(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20231025BHJP
B68G 7/052 20060101ALI20231025BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
B60N2/58
B68G7/052 A
A47C31/02 A
(21)【出願番号】P 2019102110
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】礒田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】遠地 淳司
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-135492(JP,A)
【文献】特開平07-265564(JP,A)
【文献】特開2013-102855(JP,A)
【文献】特開2012-144114(JP,A)
【文献】特開2017-99614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
B68G 7/052
A47C 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者に対向する第1面および当該第1面と異なる第2面を有
し、弾力性を有する材料で製造されたパッドと、
前記パッドの前記第1面を覆うシート状または袋状の表皮と、
前記表皮の縁部分を、前記第2面に固定する固定部材と
を備えており、
前記第2面には、前記縁部分が固定される位置に凹部が形成され、
前記固定部材は、合成樹脂を用いて押出成形または射出成形によって製造され、
前記固定部材は、前記縁部分に連結した連結部と、前記凹部に嵌合可能な凸部とを有
し、
前記縁部分は、前記連結部に縫着され、
前記連結部は、当該縁部分が縫製しやすい厚さに形成され、
前記連結部には、前記凸部の突出方向と異なる方向に広がり、前記凸部が前記凹部に嵌合した状態で前記第2面に当接する当接面が形成され、
前記凸部は、当該凸部の幅が無負荷状態では前記凹部の幅よりも大きく、かつ、加圧状態では当該凹部の幅よりも小さくなるような当該凸部の幅の変化を許容する弾性を有する、
ことを特徴とするシート。
【請求項2】
前記凹部は、前記第2面の縁の近傍において当該第2面の縁が延びる方向と平行な方向に延びる溝であり、
前記凸部は、前記溝の少なくとも一部に嵌合する突条である、
請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記固定部材は、前記凸部の突出方向と異なる方向に広がり、当該固定部材を前記凹部に嵌合させることが可能な押圧力を受ける受圧面をさらに有する、
請求項1
または2に記載のシート。
【請求項4】
前記当接面には、突起やリブが設けられている、
請求項
1に記載のシート。
【請求項5】
前記凸部は、当該凸部の外面において、その外周面において前記凹部の内周面に係合可能な係合突起を有する、
請求項1から
4のいずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
前記縁部分は、
前記連結部との縫着部分を覆うように折り返されている、
請求項1から
5のいずれか1項に記載のシート。
【請求項7】
前記第2面が複数の角部を有し、かつ、前記表皮が前記複数の角部にそれぞれ対応する複数の縁部を有する構成において、
前記縁部同士を連結する線材をさらに備える、
請求項1から
6のいずれか1項に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッドおよび表皮を備えたシートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用シートなどのシートでは、着座者の臀部を支持するシートクッションや着座者の背中を支持するシートバックにおいて、発泡樹脂などからなるパッドが皮革やビニールレザーなどからなる表皮によって覆われたシート構造が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1に示されるシートでは、表皮が複数のシート状素材の合わせ目に吊込み部を有し、この吊込み部が、パッドの溝に挿入され、溝内部に設けられたインサートワイヤに固定される。吊込み部の固定方法としては、ホグリンガと呼ばれる取付け工具などを用いて、C字状の線材であるCリングによって吊込み部分をインサートワイヤに掛け止めさせることによって、吊込み部分をインサートワイヤに固定させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示されるシート構造では、ホグリンガなどの取付け工具を用いて表皮の吊込み部をパッドの溝の内部に固定する作業が必要である。ホグリンガなどの取付け工具は重いため、表皮の取付け作業を行う作業者に大きな負担がかかる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、表皮組付け作業の負担を軽減することが可能なシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のシートは、着座者に対向する第1面および当該第1面と異なる第2面を有し、弾力性を有する材料で製造されたパッドと、前記パッドの前記第1面を覆うシート状または袋状の表皮と、前記表皮の縁部分を、前記第2面に固定する固定部材とを備えており、前記第2面には、前記縁部分が固定される位置に凹部が形成され、前記固定部材は、合成樹脂を用いて押出成形または射出成形によって製造され、前記固定部材は、前記縁部分に連結した連結部と、前記凹部に嵌合可能な凸部とを有し、前記縁部分は、前記連結部に縫着され、前記連結部は、当該縁部分が縫製しやすい厚さに形成され、前記連結部には、前記凸部の突出方向と異なる方向に広がり、前記凸部が前記凹部に嵌合した状態で前記第2面に当接する当接面が形成され、前記凸部は、当該凸部の幅が無負荷状態では前記凹部の幅よりも大きく、かつ、加圧状態では当該凹部の幅よりも小さくなるような当該凸部の幅の変化を許容する弾性を有することを特徴とする。
【0008】
かかる構成では、シートは、表皮の縁部分を、着座者に対向するパッドの第1面と異なる第2面に固定する固定部材を備える。第2面には、縁部分の固定される位置に凹部が形成されている。固定部材は、縁部分に連結した連結部と、凹部に挿入される凸部とを有する。この構成では、固定部材の連結部を表皮の縁部分に連結した状態で、固定部材の凸部をパッドの第2面の凹部に嵌合することにより、固定部材を第2面に拘束することが可能である。このため、ホグリンガなどの重い工具を用いずに表皮をパッドに組み付ける組付け作業が可能であり、作業者の負担が軽減する。
また、上記のシートでは、前記固定部材は、前記凸部の突出方向と異なる方向に広がり、前記凸部が前記凹部に嵌合した状態で前記第2面に当接する当接面をさらに有する。この構成では、凸部を凹部に嵌合して固定部材をパッドの第2面に固定した状態において、表皮に第2面から第1面へ引き寄せられる力が作用したときでも、固定部材の当接面とパッドに第2面との接触面において発生する摩擦抵抗によって、凸部に作用する力が軽減し、その結果、凸部が凹部から外れにくくなる。
しかも、上記のシートでは、当接面は連結部に形成されているので、連結部は表皮から引張力を受けたときにその力の一部が当接面を第2面に押圧させる方向に作用する。そのため、当接面と第2面との接触面において発生する摩擦抵抗がさらに増大することによって、凸部に作用する力がさらに軽減し、凸部はさらに外れにくくなる。
さらに、上記のシートでは、前記凸部は、当該凸部の幅が無負荷状態では前記凹部の幅よりも大きく、かつ、加圧状態では当該凹部の幅よりも小さくなるような当該凸部の幅の変化を許容する弾性を有している。この構成では、固定部材の凸部を表皮の凹部に嵌合したときに当該凸部の弾性によって凸部の外面が凹部の内面を押圧する。これにより、凸部と凹部の接触面における摩擦抵抗が増大するので、凸部は凹部から外れにくくなる。
【0009】
上記のシートにおいて、前記凹部は、前記第2面の縁の近傍において当該第2面の縁が延びる方向と平行な方向に延びる溝であり、前記凸部は、前記溝の少なくとも一部に嵌合する突条であるのが好ましい。
【0010】
かかる構成では、突条である凸部を第2面の縁と平行に延びる溝である凹部に挿入することにより、表皮の縁部分を第2面の縁に沿って容易に固定することが可能である。そのため、表皮の組付作業性がさらに向上するとともに、表皮のしわの発生を低減することが可能である。
【0013】
上記のシートにおいて、前記固定部材は、前記凸部の突出方向と異なる方向に広がり、当該固定部材を前記凹部に嵌合させることが可能な押圧力を受ける受圧面をさらに有するのが好ましい。
【0014】
かかる構成では、凸部を凹部に嵌合する作業において、作業者は固定部材の受圧面を押圧することにより、固定部材に容易かつ確実に押圧力を与えることが可能であり、表皮の組付作業性がさらに向上し、作業者の負担がさらに軽減する。
【0017】
上記のシートにおいて、前記当接面には、突起やリブが設けられているのが好ましい。
【0018】
かかる構成では、当接面と第2面との接触面において発生する摩擦抵抗がさらに増大することによって、凸部に作用する力がさらに軽減し、凸部はさらに外れにくくなる。
【0021】
上記のシートにおいて、前記凸部は、当該凸部の外面において、その外周面において前記凹部の内周面に係合可能な係合突起を有するのが好ましい。
【0022】
かかる構成では、表皮に第2面から第1面へ引き寄せられる力が作用したときでも、凸部の係合突起が凹部の内周面に係合することにより凸部と凹部の接触面における摩擦抵抗が増大するので、凸部は凹部からさらに外れにくくなる。
【0023】
上記のシートにおいて、前記縁部分は、前記連結部に縫着されるとともに、縫着部分を覆うように折り返されているのが好ましい。
【0024】
かかる構成では、表皮の縁部分は固定部材の連結部に縫着され、縫着部分は、折り返された縁部分によって覆われている。そのため、縫着部分は、外部に露出しなくなり、劣化や損傷のおそれが低減する。
【0025】
上記のシートにおいて、前記第2面が複数の角部を有し、かつ、前記表皮が前記複数の角部にそれぞれ対応する複数の縁部を有する構成において、前記縁部同士を連結する線材をさらに備えるのが好ましい。
【0026】
かかる構成では、固定部材によって表皮をパッドの第2面の縁部に固定するとともに、パッドの角部に対応する表皮の縁部同士を線材によって連結することにより、表皮のしわの発生を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明のシートによれば、表皮組付け作業の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明のシートの実施形態に係るシートクッションの全体構成を示す分解斜視図である。
【
図5】
図1の表皮をパッドに組み付ける際に固定部材の突条をパッドの溝に挿入する直前の状態を示す断面説明図である。
【
図6】
図5の固定部材の突条をパッドの溝に挿入した状態を示す断面説明図である。
【
図7】本発明のシートの変形例である受圧面を有しない固定部材の例を示す断面説明図である。
【
図8】本発明のシートの他の変形例である突条の外面に係合突起を有する固定部材の例を示す断面説明図である。
【
図9】(a)は本発明のシートのさらに他の変形例である固定部材の斜視図、(b)は(a)の固定部材の横断面図である。
【
図10】(a)は本発明のシートのさらに他の変形例である固定部材の斜視図、(b)は(a)の固定部材の横断面図である。
【
図11】(a)は本発明のシートのさらに他の変形例である固定部材の斜視図、(b)は(a)の固定部材の横断面図である。
【
図12】(a)は本発明のシートのさらに他の変形例である固定部材の斜視図、(b)は(a)の固定部材の横断面図である。
【
図13】本発明のシートのさらに他の変形例である長尺の溝に複数の固定部材が嵌合される構成を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
図1には、本発明のシートの実施形態の一例として、自動車用シートにおける着座者の臀部を支持するシートクッション1の構造が示されている。
【0030】
図1に示されるように、シートクッション1は、パッド2と、表皮3と、表皮3の縁部分3aをパッド2の下面2b(裏面)に固定する複数の固定部材4とを備える。複数の固定部材4によって表皮3の縁部分3aの全周に亘ってパッド2の下面2bに固定することにより、表皮3がパッド2の上面2aを覆うように組み付けられる。
【0031】
図1~2に示されるように、パッド2は、着座者(とくに臀部付近)に対向する第1面である上面2aおよび当該第1面と異なる第2面である下面2bを有する。
【0032】
パッド2は、弾力性を有するとともにある程度の形状保持性を有する材料で製造される。パッド2は、低密度で形状保持性のあるビーズ発泡品と弾性力があるポリウレタン樹脂とを一体発泡成形することで製造され、その場合、パッド2は軽量になる。
【0033】
下面2bには、表皮3の縁部分3aが固定される位置に凹部である溝5が複数本形成されている。
【0034】
溝5は、下面2bの縁2cの近傍において当該下面2bの縁2cが延びる方向Aと平行な方向に延びる。溝5の長さは、本実施形態ではとくに限定しないが、パッド2の縁2cのうちカーブしている部分では短い方がよい。なぜならば、パッド2の縁2cのうちカーブしている部分において、短い溝5が断続的に多数並ぶ方が、表皮3を当該カーブしている部分の曲線に合わせて、しわなく張ることができるからである。
【0035】
溝5は、挿入方向(下面2bを下から見上げた方向)から見ると略長方形になる。
【0036】
表皮3は、
図1に示されるように、パッド2の上面2aおよび側周面(すなわち両側面および前後両面)を覆うシート状または袋状の部材であり、皮革やビニールレザーなどからなる複数のシート状素材の端部同士をつなぎ合わせて構成されている。
【0037】
固定部材4は、表皮3の縁部分3aをパッド2の下面2bに固定するように構成される。
【0038】
図3~5に示されるように、固定部材4は、表皮3の縁部分3aに連結した連結部7と、パッド2の溝5に嵌合可能な凸部である突条6と、受圧部8とを有する。
【0039】
突条6は、溝5の少なくとも一部に嵌合する。
図1に示される本実施形態では、突条6は、溝5の全長に亘って嵌合している。
【0040】
突条6(凸部)は、当該突条6の長手方向に直交する方向の断面(すなわち横断面)を見た場合には、長細い楕円リング状の断面を有する。
【0041】
本実施形態では、突条6は、パッド2の溝5に挿入される際に収縮可能なように、当該突条6の幅D1の変化を許容する弾性を有している。具体的には、突条6は、突条6の幅D1が無負荷状態では溝5の幅(溝幅)D2よりも大きく、かつ、加圧状態では当該溝5の幅D2よりも小さくなるような当該突条6の幅D1の変化を許容する弾性を有している。
【0042】
受圧部8は、受圧面8aを有する。受圧面8aは、突条6の突出方向Bと異なる方向C(本実施形態では突出方向Bに直交する方向C(
図4参照))に広がり、当該固定部材4を溝5に嵌合させることが可能な押圧力を受けることが可能である。
【0043】
受圧部8および受圧面8aは、作業者が指などで押圧しやすい面積および形状であればよく、たとえば、突出方向Bから見て半円形または長方形などの形状である。
【0044】
固定部材4は、突条6の突出方向Bと異なる方向Cに広がり、突条6が溝5に嵌合したときにパッド2の下面2bに当接する当接面9を有する。当接面9には、当該当接面9と下面2bとの間の摩擦抵抗を増大させるために突起やリブが設けられていてもよい。
【0045】
本実施形態では、
図3~4に示されるように、当接面9は、表皮3の縁部分3aに連結する連結部7に形成されている。
【0046】
本実施形態の固定部材4は、例えば、ポリプロピレンなどの合成樹脂で製造される。このような合成樹脂製の固定部材4は、コストを考慮して押出成形によって製造されうる。また、固定部材4は、射出成形で製造されてもよい。固定部材4は、表皮3に縫製される部位が、縫製しやすくするために薄く形成されるのが好ましい。固定部材4の色については、特になく、素材の色がそのまま用いてもよい。
【0047】
表皮3の縁部分3aは、連結部7に縫着されるとともに、縫着部分11を覆うように折り返されている。
【0048】
上記のように構成されたシートクッション1において、表皮3をパッド2に組み付ける場合、以下の手順で行われる。
【0049】
まず、
図5に示されるように、表皮3の縁部分3aの全周に亘って複数の固定部材4を取り付ける。具体的には、縁部分3aの外面側3a1(
図5参照)に固定部材4の連結部7における突条6と反対側の面7aを当接し、縁部分3aと連結部7とを縫着する。ついで、縫着部分11を覆うように、縁部分3aを折り返す。
【0050】
そして、
図1に示されるように、表皮3をパッド2の上面2aおよび側周面を覆う。
【0051】
ついで、表皮3の縁部分3aおよび固定部材4をパッド2の下面2bまで引き寄せ、その後、
図5~6に示されるように、固定部材4の突条6をパッド2の下面2bの溝5にそれぞれ挿入する。これにより、表皮3の組付け作業が完了する。
【0052】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のシートクッション1は、表皮3の縁部分3aを、着座者に対向するパッド2の上面2aと異なる下面2bに固定する固定部材4を備える。下面2bには、縁部分3aの固定される位置に溝5が形成されている。固定部材4は、縁部分3aに連結した連結部7と、溝5に挿入される突条6とを有する。この構成では、固定部材4の連結を表皮3の縁部分3aに連結した状態で、固定部材4の突条6をパッド2の下面2bの溝5に嵌合することにより、固定部材4を下面2bに拘束することが可能である。このため、ホグリンガなどの重い工具を用いずに表皮3をパッド2に組み付ける組付け作業が可能であり、作業者の負担が軽減する。
【0053】
(2)
本実施形態のシートクッション1では、パッド2の下面2bの凹部として、下面2bの縁2cの近傍において当該下面2bの縁2cが延びる方向Aと平行な方向に延びる溝5が形成されている。また、固定部材4の凸部として、凹部である溝5の少なくとも一部に嵌合する突条6が設けられている。この構成では、凸部である突条6を下面2bの縁2cと平行に延びる溝5に挿入することにより、表皮3の縁部分3aを下面2bの縁2cに沿って容易に固定することが可能である。そのため、表皮3の組付作業性がさらに向上するとともに、1点で固定するのではなく、長さのある突条で固定するので不要な張力が発生せず、表皮3のしわの発生を低減することが可能である。
【0054】
(3)
本実施形態のシートクッション1では、突条6は、突条6の幅D1が無負荷状態では溝5の幅D2よりも大きく、かつ、加圧状態では当該溝5の幅D2よりも小さくなるような当該突条6の幅D1の変化を許容する弾性を有している。この構成では、固定部材4の突条6を表皮3の溝5に嵌合したときに当該突条6の弾性によって突条6の外面が溝5の内面を押圧する。これにより、突条6と溝5の接触面における摩擦抵抗が増大するので、突条6は溝5から外れにくくなる。
【0055】
(4)
本実施形態のシートクッション1では、固定部材4は、突条6の突出方向Bと異なる方向Cに広がり、当該固定部材4を溝5に嵌合させることが可能な押圧力を受ける受圧面8aを有する。この構成では、突条6を溝5に嵌合する作業において、作業者は固定部材4の受圧面8aを押圧することにより、固定部材4に容易かつ確実に押圧力を与えることが可能であり、表皮3の組付作業性がさらに向上し、作業者の負担がさらに軽減する。
【0056】
(5)
本実施形態のシートクッション1では、固定部材4は、突条6の突出方向Bと異なる方向Cに広がり、突条6が溝5に嵌合した状態で下面2bに当接する当接面9を有する。この構成では、突条6を溝5に嵌合して固定部材4をパッド2の下面2bに固定した状態において、表皮3に下面2bから上面2aへ引き寄せられる力が作用したときでも、固定部材4の当接面9とパッド2に下面2bとの接触面において発生する摩擦抵抗によって、突条6に作用する力が軽減し、その結果、突条6が溝5から外れにくくなる。
【0057】
(6)
上記の当接面9には、突起やリブが設けられているのが好ましい。この場合、当接面9と下面2bとの接触面において発生する摩擦抵抗がさらに増大することによって、突条6に作用する力がさらに軽減し、突条6はさらに外れにくくなる。
【0058】
(7)
本実施形態のシートクッション1では、固定部材4における当接面9は連結部7に形成されているので、連結部7は表皮3から引張力を受けたときにその力の一部が当接面9を下面2bに押圧させる方向に作用する。そのため、当接面9と下面2bとの接触面において発生する摩擦抵抗がさらに増大することによって、突条6に作用する力がさらに軽減し、突条6はさらに外れにくくなる。
【0059】
(8)
本実施形態のシートクッション1では、表皮3の縁部分3aは固定部材4の連結部7に縫着され、縫着部分11は、折り返された縁部分3aによって覆われている。そのため、縫着部分11は、外部に露出しなくなり、劣化や損傷のおそれが低減する。
【0060】
(変形例)
(A)
本発明では、
図4に示される受圧面8aを有する受圧部8は必須ではなく、
図7に示される変形例のように、受圧面8aを有する受圧部8を省略した固定部材4を用いてもよい。この場合、固定部材4はより小さくなるので、表皮3にかくれて外部から見えにくくなる。
【0061】
(B)
また、
図8示される本発明の他の変形例のように、突条6は、当該突条6の外面において、その外周面において溝5の内周面に係合可能な係合突起10を有するようにしてもよい。
【0062】
この
図8に示される変形例では、表皮3に下面2bから上面2aへ引き寄せられる力が作用したときでも、突条6の係合突起10が溝5の内周面に係合して、いわゆるかえしとして機能することにより突条6と溝5の接触面における摩擦抵抗が増大する。その結果、突条6は溝5からさらに外れにくくなる。
【0063】
(C)
上記実施形態では、固定部材4の突条6(凸部)の形状は、長細い楕円リング状の断面を有しているが、本発明はこれ限定されるものではなく、種々の断面形状の突条6を採用することが可能である。
【0064】
本発明の他の変形例として、例えば、
図9~12に示される断面形状の突条6を有する固定部材4を用いてよい。
【0065】
例えば、
図9~10に示される固定部材4は、突条6および連結部7が一体形成され、当該突条6は、平板部6aと湾曲した舌片状の可動片6bとに分岐された形状を有する。このような形状の突条6は、閉空間がないので成形しやすく、また、パッド2の溝5に挿入しやすいという利点を有する。
【0066】
また、
図11に示される突条6は、平板部6aおよびC字状の断面を有する可動片6bが一体形成され、可動片6bが溝5への挿入方向と反対方向に突出する突出部12を有する。このような形状の突条6は、溝5への挿入方向と反対方向に突出する突出部12を有するので、溝5から抜けにくいという利点を有する。
【0067】
さらに、
図12に示される突条6は、平板部6aおよび2枚の湾曲した舌片状の可動片6b、6cを有する形状を有する。2枚の可動片6b、6cは互いに対向した状態で重なり合っている。このような形状の突条6は、可動片6bの先端において溝5への挿入方向と反対方向に突出する突出部13を有するので、溝5から抜けにくいという利点を有する。
【0068】
(D)
上記実施形態では、
図2に示されるように、複数の略長方形の溝5に個別に固定部材4が嵌合しているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の変形例として、
図13に示されるように、長尺な溝5に複数の固定部材4が嵌合する構成でもよい。この
図13に示される変形例では、長尺の溝5の内側面から溝5の幅方向Eに突出するとともにお互いに対向するように配置される突起14が設けられてもよい。
【0069】
突起14は、固定部材4の取付位置に対応する位置に設けられる。長尺の溝5の内部に突起14が設けられていることにより、突起14の頂点を結ぶ線Lに沿って溝5を形成した場合と比較して、固定部材4を溝5に挿入する際、固定部材4が溝5から受ける応力が緩和される。そのため、作業者が固定部材4をパッド2の溝5に挿入しやすくなる。
【0070】
したがって、溝5に関しては、
図2に示されるように固定部材4の位置に応じて断続的に小さな溝5を複数配置してもよいし、本発明の変形例として
図13に示されるように長尺の溝5を配置してもよい。
図2および
図13に示されるこれらの溝5をパッド2に形成する場合には、パッド2の発泡部材を発泡するための成形用の金型に突起を設ける必要がある。固定部材4の位置に応じて断続的に小さな溝5を複数設ける場合には、断続的に小さな突起を金型に設け、一方、長尺の溝5を設ける場合には、長尺の突起(リブ)を金型に設ける必要がある。このような場合、長尺の突起の方が、小さい突起よりも、強度が高いため、金型の突起の破損が発生する可能性が低くなる。したがって、金型の突起の破損の可能性を考慮すると、パッド2の溝5は、断続的に小さな溝よりも、
図13に示されるように長尺の溝5を配置する方がパッド2の成形用の金型の破損のおそれを低減できる点で有利である。
【0071】
(E)
なお、上記の実施形態では、固定部材4が表皮3の縁部分3aをパッド2の下面2b(裏面)に固定する例が示されているが本発明はこれに限定されるものではなく、固定部材4は、着座者に対向する第1面(上記実施形態では上面2a)と異なる第2面に表皮3の縁部分3aを固定すればよい。したがって、パッド2の上面2a以外の両側面や後面などに縁部分3aを固定部材4によって固定すれば、上面2aに座る着座者からは縁部分3aおよび固定部材4は見えなくなり、シートクッション1の美観を損なわない。しかし、第2面が下面2bの場合には、縁部分3aおよび固定部材4が、パッド2の上面2aに座る着座者から最も見えにくくなるので最も好ましい。
【0072】
(F)
上記実施形態では、パッド2の下面2b(第2面)に凹部として溝5が形成され、当該固定部材4は溝5に嵌合可能な凸部として突条6を有しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、パッド2の下面2b(第2面)に凹部として複数の丸穴や角穴などを形成し、固定部材4は当該丸穴や角穴に嵌合可能な円柱または角柱状の突起を有するようにしてもよい。
【0073】
(G)
上記実施形態では、固定部材4のみによって表皮3の縁部分3aをパッド2の下面2b(裏面)に固定する例が示されているが、本発明の変形例として、固定部材4だけでなく、さらに、表皮3において、パッド2の下面2bの角部(4箇所)に対応する箇所の縁部にヒモまたはバンドなどの可撓性を有する線材を通して当該ヒモで表皮3を巾着のように縛るようにして当該表皮3の縁部同士を連結してもよい。これにより、表皮3のシワを抑制することが可能になる。
【0074】
すなわち、この変形例におけるシートでは、パッド2の下面2bが複数の角部を有し、かつ、表皮3が複数の角部にそれぞれ対応する複数の縁部を有する構成において、縁部同士を連結する線材をさらに備える。これにより、固定部材4によって表皮3をパッド2の下面2bの縁部に固定するとともに、パッド2の角部に対応する表皮3の縁部同士を線材によって連結することにより、表皮3のしわの発生を抑制することが可能である。
【0075】
また、ヒモを用いたさらなる変形例として、表皮3における角部に対応する2箇所の縁部を含む左側部一帯と右側部一帯とをヒモで縛るようにしてもよい。つまり、表皮3の前部および後部のみ、本実施形態の固定部材4を使用し、表皮3の左側部および右側部をヒモで縛ることも可能である。このような構成にすれば、表皮3の4箇所の各角部をヒモで縛るよりも、2箇所の角部を一つにまとめてヒモで縛ることができるので、表皮3の組付け作業を向上することが可能になる。
【0076】
(H)
上記の実施形態では、本発明のシートの一例として、自動車用シートのシートクッションを例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、パッドおよび表皮を有するシートであれば本発明のシートを広く適用することが可能である。本発明の変形例として、自動車用シートにおける着座者の背中を支持するシートバックでもよい。また自動車用シート以外でも、飛行機や鉄道などの乗り物に設置されるシート、または建物や家屋内に設置されるソファや革張りのチェアなども、本発明におけるシートに含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 シートクッション
2 パッド
2a 上面(第1面)
2b 下面(第2面)
2c 縁
3 表皮
3a 縁部分
4 固定部材
5 溝(凹部)
6 突条(凸部)
7 連結部
8 受圧部
8a 受圧面
9 当接面
10 係合突起
11 縫着部分