(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】分析システムの質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックするための技術
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20231024BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231024BHJP
H01J 49/42 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
H01J49/00 090
G01N27/62 B
H01J49/00 310
H01J49/00 500
H01J49/00 360
H01J49/42 150
(21)【出願番号】P 2022516616
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2020076027
(87)【国際公開番号】W WO2021053100
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-03-15
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】クイント,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シュバインベルガー,フロリアン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/081581(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析システムの質量分析計(MS:mass spectrometer)の質量軸(mass axis)較正の妥当性をチェックするための方法であって、
前記質量分析計を含む前記分析システムは、質量分析計が単一の測定プロセスにおいて1つの特定のサンプルを処理する所定の時間期間である特定のクロックに基づいて動作し、前記方法は、
前記質量分析計の所定のm/z測定範囲にわたる質量軸チェックサンプルを取得することと、
前記質量軸チェックサンプルを自動的に処理することと
を含んでおり、
前記質量軸チェックサンプルを自動的に処理することは、
測定データを取得するために、前記MSの前記所定のm/z測定範囲内の少なくとも2つの質量軸ポイントについて前記MSを使用して異なる種類の複数のフルスキャンモードMS測定を実行することであって、前記異なる種類は、少なくとも正モードでの第1のフルスキャンMS測定および負モードでの第2の測定、または少なくとも前記質量分析計の第1の質量フィルタに関する第1のフルスキャン測定および前記質量分析計の第2の質量フィルタに関する第2のフルスキャンモードを含み、前記複数の異なるフルスキャンMS測定は、前記質量分析計における最大測定時間が5分を下回るように選択される、複数のフルスキャンモードMS測定を実行すること、
前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての前記測定データをそれぞれの基準データと比較すること
であって、前記測定データを比較することは、複数の質量分析計測定サイクルにわたって平均化することを含む、比較すること、および
前記比較ステップの結果に基づいて、質量軸較正状態が仕様外であるかどうかを判定すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記質量軸チェックサンプルは、
前記質量分析計の全m/z測定範囲にわたる2つ以上の異なる物質の混合物であって、該混合物中の異なる物質によって前記少なくとも2つの質量軸ポイントがもたらされる混合物、または
異なるm/z値の2つ以上のフラグメント(fragments)へとフラグメント化(fragment into)できる単一の物質であって、異なるフラグメントによって前記少なくとも2つの質量軸ポイントがもたらされる単一の物質、または
前記少なくとも2つの質量軸ポイントをもたらすように、前記質量分析計内で異なるm/z値においてイオンもしくは原子もしくは分子の組み合わせによってクラスタを形成するように選択された1つ以上の物質
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分析システムの自動スケジューリングプロセスで前記質量軸チェックサンプルの処理をスケジュールすることをさらに含み、好ましくは、前記最大測定時間は2分未満である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
複数のフルスキャンモード質量分析測定を実行する前記ステップに先立ち、前記質量軸チェックサンプルを単一のクロマトグラフィ実行にて処理し、前記質量軸チェックサンプルに含まれる2つ以上の物質を分離すること
をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての前記測定データをそれぞれの基準データと比較することは、
前記質量軸ポイントの各々についての前記測定データにおける少なくとも1つのピークを評価して、前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての少なくとも1つの測定パラメータを取得することと、
前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての前記少なくとも1つの測定パラメータをそれぞれの基準データと比較すること、および
前記比較ステップの結果にもとづいて質量軸較正状態が仕様外であるかどうかを判定すること
を含み、
好ましくは、前記少なくとも1つの測定パラメータは、ピーク位置、ピーク幅、ピーク-ベースライン分離、およびピーク形状のうちの1つ以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記判定ステップの結果として前記質量軸較正状態が仕様外である場合に、別個の測定を含む質量軸調整の手続きをスケジュールまたはトリガし、前記質量軸較正状態が仕様外でない場合に、前記質量分析計の動作を再開すること
をさらに含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記最大測定時間は、前記質量分析計の製造サンプルの測定ウインドウの持続時間、または前記質量分析計の製造サンプルの測定ウインドウの持続時間の整数倍として選択される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックする前記方法は、少なくとも2amuの質量間隔での少なくとも50回の測定サイクルを含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
質量分析測定を実行して前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての測定データを取得することは、各々の質量軸ポイントについての離れた所定の測定範囲を使用することを含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
異なる種類の前記複数のフルスキャンモードMS測定の結果が、少なくとも2つのm/zポイントの各々についての前記測定データを得るために組み合わせられ、任意選択的に、異なる種類の前記複数のフルスキャンモードMS測定の結果が、少なくとも2つのm/zポイントの各々についての前記測定データを得るために平均化される、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記異なる種類の複数のフルスキャンモードMS測定は、
負モードでの測定、
正モードでの測定、
前記質量分析計の特定の質量フィルタに関する測定、
異なるスキャン速度での測定、
異なるスキャン分解能での測定、
前記分析システムの異なるイオン源を使用した測定、および
前記分析システムの異なる検出器を使用した測定
からなるリストから選択される1つ以上の測定をさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記質量軸較正状態が仕様外であるかどうかの前記判定ステップの結果として、質量軸
較正状態が仕様内であるが、仕様外となるしきい値から所定の距離の範囲内にある場合に、予防保全がスケジュールされる、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法
のステップを実行するように構成された
質量分析計(MS)を含むコンピュータシステム。
【請求項14】
コンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されるときに請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実施するためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、質量分析のための方法および装置に関する。とくには、本開示は、質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックするための方法のための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査室、および他の検査室環境においても、質量分析、より具体的には質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィの実施について、関心が高まっている。これらの環境において、多くの場合に、さまざまな異なるアッセイを、大部分が自動化された様相で、可能であればランダムアクセスモード(すなわち、分析器が、特定のアッセイを必要とする多量のサンプルをバッチとして処理するシステム、あるいはより長い時間期間にわたって1つまたは2つのアッセイだけを処理するシステムと比べ、任意の時点で複数のアッセイのうちの任意の1つを実行することができる)を使用して処理する必要がある。結果として、質量分析計が、それぞれのアッセイを処理するために、任意の所与の時点において比較的広いm/z測定範囲を準備しなければならない可能性がある。
【0003】
この高い柔軟性ゆえに、分析システムが仕様に従って動作することを保証するために、かなりの量の監視、品質管理、および較正の作業が必要となる可能性がある。とくには、質量軸精度が分析気システムの動作にとって重要な要素となり得るため、質量分析計の質量軸を定期的に較正する必要がある。
【0004】
したがって、適切な質量軸較正を保証するために、さまざまな質量軸較正手順が必須である。多くの既知の較正技術は、分析システムの自動化された動作を妨げる必要がある専用の手作業によるプロセスを含む。さらに、これらの較正手順は、比較的長い時間期間(例えば、いくつかの例においては、数十分または1時間を超える)を要する可能性がある。明らかに、そのような手順は、分析システムの生産性を著しく低下させる分析システムの生産性に対するかなり大きな妨害を構成する。これらの理由から、そのような質量軸較正手順の頻度を抑えることが望まれている。いくつかの先行技術の分析システムにおいては、6ヶ月に1回または1年に1回の頻度が提案されている。
【発明の概要】
【0005】
1つの一般的な態様において、本発明は、分析システムの質量分析計(MS)の質量軸較正の妥当性をチェックするための方法に関する。本方法は、質量分析計の所定のm/z測定範囲にわたる質量軸チェックサンプルを取得すること、および質量軸チェックサンプルを自動的に処理することを含む。質量軸チェックサンプルを自動的に処理することは、MSの所定のm/z測定範囲内の少なくとも2つの質量軸ポイントについてMSを使用して異なる種類の複数のフルスキャンモードMS測定を実行し、測定データを取得することを含む。異なる種類は、少なくとも正モードでの第1のフルスキャンMS測定および負モードでの第2の測定、または少なくとも質量分析計の第1の質量フィルタに関する第1のフルスキャン測定および質量分析計の第2の質量フィルタに関する第2のフルスキャンモードを含む。複数の異なるフルスキャンMS測定は、質量分析計における最大測定時間が5分未満であるように選択される。本方法は、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての測定データをそれぞれの基準データと比較すること、および比較ステップの結果に基づいて質量軸較正状態が仕様外であるかどうかを判定することをさらに含む。
【0006】
第2の一般的な態様において、本発明は、第1の一般的な態様の方法の各ステップを実行するように構成されているコンピューティングシステムに関する。
【0007】
第3の一般的な態様において、本発明は、コンピューティングシステムのプロセッサによって実行されるときに第1の一般的な態様の方法の各ステップを実行するようにコンピューティングシステムを促す命令を格納したコンピュータ可読媒体に関する。
【0008】
第1~第3の一般的態様の技術は、好都合な技術的効果を有することができる。
【0009】
第1に、分析システムの質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックするための技術は、いくつかの先行技術と比較して、質量軸精度の比較的迅速なチェックを提供することができる。このようにして、質量軸チェック手順を(比較的)頻繁に、分析器の動作に実質的な妨げを引き起こすことなく実行することができる。本開示の技術は、比較的短い測定時間であっても質量分析計の質量軸較正状態についての洞察を得るために充分であり得る(この短い測定時間で実行される測定が、実際の質量軸較正には不充分であったとしても)という洞察を利用する。換言すると、本開示の技術は、質量軸較正のおそらくは大まかな「状態チェック」の実行を含む。本開示のチェックは、質量軸調整を実行するための充分な情報はもたらさないかもしれない。むしろ、さらなる注意を必要とする何らかの異常(あるいは、異常がなく、分析器が通常の動作を再開できる)を見つけるように設計されている。
【0010】
第2に、本開示の質量軸チェック技術は、自動分析システムにおいて追加のハードウェアを必要とせずに(あるいは、きわめてわずかな追加のハードウェアで)実行することができる。例えば、患者サンプル(例えば、MSに接続されたLCストリーム)を処理するためにも使用される分析器ストリームを使用して、本開示の質量軸チェック技術の質量軸チェックサンプルを処理することができる。
【0011】
これに加え、あるいはこれに代えて、質量軸チェックサンプルは、いずれの場合も分析システムにおいて容易に利用可能(例えば、品質管理サンプルまたは内部標準)であり得るので、いくつかの例においては追加の消耗品を特別に用意する必要がない。さらに、質量軸チェックサンプルを、いくつかの例では、分析システムによってその場で準備することができる(一方で、質量軸チェックサンプルを追加のカセットまたは他の容器にて提供することも可能である)。
【0012】
したがって、いくつかの例においては、質量軸チェック手順を、既存の分析システムにおいて、それらのハードウェアを変更することなく実行することができる。
【0013】
第3に、本開示の技術は、より頻繁な質量軸チェック作業を提供することにより、較正またはメンテナンス作業の予防的なスケジューリングを可能にすることができる。これは、いくつかの先行技術の技術を使用する場合には、これらの技術を実行することで分析器の通常の動作が中断され、それらの持続時間が比較的長いため、実現不可能であり得る。このようにして、いくつかの状況において、分析器のより長期にわたる停止につながりかねないより重大な障害を防止することができる。
【0014】
「質量分析計における測定時間」という用語は、分析システムの質量分析計によって特定のサンプルが処理される期間に関する。
【0015】
本開示による「分析システム」は、サンプル(例えば、体外診断用のサンプル)の分析に専用の自動化された検査室装置である。例えば、分析システムは、体外診断を行うための臨床診断システムであってよい。
【0016】
本開示の分析システムは、必要性および/または所望の検査室ワークフローに応じて、さまざまな構成を有することができる。さらなる構成を、複数の装置および/またはモジュールを互いに結合させることによって得ることができる。「モジュール」は、典型的には自動分析システム全体よりもサイズが小さい作業セルであり、専用の機能を有する。この機能は、分析機能であってよいが、分析前または分析後の機能であってもよく、あるいは分析前の機能、分析機能、または分析後の機能のいずれかに対する補助機能であってよい。とくには、モジュールを、例えば1つ以上の分析前および/または分析および/または分析後ステップを実行することによって、サンプル処理ワークフローのうちの専用のタスクを実行するための1つ以上の他のモジュールと協働するように構成することができる。
【0017】
とくには、分析器は、特定の種類の分析に最適化されたそれぞれのワークフローを実行するように設計された1つ以上の分析装置を備えることができる。
【0018】
本開示の分析システムは、質量分析計を、任意選択的に液体クロマトグラフィ装置(LC)との組み合わせにて含む。さらに、自動分析システムは、臨床化学、免疫化学、凝固作用、血液学、などのうちの1つ以上のための分析装置を含むことができる。
【0019】
したがって、分析システムは、1つの分析装置、またはそれぞれのワークフローを有する任意のそのような分析装置の組み合わせを備えることができ、分析前および/または分析後モジュールが、個々の分析装置に結合でき、あるいは複数の分析装置によって共有されてよい。あるいは、分析前および/または分析後機能を分析装置に統合されたユニットによって実行してもよい。自動分析システムは、サンプルおよび/または試薬および/またはシステム流体のピペッティングおよび/または圧送および/または混合のための液体処理ユニットなどの機能ユニットを備えることができ、ソート、貯蔵、輸送、識別、分離、検出のための機能ユニットをさらに備えることができる。
【0020】
用語「サンプル」は、その定性的および/または定量的検出が特定の状態(例えば、病態)に関連している可能性がある関心の1つ以上の分析対象物を含有している可能性がある生体物質を指す。
【0021】
サンプルは、血液、唾液、接眼レンズ液、脳脊髄液、汗、尿、乳、腹水、粘液、滑液、腹腔液、羊水、組織、細胞、などを含む生理液などの任意の生物学的ソースに由来することができる。サンプルを、血液からの血漿の準備、粘性流体の希釈、溶解など、使用前に前処理することができ、処理の方法は、ろ過、遠心分離、蒸留、濃縮、妨害成分の不活性化、および試薬の添加を含むことができる。サンプルを、いくつかの場合にはソースから得たままで直接使用することができ、あるいは、例えば1つ以上の体外診断検査の実施を可能にし、関心の分析対象物を豊富に(抽出/分離/濃縮)し、かつ/または関心の分析対象物の検出を妨げかねないマトリクス成分を除去するために、例えば内部標準を添加した後、別の溶液で希釈した後、または試薬との混合した後など、サンプルの性質を変えるための前処理および/またはサンプル準備ワークフローの後に使用することができる。
【0022】
「サンプル」という用語が、サンプル準備の前のサンプルを示すために使用されることが多い一方で、「準備後のサンプル」という用語が、サンプル準備の後のサンプルを指すために使用される。非特定の場合に、「サンプル」という用語は、サンプル準備の前のサンプルまたはサンプル準備の後のサンプルのいずれか、または両方を広く示すことがある。関心の分析対象物の例は、一般に、ビタミンD、依存性薬物、治療薬、ホルモン、および代謝産物である。しかしながら、この列挙はすべてを挙げ尽くしたものではない。
【0023】
とくには、分析システムは、サンプルの自動準備のためのサンプル準備ステーションを備えることができる。「サンプル準備ステーション」は、1つ以上の分析装置または分析装置内のユニットに結合した分析前モジュールであり、サンプル中の妨げとなるマトリクス成分を除去または少なくとも低減し、かつ/またはサンプル中の関心の分析対象物を濃縮することを目的とした一連のサンプル処理ステップを実行するように設計される。このような処理ステップは、サンプルまたは複数のサンプルについて順次、並列、または時差をつけた様相で実行される以下の処理作業、すなわち流体のピペット操作(吸引および/または送出)、流体の圧送、試薬との混合、特定の温度での培養、加熱または冷却、遠心分離、分離、フィルタ処理、ふるい分け、乾燥、洗浄、再懸濁、分取、移送、保管、のうちの1つ以上を含むことができる。
【0024】
「試薬」は、例えば、分析のためにサンプルを準備し、反応の発生を可能にし、あるいはサンプルまたはサンプルに含まれる分析対象物の物理的パラメータの検出を可能にするために、サンプルの処理に使用される物質である。とくには、試薬は、反応物であり、あるいは反応物を含む物質であってよく、典型的には、例えば、サンプル中に存在する1つ以上の分析対象物またはサンプルの望まれないマトリクス成分に結合し、あるいはそれらを化学的に変化させることができる化合物または薬剤である。反応物の例は、酵素、酵素基質、共役色素、タンパク質結合分子、リガンド、核酸結合分子、抗体、キレート剤、促進剤、阻害剤、エピトープ、抗原、などである。しかしながら、試薬という用語は、水または他の溶媒または緩衝液を含む希釈液、あるいはタンパク質、結合タンパク質または表面への分析対象物の特異的または非特異的結合の破壊に使用される物質など、サンプルに添加することができる任意の流体を含むように使用される。
【0025】
サンプルを、例えば、一次管および二次管を含むサンプル管などのサンプル容器、またはマルチウェルプレート、または任意の他のサンプル運搬支持体にてもたらすことができる。試薬を、例えば、個々の試薬または試薬のグループを収容し、貯蔵区画またはコンベア内の適切な受けまたは位置に置かれる容器またはカセットの形態で配置することができる。他の種類の試薬またはシステム流体を、バルク容器またはライン供給にてもたらすことができる。
【0026】
「LCストリーム」は、一般的に知られているとおり、例えば極性またはlogP値、サイズ、あるいは親和性に応じて、選択された条件下で、関心の分析対象物を捕捉および/または分離し、かつ溶出および/または移動させるために、サンプルおよび分析対象物の種類に応じて選択され、移動相が圧送されて通過する固定相を含む少なくとも1つの毛管および/またはLCカラムを備える流体ラインである。少なくとも1つのLCストリーム中の少なくとも1つのLCカラムは、交換可能であってよい。とくには、LC分離ステーションは、LCストリームよりも多くのLCカラムを含むことができ、複数のLCカラムを、同じLCストリームに入れ換え可能に結合させることができる。毛管は、LCカラムをバイパスでき、あるいは溶出時間ウィンドウを微調整するためにデッドボリュームの調整を可能にすることができる。
【0027】
それぞれの文脈において別段の指定がない限り、パラメータの値に関する「約」という用語は、本開示において指定された値からの±10%の偏差を含むことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本開示の質量軸チェック技術を示すフロー図である。
【
図2】本開示の例示的な質量軸チェック技術を示すフロー図である。
【
図3】本開示の例示的な質量軸チェック技術を示すフロー図である。
【
図4】本開示の例示的な質量軸チェック技術を示すフロー図である。
【
図5】本開示の技術を使用して得られた例示的な測定結果を示している。
【
図6】本開示の技術を使用して得られた例示的な測定結果を示している。
【
図7】本開示の技術を使用して得られた例示的な測定結果を示している。
【
図8a】本開示の技術を使用して得られた例示的な測定結果を示している。
【
図8b】本開示の技術を使用して得られた例示的な測定結果を示している。
【
図9】本開示による例示的な分析システムを示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
まず、本開示の技術の概要を、
図1に関連して提示する。次いで、本開示の質量軸チェック技術のさらなる態様を、
図2~
図8の文脈において説明する。最後に、本開示の分析システムの態様を、
図9に関連して説明する。
【0030】
図1が、本開示の質量軸チェック技術を示すフロー図である。
【0031】
分析システムの質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックするための方法は、質量分析計の所定のm/z測定範囲にわたる質量軸チェックサンプルを取得すること101と、質量軸チェックサンプルを自動的に処理すること105とを含む。この自動処理ステップは、一連のサブステップを含む。
【0032】
とくには、本技術は、MSの所定のm/z測定範囲内の少なくとも2つの質量軸ポイントについてMSを使用して異なる種類の複数のフルスキャンモードMS測定を実行して、測定データを取得すること107を含む。異なる種類は、少なくとも正モードでの第1のフルスキャンMS測定および負モードでの第2の測定、ならびに/または質量分析計の第1の質量フィルタについての少なくとも第1のフルスキャン測定および質量分析計の第2の質量フィルタについての第2のフルスキャンモードを含むことができる。
【0033】
複数の異なるフルスキャンMS測定は、質量分析計における最大測定時間が5分未満であるように選択される。「質量分析計における測定時間」とは、実際の質量分析計の測定が行われる質量分析計への質量軸チェックサンプルの注入後の時間を指す。「質量分析計における測定時間」は、例えば、質量分析計の上流に位置する液体クロマトグラフやその他の任意のモジュールにおける質量軸チェックサンプルの処理時間を含まない。また、「質量分析計における測定時間」は、いくつかの例においては行われ得る質量軸チェックサンプルの準備工程を含まない。
【0034】
本方法は、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての測定データをそれぞれの基準データと比較すること111と、比較するステップの結果に基づいて、質量軸較正状態が仕様外であるかどうかを判定すること113とをさらに含む。
【0035】
いくつかの例においては、質量軸較正状態が仕様外である場合に、別個の測定を含む質量軸調整の手続きがトリガされる(115)。質量軸校正状態が仕様内である(すなわち、仕様外でない)場合、質量分析計の稼働を再開することができる(117)。後述される他の応答をトリガすることもできる。
【0036】
上述のように、本開示の質量軸チェック技術の測定は、比較的迅速に実行することができる(すなわち、測定時間が5分未満である)。いくつかの例において、質量における測定時間は、2分未満または1分未満であり得る。
【0037】
多くの状況において、質量分析計を含む分析システムは、特定のクロック、すなわち質量分析計が単一の測定プロセスにて1つの特定のサンプルを処理する所定の時間期間(本明細書において「測定ウィンドウ」とも呼ばれる)に基づいて動作することができる。例えば、後述されるように、この所定の期間の持続時間は、5分未満の持続時間(例えば、1分未満の持続時間、または36秒の持続時間)であってよい。いくつかの例において、この所定の期間は、複数のクロマトグラフィストリームのうちの1つが質量分析計に接続されている期間である。この種の分析システムの自動スケジューラは、質量分析計の処理スロットを、所定の期間の持続時間を有するタイムスロットにスケジュールすることができる。
【0038】
本開示の技術は、分析システムの自動スケジューリングプロセスにおける質量軸チェックサンプルの処理のスケジューリングを含むことができる。自動スケジューリングプロセスにおける質量軸チェックサンプルの処理のスケジューリングは、(例えば、特定の最適化技術を実行することによって)質量分析計または質量分析計を含む分析器のスループットへの影響を最小限に抑えることを含むことができる。例えば、スケジューラは、自動分析器/質量分析計のアイドル時間を、本明細書に記載の質量軸チェック手順で埋めることができる。例えば、スケジューラは、患者サンプルが処理されていないときや、分析システムの作業負荷が少ないときに、質量軸チェック手順をスケジュールすることができる。
【0039】
いくつかの例において、最大測定時間は、質量分析計の製造サンプルの測定ウィンドウの持続時間として選択される(あるいは、測定ウィンドウよりも短くてもよい)。他の例において、質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックする方法の最大測定時間は、この測定ウィンドウの持続時間の整数倍として選択される。これにより、本開示の質量軸チェックを、分析システムの「通常の」スケジューリングおよび処理動作に挿入することができる。多くの先行技術の較正技術は、長すぎ、かつ/または分析システムの変更を必要とするため、分析システムの「日常動作」に無理なく取り入れることができない。
【0040】
いくつかの例において、質量軸チェック技術において実行される異なる測定を、最大測定時間を超えないように選択することができる。これは、分析システムに応じて、質量分析計の測定範囲をカバーする少なくとも2つの質量軸ポイントについて、より多数またはより少数の異なる測定を実行することを可能にすることができる。いずれの場合も、本発明の技術は、この持続時間の最中に異なる種類のフルスキャンモードMS測定を実行することを含む。
【0041】
さらに他の例において、質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックする方法は、少なくとも2amu(例えば、少なくとも3amu)の質量間隔を有する50回未満の測定サイクル(例えば、40回未満の測定サイクル)を含む。この文脈における質量分析計の「測定サイクル」は、測定においてスキャンされるm/z比範囲をカバーする単一のスキャンを指す。「質量間隔」は、スキャンの2つの異なる測定ポイントの間の(質量軸上の)距離を指す。より小さい刻みサイズが選択される場合、特定のm/z比範囲についてより多数の測定点が生成される(逆もまた同様である)。
【0042】
図1の技術は、質量分析計の所定のm/z測定範囲にわたる質量軸チェックサンプルを使用する。いくつかの例において、質量分析計の所定の測定範囲は、質量分析計が提供する最大測定範囲である。換言すると、所定の測定範囲は、特定の型式または種類の質量分析計について設計された最大測定範囲であってよい。質量分析計の測定範囲は、10amu~5000amu、任意選択的に15amu~3000amuに及び得る。
【0043】
これに加えて、あるいはこれに代えて、質量分析計の所定のm/z測定範囲を、質量分析計によって分析される複数の分析対象物によって定めることができる。これらの例において、m/z測定範囲の全体は、質量分析計によって測定される複数の分析対象物のうちの最小のm/z比を必要とする分析対象物から最大のm/z比を必要とする分析対象物までのm/z範囲に及ぶことができる。これらの例において、全測定範囲は、分析器によって処理されるアッセイに応じて(たとえ同じ種類の分析器であっても)変化し得る。
【0044】
例えば、一連の分析対象物の最低m/z比がバルプロ酸についての120amu~140amuであり、最高m/z比がシクロスポリンAについての1200amu~1210amuである場合、所定のm/z測定範囲は、100amu~1300amuの範囲であってよい。異なる一連の分析対象物について、この範囲は異なってよい。いくつかの例においては、例えば、質量分析計によって処理される一連の分析対象物が変化する場合、所定のm/z測定範囲も、特定の質量分析計について、時間につれて変化し得る。
【0045】
いずれの場合も、本開示の技術は、特定の最小幅を有する測定範囲を目的とする。例えば、測定範囲の最小幅は、1000amuまたは5000amuであってよい。
【0046】
本開示の技術において、質量軸チェックサンプルが、質量軸チェックプロセスを容易にするために使用される。いくつかの例において、質量軸チェックサンプルは、質量分析計の全m/z測定範囲にわたる2つ以上の異なる物質の混合物を含み、混合物中の異なる物質によって少なくとも2つの質量軸ポイントがもたらされる。質量軸チェックサンプルは、1つ以上の分析対象物、溶媒分子、添加剤、および塩を含むことができる。いくつかの例においては、内部標準を質量軸チェックサンプルとして使用することができる。混合物のさらなる態様を、以下で説明する。
【0047】
例示的な質量軸チェック技術
図2、
図3、および
図4が、本開示の例示的な質量軸チェック技術を示すフロー図である。
【0048】
図2において、質量軸チェック技術は、トリガイベントによって開始する(201)。トリガイベントは、特定のルーチンまたは動作が分析システムまたは質量分析計で実行されることであってよい。例えば、本方法を、以下の場合、すなわち1)質量分析計または質量分析計を含む分析器の品質管理ルーチンの最中、2)質量分析計または質量分析計を含む分析器の定期的な機器チェックの最中、3)質量分析計または質量分析計を含む分析器の始動手順の最中、4)質量分析計または質量分析計を含む分析器の停止時間の最中、あるいは5)質量分析計または質量分析計を含む分析器の保守またはメンテナンス作業の最中または後、のうちの1つ以上において実行することができる。
【0049】
これらの例のすべてにおいて、比較的短い質量軸チェックルーチンを、プロセスフローに(自動的なやり方で)好都合に統合することができる。とくには、上記のルーチンを、自動分析器のスケジューラによってスケジュールすることができる。他の状況において、上記のルーチンは、手動操作を含むことができ、あるいはオペレータの決定によってトリガされてよい。それにもかかわらず、自動分析器のスケジューラは、ルーチンが実行されるべきであることを検出し、本開示の質量軸チェック技術をスケジュールすることができる。
【0050】
他の例において、トリガイベントは、1)質量分析計または質量分析計を含む分析システムの状態変化、2)質量分析計または質量分析計を含む分析システムの監視対象パラメータが特定の値をとり、もしくは特定のしきい値を通過すること、3)質量分析計の環境の監視対象パラメータ、あるいは4)質量分析計または質量分析計を含む分析システムのエラーの検出のうちの1つ以上を含むことができる。
【0051】
例えば、
図2に示されるように、温度の逸脱が、分析システム(例えば、質量分析計)または分析器の環境において検出されるかもしれない(他の例では、湿度などの他のパラメータの変化を検出してもよい)。これが、本開示の質量軸チェック手順をトリガすることができる。
【0052】
前の箇所で、いくつかのトリガイベントを説明した。しかしながら、本開示の技術は、質量分析計の製造モードにおいて繰り返し実行することも可能である。いくつかの例において、本方法を、一定の時間間隔で実行することができる。例えば、本方法を、特定の質量分析計について、少なくとも1時間に1回、少なくとも1日に1回、または少なくとも2日に1回(例えば、毎日1回)実行することができる。
【0053】
これに加え、あるいはこれに代えて、本方法を、質量分析計を含む分析システムによって特定の数のサンプルが処理された後に実行することができる。例えば、本方法を、少なくとも質量分析計によって100個のサンプルが処理されるたびに(例えば、少なくとも質量分析計によって400個のサンプルが分析されるたびに1回、または少なくとも質量分析計によって1000個のサンプルが分析されるたびに1回)実行することができる。
【0054】
質量軸チェックプロセスは、質量軸チェックサンプルを準備するステップ203へと続く。
【0055】
このステップは、さまざまな作業を含むことができる。
【0056】
いくつかの例において、分析システムは、異なる物質(例えば、混合物の2つ以上の物質および任意の追加の補助剤)を混合することができる。例えば、サンプル準備ステーション(例えば、ピペッタ)を使用して、2つ以上の物質の混合物を準備することができる。
【0057】
場合によっては、2つ以上の物質の混合物を準備するために必要な材料は、いずれの場合も分析システムに存在することができる。例えば、いくつかの例において、混合物を準備するために、内部標準(または、その成分)、他の種類の標準または品質管理サンプルを使用することができる。他の例では、分析システムに存在する他の材料を使用することができる。これらの場合、追加の消耗品を必要とせずに本開示の質量軸チェック技術を実行することが可能である。質量軸チェックプロセスの実行を保証するために、使用される材料の組成が既知でありさえすればよい。
【0058】
他の例においては、質量軸チェックサンプル(例えば、2つ以上の物質の混合物または混合物の任意の前駆体)を分析システムに供給することができる。例えば、予め準備された質量軸チェックサンプルを、分析システムに供給することができる。混合物は、任意の適切な容器に含まれてよく、自動分析器のそれぞれの貯蔵領域に貯蔵されてよい。
【0059】
図2の例において、質量軸チェックサンプルの準備の工程は、トリガイベントの発生後に行われる。他の例において、自動分析器は、トリガイベントの発生時に使用されるように、質量軸チェックサンプル(例えば、2つ以上の物質の混合物)を事前に、規則的な間隔で準備することができる。
【0060】
次に、質量軸チェックサンプル(例えば、2つ以上の物質の混合物)の組成のさらなる態様を説明する。いくつかの例において、質量軸の較正状態を検出するために、m/z比が異なるピークを有する少なくとも2つの物質が必要であると考えられる。しかしながら、いくつかの例において、混合物は、質量分析計の測定範囲にわたる3つ以上または4つ以上の異なる物質を含んでもよい。例えば、3つの物質が使用される場合、第1および第2の物質について評価されるピークは、測定範囲の端(例えば、測定範囲の最小/最大m/z比の10%以内)に位置することができる。第3の物質のピークは、測定範囲の中央(例えば、測定範囲の40%~60%のm/z比)に位置することができる。
【0061】
一般に、質量軸チェックサンプルは、特定の測定範囲にまたがるために適したm/z比にピークを有する任意の物質を含むことができる。
【0062】
他の例において、質量軸チェックサンプルは、少なくとも2つの質量軸ポイントをチェックするために使用することができる単一の物質を含むことができる。例えば、単一の物質は、質量分析計において、少なくとも2つの質量軸ポイントで測定データをもたらす2つ以上の適切なフラグメント(すなわち、異なるm/z値のフラグメント)にフラグメント化することができる。当業者であれば、質量分析計の全m/z測定範囲にわたる異なるm/z値へとフラグメント化する物質を承知している。
【0063】
さらに他の例において、質量軸チェックサンプルは、少なくとも2つの質量軸ポイントをもたらすために異なるm/z値における質量分析計内の化学種のイオンまたは原子あるいは分子の(例えば、第2の種との関連における)組み合わせによってクラスタを形成するように選択された1つ以上の物質を含むことができる。クラスタイオンのタンデム質量分析によって得られる質量スペクトルは、前駆体イオン中の分子の数よりも小さく、かつ前駆体イオン中の分子の数に最も近いマジックナンバーの分子を有するベースピークを特徴とすることができる。適切なESI条件下で、所定のm/z範囲をカバーするクラスタを記録することができる。
【0064】
いくつかの例において、準備された質量軸チェックサンプルは、クロマトグラフィ分離のためにクロマトグラフに注入される(205)。とくには、クロマトグラフは、液体クロマトグラフィ(LC)装置であってよい。本開示の技術に使用することができる例示的なLC装置は、
図9に関連して後述される。
【0065】
いくつかの例においては、物質を分離するために、クロマトグラフ以外の他の分離技術を使用することができる。さらに他の例では、(クロマトグラフィ)分離を完全に省くことができる。例えば、質量軸チェックサンプル(例えば、2つ以上の物質の混合物)が充分に濃縮された形態で存在する場合に、質量軸チェックサンプルを、分離工程を経ることなく直接質量分析計に供給することができる。
【0066】
しかしながら、多くの状況において、分離装置(例えば、LC装置)と質量分析計との組み合わせにおいて質量軸チェックサンプルを処理することが必要および/または有用であり得る。一般に、本開示の技術は、本開示に記載の複数のフルスキャンモード質量分析測定を実行するステップの前に、例えば質量軸チェックサンプルに含まれる物質を分離するために、単一のクロマトグラフィ実行で質量軸チェックサンプル(例えば、2つ以上の異なる物質の混合物)を処理することを含むことができる。
【0067】
図2に戻ると、分離プロセスは、2つ以上の物質の混合物を時間において分けることができる。例えば、第1の物質(「分析対象物1」)に第1の保持時間(RT
1)をもたらすことができ、第2の物質(「分析対象物2」)に第1の保持時間(RT
2)をもたらすことができ、y番目の物質(「分析対象物Y」)にy番目の保持時間(RT
y)をもたらすことができる。
【0068】
本開示の技術は、分離された物質ごとに測定ウィンドウを定めることを含むことができる。測定ウィンドウは、各々の物質についての分離した所定の測定ウィンドウであってよい。例えば、各々の測定ウィンドウは、30秒未満、任意選択的に20秒未満の持続時間を有することができる。
【0069】
(分離された)物質の各々について、異なる種類のフルスキャンモード質量分析測定を実行することができる(207)。これを、次に
図3に関連してさらに詳細に説明する。
【0070】
図3が、3つの異なる分離された物質について実行された3組の(すなわち、複数の)フルスキャンモード質量分析測定301a、301b、301cを示している。一般に、本開示の技術は、質量軸チェックサンプルの異なる物質について任意の種類のフルスキャンモード質量分析測定を実行することを含むことができる。いくつかの例において、同じ測定の組が、(分離された)物質の各々について実行される。他の例においては、異なる物質の混合物の異なる物質について、異なる種類の質量分析測定が実行される。
【0071】
とくには、異なる測定を、1)負モードでの測定、2)正モードでの測定、3)質量分析計の特定の質量フィルタに関する測定、4)異なるスキャン速度での測定、および5)異なるスキャン分解能での測定からなるリストから選択することができる。
【0072】
例えば、異なる測定は、質量軸チェックサンプルの特定の物質についての正モードおよび負モードでの測定を含むことができる。
【0073】
これに加え、あるいはこれに代えて、異なる測定は、特定の物質についての(タンデム質量分析計の)Q1質量フィルタおよびQ3質量フィルタに関する測定を含むことができる。
【0074】
いくつかの例において、MS測定の測定範囲は、比較的小さくてよい。例えば、MS測定の測定範囲は、30amuよりも狭くてよく、任意選択的に10amu未満であってよく、さらに任意選択的に2amuよりも狭くてよい。
【0075】
このプロセスは、異なる任意の前処理ステップ303a、303b、303cを含むことができる。例えば、本方法は、複数のスキャンにわたる平均化および/または平滑化操作を含むことができる。
【0076】
このようにして、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々について、質量分析生データ305が生成される。次いで、この生データ305は、質量分析計の質量軸状態が仕様内であるか、あるいは仕様外であるかを判定するために処理される。このステップのさらなる態様は、後の箇所で
図4に関連して説明される。
【0077】
質量分析測定において得られた生データを、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々について測定データ内の少なくとも1つのピークを評価して、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々について少なくとも1つの測定パラメータを取得するステップにおいて、さまざまなやり方で自動的に処理することができる。
【0078】
例えば、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々について測定データ内の少なくとも1つのピークを評価することは、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々について測定データ内の少なくとも1つのピークをフィッティングして、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々について少なくとも1つの測定パラメータを取得することを含むことができる。例えば、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々について単一のピークを評価することができる。他の例においては、2つのピークまたは3つ以上のピークを評価することができる。
【0079】
図4において、少なくとも1つのピークを評価することは、自動ピーク認識処理および自動ピークフィッティングを含む(401)。このステップは、任意の適切な数値ピーク発見およびフィッティング手順を含むことができる。例えば、発見されるべきピークについての所定のm/z比値の組を使用することができる。所定のm/z比値を、ピーク認識およびピークフィッティング処理において使用されるこのデータを記憶するデータベース405から取り出すことができる。
【0080】
さらなるステップにおいて、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々について少なくとも1つの測定パラメータが取得される(403)。これは、自動化されたピーク特徴分析を含むことができる。
【0081】
測定パラメータ(例えば、ピーク特徴)は、ピーク位置、ピーク幅、ピーク-ベースライン分離、およびピーク形状のうちの1つ以上を含むことができる。測定パラメータ(例えば、ピーク特徴)は、以下で
図8に関連してさらに詳細に説明される。
【0082】
いくつかの例においては、各々のピーク(または、いくつかのピーク)について2つ以上のパラメータが取得される。例えば、少なくとも1つの測定パラメータは、ピーク位置およびピーク幅を含む。
【0083】
少なくとも1つの測定パラメータ(例えば、ピーク特徴)が得られると、質量軸状態が仕様外であるかどうかを判定することができる(407)。
【0084】
この判定は、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々の少なくとも1つの測定パラメータを、それぞれの基準データと比較することを含む。例えば、測定パラメータ(ピーク特徴)の基準データを、データベース405から取得することができる。いくつかの例において、データベース405は、測定パラメータ(ピーク特徴)の理論値を含む。別の例において、データベース405は、測定パラメータ(ピーク特徴)についての測定による基準値を含む。
【0085】
さらに、データベース405は、依然として許容可能であると考えられる(例えば、理論)値からの偏差を定義する基準データの境界を含むことができる。
【0086】
基準値および境界を、特定の測定値(ピーク特徴)が許容範囲内にあるか否かを判定するために、比較ステップにおいて使用することができる。1つ以上(または、2つ以上)の測定値(ピーク特徴)が許容範囲の内側にない場合、質量軸が仕様外であると判定することができる。
【0087】
しかしながら、少なくとも2つの質量軸ポイントの各々の少なくとも1つの測定パラメータを、それぞれの基準データと比較することを、別のやり方で行うことも可能である。例えば、基準値の周りの境界をオンザフライ(例えば、固定された境界値が存在しない)で決定することができる。さらに、複数の異なる比較基準を使用することができる。例えば、基準値からの相対偏差または絶対偏差を評価することができる。他の例においては、測定値(ピーク特徴)の許容範囲を直接定義することができる。基準データを動的に生成および/または更新することも可能である。
【0088】
いくつかの例においては、2値判定が行われる(例えば、「仕様内」または「仕様外」)。この場合、質量軸が仕様の範囲内であれば、質量分析計を含む分析システムの通常の動作を再開することができる(411)。質量軸が仕様外である場合、対策をトリガすることができる(413)。一般に、これは、別個の測定を含む質量軸調整の手続きをトリガすることを含むことができる。これに加え、あるいはこれに代えて、メンテナンスおよび/または修理作業をトリガすることができる。いくつかの例においては、これらの対策を分析システムによって自動的に実行することができる。しかしながら、他の場合には、対策は、オペレータおよび/または保守要員による介入を必要とする。これらの場合、分析システムは、オペレータおよび/または保守要員にメッセージを送信し、かつ/または警告を発することができる。例えば、警告および/またはエラーメッセージを、自動分析器の(場合によっては遠方の)ユーザインターフェース上で発行することができる。
【0089】
他の例において、2値判定は、上述した動作以外の他の動作をトリガすることを含むことができる。例えば、予防保全(例えば、質量軸調整)をスケジュールまたはトリガすることができる。これは、測定値(ピーク特徴)が仕様外である場合を検出するための境界の異なる定義を必要とするかもしれない。
【0090】
さらに他の例において、判定ステップは、3つの分類、または4つ以上の分類の間の区別を行い、異なる反応(または、反応しない)をトリガすることを含むことができる。
【0091】
図4に示されるように、上述の2つの分類に対する追加の分類は、質量軸が仕様内にあるが、仕様外となるしきい値から所定の距離の範囲内にあることであってよい。換言すると、質量軸が仕様外に近い。この状況において、専用の反応をトリガすることができる。例えば、自動分析器は、予防保全作業をスケジュールすることができる。このようにして、分析システムの停止時間を、より重大なエラーを防止し、かつ/またはメンテナンス作業を都合のよい時間(例えば、自動分析器が使われないとき)にスケジューリングすることによって、短縮することができる。
【0092】
さらに別の例では、4種類以上の反応(例えば、本明細書で論じられる異なる反応)をトリガすることができる。
【0093】
ここでも、反応をトリガする際のこの柔軟性は、本開示の短い質量軸チェック手順によって促進される。先行技術の技術を使用する場合、手順の長い持続期間および/または複雑さゆえに、質量軸状態を定期的にチェックして、予測的なメンテナンス作業をスケジュールすることを、可能にすることができない。
【0094】
これまでの箇所において、本開示の質量軸チェック技術のいくつかの態様を、或る程度詳細に説明した。以下の箇所においては、本開示による測定結果およびデータ処理に関するさらなる詳細を説明する。
【0095】
例示的な測定およびデータ処理結果
図5、
図6、
図7、および
図8が、本開示の技術を使用して得られた例示的な測定および評価結果を示している。その際、
図5、
図6、
図7、および
図8は、
図2~
図4に示した例示的な質量軸チェック技術の質量分析測定ステップに従う。
【0096】
上述のように、質量軸チェックサンプル(例えば、2つ以上の物質の混合物)にLCプロセスでの分離(および、濃縮)を施すことができる(
図5の「1.複数の分析対象物のLC分離」)。
【0097】
図5~
図8の例において、例示的な混合物は、5つの異なる物質または分析対象物、すなわちテストステロン、タクロリムス、シクロスポリンA、コルチゾール、およびバルプロ酸を含む。しかしながら、この一連の物質または分析対象物は、あくまでも例示にすぎない。上述のように、質量分析計の測定範囲にわたるより多数またはより少数の物質を使用することができる。さらに、2つ以上の物質の混合物に使用することができる例示的な物質は、上記に挙げられている。
【0098】
図5に示されるように、正モード(中央の曲線が、正モードの分析対象物のクロマトグラムを示している)および負モード(下部の曲線が、負モードの分析対象物のクロマトグラムを示している)での質量分析測定が行われる。見て取ることができるとおり、混合物の異なる物質は、LCプロセスで分離される。上部の曲線は、混合物に含まれる全ての物質または分析対象物についての信号を示す例示的な混合物についての総イオンカウント信号を示す。
【0099】
図6が、異なる保持時間において見出すことができる正モードの分析対象物または物質についてのクロマトグラムの3つのピークを示している。ここで、この技術は、混合物中の分離された分析対象物または物質の各々についての複数の質量分析測定の実行に続く。換言すると、所定のサイズ(
図6の例では10sおよび15s)の測定ウィンドウの最中に、フルスキャン質量分析測定が特定の分析対象物について実行される。ここでも、測定ウィンドウの最中に異なる測定(例えば、異なる質量フィルタ、スキャン速度、およびスキャン分解能を使用する)を実行することができる。これは、(例えば、
図6の中央のグラフの分析対象物または物質についての40s~55sの保持時間における)特定の分析対象物についての時間ウィンドウにおいて、質量分析計の異なる測定モード間の切り替えを含むことができる。
【0100】
図7が、
図6の(選択された)クロマトグラムの3つの分析対象物の例示的な質量分析測定結果を示している。見て取ることができるとおり、質量分析測定は、比較的小さい測定範囲にてフルスキャンモードで実行される。
図7の例において、測定範囲は、各々の分析対象物または物質について20amuである。しかしながら、上述したように、他の例においては、他の測定範囲(例えば、10amu以下または3amu以下)を使用することができる。
図7に示した測定データは、上記の
図3に関連して説明した質量分析生データの一例である。見て取ることができるとおり、3つの分析対象物質の各々について複数のピークが解像されている。
【0101】
これらのピークは、後に、(
図4に関連して上述したように)自動化されたデータ処理ステップにて分析される。
図5~
図8の例についてのこの処理の結果を、
図8aおよび
図8bに示す。
【0102】
図8aが、本開示による自動ピーク認識およびフィッティング技術を使用することによって処理された測定結果の例示的なグループを示している。さらに、
図8aは、質量分析計の測定範囲にわたる物質の混合物の物質または分析対象物の各々についての異なる測定を示している。見て取ることができるとおり、例示的な質量軸チェック技術は、いくつかの分析対象物または物質(例えば、シクロスポリンA)についての正モードおよび負モードでの測定を含む。さらに、異なる測定は、いくつかの分析対象物または物質(例えば、テストステロン、タクロリムス、およびコルチゾール)についての異なる質量フィルタ(例えば、タンデム質量分析計のQ1およびQ3質量フィルタ)における測定を含む。さらに、いくつかの分析対象物について、異なる質量フィルタに関する負モードおよび正モードでの測定が行われている(シクロスポリンA)。
【0103】
上述したように、本開示による質量軸チェック技術を使用する場合に、他の種類の測定を異なる分析対象物または物質について実行することができる。例えば、異なる測定は、異なるスキャン速度または分解能での測定を含むことができる。さらに、混合物の分析対象物または物質の1つ以上について、異なる数の測定を行うことができる(例えば、3つ以上の異なる測定)。
【0104】
図8aに戻ると、ピークフィッティングおよびピーク認識技術を、(各々の測定ならびに各々の分析対象物または物質についての)測定結果において単一のピークを認識してフィットさせるように構成することができる。タクロリムスに関する正モードでの測定およびQ1質量フィルタの例において、約826.5のm/z比におけるピークが認識され、フィットされる。
【0105】
ピーク認識手順は、基準データ(例えば、混合物の物質または分析対象物のピークの理論値)を使用することを含むことができる。ピークフィッティングは、任意の既知の数値信号処理技術を含むことができる。例えば、いくつかの例においては、単一のガウス分布をフィッティング関数として使用することができる。
【0106】
図8aの例においては、測定ごとに単一のピークがフィットされる。他の例においては、複数のピークを認識してフィットさせることができる。
【0107】
ピーク(測定ごとに1つまたは複数のピーク)の認識およびフィットの後に、測定パラメータ(ピークパラメータ)が(やはり自動化されたプロセスで)決定される。
図8bが、タクロリムスに関する正モードでの測定およびQ1質量フィルタについて決定されたピークパラメータの例示的な組を示している。この例において、例えばFWHMピーク幅などのピーク幅(「分解能」)、位置(例えば、ピークのm/z位置)、ピーク形状パラメータ(例えば、フィッティングプロセスの残差を評価することによって決定される)、およびベースライン分離パラメータを決定することができる。
【0108】
上述したように、他の例においては、さらなる測定パラメータおよび/または異なる測定パラメータ(とくには、ピークパラメータ)を決定することができる。
【0109】
さらなるステップにおいて、そのように決定された測定パラメータが基準データと比較され、質量分析計の質量軸状態が仕様外であるかどうかが判定される。
【0110】
分析器の詳細
さらに、本開示は、質量分析計(MS)(任意で2つ以上の液体クロマトグラフィ(LC)ストリームに接続される)を含む分析システムに関し、分析器は、本開示の質量軸チェック技術の各ステップを実行するように構成される。
【0111】
続いて、本開示による質量分析計を含む例示的な自動分析システムを、
図9に関連して説明する。種々のモジュールが、1つの自動分析システム100の一部として
図9に示されている。しかしながら、本開示の自動分析システムは、
図9に示した種々のモジュールの部分集合のみを含んでもよい。
【0112】
自動分析システム100は、関心の分析対象物を含むサンプル10の自動的な前処理および準備のためのサンプル準備ステーション50を備える。サンプル準備ステーション50は、分析対象物および/またはマトリクス選択グループを運ぶ磁気ビーズでサンプルを処理するための磁気ビーズ処理ユニット51を備えることができる。
【0113】
サンプル準備ステーション50を、本開示の質量軸チェックサンプルを準備するプロセスを実行するように構成することができる。
【0114】
とくには、磁気ビーズ処理ユニットは、少なくとも1つの反応容器を保持し、その中に含まれる1つ以上のサンプルに追加された磁気ビーズを操作するための少なくとも1つの磁気または電磁気ワークステーションを含むことができる。磁気ビーズ処理ユニットは、例えば、反応容器の振とう、または偏心回転機構などによる攪拌によって、反応容器において流体を混合し、かつ/または磁気ビーズを再懸濁させるための混合機構をさらに備えることができる。
【0115】
あるいは、ビーズ処理ユニットは、磁気ビーズがストリームまたは毛細管通水装置内に捕捉されるフロースルーシステムであり得る。この例によれば、分析対象物の捕捉、洗浄、および放出を、フロースルーストリーム内のビーズを繰り返し磁気的に捕捉および解放することによって行うことができる。
【0116】
「ビーズ」という用語は、必ずしも球形を指すのではなく、ナノメートルまたはマイクロメートル範囲の平均サイズを有し、任意の可能な形状を有する粒子を指す。ビーズは、超常磁性または常磁性ビーズであってよく、とくにはFe3+コアを含むビーズであってよい。
【0117】
非磁性ビーズも使用可能である。その場合、捕捉および解放はろ過に基づくことができる。サンプル準備ステーションは、サンプル、試薬、洗浄流体、懸濁流体、などの流体を反応容器へと追加/反応容器から除去するための1つ以上のピペッティング装置または流体輸送装置をさらに備えることができる。
【0118】
サンプル準備ステーションは、反応容器輸送機構(
図9には示されていない)をさらに含むことができる。
【0119】
磁気ビーズ処理に代え、あるいは磁気ビーズ処理に加えて、タンパク質沈殿およびその後の遠心分離、カートリッジベースの固相抽出、ピペットチップベースの固相抽出、液相抽出、親和性ベースの抽出(免疫吸着、分子インプリント、アプタマー、など)、などの他の濃縮技術を使用することができる。
【0120】
臨床診断システム100は、複数のLCストリームC1~n、C’1~nを含む液体クロマトグラフィ(LC)分離ステーション60をさらに備える。
【0121】
液体クロマトグラフィ(LC)分離ステーション60は、例えば、関心の分析対象物を、例えば質量分析検出などの後の検出を依然として妨げる可能性があるサンプル準備後の残留マトリクス成分などのマトリクス成分または他の潜在的に干渉し得る物質から分離し、かつ/または関心の分析対象物を個別の検出を可能にするために互いに分離するために、準備後のサンプルをクロマトグラフィ分離に供するように設計された分析装置またはモジュールあるいは分析装置内のユニットであってよい。いくつかの例において、LC分離ステーションは、質量分析用のサンプルを作成し、かつ/または作成されたサンプルを質量分析計へと移すように設計された中間分析装置またはモジュールあるいは分析装置内のユニットであってよい。
【0122】
本開示の特定の例によれば、LC分離ステーションは、より短いサイクルタイムを有する少なくとも1つのより速いLCストリームと、より長いサイクルタイムを有する少なくとも1つのより遅いLCストリームとを含む。しかしながら、LC分離ステーションは、代わりに、より遅いLCストリームを伴わない少なくとも2つのより速いLCストリーム、またはより速いLCストリームを伴わない少なくとも2つのより遅いLCストリームを含むことができる。「サイクルタイム」とは、LCストリームへのサンプル入力(注入)から、この同じLCストリームに別のサンプル入力ができるようになるまでに要する時間である。換言すると、サイクルタイムは、所定の条件下での同じLCストリーム内の2つの連続するサンプル入力の間の最小経過時間であり、秒を単位として測定することができる。サイクルタイムは、注入時間、関心の最後の分析対象物が溶出するまでの分離時間、および新たな注入のためにカラムを準備するための再平衡時間を含む。
【0123】
LCストリームに関する「より速い」および「より遅い」という用語は、同じLC分離ステーションにおいて異なるLCストリームを両者間で比較するために使用される相対的な用語にすぎない。とくには、これらの用語はサイクルタイムの持続時間に関連しており、必ずしもLCストリームの分解能に関連しているわけではない。
【0124】
LC分離ステーションは、典型的には、例えば溶出勾配の使用を必要とする条件の場合のバイナリポンプなどの充分な数のポンプ、およびいくつかの切り換え弁をさらに備える。
【0125】
さらに、LC分離ステーションは複数のLCストリームを含むため、異なるLCストリームからのLC溶出液が、同時にではなく互い違いの様相で出力されると好都合であり、結果として、LC溶出液の出力を、例えば単一の共通の検出器によって順次に検出することができ、多重化手法に従って互いにより良好に区別することができる。
【0126】
「LC溶出液」という用語は、本明細書において、関心の少なくとも1つの分析対象物を含む溶出液の画分を示すために使用される。
【0127】
通常の実務において、もたらされるサンプルの数および種類ならびにそれぞれの分析順序に応じて、例えばより遅いLCストリームがより速いLCストリームよりも必要とされ、あるいはその反対など、或るLCストリームが別のLCストリームよりも必要とされる可能性があり、或るLCストリームにおける或る種類のカラムが別のLCストリームにおける別の種類のカラムよりも必要とされる可能性がある。したがって、一部のLCストリームの使用が他のLCストリームの使用よりも頻繁である可能性がある。
【0128】
例えば、より速いLCストリームおよびより遅いLCストリームのそれぞれの数および種類など、LCストリームの数および種類にさらに基づいて、さまざまな程度の柔軟性が可能である。
【0129】
図9の例において、C1~nはサイクルタイムがより短いより速いLCストリームであり、C’1~nはより遅いLCストリーム(例えば、サイクルタイムがより長い)であり、nは1以上の任意の整数であってよい。
【0130】
したがって、LC分離ステーション60は、サイクルタイムがより短い少なくとも1つのより速いLCストリームC1と、サイクルタイムがより長い少なくとも1つのより遅いLCストリームC’1とを含み得る。しかしながら、LC分離ステーション60は、複数のより速いLCストリームC1~n(nは少なくとも2)のみを含んでも、または複数のより遅いLCストリームC’1~n(nは少なくとも2)のみを含んでもよい。この例において、LC分離ステーション60は、サイクルタイムがより短い2つのより速いLCストリームC1~n(ここで、n=2)と、サイクルタイムがより長い4つのより遅いLCストリームC’1~n(ここで、n=4)を含み、それぞれのより短いサイクルタイムおよびより長いサイクルタイムの相対的な長さが、
図9においてLCストリームC1~nおよびC’1~nをそれぞれ表すバーの長さの違いによって概略的に示されている(比例尺ではない)。より短いサイクルタイムは、10秒~1分の間(例えば、36秒)であってよく、この時間は、基準期間を定める。より長いサイクル時間は、基準期間のn倍である。
【0131】
また、対象の分析対象物を溶出するためのより遅いLCストリームの溶出時間ウィンドウは、相応にLCカラムを選択してクロマトグラフィ条件を設定することによって、基準期間と同じ長さまたは参照期間よりも短くなるように設定される。
【0132】
より速いLCストリームC1~nは、高速トラップおよび溶出オンライン液体クロマトグラフィストリームであってよく、その一方は、例えば逆相カラムを含み、他方は、例えばHILICカラムを含み得る。より遅いLCストリームC’1~nは、例えば2つの逆相カラムおよび2つのHILICカラムをそれぞれ含む超高速液体クロマトグラフィ(UHPLC)ストリームであってよい。
【0133】
より遅いLCストリームは、例えば一方がHILICカラムを含み、一方が逆相(RP)またはペンタフルオロフェニル(PFP)カラムを含むなど、それらの間で同じであっても、違ってもよく、条件が、サイクルタイムが異なるカラムでそれぞれ同じであり得るように選択される。より速いLCストリームは、例えば一方がHILICカラムを含み、一方が逆相(RP)またはペンタフルオロフェニル(PFP)カラムを含むなど、それらの間でそれぞれ同じであっても、違ってもよく、条件が、サイクルタイムが異なるカラムでそれぞれ同じであり得るように選択される。
【0134】
一例によれば、少なくとも1つのより速いLCストリームは、毛管流インジェクション分析(FIA)ストリームまたは高速トラップおよび溶出オンライン液体クロマトグラフィストリームであり、少なくとも1つのより遅いLCストリームは、超高速液体クロマトグラフィ(UHPLC)ストリームである。とくには、関心の分析対象物に応じて、準備された各サンプルを、より速いLCストリームまたはより遅いLCストリームに入力することができる。例えば、サンプルが分析対象物の精製および濃縮のみを必要とする場合、例えば後続の質量分析および/または他の分離技術で充分な分離を得ることができるため、サンプルは、例えばFIAあるいは高速トラップおよび溶出オンライン液体クロマトグラフィストリームなど、より高速なLCストリームに入力される。このような場合、関心の分析対象物を保持する固定相が選択される一方で、塩、緩衝液、洗浄剤、および他のマトリクス成分は保持されず、洗い流される。このプロセスの後に、典型的には、異なる移動相または溶媒勾配による例えばバックフラッシュモードでの分析対象物の溶出が続く。分析対象物に応じて、一部の分析対象物の分離を、いくつかの場合に予想することができる。他方で、多重反応モニタリング(MRM:multiple reaction monitoring)において同一質量(同重体)および/または重なり合う娘イオンスペクトルを有する分析対象物の場合、質量分析に関して、より広いクロマトグラフ分離が好ましい場合がある。その場合、サンプルは、例えばUHPLCストリームなどのより遅いLCストリームに入力される。
【0135】
自動分析システム100は、準備されたサンプルをLCストリームC1~n、C’1~nのいずれか1つに入力するためのサンプル準備/LCインタフェース70をさらに備える。
【0136】
サンプル準備/LCインタフェースは、サンプル準備ステーションとLC分離ステーションとの間のモジュール、あるいはサンプル準備ステーションまたはLC分離ステーションに統合され、もしくはサンプル準備ステーションとLC分離ステーションとの間で構成要素を共有するユニットであってよい。
【0137】
サンプル準備/LCインタフェースは、保持機能、把持機能、移送機能のうちの任意の1つ以上を備えた容器処理ユニットまたは準備済みサンプル受け入れユニットを備えることができる。いくつかの例において、準備済みサンプル受け入れユニットは、LCストリームへの入力の直前に準備済みサンプルのサンプル出力シーケンスに従って準備済みのサンプルを次々に受け取る再使用可能な凹部であり、凹部は、連続するサンプル間で洗浄されてよい。
【0138】
サンプル準備/LCインタフェースは、準備済みサンプルを任意のLCストリームに入力するための液体処理ユニットを含むことができる。液体処理ユニットは、ピペット装置、ポンプ、オートサンプラー、フローインジェクション装置、1つ以上の切り替え弁、とくにはLCストリーム間の切り替のための少なくとも1つの切り替え弁のうちの任意の1つ以上を含むことができる。とくには、容器処理ユニットおよび液体処理ユニットを、任意の利用可能なLCストリームの任意の準備済みサンプルへのランダムアクセスを可能にするように設計することができる。
【0139】
少なくとも一部のサンプルについて、分析対象物濃縮技術およびマトリクス枯渇技術の両方の組み合わせが、サンプルから抽出できる種々の分析対象物の数を増やし、不要な希釈を回避し、マトリクスの除去をより効果的にするための利点を有することができる。
【0140】
自動分析システム100は、自動分析システムを制御するように構成されたコントローラ80をさらに備える。
【0141】
コントローラ80を、本開示の質量軸チェック技術の各ステップを実行するように構成することができる。とくには、コントローラは、本開示の質量分析測定をスケジュールするための自動スケジューラを含むことができる。
【0142】
さらに、コントローラを、サンプル10を事前定義されたサンプル準備ワークフローに割り当てるようにプログラムすることができ、各々のワークフローは、事前定義された一連のサンプル準備ステップを含み、関心の分析対象物に応じて完了までに事前定義された時間を必要とする。
【0143】
とくには、コントローラは、受信した分析対象物の順序および分析対象物の順序の実行に関連するいくつかのスケジュールされた処理動作を考慮に入れて、どのサンプルをいつ準備しなければならないか、および各々のサンプルに関してどの準備ステップをいつ実行しなければならないかを決定するために、スケジューラと連携することができる。異なる種類のサンプル、ならびに/あるいは同じ種類または異なる種類のサンプルに含まれる異なる関心の分析対象物が、例えば異なる試薬、または異なる数の試薬、異なる量、異なるインキュベーション時間、異なる洗浄条件、などの異なる準備条件を必要とする可能性があるため、異なるサンプルの準備は、異なるサンプル準備ワークフローを必要とする可能性がある。したがって、コントローラは、サンプルを事前定義されたサンプル準備ワークフローに割り当てるようにプログラムされ、各々のワークフローは、例えば異なるステップおよび/または異なる数のステップを含み、完了までに例えば1、2分から数分までの事前定義された時間を必要とするサンプル準備ステップの事前定義されたシーケンスを含む。
【0144】
したがって、コントローラは、異なるサンプルに関して並行して、または時間をずらして行われるように、サンプル準備をスケジュールすることができる。論理的なやり方でそのようにすることによって、コントローラは、競合を回避しながら効率を高め、準備後のサンプルをLC分離ステーションへと入力することができるペースでサンプルを準備することによってスループットを最大化するために、サンプル準備ステーションの機能リソースの使用をスケジュールする。これは、サンプルのバッチを事前に準備する(当然ながら、これも可能ではある)よりもむしろ、コントローラが、例えば優先順位などの到着順序、準備の時間、必要となる機能リソースの使用、およびとくにはサンプルの準備が完了するまでにそのサンプルについて意図されたLCストリームが入手できるかを考慮しつつ、必要に応じ、あるいはLC分離ステーションがとくには個々のLCストリームによって取得できるときにサンプルを準備するように、サンプル準備ステーションに命令できることを意味する。とくには、コントローラは、本開示による質量軸チェックサンプルの準備をスケジュールすることができる。
【0145】
図9の例において、コントローラ80は、関心の分析対象物に応じて各々の準備済みサンプルにLCストリームC1~n、C’1~nを割り当て(事前に予約し)、予想される溶出時間に基づいて異なるLCストリームC1~n、C’1~nからの関心の分析対象物を重なり合うことがないLC溶出液出力シーケンスE1~nにて溶出させることができる準備済みサンプルの入力のためのLCストリーム入力シーケンスI1~nを計画するように、さらにプログラムされる。同じやり方で、コントローラ80は、質量軸チェックサンプルにLCストリームC1~n、C’1~nを割り当てる(事前に予約する)ようにさらにプログラムされる。
【0146】
コントローラ80は、LCストリーム入力シーケンスI1~nと一致する準備済みサンプル出力シーケンスP1~nを生成するサンプル準備開始シーケンスS1~nを設定および開始するようにさらにプログラムされる。
【0147】
図9において、サンプル準備開始シーケンスS1~nの各々のサンプル、準備済みサンプル出力シーケンスP1~nおよびLCストリーム入力シーケンスI1~nの各々の準備済みサンプル、LC溶出液出力シーケンスE1~nの各々のLC溶出液が、重なり合いのない隣接セグメントを含むシーケンスの一セグメント内に示されており、各セグメントは、概略的に1つの基準期間を表している。したがって、各シーケンスは基準期間または時間単位のシーケンスであり、その長さは固定であってよく、異なるシーケンス間で一定のままである。とくには、より速いLCストリームのより短いサイクルタイムを、基準期間(例えば36秒)とすることができる。
【0148】
サンプル準備開始シーケンスS1~nにおける新たなサンプルの準備は、基準期間ごとに1つのサンプルという頻度で、すなわちこの例においては36秒ごとに開始され、あるいはサンプル準備が開始されないシーケンス内の空のセグメントによって示される1つ以上の基準期間で隔てられた間隔で開始される。また、準備済みサンプル出力シーケンスP1~nにおけるサンプルの準備は、基準期間ごとに1つの準備済みサンプルという頻度で完了し、あるいはサンプル準備が完了されないシーケンス内の空のセグメントによって示される1つ以上の基準期間で隔てられた間隔で完了する。また、準備済みのサンプルは、LCストリーム入力シーケンスI1-nに従って、それぞれの割り当てられたLCストリームに、基準期間ごとに1つのLCストリームが入力される頻度、またはLCストリームの入力が行われないシーケンス内の空のセグメントによって示される1つ以上の基準期間で隔てられた間隔で、入力される。
【0149】
また、LC溶出液出力シーケンスE1~nにおけるLC溶出液は、基準期間ごとに1つのLC溶出液という頻度、またはLC溶出液が出力されないシーケンス内の空のセグメントによって示される1つ以上の基準期間で隔てられた間隔で出力される。
【0150】
臨床診断システム100は、質量分析計(MS)90、およびLC分離ステーション60を質量分析計90に接続するためのLC/MSインタフェース91をさらに備える。
【0151】
一例によれば、LC/MSインタフェースは、荷電分析対象物分子(分子イオン)を生成し、荷電分析対象物分子を気相へと移すためのイオン化源を備える。特定の例によれば、イオン化源は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源または加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)源または大気圧化学イオン化(APCI)源または大気圧光イオン化(APPI)源または大気圧レーザイオン化(APLI)源である。しかしながら、LC/MSインタフェースは、例えばESI源およびAPCI源の両方などの二重イオン化源、またはモジュール式の交換可能なイオン化源を備えることができる。そのようなイオン化源は、当該技術分野において公知であり、ここではさらに説明することはしない。
【0152】
イオン化条件を最適化するために、イオン源の直前にメークアップフローを追加することによって溶媒組成を調整し、pH、塩、緩衝液、または有機物含有量を調整することが望ましいかもしれない。
【0153】
一例においては、すべてのLCストリームを交互にイオン化源に接続可能であり、コントローラは、LC溶出液の出力シーケンスに従って弁の切り替えを制御する。
【0154】
一例において、質量分析計は、高速スキャン質量分析計である。例えば、質量分析計は、親分子イオンを選択し、衝突誘起フラグメンテーションによってフラグメントを生成し、フラグメントまたは娘イオンを質量電荷(m/z)比に従って分離することができるタンデム質量分析計であってよい。質量分析計は、当技術分野で知られているように、三連四重極質量分析計であってよい。
【0155】
一例によれば、LC/MSインタフェースは、イオン化源と質量分析計との間にイオン移動度モジュールをさらに備える。一例によれば、イオン移動度モジュールは、やはり当技術分野で知られているように、同重体イオンを含む気相中の分子イオンのミリ秒単位での分離を達成することができる高磁場非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)モジュールである。質量分析前のイオン移動度気相分離は、とりわけ少なくとも1つのより速いLCストリームからのLC溶出液について、例えば同重体干渉の不充分なクロマトグラフィ分離を補償することができる。さらに、質量分析計のイオン移動度インタフェースは、バックグラウンドおよびその他の非特異的イオンが質量分析計に進入することを防止することにより、全体的なバックグラウンド信号を低減することができる。一例によれば、コントローラは、イオン化源入力シーケンスを設定するようにさらにプログラムされる。「イオン化源入力シーケンス」という用語は、LC溶出液がイオン化源へと入力される順序を指す。典型的には、イオン化源入力シーケンスは、LC溶出液出力シーケンスに対応する。しかしながら、例えば、バイパスストリームまたは異なる長さのストリームを使用し、あるいは流速を変更することによって、イオン化源入力シーケンスを変更することもできる。これにより、コントローラは、LCストリーム入力シーケンスを計画するときにさらに大きな柔軟性を有することができる。
【0156】
いくつかの例において、LC溶出液出力シーケンス中のLC溶出液は、基準期間ごとに1つのLC溶出液という頻度、または1つ以上の基準期間によって隔てられた間隔で、イオン化源に入力される。これは、一連の基準期間からなる同じタイムラインにおいて、イオン化源の入力が存在する基準期間のうちで、LC溶出液がイオン化源へと入力されていない空の基準期間が存在する可能性があることを意味する。コントローラを、LCストリーム入力シーケンスおよびLC溶出液出力シーケンスを考慮し、弁の切り替えを相応に制御することにより、基準期間ごとに1つのLC溶出液のみがイオン化源へと入力されることを確実にするようにプログラムすることができる。
【0157】
図9の例において、LC/MSインタフェース91は、イオン化源92と、イオン化源92と質量分析計95との間のイオン移動度モジュール95とを備える。イオン移動度モジュール95は、高磁場非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)モジュールである。質量分析計90は、タンデム質量分析計、とくには三連四重極質量分析計であり、多重反応モニタリング(MRM)が可能である。
【0158】
LCストリームC1~n、C’1~nは、LC/MSインタフェース91に交互に接続可能であり、コントローラ80は、一度に1つのLC溶出液をイオン化源92へと入力するためのLC溶出液出力シーケンスE1~nに従って弁61の切り替えを制御する。とくには、LC溶出液出力シーケンスE1~n中のLC溶出液は、基準期間ごとに1つのLC溶出液という頻度、またはLC溶出液出力シーケンスE1~nによる1つ以上の基準期間によって隔てられた間隔で、イオン化源92に入力される。イオン化源92は、ESI源93およびAPCI源94を含む二重イオン化源であり、LC溶出液出力シーケンスEl-n中のLC溶出液およびそこに含まれる関心の分析対象物に応じて、コントローラ80は、2つのイオン化源93、94のうちの最も適切な一方を選択することができる。サンプル準備開始シーケンスS1-nを設定するとき、コントローラ80は、イオン化源93、94間の頻繁な切り替えが防止されるように、イオン化源93、94にさらに応じてサンプルをグループ化(シーケンス内で互いに隣接させて配置)することができる。イオン化源の切り替えを、例えば1つ以上の空の基準期間中に計画することができる。
【0159】
コンピュータによる実装の態様
さらに、本開示は、質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックする技術を実行するように構成されたコンピュータシステムに関する。
【0160】
いくつかの例において、コンピュータシステムは、分析器(または、その一部)のコントローラであってよい。しかしながら、他の例において、コンピュータシステムは、ネットワークを介して分析器に接続されるだけであって、分析器のコントローラの一部でなくてもよい。例えば、コンピュータシステムは、病院または研究室の管理システム、あるいは分析器のベンダーまたは保守提供者のコンピュータシステムであってよい。
【0161】
本開示のコンピューティングシステムは、特定のソフトウェアまたはハードウェア構成に限定されない。ソフトウェアまたはハードウェア構成が本開示による質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックするステップを実行することができる限り、コンピューティングシステムは、このソフトウェアまたはハードウェア構成を有することができる。
【0162】
さらに、本開示は、コンピュータシステムによって実行されるときに、質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックする本開示によるステップを実行するようにコンピュータシステムを促す命令を格納したコンピュータ可読媒体に関する。
【0163】
さらに、コンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されるときに本明細書に含まれる実施形態のうちの1つ以上における本開示にかかる方法を実行するためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムが開示および提案される。具体的には、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読データ担体に格納されてよい。したがって、具体的には、本明細書に開示される方法のステップのうちの1つ、複数、またはすべてを、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用することによって、好ましくはコンピュータプログラムを使用することによって実行することができる。
【0164】
さらに、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されるときに本明細書に含まれる実施形態のうちの1つ以上における本開示にかかる方法を実行するために、プログラムコードを有するコンピュータプログラム製品が開示および提案される。具体的には、プログラムコードは、コンピュータ可読データ担体に格納されてよい。
【0165】
さらに、例えばコンピュータまたはコンピュータネットワークの作業メモリまたはメインメモリなど、コンピュータまたはコンピュータネットワークへとロードされた後に、本明細書に開示される実施形態のうちの1つ以上による方法を実行することができるデータ構造を格納したデータ担体が開示および提案される。
【0166】
さらに、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されるときに本明細書に開示される実施形態のうちの1つ以上にかかる方法を実行するために、プログラムコードを機械可読担体に格納したコンピュータプログラム製品が開示および提案される。本明細書において使用されるとき、コンピュータプログラム製品は、取り引き可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、紙形式などの任意の形式で存在でき、あるいはコンピュータ可読データ担体上に存在することができる。具体的には、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で配信されてもよい。
【0167】
さらに、本明細書に開示される実施形態のうちの1つ以上にかかる方法を実行するためのコンピュータシステムまたはコンピュータネットワークにとって可読な命令を含む変調されたデータ信号が開示および提案される。
【0168】
本開示のコンピュータによって実装される態様を参照して、本明細書に開示される実施形態のうちの1つ以上にかかる方法の方法ステップの1つ以上またはすべての方法ステップを、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用することによって実行することができる。したがって、一般に、データの提供および/または操作を含む方法ステップのいずれかを、コンピュータまたはコンピュータネットワークを使用することによって実行することができる。一般に、これらの方法ステップは、典型的には、サンプルの提供および/または特定の態様の測定の実行などの手作業を必要とする方法ステップを除く任意の方法ステップを含むことができる。
【0169】
さらに、少なくとも1つのプロセッサを備えるコンピュータまたはコンピュータネットワークが開示および提案され、プロセッサは、本明細書に記載される実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように構成される。
【0170】
さらに、コンピュータ上で実行されるときに本明細書に記載される実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように構成されたコンピュータロード可能なデータ構造が開示および提案される。
【0171】
さらに、データ構造を格納する記憶媒体であって、データ構造は、コンピュータまたはコンピュータネットワークの主記憶装置および/または作業記憶装置へとロードされた後に本明細書に記載される実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように構成されている記憶媒体が開示および提案される。
【0172】
さらなる態様
本開示の質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックする技術のいくつかの態様を、これまでの箇所で説明してきた。さらに、本開示のチェック技術は、以下の態様に従って実施されてもよい。
【0173】
1.分析システムの質量分析計(MS)の質量軸較正の妥当性をチェックするための方法であって、
前記質量分析計の所定のm/z測定範囲にわたる質量軸チェックサンプルを取得することと、
前記質量軸チェックサンプルを自動的に処理することと
を含んでおり、
前記質量軸チェックサンプルを自動的に処理することは、
測定データを取得するために、前記MSの前記所定のm/z測定範囲内の少なくとも2つの質量軸ポイントについて前記MSを使用して異なる種類の複数のフルスキャンモードMS測定を実行することであって、前記異なる種類は、少なくとも正モードでの第1のフルスキャンMS測定および負モードでの第2の測定、または少なくとも前記質量分析計の第1の質量フィルタに関する第1のフルスキャン測定および前記質量分析計の第2の質量フィルタに関する第2のフルスキャンモードを含み、前記複数の異なるフルスキャンMS測定は、前記質量分析計における最大測定時間が5分を下回るように選択され、複数のフルスキャンモードMS測定を実行すること、
前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての前記測定データをそれぞれの基準データと比較すること、および
前記比較ステップの結果に基づいて、質量軸較正状態が仕様外であるかどうかを判定すること
を含む、方法。
【0174】
2.前記質量軸チェックサンプルは、
前記質量分析計の全m/z測定範囲にわたる2つ以上の異なる物質の混合物であって、該混合物中の異なる物質によって前記少なくとも2つの質量軸ポイントがもたらされる混合物、または
異なるm/z値の2つ以上のフラグメントへとフラグメント化できる単一の物質であって、異なるフラグメントによって前記少なくとも2つの質量軸ポイントがもたらされる単一の物質、または
前記少なくとも2つの質量軸ポイントをもたらすように、前記質量分析計内で異なるm/z値においてイオンもしくは原子または分子の組み合わせによってクラスタを形成するように選択された1つ以上の物質
を含む、態様1に記載の方法。
【0175】
3.前記分析システムの自動スケジューリングプロセスで前記質量軸チェックサンプルの処理をスケジュールすることをさらに含み、好ましくは、前記最大測定時間は2分未満である、態様1または2に記載の方法。
【0176】
4.複数のフルスキャンモード質量分析測定を実行するステップに先立ち、前記質量軸チェックサンプルを単一のクロマトグラフィ実行にて処理し、前記質量軸チェックサンプルに含まれる2つ以上の物質を分離すること
をさらに含む、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0177】
5.自動スケジューリングプロセスで前記質量軸チェックサンプルの処理をスケジュールすることは、前記質量分析計または前記質量分析計を含む分析器のスループットへの影響を最小化することを含む、態様3または4に記載の方法。
【0178】
6.前記質量軸チェックサンプルは、前記質量分析計の前記m/z測定範囲をカバーするための異なるm/z値のフラグメントまたはクラスタを有する分子を含む、
態様1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0179】
7.前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての前記測定データをそれぞれの基準データと比較することは、
前記質量軸ポイントの各々についての前記測定データにおける少なくとも1つのピークを評価して、前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての少なくとも1つの測定パラメータを取得すること、
前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての前記少なくとも1つの測定パラメータをそれぞれの基準データと比較すること、および
前記比較ステップの結果に基づいて、質量軸較正状態が仕様外であるかどうかを判定すること
を含む、態様1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0180】
8.前記少なくとも1つの測定パラメータは、ピーク位置、ピーク幅、ピーク-ベースライン分離、およびピーク形状のうちの1つ以上を含む、態様7に記載の方法。
【0181】
9.前記少なくとも1つの測定パラメータは、ピーク位置およびピーク幅を含む、態様8に記載の方法。
【0182】
10.
前記判定ステップの結果として前記質量軸較正状態が仕様外である場合に、別個の測定を含む質量軸調整の手続きをスケジュールまたはトリガし、前記質量軸較正状態が仕様外でない場合に、前記質量分析計の動作を再開すること
をさらに含む、態様1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0183】
11.前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての前記測定データをそれぞれの基準データと比較することは、前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての前記測定データにおける少なくとも1つのピークをフィッティングし、前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての少なくとも1つの測定パラメータを取得することを含む、態様1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0184】
12.前記最大測定時間は、前記質量分析計の製造サンプルの測定ウィンドウの持続時間、または前記質量分析計の製造サンプルの測定ウィンドウの持続時間の整数倍として選択される、態様1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0185】
13.前記最大測定時間は2分未満である、態様1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0186】
14.前記質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックする方法は、少なくとも2amuの質量間隔での少なくとも50回の測定サイクルを含む、態様1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0187】
15.前記方法は、前記質量分析計の製造モードにおいて繰り返し実行され、
任意選択的に、前記方法は、少なくとも毎日1回、または少なくとも前記質量分析計によって400個のサンプルが分析されるたびに1回実行される、態様1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0188】
16.前記方法は、以下の場合、すなわち
・前記質量分析計または前記質量分析計を含む前記分析器の品質管理ルーチンの最中、
・前記質量分析計または前記質量分析計を含む前記分析器の定期的な機器チェックの最中、
・前記質量分析計または前記質量分析計を含む前記分析器の始動手順の最中、
・前記質量分析計または前記質量分析計を含む前記分析器の停止時間の最中に定期的に、
・前記質量分析計または前記質量分析計を含む前記分析器の保守またはメンテナンス作業の後
のうちの1つ以上において実行される、態様1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0189】
17.前記方法は、トリガイベントの発生時に実行され、前記トリガイベントは、
・前記質量分析計または前記質量分析計を含む前記分析システムの状態の変化、
・前記質量分析計または前記質量分析計を含む前記分析システムの監視対象パラメータが特定の値をとり、あるいは特定のしきい値を過ぎること、
・前記質量分析計の環境の監視対象パラメータ、または
・前記質量分析計または前記質量分析計を含む前記分析システムにおけるエラーの検出
のうちの1つ以上を含む、態様1~16のいずれか1つに記載の方法。
【0190】
18.質量分析測定を実行して前記少なくとも2つの質量軸ポイントの各々についての測定データを取得することは、各々の質量軸ポイントについての離れた所定の測定範囲を使用することを含む、態様1~17のいずれか1つに記載の方法。
【0191】
19.測定範囲が10amuよりも狭く、任意選択的に2amuよりも狭い、態様18に記載の方法。
【0192】
20.前記質量分析計の前記m/z測定範囲は、前記質量分析計が提供する最大のm/z測定範囲である、態様1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0193】
21.前記質量分析計の前記m/z測定範囲は、10amu~5000amuにわたり、任意選択的に15amu~3000amuにわたる、態様1~20のいずれか1つに記載の方法。
【0194】
22.前記質量分析計の前記m/z測定範囲は、前記質量分析計によって測定される複数の分析対象物および/またはクラスタによって定められ、前記m/z測定範囲は、前記質量分析計によって測定される前記複数の分析対象物のうちの最低のm/z比を必要とする分析対象物から最高のm/z比を必要とする分析対象物までのm/z範囲にわたる、態様1~21のいずれか1つに記載の方法。
【0195】
23.前記測定データを比較することは、複数の質量分析計測定サイクルにわたる平均化を含む、態様1~22のいずれか1つに記載の方法。
【0196】
24.異なる種類の前記複数のフルスキャンモードMS測定の結果が、少なくとも2つのm/zポイントの各々についての前記測定データを得るために組み合わせられ、任意選択的に、異なる種類の前記複数のフルスキャンモードMS測定の結果が、少なくとも2つのm/zポイントの各々についての前記測定データを得るために平均化される、態様23に記載の方法。
【0197】
25.前記異なる種類の複数のフルスキャンモードMS測定は、
負モードでの測定、
正モードでの測定、
前記質量分析計の特定の質量フィルタに関する測定、
異なるスキャン速度での測定、
異なるスキャン分解能での測定、
前記分析システムの異なるイオン源を使用した測定、および
前記分析システムの異なる検出器を使用した測定
からなるリストから選択される1つ以上の測定をさらに含む、態様1~24のいずれか1つに記載の方法。
【0198】
26.前記分析システムは、クロックされた様相でサンプルを処理し、前記分析システムの質量分析計の質量軸較正の妥当性をチェックするための方法は、1クロックサイクルまたは1クロックサイクルの整数倍の持続時間を有する、態様1~25のいずれか1つに記載の方法。
【0199】
27.前記質量軸較正状態が仕様外であるかどうかの判定ステップの結果として、質量軸較正状態が仕様内であるが、仕様外となるしきい値から所定の距離の範囲内にある場合に、予防保全がスケジュールされる、態様1~26のいずれか1つに記載の方法。
【0200】
28.態様1~27のいずれか一項に記載の方法のいずれかのステップを実行するように構成されたコンピュータシステム。
【0201】
29.前記コンピュータシステムは、質量分析計を含む分析システムのコントローラである、態様28に記載のコンピュータシステム。
【0202】
30.前記分析システムは、臨床または診断分析システムである、態様29に記載の分析システム。
【0203】
31.質量分析計を含むコンピュータシステムによって実行されたときに態様1~27のいずれか1つに記載の方法のいずれかのステップを実行するように前記コンピュータシステムを促す命令を格納したコンピュータ可読媒体。