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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/62 20180101AFI20231025BHJP
   F25B 49/02 20060101ALI20231025BHJP
   F24F 11/52 20180101ALI20231025BHJP
   F24F 11/64 20180101ALI20231025BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20231025BHJP
   F24F 140/20 20180101ALN20231025BHJP
【FI】
F24F11/62
F25B49/02 510C
F24F11/52
F24F11/64
G05B23/02 T
G05B23/02 G
F24F140:20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019204232
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021076310
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】大神 寛人
(72)【発明者】
【氏名】大森 健次
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌克
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 瑞季
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 潔
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠一
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 洋一
【審査官】大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/174176(WO,A1)
【文献】特開2017-096530(JP,A)
【文献】特開2013-213669(JP,A)
【文献】特開2017-112771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
F25B 49/02
G05B 23/02
F24F 140/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機の室外機において冷媒配管の複数箇所に取り付けた温度センサから、前記複数箇所の冷媒温度を取得する取得部と、
前記複数箇所の冷媒温度と、空調機の空調能力とを学習したモデルを用いて、取得した前記複数箇所の冷媒温度から前記空調能力を推定する推定部と
推定対象の空調機の定格能力を取得する第3取得部と、
前記モデルの学習対象である空調機の定格能力と、前記推定対象の空調機の定格能力とに基づき、前記推定部が推定した前記空調能力を補正する補正部と
を備えることを特徴とする推定装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記室外機の蒸発器の吸入口、該蒸発器の吐出口、凝縮器の吸入口、及び該凝縮器の吐出口夫々に対応する位置に取り付けられた前記温度センサから前記冷媒温度を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記室外機の運転電流を計測する電流センサから、前記運転電流の電流値を取得する第2取得部を備え、
前記推定部は、前記複数箇所の冷媒温度と、前記電流値とを前記モデルに入力して前記空調能力を推定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項4】
定格能力を含む複数機種の空調機の情報を記憶する記憶部と、
前記推定部が推定した前記空調能力と、各機種の空調機の定格能力とに基づき、空調機の機種を選択する選択部と、
選択した機種の空調機の情報を出力する出力部と
を備えることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記推定部が推定した前記空調能力と、前記選択部が選択した機種の空調機の定格能力とに基づき、前記空調機の機種変更に伴う電気料金又は電気料金の差分を算出する算出部を備え、
前記出力部は、前記電気料金又は電気料金の差分を出力する
ことを特徴とする請求項に記載の推定装置。
【請求項6】
空調機の室外機において冷媒配管の複数箇所に取り付けた温度センサから、前記複数箇所の冷媒温度を取得し、
前記複数箇所の冷媒温度と、空調機の空調能力とを学習したモデルを用いて、取得した前記複数箇所の冷媒温度から前記空調能力を推定し、
推定対象の空調機の定格能力を取得し、
前記モデルの学習対象である空調機の定格能力と、前記推定対象の空調機の定格能力とに基づき、推定した前記空調能力を補正する
処理をコンピュータが実行することを特徴とする推定方法。
【請求項7】
空調機の室外機において冷媒配管の複数箇所に取り付けた温度センサから、前記複数箇所の冷媒温度を取得し、
前記複数箇所の冷媒温度と、空調機の空調能力とを学習したモデルを用いて、取得した前記複数箇所の冷媒温度から前記空調能力を推定し、
推定対象の空調機の定格能力を取得し、
前記モデルの学習対象である空調機の定格能力と、前記推定対象の空調機の定格能力とに基づき、推定した前記空調能力を補正する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機(以下、「空調機」と呼ぶ)の冷暖房能力(以下、「空調能力」と呼ぶ)を推定する種々の手法が提案されている。例えば特許文献1では、室内機の吸込温度、吸込湿度、吹出温度、吹出湿度、風量などのデータから、空気エンタルピー法を用いて空調能力を推定する空調能力推定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-86243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る発明のように、一般的に空調能力の推定には空気エンタルピー法、コンプレッサーカーブ法などが用いられている。しかしながら、これらの手法は厳密な計測環境(実験室)の下でパラメータを計測する必要があり、簡便な手法とは言えない。
【0005】
一つの側面では、空調能力の簡易測定を好適に行うことができる推定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの側面に係る推定装置は、空調機の室外機において冷媒配管の複数箇所に取り付けた温度センサから、前記複数箇所の冷媒温度を取得する取得部と、前記複数箇所の冷媒温度と、空調機の空調能力とを学習したモデルを用いて、取得した前記複数箇所の冷媒温度から前記空調能力を推定する推定部と、推定対象の空調機の定格能力を取得する第3取得部と、前記モデルの学習対象である空調機の定格能力と、前記推定対象の空調機の定格能力とに基づき、前記推定部が推定した前記空調能力を補正する補正部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面では、空調能力の簡易測定を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】空調能力推定システムの構成例を示す模式図である。
図2】サーバの構成例を示すブロック図である。
図3】空調DB、計測値DBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
図4】推定モデルに関する説明図である。
図5】モリエル線図を示す説明図である。
図6】空調能力の推定結果の表示画面例を示す説明図である。
図7】推定モデルの生成処理の手順を示すフローチャートである。
図8】空調能力の推定処理の手順を示すフローチャートである。
図9】実施の形態2に係るサーバの構成例を示すブロック図である。
図10】機種DBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
図11】実施の形態2に係る空調能力の推定結果の表示画面例を示す説明図である。
図12】実施の形態2に係る空調能力の推定処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、空調能力推定システムの構成例を示す模式図である。本実施の形態では、空調機3の空調能力を推定する空調能力推定システムについて説明する。空調能力推定システムは、推定装置1、端末2、ゲートウェイ35等を含む。各装置は、インターネット等のネットワークNに通信接続されている。
【0010】
推定装置1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な情報処理装置であり、例えばサーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ等である。本実施の形態では推定装置1がサーバコンピュータであるものとし、以下ではサーバ1と読み替える。サーバ1は、所定の施設に設置されている空調機3の空調能力を推定し、推定結果を端末2に出力する。
【0011】
空調機3は、例えば一の室外機31と、所定の施設内の各部屋に設置された複数の室内機32とを有するセントラル型の空調機であり、例えば業務用に用いられる。なお、空調機3は一の室外機31に対して一の室内機32が接続された分散型の空調機であってもよい。後述するように、サーバ1は、空調機3の室外機31内部の冷媒配管の取り付けられた温度センサ33で計測した冷媒温度と、電流センサ34で計測した室外機31の運転電流の電流値とをゲートウェイ35を介して取得する。そしてサーバ1は、教師データを機械学習で学習済みの推定モデル141(図4参照)を用いて、室外機31の冷媒温度及び電流値から空調能力を推定する。
【0012】
なお、本実施の形態ではクラウド上のサーバ1が空調能力の推定処理を行うものとするが、ローカルのコンピュータ(例えば図1の端末2)に推定モデル141をインストールし、ローカルで空調能力の推定を行ってもよい。
【0013】
端末2は、例えば空調機3が設置されている施設の管理者が使用する端末装置であり、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォンなどである。サーバ1は空調能力の推定結果を端末2に出力し、施設の管理者に提示する。
【0014】
温度センサ33は、室外機31内部に取り付けられた温度計であり、冷媒配管に流れる冷媒の温度を計測するセンサである。なお、温度センサ33は本実施の形態に係る簡易測定時のみ作業者によって取り付けられるものであってもよく、あるいは、常時設置されたものであってもよい。例えば温度センサ33は、薄膜型熱電対を用いた温度計であり、冷媒配管の表面にセンシング部分(金属線)が取り付けられ、冷媒配管の表面温度を計測する。なお、温度センサ33は薄膜型熱電対を用いたセンサに限定されず、その他の温度計であってもよい。本実施の形態では複数の温度センサ33が冷媒配管の複数箇所にそれぞれ取り付けられ、各温度センサ33において、各箇所に流れる冷媒温度を計測する。
【0015】
電流センサ34は、室外機31の運転電流を計測する電流計であり、例えば外部と無線通信が可能な無線電流センサである。電流センサ34は、計測対象である室外機31から自己給電を行って電流値を計測すると共に、Bluetooth(登録商標)等の無線通信規格で計測結果を外部に送信する。
【0016】
図2は、サーバ1の構成例を示すブロック図である。サーバ1は、制御部11、主記憶部12、通信部13、及び補助記憶部14を備える。
制御部11は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置を有し、補助記憶部14に記憶されたプログラムPを読み出して実行することにより、種々の情報処理、制御処理等を行う。主記憶部12は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の一時記憶領域であり、制御部11が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部13は、通信に関する処理を行うための通信モジュールであり、外部と情報の送受信を行う。
【0017】
補助記憶部14は、大容量メモリ、ハードディスク等の不揮発性記憶領域であり、制御部11が処理を実行するために必要なプログラムP、その他のデータを記憶している。また、補助記憶部14は、推定モデル141、空調DB142、計測値DB143を記憶している。推定モデル141は、上述の如く機械学習によって生成されたモデルであり、例えばニューラルネットワークである。空調DB142は、温度センサ33及び電流センサ34を設置した空調機3の情報を格納するデータベースである。計測値DB143は、冷媒温度及び電流値の計測結果を格納するデータベースである。
【0018】
なお、補助記憶部14はサーバ1に接続された外部記憶装置であってもよい。また、サーバ1は複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであっても良く、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0019】
また、本実施の形態においてサーバ1は上記の構成に限られず、例えば操作入力を受け付ける入力部、画像を表示する表示部等を含んでもよい。また、サーバ1は、CD(Compact Disk)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM等の可搬型記憶媒体1aを読み取る読取部を備え、可搬型記憶媒体1aからプログラムPを読み取って実行するようにしても良い。あるいはサーバ1は、半導体メモリ1bからプログラムPを読み込んでも良い。
【0020】
図3は、空調DB142、計測値DB143のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
空調DB142は、空調ID列、設置施設列、定格能力列を含む。空調ID列は、空調機3を識別するための空調IDを記憶している。設置施設列、及び定格能力列はそれぞれ、空調IDと対応付けて、空調機3が設置されている施設の名称、及び空調機3の定格能力(空調機メーカにおいて計測した空調機3の空調能力の定格値)とを記憶している。
【0021】
計測値DB143は、日時列、空調列、温度列、電流列を含む。日時列は、冷媒温度及び電流値を計測した日時を記憶している。空調列、温度列、及び電流列はそれぞれ、日時と対応付けて、計測対象である空調機3の空調ID、冷媒温度、及び電流値を記憶している。温度列には、室外機31の蒸発器の吸入口、蒸発器の吐出口、凝縮器の吸入口、及び凝縮器の吐出口の温度が記憶されている。
【0022】
図4は、推定モデル141に関する説明図である。図4に基づき、推定モデル141を生成する機械学習処理と、推定モデル141を用いた空調能力の推定処理とについて説明する。
【0023】
本実施の形態でサーバ1は、推定モデル141としてニューラルネットワークを構築(生成)する。推定モデル141は、空調機3に係る計測値の入力を受け付ける入力層と、入力層に入力された計測値に基づく演算を行う中間層と、中間層での演算結果に基づき空調能力を出力する出力層とを有する。入力層は、各種計測値の入力を受け付ける複数のニューロンを有し、入力された計測値を中間層に受け渡す。中間層は、計測値に基づく演算を行うための複数のニューロンを有し、計測値から特徴量を抽出する演算を行う。なお、図4では中間層が一層のみであるが、中間層を多層として、ディープラーニングを行うようにしてもよい。出力層は、出力値を演算するニューロンを有し、中間層で抽出した特徴量に基づき空調能力の推定値を出力する。なお、図4では出力層のニューロンが単一であるが、暖房能力を推定する場合と冷房能力を推定する場合とに分けて2つ(複数)のニューロンが用意されていてもよい。
【0024】
なお、例えば中間層をLSTM(Long-Short Term Memory)として、複数時点の計測値から空調能力を推定するようにしてもよい。これにより、時系列のデータから空調能力を推定することができる。
【0025】
また、推定モデル141はニューラルネットワークに限定されず、例えばSVM(Support Vector Machine)、ランダムフォレスト、決定木など、他の学習アルゴリズムに基づくモデルであってもよい。
【0026】
本実施の形態でサーバ1は、推定モデル141に入力するパラメータとして、空調機3の冷媒配管の複数箇所で計測した冷媒温度を用いる。具体的には、サーバ1は、蒸発器の吸入温度Te,i(evaporator inlet temperature)、蒸発器の吐出温度Te,o(evaporator outlet temperature)、凝縮器の吸入温度Tc,i(condenser inlet temperature)、及び凝縮器の吐出温度Tc,o(condenser outlet temperature)の4箇所の冷媒温度を入力パラメータとして用いる。
【0027】
図5は、モリエル線図を示す説明図である。図5では、冷媒の状態変化サイクルを表すモリエル線図を概念的に図示している。なお、横軸は比エンタルピー(kJ/kg)を、縦軸は圧力(MPa)を示す。また、図中の曲線は冷媒の飽和液線及び飽和蒸気線を、矢印付きの略台形の実線は冷媒の状態変化を表す。
【0028】
一般的に図5のモリエル線図で理解されるように、空調機3の室外機31では、蒸発器で冷媒の蒸発及び吸熱を(図中の点A→B)、圧縮機で加圧及び昇温を(B→C)、凝縮器で凝縮及び放熱を(C→D)、膨張弁で減圧及び降温を行う(D→A)。図中の点A→Bは吸熱の過程を、点C→Dは放熱の過程を表し、点A、B、C、Dはそれぞれ蒸発器の吸入口、蒸発器の吐出口、凝縮器の吸入口、凝縮器の吐出口に対応する。本実施の形態では、この4箇所に対応する位置で計測した計測値を用いて空調能力の推定を行う。
【0029】
上記の4箇所の計測値として冷媒の圧力などを用いてもよいが、本実施の形態では、比較的計測が容易な冷媒の温度を用いる。具体的には、冷媒配管の表面に薄膜型熱電対による温度センサ33を取り付け、各箇所の冷媒温度を計測する。より詳細には、冷媒配管と、蒸発器及び凝縮器とを接続するフランジ(不図示)に、薄膜型熱電対に係るセンシング部分(金属線)を取り付け、冷媒温度を計測する。これにより、冷媒配管の切断や断熱材の除去などの施工を不要として、簡易かつ低コストで入力パラメータの計測を行うことができる。
【0030】
なお、本実施の形態では蒸発器及び凝縮器それぞれの吸入口及び吐出口で冷媒温度を計測するものとするが、冷媒の状態変化を適切に推定可能な箇所の温度を計測することができればよく、冷媒温度の計測箇所は上記の4箇所に限定されない。また、計測箇所の数は2箇所であってもよく、5箇所以上であってもよい。
【0031】
図4に戻って説明を続ける。本実施の形態では、推定モデル141の入力パラメータとして、室外機31の運転電流の電流値Iを用いる。例えば上述の如く、空調機3(室外機31)に電力を供給する分電盤に自己給電型の電流センサ34(無線電流センサ)を取り付け、電流値Iを計測する。サーバ1は、上述のTe,i、Te,o、Tc,i、Tc,oと同様に、比較的計測容易な電流値Iを用いて推定を行い、推定精度を向上させる。
【0032】
なお、本実施の形態では簡易測定を行うため冷媒温度及び電流値のみを用いることとするが、冷媒圧力、圧縮機回転数、外気温、室内温度なども入力パラメータとして用いてもよい。また、電流値を用いずに、冷媒温度のみから空調能力を推定してもよい。
【0033】
サーバ1は、教師用の空調機3の冷媒温度及び電流値に対し、空調能力の正解値がラベル付けされた教師データを用いて、推定モデル141を生成する。教師用の冷媒温度及び電流値のデータは、実際の空調機3で計測したデータであってもよく、あるいは所定のシミュレーションソフトで計算したデータであってもよい。サーバ1は、冷媒温度、電流値、空調能力(正解値)のほか、学習対象とした空調機3の定格能力などを含む教師データを取得し、機械学習を行う。
【0034】
サーバ1は、教師用の冷媒温度及び電流値を推定モデル141に入力し、空調機3の空調能力を推定する。サーバ1は、空調能力の推定値を正解値と比較し、両者が近似するように、ニューロン間の重み等、演算に用いる各種パラメータを最適化する。以上によりサーバ1は推定モデル141を生成する。サーバ1は、生成した推定モデル141を補助記憶部14に格納すると共に、推定モデル141と関連付けて、学習対象とした空調機3の定格能力を記憶しておく。
【0035】
推定対象の空調機3の空調能力を推定する場合、サーバ1は、室外機31に取り付けられている温度センサ33及び電流センサ34で計測した冷媒温度及び電流値を推定モデル141に入力する。例えばサーバ1は、過去一定期間(例えば過去1日、1ヶ月、1年等の期間)の計測値のピーク値、平均値などを推定モデル141に入力する。サーバ1は、入力層に入力した計測値から中間層での演算を行い、出力層から空調能力の推定値を取得する。
【0036】
サーバ1は、取得した空調能力の推定値を、推定対象の空調機3の定格能力に応じて補正する。当然ながら、空調機3の空調能力は機種や個体に応じて異なる。ここで、学習対象の空調機3の定格能力と、推定対象の空調機3の定格能力とが元々大きく異なる場合、推定結果の誤差が大きくなる。そこでサーバ1は、推定モデル141から出力された推定値を補正し、誤差を小さくする。
【0037】
具体的には、サーバ1は、推定対象の空調機3の定格能力と、推定モデル141を生成する際に学習対象とした空調機3の定格能力とに基づいて補正を行う。例えばサーバ1は、推定対象の空調機3の定格能力を学習対象の空調機3の定格能力で除算し、推定値を補正するためのスケール係数を算出する。サーバ1は、算出したスケール係数を空調能力の推定値に乗算し、補正値を算出する。
【0038】
なお、上記では単純に両者の比率を空調能力補正のためのスケール係数としたが、学習対象の空調機3の定格能力と推定対象の空調機3の定格能力とのスケールの違いを考慮して推定値を補正可能であればよく、補正時の計算方法は特に限定されない。
【0039】
また、例えばサーバ1は、定格能力が異なる複数の空調機3について別々に学習を行い、各定格能力に対応する複数の推定モデル141を用意しておいてもよい。空調能力を推定する際には、サーバ1は推定対象の空調機3と定格能力が近似する推定モデル141を選択し、選択した推定モデル141を用いて空調能力を推定する。このように、サーバ1は定格能力に応じた推定を行うことができればよく、その処理内容は特に限定されない。
【0040】
また、例えばサーバ1は、空調機3の定格能力を推定モデル141の入力パラメータに用いて、定格能力を考慮して現在の空調能力を推定可能としてもよい。
【0041】
サーバ1は、補正後の空調能力の推定結果を端末2に出力し、空調機3の管理者に提示する。図6は、空調能力の推定結果の表示画面例を示す説明図である。例えば端末2は、サーバ1からの出力を受けて図6の画面を表示する。具体的には、端末2は、空調機3の設置施設名、空調機ID、空調能力の推定日時(冷媒温度及び電流値の計測期間)などに加えて、空調機3の暖房能力及び冷房能力(並びに消費電力)をそれぞれ表示する。例えば端末2は、推定モデル141で推定した空調能力の推定値を表示する共に、空調機3の定格能力を表示し、管理者に提示する。
【0042】
なお、例えばサーバ1は、過去の複数の時点それぞれの計測値から各時点の空調能力を推定し、空調能力の時系列変化(低下)を出力するようにしてもよい。これにより、空調機3の導入時に比べてどの程度空調能力が変化しているか、管理者に提示することができる。
【0043】
以上より、本実施の形態によれば、比較的計測容易な冷媒温度及び電流値を用いて空調能力を推定することで、空調能力の簡易測定を好適に行うことができる。
【0044】
図7は、推定モデル141の生成処理の手順を示すフローチャートである。図7に基づき、機械学習により推定モデル141を生成する際の処理内容について説明する。
サーバ1の制御部11は、冷媒温度及び電流値と、空調機3の空調能力とを含む教師データを取得する(ステップS11)。具体的には、室外機31の冷媒配管の複数箇所の温度、及び室外機31の運転電流の電流値に対し、空調機3の空調能力の正解値がラベル付けされた教師データを取得する。
【0045】
制御部11は、取得した教師データに基づき、冷媒温度及び電流値を入力として空調能力を出力とする推定モデル141を生成する(ステップS12)。具体的には上述の如く、制御部11はニューラルネットワークを推定モデル141として生成する。制御部11は、複数箇所の冷媒温度と、電流値とを推定モデル141に入力し、空調能力を推定する。制御部11は、空調能力の推定値を正解値と比較し、両者が近似するように重み等の各種パラメータを最適化する。制御部11は、生成した推定モデル141を学習対象とした空調機3の定格能力と関連付けて補助記憶部14に格納し、一連の処理を終了する。
【0046】
図8は、空調能力の推定処理の手順を示すフローチャートである。図8に基づき、空調能力を推定する際の処理内容について説明する。
サーバ1の制御部11は、空調機3の室外機31に取り付けた温度センサ33及び電流センサ34から、冷媒温度及び電流値の計測結果を取得する(ステップS31)。制御部11は、取得した冷媒温度及び電流値を推定モデル141に入力し、空調機3の空調能力を推定する(ステップS32)。
【0047】
制御部11は、学習対象の空調機3の定格能力と、推定対象の空調機3の定格能力とに基づき、ステップS32で推定した空調能力を補正する(ステップS33)。具体的には、制御部11は、推定対象の空調機3の定格能力を学習対象の空調機3の定格能力で除算してスケール係数を算出し、算出したスケール係数を推定値に乗算して補正値を算出する。制御部11は、補正後の空調能力の推定結果を端末2に出力し(ステップS34)、一連の処理を終了する。
【0048】
以上より、本実施の形態1によれば、空調能力の簡易測定を好適に行うことができる。
【0049】
また、本実施の形態1によれば、蒸発器の吸入口及び吐出口、並びに凝縮器の吸入口及び吐出口における冷媒温度を用いることで、空調能力を好適に推定することができる。
【0050】
また、本実施の形態1によれば、冷媒温度に加えて室外機31の電流値を用いることで、空調能力をより正確に推定することができる。
【0051】
また、本実施の形態1によれば、空調機3の定格能力に応じて補正を行うことで、空調能力をより正確に推定することができる。
【0052】
(実施の形態2)
本実施の形態では、空調能力の推定結果に基づき、空調機3の更新(買い替え)をリコメンドする形態について述べる。なお、実施の形態1と重複する内容については同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
図9は、実施の形態2に係るサーバ1の構成例を示すブロック図である。本実施の形態に係るサーバ1の補助記憶部14は、機種DB144を記憶している。機種DB144は、複数の機種の空調機3に関する情報を格納するデータベースである。
【0054】
図10は、機種DB144のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。機種DB144は、機種ID列、機種名列、定格能力列、価格列を含む。機種ID列は、空調機3の機種を識別するための機種IDを記憶している。機種名列、定格能力列、及び価格列はそれぞれ、機種IDと対応付けて、空調機3の機種名、定格能力、及び販売価格を記憶している。
【0055】
図11は、実施の形態2に係る空調能力の推定結果の表示画面例を示す説明図である。図11に基づき、本実施の形態の概要を説明する。
サーバ1は実施の形態1と同様に、空調機3の空調能力を推定して管理者に提示する。本実施の形態でサーバ1はさらに、空調能力の推定値に基づいて現在の空調機3よりも空調能力(定格能力)の低い空調機3の機種を選択し、選択した空調機3へのダウンサイジング(更新)を管理者にリコメンドする。
【0056】
具体的には、サーバ1はまず、推定モデル141で推定した空調能力の推定値に基づき、機種を選択する際に許容する空調能力の許容値を算出する。例えばサーバ1は、推定値に対して1.0を超過する所定の係数(例えば1.2~1.3の値)を乗算し、機種選択の際に閾値とする下限値を算出する。なお、許容値を計算するのは空調能力推定時の誤差や安全性を考慮してのものであるが、推定値自体を閾値として用いてもよい。また、サーバ1は下限値に加えて上限値を計算して、上限値及び下限値の間の数値範囲を許容値としてもよい。
【0057】
サーバ1は、算出した許容値以上の定格能力を有する機種を機種DB144から抽出する。そしてサーバ1は、抽出した機種の内、定格能力(空調能力)が最も低い機種を、管理者にリコメンドする空調機3として選択する。なお、サーバ1は空調能力だけでなく、空調機3の価格なども参照して機種を選択してもよい。また、サーバ1は定格能力が最も低い機種だけでなく、定格能力が低い複数の機種を選択してもよい。複数の機種を選択する場合、例えばサーバ1は、定格能力が低い順に各機種の空調機3をリコメンド(表示)するようにしてもよい。
【0058】
サーバ1は、選択した機種の空調機3の情報を機種DB144から読み出し、現在の空調機3の空調能力に関する推定結果と共に端末2に出力して表示させる。具体的には図11に示すように、端末2は、選択された空調機3の機種名、価格等を表示する。また、端末2は、空調機3の機種変更に伴う電気料金の削減額(差分)を表示する。例えばサーバ1は、現在の空調機3の空調能力(推定値)と、選択した機種の空調機3の空調能力(定格能力)とに基づいて各空調機3の消費電力を算出し、算出した消費電力の差分から電気料金の削減額を算出して端末2に出力する。なお、例えばサーバ1は、電気料金の削減額に加えて、又は削減額に代えて、消費電力の差分値を出力するようにしてもよい。
【0059】
端末2は、電気料金の削減額を含む各種情報を表示して空調機3の更新をリコメンドする。なお、例えば端末2は図11の画面で空調機3の発注などを受け付けてもよい。
【0060】
図12は、実施の形態2に係る空調能力の推定処理の手順を示すフローチャートである。空調機3の空調能力の推定値を補正した後(ステップS33)、サーバ1は以下の処理を実行する。
サーバ1の制御部11は、空調能力の推定値に基づき、空調機3の機種を選択する際に許容する空調能力の許容値(例えば下限値)を算出する(ステップS201)。制御部11は、算出した許容値に基づき、管理者にリコメンドする空調機3の機種を選択する(ステップS202)。例えば制御部11は、各機種の定格能力を許容値と比較し、許容値以上の機種を抽出する。そして制御部11は、抽出した機種の内、定格能力が最も低い機種を選択する。
【0061】
制御部11は、選択した機種の定格能力に基づき、空調機3の稼働に要する電気料金の削減額を算出する(ステップS203)。そして制御部11は、現在の空調機3の空調能力の推定値のほか、ステップS203で算出した削減額、選択した機種の機種名、価格等を端末2に出力し(ステップS204)、一連の処理を終了する。
【0062】
以上より、本実施の形態2によれば、空調機3の更新(ダウンサイジング)を提案することができる。
【0063】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1 サーバ(推定装置)
11 制御部
12 主記憶部
13 通信部
14 補助記憶部
P プログラム
141 推定モデル
142 空調DB
143 計測値DB
144 機種DB
2 端末
3 空調機
31 室外機
32 室内機
33 温度センサ
34 電流センサ
35 ゲートウェイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12