(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20231025BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231025BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20231025BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
H01F27/245 155
C22C38/00 303U
H01F41/02 A
C21D8/12 D
(21)【出願番号】P 2020067579
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】坂井 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-340619(JP,A)
【文献】特開2020-150089(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014290(WO,A1)
【文献】特開2012-57218(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056501(WO,A1)
【文献】特開平6-120044(JP,A)
【文献】特開2007-43040(JP,A)
【文献】特開2007-180135(JP,A)
【文献】特開2010-114170(JP,A)
【文献】特開2018-37572(JP,A)
【文献】特開2003-347128(JP,A)
【文献】国際公開第2008/050700(WO,A1)
【文献】特開平11-124629(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131613(WO,A1)
【文献】特開平6-57335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/245
C22C 38/00
H01F 41/02
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延方向と交差する方向に延びる複数の磁区制御用の歪を表面に付与した方向性電磁鋼板から形成され、個別に折り曲げ加工された前記方向性電磁鋼板を層状に積み重ね巻回形状に組み付けることで形成された巻鉄芯であって、
前記複数の磁区制御用の歪は、
同一の前記方向性電磁鋼板内では、前記鋼板の圧延方向に沿ってほぼ等しい間隔で設けられ、
異なる前記方向性電磁鋼板間では、巻鉄芯の内周側を形成する前記方向性電磁鋼板から外周側を形成する前記方向性電磁鋼板に向かって、連続的または段階的に増大する間隔で設けられている、巻鉄芯。
【請求項2】
前記複数の磁区制御用の歪は、巻鉄芯の最も内周側を形成する前記方向性電磁鋼板での間隔が1mm以上であり、巻鉄芯の最も外周側を形成する前記方向性電磁鋼板での間隔が10mm以下である、請求項1に記載の巻鉄芯。
【請求項3】
巻回されたフープ材から、方向性電磁鋼板を繰り出して供給する繰り出し工程と、
前記繰り出し工程によって供給された前記方向性電磁鋼板の表面にレーザを照射して、圧延方向と交差する方向に延びる複数の磁区制御用の歪を、所定の間隔で付与する歪付与工程と、
前記歪付与工程によって前記複数の磁区制御用の歪が付与された前記方向性電磁鋼板を、折り曲げて切断する折り曲げ・切断工程と、
前記折り曲げ・切断工程によって折り曲げて切断された前記方向性電磁鋼板を、前記所定の間隔に応じた順序で層状に積み重ね、巻回形状に組み付けることで巻鉄芯を形成する鉄芯組み付け工程と、
を有し、
前記歪付与工程は、前記所定の間隔として、前記複数の磁区制御用の歪みが、巻鉄芯の内周側を形成する前記方向性電磁鋼板から外周側を形成する前記方向性電磁鋼板に向かって、連続的または段階的に増大する間隔となるように、方向性電磁鋼板の表面にレーザを照射する、巻鉄芯の製造方法。
【請求項4】
巻回されたフープ材から、方向性電磁鋼板を繰り出して供給する鋼板供給部と、
前記鋼板供給部から供給された前記方向性電磁鋼板の表面にレーザを照射して、圧延方向と交差する方向に延びる複数の磁区制御用の歪を、所定の間隔で付与するレーザ照射部と、
前記レーザ照射部によって前記複数の磁区制御用の歪が付与された前記方向性電磁鋼板を、折り曲げて切断する折り曲げ・切断部と、
前記折り曲げ・切断部によって折り曲げて切断された前記方向性電磁鋼板を、前記所定の間隔に応じた順序で層状に積み重ね、巻回形状に組み付けることで巻鉄芯を形成する鉄芯組み付け部と、
を有し、
前記レーザ照射部は、前記所定の間隔として、前記複数の磁区制御用の歪みが、巻鉄芯の内周側を形成する前記方向性電磁鋼板から外周側を形成する前記方向性電磁鋼板に向かって、連続的または段階的に増大する間隔となるように、方向性電磁鋼板の表面にレーザを照射する、巻鉄芯の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスの鉄芯には積鉄芯と巻鉄芯とがある。そのうち、巻鉄芯は、一般に、方向性電磁鋼板を層状に積み重ねて、ドーナツ状(巻回形状)に巻回し、その後、その巻回体を加圧してほぼ角型に成形することにより製造される。この成形工程によって方向性電磁鋼板全体に機械的な加工歪(塑性変形歪)が入り、その加工歪が方向性電磁鋼板の鉄損を大きく劣化させる要因となるため、歪取り焼鈍を行なう必要がある。
【0003】
鉄芯に用いられる方向性電磁鋼板には、磁化容易軸が一方向に揃った電磁鋼板である方向性電磁鋼板が用いられる。そのような方向性電磁鋼板には、方向性電磁鋼板の表面に、圧延方向と交差する方向に周期的にレーザ照射を行ない、局所的な急加熱(及び、急加熱から常温方向への急冷)を行なうことによって細い複数の歪(磁区制御用の歪)を導入して、その部位に発生する還流磁区を起点に180°磁区を細分化することで鉄損を低減させた、いわゆる歪付与型の磁区制御材がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような磁区制御用の歪を付与した歪付与型の磁区制御材である方向性電磁鋼板を、巻鉄芯に用いた場合には、前述した歪取り焼鈍工程を行なうことによって、(磁区制御用の起点となる歪、及び、加工歪を含む)歪が消失してしまうため、結果として磁区制御効果も消失し、鉄損の低い巻鉄芯にならない。したがって、歪付与型の磁区制御材は、一般に、加圧成形や焼鈍工程が不要な積鉄芯にのみ使用される。
【0004】
また、方向性電磁鋼板には、その表面に、圧延方向と交差する方向に周期的に溝を形成することで、還流磁区と同様の効果により、180°磁区を細分化して鉄損を低減した、鉄損が低減される磁区制御効果を得る、いわゆる溝形成型の磁区制御材もある(例えば、特許文献2参照)。このような溝形成型の磁区制御材は、歪取り焼鈍を行なっても磁区制御効果が消失しないため、巻鉄芯の材料として用いることができる。しかしながら、溝形成型の鉄損改善効果(磁区制御効果)は、歪付与型の鉄損改善効果に比べて小さいという欠点がある。また、溝を形成する方法として、歯形プレスによる機械加工、エッチングによる化学的加工が実用に供されているが、そうした方法は、非接触式で磁区制御用の歪を付与するレーザや電子ビーム等を照射する方法と比べて、歯形プレスでは、機械設備が大掛かりになったり、歯形が損耗する等といった問題があり、また、エッチング法では、廃液処理やマスクが必要になる等といった、コストや生産能力上の問題があった。溝形成法として、レーザや電子ビーム等を照射する溝加工法であれば、非接触式であるというメリットがあるが、このレーザや電子ビーム等による溝加工法は、磁区制御用の歪を付与する場合に比べて大きなパワーを必要とするために、方向性電磁鋼板の全面に溝を加工しようとすると、生産能力やコストが増大するといった問題があった。
【0005】
ところで、近年、巻鉄芯の製造方法として、鋼板を個別に(1枚や2枚といった、極少数枚ごとに)折り曲げ加工して切断し、それらの個々に加工された鋼板を複数層にわたって積層することにより巻鉄芯を角型形状に成形する方法(いわゆる、「ユニコア」と呼ばれる巻鉄芯製造方法;以下、ユニコア製法とも称する)が知られるようになった。こうした方法を用いることで、折り曲げ部の曲率Rを極めて小さくすることができ、鋼板の内側で測定した曲率Rの値を、3mm以下とすることができ、折り曲げ加工に起因して鋼板に導入される加工歪の及ぶ範囲を、曲率Rが3mm以下となるように規定される小さな折り曲げ部近傍のみに限定することが可能となる。なお、曲率Rの下限は、特に限定されないが、折り曲げ装置の能力等に依存しており、現実的には1mm程度になる場合が多い。
この方法により巻鉄芯を製造する場合には、局所的な折り曲げ加工を行うことから、加工歪が、その折り曲げ部によって生じる角部の近傍の領域内にしか生じないため、鉄芯全体の鉄損劣化を少なくすることができ、したがって、歪取り焼鈍を不要にできるという利点がある。そのため、鉄損が極めて低い歪付与型の磁区制御材を巻鉄芯の材料として使用できる。
【0006】
すなわち、以上から分かるように、歪付与型の磁区制御材は、巻鉄芯に用いた場合に歪取り焼鈍工程に伴う歪の消失に起因して鉄損が低くならないという欠点を有するが、溝形成型の磁区制御材と比べて鉄損改善効果が高く安価であるという利点を有することから、歪取り焼鈍工程を排除できるユニコア製法により歪付与型の磁区制御材を用いて巻鉄芯を製造すれば、歪付与型の磁区制御材の欠点を解消してその利点を存分に生かすことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-347128号公報
【文献】国際公開第2011/125672号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、巻鉄芯は、内周側から外周側に向かって方向性電磁鋼板が層状に積み重ねられた積層構造を成しており、巻鉄芯が磁化された際には、各層で磁気抵抗に見合った磁束が発生する。この場合、磁気抵抗が小さいところに磁束が集中し、また、鉄損は磁束密度の2乗に比例するため、磁束の集中現象が発生すると、巻鉄芯全体としての鉄損が増大してしまう。
【0009】
ここで、巻鉄芯の積層構造を成す各層の鋼板の透磁率をμe、各層を構成する方向性電磁鋼板の断面積をS、巻鉄芯の周方向に沿う各層の長さ(周長)、すなわち、磁路長をLとすると、各層の磁気抵抗Rは簡易的に以下の(1)式で表わされる。また、巻鉄芯の周方向に沿って発生する磁束密度Bは、磁界の強さをHとすると、簡易的に以下の(2)式で表わされる。したがって、(1)式を(2)式に代入した(3)式から分かるように、同じμe、Sの方向性電磁鋼板を用いる場合には、Lが短い内周側ほど、磁束密度B(したがって、鉄損)が大きくなり易い。
R∝L/(μe×s) ・・・・(1)
B∝H/R ・・・・(2)
B∝μe×S/L×H ・・・・(3)
【0010】
したがって、ユニコア製法により歪付与型の磁区制御材(歪付与型で磁区制御された方向性電磁鋼板)を用いて巻鉄芯を製造した場合であっても、その巻鉄芯の内周側での磁束の集中現象、すなわち、磁束の不均一が同様に起こり得るため、その場合の鉄芯としての鉄損は、磁区制御された方向性電磁鋼板の鉄損特性から設計された鉄損に比べて、劣化割合が大きくなる。
【0011】
このような磁束の不均一を解消する方法として、巻鉄芯の内周側と外周側とで透磁率の異なる材料を使用することも考えられる。すなわち、周長が短い巻鉄芯の内周側で透磁率の低い材料を使用し、周長が長い巻鉄芯の外周側で比較的透磁率の高い材料を用いることにより、磁気抵抗R((1)式参照)を内周側と外周側とで同等として、磁束を均一化させるというものである。
【0012】
しかしながら、このような方法では、透磁率の異なる素材を複数準備する必要があるとともに、これらの素材を対応する層に個別に配置しなければならず、鉄芯製造工程が複雑化して製造効率が低下するという問題がある。また、現実的に透磁率が制御された方向性電磁鋼板を用意することは難しい。
【0013】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、歪取り焼鈍工程を伴う必要のない歪付与型の磁区制御材により製造できるとともに、磁束密度を均一化させて鉄損を低く抑えることができる、巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、圧延方向と交差する方向に延びる複数の磁区制御用の歪を表面に付与した方向性電磁鋼板から形成され、個別に折り曲げ加工された前記方向性電磁鋼板を層状に積み重ね巻回形状に組み付けることで形成された巻鉄芯であって、前記複数の磁区制御用の歪は、同一の前記方向性電磁鋼板内では、前記鋼板の圧延方向に沿ってほぼ等しい間隔で設けられ、異なる前記方向性電磁鋼板間では、巻鉄芯の内周側を形成する前記方向性電磁鋼板から外周側を形成する前記方向性電磁鋼板に向かって、連続的または段階的に増大する間隔で設けられている。
【0015】
上記構成に係る本発明の巻鉄芯は、方向性電磁鋼板表面に磁区制御用の歪を付与することにより鉄損が改善された方向性電磁鋼板から成る巻鉄芯であり、巻鉄芯の磁路の内周側から外周側、即ち、巻鉄芯を構成する方向性電磁鋼板のうち内周側を形成する方向性電磁鋼板から外周側を形成する方向性電磁鋼板に向かって、透磁率が連続的または段階的に減少された巻鉄芯である。すなわち、本発明によれば、前述した(1)式にしたがい、磁路長Lが短い内周側で方向性電磁鋼板の透磁率μeを小さくするとともに磁路長Lが長い外周側で方向性電磁鋼板の透磁率μeを大きくすることにより、磁気抵抗Rを鉄芯全体でほぼ一定にしており、その結果、発生する磁束密度が均一化されて、鉄損がより低い鉄芯が得られるものである。
【0016】
方向性電磁鋼板に線状の複数の磁区制御用の歪を付与することで、当該方向性電磁鋼板の鉄損が改善される原理は、付与された磁区制御用の歪に発生する還流磁区を起点に、方向性電磁鋼板の圧延方向に磁化しやすい180°磁区を細分化し、渦電流損を低減することにある。一方で、還流磁区は、方向性電磁鋼板の圧延方向には磁化しにくい磁区であるため、磁束の発生し易さの目安である透磁率を低下させる要因となる。そのため、単位面積あたりに発生する還流磁区が増加すると透磁率は低下する。また、鉄損は、還流磁区の増加で減少し、ある最適値を境に増加に転じる傾向がある。したがって、適切に還流磁区の導入範囲を選べば、鉄損をある程度の範囲に維持したまま透磁率μeを変化させることが可能となる。よって、方向性電磁鋼板の単位長さ当たりの磁区制御用の歪の本数、すなわち、磁区制御用の歪同士の間隔で還流磁区を制御し、鉄芯の内外周の各層で適切に透磁率を制御することにより巻鉄芯の鉄損をより低減させることが可能である。そのため、本発明では、巻鉄芯の内周側を形成する前記方向性電磁鋼板から外周側を形成する前記方向性電磁鋼板に向かって、磁区制御用の歪同士の間隔を連続的または段階的に増大させることにより、磁路長Lが短い内周側で鋼板の透磁率μeを小さくするとともに磁路長Lが長い外周側で鋼板の透磁率μeを大きくし、それにより、磁束密度を均一化して、巻鉄芯全体としてより低い鉄損を実現している。つまり、ユニコア製法により(歪取り焼鈍工程を必要としない)歪付与型の磁区制御材(歪付与型で磁区制御された電磁鋼板)を用いて巻鉄芯を製造した場合に、磁束密度を均一化させて、巻鉄芯全体としての鉄損をより低く抑えることができる。ここで、鉄損をある程度の範囲に維持できる適切な還流磁区の導入範囲、すなわち、磁区制御用の歪同士の適切な間隔は、1mm以上10mm以下であることが本発明者らの研究結果により確認されている。
【0017】
また、本発明は、前述した特徴を伴う巻鉄芯の製造方法および製造装置も提供する。そのような製造方法は、巻回されたフープ材から、方向性電磁鋼板を繰り出して供給する繰り出し工程と、前記繰り出し工程によって供給された前記方向性電磁鋼板の表面にレーザを照射して、圧延方向と交差する方向に延びる複数の磁区制御用の歪を、所定の間隔で付与する歪付与工程と、前記歪付与工程によって前記複数の磁区制御用の歪が付与された前記方向性電磁鋼板を、折り曲げて切断する折り曲げ・切断工程と、前記折り曲げ・切断工程によって折り曲げて切断された前記方向性電磁鋼板を、前記所定の間隔に応じた順序で層状に積み重ね、巻回形状に組み付けることで巻鉄芯を形成する鉄芯組み付け工程と、を有し、前記歪付与工程は、前記所定の間隔として、前記複数の磁区制御用の歪みが、巻鉄芯の内周側を形成する前記方向性電磁鋼板から外周側を形成する前記方向性電磁鋼板に向かって、連続的または段階的に増大する間隔となるように、方向性電磁鋼板の表面にレーザを照射する。
【0018】
また、本発明に係る巻鉄芯の製造装置は、巻回されたフープ材から、方向性電磁鋼板を繰り出して供給する鋼板供給部と、前記鋼板供給部から供給された前記方向性電磁鋼板の表面にレーザを照射して、圧延方向と交差する方向に延びる複数の磁区制御用の歪を、所定の間隔で付与するレーザ照射部と、前記レーザ照射部によって前記複数の磁区制御用の歪が付与された前記方向性電磁鋼板を、折り曲げて切断する折り曲げ・切断部と、前記折り曲げ・切断部によって折り曲げて切断された前記方向性電磁鋼板を、前記所定の間隔に応じた順序で層状に積み重ね、巻回形状に組み付けることで巻鉄芯を形成する鉄芯組み付け部と、を有し、前記レーザ照射部は、前記所定の間隔として、前記複数の磁区制御用の歪みが、巻鉄芯の内周側を形成する前記方向性電磁鋼板から外周側を形成する前記方向性電磁鋼板に向かって、連続的または段階的に増大する間隔となるように、方向性電磁鋼板の表面にレーザを照射する。
【0019】
上記構成の巻鉄芯の製造方法および製造装置は、磁区制御用の歪付与による磁区制御を行なっていないフープ状の方向性電磁鋼板を用意し、この方向性電磁鋼板に対してレーザ照射することにより磁区制御用の歪を付与して磁区制御を行なうとともに、巻鉄芯を構成するそれぞれの方向性電磁鋼板ごとに折り曲げ・切断加工を施して、各電磁鋼板を所定の間隔に応じた順序で層状に積み重ねて巻回形状に組み付けることにより巻鉄芯を形成するユニコア製法を採用する。そして、方向性電磁鋼板のフープ材を繰り出す繰り出し工程(鋼板供給部)と方向性電磁鋼板を折り曲げて切断する折り曲げ・切断工程(折り曲げ・切断部)との間に歪付与工程(レーザ照射部)を設けることにより、方向性電磁鋼板が巻鉄芯のどの層に配置されるかを特定して、その位置に適した透磁率となるようにレーザ照射条件(例えば、照射幅、間隔など)を設定することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、巻鉄芯の内周側を形成する方向性電磁鋼板から外周側を形成する方向性電磁鋼板に向かって、磁区制御用の歪同士の間隔を連続的または段階的に増大させることにより、磁路長が短い内周側で鋼板の透磁率を小さくするとともに磁路長が長い外周側で鋼板の透磁率を大きくし、それにより、磁束密度を均一化して、巻鉄芯全体としてより低い鉄損を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯の斜視図を示し、巻鉄芯を構成する方向性電磁鋼板の断片とその表面の歪とを含んでいる。
【
図2】歪間隔(レーザ照射間隔)と方向性電磁鋼板の透磁率および鉄損との間の関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯の製造方法および製造装置の概略斜視図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯の製造方法および製造装置におけるレーザ照射態様を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯、巻鉄芯の製造方法および巻鉄芯製造装置について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯10を示している。この巻鉄芯10は、方向性電磁鋼板40の圧延方向(長手方向)Dと交差する方向に直線状に又は曲率をもって延びる複数の磁区制御用の歪20を、方向性電磁鋼板40の表面に付与することで、還流磁区を起点に180°磁区を細分化することで鉄損が改善された、複数の方向性電磁鋼板40から形成されている。巻鉄芯10は、個別に折り曲げ加工された方向性電磁鋼板(本実施の形態では、その厚み及び幅が同一)40を層状に積み重ね、ドーナツ状(巻回形状)に組み付けることで形成される。局所的な折り曲げ加工を行なうことから、加工歪(塑性変形歪)が、その折り曲げ部の近傍にしか生じないため、巻鉄芯10全体としての鉄損劣化を少なくすることができる。したがって、本実施の形態に係る方向性電磁鋼板40は、積層の前後で歪取り焼鈍を実施する必要がない。
また、磁区制御用の歪20は、具体的には、鋼板表面に各層毎に所定の間隔Pl(なお、以下では、層iにおける、所定の間隔をPliと称するものとする)で、線状に導入されており、この磁区制御用の歪20に発生する還流磁区を起点に、方向性電磁鋼板40の長手方向Dの磁区である180°磁区が細分化されることで、磁区制御用の歪20の導入前に比べて、方向性電磁鋼板40全体としての鉄損が、約10%程度改善されている。
【0023】
各方向性電磁鋼板40の複数の磁区制御用の歪20は、一枚の同一の方向性電磁鋼板40内で見れば、方向性電磁鋼板40の圧延方向Dに沿ってほぼ等しい間隔(完全に等しいか、装置の加工精度上許容される範囲で等しい間隔)を隔てて設けられているが、巻鉄芯10として積層される層によって、異なる方向性電磁鋼板40の間では、異なる間隔(所定の間隔Pl)で設けられる。また、異なる方向性電磁鋼板40間では、巻鉄芯10の最も内周側を形成する最内層の方向性電磁鋼板40の磁区制御用の歪20同士の間隔Pliが、1mm以上になるとともに、巻鉄芯の最も外周側を形成する最外層の方向性電磁鋼板40の磁区制御用の歪20同士の間隔Ploが、10mm以下になるように、磁区制御用の歪20同士の間隔が、方向性電磁鋼板40の積層方向に沿って、巻鉄芯10の内周側から外周側に向かって連続的または段階的に増大している。したがって、各方向性電磁鋼板40内の複数の磁区制御用の歪20同士の間隔は、1mm以上10mm以下の範囲内に設定される。
【0024】
なお、巻鉄芯10は、中空部15を有する略直方体形状を成しており、その角部Rが、1又は複数の折曲部(
図1に示した場合であれば、角部Rの1つ当たり、2つの折曲部が存在する)を介して、局所的に折り曲げ加工されている。また、この巻鉄芯10は、例えば図示しない一次巻線と二次巻線とが巻かれることによりトランスとされ、一次巻線または二次巻線に電流を流したときに、巻鉄芯10を構成するように積層された方向性電磁鋼板40のそれぞれに、中空部の周りを環流する磁束の磁気回路すなわち閉磁路が形成される。また、巻鉄芯10を構成する方向性電磁鋼板40は、製造時の圧延方向に結晶粒の磁化容易軸(体心立方晶の<100>方向)の方向がほぼ揃っている電磁鋼板であって、圧延方向Dに磁化が向いた複数の磁区が磁壁を挟んで配列した構造を有する。このような方向性電磁鋼板40は、磁力線が一定な方向を向くトランス用の鉄芯材料として適している。ここで、方向性電磁鋼板40の磁化容易軸は、巻鉄芯10の周方向(中空部の周りを環流する方向)を向いている。
【0025】
図2は、方向性電磁鋼板40の表面に付与される磁区制御用の歪20の間隔(したがって、レーザ照射間隔)Pl(mm)と方向性電磁鋼板40の透磁率および鉄損との間の関係を示している。この関係は、一般的な方向性電磁鋼板40の表面にレーザ照射により磁区制御用の歪20を付与した場合の結果であり(具体的な照射方法に関しては
図4に関連して後述する)、また、レーザ照射間隔Plを5mmとしたときの鉄損および透磁率を1とした場合の比率で示している。
図2から分かるように、透磁率は、磁区制御用の歪20の間隔Plを縮小するにしたがって減少する。これは、磁化しにくい還流磁区が増大するためである。一方、鉄損は、Pl=5mmの近傍で最小化し、その前後で増加するものの一定以上の鉄損低減効果を維持している。しかしながら、Plが1mm未満になると鉄損低減効果が大きく低下する。これは、過大な還流磁区が鉄損の一要素であるヒステリシス損を増大させるためである。また、Plが10mmを超える範囲でも鉄損低減効果は低下する。これは、還流磁区が過少となり、180°磁区の細分化効果が大きく低下するためである。よって、本発明の巻鉄芯10では、一定以上の鉄損低減効果を維持しつつ、巻鉄芯10の最も内周側を形成する最内層の方向性電磁鋼板40の磁区制御用の歪20同士の間隔Pliが、1mm以上になるとともに、巻鉄芯10の最も外周側を形成する最外層の方向性電磁鋼板40の磁区制御用の歪20同士の間隔Ploが、10mm以下になるように、方向性電磁鋼板40の積層方向に沿って巻鉄芯10の内周側から外周側に向かって、磁区制御用の歪20同士の間隔を連続的または段階的に増大させている。
【0026】
図3は、本発明の一実施の形態に係る巻鉄芯の製造方法および製造装置を概略的に示している。図示のように、巻鉄芯10の製造装置は、方向性電磁鋼板40を巻き回してロール状にして得られたフープ材40aから、方向性電磁鋼板40を繰り出して供給する鋼板供給部(フープ)50と、鋼板供給部50から供給された方向性電磁鋼板40の表面にレーザ90を照射して、圧延方向Dと交差する方向に延びる複数の磁区制御用の歪20を、所定の間隔Plで付与するレーザ照射部52と、レーザ照射部52によって、複数の磁区制御用の歪20が付与されて磁区制御されたフープ材40a(方向性電磁鋼板40)を、折り曲げて切断することにより、層状に積み重ねられて巻回形状に組み付けられるべきそれぞれの方向性電磁鋼板40を形成する折り曲げ・切断部54と、折り曲げ・切断部54によって折り曲げ切断加工が施された方向性電磁鋼板40を、所定の間隔Pliに応じた順序で層状に積み重ねて、巻回形状に組み付けることで、巻鉄芯10を形成する製造装置の鉄芯組み付け部56とを有する。
【0027】
ここで、鋼板供給部50は、磁区制御用の歪20の付与による磁区制御を行なっていない長尺の方向性電磁鋼板40を巻いてロール状にして得られたフープ材40aから、方向性電磁鋼板40を繰り出して供給するものであり、この鋼板供給部50から繰り出されたフープ材40a(方向性電磁鋼板40)は、制御された速度V1でレーザ照射部52および折り曲げ・切断部54へ向けて供給される(フープ材繰り出し工程)。また、レーザ照射部52は、レーザ装置52Aからレーザ光(集光レーザビーム)を照射して、フープ材40aの幅方向Wに走査することにより、幅方向Wに延在して圧延方向Dと交差する方向に延びた磁区制御用の歪20をフープ材40aの表面上に形成する(歪付与工程)。この場合、レーザ照射部52は、巻鉄芯10の最も内周側を形成する最内層の方向性電磁鋼板40の磁区制御用の歪20同士の間隔Pliが、1mm以上になるとともに、巻鉄芯10の最も外周側を形成する最外層の方向性電磁鋼板40の磁区制御用の歪20同士の間隔Ploが、10mm以下になるように、方向性電磁鋼板40の積層方向に沿って、巻鉄芯10の内周側から外周側に向かって磁区制御用の歪20同士の間隔Plが連続的または段階的に増大するように、フープ材40aの表面にレーザ90を照射する。
【0028】
具体的には、レーザ照射間隔(磁区制御用の歪20の間隔)Plを制御する制御部58は、折り曲げ・切断部54及びレーザ照射部52に、電気的に直接に又はネットワークを介して、通信可能に接続される。制御部58は、折り曲げ・切断部54で折り曲げ・切断加工されるそれぞれの方向性電磁鋼板40が、巻鉄芯10のどの部位(どの層)に対応するのかを、折り曲げ・切断部54からの出力信号S1により計算して、折り曲げ・切断部54の上流側に配置されるレーザ照射部52に対して、事前にレーザ照射間隔Plが適切な間隔になるように指令信号S2を出力し、これにより、レーザ照射部52は、指令された歪20の間隔Plに応じたタイミングで、レーザ光を照射し、連続的に圧延方向Dに移動されるフープ材40aの幅方向Wに走査する。
【0029】
このようにして適切な間隔Plの磁区制御用の歪20が付与されたフープ材40aは、折り曲げ・切断部54において、適切な折り曲げおよび切断が行なわれ(折り曲げ・切断工程)、それにより、層状に積み重ねられて巻回形状に組み付けられるべき個々の方向性電磁鋼板40が形成される。そして、これらの電磁鋼板40は、その加工条件に応じた順序で、鉄芯組み付け部56において層状に積み重ねられて巻回形状に組み付けられ、それにより巻鉄芯10が形成される(鉄芯組み付け工程)。
【0030】
図4は、レーザ照射部52におけるレーザ照射態様を概略的に示している。本実施の形態では、レーザ装置52Aから出射されるレーザ90のパワーが300W、レーザビームの走査速度Vcが30m/sに設定された。また、集光ビームは、そのビーム走査方向の径dcが5mmで且つその直交方向の径d1が0.1mmである楕円の形状で照射された。ここで、集光ビームの形状は、小さく集光しすぎると方向性電磁鋼板40表面の絶縁コーティングにダメージが発生する場合があるため、この表面コーティングの強度に合わせて適宜に調整されてもよい。また、レーザ光は、図示しないレーザ光源から、図示しない光ファイバまたはミラー反射伝送系によりレーザ出射部へと導かれており、装置52A内にある多面体の回転ポリゴンミラーあるいはガルバノモータによる振動ミラーで一方向に走査され、fθレンズや放物面ミラーで集光されて、方向性電磁鋼板40からなるフープ材40aに対して照射される。その結果、フープ材40aの表面上に所定の間隔Plで、線状の複数の磁区制御用の歪20が導入され、その導入位置に還流磁区が形成されて、鉄損が減少される。なお、実際には、磁区制御用の歪20は、肉眼では目視できないが、説明のために図示されている。また、磁区制御用の歪20による還流磁区は、乳液中の磁粉の動きによるドメインビューワや光のカー効果を利用した磁区観察SEMで観察可能であり、その間隔Plを判別することが可能である。
【0031】
また、本実施の形態において、レーザ照射間隔(歪間隔)Plは、ポリゴンミラーの回転速度や振動ミラーの振動速度による走査速度Vcと鋼板40の搬送速度V1との相互制御で調整される。ただし、走査速度Vcを大幅に変更すると、導入される磁区制御用の歪20の強度が大きく変化するとともに表面ダメージが発生するため、主に搬送速度Vcによりレーザ照射間隔Plを制御することが望ましい。あるいは、レーザをポリゴンミラーや振動ミラーの走査と同調させてパルス駆動することによってもレーザ照射間隔Plの調整は可能である。
【0032】
なお、以上では、磁区制御用の歪20を、レーザを用いて付与する例を用いて説明を行ったが、磁区制御用の歪20を付与する手法は、それらに限定されるものではなく、その他の公知の手法を用いることもできる。例えば、磁区制御用の歪20を付与するに当たって、電子ビームを照射することで付与したり、プラズマを照射することで付与したり、又は、方向性電磁鋼板40の表面を硬質の突起でけがいたり若しくはショットピーニング等を用いたりして、方向性電磁鋼板40に圧縮応力を与えることで付与したり、することも可能である。
また、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 巻鉄芯
20 歪
40 方向性電磁鋼板
40a フープ材
50 鋼板供給部
52 レーザ照射部
54 折り曲げ・切断部
56 鉄芯組み付け部
58 制御部
60 磁気特性計測部
Pl 歪間隔