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特許7372277二次電池用電極の製造方法および湿潤粉体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】二次電池用電極の製造方法および湿潤粉体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20231024BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021063000
(22)【出願日】2021-04-01
(65)【公開番号】P2022158238
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】盛山 智
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-056252(JP,A)
【文献】特開2017-098029(JP,A)
【文献】特開平09-073917(JP,A)
【文献】特開2010-067365(JP,A)
【文献】特開2018-045815(JP,A)
【文献】国際公開第2021/200581(WO,A1)
【文献】特開2021-015776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、
電極活物質と、カーボンナノチューブと、非水電解液とを少なくとも含有する凝集粒子によって形成される湿潤粉体を造粒する工程と、
前記湿潤粉体からなる電極活物質層を前記電極集電体上に供給して電極を形成する工程と、
を包含し、
前記造粒工程は、
前記カーボンナノチューブと前記非水電解液とを混合して、前記カーボンナノチューブに前記非水電解液を含浸させるように混合する第1混合処理と、
前記非水電解液が含浸したカーボンナノチューブと、前記電極活物質とを混合する第2混合処理と、
前記第1および第2混合処理により得られた混合物を圧縮する処理が含まれる、非水電解液二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記造粒工程において造粒される前記湿潤粉体は、前記凝集粒子において固相と液相とがキャピラリー状態を形成しており、
湿潤粉体全体を100質量%としたときに、固形分率が70質量%以上である、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの吸油量が、280mL/100g以上1000mL/100g以下である、請求項1または2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記電極形成工程は、第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置される第2のロールとの間に供給された前記湿潤粉体を、前記第2のロールの外周面上に前記電極活物質層として付着させるとともに、前記第2のロールに別途供給される前記電極集電体の表面に、該第2のロールの外周面上から前記電極活物質層を転写することにより、前記電極を形成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
正負極いずれかの電極集電体上に電極活物質層を形成するための湿潤粉体であって、
前記湿潤粉体は粉体状であり、
電極活物質と、カーボンナノチューブと、非水電解液と、を含む凝集粒子によって構成されており、
湿潤粉体全体を100質量%としたときに、固形分率が70質量%以上であり、
前記凝集粒子は、固相と液相とがキャピラリー状態を形成しており、
前記カーボンナノチューブの吸油量が、280mL/100g以上1000mL/100g以下である、湿潤粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極の製造方法および湿潤粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、好ましく用いられている。
【0003】
この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。かかる電極活物質層は、電極活物質、結着材(バインダ)、導電材等の固形分を所定の溶媒中に分散して調製したスラリー(ペースト)状の電極材料を集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後、プレス圧をかけて所定の密度、厚さとすることにより形成される。あるいは、このような合材スラリーによる成膜に代えて、合材スラリーよりも固形分の割合が比較的高く、溶媒が活物質粒子の表面とバインダ分子の表面に保持されたような状態で粒状集合体が形成されたいわゆる湿潤粉体(Moisture Powder)を用いて成膜する湿潤粉体成膜(Moisture Powder Sheeting:MPS)も検討されている。例えば、特許文献1および2には、湿潤粉体によって活物質層を形成する方法が記載されている。
【0004】
特許文献1においては、集電箔上に厚みが均一な電極活物質層を形成するために、溶媒と界面活性剤とを混合した混合液を用いて、電極活物質の接触角を調製して湿潤粉体成膜を行う手法が開示されている。また、特許文献2においては、電池性能の低下を抑制しつつ、造粒体の展延性を高めるために電解液の溶媒成分の一部を含有する造粒体を調製するステップを含む二次電池の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-113113号公報
【文献】特開2017-117582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電極密度を向上させる観点からすれば、抵抗成分となり得る非導電性のバインダ樹脂はできる限り含まないことが好ましい。また、従来この種の非水電解液二次電池の製造に用いられてきた溶媒は、特許文献2に記載されている通り、電極に残留して電池内に持ち込まれた場合には電池性能が低下する虞がある。このため、溶媒を除去するために乾燥工程を実施することや、該溶媒を回収する装置を備える必要があり、生産コストが増加する。したがって、従来から非水電解液二次電池の製造に好適に用いられてきた非導電性のバインダ樹脂と、溶媒とは、電池性能向上と生産性向上の観点からすると、できる限り少ない(あえて言えば実質的に含まない)ことが好ましい。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電極密度が向上した電極を、生産コストを抑えて製造する方法を提供することにある。また他の目的は、かかる電極を好適に製造し得る湿潤粉体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、ここに開示される電極の製造方法が提供される。ここに開示される製造方法は、正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、電極活物質と、カーボンナノチューブと、非水電解液とを少なくとも含有する凝集粒子によって形成される湿潤粉体を造粒する工程と、前記湿潤粉体からなる電極活物質層を前記電極集電体上に供給して電極を形成する工程とを包含する。前記造粒工程は、前記カーボンナノチューブと前記非水電解液とを混合して、前記カーボンナノチューブに前記非水電解液を含浸させるように混合する第1混合処理と、前記非水電解液が含浸したカーボンナノチューブと、前記電極活物質とを混合する第2混合処理と、前記第1および第2混合処理により得られた混合物を圧縮する処理が含まれる。
【0009】
上述のように第1混合処理においてカーボンナノチューブに非水電解液を含浸させてから第2混合処理において電極活物質と混合することにより、電極活物質の表面に優先的に非水電解液を付着させて、電極活物質同士が液架橋力によって好適に結合された状態の湿潤粉体を造粒することができる。かかる状態の湿潤粉体を用いることにより、実質的にバインダ樹脂と溶媒とを含まない態様であっても、電極集電体上に電極活物質層を形成することができる。該湿潤粉体は、従来の二次電池の製造方法において用いられてきた非導電性のバインダ樹脂や、電池性能に悪影響を及ぼす虞のある溶媒を用いていないため、電極密度が向上し、かつ、溶媒を除去するための乾燥工程や溶媒回収装置を必要としない構成である。したがって、かかる構成によれば、電極密度が向上した電極を、生産コストを抑えて製造することが実現できる。
【0010】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記造粒工程において造粒される前記湿潤粉体は、前記凝集粒子において固相と液相とがキャピラリー状態を形成しており、湿潤粉体全体を100質量%としたときに、固形分率が70質量%以上である。
湿潤粉体は、該湿潤粉体を構成する凝集粒子において、固相と液相とが後述するキャピラリー状態を形成していることにより、より好適に電極集電体上に電極活物質層を形成することができる。このようなキャピラリー状態を好適に形成するために、該湿潤粉体の固形分率は70質量%以上であることが好ましい。かかる構成によれば、実質的にバインダ樹脂を含まない態様であっても電極活物質層を形成することができる。
【0011】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記カーボンナノチューブの吸油量が、280mL/100g以上1000mL/100g以下である。
かかる構成によれば、一定量の吸油量を備えるカーボンナノチューブを用いることにより、第1混合処理におけるカーボンナノチューブへの非水電解液の含侵がより好適に行うことができる。これにより、造粒工程において、液架橋力が十分に発揮された湿潤粉体を
製造することができる。
【0012】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記電極形成工程は、第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置される第2のロールとの間に供給された前記湿潤粉体を、前記第2のロールの外周面上に前記電極活物質層として付着させるとともに、前記第2のロールに別途供給される前記電極集電体の表面に、該第2のロールの外周面上から前記電極活物質層を転写することにより、前記電極を形成する。
かかる構成によれば、湿潤粉体からなる電極活物質層をより効率よく電極集電体上に製造することができる。
【0013】
上記他の目的を実現するべく、ここに開示される湿潤粉体が提供される。ここに開示される湿潤粉体は、正負極いずれかの電極集電体上に電極活物質層を形成するための湿潤粉体であって、電極活物質と、カーボンナノチューブと、非水電解液と、を含む凝集粒子によって構成されている。湿潤粉体全体を100質量%としたときに、固形分率が70質量%以上であり、前記凝集粒子は、固相と液相とがキャピラリー状態を形成している。前記カーボンナノチューブの吸油量は、280mL/100g以上1000mL/100g以下である。
かかる構成によれば、電極密度が向上した電極を好適に製造し得る湿潤粉体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る電極製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
図2】一実施形態に係る造粒工程を示すフローチャートである。
図3】湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
図4】一実施形態に係る造粒工程で得られた湿潤粉体を模式的に示す図である。
図5】一実施形態に係るロール成膜装置の構成を模式的に示す説明図である。
図6】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここで開示される電極の製造方法と該電極を好適に製造し得る湿潤粉体について、詳細に説明する。
本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、寸法関係(長さ、幅、高さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A、Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0016】
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいう。また、「非水電解液二次電池」とは、非水電解液(典型的には、非水溶媒中に支持電解質を含む非水電解液)を備えた電池をいう。「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。また、本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。
【0017】
図1は、ここに開示される非水電解液二次電池の製造方法を示すフロー図である。ここに開示される電極の製造方法は、電極活物質と、カーボンナノチューブと、非水電解液とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を造粒する工程(S110)と、該湿潤粉体からなる電極活物質層を前記電極集電体上に供給して電極を形成する工程(S120)と、を包含している。以下、各工程について詳細に説明する。
【0018】
<造粒工程>
造粒工程S110では、図2に示すように、カーボンナノチューブと非水電解液とを混合する第1混合処理(S112)と、第1混合処理の後、さらに電極活物質を加えて混合する第2混合処理(S114)と、第1および第2混合処理によって得られた混合物を圧縮する処理(S116)とを含む。
【0019】
ここに開示される製造方法において造粒される湿潤粉体は、典型的には電極活物質と、カーボンナノチューブと、非水電解液と、を含む凝集粒子によって構成されている。該湿潤粉体は、全体として粉体状であって、気液界面における自由液面が存在しない状態のものである。このような性状を示すものとして、例えば、該湿潤粉体を構成する凝集粒子が、後述するキャピラリー状態を形成していることが好ましい。湿潤粉体がキャピラリー状態を形成していることにより、湿潤粉体同士が一体化されつつ引き伸ばされて、好適に膜状の電極活物質層が形成され得る。
【0020】
かかる湿潤粉体の形態的な分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている4つの分類を、本明細書においても採用しており、ここで開示される湿潤粉体は明瞭に規定されている。具体的には、以下のとおりである。
湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形成分)、液相(非水電解液等の液体成分)および気相(空隙)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
「ペンジュラー状態」は、図3の(A)に示すように、凝集粒子1中の固形成分(固相)2間を架橋するように液体成分(液相)3が不連続に存在する状態であり、固形成分2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように液体成分3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。
「ファニキュラー状態」は、図3の(B)に示すように、凝集粒子1中の液体成分3の含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の固形成分2の周囲に液体成分3が連続して存在する状態となっている。但し、液体成分3の量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、固形成分2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
【0021】
「キャピラリー状態」は、図3の(C)に示すように、凝集粒子1中の液体成分3の含有率が増大し、凝集粒子1中の液体成分3の量は飽和状態に近くなり、固形成分2の周囲において十分量の液体成分3が連続して存在する結果、固形成分2は不連続な状態で存在する。固形成分間が液体成分3で満たされ、固形成分間の結合力が強い状態である。液体成分3が、凝集粒子1の表面にとどまることで、凝集粒子1の表面が湿潤状態にあり、粘性を発揮し得る状態になる。凝集粒子1中には液体成分3の含有量が増大することにより、空隙はほとんど存在せず、空隙が存在する場合はほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%以上)が孤立空隙として存在する。
「スラリー状態」は、図3の(D)に示すように、もはや固形成分2は、液体成分3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相は上記キャピラリー状態よりもさらに存在しない。
【0022】
湿潤粉体の固形分率は、該湿潤粉体が上述したキャピラリー状態を好適に実現する固形分率であればよく、湿潤粉体の全質量を100質量%としたときに、典型的には70質量%以上である。湿潤粉体が好適なキャピラリー状態を形成するためには、一定量の液体成分3が必要であるため、固形分率は87質量%以下であってよく、85質量%以下であってよく、83質量%以下であってよい。
なお、本明細書において「固形分率」とは、湿潤粉体全体に占める固形成分の割合のことをいう。
【0023】
固形成分2の主成分である電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質或いは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、負極活物質の他の例として、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)等の金属もしくはこれらの金属を主体とする合金からなる金属材料(いわゆる合金系負極)等が挙げられる。正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。
なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回析・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
【0024】
湿潤粉体に含まれるカーボンナノチューブの吸油量は、280mL/100g以上1000mL/100g以下であることが求められる。かかる範囲の吸油量を備えるカーボンナノチューブを用いることにより、後述する第1混合処理S112において非水電解液を好適に保持することができ、第2混合処理S114において電極活物質と混合されたときに、該電極活物質の表面に優先的に該非水電解液が付与される。
なお、カーボンナノチューブの吸油量は、試薬液体としてジブチルフタレート(DBP)を使用し、JIS K6217-4:2008に記載の方法に準拠して測定することができる。
【0025】
カーボンナノチューブとしては、一枚の円筒形のグラフェンシートからなる単層カーボンナノチューブ(SWNT)であってもよいし、異なる二つのSWNTが入れ子状になった2層のカーボンナノチューブ(DWNT)であってもよいし、異なる三つ以上のSWNTが入れ子状になった多層カーボンナノチューブ(MWNT)であってもよい。上記吸油量を好適に満たす観点からは、2層以上(DWNT、MWNT)のカーボンナノチューブであることが好ましい。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザアブレーション法、化学気相成長法等により製造されたものであってよい。
【0026】
カーボンナノチューブの平均長さは、上述したような吸油量を備える限り特に限定されるものではないが、一定の平均長さを有することにより電極活物質間の結合や導電パスの向上に寄与し得るため、例えば5μm以上の平均長さであることが好ましい。カーボンナノチューブの平均長さは、典型的には8μm以上であってよく、例えば10μm以上であってよい。平均長さが長すぎる場合には、混合する際にカーボンナノチューブが過度に凝集した状態となるため、典型的には150μm以下であってよく、例えば120μm以下であってよい。かかる範囲の平均長さのカーボンナノチューブを用いることで、カーボンナノチューブが電極活物質と適度に絡み合い、電極活物質間の結合や導電パスを好適に確保し得る。
また、カーボンナノチューブの平均直径は、特に限定されるものではないが、例えば、2nm以上150nm以下であってよく、5nm以上120nm以下であってよい。なお、カーボンナノチューブの平均長さおよび平均直径は、例えば電子顕微鏡観察に基づく測定で得られた値を採用することができる。
【0027】
カーボンナノチューブのアスペクト比(平均長さ/平均直径)は、典型的には100以上であることが好ましい。カーボンナノチューブのアスペクト比が大きいほど、絡み合いやすくなるため、電極活物質間においてバインダおよび導電材としての機能が十分に発揮され得る。かかるアスペクト比は、250以上であってよく、500以上であってよく、800以上であってよい。造粒工程における分散性の観点からは、アスペクト比は概ね25000以下にすることが適当であり、好ましくは20000以下、より好ましくは15000以下である。
【0028】
湿潤粉体に用いられる非水電解液としては、従来この種の二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には非水溶媒中に、支持電解質(支持塩ともいう。)を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非水溶媒を、特に制限することなく用いることができる。具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等の非水溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0029】
非水溶媒に含まれる支持塩としては、従来のこの種の非水電解液二次電池に用いられる支持塩を特に制限することなく用いることができる。例えば、LiPF,LiBF,LiAsF,LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO等のリチウム塩を用いることができる。
【0030】
特に限定されるものではないが、ここに開示される製造方法においては、造粒工程S110における非水電解液中の支持塩濃度を従来よりも高く設定しておいてもよい。例えば、2mol/L以上5mol/L以下であってよく、2.5mol/L以上4.5mol/L以下であってよい。非水電解液二次電池として構築されたときの非水電解液の支持塩の濃度が、概ね1mol/L程度(例えば0.7mol/L以上1.3mol/L以下)となるように、例えば従来この種の製造方法において一般的に実施される非水電解液の注入工程において、適宜調整すればよい。
【0031】
なお、本実施形態に係る非水系二次電池の非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、例えば、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;被膜形成剤;分散剤;増粘剤等の各種添加剤を含んでいてもよい
【0032】
湿潤粉体の固形分全体に占める電極活物質の割合は、エネルギー密度の観点から、概ね70~99.5質量%であってよく、典型的には80~99質量%であってよく、例えば85~95質量%であってよい。また、湿潤粉体の固形分全体に占めるカーボンナノチューブの割合は、典型的には0.5~20質量%であってよく、例えば1~10質量%であってよい。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、湿潤粉体は、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。各種添加剤を含ませる場合、湿潤粉体の固形分全体に占める添加物の割合は、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。なお、湿潤粉体は、粉体状の材料を分散させて流動性を高め得る液状の分散媒は含んでいない。
【0033】
ここに開示される造粒工程は、図2に示すように、カーボンナノチューブと非水電解液とを混合する第1混合処理S112、該電解液および該カーボンナノチューブの混合物と電極活物質とを混合する第2混合処理S114、および、第1、第2混合処理によって得られた混合物を圧縮する処理S116を含む。混合の手法は、従来公知の手法によって混合すればよい。造粒粒子を作製する手法としては、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、スプレードライ法等の造粒法が挙げられる。なかでも、圧縮造粒法がここに開示される湿潤粉体を好適に造粒し得るため好ましい。
【0034】
第1混合処理S112では、カーボンナノチューブと非水電解液とを、従来公知の混合装置を用いて、混合する。かかる混合装置としては、例えばプラネタリーミキサー等のミキサーを用いて、混合するとよい。かかるミキサーは、典型的には、円筒形である混合容器と、当該混合容器の内部に収容された回転羽根と、回転軸を介して回転羽根に接続されたモータとを備えている。
【0035】
ミキサーの混合容器に、カーボンナノチューブと非水電解液とを投入して、該カーボンナノチューブに該非水電解液が十分に含浸するように混合する。第1混合処理の混合時間は、装置構成等によっても異なり得るが、通常は1~60秒間(例えば2~40秒)程度である。また、回転数は例えば、2000rpm~5000rpm程度であってよい。かかる混合条件で混合することにより、カーボンナノチューブが適度に凝集され、非水電解液を保持した状態の混合物を得ることができる。
【0036】
非水電解液は、湿潤粉体の固形分率が70質量%以上となるように計量されて投入される。ここに開示される湿潤粉体においては、従来のスラリー状の組成物と比較すると、固形分率は相対的に高い値に設定される。固形分率を相対的に高い値とすることで、電極活物質とカーボンナノチューブと非水電解液とを好適に一体化させて、上記キャピラリー状態に造粒することができる。かかるキャピラリー状態の造粒粒子であれば、電極形成工程S120において、各造粒粒子同士の密着性を高めやすく好適に成膜することができる。
【0037】
第2混合処理S114では、第1混合処理S112によって得られた非水電解液が含侵したカーボンナノチューブと、電極活物質とを混合する。電極活物質は、一度に用意したすべての該活物質を投入してもよいし、少量ずつ投入してもよい。第1混合処理S112と第2混合処理S114とは、同一の混合装置を用いて行ってもよく、異なる混合装置を用いて行ってもよいが、生産性の観点からは同一の混合装置を用いることが好ましい。例えば、第1混合処理S112において用いたミキサーの混合容器に、さらに電極活物質を投入して混合するとよい。第2混合処理S114の混合時間は、第1混合処理S112の混合時間よりも短く設定されることが好ましい。例えば、1~30秒程度であってよい。また、第2混合処理S114の回転数は第1混合処理の回転数よりも小さい回転数でよく、例えば100rpm~1000rpm程度であってよい。
【0038】
圧縮処理S116では、上記第1および第2混合処理によって得られた混合物を従来公知の造粒装置を用いて圧縮しながら造粒する。例えば、かかる造粒装置の好適な一態様としては、互いに逆方向に回転する一対のロール間に混合物を投入することにより圧縮しながら造粒するロールミルが挙げられる。
【0039】
ロールミルによる圧縮造粒においては、投入された混合物(非水電解液が含侵したカーボンナノチューブと電極活物質)に高い圧縮力とせん断力とをかけながら造粒する。特に限定されるものではないが、かかる造粒方法により、以下のような造粒が行われて、好適にキャピラリー状態の湿潤粉体が形成されるものと推測される。
非水電解液が含侵したカーボンナノチューブと電極活物質とが、圧縮されながら擦りあわされることにより、含侵していた非水電解液がカーボンナノチューブから押し出されて電極活物質の表面に優先的に付着しながら凝集粒子が構成される。また、混合物から気体が押し出されて電極活物質同士の間隙が小さくなり、該活物質の密度が高い状態になる。すなわち、固形成分(ここでは電極活物質)2と液体成分(ここでは非水電解液)3とが、図3(C)に示すようなキャピラリー状態の凝集粒子1を形成することができる。非水電解液が押し出されたカーボンナノチューブは、高い圧縮力によって粉砕されながら形成された凝集粒子に巻き込まれ、凝集粒子の表面に付着する。
【0040】
本発明者の知見によれば、電極活物質と、カーボンナノチューブと、非水電解液とをすべて同時に混合してから、圧縮造粒法によって造粒した場合には、形成される造粒体(湿潤粉体)の結着強度が低いことを見出した。特に限定されるものではないが、すべて同時に混合することにより各成分が均一に分散され、非水電解液が優先的に電極活物質の表面に配置されず、該活物質間の液架橋力(毛管負圧と表面張力の和)が小さくなるためと推測される。
【0041】
図4は、上記造粒工程S110において形成された湿潤粉体20の一例を模式的に示している。ここに開示される湿潤粉体20は、図4に示すように、複数の電極活物質22と、非水電解液24と、カーボンナノチューブ26と、を少なくとも含んでいる。好適な一態様では、湿潤粉体20を構成する凝集粒子において、固相と液相とが上述したキャピラリー状態を形成しており、電極活物質22の周囲において十分量の非水電解液24が連続して存在する結果、電極活物質22は不連続な状態で存在する。そして、かかる凝集粒子の表面に、カーボンナノチューブ26が付着している。特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブ26は湿潤粉体20内において均一に分散するのではなく、電極活物質22の周囲に偏在していることが好ましい。これにより、カーボンナノチューブ26は、電極活物質22同士の結合と、該活物質間の導電パスの向上に寄与し得る。
【0042】
ここに開示される造粒工程S110によって造粒される湿潤粉体20においては、従来この種の電極製造方法において用いられているバインダ樹脂を実質的に含まない。ここでいうバインダ樹脂とは、結合剤として作用し導電性を有しないもののことであって、一例として、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系ポリマー、メタクリル酸エステルの重合体等のアクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられる。
なお、本明細書において「実質的に含まない」とは、意図的に対象成分を添加していないことをいい、該成分を全く含まないか、あるいはここに開示される製造方法において何ら意味をなさない程度のごく微量(いわゆるコンタミ程度)しか含まれていないことをいう。
【0043】
従来の湿潤粉体の製造方法においては、固形成分(例えば電極活物質、バインダ樹脂、導電材等)を乾式の混合方法によって予め混合し、少量の溶媒(液体成分)を添加してさらに混合する撹拌造粒法によって、湿潤粉体を造粒していた。かかる撹拌造粒法では、ブレードの回転によって固形成分同士が不規則に転動しながら衝突し、次第に凝集しながら大きな塊(造粒体)として造粒される。このとき、固形成分に含まれるバインダ樹脂が、凝集した固形成分同士を結着させる働きをする。このため、かかる撹拌造粒法においては、バインダ樹脂は必須の成分であった。しかしながら、バインダ樹脂は、電極として構築された際には一般的に抵抗成分となり得るため、できる限り少ない(あえて言えば実質的に含まない)ことが好ましい。
【0044】
これに対して、ここに開示される造粒工程S110においては、まず上述した特性を備えるカーボンナノチューブ26と、非水電解液24とを混合する第1混合処理S112によって、カーボンナノチューブ26に非水電解液24を含浸させる。その後第2混合処理S114によって非水電解液24が含侵したカーボンナノチューブ26と電極活物質22とを混合する。かかる第1混合処理S112および第2混合処理S114によって得られた混合物を、圧縮する処理S116により、電極活物質22の表面に優先的に非水電解液24が配置され、上記キャピラリー状態の凝集粒子が好適に形成される。さらに、かかる凝集粒子の表面に圧縮によって適度に粉砕されたカーボンナノチューブ26がさらに配置されることにより、電極活物質22同士の結合力および導電パスが向上された湿潤粉体20が形成される。これにより、抵抗成分となり得るバインダ樹脂を実質的に含まない態様であっても、湿潤粉体20を造粒することができる。
【0045】
また、ここに開示される造粒工程S110によって造粒される湿潤粉体20においては、従来この種の電極製造方法において用いられてきた溶媒を実質的に含まない。ここでいう溶媒とは、二次電池として構築された際に電池性能に悪影響を及ぼす虞がある液体成分であって、一例として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等が挙げられる。かかる溶媒は、従来の製造方法において、活物質や導電材等を好適に分散させる等の目的で、必須の成分として用いられてきた。しかしながら、電極が構築された際に溶媒が残存すると電池性能に悪影響を与えるため、乾燥等によって溶媒を除去する必要があった。これに対し、ここに開示される湿潤粉体においては、従来の溶媒を実質的に含まず、二次電池として構築された際に電池性能への悪影響を与えることがない非水電解液を用いている。したがって、溶媒除去工程や溶媒回収装置を備える必要がなく生産コストを抑えることができる。
【0046】
上記造粒工程S110で造粒される湿潤粉体20の平均粒径は、概ね10μm以上であってよく、100μm以上であってよく、1mm以上であってもよい。平均粒径の上限は、特に限定されるものではないが、典型的には10mm以下であってよく、例えば5mm以下であってよい。
【0047】
<電極形成工程>
電極形成工程S120は、造粒工程S110によって造粒される湿潤粉体を用いて、該湿潤粉体からなる電極活物質層を電極集電体上に供給して電極を形成する工程である。湿潤粉体20からなる電極活物質層32の形成は、図5に模式的に示すようなロール成膜装置40を用いて行うことができる。図示されるように、ロール成膜装置40は、第1の回転ロール41(以下「供給ロール41」ともいう。)と、該第1の回転ロール41に対向して配置される第2の回転ロール42(以下「転写ロール42」ともいう。)と、を備えている。供給ロール41の外周面と転写ロール42の外周面は互いに対向しており、これら一対の回転ロール41、42は、図5の矢印に示すように逆方向に回転することができる。また、供給ロール41と転写ロール42との間隙(ギャップ)は、長尺なシート状の電極集電体31上に形成する電極活物質層32の所望の厚さに応じた距離だけ離れている。また、かかるギャップのサイズを調整することにより、供給ロール41と転写ロール42との間を通過する湿潤粉体20を圧縮する力を調整することもできる。このため、湿潤粉体20の固形分率等に応じて、供給ロール41と転写ロール42とのギャップのサイズを調整することにより、造粒粒子同士が好適に一体化され、引き伸ばされて膜状に成形される。
【0048】
電極集電体31は、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体31が正極集電体である場合には、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。電極集電体31が負極集電体である場合には、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特に銅(例えば銅箔)が好ましい。電極集電体31の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0049】
供給ロール41と転写ロール42の幅方向の両端部には、隔壁45が設けられている。隔壁45は、湿潤粉体20を供給ロール41と転写ロール42上に保持すると共に、2つの隔壁45の間の距離によって、電極集電体31上に形成される電極活物質層32の幅を規定する役割を果たす。この2つの隔壁45の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料(湿潤粉体20)が供給される。
本実施形態に係るロール成膜装置40では、転写ロール42の隣に第3の回転ロールとしてバックアップロール43が配置されている。バックアップロール43は、電極集電体31を転写ロール42まで搬送する役割を果たす。転写ロール42とバックアップロール43は、図5の矢印に示すように、逆方向に回転する。
【0050】
供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43は、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続されており、供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43の順にそれぞれの回転速度を徐々に高めることによって、湿潤粉体20を転写ロール42に沿って搬送し、転写ロール42の外周面からバックアップロール43により搬送されてきた電極集電体31の表面上に当該湿潤粉体を電極活物質層32として転写することができる。
特に限定するものではないが、供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43各ギャップのサイズ(幅)は、電極活物質層32の成膜時の平均膜厚が10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上150μm以下)となるようなギャップサイズに設定すればよい。
【0051】
供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43のサイズは特に制限はなく、従来のロール成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、電極活物質層32を形成する幅についても従来のロール成膜装置と同様でよく、電極活物質層32を形成する対象の電極集電体31の幅によって適宜決定することができる。また、供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43の外周面の材質は、従来公知のロール成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。
なお、図5では、供給ロール41、転写ロール42、バックアップロール43は、それぞれの回転軸が水平に並ぶように配置されているが、かかるロールの配置はこれに限られたものではない。
【0052】
ここに開示される電極形成工程S120では、まず、逆方向に回転する一対の供給ロール41および転写ロール42の間に、湿潤粉体20を供給する。該湿潤粉体20は、供給ロール41および転写ロール42が逆方向に回転することにより、一対のロールの間隙(ギャップ)に運ばれる。そして、湿潤粉体20は、供給ロール41と転写ロール42とのギャップを圧縮されながら通過し、膜状に成膜され電極活物質層32が形成される。すなわち、湿潤粉体20は、供給ロール41および転写ロール42によって圧縮されることにより、湿潤粉体20同士が一体化していき、引き伸ばされて膜状の電極活物質層32を形成する。このとき湿潤粉体20同士(具体的には凝集粒子同士)は、特に限定されるものではないが、液架橋力によって結合されていると推測される。粒子間の付着力(結合力)としては、液架橋力の他にファンデルワールス力や静電気力等が挙げられるが、液架橋力は比較的大きな付着力を発揮し、例えば固形分率が70質量%以上(例えば70~87質量%)のときにも好適な付着力を発揮する。これに加えて、カーボンナノチューブ26が凝集粒子の表面上に存在し、結合力を強化している。このため、上記したキャピラリー状態の湿潤粉体20を圧縮することにより、実質的にバインダ樹脂を含まなくても膜状の電極活物質層32を形成することができる。
【0053】
次いで、上記電極活物質層32を転写ロール42に付着させて搬送する。上述したように供給ロール41よりも転写ロール42の回転速度が速く設定されているため、形成された電極活物質層32は転写ロール42に付着する。転写ロール42に付着した電極活物質層32は、該転写ロール42の回転によって搬送され、バックアップロール43により供給される電極集電体31上に転写される。このとき、電極活物質層32が、ある程度の圧力で電極集電体31と接触することにより、電極活物質層32が電極集電体31上に転写される。これにより、電極集電体31上に電極活物質層32を備える電極を得ることができる。
【0054】
一般的なスラリー状の電極材料からなる電極活物質層は、電極活物質とバインダを適当な溶媒でスラリー状に調製した電極材料を集電体に塗布し、乾燥した後、プレスすることによって形成される。かかる方法によれば、集電体上に塗布されたスラリー状の電極材料を乾燥する際に、比重が小さいバインダが表面側に偏析する現象である、マイグレーションが発生する。かかるマイグレーションが発生すると、電極集電体と電極活物質層との密着性が低下し、製造工程中や充放電を繰り返すうちに該活物質層が該集電体から剥離しやすくなる。また、かかるスラリー状の電極材料は、固形分率が低く(典型的には55%以下)、乾燥等による溶媒の除去に時間がかかるため、生産性が低下するという問題もある。これに対して、ここに開示される電極の製造方法においては、液体成分として非水電解液を用いているため、液体成分を除去する必要がない。これにより、マイグレーションが発生することはなく、電極活物質層が電極集電体から剥離することのない高品質な電極を製造することができる。また、上述した理由により、溶媒除去工程および溶媒回収装置が不要であり生産性の向上も実現する。これに加えて、抵抗成分となり得るバインダ樹脂を実質的に含まない湿潤粉体を使用し、かつ、上記ロール成膜装置により圧縮しながら成膜するため、固形成分(電極活物質)の密度を上げることができる。これにより、従来の製造方法におけるプレス工程(電極活物質層の密度を調製する工程)が不要になる。したがって、ここに開示される電極の製造方法によれば、従来よりも高品質な電極を、生産コストを抑えて製造することができる。
【0055】
こうして製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状正極または負極として二次電池の構築に用いられる。
図6に示すリチウムイオン二次電池100は、密閉可能な箱型電池ケース50に、扁平形状の捲回電極体80と、非水電解液(図示せず)とが、収容されて構築される。電池ケース50には、外部接続用の正極端子52および負極端子54と、電池ケース50の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁56とが設けられている。また、電池ケース50には、非水電解液または非水溶媒を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子52と正極集電板52aは、電気的に接続されている。負極端子54と負極集電板54aは、電気的に接続されている。
【0056】
捲回電極体80は、典型的には長尺シート状の正極(以下、正極シート60という。)と、長尺シート状の負極(以下、負極シート70という。)とが長尺シート状のセパレータ90を介して重ね合わせられ長手方向に捲回された形態を有する。正極シート60は、正極集電体62の片面もしくは両面に長手方向に沿って正極活物質層64が形成された構成を有する。負極シート70は、負極集電体72の片面もしくは両面に長手方向に沿って負極活物質層74が形成された構成を有する。正極集電体62の幅方向の一方の縁部には、該縁部に沿って正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出した領域(すなわち、正極活物質層非形成部66)が設けられている。負極集電体72の幅方向の他方の縁部には、該縁部に沿って負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出した領域(すなわち、負極活物質層非形成部76)が設けられている。正極活物質層非形成部66と負極活物質層非形成部76には、それぞれ正極集電板52aおよび負極集電板54aが接合されている。
【0057】
正極(正極シート60)および負極(負極シート70)は、上述した製造方法により得られる正極および負極が用いられる。なお、本構成例においては、正極および負極は、電極集電体31(正極集電体62および負極集電体72)の両面に電極活物質層32(正極活物質層64および負極活物質層74)が形成されている。
【0058】
セパレータ90としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔質シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ90は、耐熱層(HRL)を設けられていてもよい。
【0059】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0060】
以下、ここで開示される電極に関する実施例を説明するが、ここで開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0061】
<実施例1>
下記に示す正極材料を用いて、図1に示すフローにしたがって非水電解液二次電池用の電極を作製した。
まず、正極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒径(D50)が20μmであるリチウム遷移金属酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、導電材として吸油量が280ml/gであるカーボンナノチューブ(CNT)を用意した。かかる正極活物質とCNTとの質量比は90:10となるように調整した。
非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用意した。
【0062】
カーボンナノチューブと非水電解液とをプラネタリーミキサーに投入して混合し、カーボンナノチューブに非水電解液を含浸させた。このとき、非水電解液は、湿潤粉体の固形分率が70質量%となるように非水電解液を添加した。さらに、正極活物質を投入して、混合することで湿潤状態の混合物を得た。かかる湿潤状態の混合物を、ロールミルにより造粒して、湿潤粉体(正極材料)を作製した。
次いで、得られた湿潤粉体(正極材料)を上記ロール成膜装置に供給し、別途用意したアルミ箔からなる長尺シート状の正極集電体の表面に正極活物質層を形成した。湿潤粉体からなる電極活物質層は、電極集電体上に好適に転写され、剥離等の不具合は観察されなかった。これにより、シート状の正極集電体上に正極活物質層が形成された正極シートを得た。
【0063】
<比較例1>
比較対象として、導電材としてアセチレンブラックを用いた正極材料からなる正極を作製した。具体的には、正極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒径(D50)が20μmであるリチウム遷移金属酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、導電材としてアセチレンブラック(AB)を用意した。かかる正極活物質とABとの質量比は90:10となるように調整した。
非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用意した。
【0064】
アセチレンブラックと非水電解液とをプラネタリーミキサーに投入して混合し、アセチレンブラックに非水電解液を含浸させた。このとき、非水電解液は、湿潤粉体の固形分率が70質量%となるように非水電解液を添加した。さらに、正極活物質を投入して、混合することで湿潤状態の混合物を得た。かかる湿潤状態の混合物を、ロールミルにより造粒して、本実施例に係る湿潤粉体(正極材料)を作製した。
次いで、得られた湿潤粉体(正極材料)を上記成膜装置に供給し、別途用意したアルミ箔からなる長尺シート状の正極集電体の表面に正極活物質層の形成を試みたが、正極集電体上に正極活物質層を形成することができなかった。
【0065】
以上のことから、ここに開示される電極の製造方法によれば、電極活物質と、カーボンナノチューブと、非水電解液とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を造粒し、該湿潤粉体からなる電極活物質層を電極集電体上に供給して電極を形成することで、実質的にバインダ樹脂を含まずに電極密度が向上した電極を、生産コストを抑えて製造することが実現できる。
【0066】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 凝集粒子
2 固形成分(固相)
3 液体成分(液相)
4 空隙(気相)
20 湿潤粉体
22 電極活物質
24 非水電解液
26 カーボンナノチューブ
31 電極集電体
32 電極活物質層
40 ロール成膜装置
41 第1の回転ロール(供給ロール)
42 第2の回転ロール(転写ロール)
43 バックアップロール
45 隔壁
50 電池ケース
52 正極端子
52a 正極集電板
54 負極端子
54a 負極集電板
56 安全弁
60 正極シート
62 正極集電体
64 正極活物質層
66 正極活物質層非形成部
70 負極シート
72 負極集電体
74 負極活物質層
76 負極活物質層非形成部
80 捲回電極体
90 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6