(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】結晶トラニラスト塩およびこれらの医薬的な使用
(51)【国際特許分類】
C07C 235/38 20060101AFI20231024BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20231024BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20231024BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231024BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231024BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231024BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231024BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231024BHJP
C07C 215/10 20060101ALI20231024BHJP
C07C 215/08 20060101ALI20231024BHJP
C07C 211/05 20060101ALI20231024BHJP
C07C 229/26 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C07C235/38 CSP
A61K31/196
A61K9/72
A61K9/08
A61P37/08
A61P35/00
A61P35/04
A61P11/00
A61P29/00
C07C215/10
C07C215/08
C07C211/05
C07C229/26
(21)【出願番号】P 2020555115
(86)(22)【出願日】2019-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2019071881
(87)【国際公開番号】W WO2020035546
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-05-17
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520386970
【氏名又は名称】ナフォーミックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホランド、ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】フランプトン、クリストファー
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-306765(JP,A)
【文献】特開2005-247819(JP,A)
【文献】特表2003-519698(JP,A)
【文献】特開昭50-140413(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046544(WO,A1)
【文献】Journal of Pharmaceutical Sciences,1977年,Vol.66, No.1,p.1-19
【文献】小野誠,塩選択の現状分析,薬剤学,2013年,73(3),p.176-182
【文献】川口洋子ら,医薬品と結晶多形,生活工学研究,2002年,Vol.4, No.2,p.310-317
【文献】"新医薬品の規格及び試験方法の設定について",医薬審発第568号,2001年05月01日
【文献】高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,Vol.6, No.10,2007年01月15日,p.20-25
【文献】山野光久,医薬品のプロセス研究における結晶多形現象への取り組み,有機合成化学協会誌,2007年,65(9),p.907-913
【文献】Crystal growth and design,2013年,13(8),p.3546-3553
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7.3、8.4、9.7、12.2、14.4および16.2°2Θ±0.2°2Θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられる、結晶形態の1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩。
【請求項2】
図1に示す粉末X線回折パターン、
1662、1589、1507、1423、1378、1272および1244cm
-1±1cm
-1から選択される少なくとも4つのピークを有する赤外スペクトル、および
図4に示す赤外スペクトル、
のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
10.8、14.0、14.6、15.2、15.9、16.7および18.9°2Θ±0.2°2Θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられる、結晶形態の1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩。
【請求項4】
図6に示す粉末X線回折パターン、
1655、1585、1519、1417、1377、1301および1258cm
-1±1cm
-1から選択される少なくとも4つのピークを有する赤外スペクトル、および
図9に示す赤外スペクトル、
のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる、請求項3に記載の塩。
【請求項5】
11.8、12.3、15.1、16.0、18.5、20.9および21.5°2Θ±0.2°2Θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられる、結晶形態の1:1トラニラストL-リジン塩。
【請求項6】
図11に示す粉末X線回折パターン、
1670、1584、1493、1371、1277、1254および1135cm
-1±1cm
-1から選択される少なくとも4つのピークを有する赤外スペクトル、および
図14に示す赤外スペクトル、
のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる、請求項5に記載の塩。
【請求項7】
7.6、12.7、13.2、14.5、16.6、18.0および20.0°2Θ±0.2°2Θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられる、結晶形態の1:1トラニラストジエチルアミン塩。
【請求項8】
図15に示す粉末X線回折パターン、
1669、1618、1579、1495、1419、1361および1155cm
-1±1cm
-1から選択される少なくとも4つのピークを有する赤外スペクトル、および
図18に示す赤外スペクトル、
のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる、請求項7に記載の塩。
【請求項9】
6.9、11.1、13.8、15.2、16.1、16.8および18.2°2Θ±0.2°2Θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられる、結晶形態の1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩。
【請求項10】
図19に示す粉末X線回折パターン、
1660、1589、1423、1374、1295、1273および1244cm
-1±1cm
-1から選択される少なくとも4つのピークを有する赤外スペクトル、および
図22に示す赤外スペクトル、
のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる、請求項9に記載の塩。
【請求項11】
7.5、11.8、12.5、16.8、18.5、19.1および19.9°2Θ±0.2°2Θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられる、結晶形態の1:1トラニラストジエタノールアミン塩。
【請求項12】
図30に示す粉末X線回折パターン、
1652、1494、1422、1363、1346、1266および1233cm
-1±1cm
-1から選択される少なくとも4つのピークを有する赤外スペクトル、および
図33に示す赤外スペクトル、のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる、請求項
11に記載の塩。
【請求項13】
10.4、11.4、12.2、14.5、15.8、19.5および20.4°2Θ±0.2°2Θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられる、結晶形態の1:1トラニラストエタノールアミン塩。
【請求項14】
図34に示す粉末X線回折パターン、
約293Kの温度におけるP21/c空間群、
1668、1585、1375、1359、1277、1255および1131cm
-1±1cm
-1から選択される少なくとも4つのピークを有する赤外スペクトル;および
図39に示す赤外スペクトル、
のうちの少なくとも1つによって特徴づけられる、請求項
13に記載の塩。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項に記載の結晶トラニラスト塩および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項16】
前記組成物が局所製剤である、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組成物が吸入可能な製剤である、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~
14のいずれか1項に記載の結晶トラニラスト塩を薬学的に許容される溶媒に溶解する工程を含む、液体医薬組成物を調製する方法。
【請求項19】
薬学的に許容される溶媒中の溶解によって液体医薬組成物を調製するための、請求項1~
14のいずれか1項に記載の結晶トラニラスト塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2018年8月14日に出願された米国特許出願番号62/718,563に対する優先権を主張し、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、結晶トラニラスト塩、結晶塩の治療上の使用およびこれらを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
トラニラスト,(2-[[3-(3,4-ジメトキシフェニル)-1-オキソ-2-プロペニル]アミノ]安息香酸、以下に示される)は、マスト細胞および好塩基球からのヒスタミンなどの炎症性メディエーターの放出を阻害する能力による抗アレルギー薬物として、元来は開発された(P.Zampini.Int J Immunopharmacol.1983;5:431-5)。
【化1】
トラニラストは、30年を超える間、Rizaben(登録商標)の商品名で、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状のために、キッセイ薬品工業株式会社によって日本、中国および韓国において市販されてきた。より最近では、トラニラストは、抗増殖性特性を有することもまた示された。トラニラストは、繊維芽細胞の増殖を阻害し、かつコラーゲン合成を抑制すること(M. Isaji.Biochem Pharmacol.1987;36:469-474)、およびまた繊維芽細胞の筋線維芽細胞への形質転換およびこれらのその後の収縮を阻害すること(M. Isaji.Life Sci.1994;55:287-292)が示された。このさらなる挙動により、トラニラストは、ケロイドおよび過形成性瘢痕の治療のためのさらなる承認を得ることとなった。
【0004】
近年にわたって、多くの研究者がトラニラストの抗増殖効果を調査して線維性および癌性の症jにおけるその潜在力を評価してきた。抗増殖作用は、これがトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)を阻害する能力に起因すると考えられる(H. Suzawa.Jpn J Pharmacol.1992 Oct;60(2):91-96)。繊維症は、体の大部分の器官に影響を及ぼす可能性がある状態であり、および繊維芽細胞増殖、分化およびコラーゲン合成は、繊維症の大部分のタイプの進行における重要な因子であることが公知である。トラニラストは、インビボで多数の線維性状態において潜在的に有益な効果を有することが示されている。トラニラストは、インビボで肺線維症(M. Kato.Eur Respir J.2013;42(57):2330)、腎繊維症(DJ Kelly,J Am Soc Nephrol.2004;15(10):2619-29)、心筋繊維化(J Martin,Cardiovasc Res.2005;65(3):694-701)、眼線維症(M J Moon,BMC Opthalmol.2016;16:166)、および肝線維症(M Uno,Hepatology.2008;48(1):109-18)において潜在力を有することが示されている。
【0005】
トラニラストの抗腫瘍作用は、またインビトロおよびインビボでも最近証明された。トラニラストは、乳癌(R. Chakrabarti.Anticancer Drugs.2009 Jun;20(5):334-45)株および前立腺癌(S. Sato.Prostate.2010 Feb;70(3):229-38)細胞株を含むいくつかの細胞株の増殖、アポトーシスおよび遊走を阻害することが示されている。マウスにおける乳癌の研究において、トラニラストは、転移における有意な減少をもたらすことがわかった(R.Chakrabarti.Anticancer Drugs.2009 Jun;20(5):334-45)。ヒトにおける試験的研究において、トラニラストは、進行した去勢抵抗性前立腺癌の患者の予後を改善する潜在力を有することが示された(K. Izumi.Anticancer Research.2010 Jul;30:73077-81)。インビトロでの研究により、膠腫(M Platten.Int J Cancer.2001;93:53-61)、膵癌(M Hiroi,J Nippon Med Sch.2002;69:224-234)および胃癌(M Yashiro,Anticancer Res.2003;23:3899-3904)におけるトラニラストの治療上の潜在力もまた示された。
【0006】
トラニラストが潜在的に治療上の利益を有する可能性がある広範囲の線維性状態および癌、ならびに様々な患者のタイプおよび体の特異的領域が治療を必要としていることを考慮すると、患者のニーズを最善に満たすために、トラニラストの投与のための複数の送達方法を有することにより患者が利益を得ることになることが予想される。医薬組成物は、たとえば、固体の経口用量、液体の経口用量、注射用組成物、吸入用組成物、局所組成物または経皮組成物を含む可能性がある。
【0007】
キッセイ薬品工業株式会社は、冠状動脈の介入と関連する再狭窄の予防におけるトラニラストの抗増殖効果を調べた。フェーズII治験において、キッセイは、トラニラストの現在の承認された用量(300mg/日)が再狭窄を予防するには不十分であること、および600mg/日のより高い用量が再狭窄の割合の減少を達成するために必要であることを見出した(H.Tamai,Am Heart J.1999;138(5):968-75)。しかし、1日600mgの投与量では、患者間で10倍の薬物の血漿濃度における変動(30~300μmol/L)をもたらす可能性があることが判明し(H Kusama,Atherosclerosis.1999;143:307-313)、再狭窄の予防のためのトラニラストのフェーズIII試験において、用量は、1日900mgにさらに増加された(D Holmes,Circulation.2002;106(10):1243-1250)。
【0008】
トラニラストの市販された経口形態(Rizaben(登録商標))は、その純粋な結晶形態でトラニラストを含む。結晶トラニラストは、極めて低い水溶解性を有する(水中で14.5μg/mlおよびpH1.2の緩衝液溶液中で0.7μg/mlの溶解性(Society of Japanese Pharmacopoeia.2002))。十分に可溶性でない薬物化合物の溶解性を改善する手段として、高エネルギーの非晶形がしばしば用いられるが一方で、文献は、トラニラストの非晶形が固体状態において完全に光安定性ではなく、光に曝露されると貯蔵中に光分解を受けることを示している(S.Onoue.Eur J Pharm Sci.2010;39:256-262)。
【0009】
トラニラストの非常に低い溶解性は、薬物の経口的な生物学的利用能における制限要因であることが予測される。制限された時間を考慮すると、いかなる薬物も、最初に胃腸管において溶解しなければならず、次いで血流に吸収されなければならず、トラニラストの経口用量が増加するにつれ、この問題はさらにより制限的になるだろう。トラニラストの乏しい溶解性はまた、高用量トラニラスト薬物動態学について報告された患者間の高い変動性における重要な要因である可能性もある。BCSクラスII薬物(低溶解性/高透過性)として、胃腸管からの吸収は、胃腸管の媒体における薬物の溶解速度ならびにその全体の溶解性によって妨げられることが予想される。繊維症および癌などの慢性増殖性疾患の治療については、最小有効濃度を上回って維持される、一貫した、予測可能な血漿レベルを作り出すことは、薬物の送達方法のために不可欠である。より高い用量にてトラニラストの効果的な経口送達を達成するために、高い溶解性および迅速な溶解速度の両方を備える薬物の新たな固体形態に対する必要性がある。
【0010】
癌または繊維症を含む症状の重症度を考慮すると、それによって、患者が固体の経口剤形を嚥下することを必要とせずに、医療の専門家によってトラニラストを送達することができる全身治療の選択肢に対する必要性もある。これらの必要性のための適切な代替剤形は、たとえば、注射用組成物、液体経口製剤または霧状吸入製剤を含む可能性がある。これらは、全身送達のために適切なトラニラストの液体製剤を必要とすることになる。
【0011】
アレルギー性結膜炎などの眼疾患を治療するためのトラニラストの潜在力を考慮すると、キッセイ薬品工業株式会社は、局所的治療のためにトラニラストの点眼製剤を開発する必要を認めた。しかし、非常に低い水溶解性を有するだけでなく、トラニラストはまた、溶液で貯蔵されたときに光化学的に不安定であり、有意な分解をもたらす(N Hori,Chem.Pharm.Bull.1999;47(12):1713-1716)。したがって、キッセイがトラニラストの点眼液体組成物を達成することができた唯一の方法は、製剤において可溶化剤および安定化剤の両方を使用することであった(米国特許第5356620号)。得られた0.5%(w/v)の点眼製剤は、現在でもRizaben(登録商標)の商標名で市販されている。しかし、この製剤の、およびトラニラストの代替溶液製剤を製造することを試みたその後の研究の焦点は、常にもっぱら点眼および皮膚軟膏などの組成物を使用するトラニラストの外部送達にあった。以前に記述されたトラニラストの液体製剤のいずれも、経口またはIV送達などによる全身送達のためには製造されていなかった。以前に報告された外用調製品において使用された賦形剤は、全身送達には適していない。また、トラニラストの点眼製剤の開発が成功したにもかかわらず、市販されたRizaben(登録商標)点眼薬のパッケージの添付文書には、結晶が沈殿する場合があるため製品を冷蔵庫に貯蔵するべきでないことが記されている。
【0012】
したがって、全身送達に適したトラニラストの水性医薬組成物に対する必要性が残っている。溶液中のトラニラストの長期保存の潜在的な光化学劣化の問題、およびよりかさばる溶液に基づいて製剤を貯蔵するためにより大きな貯蔵施設が必要になることの不利益も考慮すると、必要とされる液体製剤を製造するために、治療時に患者または医療提供者により迅速に溶解することができるトラニラストの安定で高溶解性の固体形態を開発することもまた有益であることになる。
【0013】
トラニラストの液体製剤を作製するために努力した後、キッセイは、トラニラストおよびその薬学的に許容される塩が水中に不溶性にすぎるため、水溶液を調製できないことを記述した(米国特許第5356620号)。その米国特許以来、公開された唯一の結晶性の薬学的に許容される塩は、ナトリウム塩である(N Geng,Cryst.Growth Des.2013;13:3546-3553)。キッセイの知見と合致して、本論文の著者は、結晶トラニラストナトリウム塩の見かけの溶解性が、純粋なトラニラストよりさらに少ないことを述べた。また、彼らがナトリウム含有媒体中のトラニラストの溶解研究を行ったとき、トラニラストが溶解するにつれて、それは徐々に溶液からナトリウム塩として沈殿したことを見出し、ナトリウム塩が純粋な薬物より低い熱力学的溶解性を有することを示している。この論文の著者は、トラニラストの薬学的に許容されていない結晶性シトシン塩を調製することにも成功した。この結晶性シトシン塩は、純粋な結晶トラニラストに対しおよそ2倍の溶解性の改善を示すにもかかわらず、この結晶性シトシン塩は、シトシンがFDA認可を有していないために患者への全身送達に適していないだけでなく、溶解性におけるこの改善は、注射用製剤などの高用量トラニラスト液体製剤を製造するために十分なほど大きくはないことになる。
【0014】
欧州特許出願第1946753号は、トラニラストの外部調製品を調製する試みを開示し、かつ有機アミンとのトラニラストのイオン性の液体塩の調製を特許請求している。発明者らは、トラニラストを有機アミンと混合すると液体形態を得ると主張している。この出願は、任意の固体状態、有機アミンとの結晶トラニラスト塩の形成を開示していない。彼らは、トラニラストのこれらのイオン性の液体形態が皮膚への外部適用のために適した溶媒におけるより高い溶解性を有すること、およびこれらの調製品が同じ製剤における純粋なトラニラストより高い光安定性を有することを実証している。しかし、この改良された光安定性は、なおもトラニラストの有意な割合で光分解をもたらし、そして長期保存に適していないことになる。また、これらのイオン性の液体塩製剤の調製のために使用される溶媒は、トラニラストの内部送達のために適していない。さらに、欧州特許第1946753号には、水性またはバイオ関連媒体内の改良された溶解性における記載がない。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、結晶トラニラスト塩に関する。特に、本発明は、結晶1:1トラニラストn-メチルグルカミンI型塩;結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩;結晶1:1トラニラストl-リジン塩;結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩;結晶1:1トラニラストn-エチルグルカミン塩;結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩;結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩;および結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩に関する。本発明は、本発明の結晶トラニラスト塩および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。トラニラストは、抗アレルギー、抗線維化、抗炎症、抗腫瘍、神経発生増強および血管形成阻害の特性を有し、かつ従って、上述したように、このような特性と関連する疾患、障害および症状の治療に有用である場合がある。本発明の結晶トラニラスト塩は、トラニラストと同じ方法で使用されてもよいが、トラニラストおよびトラニラストのその他の形態に優る改善された特性を有する。本発明は、薬学的に許容される溶媒中に本発明による結晶トラニラスト塩を溶解する工程を含む、液体医薬組成物を調製する方法、およびその方法に従って調製される液体医薬組成物にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩についてのXRPDパターンを示す。
【
図2】
図2は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩についてのDSCトレースを示す。
【
図3】
図3は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩についてのTGAトレースを示す。
【
図4】
図4は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩についての赤外スペクトルを示す。
【
図5】
図5は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩についてのGVS等温線グラフを示す。
【
図6】
図6は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩についてのXRPDパターンを示す。
【
図7】
図7は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩についてのDSCトレースを示す。
【
図8】
図8は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩についてのTGAトレースを示す。
【
図9】
図9は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩についての赤外スペクトルを示す。
【
図10】
図10は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩についてのGVS等温線グラフを示す。
【
図11】
図11は、結晶1:1トラニラストL-リジン塩についてのXRPDパターンを示す。
【
図12】
図12は、結晶1:1トラニラストL-リジン塩についてのDSCトレースを示す。
【
図13】
図13は、結晶1:1トラニラストL-リジン塩についてのTGAトレースを示す。
【
図14】
図14は、結晶1:1トラニラストL-リジン塩についての赤外スペクトルを示す。
【
図15】
図15は、結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩についてのXRPDパターンを示す。
【
図16】
図16は、結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩についてのDSCトレースを示す。
【
図17】
図17は、結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩についてのTGAトレースを示す。
【
図18】
図18は、結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩についての赤外スペクトルを示す。
【
図19】
図19は、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩についてのXRPDパターンを示す。
【
図20】
図20は、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩についてのDSCトレースを示す。
【
図21】
図21は、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩についてのTGAトレースを示す。
【
図22】
図22は、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩についての赤外スペクトルを示す。
【
図23】
図23は、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩についてのXRPDパターンを示す。
【
図24】
図24は、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩のORTEP図を示す。
【
図25】
図25は、100Kでの結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩についての算出XRPDパターンを示す。
【
図26】
図26は、295Kでの結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩についての算出XRPDパターンを示す。
【
図27】
図27は、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩についてのDSCトレースを示す。
【
図28】
図28は、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩についてのTGAトレースを示す。
【
図29】
図29は、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩についての赤外スペクトルを示す。
【
図30】
図30は、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩についてのXRPDパターンを示す。
【
図31】
図31は、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩についてのDSCトレースを示す。
【
図32】
図32は、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩についてのTGAトレースを示す。
【
図33】
図33は、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩についての赤外スペクトルを示す。
【
図34】
図34は、結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩についてのXRPDパターンを示す。
【
図35】
図35は、結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩のORTEP図を示す。
【
図36】
図36は、293Kでの結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩についての算出XRPDパターンを示す。
【
図37】
図37は、結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩についてのDSCトレースを示す。
【
図38】
図38は、結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩についてのTGAトレースを示す。
【
図39】
図39は、結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩についての赤外スペクトルを示す。
【
図40】
図40は、37℃でのFaSSIF(V2)における結晶1:1トラニラスト塩、結晶1:1トラニラストニコチンアミド共結晶およびRizaben(登録商標)についての溶解プロファイルを示す。
【
図41】
図41は、37℃での5%の水性デキストロース溶液における結晶トラニラストに対する結晶1:1トラニラスト塩についての溶解プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、結晶トラニラスト塩に関する。本発明の結晶トラニラスト塩、これらの調製およびこれらの特性を、以下に記述し、かつ図において示してある。本発明は、本発明の結晶トラニラスト塩および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。本発明はまた、上述した疾患のための治療方法およびその治療のための治療有効量の本発明の結晶トラニラスト塩の使用にも関する。
【0018】
2つの固体成分が、共に首尾よく結晶化して新たな独特の固体状態の結晶構造を有する2-成分分子複合体を形成するとき、これは塩または共結晶のどちらかをもたらす可能性がある。塩または共結晶が形成されるかどうかは、複合体の2つの異なる成分の間にプロトン移動が起こるかどうかに依存する。プロトンが1つの成分から他の成分に移動する場合、イオン結合がもたらされ、次いで結晶塩が得られる。プロトン移動が生じず、成分がそれらの中性状態のままである場合、水素結合、ファンデルワールス結合などによってのみ共に保持され、次いで共結晶が形成される。プロトン移動が起こるか否かは、それぞれの成分の酸性および塩基性官能基のpKa値の相違によって制御される。pKa(プロトン化された塩基)-pKa(酸)(ΔpKa)が3より大きい場合に塩が形成されうるという「3の規則」が存在する(P.Stahl.Handbook of pharmaceutical salts:properties,selection and use,International Union of Pure and Applied Chemistry,VHCA;Wiley-VCH:Weinheim,New York,2002)。
【0019】
トラニラストは、3.25のpKaを有するカルボン酸基を含む。表1は、本発明の結晶トラニラスト化合物を形成するために使用される分子のプロトン化された塩基性官能基についてのpKa値の一覧である。これらの分子のそれぞれとトラニラストとの間の分子複合体の形成のためのΔpKaが5.63~12.45の範囲であることが分かる。表におけるそれぞれの化合物とトラニラストとの間のpKa(ΔpKa)のこのような大きな相違は、本発明の新たな結晶性複合体が塩であることを示す。
【表1】
【0020】
したがって、本発明は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩;結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩;結晶1:1トラニラストl-リジン塩;結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩;結晶1:1トラニラストn-エチルグルカミン塩;結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩;結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩;および結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩に関する。結晶トラニラスト塩、これらの調製およびこれらの特性は、以下に記述され、かつ図に示される。
【0021】
結晶トラニラスト塩の治療上の使用
本発明は、本発明の結晶トラニラスト塩、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩;結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩;結晶1:1トラニラストl-リジン塩;結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩;結晶1:1トラニラストn-エチルグルカミン塩;結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩;結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩;および結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩の治療上の使用にさらに関する。トラニラストは、上述したように、抗アレルギー、抗線維化、抗炎症、抗腫瘍、神経発生増強および血管形成阻害の特性を有することが公知である。したがって、本発明の結晶トラニラスト塩は、このような特性と関連する上述したものなどの疾患、障害および症状を治療するために使用してもよい。したがって、本発明は、それを必要とする患者に治療有効量の本発明の結晶トラニラスト塩を投与する工程、またはそれを必要とする患者に本発明の結晶トラニラスト塩を含む治療的組成物を投与する工程を含む、このような疾患、障害または症状を治療する方法に関する。
【0022】
「治療」または「治療すること」という用語は、哺乳動物における疾患、障害または症状の任意の治療を意味し:疾患、障害または症状を予防する、またはそれらから保護すること、すなわち臨床的症候が進展しないようにさせること;疾患、障害または症状を阻害すること、すなわち臨床的症候の進展を止める、または抑制すること;および/または疾患、障害または症状を軽減させること(症状または障害と関連する不快の軽減を含む)、すなわち臨床的症候を後退させることを含む。ヒト医薬において、最終的な帰納的事象(複数可)が未知である場合がある、潜在的である場合がある、またはその事象(複数可)の発生のずっと後まで患者が確認されないため、「予防すること」および「抑制すること」の間の区別が必ずしも可能でないことは、当業者に理解されるであろう。したがって、本明細書において使用される場合、「予防」という用語は、疾患、障害または症状を「予防すること」および「抑制すること」の両方を包含する「治療」の要素として意図される。「保護」という用語は、「予防」を含むことが意図される。
【0023】
結晶トラニラスト塩を含む医薬組成物
本発明はまた、治療有効量の本発明による結晶トラニラスト塩および薬学的に許容される担体(薬学的に許容される賦形剤としても知られる)を含む、本質的にそれからなる、またはそれからなる医薬組成物にも関する。上述したように、これらの医薬組成物は、上述したような障害を治療する、または予防するために治療的に有用である。本発明の医薬組成物は、本発明の結晶トラニラスト塩で作製される固体の剤形または溶液でもよい。
【0024】
本発明の医薬組成物は、本発明による結晶トラニラスト塩を含む任意の剤型であってもよい。医薬組成物は、たとえば、錠剤、カプセル、経口溶液、注射用組成物、局所組成物、吸入用組成物または経皮組成物であってもよい。液体医薬組成物は、本発明のトラニラスト塩を使用して調製されてもよく、また本発明の特定の態様を表してもよい。液体医薬組成物については、トラニラスト塩は、医療の現場にて用時に溶媒、たとえば、水中に溶解されてもよい。医薬組成物は、一般にたとえば、約0.1重量%~約99.9重量%の本発明の結晶トラニラスト塩、たとえば、約0.5重量%~約99重量%の本発明の結晶トラニラスト塩と、たとえば、99.5重量%~0.5%重量の少なくとも1つの適切な医薬賦形剤または溶媒を含む。一実施形態において、組成物は、後述するように、約5重量%~約75重量%の本発明の結晶トラニラスト塩であり、残りは少なくとも1つの適切な医薬賦形剤、溶媒または少なくとも1つの他のアジュバントであってもよい。
【0025】
「治療有効量の本発明による結晶トラニラスト塩」は、約50mg~約900mg、約50mg~約200mg、約100mg~約800mg、約250mg~約750mg、約300mg~約700mg、約550mg~約650mg、約100mgまたは約600mgのトラニラストそれ自体を経口的に投与するときに現在達成されている治療上の効果に相関するものである。上述したように、トラニラストは、Rizaben(登録商標)という商標名でキッセイ薬品工業株式会社によって日本および韓国において市販されている。トラニラストは、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、ケロイドまたは過形成性瘢痕を治療するために経口的に処方される。これらの症状に対する成人における典型的な投与量は、現在1つの100mg錠剤を1日3回である。しかし、再狭窄などの増殖性疾患を治療するために、少なくとも1日あたり600mgの用量が必要であることが示され(H. Tamai,Am Heart J.1999;138(5):968-75)、再狭窄の予防のためのトラニラストのフェーズIII治験では、1日あたり900mg程度の高い用量を含んだことが示された(D Holmes,Circulation.2002;106(10):1243-1250)。
【0026】
固体剤形における、または吸入される固体として投与されるときの治療有効量の本発明の結晶トラニラスト塩は、上述した範囲であってもよいが、結晶トラニラスト塩それ自体の約0.1mg~約250mg、0.5mg~約150mgおよび約1mg~約100mgの範囲であってさえもよい。
【0027】
溶液中に貯蔵されるトラニラストの光化学的不安定性(N Hori,Chem.Pharm.Bull.1999;47(12):1713-1716)およびよりかさばる溶液に基づく製剤の長期保存の不利益もまた克服するために、結晶トラニラスト塩の医薬組成物は、有利なことに、その場で用時に溶解して液体剤形として患者に即時送達するための溶液とすることができる固体組成物であってもよい。また有利なことに、液体剤形は、次いで上記の用量またはその他の高用量、たとえば、単位用量当り600mg、750mg、900mgまたはより高い用量のいずれかを投与するために使用することができる。このような投与剤形は、たとえば、注射用、吸入または経口の溶液投与剤形としての使用に適する可能性がある。本発明による治療有効量の結晶トラニラスト塩の薬学的溶液はまた、上述した範囲であってもよいが、初回通過代謝を回避する注射または吸入による送達などの送達方法については、より低用量でも有効性が達成される場合があることを理解することができる。薬物の治療有効量は、当技術分野において周知のとおり、投与経路に依存する可能性がある。たとえば、クリームを用いる局所適用、点眼または肺送達において、治療有効量は、少ない場合があり、たとえば、約0.1mg~約250mg、0.5mg~約150mgおよび約1mg~約100mgの結晶トラニラスト塩それ自体でさえあってもよい。
【0028】
任意の特定の患者について、任意の特定の疾患、障害または症状の治療のために必要とされる実際の量は、たとえば、治療される特定の疾患、障害または症状;治療される疾患状態およびその重症度;使用される特異的な医薬組成物;患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食事;投与の様式;投与時間;投与経路;およびトラニラストの排出の割合;治療期間;使用される特異的化合物とともに組み合わせて使用される、または同時的に使用される任意の薬物;および医学技術において周知のその他のこうした因子を含む多様な因子に依存する場合がある。これらの因子は、Goodman and Gilman’s“The Pharmacological Basis of Therapeutics”,Tenth Edition,A.Gilman,J.Hardman and L.Limbird,eds.,McGraw-Hill Press,155-173,2001において考察されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
医薬組成物のタイプに応じて、薬学的に許容される担体は、は当該技術分野において公知の担体のいずれか一つまた組み合わせから選択してもよい。薬学的に許容される担体の選択は、薬学的形態および使用される所望の投与方法に依存する。本発明の医薬組成物については、これは、本発明の結晶トラニラスト塩を含むものであり、担体は、結晶形態を維持するものが選択されるべきである。言い換えれば、担体は、結晶トラニラスト塩を実質的に変化させるべきでない。それだけでなく、担体は、任意の望ましくない生物学的効果を生じるか、または別の方法で医薬組成物の任意のその他の成分(類)と有害な様式において相互作用することなどによって、使用される結晶トラニラスト塩と別の方法で非適合であるべきではない。
【0030】
本発明の医薬組成物は、医薬品製剤技術において公知の方法によって調製されてもよく、たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,(Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1990)を参照のこと、これは参照により本明細書に組み込まれる。固体剤形において、本発明の結晶トラニラスト塩は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、たとえば、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムなど、または(a)充填剤または増量剤、たとえば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトールおよびケイ酸など、(b)結合剤、たとえば、セルロース誘導体、デンプン、アルギナート(aliginates)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよびアラビアゴムなど、(c)湿潤剤、たとえば、グリセロールなど、(d)崩壊剤、たとえば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、クロスカルメロースナトリウム、複合体シリケートおよび炭酸ナトリウムなど、(e)溶液リターダー、たとえば、パラフィンなど、(f)吸収促進剤、たとえば、四級アンモニウム化合物など、(g)湿潤剤、たとえば、セチルアルコール、およびグリセロールモノステアレート、ステアリン酸マグネシウムおよびこれに類するものなど、(h)吸着剤、たとえば、カオリンおよびベントナイトなど、および(i)滑沢剤、たとえば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムまたはそれらの混合物などと混合されてもよい。カプセル、錠剤および丸剤の場合には、剤形は、緩衝剤もまた含んでいてもよい。
【0031】
本発明の医薬組成物において、医薬品製剤技術において公知の薬学的に許容されるアジュバントもまた使用してもよい。これらには、保存剤、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、乳化剤および分配剤が挙げられるが、これに限定されない。微生物の作用の予防は、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸およびこれに類するものの種々の抗菌薬および抗真菌剤の包含によって保証してもよい。また、たとえば、糖、塩化ナトリウムおよびこれに類するものなどの等張剤を含むことも望ましい。必要に応じて、本発明の医薬組成物はまた、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、抗酸化剤およびこれに類するもの、たとえば、クエン酸、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレアート、ブチルオキシトルエンなどの少量の補助物質を含んでもよい。
【0032】
上述したような固体剤形は、医薬品技術では周知のように、腸溶コーティングおよびその他などのコーティングおよびシェルを用いて調製してもよい。これらは、鎮静剤(pacifying agents)を含んでいてもよく、また遅延した様式で腸管の一定の部分内に活性化合物(複数可)を放出するような組成物であってもよい。使用されてもよい包埋される組成物の非限定的な例は、重合体物質およびろうである。活性化合物はまた、適切である場合には、前述した賦形剤の一つ又は複数とともにマイクロカプセル化した形態であってもよい。
【0033】
懸濁液は、活性化合物に加えて、たとえば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天およびトラガカントまたはこれらの物質の混合物およびこれに類するものなどの懸濁剤を含んでもよい。液体剤形は、水性であってもよく、当該技術分野において公知の薬学的に許容される溶媒ならびに従来の液体剤形賦形剤を含んでいてもよく、これには緩衝剤、フレーバー剤、甘味剤、保存剤および安定剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0034】
直腸投与のための組成物は、たとえば、坐薬であり、これは本発明の結晶トラニラスト塩を、たとえば、カカオバター、ポリエチレングリコールまたは座薬ワックスなどの適切な非刺激性賦形剤または担体と混合することによって調製されてもよく、これは常温において固体であってもよいが体温において液体であってもよく、したがって、適切な体腔内にある間に融解し、その中に活性成分を放出する。
【0035】
局所投与のための適切な組成物は、当技術分野において公知のとおり、塗布剤、ローション、ゲル、塗布薬(applicants)、水中油型または油中水型エマルジョン(クリーム、軟膏、ペーストまたは泡など)などの液体または半液体の調製物;またはドロップなどの溶液または懸濁液などを含む。本発明の組成物は、局所投与が意図されてもよく、その場合には、担体は、溶液、エマルジョン、軟膏またはゲル基剤を適切に含んでもよい。担体または基剤は、たとえば、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、蜜蝋、鉱油、水およびアルコールなどの希釈剤、および乳化剤および安定剤のうちの一つ又は複数を含んでもよい。増粘剤は、局所投与のための医薬組成物内に存在してもよい。経皮投与が意図される場合、組成物は、経皮パッチまたはイオン導入装置を含んでもよい。局所製剤は、本発明の化合物を約0.1~約10%w/v(単位体積当たりの重量)の濃度で含んでもよい。
【0036】
上述した局所投与方法に加えて、肺に局所的に本発明の活性な結晶トラニラスト塩を投与する種々の方法がある。このような手段は、本発明の結晶トラニラスト塩を含む、呼吸可能な粒子の乾燥粉末吸入製剤を含むことができ、これを治療される患者が吸入する。乾燥粉末製剤は、一般的に結晶トラニラスト塩粒子が付着することができるキャリア粒子を含む。キャリア粒子は、任意の許容される薬理学的に不活性な材料または材料の組み合わせであってもよい。たとえば、キャリア粒子は、糖アルコール;ポリオール、たとえば、ソルビトール、マンニトールまたはキシリトール、および単糖類および二糖を含む結晶糖;塩化ナトリウムおよび炭酸カルシウムなどの無機塩;乳酸ナトリウムなどの有機塩;および尿素、多糖類、たとえば、シクロデキストリンおよびデキストリンなどのその他の有機化合物から選択される一つまたは複数の材料で構成されてもよい。キャリア粒子は、結晶糖、たとえば、グルコースまたはアラビノースなどの単糖類、またはマルトース、サッカロース、デキストロースまたはラクトースなどの二糖類でもよい。結晶トラニラスト塩は、気道の中へと分散し、その後薬学的に有効な量で下肺野に接触することになる。
【0037】
対象の目に局所的に活性化合物を投与する別の手段は、点眼剤または洗眼剤の形態で局所的に液体/液体の懸濁液を投与することを含むことになる。点眼剤または洗眼剤の製剤を製造するための活性化合物の液体医薬組成物は、当業者に公知の技術による無菌の発熱性物質除去蒸留水または無菌の生理食塩水などの、適切な媒体と活性化合物を組み合わせることによって調製することができる。
【0038】
上述した局所投与方法に加えて、このような方法によって全身的に本発明の活性結晶トラニラスト塩を投与する種々の方法がある。一つのこのような手段は、治療される患者が吸入する、本発明の結晶トラニラスト塩を含む呼吸可能な粒子のエアロゾル懸濁液を含むことになる。結晶トラニラスト塩は、薬学的に有効な量で肺を介して血流の中へと吸収されることになる。呼吸可能な粒子は、吸入した際に口および喉頭を通過するほど十分に小さな粒径を有する液体または固体とすることができる。
【0039】
結晶トラニラスト塩の結晶形態は、調製の間維持される場合があるため、固体剤形は、本発明の医薬組成物の一態様である。カプセル、錠剤、丸剤、粉末、顆粒および懸濁液を含む経口投与のための剤形を使用してもよい。計量吸入器、乾燥粉末吸入器またはエアロゾル製剤を含む肺投与のための剤形を使用してもよい。このような固体剤形において、活性化合物は、少なくとも1つの不活性な、薬学的に許容される賦形剤(薬学的に許容される担体としても知られる)と混合してもよい。
【0040】
本発明による結晶トラニラスト塩はまた、液体または注射用医薬組成物を製剤化するために使用されてもよい。純粋形態における、または適切な医薬組成物における結晶トラニラスト塩の投与は、許容される投与様式または類似の有用性の役に立つ薬剤のいずれかを介して実施されてもよい。したがって、投与は、たとえば、経口、頬、経鼻、経肺、非経口(静脈内、筋肉内、または皮下)、局所的、経皮、膣内、膀胱内、内部全身的、経眼または経直腸で、固体、半固体、凍結乾燥粉末または液体剤形(たとえば、錠剤、坐薬、丸剤、軟弾性および硬質ゼラチンカプセル、粉末、溶液、懸濁液またはエアロゾルまたはこれに類するものなど)の形態で、たとえば、正確な用量の単純な投与のために適した単位剤形であってもよい。一つの投与経路は、治療される症状の重症度の程度にしたがって調整することができる、簡便な1日投与計画を使用する経口投与でもよい。
【0041】
繊維症および癌などの症状については、患者は、固体経口剤形を嚥下することができない場合があり、結晶トラニラスト塩の組成物は、液体形態、たとえば、医療の専門家によって投与することができる注射剤または液体経口製剤であってもよい。
【0042】
本発明はまた、薬学的に許容される溶媒中に本発明による結晶トラニラスト塩を溶解する工程を含む、液体医薬組成物を調製する方法、およびその方法にしたがって調製される液体医薬組成物に関する。生理的に許容される水性媒体は、本発明の結晶トラニラスト塩の液体の製剤を調製するための溶媒として使用されてもよい。水または薬学的に許容される等張性水性溶液が好ましい。水性媒体は、トラニラスト塩を溶解することができ、かつ溶液のままにすることができるべきである。生理食塩水中に存在するナトリウムが、溶液からトラニラストの一部または全てを沈殿させる場合があるため、生理食塩水は回避されるべきである。上述したように、本発明の液体医薬組成物は、経口的、非経口的(吸入によるものを含む)および静脈内に投与されてもよい。
【実施例】
【0043】
以下の解析方法を本発明のトラニラスト塩を特徴づけるために使用した。
【0044】
X線粉末回折特徴付け:試料に対するX線粉末回折パターンは、CuKα放射(40kV、40mA)、θ-2θ角度計、V4受信スリット、GeモノクロメーターおよびLynxeye検出器を使用してBruker D8回折計で取得した。機器は、認定されたCorundum標準(NIST 1976)を使用して性能を確認した。データは、0.05°2Θのステップサイズおよび0.5秒のステップ時間を使用して2°~42°2Θの角範囲で収集した。粉砕せずに受けとった粉末を使用して平板検体として周囲条件下で実行した試料を調製した。およそ35mgの試料を磨かれたゼロバックグラウンド(510)シリコンウエハの中へと切り込まれたくぼみの中に穏やかに詰めた。全ての試料が、Diffrac Plus EVA v11.0.0.2またはv13.0.0.2を使用して解析された。
【0045】
単一結晶X線回折(SCXRD):データは、Oxford Cryosystems Cryostream冷却装置を備えたOxford Diffraction SuperNova Dual sourceで、Cuはゼロにて、Atlas CCD Diffractometerで収集した。構造は、Bruker SHELXTLプログラムを使用して解析し、Bruker SHELXTLスイートの一部としてSHELXTLプログラムを用いてリファインした。特に明記しない限り、炭素に付着した水素原子を幾何学的に配置させ、かつ乗っている等方置換パラメーターによりリファインさせた。ヘテロ原子に付着する水素原子は、差フーリエ合成において位置し、等方置換パラメーターにより自由にリファインさせた。
【0046】
熱解析-示差走査熱量測定(DSC):DSCデータは、PerkinElmer Pyris 4000 DSCで収集した。機器は、検証されたインジウムを使用してエネルギーおよび温度較正について検査した。あらかじめ決められた量の試料、0.5~3.0mgを、ピンホール付きのアルミニウムパンに置き、そして30から350℃まで20℃分-1にて加熱した。機器制御、データ収集および解析は、Pyris Software v9.0.1.0203を用いて行った。
【0047】
熱重量分析(TGA):TGAデータは、20位置のオートサンプラを備えたPerkinElmer Pyris 1 TGAで収集した。機器は、検証された重量および温度に対して検証されたAlumelおよびPerkalloyを使用して較正した。あらかじめ決められた量の試料、1~5mgを、あらかじめ風袋を計ったアルミニウムるつぼの上へと装填して周囲温度から400℃まで20℃分-1にて加熱した。20ml分-1にて窒素パージを試料にわたって維持した。機器制御、データ収集および解析は、Pyris Software v9.0.1.0203を用いて行った。
【0048】
実施例1:結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩
1.1 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩の調製
特徴付けのために使用した結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型のバッチは、以下の通りに調製した:
トラニラスト(1.00g)およびN-メチルグルカミン(596mg)を丸底フラスコの中へと計量した。エタノール(30ml)をフラスコに添加した。得られた黄色のスラリーを徐々に70℃まで加熱し、次いで1時間この温度にて維持した。得られた白色のスラリーを徐々に冷却させ、次いで15時間室温にて撹拌した。フラスコを3時間冷蔵庫内に置き、次いで生成物を真空下で濾過した。得られた無色の結晶を40℃で一晩、真空オーブン内で乾燥した。
【0049】
1.2 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩のXRPD特徴付け
結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩の実験XRPDパターンを
図1に示す。表2は、
図1の実験XRPDパターンにおいて同定されたピークの角度、°2θ±0.2°2θおよびd値の一覧である。ピークまたは対応するd値の一覧の全体またはそのサブセットは、
図1と実質的に類似のXRPDパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩は、7.3、8.4、9.7、12.2、14.4および16.2°2θ±0.2°2θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークまたはこれらに対応するd値によって特徴づけられる場合がある。
【表2】
【0050】
1.3 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩のDSC
示差走査熱量測定(DSC)トレース、
図2は、157.2℃にてピーク最大値を有する単一の吸熱を示す。
【0051】
1.4 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩のTGA
熱重量分析(TGA)トレース、
図3は、250℃の以前には有意な重量減少を示さない。
【0052】
1.5 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩の赤外スペクトル
結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩の実験赤外スペクトルを
図4に示す。
図4の実験赤外スペクトルにおいて同定された有意なピークは、3402、1662、1589、1507、1451、1423、1378、1341、1296、1272、1244、1217、1134、1091、1029、965、948、809、749、700、662、590、571、551、532および517cm
-1±1cm
-1である。ピークの一覧の全体またはそのサブセットは、
図4と実質的に類似の赤外線のパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩は、1662、1589、1507、1423、1378、1272および1244cm
-1±1cm
-1におけるピークから選択される少なくとも4つのピークによって特徴づけられる場合がある。
【0053】
1.6 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩の重量蒸気収着(GVS)解析
結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩について得られた水分収着等温線グラフを
図5に示す。結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩は、25℃にて90%の湿度範囲にわたって1.4%w/wを可逆的に吸収することが見いだされた。0%RHおよび90%RHでの試料のXRPD解析により、試料が全ての湿度範囲にわたって結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩として残ったこと、およびこれらの状態下でいかなる形態変換も示さなかったことが確認された。
【0054】
実施例2:結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩
2.1 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩の調製
特徴付けのために使用した結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩のバッチは、以下の通りに調製した:
トラニラスト(3.00g)およびN-メチルグルカミン(1.79g)を丸底フラスコの中へと計量した。ブタン-1-オル(30ml)をフラスコに添加した。得られた黄色のスラリーを12時間室温にて撹拌した。次いで生成物を真空下で濾過し、得られた無色の結晶を40℃で一晩、真空オーブン内で乾燥した。
【0055】
2.2 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩のXRPD特徴付け
結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩の実験XRPDパターンを
図6に示す。表3は、
図6の実験XRPDパターンにおいて同定されるピークの角度、°2θ±0.2°2θおよびd値の一覧である。ピークまたは対応するd値の一覧の全体またはそのサブセットは、
図6と実質的に類似のXRPDパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩は、10.8、14.0、14.6、15.2、15.9、16.7および18.9°2θ±0.2°2θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークまたはこれらに対応するd値によって特徴づけられうる。
【表3】
【0056】
2.3 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩のDSC
示差走査熱量測定(DSC)トレース、
図7は、160.1℃にてピーク最大値を有する単一の吸熱を示す。
【0057】
2.4 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩のTGA
熱重量分析(TGA)トレース、
図8は、250℃以前には有意な重量減少を示さない。
【0058】
2.5 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩の赤外スペクトル
結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩の実験赤外スペクトルを
図9に示す。
図9の実験赤外スペクトルにおいて同定される有意なピークは、3419、1655、1585、1519、1443、1417、1377、1335、1301、1287、1258、1235、1169、1142、1079、1044、1007、965、842、795、745、699、670、590、566、550、526、484および463cm
-1±1cm
-1である。ピークの一覧の全体またはそのサブセットは、
図9と実質的に類似の赤外線のパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩は、1655、1585、1519、1417、1377、1301および1258cm
-1±1cm
-1におけるピークから選択される少なくとも4つのピークによって特徴づけられる場合がある。
【0059】
2.6 結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩の重量蒸気収着(GVS)解析
結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩について得られた水分収着等温線グラフを
図10に示す。結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩は、25℃にて90%の湿度範囲にわたって0.42%w/wを可逆的に吸収することが見いだされた。0%RHおよび90%RHでの試料のXRPD解析により、試料が全ての湿度範囲にわたって結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩として残ったこと、およびこれらの状態下でいかなる形態変換も示さなかったことが確認された。
【0060】
実施例3:1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩の多形の固体状態の安定性
加速された状態下で、経時的な固体状態の変換に関して結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩多形の物理的安定度を調べるために研究を実施した。1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩(50mg)のI型およびII型を別々に40℃および75%の相対湿度にて密封した容器内に置き、そして7日間これらの状態下で貯蔵した。この時以後、それぞれの試料をXRPDによって解析し、任意の潜在的な形態変化を観察した。XRPD解析は、両方の試料がこれらの本来の結晶形態を保持し、かつこれらの状態下で固体の状態変換が生じなかったことを示した。
【0061】
第2の研究は、高湿度下で結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩多形の固体状態の安定性を調べるために実施された。1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩(50mg)のI型およびII型を別々に25℃および100%の相対湿度にて密封した容器内に置き、そして7日間これらの状態下で貯蔵した。この時以後、それぞれの試料をXRPDによって解析し、任意の潜在的な形態変化を観察した。XRPD解析は、両方の試料がこれらの本来の結晶形態を保持し、かつこれらの状態下で固体の状態変換が生じなかったことを示した。
【0062】
第3の研究は、高貯蔵温度下で結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩多形の固体状態の安定性を調べるために実施した。1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩のI型およびII型(50mg)を7日間90℃にてオーブン内に貯蔵した。この時以後、それぞれの試料をXRPDによって解析し、任意の潜在的な形態変化を観察した。XRPD解析は、両方の試料がこれらの本来の結晶形態を保持し、かつこれらの状態下で固体の状態変換が生じなかったことを示した。
【0063】
これらの研究は、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩のI型およびII型の両方が変動する温度および相対湿度においても安定な結晶形態であることを示す。多形の相互転換は、生じない。
【0064】
実施例4:結晶1:1トラニラストL-リジン塩
4.1 結晶1:1トラニラストL-リジン塩の調製
特徴付けのために使用した結晶1:1トラニラストL-リジン塩のバッチは、以下の通りに調製した:
トラニラスト(100mg)およびL-リジン(44.6mg)をガラスバイアルの中へと計量した。メタノール(1.5ml)をバイアルに添加した。得られた黄色のスラリーをシェーカー内に置き、そしておよそ24時間周囲温度にて振盪した。次いで生成物を真空下で濾過し、得られた無色の結晶を40℃で一晩、真空オーブンにおいて乾燥した。
【0065】
4.2 結晶1:1トラニラストL-リジン塩のXRPD特徴付け
結晶1:1トラニラストL-リジン塩の実験XRPDパターンを
図11に示す。表4は、
図11の実験XRPDパターンにおいて同定されるピークの角度、°2θ±0.2°2θおよびd値の一覧である。ピークまたは対応するd値の一覧の全体またはそのサブセットは、
図11と実質的に類似のXRPDパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストL-リジン塩は、11.8、12.3、15.1、16.0、18.5、20.9および21.5°2θ±0.2°2θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークまたはこれらの対応するd値によって特徴づけられる場合がある。
【表4】
【0066】
4.3 結晶1:1トラニラストL-リジン塩のDSC
示差走査熱量測定(DSC)トレース、
図12は、241.1および248.0℃にてピーク最大値を有する二重の吸熱を示す。
【0067】
4.4 結晶1:1トラニラストL-リジン塩のTGA
熱重量分析(TGA)トレース、
図13は、255℃以前には有意な重量減少を示さない。
【0068】
4.5 結晶1:1トラニラストL-リジン塩の赤外スペクトル
結晶1:1トラニラストL-リジン塩の実験赤外スペクトルを
図14に示す。
図14の実験赤外スペクトルにおいて同定される有意なピークは、3204、1670、1602、1584、1516、1493、1415、1371、1335、1277、1254、1232、1159、1135、1020、983、838、815、770、755および553cm
-1±1cm
-1である。ピークの一覧の全体またはそのサブセットは、
図14と実質的に類似の赤外線のパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストL-リジン塩は、1670、1584、1493、1371、1277、1254および1135cm
-1±1cm
-1におけるピークから選択される少なくとも4つのピークによって特徴づけられる場合がある。
【0069】
実施例5:結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩
5.1 結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩の調製
特徴付けのために使用した結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩のバッチは、以下の通りに調製した:
トラニラスト(100mg)をガラスバイアルの中へと計量した。ジエチルアミン(0.5ml)およびメタノール(1.0ml)をバイアルに添加した。得られた黄色のスラリーをシェーカー内に置き、およびおよそ24時間周囲温度にて振盪した。次いで生成物を真空下で濾過し、得られた無色の結晶を40℃で一晩、真空オーブン内で乾燥した。
【0070】
5.2 結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩のXRPD特徴付け
結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩の実験XRPDパターンを
図15に示す。表5は、
図15の実験XRPDパターンにおいて同定されるピークの角度、°2θ±0.2°2θおよびd値の一覧である。ピークまたは対応するd値の一覧の全体またはそのサブセットは、
図15と実質的に類似のXRPDパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩は、7.6、12.7、13.2、14.5、16.6、18.0および20.0°2θ±0.2°2θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークまたはこれらの対応するd値によって特徴づけられる場合がある。
【表5】
【0071】
5.3 結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩のDSC
示差走査熱量測定(DSC)トレース、
図16は、170.9℃にてピーク最大値を有する広い吸熱を示す。
【0072】
5.4 結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩のTGA
熱重量分析(TGA)トレース、
図17は、約155℃にて重量損失が始まることを示す。
【0073】
5.5 結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩の赤外スペクトル
結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩の実験赤外スペクトルを
図18に示す。
図18の実験赤外スペクトルにおいて同定される有意なピークは、2987、2515、1669、1618、1579、1495、1467、1419、1361、1303、1272、1231、1155、1138、1027、977、838、808、771、707、663、606、545および465cm
-1±1cm
-1である。ピークの一覧の全体またはそのサブセットは、
図18と実質的に類似の赤外線のパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩は、1669、1618、1579、1495、1419、1361および1155cm
-1±1cm
-1におけるピークから選択される少なくとも4つのピークによって特徴づけられる場合がある。
【0074】
実施例6:結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩
6.1 結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩の調製
特徴付けのために使用した結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミンのバッチは、以下の通りに調製した:
トラニラスト(100mg)およびN-エチルグルカミン(63.9mg)をガラスバイアルの中へと計量した。アセトン(1.5ml)をバイアルに添加した。得られた黄色のスラリーをシェーカー内に置き、およびおよそ24時間周囲温度にて振盪した。次いで生成物を真空下で濾過し、得られた無色の結晶を40℃で一晩、真空オーブン内で乾燥した。
【0075】
6.1 結晶1:1N-エチルグルカミン塩のXRPD特徴付け
結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩の実験XRPDパターンを
図19に示す。表6は、
図19の実験XRPDパターンにおいて同定されるピークの角度、°2θ±0.2°2θおよびd値の一覧である。ピークまたはd値の一覧の全体またはそのサブセットは、
図19と実質的に類似のXRPDパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩は、6.9、11.1、13.8、15.2 16.1 16.8および18.2°2θ±0.2°2θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークまたはこれらの対応するd値によって特徴づけられる場合がある。
【表6】
【0076】
6.2 結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩のDSC
示差走査熱量測定(DSC)トレース、
図20は、161.7℃にてピーク最大値を有する単一の吸熱を示す。
【0077】
6.3 結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩のTGA
熱重量分析(TGA)トレース、
図21は、255℃以前には有意な重量減少を示さない。
【0078】
6.4 結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩の赤外スペクトル
結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミンのI型塩の実験赤外スペクトルを
図22に示す。
図22の実験赤外スペクトルにおいて同定される有意なピークは、1660、1589、1504、1441、1423、1403、1374、1295、1273、1244、1134、1087、1028、974、809、748、700、662および530cm
-1±1cm
-1である。ピークの一覧の全体またはそのサブセットは、
図22と実質的に類似の赤外線のパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミンのI型塩は、1660、1589、1423、1374、1295、1273および1244cm
-1±1cm
-1におけるピークから選択される少なくとも4つのピークによって特徴づけられる場合がある。
【0079】
実施例7:結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩
7.1 結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩の調製
特徴付けのために使用した結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩のバッチは、以下の通りに調製した:
トラニラスト(200mg)をガラスバイアルの中へと計量した。メタノール(2.0ml)をバイアルに添加して黄色のスラリーを与えた。2.0Mの水酸化カリウム溶液(2.0ml)の添加により、溶液が形成された。バイアルをシェーカー内に置き、およびおよそ24時間、周囲温度にて振盪し、その間にオフホワイトの沈殿が形成された。次いで生成物を真空下で濾過し、得られた結晶を40℃で一晩、真空オーブン内で乾燥した。
【0080】
7.2 結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩のXRPD特徴付け
結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩の実験XRPDパターンを
図23に示す。表7は、
図23の実験XRPDパターンにおいて同定されるピークの角度、°2θ±0.2°2θおよびd値の一覧である。ピークまたは対応するd値の一覧の全体またはそのサブセットは、
図23と実質的に類似のXRPDパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩は、7.9、10.6、11.7、14.9、17.0、19.8および20.6°2θ±0.2°2θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークまたはこれらの対応するd値によって特徴づけられる場合がある。
【表7】
【0081】
7.3 結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩のSCXRD特徴付け
単結晶の構造決定のために使用した結晶は、上記の通りに調製した結晶のバッチから選択した。単結晶のデータおよび構造精製パラメーターを下記の表8に報告する。
図24は、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩の結晶構造から非対称ユニットのORTEP図を示し、使用した原子ナンバリングスキームを示す。非水素原子のための異方性原子転位楕円体は、50%の確率水準にて示され、また水素原子は、任意の半径の球形として示されている。100Kでの結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩についての単結晶のデータおよび構造に基づいた算出XRPDパターンを
図25に示す。実験XRPDパターンは室温にて収集し、および算出XRPDパターンは100Kにて収集されたデータに由来するという事実のために、ピークのうちのいくつかにおいていくつかの小さな温度シフトがある点もまた留意される。実験パターンにおいて存在する好ましい配向効果のために、また小さな強度相違もある。
【表8】
【0082】
周囲温度での1:1トラニラストカリウム一水和物塩における第2のSCXRDデータセット。
【0083】
295Kにて測定された構造についての単結晶のデータおよび構造精製パラメーターを下記の表9に報告する。
【0084】
295Kにおける結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩についての単結晶のデータおよび構造に基づいた算出XRPDパターンを
図26に示す。この場合には、室温にて収集した実験XRPDパターン(
図23)と295Kにて収集したデータに由来する算出XRPDパターンとの間に良好な一致があることを理解することができる。実験パターンにおいて存在する好ましい配向効果のために、小さな強度相違が存在する。
【表9】
【0085】
7.4 結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩のDSC
示差走査熱量測定(DSC)トレース、
図27は、185℃のピーク最大値を有する広い吸熱と、それに続く268℃のピーク最大値を有する鋭い吸熱を示す。
【0086】
7.5 結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩のTGA
熱重量分析(TGA)トレース、
図28は、105~170℃で4.7%の重量損失を示し、これは1モルの水に対応する。
【0087】
7.6 結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩の赤外スペクトル
結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩の実験赤外スペクトルを
図29に示す。
図29の実験赤外スペクトルにおいて同定される有意なピークは、1670、1583、1497、1422、1370、1292、1259、1222、1184、1155、1127、969、812、756、702、664、645、599、547、524および490cm
-1±1cm
-1である。ピークの一覧の全体またはそのサブセットは、
図29と実質的に類似の赤外線のパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩は、1670、1583、1492、1422、1370、1155および1127cm
-1±1cm
-1におけるピークから選択される少なくとも4つのピークによって特徴づけられる場合がある。
【0088】
実施例8:結晶トラニラストジエタノールアミン塩
8.1 結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩の調製
トラニラスト(150mg)およびジエタノールアミン(48mg)をガラスバイアルの中へと計量した。メタノール(2ml)をバイアルに添加した。全ての固体が溶解するまでバイアルを密封し、そして振盪した。バイアル蓋を取り外して溶媒を蒸発させると、無色の結晶質固体が得られた。得られた無色の結晶は、40℃で一晩、真空オーブン内で乾燥した。
【0089】
8.2 結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩のXRPD特徴付け
結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩の実験XRPDパターンを
図30に示す。表10は、
図30の実験XRPDパターンにおいて同定されるピークの角度、°2θ±0.2°2θおよびd値の一覧である。ピークまたは対応するd値の一覧の全体またはそのサブセットは、
図30と実質的に類似のXRPDパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩は、7.5、11.8、12.5、16.8、18.5、19.1および19.9°2Θ±0.2°2Θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークまたはこれらの対応するd値によって特徴づけられる場合がある。
【表10】
【0090】
8.3 結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩のDSC
示差走査熱量測定(DSC)トレース、
図31は、155.5℃にてピーク最大値を有する単一の吸熱を示す。
【0091】
8.4 結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩のTGA
熱重量分析(TGA)トレース、
図32は、約215℃にて始まる有意な重量損失を示す。
【0092】
8.5 結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩の赤外スペクトル
結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩の実験赤外スペクトルを
図33に示す。
図33の実験赤外スペクトルにおいて同定される有意なピークは、3289、2947、1652、1580、1494、1422、1363、1346、1266、1233、1186、1159、1137、1109、1090、1067、1035、1015、999、981、935、857、831、812、770、721、704、663、612、601、540および468cm
-1±1cm
-1である。ピークの一覧の全体またはそのサブセットは、
図33と実質的に類似の赤外線のパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩は、1652、1494、1422、1363、1346、1266および1233cm
-1±1cm
-1におけるピークから選択される少なくとも4つのピークによって特徴づけられる場合がある。
【0093】
実施例9:結晶トラニラストエタノールアミン塩
9.1 結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩の調製
トラニラスト(150mg)およびエタノールアミン(28mg)をガラスバイアルの中へと計量した。メタノール(2ml)をバイアルに添加した。全ての固体が溶解するまでバイアルを密封し、そして振盪した。バイアル蓋を取り外して溶媒を蒸発させると、無色の結晶固体が得られた。得られた無色の結晶は、40℃で一晩、真空オーブンにおいて乾燥した。
【0094】
9.2 結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩のXRPD特徴付け
結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩の実験XRPDパターンを
図34に示す。表11は、
図34の実験XRPDパターンにおいて同定されるピークの角度、°2θ±0.2°2θおよびd値の一覧である。ピークまたはこれらの対応するd値の一覧の全体またはそのサブセットは、
図34と実質的に類似のXRPDパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩は、10.4、11.4、12.2、14.5、15.8、19.5および20.4°2θ±0.2°2θにおけるピークから選択される少なくとも4つのピークまたはこれらの対応するd値によって特徴づけられる場合がある。
【表11】
【0095】
9.3 1:1トラニラストエタノールアミン塩のSCXRD特徴付け
単結晶の構造決定のために使用した結晶は、上記の通りに調製した結晶のバッチから選択した。単結晶のデータおよび構造精製パラメーターを下記の表12に報告する。
図35は、1:1トラニラストエタノールアミン塩の結晶構造からの非対称ユニットのORTEP図を示し、使用した原子ナンバリングスキームを示す。非水素原子のための異方性原子転位楕円体は、50%の確率水準にて示し、および水素原子は、任意の半径の球形として示されている。293Kでの1:1トラニラストエタノールアミン塩についての単結晶のデータおよび構造に基づいた算出XRPDパターンを
図36に示す。この場合には、室温にて収集した実験XRPDパターン(
図34)と293Kにて収集したデータに由来する算出XRPDパターンとの間に良好な一致があることを理解することができる。実験パターンにおいて存在する好ましい配向効果のために、小さな強度相違が存在する。
【表12】
【0096】
9.4 結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩のDSC
示差走査熱量測定(DSC)トレース、
図37は、158.3℃のピーク最大値を有する鋭い吸熱を示す。
【0097】
9.5 結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩のTGA
熱重量分析(TGA)トレース、
図38は、160℃以前には有意な重量減少を示さない。
【0098】
9.6 結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩の赤外スペクトル
結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンI型塩の実験赤外スペクトルを
図39に示す。
図39の実験赤外スペクトルにおいて同定される有意なピークは、3154、1668、1611、1585、1496、1438、1375、1359、1336、1323、1293、1277、1255、1232、1161、1131、1072、1017、997、955、842、806、765、750、692、664、599、549および527cm
-1±1cm
-1である。ピークの一覧の全体またはそのサブセットは、
図39と実質的に類似の赤外線のパターンによる場合と同様に、結晶塩を特徴づけるために十分である場合がある。たとえば、結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩は、1668、1585、1375、1359、1277、1255および1131cm
-1±1cm
-1におけるピークから選択される少なくとも4つのピークによって特徴づけられる場合がある。
【0099】
実施例10:固体状態の加速安定性研究
加速された状態下で、経時的な固体の形態変換または潮解に関して1:1結晶トラニラスト塩の物理的安定度を調べるために研究を実施した。それぞれ50mgの結晶1:1トラニラストL-リジン塩、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物、結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩および結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩を別々に40℃および75%の相対湿度にて密封した容器内に置き、そして7日間これらの状態下で貯蔵した。この時以後、全ての試料は、潮解の徴候なく固体として残った。それぞれの試料をXRPDによって解析し、任意の潜在的な形態変化を観察した。XRPD解析は、全ての試料がこれらの本来の結晶形態を保持し、かつ本発明の結晶トラニラスト塩のいずれもこれらの状態下で固体形態変換を受けないことを示した。
【0100】
実施例11:溶液の光安定性研究
トラニラストは、溶液に溶解されると光化学的に不安定であり、紫外線暴露によりシス異性体および二量体の形態に形質転換することが知られている(N.Hori,Chem Pharm Bull.1999;47:1713-1716)。したがって、これらの形態が溶液分解の徴候をも示すかどうかを見るために、溶液中においていったん溶解された1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩、1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩、1:1トラニラストL-リジン塩および1:1トラニラストジエチルアミン塩の光安定性を調査するために決定した。調査下の4つ塩の形態の試料2mgを透明なガラスバイアルの中へと各々計量した。それぞれの試料を水(1ml)中に溶解した。バイアルをVindon Scientific Photostabilityキャビネットの中へと置き、そしてUV光(平均Klux=13.9(13.9Lux/時)、平均UVワット/m
2/時=27.7、平均温度=26.8℃)を照射した。シス異性体、二量体または任意のその他の分解産物への分解を受けなかったそれぞれの試料に残っているトラニラストの割合をHPLCを使用して2、6および24時間にて決定した。使用したHPLC法を表13に記述する。この研究の結果を表14に示す。
【表13】
【表14】
【0101】
表13から、2時間後でさえ4つ全てのトラニラスト塩が分解の徴候を示しはじめ、24時間後には低いレベルのトラニラストのみがそれぞれの溶液中に残っていることを理解することができる。これらの結果から、これらのトラニラスト塩が溶液における貯蔵に適していないであろうことが確認される。
【0102】
実施例12:固体状態の光安定性研究
純粋な結晶トラニラストが固体形態において光安定性である一方、APIのいくつかのその他の固体形態は、光安定性ではないことが公知である(S.Onoue,Eur J Pharm Sci.2010;39:256-262)。したがって、結晶1:1N-メチルグルカミンII型塩、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩、結晶1:1トラニラストL-リジン塩および結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩の固体状態の光安定性を決定し、これらが固体状態で貯蔵する間、光安定性のままかどうかを見るために研究を実施した。調査下のそれぞれのトラニラストの形態の試料6~10mgを透明なガラスバイアルの底面上に広げた。バイアルをVindon Scientific Photostabilityキャビネットの中へと置き、およびUV光(平均Klux=18.2(18.2Lux/時)、平均UV値=2.55ワット/分、温度=31.0~32.0℃)で照射した。シス異性体、二量体または任意のその他の分解産物への分解を受けなかったそれぞれの試料に残っているトラニラストの割合を、HPLCを使用して2、6および24時間において決定した。使用したHPLC法を表13に記述する。この研究の結果を表15に示す。表15から、固体状態において、結晶1:1N-メチルグルカミンII型、結晶1:1トラニラストN-ジエチルグルカミン、結晶1:1トラニラストL-リジンおよび結晶1:1トラニラストジエチルアミンは、いかなる光減成の兆候もなく、これらの条件下ですべて光安定性であることを理解することができる。これらを組み合わせた結果から、溶液内でのこれらのトラニラスト塩の貯蔵が有意な光分解をもたらすことになる一方で、これらの結晶形態における貯蔵は、いかなる光安定性問題も示すはずがないことが示唆される。
【表15】
【0103】
実施例13:水溶解性試験
トラニラストは水中に実質的に不溶性であり(14.5μg/ml)(Society of Japanese Pharmacopoeia.2002)、また米国特許第5356620号には、トラニラストの薬学的に許容される塩が水溶液を調製するにはあまりに水中に不溶性であると記述されている。また、文献において以前に記述された唯一のトラニラストの薬学的に許容される塩は、トラニラストナトリウム塩であり(N Geng,Cryst.Growth Des.2013;13:3546-3553)、またこの刊行物の著者は、この塩がどうして純粋なトラニラストより低い見かけ上の溶解性を有するかについて記述しており、この出願において開示されたトラニラストの新たな結晶塩形態が結晶トラニラストのものより高い水溶解性を有することになるか、またはより低い水溶解性を有することになるかについて予測することは不可能である。したがって、結晶1:1N-メチルグルカミンI型塩、結晶1:1N-メチルグルカミンII型塩、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩、結晶1:1トラニラストL-リジン塩、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩、結晶1:1トラニラストジエチルアミン塩、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩および結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩の水中の水溶解性を決定するために研究を実施した。水(0.5ml、pH7.0)を増大する量のそれぞれの塩に添加し、得られたスラリーを25℃にて振盪した。全ての固体が溶解するのが確認された場合、関連する塩のさらなる少量の一定分量を、1時間振盪した後に固体の粒子がまだ溶解せずに残る時点まで添加した。飽和点に到達したことを確認するためにスラリーを24時間振盪した。合計で500mgの結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミン塩のI型またはII型を添加した後、飽和点にまだ到達しておらず、したがって、何らかの沈澱が生じるかどうかを確認するためにこれらの溶液を24時間静置した。24時間後、1:1トラニラストN-メチルグルカミンのI型およびII型の両方が溶液の状態でまだ残っていたため、1:1トラニラストN-メチルアミン塩の両方の多形体が、1000mg/mlを上回る水溶解性を有することが理解されうる。1:1トラニラストN-エチルグルカミン、1:1トラニラストL-リジン、1:1トラニラストカリウム一水和物、1:1トラニラストジエチルアミン、1:1トラニラストジエタノールアミンおよび1:1トラニラストエタノールアミンは、24時間後に懸濁液としてすべて残った。表16は、溶解されたトラニラストの質量に関する溶解性研究の結果を示す。本発明の全ての1:1結晶塩が純粋なトラニラストよりも可溶性であることを理解することができる。調査した塩の溶解性において大きな変動があり、1:1トラニラストジエチルアミン塩は、18~20mg/mlの溶解性しか示さないが、一方1:1トラニラストN-メチルグルカミンのI型およびII型の両方の多形体が、626mg/mlより大きい溶解性を実証したことも理解することができる。
【表16】
【0104】
本発明の多数の結晶トラニラスト塩の驚くほど高い水溶解性を考慮すると、多数のこれら塩の形態は、患者にインサイチューで送達するために即時にトラニラストの高用量の液体製剤を調製するために使用する可能性があることを予想することができる。
【0105】
実施例14:溶解試験
トラニラストなどのBCSクラスII薬について、使用される薬物形態の胃腸管系媒体における溶解速度は、全体的な吸収における、そしてそれ故に、経口薬物の生物学的利用能における調節因子となる可能性がある。これは、薬物の用量が増加するにつれて、さらにより影響を及ぼすようになる。繊維症または癌などの症状については、良好な治療のためにトラニラストの高用量が必要である場合があり、高溶解速度を有するトラニラストの形態を見いだすことは重要である。したがって、トラニラストの市販された形態(Rizaben(登録商標))、米国特許第9,512,064 B2号の結晶1:1トラニラストニコチンアミド共結晶および公開された結晶1:1トラニラストナトリウム塩と比較して、結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩、結晶1:1トラニラストL-リジン塩、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩、1:1トラニラストジエチルアミン塩、1:1トラニラストジエタノールアミン塩および1:1トラニラストエタノールアミン塩の溶解速度を調べるために研究を実施した。200mgのトラニラストと均等のそれぞれのトラニラスト形態の量を使用して、pH6.5(37℃)にて50mlのシミュレートされた腸管の液体(FaSSIF V2)を使用して溶解研究を実施した。溶解研究は、Pion inForm(登録商標)機器を使用して実施した。トラニラストの検出および定量化は、光ファイバープローブを使用するインサイチューUV分光法によって行い、試料導入時から瞬間的なデータ収集を可能にした。UV吸収データは、あらかじめ決定されたpH依存的モル吸光係数を使用してmg/ml(±0.2mg/ml)に変換し、溶解した薬物の量を定量化した。
【0106】
研究の結果を
図40に示す。結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩、結晶1:1トラニラストL-リジン塩、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩および結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩は、完全溶解を30秒以内で達成し、このバイオ関連媒体中でほぼ瞬間的に溶解することが示唆され、この高溶解性が20分間にわたって維持されることを理解することができる。新たな結晶1:1トラニラスト塩形態のうちの6つが30秒以内に完全に溶解したのに対して、トラニラストの現在市販されている形態(Rizaben(登録商標))は、この時間枠内で0.3μg/mlの溶解性にしか到達しなかった。20分後、Rizaben(登録商標)はこの媒体中でまだ1.3mg/mlの溶解性にしか到達しなかったことは、新たな結晶トラニラスト塩の溶解速度が、現在市販されている形態と比較して、どれほど大幅に改善されたかを示している。以前に公開された結晶1:1トラニラストナトリウム塩は、30秒後に6.9×10
-16 mg/mlの溶解性にしか到達せず、また20分後でも0.3mg/mlの溶解性を示すのみであった。結晶1:1トラニラストナトリウム塩は、現在市販されている製品Rizaben(純粋な結晶トラニラストに基づく)よりもバイオ関連媒体中でさらに低い溶解速度および溶解性を有したため、本発明の新たな結晶塩の溶解速度の著しい改善は、予想外であった。これらの新たな結晶トラニラスト塩の大きく改善された溶解速度は、おそらく高用量においてさえ経口トラニラストの改善された吸収および生物学的利用能に転換することができ、潜在的に患者の薬物の血漿レベルにおける変動の減少につながる可能性がある。
【0107】
米国特許第9,512,064 B2号は、1:1トラニラストニコチンアミド共結晶を含む種々のトラニラスト共結晶を開示する。米国特許第9,512,064 B2号の実施例10および
図32における溶解研究に示されるように、1:1のニコチンアミド共結晶は、開示された共結晶の中で最良の溶解プロファイルを有しており、その全ては結晶トラニラストより優れていた。したがって、結晶1:1トラニラストニコチンアミド共結晶を、本発明の結晶塩に対する比較としてこの溶解研究において選択した。1:1トラニラストニコチンアミド共結晶は、30秒以内に2.7mg/mlの最大溶解性に到達するにもかかわらず、沈澱が迅速に生じ、溶解性が5分後に1.95mg/mlまで、および次いで20分を超えるとさらに1.7mg/mlまで落ちることが
図40から理解することができる。この1:1トラニラストニコチンアミド共結晶は、このバイオ関連媒体中で最初の数分にわたってRizaben(登録商標)と比較して改善された溶解速度を示す一方、この速度は、トラニラストの現在市販されている形態と非常に類似した速度まで急速に落ちる。
図40は、本発明の新たな結晶トラニラスト塩の溶解速度が、バイオ関連媒体中で米国特許第9,512,064 B2号の結晶1:1トラニラストニコチンアミド共結晶と比較してどれほど大幅に改善されたかを示す。
【0108】
本発明はまた、たとえば、注射用製剤、液体経口製剤または霧状吸入製剤などの送達のためのトラニラストの液体医薬製剤を調製する方法にも関するため、適切な媒体中の本発明の結晶トラニラスト塩の溶解速度を調べるための研究も実施した。液体医薬品製剤は、通常、即時送達のためにベッドサイドにてインサイチューで作られるため、トラニラストのこれらの新たな固体形態は、これらが液体医薬品製剤における使用に適するように、ほぼ即時に溶解することが重要である。液体経口製剤は、投与の前に単に水中に薬物を溶解することによって達成することができる(新たな結晶トラニラスト塩の高水溶解性は、これを可能にすることになる)一方、吸入される、または静脈内の送達のための液体製剤は、溶解媒体が等張性であることを必要とする。これはしばしば、液体製剤媒体として生理食塩水(水中で0.9%塩化ナトリウム)を使用することによって達成される。しかし、1:1トラニラストナトリウム塩の極めて低い溶解性を考慮すると、生理食塩水は、1:1トラニラストナトリウム塩を形成し、そしてその後溶液から沈澱する潜在性が高いことにより、トラニラストとは適合しない。吸入、または静脈内の投与のための液体医薬製剤を調製するために適切な代わりの等張性媒体は、5%水性デキストロース溶液である。したがって、50mlの5%水性デキストロース溶液中の結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩、結晶1:1トラニラストL-リジン塩、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩、1:1トラニラストジエチルアミン塩、1:1トラニラストジエタノールアミン塩および1:1トラニラストエタノールアミン塩の溶解速度を調べるために、200mgトラニラスト当量のそれぞれのトラニラスト形態の量を使用して、結晶トラニラストと比較して研究を実施した。この研究の結果は、
図41において理解することができる。結晶1:1トラニラストN-メチルグルカミンII型塩、結晶1:1トラニラストN-エチルグルカミン塩、結晶1:1トラニラストL-リジン塩、結晶1:1トラニラストカリウム一水和物塩、結晶1:1トラニラストジエタノールアミン塩および結晶1:1トラニラストエタノールアミン塩は、1分未満において完全な溶解を達成し、90分後にこの同じ溶解レベルを維持するため、これらが即時送達のためのトラニラストの液体医薬製剤を調製するための適切な候補であることを理解することができる。対照的に、純粋な結晶トラニラストは、1分後に1μg/mlの溶解性にのみ到達し、1時間後に60μg/mlに到達するのみであった。