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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】エンドトキシン測定剤
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20231024BHJP
   G01N 33/579 20060101ALI20231024BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 15/866 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20231024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C12P21/02 C
G01N33/579 ZNA
C12Q1/37
C12N15/57
C12N15/866 Z
C12N15/12
C12N7/01
C12N5/10
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022085191
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2019233842の分割
【原出願日】2012-02-28
(65)【公開番号】P2022119887
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】61/447,556
(32)【優先日】2011-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000195524
【氏名又は名称】生化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水村 光
(72)【発明者】
【氏名】相沢 真紀
(72)【発明者】
【氏名】小田 俊男
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/002976(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N9/00
C12Q1/00~3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(A)~(D)を含む、エンドトキシン測定剤の製造方法:
(A)下記のDNA(1)~(3)の各々が組み込まれたバキュロウイルスを、Sf9、Sf21、SF+、及びHigh-Fiveからなる群から選択される昆虫細胞に感染させる工程;
(1)(a)または(b)であってC末端にHisタグ配列を有さないファクターCをコードするDNA
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ファクターCの活性を有するタンパク質
(2)カブトガニのファクターBをコードするDNA
(3)カブトガニのプロクロッティングエンザイムをコードするDNA
(B)前記バキュロウイルスに感染した昆虫細胞に、前記DNAにコードされるタンパク質を発現させる工程;
(C)前記発現したタンパク質を含有する溶液を回収する工程;
(D)前記発現したタンパク質から、前記バキュロウイルスを除去する工程。
【請求項2】
下記の工程(A’)~(C’)を含む、エンドトキシン測定剤の製造方法:
(A’)下記のDNA(1)~(3)の各々が組み込まれたプラスミドを、Sf9、Sf21、SF+、及びHigh-Fiveからなる群から選択される昆虫細胞に導入し、昆虫細胞の染色体に前記DNAを組み込む工程;
(1)(a)または(b)であってC末端にHisタグ配列を有さないファクターCをコードするDNA
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ファクターCの活性を有するタンパク質
(2)カブトガニのファクターBをコードするDNA
(3)カブトガニのプロクロッティングエンザイムをコードするDNA
(B’)前記DNAが組み込まれた昆虫細胞に、前記DNAにコードされるタンパク質を発現させる工程;
(C’)前記発現したタンパク質を含有する溶液を回収する工程。
【請求項3】
前記DNA(1)が、下記DNA(a’)である、請求項1または2に記載の製造方法;
(a’)配列番号1に示す塩基配列を含むDNA。
【請求項4】
前記DNA(1)が、C末端にV5タグが付加されていないファクターCをコードする、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記DNA(1)が、C末端にペプチドが付加されていないファクターCをコードする、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶液が、培養液、培養上清、細胞破砕抽出物、またはそれらの混合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシン測定剤、当該測定剤の製造方法、及び検体中のエンドトキシンの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは、グラム陰性細菌の細胞壁外膜に存在するリポ多糖であり、強い発熱性物質として知られている。また、エンドトキシンは、発熱以外にも、マクロファージの活性化に伴う炎症性サイトカインの遊離やエンドトキシンショックの誘発等、微量でも細菌感染による様々な病態を惹き起こすことが知られている。このため、注射用医薬品を始めとする医薬品、水、医療器具等におけるエンドトキシンの検出は重要である。また、エンドトキシンはグラム陰性細菌感染症におけるショックの主な原因と考えられており、血液中のエンドトキシンを測定することで、感染の有無や治療効果を判定することができる。
【0003】
また、アメリカカブトガニ(リムルス・ポリフェムス;Limulus polyphemus)にグラム陰性細菌が感染すると、血管内凝固を引き起こすことが知られており、この現象はエンドトキシンの検出に利用されてきた。
【0004】
すなわち、カブトガニ血球抽出液(カブトガニ・アメボサイト・ライセート。以下「ライセート」ともいう。)を使用して、エンドトキシンを測定する方法が知られている(例えば、非特許文献1)。この方法は、リムルステストと呼ばれ、エンドトキシンがライセートに接触することによって起きる、ライセート中に存在する種々のタンパク質のカスケード反応を利用するものである。カスケード反応の模式図を図1に示す。
【0005】
エンドトキシンがライセートに接触すると、ライセート中に存在するファクターCが活性化されて活性型ファクターCが生成する。この活性型ファクターCによって、ライセート中に存在するファクターBが活性化されて活性型ファクターBが生成する。この活性型ファクターBによって、ライセート中に存在するプロクロッティングエンザイムが活性化されてクロッティングエンザイムが生成する。
【0006】
このクロッティングエンザイムは、ライセート中に存在するコアギュローゲンの分子中の特定の箇所を加水分解する。これによって、コアギュリンゲルが生成してライセートが凝固する。したがって、ライセートの凝固反応を測定することで、エンドトキシンを測定することができる。
【0007】
また、クロッティングエンザイムを合成基質に作用させることで発色反応を進行させ、エンドトキシンを測定することもできる。例えば、クロッティングエンザイムは、合成基質であるt-ブトキシカルボニル-ロイシル-グリシル-アルギニル-pNA(Boc-Leu-Gly-Arg-pNA)に作用し、そのアミド結合を加水分解してpNAを遊離する。よって、前記合成基質を反応系に存在させておくことで、発色物質(pNA)の吸光度(405nm)を測定することによりエンドトキシンを定量することができる。
【0008】
また、日本産カブトガニのライセートから精製したファクターC、ファクターB、およびプロクロッティングエンザイムを用いてカスケード反応系を再構築できることが知られている(非特許文献2)。
【0009】
また、東南アジア産カブトガニであるカルシノスコルピウス・ロツンディカウダ(Carc
inoscorpius rotundicauda)由来の組換えファクターCと、日本産カブトガニであるタキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)由来の組換えファクターBおよび組換えプロクロッティングエンザイムとを用いてカスケード反応系を再構築した例が知られている(特許文献1)。
【0010】
また、東南アジア産カブトガニであるカルシノスコルピウス・ロツンディカウダ(Carcinoscorpius rotundicauda)由来の組換えファクターCと、活性型ファクターCと反応して蛍光物質が遊離する基質とを用いてエンドトキシンを検出する系が知られており(特許文献2)、エンドトキシン検出システムとして商品化されている(商品名:PyroGene(登録商標);ロンザ(Lonza)社)。
【0011】
しかしながら、ライセート、またはそれから調製された天然のファクターC、ファクターB、およびプロクロッティングエンザイムを利用するには、カブトガニを捕獲して血液を採取する必要があり、生物資源の保護等の観点から、これらの成分を無尽蔵に供給することは困難である。そのため、エンドトキシンの検出に用いる試薬を簡便、迅速、且つ安価に製造する技術が求められていた。
【0012】
また、組換え型のファクターC、ファクターB、およびプロクロッティングエンザイムを用いる場合には、前記のいずれの例も、測定に1時間以上を要し、且つ0.001EU/mLオ
ーダーの検出感度を実現していなかった。そのため、より迅速且つ高感度にエンドトキシンを測定する技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開パンフレット第2008/004674号
【文献】米国特許第6,849,426号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Iwanaga S. Curr Opin Immunol. 1993 Feb; 5(1): 74-82.
【文献】Nakamura T. et. al., J Biochem. 1986 Mar;99(3):847-57.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、迅速且つ高感度にエンドトキシンを測定する方法を提供することを課題とする。本発明は、また、当該方法に用いるエンドトキシン測定剤およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、昆虫細胞をホストとして用いて発現させた、日本産カブトガニであるタキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)由来の組換えファクターC(Hisタグなし)、組換えファクターB、および組換えプロクロッティングエンザイムを利用することで、迅速且つ高感度にエンドトキシンを測定できることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
下記のタンパク質(1)~(3)を含むエンドトキシン測定剤であって、該タンパク質(1)~(3)の各々は昆虫細胞をホストとして発現することにより得られる組換えタンパク質である、測定剤。
(1)タキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)由来のファクターCで
あって、C末端にHisタグ配列を有さないファクターC。
(2)カブトガニのファクターB。
(3)カブトガニのプロクロッティングエンザイム。
[2]
前記ファクターBおよび前記プロクロッティングエンザイムが、タキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)由来である、[1]に記載の測定剤。
[3]
前記ファクターCが下記のタンパク質(A)または(B)であり、前記ファクターBが下記のタンパク質(C)または(D)であり、且つ、前記プロクロッティングエンザイムが下記のタンパク質(E)または(F)である、[1]または[2]に記載の測定剤。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、ファクターCの活性を有するタンパク質。
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質。
(D)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、ファクターBの活性を有するタンパク質。
(E)配列番号6に示すアミノ酸配列を含むタンパク質。
(F)配列番号6に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、プロクロッティングエンザイムの活性を有するタンパク質。
[4]
下記の工程(A)~(C)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の測定剤の製造方法。(A)下記のDNA(1)~(3)の各々をウイルスDNAに組み込む工程。
(1)タキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)由来のファクターCであって、C末端にHisタグ配列を有さないファクターCをコードするDNA
(2)カブトガニのファクターBをコードするDNA
(3)カブトガニのプロクロッティングエンザイムをコードするDNA
(B)前記各DNAが組み込まれたウイルスを、各々昆虫細胞に感染させる工程。
(C)前記各ウイルスに感染した昆虫細胞に、各々のDNAにコードされるタンパク質を発現させる工程。
[5]
下記の工程(A)~(C)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の測定剤の製造方法。(A)下記のDNA(1)~(3)の各々をベクターに組み込む工程。
(1)タキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)由来のファクターCであって、C末端にHisタグ配列を有さないファクターCをコードするDNA
(2)カブトガニのファクターBをコードするDNA
(3)カブトガニのプロクロッティングエンザイムをコードするDNA
(B)前記各DNAが組み込まれたベクターを、各々昆虫細胞に導入し、昆虫細胞の染色体に前記各DNAを組み込む工程。
(C)前記各DNAが組み込まれた昆虫細胞に、各々のDNAにコードされるタンパク質を発現させる工程。
[6]
前記ファクターCをコードするDNAが下記のDNA(A)または(B)であり、前記ファクターBをコードするDNAが下記のDNA(C)または(D)であり、且つ、前記プロクロッティングエンザイムをコードするDNAが下記のDNA(E)または(F)である、[4]または[5]に記載の測定剤の製造方法。
(A)配列番号1に示す塩基配列を含むDNA。
(B)配列番号1に示す塩基配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェント
な条件下でハイブリダイズし、かつ、ファクターCの活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列番号3または8に示す塩基配列を含むDNA。
(D)配列番号3または8に示す塩基配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ファクターBの活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(E)配列番号5または9に示す塩基配列を含むDNA。
(F)配列番号5または9に示す塩基配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロクロッティングエンザイムの活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[7]
[1]~[3]のいずれかに記載の測定剤と被験試料とを混合する工程、およびカスケード反応の進行を測定する工程を含む、被験試料中のエンドトキシン測定法。
[8]
カスケード反応の進行を検出するための基質を反応系に添加する工程を含む、[7]に記載の測定法。
[9]
さらに、前記基質の反応に基づき、被験試料中のエンドトキシン量を算出する工程を含む、[8]に記載の測定法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、迅速且つ高感度にエンドトキシンを測定できる。例えば、本発明の一実施形態においては、わずか30分間の測定で0.0005 EU/mLのオーダーの検出感度を実現できる。また、本発明においては、発現した組換えファクターC、組換えファクターB、および組換えプロクロッティングエンザイムを精製することなく利用することができ、よって、これら組換えタンパク質を含有するエンドトキシン測定剤を簡便、迅速、且つ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、リムルステストのカスケード反応系を示す図である。
図2図2は、ベクターpIZ/V5-Hisの構造と遺伝子の挿入箇所を示す図である。上部の矢印が遺伝子の挿入箇所を示す。
図3図3は、各種ファクターCの発現量を示す写真である。
図4図4は、各種ファクターCの活性を示す図である。
図5図5は、ウイルス法で発現させたファクターCの安定性を示す写真である。
図6図6は、安定発現細胞法で発現させたファクターCの安定性を示す写真である。
図7図7は、中空糸膜ろ過による処理が、ウイルス法で発現させた各因子の反応性に与える効果を示す図である。
図8図8は、ウイルス法で発現させた各因子を含有するエンドトキシン測定剤の反応性を示す図である。
図9図9は、安定発現細胞法で発現させた各因子を含有するエンドトキシン測定剤の反応性を示す図である。(a)エンドトキシン濃度0~0.1 EU/mLでの反応性。(b)エンドトキシン濃度0~0.01 EU/mLでの反応性。
図10図10は、精製した組換えおよび天然Factor Cの純度と濃度を示す写真である。
図11図11は、BSAのバンド強度と量の相関を示す検量線である。
図12図12は、精製した組換えおよび天然Factor Cの活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明においては、エンドトキシンによりファクターCが活性化されて活性型ファクターCが生成し、活性型ファクターCによりファクターBが活性化されて活性型ファクターBが生成し、活性型ファクターBによりプロクロッティングエンザイムが活性化されてクロッティングエンザイムが生成する一連の反応を「カスケード反応」という場合がある。
【0021】
(1)本発明のエンドトキシン測定剤
本発明のエンドトキシン測定剤は、ファクターC、ファクターB、およびプロクロッティングエンザイムを含む。本発明のエンドトキシン測定剤に含まれるファクターC、ファクターB、およびプロクロッティングエンザイムを、以下、それぞれ本発明のファクターC、本発明のファクターB、および本発明のプロクロッティングエンザイムという場合がある。また、ファクターC、ファクターB、およびプロクロッティングエンザイムを総称して「因子」という場合がある。
【0022】
本発明のファクターC、本発明のファクターB、および本発明のプロクロッティングエンザイムは、いずれも昆虫細胞をホストとして発現させることにより得られる組換えタンパク質である。
【0023】
本発明のファクターCは、日本産カブトガニであるタキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)由来のファクターCである。本発明のファクターCは、C末端にHisタグが付加されていないことを特徴とする。また、本発明のファクターCは、C末端にV5タグが付加されていないのが好ましい。また、本発明のファクターCは、C末端にペプチドが一切付加されていないのがより好ましい。また、本発明のファクターCは、両末端とも、ペプチドが一切付加されていないのが特に好ましい。タキプレウス・トリデンタツスのファクターCのアミノ酸配列を配列番号2に示す。また、タキプレウス・トリデンタツスのファクターCをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。
【0024】
本発明のファクターCは、ファクターCの活性を有する限り、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質のバリアントであってもよい。
【0025】
ファクターCの活性とは、エンドトキシンの存在下で活性型となり、ファクターBを活性型に変化させる活性をいう。「ファクターCの活性を有する」ことは、例えば、本発明のファクターCを、好適なファクターBおよび好適なプロクロッティングエンザイムと組み合わせた際に、エンドトキシンの存在下でカスケード反応の進行を検出することにより確認できる。具体的には、好適なファクターBとして配列番号4のタンパク質を、好適なプロクロッティングエンザイムとして配列番号6のタンパク質を使用できる。カスケード反応の進行は、後述する検出用基質を用いて測定できる。
【0026】
本発明のファクターCは、ファクターCの活性を有する限り、配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含む配列を有するタンパク質であってもよい。前記「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、例えば、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持
つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみ
なされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへ
の置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys
、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met
、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu
、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記の
ようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来するカブトガニの個体差、株、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異も含まれる。
【0027】
また、本発明のファクターCは、上記のようなファクターCのアミノ酸配列全体、例えば配列番号2に示すアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性または同一性を有し、かつ、ファクターCの活性を有するタンパク質であってもよい。
【0028】
本発明のファクターCをコードする遺伝子は、上記のような本発明のファクターCをコードする限り特に制限されない。本発明のファクターCをコードする遺伝子は、公知の遺伝子配列から調製され得るプローブ、例えば配列番号1に示す塩基配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ファクターCの活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは、60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1%
SDSに相当する塩濃度、温度で、1回、より好ましくは2~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0029】
また、本発明のファクターCをコードする遺伝子は、コドンの組み合わせを昆虫細胞での発現に最適化するよう変更してもよい。最適化は、例えば一般の受託サービスを利用して行うことができる。なお、本発明のファクターCをコードする遺伝子は、コドンの組み合わせが昆虫細胞での発現に最適化されたDNAのバリアントであってもよい。
【0030】
なお、上記の遺伝子やタンパク質のバリアントに関する記載は、本発明のファクターBおよびプロクロッティングエンザイム、並びにそれらをコードする遺伝子にも同様に適用できる。
【0031】
本発明のファクターBは、カブトガニ由来のファクターBである。また、本発明のプロクロッティングエンザイムは、カブトガニ由来のプロクロッティングエンザイムである。カブトガニとしては、日本産カブトガニであるタキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)、アメリカ産カブトガニであるリムルス・ポリフェムス(Limulus polyphemus)、東南アジア産カブトガニであるカルシノスコルピウス・ロツンディカウダ(Carcinoscorpius rotundicauda)、東南アジア産カブトガニであるタキプレウス・ギガス(Tachypleus gigas)が挙げられる。これらの中では、日本産カブトガニであるタキプレウス・トリデンタツス由来であるのが好ましい。
【0032】
タキプレウス・トリデンタツスのファクターB、プロクロッティングエンザイムのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号4、6に示す。また、タキプレウス・トリデンタツスのファクターB、プロクロッティングエンザイムをコードする遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号3、5に示す。
【0033】
本発明のファクターBは、ファクターBの活性を有する限り、上記各種カブトガニのファクターB、例えば配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質のバリアントであってもよい。また、本発明のファクターBをコードする遺伝子は、上記のような本発明のファクターBをコードする限り特に制限されない。遺伝子やタンパク質のバリアントについては、上述のファクターCに関する記載が準用される。
【0034】
ファクターBの活性とは、活性型ファクターCの存在下で活性型となり、プロクロッティングエンザイムを活性型であるクロッティングエンザイムに変化させる活性をいう。「ファクターBの活性を有する」ことは、例えば、本発明のファクターBを、好適なファクターCおよび好適なプロクロッティングエンザイムと組み合わせた際に、エンドトキシンの存在下でカスケード反応の進行を検出することにより確認できる。具体的には、好適なファクターCとして配列番号2のタンパク質を、好適なプロクロッティングエンザイムとして配列番号6のタンパク質を使用できる。カスケード反応の進行は、後述する検出用基質を用いて測定できる。
【0035】
本発明のプロクロッティングエンザイムは、プロクロッティングエンザイムの活性を有する限り、上記各種カブトガニのプロクロッティングエンザイム、例えば配列番号6に示すアミノ酸配列を有するタンパク質のバリアントであってもよい。また、本発明のプロクロッティングエンザイムをコードする遺伝子は、上記のような本発明のプロクロッティングエンザイムをコードする限り特に制限されない。遺伝子やタンパク質のバリアントについては、上述のファクターCに関する記載が準用される。
【0036】
プロクロッティングエンザイムの活性とは、活性型ファクターBの存在下で活性型であるクロッティングエンザイムとなり、後述する検出用基質と反応する活性をいう。検出用基質と反応する活性とは、例えばコアギュローゲンと反応し凝固を引き起こす活性や、Boc-Leu-Gly-Arg-pNAと反応しpNAを遊離させる活性をいう。「プロクロッティングエンザイムの活性を有する」ことは、例えば、本発明のプロクロッティングエンザイムを、好適なファクターCおよび好適なファクターBと組み合わせた際に、エンドトキシンの存在下でカスケード反応の進行を検出することにより確認できる。具体的には、好適なファクターCとして配列番号2のタンパク質を、好適なファクターBとして配列番号4のタンパク質を使用できる。カスケード反応の進行は、後述する検出用基質を用いて測定できる。
【0037】
本発明のファクターBおよび/または本発明のプロクロッティングエンザイムは、それぞれファクターBの活性、プロクロッティングエンザイムの活性を有する限り、任意のペプチド等が付加されていてもよい。そのようなペプチドとしては、HisタグやV5タグ等のタグ配列が挙げられる。本発明のファクターBおよび/または本発明のプロクロッティングエンザイムも、本発明のファクターCと同様に、C末端にHisタグが付加されていないもの、C末端にV5タグが付加されていないもの、C末端にペプチドが一切付加されていないもの、両末端ともペプチドが一切付加されていないもの、のいずれを採用してもよい。
【0038】
また、本発明のファクターBをコードする遺伝子および/または本発明のプロクロッティングエンザイムをコードする遺伝子は、コドンの組み合わせを昆虫細胞での発現に最適化するよう変更してもよい。配列番号4のファクターBをコードし、且つコドンの組み合
わせが昆虫細胞での発現に最適化されたDNAとしては、配列番号8のDNAが挙げられる。配列番号6のプロクロッティングエンザイムをコードし、且つコドンの組み合わせが昆虫細胞での発現に最適化されたDNAとしては、配列番号9のDNAが挙げられる。なお、本発明のファクターBをコードする遺伝子および/または本発明のプロクロッティングエンザイムをコードする遺伝子は、コドンの組み合わせが昆虫細胞での発現に最適化されたDNAのバリアントであってもよい。
【0039】
本発明のエンドトキシン測定剤は、本発明のファクターC、本発明のファクターB、および本発明のプロクロッティングエンザイムのみを含有していてもよい。
【0040】
本発明のエンドトキシン測定剤は、カスケード反応の進行を検出するための基質を含有してもよい。本発明において、そのような基質を検出用基質という場合がある。
【0041】
検出用基質としては、コアギュローゲンが挙げられる。コアギュローゲンとクロッティングエンザイムが接触することで、コアギュリンとして凝固する。凝固反応の進行は反応液の濁度を測定することで測定することができる。コアギュローゲンはカブトガニ血球抽出液(ライセート)から回収することができる。また、コアギュローゲンをコードする遺伝子の塩基配列は明らかになっており(宮田ら、蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.29; P30-43; 1986)、常法に従い遺伝子工学的に生産することもできる。
【0042】
また、検出用基質としては、合成基質を用いてもよい。合成基質は、クロッティングエンザイムの触媒反応により発色する性質または蛍光を発する性質等の検出に好適な性質を有する限り特に制限されない。合成基質としては、例えば、一般式X-Y-Z(式中、Xは保護基、Yはペプチド、ZはYとアミド結合した色素である)で表される基質が挙げられる。反応系にエンドトキシンが存在する場合には、カスケード反応の結果として生ずるクロッティングエンザイムの触媒反応によりY-Z間のアミド結合が切断され、色素Zが遊離して発色する、あるいは蛍光を発する。保護基Xとしては、特に制限されず、ペプチドの公知の保護基を好適に用いることができる。そのような保護基としては、t-ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基が挙げられる。色素Zは、特に制限されず、例えば、可視光下で検出される色素であってもよく、蛍光色素であってもよい。色素Zとしては、pNA(パラニトロアニリン)、MCA(7-メトキシクマリン-4-酢酸)、DNP(2,4-ジニトロアニリン)、Dansyl(ダンシル)系色素が挙げられる。ペプチドYとしては、Leu-Gly-Arg(LGR)、Ile-Glu-Gly-Arg(IEGR)(配列番号12)、Val-Pro-Arg(VPR)が挙げられる。遊離した色素Zは、色素の性質に応じた手法により測定すればよい。
【0043】
また、本発明のエンドトキシン測定剤は、エンドトキシンの測定に用いることができる限り、各因子や検出用基質以外の成分を含有していてもよい。そのような成分は、保存性、取扱い易さ、各因子や検出用基質の安定性などを考慮して選定すればよく、特に限定されるものではない。本発明のエンドトキシン測定剤は、例えば、pH緩衝剤や塩類を含有していてもよい。pH緩衝剤としては、HEPESバッファー、MESバッファー、Trisバッファー、GTA広域バッファー等が挙げられる。本発明のエンドトキシン測定剤は、例えば、アルコール類、エステル類、ケトン類、アミド類等の有機溶媒を含有させることもできる。
【0044】
また、本発明のエンドトキシン測定剤は、固体状、液体状、ゲル状等の任意の形態で製剤化されていてもよい。製剤化にあたっては、製剤担体として通常使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、又は溶剤等の添加剤を使用することができる。本発明のエンドトキシン測定剤は、そのまま、あるいは水、生理食塩水、緩衝液等を用いて希釈、分散、又は溶解し、エンドトキシンの測定に利用でき
る。このように希釈、分散、又は溶解等した場合にも、本発明のエンドトキシン測定剤の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0045】
本発明のエンドトキシン測定剤において、各因子やその他の成分は、混合して存在していてもよく、それぞれ別個に存在していてもよい。例えば、各因子は、任意の比率で混合され製剤化されていてもよく、それぞれ別個に製剤化されていてもよい。
【0046】
本発明のエンドトキシン測定剤における各因子やその他の成分の濃度は特に制限されないが、エンドトキシンを測定する際に、後述する好ましい濃度範囲に収まるよう調整されるのが好ましい。本発明のエンドトキシン測定剤(被験試料に接触させる前に溶液にしたもの)における各因子の濃度は、例えば20~100μg/mLであるのが好ましく、40
~80μg/mLであるのがより好ましく、約60μg/mLであるのが特に好ましい。
【0047】
本発明のエンドトキシン測定剤は、エンドトキシン測定用キットとして提供することができる。エンドトキシン測定用キットは、本発明のエンドトキシン測定剤を含む限り特に制限されない。
【0048】
(2)本発明のエンドトキシン測定剤の製造法
本発明のエンドトキシン測定剤に含まれる各因子は、昆虫細胞をホストとして用いて発現することで製造できる。
【0049】
昆虫細胞としては、各因子を発現できる限り特に制限されず、異種タンパク質の発現に通常用いられるものを好適に利用できる。そのような昆虫細胞としては、Sf9、Sf21、SF+、High-Fiveが挙げられる。昆虫細胞としては、Sf9が好ましい。
【0050】
昆虫細胞を培養する際の培養条件は、昆虫細胞が増殖できる限り特に制限されず、昆虫細胞の培養に通常用いられる条件を、必要により適宜修正して用いることができる。例えば、培地としては昆虫細胞の培養に通常用いられる培地を用いることができる。そのような培地としては、例えば市販の昆虫細胞用の無血清培地が挙げられる。具体的には、Sf
900 II培地(インビトロジェン(Invitrogen)社)等を好適に用いることができる。培養は、例えば、27℃~28℃で、振とう培養により行うことができる。
【0051】
昆虫細胞をホストとして用いて各因子を発現する手法は、各因子を発現できる限り特に制限されず、異種タンパク質の発現に通常用いられる手法を好適に利用できる。例えば、各因子をコードする遺伝子を組み込んだウイルスを昆虫細胞に感染させることで各因子を発現させることができる(ウイルス法)。また、各因子をコードする遺伝子を組み込んだベクターを昆虫細胞に導入し、ホストの染色体上に当該遺伝子を組み込むことで各因子を発現させることができる(安定発現細胞株法)。
【0052】
<ウイルス法>
ウイルス法に用いるウイルスは、昆虫細胞に感染し各因子を発現させることができる限り特に制限されず、昆虫細胞でのタンパク質の発現に通常用いられるものを好適に利用できる。そのようなウイルスとしては、バキュロウイルス(Baculovirus)が挙げられる。
バキュロウイルスとしては、核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus;NPV)が好ま
しい。NPVとしては、AcNPV(Autographa californica NPV)、BmNPV(Bombix mori NPV)が挙げられる。NPVとしては、AcNPVが好ましい。
【0053】
ウイルスへの核酸の導入は常法により行うことができ、例えば、トランスファーベクターを用いた相同的組換えにより行うことができる。トランスファーベクターとしては、pPSC8(プロテインサイエンス(Protein Sciences)社)、pFastBac(インビトロジェン(I
nvitrogen)社)、pVL1393(ファーミンジェン(Pharmingen)社)が挙げられる。トランスファーベクターとしては、pPSC8が好ましい。
【0054】
各因子をコードする遺伝子を組み込んだウイルスを常法により昆虫細胞に感染させることで、当該ウイルスを保持し、各因子を発現する昆虫細胞が得られる。
【0055】
<安定発現細胞株法>
各因子をコードする遺伝子を昆虫細胞の染色体上に組み込むことで、各因子を安定に発現する安定発現細胞株が得られる。安定発現細胞株の構築手法は、特に制限されず、常法により行うことができる。例えば、pIZ/V5-Hisベクター(インビトジェン(Invitrogen)社)を用いて、マニュアルに従って安定発現細胞株を構築することができる。
【0056】
いずれの場合にも、発現するファクターCのC末端にHisタグが付加されないよう発現細胞を構築する。また、ファクターCのC末端のHisタグに限られず、ペプチドを付加せずに各因子を発現する場合には、ペプチドが付加されないよう発現細胞を構築すればよい。
【0057】
いずれの場合にも、各因子は単一の発現細胞によりまとめて発現してもよく、因子毎に発現細胞を構築しそれぞれ別個に発現させてもよい。
【0058】
各因子が発現しているかどうかは、各因子の活性を測定することにより確認できる。また、各因子が発現しているかどうかは、各因子をコードする遺伝子から転写されるmRNAの量を測定することや、抗体を用いてウエスタンブロットにより各因子を検出することでも確認できる。
【0059】
発現した各因子は、当該各因子を含有する溶液として回収し、本発明のエンドトキシン測定剤の成分として利用できる。各因子を含有する溶液とは、例えば、培養液、培養上清、細胞破砕抽出物、またはそれらの混合物等でありうる。各因子は、精製して用いてもよく、精製せずに用いてもよい。本発明では、各因子を精製することなく、発現された各因子を含有する細胞培養上清液をそのまま用いても、十分に性能が高いエンドトキシン測定剤を提供することができる。各因子を精製する場合には、各因子の精製は、例えばタンパク質の精製に用いられる公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー等が挙げられる。各因子に、Hisタグ等のタグを付加している場合には、当該タグに対する親和性を利用したアフィニティークロマトグラフィーにより各因子を精製することもできる。
【0060】
各因子がウイルス法により製造された場合には、ウイルスの除去を行うことが好ましい。ウイルスを除去する手法は特に制限されず常法により行うことができる。例えば、ポアサイズ500kDaの中空糸濾過膜によりウイルスを除去することができる。
【0061】
(3)本発明のエンドトキシン測定法
本発明のエンドトキシン測定剤を被験試料と混合することにより、被験試料にエンドトキシンが含まれる場合にはカスケード反応が進行する。カスケード反応の進行を測定することにより、被験試料中のエンドトキシンを測定することができる。すなわち、本発明は、本発明のエンドトキシン測定剤と被験試料とを混合する工程、およびカスケード反応の進行を測定する工程を含む被験試料中のエンドトキシン測定法(以下、第1の態様ともいう)を提供する。
【0062】
第1の態様において、本発明のエンドトキシン測定剤に含まれる各因子は、本発明のエ
ンドトキシン測定剤を被験試料と混合する工程の当初から反応系に含まれていてもよく、逐次反応系に添加されてもよい。
【0063】
例えば、本発明のエンドトキシン測定剤を被験試料と混合する工程は、以下の工程(A)~(C)を含んでいてもよい。
(A)本発明のファクターCを反応系に添加する工程。
(B)本発明のファクターBを反応系に添加する工程。
(C)本発明のプロクロッティングエンザイムを反応系に添加する工程。
【0064】
工程(A)~(C)は別個に行われてもよく、一部同時に行われてもよく、全て同時に行われてもよい。工程(A)~(C)は任意の順番で行われてよい。例えば、工程(A)の後に工程(B)が行われ、工程(B)の後に工程(C)が行われてもよい。
【0065】
第1の態様において、カスケード反応の進行は、検出用基質を反応系に添加し、当該基質の反応(発色や凝固等)を測定することで測定できる。検出用基質は、本発明のエンドトキシン測定剤を被験試料と混合する工程の当初から反応系に含まれていてもよく、当該工程の進行中または完了後に反応系に添加されてもよい。本発明のエンドトキシン測定剤として、検出用基質を予め含有しているものを用いる場合も、当然、第1の態様に包含される。
【0066】
また、被験試料にエンドトキシンが含まれる場合にカスケード反応が進行する限り、本発明のファクターBおよびプロクロッティングエンザイム自体は、被験試料と接触しなくともよい。すなわち、本発明のエンドトキシン測定法の別の態様(以下、第2の態様ともいう)は、以下の工程(A)~(D)を含む被験試料中のエンドトキシン測定法である。(A)本発明のファクターCと被験試料とを混合する工程。
(B)本発明のファクターBと、工程Aの混合後のファクターCとを混合する工程。
(C)本発明のプロクロッティングエンザイムと、工程Bの混合後のファクターBとを混合する工程。
(D)カスケード反応の進行を測定する工程。
【0067】
第2の態様において、工程(A)~(D)は別個に進行してもよく、一部同時に進行してもよく、全て同時に進行してもよい。例えば、工程Aを開始し、当該工程の進行中または完了後にファクターBやプロクロッティングエンザイムを反応系に添加してもよい。また、工程Bを開始し、当該工程の進行中または完了後にプロクロッティングエンザイムを反応系に添加してもよい。また、工程Aの当初から3種の因子全てが反応系に含まれていてもよい。また、例えば、工程Aの接触後のファクターCを回収して工程Bに用いてもよく、工程Bの接触後のファクターBを回収して工程Cに用いてもよい。
【0068】
第2の態様において、カスケード反応の進行は、検出用基質を反応系に添加し、当該基質の反応(発色や凝固等)を測定することで測定できる。検出用基質は、工程Aの当初から反応系に含まれていてもよく、各工程の進行中または完了後に反応系に添加されてもよい。
【0069】
本発明のエンドトキシン測定法は、被験試料にエンドトキシンが含まれる場合にカスケード反応が進行する限り、その他の任意の工程を含んでいてよい。例えば、本発明のエンドトキシン測定法は、反応系に検出用基質を添加する工程、あるいは、カスケード反応により生じたクロッティングエンザイムと検出用基質とを混合する工程を含んでいてもよい。また、例えば、本発明のエンドトキシン測定法は、検出用基質の反応に基づき、被験試料中のエンドトキシン量を算出する工程を含んでいてもよい。
【0070】
本発明のエンドトキシン測定法において、反応は水あるいは緩衝液等の水性溶媒中で行われるのが好ましい。
【0071】
本発明のエンドトキシン測定法において、反応液中での各因子の濃度は、被験試料にエンドトキシンが含まれる場合にカスケード反応が進行する限り特に限定されず、各因子の性質等に応じて適宜設定することができる。例えば、各因子の濃度は、終濃度で、例えば通常10~50μg/mLであり、20~40μg/mLであるのが好ましく、約30μg/mL
であるのがより好ましい。
【0072】
本発明のエンドトキシン測定法において、反応液中での検出用基質の濃度は、被験試料にエンドトキシンが含まれる場合にカスケード反応が進行する限り特に限定されず、検出用基質の性質等に応じて適宜設定することができる。例えば、検出用基質が合成基質である場合には、検出用基質の濃度は、終濃度で、例えば通常0.001mM~100mMであり、0.01mM~10mMであるのが好ましい。
【0073】
いずれの態様においても、被験試料にエンドトキシンが含まれる場合にカスケード反応が進行する限り、反応系には、第1の態様におけるエンドトキシン測定剤あるいは第2の態様における各因子、検出用基質、および被験試料以外に、任意の成分が含まれていてもよい。例えば、反応系には、pH緩衝剤や塩類が含まれていてもよい。pH緩衝剤としては、HEPESバッファー、MESバッファー、Trisバッファー、GTA広域バッファー等が挙げられる。また、反応系には、例えば、アルコール類、エステル類、ケトン類、アミド類等の有機溶媒が含まれていてもよい。
【0074】
反応液のpHは、被験試料にエンドトキシンが含まれる場合にカスケード反応が進行する限り特に限定されず、各因子の性質に応じて適宜設定することができる。反応液のpHは、例えば、通常pH5~10であり、好ましくは7~8.5である。
【0075】
反応温度は、被験試料にエンドトキシンが含まれる場合にカスケード反応が進行する限り特に限定されず、各因子の性質に応じて適宜設定することができる。反応温度は例えば通常10℃~80℃であり、好ましくは20℃~50℃である。例えば、反応温度は室温であってもよい。
【0076】
反応時間は特に限定されず、各因子の性質や反応温度等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。反応時間は例えば通常5分~1時間であり、好ましくは15分~45分である。例えば、反応時間は30分であってもよい。
【0077】
いずれの態様においても、反応の過程において、被験試料、各因子、およびその他の成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで追加的に反応系に添加してもよい。これらの成分は1回または複数回添加されてもよく、連続的に添加されてもよい。また、反応開始から反応終了まで均一の条件を用いてもよく、反応の過程において条件を変化させてもよい。
【0078】
検出用基質の反応(発色や凝固等)を測定することで、エンドトキシンの存在に基づくカスケード反応の進行を測定することができ、被験試料中のエンドトキシンを測定することができる。検出用基質の反応(発色や凝固等)は、用いた検出用基質に応じた手法により測定すればよい。
【0079】
エンドトキシンの測定を定量的に行う場合には、濃度既知のエンドトキシン標準試料を用いてエンドトキシン量と検出用基質の反応の程度(発色や凝固等の程度)との間の相関データを取得し、当該相関データに基づき被験試料に存在するエンドトキシンを定量すれ
ばよい。相関データとは、例えば検量線である。定量はカイネティック法により行ってもよく、エンドポイント法によって行ってもよい。
【0080】
エンドトキシンの測定を行うことのできる被験試料としては、特に制限されず、医療用水、医薬品、輸液、血液製剤、医療機器、医療器具、化粧品、飲食品、環境試料(例えば、空気、河川、土壌)、生体成分(例えば、血液、体液、組織)、天然のタンパク質、組み換えタンパク質、核酸、糖質等が挙げられる。被験試料は、それ自体を、あるいはその抽出物や洗浄液を反応系に混合、分散、又は溶解し、エンドトキシンの測定に供することができる。
【実施例
【0081】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0082】
実施例1:本発明のエンドトキシン測定剤の製造
(1-1)ウイルスを利用した方法(以下、「ウイルス法」ともいう)
本実施例では、ファクターC、ファクターB、プロクロッティングエンザイムのそれぞれをコードする遺伝子を組み込んだ組換えバキュロウイルスを利用して、昆虫細胞で各因子を発現させ、エンドトキシン測定剤を製造した。
【0083】
(1-1-1)組換えバキュロウイルスの作製
Hisタグ付ファクターCをコードするDNA(Hisタグ付ファクターC遺伝子)として、配列番号7のDNAを、一般の受託サービス(タカラバイオ)を利用して全合成した。当該Hisタグ付ファクターCは、配列番号2に示す日本産カブトガニのファクターCのC末端に6×Hisタグが付加されたものである。当該DNAをトランスファーベクターpPSC8(プロテインサイエンス(Protein Sciences)社)の制限酵素NruIとSmaI認識部位間に挿入し、組換え用ベクターを得た。当該組換え用ベクターを用いて、Hisタグ付ファクターC遺伝子をバキュロウイルスAcNPVに組み込み、組換えバキュロウイルスを作製した。
【0084】
さらに、プライマーFC-N-Pst(配列番号10)およびプライマーFC-notag-R-Bam(配列番号11)を用い、上述のHisタグ付ファクターCをコードするDNAを鋳型にしてPCRをおこない、Hisタグ配列をコードする3’末端部位の塩基配列を除去したファクターCをコードするDNA(HisタグなしファクターC遺伝子)を作製した。当該DNAは、C末端にHisタグの付加されていない配列番号2に示す日本産カブトガニのファクターCをコードする。当該HisタグなしファクターC遺伝子についても上記と同様の方法で組換えバキュロウイルスを作製した。
【0085】
ファクターBをコードするDNA(ファクターB遺伝子)として、配列番号8のDNAを、一般の受託サービス(タカラバイオ)を利用して全合成した。当該DNAは、配列番号4に示す日本産カブトガニのファクターB(Hisタグなし)をコードし、コドンの組み合わせが昆虫細胞での発現に最適化されている。当該ファクターB遺伝子についても上記と同様の方法で組換えバキュロウイルスを作製した。ただし、pPSC8ベクターへの挿入位置を、制限酵素PstIとKpnI認識部位の間とした。
【0086】
プロクロッティングエンザイムをコードするDNA(プロクロッティングエンザイム遺伝子)として、配列番号9のDNAを、一般の受託サービス(タカラバイオ)を利用して全合成した。当該DNAは、配列番号6に示す日本産カブトガニのプロクロッティングエンザイム(Hisタグなし)をコードし、コドンの組み合わせが昆虫細胞での発現に最適化されている。当該プロクロッティングエンザイム遺伝子についても上記と同様の方法で
組換えバキュロウイルスを作製した。ただし、pPSC8ベクターへの挿入位置を、制限酵素XbaIとBglII認識部位の間とした。
【0087】
(1-1-2)組換えバキュロウイルスの昆虫細胞(Sf9細胞)への感染
Sf9細胞(ノバジェン(Novagen)社)を、1.5×10細胞/mLとなるように
培地に播種し、これに、前記Hisタグ付ファクターCをコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルスを添加して、ウイルスを細胞に感染させた。Sf9細胞用の培地として、抗生物質(抗生物質-抗真菌剤(x100);インビトロジェン(Invitrogen)社)(終濃度x1)を含有するSf900 II培地(インビトロジェン(Invitrogen)社)(1L)を用いた。また、ウイルスの多重感染度(MOI)は、1.0とした。その後、これにより得られた細胞を28℃で48時間、振とう培養した。
【0088】
同様に、HisタグなしファクターCをコードするDNAが導入されたウイルスについてもSf9細胞への感染を行った。
【0089】
また、ファクターBをコードするDNAが導入されたウイルス、プロクロッティングエンザイムをコードするDNAが導入されたウイルスのそれぞれについてもSf9細胞への感染を行ったが、MOIを0.5、培養時間を72時間とした。
【0090】
(1-1-3)発現された組換えタンパク質溶液の回収
前記培養後の各々の培養液を、4℃で、3000×g、30分間遠心分離し、得られた各上清を-80℃で保存した。
【0091】
(1-1-4)組換えタンパク質溶液からの不純物およびウイルス除去
前記凍結保存していた各上清を融解し、ポアサイズ0.1μmのフィルター(カップフィルター(ミリポア(Millipore)社))にアプライして、吸引圧力でろ過し、膜を通過
した溶液を回収した。回収された各上清を、ポアサイズ500kDaの中空糸ろ過膜(ポリエーテルスルホン製の中空糸膜;スペクトラムラボラトリーズ(Spectrumlabs)社)にアプライし、Kros Flow TFFポンプろ過システム(スペクトラムラボラトリーズ(Spectrumlabs)社)を用いてろ過し、通過した各溶液を回収した。
【0092】
(1-1-5)試薬調製
前記(1-1-4)で得られた各溶液(ファクターC、ファクターB、又はプロクロッティングエンザイムを含有する)を560mL、蒸留水134mL、6.66mMの合成基質(Boc-Leu-Gly-Arg-pNA)水溶液126mL(終濃度0.3mM)、及び15%デキストラン水溶液560mL(終濃度3%)を4℃下で混合した。この混合液を5mLずつバイアルに分注し、凍結乾燥させて、エンドトキシン測定剤1とした。
【0093】
(1-2)プラスミドを利用した方法(以下、「安定発現細胞株法」ともいう)
本実施例では、ファクターC、ファクターB、プロクロッティングエンザイムのそれぞれをコードする遺伝子を昆虫細胞の染色体に組み込んで安定発現細胞株を構築し、各因子を発現させてエンドトキシン測定剤を製造した。
【0094】
(1-2-1)安定発現細胞株の作製および培養
上述のウイルス法で用いたHisタグなしファクターC遺伝子、ファクターB遺伝子(配列番号8)、およびプロクロッティングエンザイム遺伝子(配列番号9)の各々を、pIZベクターキット(インビトロジェン(Invitrogen)社)を用いてSf9細胞(インビトロジェン(Invitrogen)社)に導入した。
【0095】
具体的には、まず、同キットにおけるベクターpIZ/V5-His中のEcoRVとMluI認識部位の間に前記DNAを各々組み込み、各々同キットにおけるセルフェクチンと混合後、各々Sf9細胞に導入した。pIZ/V5-Hisへの前記DNAの組み込み位置等を図2に示す。図2中の最上部にある太い矢印部分に、前記DNAのいずれかが組み込まれる。Sf9細胞用の培地として、抗生物質(抗生物質-抗真菌剤(x100);インビトロジェン(Invitrogen)社)(終濃度x1)、Zeocin抗生物質(インビトロジェン(invitrogen)社)(終濃度50μg/mL)を含有するSf900 III
培地(Invitrogen)を用いた。これにより得られた各DNAが導入された細胞株を、6×10細胞/mL(1L)となるように前記培地で調製し、28℃で96時間、振とう培養した。
【0096】
なお、pIZ/V5-HisにはHisタグ配列が含まれているが、前記DNAはいずれもストップコドンを有しているため、ファクターC、ファクターB、及びプロクロッティングエンザイムは、いずれも、Hisタグが付加されない形で発現される。
【0097】
(1-2-2)組換えタンパク質溶液の回収、不純物除去、試薬調製
前記培養後の各々の培養液につき、上述のウイルス法の「(1-1-3)発現された組換えタンパク質溶液の回収」、「(1-1-4)組換えタンパク質溶液からの不純物・ウイルス除去」、「(1-1-5)試薬調製」と同様に処理した。ただし、「(1-1-4)組換えタンパク質溶液からの不純物・ウイルス除去」における中空糸ろ過膜を用いたろ過のプロセスは行わなかった。これにより得られた測定剤を、エンドトキシン測定剤2とした。
【0098】
実施例2:発現されたタンパク質の諸性質等
(2-1)ファクターCの発現量比較
ウイルス法及び安定発現細胞株法により得られたHisタグが付加されていないファクターC、並びに、ウイルス法により得られたHisタグ付ファクターCについて、各々の発現量を比較した。
【0099】
発現量は、実施例1におけるろ過後・試薬調製前に相当する溶液を、それぞれ0.5、1.5、5、又は15μL分取し、これをSDS存在下、5-20%ポリアクリルアミドゲ
ル電気泳動(非還元条件下)に供した後、抗ファクターC抗体(2C12、国立大学法人九州大学 大学院 理学研究院 生物化学部門 川畑 俊一郎教授より入手)を用いたウエスタンブロット法により評価した。
【0100】
結果を図3に示す。その結果、Hisタグが付加されていないファクターCの発現量は、Hisタグ付ファクターCの発現量よりも少なかった。また、図3のウエスタンブロットのバンドの濃さをデンシトメーターで測定し、その相対値から、各ファクターCの濃度が等しくなる各々の溶液量比を求めた。かかる量比は、ウイルス法により得られたファクターC(Hisタグなし)が50、安定発現細胞株法により得られたファクターC(Hisタグなし)が17、ウイルス法により得られたHisタグ付ファクターCが7であった。
【0101】
(2-2)ファクターCの活性比較
前記各ファクターC溶液につき、ファクターCの量を揃えて、プロクロッティングエンザイムの活性化能を調べた。
【0102】
具体的には、まず、ウイルス法により得られたHisタグ付ファクターC溶液(0.7μL又は5μL)、ウイルス法により得られたファクターC(Hisタグなし)溶液(5
μL)、安定発現細胞株法により得られたファクターC(Hisタグなし)溶液(1.7μL)を、各々96穴プレートのウェルに入れた。次に、各ウェルの全量が100μLとなるように、実施例1のウイルス法の(1-1-4)における0.1μmのフィルター通過後に得られたファクターB含有溶液(5μL)、プロクロッティングエンザイム含有溶液(5μL)、およびBoc-Leu-Gly-Arg-pNA(終濃度0.3mM)、Tris-HCl(pH8.0)(終濃度100mM)、エンドトキシン(製品名 USP-Reference Standard Endotoxin、生化学バイオビジネス(株)販売)(検体濃度0、0.05又は0.5EU/mL)50μLをウェルに添加し、混合した後、37℃で3時間インキュベートして、経時的に405nmの吸光度を測定した。陰性対照として蒸留水を用いた。かかる吸光度の増加の速度(吸光度変化率)は、プロクロッティングエンザイムの活性化能を反映する。なお、「EU」とは「エンドトキシンユニット」であり、エンドトキシン量を示す単位である(以下、同じ)。
【0103】
結果を図4に示す。図4中、「DW」は蒸留水を、「Virus + His tag(x1)」はウイルス法により得られたHisタグ付ファクターC溶液(0.7μL)を、「Virus + His tag(x7)」は同溶液(5μL)を、「Virus No tag(x1)」はウイルス法により得られたファクターC(Hisタグなし)溶液を、「Stable Sf9 No tag(x1)」は安定発現細胞株法により得られたファクターC(Hisタグなし)溶液をそれぞれ示す。
【0104】
その結果、Hisタグ付ファクターC溶液は、ファクターCの量を揃えたもの(0.7μL)のみならず、その量を約7倍にしたもの(5μL)についても、プロクロッティングエンザイムの活性化は見られないか、極わずかであった。一方、Hisタグが付加されていないファクターCは、ウイルス法により得たもの、安定発現細胞株法により得たものを問わず、顕著なプロクロッティングエンザイムの活性化能を示した。
【0105】
以上の結果から、Hisタグ配列を付加しない形で発現させた組換えファクターC分子は、Hisタグ配列を付加した形で発現させた組換えファクターC分子よりも、はるかに強いプロクロッティングエンザイム活性化能を有することが示された。また、発現させた各タンパク質を、精製することなく、培養上清に含有されている状態のままで使用できることが示された。
【0106】
(2-3)発現されたファクターCの安定性比較
(2-3-1)ウイルス法により発現されるファクターCの安定性
実施例1のウイルス法の(1-1-2)のウイルス感染細胞を28℃で振とう培養する工程において、培養後48時間、72時間、96時間の各タイミングで上清を回収し、これをSDS存在下、5-20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(非還元条件下)に供した
後、抗ファクターC抗体(2C12。前記と同じ。)を用いたウエスタンブロット法によりファクターCの残存量を評価した。また、別途、ウイルス感染後24時間目に培養液にプロテアーゼ阻害剤(終濃度0.5μg/mLのロイペプチン+終濃度0.7μg/mLのペプスタチンA)を添加したものについても、同様にサンプリングして分析した。
【0107】
結果を図5に示す。その結果、ウイルス法で発現されたファクターCは、培養時間とともに分解することが示された。また、プロテアーゼ阻害剤を添加したものについても、ある程度分解していることが示された。
【0108】
(2-3-2)安定発現細胞株法により発現されるファクターCの安定性
同様に、実施例1の安定発現細胞株法の(1-2-1)の安定発現細胞株を28℃で振とう培養する工程において、培養後72時間、96時間、120時間、144時間、168時間の各タイミングで上清を回収し、これをSDS存在下、5-20%ポリアクリルアミ
ドゲル電気泳動(非還元条件下)に供した後、抗ファクターC抗体(2C12。前記と同じ。)を用いたウエスタンブロット法によりファクターCの残存量を評価した。また、ウイルス法の培養後48時間目の上清についても、併せてアプライした。
【0109】
結果を図6に示す。その結果、安定発現細胞株法で発現されたファクターCは、プロテアーゼ阻害剤の非存在下で168時間経過しても分解されなかった。このことから、安定発現細胞株法を採用すると、ファクターCの分解を阻止できることが示された。
【0110】
(2-4)中空糸膜ろ過による処理の要否の検討
ウイルス法における、(1-1-4)の中空糸ろ過膜による処理の必要性を検討した。(1-1-4)における中空糸膜ろ過前の各溶液、同ろ過後の各溶液(3ロット)を用いて、前記(2-2)と同様の方法で、エンドトキシン(USP-RSE)を終濃度0又は0.05EU/mL添加した場合の、吸光度の増加の速度(吸光度変化率)を測定した。
【0111】
結果を図7に示す。なお図7中の「未ろ過液」は、ろ過されずに中空糸膜カートリッジ内に残存した溶液を示す。その結果、中空糸膜ろ過後の各溶液を用いた場合には、エンドトキシンが0EU/mLである場合にはプロクロッティングエンザイムの活性化の程度が低く(換言すれば、エンドトキシン測定時のブランク値が低く)、良好な結果が得られた。一方、中空糸膜ろ過前の各溶液(「ろ過前」、「未ろ過液」)を用いた場合には、エンドトキシンが0EU/mLである場合においてもプロクロッティングエンザイムの活性化の程度が高く、エンドトキシン測定の際のブランク値が高くなってしまうことが明らかになった。
【0112】
一方、安定発現細胞株法によれば、このような中空糸ろ過膜によるろ過の工程を経なくても、エンドトキシンが0EU/mLにおけるプロクロッティングエンザイムの活性化(エンドトキシン測定時のブランク値)が低く抑えられていた(図4)。
【0113】
これらの結果から、ウイルス法を用いる場合には中空糸ろ過膜によるろ過が必須である反面、安定発現細胞株法によれば、かかるろ過が不要であることが示された。
【0114】
実施例3:本発明測定剤を用いたエンドトキシン測定
(3-1)エンドトキシン測定剤1を用いた測定
前記エンドトキシン測定剤1(凍結乾燥物)に、3.3mLの100mM Tris(pH8.0)緩衝液を添加して溶解した。この溶液中における、ファクターC、ファクターB及びプロクロッティングエンザイムを含む培養上清のタンパク質濃度は、各々、約60μg/mLである。
96穴マイクロタイタープレートのウェルに濃度0、0.001、0.01、又は0.1EU/mLのエンドトキシン溶液50μLを分注し、溶解したエンドトキシン測定剤溶液50μLを添加、混合した後、37℃で30分間インキュベートして、405nmにおける吸光度を経時的に測定することによる反応速度法により、エンドトキシン濃度を測定した。この反応液中における、ファクターC、ファクターB及びプロクロッティングエンザイムを含む培養上清のタンパク質濃度は、各々、約30μg/mLである。
【0115】
結果を図8に示す。その結果、ウイルス法で発現させた各因子を用いた場合、0.001~0.10EU/mLの範囲内で、エンドトキシン濃度の増加に応じて吸光度変化率が直線的に増加することが示された。
【0116】
(3-2)エンドトキシン測定剤2を用いた測定
前記エンドトキシン測定剤2(凍結乾燥物)に、3.3mLの100mM Hepes(pH7.6)緩衝液を添加して溶解した。この溶液中における、ファクターC、ファク
ターB及びプロクロッティングエンザイムを含む培養上清のタンパク質濃度は、各々、約60μg/mLである。
96穴マイクロタイタープレートのウェルに濃度0、0.0005、0.001、0.005、0.01、又は0.1EU/mLのエンドトキシン溶液50μLを分注し、溶解したエンドトキシン測定剤溶液50μLを添加、混合した後、37℃で30分間インキュベートして、405nmにおける吸光度を経時的に測定することによる反応速度法により、エンドトキシン濃度を測定した。この反応液中における、ファクターC、ファクターB及びプロクロッティングエンザイムを含む培養上清のタンパク質濃度は、各々、約30μg
/mLである。
【0117】
結果を図9に示す。その結果、安定発現細胞法で発現させた各因子を用いた場合、0.0005~0.1EU/mLの範囲内で、エンドトキシン濃度の増加に応じて吸光度変化率が直線的に増加することが示された。
【0118】
以上の結果から、いずれのエンドトキシン測定剤を用いた場合も、30分以内で、0.001EU/mLのエンドトキシンの定量が可能であった。さらに、エンドトキシン測定剤2を用いた場合、30分以内で、0.0005EU/mLのエンドトキシンが測定できた。したがって、本発明のエンドトキシン測定剤により、従来の手法(測定に1時間以上を要し、0.001EU/mLの検出感度を実現できていない)と比較して、短時間且つ高感度でのエンドトキシンの定量が可能であることが示された。また、いずれの場合も、発現された各因子について、精製を行うことなくそのまま測定剤に用いることができることが示された。
【0119】
実施例4:組換えFactor Cタンパク質と天然Factor Cタンパク質の活性の差
(4-1)組換えFactor Cタンパク質と天然Factor Cタンパク質の精製
抗Factor C抗体(2C12、前記と同様)2mgをセファロースカラム1ml(ジーイーヘル
スケア(GE helthcare)社)に共有結合させてFactor C抗体カラムを2本作製した。作製方法は添付の説明書に従った。上述「(1-2-2)組換えタンパク質の回収」と同様の処理で調製した安定発現細胞法由来の組換えFactor Cタンパク質を含む培養上清液76mLに等量の2M 塩化ナトリウムと2mMEDTAを含む20mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)を加えて薄めた後に、Factor C抗体カラム1本にかけた。カブトガニ血球細胞の抽出液76mLに対しても同様に等量の2M 塩化ナトリウムと2mMEDTAを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を添加
して薄めた後、もう一方のFactor C抗体カラムにかけた。両カラム共に、200mMまたは450mMの塩化ナトリウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、各20mLで順次洗浄後、50mM グリシン緩衝液(pH2.5)で溶出をおこなった。1M Trizma base(シグマ(Sigma)社)0.025mLを予め添加した1.5mLのチューブに対し、溶出画分1mLを回収して溶出液のpHを中
性に戻した。
【0120】
(4-2)精製した組換えおよび天然Factor Cタンパク質の濃度比較
精製した組換えおよび天然Factor Cタンパク質の溶出画分をSDS存在下、5-20%ポリアクリルアミド電気泳動(非還元条件下)で分離した。その際に同一ゲルに濃度が既知の精製牛血清アルブミン(=BSA)を濃度参照サンプルとして分離した(図10)。クマシーブリリアントブルー染色したゲルのBSAバンド強度をデンシトメーターで定量してBSAタンパク質濃度とプロットし検量線を作成した(図11)。精製したFactor Cのタンパク質のバンド強度と検量線から精製Factor Cタンパク質の濃度を概算した。その結果、精製サンプルについて、天然Factor Cタンパク質の方が組換えFactor Cタンパク質よりも約4倍濃度が
濃いことが判明した。
【0121】
(4-3)精製した組換えおよび天然Factor Cタンパク質の活性比較
精製した組換えおよび天然由来のFactor Cタンパク質を使用して、活性の比較をおこな
った。この際に(4-2)の結果より、精製Factor Cのタンパク質濃度を揃えた。96穴マイクロタイタープレートのウェルに濃度0、0.05、0.1、又は0.5EU/mLのエンドトキシン溶液50μLを分注した。Tris(pH8.0)緩衝液が50mM、精製Factor Cタンパク質が0.2μg/mL、組換えFactor Bと組換えプロクロッティングエンザイ
ムを含む培養上清がそれぞれ30μg/mL、合成基質Boc-Leu-Gly-Arg-pNAが0.3 mMになるように添加し、反応液の総体積が100μLになるように注射用水で調製した。37℃で30分間インキュベートして、405nmにおける吸光度を経時的に測定することによる反応速度法による解析をおこなった。
【0122】
その結果、精製した組換えFactor Cタンパク質の方が、精製した天然Factor Cタンパク質よりも約2倍活性が強いことが判明した(図12)。以上の結果は組換えFactor Cが天
然Factor Cよりも比活性が優れていることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、迅速且つ高感度にエンドトキシンを測定できる。また、本発明によれば、エンドトキシン測定剤を簡便、迅速、且つ安価に製造することができる。したがって、本発明は、エンドトキシンの検出において、極めて有効に利用できる。
【0124】
配列表の説明
配列番号1:日本産カブトガニのファクターC遺伝子のDNA配列
配列番号2:日本産カブトガニのファクターCのアミノ酸配列
配列番号3:日本産カブトガニのファクターB遺伝子のDNA配列
配列番号4:日本産カブトガニのファクターBのアミノ酸配列
配列番号5:日本産カブトガニのプロクロッティングエンザイム遺伝子のDNA配列
配列番号6:日本産カブトガニのプロクロッティングエンザイムのアミノ酸配列
配列番号7:Hisタグ付ファクターC遺伝子のDNA配列
配列番号8:昆虫細胞での発現にコドンを最適化したファクターB遺伝子のDNA配列
配列番号9:昆虫細胞での発現にコドンを最適化したプロクロッティングエンザイム遺伝子のDNA配列
配列番号10:HisタグなしファクターC遺伝子作成用プライマー
配列番号11:HisタグなしファクターC遺伝子作成用プライマー
配列番号12:ペプチド配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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