(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】角膜におけるクロスリンキング分布及び/又は角膜の構造的特徴を決定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/107 20060101AFI20231024BHJP
A61B 3/13 20060101ALI20231024BHJP
A61F 9/01 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
A61B3/107
A61B3/13
A61F9/01
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022002714
(22)【出願日】2022-01-12
(62)【分割の表示】P 2019558336の分割
【原出願日】2018-01-11
【審査請求日】2022-02-04
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510017365
【氏名又は名称】アヴェドロ・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】AVEDRO,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アドラー,デスモンド・クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】スミルノフ,ミハイル・ゼット
(72)【発明者】
【氏名】フリードマン,マーク・ディー
(72)【発明者】
【氏名】アッシャー,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ライトル,グレース・エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】アイアネッタ,デイビッド・シー
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-166749(JP,A)
【文献】特開2011-002715(JP,A)
【文献】特表2014-519914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0338588(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜の測定システムであって、
角膜に適用された蛍光剤に蛍光発光を生じさせる励起光を発するように構成されている光源と;
前記光源から前記励起光を受け取るように配置され、そして、前記角膜の選択された深さにおける角膜組織の領域に前記励起光の焦点を合わせるように構成されている少なくとも1つの光学素子であって、前記角膜における前記蛍光剤が、前記励起光に応答して前記蛍光発光を生じさせる光学素子と;
開口部を含むピンホール構造であって、前記角膜における前記蛍光剤からの前記蛍光発光を受け取るように配置され、前記開口部が、前記選択された深さにおける前記角膜組織の領域からの前記蛍光発光を選択的に透過するように構成されているピンホール構造と;
前記開口部によって透過された選択された蛍光発光を捕捉するように配置された検出器であって、前記検出器によって捕捉された前記選択された蛍光発光の測定値に関する情報を伝達するように構成されている検出器と;
前記検出器に通信可能に接続されており、かつ、前記検出器から前記情報を受信し、そして、前記情報に基づいて、前記選択された深さにおける前記角膜組織の領域における前記蛍光剤の測定値を決定するように構成されているコントローラと
複数の深さにおいて前記少なくとも1つの光学素子に前記角膜をスキャンさせ、そして、各深さにおける角膜組織のそれぞれの領域に前記励起光の焦点を合わせるように構成されているスキャン機構を含み、
各深さごとに、
(i)前記ピンホール構造の前記開口部が、前記角膜組織のそれぞれの領域からの前記蛍光発光を選択的に透過するように構成されており、そして、
(ii)前記検出器が、前記開口部によって透過された前記選択された蛍光発光を捕捉し、そして、前記検出器によって捕捉された前記選択された蛍光発光の測定値に関する情報を伝達するように構成されており、
前記コントローラが、各深さごとに前記検出器から前記情報を受信し、そして、前記複数の深さについての前記情報に基づいて、深さの関数として前記角膜における前記蛍光剤の測定値を決定するように構成され、
前記コントローラが、更に、前記複数の深さにわたる前記角膜における前記蛍光剤の前記測定値の変化を評価することによって前記角膜の不完全なスキャンを検出するように構成されており、前記変化が、前記角膜の構造的特徴に対応する、
測定システム。
【請求項2】
前記蛍光剤の前記測定値が、角膜組織の深さに対応する軸及び/又は前記軸に対して横断方向の平面に沿って10μm超の分解能に従って決定される、請求項1記載の測定システム。
【請求項3】
前記スキャン機構が、前記複数の深さにおいて前記少なくとも1つの光学素子に前記角膜を1回超スキャンさせるように構成されており、そして、前記コントローラが、更に、前記1回超のスキャンからの情報に基づいて、深さの関数として前記角膜における前記蛍光剤の量を決定するように構成されている、請求項1記載の測定システム。
【請求項4】
前記複数の深さが、前記角膜の前記前面から前記角膜中に少なくとも約200μmまで及び、そして、前記複数の深さにおける隣接する深さが、約10μm~約100μm離れている、請求項1記載の測定システム。
【請求項5】
複数の深さにおいて前記少なくとも1つの光学素子に前記角膜をスキャンさせ、そして、各深さにおける角膜組織のそれぞれの領域に前記入射光の焦点を合わせるように構成されているスキャン機構であって、前記複数の深さが、前記角膜の前面から前記角膜の後面まで及ぶスキャン機構と;
を含み、
前記光源が入射光を発するように構成され
、
前記少なくとも1つの光学素子が、前記光源から前記入射光を受け取るように配置され、そして、前記角膜の選択された深さにおける角膜組織の領域に前記入射光の焦点を合わせるように構成され
、前記角膜組織の領域が前記入射光を反射
し、
前記ピンホール構造
が、各深さごとに、前記角膜組織のそれぞれの領域からの反射光を受け取るように配置され、前記ピンホール構造の前記開口部が、各深さごとに、前記角膜組織のそれぞれの領域からの前記反射光を選択的に透過するように構成され
、
前記検出器が、各深さごとに前記開口部によって透過された選択された反射光を捕捉するように配置され
、各深さごとに、前記検出器によって捕捉された前記選択された反射光の測定値に関する情報を伝達するように構成され
、
コントローラが、各深さごとに前記検出器から前記情報を受信し、そして、前記複数の深さについての前記情報に基づいて、前記後面の位置、前記前面と前記後面との間の距離、又は角膜のセクション間の界面の位置のうちの少なくとも1つを決定するように構成されている
、請求項1記載の測定システム。
【請求項6】
前記選択された反射光の前記測定値が、角膜組織の深さに対応する軸及び/又は前記軸に対して横断方向の平面に沿って10μm超の分解能に従って決定される、請求項5記載の測定システム。
【請求項7】
前記後面の位置、前記前面と前記後面との間の距離、又は前記角膜のセクション間の界面の位置のうちの少なくとも1つを決定するために、前記コントローラが、前記複数の深さにわたる前記反射光の前記測定値の変化を評価し、前記変化が、前記角膜の構造的特徴に対応する、請求項5記載の測定システム。
【請求項8】
前記コントローラが、更に、前記複数の深さにわたる前記角膜における前記反射光の前記測定値の変化を評価することによって前記角膜の不完全なスキャンを検出するように構成されており、前記変化が、前記角膜の構造的特徴に対応する、請求項5記載の測定システム。
【請求項9】
前記スキャン機構が、複数の深さにおいて前記測定システムに前記角膜を1回超スキャンさせるように構成されており、そして、前記コントローラが、更に、前記1回超のスキャンからの情報に基づいて、前記後面の位置、前記前面と前記後面との間の距離、又は前記角膜のセクション間の界面の位置のうちの少なくとも1つを決定するように構成されている、請求項5記載の測定システム。
【請求項10】
前記スキャン機構が、更に、各深さに沿って複数の横断方向位置において前記少なくとも1つの光学素子に前記角膜をスキャンさせ、そして、各深さにおける各横断方向位置における角膜組織のそれぞれの領域に前記入射光の焦点を合わせるように構成されており、
各深さに沿った各横断方向位置ごとに、
(i)前記ピンホール構造の前記開口部が、前記角膜組織のそれぞれの領域からの前記反射光を選択的に透過するように構成されており、そして、
(ii)前記検出器が、前記開口部によって透過された前記選択された反射光を捕捉するように構成されており、そして、前記検出器によって捕捉された前記選択された反射光の測定値に関する情報を伝達するように構成されており、そして、
前記コントローラが、各横断方向位置ごとに前記検出器から前記情報を受信し、そして、前記複数の深さにおける複数の横断方向位置についての前記情報に基づいて、前記後面の位置、前記前面と前記後面との間の距離、又は前記角層下界面の位置のうちの少なくとも1つを決定するように構成されている、請求項5記載の測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年1月11日に出願された米国仮特許出願第62/444,910号及び2017年10月17日に出願された米国仮特許出願第62/573,440号の利益及びこれらに対する優先権を有し、これら出願の内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
分野
本開示は、眼の処置又は手術のためのシステム及び方法、そして、より具体的には、角膜におけるクロスリンキング剤の分布を決定する及び/又は角膜の構造的特徴、例えば、角膜の厚みを決定するためのシステム及び方法に関する。
【0003】
関連技術の説明
クロスリンキング処置は、円錐角膜等の障害に罹患している眼を処置するために使用することができる。具体的には、円錐角膜は、角膜内の構造的変化によって角膜が弱くなり、そして、異常な円錐形状に変化する眼の変性障害である。クロスリンキング処置は、円錐角膜によって弱くなった領域を強化及び安定化し、そして、望ましくない形状変化を防ぐことができる。
【0004】
また、クロスリンキング処置は、レーザー角膜切削形成(LASIK)術等の外科手術後にも使用することができる。例えば、LASIK手術によって引き起こされる角膜の薄化及び弱化に起因してLASIK後の角膜拡張症として知られている合併症が生じ得る。LASIK後の角膜拡張症では、角膜が進行性の急峻化(膨隆)を経験する。したがって、クロスリンキング処置は、LASIK手術後の角膜の構造を強化及び安定化し、そして、LASIK後の角膜拡張症を予防することができる。
【0005】
また、クロスリンキング処置は、近視、遠視、近視、遠視、乱視、不正乱視、老視等の障害を矯正するために角膜における屈折率の変化を誘導するために使用することもできる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本開示の態様によれば、システム及び方法は、角膜におけるクロスリンキング剤の分布を決定するために照射及びイメージングの技術を使用する。更に又はあるいは、システム及び方法は、角膜の構造的特徴、例えば、角膜の厚みを決定するために照射及びイメージングの技術を使用する。
【0007】
一実施態様によれば、角膜の測定システムは、角膜に適用される蛍光剤、例えば、クロスリンキング剤に蛍光発光を生じさせる励起光を発するように構成されている光源を含む。該システムは、光源から励起光を受け取るように配置され、そして、角膜の選択された深さにおける角膜組織の領域に励起光の焦点を合わせるように構成されている光学素子を含む。角膜における蛍光剤は、励起光に応答して蛍光発光を生じさせる。該システムは、開口部を含むピンホール構造を含む。該ピンホール構造は、角膜における蛍光剤からの蛍光発光を受け取るように配置される。開口部は、選択された深さにおける角膜組織の領域からの蛍光発光を選択的に透過するように構成されている。該システムは、開口部によって透過された選択された蛍光発光を捕捉するように配置された検出器であって、該検出器によって捕捉された選択された蛍光発光の測定値に関する情報を伝達するように配置された検出器を含む。該システムは、検出器に通信可能に接続されており、かつ、検出器から情報を受信し、そして、該情報に基づいて、選択された深さにおける角膜組織の領域における蛍光剤の測定値を決定するように構成されているコントローラを含む。
【0008】
場合によっては、測定システムは、複数の深さにおいて光学素子に角膜をスキャンさせ、そして、各深さにおける角膜組織のそれぞれの領域に励起光の焦点を合わせるように構成されているスキャン機構を含み得る。各深さごとに、(i)ピンホール構造の開口部は、角膜組織のそれぞれの領域からの蛍光発光を選択的に透過するように構成されており、そして、(ii)検出器は、開口部によって透過された選択された蛍光発光を捕捉するように構成されており、そして、検出器によって捕捉された選択された蛍光発光の測定値に関する情報を伝達するように構成されている。コントローラは、各深さごとに検出器から情報を受信し、そして、複数の深さについての情報に基づいて、深さの関数として角膜における蛍光剤の測定値を決定するように構成されている。複数の深さは、角膜の前面から角膜の後面まで及び得、そして、コントローラは、更に、複数の深さについての情報に基づいて、後面の位置、前面と後面との間の距離、又は角膜のセクション間の界面の位置のうちの少なくとも1つを決定するように構成され得る。
【0009】
別の実施態様によれば、角膜の測定システムは、入射光を発するように構成されている光源を含む。該システムは、光源から入射光を受け取るように配置され、そして、角膜の選択された深さにおける角膜組織の領域に入射光の焦点を合わせるように構成されている光学素子を含む。角膜組織の領域は、入射光を反射する。該システムは、複数の深さにおいて光学素子に角膜をスキャンさせ、そして、各深さにおける角膜組織のそれぞれの領域に励起光の焦点を合わせるように構成されているスキャン機構を含む。複数の深さは、角膜の前面から角膜の後面まで及ぶ。該システムは、開口部を含むピンホール構造を含む。ピンホール構造は、各深さごとに、角膜組織のそれぞれの領域からの反射光を受け取るように配置される。開口部は、各深さごとに、角膜組織のそれぞれの領域からの反射光を選択的に透過するように構成されている。該システムは、各深さごとに開口部によって透過された選択された反射光を捕捉するように配置された検出器であって、各深さごとに、該検出器によって捕捉された選択された反射光の測定値に関する情報を伝達するように構成されている検出器を含む。該システムは、検出器に通信可能に接続されており、かつ、各深さごとに検出器から情報を受信し、そして、複数の深さについての情報に基づいて、後面の位置、前面と後面との間の距離、又は角層下界面の位置のうちの少なくとも1つを決定するように構成されているコントローラを含む。
【0010】
更に別の実施態様によれば、角膜の測定システムは、角膜に適用された蛍光剤に蛍光発光を生じさせる励起光を発するように構成されている光源を含む。該システムは、光源からの励起光を受け取るように配置され、そして、該励起光を送達するように構成されている少なくとも1つの光学素子を含む。励起光は、角膜の複数の深さを貫通する。角膜における蛍光剤は、励起光に応答して蛍光発光を生じさせる。該システムは、角膜からの蛍光発光の画像を捕捉するように配置された検出器を含む。該システムは、検出器に通信可能に接続されており、かつ、検出器から画像を受信し、該画像をスキャンして複数の深さにおける蛍光発光を測定し、そして、該複数の深さにおける蛍光発光の測定値に基づいて、深さの関数として角膜における蛍光剤の測定値を決定するように構成されているコントローラを含む。励起光は、更に、角膜の複数の深さを貫通するにつれて少なくとも1つの横方向に広がり得、そして、コントローラは、更に、画像をスキャンして複数の深さにおいて少なくとも1つの横方向に沿って蛍光発光を測定し、そして、複数の深さにおける少なくとも1つの横断方向に沿った蛍光発光の測定値に基づいて、深さ及び横方向位置の関数として角膜における蛍光剤の測定値を決定するように構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の態様に係る、角膜コラーゲンのクロスリンキングを生じさせるために、眼の角膜にクロスリンキング剤及び光活性化光を送達するシステムの例を示す。
【
図2A】
図2Aは、本開示の態様に係る、角膜クロスリンキング処置中に適用されたリボフラビン及び光活性化光(例えば、紫外線A(UVA)光)の関与する光化学動力学的反応の図を示す。
【
図2B】
図2Bは、
図2Aに示した光化学動力学的反応に影響を与え得るパラメータの図を示す。
【
図3】
図3は、本開示の態様に係る、眼における光増感剤、例えば、リボフラビンの分布に関連する蛍光を測定するためのシステムの例を示す。
【
図4】
図4は、本開示の態様に係る、眼における光増感剤、例えば、リボフラビンの分布に関連する蛍光を測定するためのシステムの別の例を示す。
【
図5】
図5は、本開示の態様に係る、眼における光増感剤、例えば、リボフラビンの分布に関連する蛍光を測定するためのシステムの更に別の例を示す。
【
図6】
図6は、本開示の態様に係る、眼における光増感剤、例えば、リボフラビンの分布に関連する蛍光を測定するためのシステムの更なる例を示す。
【
図7】
図7は、本開示の態様に係る、眼における光増感剤、例えば、リボフラビンの分布に関連する蛍光を測定するためのシステムのなお更なる例を示す。
【
図8】
図8は、本開示の態様に係る、眼における光増感剤、例えば、リボフラビンの分布に関連する蛍光を測定するためのシステムの追加の例を示す。
【
図9】
図9は、本開示の態様に係る、角膜の厚みを測定するためのアプローチの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、様々な改変及び代替形態を受け入れる余地があるが、その具体的な実施態様は、図面中に例として示されており、そして、本明細書に詳細に記載されよう。しかし、それは開示されている特定の形態に本開示を限定することを意図するものではなく、それどころか、本開示の趣旨の範囲内の全ての改変、等価物、及び代替物を網羅することを意図すると理解すべきである。
【0013】
説明
図1は、眼1の角膜2においてコラーゲンのクロスリンキングを生じさせるための処置システム100の例を示す。処置システム100は、角膜2にクロスリンキング剤130を適用するためのアプリケータ132を含む。実施態様の例では、アプリケータ132は、角膜2に液滴として光増感剤130を適用する点眼器、シリンジ等であってよい。クロスリンキング剤を適用するためのシステム及び方法の例は、2017年4月13日に出願され、そして、「Systems and Methods for Delivering Drugs to an Eye」と題された米国特許出願第15/486,778号に記載されており、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0014】
クロスリンキング剤130は、クロスリンキング剤130に角膜上皮2aを通って角膜実質2bにおける下層領域に移動させる製剤で提供され得る。あるいは、角膜上皮2aを除去するか又は別の方法で切開して、クロスリンキング剤130を下層組織により直接的に適用してもよい。
【0015】
処置システム100は、光源110と角膜2に光を導くための光学素子112とを備える照射システムを含む。光によってクロスリンキング剤130が光活性化されて、角膜2においてクロスリンキング活性が生じる。例えば、クロスリンキング剤はリボフラビンを含んでいてよく、そして、光活性化光は紫外線A(UVA)(例えば、約365nm)光を含んでいてよい。あるいは、光活性化光は、可視波長(例えば、約452nm)等の別の波長を含んでいてもよい。以下に更に記載する通り、角膜のクロスリンキングは、光化学動力学的反応の系に従って角膜組織内で化学結合を生成することによって角膜の強度を改善する。例えば、角膜組織を安定化及び/又は強化して円錐角膜又はLASIK後の角膜拡張症等の疾患に対処するために、リボフラビン及び光活性化光を適用してよい。
【0016】
処置システム100は、光源110及び/又は光学素子112を含む、システム100の態様を制御する1つ以上のコントローラ120を含む。実施においては、(例えば、点眼器、シリンジ等を用いて)角膜2をクロスリンキング剤130でより広く処置することができ、そして、特定のパターンに従って、光源110からの光活性化光を処置された角膜2の領域に選択的に導くことができる。
【0017】
光学素子112は、光源110によって発せられた光活性化光を角膜2上における特定のパターンに導き、そして、焦点を合わせるための1つ以上の鏡又はレンズを含んでいてよい。光学素子112は、光源110によって発せられた光の波長を部分的に遮断するための、そして、クロスリンキング剤130を光活性化するために角膜2に導くべき特定の波長の光を選択するためのフィルタを更に含んでいてよい。更に、光学素子112は、光源110によって発せられた光のビームを分割するための1つ以上のビームスプリッタを含んでいてよく、そして、光源110によって発せられた光を吸収するための1つ以上のヒートシンクを含んでいてよい。また、光学素子112は、例えば、クロスリンキング活性が望ましい下層領域2bにおける特定の深さにおいて、角膜2内の特定の焦点面に光活性化光の焦点を正確かつ精密に合わせることができる。
【0018】
更に、光活性化光の具体的なレジームは、角膜2の選択された領域において所望のクロスリンキング度を達成するために調節することができる。波長、帯域幅、強度、力、位置、浸透の深さ、及び/又は処置の期間(曝露サイクルの期間、暗サイクルの期間、及び曝露サイクルの期間の暗サイクルの期間に対する比)の任意の組み合わせに従って光活性化光を精密に送達するために、1つ以上のコントローラ120を使用して、光源110及び/又は光学素子112の動作を制御することができる。
【0019】
例えば、クロスリンキング剤130の光活性化のパラメータを調整して、所望のクロスリンキングを達成するのに必要な時間の量を低減することができる。実施の例では、該時間を数分間から数秒間に低減することができる。照射量5mW/cm2の光活性化光をいくつかの構成で適用することができるが、より大きな照射量の光活性化光、例えば、複数の5mW/cm2を適用して、所望のクロスリンキングを達成するのに必要な時間を低減することができる。角膜2に吸収されるエネルギーの総線量は、有効線量として記載することができ、これは、角膜上皮2aの領域を通じて吸収されるエネルギーの量である。例えば、角膜表面2Aの領域についての有効線量は、例えば、5J/cm2、又は20J/cm2若しくは30J/cm2であってよい。記載される有効線量は、エネルギーの単回印加から又はエネルギーの繰り返し印加から送達され得る。
【0020】
処置システム100の光学素子112は、光活性化光の適用を空間的及び時間的に調節するためにデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を含んでいてよい。DMD技術を用いて、半導体チップ上にマトリクス状に配置された顕微鏡的に小さな鏡によって作成される精密な空間パターンで、光源110からの光活性化光を投射する。各鏡は、投射光のパターンにおける1つ以上の画素を表す。DMDを用いると、トポグラフィーガイド下でクロスリンキングを実施することができる。トポグラフィーに従うDMDの制御には、幾つかの異なる空間的及び時間的な照射量及び線量のプロファイルを使用することができる。これらの空間的及び時間的な線量プロファイルは、連続波照射を用いて作成することができるが、変動する周波数及びデューティサイクルのレジーム下で照射源をパルス化することによりパルス状照射を介して調節することもできる。あるいは、DMDは、連続波照射を用いて最終的な柔軟性を与えるために、画素ごとに異なる周波数及びデューティサイクルを調節することもできる。あるいは、パルス状照射、並びに調節されたDMDの周波数及びデューティサイクルの組み合わせの両方を組み合わせてもよい。これによって、特定の量の空間的に定められた角膜のクロスリンキングが可能になる。この空間的に定められたクロスリンキングは、処置前計画並びに/又は処置中の角膜のクロスリンキングのリアルタイムモニタリング及び調節のために、線量測定法、干渉法、光干渉断層撮影(OCT)、角膜トポグラフィー等と組み合わせてよい。線量測定システムの態様については、以下に更に詳細に記載される。更に、患者特異的な処置前計画を作成するために、前臨床患者情報を有限要素生体力学コンピュータモデリングと組み合わせてよい。
【0021】
光活性化光の送達の態様を制御するために、実施態様はまた、多光子励起顕微鏡の態様を使用してもよい。具体的には、特定の波長の単一光子を角膜2に送達するのではなく、処置システム100は、組み合わさってクロスリンキングを開始させるより長い波長、すなわち、より低エネルギーの多光子を送達してよい。有利なことに、より長い波長はより短い波長ほど角膜2内で散乱しないので、より長い波長の光は、より短い波長の光よりも効率的に角膜2に浸透することができる。角膜内のより深い深さにおける入射照射の遮蔽効果も従来の短波長照射よりも低減されるが、その理由は、より長い波長においては光増感剤による光の吸収がはるかに少ないためである。これによって、深さ特異的クロスリンキングにわたって制御を強化することが可能になる。例えば、幾つかの実施態様では、二光子を使用してよく、この場合、以下に更に記載される光化学動力学的反応を生じさせるために、クロスリンキング剤130における分子を励起するのに必要なエネルギーの約半分を各光子が有する。クロスリンキング剤分子が両光子を同時に吸収したとき、該分子は、角膜組織において反応性ラジカルを放出するのに十分なエネルギーを吸収する。実施態様はまた、反応性ラジカルを放出するためにクロスリンキング剤分子が例えば3、4、又は5個の光子を同時に吸収しなければならないように、より低エネルギーの光子を利用してもよい。多光子をほぼ同時に吸収する可能性は低いので、高フラックスの励起光子が必要になり得、そして、高フラックスは、フェムト秒レーザーを通して伝送され得る。
【0022】
多数の条件及びパラメータが、角膜コラーゲンとクロスリンキング剤130とのクロスリンキングに影響を与える。例えば、光活性化光の照射量及び線量は、クロスリンキングの量及び速度に影響を与える。
【0023】
特にクロスリンキング剤130がリボフラビンであるとき、UVA光を連続的に(連続波(CW))又はパルス光として適用してよく、そして、この選択は、クロスリンキングの量、速度、及び程度に対して影響を有する。UVA光がパルス光として適用される場合、曝露サイクルの期間、暗サイクルの期間、及び曝露サイクルの期間の暗サイクルの期間に対する比は、生じる角膜硬化に対して影響を有する。パルス光照射を使用して、同じ量又は線量の送達エネルギーについて連続波照射で達成し得るよりも多い又は少ない角膜組織の硬化を生じさせることができる。好適な長さ及び周波数の光パルスを使用して、より最適な化学増幅を達成することができる。パルス光処置については、on/offデューティサイクルは約1000/1~約1/1000であってよく、照射量は平均照射量が約1mW/cm2~約1000mW/cm2であってよく、そして、パルス繰り返し数は、約0.01HZ~約1000Hz又は約1000Hz~約100,000Hzであってよい。
【0024】
処置システム100は、DMDを使用し、光源110を電子的にon及びoffにすることによって、並びに/又は機械的若しくは光電子的(例えば、ポッケルスセル)シャッタ若しくは機械的チョッパ若しくは回転開口部を使用することによって、パルス光を発生させることができる。DMDの画素特異的調節能、並びに調節された周波数、デューティサイクル、照射量、及び角膜に送達される線量に基づくその後の剛性付与により、複雑な生体力学的剛性パターンを角膜に付与して、様々な量の屈折矯正を可能にする。これらの屈折矯正は、例えば、円錐角膜、ペルーシド辺縁疾患、LASIK後の角膜拡張症、及び角膜の生体力学的変化/変性の他の状態等の眼疾患が原因である近視、遠視、乱視、不正乱視、老視、及び複雑な角膜屈折面の矯正の組み合わせを含み得る。DMDのシステム及び方法の具体的な利点は、2Hz~84Hzのパルス周波数について光感受性てんかん発作又はフリッカー眩暈を惹起する可能性を排除する、非周期かつ均一に見える照射を作り出すランダム化非同期型パルストポグラフィーパターニングを可能にする点である。
【0025】
実施態様の例は、段階的on/offパルス光関数を使用してよいが、角膜に光を適用するための他の関数を使用して同様の効果を達成することができることが理解される。例えば、正弦関数、鋸歯関数、又は他の複合関数若しくは曲線、あるいは関数又は曲線の任意の組み合わせに従って、光を角膜に適用してよい。実際、関数は、on/off値の間により緩やかな移行が存在し得る実質的に段階的なものであってよいことが理解される。更に、照射量は、offサイクル中に必ずしもゼロの値まで減少せず、そして、offサイクル中にゼロ超であってよいことが理解される。2つ以上の値の間で照射量が変動する曲線に従って角膜に光を適用することによって、所望の効果を達成することができる。
【0026】
光活性化光を送達するためのシステム及び方法の例は、例えば、2011年3月18日に出願され、そして、「Systems and Methods for Applying and Monitoring Eye Therapy」と題された米国特許出願公開第2011/0237999号、2012年4月3日に出願され、そして、「Systems and Methods for Applying and Monitoring Eye Therapy」と題された米国特許出願公開第2012/0215155号、及び2013年3月15日に出願され、そして、「Systems and Methods for Corneal Cross-Linking with Pulsed Light」と題された米国特許出願公開第2013/0245536号に記載されており、これら出願の内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0027】
酸素の添加も角膜硬化の量に影響を与える。ヒトの組織では、雰囲気と比較してO
2含量が非常に低い。しかし、角膜におけるクロスリンキングの速度は、光活性化光が照射されたときのO
2の濃度に関連する。したがって、所望の量のクロスリンキングが達成されるまでクロスリンキングの速度を制御するために、照射中にO
2の濃度を能動的に上昇又は低下させることが有利であり得る。酸素は、多数の異なる方法でクロスリンキング処置中に適用することができる。1つのアプローチは、O
2でリボフラビンを過飽和させることを含む。したがって、リボフラビンを眼に適用したとき、より高濃度のO
2がリボフラビンと共に角膜内に直接送達され、そして、リボフラビンが光活性化光に曝露されたときにO
2の関与する反応に影響を与える。別のアプローチによれば、角膜の表面で(選択された濃度における)O
2の定常状態を維持して、選択された量のO
2に角膜を曝露し、そして、O
2を角膜に入れることができる。
図1に示す通り、例えば、処置システム100は、酸素源140、及び場合により選択された濃度の酸素を角膜2に送達する酸素送達装置142も含む。クロスリンキング処置中に酸素を適用するためのシステム及び方法の例は、例えば、2010年10月21日に出願され、そして、「Eye Therapy」と題された米国特許第8,574,277号、2012年10月31日に出願され、そして、「Systems and Methods for Corneal Cross-Linking with Pulsed Light」と題された米国特許出願公開第2013/0060187号に記載されており、これら出願の内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。更に、眼の処置において酸素の濃度及び光活性化光を送達するためのマスク装置の例は、2016年12月3日に出願され、そして、「Systems and Methods for Treating an Eye with a Mask Device」と題された米国仮特許出願公開第2017/0156926号に記載されており、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。例えば、表面上に一貫した既知の酸素濃度を生じさせるために、眼の上にマスクを配置してよい。
【0028】
リボフラビンが放射エネルギー、特に光を吸収したとき、光活性化を経験する。リボフラビンを光活性化するための2つの光化学動力学的経路、I型及びII型が存在する。I型及びII型の機構の両方に関与する反応の幾つかは以下の通りである:
【数1】
【0029】
本明細書に記載する反応では、Rfは、基底状態のリボフラビンを表す。Rf*
1は、励起一重項状態のリボフラビンを表す。Rf*
3は、三重項励起状態のリボフラビンを表す。Rf・-は、リボフラビンの還元ラジカルアニオン形態である。RfH・は、リボフラビンのラジカル形態である。RfH2は、リボフラビンの還元形態である。DHは、基質である。DH・+は、中間体ラジカルカチオンである。D・は、ラジカルである。Doxは、基質の酸化形態である。
【0030】
リボフラビンは、反応(r1)~(r3)に示す通り、その三重項励起状態Rf*
3に励起される。三重項励起状態Rf*
3から、リボフラビンは、一般的にI型又はII型の機構に従って更に反応する。I型機構では、基質が励起状態のリボフラビンと反応して、水素原子又は電子の移動によって、それぞれラジカル又はラジカルイオンを生成する。II型機構では、励起状態のリボフラビンが酸素と反応して一重項分子酸素を形成する。次いで、一重項分子酸素は組織において作用して、更なるクロスリンキングした結合を生成する。
【0031】
角膜における酸素濃度は、UVA照射量及び温度によって調節され、そして、UVA曝露の開始時に急速に低下する。特定のデューティサイクル、周波数、及び照射量のパルス光を利用して、より多量の光化学効率を達成するために、I型及びII型の光化学動力学的機構の両方からのインプットを使用することができる。更に、パルス光を利用することによって、リボフラビンが関与する反応の速度を制御することが可能になる。反応の速度は、照射量、線量、on/offデューティサイクル、リボフラビン濃度、浸漬時間、及びその他等のパラメータのうちの1つを制御することによって、必要に応じて上昇又は低下させることができる。更に、反応及びクロスリンキングの速度に影響を与える追加成分を角膜に添加してよい。
【0032】
酸素の枯渇直後にUVA放射を停止した場合、酸素濃度は上昇し始める(補給)。角膜のクロスリンキングプロセスにおいて過剰の酸素は有害であり得るが、その理由は、ラジカル種と相互作用して連鎖停止ペルオキシド分子を形成することによって、酸素がフリーラジカル光重合反応を阻害することができるためである。より最適な酸素再生速度を達成するために、パルス繰り返し数、照射量、線量、及び他のパラメータを調整することができる。酸素再生速度の計算及び調整は、所望の量の角膜硬化を達成するための反応パラメータの調整の別の例である。
【0033】
酸素拡散が反応の速度についていくことができる非常に薄い角膜層を除いて、様々な化学反応によって、角膜全体にわたって酸素含量が枯渇し得る。この拡散が制御されたゾーンは、基質の酸素を取り込む反応能が低下するにつれて、角膜のより深くに徐々に移動するであろう。
【0034】
リボフラビンは、照射量が増加するにつれてより多く、可逆的若しくは不可逆的に還元(不活化)及び/又は光分解される。光子の最適化は、I型反応において還元リボフラビンを基底状態リボフラビンに戻すことによって達成され得る。I型反応において還元リボフラビンが基底状態に戻る速度は、多数の要因によって決定される。これら要因は、パルス光処置のon/offデューティサイクル、パルス繰り返し数周波数、照射量、及び線量を含むが、これらに限定されない。更に、リボフラビン濃度、浸漬時間、及び酸化剤を含む他の薬剤の添加は、酸素取り込み速度に影響を与える。デューティサイクル、パルス繰り返し数周波数、照射量、及び線量を含むこれら及び他のパラメータは、より最適な光子効率を達成し、そして、リボフラビンの光増感のためのI型及びII型の光化学動力学的機構の両方を効率的に使用するように選択することができる。更に、これらのパラメータは、より最適な化学増幅効果を達成するように選択することができる。
【0035】
しかし、上記光化学動力学的反応(r1)~(r8)に加えて、本発明者らは、同様にリボフラビンの光活性化中に生じる以下の光化学動力学的反応(r9)~(r26)を同定した:
【数2】
【0036】
図2Aは、上記反応(r1)~(r26)に提供される光化学動力学的反応の図を示す。この図は、UVA光活性化光下におけるリボフラビン(Rf)の光化学的転換及びその電子移動を介した様々なドナー(DH)との相互作用を要約する。図示する通り、(A)反応(r6)~(r8)では一重項酸素の存在を通して(II型機構);(B)反応(r4)~(r17)では酸素を使用することなく(I型機構);そして、(C)反応(r13)~(r17)ではペルオキシド(H
2O
2)、スーパーオキシド(O
2
-)、及びヒドロキシルラジカル(
・OH)の存在を通して、クロスリンキング活性が生じる。
【0037】
図2Aに示す通り、本発明者らは、ペルオキシド、スーパーオキシド、及びヒドロキシルラジカルの関与する反応からより高いクロスリンキング活性が生じることも特定した。一重項酸素の関与する反応から及び非酸素反応からはより低いクロスリンキング活性が生じる。反応(r1)~(r26)に基づく幾つかのモデルは、それぞれの反応によって生じるクロスリンキング活性のレベルを説明することができる。例えば、一重項酸素がクロスリンキング活性の発生においてより小さな役割しか果たしていない場合、定数として一重項酸素から生じるクロスリンキング活性を処理することによって、モデルを単純化することができる。
【0038】
反応(r1)~(r3)に提供されている通り、反応は全てRf3
*から出発する。反応(r10)では基底状態のRfとの化学反応を通じて、そして、反応(r9)では水との相互作用による不活化を通じて、Rf3
*のクエンチングが生じる。
【0039】
上記の通り、過剰の酸素は、角膜のクロスリンキングプロセスにおいて有害であり得る。
図2Aに示す通り、システムが、光子が制限され、そして、酸素が豊富なものになったとき、スーパーオキシド、ペルオキシド、及びヒドロキシルラジカルの関与する更なる反応からクロスリンキングが破壊され得る。実際、場合によっては、過剰の酸素によって、クロスリンキングの発生に対して正味のクロスリンキングの破壊が生じ得る。
【0040】
上記の通り、多岐にわたる要因が、クロスリンキング反応の速度及びクロスリンキングによって達成される生体力学的剛性の量に影響を与える。多数のこれらの要因は相互に関連しており、その結果、1つの要因の変化が別の要因に対して予想外の効果を有し得る。しかし、上で特定した光化学動力学的反応(r1)~(r26)によって、クロスリンキング処置についての異なる要因間の関係を理解するためのより包括的なモデルが提供される。したがって、システム及び方法は、この光化学動力学的クロスリンキングモデルに従ってクロスリンキング処置についての様々なパラメータを調整することができ、これによって、酸素動力学及びクロスリンキング活性の統一的記述が提供される。該モデルを使用して、処置パラメータの様々な組み合わせに基づいて予想される成果を評価し、そして、所望の結果を提供する処置パラメータの組み合わせを同定することができる。例えば、パラメータは、適用されるクロスリンキング剤の濃度及び/若しくは浸漬時間;光活性化光の線量、波長、照射量、期間、及び/若しくはon/offデューティサイクル;組織における酸素化状態;並びに/又は追加の薬剤及び溶液の存在を含み得るが、これらに限定されない。
【0041】
図2Bに示す通り、反応系の態様は、様々なパラメータによって影響を受け得る。例えば、光活性化光が系に送達される照射量は、後続反応のためのRf
3
*を発生させるために系で利用可能な光子に影響を与える。更に、系により多くの酸素を送達すると、酸素ベースの反応が駆動される。一方、光活性化光のパルス化は、酸素拡散のための追加の時間を許容することによって、還元リボフラビンを基底状態リボフラビンに戻す能力に影響を与える。無論、反応系を制御するために、他のパラメータを変動させることができる。
【0042】
反応(r1)~(r26)に提供される光化学動力学的反応の更なる態様は、2016年4月27日に出願され、そして、「Systems and Methods for Cross-Linking Treatments of an Eye」と題された米国特許出願公開第2016/0310319号に記載されており、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0043】
特定の波長の光がリボフラビン等のクロスリンキング剤に適用されたとき、該光は、クロスリンキング剤を励起し、そして、クロスリンキング剤に蛍光を発せさせることができる。したがって、励起光を使用して、角膜組織におけるクロスリンキング剤に蛍光を発せさせ、そして、クロスリンキング剤が角膜組織においてどのように分布しているかを決定することができる。励起光の適用中に角膜の画像を撮影したとき、例えば蛍光の強度(規模)を測定して、角膜組織によって取り込まれたクロスリンキング剤の量、すなわち、線量を決定することができる。これらの原理を使用して、線量測定システムは、励起光に応答したときにクロスリンキング剤からの蛍光の画像を1枚以上捕捉することによって、角膜におけるクロスリンキング剤の存在及び分布を決定することができる。このようなシステムの態様は、例えば、2015年4月28日に発行され、そして、「Systems and Methods for Monitoring Time Based Photo Active Agent Delivery or Photo Active Marker Presence」と題された米国特許第9,020,580号及び2016年5月23日に出願され、そして、「Systems and Methods for Monitoring Cross-Linking Activity for Corneal Treatments」と題された米国特許出願公開第2016/0338588号に記載されており、これら出願の内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。具体的には、米国特許第9,020,580号には、改変されたScheimpflug構成を使用する線量測定システムの例が開示されている。一方、米国特許出願公開第2016/0338588号には、蛍光を分析するためのハイパースペクトルイメージングの使用が開示されている。
【0044】
現在利用可能なクロスリンキング処置システムは、クロスリンキング処置を開始する前に角膜実質に十分なリボフラビンが存在するかどうかを示さない。このことから、手術の変動性が増大し、そして、準最適な臨床結果につながり得る。有利なことに、本開示の態様は、有効なクロスリンキング活性を提供することが知られている予め規定された標的値と比較することができる、リボフラビン濃度の定量的な深さ分解測定値を提供することによって、この問題に対処する。
【0045】
本開示の態様によれば、実施態様は、深さの関数として角膜実質におけるリボフラビン分布を測定するために共焦点蛍光顕微鏡の態様を具体的に設定する。したがって、実施態様は、角膜のクロスリンキング処置を進めるのに十分なリボフラビンが既定の角膜実質深さに存在するかどうかの指標を提供する。実施態様は、本明細書に記載されるクロスリンキング処置システムと統合されてもよく、又はスタンドアロン測定システムであってもよい。また、実施態様は、クロスリンキング処置中に適用される光活性化UV照射によって誘導される蛍光を測定するのに好適であり、したがって、リアルタイムでクロスリンキング活性の経過を測定することができる。
【0046】
本発明の態様によれば、システム及び方法は、以下のうちの1つ以上を達成することができる:
1. より有効な時間においてクロスリンキング処置を開始させるために、選択された部位で角膜実質におけるリボフラビンの深さプロファイルの時間発展を測定する。
2. 時間の関数として、角膜実質におけるリボフラビンの三次元(3D)分布を決定する。
3. 制御下で処置手術を維持するために、処置された部位におけるクロスリンキング濃度の深さプロファイルを測定する。
4. 処置後のクロスリンキング濃度の3D分布を再構築する。
5. 角膜実質において混濁した領域を位置づける。
【0047】
前述のことを達成するために、システム及び方法は、以下の技術のうちの1つ以上の態様を使用することができる:
1. 蛍光顕微鏡。
2. 共焦点顕微鏡。
3. Scheimpflug写真法。
4. 3D再構築、画像デコンボリューション、画像レジストレーション、及び他の画像処理技術。
【0048】
既存の共焦点蛍光顕微鏡は、流体浸/接触対物レンズを必要とし、高度に複雑かつ高価であり、そして、高レーザー強度を使用するので、生存しているヒトの角膜において商業的に使用するには適していない。有利なことに、本開示の態様は、十分なリボフラビンの存在の指標を提供するのに最適化されるように測定システムを単純化することによって、この問題に対処する。
【0049】
本開示の態様を説明するために、
図3は、角膜2に適用される外因性クロスリンキング剤、例えば、リボフラビンの深さの関数として濃度を測定するためのシステム300の例を示す。システム300は、角膜2におけるクロスリンキング剤を励起するために光を発するレーザー又はLED光源302を含む。例えば、光源302は、例えば365nmの波長を有するUV励起光を発することができる。あるいは、光源302は、例えば458nmの波長を有する青色励起光を発することができ、この場合、場合によっては、光源302は、青色光狭帯域フィルタと組み合わせて白色光を使用してもよい。
【0050】
図3に示す通り、光源302からの励起光は、光源のピンホール構造304の開口部及びコリメーティングレンズ306を通って導かれる。場合によっては、光源302はファイバー結合されていてもよい。次いで、励起光は、ダイクロイックフィルタ(又は鏡)308に導かれる。励起光の波長によって、ダイクロイックフィルタ308は、励起光をレンズ310、例えば、対物レンズ又は類似の光学素子に向かって反射する。レンズ310は、z軸に沿って所与の深さにおける角膜2の領域に励起光の焦点を合わせる。励起光の横断方向(x-y面)の分解能は、10μm超、例えば、約10μm~約200μmであってよい。対照的に、典型的な共焦点顕微鏡は、10μm未満の横断方向分解能を必要とする。
【0051】
励起光に応答して、角膜2におけるクロスリンキング剤は蛍光を発する。例えば、角膜2におけるリボフラビンは、緑色蛍光を発することができる。蛍光発光は、レンズ310を通ってダイクロイックフィルタ308に移動する。励起光の波長を有する光を反射させるのとは対照的に、ダイクロイックフィルタ308は、蛍光波長を有する光をカラーフィルタ312に通過させる。カラーフィルタ312は、蛍光発光をレンズ314、例えば、結像レンズに透過させると同時に、残留励起光及び/又は蛍光発光の波長を有しない他の光を遮断する。レンズ314は、検出器のピンホール316の開口部を介して蛍光発光の焦点を検出器318に合わせる。検出器のピンホール構造316は、所与の角膜深さよりも上又は下から生じた光が検出器318に達するのを防ぐ。言い換えれば、検出器のピンホール構造316は、焦点外の光が検出器318に達するのを防ぐ。ピンホール構造316は、10μm超、例えば、約10μm~約100μmのz軸に沿ったより低い分解能を許容するように構成されていてよい。対照的に、従来の共焦点顕微鏡は、10μm未満の分解能を必要とする。一般的に、システム300は、10mm超の空気中作業距離を提供し得、そして、流体浸又は眼との物理的接触を必要としない。
【0052】
検出器318は、光ダイオード、光電子増倍管、又はカメラであってよい。検出器318の画像面は、x-y面に沿ってレンズ314のレンズ面及び励起された角膜組織の領域と平行である。この構成によって、励起された角膜組織の領域は検出器318において均一に焦点が合うようになる。同様に、検出器のピンホール構造316は、検出器318の画像面と平行である。
【0053】
検出器318は、所与の深さにおける角膜の励起された領域から発せられた蛍光の量、例えば強度を定量するために使用される。システム300は、角膜2の様々なそれぞれの深さに励起光を送達し、そして、各深さにおけるクロスリンキング剤からの蛍光の量を検出するために段階的に操作され得る。
図3に示す通り、システム300は、z軸に沿って様々な深さでシステム300に角膜2をスキャンさせるスキャン機構320を含む。例えば、スキャン機構320は、レンズ310及び/又はシステム300の他の要素を移動又は操作して、励起光の他の深さへの送達を調整する機械的又は電気機械的装置であってよい。1つの実施によれば、システム300は、まず角膜の前面2aにおいて領域を励起するように操作され、次いで、その後、角膜実質2b中に少なくとも約200μmまでの前面2a下の一連の深さにおける領域を励起するように操作され得る。励起光の送達についての2つの連続する深さ間の距離は、約10μm~約100μmの範囲であってよい。
【0054】
所与の深さで検出された蛍光の量は、その深さにおけるクロスリンキング剤の量を示す。したがって、システム300を使用して、クロスリンキング処置を開始するのに十分な量のクロスリンキング剤が存在するかどうかを確認することができる。クロスリンキング処置を進める前に、所定の深さ又は一連の深さにおいて所定の閾値を上回るために、ある量のクロスリンキング剤が必要になり得る。
【0055】
検出器318からの時系列シグナルを高頻度でサンプリングし、そして、システム300の1つ以上の要素を移動させることによってスキャン深さを変化させるスキャン機構310と同期させてよい。検出器318からの情報を使用して、z軸に沿ってリボフラビン濃度曲線を再構築することができる。例えば、検出器318からの時系列シグナルを処理して、(1)角膜2の後面2cの位置、(2)角膜2への深さの関数としてのリボフラビン濃度、(3)角膜の前面2a、(4)後面2cと前面2aとの間の距離、及び(5)上皮-角膜実質界面等の角層下界面の位置を計算することができる。
【0056】
システム300は、スキャンを開始するためにシステム300を所望のx、y、z位置に調整するのを支援するために、補助光学部品、例えば、イメージングカメラ及びアラインメントレーザを含んでいてよい。更に、シグナル対ノイズ比を増大させるために、幾つかのスキャンを一緒に平均してよい。
【0057】
更に、データ処理アルゴリズムを使用して不完全なスキャンを検出することができる。例えば、スキャンによって角膜2の前面からの蛍光発光が捕捉されたとき、検出器318からの情報は、蛍光シグナルの急増に続いて、スキャンが前面2aから角膜実質2b中により深く移動するにつれて蛍光シグナルの漸減を示す。検出器318からの情報が蛍光シグナルの急増を示さない場合、スキャンは、恐らく前面2aを補足しなかったので、不完全であるとみなすことができる。
【0058】
システム300は、クロスリンキング処置の態様を改善するための他の有用な情報を提供することができる。例えば、システム300は、クロスリンキング処置が進行するとともにクロスリンキング剤によって発せられる蛍光の量をモニタリングするために周期的に又は連続的に使用され得る。具体的には、経時的に繰り返しスキャンすると、クロスリンキング活性が所望の角膜実質深さまで進行したときを示すことができる。更に、システム300によって検出されたときの角膜の後面の位置を使用して、クロスリンキング処置システムの処理面を調整することができる。
【0059】
一般的に、実施態様は、照射経路及びイメージング経路を含む。照射経路は、点照射を角膜2へ導き、そして、イメージング経路は、点照射による励起から生じる蛍光発光を収集する。各照射及びイメージングの経路は、軸上又は軸外の構成を使用することができる。
図3に示すシステム300は、軸上光学システムである。システム300は、x-y面に沿った励起された角膜組織の領域が、励起光のための照射経路300aに対して垂直である軸上照射経路300aを使用する。また、システム300は、x-y面に沿った励起された角膜組織の領域が、蛍光発光のためのイメージング経路300bに対して垂直である軸上イメージング経路300bを使用する。
【0060】
照射経路及びイメージング経路の両方が軸上である実施態様では、照射経路及びイメージング経路は、ダイクロイックミラーの反射側又は透過側のいずれかに存在し得る。
図3に示す通り、例えば、照射経路300aは、ダイクロイックフィルタ308の反射側に存在し、一方、イメージング経路300bは、ダイクロイックフィルタ308の透過側に存在する。具体的には、光源302からの励起光は、ダイクロイックフィルタ308に導かれ、これは、励起光の波長に基づいて励起光を角膜2に向かって、例えば、90°反射する。ダイクロイックフィルタ308は、蛍光発光の波長に基づいて蛍光発光を検出器318に向かって通過させる。
【0061】
他方、
図4は、システム300に類似しているが、ダイクロイックミラー408の透過側に配置された照射経路400aとダイクロイックミラー408の反射側に配置されたイメージング経路400bとを含むシステム400の例を示す。具体的には、光源302からの励起光は、ダイクロイックフィルタ408に導かれ、これは、励起光の波長に基づいて励起光を角膜2に向かって通過させる。一方、ダイクロイックフィルタ408は、蛍光発光の波長に基づいて蛍光発光を検出器318に向かって、例えば、90°反射する。
【0062】
上記システム300、400の例とは対照的に、
図5は、軸上照射経路500a及び軸外イメージング経路500bを使用するシステム500の例を示す。光源502は、角膜2におけるクロスリンキング剤を励起するために光を発する。光源502からの励起光は、光源のピンホール構造504の開口部を通って、レンズ510、例えば、対物レンズ又は類似の光学素子に導かれる。レンズ510は、z軸に沿った所与の深さにおいてx-y面に沿った角膜2の領域に励起光の焦点を合わせる。
図5に示す通り、x-y面に沿った励起された角膜組織の領域は、励起光のための照射経路500aに対して垂直である。したがって、照射経路500bは、軸上であるとみなされる。
【0063】
励起光に応答して、角膜2におけるクロスリンキング剤は蛍光を発する。蛍光発光は、レンズ514を通ってカラーフィルタ512に移動する。レンズ514は、蛍光発光の焦点を検出器518に合わせる。カラーフィルタ512は、残留励起光及び/又は蛍光発光の波長を有しない他の光を遮断する。蛍光発光は、検出器のピンホール構造516a(実線)あるいは516b(破線)の開口部を通過し、これによって、所与の角膜深さよりも上又は下から生じた光が検出器318に達するのを防ぐ。検出器518は、光ダイオード、光電子増倍管、又はカメラであってよい。検出器518は、所与の深さにおける角膜の励起された領域から発せられた蛍光の量、例えば強度を定量するために使用され得る。
【0064】
x-y面に沿った励起された角膜組織の領域は、蛍光発光のためのイメージング経路500bに対して垂直ではない。言い換えれば、イメージング経路500bは、90°に等しくない角度で所与の深さにおけるx-y面から延在する。したがって、イメージング経路500bは、軸外であるとみなされる。
【0065】
一実施態様によれば、検出器518の画像面は、レンズ514のレンズ面と平行である。
図4に示す通り、検出器のピンホール構造516aは、対応して、画像面及びレンズ面と平行であり、すなわち、イメージング経路500bに対して垂直である。
【0066】
別の実施態様によれば、検出器518の画像面は、レンズ514のレンズ面と平行ではない。その代わり、検出器518及びレンズ514は、画像面及びレンズ面がScheimpflug構成になるように配置されている。この構成では、イメージング経路500bが角膜組織の励起された領域に対して垂直ではないにもかかわらず、x-y面に沿った角膜組織の励起された領域は、検出器518においてより均一に焦点が合う。検出器のピンホール構造516bは、対応して、所与の角膜深さよりも上又は下から生じた光が検出器518に達するのを防ぐために、画像面及びレンズ面に対して角度を成している、例えば、x-y面と平行である。
【0067】
図6は、軸外照射経路600a及び軸外イメージング経路600bを使用するシステム600の例を示す。光源602は、角膜2におけるクロスリンキング剤を励起するために光を発する。光源602からの励起光は、光源のピンホール構造604a(実線)あるいは604b(破線)の開口部を通り、次いで、レンズ610、例えば、対物レンズ又は類似の光学素子に導かれる。レンズ610は、z軸に沿った所与の深さにおいてx-y面に沿った角膜2の領域に励起光の焦点を合わせる。
【0068】
x-y面に沿った励起された角膜組織の領域は、励起光のための照射経路600aに対して垂直ではない。言い換えれば、照射経路600aは、90°に等しくない角度で所与の深さにおけるx-y面まで延在する。したがって、照射経路600aは、軸外であるとみなされる。
【0069】
励起光に応答して、角膜2におけるクロスリンキング剤は蛍光を発する。蛍光発光は、レンズ614を通ってカラーフィルタ612に移動する。レンズ614は、蛍光発光の焦点を検出器618に合わせる。カラーフィルタ612は、残留励起光及び/又は蛍光発光の波長を有しない他の光を遮断する。蛍光発光は、検出器のピンホール構造616a(実線)又は616b(破線)の開口部を通過し、これによって、所与の角膜深さよりも上又は下から生じた光が検出器618に達するのを防ぐ。検出器618は、光ダイオード、光電子増倍管、又はカメラであってよい。検出器618は、所与の深さにおける角膜の励起された領域から発せられた蛍光の量、例えば強度を定量するために使用され得る。
【0070】
x-y面に沿った励起された角膜組織の領域は、蛍光発光のためのイメージング経路600bに対して垂直ではない。言い換えれば、イメージング経路600bは、90°に等しくない角度で所与の深さにおけるx-y面から延在する。したがって、イメージング経路600bは、軸外であるとみなされる。
【0071】
一実施態様によれば、検出器618の画像面は、レンズ614のレンズ面と平行である。
図6に示す通り、検出器のピンホール構造616aも、画像面及びレンズ面と平行であり、そして、イメージング経路600bに対して垂直である。対応して、光源のピンホール構造604aも、照射経路600aに対して垂直である。
【0072】
別の実施態様によれば、検出器618の画像面は、レンズ614のレンズ面と平行ではない。その代わり、検出器618及びレンズ614は、画像面及びレンズ面がScheimpflug構成になるように配置される。この構成では、イメージング経路600bが角膜組織の励起された領域に対して垂直ではないにもかかわらず、x-y面に沿った角膜組織の励起された領域は、検出器618においてより均一に焦点が合う。検出器のピンホール構造616bは、画像面及びレンズ面に対して角度を成しており、そして、イメージング経路600bに対して垂直ではない。対応して、光源602及びレンズ610は、光源面及びレンズ面がScheimpflug構成になるように配置される。更に、光源のピンホール構造604bは、光源面及びレンズ面に対して角度を成しており、そして、照射経路600aに対して垂直ではない。この構成では、励起光は、x-y面に沿った角膜組織の励起された領域に対してより均一に焦点が合う。光源のピンホール構造604b及び検出器のピンホール構造616bは、x-y面と平行であってよい。
【0073】
上記システムの例は、単一点照射を作製するためにピンホールの開口部を使用し得るが、ピンホールアレイ又はスリット照射を代わりに使用してもよい。システムの例が上記の通りクロスリンキング処置システムに組み込まれている場合、DMDを介してスリット照射を生成することができる。照射のためにスリット照射を使用してもよいが、イメージング経路におけるピンホール開口部又は垂直スリットは、蛍光発光を収集するのに十分であり得る。
【0074】
例えば
図6に示す通り、照射経路がScheimpflug構成を使用する場合、マスク、格子、音響光学部品、回折光学素子(DOE)等を用いてドットアレイを作製することができる。ドットアレイは、z軸に沿って整列され、そして、イメージング経路の軸分解能よりも大きな分離を有する。
【0075】
システム500、600の例では、蛍光発光は、照射経路とイメージング経路との間の重複によって画定されるより小さな角膜領域から収集される。したがって、システム500、600によって、より小さな体積の角膜組織を調べることができる。有利なことに、これによって、ピンホール構造及びそれぞれのレンズの開口数に対する光学的要件又は制約を緩めることができ、これは、ひいては、システム500、600と対象との間の作業距離をより大きくすることができる。
【0076】
眼とシステム300、400、500、又は600の例との間の相対的移動、すなわちスキャニングによって、システムが、z軸に沿った様々な深さにおいて蛍光発光を発生させ、そして、測定することが可能になる。システムの例は、x軸及びy軸に沿ってではなく、z軸に沿ってのみスキャンしてもよい。z軸に沿ったスキャニングは、様々なアプローチに従って達成することができる。1つのアプローチによれば、システムの態様は、z軸に沿って能動的に移動することができるが、対象の眼は、固定位置x、y、zに留まる。システム全体又は特定の部品をモータ等によってz軸に沿って移動させることができる。
【0077】
別のアプローチによれば、システムは、高頻度で対象の眼を能動的に移動させることによってz軸に沿ってスキャンすることができる。このアプローチでは、システムを固定位置x、y、zに留めながら、高頻度で小さな範囲にわたってz軸に沿って上下に移動させることができる椅子に対象の頭部を置いてよい。
【0078】
本開示の更なる態様を説明するために、
図7は、角膜2におけるクロスリンキング剤、例えば、リボフラビンの分布に関連する蛍光を検出するためのシステム700の例を示す。システム700は、スリットランプを介して角膜2の組織、例えば、角膜実質にスリット光パターン10を投射する照射経路700aを含む。例えば、光パターン10を生成するために、該システムは、励起光をKohler照射の原理に従って構成されるコレクタレンズ704、スリット706、及び対物レンズ708に少なくとも導く光源702を使用してよい。
図7に示す通り、光源702は、フィラメントを含んでいてよく、そして、Kohler構成を用いて、フィラメントは、対物レンズ708上において画像化されるが、スリット706は、角膜2において画像化される。
【0079】
図7に示すx軸、y軸、z軸は、角膜2によって受け取られる光パターン10に対応する物体空間を画定する。光パターン10は、x-z面に沿って前から後ろへと広がる。角膜2において光パターン10に曝露されたクロスリンキング剤は、励起され、そして、蛍光を発する。システム700は、イメージング経路700bを含み、これは少なくともScheimpflugレンズ710を含む。Scheimpflugレンズ710は、蛍光発光を検出器712に透過する。パターン10の拡大像10’は、検出器712の画像面に作成される。
図7に示すx’軸、y’軸、z’軸は、画像10’に対応する画像空間を画定する。励起光及び他の迷光を減衰させるために、イメージング経路においてバンドパスフィルタを使用してよい。
【0080】
一実施態様では、システム700は、画像面において、z’軸に沿ってスキャンすることができる長い移動可能なスリット開口部714aを使用する。開口部714aは、蛍光発光に対応する画素のアレイ、例えば、CCDアレイにわたってスキャンされる。適切な範囲にわたってz’軸に沿って開口部をスキャンすると、角膜2において蛍光強度プロファイルが作成される。このプロファイルは、物体空間においてz方向(角膜深さの方向)について記録され、そして、(物体空間にマッピングされる)スリット長さにわたってx方向において平均される。
【0081】
システム700の例は、開口部サイズが比較的大きいことから、深さプロファイルの迅速な取得を提供する。しかし、該プロファイルは、横方向に、すなわち、x軸に沿って分解されない。横方向における特定の空間分解能が望ましい場合、別の実施態様は、スリット開口部714aではなくピンホール開口部のレンズ状アレイ714bを使用してよい。z’軸に沿ってピンホール開口部アレイ714bを1回スキャンすると、z方向(角膜深さの方向)及びx方向(横方向)の両方において空間的に分解される蛍光強度の二次元プロファイルが作成される。開口部サイズ(スリット開口部の幅、ピンホール開口部の直径)は、取得速度と空間分解能とのバランスをとるように選択され得る。
【0082】
図8は、角膜2におけるクロスリンキング剤の励起光に対する応答に起因して、蛍光発光の三次元プロファイルを取得する別のシステム800の例の態様を示す。システム800は、励起光を提供するための照射経路800aを含む。照射経路800aは、例えば、上記実施態様のいずれかに従って作製され得る。蛍光発光を捕捉するために、システム800は、第1のイメージング経路800b及び第2のイメージング経路800cを含む。システム800は、照射経路800a並びに第1及び第2のイメージング経路800b、cを眼の周囲で180°回転させて画像のデータセットを作成し、これによって三次元プロファイルが提供される。該三次元プロファイルは、角膜組織の体積におけるクロスリンキング剤の存在を示す。これは、例えば以下のような幾つかの工程を含み得る:
1. デコンボリューション-有限開口部サイズに関連するぼやけ効果を除去する。
2. 視野にわたってScheimpflugレンズの可変倍率を補正する。
3. 屈折補正-角膜前面における光の屈折に起因する画像の歪みを除去する。
4. スムージング-ショットノイズ(画素あたり少数の光子)及び回折パターンに起因する画像の高空間周波数成分を除去する。
5. 画像の記録時間中の眼の動きを補正する。
画像の歪み補正のために適切な較正手段が開発され得る。
【0083】
本発明の態様によれば、実施態様は、例えば
図7に示す通り、照射及び検出のチャネルを含む2チャネル設計を含み得る。
【0084】
実施態様は、例えば
図7に示す通り、角膜実質においてコリメートスリット又はピクセルビームを提供する照射チャネルを含み得る。
【0085】
実施態様は、視線追跡チャネルを含み得る。
【0086】
実施態様は、視線追跡光学部品(例えば、Purkinje画像を用いた角膜先端の追跡)の一部である照射チャネルを含み得る。
【0087】
実施態様は、以下のうちの1つを含み得る照射チャネルを含み得る:市販若しくはOEMのスリットランプ、又はピクセル投射光学部品。
【0088】
実施態様は、様々な方向に伝播する迷光の源として作用する照射ビームを含み得る。迷光発生の物理的機序は、リボフラビン蛍光、クロスリンキング蛍光、及び/又は角膜実質組織のバルク散乱を含み得る。
【0089】
実施態様は、例えば
図7に示す通り、高開口数(NA)レンズを通して光線を画像面に移動させる迷光をピックアップする検出チャネルを含み得る。レンズの物体面(画像面に接合)は、例えば
図7に示す通り、Scheimpflug原理を用いて角膜実質において照射ビームに整列する。Scheimpflug原理を使用すると、例えば
図7に示す通り、照射されたスリット、又は便利な角度、例えば45°における角膜の前面と後面との間の他のパターンを画像化することが可能になる。
【0090】
画像に寄与する光学スライスの厚みは、高NAレンズ及び共焦点原理を用いることによって著しく低減し得る。後者の原理は、画像を記録しながら、画像面にわたって小さな開口部をスキャンすることを意味する。幾つかの実施態様では、領域全体が網羅されるまで特定の順序で画素のスイッチを入れるCCDアレイを使用してよい。画素の切り替え順序は、その(電気的又は光学的な)クロストークを最小化するように選択しなければならない。
【0091】
本開示の更なる態様によれば、実施態様を使用して、高分解能の非接触の角膜厚み計を提供することができる。上記の通り、実施態様は、励起光に応答して様々な深さで角膜におけるクロスリンキング剤によって発せられる蛍光の量、例えば、強度を定量することができる。例えば、
図3に示す通り、システム300は、z軸に沿った様々な深さで角膜2をスキャンして、角膜深さの関数としてクロスリンキング剤の濃度を測定することができる。このようなスキャンは、角膜の厚み全体を評価するのに十分であり得る。具体的には、スキャンは、少なくとも、外気と角膜との間の界面(すなわち、角膜の前面)から内皮と前房との間の界面(すなわち、角膜の後面)まで及び得る。これも上記の通り、実施態様の検出器が角膜の前面からの蛍光発光を捕捉したとき、蛍光シグナルが急増し、続いて、スキャンが前面から角膜実質中に深く移動するにつれて蛍光シグナルが漸減する。スキャンが内皮と前房との間の界面(後面)に達したとき、蛍光シグナルは急激にゼロまで減少する。蛍光シグナルにおいて急増(シグナルピーク)及び急減(ゼロまで)が検出された深さ間の距離を測定することによって、角膜の厚みを決定することができる。したがって、角膜におけるクロスリンキング剤の存在に関する情報を提供することに加えて、実施態様は、角膜の厚みの測定を提供することができる。角膜の厚みの測定は、典型的には、内皮の安全性を確保するためにクロスリンキング処置の前に必要とされる。
【0092】
角膜の厚みの測定ノイズを低減し、そして、より正確な測定値を得るために、角膜を横断する様々な横断方向位置において(例えば、
図3に示す通り様々な(x,y)位置において)、角膜の厚みを貫通する(例えば、
図3に示す通りz軸に沿って)複数のスキャンを実施してよい。次いで、これらの複数のスキャンから得られた測定値を平均してよい。例えば、中心角膜厚及び/又は周辺角膜厚を評価するために、所定の又はユーザが選択した横断方向位置のセットを網羅する角膜厚測定マップを作成してよい。例えば、円錐角膜障害に関連するセクションにわたって角膜厚測定マップを作成してよい。
【0093】
共焦点蛍光顕微鏡の態様を使用して、実施態様は、角膜の厚みの高分解能(例えば、100μm未満)かつ迅速な(例えば、1秒未満)測定を達成することができる。更に、このような測定は、角膜と物理的に接触することなく行うことができ、それによって、対象の安全性及び快適性が強化される。更に、角膜厚測定に対するこのアプローチは、角膜の密度、水和状態、及び屈折特性の変動に対して非感受性である。また、このアプローチは、時に眼、特に罹患している眼に関連する混濁の存在に対しても非感受性である。したがって、このアプローチは、例えば、音の単一名目速度に依拠して角膜の厚みを測定する超音波ベースのアプローチとは対照的に、角膜の厚みのより正確な測定値を提供することができる。
【0094】
励起光に応答して角膜におけるクロスリンキング剤からの蛍光発光に基づいてシグナルを検出するのではなく、上記実施態様の別の実施は、クロスリンキング剤が角膜に存在していない角膜から反射した入射光に基づいてシグナルを検出することによって角膜の厚みを決定することができる。角膜を通じたスキャンからの反射光は、角膜の前面及び角膜の後面の存在を示すシグナルを提供する。具体的には、シグナルスパイク又は他のシグナル変化は、角膜の前面及び後面を特徴づけることができる。有利なことに、この別の実施は、角膜におけるクロスリンキング剤のいかなる存在とも関係なく、角膜の厚みの信頼できる測定値を提供することができる。
【0095】
まとめると、
図9は、共焦点顕微鏡の態様を使用する実施態様を介して角膜の厚みを測定するためのアプローチ900の例を一般的に示す。行為902では、角膜を横断する1つ以上の位置(x,y)について、構成された共焦点顕微鏡システムを介して様々な角膜の深さ(z)を通して角膜に光を導く。行為904では、角膜におけるクロスリンキング剤からの蛍光発光又はクロスリンキング剤の存在しない角膜からの反射光を、様々な角膜の深さから検出する。行為906では、角膜の前面に関連する第1のシグナル及び対応する第1の深さを、蛍光発光/反射光から検出する。行為908では、角膜の後面に関連する第2のシグナル及び対応する第2の深さを、蛍光発光/反射光から検出する。行為910では、第1の深さと第2の深さとの間の距離から角膜の厚みを決定する。任意の行為912では、角膜を横断する1超の位置(x,y)が存在する場合、該1超の位置から得られた角膜の厚みを平均して、より正確な測定値を求める。
【0096】
上記の通り、本開示のいくつかの態様によれば、上記及び図示された手順の工程のうちの幾つか又は全てを自動化するか又はコントローラ(例えば、コントローラ120)の制御下で先導することができる。一般的に、コントローラは、ハードウェアエレメント及びソフトウェアエレメントの組み合わせとして装備され得る。ハードウェアの態様は、マイクロプロセッサ、論理回路、コミュニケーション/ネットワーキングポート、デジタルフィルタ、メモリ、又は論理回路を含む、動作可能に接続されたハードウェアコンポーネントの組み合わせを含み得る。コントローラは、コンピュータ可読媒体に保存され得るコンピュータで実行可能なコードによって特定される操作を実施するように適応させることができる。
【0097】
上記の通り、コントローラは、ソフトウェア又は保存されている指示を実行するプログラム可能な処理装置、例えば、従来の外部コンピュータ、又はオンボードフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)若しくはデジタルシグナルプロセッサ(DSP)であってよい。一般に、任意の処理又は評価のために本開示の実施態様によって使用される物理的プロセッサ及び/又はマシンは、コンピュータ及びソフトウェアの分野の当業者によって理解される通り、本開示の実施態様の例の教示に従ってプログラムされた、1つ以上のネットワーク化された又はネットワーク化されていない汎用コンピュータシステム、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、マイクロコントローラ等を含んでいてよい。物理的プロセッサ及び/又はマシンは、画像捕捉装置と外部的にネットワーク化されてもよく、又は画像捕捉装置内に存在するように組み込まれてもよい。ソフトウェア分野の当業者によって理解される通り、適切なソフトウェアは、実施態様の例の教示に基づいて通常の技量のプログラマーが容易に作成することができる。更に、電気分野の当業者によって理解される通り、実施態様の例の装置及びサブシステムは、アプリケーション特異的に組み込まれた回路の作成によって又は従来の構成回路の適切なネットワークを相互接続することによって実行することができる。したがって、実施態様の例は、ハードウェア回路及び/又はソフトウェアの任意の特定の組み合わせには限定されない。
【0098】
コンピュータ可読媒体のうちの任意の1つ又は組み合わせに保存された、本開示の実施態様の例は、実施態様の例の装置及びサブシステムを制御するための、実施態様の例の装置及びサブシステムを駆動するための、実施態様の例の装置及びサブシステムをヒトユーザと相互作用させるためのソフトウェア等を含み得る。このようなソフトウェアは、デバイスドライバ、ファームウェア、オペレーティングシステム、開発ツール、アプリケーションソフトウェア等を含み得るが、これらに限定されない。このようなコンピュータ可読媒体は、更に、実行において実施される処理の全て又は一部(処理が分散している場合)を実施するための本開示の実施態様のコンピュータプログラム製品を含み得る。本開示の実施態様の例のコンピュータコードデバイスは、スクリプト、解釈可能なプログラム、ダイナミックリンクライブラリ(DLL)、Java(登録商標)クラス及びアプレット、完全に実行可能なプログラム等を含むがこれらに限定されない任意の好適な解釈可能又は実行可能なコードメカニズムを含み得る。更に、より優れた性能、信頼性、コスト等のために、本開示の実施態様の例の処理の一部を分散させてもよい。
【0099】
コンピュータ可読媒体の一般的な形態は、例えば、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、任意の他の好適な磁気媒体、CD-ROM、CDRW、DVD、任意の他の好適な光学媒体、パンチカード、紙テープ、光学マークシート、穴若しくは他の光学的に認識可能な印のパターンを備えた任意の他の好適な物理媒体、RAM、PROM、EPROM、FLASH-EPROM、任意の他の好適なメモリチップ若しくはカートリッジ、搬送波、又はコンピュータが読み取ることのできる任意の他の好適な媒体を含み得る。
【0100】
1つ以上の具体的な実施態様を参照して本開示を説明してきたが、当業者は、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく本開示に対して多くの変更を行うことができると認識するであろう。これらの実施態様及びその明らかな変形物はそれぞれ、本開示の趣旨及び範囲内であると考えられる。また、本開示の態様に係る更なる実施態様は、本明細書に記載される実施態様のいずれかの任意の数の特徴と組み合わせてよいことが考えられる。