(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】コークス炉の炉体締付け方法、及び炉締力伝達装置
(51)【国際特許分類】
C10B 29/08 20060101AFI20231025BHJP
【FI】
C10B29/08
(21)【出願番号】P 2020066931
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 和人
(72)【発明者】
【氏名】本山 太一
(72)【発明者】
【氏名】増井 政樹
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-137336(JP,A)
【文献】特開2018-70748(JP,A)
【文献】特開2016-113476(JP,A)
【文献】特開2017-14348(JP,A)
【文献】特開2019-77812(JP,A)
【文献】実公昭30-16446(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B29/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の少なくとも一つの燃焼室の炉長方向両端の炉外側に配置され、かつ前記コークス炉の高さ方向の上下端部に設置したクロスタイロッドで連結されたバックステーと、前記燃焼室の炉長方向両端部に配置されたドアフレーム又は保護板との間に、前記高さ方向に沿って炉締力伝達装置を設置すること、及び、
前記クロスタイロッドの両端に設けた炉締スプリングによって得た炉締力を、前記炉締力伝達装置を介して、前記ドアフレーム又は前記保護板へ伝達すること、
を含む前記コークス炉の炉体締付け方法において、
前記炉締力伝達装置は、ディスタンスピースと皿ばねを含んで構成さ
れ、
前記ディスタンスピースの板厚は、前記燃焼室へ伝達される炉締力が前記燃焼室の高さ方向に均等に分布するとした梁モデルを用いて算出した前記バックステーの撓みの分布量に基づいて求められる、コークス炉の炉体締付け方法。
【請求項2】
前記皿ばねのばね定数は、前記炉締力伝達装置の設けられる前記高さ方向の位置に応じて設定される、請求項
1に記載のコークス炉の炉体締付け方法。
【請求項3】
前記皿ばねのばね定数は、前記炉締力伝達装置の設けられる前記高さ方向の位置に対して、正規分布を有するように設定される、請求項
2に記載のコークス炉の炉体締付け方法。
【請求項4】
コークス炉の少なくとも一つの燃焼室の炉長方向両端の炉外側に配置され、かつ前記コークス炉の高さ方向の上下端部に設置したクロスタイロッドで連結されたバックステーと、前記燃焼室の炉長方向両端部に配置されたドアフレーム又は保護板との間に、前記高さ方向に沿って設けられる炉締力伝達装置であって、
前記炉締力伝達装置は、ディスタンスピースと皿ばねとを含み、前記ディスタンスピースと前記皿ばねを介して、前記クロスタイロッドの両端に設けた炉締スプリングによって得た炉締力を、前記ドアフレーム又は前記保護板へ伝達
し、
前記ディスタンスピースの板厚は、前記燃焼室へ伝達される炉締力が前記燃焼室の高さ方向に均等に分布するとした梁モデルを用いて算出した前記バックステーの撓みの分布量に基づいて求められる、炉締力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の炉体締付け方法、及び炉締力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉において用いられるコークスを生産するためのコークス炉において、コークス炉を安定して長期間使用するために、炉体締め付けが行われる。この炉体締付けは、煉瓦積み構造である炉体を維持し、経年的な炉体膨張に対しても安定した効果を発揮する必要があり、炉締め力の分布は高さ方向で均一であることが求められる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、バックステーの変形に関わらず燃焼室に一定の炉締力を加圧する技術が記載されている。しかしながら、炉締金物と比較した場合、設備コストが高くなる。コークス炉1基当りの炭化室、燃焼室の数は通常40~50であり、燃焼室の両端のバックステーに各6個の炉締装置を配置するとしても、480~600もの数となり、多額の設備投資が必要となる。
【0004】
また、操業時に高温のコークスを排出したり、高温の炭化室を開放したりする環境下で使用されるので、加圧媒体として使用されることが多い油圧流体が漏洩する可能性もある。
【0005】
また、下記特許文献2には、炉締金物を使用せずにコークス炉からの伝熱を利用して、炉体締め付けを行う技術が開示されている。すなわち、バックステーのプロテクションプレートに接触する部分を断熱材で被覆することで、断熱材を被覆した部分とその反対側部分との温度差によって熱歪みを発生させ、コークス炉の燃焼室と相対する部分の高さ方向中間部を燃焼室から離反するように湾曲することを防ぐものである。
【0006】
しかしながら、特許文献2で開示された方法は、熱歪みを利用することから、コークス炉の稼働率の変化による乾留温度の変動、夏季冬季の季節変動、又は雨天時の冷却等によってバックステーの表裏部の温度差が変動するとバックステーの変形量も変化することになり、コークス炉の燃焼室への炉締力を常時一定に維持することが難しい。
【0007】
また、一般的な断熱材は、その内部に気孔を多く保持して断熱機能を確保している。この気孔中にコークス製造時の粉塵やコークス炉ガス中のタール分等が侵入すると、断熱性能が徐々に低下し、次第に熱伝導性が助長されてバックステーが燃焼室から離反するよう
に変形して湾曲し、炉締力が燃焼室の高さ方向中間部に過大にかかる事態となる。このような事態になれば、燃焼室煉瓦の損傷につながる可能性もある。
【0008】
さらに、特許文献3で開示された方法は、コークス炉の炭化室の底部付近に燃焼室壁固定端専用の補助炉締装置を設けるもので、バックステーのみによる炉体締め付けに比べて、締め付け効果は期待できるものの、油圧を用いた場合は特許文献2と同様に流体漏出の問題を抱えることになる。
【0009】
また、特許文献4で開示された方法は、バックステーの燃焼室と相対する部分の高さ方向に複数段、炉団方向に各2個ずつ、炉締金物とドアフレーム間に、スプリングと金具からなる炉締力伝達装置を設けるものである。特許文献4で開示された方法は、炉締伝達装置の構造が複雑であるため、メンテンナンス性が低下すること、及び製造コストの上昇といった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実開昭55-116051号公報
【文献】特開平3-287692号公報
【文献】特開2004-137336号公報
【文献】特許第6421572号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上説明したように、特許文献1で開示された方法は、多額の設備投資が必要となるほか、油圧流体が漏洩する可能性が生じ、管理上のコストが発生する。また、特許文献2,3で開示された方法は、熱歪みを利用することから、燃焼室への炉締力を常に一定に維持することが困難である。また、特許文献4で開示された方法は構造が複雑であり、コスト、又はメンテンナンスの負担が生じ得る。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、比較的簡便な構成によってコークス炉の炉体を安定して締め付けることが可能な新規かつ優れた炉体締付け方法、及び炉締力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、コークス炉の少なくとも一つの燃焼室の炉長方向両端の炉外側に配置され、かつ上記コークス炉の高さ方向の上下端部に設置したクロスタイロッドで連結されたバックステーと、上記燃焼室の炉長方向両端部に配置されたドアフレーム又は保護板との間に、上記高さ方向に沿って炉締力伝達装置を設置すること、及び、上記クロスタイロッドの両端に設けた炉締スプリングによって得た炉締力を、上記炉締力伝達機構を介して、上記ドアフレーム又は上記保護板へ伝達すること、を含む上記コークス炉の炉体締付け方法において、上記炉締力伝達装置は、ディスタンスピースと皿ばねを含んで構成されることを特徴とするコークス炉の炉体締付け方法が提供される。
【0014】
上記ディスタンスピースの板厚は、上記燃焼室へ伝達される炉締力が上記燃焼室の高さ方向に均等に分布するとした梁モデルを用いて算出した上記バックステーの撓みの分布量に基づいて求められてもよい。
【0015】
上記皿ばねのばね定数は、上記炉締力伝達装置の設けられる上記高さ方向の位置に応じて設定されてもよい。
【0016】
上記皿ばねのばね定数は、上記炉締力伝達装置の設けられる上記高さ方向の位置に対して、正規分布を有するように設定されてもよい。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、コークス炉の少なくとも一つの燃焼室の炉長方向両端の炉外側に配置され、かつ上記コークス炉の高さ方向の上下端部に設置したクロスタイロッドで連結されたバックステーと、上記燃焼室の炉長方向両端部に配置されたドアフレーム又は保護板との間に、上記高さ方向に沿って設けられる炉締力伝達装置であって、上記炉締力伝達装置は、ディスタンスピースと皿ばねとを含み、上記ディスタンスピースと上記皿ばねを介して、上記クロスタイロッドの両端に設けた炉締スプリングによって得た炉締力を、上記ドアフレーム又は上記保護板へ伝達することを特徴とする炉締力伝達装置が提供される。
【発明の効果】
【0018】
以上、説明したように本発明によれば、比較的簡便な構成によってコークス炉の炉体を安定して締め付けることが可能な新規かつ優れた炉体締付け方法、及び炉締力伝達装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る炉締力伝達装置の概略構成の一例を示す断面図である。
【
図2】同実施形態に係る炉締力伝達装置の概略構成の一例を示す断面拡大図である。
【
図3】コークス炉の炉体形状の変化を検証するためのモデルを示す図である。
【
図4】ディスタンスピース方式のモデルを用いて、経年変化に伴う炉体線荷重の分布の変化、炉体に取り付けられた保護板の変位比、及びバックステーの変位比を算出した結果を示すグラフである。
【
図5】設定された初期隙間の分布、かかる初期隙間に設定されたディスタンスピース及びバックステー間の隙間の経年変化、ディスタンスピースに生じる反力比の経年変化を示すグラフである。
【
図6】ディスタンスピースの板厚の設定についての説明の用に供される図である。
【
図7】ディスタンスピースの板厚の設定についての説明の用に供される図である。
【
図8】炉締力伝達装置のディスタンスピースの板厚及び皿ばねのばね高さの設定についての説明の用に供される図である。
【
図9】本実施形態に係るコークス炉の炉体締付け方法を示すフロチャートである。
【
図10】本発明の第1の実施形態の一の変形例に係る炉締力伝達装置の概略構成の一例を示す断面図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態の他の変形例に係る炉締力伝達装置の概略構成の一例を示す断面図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態に係る炉締力伝達装置の断面図である。
【
図13】比較例として、炉締力伝達装置の概略構成の一例を示す断面図である。
【
図14】実施例として、各段における炉締力伝達装置において設定された初期隙間を示す図である。
【
図15】実施例として、本発明に係る炉締力伝達装置において設定された皿ばねのばね定数を示す図である。
【
図16】実施例として、シミュレーション解析によって得られた、炉高さ方向の炉内圧力比分布である。
【
図17】比較例として、炉締力伝達装置の概略構成の一例を示す断面図である。
【
図18】実施例として、炉体圧力比分布の標準偏差比を示すグラフである。
【
図19】コークス炉の構造を示す外観斜視図である。
【
図21】コークス炉の炉体に炉締力の伝達される様子を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
(コークス炉の構成)
まず、
図13、
図19~
図21を参照しながら、コークス炉1の炉体締付け構造の概略構成について説明する。
図19は、コークス炉1の外観の一部を示す斜視図であり、
図20は、コークス炉1の炉長方向の断面図である。
【0022】
図19に示すように、コークス炉1は、煉瓦で構築された構造物であり、炉体の下部に燃焼排ガスの顕熱を利用して燃料ガス及び燃焼用空気を予熱する蓄熱室2が設けられ、この蓄熱室2の上部に、燃料ガスを燃焼させる燃焼室4と、石炭を乾留する炭化室3が交互に配列されている。
【0023】
燃焼室4と炭化室3が重層する
図20の紙面に垂直な前後方向を炉団方向と、
図20の紙面左右方向を炉長方向という。
【0024】
燃焼室4は、炉長方向において25~30余りのフリューに分割されており、これらフリューも煉瓦構造物で構築されている。
図20では、説明のために燃焼室4の一部(5フリュー分)を、炭化室3と同一の断面に示している。燃焼室4で燃料ガスを燃焼させた際の燃焼熱は、燃焼室4の炉壁を介して炭化室3に伝達され、炭化室3の内部に装入された石炭を乾留する。
【0025】
このように煉瓦を構築した煉瓦構造物であるコークス炉1は、当該煉瓦構造物を保持するために、外部から炉体を締付ける構造を有している。コークス炉1における炉体の締付け力について、以下単に「炉体締付け力」又は「炉締力」と称する場合がある。
【0026】
燃焼室4や炭化室3を構築した煉瓦構造物の、各燃焼室4の炉長方向両端部には、
図19に示すように、炉締力を付与するためのバックステー5が一対配置されている。バックステー5は、長尺の柱状部材であり、長手方向が炉高方向に沿うように配置されている。これらバックステー5と燃焼室4の間には、炉蓋(図示せず)を保持するドアフレーム6とドアフレーム6を取付ける保護板7が設けられ、バックステー5からの炉締力は、ドアフレーム6又は保護板7を介して煉瓦構造物である燃焼室4や炭化室3に伝達される。
【0027】
ここで、炉締力の伝達手段には、種々の方法があるが、一例として炉締金物を利用して、炉締力を炉体に伝達する方法が挙げられる。
図21は、炉体に炉締力の伝達される様子を模式的に示した図である。各燃焼室4の炉長方向両端部に配置されたバックステー5は、コークス炉1の高さ方向の上下端部の2か所でクロスタイロッド10によって連結され、クロスタイロッド10の両端部に取付けられた炉締スプリング11によって炉締力が加えられている。そして、この炉締力は、バックステー5の燃焼室4と相対する部分における高さ方向に複数段設置した炉締金物12によって、ドアフレーム6、保護板7を介して煉瓦構造物である燃焼室4や炭化室3に伝達される。
【0028】
複数段設置した炉締金物12は、例えば
図13に示すように、最も単純にはディスタンスピース(後述するディスタンスピース110に相当)と呼ばれる、バックステー5とドアフレーム6あるいは保護板7との距離を調整する鋼片であり、この鋼片を介して炉締力が伝達される。
【0029】
また、炉締金物12の別形態例として
図17に示すように、内蔵したコイルスプリングにより、各々決められた荷重で取り付けられている場合がある。この場合、一般的に、炉締金物12は、一つのバックステー5について、燃焼室4の高さ方向に複数段設置され、炉団方向左右側に各2個の複数個設置されている。
【0030】
ところで、クロスタイロッド10の炉締力を伝達するバックステー5は、燃焼室4と相対する部分の高さに比べて長く、高さ方向中間部が燃焼室4から離反するように湾曲することを避けることができない。特に、コークス炉1は操業を開始すると30年~50年の長期間運転し、その間、石炭を高温で乾留してコークスを生産し続けることになり、上記湾曲状態が続くことになる。
【0031】
このような状況になると、バックステー5とドアフレーム6との間の距離が広がる形になり、炉締金物12のディスタンスピース部分にギャップが発生し、個々の炉締金物12の炉締力が低下する。
【0032】
燃焼室4と相対する部分の高さ方向中間部に位置する炉締金物12の個々の炉締力が低下すると、バックステー5の燃焼室4と相対する部分において高さ方向に設けられた炉締金物12の炉締力分布が不均一となる。この炉締力の不均一化は、煉瓦で構築された燃焼室4の堅牢性を損ない、コークス炉1の寿命短縮につながる事態となる。
【0033】
また、上記理由などによって燃焼室4の炉団方向左右側に配置された炉締金物12の一方の炉締力が低下した場合、もう片方の炉締金物12でしか炉締力を与えることができなくなって燃焼室4の煉瓦構造体に不均一な炉締力が作用することになる。この不均一な炉締力により、煉瓦構造物に変形等が発生する可能性がある。
【0034】
また、上記したようにドアフレーム6は炭化室3に設置される炉蓋を保持する部材であり、その端部が燃焼室4側に張り出しており、また、炉締金物12はバックステー5から直接ドアフレーム6を押し付ける構造である。従って、炉締金物12が、炉団方向において、炭化室3に近い位置で配置されることになってしまい、炭化室3から高温となったコークスを排出する際には炉締金物12の温度が高温となって、内蔵されたコイルスプリングが熱劣化する可能性がある。
【0035】
<第1の実施形態>
また、本発明者らがさらに鋭意検討したところ、次の知見を得た。すなわち、第1に、バックステー5とドアフレーム6あるいは保護板間7との間の距離の高さ方向の分布は、コークス炉1の煉瓦の経年的膨張の高さ方向の分布が一定であれば経年的にも変化しないとの知見である。更に、第2に、その経年的膨張の前提となる必要炉締力によるバックステーの変形量を求め、バックステー5とドアフレーム6あるいは保護板間7との間の初期隙間に一致させた場合、最も安定した炉締力伝達を得られるとの知見である。しかしながら、ディスタンスピースは単純な接触構造のため僅かな操業変動や保護板7の熱変形等の炉締力伝達機構への外乱があった場合に炉締力の伝達が不安定となる可能性がある。このように、コークス炉1を安定して操業させるには、炉締力変化の原因を適切に評価し、複合的な要因に基づく、炉体1Aとバックステー5との間の距離の変化に対応することが必要となる。
【0036】
(炉締力伝達装置の構成)
そこで、本発明者らは、バックステー5から保護板7に伝達されるコークス炉1の炉締力を、ディスタンスピース110と皿ばね120の組み合わせからなる構成を特徴とする炉締力伝達装置100を介して伝達することを想到した。以下、本発明の第1の実施形態に係る炉締力伝達装置100の構成について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、上記した
図19~
図21と共通する部分の説明は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0037】
本実施形態に係るコークス炉1では、炉締力を付与するため、
図19に示す形態例と同様、炉締力伝達装置100がバックステー5の燃焼室4と対向する部分に燃焼室4の高さ方向に複数段設置される。一例として、炉締力伝達装置100は、バックステー5の燃焼室4と対向する部分に13段設置される。また、
図1に示すように、炉締力伝達装置100は、バックステー5の燃焼室4と対向する部分の各段において、炉団方向に2個並んで設けられる。炉締力伝達装置100によって、炉締力がコークス炉1の炉体1Aに伝達される。
【0038】
バックステー5は、
図1に示すように、一例としてH形鋼である。この場合、バックステー5としてのH型鋼のフランジ5Aが炉団方向、ウェブ5Bが炉長方向に沿う方向となるように設置される。この場合、バックステー5のフランジ5Aが、燃焼室4に対向する部分となる。
図1に示すように炉締力伝達装置100は、かかるフランジ5Aと燃焼室4との間に設けられる。
【0039】
図2は、炉締力伝達装置100の断面拡大図である。
図2における紙面上下方向が炉長方向であり、紙面上側が炉内側、紙面下側が炉外側である。
図2に示すように、炉締力伝達装置100は、ディスタンスピース110、及び皿ばね120を含んで構成されている。ディスタンスピース110は、燃焼室4側であって、皿ばね120と対向する位置に設けられる。また、皿ばね120は、バックステー5側であって、ディスタンスピース110と対向する位置に設けられる。すなわち、炉締力伝達装置100は、互いに対向するディスタンスピース110と皿ばね120とを有し、両者が互いに当接することで、炉締力がバックステー5から燃焼室4へと伝達される。
図2に示すように、一例として、炉締力伝達装置100は、炉団方向に2個並んで設けられている。これにより、炉締力伝達装置100によって伝達される炉締力を燃焼室4の炉内構造物に左右均等に伝えることが可能となる。すなわち、
図1に示す燃焼室4を構成する構造物に対して、
図1の紙面左右方向の両側に均等になるように炉締力を伝達させることができる。
【0040】
具体的には、ディスタンスピース110は、燃焼室4側において保護板7に取り付けられる。ディスタンスピース110は、保護板7の炉高方向において、等間隔に取り付けられ得る。ディスタンスピース110は、平板な板状部材である。ディスタンスピース110は、板厚方向が皿ばね120と対向する方向となるように保護板7に取り付けられる。換言すれば、
図2に示すように、ディスタンスピース110は、当接面111が皿ばね120と対向するように保護板7に取り付けられる。一般に保護板7の温度はバックステー5に比べて高く、高さ方向の熱変形に差が生じる場合があるが、この場合はディスタンスピース110の高さに余裕を持たせてよい。また、詳細は後述するが、ディスタンスピース110の板厚を所定の値に設定することで、ディスタンスピース110と皿ばね120との間の炉体1A及びバックステー5の間の寸法に変化が生じる前の隙間(以下、「初期隙間」と称することがある)が規定される。
【0041】
皿ばね120は、バックステー5のフランジ5Aに取り付けられる。皿ばね120の形状等は、コークス炉1の炉体1Aに付与される炉締力に応じて適宜設定され得る。また、詳細は後述するが、皿ばね120のばね高さは、ディスタンスピース110の板厚及び初期隙間に応じて、所定のばね高さに定められる。皿ばね120は、平面視で円盤状のばね部材であり、その外周部分120Aが、保持部121によって保持されている。保持部121は、皿ばね120の外周部分120Aを外方から覆うように形成された部位である。保持部121が皿ばね120の外周部分120Aと係合することで、皿ばね120がバックステー5のフランジ5Aに対して取り付けられる。すなわち、皿ばね120の外周部分120Aが、バックステー5に当接し、一方、内周部分120Bが、ディスタンスピース110に当接するように、皿ばね120が配置される。
【0042】
なお、炉締力伝達装置100を構成する部材の材質は、例えば一般構造用圧延鋼材(SS材)が挙げられる。SS材を用いることにより、炉締力伝達装置100として十分な強度を確保しつつ、低コスト化や調達容易性の向上が実現される。
【0043】
ここで、上記したように、コークス炉1の長期間に亘る操業の影響による炉締力分布の変化の原因として、熱膨張に起因したコークス炉1の炉体1Aの形状変化の影響がある。すなわち、熱膨張によってコークス炉1の炉体1Aの形状が変化する結果、バックステー5と燃焼室4との間の距離が変化することとなる。
【0044】
本発明者らは、さらに上記形状変化の様子について鋭意検討するため、コークス炉1及びバックステー5をモデル化して寸法変化及びそれに伴う荷重変化について検証した。以下に当該モデルを用いて得られた知見について、
図3~
図5を参照しながら説明する。
図3は、コークス炉1の炉体1Aの形状の変化を検証するためのモデルを示す図である。
図3に示すように、本モデルでは、コークス炉1に本実施形態に係るディスタンスピース110のみが取り付けられた形態(以下、ディスタンスピース方式と称する場合がある)において、コークス炉1の上方側(燃焼室4又は炭化室3側)において炉体1Aの形状の変化(例えば、煉瓦構造物20の膨張)が生じると仮定する。一方、バックステー5の下方側(蓄熱室2側)での炉体1Aの形状の変化による影響は小さいと仮定する。
【0045】
図4は、上記ディスタンスピース方式のモデルを用いて、経年変化に伴う炉体線荷重の分布の変化、炉体1Aに取り付けられた保護板7の変位比、及びバックステー5の変位比を算出した結果である。また、炉体線荷重とは、バックステー5及び保護板7間に生じる線荷重である。
図4における経年変化に伴う炉体線荷重の分布の変化、炉体1Aに取り付けられた保護板7の変位比、及びバックステー5の変位比を示すグラフの縦軸は、
図4の最左側に示したモデルにおける炉高方向の位置に対応している。
図4に示すように、炉体線荷重比分布は、初期状態と比較して、初期状態から5年、10年、20年、及び30年が経過した後もほとんど変化していない。一方、保護板7の変位比及びバックステー5の変位比は、時間経過とともに次第に変化している。すなわち、保護板7及びバックステー5は、経年変化によって次第に変位しているものの、保護板7及びバックステー5の間に生じる荷重比の分布はほとんど変化していない。これらを踏まえると、経年変化に伴う保護板7及びバックステー5の変位の相対値は、比較的小さい値であることが分かる。
【0046】
図4に示した結果を踏まえて、炉体1Aに取り付けられるディスタンスピース110とバックステー5との間の初期隙間を設定し、かかる設定におけるバックステー5及びディスタンスピース110の間の経年変化の様子を調べた。
図5は、設定された初期隙間の分布、かかる初期隙間に設定されたディスタンスピース110及びバックステー5間の隙間(DP部ギャップ)の経年変化、ディスタンスピース110に生じる反力比の経年変化を示す図である。ここで、反力比とは、測定された反力の最大値に対する各高さ位置(段)におけるの反力の比を指す。
【0047】
図5に示すように、
図4に示したバックステー5及び保護板7の変位量に基づいて、バックステー5の各高さ位置に応じて、初期隙間が設定される。この結果、
図5に示すように、ディスタンスピース110とバックステー5との隙間(DP部ギャップ)は、初期隙間設定値(0Year)に対し、5年、10年、20年、及び30年経過後もほとんど変化していない。実際に、経年変化によるバックステー5及び保護板7間の変形後のDP部ギャップは非常に小さな値(例えば、0.5mm以内))であった。また、
図5に示すように、高さ方向の各位置における炉体1Aの膨張量変化が一定であれば、当接するディスタンスピース110の位置は変らないので、結果的に炉体1Aの膨張量に関わらず、ディスタンスピース110に生じる反力比も経年変化による影響がみられなかった。すなわち、時間経過後も炉内圧力は一定であることがわかる。
【0048】
このように、上記したモデルを用いて、ディスタンスピース110及びバックステー5の間の初期隙間を設定すれば、多少のばらつきに関しては非常に小さな隙間(例えば、0.5mm以内)の最適化で済むことを本発明者らは知見した。一方、この小さな隙間を予め設定することは、上記したように操業変動等の様々な要因による経年変化の不確実性から困難である。そこで、本発明では、さらにバックステー5及び炉体1A間の隙間の経年変化に対応するため、炉締力伝達装置100において、ディスタンスピース110に対向する位置に皿ばね120を設けることを想到した。
【0049】
以下に、
図6及び
図7を参照しながら、ディスタンスピース110の板厚、皿ばね120のばね高さ、及びディスタンスピース110並びに皿ばね120の間の初期隙間の設定について説明する。
図6及び
図7は、ディスタンスピース110の板厚の設定についての説明の用に供される図である。まず、本実施形態の前提となる形態としてディスタンスピース110のみから成る場合を挙げて、ディスタンスピース110の板厚の設定について説明する。
【0050】
図6に示すように、炉高方向のある部位A(高さh)における炉締力伝達装置を考える。炉締力伝達装置をディスタンスピース110から成る形態とした場合、保護板7の炉締力伝達点(
図7に示すC点)と同高さ位置にあるバックステーの表面位置(
図7に示すB位置)との初期状態(すなわちコークス炉1の操業前)の距離をL
h0、同高さ位置にあるディスタンスピース110の高さをH
DPh0、同高さ位置の初期ギャップ量G
h0としたとき、次の関係式(1)が成り立つ。
G
h0=L
h0-H
DPh0 ・・・(1)
【0051】
ここで、同高さ位置におけるコークス炉1の操業中のバックステー5の変形量をΔδBShとすると、操業中の両者間のギャップGhについて以下の関係式(2)が成り立つ。
Gh=Gh0-ΔδBSh=Lh0-HDPh0-ΔδBSh ・・・(2)
【0052】
従って、上記式(2)において、ギャップGh=0となる場合には、コークス炉1の操業中にバックステー5とディスタンスピース110は接触していることになる。換言すれば、コークス炉1の操業中にバックステー5とディスタンスピース110とが接触することを想定した場合のディスタンスピース110の高さは、上記(2)式でGh=0とおいて、下記式(3)のように算出される。
HDPh0=Lh0-ΔδBSh ・・・(3)
【0053】
上記式(3)を踏まえ、コークス炉1の操業時のバックステー5の変形量ΔδBShを求める。具体的には、梁のたわみに関する公知の材料力学的計算手法を用いて、バックステー5の撓みを算出し、かかる撓み量をバックステー5の変形量ΔδBShと推定する。なお、バックステー5の断面形状は、一般的にバックステー5として用いられるのはH型鋼であることから、H字形状であると仮定する。また、バックステー5に付与される荷重は、炉体1Aからの反力であり、均等荷重であると仮定する。このようにしてバックステー5の梁モデルを用いて導出した撓み量をΔδBShとした場合、ディスタンスピース110の設計高さは、上記(3)式を用いて求めることができる。
【0054】
しかしながら、上記したように、炉締力に対してコークス炉1の操業変動や物性その他様々なばらつきや要因により、炉締力が変化するため、上記したようなディスタンスピース110のみの構造では接触状態が必ずしも安定せず、操業で安定した炉締力を得ることが難しい。そこで、本実施形態に係る炉締力伝達装置100では、ディスタンスピース110及び皿ばね120を備えた構成としている。
図8を参照しながら、本実施形態に係る炉締力伝達装置100におけるディスタンスピース110及び皿ばね120の配置について説明する。
図8は、炉締力伝達装置100のディスタンスピース110の板厚及び皿ばね120のばね高さの設定についての説明の用に供される図である。
【0055】
図8に示すように、炉締力伝達装置100において、保護板7の炉締力伝達点(
図8中のC点)と同高さ位置にあるバックステー5の表面位置(
図8中のB位置)との初期(即ち操業前)の距離をL
h0、同高さ位置にあるディスタンスピース110の高さ(板厚)をH
DPh0、同高さ位置の皿ばね120のばね高さをH
SPh0としたとき、
図8に示すように、同高さ位置の初期ギャップ量G
h0は、下記式(4)によって表される。
G
h0=L
h0-H
DPh0-H
SPh0 ・・・(4)
【0056】
ここで、同高さ位置における操業時のバックステー5の変形量をΔδBShとすると、操業中の両者間のギャップGhは、下記式(5)で表される
Gh=Gh0-ΔδBSh=Lh0-HDPh0-HSPh0-ΔδBSh ・・・(5)
【0057】
バックステー5の変形量ΔδBShは、上記した比較対象であるディスタンスピース110のみの形態と同様に、バックステー5を梁と仮定して、撓み量を計算することで求められる。このようにして導出した撓み量をΔδBShとした場合、ディスタンスピース110の設計高さ及び皿ばね120のばね高さは、上記(5)式を用いて求めることができる。
【0058】
ここで、皿ばね120の設計限界値としては、公知の設計指標を採用できる。例えば、皿ばね120が静荷重で使用する場合、あるいは動的荷重下において使用期間内に5000回以下の繰り返し荷重を受ける場合、使用限界たわみ量を初期ばね高さの75%以下とし、その時の最大圧縮応力の絶対値が2500MPaを超えない程度の設計指標に基づいて、皿ばね120の諸元を設定すればよい。
【0059】
また、炉締力伝達装置100に設けられる皿ばね120のばね定数は、炉締力伝達装置100の高さ方向の位置に応じて設定される。すなわち、皿ばね120のばね定数は、炉締力伝達装置100の段ごとに設定される。例えば、炉高方向において、1段目及び13段目(最上段)の炉締力伝達装置100の皿ばね120のばね定数は、他の段の炉締力伝達装置100の皿ばね120のばね定数よりも、低く設定されてもよい。具体的には、1段目及び13段目(最上段)の炉締力伝達装置100の皿ばね120のばね定数は、他の段の炉締力伝達装置100の皿ばね120のばね定数の1/5~1/2程度の値に設定され得る。
【0060】
上記のように炉締力伝達装置100の皿ばね120のばね定数を設定することで、変位量の小さい炉高方向の1段目と13段目(最上段)における、炉締力を大きくすることができ、炉高方向の炉締力分布を均等に近づけることができる。
【0061】
また、炉締力伝達装置100に設けられる皿ばね120のばね定数は、炉締力伝達装置100の高さ方向の位置に対して、正規分布を有するように設定されてもよい。具体的には、かかるばね定数の正規分布において、ばね定数の最大値は、最小値の5倍程度の値に設定される。このように炉締力伝達装置100の皿ばねのばね定数を設定することで、炉高方向の炉締力の分布をより均等に近づけることができる。
【0062】
さらに、本実施形態に係る炉締力伝達装置100は、比較的炉高さの低い炉で有効である。炉の高さが低いことで、炉内煉瓦の高さ方向の熱膨張が均一に近くなることで、炉締力伝達装置100による炉締力の伝達の効果が生じ易くなるためである。具体的には、本実施形態に係る炉締力伝達装置100は、炉高さ5~6m程度のコークス炉1に対して特に有効である。
【0063】
また、本実施形態に係る炉締力伝達装置100に与えられる炉体圧力を均等化し、炉体圧力に抗して炉締力伝達装置100による炉締力を効果的に炉体1Aへ伝達するため、保護板7又はドアフレーム6は、所定の値以上の剛性を有することが望ましい。以上、本実施形態に係る炉締力伝達装置100の構成について説明した。
【0064】
(炉体締め付け方法)
次に、
図9を参照しながら、本実施形態に係るコークス炉1の炉体締付け方法について説明する。
図9は、本実施形態に係るコークス炉1の炉体締付け方法を示すフロチャートである。
図9に示すように、先ず、ステップS101において、コークス炉1の燃焼室4とバックステー5との間に炉締力伝達装置100が設置される(S101)。具体的には、バックステー5の燃焼室4と対向するフランジ5Aと、燃焼室4の炉長方向両端部に設けられた、保護板7との間に炉締力伝達装置100が設けられる。
【0065】
次に、ステップS101において設けられた炉締力伝達装置100を用いて、炉体1Aに炉締力が伝達される(S102)。具体的には、一対のバックステー5を連結するクロスタイロッドの両端に設けられた炉締スプリングによって得た炉締力が、炉締力伝達装置100を用いて保護板7へ伝達される。ステップS103において、炉体締め付け方法の終了条件が満足されたかが判定され、終了条件が満足されていれば、炉体締付け方法は終了する。一方、終了条件が満足されていると判定されない場合は、炉体締付け方法は、ステップS101に移行する。終了条件における判定の一例としては、炉締力が所定の値となっているか否かが挙げられる。以上、本実施形態に係るコークス炉1の炉体締付け方法について説明した。
【0066】
(作用効果)
本実施形態によれば、炉締力をディスタンスピース110及び皿ばね120を介して伝達するので、燃焼室4を構成する煉瓦構造物20に対して炉締力を効果的に伝達できる。すなわち、本実施形態によれば、ディスタンスピース110によって炉高方向の炉締力を均一化に近づける。その上で種々の要因による接触状態の変化(つまり、炉締力分布の変化)に対応するため、皿ばね120をディスタンスピース110に対向する位置に設け、接触状態の変化に炉締力伝達装置100を追従可能とした。これにより、コークス炉1の長期間の操業においても、炉締力の分布が不均一となることが抑制され、コークス炉1の安定した長期間操業が実現される。
【0067】
また、本実施形態によれば、コイルスプリングを用いる場合と比較して、熱へたり等の周辺温度に起因したばね特性の変化が生じにくい皿ばね120を用いるので、コークス炉1が操業するような長期間に熱的な負荷の高い環境に置かれても安定的に炉締力の伝達を継続できる。
【0068】
また、本実施形態によれば、皿ばね120を有することにより、経年変化によるバックステー5の変位だけではなく、コークス炉1の操業変動や保護板7の熱変形、物性その他様々なばらつきや要因により炉締力が変化する場合に生じる変位にも対応することができる。この結果、より安定して一定の炉締力をコークス炉1へ伝達することができ、コークス炉1が安定して長期間操業できる。
【0069】
さらに、本実施形態によれば、ディスタンスピース110及び皿ばね120を組み合わせた構造なので、例えば、コイルスプリング及び締結部材を組み合わせた構造と比較して簡素な構成であるため、炉締力伝達装置100を低コスト化でき、さらにメンテナンス性も向上する。具体的には、
図17に示すような、コイルスプリング及びボルトナット構造を内蔵した炉締金物12のような複雑かつ部品点数の多い構造と比較して、本実施形態は、ディスタンスピース110及び皿ばね120の構成であるので簡素である。
【0070】
本実施形態によれば、炉締力伝達装置100において皿ばね120を用いて炉締力を伝達することにより、コイルスプリングを用いる場合と比較して、ばね高さを低くしても必要な強度を確保することができる。すなわち、皿ばね120によって、炉締力伝達装置100を小型化しつつ、所定の炉締力を生じさせることができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、ディスタンスピース110の高さ(板厚)は、燃焼室4へ伝達される炉締力が燃焼室4の高さ方向に均等に分布するとした梁モデルを用いて算出されたバックステー5の撓みの分布量に基づいて求められる。このため、ディスタンスピース110の高さ(板厚)がバックステー5の高さ方向の位置に応じて定量的に設定されるので、炉体1Aに対する炉締力が所定の値となる。
【0072】
(変形例)
なお、上記実施形態では、炉締力伝達装置100が一つの皿ばね120を有する形態例を挙げて説明したが、本発明は、かかる例に限定されない。例えば、炉締力伝達装置100において、皿ばね120は、複数設けられてもよい。皿ばね120の数は、炉締力伝達装置100に求められる炉締力、又は炉締力伝達装置100の配置される段の初期隙間等に応じて適宜設定される。
【0073】
また、炉締力伝達装置100が複数の皿ばね120を有する場合において、
図10に示すように、複数の皿ばね120が直列に配置されてもよい。また、
図11に示すように、炉締力伝達装置100において、複数の皿ばね120が、並列に配置されてもよい。皿ばね120の配置は、炉締力伝達装置100に求められる炉締力、又は炉締力伝達装置100の配置される段の初期隙間等に応じて適宜設定される。以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0074】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る炉締力伝達装置100について説明する。本実施形態では、第1の実施形形態と比較して、皿ばね120が予圧縮された状態で使用される点で相違する。なお、本実施形態の説明において、上記第1の実施形態と共通する要素、構成については説明を省略する場合がある。
【0075】
まず、ディスタンスピース110及び皿ばね120のばね高さの設定条件によっては、コークス炉1の炉体1Aの膨張時においても、皿ばね120及びディスタンスピース110の間のギャップGhがゼロ以上となっている(すなわち、間隔が生じている)場合がある。また、コークス炉1の操業状況によっては、ディスタンスピース110と皿ばね120とが接触をしない場合もあり得る。この結果、炉締力伝達装置100を介して炉締力が安定して炉体1Aに伝達されにくいことが考えられる。そこで、本発明者らは、本実施形態に係る炉締力伝達装置100において、皿ばね120を予め圧縮された状態(予圧縮)で使用することを想到した。
【0076】
本実施形態に係る炉締力伝達装置100における皿ばね120に対する予圧縮について以下に説明する。すなわち、ディスタンスピース110の高さ(板厚)HDPh0をΔHDPhだけ高くしたと仮定したとき、バックステー5がΔδBShだけ変形した時に、皿ばね120がΔδSPhだけ圧縮されたと仮定すると、上記(5)式は、次の(6)式のように表される。
Lh0-(HDPh0+ΔHDPh)-(HSPh0-ΔδSPh)-ΔδBSh=0 ・・・(6)
【0077】
上記(6)式をディスタンスピース110の高さ(板厚)について整理すると(7)式のようになる。
HDPh0+ΔHDPh=Lh0-HSPh0+ΔδSPh-ΔδBSh ・・・(7)
【0078】
上記(7)式と、上記(3)式の導出過程で述べた計算手法を用いて求めたコークス炉1操業中のバックステー5の変形量ΔδBShとに基づいて、皿ばね120に生じ得る最大反力FBShが求められる。さらに、これらの結果を踏まえ、皿ばね120の予圧縮率αを求める。なお、予圧縮率αは、以下の計算式(8)によって求められる。
α=ΔδSPh/HSPh0 ・・・(8)
【0079】
上記(8)式により求められた予圧縮率αに耐えられる変位及び反力を有する皿ばね120を炉締力伝達装置100に適用する。
【0080】
本実施形態によれば、炉締力伝達装置100において、皿ばね120は予圧縮されているので、ディスタンスピース110と皿ばね120とが接触した状態が維持されやすくなる。この結果、炉締力伝達装置100を介して炉締力がより安定して炉体1Aに伝達される。
【0081】
また、本実施形態によれば、予圧縮率αは、上記計算式に基づいて定量的に求められるので、予圧縮された皿ばね120が他の部材に与える反力が適正化される。これにより、所定の炉締力を安定して伝達できるとともに、炉締力伝達装置100の耐久性が向上する。以上、本発明の第2の実施形態に係る炉締力伝達装置100について説明した。
【0082】
<第3の実施形態>
続いて、本発明の第3の実施形態に係る炉締力伝達装置100について説明する。本実施形態は、上記第1及び第2の実施形態と比較して、炉締力伝達装置100が、保護板7及びバックステー5の間の距離の変化に対応するための調整構造を有する点で相違する。なお、本実施形態の説明において、上記第1及び第2の実施形態と共通する要素、又は構成については説明を省略する場合がある。
【0083】
調整構造として、例えば、保護板7及びバックステー5の間に、所定の板厚のシムを挟む構造が挙げられる。具体的には、調整構造として、皿ばね120とディスタンスピース110との間に、シムを挟む構造が挙げられる。かかるシムを挟むことで、炉締力伝達装置100において、保護板7及びバックステー5の間の距離の変化に対応することが実現される。シムの板厚は、一例として10~50mm程度が挙げられる。また、シムの形状は、一例として、円板状、又は矩形板状が挙げられる。以上、本発明の第3の実施形態に係る炉締力伝達装置100について説明した。
【0084】
<第4の実施形態>
続いて、本発明の第4の実施形態に係る炉締力伝達装置100について、
図12を参照しながら説明する。本実施形態は、上記第1~第3の実施形態と比較して、炉締力伝達装置100から伝達される炉締力がドアフレーム6を介して炉体に伝達される点で相違する。なお、本実施形態の説明において、上記第1~第3の実施形態と共通する要素、又は構成については説明を省略する場合がある。
【0085】
図12は、本実施形態に係る炉締力伝達装置100の断面図である。
図12に示すように、本実施形態に係る炉締力伝達装置100から伝達される炉締力は、保護板7へ直接ではなく、伝達部材140を通してドアフレーム6に付与される。伝達部材140は、ドアフレーム6の間に架け渡された金属製の部材である。伝達部材140は、本体部141と、本体部141の長手方向両端部に設けられた係合部143とを有している。本体部141は、平板な板状の部位であり、板厚方向が炉長方向に沿うように配置されている。本体部141のバックステー5のフランジ5Aと対向する位置には、ディスタンスピース110が取り付けられている。
【0086】
係合部143は、本体部141の長手方向の両端に設けられた部位である。係合部143は、ドアフレーム6の端部と対向しており、かかる対向する面がドアフレーム6の端部と係合している。この結果、伝達部材140は、ドアフレーム6に対して固定されている。
【0087】
本実施形態によれば、ドアフレーム6を介して炉締力が伝達される。換言すれば、燃焼室4の炉蓋に取り付けられた保護板7に伝達するのではなく、炉締力伝達装置100から炉枠を介して保護板7、さらに燃焼室4へ炉締力が伝達される。この結果、炉体1A側から炉締力伝達装置100へ熱が伝わりにくくなり、炉締力伝達装置100内の皿ばね120への高温負荷が減り、耐久性が向上する。以上、本発明の第4の実施形態に係る炉締力伝達装置100について説明した。
【実施例】
【0088】
本発明に係る炉締力伝達装置100及び炉体締め付け方法について、性能を評価するため、炉締力伝達装置100及びコークス炉1のモデルに対してシミュレーション解析を行って炉体1Aに生じる炉締力分布を調べた。以下、
図13~
図18を参照しながら、評価結果について説明する。
【0089】
具体的には、保護板7並びにドアフレーム6、及び炉締力伝達装置100としてディスタンスピース110並びに皿ばね120の接触を考慮したモデルにより炉締力の分布を求める。炉締力伝達装置100のモデルにおいて皿ばね120の予圧縮率α及びばね反力を所定の値に設定し、解析した。
【0090】
比較例1及び2は、
図13に示すようなディスタンスピース110のみから成る炉締力伝達装置10Bの場合である。比較例1は従来のディスタンスピース方式によるもので、バックステーとドアフレームあるいは保護板間の初期隙間を、バックステー、ドアフレーム及び保護板を考慮した梁モデルによる両者の相対変位で決定しているものである。また、比較例2は、上記初期隙間を、バックステーのみの梁モデルによる変位で決定しているものである。
【0091】
なお、各段における炉締力伝達装置100の初期隙間は、
図14に示すように設定した。また、
図15に示すように、炉締力伝達装置100における皿ばね120のばね定数を設定した。具体的には、実施例1は、上下端における皿ばね120のばね定数を他の部位の1/2程度とした場合であり、実施例2は、上下端における皿ばね120のばね定数を1/5程度とした場合であり、実施例3は、ばね定数を正規分布型(最大値が最小値の5倍程度となるように設定)したものである。
【0092】
図16は、シミュレーション解析によって得られた、炉高さ方向の炉内圧力比分布である。
図16に示すように、実施例1~3における高さ位置に応じた炉体圧力比は、比較例1、2と比較して。より均等な分布となった。すなわち、実施例1~3の炉体圧力比の分布は、
図16に示す均等線荷重に近い平坦な曲線となった。ここで、比較例3は、
図17に示すようなコイルスプリングのみから成る炉締力伝達装置10Aの場合である。
図16に示すように、実施例1~3は、皿ばね120とディスタンスピース110との組み合わせという比較的簡素な構成にも関わらず、比較例3のような複雑な構成を有する炉締力伝達装置10Aと同等か、それ以上に均等な炉体圧力比分布を示した。
【0093】
さらに、
図18は、
図16における炉体圧力比分布の標準偏差比を示すグラフである。
図18に示すように、実施例1は、比較例1に対して標準偏差比が小さくなっており、炉締力の分布がより均等となった。比較例2は、実施例1と比較して標準偏差比は小さいものの、皿ばね120を有さないため、コークス炉1の操業変動や物性その他様々なばらつきや要因により炉締力が変化する場合に生じる変位にも対応することができず、時間が経過すると、炉締力が不均一になることが、シミュレーション解析によって示された。また、比較例3は、実施例1と比較して標準偏差比は小さいものの、上記のように複雑な構成を有しており、実施例1が簡素な構成で比較例3と同程度の均等な炉締力を有することが示された。実施例2では、実施例1よりも標準偏差比が小さくなっており、ばね定数を適正化することで、炉高方向において、均等な炉締力分布となることが示された。さらに、実施例3では、比較例1~3に対して標準偏差比が小さくなっていることから、皿ばね定数を正規分布化することで、炉高方向において、より均等な炉締力分布となった。このように、本実施例によれば、本実施形態に係る炉締力伝達装置100を用いて、炉体締め付けを行うことで、炉締力を均等化できることが示された。また、さらにシミュレーション解析を行ったところ、実施例1~3では、いずれも時間が経過しても均一な炉締力分布が維持されることも示された。
【0094】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0095】
例えば、上記実施形態において、ディスタンスピース110が燃焼室4側に配置され、皿ばね120がバックステー5側に配置される例を示したが、本発明は、かかる例に限定されない。例えば、ディスタンスピース110がバックステー5側、皿ばね120が燃焼室4側に配置されてもよい。
【0096】
また、上記実施形態において、バックステー5の撓み量が梁モデルを用いて導出される例を示したが、本発明は、かかる例に限定されない。例えば、過去の操業実績に基づいた、有限要素法を用いたシミュレーション解析によってバックステー5の撓み量が導出されてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 コークス炉
1A 炉体
2 蓄熱室
3 炭化室
4 燃焼室
5 バックステー
5A フランジ
5B ウェブ
6 ドアフレーム
7 保護板
10 クロスタイロッド
11 炉締スプリング
12 炉締金物
100 炉締力伝達装置
110 ディスタンスピース
120 皿ばね
121 保持部
140 伝達部材
141 本体部
143 係合部