慮されると、以下の改質装置3の温度力学を表すシステム方程式が得られる。
【0036】
【数4】
理想的なガスに対する熱力学状態方程式から、燃料電池2の圧力pと温度Tとによる
pV=(m
GR
G+m
SR
S)T
が、さらに得られる。
【0037】
知られているように、Rは、ガス(インデックスG)と水蒸気(インデックスS)とに対する又は反応物質(インデックスを有しない)に対するガス定数を示す。この場合、特に、体積Vは、混合室11の体積だけを示すのではなくて、改質装置3内の配管設備の体積も示す。しかしながら、反応物質の圧力p及び質量流量m・が、背圧弁7によっても制御される。当該制御は、以下のようにモデル化され得る。
【0038】
【数5】
この場合、Aは、背圧弁7の開口部横断面を示し、p
0は、外気を示す。
【0039】
相対湿度φは、
【0040】
【0041】
この場合、pw(T)は、例えば
【0042】
【数7】
によって与えられている飽和分圧を示す。パラメータp
m、C
1、C
2は、例えば、Plant R.S.等の「Parameterization of Atmospheric Convection」、Vol.1、Imperial College Press 2015から読み取ることができる。
【0043】
さらに、アクチュエータAnの動特性が、固定数τ1、τ2、τ3、τ4を有する一次遅れ要素として補正変数uS、uG、Q・及びuNに依存してモデル化され得る。
【0044】
【数8】
この場合、T
G,0及びA
0は、予め設定されているオフセット変数である。
【0045】
上記のシステム方程式から、以下の
【0046】
【数9】
ような、上記のモデル化から得られるシステム関数f(x)、g(x)、h(x)と、状態ベクトルxと、補正変数SGnを有する補正変数ベクトルSGと、制御変数RGnを有する補正変数ベクトルRGとによる、非線形の多変数システム(MIMO、multiple input multiple output)である
【0047】
【数10】
の形態の制御システムが存在することが分かる。
【0048】
より良好に理解するため、
図1には、これらの変数が、改質装置3内のどこでそれぞれ発生するかが示されている。
【0049】
補正装置Ωは、測定センサSnによって測定された制御変数の実際値RGnistとセンサモデルS^nによって計算された制御変数の測定値RGnに対するモデル値R^Gnmとの間の偏差から補正値RGcorrを計算する。最も簡単な場合には、これらの2つの値の差が、補正値RGcorrとして簡単に使用され得る。しかし、この差を相殺する、すなわち零に向かって制御するコントローラ、例えばPIコントローラが、補正装置Ω内に実装されてもよい。しかしながら、より複雑な(例えば、モデルに基づいた)制御方法が使用されてもよい。
【0050】
簡単で動的なセンサモデルS^nは、例えば、よく知られている簡単な一次遅れ要素(PT1要素)である。当該一次遅れ要素は、反応物質の制御変数RGn、例えば湿度φの変化時に、例えば(測定センサSnのデータから既知であるか、又は測定センサSnを用いた測定による)センサの時間遅れを考慮する。さらに、(例えば、システム圧力pとの)結合が、センサモデルS^n内でさらに考慮されてもよい。このことは、同様に動的なモデルによって実行されてもよく、又はより簡単な構成では一定の補正係数として若しくは特性図として実現されてもよい。
【0051】
動的なセンサモデルS^nによって測定センサSnをモデル化することによって、例えば圧力、湿度、質量流量、温度のような周囲条件に対する当該測定センサの依存性がモデル化され得て、したがって、過渡挙動中のセンサ誤差もモデル化され得る。このため、改質装置3の状態変数xをセンサモデルS^n内で考慮することが有益であり得る。当該センサ誤差は、補正装置Ωによって補正される。したがって、改質装置3内の測定センサSnを全ての周囲条件に対して較正することは、特に必要でない。何故なら、制御変数RGnを制御するために使用される、計算された制御変数の実際値R^Gnist中のセンサ誤差は、相殺されるからである。
【0052】
さらに、動的なセンサモデルS^nの完全に時間に依存するモデル化を実行することが可能である。したがって、センサ挙動の変化(例えば、動特性)、例えば経年変化の影響が考慮され得る。
【符号の説明】
【0053】
1 テストベッド
2 燃料電池
3 改質装置、ガス改質装置
4 加湿装置
5 温度制御装置
6 質量流量制御装置
7 圧力制御装置、背圧弁
8 貯蔵器、ガス貯蔵器
9 水蒸気発生器
10 質量流量制御器
11 混合室
12 反応物質導管
15 制御ユニット
C 陰極
A 陽極
U 電圧
T 温度
p 圧力
φ 相対湿度
m・ 質量流量
R コントローラ
An アクチュエータ
Sn 測定センサ
Ω 補正装置
RGnist 制御変数の実際値
RGnsoll 制御変数の目標値
RGcorr 補正値