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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】芳香具および芳香供給装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/12 20060101AFI20231025BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
A61L9/12
A61L9/01 Q
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019125576
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020203061
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】519106378
【氏名又は名称】京都ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507277103
【氏名又は名称】株式会社アイ・イー・ジェー
(73)【特許権者】
【識別番号】000248819
【氏名又は名称】株式会社松栄堂
(72)【発明者】
【氏名】島田 元夫
(72)【発明者】
【氏名】藤本 悌志
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-011992(JP,U)
【文献】特開昭54-030261(JP,A)
【文献】登録実用新案第3095882(JP,U)
【文献】登録実用新案第3069064(JP,U)
【文献】特開平03-277368(JP,A)
【文献】特開平05-222231(JP,A)
【文献】実開平04-110735(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00 - 9/22
B65D 30/00 - 33/38
C08J 9/00 - 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライスされたウレタンフォームからなり、前記スライスされた表面に開放された気泡が存在し、静置して空気中に香気を発散する芳香具であって、
前記ウレタンフォームが、ウレタンフォームの原料中に香料成分を担持した担持体粒子が配合されて製造されており、
前記香料成分を担持した担持体粒子は、香料成分と担持体粒子が一体化された、甘松香、白檀、カッ香、冷陵香、安息香、乳香、桂皮、丁字、大茴香、貝香、沈香、伽羅から選択される天然香料を粉砕した粒子であり、
前記香料成分を担持した担持体粒子は、平均粒子径が1μm以上500μm以下であり、前記ウレタンフォームに30質量%以上、40質量%以下配合され、
前記ウレタンフォームのフォーム密度は、0.38g/cm 以上、0.50g/cm 以下であり、
前記ウレタンフォームのスライス表面において、前記開放された気泡の占める面積がスライス表面の全表面積に対して30%以上、80%以下であり、
前記香料成分を担持した担持体粒子は、前記ウレタンフォーム中に溶解せず分散されていることを特徴とするウレタンフォームからなる芳香具。
【請求項2】
前記ウレタンフォームの独立気泡率が7%以上、50%以下である請求項1記載の芳香具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の芳香具、送風器およびハウジングからなり、芳香具によりハウジング内で発生した芳香を送風器によりハウジングの外に供給する芳香供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香具および芳香供給装置に関する。詳しくは、香料を担持した特定の担持体を含むスライスされたウレタンフォームからなる芳香具および芳香供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、芳香具が色々なところで使用されており、香料溶液を吸い上げて揮発させる方法や、吸水体に香料を吸収させて徐放させる方法の製品が主流となっている。
また、色々な形状に加工できるものとして香料を含浸させたウレタンフォームなどの発泡体が提案されている。たとえば、親水性ポリウレタン発泡体に香料が配合されて、該発泡体の表面が発泡体内部中央よりも香料密度が高くなっている香料含有具(特許文献1)、芳香剤を収納したマイクロカプセルをポリウレタンフォームの気泡膜または骨格内に分散させた芳香ポリウレタンフォーム(特許文献2)、および実質的に独立気泡の熱可塑性フォームであって、押出時に添加された芳香剤を含んだ芳香性の押出熱可塑性フォーム(特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-159568号公報
【文献】特開平5-222231号公報
【文献】特開平5-286009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、最初の香料含有具は香料の表面濃度が高く最初の香気は大きいけれども長期的には十分満足いくものではないという問題がある。二番目のマイクロカプセルを含むポリウレタンフォームはマイクロカプセルに刺激を与えて殻を破らない限りは香気を発散しないので、放置するだけでは香気が弱いという問題がある。三番目の芳香性の熱可塑性フォームを香料がそのままフォーム中に含有されるので初期の香気が大きくても長期的には十分満足できるものではないという問題がある。
色々な形状に加工できるものであって、初期はもちろん長期的にも十分満足できる香気を発散する芳香具および芳香供給装置が望まれていた。
【0005】
本発明の目的は、色々な形状に加工できるウレタンフォームを用いて形成された、長期間芳香を供給する芳香具および芳香供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究の結果、香料を担持した特定の担持体を含むウレタンフォームをスライスしたものを用いて形成された芳香具が色々な形状に加工できると共に長期間香気を発散することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1記載の発明は、
スライスされたウレタンフォームからなり、前記スライスされた表面に開放された気泡が存在し、静置して空気中に香気を発散する芳香具であって、
前記ウレタンフォームが、ウレタンフォームの原料中に香料成分を担持した担持体粒子が配合されて製造されており、
前記香料成分を担持した担持体粒子は、香料成分と担持体粒子が一体化された、甘松香、白檀、カッ香、冷陵香、安息香、乳香、桂皮、丁字、大茴香、貝香、沈香、伽羅から選択される天然香料を粉砕した粒子であり、
前記香料成分を担持した担持体粒子は、平均粒子径が1μm以上500μm以下であり、前記ウレタンフォームに30質量%以上、40質量%以下配合され、
前記ウレタンフォームのフォーム密度は、0.38g/cm 以上、0.50g/cm 以下であり、
前記ウレタンフォームのスライス表面において、前記開放された気泡の占める面積がスライス表面の全表面積に対して30%以上、80%以下であり、
前記香料成分を担持した担持体粒子は、前記ウレタンフォーム中に溶解せず分散されていることを特徴とするウレタンフォームからなる芳香具である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記香料成分を担持した担持体粒子は、前記ウレタンフォームの質量に対して10質量%以上、40質量%以下配合されていることを特徴とする請求項1記載のウレタンフォームからなる芳香具である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記ウレタンフォームのスライス表面において、前記開放された気泡の占める面積がスライス表面の全表面積に対して30%以上、80%以下であることを特徴とする請求項1または2記載のウレタンフォームからなる芳香具である。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の芳香具、送風器およびハウジングからなり、芳香具によりハウジング内で発生した芳香を送風器によりハウジングの外に供給する芳香供給装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明における香料成分を担持した担持体を含むスライスされたウレタンフォームを用いて形成された芳香具および芳香供給装置は、色々な形状に加工できると共に長期間香気を発散することができる。ここで本発明において長期間とは、半年間や1年間をいうのではなく、1ケ月間や2ケ月間の程度をいうものとする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】 Keyence社のdigital micr oscope VHXー500を用いて測定した、本発明の一実施形態であるウレタンフォームのスライス表面を拡大した写真である。
図2】 本発明の一実施形態の芳香供給装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態につき、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0014】
(担持体粒子)
本発明の芳香具に適用される担持体粒子としては、香料成分(以下、単に香料という場合がある)を担持する材料の粒子であれば限定はないが、繊維状体、多孔質体などの粉砕物が挙げられる。繊維状体としては、たとえば、芳香剤を担持できる編織物などの布、フェルトなどの不織布又は木などの天然繊維や合成繊維などが挙げられ、多孔質体としては、ゼオライト、シリカゲル、活性炭、多孔質セラッミックなど、および香料を担持することができる合成樹脂製スポンジなどが挙げられる。好ましいのは繊維状体の粉砕物である。
【0015】
担持体粒子は、ウレタンフォーム中に溶解せず分散する。担持体粒子がウレタンフォームに溶解すると担持している香料が容易に揮散しやすくなり長期間の香気発散を維持できなくなる。
【0016】
担持体粒子は、平均粒子径が1μm以上500μm以下である。平均粒子径が1μm未満であると担持された香料がウレタンフォーム製造時に担持体粒子から出やすく、長期間の香気発散が期待できにくい。500μmを超えると、担持体粒子の奥にある香料が出にくく香気が弱くなり香気を感知できにくくなる。また、担持体粒子がウレタンフォームに均一に分散しにくく、そのため気泡の分散の粒子が大きすぎてウレタンフォームをスライスした表面の外観が不良となる。好ましくは10μm以上400μm以下である。この範囲内であるとさらに担持体粒子が均一に分散し香気発散を長期間持続できる。特に好ましくは50μm以上300μm以下である。
【0017】
担持体粒子の融点は100℃以上であるのが好ましい。担持体粒子の融点が100℃以上であると、ウレタンフォーム製造時に担持体粒子が溶融しないので、それによる香料の溶出はなく長期間香気の発散を維持できる。好ましくは110℃以上である。
【0018】
(香料)
本発明で用いられる香料としては、通常用いられる香料が用いられる。たとえば、天然香料及び合成香料のいずれを用いてもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。
香料成分の具体例としては、たとえば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、タンジェリン、マンダリン及びベルガモットなどの柑橘類精油類;ペパーミント油、スペアミント油、シンナモン油、オールスパイス、アニスシード、バジル、ローレル、カルダモン、セロリ、クローブ、ナツメ、クミン、ディル、ガーリック、ジンジャー、メース、マスタード、オニオン、パプリカ、ローズマリー、ビャクダン油などのスパイス油類などの植物精油類;コーラナッツ、コーヒー、ワニラ、ココア、紅茶、緑茶、ウーロン茶、香辛料などの油溶性抽出物または水蒸気蒸留により得られる油層部、さらに、リモネン、リナロール、ネロール、シトロネロール、ゲラニオール、シトラール、l-メントール、オイゲノール、シンナミックアルデヒド、アネトール、ペリラアルデヒド、バニリン、γ-ウンデカラクトン、カプロン酸アリル、l-カルボン、マルトール、アリルイソチオシアネートなどの合成香料化合物などをあげることができるがこれらに限定されない。これら柑橘類精油、植物精油類、合成香料などを任意の割合で混合した調合香料組成物及びこれらの任意の混合物などが挙げられる。
【0019】
(香料を担持した担持体粒子)
香料を担持した担持体粒子は、担持体粒子に香料オイルや粉末香料を溶剤に溶解したものを含浸し必要により乾燥することによって得られる。たとえば、檜オイルやラベンダー香料など上記の香料成分を布、木などの繊維塊またはその粉砕物、ゼオライトやシリカなどの多孔質体またはその粉砕物に含浸して必要により乾燥したものなどが挙げられる。
【0020】
また、天然香料は天然の担持体自体が香料成分を含んでいるものもあり、これを粉末状などの粒子に粉砕したものも既に香料を担持しているので、本発明の香料を担持した担持体粒子に含める。このような粉末の天然香料の担持体粒子としては、たとえば、香木・漢薬粉末、コーヒー粉末や茶粉末、竹粉末、オレンジピール粉末などの天然粉末などが挙げられる。ここで香木・漢薬としては、甘松香、白檀、カッ香、冷陵香、安息香、乳香、桂皮、丁字、大茴香、貝香、沈香、伽羅などが挙げられる。
【0021】
担持体粒子中の香料成分の割合は特に限定はないが、好ましくは香料を担持した担持体粒子の全体の質量に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましい。この範囲内であれば長期間香気の発散を維持できる。好ましくは5質量%以上40質量%以下である。
【0022】
(芳香具)
芳香具は香料を担持した担持体粒子を含むウレタンフォームのスライス品である。
ウレタンフォームは、ポリオール(a)および/もしくはポリアミン(b)とポリイソシアネート(c)を発泡反応させて得られる。
【0023】
ウレタンフォームは、製造時に香料を担持した担持体粒子を混合するが、そのことを除けば従来の製造法と同様に、ポリオールとポリイソシアネートとを、触媒、整泡剤、発泡剤および添加材の存在下で反応させて製造できる。上記の香料を担持した担持体粒子はポリオールやポリアミンなどの原料中に混合して製造される。
【0024】
ポリオールとしては従来ウレタンフォームに使用されているポリオールが使用できる。通常、ポリオール化合物は、2個または3個以上の活性ヒドロキシ基を有する化合物で、たとえば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールおよびポリマーポリオールなどが挙げられる。
【0025】
ポリエーテルポリオールとしては、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの多価アルコール;ピロガロール、ハイドロキノンなどの多価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、などのビスフェノール;アルキレンジアミン(プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなど)、ポリアルキレンポリアミン(ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなど)、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなど)などの脂肪族アミン;アニリン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族アミン;イソホロンジアミン、シクロヘキシレンジアミンなどの脂環式アミン;アミノエチルピペラジンなどの複素脂環式アミンなどの活性水素化合物にアルキレンオキサイドを付加した化合物が挙げられる。これらの活性水素化合物は2種以上の混合物であってもよい。
【0026】
これらのうち好ましいものは、多価アルコールおよび多価フェノールのアルキレンオキサイド付加物である。該活性水素化合物に付加するアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキサイドおよびこれら2種以上の混合物が挙げられる。これらのうちで好ましいものは、EO、POおよびこれらの混合物である。
【0027】
ポリエステルポリオールとしては、たとえば、多価アルコール(前記の2価アルコールおよびトリメチロールプロパン、グリセリンなど)と多塩基酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、ダイマー酸などの脂肪族ポリカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、ダイマー酸、トリメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸など)とを反応させて得られる縮合ポリエステルポリオール、ε-カプロラクトンなどのラクトンを開環重合して得られるポリラクトンポリオールなどが挙げられる。これらのポリエステルポリオールは2種以上を併用してもよい。これらのうちで好ましいものは、2価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコールおよび1,4-ブタンジオールなど)とフタル酸やアジピン酸などとを縮合反応して得られるポリエステルポリオールである。
【0028】
ポリマーポリオールは、上記のポリエーテルポリオールに、アクリロニトリル、スチレン、アルキルメタクリレートなどのビニル化合物をグラフト重合させたものである。ポリマーポリオール中のビニル化合物の含有量は、ポリマーポリオールを100重量%とした場合に、10重量%以上50重量%以下のものが使用されるが、20重量%以上であるものが、硬さの向上効果を得るためには好ましい。
【0029】
また、ポリマーポリオールのEO率は、2%以上30%以下であればよく、2.5%以上20%以下であることが好ましく、3%以上15%以下であることがより好ましい。また、ポリマーポリオールの官能基数は、2~4であることが好ましく、特に、3であることが好ましい。ここでEO率とは、アルキレンオキサイド単位の全量を100質量%とした場合のエチレンオキサイド単位の質量含有率をいう。
【0030】
ポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオールが好ましい。より好ましくは末端がエチレンオキシド付加のポリエーテルポリオールである。
【0031】
ポリイソシアネートとしては、ポリウレタンの製造に用いるものであればよい。これらのポリイソシアネートは、単独でも複数を併用してもよく、それらのヌレート変性、プレポリマー変性、ウレトジオン変性等の変性をした変性体を用いてもよく、複数のポリイソシアネートや変性体をそれぞれ併用してもよい。
具体的には、たとえば、2,4-または2,6-トルエンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、ジフェニルメタン-2,4’-または4,4’-ジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(粗製MDI)、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート(NDI)の芳香族ポリイソシアネート;1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,4-シクロヘキシルジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート;およびこれらの変性物(たとえば、カルボジイミド変性、アロファネート変性、ウレア変性、ビューレット変性、イソシアヌアレート変性、オキサゾリドン変性など)、イソシアネート基末端プレポリマーなどが挙げられる。変性ポリイソシアネートの具体例としては、カルボジイミド変性MDI、ショ糖変性TDI、ひまし油変性MDIなどが挙げられる。これらのうちで好ましいものは、MDI、TDI、カルボジイミド変性MDIおよびショ糖変性TDIおよびそれらのプレポリマーである。
【0032】
ウレタンフォームを製造する場合のポリイソシアナートの使用量は、通常のウレタンフォームの場合とほぼ同様であり、NCO/OH(モル比)は、好ましくは0.7以上5.0以下、より好ましくは1.0以上3.0以下、特に好ましくは1.0以上1.4以下である。
【0033】
触媒としては、通常ウレタン発泡に用いられる公知の触媒のすべてを使用することができる。たとえば、アミン系触媒[トリエチレンジアミン、テトラメチルヘキサメチレンジアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N-エチルモノホリン、ジメチルエタノールアミン、1,8-ジアザビシクロ-(5,4,0)-ウンデセン-7など];金属触媒(オクチル酸第一スズ、ジラウリル酸ジブチル第二スズ、オクチル酸鉛など)、炭素数1~8である脂肪族モノカルボン酸アルカリ金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、オクチル酸カリウム、オクチル酸ナトリウムなど)などが挙げられる。触媒の使用量は特に限定されないが、ポリオールの質量に基づいて好ましくは0.1質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。
【0034】
発泡剤としては、たとえば水、二酸化炭素ガス、炭化水素類、ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC類)、ハイドロフルオロカーボン類(HFC類)、ハイドロフルオロエーテル類(HFE類)が挙げられる。これら発泡剤は、単独で使用してもよいが、複数を併用して用いてもよい。たとえば水と二酸化炭素、水とメタン、エタン、プロパン、ペンタン、イソペンタン、シクロペンタンなど低沸点炭化水素類、水とハロゲン化炭化水素などを併用することができる。
発泡剤の量は、全ポリオール成分の質量に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下用いることができ、より好ましくは0.3質量%以上9.5質量%以下である。
【0035】
整泡剤とは、水を均一に分散させ、均一な、しかも、独立気泡率の高い細かい泡構造の製品を得るために用いられるものである。かかる整泡剤としてはポリオキシアルキレンシリコーンポリマーなどのシリコーン化合物がある。
【0036】
香料を担持した担持体粒子は、ウレタンフォーム全体の10質量%以上、40質量%以下配合されるのが好ましい。10質量%以上であると、芳香具は長期間香気を発散する。40質量%以下であると、これ以上であっても香気の発散持続が向上せず経済的である。
【0037】
さらにウレタンフォームには、その他の添加材、たとえば、可塑剤、ヒアルロン酸、コエンザイムQ10,AHA桃の葉エキス、AHAアロエエキス、備長炭、尿素、シルク、活性炭、ポリトン色素、抗菌剤、防黴剤などを混入してもよい。
【0038】
ウレタンフォーム製造時の反応温度は室温~90℃である場合が多い。担持体粒子の融点が100℃以上であると反応温度よりも10℃程度以上高いので担持体粒子は固体のままで残り、製造時には香料は担持体粒子内に留まりやすい。ウレタンフォーム製造時の反応温度は使用する材料、触媒などにより変わるので、製造時の反応温度より10℃以上高い融点をもつ担持体粒子を選定すればよい。
【0039】
ウレタンフォームの製造法としては、ウレタンフォームの通常の製造法が適用できる。たとえば、まず、ポリオール、香料を担持した担持体粒子、発泡剤、整泡剤、触媒およびその他の添加剤を所定量混合する。香料を担持した担持体粒子の投入時期に定はないが、ポリオール中で混合したものを使用するのが担持体粒子の分散性が良好となるので好ましい。次にこの混合物(レジンプレミックスという)とポリイソシアネートとをポリウレタン発泡機又は攪拌機に投入して急速混合する。得られた混合液を任意の開放系の容器に注入しフリー発泡する。所定時間後容器から取り出すとウレタンフォームが得られる。
【0040】
ウレタンフォームは軟質でも硬質でも半硬質でもよく、香気の発散性はウレタンフォームの性状には大きく影響を受けにくい。
ウレタンフォームのフォーム密度は0.05g/cm以上、0.50g/cm以下が好ましい。0.05g/cm以上であると加工性、香気の発散性が良好であり、0.50g/cm以下であると独立気泡率が大きくなりすぎず香気の発散性が良好である。
【0041】
ウレタンフォームの独立気泡率は7%以上、50%以下が好ましい。より好ましくは10%以上30%以下である。50%以下であるとウレタンフォーム中の気泡の連通化率は50%以上になりやすく、担持体粒子に含まれる香料が気泡中に入り連通気泡を通して徐々に外部に発散することができる。
【0042】
上記のようにして製造されたウレタンフォームは、適当な厚さにスライスされ加工されて芳香具として仕上げられる。芳香具の大きさ、形状は特に限定はなく、用途によって決めることができる。
【0043】
スライスの方法については特に限定されるものではない。たとえば、スライスは、ゴムなどをスライスする装置が適用できる。移動テーブルまたはコンベアー上にウレタンフォームを載せて、水平回転する刃物(バンドナイフ/鋸)により水平方向にスライス裁断加工して製造できる。
【0044】
スライスされたものの厚さも用途によって決められ限定はないが、好ましくは、1mm以上50mm以下である。スライサーのナイフにより気泡を囲む殻が切断されて凹部が生じ開放された気泡となる。種々の形状、大きさの気泡が散在するが、気泡は球状になりやすい。この球状の気泡がスライスされると円形状となる。気泡の大きさ(径)は1μm以上500μm以下が好ましく、30μm以上400μm以下がより好ましい。
【0045】
スライスされた表面の開放された気泡の占める面積がスライス表面の全表面積に対して30%以上、80%以下であるのが好ましい。30%以上であると長期間香気の発散が可能となる。80%以下であると、ウレタンフォーム表面が空気に接触する面積が十分であり、香気を長期間発散することができる。さらにウレタンフォームの形状が崩れず形態を維持することができる。
【0046】
気泡が開放された面積は、顕微鏡写真を観察することにより読み取れる。さらにこの面積の全体の表面積に対する割合が算出できる。担持体粒子も気泡とほぼ同程度の大きさであるが、色や形状から開放された気泡と十分に区別できる。
【0047】
(効果)
本発明の芳香具は、人に感知できる香気を有しながら長期間香気を発散することができる。香気(芳香性)の発現性と長期間の香気の発散持続性とは一見反することのようにみえるが、香料を特定の粒子径の担持体粒子に担持させて少しずつ揮散させるという方法と、ウレタンフォームをスライスして多くの気泡を開放して香気を発散させる方法を組み合わせることによって本発明に到達したものである。
【0048】
図1は、一実施形態であるウレタンフォームのスライス表面を拡大した写真である。これらは、Keyence社のdigital micr oscope VHXー500を用いて測定した。表面にカットされ開放された状態の気泡Fが数多くみてとれる。この図においては開放された気泡の全体に示す割合を計算すると約49%であった。
【0049】
上記の本発明の香料を担持した担持体粒子を含んだ芳香具は、台所、冷蔵庫、部屋、トイレ、自動車などに置かれて香気を供給することができる。
【0050】
(芳香供給装置)
また、比較的広い場所に置くときには、送風器などを用いて芳香具の周辺に存在する香気を拡散させて供給するのが好ましい。その際には、本発明の芳香具を送風器と共にハウジング内にセットした芳香供給装置として使用するのがより好ましい。
【0051】
すなわち、このような装置は、本発明の芳香具、送風器およびハウジングからなり、芳香具によりハウジング内で発生した芳香を送風器によりハウジングの外に供給する芳香供給装置である。
【0052】
このような装置において、本発明の芳香具により発生した香気は一時ハウジング内に留まり、その後溜まった香気を送風器によりハウジングの外に供給することができる。
送風器はファンなどの従来の送風器が使用できる。芳香具は送風器の風の流れの下流であっても上流であってもよいが、好ましくは上流である。芳香具により発生した香気が一時的に留まることができるので、断続的にまたは定期的にまたはゆるやかに持続的に送風器で外部に供給するのが好ましい。
【0053】
図2は、本発明の一実施形態の芳香供給装置の模式的断面図である。
図2の芳香供給装置1において、空気取入口2、空気吐出口3を有するハウジング4内に、芳香具5と送風器6が備えられている。芳香具5は送風器6より上流に位置している。送風器が作動すると上側の空気吐出口3から空気が吐き出されるが、それにつれて下側の空気取入口2から空気が入り、芳香具5の周辺に発散され留まっている香気が空気と共に上側の空気吐出口3から出てハウジング4の外部に香気が供給される。図2においては、電気系統は省略してある。
【0054】
本発明における、香料を担持した担持体を含むスライスされたウレタンフォームを用いて形成された芳香具を収納した芳香供給装置は長期間香気を発散することができる。
【0055】
以下、実施例にて本発明をさらに詳細に説明するがこれに限定されるものではない。
【0056】
(製造例1)(香料を担持した担持体)
1.綿織物を粉砕して篩(40メッシュ)で分離した粉砕物80質量部にシンナモン油20質量部を滴下しながら混合して、平均粒子径145μmの香料を担持した担持体Aとした。
2.香木である白檀を粉砕し、篩(40メッシュ)で大きい粉砕物をとり除いて分離した粉砕物(平均粒子径225μm)を、香料を担持した担持体Bとした。
3.平均粒子径65μmの木質粉砕物80質量部にペパーミント油20質量部を滴下しながら混合して、香料を担持した担持体Cとした。
4.平均粒子径0.5μmのゼオライト80質量部にシンナモン油20質量部を滴下しながら混合して、香料を担持した担持体Dとした。
5.平均粒子径660μmの木質粉砕物80質量部にペパーミント油20質量部を滴下しながら混合して、香料を担持した担持体Eとした。
【実施例1】
【0057】
「サンニックスFA-703」(グリセリン系ポリエーテルポリオール、OHV32.2、三洋化成工業社製)53.8質量部を攪拌して25℃に温度調節し、この中に25℃に温度調節した「MR200」(東ソー社製、粗MDI(イソシアネート、NCO含量31%))6.8質量部、香料を担持した担持体A30質量部、「TEDA33-LV」(3級アミン触媒、東ソー社製)0.2質量部、「SH-193」(シリコーン系整泡剤、トーレシリコーン社製)0.5質量部、水(発泡剤として)0.2質量部を加えてホモディスパー(特殊機化社製攪拌機)3000rpmで10秒攪拌後、常温に放置した100mm(長さ)×100mm(幅)×100(高さ)mmの開放系である容器に注入し、約60分後容器から取り出し、フォーム密度0.39g/cmのウレタンフォーム(1)を得た。製造時の反応温度は50℃前後であった。
【実施例2】
【0058】
実施例1において、担持した担持体Aに替えて担持した担持体Bを用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.38g/cmのウレタンフォーム(2)を得た。
【実施例3】
【0059】
実施例1において、担持した担持体Aに替えて担持した担持体Cを用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.43g/cmのウレタンフォーム(3)を得た。
【実施例4】
【0060】
実施例1のウレタンフォーム製造時において、水の量を0.3質量部に替えて0.1質量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.45g/cmのウレタンフォーム(4)を得た。
【実施例5】
【0061】
実施例1のウレタンフォーム製造時において、水の量を0.3質量部に替えて0.6質量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.25g/cmのウレタンフォーム(5)を得た。
【実施例6】
【0062】
実施例1において、香料を担持した担持体A 30質量部に替えて、香料を担持した担持体A 15質量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.40g/cmのウレタンフォーム(6)を得た。
【実施例7】
【0063】
実施例1において、香料を担持した担持体A 30質量部に替えて、香料を担持した担持体A 8質量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.39g/cmのウレタンフォーム(7)を得た。
【実施例8】
【0064】
実施例1において、香料を担持した担持体A 30質量部に替えて、香料を担持した担持体A 40質量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.40g/cmのウレタンフォーム(8)を得た。
【0065】
(比較例1)
実施例1において、香料を担持した担持体A 30質量部に替えて、香料を担持した担持体Aに使用した香料であるシンナモン油25質量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.38g/cmのウレタンフォーム(9)を得た。
【0066】
(比較例2)
実施例1において、香料を担持した担持体Aに替えて、香料を担持した担持体Dを同量用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.37g/cmのウレタンフォーム(10)を得た。
【0067】
(比較例3)
実施例1において、香料を担持した担持体Aに替えて、香料を担持した担持体Eを同量用いる以外は、実施例1と同様にしてフォーム密度0.39g/cmのウレタンフォーム(11)を得た。
【0068】
(芳香性測定方法)
上記の実施例、比較例のウレタンフォーム(1)~(11)をスライス裁断加工によりスライスして50mm×50mm×50mmのウレタンフォームのブロックを準備する。
アクリル透明板で上板のみ開閉可能にした30cm×30cm×30cmの立方体の密閉ボックスを作製して、先に準備したウレタンフォームを、上板を開いてボックスの底に入れた。上板を閉じて密閉として1時間静置し、その後上板を開けて、10人の人に匂いを嗅いでもらい芳香性を評価してもらった。下記評価基準で点をつけてもらい合計点を表1に記載した。
表1において、たとえば芳香性の1週間後とはウレタンフォームを1週間室内に置いた後、上記と同様に芳香性を測定した結果を示している。
【0069】
(芳香性の評価基準)
はっきり匂いを確認できた。 2
かすかに匂いを感じた。 1
匂いを感じなかった。 0
【0070】
【表1】
【0071】
上記表1において、点数が多い方が芳香性の効果が大きいことを意味するので、本発明の方法による芳香具は、比較例に比較して1~2ケ月間の長期間芳香性を維持できることを確認できた。
【実施例9】
【0072】
図2に記載した芳香供給装置(30cm×30cm×1m)をホテルのロビーの端に置き、実施例2で製造したウレタンフォーム(2)をスライス裁断加工によりスライスして25cm×25cm×20mmのウレタンフォームを入れて、送風器としてのファンを弱く回して1ケ月間芳香供給装置を作動させた。1ケ月後でもロビー内でかすかに白檀の香気がしていた。広い場所でも本発明の芳香供給装置を使用すると長期間香気を発散することを確認した。
【符号の説明】
【0073】
F カットされ開放された状態の気泡
1 芳香供給装置
2 空気取入口
3 空気吐出口
4 ハウジング
5 芳香具
6 送風器
図1
図2