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特許7372460受動素子を備えたスマートアンテナによるビームダイバーシティ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】受動素子を備えたスマートアンテナによるビームダイバーシティ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/24 20060101AFI20231024BHJP
   H01Q 9/16 20060101ALI20231024BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01Q3/24
H01Q9/16
H01Q21/24
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022517922
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2019075026
(87)【国際公開番号】W WO2021052575
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504161984
【氏名又は名称】ホアウェイ・テクノロジーズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133569
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 進
(72)【発明者】
【氏名】ミハエル・カディシェヴィッツ
(72)【発明者】
【氏名】ドロン・エズリ
(72)【発明者】
【氏名】アヴィ・ワイツマン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ・ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】イ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】シン・ルオ
(72)【発明者】
【氏名】ユピン・シュ
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109449609(CN,A)
【文献】特開2014-107789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/24
H01Q 9/16
H01Q 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のダイポールアンテナおよびポートであって、前記ダイポールアンテナの各々が前記ポートに接続され、前記複数のダイポールアンテナが前記ポートの周囲に配置され、前記ダイポールアンテナの各々が2つの端部を含む、複数のダイポールアンテナおよびポートと、
複数の受動素子であって、前記複数のダイポールアンテナの前記端部および前記複数の受動素子が、前記複数の受動素子の各々が前記複数のダイポールアンテナからの2つの異なるアンテナの端部の間に位置するように、前記ポートの周囲に交換可能に配置される、複数の受動素子と、
前記ダイポールアンテナの前記端部が前記複数の受動素子に接続されていない全方向状態と、前記複数の受動素子のうちの1つの少なくとも1つの端部が前記複数のアンテナのうちの1つの少なくとも1つの端部に接続されている指向性状態とを切り替えるように構成された、1つまたは複数のスイッチと
を備える、アンテナ装置。
【請求項2】
前記指向性状態において、前記複数の受動素子のうちの1つの少なくとも2つの端部が2つの異なるアンテナに接続され、それによって前記2つの異なるアンテナを2つの給電点を有する単一の長い放射素子に変換する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
複数のダイポールアンテナおよび前記複数の受動素子が、略円形または略長方形の配向で前記ポートの周囲に配置される、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記複数のダイポールアンテナが地板の上方に水平に配置される、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記複数のダイポールアンテナが少なくとも3つのダイポールアンテナを備える、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記受動素子が金属帯である、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記全方向状態において、全方位面における利得が少なくとも4dBiである、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記全方向状態と前記指向性状態との間の利得の差が、少なくとも3dBである、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
各受動素子および隣接するアンテナの接続および切断を行うための電子回路と、指向性状態にある前記アンテナ装置のアンテナビームを1つまたは複数のモバイル機器の位置に向けるために、隣接するアンテナに接続する受動素子を決定するための制御アルゴリズムとをさらに備える、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記1つまたは複数のスイッチが、ダイオード、トランジスタおよび電子スイッチのうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
アンテナ装置を全方向状態から指向性状態に切り替えるための方法であって、前記アンテナ装置が、複数のダイポールアンテナおよびポートであって、前記ダイポールアンテナの各々が2つの端部を含み、前記ダイポールアンテナの各々が前記ポートに接続される、複数のダイポールアンテナおよびポートと、複数の受動素子であって、前記複数の受動素子が、前記複数の受動素子の各々が前記複数のダイポールアンテナからの2つの異なるアンテナの間に位置するように、前記ポートの周囲に交換可能に配置される、複数の受動素子と、前記ダイポールアンテナの前記端部が前記複数の受動素子に接続されていない全方向状態と、前記複数の受動素子のうちの1つの少なくとも1つの端部が前記複数のアンテナのうちの1つの少なくとも1つの端部に接続されている指向性状態とを切り替えるように構成された、1つまたは複数のスイッチとを備え、前記方法が、
前記複数の受動素子のうちの少なくとも1つの前記少なくとも1つの端部を前記複数のダイポールアンテナのうちの1つの前記少なくとも1つの端部に接続するために前記1つまたは複数のスイッチを動作させるステップと、それによって前記アンテナ装置を前記全方向状態から前記指向性状態に切り替えるステップと
を含む、方法。
【請求項12】
前記複数の受動素子のうちの少なくとも1つを2つの異なるアンテナに接続するステップと、それによって前記2つの異なるアンテナを2つの給電点を有する単一の長い放射素子に変換するステップとを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの方向における前記全方向状態と前記指向性状態との間の利得を少なくとも3dB増加させるステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記アンテナ装置のアンテナビームを、1つまたは複数のモバイル機器の位置に向ける方向を決定するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記アンテナ装置を前記全方向状態に戻す時期を決定するステップと、前記1つまたは複数のスイッチを動作させるステップと、それによって前記アンテナ装置を前記指向性状態から前記全方向状態に戻すように切り替えるステップとをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、本出願と同じ発明者によって同日に出願された代理人整理番号86175176PCT01の「Beam Diversity by Smart Antenna Without Passive Elements」と題するPCT出願に関連し、その内容は参照により本明細書に完全に記載されているかのように組み込まれる。
【0002】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、アンテナ装置に関し、より具体的には、但し排他的ではないが、Wi-Fiアクセスポイントとともに使用されてもよいアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0003】
Wi-Fiは、IEEE規格802.11に基づく無線LAN規格であり、家庭、オフィスおよび他の屋内/屋外環境で広く使用されている。Wi-Fiは、2.4GHz帯および5GHz帯の2つの周波数帯で動作し、アクセスポイントとクライアント(コンピュータ、スマートハンドセット、各種機器など)との間の通信を管理する。Wi-Fiプロトコルは、アクセスポイントのカバレッジエリアの任意の場所にいる多数のユーザにサービスを提供するために開発された。換言すれば、アクセスポイントは、その動作の全領域をカバーする必要がある。そのため、Wi-Fiアンテナは、典型的には広範囲のカバレッジのための全方向ビームを有する。
【0004】
任意のWi-Fiシステムの最終目的は、各ユーザに可能な限り最高のスループットを提供することである。この目的は、良好な信号対干渉および雑音比(SINR)を可能にするために、強力な信号を必要とする。この目的はまた、必要に応じて、他のセルへの干渉を低減しながら、特定のユーザの方向に高利得で向けられてもよい狭い指向性ビームを必要とする。したがって、理想的なWi-Fiアクセスポイントは、全方向ビームを交互に放射し、狭い指向性ビームを放射することができるべきである。
【0005】
Wi-Fiアンテナにおけるビームカバレッジを交互にするか、または多様化するための様々な解決策が知られている。このような解決策の1つは、反射器および導波器の使用に基づいている。このような従来技術のWi-Fiアンテナの動作原理は、周知の八木・宇田アンテナに基づいている。八木・宇田アンテナは、一列に並んだ複数の並列素子、通常は金属ロッド製の半波長ダイポールで構成される指向性アンテナである。八木・宇田アンテナは、伝送線路を用いて送信機または受信機に接続された単一の被駆動素子と、送信機または受信機に接続されていない追加の無給電素子、すなわち反射器および1つまたは複数の導波器とからなる。反射器および導波器は、異なる位相を含む被駆動素子からの電波を吸収して再放射し、ダイポールの放射パターンを変更する。複数の素子からの波は、単一方向の放射を増強するように重なり合って干渉し、アンテナの利得の非常に実質的な指向性の増加を達成する。
【0006】
アクセスポイントが異なる信号パターンを発することを可能にするために、Wi-Fiアクセスポイントのアンテナ素子には、八木・宇田の概念が適用されている。例えばWi-Fiアクセスポイントは、構造の中心に2つの垂直バイコニカルダイポールを有する1つの能動素子と、その周囲に異なる半径のいくつかの円形アレイに配置された非常に多くの受動素子とを含む構造から構成されてもよい。各受動素子は、ダイオードによって1つの長い受動素子(約0.5波長)に短縮されてもよいか、または開放されたままにされてもよいいくつかの非常に短い金属部分(例えば、波長の1/5未満)からなる。受動素子を短縮することは、したがってそれらを導波器から反射器に変更し、それによってWi-Fiアクセスポイントの指向性利得を変更する。別の例では、様々な受動素子が直列に配置され、それらの間にダイオードが構成されてもよい。ダイオードがオフであるとき、受動素子は導波器として機能する。ダイオードがオンであるとき、受動部分の長さは拡大され、反射器として作用する。
【0007】
Wi-Fiアクセスポイントの伝送を変更するための別の既知のモデルは、各々が接地構成要素に取り付けられた複数の放射ダイポールのうちの1つを選択的に作動させることを含む。1つまたは複数の能動ダイポールの選択は、その入力付近の各ダイポールの給電線上の直列スイッチ、例えばダイオードを動作させることによって行われてもよい。放射ダイポールは、異なるサイズまたは異なる構成のものである。各ダイポールは、所望される信号の種類または特性に応じて選択されてもよい。
【0008】
Wi-Fiアクセスポイントで信号を多様化するための別のモデルは、単一のWi-Fiアクセスポイント内に水平偏波素子と垂直偏波素子の両方を統合することを含む。このモデルは、いかなる信号特性も変更せず、むしろ、様々な信号を単一のアクセスポイントに統合する。
【発明の概要】
【0009】
Wi-Fiアンテナにおいて信号を変更するための前述のモデルは全て、アンテナシステムに追加の空間消費要素を含めることに依存している。例えば八木・宇田の原理に依存すると、導波器および反射器として機能するために多数の受動装置を含める必要がある。同様に、複数の放射ダイポールからの選択には、追加の放射ダイポールを含めることが必要となる。さらに、水平偏波素子および垂直偏波素子の両方を使用すると、1つまたは複数の放射ダイポールがアクセスポイントに追加され、水平偏波または垂直偏波のみの単一のアンテナが存在する標準的なWi-Fiアクセスポイントには有用ではない。
【0010】
加えて、それらの様々な追加の受動素子、能動ダイポールおよび/または複数の偏波を含むアンテナを含む上述のモデルは、より大きな面積またはフットプリントを含むアクセスポイントを必要とする。余分な空間は、企業グレードのWi-Fiアクセスポイントには特に重要な考慮事項である。企業グレードのWi-Fiアクセスポイントは、2つまたは3つの帯域をサポートし、5GHzの場合は8個もしくは16個のアンテナ、2.4GHzの場合はさらに4個のアンテナを含む。各アンテナに必要な追加の要素は、こうしてアンテナ装置のサイズ要件を大幅に拡大する。
【0011】
したがって、全方向カバレッジと指向性ビームカバレッジとの間で放射ビームを交互にする能力を提供するスマートアンテナ装置が必要とされている。さらに、全方向ビームカバレッジまたは指向性ビームカバレッジを利用する時期を適切に選択するために、動作環境の動的変化に応答することができるスマートアンテナ装置が必要とされている。加えて、最小限の空間を占めるアンテナを組み込んだスマートアンテナ装置が必要とされている。
【0012】
したがって、本発明の目的は、カバレッジエリア内の特定のセクタを指向する全方向カバレッジと指向性ビームカバレッジとの間の放射ビームを交互にする能力を含むスマートアンテナ装置を提供することである。
【0013】
上記およびその他の目的は、独立請求項の特徴によって達成される。さらなる実装形態は、従属請求項、本明細書および図から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様によれば、アンテナ装置は、複数のダイポールアンテナおよびポートを備える。各ダイポールアンテナはポートに接続され、複数のダイポールアンテナはポートの周囲に配置される。複数のダイポールアンテナの各々は、2つの端部を備える。アンテナ装置は、複数の受動素子をさらに備える。複数のダイポールアンテナの端部および複数の受動素子は、複数の受動素子の各々が複数のダイポールアンテナからの2つの異なるアンテナの端部の間に位置するように、ポートの周囲に交換可能に配置される。1つまたは複数のスイッチは、ダイポールアンテナの端部が複数の受動素子に接続されていない全方向状態と、複数の受動素子のうちの1つの少なくとも1つの端部が複数のアンテナのうちの1つの少なくとも1つの端部に接続されている指向性状態とを切り替えるように構成される。
【0015】
この態様の利点は、アンテナ装置が、ダイポールアンテナのアレイの周囲に位置する受動素子のみを使用して、全方向状態と指向性状態との間で切り替えられてもよいことである。これにより、アンテナ装置の空間要件を増加させることなくモードの切替えが可能になる。全方向状態において、ダイポールアンテナが互いに接続されていない場合、アンテナ装置は方位面において高利得パターンを提供する。アンテナ装置はまた、1つまたは複数の対の各々において2つの端部が互いに接続されている場合に、方位面内の高利得指向性パターンに変換可能である。
【0016】
第1の態様によるアンテナ装置の一実装形態では、指向性状態において、複数の受動素子のうちの1つの少なくとも2つの端部が2つの異なるアンテナに接続され、それによって2つの異なるアンテナを2つの給電点を有する単一の長い放射素子に変換する。有利には、少なくとも2つの結合ダイポールアンテナは、こうして単一の長い放射素子アンテナとして機能し、それによって指向性利得を増加させる。
【0017】
第1の態様によるアンテナ装置の別の可能な実装形態では、複数のダイポールアンテナおよび複数の受動素子は、略長方形または略円形の配向でポートの周囲に配置される。有利には、これらの例示的な配向は、全方向性信号を提供するのに十分に適している。
【0018】
第1の態様によるアンテナ装置の別の可能な実装形態では、複数のダイポールアンテナは、地板の上方に水平に配置される。地板は、全方向状態および指向性状態の両方において、アンテナ装置の利得を増加させるために、ダイポールアンテナのアンテナ波の反射面として機能してもよい。
【0019】
第1の態様によるアンテナ装置の別の可能な実装形態では、複数のダイポールアンテナは、少なくとも3つのダイポールアンテナを備える。どのアンテナも互いに接続されていない場合の全方向状態と、少なくとも2つのアンテナが互いに接続され、かつ少なくとも1つが接続されていない場合の指向性状態とを区別するためには、最低でも3つのダイポールアンテナが必要である。
【0020】
第1の態様によるアンテナ装置の別の可能な実施形態では、全方位面における利得は少なくとも4dBiである。方位面におけるこの利得は、アンテナを使用してWi-Fi信号を適度に広いエリアに送信することを可能にする。
【0021】
第1の態様によるアンテナ装置の別の可能な実装形態では、全方向状態と指向性状態との間の利得の差は、少なくとも3dBである。有利には、全方向状態におけるその方向の利得と比較して、指向性状態における所望の方向の利得の差が好適に有効である。
【0022】
第1の態様によるアンテナ装置の別の可能な実装形態では、アンテナ装置は、各受動素子および隣接するアンテナの接続および切断を行うための電子回路と、指向性状態にあるアンテナ装置のアンテナビームを1つまたは複数のモバイル機器の位置に向けるために、隣接するアンテナに接続する受動素子を決定するための制御アルゴリズムとをさらに備える。したがって、この実装形態では、アンテナ装置は、環境の必要性、例えばアンテナ装置の所与の範囲内のモバイル機器の位置に応じて、全方向状態と指向性状態との間で交互に切り替えられてもよいスマートアンテナの一部である。
【0023】
第1の態様によるアンテナ装置の別の可能な実装形態では、1つまたは複数のスイッチは、ダイオード、トランジスタおよび電子スイッチのうちの少なくとも1つを備える。スイッチは、スマートアンテナを全方向状態と指向性状態との間で切り替えるための制御アルゴリズムと統合されてもよい。
【0024】
本発明の第2の態様では、アンテナ装置を全方向状態から指向性状態に切り替えるための方法が開示される。アンテナ装置は、複数のダイポールアンテナおよびポートを備える。ダイポールアンテナの各々は、ポートに接続される。複数のダイポールアンテナは、ポートの周囲に配置される。複数のダイポールアンテナの各々は、2つの端部を備える。アンテナ装置は、複数の受動素子の各々が複数のダイポールアンテナからの2つの異なるアンテナの間に位置するように、ポートの周囲に交換可能に配置された複数の受動素子をさらに備える。アンテナ装置は、(1)ダイポールアンテナの端部が複数の受動素子に接続されていない全方向状態と、(2)複数の受動素子のうちの少なくとも1つが複数のダイポールアンテナのうちの1つの少なくとも1つの端部に接続されている指向性状態とを切り替えるように構成された1つまたは複数のスイッチをさらに備える。本方法は、複数の受動素子のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの端部を複数のダイポールアンテナのうちの少なくとも1つの端部に接続するために1つまたは複数のスイッチを動作させるステップと、それによってアンテナ装置を全方向状態から指向性状態に切り替えるステップを含む。
【0025】
この態様の利点は、ダイポールアンテナのアレイの周囲に位置する受動素子のみを使用して、アンテナ装置を全方向状態と指向性状態との間で切り替えるために、方法が使用されてもよいことである。これにより、アンテナ装置の空間要件を増加させることなくモードの切替えが可能になる。全方向状態において、ダイポールアンテナが互いに接続されていない場合、アンテナ装置は方位面において高利得パターンを提供する。アンテナ装置はまた、1つまたは複数の対の各々において2つの端部が互いに接続されている場合に、方位面内の高利得指向性パターンに変換可能である。
【0026】
第2の態様による方法の一実装形態では、方法は、複数の受動素子のうちの少なくとも1つを2つの異なるアンテナに接続するステップと、それによって2つの異なるアンテナを2つの給電点を有する単一の長い放射素子に変換するステップとを含む。有利には、指向性状態において、少なくとも2つの結合ダイポールアンテナは、こうして単一の長い放射素子アンテナとして機能する。
【0027】
第2の態様による方法の一実装形態では、本方法は、少なくとも1つの方向における全方向状態と指向性状態との間の利得を少なくとも3dB増加させるステップをさらに含む。有利には、全方向状態におけるその方向の利得と比較して、指向性状態における所望の方向の利得の差が好適に有効である。
【0028】
第2の態様による方法の一実装形態では、本方法は、アンテナ装置のアンテナビームを1つまたは複数のモバイル機器の位置に向ける方向を決定するステップをさらに含む。この実装形態では、アンテナ装置は、環境の必要性、例えばアンテナ装置の所与の範囲内のモバイル機器の位置に応じて、全方向状態と指向性状態との間で交互に切り替えられてもよいスマートアンテナの一部である。
【0029】
第2の態様による方法のさらなる実装形態では、本方法は、アンテナ装置を全方向状態に戻す時期を決定するステップと、1つまたは複数のスイッチを動作させるステップと、それによってアンテナ装置を指向性状態から全方向状態に戻すように切り替えるステップとをさらに含む。この実装形態では、アンテナ装置は、環境の必要性、例えばアンテナ装置の所与の範囲内のモバイル機器の位置に応じて、全方向状態と指向性状態との間で交互に切り替えられてもよいスマートアンテナの一部である。
【0030】
別段定めのない限り、本明細書で用いられる技術用語および/または科学用語は、本発明が関係する技術の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で説明されているものと同様であるかまたは同等である方法および材料を、本発明の実施形態の実施または試験に用いることができるが、例示的な方法および/または材料が以下に説明される。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が支配的となる。さらに、材料、方法および例は単なる例示であり、必ずしも限定することを意図しない。
図面についてのいくつかの見解の簡単な説明
【0031】
本発明のいくつかの実施形態を、単に例として、添付の図面を参照して本明細書において説明する。ここで詳細に図面について特に言及するが、示されている詳細は例としてのものであり、本発明の実施形態の例示的な説明のためのものであることが強調される。この点に関して、図面を用いてなされる説明は、本発明の実施形態がどのように実施されてもよいかを当業者に明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明のいくつかの実施形態による、全方向状態にあるアンテナ装置の図である。
図2】本発明のいくつかの実施形態による、全方向状態にある図1のアンテナ装置によって生成された近傍界の図である。
図3】本発明のいくつかの実施形態による、Θ=135°の方位面で取られた、全方向状態にある図1のアンテナ装置によって生成された遠方界の図である。
図4A】本発明のいくつかの実施形態による、アンテナ装置の周囲で球面状に測定された、図1のアンテナ装置の実現利得合計の図である。
図4B】本発明のいくつかの実施形態による、アンテナ装置の周囲で球面状に測定された、図1のアンテナ装置の実現利得合計の図である。
図5】本発明のいくつかの実施形態による、全方向状態にある図1のアンテナ装置のインピーダンス整合の図である。
図6】本発明のいくつかの実施形態による、指向性状態にある図1のアンテナ装置の図である。
図7】本発明のいくつかの実施形態による、指向性状態にある図6のアンテナ装置によって生成された近傍界の図である。
図8】本発明のいくつかの実施形態による、Θ=135°の方位面で取られた、指向性状態にある図6のアンテナ装置によって生成された遠方界の図である。
図9A】本発明のいくつかの実施形態による、アンテナ装置の周囲で球面状に測定された、指向性状態にある図6のアンテナ装置の実現利得合計の図である。
図9B】本発明のいくつかの実施形態による、アンテナ装置の周囲で球面状に測定された、指向性状態にある図6のアンテナ装置の実現利得合計の図である。
図10】本発明のいくつかの実施形態による、指向性状態にある図6のアンテナ装置のインピーダンス整合の図である。
図11】本発明のいくつかの実施形態による、アンテナ装置を全方向状態から指向性状態に切り替える方法のステップの図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、アンテナ装置に関し、より具体的には、但し排他的ではないが、Wi-Fiアクセスポイントとともに使用されてもよいアンテナ装置に関する。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明がその適用において、以下の説明で述べられ、および/または図面および/または実施例に示されている構成要素および/または方法の構築および配置の詳細に必ずしも限定されないことは、理解されるべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、または様々な手法で実施されるかまたは実行されることが可能である。
【0035】
図1を参照して、アンテナ装置10は、各々がポート12に電気的に接続された複数のダイポールアンテナ14を備える。ポート12は、導線13を介して電源15に電気的に接続される。複数のダイポールアンテナ14は、FR-4基板上、またはプリント回路基板などの任意の他の適切な基板上に配置されてもよい。複数のダイポールアンテナは、地板20の上方に水平に配置される。地板20は、ダイポールアンテナ14の下に延在する平坦または略平坦な水平導電面である。明確にするために、地板20は、全ての方向においてさらに外側に延在してもよく、任意の適切な寸法を有してもよい。地板は、アンテナ装置10の利得を増加させるために、ダイポールアンテナ14のアンテナ波の反射面として機能してもよい。
【0036】
図示の実施形態では、3つのダイポールアンテナ14がある。3つのダイポールアンテナ14の選択は単なる例示であり、より少ないかまたはより多いダイポールアンテナ14が存在してもよい。好ましい実施形態では、少なくとも3つのダイポールアンテナ14がある。各ダイポールアンテナ14は非対称に構成され、給電アーム11は、ポート12、ならびにアーム16および18に接続する。図示の実施形態では、アーム16および18の長さは略等しい。しかし、アーム16および18もまた非対称であってもよい。ダイポールアンテナ14の全長は、送信信号の波長の半分であってもよい。したがって、例えば5GHzで送信される信号の場合、波長は自由空間において60mmであり、FR4基板上で約30mmであり、FR4基板上に印刷されたダイポールアンテナ14の両方のアームの全長は約15 mmである。
【0037】
ダイポールアンテナ14は、ポート12の周囲に閉じた形状で構成される。図示の実施形態では、閉じた形状は円であるが、閉じた形状は、長方形、または任意の他の多角形であってもよい。
【0038】
受動素子17は、アンテナのアーム16、18の間に構成される。受動素子17は金属帯である。受動素子17は、ポート12の周囲の円形アレイまたは多角形アレイの周囲に構成される。各受動素子の長さもまた、透過波長の約半分、例えば5GHz信号では15mmである。
【0039】
受動素子17は、ダイポールアンテナ14のアーム16、18に隣接して構成される。受動素子17およびアーム16、18は、アンテナアレイの周囲に接続点を画定する。3つのアンテナ14が存在する図示の実施形態では、6つの接続点21、22、23、24、25、および26が存在する。アーム16、18の端部は、対応する受動素子17の上方にあるか、または受動素子17に略接触する同一平面内にある。
【0040】
各接続点21~26には、スイッチ30が配置されている。スイッチ30は、受動素子17およびダイポールアンテナ14の隣接するアーム16、18の接続および切断を行うための電子回路を備える。この電子回路は、例えば、ダイオード、トランジスタおよび/または電子スイッチであってもよい。スイッチ30は、電子回路が隣接する受動素子17とアーム16、18との間に閉回路または短絡回路を形成する「オン」位置と、受動素子17とアーム16、18とが接続されないままである「オフ」位置との間で切替え可能である。図1の実施形態では、各スイッチ30は「オフ」位置にあることを示す白丸として描かれている。スイッチ30は、各接続点21~26でスイッチ30を動作させるかどうかを決定するための制御アルゴリズムを用いて遠隔プロセッサ(図示せず)に接続されてもよい。本明細書でさらに説明するように、遠隔プロセッサおよび制御アルゴリズムを使用して、アンテナ装置10を、全方向状態と指向性状態との間で交互に切り替えてもよい。
【0041】
図1の実施形態では、各スイッチ30が「オフ」位置にあるため、アンテナ装置10はアンテナ装置10の全周にわたって同一の構成を有する。このため、図2図4に関連して説明するように、アンテナ装置10は全方向電界を生成し、全方向状態にあると言える。
【0042】
図2は、アンテナ装置10が全方向状態にある場合に、各ダイポールアンテナ14に沿って生成される電界を示す。電界の強度は、ボルト/メートル(V/m)で測定される。説明のために、電界の強度は5つの領域に分割されている。アンテナ装置10にわたる電界の変動は、離散的ではなく連続的であり、特定の領域ごとの電界の以下の近似は、一般的な説明のみを目的としていることを認識されたい。領域42では、給電アーム11上およびアンテナ装置10の周囲の両方(アンテナ装置10の残りの部分に接続されていないアーム16、18の領域および受動素子17の両方)で、電界は100~1,680V/mである。領域43では、給電アーム11上およびアンテナ装置10の周囲の両方で、電界は1,680~3,787V/mである。領域44では、給電アーム11上およびアンテナ装置10の周囲の両方で、電界は3,787~5,893V/mである。領域45では、給電アーム11上およびアンテナ装置10の周囲の両方で、電界は5,893~6,947V/mである。最後に、ポート12に最も近いダイポールアンテナ14の部分に対応する領域46、およびアンテナアーム16の小さな部分でも、電界は6,947~8,000V/mである。図から分かるように、電界はアンテナ14の周囲で対称的であり、アンテナ装置10の角部32、34、36および38における電界には意味のある区別はない。
【0043】
図3は、全方向状態にあるアンテナ装置10によって生成される遠方界を示している。遠方界48は、シータを135°として、5.5GHzの周波数で方位面パターンとしてdBiで測定される。図から分かるように、遠方界48は、方位面の周囲にわたって4dBiを超え、略6dBiで測定される。遠方界48が全方向プロファイルを有する理由は、図2に示す近傍界が円対称性を有するからである。その結果、遠方界48は低リップルの全方向パターンを有する。
【0044】
図4Aおよび図4Bは、全方向状態にあるアンテナ装置10によって生成される利得50を示す。図4Aは、利得50の3次元プロファイルの形状を示し、図4Bは、dBiで表される、3次元プロファイル内の様々な領域に対する利得50の値を示す。図4Aおよび図4Bに見られるように、全方向状態において、利得50を、略楕円形のプロットに沿って測定することができる。さらに、図4Aに最もよく見られるように、利得は、方位面に沿った各点(すなわち、X-Y平面に沿った断面)で略同等である。図4Bから分かるように、領域51における実現利得は-23.911~-14.342dBiであり、領域52では、実現利得は-14.432~-4.7726dBiであり、領域53では、実現利得は-4.7226dBi~1.1967dBiであり、領域54では、実現利得は1.1967~2.4042dBiであり、最大領域である領域55では、実現利得は2.2042dBi~4.7965dBiであり、領域56では、実現利得は約4.7965 dBiである。3次元プロファイルにわたる利得の差は、離散的ではなく連続的であり、領域51~56は一般的な例示のみを目的として描かれている。図4Aおよび図4Bは、アンテナ装置10が3次元において少なくとも4dBiの利得を生成してもよいことを実証している。
【0045】
図5は、全方向状態にあるアンテナ装置10のインピーダンス整合を示している。電子機器では、インピーダンス整合は、電力伝送を最大にするか、または負荷からの信号反射を最小にするように、電気負荷の入力インピーダンスまたはその対応する信号源の出力インピーダンスを設計する手法である。図5では、5.15~5.85GHzの周波数範囲におけるS11の整合が示されている。当業者に知られているように、S11は、電力がアンテナから反射される量を表すアンテナ効率の尺度である。この尺度は、反射係数または反射損失として知られている。例えば、S11が0dBiである場合、全ての電力がアンテナから反射され、いずれも放射されない。S11が0dBi未満である場合、電力の一部がアンテナから放射されることが示唆されている。S11が負であるほど、アンテナから反射される電力量は少なく、アンテナから放射される電力は多くなる。
【0046】
図5に見られるように、5.150GHzでは、反射損失、つまり整合(Y軸線に示される)は、-10.3382デシベルであり、5.500 GHzでは、整合は、-14.3404デシベルであり、5.850GHzでは、整合は、-28.7257デシベルである。したがって、各ダイポールアンテナ14は、5.150~5.850 GHzの全ての周波数で効果的に送信し、測定された範囲から、5.850GHzで最も効果的に送信する(すなわち、最小量の電力を吸収し、最も良好に放射する)。
【0047】
ここで、指向性状態にあるアンテナ装置10を示す図6図10に注目する。図6は、以下の点を除いて、図1に示すアンテナ装置10と同一のアンテナ装置10を示している。図1では、接続点21~26に関連付けられたスイッチ30の各々は「オフ」であったが、図6では、接続点22および23に関連付けられたスイッチ30は「オン」であり、したがって黒丸で示され、他のスイッチ30はオフであり、したがって白丸で示されている。
【0048】
接続点22および23でスイッチ30をオンにする効果は、2つの隣接するダイポールアンテナ14を結合して、2つの給電点を有する単一の長い放射素子またはダイポールアンテナ19にすることである。したがって、結合ダイポールアンテナ19は、接続点21から、接続点22と接続点23との間にある受動素子17を含む、ここでは閉じられている接続点22および23を通って、接続点24まで延在する。他のダイポールアンテナ14および受動素子17は、元のままである。2つの結合ダイポールアンテナ14および受動素子17は、こうして単一のダイポールアンテナとして機能する。2つのダイポールアンテナ14を結合した結果、これらのダイポールアンテナ上の電流分布が変化する。具体的には、結合ダイポールアンテナ19におけるエネルギーは、別個のダイポールアンテナ14におけるエネルギーと比較して低い。これにより、ダイポールアンテナ14が結合される方向に対して、結合ダイポールアンテナ19の正反対の方向の指向性利得が増加する。
【0049】
特に、スイッチ30の使用は、ダイポールアンテナのアレイの周囲に位置する受動素子17のみを使用して、アンテナ装置10を指向性状態と全方向状態との間で切り替えることを可能にする。これにより、アンテナ装置10の空間要件を増加させることなくモードの切替えが可能になる。モード切替えは、複数のダイポールアンテナ14を互いに結合するための受動素子17の使用に基づく。
【0050】
図7は、アンテナ装置10が指向性状態にある場合に、各ダイポールアンテナ14および結合ダイポールアンテナ19に沿って生成される電界を示す。電界の強度は、ボルト/メートル(V/m)で測定される。電界の強度は、図2と同じ5つの領域42、43、44、45、46に分割される。図2に関連して上述したように、アンテナ装置10にわたる電界の変動は、離散的ではなく連続的であり、特定の領域ごとの電界の近似は、一般的な説明のみを目的としていることを認識されたい。
【0051】
図7から分かるように、図2の電界とは対照的に、指向性モードでは、電界はアンテナ装置10全体の周囲で対称ではない。例えば、結合ダイポールアンテナ19の一部ではない受動素子17において達成される最大エネルギーは、最高エネルギー領域46にある。このような高エネルギー領域は、例えば接続点21、24、25および26に位置する。しかし、このような高エネルギー領域46は、閉じた接続点22、23には存在しない。
【0052】
図8は、指向性状態にあるアンテナ装置10によって生成される遠方界を示す。遠方界60は、シータを135°として、5.5GHzの周波数で方位面パターンとしてdBiで測定される。図から分かるように、遠方界60は角度30°と150°との間で6dBiを超える。30°よりも低く150°よりも高い角度では、電界60は6dBiよりも低く、-90°~-150°の間では0dBi未満まで下降する。遠方界60が非対称プロファイルを有する理由は、図7に示す近傍界の非対称性によるものである。ダイポール上の非対称な近傍界は、結合アンテナ19とは反対の方向の遠方界に強い指向性をもたらす。
【0053】
図9Aおよび図9Bは、指向性状態にあるアンテナ装置によって生成される利得62を示す。図9Aは、利得62の3次元プロファイルの形状を示し、図9Bは、dBiで表される、3次元プロファイル内の様々な領域に対する利得62の値を示す。図9Aおよび図9Bに見られるように、指向性状態において、高利得のエリア64、66は、略半球形のプロファイルをとる。エリア72および74などの低利得の領域は、より限定されたプロファイルをとり、図8に示すように遠方界の低利得領域に略対応する。
【0054】
図9Bに見られるように、実現利得は強い指向性である。領域64では、実現利得は約8.0800 dBiであり、領域66では、実現利得は4.9408~8.0800dBiであり、領域68では、実現利得は-1.3388~4.9404dBiであり、領域70では、実現利得は-4.4783~-1.3388dBiであり、領域72では、実現利得は-7.8179dBi~-4.4783dBiであり、領域74では、実現利得は-20.176~-7.8179dBiである。
【0055】
図8図9Aおよび図9Bの実現利得と図3図4Aおよび図4Bの実現利得との比較から分かるように、指向性状態における最大利得は、全方向状態における最大利得よりも3dBを超えて大きい。例えば、図9Bの領域64における最大利得は8.0800dBiであるのに対して、図4Bの領域56における最大利得は4.7695dBiである。したがって、指向性状態は、全方向状態におけるその方向の利得と比較して、所望の方向において著しく高い利得を提供する。
【0056】
図10は、指向性状態にあるアンテナ装置10のインピーダンス整合を示す。図10では、5.50GHz付近の周波数におけるS11の整合が示されている。図10に見られるように、5.150GHzでは、整合(Y軸線に示される)は、-11.6898デシベルであり、5.500GHzでは、整合は、-16.4896デシベルであり、5.850GHzでは、整合は、-14.9166デシベルである。
【0057】
図10図5との比較は、全方向状態および指向性状態の両方において、-10デシベル未満の整合を含む周波数の広帯域が存在することを示している。具体的には、整合は、5.150~5.850GHzの全範囲にわたって、-10デシベル未満である。
【0058】
受動素子17の存在は、上述の広帯域整合を可能にする上で重要な役割を果たす。スマートアンテナの設計における主な問題の1つは整合である。記載の実施形態では、単一の給電ネットワーク上に3つのダイポールアンテナ14のアレイが存在する。通常、ダイポールおよびそれらの給電ネットワークの慎重な設計により、単一の状態、例えば図示された実施形態の全方向状態に対して良好な整合を得ることができる。しかし、図示の実施形態では、全方向および指向性の2つの状態において良好な整合を提供する単一の給電ネットワークを設計する必要がある。受動素子17の慎重な設計、すなわち、それらの長さおよび幅の特定の計算(例えば、透過波長の半分の長さ)により、(2つのダイポールアンテナ14および1つの受動素子17が2つの励起を含む単一の放射素子19に変わるという原理に基づいて)全方向モードおよび指向性モードの両方において広い整合を達成することが可能である。
【0059】
記載のアンテナ装置10は、代替装置と比較して他の多くの利点を有する。アンテナ装置10の構造は小さいフォームファクタを有し、これにより、アンテナ装置を小さいサイズのアクセスポイントに含めることが可能になる。さらに、全方向モードにおいて高利得を達成する能力は、比較的高い伝送電力(高実効等方放射電力(EIRP))で低誤差ベクトル振幅(EVM)を達成することを可能にする。さらに、指向性モードにおけるビーム多様化の独自の機構は、追加の高利得を提供する。アンテナ装置10は、例えばPCBトレースアンテナとして非常に簡単に製造されてもよく、したがって費用効果が高い。
【0060】
図11は、本発明のいくつかの実施形態による、アンテナ装置10を全方向状態から指向性状態に切り替える方法100のステップを示す。アンテナ装置10は、複数のダイポールアンテナ14および共通ポート12を備える。各ダイポールアンテナ14は、共通ポート12に接続される。複数のダイポールアンテナ14は、ポート12の周囲に配置される。複数のダイポールアンテナ14の各々は、2つの端部16、18を備える。アンテナ装置は、複数の受動素子17の各々が複数のダイポールアンテナ14からの2つの異なるアンテナ14の間に位置するように、ポート12の周囲に交換可能に配置された複数の受動素子17をさらに備える。アンテナ装置10は、(1)ダイポールアンテナ14の端部16、18が複数の受動素子17に接続されていない全方向状態と、(2)複数の受動素子17のうちの少なくとも1つが複数のダイポールアンテナ14のうちの1つの少なくとも1つの端部16、18に接続されている指向性状態とを切り替えるように構成された1つまたは複数のスイッチ30をさらに備える。
【0061】
本方法は、アンテナ装置10が、デフォルト状態であってもよい全方向状態にある場合に開始する。ステップ101において、装置10は、指向性状態のための所望の界の方向を任意選択的に決定する。この決定は、例えばアンテナ装置10に対して特定の方向に1つまたは複数のモバイル機器がクラスタ化されている場合に、アンテナ装置10の近傍における1つまたは複数のモバイル機器の検出に基づいてもよい。アンテナ装置は、環境の必要性、例えばアンテナ装置の所与の範囲内のモバイル機器の検出に応じて、全方向状態と指向性状態との間で交互に切り替えられてもよいスマートアンテナの一部であってもよい。
【0062】
ステップ102において、1つまたは複数のスイッチ30は、アンテナ装置10を全方向状態から指向性状態に切り替えるために、装置10が所望の方向に指向性の界を生成するように動作される。動作させるステップ102は、アンテナ装置10を、受動素子17およびダイポールアンテナ14の端部のいずれも互いに接続していない全方向状態から、受動素子17のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの端部がダイポールアンテナ14のうちの1つの少なくとも1つの端部に接続されている指向性状態に切り替えることを含む。より具体的には、動作させるステップ102は、隣接する受動素子17およびダイポールアンテナ14を接続するために、1つまたは複数のスイッチ30を動作させることを含む。
【0063】
有利には、ダイポールアンテナのアレイの周囲に位置する受動素子のみを使用して、アンテナ装置を全方向状態と指向性状態との間で切り替えるために、方法が使用されてもよい。これにより、アンテナ装置の空間要件を増加させることなくモードの切替えが可能になる。全方向状態において、ダイポールアンテナが互いに接続されていない場合、アンテナ装置は方位面において高利得パターンを提供する。アンテナ装置はまた、1つまたは複数の対の各々において2つの端部が互いに接続されている場合に、方位面内の高利得指向性パターンに変換可能である。
【0064】
ステップ103において、本方法は、アンテナ装置を全方向状態に戻す時期を決定することをさらに含む。この決定は、アンテナ装置10の近傍、例えばアンテナ装置10の周囲の多数の方向における、1つまたは複数のモバイル機器の検出に基づいてもよい。ステップ104において、本方法は、1つまたは複数のスイッチ30を動作させ、それによってアンテナ装置を指向性状態から全方向状態に戻すことをさらに含む。この実装形態では、アンテナ装置10は、環境の必要性、例えばアンテナ装置10の所与の範囲内のモバイル機器の位置に応じて、全方向状態と指向性状態との間で交互に切り替えられてもよいスマートアンテナの一部である。
【0065】
ステップ105において、本方法は繰り返される。すなわち、アンテナ装置10に対して単一の方向にある1つまたは複数の装置の検出時に、アンテナ装置10は、上述した方法で指向性状態に戻るように切り替えられてもよい。
【0066】
当業者には理解することができるように、上述したアンテナ装置10の電界、利得、およびインピーダンス整合の各測定値は、アンテナ装置10の特定の一実施形態に関するものである。アーム16、18の長さ、受動素子17の長さ、給電アーム11の長さ、ポート12の周囲のダイポールアンテナ14および受動素子17の配向、ダイポールアンテナ14および受動素子17によって形成される閉じた形状の構造、ダイポールアンテナ14に対する地板20のサイズおよび位置、ならびに電源15から送達されるエネルギーなどのアンテナ装置10の様々なパラメータの調整は全て、電界、利得およびインピーダンス整合に影響を及ぼす。したがって、上述の値は限定的な意味ではなく、例示的な意味で理解されるべきである。
【0067】
本発明の様々な実施形態の説明が例示の目的で提示されてきたが、網羅的であること、または開示された実施形態に限定されることを意図するものではない。記載された実施形態の範囲から逸脱することなく、多くの修正および変更が当業者には明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施形態の原理、実際の用途または市場で見られる技術に対する技術的改善を最もよく説明するために、または当業者が本明細書に開示された実施形態を理解することを可能にするために選択された。
【0068】
本出願から成熟する特許の存続期間中に、多くの関連するダイポールアンテナおよび受動素子が開発されることが予想され、ダイポールアンテナおよび受動素子という用語の範囲は、このような全ての新しい技術を先験的に含むことが意図されている。
【0069】
本明細書で使用される用語「約(about)」は、±10%を指す。
【0070】
用語「備える(comprises,comprising)」、「含む(includes,including)」、「有する(having)」およびこれらの活用形は、「含むが、これに限定されない(including but not limited to)」を意味する。この用語は、「で構成される(consisting of)」および「で本質的に構成される(consisting essentially of)」という用語を包含する。
【0071】
「で本質的に構成される(consisting essentially of)」という表現は、構成または方法が追加の構成要素および/またはステップを含んでもよいが、追加の構成要素および/またはステップが特許請求される構成または方法の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合に限ることを意味する。
【0072】
本明細書で使用される、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が別途明確に定めない限り、複数を指すことを含む。例えば、用語「複合物(a compound)」または「少なくとも1つの複合物(at least one compound)」は、それらの組合せを含む複数の複合物を含んでもよい。
【0073】
「例示的(exemplary)」という用語は、本明細書では「例、事例または例示としての役割を果たす」を意味するために使用される。「例示的(exemplary)」と記載された任意の実施形態は、必ずしも他の実施形態よりも好ましいかまたは有利であると解釈されるべきではなく、および/または他の実施形態からの特徴の組込みを除外するべきではない。
【0074】
「任意選択として(optionally)」という用語は、本明細書では「いくつかの実施形態で提供され、他の実施形態では提供されない」ことを意味するために使用される。本発明の任意の特定の実施形態は、このような特徴が矛盾しない限り、複数の「任意選択」の特徴を含んでもよい。
【0075】
本出願全体を通して、本発明の様々な実施形態が範囲形式で提示されてもよい。範囲形式での記載が単に利便性および簡潔さを目的としており、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定と解釈されるべきではないことが、理解されるべきである。したがって、範囲の記載は、具体的に開示された全ての可能な部分範囲およびその範囲内の個々の数値を有するとみなされるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示された部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば1、2、3、4、5および6を有するとみなされるべきである。これは、範囲の広さに関わらず適用される。
【0076】
本明細書に数値範囲が示されている場合はいつでも、示された範囲内の任意の引用された数字(分数または整数)を含むものとする。第1の指示数と第2の指示数と「の間の範囲にある/範囲」、および第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲にある/範囲」という表現は、本明細書においては互換的に使用され、第1の指示数および第2の指示数と、それらの間の全ての分数および整数とを含むものとする。
【0077】
明確にするために別個の実施形態に関して説明されている本発明の特定の特徴はまた、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔にするために単一の実施形態に関して説明されている、本発明の様々な特徴はまた、個々に提供されてもよく、または任意の適切な部分的組合せで提供されてもよく、または本発明の任意の他の記載の実施形態において適切に提供されてもよい。様々な実施形態に関して説明されている特定の特徴は、実施形態がこれらの要素なしでは動作不能な場合を除いて、それらの実施形態の必須の特徴とみなされるべきではない。
【0078】
本発明はその特定の実施形態に関して説明されてきたが、多くの代替、修正および変更が当業者にとって明らかであることは明白である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および広義の範囲に含まれる全てのこのような代替、修正および変更を包含することが意図される。
【0079】
各個別の公開、特許または特許出願が参照によって本明細書に組み込まれるように具体的かつ個別に示されている場合と同程度に、本明細書に記載の全ての公開、特許および特許出願は、その全体において参照によって本明細書に組み込まれる。さらに、本出願における任意の引用文献の引用または特定は、このような引用文献が本発明に対する先行技術として利用可能であることを自認することとして解釈されるべきではない。表題を用いる程度に、これらが必然的に限定されるものとして解釈されるべきではない。
【符号の説明】
【0080】
10 アンテナ装置
11 給電アーム
12 ポート
13 導線
14 ダイポールアンテナ
15 電源
16 アーム、端部
17 受動素子
18 アーム、端部
19 ダイポールアンテナ
20 地板
21 接続点
22 接続点
23 接続点
24 接続点
26 接続点
30 スイッチ
32 角部
34 角部
36 角部
38 角部
42 領域
43 領域
44 領域
45 領域
46 領域
48 遠方界
50 利得
51 領域
52 領域
53 領域
54 領域
55 領域
56 領域
60 遠方界
62 利得
64 領域
66 領域
68 領域
70 領域
72 領域
74 領域
X、Y 軸線
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11