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  • 特許-EUV透過膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】EUV透過膜
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20231024BHJP
   G03F 1/22 20120101ALI20231024BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F1/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023507506
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2022034591
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】柏屋 俊克
(72)【発明者】
【氏名】強力 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】丹下 正次
(72)【発明者】
【氏名】近藤 厚男
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-83791(JP,A)
【文献】特開2018-151622(JP,A)
【文献】特開2018-77412(JP,A)
【文献】国際公開第2021/037662(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ベリリウムで構成され、第一面及び第二面を有する主層と、
前記主層の前記第一面及び前記第二面に設けられる、フッ化ベリリウム、フッ化窒化ベリリウム、フッ化酸化ベリリウム及びフッ化窒化酸化ベリリウムから選択される少なくとも1種のフッ化物を含む、1対の表面層と、
を備えた、EUV透過膜。
【請求項2】
前記表面層がフッ化ベリリウムを含む、請求項1に記載のEUV透過膜。
【請求項3】
前記表面層がフッ化窒化ベリリウム含む、請求項1に記載のEUV透過膜。
【請求項4】
前記表面層がフッ化酸化ベリリウムを含む、請求項1に記載のEUV透過膜。
【請求項5】
前記表面層がフッ化窒化酸化ベリリウムを含む、請求項1に記載のEUV透過膜。
【請求項6】
前記表面層が、窒化ベリリウム、窒化酸化ベリリウム及び酸化ベリリウムからなる群から選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項1に記載のEUV透過膜。
【請求項7】
前記表面層がフッ化ベリリウム及び窒化ベリリウムを含む、請求項6に記載のEUV透過膜。
【請求項8】
前記表面層がフッ化ベリリウム及び窒化酸化ベリリウムを含む、請求項6に記載のEUV透過膜。
【請求項9】
前記表面層がフッ化ベリリウム及び酸化ベリリウムを含む、請求項6に記載のEUV透過膜。
【請求項10】
前記表面層がフッ化ベリリウム、酸化ベリリウム及び窒化ベリリウムを含む、請求項6に記載のEUV透過膜。
【請求項11】
前記第一面における前記表面層の厚さが、前記第二面における前記表面層の厚さの1.1倍以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載のEUV透過膜。
【請求項12】
前記第一面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度が、前記第二面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度の1.5倍以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載のEUV透過膜。
【請求項13】
前記第一面における前記表面層の厚さが、前記第二面における前記表面層の厚さよりも大きく、かつ、前記第一面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度が、前記第二面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度よりも高く、
前記第一面における前記表面層の厚さの、前記第二面における前記表面層の厚さに対する比をAとし、前記第一面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度の、前記第二面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度に対する比をBとしたとき、A×B≧2.0を満たす、請求項1~10のいずれか一項に記載のEUV透過膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUV透過膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術における微細化が年々進行している。微細化を進展させる技術は、半導体製造における多くのプロセスにおいて改良がなされており、そのうち露光プロセスにおいては従来のArF露光の波長193nmに代えて、波長13.5nmのEUV(極端紫外線)光が使用され始めた。ArF光からEUV光になることで波長が1/10以下になり、EUV光の光学的特性はArF光の光学的特性とは全く異なっているため、新たに多くの技術開発が必要となっている。とりわけフォトマスク(レチクル(reticle))のパーティクル付着防止膜であるペリクル(pellicle)として、EUV透過率の大きなペリクルの開発が待ち望まれている。現状、EUV光に対して高透過率を有するペリクルが無く、既存のペリクルを用いた場合、EUV光がペリクルを通過するとEUV光強度が大きく低下してしまい、露光時間が長くなることによりスループットが低下する、あるいはペリクルがEUV光を吸収することで高温になり短時間で劣化する、といった課題がある。
【0003】
そこで、ペリクル膜の開発が行われている。例えば、特許文献1(特許第6858817号公報)には、コア層が(ポリ)Si等のEUV放射に実質的に透明な材料を含むコア層と、IR放射を吸収する材料を含むキャップ層とを備えたペリクル膜が開示されている。しかしながら、ポリSiベースのペリクル膜は、膜強度を保持するための厚さとした場合、EUV透過率は目標の90%に到達できず、いまだ実用的ではない。また、カーボンナノチューブ(CNT)ベースのペリクル膜も開発されており(特許文献2(特開2018-194840号公報))、より高いEUV透過率が期待される。
【0004】
ところで、ペリクル膜は使用時に破損する可能性があるところ、そのような場合であってもパターン転写に影響を及ぼさないように対処することも求められている。例えば、特許文献3(特表2018-537720号公報)には、リソグラフィ装置での通常の使用中に、優先的に破損するように構成された破損領域を備える、ペリクル膜が開示されている。これにより、ペリクル膜上で最初に破損する場所を予め設定している。また、ペリクル膜の破損を検知する手法、破損を検知した場合に破損が進展しないようにする手法、ペリクル膜が破損した場合にペリクル膜の厚さ方向の張力差により膜が巻き上がるようする手法等もこの文献には開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6858817号公報
【文献】特開2018-194840号公報
【文献】特表2018-537720号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、例えばCNTベースのペリクル膜ではペリクル使用環境(低圧水素雰囲気)に対する耐久性が無く、耐久性を持たせるためにペリクル膜に金属を被覆すると、EUV透過率が低下してしまい実用レベルの透過率を達成できなくなるのが実情である。そのため、デバイスメーカーは止む無くペリクル膜を使わずにEUV露光による生産を行っている。特に、特許文献3にはペリクル膜の具体的な材料、膜厚、応力等の開示が無いところ、使用するペリクル膜の性状によってペリクル膜破損時の状態は異なる。そのため、ペリクル膜破損時であってもパターン転写に影響を及ぼさないように、使用するペリクル膜の性状を適宜制御することが望まれる。このように、ペリクル膜に求められる性能としては、高いEUV透過率やEUV透過率の面内均一性、低圧水素雰囲気環境における耐久性等、様々なものがあるが、とりわけ、ペリクル膜が破損した場合にパーティクルを発生させないことが特に望まれている。万が一、ペリクル膜が破損してパーティクルが発生すると、パーティクルがレチクルやミラー等に付着してパターン転写エラーの原因となる。また、レチクルにパーティクルが付着するとフォトマスクの洗浄が必要になり、露光装置内にパーティクルが付着すると露光装置のクリーニングが必要になる。露光装置をクリーニングした場合、長期間の装置停止や、高額な費用が掛かる等、デバイスメーカーの損害は大きくなる。そこで、破損した場合でも、パーティクルが発生しにくいペリクル膜としてのEUV透過膜が望まれる。
【0007】
本発明者らは、今般、金属ベリリウムで構成される主層と、フッ化物を含む1対の表面層とを組み合わせることで、万が一膜が破損した場合であっても、パーティクルが発生しにくいEUV透過膜を提供できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、万が一膜が破損した場合であっても、パーティクルが発生しにくいEUV透過膜を提供することにある。
【0009】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
金属ベリリウムで構成され、第一面及び第二面を有する主層と、
前記主層の前記第一面及び前記第二面に設けられる、フッ化ベリリウム、フッ化窒化ベリリウム、フッ化酸化ベリリウム及びフッ化窒化酸化ベリリウムから選択される少なくとも1種のフッ化物を含む、1対の表面層と、
を備えた、EUV透過膜。
[態様2]
前記表面層がフッ化ベリリウムを含む、態様1に記載のEUV透過膜。
[態様3]
前記表面層がフッ化窒化ベリリウム含む、態様1又は2に記載のEUV透過膜。
[態様4]
前記表面層がフッ化酸化ベリリウムを含む、態様1~3のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様5]
前記表面層がフッ化窒化酸化ベリリウムを含む、態様1~4のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様6]
前記表面層が、窒化ベリリウム、窒化酸化ベリリウム及び酸化ベリリウムからなる群から選択される少なくとも一種をさらに含む、態様1~5のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様7]
前記表面層がフッ化ベリリウム及び窒化ベリリウムを含む、態様6に記載のEUV透過膜。
[態様8]
前記表面層がフッ化ベリリウム及び窒化酸化ベリリウムを含む、態様6又は7に記載のEUV透過膜。
[態様9]
前記表面層がフッ化ベリリウム及び酸化ベリリウムを含む、態様6~8のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様10]
前記表面層がフッ化ベリリウム、酸化ベリリウム及び窒化ベリリウムを含む、態様6~9のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様11]
前記第一面における前記表面層の厚さが、前記第二面における前記表面層の厚さの1.1倍以上である、態様1~10のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様12]
前記第一面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度が、前記第二面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度の1.5倍以上である、態様1~11のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様13]
前記第一面における前記表面層の厚さが、前記第二面における前記表面層の厚さよりも大きく、かつ、前記第一面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度が、前記第二面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度よりも高く、
前記第一面における前記表面層の厚さの、前記第二面における前記表面層の厚さに対する比をAとし、前記第一面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度の、前記第二面側の前記表面層の最表面におけるフッ素原子濃度に対する比をBとしたとき、A×B≧2.0を満たす、態様1~12のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明によるEUV透過膜の一形態を示す模式断面図である。
図2A】EUV透過膜の破損前の状態を示す模式断面図である。
図2B】従来のEUV透過膜の破損後の状態を示す模式断面図である。
図2C】本発明のEUV透過膜の破損後の状態を示す模式断面図である。
図3A】例2におけるEUV透過膜の製造手順の前半部分を示す工程流れ図である。
図3B】例2におけるEUV透過膜の製造手順の後半部分を示す工程流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
EUV透過膜
図1に本発明の一形態によるEUV透過膜10の模式断面図を示す。EUV透過膜10は、主層12と、その両面に設けられる1対の表面層14とを備える。すなわち、主層12は第一面12a及び第二面12bを有し、第一面12a及び第二面12bに表面層14がそれぞれ設けられる。主層12は金属ベリリウムで構成される一方、表面層14はフッ化ベリリウム、フッ化窒化ベリリウム、フッ化酸化ベリリウム及びフッ化窒化酸化ベリリウムから選択される少なくとも1種のフッ化物を含む。とりわけ、表面層14の最表面に多くのフッ化物を含む態様が好ましい。このように、金属ベリリウムで構成される主層12と、フッ化物を含む1対の表面層14とを組み合わせることで、万が一膜が破損した場合であっても、パーティクルが発生しにくいEUV透過膜10を提供することができる。
【0012】
すなわち、前述のとおり、ペリクル膜に求められる性能としては、高いEUV透過率や低圧水素雰囲気環境における耐久性等、様々なものがあるが、とりわけ、ペリクル膜が破損した場合にパーティクルを発生させないことが特に望まれている。万が一、ペリクル膜が破損してパーティクルが発生すると、パーティクルがレチクルやミラー等に付着してパターン転写エラーの原因となる。また、レチクルにパーティクルが付着するとフォトマスクの洗浄が必要になり、露光装置内にパーティクルが付着すると露光装置のクリーニングが必要になる。露光装置をクリーニングした場合、長期間の装置停止や、高額な費用が掛かる等、デバイスメーカーの損害は大きくなる。これらの問題が、本発明のEUV透過膜10によれば首尾よく解決される。ペリクル膜破損時におけるパーティクル発生のメカニズムを具体的に説明すると以下のとおりである。まず、EUV透過膜の大きさは典型的には約110×140mmであるが、その場合レチクルとEUV透過膜の隙間が2~3mmしかないため、EUV透過膜の破損後の状態によってはEUV透過膜がレチクルと接触することで、EUV透過膜破損部からパーティクルが発生し、それがレチクルに付着する恐れがある。例えば、本発明のEUV透過膜10(又は従来のEUV透過膜110)としての自立膜は、典型的には、成膜時に用いる基板(例えばSi基板)上にEUV透過膜10とすべき積層膜を形成した後、Si基板の不要部分をXeFを用いたエッチングで除去して自立膜化することにより作製することができる。その後の露光プロセスにおいては、図2Aに示されるように、EUV透過膜10又は110の外縁部に成膜時に用いた基板がボーダー(border)16として残存し、EUV透過膜10又は110と反対側のボーダー16にレチクル18が配置されている。そして、図2Bに示されるように、従来のEUV透過膜110は、破損した場合に、EUV透過膜110の破損部分がヒラヒラと動く状態となりレチクル18と接触することでパーティクルPが発生してしまう。
【0013】
これに対し、本発明のEUV透過膜10によれば、図2Cに示されるように、EUV透過膜10が第一面側(レチクル側とは反対側)にロール状に巻き上がり、レチクル18と接触することが無いようにすることができる。本発明のEUV透過膜10がこのような挙動をとる理由を以下に説明する。まず、EUV透過膜10の材料としては、EUV透過率が高い金属ベリリウムを主層に用いるが、金属ベリリウムはエッチングに使用するXeFガスとの反応性が高いため、反応抑制のためにキャップ層を主層12の両面(第一面12a及び第二面12b)に形成する。エッチング時、XeFガスとキャップ層とが反応し、キャップ層の少なくとも一部がフッ素化されてフッ化物を形成することで、上述した1対の表面層14が主層12の両面に形成される。このように表面層14がフッ化物を含むことにより、1対の表面層14の応力を制御しEUV透過膜10の両面における応力に差を付けることで、その応力差を利用してEUV透過膜が破損した場合にEUV透過膜が巻き上がるようにすることができる。これにより、高いEUV透過率を有しながらも、万が一破損した場合でも、パーティクルが発生しにくいEUV透過膜10を提供することができる。
【0014】
主層12は、金属ベリリウムで構成される。もっとも、主層12が完全に金属ベリリウムで構成される必要はなく、主層12の好ましくは98.0重量%以上、より好ましくは99.0重量%以上、さらに好ましくは99.5重量%以上が金属ベリリウムで構成されていればよい。これにより、実用レベルの高いEUV透過率を有するEUV透過膜とすることができる。主層12の厚さは、10~70nmであるのが好ましく、より好ましくは15~50nm、さらに好ましくは20~35nmである。
【0015】
1対の表面層14は、金属ベリリウム層である主層12を保護しながらも、万が一EUV透過膜10が破損した場合でもその膜が巻き上がることでレチクル18と接触せずパーティクルPが発生しないようにするための層である。したがって、表面層14は、主層12の第一面12a及び第二面12bに設けられており、これにより、主層12の両面の応力を制御可能とする。表面層14は、窒化ベリリウム、窒化酸化ベリリウム及び酸化ベリリウムからなる群から選択される少なくとも一種を主成分とするのが典型的であるが、応力制御の観点から、表面層14は、フッ化ベリリウム、フッ化窒化ベリリウム、フッ化酸化ベリリウム及びフッ化窒化酸化ベリリウムから選択される少なくとも1種のフッ化物を含む。そのなかでも、表面層14は、フッ化ベリリウム、フッ化窒化ベリリウム、フッ化酸化ベリリウム又はフッ化窒化酸化ベリリウムを含むのが好ましい。ここで、表面層14における「主成分」とは、表面層14の55重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは65重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上を占める成分を意味する。表面層14の最表面におけるフッ素原子含有量は4~50原子%であるのが好ましく、より好ましくは6~40原子%、さらに好ましくは8~35原子%である。
【0016】
上述のとおり、表面層14は、窒化ベリリウム、窒化酸化ベリリウム及び酸化ベリリウムからなる群から選択される少なくとも一種を(典型的には主成分として)含むのが好まい。より好ましくは、表面層14は、(i)フッ化ベリリウム及び窒化ベリリウム、(ii)フッ化ベリリウム及び窒化酸化ベリリウム、(iii)フッ化ベリリウム及び酸化ベリリウム、又は(iv)フッ化ベリリウム、酸化ベリリウム及び窒化ベリリウムを含む。なお、本明細書において「窒化ベリリウム」なる用語は、Beのような化学量論組成のみならず、Be2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成も許容する包括的な組成を意味するものとする。同様のことは、窒化酸化ベリリウム、酸化ベリリウム、フッ化窒化ベリリウム、フッ化酸化ベリリウム、フッ化窒化酸化ベリリウム等の他の化合物名にも当てはまる。
【0017】
露光プロセスにおいて、応力制御の観点から、第一面12aにおける表面層14は主層12におけるレチクル18側とは反対側に設けられ、第二面12bにおける表面層14は主層12におけるレチクル18側に設けられるのが好ましい。こうすることで、例えば図2Cに示されるように、万が一EUV透過膜10が破損しても、EUV透過膜10が第一面側(レチクル側とは反対側)にロール状に巻き上がり、レチクル18と接触せずパーティクルPが発生しにくいようにすることができる。EUV透過膜10の破損時にこのような状態を好ましく実現するためには、第一面12aにおける表面層14の厚さが、第二面12bにおける表面層14の厚さの1.1倍以上であるのが好ましく、より好ましくは1.1~3.5倍、さらに好ましくは1.2~3倍である。また、第一面12a側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度が、第二面12b側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度の1.5倍以上であるのが好ましく、より好ましくは1.5~3.4倍、さらに好ましくは1.7~3.0倍である。あるいは、第一面12aにおける表面層14の厚さが、第二面12bにおける表面層14の厚さよりも大きく、かつ、第一面12a側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度が、第二面12b側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度よりも高い場合は、A×B≧2.0(式中、Aは、第一面12aにおける表面層14の厚さの、第二面12bにおける表面層14の厚さに対する比であり、Bは、第一面12a側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度の、第二面12b側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度に対する比である)を満たすのが好ましく、より好ましくは3.5≧A×B≧2.0、さらに好ましくは3.0≧A×B≧2.0を満たす。ここで、表面層14の「最表面」とは、表面層14における、主層12側の面(第一面12a又は第二面12b)とは反対側の面を意味する。このように、第一面12aにおける表面層14と第二面12bにおける表面層14とで、厚さ及び/又はフッ素原子濃度が異なるようにすることで、より効果的にEUV透過膜の両面における応力を制御し、上述した効果を好ましく達成することができる。
【0018】
第一面12aにおける表面層14の厚さは0.3~3.0nmであるのが好ましく、より好ましくは0.5~2.5nm、さらに好ましくは0.8~2.2nmである。第二面12bにおける表面層14の厚さは、第一面12aにおける表面層14より薄いのが典型的であり、好ましくは0.2~2.8nm、より好ましくは0.4~2.3nm、さらに好ましくは0.6~2.0nmである。
【0019】
第一面12a側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度は4~50原子%であるのが好ましく、より好ましくは6~40原子%、さらに好ましくは8~35原子%である。第二面12b側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度は、好ましくは第一面12a側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度より低く、1~45原子%であるのが好ましく、より好ましくは3~35原子%、さらに好ましくは6~25原子%である。
【0020】
表面層14は、主層12に近づくにつれて窒素濃度が減少する窒素濃度傾斜領域を有するのが好ましい。すなわち、上述のとおり表面層14に含まれうる窒化物の組成にはBeのような化学量論組成からBe2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成まで包含しうるところ、表面層14に窒化物含まれる場合は、その窒化物が、主層12に近づくにつれてベリリウムリッチの組成に近づく傾斜組成とするのが好ましい。こうすることで、表面層14と主層12(すなわち金属ベリリウム層)との密着性を向上できるとともに、両層間の熱膨張差に起因する応力の発生を緩和することができる。すなわち、両層間の密着性を向上させて剥離を抑制したり、EUV光を吸収して高温になった場合の両層間の熱膨張緩和層として剥離しにくくしたりすることができる。窒素濃度傾斜領域の厚さは、表面層14の厚さよりも小さいのが好ましい。すなわち、表面層14の厚さの全域が窒素濃度傾斜領域である必要はない。例えば、表面層14の厚さの一部のみ、例えば、表面層14の厚さのうち好ましくは10~70%の領域、より好ましくは15~50%の領域が窒素濃度傾斜領域であるのが好ましい。
【0021】
EUV透過膜10は、EUVを透過するための主要領域が自立膜の形態であるのが好ましい。すなわち、EUV透過膜10の外縁部にのみ、成膜時に用いた基板(例えばSi基板)がボーダーとして残存しているのが好ましい。つまり、外縁部以外の主要領域には基板(例えばSi基板)が残存していない、すなわち主要領域は主層12及び表面層14のみで構成されるのが好ましい。
【0022】
EUV透過膜10は、実用レベルの高いEUV透過率を有することができ、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上のEUV透過率を有する。EUV透過率は高ければ高いほど望ましいため、上限値は特に限定されず理想的には100%であるが、EUV透過膜10のEUV透過率は、典型的には99%以下、より典型的には98%以下、さらに典型的には95%以下でありうる。
【0023】
製造方法
本発明によるEUV透過膜は、Si基板上にEUV透過膜とすべき積層膜を形成した後、Si基板の不要部分をXeFを用いたエッチングで除去して自立膜化しながらその膜をフッ素化することにより作製することができる。したがって、前述のとおり、EUV透過膜の主要部分はSi基板が残存していない自立膜の形態となっている。
【0024】
(1)Si基板の準備
まず、その上に積層膜を形成するためのSi基板を準備する。Si基板は、その上に主層12と表面層14からなる積層膜を形成した後に、その外縁部以外の主要領域(すなわち自立膜とすべき領域)がXeFを用いたエッチングにより除去されることになる。したがって、エッチングを効率良く短時間で行うため、予め自立膜とすべき領域のSi基板の厚さを薄くしておくことが望ましい。そのため、通常の半導体プロセスを用いて、Si基板にEUV透過形状に対応したマスクを形成し、ウェットエッチングによりSi基板をエッチングして、Si基板の主要領域の厚さを所定厚さまで薄くすることが望まれる。ウェットエッチングを経たSi基板を洗浄及び乾燥することで、ウェットエッチングにより形成したキャビティを有するSi基板を準備する。なお、ウェットエッチングマスクとしては、Siのウェットエッチング液に対して耐食性を有する材質であればよく、例えばSiOが好適に使用される。また、ウェットエッチング液としては、Siをエッチング可能なものであれば特に限定されない。例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を適切な条件で使用すれば、Siに対する異方性エッチングで非常に良好なエッチングができるため好ましい。
【0025】
(2)積層膜の形成
積層膜の形成は、いかなる成膜手法により行われてもよい。好ましい成膜手法の一例としては、スパッタリング法が挙げられる。窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の積層膜を作製する場合、主層12としてのベリリウム膜は、純Beターゲットを用いたスパッタリングにより作製し、表面層14としての窒化ベリリウム膜は、反応性スパッタリングにより行うのが好ましい。この反応性スパッタリングは、例えば、純Beターゲットを用いたスパッタリング中に、チャンバー内に窒素ガスを入れることで、ベリリウムと窒素が反応して窒化ベリリウムを生成することにより行うことができる。また、別の手法として、窒化ベリリウムの作製は、ベリリウム膜を形成した後、窒素プラズマを照射することでベリリウムを窒化反応させて窒化ベリリウムを生成させることにより行うこともできる。いずれにしても、窒化ベリリウムの合成手法はこれらに限定されるものではない。なお、窒化ベリリウム膜形成用のベリリウムターゲットと、ベリリウム膜形成用のベリリウムターゲットは、別々のものを用いるのが好ましいが、窒化ベリリウム膜形成とベリリウム膜形成で同一のターゲットを用いることも可能である。なお、窒化ベリリウム膜とベリリウム膜は後述する実施例のように1つのチャンバーのスパッタリング装置で形成してもよいし、2チャンバーのスパッタリング装置を用いて窒化ベリリウム膜とベリリウム膜を別々のチャンバー内で形成してもよい。
【0026】
窒素濃度傾斜領域を形成する場合、窒化ベリリウムの成膜から金属ベリリウムの成膜を行うに際して、スパッタリングを継続して行いながら、途中から窒素ガスの導入を止めて金属ベリリウムの成膜に切り替えればよい。こうすることで、窒素ガスの濃度の低下に伴い、成膜される膜中の窒素濃度が厚さ方向に減少する領域が形成される。一方、金属ベリリウムから窒化ベリリウムに切り替える場合は、上記とは逆に、スパッタリングを継続して行いながら、途中から窒素ガスの導入を始めれば、窒素濃度傾斜領域を形成することができる。窒素濃度傾斜領域の厚さは、窒素ガス濃度を変化させる時間を調整することにより制御することができる。
【0027】
(3)自立膜化及びフッ素化
複合膜を形成したSi基板の、ボーダー(border)として残す外縁部以外のSi基板の不要部分をXeFを用いたエッチングで除去して、複合膜の自立膜化を行う。このエッチング工程において、キャビティ部におけるSiのエッチングが進行してSiが無くなると、複合膜の裏側面(Si基板と接触していたキャビティ側の面)が露出してフッ素化反応が起こり、それにより主層の第二面における表面層が形成される。一方、複合膜の表側面(Si基板と反対側の初めから露出している面)もフッ素化反応が起こり、それにより主層の第一面における表面層が形成されるが、表側面は初めから露出しているため、エッチング工程の最初からフッ素化反応が起こる。すなわち、複合膜の表側面と裏側面とでXeFへの露出時間が異なるため、表側面の方がXeFと接触する時間が長く、フッ化物が多くなる。したがって、第一面における表面層のフッ素原子濃度が、第二面における表面層のフッ素原子濃度よりも高くなる。フッ化物の種類は、XeFと反応するベリリウム層の材料、反応温度、反応時間等で変わるが、複合膜の最外層に窒化ベリリウムを形成した場合には、フッ化ベリリウム、フッ化酸化ベリリウム、フッ化窒化ベリリウム、フッ化窒化酸化ベリリウム等を生成することが確認されている。
【実施例
【0028】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0029】
例1
ベリリウム複合膜(窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の積層膜)がフッ素化すると、複合膜の応力がどのように変化するのかを確認するため、Si基板上に複合膜を形成し、フッ素化前後での複合膜の応力変化を確認した。まず、Si基板の片面に熱酸化によりSiO膜を形成することで、複合膜のフッ素化に用いられるXeFによりその片面がエッチングされないようにした。Si基板におけるSiO膜を形成した面とは反対側の面に、ベリリウム複合膜を形成した。具体的には、まず、スパッタリング装置にSiO膜を形成したSi基板をセットし、純Beターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、内圧0.5Paで、アルゴンガスと窒素ガス流量比が1:1となるように調整し反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm積層する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。次いで、窒素ガスを導入しないで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ベリリウムが25nm積層する時間を見計らってスパッタリングを終了した。その後、最初と同様に再度窒素ガスを導入しつつ、反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm積層する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。このようにして、窒化ベリリウム(Be)2nm/金属ベリリウム(Be)25nm/窒化ベリリウム(Be)2nmのベリリウム複合膜を形成した。この複合膜形成前後におけるSi基板の反り量を測定したところ、複合膜形成後のSi基板の反り量の方が、複合膜形成前のSi基板の反り量よりも大きくなったため、複合膜に引張応力が作用していることが確認された。次いで、このSi基板をXeFガスに曝露して、複合膜の窒化ベリリウムをフッ素化した。フッ素化前後におけるSi基板の反り量を測定したところ、フッ素化後におけるSi基板の反り量の方が、フッ素化前におけるSi基板の反り量よりも大きくなったため、フッ素化後の複合膜の引張応力が増大していることが確認された。以上の結果から、ベリリウム複合膜には応力が内在しており、フッ素化することでその応力を制御できることが分かる。したがって、フッ素化によってEUV透過膜(例えばベリリウム複合膜)の両面における応力に差を付けることができ、その応力差を利用してEUV透過膜が破損した場合にEUV透過膜が巻き上がるようにすることができる。
【0030】
例2
図3A及び3Bに示される手順に従い、表面層/主層/表面層の3層構造の複合自立膜(EUV透過膜)を以下のようにして作製した。
【0031】
(1)Si基板の準備
直径8インチ(20.32cm)のSiウェハ20を用意した(図3A(a))。このSiウェハ20の両面に、熱酸化によりSiO膜22を50nm厚さで形成した(図3A(b))。Siウェハ20の両面にレジストを塗布し、片面に110mm×145mmのレジストの穴ができるように、露光及び現像を行いSiOエッチング用のレジストマスク24を形成した(図3A(c))。この基板の一方の面をフッ酸でウェットエッチングすることにより、SiO膜22の露出部分をエッチング除去してSiOマスク22aを作製した(図3A(d))。SiOエッチングのためのレジストマスク24をアッシング装置で除去した(図3A(e))。その後、TMAH液によりSiをエッチングした。このエッチングは、事前にエッチングレートを測定しておき、狙いとするSi基板厚50μmとするためのエッチング時間だけ実施した(図3A(f))。最後にSiエッチングしていない面に形成してあるSiO膜22をフッ酸により除去及び洗浄して、Si基板28を準備した(図3B(g))。Si基板外形は必要に応じてレーザー30でダイシングして(図3B(h))、所望の形状としてもよい(図3B(i))。こうして、8インチ(20.32cm)Siウェハ20の中央に110mm×145mmのキャビティ26を設け、キャビティ26部分のSi厚さが50μmであるSi基板28を準備した。
【0032】
(2)複合膜の形成
上記(1)で得られたキャビティ26を備えたSi基板28に、窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合膜を以下のようにして形成した(図3B(i))。まず、スパッタリング装置にSi基板28をセットし、純Beターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、内圧0.5Paで、アルゴンガスと窒素ガス流量比が1:1となるように調整し反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm積層する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。次いで、窒素ガスを導入しないで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ベリリウムが25nm積層する時間を見計らってスパッタリングを終了した。その後、最初と同様に再度窒素ガスを導入しつつ、反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm積層する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。このようにして、窒化ベリリウム(Be)2nm/金属ベリリウム(Be)25nm/窒化ベリリウム(Be)2nmの複合膜11を形成した。
【0033】
(3)自立膜化及びフッ素化
8インチ(20.32cm)基板を処理可能なXeFエッチャーのチャンバー内に、上記(2)で準備した複合膜11付きのSi基板28をセットした。チャンバー内を十分真空引きした。このとき、チャンバー内に水分が残留していると、XeFガスと反応してフッ酸を生じ、エッチャーの腐食や想定外のエッチングが起きてしまうため、十分な真空引きを行った。必要に応じて、チャンバー内を、真空引きと窒素ガス導入を繰り返し、残留水分を減らした。十分に真空引きが出来たところで、XeF原料ボンベと予備室の間のバルブを開いた。その結果、XeFが昇華して予備室内にもXeFガスが蓄積された。十分に予備室内にXeFガスが蓄積されたところで、予備室とチャンバーの間のバルブを開き、XeFガスをチャンバー内に導入した。XeFガスはXeとFに分解し、FはSiと反応してSiFを生成した。SiFの沸点は-95℃であるため、生成したSiFは速やかに蒸発し、新たに露出したSi基板とFの反応が引き起こされた。Siエッチングが進行し、チャンバー内のFが減少したところで、チャンバー内を真空引きし、再度XeFガスをチャンバー内に導入しエッチングを行った。このようにして、真空引き、XeFガス導入、及びエッチングを繰り返して、自立膜化させる部分に対応するSiウェハ20が消失するまでエッチングを続けた。不要部分のSi基板が無くなったところでエッチングを終了した。こうして、Si製ボーダー(border)を有する複合自立膜をEUV透過膜10として得た(図3B(j))。なお、エッチングにおいて、Fは、複合膜11における、ベリリウム層の第一面(Siウェハ20とは反対側の面)及び第二面(Siウェハ20側の面)における窒化ベリリウム層とも反応するため、それにより得られるEUV透過膜10における1対の表面層はフッ化物を含むことになる。
【0034】
(4)EUV透過膜断面のTEM/EDS
集束イオンビーム(FIB)による加工でEUV透過膜の断面を切り出した試料を、透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、JEM-2100F)により200kVの条件で観察し、EDS分析装置(日本電子株式会社製、JED-2300T)により加速電圧5keVの条件で、元素マッピングや点分析モードで元素分析した。その結果、主層の厚さは24nm、第一面における表面層の厚さは2.3nm、第二面における表面層の厚さは1.9nmであることが分かった。第二面における表面層では、その最表面のみにおいてフッ素が微量検出されたため、第二面における表面層の最表面にてフッ化窒化ベリリウムが生成したものと判断した。一方で、第一面における表面層では、第二面における表面層よりも深くまでフッ素が検出されており、第一面における表面層にてフッ化窒化ベリリウムがより多く生成したものと判断した。また、第一面及び第二面における表面層において、フッ素が検出された部分からは窒素と微量の酸素も検出された。以上より、EUV透過膜の第一面における表面層は第二面における表面層よりもフッ素原子濃度が高く、表面層(第一面及び第二面)に生成したフッ化物は、フッ化窒化ベリリウムを主成分として含み、微量のフッ化窒化酸化ベリリウム及び/又はフッ化酸化ベリリウムを含むことが分かった。
【0035】
また、上記(4)の評価において、第一面側の表面層の最表面におけるフッ素原子濃度は32原子%、第二面側の表面層の最表面におけるフッ素原子濃度は18原子%であった。よって、第一面における表面層の厚さの、第二面における表面層の厚さに対する比であるAは1.21となり、第一面側の表面層の最表面におけるフッ素原子濃度の、第二面側の表面層14の最表面におけるフッ素原子濃度に対する比であるBは1.78となるため、A×B=2.15であることが分かった。
【0036】
(5)EUV透過膜破損後の状態の観察
EUV透過膜の中心を針で突いて破ったところ、破れた自立膜は第一面側に巻き上がり、パーティクルの発生は見られなかった。すなわち、EUV透過膜破損後の状態は図2Cに示されるような状態であった。
【0037】
本発明によるEUV透過膜は表面層における第一面と第二面で応力が異なるため、万が一EUV透過膜が破損した場合であっても、破損したEUV透過膜は第一面側(レチクル側とは反対側)に巻き上がるため、EUV透過膜が動き回ってレチクルやボーダーに接触してパーティクルが発生するのを抑制することができる。
【要約】
万が一膜が破損した場合であっても、パーティクルが発生しにくいEUV透過膜が提供される。このEUV透過膜は、金属ベリリウムで構成され、第一面及び第二面を有する主層と、主層の第一面及び第二面に設けられる、フッ化ベリリウム、フッ化窒化ベリリウム、フッ化酸化ベリリウム及びフッ化窒化酸化ベリリウムから選択される少なくとも1種のフッ化物を含む、1対の表面層とを備える。

図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B