(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】セメント組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20231024BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20231024BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B7/02
C04B22/14 B
(21)【出願番号】P 2023023204
(22)【出願日】2023-02-17
(62)【分割の表示】P 2018012419の分割
【原出願日】2018-01-29
【審査請求日】2023-02-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】中口 歩香
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-226759(JP,A)
【文献】特開平03-197338(JP,A)
【文献】特開2004-224698(JP,A)
【文献】特開2011-230933(JP,A)
【文献】特開2009-161412(JP,A)
【文献】依田侑也ら,混合セメントの水和発熱量と圧縮強度の関係,セメント・コンクリート論文集,2015年,Vol.69 No.1,P.191-198,DOI https://doi.org/10.14250/cement.69.191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、II型無水石膏粉末と、石灰石粉末を含む
、ブレーン比表面積が3,000~3,700cm
2
/gのセメント組成物であって、
上記普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の合計100質量%中のSO
3の割合が
1.8~2.5質量%であり、
上記セメント組成物中、上記II型無水石膏粉末の割合がSO
3換算で0.1質量%以上、2.9質量%未満、及び、上記石灰石粉末の割合が
2.0~13.0質量%であり、
上記セメント組成物の「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定したモルタル圧縮強さが、材齢7日で44.6N/mm
2
以上であり、かつ、材齢28日で57.1N/mm
2
以上であり、
上記セメント組成物に含まれる、上記普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物、及び、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方が、以下の条件を満たすものであり、
上記セメント組成物の「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した水和熱が、材齢7日で350J/g以下であり、かつ、材齢28日で400J/g以下であることを特徴とするセメント組成物。
上記普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方とによって、普通ポルトランドセメントを調製した場合に、該普通ポルトランドセメント(ただし、該普通ポルトランドセメントにおける、上記普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方との配合割合は、上記セメント組成物におけるものと同じである。)の「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した水和熱が、材齢7日で350J/gを超える、及び、材齢28日で400J/gを超える、の少なくともいずれか一方を満たすこと
【請求項2】
普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を含む普通ポルトランドセメントであって、該普通ポルトランドセメント中のSO
3の割合が
1.8~2.5質量%である普通ポルトランドセメントと、II型無水石膏粉末と、石灰石粉末を混合して、
ブレーン比表面積が3,000~3,700cm
2
/gのセメント組成物を製造する方法であって、
上記セメント組成物中、上記II型無水石膏粉末の割合がSO
3換算で0.1質量%以上、2.9質量%未満、及び、上記石灰石粉末の割合が
2.0~13.0質量%であり、
上記セメント組成物の「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定したモルタル圧縮強さが、材齢7日で44.6N/mm
2
以上であり、かつ、材齢28日で57.1N/mm
2
以上であり、
上記セメント組成物の「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した水和熱が、材齢7日で350J/g以下であり、かつ、材齢28日で400J/g以下であり、
上記普通ポルトランドセメントは、「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した水和熱が、材齢7日で350J/gを超える、及び、材齢28日で400J/gを超える、の少なくともいずれか一方を満たすものであることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年の国土交通省の通達により、土木工事用材料として使用される普通ポルトランドセメントとして、「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した、材齢7日における水和熱が350J/g以下であり、かつ、材齢28日における水和熱が400J/g以下であるものが求められている。
しかし、近年、普通ポルトランドセメントクリンカの原料として廃棄物の使用量が増加していることに起因する、普通ポルトランドセメントクリンカ中の3CaO・Al2O3の増加や、高い強度発現性の要求等によって、上述した水和熱の数値を満たさない(水和熱の高い)普通ポルトランドセメントが製造される場合が増えている。
【0003】
また、コンクリートのひび割れ発生の低減や防止の観点から、強度発現性に優れ、かつ、水和熱の小さいセメント組成物が求められている。
セメント組成物の水和熱を低減することができる技術として、特許文献1には、C2S100重量部に対して、C2ASを10~100重量部含有し、かつ、C3Aの含有量が20重量部以下であることを特徴とする焼成物が記載されている。また、特許文献1には、該焼成物を粉砕してなるセメント混和材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたセメント混和材は、まず、焼成物を製造し、次いで、該焼成物を粉砕して製造されるものであるため、製造に手間がかかるという問題があった。
本発明の目的は、容易に製造することができ、強度発現性に優れ、かつ、水和熱の小さい、セメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、II型無水石膏粉末と、石灰石粉末、高炉スラグ微粉末、及びフライアッシュの中から選ばれる1種以上の無機粉末を特定の割合で含むセメント組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1] 普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、II型無水石膏粉末と、石灰石粉末、高炉スラグ微粉末、及びフライアッシュの中から選ばれる1種以上の無機粉末、を含むセメント組成物であって、上記普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の合計100質量%中のSO3の割合が1.5~2.7質量%であり、上記セメント組成物中、II型無水石膏粉末の割合がSO3換算で0.1~3.5質量%、及び、上記無機粉末の割合が1.0~15.0質量%であることを特徴とするセメント組成物。
[2] 上記セメント組成物に含まれる、上記普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物、及び、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方が、以下の条件を満たすものである前記[1]に記載のセメント組成物。
上記普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、上記二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方とによって、普通ポルトランドセメントを調製した場合に、該普通ポルトランドセメントの「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した水和熱が、材齢7日で350J/gを超える、及び、材齢28日で400J/gを超える、の少なくともいずれか一方を満たすこと
【0007】
[3] 普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を含む普通ポルトセメントであって、該普通ポルトランドセメント中のSO3の割合が1.5~2.7質量%である普通ポルトランドセメントと、II型無水石膏粉末と、石灰石粉末、高炉スラグ微粉末、及びフライアッシュの中から選ばれる1種以上の無機粉末を混合して、セメント組成物を製造する方法であって、上記セメント組成物中、II型無水石膏粉末の割合がSO3換算で0.1~3.5質量%、及び、上記無機粉末の割合が1.0~15.0質量%であることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
[4] 上記普通ポルトランドセメントは、該普通ポルトランドセメントの「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した水和熱が、材齢7日で350J/gを超える、及び、材齢28日で400J/gを超える、の少なくともいずれか一方を満たすものである前記[3]に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメント組成物は、強度発現性に優れ、かつ、水和熱の小さいものであり、また、特定の材料を混合するという容易な方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセメント組成物は、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、II型無水石膏粉末と、石灰石粉末、高炉スラグ微粉末、及びフライアッシュの中から選ばれる1種以上の無機粉末、を含むセメント組成物であって、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の合計100質量%中のSO3の割合が1.5~2.7質量%であり、セメント組成物中、II型無水石膏粉末の割合がSO3換算で0.1~3.5質量%、及び、上記無機粉末の割合が1.0~15.0質量%であるものである。
本発明において、セメント組成物とは、ペースト、モルタルまたはコンクリートを調製するための他の材料(減水剤、消泡剤、収縮低減剤等の各種セメント混和剤や、細骨材、粗骨材、及び、水等)は含まれないものとする。
【0010】
セメント組成物に含まれる、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の合計100質量%中のSO3の割合は、1.5~2.7質量%、好ましくは1.7~2.6質量%、より好ましくは1.8~2.5質量%である。該割合が1.5質量%未満であると、セメント組成物の流動性及び強度発現性が低下する。該割合が2.7質量%を超えると、水和熱を低減する効果が小さくなる。
本発明で用いられる普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を含む材料として、普通ポルトランドセメントを使用してもよい。
セメント組成物中の、半水石膏の量と、二水石膏及び半水石膏の合計量とのSO3換算の質量比(半水石膏のSO3換算の量/(二水石膏及び半水石膏の合計のSO3換算の量))は、セメント組成物の流動性及び強度発現性の観点から、好ましくは0.3~0.95、より好ましくは0.4~0.9、特に好ましくは0.5~0.85である。
【0011】
セメント組成物中のII型無水石膏粉末の割合は、SO3換算で0.1~3.5質量%、好ましくは0.5~3.2質量%、より好ましくは1.0~2.5質量%である。該割合が0.1質量%未満であると、水和熱を低減する効果が小さくなる。該割合が3.5質量%を超えると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
II型無水石膏粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~6,000cm2/g、より好ましくは3,300~5,000cm2/g、特に好ましくは3,500~4,500cm2/gである。該ブレーン比表面積が3,000cm2/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が6,000cm2/g以下であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。
なお、本発明では、無水石膏としてII型無水石膏を用いている。II型無水石膏以外の無水石膏として、可溶性無水石膏(III型無水石膏)があるが、可溶性無水石膏を用いた場合、水和熱を低減する効果は見られない。
【0012】
セメント組成物中の石灰石粉末、高炉スラグ微粉末、及びフライアッシュの中から選ばれる一種以上の無機粉末の割合は、1.0~15質量%、好ましくは2.0~13.0質量%、より好ましくは4.0~11.0質量%、特に好ましくは5.0~10.0質量%である。該割合が1.0質量%未満であると、水和熱を低減する効果が小さくなる。該割合が15.0質量%を超えると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
石灰石粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~10,000cm2/g、より好ましくは3,300~8,000cm2/g、さらに好ましくは3,500~7,000cm2/g、特に好ましくは3,800~6,000cm2/gである。該ブレーン比表面積が3,000cm2/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が10,000cm2/g以下であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。
一方、高炉スラグ微粉末及びフライアッシュのブレーン比表面積は、好ましくは3,000~6,000cm2/g、より好ましくは3,100~5,000cm2/g、特に好ましくは3,200~4,500cm2/gである。該ブレーン比表面積が3,000cm2/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が6,000cm2/g以下であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。
セメント組成物中の、全SO3の割合は、水和熱を低減する観点からは、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは3.1質量%以上、さらに好ましくは3.3質量%以上、特に好ましくは3.4質量%以上である。また、上記割合は、強度発現性の向上の観点からは、好ましくは5.5質量%以下、より好ましくは5.2質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下、特に好ましくは4.0質量%以下である。
【0013】
セメント組成物に含まれる、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物、及び、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方は、下記(a)及び(b)の少なくともいずれか一方の条件を満たすものであることが好ましい。
(a)セメント組成物に含まれる、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方からなる原料を用いて、普通ポルトランドセメント(原料の配合割合は、セメント組成物における、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の配合割合と同じもの)を調製した場合、該普通ポルトランドセメントの「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した材齢7日の水和熱が350J/gを超える(好ましくは353J/g以上、より好ましくは355J/g以上である)こと
(b)セメント組成物に含まれる、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方からなる原料を用いて、普通ポルトランドセメント(原料の配合割合は、セメント組成物における、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方の配合割合と同じもの)を調製した場合、該普通ポルトランドセメントの「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した材齢28日の水和熱が400J/gを超える(好ましくは405J/g以上、より好ましくは410J/J以上である)こと
なお、上記条件を満たさない普通ポルトランドセメントは、該普通ポルトランドセメントの水和熱が、上述の国土交通省の通達における水和熱の数値を満足するもの(材齢7日における水和熱が350J/g以下であり、かつ、材齢28日における水和熱が400J/g以下であるもの)であることから、本発明を適用する必要性が乏しくなる。
【0014】
本発明で用いられる普通ポルトランドセメントクリンカ中の3CaO・SiO2(エーライト;以下、「C3S」ともいう。)の含有率は、好ましくは50.0~65.0質量%、より好ましくは52.0~63.0質量%である。C3Sの含有率が50.0質量%以上であれば、セメント組成物の短期材齢における強度発現性が向上する。C3Sの含有率が65.0質量%を超えるポルトランドセメントクリンカは、一般的に早強ポルトランドセメントクリンカに相当するものであり、早強ポルトランドセメントは、上述の国土交通省の通達における水和熱の数値を満たす必要性のないものである。
普通ポルトランドセメントクリンカ中の2CaO・SiO2(ビーライト;以下、「C2S」ともいう。)の含有率は、好ましくは9.0~23.0質量%、より好ましくは10.0~20.0質量%である。C2Sの含有率が9.0質量%未満であるポルトランドセメントクリンカは、一般的に早強ポルトランドセメントクリンカに相当するものであり、早強ポルトランドセメントは、上述の国土交通省の通達における水和熱の数値を満たす必要性のないものである。C2Sの含有率が23.0質量%以下であれば、セメント組成物の短期材齢における強度発現性が向上する。
【0015】
普通ポルトランドセメントクリンカ中の3CaO・Al2O3(アルミネート相;以下、「C3A」ともいう。)の含有率は、好ましくは7.5~10.5質量%、より好ましくは8.0~10.2質量%である。C3Aの含有率が7.5質量%以上であれば、クリンカ原料としての廃棄物の使用量を多くすることができ、原料にかかるコストを低くすることができる。C3Aの含有率が10.5質量%以下であれば、セメント組成物の水和熱をより小さくすることができる。
普通ポルトランドセメントクリンカ中の4CaO・Al2O3・Fe2O3(フェライト相;以下、「C4AF」ともいう。)の含有率は、好ましくは7.5~10.5質量%、より好ましくは8.0~10.0質量%である。C4AFの含有率が7.5質量%以上であれば、セメント組成物の水和熱をより小さくすることができる。C4AFの含有率が10.5質量%以下であれば、クリンカ原料としての廃棄物の使用量を多くすることができ、原料にかかるコストを低くすることができる。
【0016】
なお、本明細書において、ポルトランドセメントセメントクリンカ中、C3S、C2S、C3A、及びC4AFの各含有率は、ポルトランドセメントクリンカ全量(100質量%)中の割合として、セメントクリンカ原料やセメントクリンカ(焼成物)の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出することができる。
C3S(質量%)=(4.07×CaO(質量%))-(7.60×SiO2(質量%))-(6.72×Al2O3(質量%))-(1.43×Fe2O3(質量%))
C2S(質量%)=(2.87×SiO2(質量%))-(0.754×C3S(質量%))
C3A(質量%)=(2.65×Al2O3(質量%))-(1.69×Fe2O3(質量%))
C4AF(質量%)=3.04×Fe2O3(質量%)
【0017】
本発明のセメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~3,700cm2/g、より好ましくは3,100~3,600cm2/g、さらに好ましくは3,150~3,550cm2/g、特に好ましくは3,200~3,500cm2/gである。該ブレーン比表面積が3,000cm2/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が3,700cm2/g以下であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。
【0018】
本発明のセメント組成物の「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した、材齢7日における水和熱は、好ましくは350J/g以下、より好ましくは345J/g以下、特に好ましくは340J/g以下である。
また、本発明のセメント組成物の「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した、材齢28日における水和熱は、好ましくは400J/g以下、より好ましくは398J/g以下、特に好ましくは395J/g以下である。
【0019】
上述した原料を適宜混合することによって、本発明のセメント組成物を製造することができる。
また、原料として、普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を含む普通ポルトランドセメントであって、該普通ポルトランドセメント中のSO3の割合が1.5~2.7質量%である普通ポルトランドセメントを使用し、該普通ポルトランドセメントと、II型無水石膏粉末と、無機粉末を混合して本発明のセメント組成物を製造してもよい。
上記普通ポルトランドセメントは、本発明の効果をより大きく発揮する観点から、該普通ポルトランドセメントの「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した材齢7日の水和熱が350J/gを超える(好ましくは353J/g以上、より好ましくは355J/g以上)、及び、「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して測定した材齢28日の水和熱が400J/gを超える(好ましくは405J/g以上、より好ましくは410J/J以上)、の少なくともいずれか一方を満たすものであることが好ましい。
このような普通ポルトランドセメントは、上述の国土交通省の通達における水和熱の数値を満たさないもの(材齢7日における水和熱が350J/g以下であり、かつ、材齢28日における水和熱が400J/g以下であるもの)であるが、本発明のセメント組成物は、このような普通ポルトランドセメントを使用しているにもかかわらず、水和熱を小さくすることができる。
【0020】
また、各原料の粉砕と混合を同時に行ってセメント組成物を製造してもよい。このようなセメント組成物の製造方法の例としては、下記(i)~(iii)の方法等が挙げられる。
(i)普通ポルトランドセメントクリンカと、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、石灰石、高炉スラグ、及びフライアッシュの中から選ばれる1種以上を同時に粉砕した後、得られた粉砕物にII型無水石膏粉末を添加し、混合する方法
(ii)普通ポルトランドセメントクリンカと、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方を同時粉砕した後、得られた粉砕物に、石灰石粉末、高炉スラグ微粉末、及びフライアッシュの中から選ばれる1種以上の無機粉末(以下、単に「無機粉末」ともいう。)とII型無水石膏粉末を添加し、混合する方法
(iii)普通ポルトランドセメントクリンカと、二水石膏及び半水石膏の少なくともいずれか一方と、無機粉末と、II型無水石膏粉末を同時に混合しながら粉砕する方法
なお、上記(i)~(iii)における粉砕手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、ボールミル等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)普通ポルトランドセメントA~C:普通ポルトランドセメントクリンカ粉砕物と、半水石膏と二水石膏の混合物、太平洋セメント社製、詳細は表1参照
(2)二水石膏:排脱二水石膏
(3)II型無水石膏粉末:ブレーン比表面積4,220cm2/g
(4)石灰石粉末:ブレーン比表面積4,190cm2/g
(5)高炉スラグ微粉末:ブレーン比表面積4,210cm2/g
(6)フライアッシュ:ブレーン比表面積3,690cm2/g
(7)細骨材:「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に規定される標準砂
(8)水:水道水
【0022】
実施例、比較例における水和熱及びモルタルの圧縮強さの測定方法を以下に示す。
[水和熱]
「JIS R 5203:2015(セメントの水和熱測定方法)」に準拠して、材齢7日、及び、材齢28日の水和熱を測定した。
[モルタルの圧縮強さ(表2~5中、「圧縮強さ」と示す。)]
「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して、材齢7日、28日におけるモルタル圧縮強さを測定した。
【0023】
【0024】
[実施例1~11、13~14]
表2に示す種類の上記材料(普通ポルトランドセメントA、無機粉末、II型無水石膏粉末)を、ミキサーを用いて混合して、セメント組成物を得た。混合は各材料を同時にミキサーに添加して行った。
無機粉末及びII型無水石膏粉末の配合量は、セメント組成物中の無機粉末またはII型無水石膏粉末の含有率が、表2に示す数値となる量とした。
得られたセメント組成物のSO3の含有率、モルタルの圧縮強さ、材齢7日、28日における水和熱を測定した。
結果を表2に示す。なお、実施例1~11、13~14におけるセメント組成物のブレーン比表面積は3,480~3,580cm2/gである。
【0025】
【0026】
[比較例1~15]
表3に示す種類の上記材料(普通ポルトランドセメントA、無機粉末、II型無水石膏粉末)を、ミキサーを用いて混合して、セメント組成物を得た。混合は各材料を同時にミキサーに添加して行った。
無機粉末及びII型無水石膏粉末の配合量は、セメント組成物中の無機粉末またはII型無水石膏粉末の含有率が、表3に示す数値となる量とした。なお、比較例1~15におけるセメント組成物のブレーン比表面積は3,460~3,590cm2/gである。また、表3~5中、II型無水石膏粉末の欄が「-」となっているものは、II型無水石膏粉末を添加しなかったことを示す。
得られたセメント組成物のSO3の含有率等を測定した。
[参考例1]
普通ポルトランドセメントAのモルタルの圧縮強さ、材齢7日、28日における水和熱を測定した。
結果を表3に示す。
【0027】
【0028】
表2~3から、普通ポルトランドセメントA(参考例1)の材齢7日における水和熱は355J/gであり、材齢28日における水和熱は410J/gであることがわかる。
実施例1~11、13~14のセメント組成物は、普通ポルトランドセメントAを用いているが、該セメント組成物の材齢7日における水和熱は350J/g以下であり、材齢28日における水和熱は398J/g以下であり、水和熱が低減されていることがわかる。
また、II型無水石膏粉末を含まないセメント組成物(比較例2、4、6、8、11、13、15)では、該セメント組成物の材齢7日における水和熱、及び、材齢28日における水和熱の少なくともいずれか一方が、国土交通省の通達における水和熱の数値(材齢7日:350J/g以下、材齢28日:400J/g以下)を満たしていないことがわかる。
また、無機粉末の配合割合が0.5質量%である比較例1のセメント組成物の材齢28日における水和熱は403J/gであることがわかる。
【0029】
また、比較例3、5、7、9、12、14のセメント組成物のモルタルの圧縮強さから、II型無水石膏粉末の配合割合が多くなる(例えば、5.1質量%以上)と、セメント組成物のモルタルの圧縮強さが小さくなることがわかる。
例えば、実施例2のセメント組成物(II型無水石膏粉末の配合割合:2.9質量%)のモルタル圧縮強さ(材齢7日:45.2N/mm2、材齢28日:61.2N/mm2)と比較して、比較例3のセメント組成物(II型無水石膏粉末の配合割合:5.1質量%)のモルタル圧縮強さ(材齢7日:39.3N/mm2、材齢28日:57.8N/mm2)は小さいことがわかる。
さらに、比較例10から、無機粉末の配合割合が多くなる(17質量%)とセメント組成物のモルタルの圧縮強さが小さくなることがわかる。
【0030】
[実施例15~17]
表4に示す種類、及び、配合割合の上記材料(普通ポルトランドセメントB、無機粉末、II型無水石膏粉末)を用いて、実施例1と同様にしてセメント組成物を得た。
[比較例17~18]
表4に示す種類、及び、配合割合の上記材料(普通ポルトランドセメントB、無機粉末、II型無水石膏粉末)を用いて、比較例1と同様にしてセメント組成物を得た。なお、実施例15~17、比較例17~18におけるセメント組成物のブレーン比表面積は3,420~3,490cm2/gである。
得られた各セメント組成物のSO3の含有率、モルタルの圧縮強さ、材齢7日、28日における水和熱を測定した。
[参考例2]
普通ポルトランドセメントBのモルタルの圧縮強さ、材齢7日、28日における水和熱を測定した。
結果を表4に示す。
【0031】
【0032】
表4から、普通ポルトランドセメントB(参考例2)の材齢7日における水和熱は354J/gであり、材齢28日における水和熱は411J/gであることがわかる。
実施例15~17のセメント組成物は、普通ポルトランドセメントBを用いているが、該セメント組成物の材齢7日における水和熱は349J/g以下、材齢28日における水和熱は397J/g以下であり、水和熱が低減されていることがわかる。
また、II型無水石膏粉末を含まないセメント組成物(比較例17~19)では、該セメント組成物の材齢7日における水和熱、及び、材齢28日における水和熱が、国土交通省の通達における水和熱の数値(材齢7日:350J/g以下、材齢28日:400J/g以下)を満たしていないことがわかる。
【0033】
[実施例18~23]
表5に示す種類、及び、配合割合の上記材料(普通ポルトランドセメントC、無機粉末、II型無水石膏粉末)を用いて、実施例1と同様にしてセメント組成物を得た。
[比較例20~25]
表5に示す種類、及び、配合割合の上記材料(普通ポルトランドセメントC、無機粉末、II型無水石膏粉末)を用いて、比較例1と同様にしてセメント組成物を得た。なお、実施例18~23、比較例20~25のセメント組成物におけるブレーン比表面積は3,260~3,370cm2/gである。
得られた各セメント組成物のSO3の含有率、モルタルの圧縮強さ、材齢7日、28日における水和熱を測定した。
[参考例3]
普通ポルトランドセメントCのモルタルの圧縮強さ、材齢7日、28日における水和熱を測定した。
結果を表4に示す。
【0034】
【0035】
表5から、普通ポルトランドセメントC(参考例3)の材齢7日における水和熱は345J/gであり、材齢28日における水和熱は403J/gであることがわかる。
実施例18~23のセメント組成物は、普通ポルトランドセメントCを用いているが、該セメント組成物の材齢7日における水和熱は337J/g以下、材齢28日における水和熱は394J/g以下であり、水和熱が低減されていることがわかる。
また、II型無水石膏粉末を含まないセメント組成物(比較例20、22、24)では、該セメント組成物の材齢28日における水和熱が、国土交通省の通達における水和熱の数値(400J/g以下)を満たしていないことがわかる。
また、比較例21、23、25のセメント組成物のモルタルの圧縮強さから、II型無水石膏粉末の配合割合が多くなる(例えば、4.9質量%以上)とセメント組成物のモルタルの圧縮強さが小さくなることがわかる。
例えば、実施例18のセメント組成物(II型無水石膏粉末の配合割合:1.6質量%)のモルタル圧縮強さ(材齢7日:44.6N/mm2、材齢28日:57.1N/mm2)と比較して、比較例21のセメント組成物(II型無水石膏粉末の配合割合:5.2質量%)のモルタル圧縮強さ(材齢7日:37.9N/mm2、材齢28日:53.4N/mm2)は小さいことがわかる。