(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ガラス板製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/896 20060101AFI20231025BHJP
G01N 21/892 20060101ALI20231025BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20231025BHJP
C03B 25/12 20060101ALI20231025BHJP
C03B 33/02 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G01N21/896
G01N21/892 A
C03B17/06
C03B25/12
C03B33/02
(21)【出願番号】P 2020561415
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2019049214
(87)【国際公開番号】W WO2020129907
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018239404
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】奥山 勲
(72)【発明者】
【氏名】奥 隼人
(72)【発明者】
【氏名】古田 昌弘
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314414(JP,A)
【文献】特開2018-104228(JP,A)
【文献】特開昭51-023509(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0291593(US,A1)
【文献】特開平07-218445(JP,A)
【文献】特表2013-539026(JP,A)
【文献】国際公開第2017/153253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01J 5/00
G01N 25/00 - G01N 25/72
C03B 8/00 - C03B 35/26
B26F 3/00
B28D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形ゾーンでガラスリボンを成形する成形工程と、前記ガラスリボンを搬送する搬送工程と、を備えたガラス板製造方法であって、
前記ガラスリボンの温度を測定すると共に、前記温度の測定結果に基づいて前記ガラスリボンの破損
により搬送経路から前記ガラスリボンが無くなることを検知する検知工程を備えていることを特徴とするガラス板製造方法。
【請求項2】
前記搬送工程は、熱処理ゾーンで前記成形工程を経た前記ガラスリボンに対して熱処理を施す熱処理工程と、冷却ゾーンで前記熱処理工程を経た前記ガラスリボンを冷却する冷却工程と、切断装置で前記冷却工程を経た前記ガラスリボンを幅方向に切断してガラス板を得る切断工程と、を備え、
前記温度の測定位置が、前記冷却ゾーン又はその下流側であることを特徴とする請求項1に記載のガラス板製造方法。
【請求項3】
前記温度の測定位置が、前記冷却ゾーンよりも下流側かつ前記ガラスリボンの切断位置よりも上流側であることを特徴とする請求項2に記載のガラス板製造方法。
【請求項4】
前記温度を少なくとも前記ガラスリボンの幅方向中央部および幅方向側部で測定することを特徴とする請求項2又は3に記載のガラス板製造方法。
【請求項5】
前記検知工程で前記ガラスリボンの破損を検知した場合に、前記切断装置を前記ガラスリボンの
前記搬送経路上から退避させることを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載のガラス板製造方法。
【請求項6】
前記検知工程で前記ガラスリボンの破損を検知した場合に、警報を発することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス板製造方法。
【請求項7】
測定波長が7.5μm~8.5μmの放射温度計により、前記温度を測定することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス板製造方法。
【請求項8】
ガラスリボンを成形する成形ゾーンと、前記ガラスリボンを搬送する搬送装置と、を備えたガラス板製造装置であって、
前記ガラスリボンの温度を測定する温度計と、前記温度計の測定結果に基づいて前記ガラスリボンの破損
により搬送経路から前記ガラスリボンが無くなることを検知する検知部と、を備えていることを特徴とするガラス板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板を製造するための手法としては、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法、リドロー法に代表されるダウンドロー法を利用した手法が広く採用されるに至っている。
【0003】
これらの手法を利用したガラス板の製造工程では、長尺なガラスリボンを連続的に成形した後、そのガラスリボンを所定の長さ毎に幅方向に切断し、ガラスリボンからガラス板を切り出すことが行われる。この際、ガラスリボンが破損し、発生したガラス片(ガラス粉を含む)が製造工程に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、レーザセンサにより搬送経路上のガラスリボンの有無を判定し、ガラスリボンの破損を自動監視することが開示されている。詳細には、レーザセンサとしては、ガラスリボンに向かってレーザ光を照射してガラスリボンで反射した反射光を検知する反射型のセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーザセンサの場合、ガラスリボンが搬送経路上で揺れると、ガラスリボンに向かって照射したレーザ光から得られる反射光などの測定対象光の状態が容易に変動する。その結果、ガラスリボンの破損を誤検知する問題があり、より高精度に破損を検知することが望まれている。
【0007】
本発明は、ガラスリボンの破損を高精度に検知することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、成形ゾーンでガラスリボンを成形する成形工程と、ガラスリボンを搬送する搬送工程と、を備えたガラス板製造方法であって、ガラスリボンの温度を測定すると共に、その温度の測定結果に基づいてガラスリボンの破損を検知する検知工程を備えていることを特徴とする。
【0009】
ガラスリボンの温度は、ガラスリボンの位置が搬送経路上で揺れなどにより変動しても大きな変化を示さないが、ガラスリボンが破損して無くなれば大きな変化を示す。したがって、上記の構成のように、ガラスリボンの温度の測定結果に基づいてガラスリボンの破損を検知すれば、ガラスリボンの破損を高精度に検知できる。
【0010】
上記の構成において、搬送工程は、熱処理ゾーンで成形工程を経たガラスリボンに対して熱処理を施す熱処理工程と、冷却ゾーンで熱処理工程を経たガラスリボンを冷却する冷却工程と、切断装置により冷却工程を経たガラスリボンを幅方向に切断してガラス板を得る切断工程と、を備え、ガラスリボンの温度の測定位置が、冷却ゾーン又はその下流側であることが好ましい。
【0011】
冷却ゾーン又はその下流側では、ヒータなどの加熱装置(温度調整装置)が配置されていない場合が多い。したがって、上記の構成のようにすれば、加熱装置の影響を受けることなく、ガラスリボンの温度を容易に測定できるため、ガラスリボンの破損をより高精度に検知できる。
【0012】
上記の構成において、ガラスリボンの温度の測定位置が、冷却ゾーンよりも下流側かつガラスリボンの切断位置よりも上流側であることが好ましい。
【0013】
ガラスリボンの温度の測定位置を冷却ゾーン又はその上流側とした場合、ガラスリボンの破損が冷却ゾーンの下流側のみで生じている場合に、ガラスリボンの破損を検知できない。一方、ガラスリボンの破損が冷却ゾーン又はその上流側で生じた場合は、その影響により冷却ゾーンの下流側でもガラスリボンの破損が生じ得る。したがって、ガラスリボンの温度の測定位置は、冷却ゾーンよりも下流側とすることが好ましい。また、ガラスリボンの温度の測定位置を切断位置よりも下流側とした場合、ガラスリボンの切断に起因して、例えば切断端面等を起点として切断位置よりも上流側でガラスリボンの破損が生じた場合に、ガラスリボンの破損を検知できなかったり、あるいは、その検知が遅れたりするおそれがある。したがって、ガラスリボンの温度の測定位置は、切断位置よりも上流側とすることが好ましい。
【0014】
上記の構成において、ガラスリボンの温度を少なくともガラスリボンの幅方向中央部および幅方向側部で測定することが好ましい。
【0015】
ガラスリボンは、幅方向中央部のみや幅方向側部のみが破損する場合もある。上記の構成のようにすれば、このような場合でもガラスリボンの破損を確実に検知できる。
【0016】
上記の構成において、検知工程でガラスリボンの破損を検知した場合に、切断装置をガラスリボンの搬送経路上から退避させることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、ガラスリボンの破損により生じたガラス片によって、切断装置が破損するのを防止できる。また、切断装置にガラス片が既に付着している場合には、これを清掃により除去しやすくなる。
【0018】
上記の構成において、検知工程でガラスリボンの破損を検知した場合に、警報を発することが好ましい。
【0019】
このようにすれば、ガラスリボンの破損に対して速やかに対策を講じることができる。
【0020】
上記の構成において、測定波長が7.5μm~8.5μmの放射温度計により、温度を測定することが好ましい。
【0021】
このようにすれば、水の吸収による影響を低減できると共に、ガラスの透過・反射を抑制できる。その結果、ガラスリボンの温度を正確に測定できるため、ガラスリボンの破損の誤検知を抑制できる。
【0022】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、ガラスリボンを成形する成形ゾーンと、ガラスリボンを搬送する搬送装置と、を備えたガラス板製造装置であって、ガラスリボンの温度を測定する温度計と、温度計の測定結果に基づいてガラスリボンの破損を検知する検知部と、を備えていることを特徴とする。
【0023】
このようにすれば、上記の対応する構成と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように本発明によれば、ガラスリボンの破損を高精度に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス板製造装置の縦断面図である。
【
図3】ガラスリボンの破損原因の一例を示す図である。
【
図4】ガラスリボンが破損した状態の一例を示す図である。
【
図5】ガラスリボンが破損した場合のその温度変化の一例を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係るガラス板製造装置は、ガラスリボンGの処理装置1と、切断装置2と、検知装置3と、を備えている。
【0028】
処理装置1は、ガラスリボンGを連続成形する成形ゾーン11と、ガラスリボンGを熱処理(徐冷)する熱処理ゾーン12と、ガラスリボンGを室温付近まで冷却する冷却ゾーン13と、成形ゾーン11、熱処理ゾーン12及び冷却ゾーン13のそれぞれに上下複数段に設けられたローラ対14(搬送装置)と、を備えている。
【0029】
成形ゾーン11及び熱処理ゾーン12は、ガラスリボンGの搬送経路の周囲が壁部で囲まれた炉により構成されており、ガラスリボンGの温度を調整するヒータ等の加熱装置が炉内の適所に配置されている。一方、冷却ゾーン13は、ガラスリボンGの搬送経路の周囲が壁部に囲まれることなく常温の外部雰囲気に開放されており、ヒータ等の加熱装置は配置されていない。
【0030】
成形ゾーン11の内部空間には、オーバーフローダウンドロー法により溶融ガラスGmからガラスリボンGを成形する成形体15が配置されている。成形体15に供給された溶融ガラスGmは成形体15の頂部15aに形成された溝部(図示しない)から溢れ出るようになっており、その溢れ出た溶融ガラスGmが成形体15の断面楔状を呈する両側面15bを伝って下端で合流することで、板状のガラスリボンGが連続成形される。成形されるガラスリボンGは、縦姿勢(好ましくは鉛直姿勢)である。
【0031】
熱処理ゾーン12の内部空間は、下方に向かって所定の温度勾配を有している。縦姿勢のガラスリボンGは、熱処理ゾーン12の内部空間を下方に向かって移動するに連れて、温度が低くなるように熱処理(徐冷)される。この熱処理により、ガラスリボンGの内部歪を低減する。熱処理ゾーン12の内部空間の温度勾配は、例えば熱処理ゾーン12の壁部内面に設けた加熱装置により調整できる。
【0032】
複数のローラ対14は、縦姿勢のガラスリボンGの両側の側端部を表裏両側から挟持するようになっている。成形ゾーン11に配置された最上部のローラ対14は、冷却ローラである。なお、熱処理ゾーン12の内部空間などでは、複数のローラ対14の中に、ガラスリボンGの側端部を挟持しないものが含まれていてもよい。つまり、ローラ対14の対向間隔をガラスリボンGの側端部の厚みよりも大きくし、ローラ対14の間をガラスリボンGが通過するようにしてもよい。
【0033】
本実施形態では、処理装置1によって製造されたガラスリボンGの幅方向両側の側端部は、成形過程の収縮等の影響により、幅方向の中央部に比べて厚みが大きい部分(以下、「耳部」ともいう)を含む。
【0034】
図1に示すように、切断装置2は、処理装置1の下方で縦姿勢のガラスリボンGを所定の長さ毎に幅方向に切断することにより、ガラスリボンGからガラス板を順次切り出すように構成されている。ガラス板は、切断によって耳部が除去された後、1枚又は複数枚の製品ガラス板が採取されるガラス原板(マザーガラス板)となる。ここで、幅方向は、ガラスリボンGの長手方向(搬送方向)と直交する方向であり、本実施形態では実質的に水平方向と一致する。
【0035】
切断装置2は、スクライブ線形成装置21と、折割装置22と、を備えている。
【0036】
スクライブ線形成装置21は、スクライブ線形成位置P1で、処理装置1から降下してきた縦姿勢のガラスリボンGの第一主面にスクライブ線Sを形成する装置である。本実施形態では、スクライブ線形成装置21は、ガラスリボンGの第一主面にその幅方向に沿ってスクライブ線Sを形成するホイールカッター23と、ホイールカッター23に対応する位置でガラスリボンGの第二主面(第一主面の反対側の面)を支持する支持部材24(例えば支持バーや支持ローラ)と、を備えている。
【0037】
ホイールカッター23及び支持部材24は、降下中のガラスリボンGに追従降下しつつ、ガラスリボンGの幅方向の全域又は一部にスクライブ線Sを形成する構成となっている。本実施形態では、相対的に厚みが大きい耳部を含む側端部にもスクライブ線Sが形成される。なお、スクライブ線Sはレーザの照射等によって形成してもよい。
【0038】
折割装置22は、スクライブ線形成位置P1の下方に設けられた折割位置(切断位置)P2で、スクライブ線Sに沿ってガラスリボンGを折り割ってガラス板を得る装置である。本実施形態では、折割装置22は、スクライブ線Sが形成された領域に第二主面側から当接する折割部材25と、折割位置P2よりも下方でガラスリボンGの下部領域を把持するチャック26と、を備えている。
【0039】
折割部材25は、降下中のガラスリボンGに追従降下しつつ、ガラスリボンGの幅方向の全域又は一部と接触する平面を有する板状体(定盤)から構成されている。折割部材25の接触面は、幅方向に湾曲した曲面であってもよい。
【0040】
チャック26は、ガラスリボンGの幅方向両側の側端部のそれぞれにおいて、ガラスリボンGの長手方向に間隔を置いて複数設けられている。それぞれの側端部に設けられた複数のチャック26は、これら全てが同一のアーム27(
図2を参照)によって保持されている。各々のアーム27の動作により、複数のチャック26が降下中のガラスリボンGに追従降下しつつ、折割部材25を支点としてガラスリボンGを湾曲させるための動作(B方向の動作)を行う。これにより、スクライブ線S及びその近傍に曲げ応力を付与し、ガラスリボンGをスクライブ線Sに沿って幅方向に折り割る。この折り割りによる切断(割断)の結果、ガラスリボンGからガラス板が切り出される。なお、チャック26は、ガラスリボンGを負圧吸着によって保持するなどの他の保持形態に変更してもよい。
【0041】
検知装置3は、ガラスリボンGの破損(例えば割れ、欠けなど)を検知するための装置である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態では、検知装置3は、温度計31と、検知部32と、警報部33と、を備えている。
【0042】
温度計31は、ガラスリボンGの第一主面側に第一主面から離間して配置されている。温度計31の離間距離は、ガラスリボンGの温度を非接触で測定できる範囲で任意に設定できる。
【0043】
検知部32は、温度計31による温度の測定結果に基づいて、ガラスリボンGの破損を自動検知するように構成されている。検知部32は、例えばパーソナルコンピュータなどで構成される。
【0044】
警報部33は、検知部32でガラスリボンGの破損が検知された場合に、警報を発するように構成されている。警報は、音声や表示などで作業者に報知される。なお、警報部33は省略してもよい。
【0045】
上述のように、検知部32において、ガラスリボンGの破損を検知できる原理は次の通りである。例えば、
図3に示すように、ガラスリボンGの切断端面Geを起点として縦割れCが上方に向かって進展すると、
図4に示すように、ガラスリボンGが破損してその一部が落下する。この場合、
図5に示すように、時刻TでガラスリボンGに破損が生じたとすると、破損によりガラスリボンGが無くなるため、温度計31の測定温度は、時刻Tにおいて温度X
0から温度X
1に低下する。したがって、温度計31による温度の測定結果に基づいて、ガラスリボンGの破損を検知できる。しかも、ガラスリボンGが搬送経路上で揺れてもガラスリボンGの温度は変化しにくいため、揺れの影響により破損を誤検知するのを防止できる。よって、ガラスリボンの破損を高精度に検知できる。
【0046】
温度計31は、破損に伴うガラスリボンGの温度変化を非接触で測定できる温度計であれば特に限定されないが、本実施形態では、放射温度計が用いられる。放射温度計の測定波長は、例えば5μm~14μmが使用可能であるが、ガラスの透過・反射の影響を低減する観点では5μm~8.5μmが好ましく、ガラスの透過・反射の影響を低減しつつ水の吸収の影響を防止する観点では7.5μm~8.5μmがより好ましい。なお、温度計31による測定温度は、ガラスリボンGの正確な温度である必要はなく、ガラスリボンGの破損に伴う相対的な温度変化を測定できればよい。
【0047】
図1及び
図2に示すように、温度計31の上下方向の配置位置は、冷却ゾーン13又はその下方であることが好ましい。この領域であれば、ヒータ等の加熱装置が配置されていないため、加熱装置の影響を受けずにガラスリボンGの温度を正確に測定できる。この領域のガラスリボンGの温度は、例えば50~400℃である。
【0048】
本実施形態では、温度計31の上下方向の配置位置は、上記の領域の中で更に限定された領域である。つまり、温度計31の上下方向の配置位置は、冷却ゾーン13よりも下方かつ折割位置P2よりも上方である。この領域であれば、例えば、ガラスリボンGの折り割り時に切断端面Geを起点としてガラスリボンGが破損した場合(
図3及び
図4を参照)や、ガラスリボンGにスクライブ線Sを形成する時にスクライブ線Sを起点としてガラスリボンGが破損した場合などに、ガラスリボンGの破損を早期に検知できる。この領域のガラスリボンGの温度は、例えば50~100℃である。なお、このようにガラスリボンGの切断工程に付随する破損を早期に検知する観点からは、温度計31は、冷却ゾーン13よりも下方かつスクライブ線形成位置P1よりも上方に配置されることが好ましい。
【0049】
図2に示すように、温度計31は、幅方向の複数箇所に配置され、ガラスリボンGの幅方向の複数箇所の温度をスポット測定するように構成されている。温度計31は、少なくともガラスリボンGの幅方向中央部Gcとその両側の幅方向側部Gsの計三箇所で、ガラスリボンGの温度を測定するように構成されていることが好ましい。このようにすれば、ガラスリボンGが幅方向において部分的に破損した場合でも、その破損を確実に検知できる。また、ガラスリボンGの破損の幅方向位置や大きさを判定することもできる。ここで、幅方向中央部Gcは、ガラスリボンGの全幅Wを三等分した中央の領域(幅:W/3)を意味し、幅方向側部Gsは、ガラスリボンGの全幅Wを三等分した両端の領域(幅:W/3)を意味する。ガラスリボンGの全幅Wは、例えば2m~3mである。なお、本実施形態では、幅方向側部Gsに配置された温度計31は、ガラスリボンGの耳部を除外した部分でガラスリボンGの温度を測定するようになっている。もちろん、幅方向側部Gsに配置された温度計31は、ガラスリボンGの耳部の温度のみを測定してもよいし、ガラスリボンGの耳部及び耳部を除外した部分の両方の温度を測定してもよい。
【0050】
次に、以上のように構成されたガラス板製造装置を用いたガラス板製造方法を説明する。
【0051】
本実施形態に係るガラス板製造方法は、成形工程と、搬送工程と、検知工程と、を備えている。搬送工程は、熱処理工程と、冷却工程と、切断工程と、を備えている。
【0052】
成形工程は、成形ゾーン11でガラスリボンGを成形する工程である。
【0053】
搬送工程は、ローラ対14(搬送装置)で成形されたガラスリボンGを搬送する工程である。
【0054】
熱処理工程は、熱処理ゾーン12で成形工程を経たガラスリボンGを搬送しながら、ガラスリボンGに対して熱処理を施す工程である。
【0055】
冷却工程は、冷却ゾーン13で熱処理工程を経たガラスリボンGを搬送しながら冷却する工程である。
【0056】
切断工程は、冷却工程を経たガラスリボンGを搬送しながら、切断装置2によりガラスリボンGを幅方向に切断してガラス板を得る工程である。
【0057】
検知工程は、温度計31によりガラスリボンGの温度を測定し、検知部32で温度計31の測定結果に基づいてガラスリボンGの破損を検知する工程である。
【0058】
本実施形態において、検知部32でガラスリボンGの破損を検知した場合には、警報部33から警報を発する。
【0059】
また、検知部32でガラスリボンGの破損を検知した場合には、切断装置2が備えるスクライブ線形成装置21や折割装置22などが、落下するガラス片によって破損するおそれがある。これを防止するために、切断装置2を手動又は自動で、ガラスリボンGの搬送経路上から退避させる。この際、切断装置2のフレームなどに温度計31を予め取り付けておき、切断装置2と共に温度計31も退避させることが好ましい。
【0060】
ここで、スクライブ線形成装置21や折割装置22は、通常の切断工程において、ガラスリボンGに当接する作業位置と、ガラスリボンGから離反した待機位置との間を移動可能であるが、破損が検知された場合の退避位置は、通常の切断工程における待機位置よりもガラスリボンGから大きく離間することが好ましい。退避位置では、切断装置2に付着したガラス片などを清掃により除去する。これにより、ガラスリボンGの成形を再開し、切断装置2を元の位置に戻した際に、切断装置2に残留するガラス片によってガラスリボンGが再び破損するのを防止できる。
【0061】
以上、本発明の実施形態に係るガラス板製造装置及びその製造方法について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を施すことが可能である。
【0062】
上記の実施形態では、温度計31として放射温度計を使用する場合を例示したが、温度計31として、例えばサーモグラフィ(熱画像装置)を使用してもよい。サーモグラフィを用いれば、ガラスリボンGの幅方向の温度分布を例えば2次元の画像として捉えることができる。この場合、検知部32は、サーモグラフィで測定された熱画像に基づいてガラスリボンGの破損を検知する。
【0063】
上記の実施形態では、温度計31をガラスリボンGのスクライブ線Sが形成されていない第二主面側に配置していたが、スクライブ線Sが形成された第一主面側に配置してもよい。
【0064】
上記の実施形態では、温度計31を搬送方向(上下方向)の一箇所に配置したが、搬送方向の複数箇所に配置し、搬送方向におけるガラスリボンGの温度変化を考慮して破損を検知してもよい。
【0065】
上記の実施形態では、ガラスリボンGをオーバーフローダウンドロー法により成形したが、スロットダウンドロー法やリドロー法などの他のダウンドロー法や、フロート法などにより成形してもよい。
【0066】
上記の実施形態では、ガラスリボンGを幅方向に切断してガラス板を切り出したが、幅方向に切断することなく、ガラスリボンGから耳部を除去した後で巻き取ってロール状の板ガラスを得てもよい。また、ガラスリボンGの切断は、スクライブ割断に限らず、レーザ割断やレーザ溶断などの他の方法により切断してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 処理装置
2 切断装置
3 検知装置
11 成形ゾーン
12 熱処理ゾーン
13 冷却ゾーン
14 ローラ対(搬送装置)
15 成形体
21 スクライブ線形成装置
22 折割装置
23 ホイールカッター
24 支持部材
25 折割部材
26 チャック
27 アーム
31 温度計
32 検知部
33 警報部
G ガラスリボン
P1 スクライブ線形成位置
P2 折割位置
S スクライブ線