(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】静電入力装置、及び、入力判定方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20231024BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G06F3/041 590
G06F3/044 120
(21)【出願番号】P 2022545511
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2021025999
(87)【国際公開番号】W WO2022044569
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020140845
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 智
(72)【発明者】
【氏名】早坂 哲
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 新一
(72)【発明者】
【氏名】ハリャディ ハリー
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 実
【審査官】木内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-122625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0092057(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0016045(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電座標入力部の複数の座標における静電容量を測定する測定部と、
前記静電容量の基準値を取得するとともに、前記静電容量から前記基準値を減算して前記複数の座標における前記静電座標入力部と指との間の距離に応じた差分値に変換する変換部と、
前記複数の座標についての前記差分値から接触箇所の重心座標を算出する第1座標算出部と、
前記重心座標を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における前記差分値が、前記円に沿った1周において2周期の周期性を示すかどうかを判定する周期判定部と、
前記周期判定部によって前記2周期の周期性を示すと判定されると、2本以上の指による入力操作が行われたと判定する操作判定部と
を含む、静電入力装置。
【請求項2】
前記操作判定部は、前記円の円周上の座標における前記差分値をフーリエ解析し、前記円に沿った1周において2周期になるベクトルの大きさが所定のベクトルの大きさの閾値よりも大きければ、前記2本以上の指による入力操作が行われたと判定する、請求項1に記載の静電入力装置。
【請求項3】
前記操作判定部は、前記円の円周上の各電極の測定値をフーリエ解析し、前記円に沿った1周において2周期になるベクトルの大きさと、直流成分との比率が第1所定比率よりも大きければ、前記2本以上の指による入力操作が行われたと判定する、請求項1に記載の静電入力装置。
【請求項4】
指の間隔は、前記ベクトルの大きさの2倍として算出する、請求項2又は3に記載の静電入力装置。
【請求項5】
所定の基準方向に対する前記ベクトルの方向を2本の指を結ぶ方向として算出する、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の静電入力装置。
【請求項6】
前記操作判定部は、前記差分値の最大値又は最小値の座標を基準にして、前記円の円周上の座標における前記差分値からフーリエ解析した実数部を算出し、前記円に沿った1周において2周期になるフーリエ解析の前記実数部の大きさが別の所定の閾値よりも大きければ、前記2本以上の指による入力操作が行われたと判定する、請求項1に記載の静電入力装置。
【請求項7】
前記操作判定部は、前記円の円周上の座標における前記差分値の最大値と最小値の比率を算出し、前記比率が第2所定比率よりも大きければ、前記2本以上の指による入力操作が行われたと判定する、請求項1に記載の静電入力装置。
【請求項8】
前記操作判定部は、前記円の円周上の座標における前記差分値の最大値と最小値の比率を算出し、前記比率が第3所定比率よりも大きく、かつ、前記重心座標と前記最大値の座標を結ぶ第1の線分と、前記重心座標と前記最小値の座標を結ぶ第2の線分との角度が、π/4[rad]より大きく3π/4[rad]より小さいか、又は、5π/4[rad]より大きく7π/4[rad]より小さければ、前記2本以上の指による入力操作が行われたと判定する、請求項1に記載の静電入力装置。
【請求項9】
前記周期判定部によって前記2周期の周期性を示すと判定されると、前記差分値が閾値を超える座標が存在する範囲の輪郭を楕円で近似する近似処理部と、
前記楕円の2つの焦点よりも、前記楕円の中心に近い位置を2本の指の中心座標として算出する第2座標算出部と
をさらに含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の静電入力装置。
【請求項10】
前記第2座標算出部は、前記楕円の2つの焦点と前記楕円の中心とを結ぶ直線上において、前記焦点と前記中心との間の第1距離に1未満の定数を乗算して得る第2距離だけ前記中心から離れた2点の座標を前記2本の指の中心座標として算出する、請求項9に記載の静電入力装置。
【請求項11】
前記定数は、前記楕円の離心率の二次関数から得られる定数である、請求項10に記載の静電入力装置。
【請求項12】
前記変換部は、前記差分値に前記静電座標入力部の複数の座標における静電容量を補正する補正値を掛けて、前記差分値を補正する、請求項1乃至11の何れかに記載の静電入力装置。
【請求項13】
静電座標入力部の複数の座標における静電容量の基準値を取得するとともに、前記静電容量から前記基準値を減算して前記複数の座標における前記静電座標入力部と指との間の距離に応じた差分値に変換することと、
前記複数の座標についての前記差分値から接触箇所の重心座標を算出することと、
前記重心座標を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における前記差分値が、前記円に沿った1周において2周期の周期性を示すかどうかを判定することと、
前記2周期の周期性を示すと判定されると、2本以上の指による入力操作が行われたと判定することと
を含む処理をコンピュータが実行する、入力判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電入力装置、及び、入力判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量方式のタッチパッドや、タッチパネル等では、指やタッチペン等が接触すると静電容量が変化することを利用して、指やタッチペン等を検出している。静電容量方式のタッチパッドやタッチパネルでは、センサ電極の上に絶縁性の板があっても、指やタッチペン等を検出できる。しかし、センサ電極上の板が厚いと、分解能が低くなり、二本の指やタッチペン等が板に接触している箇所を一つの広い分布領域として、検出することがある。従来より、検出された分布領域の偏平度合を算出し、偏平度合に基づいて、シングルタッチかマルチタッチかを決定するタッチパネルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タッチパネルやタッチパッドに対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、複数本の指がタッチパネルやタッチパッドに接触した状態とでは、ともに検出される分布領域は楕円形になる。従来の入力装置は、分布領域の偏平度合でシングルタッチかマルチタッチかを決定するため、タッチパネルやタッチパッドに対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、複数本の指がタッチパネルやタッチパッドに接触した状態とを区別できない。
【0005】
そこで、静電座標入力部に対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、複数本の指が静電座標入力部に接触した状態とを区別できる静電入力装置、及び、入力判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の静電入力装置は、静電座標入力部の複数の座標における静電容量を測定する測定部と、前記静電容量の基準値を取得するとともに、前記静電容量から前記基準値を減算して前記複数の座標における前記静電座標入力部と指との間の距離に応じた差分値に変換する変換部と、前記複数の座標についての前記差分値から接触箇所の重心座標を算出する第1座標算出部と、前記重心座標を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における前記差分値が、前記円に沿った1周において2周期の周期性を示すかどうかを判定する周期判定部と、前記周期判定部によって前記2周期の周期性を示すと判定されると、2本以上の指による入力操作が行われたと判定する操作判定部とを含む。
【発明の効果】
【0007】
静電座標入力部に対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、複数本の指が静電座標入力部に接触した状態とを区別できる静電入力装置、及び、入力判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1の静電入力装置100を示す図である。
【
図2】静電座標入力部110に操作入力を行う際の1本の立てた指Fの状態と静電座標入力部110の測定値との関係を示す図である。
【
図3】静電座標入力部110に操作入力を行う際の1本の斜めの指Fの状態と静電座標入力部110の測定値との関係を示す図である。
【
図4】静電座標入力部110に操作入力を行う際の2本の指F,F'の状態と静電座標入力部110の測定値との関係を示す図である。
【
図5】2本の指F,F'の位置関係の違いによる差分値の平面的な分布、及び、差分値の角度特性の違いを説明する図である。
【
図6】2本の指F,F'の位置関係の違いによる差分値の平面的な分布、及び、差分値の角度特性の違いを説明する図である。
【
図7】2本の指F,F'の座標PF1、PF2を説明する図である。
【
図8】実施形態1の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
【
図10】実施形態2の静電入力装置200を示す図である。
【
図11】離心率eと定数の実測値との関係を示す図である。
【
図12】近似処理部254が近似処理で求める楕円と座標算出部255が算出する2本の指の中心座標との一例を示す図である。
【
図13】近似処理部254が近似処理で求める楕円と座標算出部255が算出する2本の指の中心座標との一例を示す図である。
【
図14】近似処理部254が近似処理で求める楕円と座標算出部255が算出する2本の指の中心座標との一例を示す図である。
【
図15】測定した2本の指の中心座標同士の間の距離Lmと、座標算出部255によって2本の指の中心座標として算出された2つの点同士の間の距離Lc1、Lc2との関係を示す図である。
【
図16】測定した2本の指の中心座標同士の間の距離Lmと、座標算出部255によって2本の指の中心座標として算出された2つの点同士の間の距離Lc1、Lc2との関係を示す図である。
【
図17】実施形態2の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
【
図18】実施形態3の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
【
図19】実施形態4の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
【
図20】実施形態5の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
【
図21】2本の指F,F'の位置関係の違いによる差分値の平面的な分布、及び、差分値の角度特性の違いを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の静電入力装置、及び、入力判定方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態1>
図1は、実施形態1の静電入力装置100を示す図である。以下では、XYZ座標系を定義して説明する。また、以下では、平面視とはXY面視のことである。-Z方向は、静電入力装置に近づく方向である。説明の便宜上、-Z方向側を下側又は下と称す。+Z方向は、静電入力装置から離れる方向である。説明の便宜上、+Z方向側を上側又は上と称す。
【0011】
静電入力装置100は、静電座標入力部110、マルチプレクサ120、駆動回路130、検出部140、及び制御部150を含む。
【0012】
静電座標入力部110は、X方向の位置を検出する複数の電極111と、Y方向の位置を検出する複数の電極112を有する。複数の電極111、112は、図示しない透明基板の上面、下面にITO(Indium Tin Oxide)等の透光性の導電性材料でそれぞれ形成されている。複数の電極111は、電極X0,X1,X2,X3,・・・,Xnからなる。電極X0,X1,X2,X3,・・・,XnはX方向へ一定のピッチで配列され、Y方向に延在している。複数の電極112は、電極Y0,Y1,Y2,Y3,・・・,Ynからなる。電極Y0,Y1,Y2,Y3,・・・,YnはY方向へ一定のピッチで配列され、X方向に延在している。複数の電極111と複数の電極112とが平面視で交差する部分を交点113として示す。
【0013】
マルチプレクサ120は、複数の電極111(X0,X1,X2,X3,・・・,Xn)と複数の電極112(Y0,Y1,Y2,Y3,・・・,Yn)とを駆動回路130又は検出部140に接続する切り替え回路である。
【0014】
駆動回路130は、複数の電極111(X0,X1,X2,X3,・・・,Xn)と複数の電極112(Y0,Y1,Y2,Y3,・・・,Yn)とをグループ分けして順番に駆動電力を出力する。
【0015】
検出部140は、駆動回路130によって複数の電極111(X0,X1,X2,X3,・・・,Xn)に駆動電力が供給される際に、複数の電極112の各電極(Y0,Y1,Y2,Y3,・・・,Yn)に流れる電流を測定し、各交点113における静電容量を算出する。検出部140は、駆動回路130によって複数の電極112(Y0,Y1,Y2,Y3,・・・,Yn)に駆動電力が供給される際に、複数の電極112の各電極(X0,X1,X2,X3,・・・,Xn)に流れる電流を測定し、各交点113における静電容量を測定する。検出部140が測定する各交点113の静電容量は、各交点113における電極111、112の間に生じる静電容量である。各交点113に生じる静電容量は、各交点113の近くの導体(指)の影響を受ける。各交点113の静電容量値は、制御部150の変換部151に入力される。
【0016】
制御部150は、変換部151、重心座標算出部152、周期判定部153、操作判定部154、及び座標算出部155を有する。
【0017】
変換部151は、検出部140によって測定される静電容量が閾値未満のときに、検出部140を介して時系列的に複数回測定して得る各交差点113における静電容量の平均値を求める。そして、変換部151は、求めた平均値を静電座標入力部110が静電容量を測定する際の基準値として取得する。さらに、変換部151は、検出部140によって各交差点113について測定される静電容量の測定値から、基準値を減算して各交差点113における静電座標入力部110と指との間の距離に応じた静電容量の差分値(以下、差分値と称す)に変換する。なお、基準値は、各交差点113について取得される。
【0018】
重心座標算出部152は、第1座標算出部の一例である。重心座標算出部152は、変換部151が出力する各交点113の差分値に基づいて重心を算出する。本発明における「重心」は、各交点113の差分値を、その交点113の質量とみなした場合の重心である。つまり、本発明の「重心」は、静電容量の分布の中心である。
【0019】
周期判定部153は、重心座標算出部152によって算出される重心座標を中心とする所定の半径の円の円周上の各電極111、112の交点113における差分値が、円に沿った1周において2周期の周期性を示すかどうかを判定する。「1周において2周期の周期性」とは、
図4(C)に示すようにπ[rad]間隔の正弦波の成分が大きいことである。周期判定部153の処理内容については、
図2乃至
図4を用いて後述する。
【0020】
操作判定部154は、重心座標算出部152によって算出される重心座標を中心とする所定の半径の円の円周上の各交点113における差分値が、周期判定部153によって2周期の周期性を示すと判定されると、複数本の指による入力操作が行われたと判定する。
【0021】
座標算出部155は、操作判定部154によって複数本の指による入力操作が行われたと判定された場合に、複数の指の各々の中心座標を算出する。また、座標算出部155は、操作判定部154によって1本の指による入力操作が行われたと判定された場合に、重心座標算出部152によって算出される重心座標を指の中心座標として出力する。
【0022】
図2乃至
図4は、静電座標入力部110に操作入力を行う際の指Fの状態と静電座標入力部110の測定値との関係を示す図である。
図2(A)には1本の指Fを立てて操作入力を行っている状態を示し、
図3(A)には1本の指Fを斜めにして操作入力を行っている状態を示し、
図4(A)には2本の指F,F'を立てて操作入力を行っている状態を示す。
【0023】
また、
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)には交点113における差分値の平面的な分布を示す。差分値の平面的な分布は、差分値に応じた等値線(実線の閉曲線)で示し、検出部140によって検出される指Fの位置を表す領域FA(以下、指領域FA)と、指領域FAの重心を中心とする半径rの測定円(破線の円)とを併せて示す。指領域FAはモノトーンのグラデーションで示し、黒い部分は指Fが静電座標入力部110に触れている部分である。グレーの部分は、指Fが、静電座標入力部110に近接している部分である。また、測定円は、重心を中心とする円である。測定円の直径は、2本の指を接触させた場合の2本の指の中心同士の平均の距離である。一例として、測定円の直径は18mm(半径は、9mm)である。なお、
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)におけるXY座標の原点は、指領域FAの重心である。測定円の半径は、9mmに限らない。測定円の半径が、8mm~10mmであれば、十分高い精度が得られる。また、測定円は、必ずしも半径を固定する必要はない。例えば、重心から差分値が最大となる位置までの距離を用いても良い。
【0024】
また、
図2(C)、
図3(C)、
図4(C)には差分値の角度特性を示す。横軸は角度を示し、縦軸は測定円上の差分値を示す。角度は測定円上の位置を表し、X軸の正区間上の点を0[rad]として反時計回りに角度を設定する。このため、測定円上でY軸の正区間上の点の角度はπ/2[rad]であり、X軸の負区間上の点の角度はπ[rad]であり、Y軸の負区間上の点の角度は3π/4[rad]である。
図2(C)、
図3(C)、
図4(C)に示す差分値は、測定円における0[rad]の点からπ/18[rad]毎のサンプリング点における差分値であり、サンプリング点に交点113が存在しない場合は、サンプリング点の周囲の複数の交点113における差分値から線形近似して得る値を用いる。
【0025】
図2(A)に示すように、1本の指Fを立てた状態で操作入力を行っている状態では、
図2(B)に示すように変換部151の出力が所定の閾値以上になる指領域FAは円形であり、等値線は同心円状になる。この場合には、
図2(C)に示すように差分値の角度特性はフラットな特性になる。測定円上の各サンプリング点における差分値は等しいからである。
【0026】
また、
図3(A)に示すように、1本の指Fを斜めにした状態で操作入力を行っている状態では、
図3(B)に示すように変換部151の出力が所定の閾値以上になる指領域FAは楕円形であり、等値線は楕円形になる。等値線同士の間隔は、指Fの先端側が最も狭く、指Fの付け根側(手の甲に近い側)が最も広くなる。この場合には、差分値の角度特性は、測定円の1周のうちで差分値が最大になる点PMAXが1箇所であるため、
図3(C)に示すように測定円に沿った1周において1周期の周期性を示す。
【0027】
また、
図4(A)に示すように、2本の指F,F'を立てた状態で操作入力を行っている状態では、
図4(B)に示すように変換部151の出力が所定の閾値以上になる指領域FAは2つの円形であり、等値線は楕円形になる。等値線同士の間隔は、2本の指F,F'を結ぶ方向(X方向)側が広く、π/2[rad]異なる方向(Y方向)側が狭い。この場合には、差分値の角度特性は、測定円の1周のうちで差分値が最大になる点PMAXが2箇所であるため、
図4(C)に示すように測定円に沿った1周において2周期の周期性を示す。測定円は指1本分のサイズに合わせた円であるため、2本の指F,F'の指領域FAの重心は2本の指F,F'の間に位置する。このため、測定円上には2本の指F,F'の中心部が位置することになるため、2箇所で点PMAXが得られ、測定円に沿った1周において2周期の周期性が得られる。
【0028】
以上、
図2乃至
図4に示すように、測定円を用いて差分値の角度特性を求めると、
図2(A)に示すように1本の指Fを立てて操作入力を行っている状態と、
図3(A)に示すように1本の指Fを斜めにして操作入力を行っている状態と、
図4(A)に示すように2本の指F,F'を立てて操作入力を行っている状態とを区別可能である。
【0029】
ここで、フーリエ級数展開では、f(x)が周期Tの関数なら以下の式(1)~(3)の関係が成り立つ。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
ここで、xをθに置き換える。また、2本の指F,F'についての指領域FA(
図4(B)参照)の中心から一定距離rにおける静電座標入力部110の差分値をf(θ)とし、f(θ)をフーリエ級数展開で求める。f(θ)は、測定円を表す。周期T=2π、式(1)~(3)におけるn=2としてf(θ)を次式(4)で近似する。ただし、式(4)における係数a0、a2、b2は、それぞれ式(5)~(7)で表される。係数a2,b2は、
図7を用いて後述する2本の指F,F'の座標PF1、PF2の位置を表すベクトルを特定する係数である。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
ここで、
図4に加えて
図5及び
図6を用いて、2本の指F,F'の位置関係の違いによる差分値の平面的な分布、及び、差分値の角度特性の違いについて説明する。
図5及び
図6は、2本の指F,F'の位置関係の違いによる差分値の平面的な分布、及び、差分値の角度特性の違いを説明する図である。
【0039】
図5(A)に示すように、2本の指F,F'を離して立てた状態で操作入力を行っている状態では、
図5(B)に示すように変換部151の出力が所定の閾値以上になる指領域FAは2つの円形であるが、等値線は
図4(B)に示す楕円形よりも長軸が長い楕円形になる。この場合には、測定円上で最小の差分値を与える点PMINにおける差分値が
図4(B)に示す場合よりも小さくなるので、
図5(C)に示すように測定円に沿った1周において示す2周期の周期性における振幅が
図4(C)よりも大きくなる。
【0040】
また、
図6(A)に示すように、2本の指F,F'を付けた状態でX軸に対して角度を有するように立てて操作入力を行っている状態では、
図6(B)に示すように変換部151の出力が所定の閾値以上になる指領域FAは2つの円形であるが、等値線の楕円形の長軸はX軸に対して角度θf(θf>0)を有する。この場合には、差分値が最大になる点PMAXの測定円上における角度がシフトするため、
図6(C)に示すように測定円に沿った1周において示す2周期の周期性の位相がシフトする。角度θfは、極座標系の角度であり、X軸と、2本の指F,F'の座標PF1、PF2の位置を結ぶ直線とがなす角度である。
【0041】
ここで、測定円を表すf(θ)は次式(8)で表すことができる。
【0042】
【数8】
また、式(8)を変形すると式(9)が得られる。式(9)におけるA2、sin2θf、cos2θfは、式(10)~(12)で表される。式(10)におけるA2は、ベクトルを特定する係数a2,b2から求まるベクトルの大きさを表す値である。係数a1,a2は、フーリエ級数展開した各項の実部の係数である。係数b1,b2は、フーリエ級数展開した各項の虚部の係数である。A0,A1,A2は、フーリエ級数展開した各項の実部と虚部からなる複素数の絶対値である。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
式(11)、(12)からθfを求めると、次式(13)で表すことができる。
【0048】
【0049】
また、上記の計算結果を利用して、2本の指F,F'の座標を求めることができる。
図7は、2本の指F,F'の座標PF1、PF2を説明する図である。
図7には、測定円、指領域FAの重心PC、差分値が最大になる点PMAX、2本の指F,F'の座標PF1、PF2を示すが、指領域FAは省略する。
図7において、XY座標の原点は指領域FAの重心PCである。
【0050】
ここで、重心PCから2本の指F,F'の座標PF1、PF2の位置までの距離をLとすると、座標PF1、PF2は、距離Lと角度θfとで表される。距離Lは次式(14)で求めることができる。指領域FAの重心PCから指Fの座標PF1、PF2に向かうベクトルをベクトルPF1、PF2とすると、係数K1,K2の値は、ベクトルPF1、PF2の2倍が2本の指F,F'の間隔になるように調整すればよい。これにより、次式(14)によって2本の指F,F'の間隔LをベクトルPF1、PF2の長さの2倍の距離として求めることができる。
【0051】
【0052】
したがって、
図4(C)に加えて
図5(C)及び
図6(C)の状態を
図2(C)及び
図3(C)の状態と区別できれば、2本の指F,F'で操作が行われていることを識別でき、さらに2本の指F,F'の座標PF1、PF2を求めることができる。
【0053】
図8は、実施形態1の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。処理がスタートすると、重心座標算出部152は、変換部151の出力に基づいて重心座標を算出する(ステップS1)。ステップS1で算出される座標は、変換部151の出力が所定の閾値以上になる指領域FAの重心座標(xMid,yMid)である。
【0054】
周期判定部153は、測定円における0[rad]の点からπ/18[rad]毎のサンプリング点における差分値を計算する(ステップS2)。サンプリング点における差分値は、サンプリング点に電極111と電極112の交点113があれば、交点113における差分値である。周期判定部153は、サンプリング点に交点113が存在しない場合は、サンプリング点の周囲の複数の交点113における差分値から線形近似して得る値を用いる。
【0055】
周期判定部153は、測定円のサンプリング点の値から式(6)、(7)に基づいてフーリエ級数展開の第2項の係数a2、b2を計算する(ステップS3)。
【0056】
周期判定部153は、ステップS3で計算した係数a2、b2を用いて、式(13)から角度θfを計算する(ステップS4)。
【0057】
操作判定部154は、ステップS1で算出される重心座標(xMid,yMid)が、静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にあるかどうかを判定する(ステップS5)。重心座標(xMid,yMid)が、静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にない場合には、測定円が静電座標入力部110で測定可能な範囲からはみ出し、測定円のサンプリング点の差分値を取得できなくなるからである。
【0058】
操作判定部154は、重心座標(xMid,yMid)が静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にある(S5:YES)と判定すると、静電座標入力部110の全体で検出された差分値のうち所定の閾値(差分値についての閾値)以上の差分値の数が所定数以下であるかどうかを判定する(ステップS6)。所定の閾値以上の差分値の数が所定数より大きい場合、2本の指で操作していない。例えば、3本以上の指で操作している場合や、掌で操作している場合がある。
【0059】
操作判定部154は、所定の閾値(差分値についての閾値)以上の差分値の数が所定数以下である(S6:YES)と判定すると、係数a2、b2によって特定されるベクトルA2の大きさが所定の閾値(ベクトルの大きさの閾値)よりも大きいかどうかを判定する(ステップS7)。2本の指で操作している場合、ベクトルA2が所定の閾値よりも大きくなる。尚、1本の指で操作していても、測定誤差により、ベクトルA2は、0にならない。
【0060】
操作判定部154は、ベクトルの大きさが所定の閾値(ベクトルの大きさの閾値)よりも大きい(S7:YES)と判定すると、2本の指によって操作入力が行われたと判定する(ステップS8)。
【0061】
座標算出部155は、重心座標(xMid,yMid)、距離L、及び角度θfで求まる2つの座標を指F、指F'の中心座標として算出する(ステップS9)。
【0062】
なお、操作判定部154は、ステップS5において、重心座標(xMid,yMid)が静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にない(S5:NO)と判定すると、1本の指によって操作入力が行われたと判定する(ステップS10)。なお、操作判定部154は、ステップS6において所定の閾値(差分値についての閾値)以上の差分値の数が所定数以下ではない(S6:NO)と判定した場合と、ステップS7においてベクトルの大きさが所定の閾値(ベクトルの大きさの閾値)よりも大きくない(S7:NO)と判定した場合にも1本の指によって操作入力が行われたと判定する(ステップS10)。
【0063】
座標算出部155は、ステップS1で算出された重心座標(xMid,yMid)を1本の指Fの中心座標として算出する(ステップS11)。以上で一連の処理が終了する。
【0064】
以上のように、測定円に沿った1周において2周期の周期性が得られるかどうかを判定することで、操作入力が2本の指で行われたか、1本の指で行われたかを判定できる。したがって、静電座標入力部に対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、2本以上の指が静電座標入力部に接触した状態とを区別できる静電入力装置100、及び、入力判定方法を提供することができる。
【0065】
なお、以上では、係数a2、b2の値がある程度大きくA2の値がある程度大きい場合に2本の指によって操作入力が行われたと判定する形態について説明したが、次のようにしてもよい。
【0066】
次式(15)で求まるA0を求める。A0は、検出部140によって検出される静電容量の直流成分であり、a0を用いて表される。
【0067】
【0068】
このようなA0を求め、ベクトルの大きさを表す値であるA2と、直流成分であるA0との比A2/A0の値がある程度大きい場合(第1所定比率よりも大きい場合)に2本の指によって操作入力が行われたと判定してもよい。このように直流成分であるA0と、ベクトルの大きさを表す値であるA2との比を用いて判断すれば、静電入力部110の感度のばらつき等に対して、より安定的な判定精度を担保することができる。
【0069】
また、静電入力部110の電極111、112のばらつきが大きいと、検出部140で検出される各交差点113における検出感度にばらつきが生じ、変換部151によって変換される差分値にばらつきが生じることになる。このような場合には、
図9に示すような補正テーブルを設けて、変換部151によって各交差点113について算出される差分値を補正すればよい。
図9は、補正テーブルを示す図である。ここでは一例として、交差点113がX方向及びY方向に8個ずつ配列された場合に利用する64個の補正値をマトリクス状に配列した補正テーブルを示す。検出部140から制御部150に入力される静電容量に基づいて変換部151が各交差点113について算出する差分値に変換部151が補正値を掛けて補正するので、指の中心座標をより高い精度で検出することができる。
【0070】
<実施形態2>
図10は、実施形態2の静電入力装置200を示す図である。
【0071】
静電入力装置200は、静電座標入力部110、マルチプレクサ120、駆動回路130、検出部140、及び制御部250を含む。静電入力装置200は、実施形態1の静電入力装置100の制御部150を制御部250に置き換えた構成を有する。その他の構成は、実施形態1の静電入力装置100と同様であるため、同様の構成要素には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0072】
制御部250は、変換部151、重心座標算出部152、周期判定部153、操作判定部154、近似処理部254、及び座標算出部255を有する。変換部151、重心座標算出部152、周期判定部153、操作判定部154は、実施形態1の制御部150の変換部151、重心座標算出部152、周期判定部153、操作判定部154と同一である。
【0073】
近似処理部254は、周期判定部153によって2周期の周期性を示すと判定されると、変換部151によって変換された差分値が閾値を超える座標が存在する範囲の輪郭を楕円で近似する近似処理を行う。この近似処理については、
図12乃至
図14を用いて後述する。
【0074】
座標算出部255は、第2座標算出部の一例であり、近似処理部254の近似処理によって求められる楕円の2つの焦点よりも、楕円の中心に近い位置を2本の指の中心座標として算出する。より具体的には、座標算出部255は、近似処理部254の近似処理によって求められる楕円の2つの焦点と楕円の中心とを結ぶ直線上において、焦点と中心との間の第1距離に1未満の定数を乗算して得る第2距離だけ中心から離れた2点の座標を2本の指の中心座標として次式(16)で算出する。このときに座標算出部255が用いる定数は、楕円の離心率の二次関数から得られる定数である。ここで、2つの焦点座標を(X1, Y1), (X2, Y2)、長径の長さをa、短径の長さをb、楕円の中心を(X0, Y0)、定数をCとする。定数Cは後述する。θは楕円の傾きを表す。a, bの大小関係を考慮して計算される。
【0075】
【0076】
式(16)で用いる定数Cは、近似処理部254が近似処理で求めた楕円の離心率eを用いた次式(17)で表される二次関数で与えられる。
【0077】
【0078】
式(17)の3つの係数は、楕円の形状によって異なる。このため、式(17)の3つの係数は、静電座標入力部110の種類によって変わりうる値である。式(17)の3つの係数は、2本の指の間隔を15mm~20mmに設定して実験によって取得した値である。
【0079】
指の位置精度が低くても良い場合には、定数に固定の値を用いてもよい。定数は、0より大きく、1より小さい値になる。定数は、静電座標入力部110の各種寸法や材質によって異なるが、例えば0.7である。
【0080】
図11は、離心率eと定数Cの実測値との関係を示す図である。このような離心率eと定数Cの実測値との関係にフィットさせて得られた二次曲線を表す二次関数が式(17)である。楕円の2つの焦点と2本の指の中心座標の位置関係を、
図12乃至
図14を用いて後述する。
【0081】
図12乃至
図14は、近似処理部254が近似処理で求める楕円と座標算出部255が算出する2本の指の中心座標との位置関係の例を示す図である。
図12には、2本の指をX軸に平行にして静電入力部110上に置いた場合の結果を示す。
図13には、2本の指をY軸に平行にして静電入力部110上に置いた場合の結果を示す。
図14には、静電入力部110上に2本の指をX軸及びY軸に対してπ/4[rad]の方向で静電入力部110上に置いた場合の結果を示す。いずれの場合も2本の指の中心同士の間隔は15mmである。
【0082】
図12(A)、
図13(A)、
図14(A)には、変換部151の出力から算出した静電容量の差分値の分布を示す。電極111と電極112が各8本ずつあり、交点113が64個ある。各交点113の間は、各交点113の値に基づき線形補間した値を算出する。静電容量の差分値は、最大値を500とする相対値(0-500)で表される。
図12(A)、
図13(A)、
図14(A)には、相対値を0-99、100-199、200-299、300-399、400-500の5つの範囲に分けた5段階で示している。
【0083】
図12(A)、
図13(A)、
図14(A)に示すように、それぞれ、X方向に長い楕円、Y方向に長い楕円、X軸及びY軸に対してπ/4[rad]の方向に長い楕円を表す分布が得られている。
【0084】
図12(B)、
図13(B)、
図14(B)には、差分値の相対値が300の点を黒い塗り潰しの四角(■)で示し、差分値の相対値が300の複数の点にフィットさせた楕円の2つの焦点と、楕円の中心とを結ぶ直線上において、焦点と中心との間の第1距離に定数を乗算して得る第2距離だけ中心から離れた2点を黒い塗り潰しの菱形(◆)で示す。相対値が300の値は、指Fの腹を静電入力部110に接触させた範囲の輪郭で測定される値である。電極の交点113が少ない場合、2本の指F,F'を立てて静電入力部110に接触させると、相対値が300になる位置は、楕円になる。
【0085】
ここで、差分値の相対値が300の複数の点にフィットさせた楕円は、閾値を300として、近似処理部254が、変換部151によって変換された差分値が閾値(ここでは300)を超える座標が存在する範囲の輪郭を楕円で近似する近似処理を行うことによって得られたものである。
【0086】
また、近似処理によって得られた楕円の2つの焦点と、楕円の中心とを結ぶ直線上において、焦点と中心との間の第1距離に定数を乗算して得る第2距離だけ中心から離れた2点(◆)は、座標算出部255が式(16)を用いて求めた2つの点であり、2本の指の中心座標として算出される。
【0087】
また、
図12(B)、
図13(B)、
図14(B)には、実際に測定した2本の指の中心座標を黒い塗り潰しの三角形(▲)で示す。実際には指を模擬した2本の疑似指を静電入力部110上に配置した位置を測定した座標である。
【0088】
図12(B)、
図13(B)、
図14(B)に示すように、座標算出部255によって2本の指の中心座標として算出される、第1距離に定数を乗算して得る第2距離だけ中心から離れた2点(◆)は、実際に測定した2本の指の中心座標(▲)と非常に近く、略一致した。
【0089】
座標算出部255は、2本の指の中心座標を表す2点(◆)の中心を2本の指の中心座標の中心位置として算出する。2本の指の中心座標の中心位置は、黒い塗り潰しの円(●)で示す位置であり、2本の指の中心座標を表す2点(◆)の中心である。
【0090】
図15及び
図16は、測定した2本の指の中心座標同士の間の距離Lmと、座標算出部255によって2本の指の中心座標として算出された2つの点同士の間の距離Lc1、Lc2との関係を示す図である。
図16は、
図15の横軸及び縦軸の一部の区間に相当する部分を拡大して示す。
【0091】
図15(A)及び
図16(A)には、座標算出部255が式(16)及び定数(0.7)を用いて算出した2つの点同士の間の距離Lc1を示し、
図15(B)及び
図16(B)には、座標算出部255が式(16)及び式(17)の定数を用いて算出した2つの点同士の間の距離Lc2を示す。
【0092】
図15(A)、(B)及び
図16(A)、(B)では、横軸が測定値で縦軸が算出値であるため、座標算出部255による算出精度が高いほど、実線で示す傾きが1の直線に近い距離が得られることになる。
図15(A)及び
図16(A)と、
図15(B)及び
図16(B)とを比較すると、
図15(B)及び
図16(B)に示す式(17)の定数を用いて算出した距離Lc2の方が、
図15(A)及び
図16(A)に示す定数(0.7)を用いて算出した距離Lc1よりも直線に近いため、式(17)の定数を用いることで定数(0.7)を用いる場合よりも座標算出部255による算出精度が向上することが確認できた。
【0093】
図17は、実施形態2の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
図17に示すフローチャートは、
図8に示す実施形態1のステップS9をステップS29A及びS29Bに入れ替えたものである。ここでは相違点について説明する。
【0094】
ステップS8において、操作判定部154が2本の指によって操作入力が行われたと判定すると、近似処理部254は、近似処理を行って楕円と楕円の焦点の座標とを求める(ステップS29A)。ここで、ステップS29Bにおいて式(17)の定数Cを用いる場合は、近似処理部254は、ステップS29Aにおいて楕円と楕円の焦点の座標とに加えて離心率eを求めればよい。なお、楕円を求めることは、楕円を表す式を静電入力部110のXY座標上において求めることである。焦点の座標と離心率eは、楕円を表す式に基づいて求めればよい。
【0095】
次いで、座標算出部255は、近似処理部254の近似処理によって求められる楕円の2つの焦点と楕円の中心とを結ぶ直線上において、焦点と中心との間の第1距離に定数(0.7)又は式(17)の定数Cを乗算して得る第2距離だけ中心から離れた2点の座標を2本の指の中心座標として式(16)を用いて算出する(ステップS29B)。以上で一連の処理が終了する。
【0096】
以上のように、測定円に沿った1周において2周期の周期性が得られるかどうかを判定することで、操作入力が2本の指で行われたか、1本の指で行われたかを判定できる。そして、2本の指が静電入力部110に接触することによる静電容量の差分値の分布を表す楕円を近似処理で求め、さらに式(16)定数を用いて2本の指の中心座標を算出することができる。式(16)に用いる定数は、式(16)の定数又は定数(0.7)を用いる。
【0097】
したがって、静電座標入力部に対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、2本以上の指が静電座標入力部に接触した状態とを区別できる静電入力装置200、及び、入力判定方法を提供することができる。また、2本の指の中心座標を高精度に算出できる静電入力装置200、及び、入力判定方法を提供することができる。
【0098】
<実施形態3>
図18は、実施形態3の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
図18に示すフローチャートは、
図8に示す実施形態1のフローチャートをベースにしており、実施形態1の静電入力装置100が実施可能である。ここでは、実施形態3の入力判定方法として実施形態1の入力判定方法の第1変形例の入力判定方法について説明する。
図18において、
図8に示すステップと同一の処理には同一番号を付す。
【0099】
実施形態3では、操作判定部154は、変換部151によって変換される、各交差点113における静電座標入力部110と指との間の距離に応じた静電容量の差分値の最大値又は最小値の座標を基準にして、重心座標(xMid,yMid)を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における差分値からフーリエ解析した実数部を算出し、円に沿った1周において2周期になるフーリエ解析の実数部の大きさが閾値(所定の閾値)よりも大きければ、2本以上の指による入力操作が行われたと判定する。
【0100】
ここで、フーリエ解析には、フーリエ級数展開、複素フーリエ級数展開、フーリエ変換があり、何れの方法を用いてもよい。フーリエ解析の実部は、複素フーリエ級数の実部、または、フーリエ変換の実部、並びにフーリエ級数の余弦を意味する。
【0101】
処理がスタートすると、重心座標算出部152は、変換部151の出力に基づいて操作入力が行われた座標を算出する(ステップS1)。ステップS1で算出される座標は、変換部151の出力が所定の閾値以上になる指領域FAの重心座標(xMid,yMid)である。
【0102】
操作判定部154は、ステップS1で算出される重心座標(xMid,yMid)が、静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にあるかどうかを判定する(ステップS5)。重心座標(xMid,yMid)が、静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にない場合には、測定円が静電座標入力部110で測定可能な範囲からはみ出し、測定円のサンプリング点の差分値を取得できなくなるからである。
【0103】
操作判定部154は、重心座標(xMid,yMid)が静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にある(S5:YES)と判定すると、静電座標入力部110の全体で検出された差分値のうち所定の閾値(差分値についての閾値)以上の差分値の数が所定数以下であるかどうかを判定する(ステップS6)。所定の閾値以上の差分値の数が所定数より大きい場合、2本の指で操作していない。例えば、3本以上の指で操作している場合や、掌で操作している場合がある。
【0104】
操作判定部154が所定の閾値(差分値についての閾値)以上の差分値の数が所定数以下である(S6:YES)と判定すると、周期判定部153は、測定円における0[rad]の点からπ/18[rad]毎のサンプリング点における差分値を算出する(ステップS31)。各サンプリング点は、重心座標から9mm離れた点である。各サンプリング点は、重心からX軸方向を0[rad]として、0[rad]からπ/18[rad]毎回転した位置である。各サンプリング点の座標は、次式(18)で表される。
【0105】
【0106】
ステップS31の処理は、実施形態1のステップS2の処理と同一である。サンプリング点における差分値は、サンプリング点に電極111と電極112の交点113があれば、交点113における差分値である。周期判定部153は、サンプリング点に交点113が存在しない場合は、サンプリング点の周囲の複数の交点113における差分値から線形近似して得る値を用いる。
【0107】
操作判定部154は、測定円の円周上のサンプリング点における差分値の最大値の座標を特定する(ステップS32)。
【0108】
操作判定部154は、重心座標と、サンプリング点における差分値の最大値の座標(xMax,yMax)から、θfを算出する(ステップS33)。θfは次式(19)で算出される。
【0109】
【0110】
操作判定部154は、ステップS33で特定したθfで補正をしてから、フーリエ解析し、フーリエ級数の第2項の実部の係数a2を算出する。例えば、測定円の円周上の値が、
図6(C)で示される値の場合、0からπ/4[rad]の範囲は、角度を7π/4[rad]加えた角度に補正し、π/4から2π[rad]の範囲は、角度をπ/4[rad]引いた値に補正する。その結果、図x(
図4(c)のコピー)で示される値に補正する。補正した値を用いて、重心座標(xMid,yMid)を中心とする所定の半径の円の円周上の座標におけるサンプリング点における差分値からフーリエ解析した実数部の係数a2を算出する(ステップS34)。尚、0[rad]が最大値なので、1周(2π)で2周期の周期性を持つデータであれば、フーリエ級数の第2項の虚部の係数b2は、ほぼ0である。よって、静電容量の差分値の最大値の座標の角度が0[rad]になるように補正してから、フーリエ解析することで、実数部の係数a2のみで、周期性を判定できる。尚、最小値の座標の角度が0になるように補正しても、フーリエ解析の実部の係数a2は、ほぼ、同一の値が算出される。
【0111】
操作判定部154は、円に沿った1周において2周期になるフーリエ解析の実数部の係数a2が閾値(所定の閾値)よりも大きいかどうかを判定する(ステップS35)。
【0112】
操作判定部154によって、実数部の係数a2が閾値(所定の閾値)よりも大きいと判定されると、2本の指の座標を算出するステップS36に進む。
【0113】
座標算出部155は、重心の座標(xMid,yMid)、実数部の係数a2、及び角度θfで求まる2つの座標を指F、F'の中心座標として算出する(ステップS36)。尚、最大値の座標を用いる代わりに、最小値の座標を用いることも可能である。重心座標(xMid,yMid)と静電容量の差分値の最小値の座標とからは角度θf+π/2、及び、角度θf-π/2で表される角度(θfとπ/2異なる角度)の方向に2本の指が位置する。このため、差分値の最大値又は最小値のいずれか一方を用いて計算すればよい。
【0114】
なお、ステップS5において、操作判定部154によって重心座標(xMid,yMid)が静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にない(S5:NO)と判定された場合は、1本の指によって操作入力が行われたと見なし、座標算出部155は、ステップS1で算出された重心座標(xMid,yMid)を1本の指Fの中心座標として算出する(ステップS11)。また、ステップS6で所定の閾値以上の差分値の数が所定数以上(S6:NO)と判定された場合は、2本の指による操作入力ではないと見なし、座標算出部155は、ステップS1で算出された重心座標(xMid,yMid)を1本の指Fの中心座標として算出する(ステップS11)。また、ステップS35で係数a2の大きさが閾値より大きくない(ステップS35:NO)と判定された場合は、1本の指によって操作入力が行われたと見なし、座標算出部155は、ステップS1で算出された重心座標(xMid,yMid)を1本の指Fの中心座標として算出する(ステップS11)。以上で一連の処理が終了する。
【0115】
以上のように、静電容量の差分値の最大値又は最小値の座標を基準にして、重心座標(xMid,yMid)を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における差分値からフーリエ解析した実数部を算出し、円に沿った1周において2周期になるフーリエ解析の前記実数部の大きさが閾値(所定の閾値)よりも大きければ、2本以上の指による入力操作が行われたと判定することができる。
【0116】
したがって、静電座標入力部に対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、2本以上の指が静電座標入力部に接触した状態とを区別できる静電入力装置、及び、入力判定方法を提供することができる。また、2本の指の中心座標を高精度に算出できる静電入力装置、及び、入力判定方法を提供することができる。
【0117】
<実施形態4>
図19は、実施形態4の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
図19に示すフローチャートは、
図8に示す実施形態1のフローチャートをベースにしており、実施形態1の静電入力装置100が実施可能である。ここでは、実施形態4の入力判定方法として実施形態1の入力判定方法の第2変形例の入力判定方法について説明する。
図19において、
図8及び
図18に示すステップと同一の処理には同一番号を付す。
【0118】
実施形態4では、操作判定部154は、重心座標(xMid,yMid)を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における差分値の最大値と最小値の比率を算出し、比率が第2所定比率よりも大きければ、2本以上の指による入力操作が行われたと判定する。
【0119】
図19に示す処理におけるステップS1、S5、S6、S31、S11は、
図18に示すステップS1、S5、S6、S31、S11と同一である。
【0120】
操作判定部154は、重心座標(xMid,yMid)を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における差分値の最大値と最小値を特定する(ステップS41)。
【0121】
操作判定部154は、特定した差分値の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が所定比率(第2所定比率)よりも大きいかどうかを判定する(ステップS42)。
【0122】
操作判定部154は、差分値の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が第2所定比率よりも大きければ、測定円におけるサンプリング点における差分値の最大値(又は最小値)の座標を特定する(ステップS43)。ステップS43の処理は、
図18におけるステップS32の処理と同一である。
【0123】
周期判定部153は、重心座標(xMid,yMid)と、サンプリング点における差分値の最大値の座標とから、角度θfを計算する(ステップS44)。ステップS44の処理は、
図18におけるステップS33の処理と同一である。ここで、重心座標(xMid,yMid)と静電容量の差分値の最大値の座標とからは角度θfが求まる。尚、最大値の座標を用いる代わりに、最小値の座標を用いることも可能である。重心座標(xMid,yMid)と静電容量の差分値の最小値の座標とからは角度θf+π/2、及び、角度θf-π/2で表される角度(θfとπ/2異なる角度)の方向に2本の指が位置する。このため、差分値の最大値又は最小値のいずれか一方を用いて計算すればよい。
【0124】
操作判定部154は、サンプリング点における差分値の最大値と最小値から指間隔Dを算出する(ステップS45)。指間隔Dは、差分値の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)に所定の定数を加算することによって求まる。楕円の長径と短径の比率が大きければ指間隔Dは大きくなり、比率が小さければ指間隔Dは小さくなる。
【0125】
座標算出部155は、重心の座標(xMid,yMid)、指間隔D、及び角度θfで求まる2つの座標を指Fの中心座標として算出する(ステップS46)。
【0126】
なお、ステップS5において、操作判定部154によって重心座標(xMid,yMid)が静電座標入力部110の中央部の所定範囲内にない(S5:NO)と判定された場合は、1本の指によって操作入力が行われた場合であるため、座標算出部155は、ステップS1で算出された重心座標(xMid,yMid)を1本の指Fの中心座標として算出する(ステップS11)。以上で一連の処理が終了する。
【0127】
以上のように、重心座標(xMid,yMid)を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における差分値の最大値と最小値の比率を算出し、比率が第2所定比率よりも大きければ、2本以上の指による入力操作が行われたと判定することができる。
【0128】
したがって、静電座標入力部に対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、2本以上の指が静電座標入力部に接触した状態とを区別できる静電入力装置、及び、入力判定方法を提供することができる。また、2本の指の中心座標を高精度に算出できる静電入力装置、及び、入力判定方法を提供することができる。
【0129】
<実施形態5>
図20は、実施形態5の入力判定方法の処理を示すフローチャートである。
図21は、2本の指F,F'の位置関係の違いによる差分値の平面的な分布、及び、差分値の角度特性の違いを説明する図である。
図20に示すフローチャートは、
図8に示す実施形態1のフローチャートをベースにしており、実施形態1の静電入力装置100が実施可能である。ここでは、実施形態5の入力判定方法として実施形態1の入力判定方法の第3変形例の入力判定方法について説明する。
図20において、
図8、
図18、及び
図19に示すステップと同一の処理には同一番号を付す。
【0130】
実施形態4では、操作判定部154は、重心座標(xMid,yMid)を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における差分値の最大値と最小値の比率を算出し、比率が第3所定比率よりも大きく、かつ、重心座標と差分値の最大値の座標を結ぶ第1の線分と、重心座標と差分値の最小値の座標を結ぶ第2の線分との角度が、π/4[rad]より大きく3π/4[rad]より小さいか、又は、5π/4[rad]より大きく7π/4[rad]より小さければ、2本以上の指による入力操作が行われたと判定する。
【0131】
図20に示す処理におけるステップS1、S5、S6、S31、S41、S42、S43、S44、S45、S46、S11は、
図19に示すS1、S5、S6、S31、S41、S42、S43、S44、S45、S46、S11と同一である。
【0132】
ステップS42では、操作判定部154は、特定した差分値の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が所定比率(第3所定比率)よりも大きいかどうかを判定する(ステップS42)。
図20におけるステップS42で用いる所定比率(第3所定比率)は、
図19におけるステップS42で用いる所定比率(第2所定比率)とは値が異なる。
図19に示す処理では差分値の最大値と最小値の比率(最大値/最小値)が所定比率(第2所定比率)よりも大きければ、2本以上の指による入力操作が行われたと判定する。このため、
図3に示すように傾いた1本の指Fであるか2本の指Fであるかを判別する必要があることから、所定比率(第2所定比率)を比較的大きな値に設定しており、
図20のステップS42における所定比率(第3所定比率)よりも大きい値に設定される。これに対して、
図20に示す処理では、ステップS42の判定処理に加えて、後述するステップS52の処理があるため、所定比率(第3所定比率)は、
図19のステップS42における所定比率(第2所定比率)よりも小さな値でよい。
【0133】
操作判定部154は、ステップS43において、測定円におけるサンプリング点における差分値の最大値(又は最小値)の座標を特定すると、重心座標と差分値の最大値の座標を結ぶ線と、重心座標と差分値の最小値の座標を結ぶ線の角度を算出する(ステップS51)。
図21(A)に示すように、最大値を示すサンプリング点がπ/4[rad]方向にあり、最小値を示すサンプリング点が3π/4[rad]方向にある場合は、その差は
図21(A)、(B)に示すようにπ/2[rad]であるので、2本の指があると判定することができる。
【0134】
操作判定部154は、重心座標と差分値の最大値の座標を結ぶ第1の線分と、重心座標と差分値の最小値の座標を結ぶ第2の線分とのなす角度が、π/4[rad]より大きく3π/4[rad]より小さいか、又は、5π/4[rad]より大きく7π/4[rad]より小さいかどうかを判定する(ステップS52)。
【0135】
操作判定部154は、ステップS52においてYESと判定すると、フローをステップS44に進行させる。その後、
図19に示す処理と同様に、ステップS45及びS46の処理が行われる。
【0136】
以上のように、重心座標(xMid,yMid)を中心とする所定の半径の円の円周上の座標における差分値の最大値と最小値の比率を算出し、比率が第3所定比率よりも大きく、かつ、重心座標と差分値の最大値の座標を結ぶ第1の線分と、重心座標と差分値の最小値の座標を結ぶ第2の線分との角度が、π/4[rad]より大きく3π/4[rad]より小さいか、又は、5π/4[rad]より大きく7π/4[rad]より小さければ、2本以上の指による入力操作が行われたと判定することができる。
【0137】
したがって、静電座標入力部に対して斜めに伸ばした1本の指が接触した状態と、2本以上の指が静電座標入力部に接触した状態とを区別できる静電入力装置、及び、入力判定方法を提供することができる。また、2本の指の中心座標を高精度に算出できる静電入力装置、及び、入力判定方法を提供することができる。
【0138】
以上、本発明の例示的な実施形態の静電入力装置、及び、入力判定方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0139】
なお、本国際出願は、2020年8月24日に出願した日本国特許出願2020-140845に基づく優先権を主張するものであり、その全内容は本国際出願にここでの参照により援用されるものとする。
【符号の説明】
【0140】
100、200 静電入力装置
110 静電座標入力部
111、112 電極
113 交点
120 マルチプレクサ
130 駆動回路
140 測定部
150、250 制御部
151 変換部
152 重心座標算出部
153 周期判定部
154 操作判定部
155、255 座標算出部
254 近似処理部