(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフおよび分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/54 20060101AFI20231025BHJP
G01N 30/60 20060101ALI20231025BHJP
G01N 30/46 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G01N30/54 D
G01N30/60 D
G01N30/60 P
G01N30/46 E
(21)【出願番号】P 2022501584
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007234
(87)【国際公開番号】W WO2021166255
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】湊 浩之
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 信満
(72)【発明者】
【氏名】馬場 栄里花
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-139323(JP,A)
【文献】特開平05-052835(JP,A)
【文献】特開2011-033419(JP,A)
【文献】登録実用新案第3191627(JP,U)
【文献】国際公開第2014/041597(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/54
G01N 30/60
G01N 30/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パックドカラムが取り付け可能な第1の取付部と、
基板上に分離カラムとして機能する流路を有するチップカラムが取り付け可能な第2の取付部と、
前記第1および第2の取付部を収容するカラムオーブンと、
前記カラムオーブンの温度の指定を受け付ける指定温度受付部と、
前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられていない場合に、前記カラムオーブンの上限温度を第1の温度に設定し、前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられている場合に、前記カラムオーブンの上限温度を前記第1の温度よりも低い第2の温度を設定する設定部と、
前記指定温度受付部により受け付けられた温度が前記設定部により設定された上限温度以下の場合に、前記カラムオーブンの温度を前記指定温度受付部により受け付けられた温度に調整する温度調整部とを備える、液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられているか否かを判定する判定部をさらに備え、
前記設定部は、前記判定部による判定結果に基づいて前記カラムオーブンの上限温度を前記第1の温度または前記第2の温度に設定する、請求項1記載の液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記設定部により設定されるべき前記第1の温度および前記第2の温度の少なくとも一方の指定を受け付ける上限温度受付部をさらに備える、請求項1または2記載の液体クロマトグラフ。
【請求項4】
前記指定温度受付部により受け付けられた温度が前記第2の温度を超えている場合に、前記第2の取付部への前記チップカラムの取り付けが阻害されるように前記第2の取付部を制御する阻害部をさらに備える、請求項1または2記載の液体クロマトグラフ。
【請求項5】
前記指定温度受付部に受け付けられた温度が前記第2の温度を超えている場合において、前記第2の取付部への前記チップカラムの取り付け操作が行われたときに第1の警告を出力する第1の出力部をさらに備える、請求項1または2記載の液体クロマトグラフ。
【請求項6】
前記設定部により上限温度が前記第2の温度に設定されている場合において、前記第2の温度よりも高い温度が前記指定温度受付部により受け付けられたときに第2の警告を出力する第2の出力部をさらに備える、請求項1または2記載の液体クロマトグラフ。
【請求項7】
液体クロマトグラフよる分析方法であって、
パックドカラムが取り付け可能な第1の取付部と、基板上に分離カラムとして機能する流路を有するチップカラムが取り付け可能な第2の取付部とがカラムオーブンに収容され、
前記分析方法は、
前記カラムオーブンの温度の指定を受け付けるステップと、
前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられていない場合に、前記カラムオーブンの上限温度を第1の温度に設定し、前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられている場合に、前記カラムオーブンの上限温度を前記第1の温度よりも低い第2の温度を設定するステップと、
受け付けられた温度が設定された上限温度以下の場合に、前記カラムオーブンの温度を受け付けられた温度に調整するステップとを含む、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフおよび分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフにおいては、分析対象の試料が移動相とともに分離カラムに供給される。分離カラムに導入された試料は、化学的性質または組成の違いにより成分ごとに分離され、移動相とともに検出器に導かれる。検出器においては、分離カラムにより分離された試料が検出される。検出器による検出結果に基づいて、液体クロマトグラムが生成される。
【文献】特表2007-523351号公報
【文献】特開2015-172586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、基板上に形成された流路の一部が分離カラムとして用いられることがある(例えば特許文献1,2参照)。しかしながら、基板上に流路が形成された構造を有する分離カラム(以下、チップカラムと呼ぶ。)の耐熱性は比較的低いため、高温の状況下で試料の分析を行う場合には、チップカラムが破損することがある。したがって、チップカラムの破損を防止するために、液体クロマトグラフの温度管理を適切に行うことが求められる。
【0004】
本発明の目的は、温度管理を適切に行うことが可能な液体クロマトグラフおよび分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、パックドカラムが取り付け可能な第1の取付部と、基板上に分離カラムとして機能する流路を有するチップカラムが取り付け可能な第2の取付部と、前記第1および第2の取付部を収容するカラムオーブンと、前記カラムオーブンの温度の指定を受け付ける指定温度受付部と、前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられていない場合に、前記カラムオーブンの上限温度を第1の温度に設定し、前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられている場合に、前記カラムオーブンの上限温度を前記第1の温度よりも低い第2の温度を設定する設定部と、前記指定温度受付部により受け付けられた温度が前記設定部により設定された上限温度以下の場合に、前記カラムオーブンの温度を前記指定温度受付部により受け付けられた温度に調整する温度調整部とを備える、液体クロマトグラフに関する。
【0006】
本発明の他の態様は、液体クロマトグラフよる分析方法であって、パックドカラムが取り付け可能な第1の取付部と、基板上に分離カラムとして機能する流路を有するチップカラムが取り付け可能な第2の取付部とがカラムオーブンに収容され、前記カラムオーブンの温度の指定を受け付けるステップと、前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられていない場合に、前記カラムオーブンの上限温度を第1の温度に設定し、前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられている場合に、前記カラムオーブンの上限温度を前記第1の温度よりも低い第2の温度を設定するステップと、受け付けられた温度が設定された上限温度以下の場合に、前記カラムオーブンの温度を受け付けられた温度に調整するステップとを含む、分析方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体クロマトグラフの温度管理を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の一実施の形態に係る液体クロマトグラフの構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は
図2の処理装置により実行される温度制御処理のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は
図2の処理装置により実行される温度制御処理のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は上限温度の設定例を示すテーブルである。
【
図6】
図6は上限温度の設定例を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る液体クロマトグラフおよび分析方法について図面を用いて詳細に説明する。以下の説明では、粒子状の充填剤(固定相)が充填された流路を有する分離カラムをパックドカラムと呼ぶ。基板上に流路を有する分離カラムをチップカラムと呼ぶ。基板は、例えば半導体チップまたはセラミックチップにより構成される。チップカラムにおいては、基板上の流路が分離カラムとして機能する。
【0010】
(1)液体クロマトグラフの構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る液体クロマトグラフの構成を示す模式図である。
図1に示すように、液体クロマトグラフ100は、移動相容器10、送液部20、試料供給部30、流路切替部40、カラムオーブン50、三方ジョイント60、検出器70および処理装置80を備える。
【0011】
移動相容器10は、水溶液または有機溶媒等の移動相を貯留する。送液部20は、例えばポンプであり、移動相容器10に貯留された移動相を圧送することにより流路切替部40に導入する。試料供給部30は、例えばサンプルインジェクタであり、送液部20により圧送される移動相に分析対象の試料を供給する。流路切替部40は、例えば導入口41および導出口42,43を有するバルブであり、導入口41に導入された移動相(試料を含む。以下も同様である。)を導出口42または導出口43から選択的に導出する。
【0012】
カラムオーブン50は、取付部51,52を収容する。取付部51,52は、それぞれ第1および第2の取付部の例である。取付部51は、パックドカラム1が取り付け可能に構成される。具体的には、使用者は、スパナ等の工具を用いてナット等の固定器具を締め付けることにより、取付部51にパックドカラム1を取り付けることができる。また、使用者は、工具を用いて固定器具を緩めることにより、取付部51からパックドカラム1を取り外すことができる。
【0013】
取付部52は、チップカラム2が取り付け可能に構成される。具体的には、使用者は、取付部52に設けられた図示しない挿入口からチップカラム2を挿入することにより、取付部52にチップカラム2を取り付けることができる。また、使用者は、取付部52に設けられた図示しない排出ボタンを操作することにより、取付部52からチップカラム2を取り外すことができる。そのため、チップカラム2は、交換またはメンテナンス等の作業性においてパックドカラム1よりも優れる。
【0014】
取付部52には、判定部53が取り付けられる。判定部53は、例えばフォトセンサまたはマイクロスイッチ等のセンサを含み、取付部52にチップカラム2が取り付けられているか否かを判定する。また、判定部53は、判定結果を処理装置80に与える。
【0015】
三方ジョイント60は、導入口61,62および導出口63を有する。流路切替部40の導出口42から導出された移動相は、カラムオーブン50の取付部51に取り付けられたパックドカラム1を通して三方ジョイント60の導入口61に導入される。パックドカラム1は、通過する移動相中の試料の各成分と、当該パックドカラム1および移動相との親和性に依存して異なる時間だけ試料の成分を保持する。
【0016】
流路切替部40の導出口43から導出された移動相は、カラムオーブン50の取付部52に取り付けられたチップカラム2を通して三方ジョイント60の導入口62に導かれる。チップカラム2は、通過する移動相中の試料の各成分と、当該チップカラム2および移動相との親和性に依存して異なる時間だけ試料の成分を保持する。三方ジョイント60は、導入口61または導入口62に導入された移動相を導出口63から導出する。
【0017】
検出器70は、例えば吸光度検出器またはRI(Refractive Index)検出器を含み、三方ジョイント60の導出口63から導出された移動相中の試料の成分を順次検出する。処理装置80は、CPU(中央演算処理装置)またはマイクロコンピュータを含み、送液部20、試料供給部30、流路切替部40、カラムオーブン50および検出器70の動作を制御する。また、処理装置80は、検出器70による検出結果を処理することにより、各成分の保持時間と検出強度との関係を示す液体クロマトグラムを生成する。処理装置80の詳細については後述する。
【0018】
(2)処理装置
図2は、処理装置80の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、処理装置80は、機能部として、上限温度受付部81,82、設定部83、指定温度受付部84、温度調整部85、阻害部86および出力部87,88を含む。処理装置80のCPUが図示しないメモリに記憶された所定のプログラムを実行することにより、処理装置80の機能部が実現される。処理装置80の機能部の一部または全部が電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0019】
上限温度受付部81は、第1の温度の入力を受け付ける。上限温度受付部82は、第1の温度よりも低い第2の温度の入力を受け付ける。上限温度受付部81,82が上限温度受付部の例である。使用者は、液体クロマトグラフ100に設けられたキーボード、ポインティングデバイスまたは操作ボタン等の操作部を操作することにより、第1および第2の温度を上限温度受付部81,82にそれぞれ入力することができる。
【0020】
設定部83は、取付部52にチップカラム2が取り付けられているか否かの判定結果を判定部53から取得する。取付部52にチップカラム2が取り付けられていない場合、設定部83は、カラムオーブン50の上限温度を上限温度受付部81により受け付けられた第1の温度に設定する。一方、取付部52にチップカラム2が取り付けられている場合、設定部83は、カラムオーブン50の上限温度を上限温度受付部82により受け付けられた第2の温度に設定する。
【0021】
指定温度受付部84は、カラムオーブン50の温度の指定を受け付ける。使用者は、液体クロマトグラフ100に設けられた操作部を操作することにより、カラムオーブン50の所望の動作温度を指定温度受付部84に指定することができる。温度調整部85は、指定温度受付部84により受け付けられた温度が設定部83により設定された上限温度以下の場合に、カラムオーブン50の温度を指定温度受付部84により受け付けられた温度に調整する。
【0022】
阻害部86は、指定温度受付部84により受け付けられた温度が第2の温度を超えている場合に、取付部52へのチップカラム2の取り付けが阻害されるように取付部52を制御する。例えば、チップカラム2の挿入口が蓋部材で閉塞されるように取付部52が制御されてもよい。あるいは、挿入口にチップカラム2の一部が挿入された時点で、チップカラム2が挿入口から排出されるように取付部52が制御されてもよい。この構成によれば、指定温度受付部84により受け付けられた温度が第2の温度を超えている場合に、取付部52にチップカラム2が取り付けられることが防止される。
【0023】
出力部87は、指定温度受付部84に受け付けられた温度が第2の温度を超えている場合において、取付部52へのチップカラム2の取り付け操作が行われたときに警告を出力する。この場合、使用者は、取付部52にチップカラム2の取り付ける際に、指定温度受付部84により受け付けられた温度が第2の温度を超えていることを認識することができる。これにより、チップカラム2をより適切に保護することができる。取付部52へのチップカラム2の取り付け操作は、判定部53による判定結果に基づいて検出されてもよいし、チップカラム2の挿入口の蓋部材が操作されることに基づいて検出されてもよい。
【0024】
出力部87が第1の出力部の例である。出力部87による警告として、液体クロマトグラフ100が表示装置を含む場合には、「指定温度が上限温度を超えています。指定温度を変えて下さい。」等の文字列が表示されてもよい。あるいは、液体クロマトグラフ100が音声出力装置を含む場合には、同様の内容を示す音声が出力されてもよいし、ブザー等の警告音が出力されてもよい。液体クロマトグラフ100がランプ等の表示灯を含む場合には、警告の内容に対応する態様で表示灯が点灯、消灯または点滅されてもよい。
【0025】
出力部88は、設定部83により上限温度が第2の温度に設定されている場合において、第2の温度よりも高い温度が指定温度受付部84により受け付けられたときに警告を出力する。この場合、使用者は、上限温度よりも高い温度を指定したことを容易に認識することができる。これにより、使用者は、適切な温度を指定温度受付部84に容易に指定することができる。
【0026】
出力部88が第2の出力部の例である。出力部88による警告の態様は、出力部87による警告の態様と同様であってもよい。あるいは、出力部88による警告として、「指定温度が上限温度を超えています。チップカラムを取り外して下さい」等の文字列または音声が出力されてもよい。
【0027】
(3)温度制御処理
図3および
図4は、
図2の処理装置80により実行される温度制御処理のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
図5および
図6は、上限温度の設定例を示すテーブルである。以下、
図2~
図6を用いて温度制御処理を説明する。
【0028】
まず、上限温度受付部81は、第1の温度が入力されたか否かを判定する(ステップS1)。使用者は、操作部を操作することにより第1の温度を入力することができる。第1の温度が入力された場合、上限温度受付部81は、入力された第1の温度を記憶する(ステップS2)。ステップS1で第1の温度が入力されていない場合、またはステップS2で第1の温度が記憶された場合、上限温度受付部81は、ステップS3に進む。
【0029】
ステップS3で、上限温度受付部82は、第2の温度が入力されたか否かを判定する(ステップS3)。使用者は、操作部を操作することにより第2の温度を入力することができる。第2の温度が入力された場合、上限温度受付部82は、入力された第2の温度を記憶する(ステップS4)。ステップS3で第2の温度が入力されていない場合、またはステップS4で第2の温度が記憶された場合、上限温度受付部82は、ステップS5に進む。
【0030】
ステップS5で、設定部83は、第1および第2の温度が記憶済みであるが否かを判定する(ステップS5)。
図5および
図6の例では、第1および第2の温度として60℃および50℃がそれぞれ記憶されている。第1および第2の温度が記憶済みでない場合、設定部83は、ステップS9に進む。第1および第2の温度が記憶済みである場合、設定部83は、取付部52にチップカラム2が取り付けられているか否かを判定する(ステップS6)。本例では、設定部83は、判定部53から判定結果を取得することによりステップS6を実行する。
【0031】
取付部52にチップカラム2が取り付けられていない場合(
図5)、設定部83は、上限温度をステップS2で記憶された第1の温度に設定し(ステップS7)、ステップS9に進む。一方、取付部52にチップカラム2が取り付けられている場合(
図6)、設定部83は、上限温度をステップS4で記憶された第2の温度に設定し(ステップS8)、ステップS9に進む。
【0032】
ステップS9で、指定温度受付部84は、カラムオーブン50の動作温度が指定されたか否かを判定する(ステップS9)。使用者は、操作部を操作することにより動作温度を指定することができる。動作温度が指定された場合、指定温度受付部84は、指定された動作温度を指定温度として設定する(ステップS10)。ステップS9で動作温度が指定されていない場合、またはステップS10で指定温度が設定された場合、指定温度受付部84は、ステップS11に進む。
【0033】
ステップS11で、温度調整部85は、上限温度および指定温度が設定済みであるか否かを判定する(ステップS11)。上限温度および指定温度が設定済みでない場合、温度調整部85は、ステップS1に戻る。上限温度および指定温度が設定されるまで、ステップS1~S11が繰り返される。この繰り返しの工程において、第1の温度、第2の温度または動作温度が変更された場合には、上限温度または指定温度の設定が更新される。以後の繰り返しの工程においても同様である。
【0034】
上限温度および指定温度が設定済みである場合、温度調整部85は、ステップS10で設定された指定温度がステップS7またはステップS8で設定された上限温度以下であるか否かを判定する(ステップS12)。指定温度が上限温度以下でない場合、出力部88は、警告を出力し(ステップS13)、ステップS1に戻る。使用者は、警告を認識することにより、第1の温度、第2の温度もしくは動作温度の変更またはチップカラム2の取り外し等の対処を行うことができる。
【0035】
指定温度が上限温度以下である場合、温度調整部85は、カラムオーブン50の温度を指定温度に調整する(ステップS14)。また、温度調整部85は、上限温度が第1の温度であるか否かを判定する(ステップS15)。上限温度が第1の温度でない場合、温度調整部85はステップS1に戻る。なお、上限温度が第1の温度でないことは、上限温度が第2の温度であり、取付部52にチップカラム2が取り付けられていることを意味する(
図6)。
【0036】
上限温度が第1の温度である場合、すなわち取付部52にチップカラム2が取り付けられていない場合(
図5)、温度調整部85は、指定温度が第2の温度以下であるか否かを判定する(ステップS16)。指定温度が第2の温度以下である場合、温度調整部85はステップS1に戻る。指定温度が第2の温度以下でない場合、温度調整部85は、取付部52へのチップカラム2の取り付け操作が行われたか否かを判定する(ステップS17)。
【0037】
チップカラム2の取り付け操作が行われていない場合、温度調整部85はステップS1に戻る。一方、チップカラム2の取り付け操作が行われた場合、阻害部86は、取付部52へのチップカラム2の取り付けを阻害するように取付部52を制御する(ステップS18)。この場合、取付部52にチップカラム2が取り付けられることが防止される。これにより、チップカラム2を適切に保護することができる。
【0038】
また、出力部87は、警告を出力し(ステップS19)、ステップS1に戻る。使用者は、警告を認識することにより、指定温度が上限温度を超えていることを容易に理解することができる。また、使用者は、第1の温度、第2の温度または動作温度の変更等の対処を行うことができる。ステップS18,S19は、いずれが先に実行されてもよいし、同時に実行されてもよい。
【0039】
(4)効果
本実施の形態に係る液体クロマトグラフ100においては、パックドカラム1が取り付け可能な取付部51と、チップカラム2が取り付け可能な取付部52とがカラムオーブン50に収容される。カラムオーブン50の温度の指定が指定温度受付部84により受け付けられる。
【0040】
ここで、取付部52にチップカラム2が取り付けられていない場合に、カラムオーブン50の上限温度が設定部83により第1の温度に設定される。また、取付部52にチップカラム2が取り付けられている場合に、カラムオーブン50の上限温度が設定部83により第1の温度よりも低い第2の温度に設定される。指定温度受付部84により受け付けられた温度が設定部83により設定された上限温度以下の場合に、温度調整部85によりカラムオーブン50の温度が受け付けられた温度に調整される。
【0041】
この構成によれば、取付部52にチップカラム2が取り付けられていない場合には、カラムオーブン50の上限温度が第1の温度に設定される。この場合、取付部51にパックドカラム1を取り付けることにより、高温の状況下でも、試料の分析を行うことができる。
【0042】
一方、取付部52にチップカラム2が取り付けられている場合には、カラムオーブン50の上限温度が第2の温度に設定される。そのため、高温の状況下でチップカラム2が使用されることが防止され、パックドカラム1およびチップカラム2のいずれを用いた場合でも試料の分析を行うことができる。このように、液体クロマトグラフ100の温度管理を適切に行うことができる。
【0043】
(5)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、流路切替部40は、導入口41に導入された移動相を導出口42または導出口43から選択的に導出するが、実施の形態はこれに限定されない。流路切替部40は、導入口41に導入された移動相を導出口42および導出口43から同時に導出してもよい。この場合、パックドカラム1を用いた試料の分析と、チップカラム2を用いた試料の分析とを同時に行うことができる。
【0044】
(b)上記実施の形態において、設定部83は、判定部53による判定結果に基づいてカラムオーブン50の上限温度を第1の温度または第2の温度に設定するが、実施の形態はこれに限定されない。例えば、設定部83は、使用者から取付部52にチップカラム2が取り付けられるか否かの通知を取得し、通知の結果に基づいてカラムオーブン50の上限温度を第1の温度または第2の温度に設定してもよい。この場合、液体クロマトグラフ100は判定部53を含まなくてもよい。
【0045】
(c)上記実施の形態において、処理装置80は上限温度受付部81,82の両方を含むが、実施の形態はこれに限定されない。第1の温度に基づいて第2の温度が設定される場合、または第2の温度が予め定められている場合には、処理装置80は上限温度受付部82を含まなくてもよい。第2の温度に基づいて第1の温度が設定される場合、または第1の温度が予め定められている場合には、処理装置80は上限温度受付部81を含まなくてもよい。第1および第2の温度の両方が予め定められている場合には、液体クロマトグラフ100は上限温度受付部81,82の両方を含まなくてもよい。
【0046】
(d)上記実施の形態において、処理装置80は阻害部86および出力部87の両方を含むが、実施の形態はこれに限定されない。処理装置80は、阻害部86および出力部87のいずれか一方を含まなくてもよいし、阻害部86および出力部87の両方を含まなくてもよい。
【0047】
(e)上記実施の形態において、処理装置80は出力部88を含むが、実施の形態はこれに限定されない。処理装置80は出力部88を含まなくてもよい。
【0048】
(6)態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0049】
(第1項)一態様に係る液体クロマトグラフは、
パックドカラムが取り付け可能な第1の取付部と、
基板上に分離カラムとして機能する流路を有するチップカラムが取り付け可能な第2の取付部と、
前記第1および第2の取付部を収容するカラムオーブンと、
前記カラムオーブンの温度の指定を受け付ける指定温度受付部と、
前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられていない場合に、前記カラムオーブンの上限温度を第1の温度に設定し、前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられている場合に、前記カラムオーブンの上限温度を前記第1の温度よりも低い第2の温度を設定する設定部と、
前記指定温度受付部により受け付けられた温度が前記設定部により設定された上限温度以下の場合に、前記カラムオーブンの温度を前記指定温度受付部により受け付けられた温度に調整する温度調整部とを備えてもよい。
【0050】
この液体クロマトグラフにおいては、パックドカラムが取り付け可能な第1の取付部と、基板上に分離カラムとして機能する流路を有するチップカラムが取り付け可能な第2の取付部とがカラムオーブンに収容される。カラムオーブンの温度の指定が指定温度受付部により受け付けられる。第2の取付部にチップカラムが取り付けられていない場合に、カラムオーブンの上限温度が設定部により第1の温度に設定される。また、第2の取付部にチップカラムが取り付けられている場合に、カラムオーブンの上限温度が設定部により第1の温度よりも低い第2の温度に設定される。指定温度受付部により受け付けられた温度が設定部により設定された上限温度以下の場合に、温度調整部によりカラムオーブンの温度が受け付けられた温度に調整される。
【0051】
この構成によれば、第2の取付部にチップカラムが取り付けられていない場合には、カラムオーブンの上限温度が第2の温度よりも高い第1の温度に設定される。この場合、第1の取付部にパックドカラムを取り付けることにより、高温の状況下でも、試料の分析を行うことができる。一方、第2の取付部にチップカラムが取り付けられている場合には、カラムオーブンの上限温度が第2の温度に設定される。そのため、高温の状況下でチップカラムが使用されることが防止され、パックドカラムおよびチップカラムのいずれを使用した場合でも試料の分析を行うことができる。このように、液体クロマトグラフの温度管理を適切に行うことができる。
【0052】
(第2項)第1項に記載の液体クロマトグラフは、
前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられているか否かを判定する判定部をさらに備え、
前記設定部は、前記判定部による判定結果に基づいて前記カラムオーブンの上限温度を前記第1の温度または前記第2の温度に設定してもよい。
【0053】
この場合、設定部は、カラムオーブンの上限温度を第1の温度または第2の温度に容易に設定することができる。
【0054】
(第3項)第1項または第2項に記載の液体クロマトグラフは、
前記設定部により設定されるべき前記第1の温度および前記第2の温度の少なくとも一方の指定を受け付ける上限温度受付部をさらに備えてもよい。
【0055】
この場合、カラムオーブンの上限温度を任意の温度に設定することができる。
【0056】
(第4項)第1項~第3項のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフは、
前記指定温度受付部により受け付けられた温度が前記第2の温度を超えている場合に、前記第2の取付部への前記チップカラムの取り付けが阻害されるように前記第2の取付部を制御する阻害部をさらに備えてもよい。
【0057】
この構成によれば、指定温度受付部により受け付けられた温度が第2の温度を超えている場合に、第2の取付部にチップカラムが取り付けられることが防止される。これにより、チップカラムをより適切に保護することができる。
【0058】
(第5項)第1項~第4項のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフは、
前記指定温度受付部に受け付けられた温度が前記第2の温度を超えている場合において、前記第2の取付部への前記チップカラムの取り付け操作が行われたときに第1の警告を出力する第1の出力部をさらに備えてもよい。
【0059】
この場合、使用者は、第2の取付部にチップカラムの取り付ける際に、指定温度受付部により受け付けられた温度が第2の温度を超えていることを認識することができる。これにより、チップカラムをより適切に保護することができる。
【0060】
(第6項)第1項~第5項のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフは、
前記設定部により上限温度が前記第2の温度に設定されている場合において、前記第2の温度よりも高い温度が前記指定温度受付部により受け付けられたときに第2の警告を出力する第2の出力部をさらに備えてもよい。
【0061】
この場合、使用者は、上限温度よりも高い温度を指定したことを容易に認識することができる。これにより、使用者は、適切な温度を指定温度受付部に容易に指定することができる。
【0062】
(第7項)他の態様に係る分析方法は、
液体クロマトグラフよる分析方法であって、
パックドカラムが取り付け可能な第1の取付部と、基板上に分離カラムとして機能する流路を有するチップカラムが取り付け可能な第2の取付部とがカラムオーブンに収容され、
分析方法は、
前記カラムオーブンの温度の指定を受け付けるステップと、
前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられていない場合に、前記カラムオーブンの上限温度を第1の温度に設定し、前記第2の取付部に前記チップカラムが取り付けられている場合に、前記カラムオーブンの上限温度を前記第1の温度よりも低い第2の温度を設定するステップと、
受け付けられた温度が設定された上限温度以下の場合に、前記カラムオーブンの温度を受け付けられた温度に調整するステップとを含んでもよい。
【0063】
この分析方法によれば、第2の取付部にチップカラムが取り付けられていない場合には、カラムオーブンの上限温度が第2の温度よりも高い第1の温度に設定される。この場合、第1の取付部にパックドカラムを取り付けることにより、高温の状況下でも、試料の分析を行うことができる。一方、第2の取付部にチップカラムが取り付けられている場合には、カラムオーブンの上限温度が第2の温度に設定される。そのため、高温の状況下でチップカラムが使用されることが防止される。このように、液体クロマトグラフの温度管理を適切に行うことができる。