(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】動釣合い試験機用のコレットおよび動釣合い試験機
(51)【国際特許分類】
G01M 1/02 20060101AFI20231025BHJP
G01M 1/06 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G01M1/02
G01M1/06
(21)【出願番号】P 2019217106
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000150729
【氏名又は名称】株式会社長浜製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 政巳
(72)【発明者】
【氏名】上野 真人
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-128283(JP,A)
【文献】実公平07-001213(JP,Y2)
【文献】実公昭63-006660(JP,Y2)
【文献】米国特許第04416459(US,A)
【文献】米国特許第05081889(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 1/00-1/38
B23B 31/00-33/00
B23Q 3/00-3/154,3/16-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能であって回転中心にスプライン穴が形成された被試験体を動釣合い試験機において回転する回転部に一体回転可能に連結するコレットであって、
根元部および先端部を有し、前記スプライン穴に挿入されて前記スプライン穴における前記被試験体の内周部を把持する円筒状の把持部であって、複数の割溝が前記把持部の周方向に並んで形成され、前記割溝の溝幅の変化に応じて拡縮可能な把持部と、
前記スプライン穴にスプライン結合して、前記把持部を前記被試験体に対して前記周方向に回り止めする回り止め部とを含
み、
前記把持部の外周面は、前記根元部と前記先端部との間の中央部において外径が一定の円筒面を有し、
前記回り止め部が、前記外周面において、前記根元部において前記周方向に沿って並ぶように環状に形成された複数の凸部を有し、前記凸部が、前記外周面において、前記円筒面よりも前記把持部の径方向の外側へ突出しており、
前記外周面の前記根元部において、前記回り止め部を前記把持部の軸方向に挟むように形成され、前記周方向に延びる一対の溝をさらに含み、前記溝の底部が、前記外周面において、前記円筒面よりも、前記径方向の内側へ凹んでおり、
前記凸部の前記軸方向の幅が、前記円筒面の前記軸方向の幅よりも狭い、動釣合い試験機用のコレット。
【請求項2】
請求項1に記載のコレットと、前記コレットが取り付けられる前記回転部とを含む動釣合い試験機であって、
前記回転部に取り付けられ、前記被試験体を支持する支持部と、
前記把持部を拡縮させる拡縮機構であって、前記把持部を拡径させる際に前記把持部を前記支持部に引き寄せる拡縮機構とを含む、動釣合い試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動釣合い試験機用のコレット、および、このコレットを含む動釣合い試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、被試験体が固定されたスピンドルを所定速度で回転させることによって当該被試験体の不釣合いを測定する動釣合い試験機と、被試験体をスピンドルに固定するコレットとを開示している。コレットは、被試験体の内周部に嵌め込まれて拡縮可能な円筒部を有する。円筒部は、拡径されることによって被試験体の内周部に圧入される。これにより、被試験体は、コレットによって把持されることでスピンドルに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動釣合い試験機では、不釣合い測定のためにスピンドルを高速回転させるのが一般的である。そのため、不釣合い測定の際に、スピンドルの回転起動のための加速時間と、スピンドルの回転停止のための減速時間とが生じる。特許文献1のようにコレットを被試験体の内周部に圧入する構成において、スピンドルの回転の加減速時における回転慣性によってコレットと被試験体との間で滑りが発生しないようするためには、加速時間や減速時間を長く設定すればよい。しかし、それでは不釣合い測定のサイクルタイムが長くなってしまうので、作業効率向上を図ることが困難になる。
【0005】
この発明は、コレットと被試験体との間における滑りを防止して、不釣合い測定のサイクルタイムの短縮を図ることができる動釣合い試験機用のコレット、および、このコレットを含む動釣合い試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、回転可能であって回転中心にスプライン穴(2B)が形成された被試験体(2)を動釣合い試験機(1)において回転する回転部(3)に一体回転可能に連結するコレット(25)であって、前記スプライン穴に挿入されて前記スプライン穴における前記被試験体の内周部(2A)を把持する円筒状の把持部(32)であって、複数の割溝(25A)が前記把持部の周方向(S)に並んで形成され、前記割溝の溝幅(W)の変化に応じて拡縮可能な把持部と、前記スプライン穴にスプライン結合して、前記把持部を前記被試験体に対して前記周方向に回り止めする回り止め部(32F)とを含む、動釣合い試験機用のコレットを提供する。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
【0007】
この構成によれば、動釣合い試験機用のコレットでは、円筒状の把持部が被試験体のスプライン穴に挿入された状態で割溝の溝幅が広がると、把持部が、拡径してスプライン穴における被試験体の内周部に圧入されることによって当該内周部を把持する。さらに、コレットでは、回り止め部が、スプライン穴にスプライン結合して把持部を被試験体に対して回り止めする。これにより、被試験体がコレットに一体回転可能に強固に連結されるので、コレットと被試験体との間における滑りを防止できる。この場合、動釣合い試験機では、被試験体の不釣合い測定のための回転部の回転の加速時間および減速時間を短縮しても構わない。そのため、これらの加速時間および減速時間の短縮により、不釣合い測定のサイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0008】
前記把持部の外周面が、前記根元部と前記先端部との間の中央部において外径が一定の円筒面を有していてもよい。前記回り止め部が、前記外周面において、前記根元部において前記周方向に沿って並ぶように環状に形成された複数の凸部を有していてもよい。前記凸部が、前記外周面において、前記円筒面よりも前記把持部の径方向の外側へ突出していてもよい。
前記コレットが、前記外周面の前記根元部において、前記回り止め部を前記把持部の軸方向に挟むように形成され、前記周方向に延びる一対の溝をさらに含んでいてもよい。前記溝の底部が、前記外周面において、前記円筒面よりも、前記径方向の内側へ凹んでいてもよい。前記凸部の前記軸方向の幅が、前記円筒面の前記軸方向の幅よりも狭くてもよい。
また、本発明の一実施形態は、前記コレットと、前記コレットが取り付けられる前記回転部とを含む動釣合い試験機(1)を提供する。前記動釣合い試験機は、前記回転部に取り付けられ、前記被試験体を支持する支持部(23F)と、前記把持部を拡縮させる拡縮機構(41)であって、前記把持部を拡径させる際に前記把持部を前記支持部に引き寄せる拡縮機構とを含む。
【0009】
この構成によれば、動釣合い試験機では、拡縮機構がコレットの把持部を拡径させる際に把持部を支持部に引き寄せるので、被試験体は、拡径する把持部が圧入されることによって把持されるとともに、把持部によって支持部に押し付けられる。これにより、不釣合い測定時には、被試験体を、支持部によって支持されるように速やかに位置決めすることができるので、不釣合い測定のサイクルタイムの短縮を一層図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の一実施形態に係る動釣合い試験機の要部の縦断面図である。
【
図3】被試験体の取り付け時における動釣合い試験機の要部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、この発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、動釣合い試験機1の縦断面図である。
図1の上下方向は、動釣合い試験機1の上下方向である。
図1の左右方向は、動釣合い試験機1の左右方向である。動釣合い試験機1は、被試験体2(
図3参照)とともに回転する回転部3と、回転部3を振動可能かつ回転可能に支持する支持部(図示せず)と、回転部3を回転駆動させるモータ等の駆動部(図示せず)と、回転中における回転部3の振動を検出する検出部(図示せず)と、被試験体2を支持して回転部3に一体回転可能に連結する被試験体固定装置4とを含む。
【0012】
被試験体2の一例は、プロペラシャフト等の長尺の回転体であり、その両端部にはボールジョイントが設けられている。動釣合い試験機1は、被試験体2の両端部を支持するように回転部3および被試験体固定装置4を二対含む。
図1では、被試験体2の長手方向における一方の端部を支持する一対の回転部3および被試験体固定装置4だけが図示されている。もちろん、被試験体2を両持ち支持しない場合(片持ち支持する場合)には、動釣合い試験機1は、回転部3および被試験体固定装置4を一対だけ含んでもよい。被試験体2の端部であるボールジョイントの回転中心には、内周部2Aによって縁取られた円形状のスプライン穴2Bが形成されている(
図3参照)。スプライン穴2Bは、貫通穴であってもよいし、底を有する凹部であってもよい。スプライン穴2Bでは、複数の凹条2Cおよび凸条2Dが交互に並ぶように環状に配列されている(
図4参照)。なお、凹条2Cおよび凸条2Dは、左右方向における内周部2Aの全域に設けられてもよいし、この実施形態のように左右方向における内周部2Aの一部に設けられてもよい。
【0013】
回転部3は、左右方向に延びる中心軸線Jを有する円筒状に形成されたスピンドル11と、スピンドル11内に同軸上で挿通された円柱状のドローバー12とを含む。スピンドル11とドローバー12とは、それぞれの根元側(左側)において例えばスプライン結合されているので、ドローバー12は、中心軸線Jに沿ってスピンドル11に対して左右方向へ相対的にスライド可能かつ中心軸線J周りの周方向Sにスピンドル11と一体回転可能である。動釣合い試験機1は、ドローバー12をスライドさせるアクチュエーター(図示せず)も含む。アクチュエーターは、ドローバー12を左右方向に付勢するバネ等の付勢部材や、エアシリンダー等によって構成される。
【0014】
ドローバー12は、円管状の第1部品13や、第1部品13内に収容された第2部品14等の複数の部品によって構成されている。第1部品13において右側(先端側)の端部の外周面には、周方向Sに延びる溝13Aと、溝13Aを右側から区画する円盤状の係合部13Bとが設けられている。ボルトB1が、係合部13Bの中心を通って第2部品14に組み付けられ、位置決めピンP1が、第1部品13の貫通穴13Cと第2部品14の凹部14Aとに差し込まれている。これにより、第1部品13と第2部品14とが一体化されてドローバー12を構成している。
【0015】
被試験体固定装置4は、右側から回転部3に取り付けられている。被試験体固定装置4は、スピンドル11に固定されるケース21と、ケース21に固定されるマンドレル22と、マンドレル22に固定されるストッパー23とを含む。被試験体固定装置4は、ドローバー12に固定されるスペーサー24と、スペーサー24に固定されるコレット25とを含む。
【0016】
ケース21は、スピンドル11と同軸上に配置された円筒体である。ケース21の左端部は、中心軸線Jに直交する径方向Rの外側へ張り出したフランジ状に形成され、ボルトB2によってスピンドル11の右端部に固定されている。
【0017】
マンドレル22は、スピンドル11と同軸上に配置された円盤状の固定部22Aと、固定部22Aの中央から右側へ延びてドローバー12と同軸上に配置された円柱状の先端部22Bと、固定部22Aの中央から左側へ延びてドローバー12と同軸上に配置された円柱状の根元部22Cとを一体的に有する。固定部22Aは、ケース21の右端面に対向配置されて、ボルトB3によってケース21に固定されている。これにより、マンドレル22全体が、ケース21に固定され、さらにケース21を介してスピンドル11に固定されている。固定部22AにおいてボルトB3よりも径方向Rの内側の部分には、固定部22Aを左右方向に貫通する貫通穴22Dが形成されている。貫通穴22Dは、複数形成されてもよく、その場合には、複数の貫通穴22Dが周方向Sに並んでいる。
【0018】
先端部22Bは、固定部22Aに接続されて外径が一定な根元円筒部22Eと、根元円筒部22Eの右端から右側へ向かうにつれて徐々に小径になる円錐台形状の根元テーパー部22Fとを有する。先端部22Bは、根元テーパー部22Fの右端から右側へ延びて外径が一定な先端円筒部22Gと、先端円筒部22Gの右端から右側へ向かうにつれて徐々に小径になる円錐台形状の先端テーパー部22Hとをさらに有する。先端テーパー部22Hは、マンドレル22における最先端部であり、その外周面22Iは、右側へ向かうにつれて小径になったテーパー面である。根元部22Cには、その左端面から右側へ窪む凹部22Jが形成されていて、前述したボルトB1の頭部が、遊びを持って凹部22Jに受け入れられている。
【0019】
ストッパー23は、スピンドル11と同軸上に配置された円筒部23Aと、円筒部23Aの右端部から径方向Rの内側へ張り出した円環状のフランジ部23Bとを有する。円筒部23Aは、ケース21の右端面に対向配置されて、ボルトB4によってマンドレル22の固定部22Aに固定されている。これにより、ストッパー23全体が、マンドレル22に固定され、さらにケース21およびマンドレル22を介してスピンドル11に取り付けられている。
【0020】
ストッパー23には、フランジ部23Bによって取り囲まれた円形状の挿通穴23Cが形成されている。挿通穴23Cには、マンドレル22の先端部22Bが遊びを持って挿通されている。先端部22Bの先端円筒部22Gおよび先端テーパー部22Hは、挿通穴23Cから右側にはみ出ている。フランジ部23Bにおいて挿通穴23Cを区画する内周面は、先端部22Bの根元テーパー部22Fと平行なテーパー状であって根元テーパー部22Fを取り囲む第1領域23Dと、先端部22Bの先端円筒部22Gと平行な円筒状であって先端円筒部22Gの左端部を取り囲む第2領域23Eとを有する。フランジ部23Bの右端面には、挿通穴23Cを縁取りつつ右側へ一段突出した円環状の支持部23Fが設けられている。
【0021】
スペーサー24は、ドローバー12と同軸上に配置された円筒部24Aと、円筒部24Aの右端部から径方向Rの外側へ張り出した円環状のフランジ部24Bと、フランジ部24Bから右側へ突出してマンドレル22の固定部22Aの貫通穴22Dに挿通された突出部24Cとを有する。円筒部24Aは、ケース21内に収容されて、ドローバー12の第1部品13の右端部と、マンドレル22の根元部22Cとを取り囲んでいる。円筒部24Aの内周面の左端部には、周方向Sに延びる溝24Dが形成されている。第1部品13の係合部13Bが径方向Rの内側から溝24Dに嵌ることによってスペーサー24に係合している。これにより、スペーサー24は、ドローバー12とともに左右方向にスライド可能である。円筒部24Aにおいて溝24Dよりも左側の部分は、第1部品13の外周面の溝13Aに受け入れられている。フランジ部24Bは、マンドレル22の固定部22Aに左側から対向している。位置決めピンP2が、フランジ部24Bの右面に形成された位置決め穴24Eと、固定部22Aの左面に形成された位置決め穴22Kとに差し込まれている。これにより、マンドレル22とスペーサー24とが、周方向Sにおいて位置決めされている。マンドレル22の固定部22Aの貫通穴22Dが複数存在する場合、突出部24Cは、貫通穴22Dと同数設けられて、貫通穴22Dに1つずつ挿通される。
【0022】
コレット25は、マンドレル22と同軸上に配置される円筒体である。コレット25は、円環状のベース部31と、被試験体2の内周部2A(
図3参照)に嵌め込まれる円筒状の把持部32と、ベース部31と把持部32との間の途中部33とを一体的に含む。
【0023】
ベース部31は、マンドレル22の固定部22Aに右側から対向した状態で、ストッパー23の円筒部23Aによって取り囲まれるとともに、マンドレル22の根元円筒部22Eを取り囲んでいる。ベース部31は、ボルトB5によってスペーサー24の突出部24Cに固定されている。これにより、コレット25全体が、スペーサー24に固定され、さらに、スペーサー24を介してドローバー12に取り付けられている。そのため、コレット25は、スペーサー24およびドローバー12とともに左右方向にスライド可能である。
【0024】
把持部32の外周面32Aの外径は、把持部32において右側の先端部32Bと左側の根元部32Cとの間の中央部32D
(円筒面)では、全域にわたって一定である。先端部32Bは、被試験体2の内周部2A(
図3参照)に嵌りやすいように右側へ向かうにつれて小径になっている。根元部32Cには、周方向Sに延びる左右一対の溝32Eと、これらの溝32Eの間の回り止め部32Fとが設けられている。回り止め部32Fは、周方向Sに沿って交互に並ぶように環状に配列された複数の凹部32Gおよび凸部32Hによって構成されたスプラインである(
図2参照)。スプラインの歯を構成するそれぞれの凸部32Hは、中央部32Dよりも径方向Rの外側へ突出している。把持部32の内周面32Iは、右側へ向かうにつれて小径になったテーパー面である。把持部32は、ストッパー23の挿通穴23Cよりも右側に配置され、内周面32Iは、マンドレル22の先端テーパー部22Hを取り囲んだ状態で先端テーパー部22Hの外周面22Iに面接触している。
【0025】
途中部33は、ベース部31の内周部から徐々に小径になるようにテーパー状に右側へ延びた後に、同じ外径で右側へ延びて把持部32の根元部32Cに接続されている。途中部33は、ストッパー23の挿通穴23Cに挿通されて、マンドレル22の根元テーパー部22Fおよび先端円筒部22Gを取り囲んでいる。
【0026】
コレット25には、把持部32の周方向(前述した周方向Sと同じ)に並んだ複数の割溝25Aが形成されている(
図2参照)。各割溝25Aは、把持部32の径方向(前述した径方向Rと同じ)および左右方向に沿って把持部32および途中部33を貫通するスリットである。この実施形態では、3つの割溝25Aが、周方向Sに等間隔で並んで形成されている。各割溝25Aの左端部は、丸穴になっている。把持部32は、各割溝25Aの溝幅W(
図2参照)の変化に応じて拡縮可能である。具体的には、溝幅Wが広がることによって把持部32は拡径し、溝幅Wが狭まることによって把持部32は縮径する。待機状態の動釣合い試験機1では、把持部32は縮径状態にある。このようなコレット25では、ベース部31が固定端であり、把持部32および途中部33が自由端である。
【0027】
図3を参照して、動釣合い試験機1において被試験体2の動釣合い試験を行う場合には、その準備として、待機状態の動釣合い試験機1のコレット25に被試験体2(一点鎖線で示した被試験体2を参照)が、白抜き矢印で示すように右側からセットされる。この状態におけるコレット25では、把持部32が被試験体2(二点鎖線で示した被試験体2を参照)のスプライン穴2Bに挿入されて、把持部32の中央部32Dが被試験体2の内周部2Aに嵌っている。内周部2Aの内径(厳密には、スプライン穴2Bにおける全ての凸条2Dの先端をつなぐ仮想円の直径)は、縮径状態の把持部32における中央部32Dの外径よりも僅かに大きい。そのため、被試験体2は、コレット25による把持が未だのアンクランプ状態にある。
【0028】
この状態において、把持部32の左端の回り止め部32Fは、凹部32Gがスプライン穴2Bの凸条2Dを受け入れて凸部32Hがスプライン穴2Bの凹条2Cに嵌り込んで凸条2Dと凸部32Hとが周方向Sに引っ掛かることによって、スプライン穴2Bにスプライン結合している(
図4参照)。そのため、把持部32が被試験体2に対して周方向Sに回り止めされている。なお、回り止め部32Fがスプライン穴2Bに円滑にスプライン結合できるように、凸部32Hと凹条2Cとの間や、凸条2Dと凹部32Gとの間には遊びが確保されている。また、凸部32Hは、凹条2Cと同数であってもよいし、凹条2Cよりも少なくてもよい。
【0029】
次に、前述したアクチュエーター(図示せず)が作動し、その際、前述した付勢部材の付勢力によってドローバー12を左側へスライドさせる。これにより、コレット25も左側へスライドすることによって把持部32が支持部23Fに引き寄せられ、その際、把持部32におけるテーパー状の内周面32Iが、マンドレル22の先端テーパー部22Hにおけるテーパー状の外周面22Iに対して左側へ相対移動する。すると、コレット25では、外周面22Iが内周面32Iを押し広げようとする力によって径方向Rの外側へ撓むことにより、各割溝25Aの溝幅Wが広がる。そのため、把持部32が左側へ移動しながら拡径し、把持部32の中央部32Dが被試験体2の内周部2Aにおける各凸条2Dに圧接することによって内周部2Aに圧入される。
【0030】
この結果、被試験体2は、コレット25の把持部32によって内周部2Aが把持されることによってクランプされるとともに、ストッパー23の支持部23Fに押し付けられて支持部23Fによって支持される。そのため、被試験体2は、コレット25を介して動釣合い試験機1の回転部3に一体回転可能に連結された状態にある。
図1および
図3は、被試験体2をクランプしたときの動釣合い試験機1を示している。なお、ケース21の内周面において径方向Rの内側へ張り出したストッパー21Aが、スペーサー24のフランジ部24Bに左側から対向しているので、ドローバー12が左側へ所定以上スライドしないように規制される。
【0031】
被試験体2がクランプされた動釣合い試験機1では、前述した駆動部(図示せず)によって回転部3が所定速度(例えば4000rpm)で駆動回転され、この状態における被試験体2の振動が、前述した検出部(図示せず)によって検出される。検出された振動から、被試験体2の不釣合いが得られる。
【0032】
被試験体2の不釣合い測定を終えた動釣合い試験機1では、前述したアクチュエーターにおける例えばエアシリンダーが作動して、ドローバー12を元の待機位置(図示せず)まで右側へ例えば数mm程度スライドさせる。すると、ドローバー12とともにスライドするコレット25では、把持部32が元の形状に復元しようと径方向Rの内側へ撓むことによって各割溝25Aの溝幅Wが狭まるので、把持部32が縮径する。これにより、被試験体2の内周部2Aに対する把持部32の圧入状態が解除されるので、被試験体2がアンクランプ状態になる。この状態では、被試験体2を交換のためにコレット25から取り外すことができる。なお、マンドレル22の固定部22Aが、ストッパーとして、スペーサー24の円筒部24Aに右側から対向しているので、ドローバー12が右側へ所定以上スライドしないように規制される。
【0033】
前述したように、動釣合い試験機1用のコレット25では、把持部32が被試験体2のスプライン穴2Bに挿入された状態で割溝25Aの溝幅Wが広がると、把持部32が、拡径してスプライン穴2Bにおける被試験体2の内周部2Aに圧入されることによって当該内周部2Aを把持する。さらに、コレット25では、回り止め部32Fが、スプライン穴2Bにスプライン結合して把持部32を被試験体2に対して回り止めする。これにより、被試験体2がコレット25に一体回転可能に強固に連結されるので、コレット25と被試験体2との間における滑りを防止できる。つまり、コレット25は、被試験体2の内周部2Aを圧入によって把持する機能と、コレット25と被試験体2との間における滑りを防止する機能とを有する。この場合、動釣合い試験機1では、被試験体2の不釣合い測定のための回転部3の回転の加減速時におけるトルクを増やして加速時間および減速時間を短縮しても構わない。そのため、これらの加速時間および減速時間の短縮により、不釣合い測定のサイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0034】
また、ドローバー12、マンドレル22およびこれらを連結するスペーサー24は、コレット25の把持部32を拡縮させる拡縮機構41を構成する。拡縮機構41は、把持部32を拡径させる際に把持部32を支持部23Fに引き寄せる。そのため、被試験体2は、拡径する把持部32が圧入されることによって把持されるとともに、把持部32によって支持部23Fに押し付けられる。これにより、不釣合い測定時には、被試験体2を、支持部23Fによって支持されるように速やかに位置決めすることができるので、不釣合い測定のサイクルタイムの短縮を一層図ることができる。
【0035】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0036】
以上の説明では、スピンドル11およびドローバー12が横に配置されることによって、回転部3の中心軸線Jが横に延びているが、中心軸線Jが縦に延びるようにスピンドル11およびドローバー12が縦に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 動釣合い試験機
2 被試験体
2A 内周部
2B スプライン穴
3 回転部
23F 支持部
25 コレット
25A 割溝
32 把持部
32F 回り止め部
41 拡縮機構
S 周方向
W (割溝25Aの)溝幅