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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20231025BHJP
   B23K 26/22 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/21 W
B23K26/22
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019079117
(22)【出願日】2019-04-18
(65)【公開番号】P2020175411
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】都藤 智仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聖也
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/189855(WO,A1)
【文献】特開2019-005768(JP,A)
【文献】国際公開第2018/056172(WO,A1)
【文献】特表2013-510727(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0141158(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材に対して、重ね合わせの最外に位置する外側金属板材の外側主面にレーザ光を照射して前記少なくとも2枚の金属板材を接合するレーザ溶接方法であって、
前記少なくとも2枚の金属板材には、前記外側金属板材に対して前記重ね合わせの内側に隣接する内側金属板材が含まれており、
少なくとも前記外側金属板材は、所定領域において、前記外側主面が当該外側金属板材の板厚方向に凹入してなる凹部が形成され、前記外側主面とは反対側の内側主面が前記板厚方向に凸出してなる凸部が形成されてなり、
前記外側主面の側から前記凹部内に向けてレーザ光を照射して、当該部分の金属を溶融させるレーザ溶接を行い、
前記凸部は、外観形状が錐台状であって、前記内側金属板材の主面に対向する頂面である底面部が平坦であり、
前記レーザ溶接の実行においては、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に当接または近接するように前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせた状態で、前記凹部内に向けて前記レーザ光を照射するとともに、前記凹部内の少なくとも一部で前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査し、
前記凹部は、
前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査する領域である第1凹部と、
前記レーザ光のスポットを線状に走査する領域である第2凹部と、を備える
レーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
前記外側金属板材をその板厚方向から平面視する場合において、前記底面部の形状は、前記レーザ光のスポットが走査される領域の形状と略同じである、
レーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーザ溶接方法において、
前記外側金属板材をその板厚方向から平面視する場合において、前記底面部のサイズは、前記レーザ光のスポットが走査される領域のサイズと同じかそれよりも大きい、
レーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項1から請求項の何れかに記載のレーザ溶接方法において、
前記レーザ光の照射において、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に対して隙間を空けた状態で、前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせ、
前記凹部の深さは、当該凹部が形成されてなる部分を除く領域での前記外側金属板材と前記内側金属板材との間の隙間である最大隙間より浅い、
レーザ溶接方法。
【請求項5】
請求項に記載のレーザ溶接方法において、
前記凹部の深さは、前記最大隙間の0.4~0.6倍である、
レーザ溶接方法。
【請求項6】
請求項1から請求項の何れかに記載のレーザ溶接方法において、
前記レーザ溶接の実行において、前記凹部内における前記レーザ光の照射範囲に溶加材を供給する、
レーザ溶接方法。
【請求項7】
請求項1から請求項の何れかに記載のレーザ溶接方法において、
前記凹部の内底面部も平坦であり、
前記外側金属板材をその板厚方向から平面視する場合において、前記凸部の前記底面部のサイズは、前記凹部における前記内底面部のサイズよりも大きい、
レーザ溶接方法。
【請求項8】
請求項1から請求項の何れかに記載のレーザ溶接方法において、
前記少なくとも外側金属板材に対して塑性加工を行うことにより、互いに表裏の関係の前記凹部および前記凸部を形成する、
レーザ溶接方法。
【請求項9】
重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材に対して、重ね合わせの最外に位置する外側金属板材の外側主面にレーザ光を照射して前記少なくとも2枚の金属板材を接合するレーザ溶接装置であって、
前記少なくとも2枚の金属板材には、前記外側金属板材に対して前記重ね合わせの内側に隣接する内側金属板材が含まれており、
少なくとも前記外側金属板材は、所定領域において、前記外側主面が当該金属板材の板厚方向に凹入してなる凹部が形成され、前記外側主面とは反対側の内側主面が前記板厚方向に凸出してなる凸部が形成されてなり、
前記外側主面の側から前記凹部内に向けてレーザ光を照射して、当該部分の金属を溶融させるレーザ溶接機を、備え、
前記凸部は、外観形状が錐台状であって、前記内側金属板材の主面に対向する頂面である底面部が平坦であり、
前記レーザ溶接機は、前記レーザ光の照射に際して、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に当接または近接するように前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせた状態で、前記凹部内に向けて前記レーザ光を照射するとともに、前記凹部内の少なくとも一部で前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査し、
前記凹部は、
前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査する領域である第1凹部と、
前記レーザ光のスポットを線状に走査する領域である第2凹部と、を備える、
レーザ溶接装置。
【請求項10】
請求項9に記載のレーザ溶接装置において、
前記少なくとも外側金属板材における前記所定領域に対して該金属板材の板厚方向に圧力を付加することにより、互いに表裏の関係の前記凹部および前記凸部が形成されるように、塑性加工を行う塑性加工機を、さらに備える、
レーザ溶接装置。
【請求項11】
重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材に対して、重ね合わせの最外に位置する外側金属板材の外側主面にレーザ光を照射して前記少なくとも2枚の金属板材を接合するレーザ溶接方法であって、
前記少なくとも2枚の金属板材には、前記外側金属板材に対して前記重ね合わせの内側に隣接する内側金属板材が含まれており、
少なくとも前記外側金属板材は、所定領域において、前記外側主面が当該外側金属板材の板厚方向に凹入してなる凹部が形成され、前記外側主面とは反対側の内側主面が前記板厚方向に凸出してなる凸部が形成されてなり、
前記外側主面の側から前記凹部内に向けてレーザ光を照射して、当該部分の金属を溶融させるレーザ溶接を行い、
前記凸部は、外観形状が錐台状であって、前記内側金属板材の主面に対向する頂面である底面部が平坦であり、
前記レーザ溶接の実行においては、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に当接または近接するように前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせた状態で、前記凹部内に向けて前記レーザ光を照射するとともに、前記凹部内の少なくとも一部で前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査した後、連続してこの周回走査の領域の外縁部分から径方向外向きに、前記レーザ光のスポットを線状に走査する、
レーザ溶接方法。
【請求項12】
請求項11に記載のレーザ溶接方法において、
前記外側金属板材は、互いに離間する一対の前記凹部と、当該凹部に各々対応する一対の前記凸部が形成されるものであり、
前記レーザ溶接の実行においては、前記レーザ光のスポットを一方側の前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査した後、連続してこの周回走査の領域の外縁部分から他方側の前記凹部に向かって前記レーザ光のスポットを線状に走査し、さらに連続して当該他方側の前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように前記レーザ光のスポットを走査する、
レーザ溶接方法。
【請求項13】
重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材に対して、重ね合わせの最外に位置する外側金属板材の外側主面にレーザ光を照射して前記少なくとも2枚の金属板材を接合するレーザ溶接装置であって、
前記少なくとも2枚の金属板材には、前記外側金属板材に対して前記重ね合わせの内側に隣接する内側金属板材が含まれており、
少なくとも前記外側金属板材は、所定領域において、前記外側主面が当該金属板材の板厚方向に凹入してなる凹部が形成され、前記外側主面とは反対側の内側主面が前記板厚方向に凸出してなる凸部が形成されてなり、
前記外側主面の側から前記凹部内に向けてレーザ光を照射して、当該部分の金属を溶融させるレーザ溶接機を、備え、
前記凸部は、外観形状が錐台状であって、前記内側金属板材の主面に対向する頂面である底面部が平坦であり、
前記レーザ溶接機は、前記レーザ光の照射に際して、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に当接または近接するように前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせた状態で、前記凹部内に向けて前記レーザ光を照射するとともに、前記凹部内の少なくとも一部で前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査した後、連続してこの周回走査の領域の外縁部分から径方向外向きに、前記レーザ光のスポットを線状に走査する、
レーザ溶接装置。
【請求項14】
請求項13に記載のレーザ溶接装置において、
前記外側金属板材は、互いに離間する一対の前記凹部と、当該凹部に各々対応する一対の前記凸部が形成されるものであり、
前記レーザ溶接機は、前記レーザ光の照射に際して、前記レーザ光のスポットを一方側の前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査した後、連続してこの周回走査の領域の外縁部分から他方側の前記凹部に向かって前記レーザ光のスポットを線状に走査し、さらに連続して当該他方側の前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように前記レーザ光のスポットを走査する、
レーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板材同士の接合には、レーザ溶接技術が用いられることがある。レーザ溶接を用いた金属板材の接合は、レーザ光の照射により金属板材の一部を溶融させ、凝固させることでなされる。レーザ溶接を用いて金属板材同士を接合する場合には、抵抗溶接などを用いる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少ない、という優位性がある。また、レーザ溶接を用いて金属板材同士を接合する場合には、金属板材に対して非接触で溶接を行うことができ、加工効率が高く、連続溶接による剛性アップを図ることが可能である。
【0003】
例えば、特許文献1には、バスバーとタブ端子との接合にレーザ溶接を用いる技術が開示されている。特許文献1に開示のレーザ溶接では、タブ端子における接合領域に半球状の張り出し部を塑性加工(張り出し加工など)により形成し、これによりタブ端子の一方側主面に塑性加工により形成された張り出し部の凹部に向けてレーザ光を照射し、反対側主面に凸出されてなる凸部の頂部でバスバーに接合している。特許文献1では、上記のように塑性加工を施した上でレーザ光照射による接合を行うことにより、レーザ光の照射により発生した熱を凹部内にこもらせることができ、接合強度の向上を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-144774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1で開示された技術をはじめとする従来技術では、改善の余地がある。即ち、従来技術では、接合しようとする金属板材同士の間に隙間が空いているような場合には、レーザ光の照射側における金属板材の溶融金属の一部が板材間の隙間部分に流れ込んでしまい、レーザ光を照射した部分に板厚方向に窪んだ窪み部が形成されることとなる。このため、従来技術では、溶接部(ナゲット)の外縁部分におけるブリッジ部の肉厚が薄くなってしまい、高い接合強度を確保することができない。
【0006】
上記特許文献1に開示の技術のように塑性加工により張り出し部を形成した上で接合を行う場合でも、タブ端子に形成する凸部が半球状であるため、溶接前の状態において、タブ端子における凸部の頂部の周りの部分とバスバーとの間には隙間が空いてしまい、当該周りの部分に溶融金属が流れてゆくこととなるため、やはり、高い接合強度を確保することが難しい。
【0007】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、金属板材同士の間に隙間があるような場合であっても、高い接合強度で金属板材同士を接合可能なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るレーザ溶接方法は、重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材に対して、重ね合わせの最外に位置する外側金属板材の外側主面にレーザ光を照射して前記少なくとも2枚の金属板材を接合するレーザ溶接方法であって、前記少なくとも2枚の金属板材には、前記外側金属板材に対して前記重ね合わせの内側に隣接する内側金属板材が含まれており、少なくとも前記外側金属板材は、所定領域において、前記外側主面が当該外側金属板材の板厚方向に凹入してなる凹部が形成され、前記外側主面とは反対側の内側主面が前記板厚方向に凸出してなる凸部が形成されてなり、前記外側主面の側から前記凹部内に向けてレーザ光を照射して、当該部分の金属を溶融させるレーザ溶接を行い、前記凸部は、外観形状が錐台状であって、前記内側金属板材の主面に対向する頂面である底面部が平坦であり、前記レーザ溶接の実行においては、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に当接または近接するように前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせた状態で、前記凹部内に向けて前記レーザ光を照射するとともに、前記凹部内の少なくとも一部で前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査し、前記凹部は、前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査する領域である第1凹部と、前記レーザ光のスポットを線状に走査する領域である第2凹部と、を備える。
【0009】
先ず、上記態様に係るレーザ溶接方法は、重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材をレーザ溶接により接合するので、抵抗溶接などを用いる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少なく、また、金属板材に対して非接触で溶接を行うことができ、加工効率が高く、連続溶接による剛性アップを図ることが可能である。
【0010】
次に、上記態様に係るレーザ溶接方法では、凹部内の少なくとも一部で所定箇所を中心としてその周りをスポットが周回するようにレーザ光の照射を行い、金属板材を溶融・攪拌して、金属板材同士の接合を行うので、仮に溶接前の状態で金属板材同士の間に隙間が空いていたとしても、溶融金属により板材間の隙間を埋めることができる。よって、上記態様に係るレーザ溶接方法では、溶接前の状態で金属板材同士の間に隙間があった場合にも、高いギャップ裕度を以って金属板材同士を高い強度で接合することができる。
【0011】
さらに、上記態様に係るレーザ溶接方法では、上記少なくとも外側金属板材として、所定領域の外側主面が凹入し、同じ領域の内側主面が凸出されてなる金属板材を採用するので、レーザ溶接する部分での金属板材間の隙間(底面部と内側金属板材の主面との間の隙間)を小さくすることができる。よって、レーザ光の照射により金属を溶融した際に金属板材間の隙間に流れ込む溶融金属の量を少なく抑えることができ、凹部の外縁部分におけるブリッジ部の肉厚が薄くなることに起因して、該部分で脆弱組織が形成されたりするのを抑制することができる。
【0012】
なお、凸部の底面部を平坦に構成することにより、溶接部において該底面部と内側金属板材の主面とを安定して(一定の間隔で)近接させることができ、または接触させることができる。
また、レーザ光のスポットを走査する領域の全てに凹部を形成して(第1凹部および第2凹部を形成して)、外側金属板材と内側金属板材との間の隙間を小さくした上で、第1凹部内ではレーザ光のスポットを周回させ、その後に第2凹部内でレーザ光のスポットを線状に走査するので、第1凹部を形成した部分での溶融金属の一部が第2凹部を形成した部分の金属板材間の隙間に流れ込むようにすることができる。よって、上記構成を採用する場合には、第2凹部を形成した部分における接合強度をより高くすることができる。
【0013】
従って、上記態様に係るレーザ溶接方法では、溶接前の状態で金属板材同士の間に隙間があるような場合にあっても、高い接合強度で金属板材同士を接合可能である。
【0014】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記外側金属板材をその板厚方向から平面視する場合において、前記底面部の形状は、前記レーザ光のスポットが走査される領域の形状と略同じである、との構成を採用することもできる。
【0015】
上記のように、レーザ光のスポットが周回される領域(溶接しようとする領域)と凸部の底面部との形状を略同じとすることで、スポットの周回方向における入熱条件を略均一化することができ、溶接部分に歪な残留応力が残ることを抑制することができる。
【0016】
また、溶接箇所の特定が容易となり、溶接ロボットなどを用いる場合のティーチング作業が簡易になる。
【0017】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記外側金属板材をその板厚方向から平面視する場合において、前記底面部のサイズは、前記レーザ光のスポットが走査される領域のサイズと同じかそれよりも大きい、との構成を採用することもできる。
【0018】
上記のように、上記少なくとも外側金属板材における凸部の底面部のサイズを、レーザ光のスポットが走査される領域(溶接しようとする領域)の平面サイズと略同一とすることによって、必要最小限の領域に凹部および凸部を有してなる金属板材を準備するだけで、金属板材間の隙間を小さくして溶融金属の流れ込み量を少なくすることができるので、高い強度での金属板材同士の接合を行うことができる。
【0021】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記レーザ光の照射に際して、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に対して隙間を空けた状態で、前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせ、前記凹部の深さは、当該凹部が形成されてなる部分を除く領域での前記外側金属板材と前記内側金属板材との間の隙間である最大隙間より浅い、との構成を採用することもできる。
【0022】
なお、ここでの最大隙間とは、設計上想定される最大の隙間のことを意味する。
【0023】
上記のような構成を採用する場合には、溶接しようとする領域の全域にわたり、凸部の底面部と内側金属板材の主面との間に隙間を残すことができ、レーザ光の照射により溶融した金属を溶接しようとする全領域に広げることができ、高い強度での接合を行うのに好適である。
【0024】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記凹部の深さは、前記最大隙間の0.4~0.6倍である、との構成を採用することもできる。
【0025】
上記のような構成を採用する場合には、凹部および凸部が形成されてなる部分を除く領域に比べて、金属板材間の隙間が略半分(0.4~0.6倍)とすることができるので、凹部および凸部が形成されていない金属板材を対象としてレーザ溶接を行う場合に比べて金属板材同士の間の隙間に流れ込む溶融金属の量を低減することができ、溶接部の外縁部分におけるブリッジ部の肉厚が薄くなることに起因して、該部分で脆弱組織が形成されたりするのを抑制するのに好適である。
【0026】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記レーザ溶接の実行において、前記凹部内における前記レーザ光の照射範囲に溶加材を供給する、との構成を採用することもできる。
【0027】
上記のような構成を採用する場合には、溶加材を供給しながらレーザ溶接を行うので、底面部と内側金属板材の主面との間の隙間が大きい場合や、溶接面積が大きい場合などでも、十分な量の溶融金属を流動させることができる。また、上記のような構成を採用する場合において、溶加材の溶融分を含めた溶融金属を凹部内に収容することができるため、凹部内を溶融金属で埋めて主面と略同一平面とすることができ、何れの金属板材にも凹部および凸部が形成されておらず、溶接部およびその周辺に凝固金属が盛り上がる場合に比べて、溶接後における高い外観品質を確保するのに好適である。
【0028】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記凹部の内底面部も平坦であり、前記外側金属板材をその板厚方向から平面視する場合において、前記凸部の前記底面部のサイズは、前記凹部における前記内底面部のサイズよりも大きい、との構成を採用することもできる。
【0029】
上記のような構成を採用する場合には、凹部内におけるレーザ光を照射する領域(溶接しようとする領域)の板厚を略均一化することで、溶接条件の均一化を図ることができる。
【0030】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記少なくとも外側金属板材に対して塑性加工を行うことにより、互いに表裏の関係の前記凹部および前記凸部を形成する、との構成を採用することもできる。
【0031】
上記態様に係るレーザ溶接方法は、塑性加工を実行することにより上記少なくとも外側金属板材の所定領域に凹部および凸部が形成することとしているので、凹部および凸部を形成した部分に確実に位置合わせしながらレーザ溶接を行うことができる。よって、上記態様に係るレーザ溶接方法では、高い接合強度で金属板材同士を接合可能である。
【0032】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材に対して、重ね合わせの最外に位置する外側金属板材の外側主面にレーザ光を照射して前記少なくとも2枚の金属板材を接合するレーザ溶接装置であって、前記少なくとも2枚の金属板材には、前記外側金属板材に対して前記重ね合わせの内側に隣接する内側金属板材が含まれており、少なくとも前記外側金属板材は、所定領域において、前記外側主面が当該金属板材の板厚方向に凹入してなる凹部が形成され、前記外側主面とは反対側の内側主面が前記板厚方向に凸出してなる凸部が形成されてなり、前記外側主面の側から前記凹部内に向けてレーザ光を照射して、当該部分の金属を溶融させるレーザ溶接機を、備え、前記凸部は、外観形状が錐台状であって、前記内側金属板材の主面に対向する頂面である底面部が平坦であり、前記レーザ溶接機は、前記レーザ光の照射に際して、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に当接または近接するように前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせた状態で、前記凹部内に向けて前記レーザ光を照射するとともに、前記凹部内の少なくとも一部で前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査し、前記凹部は、前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査する領域である第1凹部と、前記レーザ光のスポットを線状に走査する領域である第2凹部と、を備える。
【0033】
先ず、上記態様に係るレーザ溶接装置は、重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材をレーザ溶接により接合するので、抵抗溶接などを用いる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少なく、また、金属板材に対して非接触で溶接を行うことができ、加工効率が高く、連続溶接による剛性アップを図ることが可能である。
【0034】
次に、上記態様に係るレーザ溶接装置では、凹部内の少なくとも一部において所定箇所を中心としてその周りをスポットが周回するようにレーザ光の照射を行い、金属板材を溶融・攪拌して、金属板材同士の接合を行うので、仮に溶接前の状態で金属板材同士の間に隙間が空いていたとしても、溶融金属により板材間の隙間を埋めることができる。よって、上記態様に係るレーザ溶接装置では、溶接前の状態で金属板材同士の間に隙間があった場合にも、高いギャップ裕度を以って金属板材同士を高い強度で接合することができる。
【0035】
さらに、上記態様に係るレーザ溶接装置では、上記少なくとも外側金属板材として、所定領域の外側主面が凹入し、同じ領域の内側主面が凸出されてなる金属板材を採用するので、レーザ溶接する部分での外側金属板材と内側金属板材との間の隙間(底面部と内側金属板材の主面との間の隙間)を小さくすることができる。よって、レーザ光の照射により金属を溶融した際に金属板材間の隙間に流れ込む溶融金属の量を少なく抑えることができ、凹部の外縁部分におけるブリッジ部の肉厚が薄くなることに起因して、該部分で脆弱組織が形成されたりするのを抑制することができる。
また、レーザ光のスポットを走査する領域の全てに凹部を形成して(第1凹部および第2凹部を形成して)、外側金属板材と内側金属板材との間の隙間を小さくした上で、第1凹部内ではレーザ光のスポットを周回させ、その後に第2凹部内でレーザ光のスポットを線状に走査するので、第1凹部を形成した部分での溶融金属の一部が第2凹部を形成した部分の金属板材間の隙間に流れ込むようにすることができる。よって、上記構成を採用する場合には、第2凹部を形成した部分における接合強度をより高くすることができる。
【0036】
従って、上記態様に係るレーザ溶接装置では、溶接前の状態で金属板材同士の間に隙間があるような場合にあっても、高い接合強度で金属板材同士を接合可能である。
【0039】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、前記少なくとも外側金属板材における前記所定領域に対して該金属板材の板厚方向に圧力を付加することにより、互いに表裏の関係の前記凹部および前記凸部が形成されるように、塑性加工を行う塑性加工機を、さらに備える、との構成を採用することもできる。
【0040】
上記のような構成を採用する場合には、塑性加工機とレーザ溶接機との連携を図ることが容易であり、塑性加工機を用いて形成した凹部および凸部の位置と、レーザ溶接機によりレーザ光を照射する位置とを合致させることができる。よって、上記態様に係るレーザ溶接装置では、高い接合強度で金属板材同士を接合可能である。
本発明の他の一態様に係るレーザ溶接方法は、重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材に対して、重ね合わせの最外に位置する外側金属板材の外側主面にレーザ光を照射して前記少なくとも2枚の金属板材を接合するレーザ溶接方法であって、前記少なくとも2枚の金属板材には、前記外側金属板材に対して前記重ね合わせの内側に隣接する内側金属板材が含まれており、少なくとも前記外側金属板材は、所定領域において、前記外側主面が当該外側金属板材の板厚方向に凹入してなる凹部が形成され、前記外側主面とは反対側の内側主面が前記板厚方向に凸出してなる凸部が形成されてなり、前記外側主面の側から前記凹部内に向けてレーザ光を照射して、当該部分の金属を溶融させるレーザ溶接を行い、前記凸部は、外観形状が錐台状であって、前記内側金属板材の主面に対向する頂面である底面部が平坦であり、前記レーザ溶接の実行においては、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に当接または近接するように前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせた状態で、前記凹部内に向けて前記レーザ光を照射するとともに、前記凹部内の少なくとも一部で前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査した後、連続してこの周回走査の領域の外縁部分から径方向外向きに、前記レーザ光のスポットを線状に走査する。
この場合、前記外側金属板材は、互いに離間する一対の前記凹部と、当該凹部に各々対応する一対の前記凸部が形成されるものであり、前記レーザ溶接の実行においては、前記レーザ光のスポットを一方側の前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査した後、連続してこの周回走査の領域の外縁部分から他方側の前記凹部に向かって前記レーザ光のスポットを線状に走査し、さらに連続して当該他方側の前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように前記レーザ光のスポットを走査する、という方法を採用することもできる。
また、本発明の他の一態様に係るレーザ溶接装置は、重ね合わされた少なくとも2枚の金属板材に対して、重ね合わせの最外に位置する外側金属板材の外側主面にレーザ光を照射して前記少なくとも2枚の金属板材を接合するレーザ溶接装置であって、前記少なくとも2枚の金属板材には、前記外側金属板材に対して前記重ね合わせの内側に隣接する内側金属板材が含まれており、少なくとも前記外側金属板材は、所定領域において、前記外側主面が当該金属板材の板厚方向に凹入してなる凹部が形成され、前記外側主面とは反対側の内側主面が前記板厚方向に凸出してなる凸部が形成されてなり、前記外側主面の側から前記凹部内に向けてレーザ光を照射して、当該部分の金属を溶融させるレーザ溶接機を、備え、前記凸部は、外観形状が錐台状であって、前記内側金属板材の主面に対向する頂面である底面部が平坦であり、前記レーザ溶接機は、前記レーザ光の照射に際して、前記凸部の前記底面部が前記内側金属板材の前記主面に当接または近接するように前記少なくとも2枚の金属板材を重ね合わせた状態で、前記凹部内に向けて前記レーザ光を照射するとともに、前記凹部内の少なくとも一部で前記レーザ光のスポットを前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査した後、連続してこの周回走査の領域の外縁部分から径方向外向きに、前記レーザ光のスポットを線状に走査する。
この場合、前記外側金属板材は、互いに離間する一対の前記凹部と、当該凹部に各々対応する一対の前記凸部が形成されるものであり、前記レーザ溶接機は、前記レーザ光の照射に際して、前記レーザ光のスポットを一方側の前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように走査した後、連続してこの周回走査の領域の外縁部分から他方側の前記凹部に向かって前記レーザ光のスポットを線状に走査し、さらに連続して当該他方側の前記凹部内における所定箇所を中心としてその周りを周回するように前記レーザ光のスポットを走査する、という構成を採用することもできる。
【発明の効果】
【0041】
上記の各態様では、溶接前の状態で金属板材同士の間に隙間があるような場合にあっても、高い接合強度で金属板材同士を接合可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の第1実施形態に係るレーザ溶接装置の構成のうち、プレス機の概略構成を示す模式図である。
図2】プレス機により張り出し加工がされてなる金属板材の一部構成を示す模式断面図である。
図3】第1実施形態に係るレーザ溶接装置の構成のうち、レーザ溶接機の概略構成を示す模式図である。
図4】第1実施形態に係るレーザ溶接機でのレーザ光のスポットの走査形態を示す模式平面図である。
図5図4におけるV-V線断面を示す模式断面図である。
図6】比較例に係る溶接方法で形成した溶接部の形態を示す模式断面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る張り出し加工の形態を示す図であって、(a)は模式平面図であり、(b)は模式断面図である。
図8】第2実施形態に係る溶接形態を示す図であって、(a)は模式平面図であり、(b)は模式断面図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る溶接形態を示す模式平面図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る張り出し加工の形態を示す図であって、(a)は模式平面図であり、(b)は模式断面図である。
図11】(a)は、本発明の第5実施形態に係るレーザ溶接方法を示す模式断面図であり、(b)は、第5実施形態に係る方法を用いて溶接されてなる溶接形態を示す模式断面図である。
図12】本発明の第6実施形態に係る張り出し加工の形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0044】
[第1実施形態]
1.レーザ溶接装置1の概略構成
本発明の第1実施形態に係るレーザ溶接装置1の概略構成について、図1から図3を用いて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るレーザ溶接装置1の構成のうち、プレス機10の概略構成を示す模式図であり、図3は、レーザ溶接機20の概略構成を示す模式図である。また、図2は、プレス機10により塑性加工(張り出し加工)がされてなる金属板材501の一部構成を示す模式断面図である。
【0045】
図1および図3に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1は、張り出し加工を実行可能なプレス機(塑性加工機)10と、レーザ溶接を実行可能なレーザ溶接機20と、を備える。
【0046】
図1に示すように、本実施形態に係るプレス機10は、金属板材(外側金属板材)501の所定領域に張り出し加工を施す加工機である。プレス機10は、ロッド12をZ方向に前進および後退させるシリンダ11と、ロッド12の先端に取り付けられた上型13と、上型13とZ方向下側に間隔を空けて対向配置された下型14と、シリンダ11の駆動に係る駆動回路部15と、を備える。
【0047】
上型13のZ方向下側(下型14に対向する側)の部分に円錐台形に突出する凸部13aが設けられている。凸部13aの下面である頂面部13bは、平坦に形成されている。一方、下型14のZ方向上側(上型13に対向する側)の部分には、凸部13aに対して相似形の凹部14aが設けられている。凹部14aの内底面部14bは、平坦に形成されており、上型13の頂面部13bと略平行となっている。
【0048】
なお、図1では、上型13に1か所の凸部13aが設けられ、下型14に1か所の凹部14aが設けられた形態を図示しているが、上型13に複数箇所の凸部13aが設けられ、下型14にも上型13に設けられた凸部13aの数に対応する凹部14aが設けられていることとしてもよい。
【0049】
金属板材501に張り出し加工を施す場合には、上型13と下型14との間に金属板材501を挟み込み、シリンダ11を駆動させることにより上型13が矢印A1のようにZ方向下向きに前進して、金属板材501を矢印A2のように下型14に押し付ける。これにより、金属板材501の上面(外側主面)501aの一部がZ方向下向きに凹入された凹部(エンボス凹部)501bが形成され、下面(内側主面)501cにZ方向下向きに凸出した凸部(エンボス凸部)501dが形成される。凹部501bの形状は上型13の凸部13aの形状により規定され、凸部501dの形状は下型14の凹部14aの形状により規定される。
【0050】
図2に示すように、本実施形態に係るプレス機10を用いて形成した凹部501bは、円錐台形状であって、内底面部501eが平坦である。そして、凹部501b内の空間の周囲(Z方向に対して交差する方向の周囲)を囲む面が曲面によって構成された斜面部501fである。そして、凹部501bは、内底面部501aの直径がD501eであり、Z方向の深さがH501bである。
【0051】
凸部501dは、円錐台形であって、当該円錐台の頂面である底面部501gが平坦である。凸部501dにおける底面部501gの直径がD501gであって、本実施形態では直径D501eよりも大きい。即ち、本実施形態では、Z方向に交差する方向における底面部501gのサイズ(平面サイズ)が、内底面部501eの平面サイズよりも大きくなるように、金属板材501に対して張り出し加工がなされる。
【0052】
なお、本実施形態に係る構成は、板厚が0.5mmから3.2mm程度の、所謂、薄板に対して好適に適用することが可能である。
【0053】
次に、図3に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接機20は、図2に示すような形態で張り出し加工が施された金属板材501と、該金属板材501に重ね合わされた金属板材(内側金属板材)502とをレーザ溶接し、積層体500を形成する溶接機である。レーザ溶接機20は、レーザ発振器21と光路22と集光部(走査部)23とを備える。レーザ発振器21は、当該レーザ発振器21に接続されたコントローラ(制御部)26からの指令に従ってレーザ光を発振する。
【0054】
レーザ発振器21で発振されたレーザ光は、光路22を通り集光部23へと伝搬される。集光部23では、伝搬されてきたレーザ光が積層体500における金属板材501における凹部501bの内底面部501eに集光される(スポットが形成される)。そして、集光部23は、コントローラ26からの指令に従って金属板材501の表面でレーザ光のスポットを走査する。
【0055】
なお、本実施形態では、光路22の一例として光ファイバーケーブルを用いているが、これ以外にもミラーなどによりレーザ光を伝搬することができる種々の光路を採用することができる。
【0056】
また、レーザ溶接機20は、溶接ロボット24と、該溶接ロボット24の駆動に係る駆動回路部25と、を備える。溶接ロボット24は、その先端部分に集光部23が取り付けられており、駆動回路部25に接続されたコントローラ26からの指令に従って、集光部23を3次元で移動させることができる。
【0057】
なお、図1および図3に示したように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1では、プレス機10の駆動回路部15もコントローラ26に接続されており、張り出し加工を施した部分に関する各位置情報をコントローラ26に送信できる構成としている。そして、コントローラ26は、入力された張り出し加工が施された領域の位置情報に基づき、レーザ光を走査する領域を設定する。
【0058】
また、図3に示すように、本実施形態では、溶接前の状態において、張り出し加工により形成された凸部501dの底面部501gと金属板材502の上面(主面)502aとの間に隙間Gが空き、その他の部分では隙間Gが空くように配置されている。
【0059】
本実施形態では、凹部501bの深さH501bが、隙間Gの0.4~0.6倍(具体的には、例えば、0.5倍)となるように、張り出し加工が施されている。
【0060】
2.レーザ光のスポットの走査形態
レーザ溶接機20を用いたレーザ溶接における、レーザ光のスポットの走査形態について、図4を用いて説明する。図4は、レーザ溶接機20でのレーザ光のスポットの走査形態を示す模式平面図である。
【0061】
図4に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接機20を用いた溶接では、コントローラ26がレーザ発振器21にレーザ光を発振する旨の指令を出した状態で、レーザ光のスポットがレーザ光走査軌跡LNLB上を通るように集光部23が制御される。図4に示すように、レーザ光走査軌跡LNLBは、金属板材501の凹部501b内における内底面部501eの所定箇所(周回中心)AxLBの周りを周回する軌跡である。コントローラ26は、レーザ光走査軌跡LNLB上をレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。これにより、周回中心AxLBの周囲に平面視略円形の領域である部分における金属が溶融・攪拌される。
【0062】
ここで、図4に示すように、本実施形態では、レーザ光のスポットが周回するレーザ光走査軌跡LNLBの形状(平面視略円形状)を、凹部501bにおける内底面部501eの平面形状(平面視略円形状)および凸部501dにおける底面部501gの平面形状(平面視略円形状)と略同じとしている。
【0063】
また、本実施形態では、レーザ光走査軌跡LNLBの平面サイズ(Z方向から見た場合のサイズ)を、凹部501bにおける内底面部501eの平面サイズと略同じサイズとし、凸部501dにおける底面部501gの平面サイズよりも小さいサイズとしている。即ち、本実施形態では、内底面部501eの直径D501e図2を参照。)を、レーザ光走査軌跡LNLBの最大径DLBと略同じとし、底面部501gの直径D501gを、レーザ光走査軌跡LNLBの最大径DLBよりも大きく形成している。
【0064】
3.溶接部100の形態
本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いた溶接により形成された溶接部(ナゲット)100の形態について、図5および図6を用いて説明する。図5は、図4におけるV-V線断面を示す模式断面図であり、図6は、比較例に係る溶接方法で形成した溶接部の形態を示す模式断面図である。
【0065】
図5に示すように、レーザ光を凹部501b内に向けて照射すると、レーザ光の照射の熱により溶融・攪拌され、その後に金属が凝固することで張り出し加工を行った各部に溶接部(ナゲット)100が形成される。図5に示すように、溶接部100は、溶接前に金属板材501と金属板材502との間に空いていた隙間G図3を参照。)を埋めるように形成される。そして、溶接部100は、レーザ光の照射側であるZ方向上側の部分が下向きに窪むこととなる。
【0066】
ここで、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法を採用する場合には、溶融金属が流れ込む隙間Gが他の領域における隙間Gよりも小さいため、溶融金属の流れ込み量が張り出し加工を施さない場合に比べて少ない。よって、凹部501bの斜面部501fの板厚であるブリッジ部Bの肉厚が薄くなるのを従来技術を用いた場合に比べて抑制することができ、また該ブリッジ部Bで脆弱組織が形成されてしまうのを抑制することができる。
【0067】
一方、図6に示すように、何れの金属板材901,902にも張り出し加工を施さず、互いの間に隙間Gを開けて重ね合わせた金属板材901と金属板材902とに対してレーザ溶接を行った場合には、Z方向上側の金属板材901の上面(外側主面)901aに金属溶融によりZ方向下向きに大きな窪みが形成される。即ち、図6に示す比較例の場合には、大きな隙間Gに多量の溶融金属が流れ込み、溶接部910の上端910aから急峻な斜面で表面が構成されることになりブリッジ部Cの肉厚が薄くなり、これによる急冷に起因して、該ブリッジ部Cで脆弱組織が形成されてしまう。
【0068】
4.効果
先ず、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、重ね合わされた2枚の金属板材501,502をレーザ溶接により接合するので、抵抗溶接などを用いる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少なく、また、金属板材501,502に対して非接触で溶接を行うことができ、加工効率が高く、連続溶接による剛性アップを図ることが可能である。
【0069】
次に、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、凹部501b内の少なくとも一部で周回中心AxLBを中心としてその周りをスポットが周回するようにレーザ光の照射を行い、金属板材501,502を溶融・攪拌して、金属板材501,502同士の接合を行うので、仮に溶接前の状態で金属板材501,502同士の間に隙間G,Gが空いていたとしても、溶融金属により金属板材501,502同士の間の隙間Gを埋めることができる。よって、本実施形態では、溶接前の状態で金属板材501,502同士の間に隙間G,Gが空いていた場合にも、高いギャップ裕度を以って金属板材501,502同士を高い強度で接合することができる。
【0070】
さらに、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、レーザ溶接を行う前に、プレス機10により所定領域の上面501aが凹入し、同じ領域の下面501cが凸出するように張り出し加工を施すので、レーザ溶接する部分での金属板材501,502同士の間の隙間Gを張り出し加工を施さない領域の隙間Gよりも小さくすることができる。よって、凹部501b内にレーザ光を照射し、これによって金属を溶融した際に金属板材501,502同士の間の隙間Gに流れ込む溶融金属の量を少なく抑えることができ、ブリッジ部Bの薄肉化が抑えられ、該部分で脆弱組織が形成されるのが抑制される。
【0071】
また、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、レーザ光のスポットが周回される領域(溶接しようとする領域)と凸部501dの底面部501gとの形状を略同じとすることで、スポットの周回方向における入熱条件を略均一化することができ、溶接部100に歪な残留応力が残ることを抑制することができる。また、溶接しようとする領域(溶接箇所)の特定が容易となり、溶接ロボット24のティーチング作業が簡易になる。
【0072】
また、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、凹部501bにおける内底面部501eの直径D501eを、レーザ光が周回する領域の直径DLBと略同じ大きさとすることによって、必要最小限の領域に対する張り出し加工を行うだけで、隙間Gが小さな領域を形成して、当該部分でレーザ溶接を行うことにより、溶融金属の流れ込み量を少なくすることができるので、高い強度での金属板材501,502同士の接合を行うことができる。
【0073】
また、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、溶接前の状態において、張り出し加工を施してなる部分で隙間Gが空くように金属板材501,502を配置し、その状態でレーザ溶接を行うので、レーザ光の照射により溶融した金属を溶接しようとする全領域に広げることができ、高い強度での接合を行うのに好適である。
【0074】
また、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、溶接を行う部分(張り出し加工の部分)の金属板材501,502同士の間の隙間Gがそれ以外の部分の隙間Gの略半分(0.4~0.6倍)となっているので、張り出し加工を施さず溶接しようとする場合、つまり、隙間Gのままで金属板材501,502同士を溶接する場合に比べて、金属板材501,502同士の間の隙間Gに流れ込む溶融金属の量を低減することができ、溶接部100におけるブリッジ部Bの肉厚が薄くなることに起因して、該部分で脆弱組織が形成されたりするのを抑制するのに好適である。
【0075】
以上のように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、溶接前の状態で金属板材501,502同士の間に隙間Gが空いている場合であっても、高い接合強度で金属板材501,502同士を接合可能である。
【0076】
[第2実施形態]
図7は、本実施形態に係る張り出し加工の形態を示す図であって、(a)は模式平面図であり、(b)は模式断面図である。また、図8は、本実施形態に係る溶接形態を示す図であって、(a)は模式平面図であり、(b)は模式断面図である。
【0077】
図7(a)に示すように、本実施形態に係るプレス機(塑性加工機)では、金属板材(外側金属板材)506に対して、互いにX方向に離間した凹部(エンボス凹部)506bと凹部(エンボス凹部)506hとを形成する。なお、図7(a)では、2つの凹部506b,506hを図示しているが、実際には、溶接しようとする部分に複数対の凹部を形成する。
【0078】
図7(b)に示すように、各凹部506b,506hが形成された部分の下面(内側主面)は、それぞれ底面部506g,506jが平坦な凸部506d,506iが凸出形成される。
【0079】
ここで、張り出し加工を行うことにより形成する凹部506b,506hおよび凸部506d,506iを有する各張り出し部の形態やサイズなどは、上記第1実施形態と同じである。
【0080】
次に、図7(b)に示すように、張り出し加工が施された金属板材506を、金属板材(内側金属板材)507と対向配置する。本実施形態では、金属板材506と金属板材507との組み合わせに係る積層体505がレーザ溶接の対象である。
【0081】
なお、図7(b)に示すように、溶接前の状態において、金属板材506と金属板材507との間の隙間は、凸部506d,506iの各底面部506g,506jで隙間G,Gであり、それ以外の部分で隙間Gである。
【0082】
図8(a)に示すように、本実施形態では、図7(b)のように配置された積層体505に対して、重ね合わせの上側(外側)に配置された金属板材506の側からレーザ光を照射して、互いに連続するスクリュ部106と線状部107とスクリュ部108とからなる溶接部(ナゲット)105を形成し、金属板材506と金属板材507とを接合する。
【0083】
具体的なレーザ溶接方法では、コントローラ26が、凹部506b内における所定箇所(周回中心)を中心としてその周りを周回するレーザ光走査軌跡上をレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。これにより、凹部506bの内底面部の形状およびサイズと略同じであって、凸部506dの底面部506gよりもサイズが小さな、平面視略円形のスクリュ部106(第1スクリュ部)における金属が溶融・攪拌される。
【0084】
続いて、コントローラ26は、第1スクリュ部106の溶融金属が凝固しない間に(溶融状態が維持されている間に)連続して、スクリュ部106のX方向右側の外縁部分から凹部506hの側に向けて離間するようにレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。これにより、線状のレーザ光走査軌跡の周囲に平面視線状の領域である線状部107における金属が溶融する。そして、図8(b)に示すように、線状部107における金属板材506と金属板材507との間の隙間Gに、スクリュ部106で溶融・攪拌された溶融金属の一部が流れ込む。
【0085】
なお、図8(b)に示すように、スクリュ部106の金属が溶融・攪拌され、連続して線状部107の金属が溶融される段階で、スクリュ部106における金属板材507におけるZ方向下側の面にも凹部が形成される場合がある。これは、スクリュ部106の溶融金属の一部が、線状部107における隙間Gに流れ込むためである。
【0086】
図8(a)に戻って、コントローラ26は、線状部107の溶融金属が凝固しない間に(溶融状態が維持されている間に)連続して、線状部107のX方向右側端部に連続し、凹部506h内の所定箇所(周回中心)を中心としてその周りを周回する軌跡上をレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。これにより、凹部506hの内底面部の形状およびサイズと略同じであって、凸部506iの底面部506jよりもサイズが小さな、平面視略円形のスクリュ部(第2スクリュ部)108における金属が溶融・攪拌される。
【0087】
そして、図8(a)、(b)に示すように、溶融金属が凝固することにより、互いに連続するスクリュ部106、線状部107、および第2スクリュ部108からなる溶接部(ナゲット)105が形成される。
【0088】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、レーザ光のスポットを周回させてスクリュ部106における溶融金属を攪拌し、該スクリュ部106の金属が溶融した状態で線状部107の金属を溶融させるので、溶接前に金属板材506と金属板材507との間に隙間Gが空いていても、スクリュ部106の溶融金属の一部が線状部107における隙間Gに流れ込むことになる。よって、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、溶接前に金属板材506と板材507との間に隙間G,G,Gが空いていても、えぐれ(アンダーフィル)や溶け落ちの発生を抑制することができる。
【0089】
また、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、互いに離間した状態で2つのスクリュ部を形成する場合に比べて、スクリュ部106の形成に連続して線状部107を形成し、さらに線状部107の形成に連続して第2スクリュ部108を形成することとしているので溶接速度の向上を図ることができる。そして、このような溶接速度の高速化を図りながらも、上述のようにスクリュ部106における溶融金属を線状部107における隙間Gに流れ込ませることで、高いギャップ裕度を確保することができる。
【0090】
[第3実施形態]
図9は、本実施形態に係る溶接形態を示す模式平面図である。
【0091】
図9に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、コントローラ26が、凹部511bの内底面部における所定箇所(周回中心)を中心としてその周りを周回するレーザ光走査軌跡上をレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。なお、本実施形態においても、張り出し加工を金属板材(外側金属板材)511に施すことにより、凹部511bの裏面側(外側金属板材の内側主面)には底面部511gが平坦な凸部511dが形成されている。
【0092】
上記レーザ光の照射により、凹部511bの内底面部の形状およびサイズと略同じであって、凸部511dの底面部511gよりもサイズが小さな、平面視略円形のスクリュ部111における金属が溶融・攪拌される。
【0093】
続いて、コントローラ26は、スクリュ部111の溶融金属が凝固しない間に(溶融状態が維持されている間に)連続して、スクリュ部111のX方向右側の外縁部から該スクリュ部111の径方向外向きに離間するようにレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。これにより、レーザ光走査軌跡の周囲に平面視線状の領域である線状部112における金属が溶融する。このとき、上記第2実施形態と同様に、線状部112における金属板材511とこれに対向配置された内側金属板材との間の隙間に、スクリュ部111で溶融・攪拌された溶融金属の一部が流れ込む。
【0094】
そして、スクリュ部111および線状部112の溶融金属が凝固することにより、互いに連続するスクリュ部111と線状部112とからなる溶接部(ナゲット)110が形成される。
【0095】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、レーザ光のスポットを周回させてスクリュ部111における溶融金属を攪拌し、該スクリュ部111の金属が溶融した状態で線状部112の金属を溶融させるので、溶接前に金属板材511とこれに対向配置された内側金属板材との間に隙間が空いていても、スクリュ部111の溶融金属の一部が線状部112における隙間に流れ込むことになる。よって、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、溶接前に金属板材511とこれに対向配置された内側金属板材との間に隙間が空いていても、えぐれ(アンダーフィル)や溶け落ちの発生を抑制することができる。
【0096】
[第4実施形態]
図10は、本実施形態に係る張り出し加工の形態を示す図であって、(a)は模式平面図であり、(b)は模式断面図である。
【0097】
図10(a)に示すように、本実施形態に係るプレス機(塑性加工機)では、金属板材(外側金属板材)516に対して、凹部(エンボス凹部)516bと当該凹部516bに連続する凹部(エンボス凹部)516hとを形成する。なお、図10(a)では、連続する2つの凹部516b,516hを図示しているが、実際には、溶接しようとする部分に複数対の凹部を形成する。
【0098】
ここで、凹部516bは平面視略円形の凹部であるのに対して、凹部516hは平面視線状の凹部である。凹部516hは、凹部516bの外周部部分における径方向略中央からX方向に向けて延びるように形成されている。なお、本実施形態に係る凹部516bが第1凹部に該当し、凹部516hが第2凹部に該当する。
【0099】
図10(b)に示すように、各凹部516b,516hが形成された部分の下面側(外側金属板材の内側主面)は、それぞれ底面部516g,516jが平坦な凸部516d,516iが凸出形成される。即ち、凹部516bと凸部516dとが金属板材516における表裏の関係を以って形成され、同様に、凹部516hと凸部516iとが金属板材516における表裏の関係を以って形成されている。
【0100】
ここで、張り出し加工を行うことにより形成する凹部516b,516hおよび凸部516d,516iを有する各張り出し部の形態やサイズなどは、上記第1実施形態などと同じである。
【0101】
次に、図10(b)に示すように、張り出し加工が施された金属板材516を、金属板材(内側金属板材)517と対向配置する。本実施形態では、金属板材516と金属板材517との組み合わせに係る積層体515がレーザ溶接の対象である。
【0102】
なお、図10(b)に示すように、溶接前の状態において、金属板材516と金属板材517との間の隙間は、凸部516d,516iの各底面部516g,516jで隙間G,Gであり、それ以外の部分で隙間Gである。
【0103】
図示を省略しているが、本実施形態でも、図10(b)のように配置された積層体515に対して、外側金属板材である金属板材516の側からレーザ光を照射して、互いに連続するスクリュ部と線状部とからなる溶接部(ナゲット)を形成し、金属板材516と金属板材517とを接合する。
【0104】
具体的なレーザ溶接方法では、コントローラ26が、凹部516b内における所定箇所(周回中心)を中心としてその周りを周回するレーザ光走査軌跡上をレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。これにより、凹部516bに対応する平面視略円形の領域の金属が溶融・攪拌される。
【0105】
続いて、コントローラ26は、凹部516bに対応するスクリュ部の溶融金属が凝固しない間に(溶融状態が維持されている間に)連続して、当該スクリュ部のX方向右側の外縁部分からX方向に離間するように形成された凹部516h内をレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。これにより、線状のレーザ光走査軌跡の周囲に平面視線状の領域である線状部における金属が溶融する。そして、金属板材516における凸部516iの底面部516jと金属板材517の上面517aとの間の隙間Gに、凹部516bに対応したスクリュ部で溶融・攪拌された溶融金属の一部が流れ込む。
【0106】
本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、上記第1実施形態などと同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、上記第2実施形態と同様に、形成された凹部516b内でレーザ光のスポットを周回させて当該領域における溶融金属を攪拌し、該部分の金属が溶融した状態で凹部516hに対応する線状部の金属を溶融させるので、溶接前に金属板材516と金属板材517との間に隙間G,G,Gが空いていても、スクリュ部の溶融金属の一部が線状部における隙間Gに流れ込むことになる。よって、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、溶接前に金属板材516と板材517との間に隙間G,G,Gが空いていても、えぐれ(アンダーフィル)や溶け落ちの発生を抑制することができる。
【0107】
また、凹部516hを形成することにより、線状部における金属板材516と金属板材517との間の隙間GIを小さくすることができるため、凹部516bに対応したスクリュ部で溶融・攪拌された溶融金属が少ない場合であっても、線状部における金属板材516と金属板材517との間の隙間Gを十分に充填することができ、高い強度で接合することができる。加えて、スクリュ部からの溶融金属の流し込み量を抑えることができ、えぐれ(アンダーフィル)や溶け落ちの発生をより効果的に抑制することができる。
【0108】
[第5実施形態]
図11(a)は、本実施形態に係るレーザ溶接方法を示す模式断面図であり、図11(b)は、本実施形態に係る方法を用いて溶接されてなる溶接形態を示す模式断面図である。
【0109】
図11(a)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、張り出し加工が施された金属板材(外側金属板材)521と、平板状の金属板材(内側金属板材)522と、からなる積層体520を溶接対象とする。そして、金属板材521と金属板材522との間には、張り出し加工により凸部521dが形成された部分では、金属板材521,522同士の間の隙間Gが、他の部分の隙間Gよりも小さくなっている。なお、本実施形態においても、金属板材522の上面522aに対向する凸部521dの底面部521gが平坦である。
【0110】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、レーザ光を照射する際に、当該レーザ光の照射範囲にワイヤ(溶加材)525を供給する。なお、本実施形態では、金属板材521の上面(外側主面)521a側から凹部521bの外縁部分にワイヤ525を供給する。
【0111】
図11(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法を用い金属板材521と金属板材522とを接合した場合には、溶融部(ナゲット)115の上面115bが上記第1実施形態に係る溶接部100の上面よりもZ方向上側に位置する。
【0112】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、金属板材521,522間の隙間Gが大きい場合や、溶接面積が大きい場合などでも、十分な量の溶融金属(ワイヤ525の溶融分を含む溶融金属)を流動させることができる。また、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、ワイヤ525の溶融分を含めた溶融金属を凹部521b内に収容することができるため、凹部521b内を溶融金属で埋めて上面521aと略同一平面とすることができ(凹み量を小さくすることができ)、溶接後における高い外観品質を確保することができる。すなわち、張り出し加工により凹部を形成しない場合には、ワイヤ(溶加材)およびその周辺に凝固金属が盛り上がり、外観品質を損なうおそれがあるが、そのような事態を避けることができる。
【0113】
[第6実施形態]
図12は、本実施形態に係る張り出し加工の形態を示す模式断面図である。
【0114】
図12に示すように、本実施形態に係るプレス機(塑性加工機)では、金属板材(外側金属板材)531に対して、凹部(エンボス凹部)531bを形成するとともに、金属板材533に対しても凹部(エンボス凹部)533bを形成する。なお、図12では、金属板材531に形成された1つの凹部531b,金属板材533に形成された1つの凹部533bを図示しているが、実際には、溶接しようとする部分にそれぞれ複数の凹部を形成する。
【0115】
ここで、図示を省略しているが、凹部531b,533bはそれぞれ平面視略円形の凹部であり、互いの形状およびサイズが略同じとなるように形成されている。
【0116】
図12に示すように、金属板材531における凹部531bが形成された部分の下面側(外側金属板材の内側主面)は、底面部531gが平坦な凸部531dが凸出形成される。即ち、凹部531bと凸部531dとが金属板材531における表裏の関係を以って形成されている。同様に、金属板材533における凹部533bが形成された部分の上面側は、底面部533gが平坦な凸部533dが凸出形成される。即ち、凹部533bと凸部533dとが金属板材533における表裏の関係を以って形成されている。
【0117】
ここで、張り出し加工を行うことにより形成する凹部531b,533bおよび凸部531d,533dを有する各張り出し部の形態やサイズなどは、上記第1実施形態などと同じである。
【0118】
次に、図12に示すように、張り出し加工が施された金属板材531および金属板材533を、金属板材532を挟んで対向するように配置する。本実施形態では、金属板材531と金属板材532と金属板材533との組み合わせに係る積層体530がレーザ溶接の対象である。
【0119】
なお、図12に示すように、溶接前の状態において、金属板材531と金属板材532の上面532aとの間の隙間は、凸部531dの底面部531gで隙間GD1であり、それ以外の部分で隙間Gである。また、溶接前の状態において、金属板材533と金属板材532の下面532bとの間の隙間は、凸部533dの底面部533gで隙間GD2であり、それ以外の部分で隙間Gである。
【0120】
図示を省略しているが、本実施形態でも、図12に示すように配置された積層体530に対して、金属板材531または金属板材533の側からレーザ光を照射して、溶接部(ナゲット)を形成し、金属板材531と金属板材532と金属板材533とを接合する。
【0121】
具体的なレーザ溶接方法では、コントローラ26が、凹部531b内または凹部533b内における所定箇所(周回中心)を中心としてその周りを周回するレーザ光走査軌跡上をレーザ光のスポットが通るように集光部23を制御する。これにより、凹部531bおよび凹部533bに対応する平面視略円形の領域の金属が溶融・攪拌され、当該溶融金属が固化することにより溶接部が形成される。
【0122】
本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、上記第1実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0123】
[変形例]
上記第1実施形態から上記第6実施形態では、レーザ光のスポットを走査するために溶接ロボット24を採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、X-Yテーブルなどを用いてレーザ光のスポットを走査させることとしてもよい。また、一定範囲の溶接であれば、集光部23の走査のみによっても所望位置への溶接が可能である。
【0124】
また、上記第1実施形態から上記第6実施形態では、積層体500,505,515,520,530に対して集光部23の制御によりレーザ光のスポットを走査することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、溶接に供される積層体(複数枚の金属板材を重ね合わせたもの)を移動させてレーザ光のスポットを走査することとしてもよい。
【0125】
また、上記第1実施形態から上記第5実施形態では、2枚の金属板材501,502,506,507,516,517,521,522で構成される積層体500,505,515,520を溶接対象とし、上記第6実施形態では、3枚の金属板材531,532,533で構成される積層体530を溶接対象としたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。本発明は、4枚以上の金属板材を重ね合わせてなる積層体を溶接対象とすることもできる。
【0126】
また、上記第1実施形態から上記第6実施形態では、塑性加工機の一例として張り出し加工を実施可能なプレス機10を採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、絞り加工を実施可能な機器を採用することもできる。
【0127】
また、上記第1実施形態から上記第6実施形態のように、レーザ溶接装置1の構成中に塑性加工機を必ずしも備えていなくてもよい。即ち、予め上記のような形態の塑性加工が施された金属板材を導入して、これをレーザ溶接するレーザ溶接機だけを備えるレーザ溶接装置を採用することもできる。
【0128】
また、上記第1実施形態から上記第6実施形態では、張り出し部における凸部501d,506d,506i,511d,516d、521d,531d,533dの各外観形状が円錐台形であることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、角錐台形の凸部を形成することとしてもよい。また、表裏の関係にある凹部と凸部とが相似形状であることは必ずしも必須の要件ではない。例えば、凹部が半球形で凸部が円錐台形の場合や、その逆の場合や、さらには凹部が角錐台形で凸部が円錐台形の場合や、その逆の場合など、種々の組み合わせを採用することができる。
【0129】
また、本発明では、上記第1実施形態から上記第6実施形態を相互に組み合わせて適用することも可能である。
【0130】
また、上記第1実施形態から上記第6実施形態の説明で用いた図では、1か所の溶接箇所に係るレーザ溶接方法ついて図示したが、本発明は、これに限定されるものではない。即ち、溶接対象である積層体に対して、複数の箇所でのレーザ溶接することも当然に可能である。
【符号の説明】
【0131】
1 レーザ溶接装置
10 プレス機(塑性加工機)
13 上型
13a 凸部
14 下型
14a 凹部
20 レーザ溶接機
21 レーザ発振器
23 集光部(走査部)
24 溶接ロボット
26 コントローラ(制御部)
100,105,110,115 溶接部(ナゲット)
106,111 スクリュ部
107,112 線状部
108 スクリュ部(第2スクリュ部)
500,505,515,520,530 積層体
501,506,511,516,521,531 金属板材(外側金属板材)
502,507,517,521,522,532 金属板材(内側金属板材)
501b,506b,506h,511b,521b,531b,533b 凹部(エンボス凹部)
516b 凹部(第1凹部)
516h 凹部(第2凹部)
501d,506d,506i,511d,521d,531d,533d 凸部(エンボス凸部)
501e 内底面部
501g,506g,506j,511g,516g 底面部
525 ワイヤ(溶加材)
B,C ブリッジ部
G,G,G 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12