(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】超電導軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20231025BHJP
H01F 6/00 20060101ALI20231025BHJP
H02K 7/09 20060101ALN20231025BHJP
【FI】
F16C32/04 Z
H01F6/00
H02K7/09
(21)【出願番号】P 2020002406
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 英一
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-217654(JP,A)
【文献】米国特許第06211589(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/00-32/06
H01F 6/00- 6/06
H02K 7/00- 7/20
H02J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング形状を有する超電導バルク体と、
リング形状であり、周方向に延びた溝を有し、当該溝に前記超電導バルク体が格納された格納容器と、
前記超電導バルク体の上面側に、前記超電導バルク体と対向して非接触に配置されたリング形状又は円板形状の永久磁石と、を備え、
前記超電導バルク体と、前記格納容器の前記溝の底面とは接触しており、
前記格納容器は、熱伝導率が50W/m・K以上、電気抵抗率が10
3Ωm以上であり、熱膨張率が前記超電導バルク体よりも小さいセラミックスで構成されて
おり、
前記格納容器が周方向に複数に分割された複数の格納容器部材から構成され、
隣り合う前記格納容器部材の間には隙間を有し、
前記格納容器は、前記格納容器の外周方向に亘って、熱膨張率が前記超電導バルク体よりも大きい外周拘束リングによって拘束されており、
前記格納容器の前記溝の外周壁が、前記超電導バルク体に、接触するように配置されている、
ことを特徴とする超電導軸受。
【請求項2】
前記超電導バルク体は、上面、下面、外周面、及び、内周面を備え、
前記格納容器の溝は、底面、外周壁、及び、内周壁を有し、前記格納容器は、前記溝に、前記超電導バルク体の下面、外周面、及び、内周面を囲むように、前記超電導バルク体を格納しており、
前記超電導バルク体の下面と前記格納容器の溝の底面は接触している、
ことを特徴とする、請求項1に記載の超電導軸受。
【請求項3】
前記超電導バルク体の内周面が、前記格納容器の前記溝の内周壁に、接触するように配置されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導軸受。
【請求項4】
前記超電導バルク体が、組成式がRE
1Ba
2Cu
3O
y(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、yは、6.8≦y≦7.2を満足する)で表され、結晶方位の揃ったRE
1Ba
2Cu
3O
y相中に、組成式がRE
2BaCuO
5で表されるRE
2BaCuO
5相が分散した組織を有する酸化物超電導バルク体である、
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の超電導軸受。
【請求項5】
前記超電導バルク体が、
組成式がRE
1Ba
2Cu
3O
y(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、yは、6.8≦y≦7.2を満足する)で表され、結晶方位の揃ったRE
1Ba
2Cu
3O
y相中に、組成式がRE
2BaCuO
5で表されるRE
2BaCuO
5相が分散した組織を有する酸化物超電導バルク体と、
RE、Ba、Cu、Oからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体、Bi、Sr、Ca、Cu、Oからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体、又はMg及びBからなる多結晶状の金属超電導バルク体のいずれかの多結晶状の超電導バルク体と、を組み合わせたものである、
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の超電導軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導バルク体を利用した超電導軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
塊状(バルク状)の超電導体(超電導バルク体)は、永久磁石と組み合わせると、磁束のピン止め効果を利用することによって、複雑なフィードバック制御システムなしでも安定浮上が実現可能になることから、非接触な軸受としての応用が期待されている。以下、このような超電導バルク体を利用した軸受を超電導軸受と呼ぶ。超電導軸受は、非接触な安定浮上が可能なことから、クリーンルームなどでの塵挨の出ないクリーンな軸受やフライホイール式電力貯蔵装置用の軸受、宇宙衛星に搭載される極低温で動作する検出機器用の軸受などへの適用が提案されている。
【0003】
超電導軸受に用いる超電導バルク体としては、臨界温度Tcが高く、ピン止め力が強い超電導材料のバルク体、すなわち臨界電流密度Jcが高い超電導バルク体が望ましい。RE-Ba-Cu-O系酸化物超電導材料(REは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である。)の臨界温度Tcは、90K程度と高い。しかしながら、酸化物の一般的な製法である焼結法で作製されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導材料のバルク体は、多数の結晶粒からなる多結晶状の超電導バルク体である。RE-Ba-Cu-O系酸化物超電導材料のバルク体が多結晶である場合には、内部に存在する多数の結晶粒界が超電導電流を阻害するため、臨界電流密度Jcは77Kで1.0×103A/cm2以下であり、低い値である。
【0004】
一方、Bi-Sr-Ca-Cu-O系酸化物超電導体の臨界温度Tcは110K程度と高いが、酸化物の一般的な製法である焼結法で作製されるバルク体は、同様に多結晶状の超電導バルク体である。したがって、Bi-Sr-Ca-Cu-O系酸化物超電導材料のバルク体が多結晶である場合、RE-Ba-Cu-O系酸化物超電導材料のバルク体と同様に、結晶粒界が超電導電流を阻害するため、臨界電流密度Jcは77Kで1.0×103A/cm2以下であり、低い値である。
【0005】
また、Mg-B系の金属超電導体は、酸化物超電導体に比べると結晶粒界が超電導電流を阻害する程度は小さいが、臨界温度Tcが40K程度と低い値である。
【0006】
酸化物超電導バルク体の臨界電流密度Jcを改善するために、例えば、以下の特許文献1で開示されているような、溶融結晶成長プロセスが開発されている。特許文献1では、RE(Yを含む希土類元素),Ba,Cu元素を含む溶融体を急冷凝固した厚さ5mm以下の板もしくは線状成形体を一旦1000℃から1350℃の高温に加熱せしめ半溶融状態にした後、200℃/hr以下の速度で徐冷し、高臨界電流密度の超電導体を得ることを特徴する酸化物超電導バルク材料の製造方法が開示されている。このような溶融結晶成長プロセスを適用することにより、結晶方位の揃ったRE1Ba2Cu3Oy(式中のyは、6.8≦y≦7.1を満足する。)相中にRE2BaCuO5相が微細分散した組織を有する酸化物超電導バルク体を得ることができる。RE1Ba2Cu3Oy相に微細分散したRE2BaCuO5相は磁力線をピン止めする機能を有する。かかる酸化物超電導バルク体は、温度が77Kである1Tの磁場中において臨界電流密度Jcが1.0×104A/cm2以上という、磁場中でも高い特性を示す。ここで、「結晶方位の揃った」とは、内部に大傾角粒界を含まない単結晶状であることと同義である。
【0007】
超電導軸受では、超電導バルク体は格納容器(又は冷却容器)に格納される。例えば、特許文献2には、「超電導バルク体を固定・保持する冷却容器は冷却効率を高めるため、銅やアルミ等の熱伝導率の高い部材を用いて製作」と記載されているように、冷却容器は銅や銅合金、アルミやアルミ合金などで製作される。銅や銅合金、アルミやアルミ合金は熱伝導率が高いため、冷凍機や液体窒素等の冷媒によって冷却容器を冷却することによって超電導バルク体を臨界温度以下に冷却する際に、超電導バルク体全体を短時間で均一に冷却することができる。超電導バルク体が均一に冷却されずに、冷却むらが生じると、超電導軸受の浮上力にも弱い部分が生じ、非接触支持ができなくなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-153803号公報
【文献】特開2017-166563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、超電導軸受は非接触タイプの軸受であるため、従来の接触タイプの軸受に比べて、摩擦による軸受損失を大幅に低減できる。しかしながら、非接触タイプであるにもかかわらず超電導軸受にも軸受損失があり、長期間にわたって使用されるフライホイール式電力貯蔵装置用の軸受や、搭載できる重量への制限が厳しい宇宙衛星用の軸受への適用には、更なる軸受損失の低減が必要であるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明では、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、超電導バルク体を利用した超電導軸受において、超電導バルク体が均一に冷却され、超電導バルク体格納容器での軸受損失が小さい超電導軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の酸化物超電導バルク体は、以下のとおりである。
(1) リング形状を有する超電導バルク体と、
リング形状であり、周方向に延びた溝を有し、当該溝に前記超電導バルク体が格納された格納容器と、
前記超電導バルク体の上面側に、前記超電導バルク体と対向して非接触に配置されたリング形状又は円板形状の永久磁石と、を備え、
前記超電導バルク体と、前記格納容器の前記溝の底面とは接触しており、
前記格納容器は、熱伝導率が50W/m・K以上、電気抵抗率が103Ωm以上であり、熱膨張率が前記超電導バルク体よりも小さいセラミックスで構成されており、
前記格納容器が周方向に複数に分割された複数の格納容器部材から構成され、
隣り合う前記格納容器部材の間には隙間を有し、
前記格納容器は、前記格納容器の外周方向に亘って、熱膨張率が前記超電導バルク体よりも大きい外周拘束リングによって拘束されており、
前記格納容器の前記溝の外周壁が、前記超電導バルク体に、接触するように配置されている、
ことを特徴とする超電導軸受。
(2) 前記超電導バルク体は、上面、下面、外周面、及び、内周面を備え、
前記格納容器の溝は、底面、外周壁、及び、内周壁を有し、前記格納容器は、前記溝に、前記超電導バルク体の下面、外周面、及び、内周面を囲むように、前記超電導バルク体を格納しており、
前記超電導バルク体の下面と前記格納容器の溝の底面は接触している、
ことを特徴とする、(1)に記載の超電導軸受。
(3) 前記超電導バルク体の内周面が、前記格納容器の前記溝の内周壁に、接触するように配置されている、
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の超電導軸受。
(4) 前記超電導バルク体が、組成式がRE1Ba2Cu3Oy(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、yは、6.8≦y≦7.2を満足する)で表され、結晶方位の揃ったRE1Ba2Cu3Oy相中に、組成式がRE2BaCuO5で表されるRE2BaCuO5相が分散した組織を有する酸化物超電導バルク体である、
ことを特徴とする(1)~(3)のいずれか1項に記載の超電導軸受。
(5) 前記超電導バルク体が、
組成式がRE1Ba2Cu3Oy(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、yは、6.8≦y≦7.2を満足する)で表され、結晶方位の揃ったRE1Ba2Cu3Oy相中に、組成式がRE2BaCuO5で表されるRE2BaCuO5相が分散した組織を有する酸化物超電導バルク体と、
RE、Ba、Cu、Oからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体、Bi、Sr、Ca、Cu、Oからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体、又はMg及びBからなる多結晶状の金属超電導バルク体のいずれかの多結晶状の超電導バルク体と、を組み合わせたものである、
ことを特徴とする(1)~(3)のいずれか1項に記載の超電導軸受。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超電導バルク体を利用した超電導軸受において、超電導バルク体が均一に冷却され、超電導バルク体格納容器での渦電流損が小さい超電導軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超電導軸受の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す超電導軸受の中心軸に平行であって当該中心軸を含む断面の断面図である。
【
図3】同実施形態に係る超電導軸受の別の例を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す超電導軸受の中心軸に平行であって当該中心軸を含む断面の断面図である。
【
図5】冷却前後の格納容器21を構成する隣り合う格納容器部材210の端部付近の部分拡大図である。
【
図6】同実施形態に係る超電導軸受の格納容器部材の端部の形状の例を示す部分拡大図である。
【
図7】同実施形態に係る超電導軸受の中心軸に平行であって当該中心軸を含む断面の断面図である。
【
図8】同実施形態に係る超電導軸受の別の一例の断面図であって、中心軸に平行であって当該中心軸を含む断面の部分断面図である。
【
図9】本発明の実施例1における超電導軸受の態様を示す概念図である。
【
図10】本発明の実施例2における超電導軸受の態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、図中の各構成要素の比率、寸法は、実際の各構成要素の比率、寸法を表すものではない。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。
【0015】
<超電導バルク体の概要について>
本実施形態に係る超電導軸受に用いる超電導バルク体としては、塊状(バルク状)の超電導体であれば特に限定するものではないが、臨界温度Tcが高く、ピン止め力が強い超電導材料のバルク体、すなわち臨界電流密度Jcが高い超電導バルク体が好ましい。以下に、超電導バルク体の好ましい形態を示す。
【0016】
本実施形態に係る超電導バルク体は、単結晶状の超電導バルク体又は多結晶状の超電導バルク体が用いられる。以下に、単結晶状の超電導バルク体及び多結晶状の超電導バルク体のそれぞれについて説明する。
【0017】
単結晶状の超電導バルク体は、結晶方位の揃った酸化物超電導バルク体(以下、「酸化物超電導バルク体」ともいう。)であり、例えば、RE-Ba-Cu-O系酸化物超電導材料のバルク体である。より詳細には、本実施形態で用いる結晶方位の揃った酸化物超電導バルク体は、単結晶状のRE1Ba2Cu3O7-x相(123相)中に、RE2BaCuO5相(211相)等に代表される非超電導相が分散した組織を有するものである(以下、「QMG材料」ともいう。)。特に、本実施形態に係る酸化物超電導バルク体は、直径20μm以下の非超電導相が微細分散した組織を有するものであることが望ましい。
【0018】
ここで、「結晶方位の揃った」とは、超電導電流が大幅に低下する粒界である大傾角粒界を内部に含まない単結晶状であることを意味する。また、「単結晶状」とは、完全な単結晶のみを指すのではなく、単結晶中に小傾角粒界等のような実用に差し支えない欠陥が存在するものも包含するものとする。大傾角粒界とは、例えば、粒界を挟んで隣り合う領域の結晶方位の角度が15°よりも大きい粒界をいう。また、小傾角粒界とは、例えば、粒界を挟んで隣り合う領域の結晶方位の角度が15°以下である粒界をいう。
【0019】
123相及び211相における構成元素REは、Y及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1種以上から選択される。ただし、希土類元素としてCe、Pr、Pm及びTbを含有する場合には、超電導特性を示さないため、Ce、Pr、Pm及びTbは、上記REからは除外される。すなわち、123相及び211相における構成元素REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる希土類元素、Y及びこれら元素の組み合わせから選択される。ただし、La、Nd、Sm、Eu、又はGdの少なくともいずれかを含む123相は、1:2:3の化学量論組成から外れ、REのサイトにBaが一部置換した状態になることもある。また、非超電導相である211相においても、La、Ndは、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luとは幾分異なり、金属元素の比が非化学量論的組成であったり、結晶構造が異なったりすることが知られている。
【0020】
前述のBa元素の置換は、臨界温度を低下させる傾向がある。また、より酸素分圧の小さい環境においては、Ba元素の置換が抑制される傾向にある。
【0021】
このような単結晶状の酸化物超電導バルク体は、セラミックスの一般的な製法である焼結法ではなく、以下で詳述するような、焼結温度よりも高い溶融温度以上に成形体を昇温して半溶融状態にした後、徐冷中に結晶成長させるという、溶融結晶成長法で製造される。
【0022】
123相は、以下に示すような、211相と、BaとCuとの複合酸化物からなる液相との包晶反応により生成する。
211相+液相(BaとCuの複合酸化物)→123相
【0023】
そして、この包晶反応により123相が生成する際の温度(Tf:123相生成温度)は、ほぼRE元素のイオン半径に関連し、RE元素のイオン半径の減少に伴いTfも低くなる。また、低酸素雰囲気及びAg添加に伴い、Tfは低下する傾向にある。
【0024】
単結晶状の123相中に211相が微細分散した材料は、123相が結晶成長する際、未反応の211相の粒が123相中に取り残されるためにできる。即ち、上記バルク材は、以下に示す反応により生成する。
211相+液相(BaとCuの複合酸化物)→123相+211相
【0025】
QMG材料中の211相の微細分散は、臨界電流密度Jc向上の観点から、極めて重要である。QMG材料中には、上記のような構成元素に加えて、Pt、Rh又はCeの少なくとも一つを微量に含有することも可能である。Pt、Rh又はCeの少なくとも一つを微量に含有することで、半溶融状態(すなわち、211相と液相とからなる状態)での211相の粒成長が抑制され、結果的に、QMG材料中の211相の粒径を約1μm程度に微細化することができる。これらの元素の含有量は、微細化効果が現れる量が含有されることが好ましい。また、材料コストも考慮すると、これらの元素の含有量は、例えば、それぞれ、Pt:0.2~2.0質量%、Rh:0.01~0.5質量%、Ce:0.5~2.0質量%であることが好ましい。より好ましくは、Ptの含有量は、0.4~0.8質量%、Rhの含有量は、0.05~0.4質量%、及びCeの含有量は、0.1~0.3質量%である。また、Pt、Rh又はCeのうちの複数を用いる場合、含有されるPt、Rh又はCeの合計量は、酸化物超電導バルク材料の質量に対して、好ましくは、0.1質量%以上2.0質量%以下であり、更に好ましくは、0.2質量%以上1.5質量%以下である。QMG材料が含有するPt、Rh及びCeは、123相中に一部固溶する。また、QMG材料が含有するPt、Rh及びCeのうち、固溶できなかった残分は、BaやCuとの複合酸化物を形成し、材料中に点在することになる。QMG材料は、バルク体全体として、4回回転対称性の結晶構造を有している。
【0026】
更に、超電導バルク体中に、上記のような元素に加えてAgを更に添加することも可能である。Agを更に添加した場合、超電導バルク体は、Agの添加量に応じて、粒径が1~500μm程度のAg又はAg化合物を0体積%超25体積%以下含むようになる。
【0027】
ここで、123相中の211相の割合は、臨界電流密度Jcの特性及び機械強度の観点から、例えば、QMG材料の体積に対して5~35体積%であることが望ましい。更に好ましくは、15体積%以上30体積%以下である。
【0028】
また、超電導バルク体中には、50~500μm程度のボイド(気泡)が5~20体積%程度存在することが一般的である。
【0029】
また、結晶成長後のバルク体は、酸素欠損量(x)が0.5~0.8程度となることで、半導体的あるいは絶縁材料的な抵抗率の温度変化を示す。このような結晶成長後のバルク体を、各RE系に応じて623K~873Kの温度で100時間程度、酸素雰囲気中においてアニールすることにより、酸素が超電導バルク体中に取り込まれ、酸素欠損量(x)は、0.2以下、すなわち酸素量y(=7-x)は、6.8以上となり、良好な超電導特性を示す。このとき、超電導相中には、双晶構造が生成する。しかしながら、このような双晶構造も含め、本明細書においては、「単結晶状」と称することとする。
【0030】
また、かかる酸化物超電導バルク体を、超電導軸受用の酸化物超電導バルク体として利用するには、結晶成長後の酸化物超電導バルク体を、円盤状、リング状、平面視で扇状又は環状扇状といった所定の形状に加工した上で、上記のような酸化物超電導バルク体の酸素アニールを行うことが求められる。
【0031】
ここまで、単結晶状の超電導バルク体について説明した。続いて、多結晶状の超電導バルク体について説明する。
【0032】
本実施形態に係る超電導軸受に用いられる多結晶状の超電導バルク体は、RE、Ba、及びCuからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体、Bi、Sr、Ca及びCuからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体、又はMg及びBからなる多結晶状の金属超電導バルク体のいずれかである。
【0033】
RE、Ba、及びCuからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体やBi、Sr、Ca、及びCuからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体は、上述した単結晶状の酸化物超電導バルク体と異なり、溶融結晶成長法で製作する必要はなく、焼結法で作製される。詳細には、多結晶状の酸化物超電導バルク体を構成する元素の酸化物又は炭化物などの初期原料の粉末を所定の比率で混合する。例えば、RE、Ba、及びCuからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体を製造する場合には、モル比で、RE:Ba:Cu=1:2:3となるように混合し、Bi、Sr、Ca、及びCuからなる多結晶状の酸化物超電導バルク体を製造する場合には、モル比で、Bi:Sr:Ca:Cu=2:2:2:3となるように混合する。混合した粉末を、仮焼した後に成型体とし、この成形体を850℃~950℃程度の温度で焼結させることで製造される。このように多結晶状の酸化物超電導バルク体は、セラミックスの一般的な製法である焼結法で製造できるので、溶融結晶成長で製造しなければならない単結晶状の酸化物超電導バルク体に比べて簡便に製造できる。
【0034】
また、Mg、及びBからなる多結晶状の金属超電導バルク体は、Mg粉末とB粉末を1:2の比率で混合して成形したものを焼結して製造すればよいが、Mgの融点が650℃であり、Bの融点である2076℃と大きく異なる。このため、焼結過程で焼結する前にMgの一部が気化して散逸することによって、焼結体の組成が超電導特性を示す組成からずれる可能性がある。そのため、Mg粉末とB粉末は、密閉した状態で焼結される。密度の高い焼結体を得るために、焼結過程において、熱間等方圧加圧(HIP;Hot Isostatic Pressing)などの圧力を加える手段を適用してもよい。
【0035】
なお、Mg及びBからなる多結晶状の金属超電導バルク体とは、Mg及びBを主成分とする金属超電導バルク体であって、炭素やSiCなどの炭素化合物、あるいはベンゼンやリンゴ酸などの有機物などのピン止め点となる添加物を含んでいてもよい。また、多結晶状の超電導バルク体として、Mg、及びBからなる多結晶状の金属超電導バルク体を用いた場合、Mg、及びBからなる多結晶状の金属超電導バルク体の比重は酸化物超電導バルク体の比重の3分の1から4分の1程度と軽量なので、大型の軸受でも軽量化が可能となる。
【0036】
これらの多結晶状の超電導バルク体は、臨界温度Tc及び臨界電流密度Jcが低く、単独で用いた場合に従来は超電導軸受に適さないと考えられていた材料である。実際、超電導軸受を工業的に比較的よく使用されている沸点77Kの液体窒素を冷媒として使用した場合、その温度(77K)での浮上力は非常に小さく実用的でない。しかし、超電導特性は低温化するほど向上するので、40K以下の極低温領域で使用する軸受に対しては、ピン止め力の強い単結晶状の超電導バルク体に比べれば低いものの、実用レベルの数kg程度の浮上力は確保できる。よって、40K以下の極低温の温度領域で使用する場合には、超電導バルク体として多結晶状の超電導バルク体が用いられることが好ましい。
【0037】
<本実施形態に係る超電導軸受の詳細な説明>
以下では、本発明の実施形態に係る超電導軸受について、図に沿って説明する。
図1は、本実施形態に係る超電導軸受の一例を示す概念図である。
図2は、
図1に示す超電導軸受の中心軸に平行であって当該中心軸を含む断面の断面図である。
【0038】
本実施形態に係る超電導バルク体10は、リング形状である。例えば、超電導バルク体10は、上面101、下面102、外周面103、及び、内周面104を備えたリング形状であり、格納容器20に格納されている。格納容器20は、周方向に延びた溝200を有している。溝200は、例えば、底面201、外周壁202、及び、内周壁203を有しており、格納容器20は、格納容器20の溝200の底面201、外周壁202、及び、内周壁203が、超電導バルク体10の下面102、外周面103、及び、内周面104を囲むように格納している。そのため、少なくとも超電導バルク体10の下面102と格納容器20の溝200の底面201は接触している。超電導バルク体10を格納する格納容器20は、冷凍機あるいは液体窒素等の冷媒によって冷却される。これにより、格納容器20と接触している超電導バルク体10も冷却される。
図1の例では、冷凍機のコールドヘッド部を格納容器20の底部に接触させることで冷却している。永久磁石30は、超電導バルク体10と対向して非接触に配置される。超電導バルク体10が臨界温度以上の温度で、永久磁石30は、図示していない支持機構(スペーサ)で超電導バルク体10の表面から離れた位置で一旦支持され、その状態で超電導バルク体10を臨界温度以下に冷却した後で、永久磁石30を支持していた支持機構を取り除くことで、ピン止め効果によって、永久磁石30は超電導バルク体10の上に非接触浮上することになる。
【0039】
超電導軸受1に用いられる超電導バルク体は、複数の超電導バルク体が組み合わされて構成された超電導バルク体11であってもよい。超電導バルク体11は、例えば、
図3に示すように、複数の超電導バルク部材110が組み合わされてリング状となった超電導バルク体である。超電導バルク体11を用いた超電導軸受1については、後述する。
【0040】
格納容器20は、熱伝導率が50W/m・K以上、電気抵抗率が103Ωm以上であり、熱膨張率が超電導バルク体10よりも小さいセラミックスで構成されている。従来の超電導軸受においては、非接触タイプにも関わらず軸受損失が生じていた。本発明者が超電導軸受の軸受損失に関して鋭意研究した結果、その軸受損失の大きな原因の1つとして、格納容器が銅や銅合金、アルミやアルミ合金製であることによる渦電流損失があることが明らかになった。超電導軸受における超電導バルク体の格納容器に銅や銅合金、アルミやアルミ合金が用いられるのは、これらが熱伝導率が高い材料であり、超電導バルク体全体を効率よく冷却できるためである。銅や銅合金、アルミやアルミ合金は室温で100W/m・K以上と高い熱伝導率を有する。しかし、銅や銅合金、アルミやアルミ合金は、熱の良導体だけでなく、電気の良導体でもある。すなわち、銅や銅合金、アルミやアルミ合金は、電気抵抗率が非常に小さい。銅や銅合金、アルミやアルミ合金は、室温(25℃)で数十~数百×10-9Ωm程度の非常に小さい電気抵抗率を有する。超電導軸受では、超電導バルク体に対向して永久磁石が非接触に配置され、永久磁石の磁場は回転方向に均一になるように製作される。しかしながら、現実の永久磁石では数%程度の磁場変動が生じることが多い。永久磁石の有する変動磁場は、超電導バルク体の格納容器にも作用することになるが、電気抵抗率が小さい銅や銅合金、アルミやアルミ合金に変動磁場が作用すると渦電流が発生し、この渦電流による損失が軸受損失になる。
【0041】
このような格納容器に起因する渦電流損失を抑制するために、格納容器20は、熱伝導率が高く、電気抵抗率が大きいセラミックスで構成される。超電導バルク体を全体的に均一に冷却するには、格納容器20の熱伝導率は、銅や銅合金、アルミやアルミ合金と同程度の高い熱伝導率であることが好ましく、50W/m・K以上のセラミックスが好ましい。窒化アルミ、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのセラミックスは数十~100W/m・K以上と、銅や銅合金、アルミやアルミ合金と同程度の高い熱伝導率を有しているので、超電導バルク体を全体的に均一に冷却することができる。一方、電気抵抗率に関しては、炭化ケイ素で10
3Ωm程度、窒化アルミや窒化ケイ素では10
10Ωm以上と、これらのセラミックスは電気抵抗率が非常に大きく電気的絶縁性を有する。格納容器20を構成する材料の電気抵抗率が10
3Ωm以上であれば、同じ永久磁石の変動磁場が作用しても、銅や銅合金、アルミやアルミ合金製の格納容器に比べて渦電流は10
12分の1以下、すなわちほぼゼロになる。従って、格納容器での渦電流損に起因する軸受損失もほぼゼロになる。よって、格納容器20を構成する材料としては、窒化アルミ、炭化ケイ素、又は窒化ケイ素であることが好ましい。
図1における格納容器20の熱伝導率は高く、その電気抵抗率は大きい。その結果、本実施形態に係る超電導軸受1を用いれば、超電導バルク体10が均一に冷却され、格納容器20での渦電流損が小さい超電導軸受を提供することができる。
【0042】
さらに、格納容器20での渦電流損を一層小さくするには、永久磁石30と超電導バルク体10とを対向するように配置し、永久磁石30と格納容器20は対向しないように配置することが好ましい。すなわち、中心軸に沿った方向(Z軸方向)から見て、格納容器20の溝200の内周壁203は永久磁石30の内側(永久磁石30の内周面よりも中心軸側)に、格納容器20の溝200の外周壁202は永久磁石30の外側(永久磁石30の外周面よりも外側)に配置することが好ましい。
【0043】
ここで、電気抵抗率と熱伝導率の測定方法について説明する。電気抵抗率は体積抵抗率や比抵抗とも呼ばれる。電気抵抗率の測定には各種方法があるが、本実施形態においては、いわゆる四端子法で電気抵抗率を測定する。四端子法とは、測定試料に2つの電流端子と、2つの電圧端子を設ける。2つの電圧端子は、2つの電流端子間に設けられる。そして、2つの電流端子間に電流を流し、2つの電圧端子によって、この2つの電圧端子間の電圧を測定する方法である。電圧端子間の距離をL、測定試料の断面積をS、通電電流をI、及び測定電圧をVとすると、電気抵抗率ρは、ρ=(V/I)×(S/L)で求めることができる。
【0044】
熱伝導率の測定には定常法及び非定常法に分類される測定方法があるが、本実施形態では定常法で測定する。定常法では、試料に定常的な一方向の熱流を作り、熱伝導率を測定する。試料中の距離L間の温度差をΔT、断面積をS、温度差を与えた熱量をQとすると、熱伝導率αは、α=(Q/S)÷(ΔT/L)で求めることができる。
【0045】
例えば、
図1、2に示す超電導軸受1では、上面101、下面102、外周面103、及び、内周面104を備えたリング形状を有する超電導バルク体10が、底面201、外周壁202、及び、内周壁203で構成される溝200を有する格納容器20に、超電導バルク体10の下面102、外周面103、及び、内周面104が囲まれるように格納される。超電導バルク体10を全体的に均一に冷却するには、超電導バルク体10の下面102、外周面103、及び、内周面104がそれぞれ格納容器20の底面201、外周壁202、及び、内周壁203に接触していた方が好ましいため、超電導バルク体10を格納容器20に格納する際にはそれぞれ接触するように格納される。本実施形態に係る超電導軸受1は、格納容器20はその熱膨張率が超電導バルク体10よりも小さいセラミックスで構成される。例えば、窒化アルミ、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのセラミックスの室温での熱膨張係数は1~3×10
-6/℃程度であり、超電導バルク体10の好ましい形態である酸化物超電導バルク体のab軸方向の熱膨張係数13×10
-6/℃よりも小さい。そのため、超電導軸受1を冷却した際には、超電導バルク体10の方が格納容器20よりも大きく収縮することになる。この場合、超電導バルク体10の下面102と格納容器20の溝200の底面201は接触したままであるが、超電導バルク体10の外周面103と格納容器20の溝200の外周壁202の接触状況や、超電導バルク体10の内周面104と格納容器20の溝200の内周壁203の接触状況は超電導バルク体10の形態によって挙動が異なる。超電導バルク体10が一体ものであれば、冷却時に超電導バルク体10の内周面104が、格納容器20の溝200の内周壁203に周方向に亘って接触するように圧縮応力が作用するように縮むので、冷却時に超電導バルク体10は強固に固定されることになる。一方、複数の超電導バルク部材110が組み合わされて超電導バルク体11を構成し、この超電導バルク体11を用いて超電導軸受1を構成する場合には、超電導バルク体11の熱膨張係数よりも小さい材料で格納容器20を製作すると、超電導バルク体11の外周面103と格納容器20の溝200の外周壁202の間、超電導バルク体11の内周面104と格納容器20の溝200の内周壁203の間の両方に熱膨張係数差に起因する小さな隙間が生じ、冷却時に超電導バルク体11が強固に固定されないおそれがある。従って、
図1のような格納容器20がセラミックス製である超電導軸受1では、超電導バルク体は一体ものであることが好ましい。
【0046】
続いて、超電導バルク体11を用いた超電導軸受1について説明する。
図3は、本実施形態に係る超電導軸受の別の例を示す斜視図である。
図4は、
図3に示す超電導軸受の中心軸に平行であって当該中心軸を含む断面の断面図である。
図5は、冷却前後の格納容器21を構成する隣り合う格納容器部材210の端部付近の部分拡大図である。
【0047】
図3、4では、超電導バルク部材110を複数個組み合わせて超電導バルク体11を構成し、この超電導バルク体11を用いて1つの超電導軸受1Aを構成している。一方、セラミックス製の格納容器21は、周方向に複数に分割された格納容器部材210から構成され、隣り合う格納容器部材210同士の間には隙間を有している。さらに、格納容器21の外周方向に亘って、熱膨張率が超電導バルク体11よりも大きい、外周拘束リング40が配置されている。格納容器21の外周方向に亘って配置された外周拘束リング40の熱膨張係数が大きいので、冷却時には外周拘束リング40の方が格納容器21よりも大きく収縮し、その結果、外周拘束リング40が格納容器21を、さらに格納容器21内の超電導バルク体11を強固に拘束することになる。外周拘束リング40の材料としては、繊維強化プラスチック(FRP)製が好ましい。FRPは、繊維(ガラス、カーボン等)や樹脂(エポキシ等)の種類や配合比によって熱膨張係数は大きく変化するので、酸化物超電導バルク体の熱膨張係数13×10
-6/℃よりも容易に大きくすることができる。
【0048】
永久磁石30は、超電導バルク体11と対向して非接触に配置される。また、冷却前(室温時)には、
図5の左図のように、隣り合う格納容器部材210の間には隙間が生じているが、冷却後には、
図5の右図のように、格納容器21の外周方向に亘って配置された外周拘束リング40の熱膨張係数が大きいので、冷却による外周拘束リング40の収縮に伴い、格納容器21の隣り合う格納容器部材210間の隙間も小さくなる。すなわち、このような外周拘束リング40の収縮効果によって、格納容器21の溝200の外周壁202が、超電導バルク体11の外周面103に、周方向に亘って接触するように圧縮応力を作用するように縮むので、冷却された超電導バルク体21は強固に固定されることになる。なお、冷却後に格納容器21の隣り合う格納容器部材210同士は、それらの間に隙間が残っても、お互いに接触していてもよい。
図3、4のような構成の超電導軸受1Aにすることによって、超電導バルク部材100を複数個組み合わせて1つの超電導バルク体11とし、この超電導バルク体11を用いた超電導軸受1Aを構成する場合において、超電導バルク体11の熱膨張係数よりも小さい材料で格納容器21を製作しても、冷却時に超電導バルク体11を強固に固定できる。
【0049】
ここで、熱膨張係数の測定方法について簡単に説明する。熱膨張係数は線膨張係数とも呼ばれ、温度の上昇や降下に対応して長さが変化する割合のことである。試料の長さをL、温度変化ΔTによる試料長さの変化をΔLとすると、熱膨張係数βは、β=ΔL/L/ΔTで求めることができる。
【0050】
図3、4は、超電導バルク体11が格納された格納容器21は4分割されている例(すなわち、4つの格納容器部材210により格納容器21が形成された例)であるが、格納容器21の分割数は特段制限されない。しかし、分割数が小さいと軸受全体の対称性が低くなることがあり、逆に分割数が多いと格納容器の組立が煩雑になることがあるので、分割数が4分割から8分割程度が好ましい。
【0051】
また、
図3、4は、8個の超電導バルク部材110が組み合わされて1つの超電導バルク体11が構成され、超電導軸受1Aを構成している例であるが、1つの超電導バルク体11を構成する超電導バルク部材110は特段制限されない。超電導バルク体の好ましい形態の一つである高性能な酸化物超電導バルク体は、単結晶状の材料であるが、大型の単結晶状の酸化物超電導バルク体を製造しようとすると、結晶成長が難しくなる。数cmから10cm程度であれば、製造が容易である。数cmから10cm程度の酸化物超電導バルク体を複数製造し、これらを組み合わせて超電導バルク体11を構成すれば、より大きな超電導軸受を製造することが可能となる。
【0052】
さらに、超電導バルク体11が格納された格納容器21の連結箇所と、個々の超電導バルク部材110の配置の継ぎ目とは、重ならないようにすることが好ましい。また、
図3、4では、格納容器部材210で構成された格納容器21と、超電導バルク部材110を複数個組み合わせた超電導バルク体11とを用いて超電導軸受1Aを構成しているが、超電導軸受1Aは、格納容器21と、超電導バルク体が一体ものである超電導バルク体10とが用いられてもよい。
【0053】
また、
図3、4では、図示していないが、超電導バルク体11が格納された格納容器21は、冷凍機あるいは液体窒素等の冷媒によって冷却され、格納容器21内の超電導バルク体11も冷却される。
図1の例では、冷凍機のコールドヘッド部を格納容器21の底部に接触させることで冷却しているが、
図3、4のように複数の格納容器部材210で構成された格納容器21の場合には、格納容器部材210それぞれを個別に冷却する方が好ましい。
【0054】
続いて、
図6を参照して、格納容器部材210の端部の形状について説明する。
図6は、本実施形態に係る超電導軸受格納容器部材210端部の形状の例を示す部分拡大図である。
【0055】
図3、4では、超電導バルク体が格納された格納容器21と超電導バルク体11を示したが、
図6では、格納容器21のみを示している。
図6(a)は、
図3、4と同じ例で、格納容器21を構成する隣り合う格納容器部材210の端部の形状が垂直になっている。
図6(b)は、格納容器21を構成する隣り合う格納容器部材210の端部の形状が中心軸方向に対し斜めになっている。
図6(c)は、格納容器21を構成する隣り合う格納容器部材210の端部の形状が段差を有する構造になっている。詳細には、一方の格納容器部材210の端部における凹部と他方の格納容器部材210の端部における凸部が対向し、一方の格納容器部材210の端部における凸部と他方の格納容器部材210の端部における凹部が対向するように、隣り合う格納容器部材210が配置されている。本発明の実施形態に係る超電導軸受1の格納容器21の隣り合う格納容器部材210の端部の形状として、
図4に一例を示したが、格納容器部材210の端部の形状は、
図4の例に限定されるものではない。どのような形状の格納容器部材210であっても、冷却後には外周拘束リング40の収縮により、格納容器部材210間の隙間は小さくなる。
【0056】
続いて、
図7を参照して、外周拘束リングの態様を説明する。
図7は、本実施形態に係る超電導軸受の中心軸に平行であって当該中心軸を含む断面の断面図である。
【0057】
図7(a)は、
図3、4と同じように、外周拘束リング40が格納容器21の外周面のみに設置されている例である。例えば、
図6(a)や
図6(c)に示したような格納容器21の隣り合う格納容器部材210の端部の形状の格納容器21であれば、仮に冷却後に格納容器21の隣り合う格納容器部材210がお互いに接触しても、一方の格納容器部材210が他方の格納容器部材210に対して上にずれるおそれは小さい。しかし、例えば、
図6(b)に示したように格納容器21の隣り合う格納容器部材210の端部の形状が斜め構造である場合、冷却後に格納容器21の隣り合う格納容器部材210がお互いに接触すると、一方の格納容器部材210が他方の格納容器部材210に対して、格納容器部材210の端部に沿って上にずれるおそれがある。その場合、例えば、
図7(b)のように、格納容器21の外周壁の外周面だけでなく、格納容器21の上面にも延長された外周拘束リング41を設置することによって、格納容器部材210が上にずれることを防止することができる。また、外周拘束リング41における格納容器の上面まで延びた部分は、
図7(c)のように、超電導バルク体11に接するように設置してもよい。
【0058】
次に、
図8を参照して、本実施形態に係る超電導軸受の更に別の一例を説明する。
図8は、本実施形態に係る超電導軸受の別の一例の断面図であって、中心軸に平行であって当該中心軸を含む断面の部分断面図である。本実施形態に係る超電導軸受に用いられる超電導バルク体は、
図1~
図5に示したように、1種類であってもよいし、
図8に示すように、2つの超電導バルク体12、13が用いられてもよい。
図8は、特性の異なる第1の超電導バルク体12と第2の超電導バルク体13を組み合わせた例である。例えば、第1の超電導バルク体12に、RE-Ba-Cu-Oの組成からなる単結晶状の希土類系酸化物超電導バルク材料を用い、第2の超電導バルク体13に、RE-Ba-Cu-Oの組成からなる多結晶状の希土類系酸化物超電導バルク体、Bi-Sr-Ca-Cu-O系の多結晶状の酸化物超電導バルク体、又はMg-B系の金属超電導バルク体を用いてもよい。第1の超電導バルク体12及び第2の超電導バルク体13は、互いに内径及び外径が異なるリング状であり、例えば、第1の超電導バルク体12の内径と、第2の超電導バルク体13の外径がほぼ等しい。例えば、
図8に示すように、第1の超電導バルク体12の内周面と第2の超電導バルク体13の外周面とが対向するように配置されてもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態に係る超電導軸受の種々の例について説明した。
【0060】
なお、本実施形態に係る超電導軸受は、
図1~
図8に示した例に限定されない。すなわち、超電導バルク体と、セラミックスからなる格納容器と、超電導バルク体と対向して非接触に配置される永久磁石とを備えた超電導軸受であれば、超電導軸受の態様は特に限定されない。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を示しながら、本発明の実施形態について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一例であって、本発明が、下記の例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
本実施例では、
図9を用いて、本実施形態に係る超電導軸受の有効性について説明する。
図9は、一体もののリング形状の酸化物超電導バルク体が、窒化アルミ(AlN)製の格納容器に格納されており、永久磁石が酸化物超電導バルク体と対向して非接触に配置されている超電導軸受である。
【0063】
まず、リング形状の酸化物超電導バルク体を切り出す母材である酸化物超電導バルク材料の製造方法について述べる。純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)酸化物の粉末、純度99.9質量%のバリウム(Ba)酸化物の粉末、純度99.9質量%の銅(Cu)酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、秤量した混合粉末の質量に対し、酸化セリウムを1質量%及び酸化銀を銀換算で10質量%加えた。この秤量粉を(乳棒と乳鉢)を用いて2時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1278K~1252Kの温度領域を200時間かけて徐冷して結晶成長させ、直径100mm、高さ20mmの単結晶状の酸化物超電導バルク材料を得た。そして、この直径100mmの単結晶状の酸化物超電導バルク材料から、外径93mm、内径69mm、厚さ10mmのリング形状試料を、結晶のc軸が10mm長の辺と平行になるように切り出した。リング形状試料は、酸素気流中において673Kで100時間熱処理した。
【0064】
次に、冷却及び浮上試験について述べる。上記のリング形状の酸化物超電導バルク体を、酸化物超電導バルク体と同じサイズの溝を有する外径102mm、内径60mm、厚さ15mmの窒化アルミ(AlN)製の格納容器に格納した。リング形状の酸化物超電導バルク体を格納する際に、当該酸化物超電導バルク体と格納容器の密着性を上げるために、シリコン樹脂製グリースを酸化物超電導バルク体の表面に薄く塗布した状態で格納した。酸化物超電導バルク体を格納した状態で、酸化物超電導バルク体と同サイズのネオジム磁石を10mm厚のスペーサを介して酸化物超電導バルク体の上に配置してから、格納容器の底部を液体窒素に浸漬させることで、格納容器及び酸化物超電導バルク体を冷却した。冷却後にスペーサを取り除くと、永久磁石は酸化物超電導バルク体の9~10mm程度上に安定的に浮上した。浮上した永久磁石に傾きはなく、水平に浮上していることから、酸化物超電導バルク体が均一に冷却されていることが確認できた。
【0065】
最後に、格納容器に用いた窒化アルミ(AlN)から、15mm×3mm×3mmの試験片を切り出し、熱伝導率と電気抵抗率の測定を行った。熱伝導率の測定は、定常法で行った。また、電気抵抗率は、四端子法で測定した。格納容器に用いた窒化アルミ(AlN)の熱伝導率は230W/m・Kで、銅や銅合金、アルミやアルミ合金と同程度の高い熱伝導率であった。一方、格納容器に用いた窒化アルミ(AlN)の電気抵抗率は1013Ωm以上であり、電気絶縁性が高いことが確認できた。すなわち、格納容器での渦電流損がほぼゼロであることが確認できた。
【0066】
従って、本結果から、超電導バルク体と、セラミックスからなる格納容器と、超電導バルク体と対向して非接触に配置される永久磁石という構成にすることにより、超電導バルク体を利用した超電導軸受において、超電導バルク体が均一に冷却され、超電導バルク体格納容器での渦電流損が小さい超電導軸受を提供することができることがわかった。
【0067】
(実施例2)
本実施例では、
図10を用いて、複数の超電導バルク部材によって構成された超電導バルク体と、複数の格納容器部材によって構成された格納容器とを有する超電導軸受の有効性について説明する。
図10は、酸化物超電導バルク体が、炭化ケイ素(SiC)製の格納容器に格納されており、永久磁石が酸化物超電導バルク体と対向して非接触に配置されている超電導軸受である。
図10では、8個の平面視で環状の扇形(環状扇形)状の酸化物超電導バルク体が組み合わされ1つのリング形状の超電導バルク体を構成している。また、セラミックス製格納容器は、溝を有する4つの環状扇形状の格納容器部材が組み合わされてリング状に構成されている。格納容器の外周部には、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)製の外周拘束リングが配置されている。格納容器の隣り合う格納容器部材の端部の形状については、
図6(a)のように、周方向に垂直な構造となっている。
【0068】
まず、リング形状の酸化物超電導バルク体を切り出す母材である酸化物超電導バルク材料の製造方法について述べる。純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)酸化物の粉末、純度99.9質量%のバリウム(Ba)酸化物の粉末、純度99.9質量%の銅(Cu)酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、秤量した混合粉末の質量に対し、酸化セリウムを1質量%及び酸化銀を銀換算で10質量%加えた。この秤量粉を2時間かけて乳棒と乳鉢を用いて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1278K~1252Kの温度領域を200時間かけて徐冷して結晶成長させ、直径100mm、高さ20mmの単結晶状の酸化物超電導バルク材料を得た。そして、この直径100mmの単結晶状の酸化物超電導バルク材料から、外径192mm、内径160mm、厚さ10mmのリング形状を8分割した環状扇形状の試料を8個、結晶のc軸が10mm長の辺と平行になるように切り出した。環状扇形状試料は、酸素気流中において673Kで100時間熱処理した。
【0069】
次に、冷却及び浮上試験について述べる。上記の環状扇形状の酸化物超電導バルク部材8個を、外径192mm、内径160mm、深さ10mmのサイズの溝を有する外径200mm、内径152mm、厚さ15mmの炭化ケイ素(SiC)製の4つの格納容器部材で構成された格納容器に格納した。格納する際に、酸化物超電導バルク部材と格納容器の密着性を上げるために、シリコン樹脂製グリースを酸化物超電導バルク部材の表面に薄く塗布した状態で格納した。格納容器の外周には、外径212mm、内径200mm、高さ8mmのGFRP製外周拘束リングを配置した。格納容器部材間の隙間は冷却前で約1mmであった。酸化物超電導バルク部材を格納した状態で、8つの酸化物超電導バルク部材で構成された酸化物超電導バルク体と同サイズのネオジム磁石を10mm厚のスペーサを介して酸化物超電導バルク体の上に配置してから、格納容器の底部を液体窒素に浸漬させることで、格納容器及び酸化物超電導バルク体を冷却した。冷却後にスペーサを取り除くと、永久磁石は酸化物超電導バルク体の9~10mm程度上に安定的に浮上した。浮上した永久磁石に傾きはなく、水平に浮上していることから、酸化物超電導バルク体が均一に冷却されていることが確認できた。
【0070】
最後に、格納容器に用いた炭化ケイ素(SiC)から、15mm×3mm×3mmの試験片を切り出し、熱伝導率と電気抵抗率の測定を行った。熱伝導率の測定は、定常法で行った。また、電気抵抗率は、四端子法で測定した。格納容器に用いた窒化アルミ(AlN)の熱伝導率は150W/m・Kで、銅や銅合金、アルミやアルミ合金と同程度の高い熱伝導率であった。一方、電気抵抗率は104Ωm以上であり、10-8Ωm程度の銅と比べると1012倍程度大きく、ほぼ電気絶縁性であることが確認できた。すなわち、格納容器での渦電流損がほぼゼロであることが確認できた。
【0071】
従って、本結果から、超電導バルク体と、セラミックスからなる格納容器と、超電導バルク体と対向して非接触に配置される永久磁石という構成にすることにより、超電導バルク体を利用した超電導軸受において、超電導バルク体が均一に冷却され、格納容器での渦電流損が小さい超電導軸受を提供することができる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0073】
1、1A、1B 超電導軸受
10、11 超電導バルク体
12 第1の超電導バルク体
13 第2の超電導バルク体
20、21 格納容器
30 永久磁石
40、41、41A 外周拘束リング
110 超電導バルク部材
210 格納容器部材