IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社キャタラーの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/94 20060101AFI20231024BHJP
   B01J 29/70 20060101ALI20231024BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B01D53/94 222
B01J29/70 A ZAB
B01J29/40 A
B01D53/94 400
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021197746
(22)【出願日】2021-12-06
(65)【公開番号】P2023083819
(43)【公開日】2023-06-16
【審査請求日】2023-04-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】天田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓人
(72)【発明者】
【氏名】堀 恵悟
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】千葉 明哉
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-212799(JP,A)
【文献】特表2015-533343(JP,A)
【文献】特表2021-520995(JP,A)
【文献】特表2016-536126(JP,A)
【文献】特開平05-228370(JP,A)
【文献】特表2015-518420(JP,A)
【文献】特開平04-267951(JP,A)
【文献】特表2018-537268(JP,A)
【文献】特表2018-526194(JP,A)
【文献】特表2016-500562(JP,A)
【文献】特表2018-507777(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0205796(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/94
B01J 29/70
B01J 29/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、及び前記基材上の1又は2以上の触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記1又は2以上の触媒コート層は、
銅イオン交換ゼオライト、及び
アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上のアルカリ成分を含む、アルカリ含有ゼオライト
を含み、
前記銅イオン交換ゼオライトが、Cu-MWW型ゼオライト、Cu-LTL型ゼオライト、Cu-AEI型ゼオライト、Cu-AFX型ゼオライト、及びCu-CHA型ゼオライトから選択され、
前記アルカリ金属は、ルビジウム及びセシウムから選択され、
前記銅イオン交換ゼオライトは、前記アルカリ成分を含有せず、
前記銅イオン交換ゼオライト100質量部に対する前記アルカリ含有ゼオライトの量が、20質量部以上であり、かつ、
下記の条件(A)及び(B)のいずれか一方を満足する、排ガス浄化触媒装置:
(A)前記触媒コート層のうちの1つの触媒コート層に、前記銅イオン交換ゼオライト及び前記アルカリ含有ゼオライトの双方が含まれていること、並びに
(B)前記触媒コート層が、前記銅イオン交換ゼオライトを含む第1の触媒コート層、及び前記アルカリ含有ゼオライトを含む第2の触媒コート層を含み、前記第1の触媒コート層と第2の触媒コート層とが直接接するように積層されていること。
【請求項2】
前記条件(A)を満足する、請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項3】
前記条件(B)を満足する、請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項4】
前記銅イオン交換ゼオライトのSARが15.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項5】
前記銅イオン交換ゼオライト中のCu量が、前記銅イオン交換ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.10mol以上0.50mol以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項6】
前記銅イオン交換ゼオライトが、Cu-CHA型ゼオライトである、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項7】
前記アルカリ含有ゼオライトが、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上のアルカリ成分を含む、LTA型、FER型、MWW型、MFI型、MOR型、LTL型、FAU型、BEA型、AEI型、AFX型、又はCHA型のゼオライトである、請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項8】
前記アルカリ含有ゼオライト中の、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上のアルカリ成分の合計含有量が、前記アルカリ含有ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.05mol以上1.50mol以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項9】
前記銅イオン交換ゼオライトの骨格構造と、前記アルカリ含有ゼオライトの骨格構造とが同じである、請求項1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項10】
前記銅イオン交換ゼオライト100質量部に対する前記アルカリ含有ゼオライトの量が、25質量部以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項11】
前記基材容量1L当たりの前記銅イオン交換ゼオライトの量が、50g/L以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項12】
アンモニア又はアンモニア源を用いる窒素酸化物の選択還元用である、請求項1~11のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項13】
窒素酸化物を含む排ガスに、アンモニア又はアンモニア源を添加すること、及び
前記排ガスを、請求項1~12のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置と接触させて、前記窒素酸化物を窒素に還元すること
を含む、排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排ガス中のNOxを、大気に放出される前に、還元浄化する技術として、選択的接触還元(SCR:Selective Catalytic Reduction)システムが知られている。SCRシステムは、還元剤、例えばアンモニア(又は尿素等のアンモニア源)を用いて、排ガス中のNOをNに還元する技術である。
【0003】
このSCRシステムでは、ゼオライトを銅(Cu)でイオン交換した、銅イオン交換ゼオライトが、NOx浄化能に優れるものとして知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、アルカリ土類金属等から選択される金属を含む、シリカアルミナ比(SAR)3~10の銅イオン交換ゼオライトが、NOxの選択還元触媒活性を有し、高度の水熱安定特性を有すると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2015-505290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SCRシステムにおいて、銅イオン交換ゼオライト、特にSARが低い銅イオン交換ゼオライトは、特に低温領域におけるNOx浄化能に優れるが、副生成物としてNOが生成することが知られている。NOは、地球温暖化に影響する温室効果ガスであるため、その排出量は抑制されるべきである。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、NOxの浄化効率が十分に高く、かつ、NOの生成量が少ない、排ガス浄化触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、以下のとおりである。
【0009】
《態様1》基材、及び前記基材上の1又は2以上の触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記1又は2以上の触媒コート層は、
銅イオン交換ゼオライト、及び
アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上を含む、アルカリ含有ゼオライト
を含み、
下記の条件(A)及び(B)のいずれか一方を満足する、排ガス浄化触媒装置:
(A)前記触媒コート層のうちの1つの触媒コート層に、前記銅イオン交換ゼオライト及び前記アルカリ含有ゼオライトの双方が含まれていること、並びに
(B)前記触媒コート層が、前記銅イオン交換ゼオライトを含む第1の触媒コート層、及び前記アルカリ含有ゼオライトを含む第2の触媒コート層を含み、前記第1の触媒コート層と第2の触媒コート層とが直接接するように積層されていること。
《態様2》前記条件(A)を満足する、態様1に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様3》前記条件(B)を満足する、態様1に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様4》前記銅イオン交換ゼオライトのSARが15.0以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様5》前記銅イオン交換ゼオライト中のCu量が、前記銅イオン交換ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.10mol以上0.50mol以下である、態様1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様6》前記銅イオン交換ゼオライトが、Cu-CHA型ゼオライトである、態様1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様7》前記アルカリ含有ゼオライトが、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上を含む、LTA型、FER型、MWW型、MFI型、MOR型、LTL型、FAU型、BEA型、AEI型、AFX型、又はCHA型のゼオライトである、態様1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様8》前記アルカリ含有ゼオライト中の、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上の合計含有量が、前記アルカリ含有ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.05mol以上1.50mol以下である、態様1~7のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様9》前記銅イオン交換ゼオライトの骨格構造と、前記アルカリ含有ゼオライトの骨格構造とが同じである、態様1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様10》前記銅イオン交換ゼオライト100質量部に対する前記アルカリ含有ゼオライトの量が、20質量部以上である、態様1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様11》前記基材容量1L当たりの前記銅イオン交換ゼオライトの量が、50g/L以上である、態様1~10のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様12》アンモニア又はアンモニア源を用いる窒素酸化物の選択還元用である、態様1~11のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様13》窒素酸化物を含む排ガスに、アンモニア又はアンモニア源を添加すること、及び
前記排ガスを、態様1~12のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置と接触させて、前記窒素酸化物を窒素に還元すること
を含む、排ガス浄化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、NOxの浄化効率が十分に高く、かつ、NOの生成量が少ない、排ガス浄化触媒が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《排ガス浄化触媒装置》
本発明の排ガス浄化触媒装置は、
基材、及び前記基材上の1又は2以上の触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
上記の1又は2以上の触媒コート層は、
銅イオン交換ゼオライト、及び
アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上を含む、アルカリ含有ゼオライト
を含み、
下記の条件(A)及び(B)のいずれか一方を満足する、排ガス浄化触媒装置である:
(A)触媒コート層のうちの1つの触媒コート層に、銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライトの双方が含まれていること、並びに
(B)触媒コート層が、銅イオン交換ゼオライトを含む第1の触媒コート層、及びアルカリ含有ゼオライトを含む第2の触媒コート層を含み、これら第1の触媒コート層と第2の触媒コート層とが直接接するように積層されていること。
【0012】
本発明の排ガス浄化触媒装置では、条件(A)及び(B)のいずれか一方を満足すると、銅イオン交換ゼオライトとアルカリ含有ゼオライトとが、近接して配置されることになる。本発明の排ガス浄化触媒装置は、このような構成を有することにより、NOxの浄化効率と、NOの生成量の抑制とが両立されるのである。
【0013】
その理由につき、本発明者らは、以下のように推察している。
【0014】
銅イオン交換ゼオライトによるSCR反応において、NOxが浄化される機構は、以下の反応(1)及び(2)によると考えられている。
4NO+4NH+O→4N+6HO (1)
2NO+2NO+4NH→4N+6HO (2)
【0015】
しかしながら、このSCR反応中に、以下の副反応(3)及び(4)が起こり、NOが生成すると考えられる。
2NO+2NH→NHNO+N+HO (3)
NHNO→NO+2HO (4)
【0016】
上記の副反応(3)は、反応の中間段階でNO イオンを生成した後に、NHNOを生ずると考えられる。そして、アルカリ含有ゼオライトは、NO イオンの吸着能を有すると考えられる。そこで、銅イオン交換ゼオライトとアルカリ含有ゼオライトとを近接して配置して、銅イオン交換ゼオライトによる副反応(3)の中間体NO イオンを、アルカリ含有ゼオライトで捕捉させることにした。アルカリ含有ゼオライトに捕捉されたNO イオンは、アルカリ成分と硝酸塩を形成した後、排ガス中の還元成分との反応によって還元されて、Nとして放出されると考えられる。
【0017】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、このような機構によって、副反応(3)及び(4)の進行を抑制し、銅イオン交換ゼオライトによるSCR反応の優先的な進行を図ったものである。ただし、本発明は、特定の理論に拘束されない。
【0018】
なお、後述の実施例(比較例)に示したように、銅イオン交換ゼオライト自体にアルカリ成分を含有させると、NOの生成量は減ずるものの、SCR反応の活性が低下して、NOxの浄化能が損なわれる。
【0019】
また、銅イオン交換ゼオライトを含む第1の触媒コート層と、アルカリ含有ゼオライトを含む第2の触媒コート層とを、直接接するように積層させずに、例えば、基材の上流側と下流側とに分けて配置すると、NO生成量の抑制効果は少ない。これは、銅イオン交換ゼオライトとアルカリ含有ゼオライトとが近接配置の程度が不十分のため、アルカリ含有ゼオライトが、銅イオン交換ゼオライトの副反応(3)によって生じた中間体NO イオンを捕捉し難いことによると考えられる。
【0020】
以下、本発明の排ガス浄化触媒装置の要素について、順に説明する。
【0021】
〈基材〉
本発明の排ガス浄化触媒装置における基材は、隔壁によって区画された複数の排ガス流路を有するハニカム基材である。基材の隔壁は、隣接する排ガス流路間を流体的に連通する細孔を有していてよい。
【0022】
基材の構成材料は、例えば、コージェライト等の耐火性無機酸化物であってよい。基材は、ストレートフロー型であっても、ウォールフロー型であってもよい。
【0023】
本発明の排ガス浄化触媒装置における基材は、典型的には、例えば、コージェライト製のストレートフロー型又はウォールフロー型のモノリスハニカム基材であってよい。
【0024】
〈触媒コート層〉
本発明の排ガス浄化触媒装置は、上記のような基材上に、1又は2以上の触媒コート層を有する。
【0025】
この1又は2以上の触媒コート層は、
銅イオン交換ゼオライト、及び
アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上を含む、アルカリ含有ゼオライト
を含む。
【0026】
そして、本発明の排ガス浄化触媒装置は、後述の条件(A)及び(B)のいずれか一方を満足する。
【0027】
以下、銅イオン交換ゼオライト、及びアルカリ含有ゼオライトについて、順に説明した後、条件(A)及び(B)について説明する。
【0028】
〈銅イオン交換ゼオライト〉
本発明の排ガス浄化触媒装置における銅イオン交換ゼオライトとは、銅イオンでイオン交換されたゼオライトである。
【0029】
銅イオン交換ゼオライトのシリカアルミナ比(SAR)は、NOx浄化能、特に低温領域におけるNOx浄化能を高くする観点から、20.0以下、18.0以下、15.0以下、14.0以下、13.0以下、12.0以下、11.0以下、10.0以下、9.0以下、又は8.0以下であってよい。一方で、SARが低すぎると、ゼオライトの合成が困難となり、触媒コストの過度の上昇を招く場合がある。このような事態を回避するため、銅イオン交換ゼオライトのSARは、4.0以上、5.0以上、6.0以上、又は7.0以上であってよい。
【0030】
本明細書において、SARの値は、ゼオライト中のシリカ(SiO)のモル量と、アルミナ(Al)のモル量との比(SiO/Al)として示される。SARの値が比SiO/Alの値であることは、後述のアルカリ含有ゼオライトについても同様である。
【0031】
銅イオン交換ゼオライトのCu量は、本発明の排ガス浄化触媒装置のSCR活性を高くする観点から、ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.08mol以上、0.10mol/mol以上、0.15mol/mol以上、又は0.20mol/mol以上であってよい。
【0032】
銅イオン交換ゼオライトのCu量の上限については、SCR活性の観点らの制限はない。しかしながら、銅イオン交換ゼオライト中のCu量には製造上の限界があり、排ガス浄化触媒装置の製造コストを適正に維持する観点から、銅イオン交換ゼオライトにおけるCu量は、ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.80mol/mol以下、0.50mol/mol以下、0.45mol/mol以下、0.40mol/mol以下、0.35mol/mol以下、又は0.30mol/mol以下であってよい。
【0033】
銅イオン交換ゼオライトのCu量は、典型的には、ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.10mol以上0.50mol以下であってよい。
【0034】
銅イオン交換ゼオライトの結晶構造は任意である。本発明に適用可能な銅イオン交換ゼオライトの結晶構造を、それぞれの構造コード(カッコ内に記載)とともに示せば、例えば、A型(LTA)、フェリエライト(FER)、MCM-22(MWW)、ZSM-5(MFI)、モルデナイト(MOR)、L型(LTL)、X型又はY型(FAU)、ベータ型(BEA)、AEI型、AFX型、チャバサイト(CHA)等であってよい。
【0035】
銅イオン交換ゼオライトは、特に、チャバサイト(CHA)型のゼオライトがCuでイオン交換された、Cu-CHA型ゼオライトであってよい。
【0036】
本発明の排ガス浄化触媒装置における銅イオン交換ゼオライトは、粒子状であってよい。粒子状の銅イオン交換ゼオライトの粒径(二次粒径)は、例えば、0.5μm以上、1μm以上、3μm以上、又は5μm以上であってよく、40μm以下、20μm以下、又は10μm以下であってよい。この担体粒子の粒径は、担体粒子を適当な液状媒体(例えば水)中に分散した懸濁液について、動的光散乱法によって得られたメジアン径(D50)であってよい。
【0037】
銅イオン交換ゼオライトは、例えば、所望のSAR及び結晶形態を有する原料ゼオライトを、銅イオンでイオン交換することにより、製造されてよい。原料ゼオライトは、プロトンでイオン交換されたゼオライトであってもよい。
【0038】
銅イオン交換ゼオライトを製造するためのイオン交換は、原料ゼオライトと、銅イオン源とを、適当な溶媒中(例えば水中)で接触させることにより、行われてよい。または、原料ゼオライトと、銅イオン源とを、乳鉢中で混合させることにより行われてよい。銅イオン源は、例えば、酢酸銅、硫酸銅等の、溶媒可能な塩であってよい。
【0039】
〈アルカリ含有ゼオライト〉
本発明の排ガス浄化触媒装置におけるアルカリ含有ゼオライトは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上のアルカリ成分を含むゼオライトである。
【0040】
アルカリ含有ゼオライトのシリカアルミナ比(SAR)は、任意での値であってよく、例えば、30.0以下、25.0以下、20.0以下、18.0以下、又は15.0以下であってよい。一方で、SARが低すぎると、ゼオライトの合成が困難となり、触媒コストの過度の上昇を招く場合がある。このような事態を回避するため、銅イオン交換ゼオライトのSARは、4.0以上、6.0以上、8.0以上、10.0以上、又は12.0以上であってよい。
【0041】
アルカリ含有ゼオライトに含まれるアルカリ成分は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種又は2種以上である。アルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、NO イオンの吸着能が高いとの観点から、塩基性が高いこと、及びイオン半径が大きいことのうちの、少なくとも一方(好ましくは双方)を満たすことが望ましい。このような観点から、アルカリ金属は、例えば、カリウム、ルビジウム、セシウム等であってよく、アルカリ土類金属は、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等であってよい。
【0042】
これらのうち、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される1種又は2種以上であってよく、NO イオンの吸着能が高いとの観点から、特にバリウムであってよい。
【0043】
アルカリ含有ゼオライトにおけるアルカリ成分の量は、NO イオンの吸着能を効果的に発揮させる観点から、アルカリ含有ゼオライト中のAl原子1モルに対する、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計のモル量として、0.05mol以上、0.10mol以上、0.20mol以上、0.30mol以上、0.40mol以上、又は0.50mol以上であってよい。
【0044】
一方で、排ガス浄化触媒の製造コストを適正に維持するとの観点から、アルカリ含有ゼオライトにおけるアルカリ成分の量は、アルカリ含有ゼオライト中のAl原子1モルに対する、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計のモル量として、2.00mol以下、1.80mol以下、1.50mol以下、1.20mol以下、1.00mol以下、0.80mol/mol-Al以下、又は0.70mol下であってよい。
【0045】
アルカリ含有ゼオライトにおけるアルカリ成分の量は、典型的には、アルカリ含有ゼオライト中のAl原子1モルに対する、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計のモル量として、0.05mol以上、0.075mol以上、又は0.10mol以上であってよく、1.50mol以下又は1.25mol以下であってよい。
【0046】
アルカリ含有ゼオライト中のアルカリ成分は、NO の吸着能が高いとの観点から、イオンの状態でアルカリ含有ゼオライト中に含まれていてよい。
【0047】
アルカリ含有ゼオライトの結晶構造は任意である。本発明に適用可能なアルカリ含有ゼオライトの結晶構造を、それぞれの構造コード(カッコ内に記載)とともに示せば、例えば、A型(LTA)、フェリエライト(FER)、MCM-22(MWW)、ZSM-5(MFI)、モルデナイト(MOR)、L型(LTL)、X型又はY型(FAU)、ベータ型(BEA)、AEI型、AFX型、チャバサイト(CHA)等であってよい。
【0048】
アルカリ含有ゼオライトの結晶構造は、銅イオン交換ゼオライトの骨格構造と同じであってもよいし、異なっていてもよい。本発明のある態様では、銅イオン交換ゼオライトの骨格構造と、アルカリ含有ゼオライトの骨格構造とが同じである。
【0049】
アルカリ含有ゼオライトは、例えば、
所望のSAR及び結晶形態を有する原料ゼオライトと、アルカリ源とを混合して混合汚物を得ること、及び
得られた混合物を焼成すること
を含む、方法によって製造されてよい。
【0050】
アルカリ源は、例えば、所望のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等であってよい。これらのアルカリ源を使用すると、アルカリ成分をイオン状態で含むアルカリ含有ゼオライトが得られ、NO イオンの吸着能が高くなる点で、好ましい。一方、アルカリ源として炭酸塩を用いて得られたアルカリ含有ゼオライトでは、これに含まれるアルカリ成分は、イオン状態にはないと考えられる。
【0051】
〈条件(A)〉
本発明の排ガス浄化触媒装置における条件(A)は、基材上の1又は2以上の触媒コート層のうちの1つの触媒コート層に、銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライトの双方が含まれていること、である。
【0052】
本発明の排ガス浄化触媒装置が条件(A)を満たすと、銅イオン交換ゼオライトとアルカリ含有ゼオライトとが近接して配置されて、銅イオン交換ゼオライトによる副反応(3)の中間体NO イオンが、アルカリ含有ゼオライトによって効果的に捕捉される。
【0053】
銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライトの双方を含む触媒コート層を、以下、「特定触媒コート層」として参照する。
【0054】
特定触媒コート層における、銅イオン交換ゼオライトの量は、SCR性能を確保するとの観点から、基材容量1L当たりの銅イオン交換ゼオライトの質量として、50g/L以上、60g/L以上、70g/L以上、80g/L以上、90g/L以上、又は100g/L以上であってよい。
【0055】
一方で、過度の圧力損失を避けて、効率的に排ガス浄化を行うとの観点から、銅イオン交換ゼオライトの量は、基材容量1L当たりの銅イオン交換ゼオライトの質量として、200g/L以下、180g/L以下、160g/L以下、又は140g/L以下であってよい。
【0056】
特定触媒コート層における、アルカリ含有ゼオライトの量は、銅イオン交換ゼオライトによる副反応(3)の中間体NO イオンの吸着能を確保するとの観点から、銅イオン交換ゼオライト100質量部に対するアルカリ含有ゼオライトの質量として、20質量部以上、25質量部以上、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上であってよい。
【0057】
一方、銅イオン交換ゼオライトのSCR活性を十分に発揮させる観点から、銅イオン交換ゼオライト100質量部に対するアルカリ含有ゼオライトの量は、200質量部以下、150質量部以下、120質量部以下、100質量部以下、80質量部以下、60質量部以下、又は50質量部以下であってよい。
【0058】
特定触媒コート層は、銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライト以外の任意成分を含んでいてよい。この任意成分は、例えば、銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライト以外の無機酸化物、バインダー等であってよい。
【0059】
特定触媒コート層は、排ガス浄化触媒装置に通常用いられる触媒貴金属を、含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。触媒貴金属は、典型的には、白金、ロジウム、及びパラジウムから選択される1種又は2種以上である。
【0060】
本発明のある実施態様では、特定触媒コート層は、触媒貴金属を実質的に含まない。「特定触媒コート層が触媒貴金属を実質的に含まない」とは、特定触媒コート層の触媒貴金属量が、基材容量1L当たりの触媒貴金属の質量として、0.1g/L以下、0.05g/L以下、0.01g/L以下、0.005g/L以下、若しくは0.001g/L以下であるか、又は0g/Lであることを意味する。
【0061】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、特定触媒コート層を1層だけ有していてもよいし、2層以上の特定触媒コート層を有していてもよい。本発明のある実施態様では、排ガス浄化触媒装置は、特定触媒コート層を1層だけ有している。
【0062】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、特定触媒コート層以外の触媒コート層を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0063】
本発明の排ガス浄化触媒装置が、特定触媒コート層以外の触媒コート層を有している場合、この触媒コート層は、無機酸化物、触媒貴金属、バインダー等から選択される1種又は2種以上を含んでいてよい。
【0064】
本発明のある実施態様において、排ガス浄化触媒装置は、特定触媒コート層以外の触媒コート層を有していない。
【0065】
〈条件(B)〉
本発明の排ガス浄化触媒装置における条件(B)は、触媒コート層が、銅イオン交換ゼオライトを含む第1の触媒コート層、及びアルカリ含有ゼオライトを含む第2の触媒コート層を含み、これら第1の触媒コート層と第2の触媒コート層とが直接接するように積層されていること、である。
【0066】
本発明の排ガス浄化触媒装置が条件(B)を満たすことによっても、銅イオン交換ゼオライトとアルカリ含有ゼオライトとが近接して配置されて、銅イオン交換ゼオライトによる副反応(3)の中間体NO イオンが、アルカリ含有ゼオライトによって効果的に捕捉される。
【0067】
第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層は、これらが直接接するように積層されていれば、どちらが上(排ガス流路側)であっても下(基材側)であってもよい。
【0068】
第1の触媒コート層のコート量は、SCR性能を確保するとの観点から、基材容量1L当たりの銅イオン交換ゼオライトの質量が、50g/L以上、60g/L以上、70g/L以上、80g/L以上、90g/L以上、又は100g/L以上となるコート量であってよい。
【0069】
一方で、過度の圧力損失を避けて、効率的に排ガス浄化を行うとの観点から第1の触媒コート層のコート量は、基材容量1L当たりの銅イオン交換ゼオライトの質量が、200g/L以下、180g/L以下、160g/L以下、又は140g/L以下となるコート量であってよい。
【0070】
第2の触媒コート層のコート量は、銅イオン交換ゼオライトによる副反応(3)の中間体NO イオンの吸着能を確保するとの観点から、第1の触媒コート層中の銅イオン交換ゼオライト100質量部に対するアルカリ含有ゼオライトの質量が、20質量部以上、25質量部以上、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上となるコート量であってよい。
【0071】
一方、銅イオン交換ゼオライトのSCR活性を十分に発揮させる観点から、第2の触媒コート層のコート量は、第1の触媒コート層中の銅イオン交換ゼオライト100質量部に対するアルカリ含有ゼオライトの質量が、200質量部以下、150質量部以下、120質量部以下、100質量部以下、80質量部以下、60質量部以下、又は50質量部以下となるコート量であってよい。
【0072】
第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層は、それぞれ、銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライト以外の任意成分を含んでいてよい。この任意成分は、例えば、銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライト以外の無機酸化物、バインダー等であってよい。
【0073】
第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層は、それぞれ、排ガス浄化触媒装置に通常用いられる触媒貴金属を、含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。触媒貴金属は、典型的には、白金、ロジウム、及びパラジウムから選択される1種又は2種以上である。
【0074】
本発明のある実施態様では、第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層は、いずれも、触媒貴金属を実質的に含まない。「第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層が触媒貴金属を実質的に含まない」とは、第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層それぞれの触媒貴金属量が、基材容量1L当たりの触媒貴金属の質量として、0.1g/L以下、0.05g/L以下、0.01g/L以下、0.005g/L以下、若しくは0.001g/L以下であるか、又は0g/Lであることを意味する。
【0075】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層以外の触媒コート層を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0076】
本発明の排ガス浄化触媒装置が、第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層以外の触媒コート層を有している場合、この触媒コート層は、無機酸化物、触媒貴金属、バインダー等から選択される1種又は2種以上を含んでいてよい。
【0077】
本発明のある実施態様において、排ガス浄化触媒装置は、基材上に、第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層がこの順に積層されており、これら以外の触媒コート層を有していない。本発明の他の実施態様において、排ガス浄化触媒装置は、基材上に、第2の触媒コート層及び第1の触媒コート層がこの順に積層されており、これら以外の触媒コート層を有していない。
【0078】
《排ガス浄化触媒装置の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒装置は、任意の方法で製造されてよい。
【0079】
しかしながら、本発明の排ガス浄化触媒装置は、例えば、
基材上に、特定触媒コート層を形成することを含む方法、又は
基材上に、第1の触媒コート層及び第2の触媒コート層を所望の順で形成することを含む方法
によって製造されてよい。
【0080】
基材は、所望の排ガス浄化触媒装置における基材に応じて、適宜に選択されてよい。例えば、コージェライト製の、ストレートフロー型又はウォールフロー型のモノリスハニカム基材であってよい。
【0081】
基材上に、特定触媒コート層、又は第1の触媒コート層若しくは第2の触媒コート層を形成するには、所望の触媒コート層の原料成分を含む塗工液をコートしてコート層を形成し、得られたコート層を焼成する方法によってよい。このことによって、基材上に特定触媒コート層が形成される。コート後、焼成前に、必要に応じて、コート層の乾燥を行ってもよい。
【0082】
特定触媒コート層を形成するための塗工液は、銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライト、並びに必要に応じて任意成分又はその前駆体を含んでいてよい。第1の触媒コート層を形成するための塗工液は、銅イオン交換ゼオライト、及び必要に応じて任意成分又はその前駆体を含んでいてよい。第2の触媒コート層を形成するための塗工液は、アルカリ含有ゼオライト、及び必要に応じて任意成分又はその前駆体を含んでいてよい。
【0083】
上記の塗工液の溶媒は、いずれも、水、若しくは水性有機溶媒、又はこれらの混合物であってよく、典型的には水である。
【0084】
塗工液のコート、並びにコート後の乾燥及び焼成は、それぞれ、公知の方法に準じて行われてよい。
【0085】
《排ガス浄化方法》
本発明の排ガス浄化触媒装置は、アンモニア又はアンモニア源を用いる窒素酸化物の選択還元用の触媒装置として好適である。
【0086】
したがって、本発明は、別の観点において、
窒素酸化物を含む排ガスに、アンモニア又はアンモニア源を添加すること、及び
排ガスを、本発明の排ガス浄化触媒装置と接触させて、窒素酸化物を窒素に還元すること
を含む、排ガス浄化方法が提供される。
【0087】
アンモニア源としては、例えば、アンモニア水、尿素、アンモニア塩(例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等)等が挙げられる。また、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム等のアンモニア吸蔵材を用い、アンモニア源として、これに吸蔵されたアンモニアを用いることも、本発明の実施態様に包含される。
【実施例
【0088】
1.アルカリ含有ゼオライトの合成
(1)Ba-CHA型ゼオライトの合成
プロトンでイオン交換されている、シリカアルミナ比(SAR)15のCHA型ゼオライト(H-CHA)、及びバリウム源としての酢酸バリウムを、乳鉢中で30分間混合した。得られた混合物を、空気中、500℃にて3時間焼成して、バリウムでイオン交換されているCHA型ゼオライト(Ba-CHA)を得た。酢酸バリウムの使用量は、CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対するバリウム原子の量が、Ba-Al=0.5(mol/mol)となる量とした。
【0089】
(2)その他のアルカリ含有ゼオライトの合成
ゼオライトの種類、並びにアルカリ源の種類及び使用量(ゼオライト中のAl原子1モルに対する、アルカリ金属又はアルカリ土類金属原子(M)の量、M/Al比(mol/mol))を、それぞれ、表1のとおりに変更した他は、Ba-CHAの合成と同様にして、各種のアルカリ含有ゼオライトを合成した。
【0090】
【表1】
【0091】
表1における「原料ゼオライト」欄の略称は、それぞれ、以下の意味である。
H-CHA:プロトンでイオン交換されているCHA型ゼオライト、SAR15
H-MFI:プロトンでイオン交換されているMFI型ゼオライト、SAR20
H-BEA:プロトンでイオン交換されているBEA型ゼオライト、SAR20
Cu-CHA:銅イオンでイオン交換されているCHA型ゼオライト、Cu/Al=0.22mol/mol、SAR7.5
【0092】
2.排ガス浄化触媒装置の製造
《比較例1:Cu-CHA単層(基準)》
SAR7.5、Al原子当たりのCu量(Cu/Al)0.22mol/molのCu-CHA、シリコーン系バインダー、及び水を混合して、Cu-CHAコート層塗工用スラリーを得た。
【0093】
焼成後のコート量が120g/Lとなるように、見かけ容積約1Lのストレートフロー型のコージェライト製ハニカム基材に上記のCu-CHAコート層塗工用スラリーを塗工し、空気中、500℃において1時間焼成することにより、基材上に、単層構成のCu-CHAコート層を有する排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0094】
《実施例1:下層Cu-CHA、上層Ba-CHA》
比較例1と同様にして、Cu-CHAコート層塗工用スラリーを調製した。また、上記で得られたBa-CHA、シリコーン系バインダー、及び水を混合して、Ba-CHAコート層塗工用スラリーを得た。
【0095】
焼成後のコート量が120g/Lとなるように、見かけ容積約1Lのストレートフロー型のコージェライト製ハニカム基材にCu-CHAコート層塗工用スラリーを塗工し、空気中、500℃において1時間焼成して、基材上にCu-CHAコート層を形成した。続いて、焼成後のコート量が50g/Lとなるように、このCu-CHAコート層上に上記で得られたBa-CHAコート層塗工用スラリーを塗工して、空気中、500℃において1時間焼成することにより、基材上に、Cu-CHAコート層及びBa-CHAコート層を、この順に有する排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0096】
《実施例2:下層Ba-CHA、上層Cu-CHA》
Cu-CHAコート層及びBa-CHAコート層を、逆の順序で形成した他は、実施例1と同様にして、基材上に、Ba-CHAコート層及びCu-CHAコート層を、この順に有する排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0097】
《実施例3:Cu-CHA+Ba-CHA混合単層》
SAR7.5、Al原子当たりのCu量(Cu/Al)0.22mol/molのCu-CHA、上記で得られたBa-CHA、シリコーン系バインダー、及び水を混合して、Cu-CHA+Ba-CHA混合コート層塗工用スラリーを得た。ここで、Cu-CHAとBa-CHAとの質量割合は、Cu-CHA:Ba-CHA=7:3とした。
【0098】
焼成後のコート量が170g/Lとなるように、見かけ容積約1Lのストレートフロー型のコージェライト製ハニカム基材に上記で得られたCu-CHA+Ba-CHA混合コート層塗工用スラリーを塗工し、空気中、500℃において1時間焼成することにより、基材上に、Cu-CHA及びBa-CHAを含む単層のコート層を有する、排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0099】
《実施例4~8:Cu-CHA+各種アルカリ含有ゼオライト混合単層》
Ba-CHAに代えて、上記で得られたBa-MFI(実施例4)、Ba-BEA(実施例5)、Sr-CHA(実施例6)、Ca-CHA(実施例7)、又はCs-CHA(実施例8)を用いた他は、実施例3と同様にして、基材上に、Cu-CHA及び各種アルカリ含有ゼオライトを含む単層のコート層を有する、排ガス浄化触媒装置をそれぞれ製造した。
【0100】
《比較例2:Ba-Cu-CHA単層》
Cu-CHAの代わりに、上記で得られたBa-Cu-CHAを用いた他は、比較例1と同様にして、基材上に、Ba-Cu-CHAを含む単層のコート層を有する、排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0101】
《比較例3:上流側Ba-CHA、下流側Cu-CHA》
実施例1と同様にして、Ba-CHAコート層塗工用スラリーを調製した。また、比較例1と同様にして、Cu-CHAコート層塗工用スラリーを調製した。
【0102】
コート幅が基材の長さの50%、焼成後のコート量が170g/Lとなるように、見かけ容積約1Lのストレートフロー型のコージェライト製ハニカム基材の上流側端部から、Ba-CHAコート層塗工用スラリーを塗工し、空気中、500℃において1時間焼成して、基材の上流側にBa-CHAコート層を形成した。続いて、コート幅が基材の長さの50%、焼成後のコート量が170g/Lとなるように、Ba-CHAコート層を形成した基材の下流側端部から、Cu-CHAコート層塗工用スラリーを塗工し、空気中、500℃において1時間焼成することにより、基材の上流側にBa-CHAを含む単層のコート層、下流側にCu-CHAを含む単層のコート層を有する、排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0103】
《比較例4:上流側Cu-CHA、下流側Ba-CHA》
Cu-CHAコート層の形成位置を上流側とし、Ba-CHAコート層の形成位置を下流側とした他は、比較例3と同様にして、基材の上流側にCu-CHAを含む単層のコート層、下流側にBa-CHAを含む単層のコート層を有する、排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0104】
《比較例5:炭酸Ba-Cu-CHA単層》
Cu-CHAの代わりに、上記で得られた炭酸Ba-Cu-CHAを用いた他は、比較例1と同様にして、基材上に、炭酸Ba-Cu-CHAを含む単層のコート層を有する、排ガス浄化触媒装置を製造した。
した。
【0105】
《比較例6:Cu-CHA+NH-CHA混合単層》
Ba-CHAに代えて、SAR15のNH-CHAを用いた他は、実施例3と同様にして、基材上に、Cu-CHA及びNH-CHAを含む単層のコート層を有する、排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0106】
《比較例7~9:Ba-Cu-CHA単層》
Cu-CHAの代わりに、上記で得られたSr-Cu-CHA(比較例7)、Ca-Cu-CHA(比較例8)、又はCs-Cu-CHA(比較例9)を用いた他は、比較例1と同様にして、基材上に、Ba-Cu-CHAを含む単層のコート層を有する、排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0107】
3.排ガス浄化触媒装置の評価
上述の各実施例及び比較例で得られた排ガス浄化触媒装置に、水蒸気10質量%を含む空気を流通させながら、触媒層温度650℃にて、50時間の水熱耐久を行った。
【0108】
水熱耐久後の排ガス浄化触媒装置に、下記組成のモデルガスを、空間速度80,000h-1にて供給して、流通させながら、触媒層温度200℃におけるNOx浄化率、及び触媒層温度300℃におけるNO排出量を測定した。これらの量の評価は、組成が安定した後の排出ガスの組成に基づいて、以下の基準により行った。
O排出量:組成が安定した後の排出ガス中のNO濃度(ppm)
NOx浄化率(%):{1-(排出ガス中のNOx濃度(ppm)/供給ガス中のNOx濃度(ppm)}×100
【0109】
上記における濃度単位「ppm」は、モル基準の百万分率である。
【0110】
モデルガスの組成を、表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
評価結果を、表3に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
比較例2、5、及び7~9の排ガス浄化触媒装置は、銅イオン交換ゼオライト(Cu-CHA)にアルカリ成分が添加された、アルカリ含有銅イオン交換ゼオライトを含む、単層構成の触媒コート層を有する。これらの排ガス浄化触媒装置では、銅イオン交換ゼオライトを含む、単層構成のコート層を有する比較例1の排ガス浄化触媒装置と比較して、NO排出量は低減されたものの、NOx浄化率が損なわれた。
【0115】
一方、比較例3及び4の排ガス浄化触媒装置では、銅イオン交換ゼオライトを含むコート層と、アルカリ含有ゼオライトを含むコート層とが、上流側と下流側とにゾーンコート配置されている。また、比較例6の排ガス浄化触媒装置は、銅イオン交換ゼオライト及びNHでイオン交換されたゼオライト(NH-CHA)双方を含む、単層構成の触媒コート層を有する。これらの排ガス浄化触媒装置では、比較例1の排ガス浄化触媒装置と比較して、NOx浄化率及びNO排出量に有意差が見られなかった。
【0116】
これらに対して、実施例1及び2の排ガス浄化触媒装置では、銅イオン交換ゼオライトを含むコート層と、アルカリ含有ゼオライトを含むコート層とが、直接接するように積層して配置されている。また、実施例3~8の排ガス浄化触媒装置は、銅イオン交換ゼオライト及びアルカリ含有ゼオライト双方を含む、単層構成の触媒コート層を有する。
【0117】
これらの実施例の排ガス浄化触媒装置では、比較例1の排ガス浄化触媒装置と比較して、NOx浄化率が向上し、かつ、NO排出量が低減していた。特に、アルカリ成分としてバリウムを含む実施例1~5の排ガス浄化触媒装置において、NO排出量が効果的に抑制されていた。