IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京農工大学の特許一覧 ▶ 伊藤光学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車載表示装置 図1
  • 特許-車載表示装置 図2
  • 特許-車載表示装置 図3
  • 特許-車載表示装置 図4
  • 特許-車載表示装置 図5
  • 特許-車載表示装置 図6
  • 特許-車載表示装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】車載表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20231025BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021010519
(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公開番号】P2022114280
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391007507
【氏名又は名称】伊藤光学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】宮島 泰史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一壽
(72)【発明者】
【氏名】高木 康博
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/230085(WO,A1)
【文献】特開2012-203090(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0261746(US,A1)
【文献】国際公開第2017/094249(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、前記車両の運転に有用な情報を乗員の前方に表示する車載表示装置であって、
虚像の元となる表示画像を形成し表示画像に応じた表示光を出射する画像表示部と、
前記表示光を前記乗員の眼に導き、乗員に前記表示画像の虚像を視認させる虚像形成光学系と、
前記表示光の光路上に設けられ、光学中心において値が正で絶対値が最小(ゼロの場合も含む)の度数を有し、光軸周りの全周に亘って光軸直交方向外側に向かうにつれて度数がプラス側に変化する度数調整領域を備える光学板と、
を備え
前記虚像形成光学系は、
前記画像表示部から出射された前記表示光を反射する反射ミラーと、
透過性を有する表示スクリーンであって、前記反射ミラーで反射した前記表示光を更に乗員側に反射する表示スクリーンと、
を備え、
前記光学板は前記反射ミラーと前記画像表示部との間に設けられていることを特徴とする車載表示装置。
【請求項2】
車両に搭載され、前記車両の運転に有用な情報を乗員の前方に表示する車載表示装置であって、
虚像の元となる表示画像を形成し表示画像に応じた表示光を出射する画像表示部と、
前記表示光を前記乗員の眼に導き、乗員に前記表示画像の虚像を視認させる虚像形成光学系と、
前記乗員の眼と前記虚像との間に設けられ、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数が変化する度数調整領域を備える光学板と、
を備え、
前記虚像形成光学系は、
前記画像表示部から出射された前記表示光を反射する反射ミラーと、
透過性を有する表示スクリーンであって、前記反射ミラーで反射した前記表示光を更に乗員側に反射する表示スクリーンと、
を備え、
前記光学板は前記表示スクリーンの前記虚像側に設けられていることを特徴とする車載表示装置。
【請求項3】
前記表示スクリーンが、前記車両のウインドシールドもしくは該ウインドシールドとは別体のコンバイナであることを特徴とする請求項に記載の車載表示装置。
【請求項4】
車両に搭載され、前記車両の運転に有用な情報を乗員の前方に表示する車載表示装置であって、
虚像の元となる表示画像を形成し表示画像に応じた表示光を出射する画像表示部と、
前記表示光を前記乗員の眼に導き、乗員に前記表示画像の虚像を視認させる虚像形成光学系と、
前記乗員の眼と前記虚像との間に設けられ、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数が変化する度数調整領域を備える光学板と、
を備え、
前記虚像形成光学系は、前記画像表示部と前記乗員の眼との間に設けられた前記光学板を含んで構成され、
前記光学板は前記乗員の視線が通過する各領域にプラス度数が設定され、且つ、光学中心において値が正で絶対値が最小の度数を有し、光軸周りの全周に亘って光軸直交方向外側に向かうにつれて度数がプラス側に変化する前記度数調整領域を備えていることを特徴とする車載表示装置。
【請求項5】
前記光学板は前面及び後面が光学中心を通る光軸周りに回転対称形状とされている、請求項1~4の何れかに記載の車載表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載表示装置に関し、特に、車両の運転に有用な情報を乗員の前方側に表示する車載表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載表示装置としてのヘッドアップディスプレイ装置は、虚像の元となる表示画像を形成し表示画像に応じた表示光を出射する画像表示部と、表示画像を投影する表示スクリーンとしてのコンバイナと、を備え、車両の運転に有用な情報を、乗員の前方(例えば乗員から2mほど離れた位置)に虚像として表示する。この虚像は、ウインドシールド(フロントガラス)越しに見える車両の前景と重畳して表示されるが、虚像が表示される位置は通常、乗員が観察する前景内の対象物(前方に広がる道路やそこを走る自動車等)よりも近い。このため乗員が視認する対象を虚像から前景内の対象物に移す場合、また前景内の対象物から虚像に移す場合、改めて眼の調節力を利用してピント合わせ(焦点調節)を行う必要が生じてしまう。
【0003】
度重なる調節は調節性眼精疲労の要因となる。また前景内の対象物と虚像とが離れており視差が大きい場合には認識の低下が生じ易く、特に調節力の低下した高齢者であれば視認する対象が見え辛くなってしまう。このため乗員の前方に表示される虚像はできるだけ前景内の対象物と近い位置に表示することが望ましい。しかしながらそれを実現するためには、虚像を現状の位置よりも遠方側に表示させるために画像表示部とコンバイナとの間の光路長をより長く取る必要があり、装置の大型化や複雑化を招いてしまう。
【0004】
なお、虚像の表示位置を変更するための技術としては下記特許文献1で開示されているように、光路上に設けた鏡を光路に沿って移動可能に構成し、かかる鏡を移動させることによって表示光の光路長を変化させ虚像の表示位置を変更させるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-226292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題を解決するものであり、虚像および前景内の対象物を視認する際、乗員が焦点を調節する負担を軽減することが可能な車載表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して本発明は、車両に搭載され、前記車両の運転に有用な情報を乗員の前方に表示する車載表示装置であって、
虚像の元となる表示画像を形成し表示画像に応じた表示光を出射する画像表示部と、
前記表示光を前記乗員の眼に導き、乗員に前記表示画像の虚像を視認させる虚像形成光学系と、
前記表示光の光路上、及び/又は、前記乗員の眼と前記虚像との間に設けられ、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数が変化する度数調整領域を備える光学板と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、表示光の光路上、及び/又は、乗員の眼と虚像との間に設けられた光学板による被写界深度延長効果により、虚像を視認した場合に焦点が合っているとみなされる被写界深度、及び/又は、車両の前景に含まれる対象物を視認した場合に焦点が合っているとみなされる被写界深度が延長され、虚像および前景内の対象物を視認する際、乗員が焦点を調節する負担を軽減することができる。
【0009】
本発明では、前記虚像形成光学系を、前記画像表示部から出射された前記表示光を反射する反射ミラーと、透過性を有する表示スクリーンであって、前記反射ミラーで反射した前記表示光を更に乗員側に反射する表示スクリーンと、を備えて構成し、
前記光学板を前記反射ミラーと前記画像表示部との間に設けておくことができる。
このようにすれば、光学板による被写界深度延長効果により、虚像の表示位置を車両前後方向に延長させることができる。
【0010】
本発明ではまた、前記虚像形成光学系を、前記画像表示部から出射された前記表示光を反射する反射ミラーと、透過性を有する表示スクリーンであって、前記反射ミラーで反射した前記表示光を更に乗員側に反射する表示スクリーンと、を備えて構成し、
前記光学板を前記表示スクリーンの前記虚像側に設けておくことができる。
このようにすれば、光学板による被写界深度延長効果により、車両の前景を視認する際の被写界深度を車両前後方向に延長させることができ、例えば虚像に焦点を合わせた状態からでも、遠くの景色(車両の前景)が認識し易い効果を奏する。
【0011】
ここで本発明では、表示スクリーンを、前記車両のウインドシールドもしくは該ウインドシールドとは別体のコンバイナとすることができる。
【0012】
また本発明では、前記虚像形成光学系を、前記画像表示部と前記乗員との間に設けられた前記光学板を含んで構成し、
前記光学板を、前記乗員の視線が通過する各領域にプラス度数が設定され、且つ、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数が変化する前記度数調整領域を備えるように構成することができる。
このようにすれば、光学板による被写界深度延長効果により、画像表示部に表示された表示画像を、実際の表示画像よりも車両前方側に表示された虚像として視認することができる。このため虚像の位置と車両の前景に含まれる対象物の位置との差(距離)を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は第1の実施形態に係る車載表示装置としてのヘッドアップディスプレイ装置の概略的な構成を示した図である。
図2図2(A)は図1の光学板を示した図、図2(B)は同光学板の光軸直交方向に沿った度数の変化を模式的に示した図である。
図3図3(A)は図2(B)とは異なる度数の変化を模式的に示した図、図3(B)は図2(B)および図3(A)とは異なる度数の変化を模式的に示した図である。
図4図4は第2の実施形態に係る車載表示装置としてのヘッドアップディスプレイ装置の概略的な構成を示した図である。
図5図5(A)は図4の光学板を示した図、図5(B)は同光学板の光軸直交方向に沿った度数の変化を模式的に示した図である。
図6図6は第3の実施形態に係る車載表示装置の概略的な構成を示した図である。
図7図7(A)は図6の透過パネルを示した図、図7(B)は同透過パネルの光軸直交方向に沿った度数の変化を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
次に第1の実施形態に係る車載表示装置としてのヘッドアップディスプレイ装置を、図面に基づいて説明する。図1において、1はヘッドアップディスプレイ装置で、自動車の運転席に着座している乗員の眼5と表示スクリーン18とを結ぶ線の延長線上に虚像iを表示する。
【0015】
ヘッドアップディスプレイ装置1は、虚像の元となる表示画像を形成する画像表示部10と、乗員に表示画像の虚像を視認させる虚像形成光学系12と、ある程度の幅をもった範囲で虚像を表示させるための光学板15と、を備えている。ヘッドアップディスプレイ装置1を構成する部品の大部分はウインドシールド2下端部近傍のインストゥルメントパネル3の内部に収容されている。
【0016】
画像表示部10は、例えば光源としてのバックライトを備えた小型の液晶パネルで構成されている。画像表示部10は、制御部(図示省略)から受信した情報に基づいて、スピードメータや燃料計等の各種計器類の値を示す画像、ナビゲーションシステムにおける地図画像等を表示画像として形成し、これら表示画像を画像表示部10の表示面10aに表示する。そして液晶パネルにバックライトからの光を透過させることで、表示面10aからは表示画像の情報を持った表示光22が出射される。
なお、画像表示部10としては、レーザ光を2次元方向に走査させることによって画像を表示する方式のプロジェクタ等を適宜採用することが可能である。
【0017】
虚像形成光学系12は、投影用レンズ14と、反射ミラー16と、表示スクリーン18とを含んで構成され、画像表示部10から出射された表示光22を乗員の眼5に導き、乗員に表示画像の虚像を視認させる。図1では、表示光22に基づいて形成される虚像iの中心となる光線の経路を基準光軸Lとして示している。
【0018】
投影用レンズ14は、画像表示部10の前方にて画像表示部10の表示面10aと対向し、投影用レンズ14の光軸が基準光軸Lと一致するように配置されており、画像表示部10から出射された表示光22を反射ミラー16に投影する。投影用レンズ14は単一のレンズで構成するものであっても良いし、複数のレンズを組み合わせて構成することも可能である。
【0019】
反射ミラー16は、投影用レンズ14を経由して送られてきた表示光22を表示スクリーン18に向けて反射させるミラーであり、投影用レンズ14の側に反射面である凹面16aを向けて配置されている。画像表示部10から出射した表示光22は、投影用レンズ14および反射ミラー16により拡大され、インストゥルメントパネル3に形成された開口4を通じてインストゥルメントパネル3の上方に位置する表示スクリーン18に投影される。
【0020】
表示スクリーン18は、コンバイナ等のハーフミラーで構成された透過性を有する凹面鏡または平面鏡である。インストゥルメントパネル3上に立設され、反射ミラー16からの表示光22を車両の後方側に向けて反射する。なお、表示スクリーンは車両のウインドシールド2で構成することも可能である。
【0021】
表示スクリーン18で反射した表示光22は、運転席に座った乗員の眼5およびその周辺部に導かれる。乗員は、表示光22に基づいて、乗員の眼5と表示スクリーン18とを結ぶ線の延長線上における車両前方側にて虚像iを観察することができる。ここで仮想的に光学板15を介さないで視認できる虚像iの位置は、図1においてi0で示す位置である。また、ハーフミラーである表示スクリーン18によれば、表示スクリーン18を透過してくる外光もまた乗員の眼5およびその周辺部に導かれる。このため、乗員は表示スクリーン18を通じて車両の前景も観察でき、その結果、i0の位置にある虚像を車両の前景に重畳させて観察することができる。
【0022】
ここで本実施形態では、反射ミラー16と投影用レンズ14との間に光学板15が配置されている。光学板15は焦点距離に幅を有するレンズとされ、光学板15の光軸が基準光軸Lと一致するように配置されている。
【0023】
本例において、光学板15は、図2(A)に示すように、前面(反射ミラー側)27および後面(画像表示部側)28がともに凸形状のレンズで、前面27及び後面28は光学中心O(後面28では基点O1、前面27では基点O2)を通る光軸周りに回転対称形状とされている。光学板15は、図2(B)で示すように光学中心における度数がS0ディオプタ(本例ではS0は正の値であるが、場合によってはゼロまたは負の値であってもよい)で、前面27及び/又は後面28に付加された非球面成分によって、光軸直交方向rの外側(光学板の周縁側)に向かうにつれて度数がプラス側に変化する度数調整領域30(図2(B)参照)が形成されている。
【0024】
ここでレンズ面に付加する非球面成分としては、Σ{Ann}で表される非球面成分を例示することができる。但し、r:光軸からの距離、An:非球面係数、n:正の整数である。Σ{ }は、{ }内の総和を示す記号である。例えば、非球面成分は、A44+A66+A88+A1010で表されるものであってもよく、またA33で表されるものであってもよい。非球面成分を特定するための非球面係数Anは、所望の光学特性(度数変化)が得られるように光線追跡によるシミュレーション等によって適宜決定することができる。
なお光学板15は、図2(A)で示すような前面27及び後面28がともに凸形状をなしたレンズでなくてもよく、例えば眼鏡レンズのように一方の面が凸形状で、他方の面が凹形状とすることも可能である。
【0025】
このように構成された光学板15を設けることで、図1に示すように、虚像iにおける焦点が合っているとみなす範囲(被写界深度)i1を、仮想的に光学板15を介さないで視認できる虚像の位置i0よりも車両前方側(車両の前景側)に延長することができる。
【0026】
よって本実施形態のヘッドアップディスプレイ装置1によれば、図1に示すように、虚像iと車両の前景に含まれる対象物kとの差(視差)が小さくなり、例えば、虚像iを視認していた乗員が前景に含まれる対象物kに視線を移す場合に焦点を調節する負担を軽減することができる。
【0027】
なお、本例の光学板15は、図2(B)で示すように、光学中心Oから光学板の縁に向けて度数を漸次変化させたものであるが、度数変化の態様はこれに限定されるものなく適宜変更可能である。例えば図3(A)で示すように、光学中心Oから距離r0内のレンズ中央領域31の度数を一定の度数S0とし、レンズ中央領域31より外側の領域をS0よりもプラス側に度数を変化させた度数調整領域30として設定することも可能である。また図3(B)で示すように、度数調整領域30の外側に所定の値で度数が維持されている(度数変化の無い)領域32を形成することも可能である。また、本例では光学板15を投影用レンズ14とは別体で設けているが、光学板15を投影用レンズ14と一体で構成し、投影用レンズ14に度数調整領域を設けて上記で示す度数分布を実現できるようにすることも可能である。
【0028】
また光学板15における度数調整領域30において、光軸直交方向rの外側(光学板の周縁側)に向かうにつれて度数をマイナス側に変化させることで、虚像iをより手前側(乗員に近い位置)に表示させることも可能である。
【0029】
<第2の実施形態>
次に第2の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置1Bについて説明する。
図4に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置1Bは、虚像の元となる表示画像を形成する画像表示部10と、乗員に表示画像の虚像を視認させる虚像形成光学系12と、被写界深度を延長される光学板15Bと、を備えている。これら構成各部のうち、上記のヘッドアップディスプレイ装置1と共通する構成については同じ符号を用いて示すとともに、その説明を省略する。
【0030】
上記第1の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置1では、反射ミラー16と投影用レンズ14との間に光学板が配置されていたのに対し、本例のヘッドアップディスプレイ装置1Bでは、表示スクリーン18の虚像側に光学板15Bが配置されている。
【0031】
本例において、光学板15Bは、図5(A)に示すように、前面27および後面28がともに凹形状のレンズで、前面27及び後面28は光学中心O(後面28では基点O1、前面27では基点O2)を通る光軸周りに回転対称形状とされている。光学板15Bは、図5(B)で示すように光学中心における度数がS0ディオプタ(本例ではS0は負の値であるが、場合によってはゼロまたは正の値であってもよい)で、前面27及び/又は後面28に付加された非球面成分によって、光軸直交方向rの外側(光学板の周縁側)に向かうにつれて度数がマイナス側に変化する度数調整領域30(図5(B)参照)が形成されている。なお光学板15Bは、一方の面が凸形状で、他方の面が凹形状とすることも可能である。
【0032】
このように構成された光学板15Bを備えたヘッドアップディスプレイ装置1Bでは、光学板15Bによる被写界深度延長効果により、車両の前景を視認する際の被写界深度Gを車両前方側(乗員からみてより遠く)に延長させることができ、例えば虚像iに焦点を合わせた状態からでも、遠くの景色(車両の前景に含まれる対象物k)を認識し易い効果を奏する。このため、虚像iおよび前景内の対象物kを視認する際、乗員が焦点を調節する負担を軽減することができる。
【0033】
なお、本例では光学板15Bを表示スクリーン18とは別体で設けているが、光学板15Bを表示スクリーン18と一体で構成することも可能である。また本例では上述の光学板15に代えて光学板15Bを設けているが、光学板15,15Bの両方を設けたヘッドアップディスプレイ装置とすることも可能である。
【0034】
また光学板15Bにおける度数調整領域30において、光軸直交方向rの外側(光学板の周縁側)に向かうにつれて度数をプラス側に変化させた場合には、被写界深度が車両後方側(乗員に近い側)に延長されるため、遠くの景色(車両の前景)を見ていても、手前の虚像が見やすくなる効果を得ることができる。
【0035】
<第3の実施形態>
次に第3の実施形態に係る車載表示装置1Cについて説明する。
図6に示すように、車載表示装置1Cは乗員の前方に取り付けられ、車両のインストゥルメントパネル3と一体に形成されたケース40を有し、ケース40内に、ディスプレイ43、透過パネル50、及び図示を省略する制御部を備えている。
【0036】
ディスプレイ43は、例えば光源としてのバックライトを備えた液晶パネルで構成され、車両後方側にその表示面43aを向けて配置されている。ディスプレイ43は、制御部が受信した情報に基づいて、表示面43aにてスピードメータ等の画像を表示する。液晶パネルにバックライトからの光を透過させることで、表示面43aからは表示画像(スピードメータ等の画像)の情報を持った表示光22が出射される。
【0037】
透過パネル50は、ディスプレイ43の表示面43aと対向して配置され、ディスプレイ43の表示面43aから出射された表示光22を車両後方側に透過する。透過パネル50を透過した表示光22は、ケース40の開口部41を通じて運転席に座った乗員の眼5およびその周辺部に送られる。その結果、乗員の眼5とディスプレイ43とを結ぶ線の延長線上においてスピードメータ等を示す虚像iが表示される。
【0038】
ここで透過パネル50は、乗員の視線が通過する各領域にプラス度数が設定され、且つ、焦点距離に幅を有するレンズとされている。透過パネル50は、図7(A)で示すように、前面(乗員側)51および後面(画像表示部側)52がともに凸形状のレンズで、前面51及び/又は後面52は光学中心O(後面52では基点O1、前面51では基点O2)を通る光軸周りに回転対称形状とされている。透過パネル50は、図7(B)で示すように光学中心における度数がS2ディオプタ(S2は正の値である)で、前面51及び/又は後面52に付加された非球面成分によって、光軸直交方向rの外側(周縁側)に向かうにつれて度数がプラス側に変化する度数調整領域30が形成されている。
【0039】
通常のレンズはひとつの焦点距離をもつが、本例の透過パネル50は焦点距離がある値からある値までの幅をもつ。つまり、通常のレンズに、光軸に平行な光を入射すると光軸上の一点に光が集光するが、透過パネル50に、光軸に平行な光を入射すると光軸上のある点からある点まで幅がある範囲に光が集光する。このため透過パネル50では、対象物としての表示画像がある程度の幅をもった範囲で虚像として観察形成される。
【0040】
このように構成された透過パネル50を備えた車載表示装置1Cによれば、図6に示すように、乗員の眼5とディスプレイ43とを結ぶ線の延長線上の車両前方側(車両の前景側)においてある程度の幅をもった範囲でスピードメータ等を示す虚像iが表示される。
よって本実施形態の車載表示装置1Cによれば、スピードメータ等を示す虚像iの位置と車両の前景に含まれる対象物の位置との差(距離)が小さくなり、例えば、虚像iを視認していた乗員が前景に含まれる対象物kに視線を移す場合に、焦点を調節する負担を軽減することができる。
【0041】
また透過パネル50における度数調整領域30において、光軸直交方向rの外側(光学板の周縁側)に向かうにつれて度数をマイナス側に変化させることで、虚像iをより手前側(乗員に近い位置)に表示させることも可能である。
【0042】
なお本例の車載表示装置1Cは、スピードメータ等を虚像表示させるものであったが、本実施形態の車載表示装置1Cは、例えば、バックミラーと同様の機能を電子的に提供する電子バックミラー装置における表示部やナビゲーション装置における表示部に適用することも可能である。
【0043】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、これはあくまでも一例示であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0044】
1,1B ヘッドアップディスプレイ装置(車載表示装置)
1C 車載表示装置
5 眼
10 画像表示部
12 虚像形成光学系
15,15B 光学板
16 反射ミラー
18 表示スクリーン
22 表示光
43 ディスプレイ(画像表示部)
50 透過パネル(光学板)
i 虚像
k 対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7