(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及び洗浄剤組成物用原液
(51)【国際特許分類】
C11D 7/50 20060101AFI20231025BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20231025BHJP
C11D 1/40 20060101ALI20231025BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20231025BHJP
C11D 3/30 20060101ALI20231025BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20231025BHJP
C11D 3/43 20060101ALI20231025BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20231025BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C11D7/50
C11D7/32
C11D1/40
C11D3/20
C11D3/30
C11D17/08
C11D3/43
C11D7/26
H05K3/34 503Z
(21)【出願番号】P 2019172043
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000123491
【氏名又は名称】化研テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 薫夫
(72)【発明者】
【氏名】赤松 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】石原 慧太
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021093(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005068(WO,A1)
【文献】特開2010-189635(JP,A)
【文献】特開2000-313899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、水とを含む洗浄剤組成物であって、
前記疎水性の第三級アミン化合物は、N,N’-ジメチルデシルアミン、及びN,N’-ジメチルオクチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記グリコールエーテル化合物は、その含有割合が前記洗浄剤組成物の全体に対して、4.9~90質量%であり、
前記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が前記洗浄剤組成物の全体に対して、0.1~10質量%であり、
前記水は、その含有割合が前記洗浄剤組成物の全体に対して、9.9~95質量%である、洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記グリコールエーテル化合物は、式(1)で表される化合物又は式(4)で表される化合物である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R
4は、炭素数1~11の鎖状又は環状の炭化水素基を示し、前記炭化水素基に含まれる-CH
2-は、-O-に置き換わっていてもよく、式(4)中、R
8及びR
9は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。)
【請求項3】
前記グリコールエーテル化合物は、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジメチルプロピレンジグリコール、ジメチルジグリコール、ベンジルグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、フェニルプロピレングリコール、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、2-エチルヘキシルグリコール、2-エチルヘキシルジグリコール、プロピルプロピレンジグリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、2-メトキシブタノール、3-メトキシブタノール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルブチルエーテル、及びトリエチレングリコールエチルブチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記疎水性の第三級アミン化合物を含む有機相と、前記水を含む水相とを含み、
洗浄対象物を洗浄する温度において静置時に、前記有機相からなる第一層と前記水相からなる第二層とを含む少なくとも2層以上に分離している、請求項1~
請求項3のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
親水性のアミン化合物の含有割合が前記洗浄剤組成物の全量に対して0質量%を超えて0.1質量%未満である、請求項1~
請求項4のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
フラックス洗浄用、又は微細な異物の洗浄用である、請求項1~
請求項5のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
グリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物とを含む洗浄剤組成物用原液であって、
前記疎水性の第三級アミン化合物は、N,N’-ジメチルデシルアミン、及びN,N’-ジメチルオクチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記グリコールエーテル化合物は、その含有割合が前記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、80~99.9質量%であり、
前記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が前記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、0.1~20質量%であり、
洗浄対象物を洗浄する際に、水で1.1~20倍に希釈して用いられる、洗浄剤組成物用原液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤組成物及び洗浄剤組成物用原液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カメラモジュール部品、集積回路(IC)及びコンデンサ等の電子部品をプリント基板等にはんだ付けする際に、ソルダペーストからフラックスが飛散し、電極の周囲に残渣として付着することが知られている(以下、上述のフラックスの残渣を「フラックス残渣」という場合がある。)。
【0003】
フラックス残渣は、はんだ接合部における腐食等の原因となるほか、ワイヤボンディングを行う工程での接合不良及び、樹脂封止をする工程におけるモールド樹脂との密着不良等の原因となりうる。そのため、フラックス残渣は洗浄剤で除去する必要があり、従来から種々の洗浄剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、比較的多量の水を含むことにより環境安全性に優れる一方、洗浄性を発揮できる洗浄剤組成物が提案されている。例えば、特開2018-021093号公報(特許文献1)には、25℃の水100gに対する溶解度が10g未満であるアミン(成分A)又はその塩、25℃の水100gに対する溶解度が0.02g以上10g未満である溶剤(成分B)、及び水を含み、前記成分Aが、炭素数が6以上26以下の、1級アミン、2級アミン及び3級アミンから選ばれる少なくとも1種である、スクリーン版用洗浄剤組成物が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載のスクリーン版用洗浄剤組成物は、銅などの金属に対する腐食性を有しており、洗浄対象物が金属からなる場合、当該洗浄対象物が腐食される。
一方で、樹脂に対する反応性(例えば、溶解性、分解性等)を有する洗浄剤組成物が知られている。
このような事情から、洗浄対象物の材料によって適切な洗浄剤組成物を選ぶ必要があるため、洗浄剤組成物の更なる改善が求められている。
【0007】
さらに、上記電子部品の製造過程において、樹脂又は金属を加工する際に微細な異物(パーティクル)が発生し、上記電子部品に付着することが知られている。例えば、カメラモジュール部品においては、上述の微細な異物がレンズ又はイメージセンサーに付着するとカメラモジュール部品の性能に大きく影響する。このような事情から、洗浄対象物を洗浄する際に上述の微細な異物も除去することが求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制された洗浄剤組成物及び洗浄剤組成物用原液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、グリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、水とを含む洗浄剤組成物が、洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制されていることを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1]グリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、水とを含む洗浄剤組成物であって、
上記グリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、4.9~90質量%であり、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、0.1~10質量%であり、
上記水は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、9.9~95質量%である、洗浄剤組成物。
【0011】
[2]上記グリコールエーテル化合物は、式(1)で表される化合物又は式(4)で表される化合物である、[1]に記載の洗浄剤組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R
4は、炭素数1~11の鎖状又は環状の炭化水素基を示し、上記炭化水素基に含まれる-CH
2-は、-O-に置き換わっていてもよく、式(4)中、R
8及びR
9は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。)
【0012】
[3]上記グリコールエーテル化合物は、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジメチルプロピレンジグリコール、ジメチルジグリコール、ベンジルグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、フェニルプロピレングリコール、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、2-エチルヘキシルグリコール、2-エチルヘキシルジグリコール、プロピルプロピレンジグリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、2-メトキシブタノール、3-メトキシブタノール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルブチルエーテル、及びトリエチレングリコールエチルブチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、[2]に記載の洗浄剤組成物。
【0013】
[4]上記疎水性の第三級アミン化合物は、式(2)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【化2】
(式(2)中、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立に、炭素数1~10の鎖状の炭化水素基を示し、R
5、R
6及びR
7の炭素数の和が8~24である。)
【0014】
[5]上記疎水性の第三級アミン化合物は、N,N’-ジメチルデシルアミン、N,N’-ジメチルオクチルアミン、トリオクチルアミン、トリプロピルアミン、トリアリルアミン及びジイソプロピルエチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、[4]に記載の洗浄剤組成物。
【0015】
[6]上記疎水性の第三級アミン化合物を含む有機相と、上記水を含む水相とを含み、
洗浄対象物を洗浄する温度において静置時に、上記有機相からなる第一層と上記水相からなる第二層とを含む少なくとも2層以上に分離している、[1]~[5]のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【0016】
[7]親水性のアミン化合物の含有割合が上記洗浄剤組成物の全量に対して0質量%を超えて0.1質量%未満である、[1]~[6]のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【0017】
[8]フラックス洗浄用、又は微細な異物の洗浄用である、[1]~[7]のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【0018】
[9]グリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物とを含む洗浄剤組成物用原液であって、
上記グリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、80~99.9質量%であり、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、0.1~20質量%であり、
洗浄対象物を洗浄する際に、水で1.1~20倍に希釈して用いられる、洗浄剤組成物用原液。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制された洗浄剤組成物及び洗浄剤組成物用原液を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態の一態様に係る洗浄装置の模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の他の態様に係る洗浄装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「X~Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味する。Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。
【0022】
≪洗浄剤組成物≫
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、グリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、水とを含む洗浄剤組成物であって、
上記グリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、4.9~90質量%であり、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、0.1~10質量%であり、
上記水は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、9.9~95質量%である。
【0023】
上記洗浄剤組成物は、上述の構成を備えることで、洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制されたものとなる。ここで、「金属及び樹脂に対する反応性」とは、金属に対する腐食性(金属腐食性)及び樹脂に対する溶解性(樹脂溶解性)を意味する。
【0024】
上記洗浄剤組成物は、洗浄対象物の表面に付着した汚れ(例えば、フラックス残渣、及び微細な異物)を除去するために用いられる。本実施形態において、「微細な異物」とは、サイズが1~100μmである異物を意味する。「異物」とは、上記洗浄対象物に付着すると上記洗浄対象物の機能を損ねるような不要な物を意味する。上述の微細な異物は、例えば、有機化合物からなる異物(樹脂の摩耗粉、動物の皮脂等)、無機化合物からなる異物、金属からなる異物(金属の摩耗粉等)が挙げられる。上記洗浄対象物の材料としては、通常用いられる材料であればどのようなものであってもよい。上記材料としては、例えば、鉄、SUS、銅及びアルミニウム等の金属、シリカ及びアルミナ等の無機物、並びに、ポリアミド(ナイロン)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、アセタール樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びエポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0025】
<グリコールエーテル化合物>
上記洗浄剤組成物は、グリコールエーテル化合物を含む。本実施形態において「グリコールエーテル化合物」とは、二価アルコールのエーテル化合物を意味する。上記グリコールエーテル化合物は、疎水性のグリコールエーテル化合物であってもよいし、親水性のグリコールエーテル化合物であってもよい。本実施形態において、「疎水性」とは、水に対する溶解度が50質量%以下である性質を意味する。「親水性」とは、水に対する溶解度が50質量%を超える性質を意味する。上記グリコールエーテル化合物は、公知の出発物質から公知の方法によって合成してもよい。上記グリコールエーテル化合物は、市販品をそのまま用いてもよい。
【0026】
本実施形態において、上記グリコールエーテル化合物は、式(1)で表される化合物又は式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
【0027】
上記式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示す。R4は、炭素数1~11の鎖状又は環状の炭化水素基を示す。上記炭化水素基に含まれる-CH2-は、-O-に置き換わっていてもよい。上記炭化水素基に含まれる-CH2-が-O-に置き換わっている場合、置き換わる前の炭素数を当該炭化水素基の炭素数とする。
【0028】
本実施形態の一側面において、R
1は水素原子であることが好ましい。すなわち、上記グリコールエーテル化合物は、式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化4】
【0029】
R4における鎖状の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。当該炭化水素基は、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。R4における鎖状の炭化水素基は、炭素数が4~6であることが好ましい。R4における鎖状の炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、メトキシエチル基等が挙げられる。
【0030】
R4における環状の炭化水素基は、飽和の脂環式炭化水素基であってもよいし、不飽和の脂環式炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。R4における環状の炭化水素基は、炭素数が6~9であることが好ましい。R4における環状の炭化水素基は、例えば、フェニル基、ベンジル基、フェノキシエチル基等が挙げられる。
【0031】
式(4)中、R8及びR9は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。本実施形態の一側面において、R8は水素原子であり、R9はメチル基であることが好ましい。本実施形態の他の一側面において、R8はメチル基であり、R9はメチル基であることが好ましい。
【0032】
上記グリコールエーテル化合物は、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PFG)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(BFG)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(BFDG)、ジメチルプロピレンジグリコール(DMFDG)、ジメチルジグリコール(DMDG)、ベンジルグリコール(BzG)、フェニルグリコール(PhG)、フェニルジグリコール(PhDG)、フェニルプロピレングリコール(PhFG)、ヘキシルグリコール(HeG)、ヘキシルジグリコール(HeDG)、2-エチルヘキシルグリコール(EHG)、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、プロピルプロピレンジグリコール(PFDG)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(PS)、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル(ETB)、3-メトキシ-3-メチルブタノール(MMB)、2-メトキシブタノール(2MB)、3-メトキシブタノール(3MB)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(iPG)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(IPDM)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(MEDG)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(DMTG)、ジエチレングリコールメチルイソプロピルエーテル(iPDGMe)、ジエチレングリコールエチルイソプロピルエーテル(iPDGEt)、ジエチレングリコールエチルブチルエーテル(BDGEt)、及びトリエチレングリコールエチルブチルエーテル(BTGEt)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。上記グリコールエーテル化合物は、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジメチルプロピレンジグリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル又は、3-メトキシ-3-メチルブタノールを含むことがより好ましい。上述したグリコールエーテル化合物の構造式を以下に示す。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
上記グリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、4.9~90質量%であり、7~70質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。このようにすることで、フラックス残渣に対する洗浄性が更に優れる洗浄剤組成物となる。上記グリコールエーテル化合物は、ガスクロマトグラフィーによる分析で求めることができる。ガスクロマトグラフィーによる分析の条件は以下の通りである。
装置:ガスクトマログラフ GC-14B(株式会社島津製作所製)
検出器:熱伝導度型検出器(TCD)
カラム:Thermon-3000(信和化工株式会社製)
気化室温度:160℃
検出器温度:160℃
【0037】
<疎水性の第三級アミン化合物>
上記洗浄剤組成物は、疎水性の第三級アミン化合物を含む。ここで「第三級アミン化合物」とは、アンモニアの3つの水素原子が炭化水素基で置換された化合物を意味する。本実施形態において、「疎水性」とは、水に対する溶解度が50質量%以下である性質を意味する。上記疎水性の第三級アミン化合物は、公知の出発物質から公知の方法によって合成してもよい。上記疎水性の第三級アミン化合物は、市販品をそのまま用いてもよい。
【0038】
本実施形態において、上記疎水性の第三級アミン化合物は、式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化8】
【0039】
上記式(2)中、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に、炭素数1~10の鎖状の炭化水素基を示す。また、R5、R6及びR7の炭素数の和は、8~24である。
【0040】
R5、R6及びR7それぞれにおける鎖状の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。当該炭化水素基は、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。当該鎖状の炭化水素基は、炭素数が3~8であることが好ましい。当該鎖状の炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アリル基、オクチル基等が挙げられる。R5、R6及びR7の炭素数の和は、9~12であることが好ましい。
【0041】
上記疎水性の第三級アミン化合物は、N,N’-ジメチルデシルアミン(DMDA)、N,N’-ジメチルオクチルアミン(DMOA)、トリオクチルアミン(TOA)、トリプロピルアミン(TPA)、トリアリルアミン(TAA)及びジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。上記疎水性の第三級アミン化合物は、N,N’-ジメチルデシルアミン又はN,N’-ジメチルオクチルアミンを含むことが好ましい。上述した疎水性の第三級アミン化合物の構造式を以下に示す。
【0042】
【0043】
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全体に対して、0.1~10質量%であり、1~10質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。このようにすることで、フラックス残渣に対する除去性(洗浄性)、及び微細な異物に対する除去性が更に優れる洗浄剤組成物となる。上記疎水性の第三級アミン化合物は、ガスクロマトグラフィーによる分析で求めることができる。ガスクロマトグラフィーによる分析の条件は上述の条件が用いられる。
【0044】
<水>
上記洗浄剤組成物は、水を含む。上記水は、各種工業製品の原料として用いられる水、水道水等であれば特に制限はない。上記水は、蒸留水であってもよいし、イオン交換水であってもよい。本実施形態の一側面において、上記水は、その電気伝導率が1~300μS/cmであってもよいし、1~100μS/cmであってもよい。
【0045】
上記水は、その含有割合が上記洗浄剤組成物の全量に対して9.9~95質量%であり、13~90質量%であることが好ましく、15~90質量%であることがより好ましく、20~85質量%であることが更に好ましい。このようにすることで、作業安全性及び環境安全性に優れる洗浄剤組成物となる。上記水の含有割合は、カールフィッシャー水分計による分析で求めることができる。カールフィッシャー水分計による分析の条件は以下の通りである。
カールフィッシャー水分計の分析条件
装置:カールフィッシャー水分計 MKS-500(京都電子工業株式会社製)
測定方法:容量滴定法
測定温度:20℃
【0046】
<親水性のアミン化合物>
本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、親水性のアミン化合物の含有割合が上記洗浄剤組成物の全量に対して0質量%を超えて0.1質量%未満であることが好ましい。本実施形態において「親水性」とは、水に対する溶解度が50質量%を超える性質を意味する。親水性のアミン化合物の含有割合を上述の範囲にすることによって、洗浄対象物における金属への変色及び腐食等の影響を低減することが可能になる。本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、上記親水性のアミン化合物を含まないことがより好ましい。
【0047】
本実施形態において上記親水性のアミン化合物としては、2-(エチルアミノ)エタノール(MEM)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン(CHE-20)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン(TMHDA)、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)等が挙げられる。すなわち、上記洗浄剤組成物は、MEM、CHE-20、TMHDA、MEA、DEA及びTEAを含まないことが好ましい。
本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、MEM、CHE-20、TMHDA、MEA、DEA及びTEAからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性のアミン化合物を含まないことが好ましい。
【0048】
<その他の成分>
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、本発明の効果が奏される限り、その他の成分が更に含まれていてもよい。上記その他の成分としては、例えば、界面活性剤、防錆剤、pH調整剤、キレート剤、増粘剤、湿潤剤、蒸発遅延剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、香料及び防腐剤等が挙げられる。
【0049】
<洗浄剤組成物の特性>
本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は上記疎水性の第三級アミン化合物を含む有機相と、上記水を含む水相とを含むと把握することができる。上記洗浄剤組成物は、洗浄対象物を洗浄する温度において静置時に、上記有機相からなる第一層と上記水相からなる第二層とを含む少なくとも2層以上に分離していることが好ましい。ここで「洗浄対象物を洗浄する温度」とは、洗浄処理において洗浄対象物から汚れ(例えば、フラックス残渣等)を除去しうる、洗浄剤組成物の温度を意味する。当該温度は、例えば、20~70℃であってもよいし、30~60℃であってもよいし、40~50℃であってもよい。「静置時」とは、上記洗浄剤組成物が、重力以外の外力を受けていない状態を4時間維持した時を意味する。より具体的には、上記「静置時」は上記洗浄剤組成物が、振動、回転及び撹拌されていない状態を4時間維持した時と把握することもできる。なお、上記グリコールエーテル化合物は、有機相に含まれていてもよいし、水相に含まれていてもよいし、両相共に含まれていてもよい。
本実施形態の一側面において、上記洗浄剤組成物は、洗浄対象物を洗浄する温度において静置時に、3層以上に分離してもよい。
【0050】
≪洗浄剤組成物用原液≫
本実施形態に係る洗浄剤組成物用原液は、グリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物とを含む洗浄剤組成物用原液であって、
上記グリコールエーテル化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、80~99.9質量%であり、
上記疎水性の第三級アミン化合物は、その含有割合が上記洗浄剤組成物用原液の全体に対して、0.1~20質量%であり、
洗浄対象物を洗浄する際に、水で1.1~20倍(好ましくは、1.1~10倍、より好ましくは3.3~10倍)に希釈して用いられる。上記洗浄剤組成物用原液を上述の倍率(体積比率)で希釈することで、上記洗浄剤組成物を得ることができる。
【0051】
≪洗浄剤組成物の製造方法≫
本実施形態に係る洗浄剤組成物の製造方法は、上記グリコールエーテル化合物と、上記疎水性の第三級アミン化合物と、上記水とを準備する工程と、上記グリコールエーテル化合物と、上記疎水性の第三級アミン化合物とを上記水に添加する工程を含む。当該添加する工程は、どのような手法を用いてもよい。添加する工程としては、例えば、フラスコに上記グリコールエーテル化合物、上記疎水性の第三級アミン化合物及び上記水を加えること、及び化学プラント等において、工業的規模で上記グリコールエーテル化合物、上記疎水性の第三級アミン化合物及び上記水を加えること等が挙げられる。
【0052】
≪洗浄対象物の洗浄方法≫
本実施形態に係る洗浄対象物の洗浄方法は、
洗浄対象物の洗浄方法であって、上記洗浄剤組成物を上記洗浄対象物の表面に接触させることを含む。
【0053】
上記洗浄剤組成物を上記洗浄対象物の表面に接触させる方法は特に制限されない。当該方法は、例えば、浸漬、塗布、及びスプレー又はシャワーによる噴霧などの方法によって、大気中、減圧下、または加圧下で常温下又は加熱下で接触させることが挙げられる。浸漬によって上記洗浄剤組成物を上記洗浄対象物の表面に接触させる場合、必要に応じて、超音波処理、バブリング処理、揺動等の操作を行ってもよい。当該方法は、加温した上記洗浄剤組成物が投入された洗浄剤槽に、上記洗浄対象物を浸漬して、洗浄することが好ましい。このとき、上記洗浄剤組成物を撹拌して上記水相と上記有機相とが均一に分散した状態とすることが好ましい。浸漬する時間は、1分間~60分間であることが好ましい。
【0054】
本実施形態の洗浄対象物の洗浄方法は、上記洗浄剤組成物の温度を20~70℃とすることが好ましく、30~60℃とすることがより好ましく、40~50℃とすることが更に好ましい。
【0055】
その後、水又は含水アルコールによるリンスを行って、乾燥で洗浄剤組成物を、上記洗浄対象物から除去すればよい。本実施形態の一側面において、上述のリンスを行うことなく、乾燥で洗浄剤組成物を上記洗浄対象物から除去してもよい。
【0056】
本実施形態の一側面において、上記洗浄対象物の洗浄方法を行うにあたり、例えば、
図1及び
図2に示されるような洗浄装置を用いてもよい。
図1及び
図2に示す洗浄装置10は、超音波洗浄するための超音波振動子29を備えた洗浄槽12と、リンス槽14と、乾燥槽16と、を備えている。
【0057】
洗浄槽12は、筐体12aと、洗浄対象物23の収容部20と、超音波振動子29と、洗浄剤組成物21の攪拌装置(図示せず)と、サーモスタット付きのヒーター19とを備えている。上記洗浄槽12はこのような構成を備えることで、攪拌および循環している洗浄剤組成物21に対して、超音波振動子29が、超音波振動を付与し、洗浄対象物23を効率的に洗浄することができる。
【0058】
また、
図2に示すように、洗浄槽12は洗浄剤組成物21を循環させるための循環路22を更に備えていてもよい。循環経路22は、その経路の途中に、洗浄剤組成物21を循環するためのポンプ24と、洗浄剤組成物21中に含まれる汚染物(フラックス残渣及び微細な異物等)を除去するためのフィルタ28及び塩形成化合物収容部26とが配置されている。すなわち、循環経路22中に設けられているポンプ24によって、一部汚染された洗浄剤組成物21を循環させ、フィルタ28及び塩形成化合物収容部26において、汚染物を除去することで洗浄剤組成物21を再生することができる。
【0059】
リンス槽14にはリンス液15が貯留されている。リンス液15ですすぐことで、洗浄対象物23から洗浄剤組成物21を除去する。さらに乾燥用ヒーター17を備えている乾燥槽16において、リンス液15等を蒸発させて、洗浄対象物23を乾燥させる。
リンス液15の組成としては、特に制限はないが、以下のリンス剤が好ましく用いられる。すなわち、少なくとも水溶性グリコールエーテル化合物及び水を含み、ベンジルアルコールの溶解度が10vol%以上であるリンス剤であって、上記水溶性グリコールエーテル化合物100重量部に対して、上記水の配合量が50~1000重量部である、リンス剤が好ましく用いられる。
【0060】
本実施形態の一側面において、上述のリンス槽14におけるリンスを行うことなく、洗浄槽12において洗浄した洗浄対象物23を、乾燥槽16で乾燥してもよい。本実施形態の一側面において上記洗浄装置10はリンス槽を備えていなくてもよい。
【0061】
このような洗浄装置10を使用することにより、本発明の洗浄剤組成物を用いて、はんだ処理された電子部品及び基板を洗浄し、それらに付着しているフラックス残渣及び微細な異物等を効率的に除去することができる。
【0062】
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、フラックス残渣及び微細な異物を除去するために好適に用いることができる。すなわち、上記洗浄剤組成物は、フラックス洗浄用、又は微細な異物の洗浄用であることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
≪原料≫
本実施例において使用した原料となる化合物の名称等を以下に示す。
N,N’-ジメチルオクチルアミン(DMOA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
N,N’-ジメチルデシルアミン(DMDA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
ジ-n-ブチルアミン(DBA) :広栄化学工業株式会社製
n-オクチルアミン :富士フイルム和光純薬株式会社製
2-(エチルアミノ)エタノール(MEM) :日本乳化剤株式会社製
N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン(TMHDA) :富士フイルム和光純薬株式会社製
N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン(CHE-20) :新日本理化株式会社製
エチレングリコールモノイソブチルエーテル(i-BG) :日本乳化剤株式会社製
エチレングリコール-t-ブチルエーテル(ETB) :丸善石油化学株式会社製
ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG) :日本乳化剤株式会社製
ジメチルプロピレンジグリコール(DMFDG) :日本乳化剤株式会社製
プロピレングリコールモノブチルエーテル(BFG) :日本乳化剤株式会社製
デカヒドロナフタリン(DHNA) :新日鉄住金化学株式会社製
ヘプタノール :東洋合成工業株式会社製
N-メチル-2-ピロリドン(NMP) :三菱ケミカル株式会社製
3-メトキシ-3-メチルブタノール(MMB) :株式会社クラレ製
エチレングリコールモノプロピルエーテル(PS) :ダウ・ケミカル日本株式会社製
ヘキシルジグリコール(HeDG) :日本乳化剤株式会社製
フェニルプロピレングリコール(PhFG) :日本乳化剤株式会社製
【0065】
≪実験1:従来の洗浄剤組成物との性能の比較≫
<洗浄剤組成物の作製>
まず、表1-1及び表1-2に示される配合組成に基づいて試料番号11~試料番号18、及び試料番号101~試料番号106の洗浄剤組成物を作製した。表1-1及び表1-2の「配合組成」において「-」で示されている成分は、当該試料において加えなかったことを意味する。
【0066】
<洗浄剤組成物の性能評価>
(金属に対する反応性評価)
(テストピースの準備)
金属に対する反応性(金属腐食性)の評価に用いるためのテストピースとして、アルミニウム板(A1050p、20×50×t3mm)及び、銅板(20×50×t0.5mm)を準備した。
【0067】
(金属腐食性の評価試験)
以下の手順で、試料番号11~試料番号18、及び試料番号101~試料番号106における洗浄剤組成物の金属腐食性を評価した。まず、ビーカー(500ml)に上記洗浄剤組成物を400ml加えて、60℃になるまで加温した。次に加温された洗浄剤組成物を750rpmで撹拌して水相と有機相とが分散するようにした。上述の分散した状態を維持しながら上記洗浄剤組成物にテストピースを浸漬した。テストピースを上記洗浄剤組成物に浸漬してから10分毎に上記テストピースを取り出し、水洗、送風乾燥後、目視によって上記テストピースの表面における色調の変化を観察した。当該表面の色調が変化(例えば、黒変、白化等)していた場合、テストピースが腐食したと判定した。テストピースの腐食が認められるまでの浸漬時間に応じて以下の基準で評価を行った。評価結果を表1-1及び表1-2に示す。試料番号11~試料番号18は、実施例に相当する。試料番号101~試料番号106は、従来から用いられている洗浄剤組成物であり、比較例に相当する。
評価ランクの基準
Sランク :90分間浸漬後にテストピースの表面における色調変化が認められない。
Aランク :60分間浸漬後にテストピースの表面における色調変化が見られないが、90分浸漬後に当該色調変化が認められる。
Bランク :30分間浸漬後にテストピースの表面における色調変化が見られないが、60分浸漬後に当該色調変化が認められる。
Cランク :10分間浸漬後にテストピースの表面における色調変化が見られないが、30分浸漬後に当該色調変化が認められる。
Dランク :10分後にテストピースの表面における色調変化が認められた。
【0068】
(樹脂に対する反応性評価)
(テストピースの準備)
樹脂に対する反応性(樹脂溶解性)の評価に用いるためのテストピースとして、ポリプロピレン製の樹脂板(20×50×t2mm)を準備した。
【0069】
(樹脂溶解性の評価試験)
以下の手順で、試料番号11~試料番号18、及び試料番号101~試料番号106の洗浄剤組成物の樹脂溶解性を評価した。まず、ビーカー(500ml)に上記洗浄剤組成物を400ml加えて、60℃になるまで加温した。次に加温された洗浄剤組成物を750rpmで撹拌して水相と有機相とが分散するようにした。上述の分散した状態を維持しながら上記洗浄剤組成物にテストピースを浸漬した。テストピースを上記洗浄剤組成物に浸漬してから10分後に上記テストピースを取り出し、水洗、送風乾燥後、当該テストピースの質量変化率及び体積変化率を以下の式で求めた。テストピースの体積は、ノギスでテストピースの縦、横及び厚みの寸法を計測して算出した。また、当該テストピースの外観を目視で観察した。求めた質量変化率及び体積変化率並びにテストピースの外観に応じて以下の基準で評価を行った。結果を表1-1及び表1-2に示す。
テストピースの質量変化率(%)=100×{(洗浄剤組成物に浸漬してから10分後のテストピースの質量)-(洗浄剤組成物に浸漬する前のテストピースの質量)}/(洗浄剤組成物に浸漬する前のテストピースの質量)
テストピースの体積変化率(%)=100×{(洗浄剤組成物に浸漬してから10分後のテストピースの体積)-(洗浄剤組成物に浸漬する前のテストピースの体積)}/(洗浄剤組成物に浸漬する前のテストピースの体積)
評価ランクの基準
Sランク :質量変化率及び体積変化率が±1%以内
Aランク :質量変化率及び体積変化率が±1%を超えて±3%以内
Bランク :質量変化率及び体積変化率が±3%を超えて±5%以内
Cランク :質量変化率及び体積変化率が±5%を超えて±10%以内
Dランク :質量変化率及び体積変化率が±10%を超える、又はクラック、溶解等の外観変化が生じた。
【0070】
(ロジン系フラックス残渣の洗浄性の評価)
(テストピースの準備)
以下の手順で洗浄性を評価するためのテストピースを準備した。まず、JIS2形くし形電極基板(株式会社サトーセン製)を用意した。上記くし形基板にメタルマスクをかぶせ、その上からソルダペースト(千住金属工業株式会社製、商品名M705-GRN360-K2-V、又は株式会社弘輝製、商品名S3X58-M500-2)を印刷した。その後、当該くし形電極基板を250℃で3分間ホットプレート上で静置することでリフローを行った。以上の手順で、ソルダペーストがそれぞれ異なる2種類のテストピースを作製した。
【0071】
(洗浄性の評価試験)
以下の手順で、試料番号11~試料番号18、及び試料番号101~試料番号106の洗浄剤組成物の洗浄性を評価した。まず、ビーカー(500ml)に上記洗浄剤組成物を400ml加えて、60℃になるまで加温した。次に加温された洗浄剤組成物を750rpmで撹拌して水相と有機相とが分散するようにした。上述の分散した状態を維持しながら上記洗浄剤組成物にテストピースを浸漬した。テストピースを上記洗浄剤組成物に浸漬してから所定時間経過後に上記テストピースを取り出し、水洗及び乾燥を行った後、実体顕微鏡(倍率40倍)を用いて表面観察し、フラックス残渣が完全に除去することが可能な時間を測定するとともに、以下の基準に照らして、洗浄性評価を行った。評価結果を表1-1及び表1-2に示す。
評価ランクの基準
Sランク :洗浄時間が20分未満である。
Aランク :洗浄時間が20分以上30分未満である。
Bランク :洗浄時間が30分以上45分未満である。
Cランク :洗浄時間が45分以上60分未満である。
Dランク :洗浄時間が60分以上である。
【0072】
(洗浄剤組成物の外観評価)
試料番号11~試料番号18、試料番号101~試料番号106の洗浄剤組成物を常温(20℃)で静置した。その後、各洗浄剤組成物の外観を観察した。評価結果を表1-1及び表1-2に示す。表中「2層分離」と表記されているものは、水相と有機相の2層に分離していたことを意味する。一方「均一」と表記されているものは、水相と有機相とが一体となって観察されたことを意味する。「2層分離」の洗浄剤組成物は、「均一」の洗浄剤組成物と比べて洗浄性に優れていると本発明者らは考えている。
【0073】
(洗浄剤組成物の曇点)
試料番号102、試料番号104及び試料番号105の洗浄剤組成物を常温(20℃)から70℃まで昇温して、均一な状態から水相と有機相の2層に分離する温度(曇点)の有無を確認した。結果を表1-2に示す。表中「なし」とは、20℃~70℃の範囲において、曇点が存在しなかったことを示す。表中「-」で示されているものは、その試料において曇点の評価を行わなかったことを意味する。
【0074】
【0075】
【0076】
表1-1の結果から、グリコールエーテル化合物と、疎水性の第三級アミン化合物と、水とを含む洗浄剤組成物(試料番号11~試料番号18)は、樹脂溶解性及び金属腐食性がぞれぞれSランクを示していた。また、試料番号11~試料番号18の洗浄剤組成物は、洗浄性がSランク又はAランクであった。以上の結果から、試料番号11~試料番号18の洗浄剤組成物は、洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制されていることが分かった。
【0077】
一方、試料番号101及び試料番号102の洗浄剤組成物は、洗浄性には優れているものの(それぞれSランク、Aランク)、金属腐食性を有していた(ともにDランク)。試料番号103の洗浄剤組成物は、洗浄性には優れるものの(Aランク)、樹脂溶解性を有していた(Dランク)。試料番号104~試料番号106の洗浄剤組成物は、洗浄性が不十分であった。また試料番号104の洗浄剤組成物は、アルミニウムに対して腐食性を有していた。
【0078】
≪実験2:疎水性のアミン化合物の検討≫
洗浄剤組成物に含まれる疎水性のアミン化合物として、第一級アミン化合物、第二級アミン化合物及び第三級アミン化合物をそれぞれ用いて性能の比較を行った。また、併せて疎水性のアミン化合物の代わりに親水性のアミン化合物を用いた場合の性能も評価した。
【0079】
<洗浄剤組成物の作製>
表2-1及び表2-2に示される配合組成に基づいて試料番号21~試料番号25及び試料番号201~試料番号209の洗浄剤組成物を作製した。表2-1及び表2-2の「配合組成」において「-」で示されている成分は、当該試料において加えなかったことを意味する。
【0080】
<洗浄剤組成物の性能評価>
「実験1」と同様の方法によって、金属に対する反応性、樹脂に対する反応性、洗浄性、洗浄剤組成物の外観、及び洗浄剤組成物の曇点を評価した。結果を表2-1及び表2-2に示す。試料番号21~試料番号25は、実施例に相当する。試料番号201~試料番号209は、比較例に相当する。
【0081】
【0082】
【0083】
表2-1及び表2-2の結果から、疎水性の第三級アミン化合物を用いた試料番号21~試料番号25の洗浄剤組成物は、樹脂溶解性及び金属腐食性がぞれぞれSランクを示していた。また、試料番号21~試料番号25の洗浄剤組成物は、洗浄性がSランク又はAランクであった。以上の結果から、試料番号21~試料番号25の洗浄剤組成物は、洗浄性に優れ、かつ金属及び樹脂に対する反応性が抑制されていることが分かった。
【0084】
一方、疎水性の第二級アミン化合物を用いた試料番号201の洗浄剤組成物は、洗浄性がCランクであり、かつアルミニウムに対する腐食性がDランクであった。疎水性の第一級アミン化合物を用いた試料番号202の洗浄剤組成物は、洗浄性がBランクでありかつアルミニウムに対する腐食性がDランクであった。
【0085】
親水性の第三級アミン化合物を用いた試料番号203及び試料番号204の洗浄剤組成物は、洗浄性がCランク又はDランクであり、かつアルミニウムに対する腐食性がDランクであった。親水性の第二級アミン化合物を用いた試料番号205の洗浄剤組成物は、洗浄性に優れるものの(Aランク)、金属腐食性を有していた(Dランク)。試料番号206~試料番号209の洗浄剤組成物は、洗浄性がDランクであった。
【0086】
≪実験3:保存安定性の評価≫
以下の手順で、本実施例に係る洗浄剤組成物の保存安定性を評価した。洗浄剤組成物は、試料番号15のものを用いた。60℃に維持された熱風循環式のオーブン中で、保存用のガラス瓶に収納された洗浄剤組成物をそのまま静置した。一週間毎に目視にて、洗浄剤組成物の外観と、析出物の有無を確認した。
【0087】
また、二週間経過後、一ヶ月経過後それぞれの上記洗浄剤組成物について、「実験1」と同様の方法によって、金属に対する反応性、及び洗浄性を評価した。その結果、試料番号15の洗浄剤組成物は、60℃の環境下で一ヶ月保存していても、金属腐食性(Sランク)及び洗浄性(Aランク)に変化がないことが分かった。以上の結果から、本実施例に係る洗浄剤組成物は、保存安定性にも優れることが分かった。
【0088】
≪実験4:異物除去性の評価≫
(テストピースの準備)
1.シリカ懸濁液の調製
シリカを0.2質量%含有するアセトン懸濁液を100g調製した。ここで、上記シリカは、高純度合成球状シリカ(シリカアドマテックス製、商品名:アドマファイン SC6500-SED、平均粒子径 1.9μm)を用いた。以上の手順でシリカ懸濁液を調製した。
【0089】
2.テストピースの作製
上述のシリカ懸濁液を室温において400rpmで撹拌したままの状態で、スライドガラスを上記シリカ懸濁液に3分間浸漬した。その後、当該スライドガラスを上記シリカ懸濁液から取り出し、100℃で3分間乾燥させた。以上の手順でテストピースを作製した。
【0090】
(異物除去性の評価試験)
ビーカー(500ml)に試料番号15、23~25、106及び206~209の洗浄剤組成物を400ml加えて、60℃になるまで加温した。次に加温された洗浄剤組成物を750rpmで撹拌して水相と有機相とが分散するようにした。上述の分散した状態を維持しながら上記洗浄剤組成物にテストピース(各5枚)を浸漬した。テストピースを上記洗浄剤組成物に浸漬してから5分後に上記テストピースを取り出し、水洗及び乾燥を行った。その後、デジタルマイクロスコープ(オリンパス(株)製 DSX510)を用いて、テストピースの表面を観察(倍率;200倍)して所定視野内において残存した球状シリカの数をカウントした。洗浄前に観察したテストピースの所定視野内に存在する球状シリカの数と、上述の残存した球状シリカの数とを用いて以下の式から球状シリカ(微細な異物)の除去率を算出した。5枚分のテストピースで求められた除去率の平均値を当該洗浄剤組成物の除去率とした。また、以下の基準に照らして、異物除去性の評価を行った。評価結果を表3に示す。試料番号15、及び試料番号23~25は実施例に相当し、試料番号106及び試料番号206~209は比較例に相当する。
除去率(%)=100×{(洗浄前に存在する球状シリカの数)-(洗浄後に残存した球状シリカの数)}/(洗浄前に存在する球状シリカの数)
評価ランクの基準
Sランク :除去率90%以上
Aランク :除去率80%以上90%未満
Bランク :除去率70%以上80%未満
Cランク :除去率50%以上70%未満
Dランク :除去率50%未満
【0091】
【0092】
表3の結果から、疎水性の第三級アミン化合物を用いた試料番号15、及び試料番号23~25の洗浄剤組成物は、異物除去性がぞれぞれAランクを示していた。一方、疎水性の第三級アミン化合物を含まない試料番号106及び試料番号206~209の洗浄剤組成物は、異物除去性がそれぞれCランク又はDランクを示していた。以上の結果から、疎水性の第三級アミン化合物を含む洗浄剤組成物は、微細な異物に対する除去性に優れることが分かった。
【0093】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0095】
10 洗浄装置
12 洗浄槽
12a 筐体
14 リンス槽
15 リンス液
16 乾燥槽
17 ヒーター
19 ヒーター
20 収容部
21 洗浄剤組成物
22 循環路
23 洗浄対象物
24 ポンプ
26 塩形成化合物収容部
28 フィルタ
29 超音波振動子。