(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】活性医薬成分の複合体
(51)【国際特許分類】
A61K 47/55 20170101AFI20231025BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20231025BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231025BHJP
A61K 31/409 20060101ALI20231025BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20231025BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20231025BHJP
A61K 31/7056 20060101ALI20231025BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20231025BHJP
A61K 35/18 20150101ALI20231025BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20231025BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231025BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20231025BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231025BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231025BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20231025BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231025BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231025BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231025BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20231025BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20231025BHJP
C07D 519/00 20060101ALI20231025BHJP
C07H 15/26 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
A61K47/55
A61B10/00 E
A61B10/00 T
A61K9/14
A61K31/409
A61K31/4745
A61K31/704
A61K31/7056
A61K31/706
A61K35/18
A61K41/00
A61K47/10
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/42
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
B82Y5/00
B82Y40/00
C07D519/00 301
C07H15/26
(21)【出願番号】P 2019569803
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 US2018037895
(87)【国際公開番号】W WO2018232334
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-08
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】リー ユアンペイ
(72)【発明者】
【氏名】シアントン シュエ
(72)【発明者】
【氏名】イー ホアン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ マー
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0210756(US,A1)
【文献】特表2016-511222(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105617379(CN,A)
【文献】特表2008-510795(JP,A)
【文献】特表2010-518135(JP,A)
【文献】Bioorg. Med. Chem.,2011年,Vol.19,pp.5383-5391
【文献】Bioconjugate Chem.,2009年,Vol.20,pp.390-396
【文献】Cancer Res,2017年06月15日,Vol.77, No.12,pp.3293-3305
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61B 10/00
B82Y 5/00
B82Y 40/00
C07H 15/26
C07D 519/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
I:
X-(L)-Y
[式中
、
Yはフェオホルビド-aであり、
(a)Xはイリノテカンであり、Lは存在しない;または
(b)Xはドキソルビシンであり、Lはヒドラゾンである。]
の複合体。
【請求項2】
次の構造:
【化1】
を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
次の構造:
【化2】
または
【化3】
を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
ナノ粒子が内部と外部を含む、複数の、請求項
1~3のいずれか一項に記載の複合体を含むナノ粒子。
【請求項5】
前記ナノ粒子の外部が安定化ポリマー、細胞膜または標的指向性リガンドの少なくとも1つを含む、請求項
4に記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記ナノ粒子の外部がポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、細胞膜、RGD、CRGDK、葉酸またはガラクトースの少なくとも1つを含む、請求項
4または
5に記載のナノ粒子。
【請求項7】
前記外部がポリエチレングリコールを含む、請求項
4~
6のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項8】
前記外部が赤血球小胞を含む、請求項
4~
6のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項9】
複数のナノ粒子が自己集合してナノキャリアを形成する、請求項
4~
6のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項10】
前記ナノキャリアのナノ粒子が架橋結合される、請求項
4~
9のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項11】
請求項
4~
10のいずれか一項に記載のナノ粒子の調製方法であって、複数の、請求項1~
3のいずれか一項に記載の複合体が自己集合しそしてナノ粒子を形成するのに適した条件下で、複数の前記複合体を含む反応混合物を形成させることを含む、方法。
【請求項12】
治療有効量の請求項1~
3のいずれか一項に記載の複合体または請求項
4~
10いずれか一項に記載のナノ粒子を含む、対象における疾病または状態を治療するための組成物。
【請求項13】
前記疾病または状態が癌である、請求項
12に記載の組成物。
【請求項14】
前記疾病または状態が癌腫、グリオーマ、中皮腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、グリア芽腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、およびバーキットリンパ腫、頭頸部癌、結腸癌、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝胆道癌、胆嚢癌、小腸癌、直腸癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、尿道癌、精巣癌、子宮頸癌、膣癌、子宮癌、卵巣癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、腺癌、膵臓内分泌癌、カルチノイド腫瘍、骨肉腫、皮膚癌、網膜芽腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、または非ホジキンリンパ腫である、請求項
12または
13に記載の組成物。
【請求項15】
前記治療有効量が、複合体化していない治療薬の治療有効量よりも低い用量である、請求項
12~
14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記対象が、前記複合体の光活性化合物を励起させるのに十分なエネルギーと波長の放射線に更に露光される、請求項
12~
15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
レーザーにより電磁放射線が提供される、請求項
16に記載の組成物。
【請求項18】
有効量の請求項1~
3のいずれか一項に記載の複合体または請求項
4~
10のいずれか一項に記載のナノ粒子を含む、対象における組織または臓器のイメージングのための薬剤であって、
該複合体またはナノ粒子は前記組織または臓器中で濃縮され、
前記組織または臓器は適当な装置を使ってイメージングされる、薬剤。
【請求項19】
有効量の請求項1~
3のいずれか一項に記載の複合体または請求項
4~
10のいずれか一項に記載のナノ粒子を含む、放射線が第一の波長で適用されている対象において腫瘍を検出するための医薬組成物であって、前記複合体またはナノ粒子から放射された任意の放射線が検出され、それにより腫瘍が検出される、医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の複合体とレーザーとを含むシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
〔関連出願への相互参照〕
本出願は、2017年6月16日出願の米国仮出願第62/521,181号の優先権を主張し、該出願はあらゆる目的でその全内容が本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔政府支援の研究開発のもとに行われた発明への権利に関する言及〕
本発明は、NIH(国立衛生研究所)により授与された認可番号CA199668号およびHD086195号のもと政府支援を受けて行われた。政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
〔発明の背景〕
ナノスケールでの薬剤送達システム(NDDS)は、活性医薬成分(API)を特定の病変へと標的指向的に送達し且つ制御放出(コントロールドリリース)するためにナノテクノロジーによって考案された。NDDSは、APIの溶解性を改善し、APIを分解から保護し、血液循環時間を延長し、健全な臓器に沿って副作用を誘発することなくそれらを腫瘍組織に特異的に運ぶことを可能にするため、NDDSの利用は、癌療法のための新規治療薬を創出する新たな希望を生み出すものと大いに期待されている。無機NDDSの臨床応用は、潜在的に累積する長期毒性のために抑えられていた。従って、科学者らは、主にリポソーム、ミセル、高分子ナノ粒子、タンパク質ベースのナノ粒子等をはじめとする有機NDDSの開発に多大な努力を払った。有機材料の優れた生体適合性と生分解性のおかげで、幾つかのナノ医薬、例えばパクリタキセル内封アルブミン製剤(アブラキサン)、リポソーム被覆ドキソルビシン(ドキシル)およびパクリタキセル内封高分子ミセル(ゲネキソール-PM)等が既に市販されている。それにもかかわらず、それらの有機NDDSはまだ低い封入能力(%DL、〔封入された薬剤/ナノ粒子重量〕×100として定義される)という欠点を有している。今までのところ、大部分の有機NDDSは20重量%以下の%DLを有すると報告されており、これは多量の非医薬成分が少量のAPIを送達させるために使用されることを意味し、このステップは巨大な資源を消費する。大部分のキャリアは非毒性であると主張されているが、この主張は安全閾値(基準値)の範囲内に限定される。より高い効能を達成するためにAPI量を増加させる必要がある時、非医薬成分の量がそれに従って増加され、安全閾値を超えることがあり、そのため毒性を示す可能性がある。例えば、最も認容されているポリマーのポリエチレングリコール(PEG)は、高濃度で投与すると或る程度の毒性を示す。
【0004】
この問題点に対処するために、%DLを改善しそして対応して担持量を増加させるために一成分ナノメディシン(OCN)が開発された。OCNは、疎水性抗腫瘍薬を、ナノ粒子の疎水性コアとして働く構成要素に直接統合し、それによって水性環境での分子の自己集合のための推進力を提供する。各々の構成要素は本質的に1つのAPIを共有するので、従来のNDDSに比較して、薬剤の封入効率を高レベルに到達させることができる。そのようなものとして、OCNの非医薬部分は、「オントリックポニー(on trick pony)」(1つしか運べない仔馬(ワントリックポニー;one-trick pony)をもじった表現)のように、大部分がペイロードを運ぶために導入され、それらの唯一の役割は医薬成分を運ぶことである。それらが薬物送達使命を果たし、送達後の期間に入ると、それらは無用になり、人間の健康にとって毒性を生じる可能性がある。それだけでなく、それらの体内動態は生体外(in vitro)でも生体内(in vivo)でもまだ謎であり、大部分のOCNが追跡できない。追跡可能な特徴を授けるために、一般にNDDSに外来の造影剤が導入される。しかしながら、導入された造影剤は、いったんその造影剤が血管に漏出すると、それら自身の体内動態だけを示し、NDDSの本当の生物学的挙動を示さない。従って、実際の生物学的動態を明らかにする固有のイメージング特性を有する自動指示型(self-indicating)NDDSを開発することが望ましい。本発明者らの考えでは、理想的なNDDSは次の特徴を満たすべきである:i) 薬物送達。第一にして最大の点は、それらがナノ構造に自己集合して薬物を特定の病巣に運ぶことができ、または薬物をナノ製剤に会合する誘導をする推進力を提供できる;ii) 高DL。%DLはできる限り高いことが必要であり、非医薬成分導入を少なくし、従って不要な毒性を低減する;iii) 自動指示型。NDDSはそれら自身が、実際の生物学的体内動態を可視化できるように、イメージング特性を有するように工作される;iv) 治療効果または相乗効果。NDDSのキャリア部分は治療効果を示すために好都合であり、NDDS全体をより有効なものにすることができる。または少なくとも、それらは封入されたAPIと共に或る程度の相乗効果を達成することができ、それによってNDDSの全効能を改善することができる。
【0005】
今日、化学療法は癌治療のために広く臨床的に利用されている。しかしながら、癌は非常に凝集性であり、それらが治癒したように見えても、常に再発のリスクが高いため、単一モードの化学療法では腫瘍の進行を制御するのに十分でない。併用療法はこれらの問題に対処するために有望な手段である。光熱療法(PTT)および光線力学療法(PDT)を含む非侵襲的光線療法は、2つの代替的な腫瘍焼灼法として考え付く。PTTは、光エネルギーを熱に変換することにより実現され、PDTは環境中で反応性酸素種(ROS)を生成することに向けられる。光線療法剤は本質的に遮光下では非毒性であるが、レーザーが当たった限定領域中でのみ生じる高度な光誘起毒性を有するため、光線療法は腫瘍の特異的領域を正確に切除することが可能である。このように、高度に制御可能なPTTとPDTを従来の化学療法と組み合わせることは、正確でかつより効果的な腫瘍の切除を達成することができ、そして再発のリスクを低下させることができる。
【0006】
ここで、本発明者らは、100%APIで構成されるだけでなく、広範囲の高性能(smart)でかつ臨床的に関連のある機能、例えばエネルギー伝達により支配される二重蛍光発生および近赤外蛍光(NIRF)イメージングといった自動指示特性、および制御可能な3併用療法(光熱療法、光線力学療法および化学療法)、を1つの単純なナノ粒子中にシームレスに統合する、自動指示型の完全活性医薬成分ナノ粒子(FAPIN)の開発に着手した。100%API封入能力を実現するために、本発明者らは2つの市販のAPIをFAPIN中に導入した。第一のAPIは、疎水性構成要素として作用するポルフィリン誘導体であるフェオホルビドA(Pa)であった。ポルフィリン誘導体はセラノスティック(診断に用いる療法)ナノプラットフォームを構築するために広く使用されており、これは優れたPTTとPDT効果並びにNIRFイメージング特性を有する。FDAに認可された化学療法薬のイリノテカン(Ir、Camptosar(登録商標))を第二のAPIとして導入した。Irは比較的親水性の抗腫瘍薬であり、トポイソメラーゼIIの阻害によりDNAが巻き戻るのを防止し、それによって腫瘍細胞の増殖を停止させる。
図1に描写されるように、PaとIrは開裂可能なエステル結合を通して共有結合で連結され、両親媒性の化学構造を形成する(Pa-Ir複合体、PI)。PI分子は、水溶液中では自己集合を通して再編成されてナノ製剤(Pa-Irナノ粒子、PIN)を形成する。この特定の構築物では、PINが純粋なAPIの自己集合を通して直接組み立てられるので、100%API封入能力が達成される。PINでは、IrからPaへのエネルギー伝達のためにIrの蛍光が消光され、そしてPINのナノ構造中ではPaの平面化学構造の間のπ-π積み重ね(スタッキング)のため、Paの蛍光は更に不活性化された。よって、PINの構成要素は2つの蛍光発生分子(優れたNIRFを有するPaと、青色蛍光を有するIr)から構成されていたけれども、エネルギー伝達リレーが優勢となり、PaとIrの両蛍光を不活性化するので、PINは全く蛍光を呈さなかった。特定の刺激因子が適用されてエネルギー伝達リレーを無効にすると、二重蛍光不活性化が二重蛍光発生プロセスを生起すると仮定された。従来のNDDSは通常、それらの生物学的体内動態を示すために造影剤を導入するという余分なステップを必要とする。PINは本来自動指示性であり、Paは優れたNIRFイメージング特性を有するナノ粒子を与え、PINの生体内での動態を示すのを可能にする。エネルギー伝達が指令する二重蛍光発生プロセスは、リアルタイム形式でPINの薬物放出動態を示すのに寄与する。次いでPINは、患者由来の異種移植片(PDX)腫瘍担持マウスに尾静脈注射を経て投与された。これは固形腫瘍のEPR効果(血管浸透性および滞留性亢進効果)のため、PINは優勢的に腫瘍領域に集積し、特異的に抗癌作用を果たす。腫瘍に集積したPINはレーザー光線により誘起(トリガー)され、直接光線療法(PPTとPDT)および間接光線療法(レーザー誘起薬物放出)を含む、レーザー誘起型の3併用療法を実現する。
【発明の概要】
【0007】
〔発明の簡単な概要〕
一実施形態では、本発明は式Iの化合物を提供する:
X-(L)-Y
上式中、Xは親水性治療薬であり、Lは存在しないかまたはリンカーであり、そしてYはポルフィリンもしくはその類似体を含む光活性化合物、または疎水性治療薬であり、ここで前記化合物はドキソルビシン-10-ヒドロキシカンプトテシンおよびイリノテカン-クロラムブシルを除く。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、2つの蛍光性API(フェオホルビドA、Pa;およびイリノテカン、Ir)がエステル結合を介して結合され、両親媒性分子Pa-Ir複合体(PI)を形成することを示す。PIでは、IrからPaへのエネルギー伝達のため、Irの蛍光が消光された。PI分子は次いでPIナノ粒子(PIN)に自己集合し、そして凝集消光(ACQ)挙動を引き起こすためにナノ構造の形成に伴ってPaの蛍光が消光された。PaとIrの二重蛍光不活性化は、特定の刺激因子がPIN中のエネルギー伝達を遮断すると、二重蛍光発生プロセスを生起しうる。PINの二重蛍光発生は、細胞内分泌と薬物放出過程を時空的にリアルタイムで示す。次いで、PINは腫瘍担持マウスにi.v.投与され、EPR効果(血管浸透性および滞留性亢進効果)を通して腫瘍領域に優勢的に蓄積される。腫瘍領域中への集積の後、PINは細胞により貧食され、リソソームへと運ばれる。酸性pHとレーザー力の援助のもと、PINはPaとIrを放出し、同時にエネルギー伝達とACQ関係を破壊し、それによって二重蛍光発生プロセスを実現する。その間、レーザー光線がナノ粒子に照射された時に、生体外(in vitro)と生体内(in vivo)レベルの両方において、制御可能な3併用療法(光線力学療法、光熱療法、および化学療法)とNIRFイメージングを達成することができる。略語:PDT、光線力学療法;PTT、光熱療法;NIRF、近赤外蛍光;lO
2、反応性酸素種。
【
図2】
図2a~jは、PIとPINの合成と特徴付けを示す。
図2a) PI複合体の化学合成;
図2b) DLS結果は、PINのサイズ分布と多分散性指数(PDI)を示した;
図2c) TEMにより観察されたPINの形態学、スケールバーは100 nmである;
図2d) Pa、IrおよびPIのUV-Vis吸光度;
図2e) Pa、Ir、PIおよびPINの蛍光挙動。励起波長は370 nm(Irの最適励起波長)に設定した;
図2f) 412 nm(Paの最大励起波長)の励起波長を用いたPa、Ir、PIおよびPINの蛍光スペクトル:
図2g) 625/20 nmの励起帯域通過フィルターと700/35 nmの発光フィルターを用いたPIとPINの近赤外蛍光イメージング。PIは良溶媒(DMSO)中に溶解させたPI分子によって得た;
図2h) 熱イメージ;
図2i) PINとPIの定量的温度変動曲線。温度はNIRレーザー(680 nm)0.3 w/cm
2にて3分間照射後に温度カメラによりモニタリングした。
図2j) 光照射(680 nmの光を0.3 w/cm
2にて3分間)時のPINとPIの一重項酸素発生を、指示薬としてSOSGを使うことによって測定した。結果は平均±標準偏差(s.d.)として表した。
【
図3】
図3a~gは、FAPINのレーザー誘起薬物放出および制御可能併用療法のin vitro評価を示す。
図3a)レーザー処置有りと無しでの、異なるpH環境(pH 7.4とpH 5.0はそれぞれ中性と酸性pHに相当する)でのPINの薬物放出曲線を示す。サンプルは間欠性のレーザーの下で露光し、各時点は3分のレーザー処置を表し、その後12分の間隔が空けられる(サンプル温度が室温に下がるようにする)。最後の時点(13回目)は、12番目のレーザー処置サンプルを室温で一晩置くことにより設定され、そして13回目のレーザー処置を行わずにIr蛍光を直接試験した(時間依存性の1回のレーザー処置の薬物放出を模倣するため)。
図3b)Irの青色蛍光回収は、PINの薬物放出を表す。サンプルを365 nmのUVランプ下で照射した。「Pre」は、レーザー処置前の対照サンプルを表す(作製したばかりのサンプル)。「0」はレーザー処置なしのサンプルを表し、「L」と「H」はそれぞれ低出力および高出力のレーザーに相当する。
図3c)は、レーザー処置有りと無しのU87-MG腫瘍細胞に対するPa、Ir、Pa/Ir混合物およびPINの細胞生存率。全ての処置におけるPaまたはIrのモル濃度は、0.1μM~50μMの範囲内であった。
図3d)レーザー処置有りと無しのPINの時間依存性薬物放出および細胞内分布のCLSM観察。10μMのPINをU87-MG細胞と共に2時間インキュベートし、次いで洗浄し、新鮮な培地に交換した。PINを含むU87-MG細胞をレーザーで3分間処理し、更に22時間インキュベートした。スケールバーは50μmである。
図3e)U87-MG細胞中のPINのリソソーム共局在化。細胞をd)と同じ手順で処理し、LysoTracker
TM(商標)Green DND-26で30分間染色し、次いでCLSMにより観察した。スケールバーは50μmである。
図3f)U87-MG腫瘍細胞中でのPINのROS産生を定量的に示したFACS。左側、レーザー処置細胞;中央、レーザー処置無しのPINインキュベート細胞;右側、レーザー処置したPIN処置細胞。ROS産生はDCF-DAにより示され(x軸)、PaはPINの蛍光を示す(y軸)。
図3g)細胞レベルにおける光で誘起される制御可能でかつ正確な癌療法。レーザー処置した領域は「L」と表示される。スケールバーは200μmである。
【
図4】
図4a~kはFAPINの生体内レーザー誘起NIRFイメージングおよび3併用療法を示す。
図4a)動物実験のワークフロー。PDXグリオーマ組織をヌードマウスの脇腹に皮下接種した。腫瘍が十分に発達した時、PINと他の試験材料を尾静脈経由でi.v.投与し、Pa+IrおよびPIN処置マウス(腫瘍)を投与の24時間後と48時間後にレーザーに暴露した。生存および腫瘍プロファイリングのため翌週マウスをモニタリングした。
図4b)PIN処置マウスのレーザー誘起NIRFイメージング。マウスは2つの腫瘍を担持し、左の腫瘍(白い円により示される)はレーザー処置をせず、そして右側の腫瘍(赤い円)はレーザー(0.8 w/cm
2)で3分間処置した。
図4c)PIN処置マウスの生体外(ex vivo)イメージング。上側の腫瘍をレーザー処置した。Sk、皮膚;M、筋肉;K、腎臓;SI、小腸;S、脾臓;Li、肝臓;Lu、肺;H、心臓;T、腫瘍。
図4d)PBS群、PIN L群、PIN H群、およびPa+Ir H群の光熱効果。レーザー処置は試験材料を投与した24時間後に導入した。
図4e)PBS、PIN L、PIN HおよびPa+Ir H処置マウスのROS産生のNIRFイメージング。
図4f)PBS、PIN L、PIN HおよびPa+Ir H処置マウスに対して実施したPDT効果の統計分析データ。
図4g)PDXグリオーマ担持マウス(n=6)の腫瘍体積の変化。マウスを遊離型Ir、Pa+IrおよびPINでそれぞれ処置し、PBSで処置したマウスを対照とした。
図4h)PBS、遊離Ir、Pa+IrおよびPINで処置したマウスのカプラン-マイヤー曲線。腫瘍サイズが体積で1000 m
3より大きくなった時、または腫瘍が摂食、排尿、排便または歩行を妨げた時、生存カットオフ基準は腫瘍の潰瘍形成または温情的な安楽死を含んだ。
図4i)2回投与治療後の各群の腫瘍プロファイル。
図4j)完全に治癒したマウス(PIN L群の2匹と、PIN H群の3匹)、マウスを高線量および低線量のレーザー処置のもとPINで処置した。赤い円は、レーザーで焼灼した瘢痕が自然に剥がれ落ちた後の治療腫瘍領域を示す。
図4k)PBSまたはPINで処置した腫瘍の組織病理学的評価(照射後24時間)、光の線量は0.8 w/cm
2であった。10倍画像のスケールバーは200μmであり、40倍画像のは60μmであった。試験材料の投与量:Ir投与量、20 mg/kg;PIN投与量、40 mg/kg;Pa+Ir投与量、20 mg/kgのIrと混合した20 mg/kgのPa。高レーザー線量は0.8 w/cm
2であり、低レーザー線量は0.4 w/cm
2であった。全てのレーザー処置は3分間持続した。全ての結果は平均±s.d.として表した。
*P<0.05、
**P<0.01、一元配置ANOVA。
【
図5】
図5a~dは、Mn
2+キレート化PINのインビトロMRIイメージングを示す。
図5a)Mn
2+キレート化PI分子の化学構造。
図5b)金属キレート化前と後のPI分子の蛍光挙動。励起波長は412 nmである。
図5c)Mn
2+キレート化PINの濃度依存性弛緩。計算によると、r
1は4.38 mM
-1/Sである。
図5d)U87細胞におけるPINのT
1シグナル強度の変動。MRIシグナル変動は、10、20、40、60、80、160 μg/mLの異なるMn
2+濃度で観察した。
【
図6】
図6a~bは、BTZ-CCMナノ粒子のTEMイメージ(
図6a)および異なるpHでのサイズ分布(
図6b)を示す。
【
図7】
図7は、pH 7.4および5.0でのCCM-BTZナノ粒子からのBTZの生体外(in vitro)累積放出プロファイルを示す。
【
図8】
図8は、DID標識BTZ-CCMナノ粒子と共に4時間インキュベートしたRPMI 8226細胞の蛍光顕微鏡画像を示す。
【
図9】
図9は、遊離型BTZ、遊離型BTZおよびBTZ-CCMナノ粒子での48時間処置後のRPMI 8226細胞とSKOV-3細胞の細胞生存率を示す。
【
図10】
図10a~iは、pPhD NPの特徴付を示す。(
図10a)pPhD NP(50μM)のTEM顕微鏡写真。(
図10b)動的光散乱(DLS)により測定したpPhD NP(50μM)のサイズ分布。(
図10c)50μM Phy、DOXおよびPhDモノマーのUV-可視(Vis)吸光度。(
図10d)488 nmで励起(DOXの最適励起波長)および(
図10e)412 nmで励起(Paの最適励起波長)した、50μM Phy、DOX、PhDおよびpPhD NPの蛍光スペクトル。(
図10f)50μM PhDモノマーおよびそのナノ製剤(pPhD NP)の近赤外イメージング。熱探知カメラおよびROS指示薬として一重項酸素センサーグリーン(SOSG)によりそれぞれ測定した、50μM pPhD NPの(
図10g)光熱効果(温度増加)および(
図10h)光線力学効果(ROS産生)。g)の挿入画像は、熱探知カメラによりキャプチャーした。(
図10i)レーザー照射有りと無しでのpH 7.4 およびpH 5.0でのpPhD NP(100μM)の薬物放出パターン。全てのレーザー出力は0.4 w/cm
2に設定し、照射時間は3分間であった。
【
図11】
図11a~iは、pPhD NPの生体外(in vitro)評価を示す。(
図11a)pH 6.8でのpPhD NP(50μM)の「トロイの木馬(Trojan Horse)」挙動を描写したTEM顕微鏡写真。(
図11b)PEG化および脱PEG化の前後のpPhD NP(50μM)の表面電荷変化。脱PEG化は、pH 6.8でインキュベートしたpPhD NP(10μM)により実行した。(
図11c)pH 6.8で形質転換する前と後のpPhD NP(10μM)の細胞内取込み。(
図11d)OSC-3癌細胞(n=3)におけるナノ粒子のROS生産。細胞を様々な試験材料で3時間処理し、次いで1分間の光照射を施し、ROS指示のためDCF-DAで染色した。ROS産生はフローサイトメトリーにより評価した。(
図11e)OSC-3細胞(n=3)のアポトーシス。OSC-3細胞を様々な試験材料で3時間処理し、次いで1分間の光照射を施し、そしてフローサイトメトリー分析用にアネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。ROSおよびアポトーシス分析では、光増感剤の遊離型DOXおよびナノ粒子を含む物質の濃度を全て10μMと設定した。(
図11f)細胞スフェロイドにおいて評価した細胞浸透。20μM pPhD NPをOSC-3細胞スフェロイドと共にインキュベートし、CLSMにより観察した。スケールバーは100μmである。(
図11g)薬物がリソソーム中に放出されることを表したリソソーム共局在化。OSC-3細胞をpPhD NP(20μM)で3時間処理し、次いでCLSM観察のためLysotracker Deep Redで同時染色した。DOX観察には、FITCトンネルを使用した。Lysotrackerには、Cy5トンネルを使用した。スケールバーは20μmである。(
図11h)細胞に対するレーザー誘起光線療法の効果。黄色の記号はレーザー処置領域を表す。生存細胞はDIC6(3)により示され、死細胞はPIで染色された。(
図11i)光線照射有りまたは無しでの様々な濃度のPhy、DOXおよびpPhD NPでの処理によるOSC-3細胞の細胞生存率。(
図11j)OSC-3細胞に対するpPhD NPにおける化学療法と光線療法の組み合わせ指数(CI)。低濃度に示される拮抗作用は、試験材料の無視できるほどの効果に起因した。pPhD NPの濃度は、PhDモノマーに基づいて算出され、PEGの量を除外した。
*p<0.05;
**p=0.01;
***p<0.001。
【
図12】
図12a~bは、酸性pHでの処理前(pH 7.4)と処理後(pH 6.8)の、upPhD NP(50μM)の(
図12a)サイズおよび(
図12b)表面電荷の変化を示す。
【
図13】
図13は、pPhD NP、upPhD NPおよび遊離型DOXの薬物動態を示す。計算により、pPhD NPの曲線下面積(AUC)は9258であり、upPhD NPのAUCは5501であり、遊離DOXのAUCは4161であった。
【
図14】
図14a~jは、同所性経口癌モデルにおけるpPhD NPのインビボ評価を示す。(
図14a)ナノ粒子の生体外(ex vivo)分布(n=3)の統計分析を用いた(
図14a)NIRFI画像と(
図14b)定量的蛍光分析。(
図14c)PhD分子へのマンガン(II)イオン(Mn
2+)のキレート化を描写した化学構造。(
図14d)Mn
2+キレート化pPhD NPの濃度依存性緩和。pPhD NP中にキレート化したMn
2+は、それぞれ0.008、0.016、0.08、0.16および0.8 mMであった。「L」は0.008 mMで始まる低濃度を表し、「H」は0.8 mMで終わる高濃度を表す。(
図14e)7T MRIスキャナー上で獲得したナノ粒子の時間依存性腫瘍蓄積(n=3)のT1重み付けMRI画像および(
図14f)同所性口腔癌モデルにおける定量的MRシグナル強度変化(I/I
0)。「I」は特定の時点でのMRシグナルであり、「I
0」は「Pre」時点でのマウスのMRシグナルである。「Pre」は、Mn
2+キレート化pPhD NP処置の前のマウスを表す。(
図14g)同所性口腔癌モデルにおけるナノ粒子の光熱効果(n=6)。レーザー(680 nm)線量は0.4 w/cm
2で3分間であった。(
図14h)腫瘍組織内のROS生成の蛍光イメージングおよび(
図14i)同所性口腔癌モデル(n=3)における種々の処置の統計分析を用いた定量的比較。レーザー(680 nm)線量は0.4 w/cm
2で3分間であった。ROS産生はNIRF ROSプローブのCellROXにより示された。「Pre」はCellROX処置前のNIRFIを示す。「Post」はCellROX処置後のNIRFIを表す。(
図14j)MRIによりモニターした光線療法の効果。レーザー(680 nm)線量は0.4 w/cm
2で3分間であった。上記の全ての動物実験において、upPhD およびpPhD NPの注入線量は10 mg/kgであった。Phyは5.3 mg/kgであった。pPhD NPの濃度はPhDモノマーに基づいて計算し、PEGの量を除外した。
*p<0.05;
**p=0.01;
***p<0.001。
【
図15】
図15a~jは、ナノ粒子の治療効果を示す。(
図15a)皮下および(
図15b)同所性口腔腫瘍モデル(n=6)の確立、その後のPBS、4.7 mg/kg DOX、5.3 mg/kg Phy、10 mg/kg upPhD NPおよび18.7 mg/kg pPhD NP(10 mg/kg PhDモノマーを含む)それぞれで処置した。遊離型DOXおよびPhyの投与量はupPhD NP群およびpPhD NP群それぞれのものと同等であった。レーザー(680 nm)線量は全て0.4 w/cm
2で3分間に設定した。(
図15c)様々な治療群の投与後の皮下腫瘍(n=6)における腫瘍体積変化。黒い矢印はナノ粒子投与を表し、赤い矢印はレーザー処置により処置した腫瘍を指している。(
図15d)皮下腫瘍の完全治癒率(CCR%)。(
図15e)同所性腫瘍(n=6)における腫瘍体積変化。(
図15f)異なる化合物群で処置した同所性腫瘍のCCR(%)。画像は、「pPhD NP+L」処置の前(「Pre」)および後(「Post」)の、(
図15g)皮下および(
図15h)同所性モデルの腫瘍プロファイルを示す。(
図15i)光増感剤を担持した材料のin vivo光線療法効果により誘発された組織学的変化を示すH&E染色。レーザー処置したPBS群を対照として使用した。(
図15j)処置後の腫瘍担持マウスの体重変化。*p<0.05;**p=0.01;***p<0.001。注:マウスは免疫不全であった。右側腫瘍に対する光線療法は、左側腫瘍に作用する免疫応答を誘導することができなかった。
【
図16】
図16a~eは、異なる比におけるRBC膜-PI複合化ナノ粒子の、(
図16a)サイズ分布および(
図16b)ゼータ電位;(
図16c)PI NPSsおよびRBC-PI(1:1)の低温電子顕微鏡像;(
図16d)様々なRBC小胞対PI比(2:1、4:1)およびRBC小胞の低温電子顕微鏡写真を示す。矢印はRBC二重層細胞膜を示す。スケールバー=50 nm;(
図16e)RBC、RBC小胞、RBC-PI(1:1)およびPI NPSsのSDS-PAGEタンパク質分析。
【
図17】
図17a~fは、(
図17a)水中の種々のRBC小胞対PI比での、PI NPSsおよびRBC-PIのUV-可視吸光度;(
図17b)水中(
図17c)10%SDS中、様々なRBC小胞対PI比での、412 nmの励起波長を用いたPI NPSsおよびRBC-PIの蛍光スペクトル;(
図17d)照射(680 nm、0.8 W/cm
2で3分間)時の種々の比率での種々のRBC小胞対PIを用いたRBC-PIのROS生成;(
図17e)照射(680 nm、0.8 W/cm
2で3分間)時の、様々なRBC小胞対PI比、PI NPSsおよびRBCを用いたRBC-PIの定量的温度増加;(
図17f)10%FBS/PBSの存在下での37℃で30日間に渡るRBC-PI(RBC小胞対PI比 1:1)の安定性試験を示す。サイズとPDIをDLSにより測定した。
【
図18】
図18は、2、4および8時間インキュベーション後のRAW267.4細胞におけるRBC-PIおよびPIナノ粒子の細胞内取込みを示す(
***P<0.0001)。
【
図19】
図19a~dは、A549ヒト肺癌細胞における取込みと光線化学療法を示す。ROS指示薬として2′,7′-ジクロロフルオレセインジアセテート(DCF-DA)を用いたフローサイトメトリーにより評価した、光線療法有りと無しでのPIおよびRBC-PIの、(
図19a)細胞取込みおよび(
図19b)細胞内ROS産生;(
図19c)pH 7.4および5.4(リソソームpHを模倣)の下での光で誘起される薬物放出。L:(0.8 W/cm
2で3分間);H:(1.6 W/cm
2で3分間);(
図19d)RBC-PI(25μM)の細胞内挙動および時間依存性薬物放出の自動指示。赤色:遊離型Pa分子または解離したPI、青色:開裂したIr。スケールバー=50μm。
【
図20】
図20a~bは、(
図20a)ラット(n=3)におけるRBC-PIおよびPI NPSs(5 mg/kg)の薬物動態評価;(
図20b)2、4および8時間インキュベーション後のU937ヒトマクロファージ細胞によるRBC-PIおよびPI NPSsの細胞内取込み(
***P<0.0001)を示す。
【
図21】
図21a~gは、(
図21a)レーザー処置有りまたは(
図21b)レーザー処置無しでの、A549ヒト肺癌細胞に対する遊離型Pa、Ir、PI NPSsおよびRBC-PIの細胞生存試験を示す。抗腫瘍効果研究をA549腫瘍担持マウスにおいて実施した。1日目、7日目および21日目にPBS、Pa+Irの混合物、PI NPSsおよびRBC-PI(10 mg/kgのPaと10 mg/kgのPIに等しい)で処置し、続いて光線治療したマウス(n=6)の(
図21c)腫瘍体積比の変化および(
図21d)体重の変化。各注射後24時間、48時間、72時間および96時間目に腫瘍に1.2 Wの680 nmレーザーを3分間照射した;(
図21e)各々の異なる時点および群での腫瘍表面温度をNIR温度カメラを使ってモニターした。(
図21f)注射後48時間目のPIおよびRBC-PIの体内分布。(
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001);(
図21g)PBS、Pa+Ir、PI NPSsおよびRBC-PI媒介光線化学療法によるA549腫瘍の組織病理学的評価を示す。バー=60μm。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔発明の詳細な説明〕
I.総論
本発明は、第一の活性医薬成分と、第二の活性医薬成分または光活性化合物(例えばポルフィリンまたはその誘導体)との一連の両親媒性複合体を提供する。両親媒性複合体は自己集合してナノ粒子を形成し、ナノ粒子は凝集してナノキャリアを形成する。ナノ粒子とナノキャリアは癌細胞によりまたは処置すべき他の細胞により吸収され、2つの活性抗癌剤を癌細胞に同時に送達する。対象の疾患または状態を治療するために複合体を投与することは、いずれか一方の治療薬を単独で投与する場合のFDAに認可された投与量よりも低い投与量での投与を可能にする。
【0010】
II.定義
「分配係数」または「logP」は、2つの不混和性液体、例えば水性溶媒(水)と非極性溶媒(しばしばオクタノール)中での化合物または物質の濃度の相対比を指す。不混和性液体が水とオクタノールである時、logP値が大きくなるほどより疎水性の化合物であることを示す。logPは次の式に従って算出される:
【0011】
【0012】
本発明において有用な親水性化合物は、典型的には約2より小さいlogP値を有し、本発明において有用な疎水性化合物は、典型的には少なくとも2のlogP値を有する。
【0013】
「親水性治療薬」は、一般に親水性であると見なされそして約2未満のlogP値を有する、疾病または状態を処置するのに有用な化合物を指す。代表的な親水性治療薬としては、ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、イリノテカン塩酸塩、トポテカン塩酸塩、カンプトテシン、それらの類似体等が挙げられる。
【0014】
「疎水性化合物」は、一般に疎水性であると見なされそして少なくとも2のlogP値を有する化合物を指す。代表的な疎水性化合物としては、疾病または状態を治療するのに有用である疎水性治療化合物、例えばポルフィリン、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン等が挙げられる。
【0015】
「両親媒性」は、親水性と疎水性の両方を有する化合物を指す。親水性成分と疎水性成分の両方を有する本発明の複合体は、事実上、両親媒性である。
【0016】
「リンカー」は、2つの別々の化合物を一緒に共有結合により連結する二価化合物を指す。リンカーはある一定の環境条件下で、例えば温度またはpH条件下で開裂することができ、あるいは酵素的にまたは他の反応条件下で開裂可能である。あるいは、リンカーは非開裂性であることができる。
【0017】
「光活性化合物」は、電磁放射線を発生することにより電磁放射線に反応し、エネルギーを別の分子に伝達し、または酸素ラジカル、一重項酸素、他の反応性酸素種のような新種または他の種を生成することができる化合物を指す。本発明において有用な代表的な光活性化合物としては、ポルフィリン、コリン、クロリン、バクテリオクロロフィル、コルフィン、コロール、ポルフィセン等が挙げられる。
【0018】
「抗癌剤」は、癌を治療または改善することのできる任意の剤を指す。本発明において有用な代表的な抗癌剤としては、限定されないが、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン等が挙げられる。
【0019】
「シス-ジオール」は、同じ方向に配向されている隣接炭素上の2つのヒドロキシ基を含む化合物を指す。本発明に用いられる代表的な「シス-ジオール」としては、限定されないが、糖類、アデノシン、アザシチジン、カペシタビン、ドキシフルリジン、シアル酸、ドーパミン等が挙げられる。
【0020】
「金属」は、金属性でありかつ中性であるか、または中性の金属元素について与えられるよりも原子価核内に多いまたは少ない電子を有する結果として負に帯電もしくは正に帯電していることができる、周期表の元素を指す。本発明において有用な金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および後期遷移金属(post-transition metal)が挙げられる。アルカリ金属はLi、Na、K、RbおよびCsを含む。アルカリ土類金属はBe、Mg、Ca、SrおよびBaを含む。遷移金属はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、HgおよびAcを含む。後期遷移金属は、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Sb、BiおよびPoを含む。希土類金属はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuを含む。当業者は、上記に記載した金属が各々幾つかの異なる酸化状態をとることができ、その全てが本発明において有用であることを認識するだろう。ある場合には、最も安定な酸化状態が形成されるが、他の酸化状態も本発明において有用である。
【0021】
「ナノ粒子」は、本発明の両親媒性複合体の凝集から生じるミセルを指す。ナノ粒子は内相と外相を有する。ナノ粒子は更に凝集してナノキャリアを形成する。
【0022】
「安定化ポリマー」は、ナノ粒子を安定化しナノキャリアを形成することができる親水性ポリマーを指す。代表的な安定化ポリマーはポリエチレングリコールでありうる。
【0023】
「細胞膜」は、細胞をその周囲環境から保護する脂質二重層を指す。幾つかの細胞膜、例えば赤血球由来のものは、輸送用ビヒクルとして使用される独立的な小胞を形成することができる(赤血球小胞)。
【0024】
「標的指向(ターゲティング)リガンド」は、特定の細胞、組織、臓器または体内の位置を標的とすることができる抗体、ペプチドおよび他の生物学的剤を指す。
【0025】
「反応混合物を形成する」とは、少なくとも2つの別々の種を一緒に混合し、そして最初の反応体の1つを修飾するかまたは第三の別個の種である生成物を形成するように反応することができるような少なくとも2つの別個の種を接触させる工程を指す。しかしながら、生成する反応生成物は、添加された試薬間の反応から直接に、または添加された試薬のうちの1つまたは複数から生じた中間体(反応混合物中に生成しうる)から、製造することができる。
【0026】
「治療する」、「治療すること」、「治療」は、損傷、病変、状態または症状(例えば疼痛)の治療または改善における何らかの成功の兆候を指し、例えば軽減;寛解;症状の消失または症状、損傷、病変もしくは状態を患者にとってより寛容にすること;症状または状態の頻度や存続期間を減少させること;あるいはある状況では、症状または状態の開始を防ぐことといった主観的または客観的パラメーターを含む。症状の治療または改善は、例えば身体検査の結果といった任意の客観的または主観的パラメーターに基づくことができる。
【0027】
「対象」は、例えば限定されないが、霊長類(例えばヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等をはじめとする哺乳類などの動物を指す。ある実施形態では、対象はヒトである。
【0028】
「治療有効量または用量(線量)」または「治療的に十分な量または用量(線量)」または「有効もしくは十分な量または用量(線量)」は、それが投与されると治療効果を生じる量を指す。正確な用量は治療の目的に依存し、公知技術を使って当業者により確定できるだろう(例えば Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (第1-3巻, 1992); Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999); Pickar, Dosage Calculations (1999); Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第20版, 2003, Gennaro編, Lippincott, Williams & Wilkinsを参照のこと)。感作細胞では、治療有効量はしばしば非感作細胞の通常の治療有効量よりも低くなることがある。
【0029】
「光線力学療法」は、光への露光により悪性細胞または罹患細胞に対して毒性になる非毒性の感光性化合物の使用を指す。光線力学療法は、光増感剤、光源および酸素を必要とする。光への露光により、光増感剤は、悪性組織と反応しそれを破壊する反応性酸素種(一重項酸素、酸素フリーラジカル)を生成する。ポルフィリン、クロロフィルおよび色素といった様々な光増感剤が利用できる。
【0030】
「光熱療法」は、光への露光により熱を発生する非毒性の感光性化合物の使用を指す。光線力学療法と同様、光熱療法は光増感剤と光源、典型的には赤外を必要とする。しかし光熱療法は酸素を必要としない。ポルフィリン、クロロフィルおよび色素といった様々な光増感剤が利用できる。
【0031】
「電磁放射線の有効量」は、疾病または状態を治療するのに有効である電磁放射線(すなわち可視、紫外または赤外)の量を指す。有効量は、光活性化合物と相互作用し、熱、一重項酸素発生、過酸化物またはヒドロキシルラジカル生成、または光増感剤から細胞成分および/または細胞外成分へのエネルギーまたは電子伝達を指令し、それにより治療を誘導する(例えば細胞死)のに有効な量である。
III.複合体(コンジュゲート)
【0032】
本発明は、第一の活性医薬成分と、第二の活性医薬成分または光活性化合物のいずれかとの一連の両親媒性複合体を提供する。その両親媒性複合体は自己集合してナノ粒子を形成し、それが凝集してナノキャリアを形成する。ナノ粒子とナノキャリアは癌細胞、または治療すべき別の細胞により吸収され、それによって2つの活性抗癌剤を癌細胞へと同時に伝達する。本発明に包含されない複合体としては、(1) 10-ヒドロキシカンプトテシンに直接結合したドキソルビシン、および(2) クロラムブシルに直接結合したイリノテカンが挙げられる。
【0033】
幾つかの実施形態では、本発明は、式Iの化合物を提供する:
X-(L)-Y
上式中、Xは親水性治療薬であり、Lは存在しないかまたはリンカーであり、そしてYはポルフィリンまたはその類似体を含む光活性化合物、または疎水性治療薬であり、ここで前記化合物はドキソルビシン-10-ヒドロキシカンプトテシンおよびイリノテカン-クロラムブシル以外のものである。
【0034】
本発明の化合物は両親媒性化合物である。例えば、親水性治療薬Xは2.0未満、または1.9未満、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.5または0.0未満のlog P値を有することができる。基Yは少なくとも2.0、または少なくとも2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4または少なくとも4.5、またはそれ以上のlog P値を有することができる。更に、XとYについてのlog P値の差は少なくとも1.0、または少なくとも1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9または少なくとも3.0、またはそれ以上である。
【0035】
幾つかの実施形態では、式Iの化合物は両親媒性である。幾つかの実施形態では、Xは2.0未満のlog P値を有し、そしてYは少なくとも2.0のlog P値を有し、ここでXとYについてのlog P値の差が少なくとも1.0 である。幾つかの実施形態では、Xは1.7未満のlog P値を有し、そしてYは2.5より大きいlog P値を有し、ここでXとYについてのlog P値の差が少なくとも1.0である。幾つかの実施形態では、Xは1.7未満のlog P値を有し、そしてYは3.0より大きいlog P値を有する。幾つかの実施形態では、Xは1.7未満のlog P値を有し、そしてYは3.0より大きいlog P値を有し、ここでXとYについてのlog P値の差が少なくとも1.5である。幾つかの実施形態では、Xは1.7未満のlog P値を有し、そして3.5より大きいlog P値を有する。幾つかの実施形態では、XとYについてのlog P値の差は少なくとも2.0である。幾つかの実施形態では、Xは1.7未満のlog P値を有し、そしてYは3.5より大きいlog P値を有し、ここでXとYについてのlog P値の差が少なくとも2.0である。
【0036】
本発明の複合体は、約2未満のlog P値を有する親水性治療薬を含む。親水性治療薬は、疾病または状態を治療または改善することのできる任意の剤を含み、ここで親水性治療薬は約2未満のlog P値を有する。
【0037】
当該親水性治療薬により治療することのできる典型的な疾病または状態としては、癌をはじめとする過剰増殖性疾患が挙げられる。本発明の親水性治療薬により治療することができる他の疾病としては、(1) 炎症性またはアレルギー性疾患、例えば全身性アナフィラキシーまたは過敏性反応、薬物アレルギー、虫刺されアレルギー;炎症性腸疾患、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎、回腸炎および腸炎;膣炎;乾癬および炎症性皮膚病、例えば皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、蕁麻疹;血管炎;脊椎関節症;硬化性皮膚炎;呼吸アレルギー疾患、例えば喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患など、(2) 自己免疫疾患、例えば関節炎(リウマチ性および乾癬性)、骨関節炎、多発性硬化症、全身性紅斑性狼瘡、真性糖尿病、糸球体腎炎など、(3) 移植片拒絶(異種移植片拒絶および移植片対宿主病を含む)、および(4) 望ましくない炎症性反応を阻害すべきである他の疾病(例えばアテローム硬化症、筋炎、神経学的症状、例えば発作および閉塞性頭部損傷、神経変性疾患、アルツハイマー病、脳炎、認知症、骨粗しょう症、痛風、肝炎、腎炎、敗血症、サルコイドーシス、結膜炎、耳炎、慢性閉塞性肺疾患、副鼻腔炎およびベーチェット症候群)が挙げられる。加えて、本発明の親水性治療薬は、ウイルス、細菌、真菌および寄生虫などの病原体による感染の治療に有用でありうる。他の親水性治療薬も本発明において有用である。
【0038】
典型的な親水性治療薬としては抗癌剤が挙げられる。幾つかの実施形態では、親水性治療薬は抗癌剤である。本発明において有用な抗癌剤には、限定されないが、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、トポテカン、イリノテカン、カンプトテシン、またはそれらの塩が含まれる。幾つかの実施形態では、親水性治療薬はドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、トポテカン、イリノテカンまたはカンプトテシンである。幾つかの実施形態では、親水性治療薬はドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、トポテカン、イリノテカンまたはカンプトテシン、またはそれらの塩である。幾つかの実施形態では、親水性治療薬はドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩、ブレオマイシン塩酸塩、トポテカン塩酸塩、イリノテカン塩酸塩、またはカンプトテシンである。幾つかの実施形態では、親水性治療薬が塩酸ドキソルビシンである。
【0039】
別の親水性治療薬には、シス-ジオール官能基を有する化合物が含まれる。典型的なシス-ジオールとしては、糖類、糖含有化合物、例えばヌクレオシドおよびヌクレオチド、並びに1,2-ジオールまたは1,3-ジオールを有する他の化合物が挙げられる。幾つかの実施形態では、親水性治療薬がシス-ジオールである。幾つかの実施形態では、親水性治療薬がクルクミン、マンニトール、フルクトース、グルコース、アデノシン、アザシチジン、カペシタビン、ドキシフルリジン、シアル酸、またはドーパミンである。幾つかの実施形態では、親水性治療薬がクルクミン、マンニトール、フルクトース、グルコース、アデノシン、アザシチジン、シアル酸、またはドーパミンである。
【0040】
親水性治療薬Xと基Yは、互いに直接にまたはリンカーLを介して結合することができる。リンカーLは開裂性リンカーまたは非開裂性リンカーであることができる。幾つかの実施形態では、リンカーLは存在しない。幾つかの実施形態では、Lはリンカーを含む。リンカーが開裂性リンカーである時、リンカーはpH、酵素開裂、レドックス条件、温度および他の条件に対して反応性でありうる。幾つかの実施形態では、リンカーLはpH応答リンカー、酵素開裂性ペプチド、レドックス応答性リンカー(ジスルフィド結合)またはシス-ジオール/pH応答性のものを含む。幾つかの実施形態では、リンカーLはヒドラゾン、エステル、オルトエステル、イミン、シス-アコニチル、アセタール、ケタール、MMP-2、MMP-9、カスパーゼ-3、カスパーゼ-9、カテプシンB、ジスルフィド、またはボロン酸エステルである。幾つかの実施形態では、リンカーLはヒドラゾンである。幾つかの実施形態では、リンカーLはボロン酸エステルである。
A.薬物-薬物複合体
【0041】
幾つかの実施形態では、基Yは疎水性治療薬であることができる。本発明において有用な典型的な疎水性治療薬としては、少なくとも2.0、または少なくとも2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4または少なくとも4.5、またはそれ以上のlog P値を有する治療薬が挙げられる。幾つかの実施形態では、疎水性治療薬は少なくとも2.5のlog P値を有することができる。幾つかの実施形態では、疎水性治療薬は少なくとも3.0のlog P値を有することができる。幾つかの実施形態では、疎水性治療薬は少なくとも3.5のlog P値を有することができる。幾つかの実施形態では、疎水性治療薬は少なくとも4.0のlog P値を有することができる。
【0042】
疎水性治療薬により治療することができる典型的な疾病または状態としては、癌をはじめとする過剰増殖性疾患が挙げられる。本発明の疎水性治療薬により治療することができる他の疾患としては、(1) 炎症性またはアレルギー性疾患、例えば全身性アナフィラキシーまたは過敏性反応、薬物アレルギー、虫刺されアレルギー;炎症性腸疾患、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎、回腸炎および腸炎;膣炎;乾癬および炎症性皮膚病、例えば皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、蕁麻疹;血管炎;脊椎関節症;硬化性皮膚炎;呼吸アレルギー疾患、例えば喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患など、(2) 自己免疫疾患、例えば関節炎(リウマチ性および乾癬性)、骨関節炎、多発性硬化症、全身性紅斑性狼瘡、真性糖尿病、糸球体腎炎など、(3) 移植片拒絶(異種移植片拒絶および移植片対宿主病を含む)、および(4) 望ましくない炎症性反応を阻害すべきである他の疾病(例えばアテローム硬化症、筋炎、神経学的症状、例えば発作および閉塞性頭部損傷、神経変性疾患、アルツハイマー病、脳炎、認知症、骨粗しょう症、痛風、肝炎、腎炎、敗血症、サルコイドーシス、結膜炎、耳炎、慢性閉塞性肺疾患、副鼻腔炎およびベーチェット症候群)が挙げられる。加えて、本発明の疎水性治療薬は、ウイルス、細菌、真菌および寄生虫などの病原体による感染の治療に有用でありうる。他の疎水性治療薬も本発明において有用である。
【0043】
疎水性治療薬と親水性治療薬は同一のまたは異なる疾病を治療するために選択することができる。例えば、疎水性治療薬が癌を治療するために選択され、そして親水性治療薬が異なる疾病を治療するために選択されうる。更に、親水性治療薬が癌を治療するために選択され、そして疎水性治療薬が異なる疾病を治療するために選択されうる。あるいは、疎水性治療薬と親水性治療薬が同じ疾病、例えば癌を治療するために選択することができる。
【0044】
幾つかの実施形態では、疎水性治療薬がボルテゾミブ、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、カンプトテシン、カペシタビン、クリゾチニブ、またはリボシクリブである。幾つかの実施形態では、XがクルクミンでありそしてYがボルテゾミブであり、またはXがドキソルビシンでありそしてYがカバジタキセルであり、またはXがドキソルビシンでありそしてYがドセタキセルであり、またはXがドキソルビシンでありそしてYがパクリタキセルであり、またはXがドキソルビシンでありそしてYがビンブラスチンであり、またはXがドキソルビシンでありそしてYがビンクリスチンである。幾つかの実施形態では、XがクルクミンでありそしてYがボルテキソミブであり、またはXがドキソルビシン塩酸塩でありそしてYがカバジタキセルであり、またはXがドキソルビシン塩酸塩でありそしてYがドセタキセルであり、またはXがドキソルビシン塩酸塩でありそしてYがパクリタキセルであり、またはXがドキソルビシン塩酸塩でありそしてYがビンブラスチンであり、またはXがドキソルビシン塩酸塩でありそしてYがビンクリスチンである。幾つかの実施形態では、式Iの化合物は下記の構造を有する:
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
B.ポルフィリン-薬物複合体
幾つかの実施形態では、基Yは光活性化合物である。本発明において有用な光活性化合物には、限定されないが、ポルフィリン、ベンゾポルフィリン、コリン、クロリン、バクテリオクロロフィル、コルフィン、またはその誘導体が含まれる。
【0052】
幾つかの実施形態では、光活性化合物はポルフィリン、ベンゾポルフィリン、コリン、クロリン、バクテリオクロロフィル、コルフィン、またはその誘導体である。任意の適当なポルフィリンが本発明の化合物において使用できる。本発明において適当な典型的ポルフィリンとしては、限定されないが、ピロフェオホルビド-a、フェオホルビド、コリンe6、プルプリンまたはプルプリンイミドが挙げられる。幾つかの実施形態では、ポルフィリンはフェオホルビド-aであることができる。幾つかの実施形態ではポルフィリンはピロフェオホルビド-aであることができる。典型的な光活性化合物は下記に示される:
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
幾つかの実施形態では、光活性化合物はポルフィリン、ピロフェオホルビド-a、フェオホルビド、クロリンe6、プルプリン、プルプリンイミド、ベルテポルフィン、フォトフリンポルフィマー、ロスタポルフィン、タルポルフィン、またはテモポルフィンである。幾つかの実施形態では、光活性化合物がピロフェオホルビド-aである。幾つかの実施形態では、光活性化合物がフェオホルビド-aである。幾つかの実施形態では、光活性化合物がポルフィリンである。
【0057】
幾つかの実施形態では、当該化合物中XがイリノテカンでありそしてYがピロフェオホルビドAであり、またはXがドキソルビシンでありそしてYがピロフェオホルビドAであり、またはXがドキソルビシンでありそしてYがピロフェオホルビドAであり、またはXがダウノルビシンでありそしてYがピロフェオホルビドAであり、またはXがイダルビシンでありそしてYがピロフェオホルビドAであり、またはXがトポテカンでありそしてYがピロフェオホルビドAである。幾つかの実施形態では、化合物においてXがドキソルビシンでありそしてYがピロフェオホルビドAである。
【0058】
幾つかの実施形態では、当該化合物中XがイリノテカンでありそしてYがフェオホルビドAであり、またはXがドキソルビシンでありそしてYがフェオホルビドAであり、またはXがダウノルビシンでありそしてYがフェオホルビドAであり、またはXがイダルビシンでありそしてYがフェオホルビドAであり、またはXがトポテカンでありそしてYがフェオホルビドAである。幾つかの実施形態では、化合物中XがドキソルビシンでありそしてYがフェオホルビドAである。
【0059】
幾つかの実施形態では、化合物は次の構造を有する:
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
本発明の光活性化合物は金属イオンにキレート化することもできる。本発明において有用な代表的金属には、遷移金属、後期遷移金属および希土類金属が含まれる。幾つかの実施形態では、式Iの複合体は光活性化合物によりキレート化された金属を含む。幾つかの実施形態では、金属はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、HgまたはAcでありうる。幾つかの実施形態では、金属はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Ru、W、ReまたはOsでありうる。幾つかの実施形態では、金属がMnであることができる。
【0065】
当業者は、上記金属が1つ以上の異なる酸化状態をとることができることを認識するだろう。例えば、金属は+1、+2、+3、+4、+5、+6、+7または+8の酸化状態を有することができる。幾つかの実施形態では、金属は酸化状態+2を有することができる。幾つかの実施形態では、金属がMn2+でありうる。
【0066】
幾つかの実施形態では、化合物は次の構造を有する:
【0067】
【0068】
IV.ナノ粒子
本発明の両親媒性化合物は自己集合して内部と外部を有するナノ粒子を形成し、ここで本発明の複合体の疎水性部分が内部にあり、そして該複合体の親水性部分がナノ粒子の外部上にある。幾つかの実施形態では、本発明は、本発明の複数の複合体を有するナノ粒子であって、内部と外部を含むナノ粒子を提供する。
【0069】
ナノ粒子の外部は様々な基、例えばターゲティングリガンド、安定化ポリマー、細胞膜、薬物などにより修飾することができる。幾つかの実施形態では、ナノ粒子の外部が安定化ポリマー、細胞膜または標的指向性(ターゲティング)リガンドの少なくとも1つを含む。
【0070】
安定化ポリマーはナノ粒子を安定化する任意のポリマーであることができる。典型的な安定化ポリマーとしては、該ポリマーを水に実質的に可溶性にする極性基または荷電した基を有する親水性ポリマーが挙げられる。安定化ポリマーは同一または異なることができ、そしてポリエチレングリコール、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリアクリルアミド、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリエチレンイミン、ポリ(アクリル酸)、ポリメタクリレートおよび他のアクリレートベースのポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ヒアルロン酸、並びにその誘導体およびコポリマーを含む。幾つかの実施形態では、安定化ポリマーはポリエチレングリコールであることができる。幾つかの実施形態では、安定化ポリマーがヒアルロン酸であることができる。
【0071】
安定化ポリマーは任意の適当な分子量のものであることができる。ポリマーの分子量は、数平均(Mn)分子量、重量平均(Mw)分子量またはZ平均分子量(Mz)として測定することができる。例えば、安定化ポリマーは500 Da~10,000 Da、または1000 Da~5000 Daの分子量を有することができる。安定化ポリマーの典型的な分子量は、約500 Da、または約1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、または約10,000 Daであることができる。幾つかの実施形態では、安定化ポリマーの分子量は1000 Da~5000 Daであることができる。幾つかの実施形態では、安定化ポリマーの分子量は約2000 Daでありうる。幾つかの実施形態では、安定化ポリマーは約2000 Daの分子量を有するポリエチレングリコールであることができる。
【0072】
ナノ粒子は、該ナノ粒子を取り囲む細胞膜を含むこともできる。典型的な細胞膜には、赤血球(RBC)、白血球、血小板、癌細胞、幹細胞および特定の臓器からの別の細胞型のものが含まれる。幾つかの実施形態では、細胞膜が赤血球膜である。
【0073】
ナノ粒子または複合体に対する細胞膜の比は任意の適当な比を使用できる。例えば、細胞膜対ナノ粒子または複合体の比は0.1:1(w/w)~10:1(w/w)、0.5:1(w/w)~10:1(w/w)、1:1(w/w)~10:1(w/w)、1:1(w/w)~5:1(w/w)、または1:1(w/w)~4:1(w/w)であることができる。細胞膜対ナノ粒子または複合体の比は、約1:1(w/w)、約1.5:1(w/w)、約2:1(w/w)、約2.5:1(w/w)、約3:1(w/w)、約3.5:1(w/w)、約4:1(w/w)、約4.5:1(w/w)、または約5:1(w/w)であることができる。幾つかの実施形態では、細胞膜対複合体の比は1:1(w/w)~10:1(w/w)でありうる。幾つかの実施形態では、細胞膜対複合体の比は1:1(w/w)~5:1(w/w)でありうる。幾つかの実施形態では、細胞膜対複合体の比は約1:1(w/w)でありうる。幾つかの実施形態では、細胞膜対複合体の比は約2:1(w/w)でありうる。幾つかの実施形態では、細胞膜対複合体の比は約4:1(w/w)でありうる。
【0074】
本発明において有用なターゲティングリガンドとしては、限定されないが、アプタマー、ヒトAドメイン足場由来のアビマー、ダイアボディ、カメリド、サメIgNAR抗体、改変された特異性を有するフィブロネクチンIII型足場、抗体、抗体フラグメント、ビタミンおよび補因子、多糖類、炭水化物、ステロイド、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、および核酸(例えばmRNA、tRNA、snRNA、RNAi、ミクロRNA、DNA、cDNA、アンチセンス構築物、リボザイム等、およびそれらの組み合わせ)が挙げられる。幾つかの実施形態では、ターゲティングリガンドは抗体を含むことができる。幾つかの実施形態では、生物活性物質が、非特異的にまたは特異的に結合するペプチド配列であることができる。
【0075】
ナノ粒子の外部は、対象の生物学的システムまたは機序により認識されるまたは標的指向(ターゲティング)される様々な別の基により修飾することもでき、またはナノ粒子の安定性を高めることができる。幾つかの場合には、ナノ粒子の外部はポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、細胞膜、RGD、CRGDK、葉酸、またはガラクトースの少なくとも1つを含む。幾つかの実施形態では、外部がポリエチレングリコールを含む。幾つかの実施形態では、外部が赤血球小胞を含む。
【0076】
本発明のナノ粒子は自己集合して疎水性内部と親水性外部を形成することができる。幾つかの実施形態では、ナノ粒子は自己集合してナノキャリアを形成する複数のナノ粒子を含む。
【0077】
ナノ粒子の安定性はナノ粒子を架橋形成することにより更に高めることができる。ナノ粒子の架橋形成は、共有結合またはイオン結合形成を介することができる。架橋は永久または可逆的であることができる。架橋によって形成される典型的な結合には、限定されないが、ジスルフィド、エステル、アミド、ボロン酸エステル、ウレアド、カルバメート等が含まれる。
【0078】
ナノ粒子は、自己集合をはじめとする様々な方法により調製することができる。例えば、本発明の複合体を適当な濃度で適当な溶媒に溶解し、そして適当な時間の間音波処理してナノ粒子を形成させることができる。幾つかの実施形態では、本発明は、本発明のナノ粒子の調製方法であって、複数の複合体が自己集合してナノ粒子を形成するのに適当な条件下で、本発明の複数の複合体を含む反応混合物を形成させることを含む方法を提供する。
【0079】
V.治療方法
本発明はまた、式Iの化合物並びに本発明のナノ粒子およびナノキャリアを使って疾病または状態を治療する方法も提供する。幾つかの実施形態では、本発明は疾病または状態を治療する方法であって、それを必要とする対象に、治療有効量の式Iの複合体または本発明のナノ粒子を投与し、それによって該疾病または状態を治療することを含む方法を提供する。
【0080】
典型的な疾病または状態には、癌をはじめとする過剰増殖性疾患が含まれる。幾つかの実施形態では、疾病または状態は癌であることができる。幾つかの実施形態では、疾病または状態は癌種、グリオーマ、中皮腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、グリア芽腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、およびバーキットリンパ腫、頭頸部癌、結腸癌、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝胆道癌、胆嚢癌、小腸癌、直腸癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、尿道癌、精巣癌、子宮頸癌、膣癌、子宮癌、卵巣癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、腺癌、膵臓内分泌癌、カルチノイド腫瘍、骨肉腫、皮膚癌、網膜芽腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、または非ホジキンリンパ腫でありうる。追加の癌は当業者に周知であり、CANCER: PRINCIPLE ANS PRACTICE (DeVita, V.T.他編、2008)中に見つけることができる。
【0081】
本発明の化合物、ナノ粒子およびナノキャリアにより治療することができる他の疾病としては、(1) 炎症性またはアレルギー性疾患、例えば全身性アナフィラキシーまたは過敏性反応、薬物アレルギー、虫刺されアレルギー;炎症性腸疾患、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎、回腸炎および腸炎;膣炎;乾癬および炎症性皮膚病、例えば皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、蕁麻疹;血管炎;脊椎関節症;硬化性皮膚炎;呼吸アレルギー疾患、例えば喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患など、(2) 自己免疫疾患、例えば関節炎(リウマチ性および乾癬性)、骨関節炎、多発性硬化症、全身性紅斑性狼瘡、真性糖尿病、糸球体腎炎など、(3) 移植片拒絶(異種移植片拒絶および移植片対宿主病を含む)、および(4) 望ましくない炎症性反応を阻害すべきである他の疾病(例えばアテローム硬化症、筋炎、神経学的症状、例えば発作および閉塞性頭部損傷、神経変性疾患、アルツハイマー病、脳炎、認知症、骨粗しょう症、痛風、肝炎、腎炎、敗血症、サルコイドーシス、結膜炎、耳炎、慢性閉塞性肺疾患、副鼻腔炎およびベーチェット症候群)が挙げられる。加えて、本発明の治療薬は、ウイルス、細菌、真菌および寄生虫などの病原体による感染の治療に有用でありうる。幾つかの実施形態では、該疾病が癌でありうる。別の実施形態では、疾病は膀胱癌または卵巣癌でありうる。
【0082】
加えて、本発明の化合物、ナノ粒子およびナノキャリアは、ウイルス、細菌、真菌および寄生虫のような病原体による感染の治療に有用である。他の疾病も本発明のナノキャリアを使って治療することができる。
【0083】
親水性治療薬と疎水性治療薬の複合体は、該治療薬単独での投与に必要な用量よりも典型的に少ないレベルでの治療薬の投与を可能にする。幾つかの実施形態では、治療有効量は、複合体していない治療薬の治療有効量よりも低い用量である。
【0084】
式Iの化合物が光活性化合物を含む時、治療方法は、対象に放射線を印加して光活性化合物を励起させるステップも含むことができる。任意の適当な波長の放射線を使用して光活性化合物を励起させることができる。放射線は単一波長であっても複数波長であってもよい。放射線は任意の適当な源、例えばレーザーから印加することができる。幾つかの実施形態では、該方法は、複合体の光活性化合物を励起させるのに十分なエネルギーと波長の放射線を対象に印加することも含む。幾つかの実施形態では、電磁放射線がレーザーにより供給される。
【0085】
本発明の化合物、ナノ粒子およびナノキャリアは、超音波力学療法を介して疾病または状態を治療するために用いることもできる。幾つかの実施形態では、本発明は、必要な対象に、治療有効量の本発明の式Iの複合体またはナノ粒子を投与し、そして該対象を超音波に暴露し、それにより超音波力学療法によって該疾病を治療することを含む方法を提供する。超音波は任意の適当な装置を使って発生させることができる。
VI.イメージング方法と検出方法
【0086】
本発明は、本発明の化合物、ナノ粒子またはナノキャリアを使った組織または臓器をイメージングする方法も提供する。本発明は、組織または臓器のイメージング方法であって、複合体またはナノ粒子が該組織または臓器中に濃縮するように、有効量の本発明の式Iの複合体またはナノ粒子をイメージングすべき対象に投与し、そして前記組織または臓器を適当な装置を使ってイメージングすることを含む方法を提供する。
【0087】
本発明は、本発明の化合物、ナノ粒子またはナノキャリアを使って対象の腫瘍を検出する方法も提供する。幾つかの実施形態では、本発明は、対象の腫瘍を検出する方法であって、有効量の本発明の式Iの複合体またはナノ粒子を前記対象に投与し、前記対象を第一の波長の放射線に露光し、そして前記複合体またはナノ粒子からの任意の放出された放射線を検出し、それにより腫瘍を検出することを含む方法も提供する。
【0088】
VII.システム
本発明は、本発明の複合体、ナノ粒子またはナノキャリアとレーザーとのシステムも提供する。幾つかの実施形態では、本発明は、本発明の式Iの化合物またはナノ粒子とレーザーとのシステムを提供する。幾つかの実施形態では、該システムは式Iの化合物とレーザーとを含む。
【実施例】
【0089】
実施例1.フェオホルビドAとイリノテカンの複合体の調製
材料と特徴付け
イリノテカンはBIOTANG Inc.(米国マサチューセッツ州)から購入した。フェオホルビドAはSanta Cruz Biotechnology社から購入した。N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、DCF-DA、MnCl2および全ての溶媒は、Sigma-Aldrich社(米国ミズーリ州)から購入した。一重項酸素検知試薬(緑)であるLyso-Tracker Greenと、一重項酸素検知試薬(緑)であるCellROXは、Thermo Fisher Scientific Inc.より購入した。細胞培養培地、ウシ胎仔血清、細胞培養皿およびプレートは、米国Corning Inc.から購入した。PDXグリオーマ腫瘍組織は、米国カリフォルニア州サンフランシスコのカリフォルニア大学の神経外科のDavid James博士研究室からの厚意によるものであった。合成化合物は、Bruker UltraFlextreme MALDI-TOF-MSおよび600 MHzのAvance III NMR分光計(Bruker社製、ドイツ)により分析した。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、80 kV加速電圧を用いPhilips CM-120 TEM上で実施した。細胞レベルのレーザー処置は、広域カバーエリアを有するレーザー光源(Omnilux new-U)下で行った。生体外(in vitro)蛍光写真は、共焦点レーザー走査型顕微鏡法(CLSM、LSM810、Carl Zeiss製)によりキャプチャーした。in vitro磁気共鳴画像診断(MRI)は、Biospec 7T MRI装置(Bruler社製、ドイツ)上で実施した。
【0090】
フェオホルビドAとイリノテカンとの複合体(PI)の合成。フェオホルビドA(300 mg、0.48ミリモル)とDCC(120 mg、0.58ミリモル)を無水ジクロロメタン(5 mL)に溶解し、その混合物を0℃で攪拌した。30分後、反応系をイリノテカン(359 mg、0.58ミリモル)、DMAP(14.2 mg、0.116ミリモル)および無水ジクロロメタン(3 mL)の溶液に添加し、得られた溶液を遮光下で室温にて48時間攪拌した。次いで、反応混合物をろ過し、真空下で濃縮した。粗生成物をジクロロメタンとジクロロメタン/メタノール(10:1 v/v)を溶離剤として用いるカラムクロマトグラフィーにより精製した。生成物を回収し、溶媒をロータリーエバポレーターにより留去し、黒色固体を与えた。精製された生成物は、MALDI-TOF-MSおよび1H-NMRにより特徴づけた。
【0091】
Pa-Irナノ粒子(PIN)の調製および特徴づけ。PINは、ナノ再沈澱法により自己集合させた。1μLのPI原液(DMSO中100 mM)を、超音波処理下で999μLのMilli-Q水中に滴下添加した。5秒間ボルテックス攪拌後、100μMのPINを作製した。ナノ粒子のサイズ分布および多分散性指数(PDI)は、動的光散乱装置(Zetasizer、Nano ZS、英国Malvern社製)により評価した。NPの形態は、Philips CM-120 TEMを通して観察した。TEM検体を作製するために、水性ナノ粒子溶液(50μM)を銅グリッド上に滴下し、室温で自然乾燥した。
【0092】
Mn2+キレート化PINの調製。Mn2+キレート化は発表された方法に従った。簡単に言えば、23.2 mgのPI(20μモル)と12.6 mgのMnCl2(100μモル)を1 mLのメタノール(100μLのピリジンを含む)中に溶かし、2時間還流した。次いで反応系を室温下に冷却し、キレート化しなかったMn2+をMilliQ水中とCH2Cl2での5回の抽出により除去した。Mn2+キレート化PINは有機層に存在し、それをロータリーエバポレーターで乾燥した。
【0093】
臨界凝集濃度(CAC)評価。PINのCAC値を決定するためにピレンレシオメトリック法を使用した。簡単に言えば、999μLの異なる濃度のPINを調製し、そのPIN溶液に1μLの0.1 mMピレン溶液(アセトン中)を入れ、0.1μMピレン溶液を作製した。PINとピレンを含有する溶液を96ウェルプレート中に移し、37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、各ウェルの蛍光をマイクロプレートリーダーにより評価した(励起波長は335 nmである)。CAC評価のためにI3/I1値を記録した。
【0094】
生体外(in vitro)近赤外蛍光(NIRF)、反応性酸素種(ROS)および光熱評価。PINまたはPIを透明フィルム上に滴下し、近赤外蛍光を625±20 nmでの励起と700±35 nmでの放射を用いるKodakマルチモーダル・イメージングシステムIS2000MMを使ってスキャンした。PINとPIの高熱硬化はFLIR温度カメラを使用して評価した。異なる濃度のPINまたはPIを96ウェルプレートに入れ、680 nmでのレーザー下で3分間露光し、FLIR温度カメラにより熱発生を記録した。ROSの産生は、指標として一重項酸素検知試薬グリーン(SOSG)を用いて評価した。簡単に言えば、異なる濃度のPINまたはPIをSOSGと共にインキュベートし、次いでその希釈溶液(working solution)を680 nmのレーザーの下で3分間露光した。SOSGの緑色蛍光をマイクロプレートリーダー(SpectraMax M2、Molecular Devices社製)によりモニターした。これらの実験では、良溶媒(DMSO)にPI分子原末を溶解することによってPI分散溶液を調製した。
【0095】
血清中のNPの安定性。PINを水および10%ウシ胎仔血清水溶液中にそれぞれ希釈した。PINの最終濃度を50μMに設定した。次いで、各溶液を細胞培養インキュベーター(5%二酸化炭素および10%湿度。温度は常に一定の37℃)中に維持した。PINの安定性を確認するため各時点のサイズ分布を動的光散乱法によって試験した。
【0096】
PINのレーザー誘起(トリガー)薬物放出。300μLの2つの並列群において、50μM PINを96ウェルプレートに入れ、1つの群は中性pH値(7.4)に設定し、もう1つの群は酸性pH値(5.0)に設定した。各群は、3つのレーザー処置、即ちレーザー処置なし、低出力レーザー(680 nm、0.4 W/cm2)処置および高出力レーザー(680 nm、0.8 W/cm2)処置に割り当てた。各レーザー処置は3分間持続し、次回のレーザー処置は12分の間隔後に施した(溶媒を完全に室温にまで下げるため)。次いで各処置からの1μL溶液を199μLのDMSO中に希釈し、そしてIr蛍光強度試験に供し、潜在的FRETがIr蛍光を消光させるのを防ぐために、放出されたIrの蛍光を、同濃度のPa+Ir混合物中のIrの蛍光で除算することによってPINの累積薬物放出を算出した。体積の損失を避けるために、レーザー処置システムから1μLのサンプルを取り出した直後に処置群に1μLの新鮮なPINが補充されるだろう。
【0097】
細胞生存率の評価。U87-MG細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、米国バージニア州Manassas)から購入した。細胞は、10%ウシ胎仔血清、100 U/mLペニシリンGおよび100 mg/mLストレプトマイシンが補足されたRPMI 1640培地中で、5%CO2、湿潤下37℃にて培養した。細胞生存率はMTS法によって決定した。U87-MG細胞を、ウェル当たり5000個の細胞密度で96ウェルプレートに播種した。細胞が完全に接着するまで一晩インキュベートした。細胞を、異なる濃度のPa、Ir、Pa+Ir混合物およびPINで処置した。12時間後、細胞外物質をPBSで洗い流し、新鮮な培地と交換した。レーザー処置群はOmnilux New-U装置(630 nm)のレーザー光源で3分間露光し、更に非レーザー処置細胞と共に更に24時間インキュベートした。MTSを各ウェルに添加し、更に2時間インキュベートした。630 nmの参照波長を用いて495 nmでのUV-可視吸光度をSpectraMax M3マルチモード・マイクロプレートリーダー(Molecular Devices社、LLC、米国カリフォルニア州)を使って検出した。培地中の未処置細胞を対照として使用した。未処置細胞を対照とした。結果は同じものを三通り作製したウェルの平均細胞生存率[(OD(処置)-OD(ブランク))/(OD(対照)-OD(ブランク))×100%]として示された。
【0098】
PINの細胞内レーザー誘起薬物放出挙動。U87-MG細胞の2枚の96ウェルプレートを、それぞれ10μM PINで2時間処置した。次いで、PIN含有培地をPBSで3回洗い流し、新鮮な培地と交換した。レーザー処置群は、680 nmのレーザー(0.2 W/cm2)下で1分間露光し、異なる時点において、共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)を用いてPaとIrの細胞内挙動を記録した。対照群は、レーザー処置せず、レーザー処置した相当物と同じ時点でCLSM下で観察した。Paの蛍光捕捉のために、Cy5-tunnelを適用し、IrはDAPI-tunnelを適用した。
【0099】
リソソーム共局在化。10μMのPINをU87-MG腫瘍細胞と共に2時間インキュベートし、次いで新鮮な培地と交換した。次に、細胞を680 nmのレーザー(0.2 W/cm2)で1分間処置し、更に21.5時間培養した。その後、LysoTrackerTM(登録商標)Green DND-26を添加し、細胞と共に0.5時間インキュベートした。Pa、IrおよびLysoTrackerの細胞内分布をCLSMにより記録した。LysoTrackerにはFITC-tunnelを使用した。
【0100】
U87-MG細胞におけるROS産生のフローサイトメトリー評価。U87-MG細胞の2つの群を、それぞれ10μM PINと共に2時間インキュベートし、次いでPINを含む培地をPBSで3回洗浄し、次いで新鮮な培地と交換した。DCF-DAは、ROSの指示のために導入された。非レーザー処置細胞は暗所に維持し、そしてレーザー処置細胞は630 nmのレーザー下で1分間露光した(Omnilux New-U装置)。細胞をフローサイトメトリー分析のために収集した。Paの蛍光検出にはCy5-TUNELを使用し、DCD-DAにはFITC-TUNELを適用した。
【0101】
レーザー誘起細胞アポトーシスのCLSM観察。U87-MG腫瘍細胞を、ガラス底培養皿中で10μMのPINと共に2時間インキュベートし、次いで、ミトコンドリア膜電位を評価するために、インキュベーションの終わりに40 nMのDiOC6(3)(緑)で20分間染色し、続いて光線関連療法を惹起させるためにレーザー下で露光した。ヨウ化プロピジウムを使用して死細胞を染色した。
【0102】
患者由来異種移植片(PDX)グリオーマ担持マウスモデルの確立。雄の無胸腺ヌードマウス(j:nu株)6~8週齢を、Harlan(米国カリフォルニア州ライブモア)から購入した。全ての動物実験は、カリフォルニア大学デービス校での実験動物使用および管理に関する行政諮問委員会のガイドラインに厳密に従った。グリオーマ担持マウスモデルは、ヌードマウスの右脇腹にPDXグリオーマ組織を皮下接種することにより確立した。腫瘍が完全に発達した時にPDXグリオーマ担持マウスを生体内(in vivo)実験に使用した。
【0103】
生体内光熱療法。腫瘍担持マウス(n=6)にPINを静脈内(i.v.)注射した。i.v.注射の24時間または48時間後に、腫瘍領域を低出力(0.4 W/cm2)と高出力(0.8 W/cm2)の680 nmレーザーで3分間露光した。Pa/Ir混合物とPBS群は対照群として高線量レーザーで処置した(3分間)。レーザー処置後、レーザーが引き起こした温度上昇を熱探知カメラにより直ちに記録した。
【0104】
生体内ROS産生。PBS、Pa/IrおよびPINを腫瘍担持マウスにi.v.注射し、次いで腫瘍領域を680 nmのレーザーで露光した。PIN処置マウスの腫瘍を0.4 W/cm2および0.8 W/cm2のレーザーに露光し、PBS群およびPa/Ir混合物群は対照として0.8 W/cm2レーザーで処置した。次いで、腫瘍を回収し、ROSプローブ(CellROX(登録商標)Deep Red)に浸漬し、直ちにNIRFイメージングに供した。赤色蛍光は625±20 nmでの励起および700±35 nmでの発光を用いてKodakマルチモーダル・イメージングシステムIS2000MMを使ってキャプチャーした。
【0105】
生体内レーザー誘発NIRFイメージング。Pa/IrおよびPINをPDX腫瘍担持マウスにi.v.注射し、腫瘍領域を0.4 W/cm2の680 nmレーザーで3分間露光し、次いで異なる時点でNIRFイメージングに適用した。Paの蛍光は625±20 nmの励起と700±35 nmでの発光を用いてKodakマルチモーダル・イメージングシステムIS2000MMによりキャプチャーした。
【0106】
薬物動態評価。雄のSprague-Dawleyラットの頸静脈にカニューレを挿入し、静脈注射と採血のためにカテーテルを挿入した(Harland、米国インディアナ州インディアナポリス)。10 mg/kgのPINおよびPa/Ir混合物(Pa/Ir比が1:1 モル/モル)をラット(各群についてn=3)にi.v.投与した。投与前と注射後の予め決められた時点で、頸静脈カテーテルを介して全血サンプル(~100μL)を採集した。680 nmの蛍光(励起は412 nmである)を試験することによりPaの動態を測定し、そしてIrはIrの蛍光(Ex/Em=320 nm/460 nm)を測定することにより収集した。それらの数値は血液バックグラウンドを差し引いた後に時間に対してプロットした。
【0107】
生体内(in vivo)治療効果の評価。PDAグリオーマ担持ヌードマウスをin vivo 治療効果の評価に使用した。マウスを異なる試験材料の効能評価のために無作為に6つの群(n=6)に割り付けた:i) PBS対照群;ii) 遊離型Ir処置群;iii) Pa/Ir混合物(高レーザー線量);iv) レーザー処置無しのPIN;v) PIN(低レーザー線量);vi) PIN(高レーザー線量)。全ての試験材料は、尾静脈から2回i.v.投与し、腫瘍を680 nmのレーザーで3分間露光し、化学療法、光線力学療法および光熱療法を惹起させた。各線量は、2回のレーザー露光に相当し、レーザー処置はi.v.注射後の24時間目と48時間目に施した。腫瘍のサイズと全てのマウスの体重を治療期間に渡り記録した。
【0108】
Mn2+キレート化PINによるU87-MG細胞に対する生体外(in vitro)MRIイメージング。異なる濃度のMn2+キレート化PINをU87-MG細胞と共に2時間インキュベートした。次いで細胞を収集し、アガロースゲルに固定化した。固定した細胞をT1 MRI可視化に供した。
結果
【0109】
PINの創製と特徴付け。2つの市販のAPI(カルボキシル基を有するPaと、ヒドロキシル基を有するIr)を単純なエステル化反応を通して共有結合的に接合することにより、PI分子を合成した(
図2a)。合成したPIの分子量(理論上は1161 Da)を示し、その後に[M+Na]
+ピーク(1183 Da)が続き、PIのピークのみが観察されたので、この結果はPIが純粋に合成されたことを裏付けた。核磁気共鳴(NMR)を使って、PaとIrの両者の特徴的ピークを示すPIの合成NMRスペクトルを確認したところ、それの組成が正しかったことを示した。次いで、典型的な再沈澱法を通してPI分子をそれらのナノ製剤(PIN)へと集成した。
図2bに示す通り、PINのサイズ分布は88 nmであり、そして多分酸性指数(PDI)は0.167であり、ナノ粒子が均一のサイズを有し、かつ水溶液中に十分に分散されたことを示唆している。TEM(
図2c)像は、PINが球状形態を有し、多数の小さな黒いドットから構成されていることを示した。この小さいドットの凝集体は、PI分子がおそらくミセル様構造体に組み込まれ、小さなミセルが二次凝集を介して更に集成され、比較的大きなナノ凝集体を形成したことを示唆している。PINの自己集合を検証するために、臨界凝集濃度(CAC)を調べた。PINのCACは1μM(1.161μg/mLに等しい)と算出された。PIは大きな芳香族構造を有する2つの分子から構成されているので、Pa、IrおよびPIのUV-可視吸光度を評価した。
図2dに示すように、遊離型Paは412 nmと570 nmの2つの主な特徴的ピークと、450~690 nmの範囲に分布する3つの小さなピークを示した。純粋なIrは370 nmに単一の吸光を示した。比較により、PI分子は、Paの全ての特徴的ピークに加えて、Paの412 nmピークの左側に識別可能な肩(ショルダー)を示し、その肩はIrの370 nmピークと重なっており、このことはPI分子がPaとIrの両方から構成されたことを示している。UV-可視の結果は、本発明者らのPI合成が成功したことを更に裏付けた。
【0110】
PINの蛍光エネルギー伝達リレーとNIRFイメージング。
図1において、本発明者らはPINが先天的蛍光を有する自動指示型のナノ粒子であると想定した。よって、Pa、Ir、PI分子およびPINの蛍光挙動を調べた。
図2eに示す通り、PaとIrは、370 nm(Irの最大吸収波長)で励起させた後にそれぞれ690 nmおよび430 nmにそれらの蛍光ピークを示した。PI分子はPaとIrで構成され、それらがPaとIrの両方の蛍光ピークを示すと推定された。しかしながら、興味深いことに、430 nmでの蛍光強度が等量の遊離型Irに比較して大幅に減少したが、690 nmの蛍光強度は同濃度のPaのものよりわずかに増加した。本発明者らは、Irの蛍光の減少がIrとPaの間のエネルギー移動により引き起こされ、Irがその放射エネルギーをPaに転移し、Irから余分なエネルギーを受け取ったためにPaが増強された蛍光を示したのだと仮定した。この仮説を証明するために、IrとPaの間のスペクトルの重なりを調べた。スペクトルの重なりはIrの発光とPaの吸収の間に観察され、このことはスペクトル因子が、エネルギー伝達発生の要件を満たしており、Irがドナーとして働きそしてPaがアクセプターであったことを示唆する。Paの蛍光は、それがIrの励起によって励起されたときに増大するが、同濃度では遊離型Paと比較してPaの励起の下でほとんど同じ強度を示した。従って、Irの蛍光の減少はIrからPaへのエネルギー伝達に起因すると考えられた。次にPINの蛍光挙動を評価したが、IrもPaもどちらの蛍光も検出できなかった(
図2eおよび
図2f)。Paの表面分子構造がナノ構造に集密に積層されると推定されたので、Irの消光はエネルギー伝達のためであり、そしてPaの消光は各Pa分子の「π-π」スタッキング間の凝集が原因の消光(ACQ)であると仮説的に着想した。この仮説を証明するために、水(貧溶媒)とジメチルスルホキシド(DMSO、良溶媒)を様々な容積比で混合し、PIに対して異なる溶解度を有する溶媒を調製した。PIを純粋なDMSO中に溶解した時にはPIの蛍光が高強度に維持され、水分率(f
w)の増加と共に徐々に減少した。f
wが20%超になると、Paの蛍光が大きく減少し、f
wが80%またはそれ以上(100%)に達するまで、蛍光は大幅に消光し、良溶媒中に溶解したものより80倍以上低く(80分の1より小さく)なった。従って、Paの蛍光不活性化は、PIN中のPa分子間のπ-πスタッキングにより誘発されたACQに起因するものであった。このように、PINは2つの蛍光分子で構成されるが、両方の蛍光がエネルギー伝達リレーによって不活性化され、すなわちIrがその放射エネルギーをPaに転移し、そしてACQによりPaがIrと自身との両蛍光を消光した。換言すれば、PINのナノ構造が分解されるとPaの消光は復元され(ACQが無効になる)、そしてIrがPINから放出されるにつれてIrの発光は元に戻ることができた(エネルギー伝達の喪失)。これに基づき、PINは、二色発光生成プロセスを達成することができ、各蛍光の回復は異なったin vitroまたはin vivo細部を示す。例えば、Irの蛍光回復は薬物放出を示すのに十分な能力があり、Paの蛍光性はPINのナノ状態の存在を示すことができ、そしてその両者の蛍光は、PINの実際の生物学的動態を明らかにすることができる。Paは優れたNIRF表示特性を有したので、更にそのNIRFイメージング力を調べた。
図2gに示すように、異なる濃度のPINおよびPI溶液(DMSO中に溶解したPI分子)を調製し、NIRF動物イメージングシステムに供した。濃度を増加させても、PINの蛍光は完全に消失したように見えた。逆に、分散PI溶液の蛍光は、文字通りPI濃度の上昇と共に増大した。蛍光イメージングの結果は、蛍光スペクトル(
図2f)と一致し、PINが優れたNIRF造影剤であることを示唆し、NIRFイメージング力は制御可能であった。NIRFイメージング結果は、Pa蛍光の「ON」と「OFF」がPINの存在を指示することを裏付けた。
【0111】
光熱および光線力学効果の評価。本発明者らは、次に、PIとPINの光誘起熱発生およびROS産生を調べた。
図2hはPINとPIの熱効果を示す。PINはそれの分散相当物よりも比較的多くの熱を発生し、PINのより高い温度増加はナノ構造中の分子運動の制限に起因し、大部分の光エネルギーは、分子内運動または分子の挙動に寄与するのではなく、熱に変換された。
図2iは、
図2hから収集された定量的データであり、光熱効果が濃度に対応して増加すること、そしてPIN(50μM)の温度が約50℃に達しうることを示す。
図2jに示すように、PIとPINのPDT効果は、一重項酸素プローブ(一重項酸素検知試薬グリーン、SOSG)によって示され、分散したPIはそれらのナノ製剤(PIN)よりもより効果的なPDT効果を示し、PIとPINの両者が優れたPDT効果を果たし、そしてPDTに適格であった。
【0112】
PINの安定性の評価。PINの安定性は、生物学的研究に先立って試験した。PINは37℃で10%ウシ胎仔血清(FBS)の有無の下でインキュベートし、次いで流体力学的直径(Hd)を異なる時点でDLSにより評価した。FBSを含まない新鮮なPINは、80 nm程度のHdを有し、時間の経過と共に、更に凝集体を形成せず、PINのHdは小さいサイズに着実に保たれ、そして最終的には一週間の間60 nm程度のままであった。FBSが提供された時にPINのHDが大きくなり(この実験のPINは同じPIN原液からのものであった)、FBSの存在がPINをほぼ80 nmからほぼ115 nmへと増加させ、このサイズ増加は仮定上タンパク質コロナの形成に帰するものであり、それらが生体系に投与されると、この増加が大部分のナノ粒子に起こった。しかしながら、PINを37℃のもとFBSと共に一週間インキュベートしてもPINは安定のままであり、このことは、PINがタンパク質と出会うと、細胞とインキュベートする時と似たまたは血管内に似た状況のもとでコロナを形成すると、高度な安定性を維持することができることを示唆する。
【0113】
レーザー/酸性pHで誘起される累積薬物放出。PINは、エステル結合を介して光増感剤と化学療法薬とで構築された。この特定の設計では、レーザーは光増感剤を活性化し、酸性pHがエステル結合を加水分解することが可能である。従って、PINは、レーザー/酸性pHで誘起される薬物放出パターンを実行するはずであると推定された。ナノ粒子を誘起するためにレーザーを印加する前に、異なるレーザー出力下で光熱効果を評価することにより、レーザーの線量を最適化した。PINの光熱効果は文字通りレーザー出力を増加すると上昇した。温度増分(ΔT)は14℃(0.2 w/cm
2)から49℃(1.0 w/cm
2)まで変化し、より大きいレーザー出力を適用すると光熱誘起が大きくなることを示した。光熱結果に基づいて、本発明者らは、以下の光線療法の評価のために2つの中程度のレーザー線量を選択した:それぞれ低レーザー線量と高レーザー線量に相当する0.4 w/cm
2と0.8 w/cm
2。次に、PINを異なるpH環境(pH 7.4とpH 5.0)中に分散させ、レーザーで露光した。
図3aに示すように、中性pH溶液では、PINは全くレーザー処置を施さない時にはほとんどIrを放出せず、連続したレーザー露光ではより多くの薬物放出を示した。印加されるレーザー出力が高くなるほど、より多くのIrが放出された。この結果では、酸性pH環境が明らかに薬物放出を促進させ、レーザーだけで処置した対応する群よりもIrの蛍光が高くなった。PINの薬物放出は、レーザーと酸性pHが同時に関与した時に最高レベルに達し、そして単独のpHまたはレーザー刺激よりもはるかに高かった。
図3bは、レーザー処置前後のIr蛍光およびpH誘起薬物放出の光学像であり、レーザーと酸性pHの同時刺激の下で、Irの青色蛍光はそれらの未処置の相当物よりも著しく高かった。薬物放出パターンは、PINが生体内でレーザー誘起化学療法を受けるだろうことを示唆している。
【0114】
PI NPSa+Ir混合物、PaおよびIrの細胞生存率。PINを治療効果の調査のために腫瘍細胞と共にインキュベートした。様々な濃度のPINおよびその構成成分(PaとIr)を、細胞生存率の評価のためにU87-MG腫瘍細胞と共にインキュベートした。Pa/Ir物理的混合物を、遊離型PaとIrの両方を有する製剤を模倣するために導入した。
図3cに示すように、光増感剤(Pa)は、それらがレーザーで露光されていない場合は全く明白な細胞毒性を示さなかった。同じ状況下で、他の3つの群は、全て化学療法剤を含んでいたため、ある程度であるが非常に顕著な効能を果たした。次に、レーザー処置を施して光増感剤を活性化した。Irは、それのレーザー未処置の相当物と比較して、同様な薬効を示した。Paはレーザー露光下で識別可能な細胞致死効果を示し、活性にするために導入されたPa/Ir混合物は、単一のPaまたはIrと比較して、より効率的な治療効果を提供し、それらの改善された薬効は、光線療法と化学療法の併用療法に帰することができる。PINは、他の3つの群よりも最も効率的な治療効果を発揮し、そのIC50は、Pa/Ir混合物(ほぼ5μM)およびPa(約50μM)と比較して非常に低濃度(~0.5μM)に達した。PINの最大の奏効は、PDT、PTTおよび化学療法の併用療法によって与えられるはずであるだけでなく、一般的に細胞内に取り込まれる複数の治療薬をリードするナノ粒子のバルク薬物送達機能によっても引き起こされた。レーザー処置有りの群と無しの群の間の圧倒的な治療効果は、PINの光線療法を誘発するだけでなく、Irの薬物放出も増加させ、よって化学療法効果を活性化することを示唆している。
【0115】
PINの時空的薬物放出と細胞内分布を示した二重蛍光発生プロセス。PINは自動指示型ナノ粒子であり、Paの蛍光回復はPINのナノ構造の崩壊を反映し、Irの蛍光発生はPINからの薬物放出を直接的に示した。本発明者らは、U87-MG細胞とPINをインキュベートし、PaとIrの二重蛍光発生プロセスを時空的方法で観察した(
図3d)。2つの並行した処置(レーザー処置の有無)は、PINを細胞と共に2時間インキュベートすることにより設定した。次に、各群のPINを洗い流し、新鮮な培地と交換した。レーザーで露光する前は、Paの蛍光シグナルも、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)によって識別可能に記録することはできない。態様実験として、非レーザー処置群では24時間のインキュベーション後、Paのわずかな蛍光発生減少、および非常に弱いIrの蛍光回復を果たした。対照的に、レーザー処置群は、レーザー処置の2時間目に明白なPa蛍光の回復を示したがIr回復は小さく、このことはレーザー露光が最初にPINの崩壊を触発しうることを示している。レーザー処置後6時間で、Pa-TUNELが明るくなり、Irの青色蛍光が明白に観察できた。更に22時間のインキュベーション後、PaとIrの両方の蛍光発生の継起が顕著になった。CLSM結果は、PINがレーザーで触発される薬物放出プロセスを受けたことを裏付け、レーザーはPINの薬物放出を顕著に促進することができる。CLSM結果では、PaとIrが24時間のインキュベーション以内では、大部分が細胞質に分布していた。本発明者らは、遊離型PaとIrの細胞内分布も観察し、遊離型試薬がナノ製剤(PIN)中のものとほぼ同じ細胞内分布を示した。PaとIrの細胞内分布はある一定領域に共局在化し且つより明るい蛍光を示したことは、PINが特定の部位でIrを放出しうることを表した。ナノ粒子は、一般的にエンドサイトーシス経路を経験し、そして細胞のエンドソーム/リソソームに輸送されるので、明るい領域がリソソームの存在する場所を示すことができると想定された。これを証明するために、本発明者らはLysotracker
TM(登録商標)Green DND-26でPIN処置細胞を同時染色し、CLSM観察に供してリソソーム共局在化を確認した。
図3eに示すように、Pa、Irおよびリソソームの蛍光を完全に共局在化し、低pH値(約5.0)のようなリソソームの微小環境がPINの薬物放出を支援できることを示した。細胞内薬物放出挙動は、レーザー/pHで共感作された薬物放出結果と一致し(
図3aと
図3b)、PINが外部(レーザー)と内部(酸性pH)刺激因子の両方に応答し、それによって高度に制御可能な癌治療を達成できることを裏付けた。
【0116】
PINの生体外(in vitro)光線療法の評価。PINのin vitro PDT効果は、ROS指示薬(2′,7′-ジクロロフルオレセインジアセタート、DCF-DA)により示され、蛍光活性化細胞分類(FACS)によて評価した。DCF-DAおよびPaの蛍光はFACSにより収集し、それぞれROS産生とPIN取込みの定量分析を与えた。
図3fに示すように、U87-MG細胞はレーザー露光下でより少ないROSを産生し、ほとんどの細胞はQ4に分類され(90.1%)、これはレーザーがROSを産生することにほとんど労力を要さないことを意味した。PIN処置細胞の場合、Q2分類領域にある細胞は明白に増加しなかった。この結果は、レーザー処置が施されない場合にはPINがROSを産生しなかったことを表す。Q1分類の増加は、細胞中へのPINの取り込みに起因した。レーザー処置群のPINは非常に顕著なROS産生を表し、Q2分類領域中の細胞は5.91%から51.7%へと大幅に増加した。FACS結果は、PINがレーザー処置の下で優れたPDTを与えることができたことを裏付けた。PINはレーザー処置に高度に感受性であるので、本発明者らは、PINが制御可能でかつ正確な癌の撤廃にとって有能であると仮定した。よって、PINをU87-MG細胞と共にインキュベートし、PINとインキュベートしたU87-MG細胞の一定領域をレーザー光線に暴露し、レーザー露光領域と非レーザー処置細胞との間で細胞死プロファイルを比較評価した(
図3g)。レーザー処置を有する細胞は、それらのミトコンドリア膜電位が喪失し、そして大部分の細胞がヨウ化プロピジウムで染色されたことから、ほとんど死滅していた。対照的に、細胞だけの群(対照)は明白な細胞死を示さず、大部分の細胞がDiOC(6)で染色され、赤色のヨウ化プロピジウム染色はほとんど認められなかった。これらの結果は、PINが高度に制御可能でかつ正確な治療効果を達成できること、すなわちレーザーが当てられた領域のみを治癒させることを裏付けた。
【0117】
グリオーマは脳と脊髄に発生する腫瘍の一種であり、脳と中枢神経系腫瘍のほぼ30%、悪性脳腫瘍の80%を引き起こす。従って、本発明者らは、グリオーマ腫瘍の患者由来異種移植片(PDX)モデルにPINを適用し、3併用療法を立証しようと試みた。
図4aに示すように、患者由来グリオーマ組織をヌードマウスの側腹の小組織チャックに皮下接種した。PDXグリオーマ腫瘍は、非常に進行性でかつ悪性であり、短時間で100~150 mm
3に達した。次いでマウスをPBS対照、Ir、レーザー処置無しのPIN(PIN H)、および低線量レーザー処置を伴うPIN(PIN L)群を含む6つの群に無作為に割り付けた(n=6)。PIN L群は、光線力学効果と化学療法効果が、高線量レーザー処置により引き起こされた極めて高いPTT効果の洪水の中に埋もれている場合に、PTTを除く別の治療効果の実証のために特別に設定された。本発明の試験材料の2回の投与量を、二週間連続で尾静脈経由でi.v.投与した。Pa+Ir H、PIN HおよびPIN L群は、試験材料の投与の24時間および48時間後にレーザーで処置し、光熱効果を熱探知カメラにより記録した。腫瘍体積と体重を試験期間を通して測定した。
【0118】
PINとPa+Ir混合物の薬物動態研究。PINの薬物動態的研究は、頸静脈にカテーテル挿入したラットで評価し、そして同用量のPa+Ir混合物を対照として用いた。i.v.注射後の異なる時点で採血し、薬物濃度はPa蛍光の測定に基づいた。ナノ製剤(PIN)は、遊離型薬物に比べて長い血中循環時間を示し、これは癌とのより長い薬物相互作用の時間枠を示唆している。
【0119】
PDX腫瘍担持マウスの生体内(in vivo)NIRFイメージング。PINのin vivoレーザー誘起薬剤放出パターンを評価した。マウスを2グループに割り付け、PINとPa+Ir混合物をそれぞれi.v.投与した。PIN処置群では、マウスは2つの異種移植片腫瘍を保有し、右側腫瘍(赤い円で強調表示されている)は680 nmレーザー(0.8 w/cm
2)で3分間露光した(レーザー処置はPIN投与の24時間後に右側に施行された)。PaのNIRFを異なる時間間隔でモニタリングした(
図4b)。光線処置前は、PINの自己消光のため、両側の腫瘍部位で全くNIRFシグナルが認められなかった。レーザー照射した場合、光線処置24時間後にピークを有する、光線処置腫瘍部位にNIRFシグナルの時間依存性増加が観察された。PaのNIRFは、レーザー処置後8時間目にわずかに観察でき、そして更に20時間と24時間の時点で増強した。対照的に、(白丸で示す)非レーザー誘起腫瘍は、検出可能なNIRFシグナルを全く示さなかった。興味深いことに、ちょうどレーザーにより誘起された領域の所で蛍光が上昇し、非レーザー誘起領域(たとえ同じ腫瘍であっても)は識別可能なNIRFシグナルを全く示さなかった。次いでマウスを犠牲にし、腫瘍と主な臓器を生体外(ex vivo)NIRFイメージングのために回収した(
図4c)。本発明の全体的マウスイメージング所見と一致して、レーザー処置した腫瘍だけが明白なNIRFシグナルを示し、非レーザー処置腫瘍のシグナルは低いままであった。光線処置した腫瘍部位でのNIRFの増加は、PINの解離を暗示しており、おそらく薬物放出を亢進させた。放出されたIrからの蛍光シグナルは、短波長のため、当方のイメージングステーションを用いて取得するには弱すぎた。それにも関わらず、Pa NIRFの変化は、薬物放出のためのリアルタイム自動指標として役立つだろう。対照的に、Pa+Ir処置マウスは腫瘍部位に全くPaの集積がなく、その一方で腎臓は強い蛍光を呈し、Pa小分子がおそらく腎臓から排泄されたことを示す。
【0120】
光熱および光線力学効果のin vivo評価。Pa+Ir H群、PIN H群およびPIN L群のPTT効果を評価し、PBS群も対照としてレーザーで処置した。
図4dは、PIN H群が他の群と比較して最強の光熱効果を達成し、そして35℃以上の温度上昇で推移したことを証明する、PTT効果の統計データである。PIN LおよびPa+Ir Hは、光増感剤無しの群(PBS対照)に比較してわずかな熱発生を示した。PIN H群のPTT効果は、他の3つの群に対比して有意差(P<0.01)を示した。非特異的PTT効果を排除するために、マウスの非腫瘍領域(脚)にもレーザーを照射したところ、非腫瘍領域は、高線量のレーザー処置(0.8 w/cm
2)のもとであってもわずかな温度増大を示しただけであり、PTT効果はPBS処置マウスとほぼ同じであった。この結果は、レーザーが光増感剤を有する領域だけを焼灼することを示している。
【0121】
Pa+Ir H群、PIN H群およびPIN L群(n=3)のPDT効果は、蛍光性NIRF色素であるCellROX
TM(登録商標)Deep Red試薬を用いて顕示した。該試薬は、非発光状態にあるが、ROSの存在下では強力なNIRFを呈する。PTT評価と同様に、PBS群を対照として使用した。腫瘍領域を試験材料の投与の24時間後にレーザーに曝した。次いで全てのマウスを犠牲にし、腫瘍を直ちに回収し、CellROX溶液に30秒間浸漬した。
図4eと
図4fに示されるように、腫瘍を次いでNIRFイメージングに適用したところ、PBS処置群は最小のROS産生を示し、光増感剤を内包する群は全て優れたPDT効果を果たした。PIN H群は最も強力なROS産生を実行し、次にPa+Ir群とPIN L処置群が続いた。この結果は、Pa含有群が腫瘍治療のためのPDTの能力があったこと、そしてレーザー線量が高くなるほどより多くのROSを産生したことを暗示する。CellROXのNIRFはPaの蛍光と重複していたため、CellROX NIRFイメージング前の対照群も設定し、レーザー処置の直後に全ての腫瘍がより少ない蛍光を示した。この結果は、薬物放出動物イメージング結果(
図4bと
図4c)と一致し、Paの蛍光はそれほどすぐには推移しなかった。
【0122】
3併用療法による生体内腫瘍切除。各群の腫瘍焼灼効果をプロファイリングした(
図4g)。PDX腫瘍の極めて進行性で悪性の特性がPBS群で証明され、有効な治療法がなかったとしたら、全てのマウスが数日以内でも生き残れないほど急速に腫瘍が増殖した。Ir群も同様な結果を果たし、PDXグリオーマ腫瘍の発達は、遊離型の化学療法薬で処置することによってさえも遅らせることができない。レーザー無しのPIN群も同様にあまり効果がなかった。in vitro実験(
図3)に示すように、光線療法も化学療法もいずれも腫瘍撤廃に関与しなかったので、レーザー処置無しのPINは治療効果をあまり発揮しなかった。それに比較して、Pa+Ir H処置群は、腫瘍体積が2回投与処置の後に減少し、より優れた奏効を示した。PIN Hが他の群に比べて最高の効能を示し、初回量処置後に腫瘍体積が大幅に減少し、そして時間の経過に伴って腫瘍体積は縮小し続け、半数のマウスが完全に治癒した(後述する)。PIN L群は、PIN H処置群と同様の治療効果を発揮した。PIN L処置の有意な効能は、化学療法と光線療法の組み合わせが腫瘍焼灼に重要な役割を果たすことも示した。
【0123】
図4hは、各処置群、すなわちPBS、Ir、Pa+IrおよびPIN(レーザー無し)群は、最悪の動物生存率を示した。PIN HおよびPIN Lは、より良い動物生存率を果たし、PIN Hは3匹のマウスを完全に治癒させ、最善の2カ月の動物生存特性(survival quality)をもたらした。PIN Lも優れた効能を果たし、2匹のマウスを完全に治癒させた。
図4iは、2回投与の処置後の各群の光学像である。PBS処置マウスは、巨大な未治癒の腫瘍を有し、Ir処置マウスも同様であった。PIN処置マウスはわずかに小さい腫瘍サイズを示した。レーザー処置群は、異なるレベルの腫瘍焼灼効果を果たし、Pa+Ir Hで処置した腫瘍は、腫瘍上にPTTが引き起こした明らかな瘢痕を示した。その瘢痕の近傍に幾らかの程度の再発腫瘍を認めることができ、Pa+Ir H処置のあまり効果的でない腫瘍焼灼効果を示した。PIN Lは腫瘍部位にわずかな瘢痕を与え、PTT効果は高レーザー線量の相当物ほど効果的ではなく、そして特に、蝕知可能な腫瘍は全く検出できなかった。PIN Lと並行して、PIN H群は、腫瘍領域により明白な瘢痕を与え、PTT効果は高レーザー線量の相当物ほど効果的でなく、そして特に、蝕知可能な腫瘍は全く検出できなかった。PIN Lと並行して、PIN H群は、腫瘍領域により明白な瘢痕を与え、同様に蝕知可能な腫瘍は認めることができなかった。光線療法は瞬時に圧倒的な治療効果を提供することができるが、いったんレーザーが無くなれば、持続可能な効能を果たすことはできないため、PIN L群とH群の低頻度の再発は、放出されたIrからの補完化学療法に起因するのかもしれない。放出されたIrが光線療法後の期間に継続的に化学療法効果を果たし、腫瘍再発を抑制する可能性がある。本発明者らは、PIN L処置およびPIN H処置マウスを2か月間維持し、PIN L群のマウス2匹およびPIN H群のマウス3匹が完全に治癒したことを観察した(
図4j)。PIN Hの治癒率は50%(6分の3)に達し、PIN Lの治癒率は33.3%(6分の2)であった。瘢痕が自然に剥離した後、全ての治癒マウスは良好な特質で生存し(治癒領域は赤い円で強調表示されている)、2か月間は全く腫瘍再発が認められなかった。
【0124】
レーザー誘起特異的療法を評価するために、PINで処置した腫瘍組織をヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色により観察した(
図4k)。微視的には、PIN媒介光線療法は大規模な組織病理学的変化、例えば浮腫、細胞の解離と収縮、核濃縮および核溶解を引き起こした。比較上、PBS対照群の腫瘍組織は、レーザー露光下でも全く損傷を示さず、このことはレーザーだけでは組織を傷つけなかったことを示唆する。H&E染色結果は、本発明のPINが、特定の腫瘍組織を特異的に破壊することができる優れた光線治療効果を示すことを裏付けた。
【0125】
全身毒性評価。PIN処置マウスの主要臓器の病理学をH&Eアッセイにより評価した。PIN処置マウスが、それらのPBS処置相当物と同一の組織パターンを示し、そしてマウス臓器に対する損傷を全く示さなかったことから、本発明のPINが優れた生体適合性を有すると言える。全ての処置群において体重変化は全く有意でなく、このことは最小の全身毒性を表している。血液学的指標は、全ての試験材料での処置後に、3つのレーザー処置群(Pa+Ir H、PIN LおよびPIN H)において、血中尿素窒素(BUN)値を除き何も異常な変化を示さず、PBS対照に対して有意差(p<0.05)を示した。しかしながら、PBS群での対応するBUN指標、クレアチニン値は全く有意差を示さず、このことは、レーザー処置群におけるBUNの有意差がおそらく光線処置のための繰り返し麻酔に起因するわずかな脱水によるためであったことを示唆する。全身毒性分析は、本発明のFAPINが優れた生体適合性を果たし、かつ更なる医薬品開発と医学の発展のために適当であることを立証した。
【0126】
実施例2.Mn
2+
フェオホルビドa-イリノテカン複合体
ポルフィリン誘導体は、金属イオンをキレート化してマルチモーダル生体内イメージングを達成できるようにし、例えばMn
2+キレート化PaはT1-MRIイメージングを実現化し、そして銅(64)はPaをPETで視覚化できるようにする。よって、マルチモーダルイメージング能力を拡張するために、Mn
2+をPINにキレート化し、生体外でMRIイメージング機能を評価した。
図5aと
図5bに示されるように、Pa(PI分子中)の蛍光は、非キレート化相当物に比較すると、金属イオンのキレート化のために完全に消光された。
図5cは、PINの濃度依存性MRIシグナル増強を示し、これはPINがMRIイメージング能力があることを示した。更にPINをU87-MG細胞と共にインキュベートし、その細胞をMRIイメージング用にアガロースゲル中に固定した。
図5dに示されるように、Mn
2+キレート化を有するPINは、明白にU87-MG細胞を可視化し、そして優れた弛緩率を達成した。これに基づき、本発明のポルフィリンベースのF/HAPINは、同様にマルチモーダルイメージング能力を実現化することができる。
【0127】
PINに関して説明された自己集合メカニズム(
図2a)に基づき、本発明者らは様々な種類のポルフィリンと親水性薬物との複合体を設計した。ポルフィリン誘導体は疎水性であるため、親水性薬物を親水性部分として挿入することができ、PINのような同じタイプのナノ粒子へと集成することができる。理論上、全てのポルフィリン誘導体と親水性薬物との複合体がF/HAPINへ集成することが可能であり、そして化学療法、光熱療法および光線力学療法の3併用療法を実現化することができる。ポルフィリン誘導体と親水性薬物との複合体において、刺激応答性、例えばpH応答性(ヒドラゾン、エステル結合、オルトエステル、イミン、シス-アコニチル、アセタール/ケタール)、酵素開裂性ペプチド(MMP-2/9、カスパーゼ-3/9、カテプシンB)、レドックス応答性(ジスルフィド結合)およびシス-ジオール/pH応答性(ボロン酸エステル)としてリンカーを設計した。刺激応答性リンカーは、APIを特定の病巣において制御可能に放出させる(コントロールドリリース)ために有益である。
【0128】
実施例3.薬物-薬物複合体
薬物-薬物両親媒性複合体ベースのF/HAPIN。純粋な化学療法薬-薬物両親媒性複合体も、本発明にかかる自己集合機序に従う。本発明者らは、特定の刺激応答性リンカーも組み込まれている様々な種類の薬物-薬物両親媒性複合体を仮説的に設計した。この薬物-薬物両親媒性複合体は、ナノ粒子のような小型ミセルを形成することができ、更に大きなナノ粒子へと集成することができる。薬物-薬物ベースのF/HAPINは、異なる種類の純薬物から創製され、よって相乗的な治療効果を示す。下記はドキソルビシンベースの薬物-薬物両親媒性複合体であり、ここでドキソルビシンは両親媒性複合体の親水性部として働く。本発明にかかる自己集合メカニズムによれば、ドキソルビシンをイリノテカン、ダウノルビシン、イダルビシン、トポテカン等のような別の親水性薬物と置換することも可能である。疎水性部には、パクリタキセル、カバジタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチンのような疎水性化学療法薬が選択された。薬物の親水性-疎水性は、それらのLogP値に基づいて決定され、一般に、LogP値が大きいほど親水性が大きいことを意味する。2つの薬物間のリンカーを別の刺激応答性化学結合、例えばpH応答性(ヒドラゾン、エステル結合、オルトエステル、イミン、シス-アコニチル、アセタール/ケタール)、酵素開裂性ペプチド(MMP-2/9、カスパーゼ-3/9、カテプシンB)、レドックス応答性(ジスルフィド結合)およびシス-ジオール/pH応答性(ボロン酸エステル)として設定することもできる。刺激応答性リンカーは特定の病巣において制御可能に放出させるために有益である。pH応答性リンカーの場合には、薬物-薬物集合ナノ粒子がEPR効果によって腫瘍組織中のリソソームに入ると、それらのリンカーは酸性条件下で破壊され、次いで2つの薬物を同時に放出するだろう。酵素開裂性ペプチドの場合、薬物-薬物複合体は腫瘍組織の近傍に来ると、それらが腫瘍組織中に過剰発現された対応する酵素の基質であるために、リンカーが切断され、次いで同様に薬剤が放出されるだろう。ジスルフィド結合のような別のリンカーの場合、それらは腫瘍中の過剰なGSHにより誘導されるレドックス条件に基づいて切断され得る。
【0129】
ナノ粒子の安定性を高めかつ標的指向性薬物送達を実現するために、F/HAPINにとって表面修飾が非常に重要である。この修飾を行うためには4種類の主な方法が存在する。i) ペグ化(PEG化)。ポリエチレングリコールは薬物送達用にナノ粒子を創製するのに最も利用可能なポリマーであり、それは優れた生体適合性を示し、血中循環時間を大きく延長する。PEGは、可逆的化学結合、例えばシッフ塩基、静電相互作用を通して導入することができる。ドキソルビシン誘導体中のアミン基とアルデヒド-PEG-アルデヒドとの間のシッフ塩基の形成に基づくと、PEGの架橋形成が、薬物-薬物粒子を堅く固定しかつそれらの安定性を高めるのに重要な役割を果たすだろう。pH応答性シッフ塩基のため、PEG遮蔽層(シールディング)は、腫瘍に到達するとすぐに酸性pHにより直ちに剥離することができる。ii) 細胞膜。細胞膜はF/HAPINを物理的に封入するために用いられるだろう。細胞膜は人体に天然に存在し、よって優れた生体適合性を示す。細胞膜で被覆されたF/HAPINの物理化学的特性は、人体における細胞に類似しており、オプソニン化を最小にし、本発明のナノ粒子の血液循環時間を延長させるだろう。iii) ヒアルロン酸修飾。ヒアルロン酸は負に帯電しており、静電相互作用を介してF/HAPINの表面上に導入することができる。ヒアルロン酸は人体に由来し、我々の体内における内因性ヒアルロン酸と同様に代謝されうる。別の面では、ヒアルロン酸は優先的に間葉幹細胞をターゲティングし、それは骨関連腫瘍療法を実現するのに役立ちうる。iv) RGD、CRGDK、葉酸、ガラクトース等のような腫瘍標的指向性(ターゲティング)リガンド。リガンドは、刺激応答性結合を通してF/HAPINの外側に露出した活性な化学基と反応することができる。リガンドは、F/HAPINを腫瘍領域中に特異的に集積させるのに役立ちうる。腫瘍ターゲティングリガンドは、大部分がペプチド、ビタミン、糖類などのような天然化合物から構成されるため、それらは生分解性である。
【0130】
本特許において用いたAPIは、全て優れた生体適合性を有するものであった。ポルフィリン誘導体は、生体系に広く存在している天然物である。ヒト血液細胞は、赤血球の酸素化と脱酸素化に機能するポルフィリンを本質的に含有し、従って、ポルフィリン製剤は血中ポルフィリンと同様に代謝されるだろう。化学療法薬APIとして、それらは優れた抗腫瘍機能を果たしており、普通の有機化合物と同様に分解されうる。本発明者らが導入した表面修飾も生分解性である。
【0131】
実施例4.BTZ-CCM複合体の調製
50 mgのボルテゾミブ(BTZ)を10 mLのMeOH中に溶かし、次いで59.7 mgのクルクミン(CCM)を加えた。混合物を遮光下で4時間攪拌した。生成物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製した。質量分析により決定したBTZ-CCMの分子量は717.4であり、これは計算結果と同じであった。
【0132】
実施例5.BTZ-CCMナノ粒子の調製
実施例4からの複合体(1.18 mg)を1 mLのエタノールに溶かし、次いでその溶液を攪拌しながら2 mLの水に滴下添加した。その溶液を24時間連続して攪拌し、メタノールを蒸発させた後、サンプルをTEMとDLSにより測定した(
図6)。BTZ-CCMナノ粒子は優良な球形を有し、水への分散性も良好であった。加えて、平均粒径は約108 nmであった(
図6b)。
【0133】
実施例6.BTZ-CCMナノ粒子の特徴付け
薬物放出
BTZ-CCMナノ粒子の薬物放出試験を透析法を用いて実施した。ナノ粒子溶液を透析カートリッジに注入し、室温で異なる(pHの)PBSに対して透析した。BTZ-CCMナノ粒子はpH感受性放出挙動を示し(
図7)、pH値が7.4である時にはわずか15.3%のBTZが48時間でBTZ-CCMナノ粒子から放出された。その一方、pH値が5.0である時には88.6%までのBTZが48時間で放出された。既知の通り、ボロン酸エステルは、ボロン酸とジオールを生成することにより外部酸性環境に反応性である。ここでボロン酸エステル結合を含むBTZ-CCMナノ粒子はpH感受性を示し、それはナノ粒子が生理学的中性条件では非常に安定であり、酸性環境のもとでは迅速に2つの親薬物を放出できることを意味する。
【0134】
生体外(in vitro)細胞取込み
BTZ-CCMナノ粒子が効率的に癌細胞内に入ることができるかどうかを確かめるため、蛍光イメージング法を使ってRPMI 8226細胞系において細胞取込み研究を行った。BTZ-CCMナノ粒子中に内包されたトレーサーDID色素(赤)を用いて、BTZ-CCMナノ粒子の位置を明らかにした。
図8に示す通り、ブランク群と比較して、BTZ-CCMと共に4時間インキュベートした細胞は強い赤色蛍光を示した。これは、それらのナノ粒子がRPMI 8226細胞に容易に取り込まれ得ることを意味する。
【0135】
細胞毒性分析
プロドラッグナノ粒子であるBTZ-CCMは、親薬物と同等のまたは類似した抗腫瘍活性を維持する必要があるため、本発明者らは、48時間処置後のRPMI 8226とSKOV-3細胞の細胞生存率をMTSアッセイを使って調べた。
図9に示されるように、BTZ-CCMナノ粒子は、RPMI 8226細胞とSKOV-3細胞についてそれぞれ0.3 ng/mLと20 ng/mLのIC50値を示す、用量依存性パターンにより両細胞の増殖を阻害することができた。RPMI 8226細胞に対するBTZ-CCMの曲線は、SKOV3細胞に対してはその効能がわずかに減少するけれども、BTZ単独でのものとほとんど重複している。従って、最終的なBTZ-CCMナノ粒子は遊離型BTZと対比して同様な抗癌作用を示す。
【0136】
実施例7.フェオホルビドa-ドキソルビシン複合体の調製
材料と装置。フェオホルビドaは、Santa Cruz Biotechnology社(米国テキサス州)から購入した。ドキソルビシンはLC Laboratories(米国マサチューセッツ州)から購入した。ヒドラジン、(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、2′,7′-ジクロロフルオレセインジアセタート(DCF-DA)、MnCl2、および全ての溶媒は、Sigma-Aldrich社(米国ミズーリ州)から購入した。一重項酸素センサーグリーン(SOSG)、Lyso-Tracker Deep RedおよびCellROXはThermo Fisher Scientific Inc.より購入した。合成化合物はBruker UltraFlextremeマトリックス支援レーザー脱着/イオン化時間飛行型質量分析法(MALDI-TOF-MS)、Thermo Electron LTQ-Orbitrap XL Hybrid電子噴射イオン化質量分析法(ESI-MS)および600 MHz Avance III核磁気共鳴(NMR)分光計(Bruker、ドイツ)により分析した。透過型電子顕微鏡法(TEM)は80 kVの加速電圧を用いるTalos L120C TEM(FEI)上で実施した。インビトロレーザー処置は、幅広いカバー領域を有する光源(Omnilux new-U)のもとで施行した。細胞蛍光画像は、共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM、LSM810、Carl Zeiss社製)を用いてキャプチャした。磁気共鳴イメージング(MRI)はBiospec 7T MRIスキャナー(Bruker、ドイツ)上で実施した。アポトーシスと細胞ROS産生は、BD Fortessa 20カラーフローサイトメトリーにより評価した。ヒドロキシル化ポリエチレングリコール2000(PEG2000)はLaysan Bio Inc (米国アラバマ州)から購入した。
【0137】
フェオホルビドa-ヒドラジド(Phy)の合成。594 mgのフェオホルビドa(約1ミリモル)、383 mgのEDC(2ミリモル)および230 mgのNHS(2ミリモル)を20 mLのジクロロメタン(DCM)中に溶かし、室温で30分間激しく攪拌し、次いで188μLの無水ヒドラジン(6ミリモル)を反応系に加えた。反応液をRTで激しく攪拌しながら更に4時間攪拌した。次いで、反応系を水に対してDCMで抽出し、フェオホルビドa-ヒドラジド(Phy)をDCM中に分散させた。
【0138】
フェオホルビドa-ヒドラジド-ドキソルビシン(PhD)の合成。121.4 mgのPhy(0.2ミリモル)と58 mgのドキソルビシン塩酸塩(0.1ミリモル)を1滴のTFA(20μL)と共に10 mLのメタノール中に溶かし、50℃で一晩攪拌した。標的化合物(PhD)をカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0139】
実施例8.フェオホルビドa-ドキソルビシンPEG化ナノ粒子の調製
二重アルデヒド末端化PEGの合成と特徴付け。570 mgの4-ホルミル安息香酸(Formylbenonic acid)(5ミリモル)と206 mgのDCC(7ミリモル)を無水DCM中に溶かし、多数の白色沈澱が観察されるまで混合物を0℃で30分間攪拌した。次に、10 mLの無水DCM中の1000 mgのヒドロキシル化PEG2000(0.5ミリモル)と73 mgのDMAP(0.6ミリモル)を加えた。生じた混合物を周囲温度で24時間攪拌した。二元アルデヒド末端PEGを冷エーテルを用いた沈澱により精製し、透析チューブ(MWCOは1,000 Daである)を用いて更に透析した。次いでその溶液を凍結乾燥した。
【0140】
PEG化PhD NPs(pPhD NP)の調製と特徴付け。ナノ粒子を次の典型的な再沈澱法により調製した。簡単に言えば、50ミリモルのPhD DMSO溶液を最初に作製し、次に超音波処理下で2μLのPhD溶液を998μLのMilli Q水中に滴下添加し、3~5秒間ボルテックス攪拌した後、未PEG化PhD NPsが得られた。次に、100μMの二重アルデヒド末端化PEGを加え、周囲温度下で48時間攪拌し、pPhD NPを得た。ナノ粒子のサイズ分布、多分散性指数、および表面電荷を、Malvern Instruments Ltd(英国Worcestershire)からの動的光散乱(DLS、Zetasizer、Nano ZS)を用いて実施した。NPの形態をTalos L120C TEM(FEI)により80 kV加速電圧で観察した。TEM標本は、銅グリッド上に水性ナノ粒子溶液(50μM)を滴下し、室温にて自然乾燥することにより調製した。
【0141】
実施例9.Mn
2+
キレート化フェオホルビドa-ドキソルビシン複合体の調製
Mn2+キレート化pPhD NPの調製。Mn2+キレート化は発表された方法に従って実施した。簡単に言えば、24.3 mgのPhy(40μモル)と25.2 mgのMnCl2(200μモル)、200μLのピリジンを含む2 mLのメタノールに溶かし、そして反応液を2時間還流させた。Mn2+キレート化Phyを抽出(水に対するDCM)により5回精製した。キレート化しなかったMn2+はMilli Q水中に溶かし、除去した。Mn2+キレート化Phyは有機層(DCM)にとどまり、それをロータリーエバポレーターにより乾燥した。次いで、マンガンイオンがキレート化したPhyを用いてPhDモノマーを合成し、上述した手順を用いてpPhD NPを作製した。
【0142】
実施例10.フェオホルビドa-ドキソルビシン複合体&ナノ粒子の特徴づけ
方法
材料の光学測定。UV-可視分光計(UV-1800、島津製)を用いてUV-可視スペクトルを採集した。全ての材料と化合物について、200 nm~800 nmの範囲のもとに吸光度を採集した。蛍光スペクトルは、蛍光分光計(RF-6000、島津製)により取得した。Phyには、412 nmの励起波長を使用し、そしてDOXには、励起波長を488 nmに設定した。PhDモノマーまたはナノ製剤の蛍光特性を調べるために、両方の励起波長を使用した。
【0143】
臨界凝集濃度(CAC)評価。指示薬としてピレン分子を使用し、ナノ粒子の三番目と一番目の発光ピークの蛍光(I3/I1)を比較することにより、ナノ粒子のCACを決定した。簡単には、異なる濃度の999μLのpPhD NPサンプルを調製し、1μLの0.1 mMピレン溶液(アセトン中)をpPhD NP懸濁液中に導入し、0.1μMピレン溶液を得た。pPhD NPとピレンを含む溶液を37℃で2時間インキュベートした。様々な濃度のpPhD NP中のピレンの蛍光を試験し(励起は335 nm)、CAC評価のためI3/I1値を記録した。
【0144】
pPhD NPの近赤外蛍光イメージング(NIRFI)。様々な濃度を有する10μLのPhDモノマーとpPhD NPをそれぞれ透明フィルムの上に滴下し、NIRFIチャンバーに入れ、そしてそれらのNIRFIをKodakマルチモードイメージングシステムIS2000MMを使って625±20 nmの励起波長と700±35 nmの発光波長を用いて収集した。PhD分子を良溶媒(DMSO)中に溶解することによりPhDモノマーを得た。
【0145】
PhD NPsの光熱および光線力学効果。光熱効果の評価には、様々な濃度のpPhD NPを96ウェルプレート中に入れ、0.4 w/cm2レーザー(λ=680 nm)の下で3分間露光した。熱の発生をFLIR温度カメラにより記録した。光線力学効果の評価には、市販のプローブである一重項酸素センサーグリーン(SOSG)を用いて反応性酸素種(ROS)産生を試験した。簡単に言えば、様々な濃度のpPhD NPをSOSG染色溶液と共にインキュベートし、入射レーザー(680 nm、0.4 w/cm2)により3分間照射した。同じ濃度で水に溶解したSOSGプローブをブランク対照として使用し、同線量のレーザーで処置した。SOSGの蛍光読み出し(出力)をマイクロプレートリーダー(SpectraMax M2、Molecular Devices製)によりモニターし、光線力学効果を相対的に定性した。
【0146】
酸性pHとレーザーにより誘起されるpPhD NPの累積薬物放出。100μMのpPhD NPを調製し、透析カートリッジ(MWCOは3,500 Daである)中に装填して累積薬物放出プロファイルを求めた。カートリッジを1000 mLのPBS(pH 7.4)および酸性化PBS(pH 5.0)中にそれぞれ浸漬し、中程度の速度で周囲温度で攪拌した。透析前に0.4 w/cm2のレーザーで3分間照射することによりレーザー誘起薬物放出を実施した。透析カートリッジ中に残っているDOXを様々な時点でマイクロシリンジにより抜き取り、DOXのUV-可視吸光度により定量的に測定した。各値は三通りの同一サンプルの平均として報告した。
【0147】
細胞取込みアッセイ。PhyとDOXの蛍光はpPhD NP中で両方とも消光されたため、測定を水性環境下で行った場合にはpPhD NPの細胞取込みを正確には測定できないかもしれない。pPhD NPおよびそれの変換後相当物(pH 6.8で前処理してサイズ/電荷の二重変換を達成したもの)の細胞内在化を評価するために、pPhD NPと変換後pPhD NPをそれぞれOSC-3細胞と共に3時間インキュベートし、次いで細胞を脱着させ、バイアル中に収集した。培地を除去した後、OSC-3細胞を同容のDMSOで溶かし、細胞を溶解させかつpPhD NPに関連する全ての物質を溶解させた。次に、溶液を蛍光分光計により評価し、DOXの蛍光を調べた。DOX溶液の濃度はpPhD NPの細胞取込みを表す。各値は三通りの同一サンプルの平均として報告した。
【0148】
細胞レベルでの反応性酸素種(ROS)アッセイ。OSC-3細胞を5.0×105細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに播種し、十分に接着するまで細胞を24時間培養した。細胞をPhy、pPhD(pH 7.4)およびpPhD(pH 6.8)で3時間処理した。次いで細胞をDCF-DA(10μM)と共に更に30分間インキュベートした後、光線処置を1分間施し、フローサイトメトリーにより分析した。何も処置しない細胞を対照として使用した。全ての試験材料の濃度は10μMに設定した。
【0149】
アポトーシスアッセイ。OSC-3細胞を5.0×105細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに播種し、全ての細胞が十分に接着するまで24時間培養した。細胞をDOX、Phy、pPhD(pH 7.4)およびpPhD(pH 6.8)で3時間処理し、次いで1分間光線処置を施した。何も処置しない細胞を対照として使用した。24時間後、細胞をアネキシンV-FITC/PIで染色し、前に記載した通りにフローサイトメトリーによりアポトーシスを測定した。全ての試験材料の濃度は10μMに設定した。
【0150】
リソソーム共局在化アッセイ。OSC-3細胞を20μM pPhD NPと共にインキュベートし、次いで共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)観察のためにLysotracker Deep Redで染色した。Lysotracker Deep Redの蛍光スペクトルはPhyのものと重なっていたが、蛍光の読み出しはCy5 TUNELの下ではPhyよりもずっと高かった。従って、pPhD NP処置細胞においてPhyの蛍光が観察できなくなるまで、CLSMのパラメータを調節し、Phyの干渉を避けるためにそれらのパラメーターを使ってLysotracker Deep Redの蛍光を観察した。DOX分布には、標準FITCチャンネルを使用した。
【0151】
ナノ粒子の細胞スフェロイド浸透。OSC-3細胞を丸底96ウェルプレート中に104細胞/ウェルの密度で播種した。細胞スフェロイドを20μM pPhD(pH 7.4)と20μM形質転換後pPhD(pH 6.8)で処置した。ナノ粒子の浸透を共焦点レーザー走査型顕微鏡によりモニタリングした。
【0152】
細胞に対する光線療法効果。OSC-3細胞を5.0×104細胞/ウェルの密度で8ウェルチャンバースライドに播種し、全ての細胞が完全に接着するまで24時間培養した。次いで細胞を10μMのpPhD NPで3時間処置した。何も処置しなかった細胞を対照として使用した。どちらの処置も光線に1分間さらした。光線処置後、細胞を以前に記載された通りにヨウ化プロピジウム(PI)とDiOC6(3)で染色した。共焦点レーザー走査型顕微鏡法を使って細胞に対する光細胞毒性をモニタリングした。
【0153】
薬物動態評価。雄Sprague-Dawleyラットの頸静脈にカニューレを挿入し、静脈注射と採血用にカテーテルを埋め込んだ(Harland, 米国インディアナ州インディアナポリス)。pPhD NP(10 mg/kg)、upPhD NP(10 mg/kg)および遊離型DOX(4.7 mg/kg)をラット(n=3)にi.v.投与した。投与前と注射後の所定の時点で、全血サンプル(約100μL)を頸静脈カテーテルから採取した。591 nmの蛍光(励起は488 nmである)を試験することを通して全ての試験材料の動態を測定した。血液バックグラウンドを差し引いた後、数値を時間に対してプロットした。
【0154】
OSC-3腫瘍担持動物モデルと治療スケジュールの確立。雌無胸腺ヌードマウス(6週齢)をHarlan(Livermore, 米国カリフォルニア州)より購入した。全ての動物実験は、カリフォルニア大学デービス校の実験動物使用管理に関する行政指導委員会のガイドラインに厳密に従った。ヌードマウスの両脇腹にOSC-3細胞(5×106細胞/腫瘍)を接種することにより、皮下腫瘍モデルを確立した。同マウスの唇にOSC-3細胞(5×106細胞/マウス)を接種することにより同所性モデルを確立した。皮下腫瘍が約100 mm3に達し、同所性腫瘍が約50 mm3に達した後、マウスを次の5つの群(n=6)に分けた:対照(PBS)、遊離型薬物(DOX)、遊離型光増感剤(Phy)、未PEG化PhD NP(upPhD NP)およびPEG化PhD NP(pPhD NP)。マウスは尾静脈を介したi.v.注射により試験材料を投与された。DOXの用量は4.7 mg/kgであり、Phyの用量は5.3 mg/kgであり、upPhD NPとpPhD NPは両方とも10 mg/kgであった。PhyとDOXの濃度は、PhDモノマー中のそれらの含有率を計算することにより求めた。PhyはPhDモノマー中53%の含有率を占め、DOXは47%を占める。pPhD NPの濃度は、PhDモノマーの濃度に基づいて計算し、PEGの量を除外した。皮下モデルでは、右側腫瘍がレーザー露光(0.4 w/cm2、3分間)に供され、左側腫瘍はレーザー処置を受けなかった(化学療法の効力を評価するため)。同所性モデルでは、Phy、upPhD NPおよびpPhD NPを含む光増感剤で処置した全ての腫瘍にレーザー処置を施した(0.4 w/cm2、3分間)。レーザー処置はi.v.注射後24時間目と48時間目の2回施行した。レーザー処置の間、光熱効果をモニタリングし、FLIR赤外カメラ(FLIR Systems, マサチューセッツ州ボストン)により記録した。
【0155】
生体内(in vivo)ROS産生。同所性腫瘍担持マウスを次の4つの群(n=3)に割り付けた:1) PBS、2) Phy、3) upPhD NP、および4) pPhD NP。5.3 mg/kgのPhy、10 mg/kgのupPhD NPおよび10 mg/kgのpPhD NPをそれぞれマウスにi.v.投与した。24時間後、マウスの腫瘍に0.4 w/cm2のレーザーを3分間照射した。マウスを犠牲にし、腫瘍をNIRFI(Pre-cellROX)のため取得した。NIRFI後、腫瘍を直ちにRODプローブ液(CellROX)中に10秒間浸漬し、別のNIRFI(Post-cellROX)を実施した。生体内ROX産生は、「Pre-cellROX」腫瘍における蛍光を差し引いた「Post-cellROX」の蛍光強度により与えた。PhyシグナルはcellROXと重なっていたので、最終イメージング結果(Post-cellROX)からPhy(Pre-cellROX)のNIRFを差し引いてROS産生を求めた。
【0156】
ナノ粒子の体内分布。10 mg/kgのupPhD NPと10 mg/kgのpPhD NPをそれぞれ同所性マウスにi.v.投与した。次いで腫瘍を試験材料で処置してから24時間後に、レーザーに24時間さらした。レーザートリガー後、注射後の指定した時点において、全身画像を取得した。生体内(in vivo)イメージング後、動物を犠牲にし、生体外(エクスビボ)イメージングのため主な臓器を切除した。
【0157】
pPhD NPの時間依存性腫瘍集積および光線治療効果のMRIによるリアルタイムモニタリング。時間依存性腫瘍集積の測定のため、同所性腫瘍モデルにpPhD NP(10 mg/kg、Mn2+用量:0.01ミリモル/kg)をi.v.注射し、そしてT1-重み付けマルチスライスエコー(MSME)シーケンス(エコー時間(TE)/繰り返し時間(TR))を使って、Bruker Biospec 7T MRIスキャナーにより512×512行列サイズを使って腫瘍面積をモニタリングした。光線治療効果をモニタリングするために、OSC-3腫瘍担持マウスをpPhD NP(i.v.注射、10 mg/kg)で処置し、次いでi.v.注射後24時間目と48時間目に腫瘍部位を連続レーザー(0.8 w/cm2、3分間)で露光した。腫瘍集積実験と同じパラメーターを使ったリアルタイムでのMRIにより、腫瘍状態をモニタリングした。
【0158】
腫瘍体積と体重の測定。体重と腫瘍体積を週3回モニタリングし、腫瘍体積は次式により算出した。
腫瘍体積=長さ×(幅/2)2
【0159】
H&E評価。全てのレーザー処置腫瘍を回収し、ヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色し、光線療法の効果を評価した。心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、小腸を含む、各群の主要な臓器をH&Eアッセイ用に回収し、試験材料の毒性を評価した。
結果
【0160】
pPhD NPの流体力学的サイズは79 nm付近であり、多分散性指数(PDI)は0.2を有した(
図10a)。TEM顕微鏡写真(
図10b)は、pPhD NPが球状形態をとることを証明し、その中で小さな黒色のドットの集団(クラスター)の存在を明らかにした。これらの小さなドットはPhDモノマーのミセル集合体であると思われ、それはマルチミセル凝集を通して更に自己集合して大きなナノ凝集体を形成する。UV-可視吸光度により算出すると、pPhD NP中、DOXの含有率は約24.9%(w/w)であり、一方で光増感剤(Phy;Phyはヒドラジドペンダント基を有するPaである)の含有率は約28.4%(w/w)であった。pPhD NPの臨界凝集濃度(CAC)は3μMであると算出された。PhDモノマーのUV-可視スペクトル(
図10c)は、488 nm付近にDOXの増加吸光を示し、412 nmと670 nm付近にPhyピークを示した。この結果はPhDモノマーがPhyとDOXの両方を含むことを示している。蛍光スペクトル(
図10d)は、DOXの発光が約590 nmであり、そしてPhyの発光が約680 nmであることを示した。それらが一緒に複合体化(コンジュゲート)されると、590 nmのDOXの蛍光が減少し、680 nmのPhyの蛍光が増加した。この結果は、PhDモノマーにおいて蛍光共鳴エネルギー伝達が起こり得ることを示す。ナノ製剤(pPhD NP)では、凝集により誘発される消光(ACQ)現象が、PhyとDOXの両蛍光に優先的に影響を及ぼしそれらを消光した。
【0161】
pPhD NPの近赤外イメージング、光熱効果および光線力学効果。ポルフィリン誘導体は近赤外イメージング(NIRFI)に本質的に適するので、PhDモノマーとそれのナノ製剤(pPhD NP)のNIRFI能力を動物イメージングシステムにおいて評価した。PhDモノマーは、優れた蛍光シグナルを示し(
図10f)、それがNIRFIに適当であることを示した。pPhD NPは、ACQの発生のために非常に低い蛍光を示し、これは蛍光スペクトルからの結果(
図10e)と一致していた。
図10gは、pPhD NPの温度がレーザー照射により50℃付近に増加したことを示し、それらが優れた光熱特性を有することを証明した。更に、pPhD NPは、濃度依存方式でかなりの反応性酸素種(ROS)を産生しうる(
図10h)。
【0162】
pPhD NPのpH感作薬物放出。ヒドラゾン結合は、腫瘍細胞の内側のpHiで開裂することができる。従って、pPhD NPは酸性pHおよび/またはレーザーの刺激の下で薬物を放出するようにデザインされた。pPhD NPの累積薬物放出パターンが
図10iに示される。ナノ粒子は生理学的pHで安定であり、最小の薬物放出であった。薬物放出は、pHiに近接した酸性pH(5.0、リソソームpHを模倣)では有意に促進することができた。レーザーと酸性pHの両方でトリガーすると、ナノ粒子は薬物をかなり速く放出することができ、累積薬物放出速度は48時間以内でほぼ80%に達した。薬物放出パターンは、生理学的条件下でpPhD NPは安定した状態のままであるが、特定の刺激因子(pHおよび/またはレーザー)の下では効率的に薬物を放出することを裏付けた。
【0163】
pPhD NPのサイズ/電荷二重形質転換性。本発明者らは、PEG化/架橋形成に用いたシッフ塩基がpHeに対して超敏感であるので、pPhD NP中に内包された超小型ナノ粒子がTME中のPEG表面の剥離後に放出されるだろうと仮定した。この仮説を検証するために、pPhD NPをpH 6.8で様々な時間インキュベートし、それらの「トロイの木馬(Trojan Horse)」挙動をTEMにより直接観察した(
図11a)。ごく早期には、pPhD NPは安定であり、何百という超小型ナノ粒子を具備することができ、「ソルジャー」が保護されて「トロイの木馬」中に保持されることを示した。pPhD NPは1時間目にまだ観察できたが、大部分の超小型ナノ粒子は放出された。12時間目には、全ての超小型ナノ粒子(~4 nm)が放出された(
図11a)。TEM顕微鏡写真は、pPhD NPが正常生理学的条件下で超小型ナノ粒子を保持するのに十分な程安定であるが、TME中pHeに反応して超小型ナノ粒子を効率的に放出できることを証明した。表面電荷の変化は、PEG化と脱PEG化を更に確証した(
図11b)。PEG化の前は、ナノ粒子(upPhD NP;すなわち未PEG化PhD NP)は強い正電荷(43 mV)を示した。PEG化後、表面電荷は12 mVに減少した。pPhD NPをpH 6.8で処置した時、電荷は35 mVに回復した。TEMの結果はと表面電荷研究の結果は、pPhD NPが二重形質転換性であり、サイズと表面電荷の両方を、優れた腫瘍浸透性(超小型)と細胞取込みの増加(強力な正電荷)にとって有益となり得る望ましい値に転換できることを裏付けた。
【0164】
形質転換性が強化された生体内(in vivo)細胞取込み、ROS産生およびアポトーシス。更に、本発明者らは、口腔扁平細胞癌3(OSC-3)細胞におけるpPhD NPの二重形質転換性の利点を調べた。細胞の取込みをpPhD NPと形質転換後pPhD NP(二重形質転換性を実現化するためpH 6.8でインキュベートしたもの)について調べた。
図11cに示される通り、形質転換後pPhD NP(pH 6.8で)は、pH 7.4 のものよりも有意に高い細胞取込みを示した。次にOSC-3細胞においてROS産生を評価したところ、形質転換後ナノ粒子(pH 6.8でのpPhD NP)が遊離型光増感剤(Phy)やpH 7.4のナノ粒子に比較して有意に高い量のROSを生産したことがわかった(
図11d)。細胞アポトーシスアッセイは矛盾のない結果を示した。形質転換後pPhD NPは、pH 7.4でのそれらの相当物や他の対照群よりも、より有意なアポトーシスを示した(
図11e)。
【0165】
pPhD NPの腫瘍浸透性とリソソーム共局在化。pPhD NPは、大きいサイズの粒子よりも腫瘍組織中により深く浸透することができる超小型のナノ粒子に変換することができる。それを実験的に立証するために、pPhD NPと形質転換後pPhD NPをそれぞれOSC-3細胞スフェロイドと共にインキュベートし、共焦点顕微鏡下で観察した(
図11f)。pPhD NPで処置したスフェロイドでは、DOXとPhyの蛍光は両方とも、最初の3時間は周辺に分布し、次いでより長時間のインキュベーション時間(24時間)時には更に分散していた。超小型ナノ粒子に形質転換すると(pH 6.8でのpPhD NP)、蛍光シグナルは最初の3時間で中性pH時よりもずっと速く拡散していき、次いで24時間インキュベーション後には腫瘍スフェロイド全体に渡って分散していた。この結果は、超小型ナノ粒子が大型のナノ粒子よりもずっと深くスフェロイド中に浸透することができることを示した。ナノ粒子が腫瘍細胞中に取り込まれた後、pPhD NPは、リソソームの内側のpHiによってヒドラゾン結合が分解することで薬物(DOX)を放出すると予想された。pPhD NPをOSC-3細胞と共にインキュベートし、DOXの蛍光(緑)をリソソーム(赤)と共に共局在化した。
図11gに示すように、DOXはリソソームとの大きな共局在化領域を示し、このことは、本発明者らのナノ粒子がリソソーム中のDOXを放出することができ、pHiがヒドラゾン結合の開裂を可能にしたことを意味する。
【0166】
pPhD NPの生体外(in vitro)制御可能光線療法。次に、本発明者らはpPhD NPと共にプレインキュベートしたOSC-3細胞の個別の領域に放射線を照射し、レーザー処置細胞と未処置細胞を観察した(
図11h)。pPhD NP+レーザーで処置したOSC-3細胞の大部分は、PI染色により示される通り死滅しており、一方でレーザー処置なしでpPhD NPと共にインキュベートした細胞はほとんど細胞死を示さなかった。対照群のPBS処置細胞は、レーザーに露光した領域と露光しない領域の両方とも、全く明白な細胞死を示さなかった。これらの結果は、pPhD NPによる光線療法が制御可能であり、レーザーを印加した場所にのみ影響を与えることを示した。
【0167】
光線療法と化学療法の相乗効果。pPhD NPの化学療法と光線療法の相乗効果を評価した。OSC-3細胞を様々な濃度の遊離型光増感剤(Phy)、遊離型化学療法剤(DOX)およびpPhD NPそれぞれと共にインキュベートし、次いでレーザー処置を行うかまたは行わなかった(
図11i)。非レーザー処置群では、遊離型Phyは全く明白な細胞毒性を示さず、一方で遊離型DOXとpPhD NPは顕著な抗腫瘍活性を示した。レーザー処置群では、Phyは非レーザー処置相当物に比較して増加した効果を示した。DOXの細胞致死効果は同様なレベルに保持された。pPhD NP治療群は、レーザー処置有りまたは無しの全ての群の中でOSC-3細胞に対して最も有効な抗腫瘍活性を示した。次に、本発明者らは、
図11iに基づいて光線療法と化学療法の組み合わせ指数(CI)を算出し、それらの治療モダリティが癌細胞を死滅させる優れた相乗効果を示すことを証明した(
図11j)。
【0168】
口腔癌は一般に、唇、舌、頬、口腔底部、硬口蓋と軟口蓋、静脈洞および咽頭の部位に発生し、光を容易に受けやすい。それは本研究において開発されたpPhD NPの潜在的用途のための優れた臨床的状況を表す。次に、pPhD NPの二重形質転換性が、ヌードマウスの唇へのOSC-3細胞の移植により確立された同所性口腔癌モデルにおいて、伝達効率を大きく改善できるかどうかについて調べた。pPhD NPの二重形質転換性の重要性を証明するために、本発明者らは、無視できるサイズ/電荷の形質転換性を有し、従ってpPhD NPに対して非形質転換性の対照ナノ粒子として見なすことができる、未PEG化PhD NP(upPhD NP)を使用した(
図12aと
図12b)。
【0169】
pPhD NPの薬物動態評価。pPhD NPの薬物動態研究を頸静脈カテーテル挿入ラットにおいて評価し、そして同用量のupPhD NPと遊離型DOXを対照として用いた(
図13)。i.v.注射後の幾つかの時点で採血し、DOXの蛍光の定量に基づいて薬物濃度を求めた。予想通り、PEG化製剤(pPhD NP)は、最長の血液循環時間を示し、それは未PEG化相当物(upPhD NP)よりも1.68倍長く、遊離型薬剤(DOX)よりも2.2倍長かった。薬物動態挙動は、pPhD NPがより長い血液循環時間を示し、癌と相互作用する薬物の長期時間帯を提供することができることを示唆した。
【0170】
同所性口腔腫瘍モデルに対するpPhD NPのin vivo生体内分布のNIRFI評価。upPhD NPおよびpPhD NPのインビボNIRFIを同所性口腔腫瘍モデルにおいて実施した。どちらのナノ粒子も腫瘍部位に優先的に蓄積した。生体外(ex vivo)NIRFIは、正常臓器よりも腫瘍においてそれらのナノ粒子がより高度に蓄積することを更に確証した(
図14a)。腫瘍の中心部におけるpPhD NPの蛍光シグナルは、upPhD NPのものよりもずっと強力であった。定量的蛍光比較(
図14b)は、pPhD NPがその未PEG化相当物(upPhD NP)よりも有意に高い腫瘍蓄積を示すことを証明した。
【0171】
MRIにより可視化したpPhD NPの時間依存性腫瘍集積。光学イメージングに対比して、MRIはより深部への浸透といった優れた特性を有する。MRIは優れた空間的および解剖学的解明も提供する。pPhD NPはマンガン(II)イオン(Mn
2+)をキレート化する固有の能力を有するので(
図14c)、ナノ粒子の腫瘍集積をリアルタイムで可視化するためにMRIを便利に利用することができる。PhD NPのT1 MRIコントラスト(明暗差)は濃度依存性であり(
図14d)、Mn
2+キレート化PhD NPの緩和能(r
1)は2.89 mM
-1 S
-1であると算出された。同所性口腔癌モデルにおける造影MR動態画像を
図14eに示した。腫瘍部位のT1重み付けMRシグナルは、ナノ粒子の注射後にMRシグナル強度が増加していき、24時間目にピークに達し、次いで徐々に減少するという時間依存性方式を示した。興味深いことに、pPhD NPのMRシグナルは、72時間までの間、相当なレベルで腫瘍部位に保持された。NIRFIとMRI研究からの結果は、pPhD NPが同所性口腔癌モデルにおいて優れた集積性と浸透性を有することを示唆した。
【0172】
生体内(in vivo)光線療法効果の研究。pPhD NPの光線療法効果を同所性口腔癌モデルにおいて調べた。
図14に示す通り、光増感剤を内包する群は、腫瘍部位での温度上昇により測定すると、全てPBS対照群よりも優れた光熱効果を示した。それらの群の中で、pPhD NPで処置した腫瘍の温度は約24℃に増加した。
図14hと
図14iは、pPhD NP処置群が他の3つの群よりも有意に大きいROS産生を示すという、光線力学効果を示した。
【0173】
MRIにより可視化されたPhD NPの光線療法結果(アウトカム)。pPhD NPのin vivo治療効果をその場で(in situ)モニタリングするために更にMRIを利用した。腫瘍部位におけるT1 MRIコントラストはpPhD NP注射後24時間目に大幅に増加した。次に腫瘍を注射後24時間目と48時間目にレーザーで2回処置した。MRIを用いて治療結果を連続的に評価した。72時間目のMR画像は、腫瘍部位において有意な腫瘍の萎縮と大量の壊死組織を示した。腫瘍は時間経過と共に萎縮し続け、注射後7日目には大部分の腫瘍が消失した。MRI可視化は、裸眼で観察できない治療効果の評価のための、特に直接到達することのできない腫瘍にとっての、有望な利点を示した。
【0174】
pPhD NPとそれらの相当物の生体内(in vivo)治療効果。本発明者らは更に、皮下と同所性腫瘍モデルの両方において全身性治療研究を実施し、pPhD NPの相乗的治療効果と優れた効能を確かめた。OSC-3細胞をヌードマウスの脇腹または唇の2箇所に移植し、皮下および同所性腫瘍モデルをそれぞれ確立した。15日目の腫瘍形成後、マウスを次の5つの群(n=6)に無作為に割り付けた:対照(PBS)、遊離型薬物(DOX)、遊離型光増感剤(Phy)、未PEG化PhD NP(upPhD NP)およびPEG化PhD NP(pPhD NP)。全ての腫瘍担持マウスをi.v.投与により3週連続で週1回治療した。皮下モデルでは(2つの腫瘍を担持するマウス)、光増感剤内包材料で処置した右側腫瘍にはレーザー露光(0.4 w/cm
2、3分間)を施し、そして左側腫瘍は化学療法単独での効果を評価するためにレーザー処置は行わなかった。同所性モデルでは、光増感剤内包材料で処置した全ての腫瘍をレーザーで処置した(
図15b)。レーザー処置は、i.v.注射の24時間後と48時間後に行った。腫瘍体積と体重を治療期間に渡り測定した。皮下モデルの腫瘍体積の変化を
図15cに示す。口腔癌は非常に悪性であるため、PBS群と遊離型光増感剤(レーザー無し)群は明白な抗腫瘍効果を示さなかった。腫瘍は急速に成長し、それらの2つの群のマウスは全て2週間以内に巨大な腫瘍のために犠牲になった(死亡と見なした)。レーザー処置有りの遊離型光増感剤(Phy+L)および遊離型化学療法剤(DOX)は、中程度の抗腫瘍活性を示したが、腫瘍成長を遅らせることはできなかった。レーザー無しのナノ製剤群(upPhD NPとpPhD NP)は、遊離の化学療法剤群よりも効果的な抗腫瘍効果を示し、本発明のナノ粒子が薬効を改善できることを示唆した。しかしながら、単独化学療法は腫瘍の進行を効果的に抑制することができなかった。レーザー処置したupPhD NP群(upPhD NP+L)は効果的な腫瘍阻害を示し、且つ腫瘍の進行を効率的に抑制することを示した。最も興味深いことに、形質転換性の「トロイの木馬(Trojan Horse)」に似たナノ粒子(pPhD NP+L)は、例外的な抗腫瘍効果、100%の完全治癒率(
図15d)を示し、これはレーザー処置した非形質転換性ナノ粒子群(50%)および他の対照群(0%)よりもずっと高かった。pPhD NP+L群の最高の抗腫瘍効果は、同所性腫瘍(
図15e)において更に証明され、同様に100%完全治癒率を達成した(
図15f)。pPhD NP+Lにより並びにupPhD NP+Lにより処置した皮下モデルと同所性モデルの腫瘍像(
図15gと
図15f)は、非形質転換性のものに対して形質転換性のナノ粒子の卓越性を更に指摘した。非形質転換性ナノ粒子に比較して、pPhD NPの顕著な腫瘍除去効果は、それらのユニークなサイズと表面電荷の二重形質転換性質による、高度な腫瘍集積、より深部への腫瘍浸透、および増加した細胞取込みに帰することができる。PBS群と比較して腫瘍組織における遊離型光増感剤(Phy)、非形質転換性ナノ粒子(upPhD NP)および形質転換性ナノ粒子(pPhD NP)の光線治療効果を評価するために、H&E染色を使用した。
図15iに示すように、光線療法群は全て、様々な程度の細胞破壊やアポトーシスのような腫瘍組織損傷を引き起こし、その中でpPhD NPが、処置した腫瘍組織において最大損傷面積を誘導した。
【0175】
pPhD NPの全身毒性評価。体重変化、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色をモニタリングすることにより、生体内毒性を評価した。
図15jは、治療の期間に沿ったマウスの体重変化を示す。第二回投与の処置後にDOXで誘発される明白な体重減少;マウスは治療の間体重増加したので、pPhD NPは全身毒性を示さなかった。主な臓器の病変をH&E染色により評価した。DOXは明白な肝臓と心臓毒性を示し、心臓の横紋筋が消失した。他の群は全て識別可能な異常を示さず、このことは当該ナノ製剤が化学療法薬の全身毒性を大幅に減少させることができたことを示す。
【0176】
実施例11.赤血球細胞小胞中に内包されたナノ粒子の調製
材料。フェオホルビドA(Pa)はSanta Cruz Biotechnology社から購入した。イリノテカン(Ir)はBIOTANG Inc.(米国マサチューセッツ州)から購入した。DCF-DAと全ての溶媒はSigma-Aldrich社(米国ミズーリ州)から購入した。
【0177】
RBC膜由来小胞の調製。ドナーが包装した赤血球の期限切れのユニットをUC デービスメディカルセンター病院の輸血業務部門から取得し、病理学臨床研究監視委員会の内部審査(Pathology Clinical Reserch Oversight Committee Internal Review)部門により承認された。RBC膜は、幾らか変更を伴って先行研究に従って調製した。簡単に言えば、RBCを氷上で低張培地(0.25×PBS)中に90分間溶解した。サンプルをBeckman L7-65 超遠心機を使って80000×gで90分間遠心分離した。上清を除去し、ピンク色のペレットを水に再懸濁した。膜タンパク濃度をBCAタンパク質アッセイキット(Pierce、米国イリノイ州ロックフォード)を使って定量した。
【0178】
RBC-PIナノ粒子の合成と特徴付け。PaとIrの複合体(PI)の合成を、本発明者らの先行研究に従ったエステル形成を通して実施した。RBC複合化PI(RBC-PI)ナノ粒子を合成するために、PI複合体をまず1 mg/mL濃度でアセトン中に溶解した。該溶液1mLを素早く3 mLの水に添加し、次いで20μLのトリメチルアミンを添加した。混合物を即座に超音波洗浄機(VEVOR, 110 W, 60 kHz)に入れ、20%の振幅で30秒間ホモジナイズした。1、2または4 mgのRBC 細胞膜(タンパク質濃度に基づいて計算)を加えた後、RBC膜対PIの比が1:1、2:1および4:1を有するRBC-PIを形成させた;該溶液をデジタル超音波洗浄機(Vevor、120 W、40 kHz)の水浴中で2分間超音波処理してナノ粒子を形成させた。
【0179】
RBC-PIの形態を低温透過型電子顕微鏡(JEM-2100F、日本、東京)の下で観察し、サイズ分布とゼータ電位を動的光散乱(DLS)装置(Zetasizer、Nano ZS、英国Marvern社製)により測定した。安定性試験を10%FBS/PBSの存在下で1mg/mL(PI濃度)で実施した。各時点のサイズ分布と多分散性指数(PDI)を30日間の期間に渡り動的光散乱により試験した。
【0180】
実施例12.赤血球小胞中に内包されたナノ粒子の性質
方法
照射による生体外(in vitro)ROS産生および熱発生の評価。様々な濃度のRBC-PIまたはPI NPSsを96ウェルプレート中に入れ、0.8 w/cm2の680 nmレーザー(中国、上海)で3分間露光した。熱発生は、NIR温度カメラ(FLIR、米国カリフォルニア州サンタバーバラ)により測定した。ROS産生は、指示薬としてDCF-DAを使って測定した。簡単に言えば、種々の濃度のRBC-RIまたはPI NPSsを50μM DCFH-DA(発光溶液)と共にインキュベートし、続いて光線処置した(680 nm、0.8 W/cm2で3分間)。蛍光をSpectraMax M3マイクロプレートリーダー(Molecular Devices、LLC、CA)により定量した。
【0181】
薬物放出研究。2つの異なるpH値(7.4または5.4)に調整した50μM RBC-PI(1:1)溶液300μLを96ウェルプレート中に入れた。異なるpHの各群を0、0.4または0.8 Wの680レーザーで3分間処置した。レーザーは、薬物放出への熱の影響を最小にするために12分間隔で印加した。各時点において、各サンプルからの2μLの溶液を98μLのDMSOで希釈し、光トリガー後に放出されたIr蛍光を調べた。注目すべきは、Paと複合体化した時にIr蛍光が消光されたことである。
【0182】
細胞取込みと細胞内ROS産生。A549肺癌細胞を12ウェル培養皿中に播種し(2×105細胞/ウェル)、次いで25μMのRBC-PIまたはPI NPSsと共に4時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、細胞を50μMのDCF-DAと共に30分間インキュベートした。サンプルを光(630 nm、Omnilux New-U LEDパネル)で1分間処置しまたは処置せず、そして細胞内PI取込み(Pa蛍光に基づく)とROS産生をフローサイトメトリー(FACSCantonTM(登録商標)、BD Bioscience社、SD、米国カリフォルニア州)により分析した。
【0183】
細胞取込み。A549肺癌細胞をガラス底皿(Cellvis, Mountain View, 米国カリフォルニア州)中に播種し、25μM RBC-PIで処理した。2時間後、サンプルを新鮮培地と交換し、630 nmのLED光で2時間毎に30秒間ずつ処理し、または処理しなかった。過剰な細胞毒性を避けるために比較的低い光線量を使用した。PaとIrの細胞内蛍光を様々な時点で蛍光顕微鏡法(Olympus IX81/IX2-UCBシステム、CV、米国ペンシルベニア州)によりモニタリングした。
【0184】
細胞毒性アッセイ。製造マニュアル(Promega、米国ウィスコンシン州マディソン)に従ってMTS法により細胞生存度を測定した。A549細胞を96ウェルプレート中に5000細胞/ウェルの密度で播種した。細胞を異なる濃度のRBC-PI(1:1)、PI NPSs、遊離型PaおよびIrにより同等の濃度で処置した。6時間後、培地を新鮮な完全培地で置換し、続いて630 nmの光を3分間照射した。更に24時間インキュベーション後、MTS発光溶液を加え、490 nmでの吸光度をSpectraMax M3マイクロプレートリーダーにより評価した。実験は三通りに実施し、3つの独立した実験を行った。
【0185】
マクロファージ様細胞を用いた細胞取込み研究。ヒトU937マクロファージ様細胞を96ウェルプレート中に5000細胞/ウェルの密度で一晩播種した。U937細胞を10 nMのPMA(Sigma-Aldrich社製)を用いて24時間感作した。サンプルを新鮮培地と交換し、25μMのPI分子の濃度でRBC-PI(1:1)およびPI NPSsで処理した。次いで細胞を0.5%Triton X-100と共に12分間インキュベートし、次いで4容のDMSO(v/v)中に添加した。U937細胞による粒子の取り込みを定量するために、Paの蛍光をSpectraMax M3マイクロプレートリーダーを使って検出した。
【0186】
薬物動態評価。全ての動物実験は、カリフォルニア大学デービス校の実験動物管理・使用組織委員会により承認され(IACUC #07-13119と09-15584)、手順は組織のガイドラインに従った。頸静脈にカニューレ挿入した雌のSprague-Dawleyラット(200 g)をHarland(米国イリノイ州インディアナポリス)から購入し、容易な薬物投与と繰り返し採血を可能にした。5 mg/kgのRBC-PI(1:1)とPI NPSs(2.5 mg/kgのPaと2.5 mg/kgのIr)をラット(各群につきn=3)にi.v.投与した。注射後予め決められた時点で全血サンプル(~150μL)を頸静脈カテーテル経由で採集した。20μLの血漿サンプルを80μLのDMSOと混合し、Ex/Em:412/680 nmチャンネルを使ってPa蛍光を測定した。未処置の血漿をブランク対照として使用した。
【0187】
腫瘍担持マウスにおける抗腫瘍効果研究。4~6週齢のヌードマウスをJackson Laboratory(Sacramento, 米国カリフォルニア州)から購入した。2×106 個のA549細胞を脇腹に皮下注射することにより肺癌担持モデルを確立した。腫瘍が500~650 mm3のサイズに達した後、マウスを次の4群に無作為に割り付けた:PBS、PaとIrの遊離型混合物、PIおよびRBC-PI(1:1)(10 mg/kgのPaと10 mg/kgのIrに等しい)(群あたりn=6)。薬物を静脈内(i.v.)注射し、注射後24時間目、48時間目、72時間目および96時間目に腫瘍に光を照射した。腫瘍領域全体を、1.2 W/cm2の680 nmレーザーから発せられた光点により3分間被覆した。腫瘍表面温度をNIR温度カメラにより測定した。動物を毎日モニタリングし、体重と腫瘍サイズを一週間に2回測定した。腫瘍サイズは次の式を使って算出した:
長さ×幅2/2(mm3)。
【0188】
In vivo体内分布研究。In vivo体内分布研究をA549腫瘍担持マウスにおいて評価した。腫瘍が500~650 mm3のサイズに達した後、腫瘍担持マウスを次の2つの群に割り付けた(群あたりn=3):RBC-PI(1:1)およびPI NPSs(20 mg/kg PI、10 mg/kgのPaと10 mg/kg Irに等しい)。i.v.注射後24時間目および48時間目に、マウスを犠牲にし、腫瘍と主な臓器を回収した。各臓器100 mgをPBS中でホモジナイズし、続いて20,000×gで10分間遠心分離した。収集した上清を5容のメタノールに加えてタンパク質を沈澱させた。更に溶媒を真空下で留去した。PI(Pa蛍光に基づく)濃度は、メタノール中への再溶解により、SpectraMax M3マイクロプレートリーダーを用いて測定した。結果は組織1グラム当たりのPIの重量として表した。
【0189】
統計学。データは平均±標準偏差(SD)として表した。一元配置分散分析またはスチューデントt検定を使って、群間比較を実施した。0.05未満のP値を統計的有意差であると見なした。
【0190】
結果と考察
生物模倣性(バイオミミクリー)RBC-PI複合体の調製と特徴付け。本発明者らは以前に、疎水性光増感剤のフェオホルヒドA(Pa)と比較的親水性の抗腫瘍薬であるイリノテカン(Ir)との複合体から自己集合した新規な完全APIナノ粒子(PI)を開発した。その両親媒性に基づくと、PIは賦形剤が無くてもナノ粒子に自己集合することができ、光線力学療法、光熱療法および化学療法を含む3併用療法に利用することができた。しかしながら、PI NPSsはあまり安定でなく、それらの強い正電荷(+42 mV)が理想より低い(less-ideal)血液循環時間(9.1±2.7時間)を引き起こし、よって癌療法に十分な可能性を与えた。ナノ粒子の循環時間を大幅に延長するためにRBC細胞膜生物模倣性表面修飾を使うという興味深い方策によりアイデアを得て、本発明者らは最初に細胞膜に導入してPI NPSベースの薬物自己送達システムを修飾し、それらの安定性、PKプロファイルおよび抗治療指数を改善することとした。
【0191】
最初に、RBC細胞膜を低張性ショックにより抽出した後、小型押出成形した。単純な混合方法を用いる初期の意図では、強く正に帯電したPI NPSは負に帯電したRBC小胞と素早く相互作用して、強力な静電気力を通して沈澱を引き起こした。これは、Luk他がRBC小胞を正に帯電したPLGA高分子コアと混合しようと試みた時に彼らにより記載された知見と同様であった。大部分の報告されている細胞膜で被覆されたナノ粒子は、通常、負のゼータ電位を有するコアを必要としたということに着目することは重要である。その理由は、これは押出成形または自己集合を通して細胞膜が粒子表面全体を被覆できるようにするからである。1つの例外は、弱い正電荷(+5~+15)を有するシリカ/シリコンナノ粒子であった;しかしながら、発表されたTEM写真に基づくと、細胞膜はシリカ表面上に「小型凝集体」を形成した。
【0192】
この制限を避けるために、本発明者らは新たに、強力な静電気相互作用を防止するためにトリエチルアミン(TEA)を使用してPI NPSsの正電荷を一時的に中和する方法を開発した。この条件下で、RBC膜を添加し、TEAをゆっくり除去した後、短い2分間の超音波処理を行った。この方法は、RBC小胞とPI NPSsを安定なナノ粒子へと形成できるようにした。
【0193】
PIとRBC膜により形成されたこの新規ナノ構造を更に特徴づけるために、本発明者らは、それらの2成分の異なる比率を使用し、サイズ、ゼータ電位および形態の変化を評価した。
図16a&
図16bから分かるように、RBC小胞とPI NPSsは、それぞれ190 nmと50 nmの平均直径を示し、-31 mVと+43 mVのゼータ電位を有した。上述した方法を使ってそれらを異なる比率で一緒に集成した時、ナノ粒子を1:1~4:1の比(RBC小胞タンパク質濃度:PI分子量の比)でナノ粒子を形成することができた。生成したRBC-PIのサイズは、元のPI NPSsと細胞膜によって形成された小胞の間に収まった;そしてこれはRBC小胞が量依存性であった(
図16a、
図16b)。また、様々な比を有するナノ粒子のゼータ電位も+43 mVから-29~-32 mVへと減少し、これはRBC膜小胞のものと同等であった(
図16d)。これらの結果は、PIナノ粒子の表面がRBC小胞により上手く修飾されたことを示した。
【0194】
しかしながら、膜の量依存性サイズ変化は、別のタイプの細胞膜で被覆されたコア-シェル型ナノ粒子のサイズがもっぱらコアサイズに基づいたことから、予想外であった。従って、本発明者らは、RBC膜とPIモノマーの間の別の構造の形成と追加の相互作用の発生を疑った。低温電子顕微鏡法を用いて様々な比でのRBC-PIナノ粒子の形態変化を可視化した(
図16cと
図16d)。コア構造は、膜の量依存性のサイズ増加と共に観察されたが、「コア様」構造の密度は減少した。RBCタンパク質濃度対PIの比を4:1に設定した時、「コア様」ナノ粒子から余分な細胞膜が伸びて「ハンドバッグ」構造を形成した(
図16d)。
【0195】
本発明のシステムでは、RBC膜とPIの間の弱い分子間力が安定なRBC-PIナノ粒子をもたらすと確信する。皆周知であるように、液体媒質中の固体粒子は弱い相互作用力を受ける。それらの力のうち、ファンデルワールス力、水素結合およびπ-π相互作用が、ナノ粒子を安定に保持するための自己集合系において最も重要な低エネルギー力である。これらの力は、分子間の凝集度に依存する引力相互作用と反発相互作用とを併合する。このような現象は、本発明者らの冷却EM画像(
図16c、
図16d)において正確に観察することができた。本発明者らはRBC小胞の水性コアと二重層の両方にPI分子が分散されると推測した。RBCタンパク質濃度:PIの比が1:1に近い時、RBC-PIナノ粒子を同等な小サイズ(60 nm付近)に安定に維持するのに引力が優勢な力であった。これらの引力相互作用は、PI→PI、およびPI→RBC小胞のリン脂質の両方に由来した。RBC小胞の量が増加すると共に、反発力がナノ粒子を大きくし、最終的にRBC膜の一部分を外側に引き伸ばした(
図16d)。
【0196】
それらのユニークな形態および構造上の特徴は、RBC-PIナノ粒子を、別の報告された細胞膜被覆コア-シェル型ナノ粒子またはリポソーム様薬物内封ナノ粒子から識別化した。報告された細胞膜被覆コア-シェル型ナノ粒子は、通常、静電相互作用と疎水性力を通して膜がその上に結合できる堅固なフィルム高分子コアを有していた。その上、負の表面電荷を有するコアは、膜で被覆されたコア-シェル型ナノ粒子の形成において重要な役割を果たし、一方で正に帯電したコアは、強力な静電気相互作用のため観察可能な凝集体を形成した。本発明の製剤は、それらのリン脂質二重層の内側に疎水性薬物を担持しているかまたはそれらの水性コアの内側に親水性薬物を担持しているリポソーム製剤とも異なっている。それらのリング状リン脂質二重層構造と薬物の離散構造は、リポソームと薬物沈殿物の比較的高いコントラストのために冷却EM画像において容易に識別することができる。しかしながら、典型的な二重層構造はナノ粒子表面上に観察されず(
図16c)、これは二重層とコアの間のコントラストを減少させたRBC小胞の水性コアと二重層の両方に分布するPI分子に起因するものと考えることもできる。結局、それらの結果は、RBC膜が粒子表面を修飾するだけでなく、PIと複合体形成し、共同して「コア様」構造を形成することも示唆した(
図16b)。最も重要なのは、RBC-PIナノ複合体は通常のRBCのものと類似したタンパク質パターンをまだ保持していた点である(
図16e)。
【0197】
RBC-PIの物理分析と機能分析。PI NPSsとRBC-PIナノ粒子は、370 nmに特徴的なピークを有する(これはIrの特徴的吸収を表す)類似したUVスペクトルを示した。Paの特徴的ピークは412 nmと670 nmに示された。しかしながら、412 nmピークはIrの370 nmピークと重複していた(
図17a)。別のRBC被覆ナノ粒子と同様、RBC膜対PIの比が増加すると共に417 nmから437 nmへの約20 nmの赤色効果が観察された。
【0198】
本発明ナノ粒子のユニークな構造を更に細かく分析するために、本発明者らは更に、様々に異なるRBC小胞:PI比においてRBC-PIの物理的および機能的性質の変化を比較するための実験を行った。本質的な光増感剤であるPI NPSsは、画像誘導癌療法のために蛍光、熱およびROSを生成することができる。π-π相互作用のため、PI NPSsの蛍光は水中で消光されたが、10%SDS溶液中への溶解後には回復することができた(
図17b~
図17c)。本発明者らは、細胞膜との相互作用後のRBC-PI中へのPI分子の封入が、親のPI NPSsのものに比較してあまりコンパクトでなく、消光(クエンチング)効果が小さいという仮説を立てた。興味深いことに、RBC小胞対PI NPS比が増加すると、水中での蛍光の消光の程度が減少した(
図17b)。消光比(SDSの存在下での蛍光/水中での蛍光)は、細胞膜の量が増加すると共に、PI NPS(0:1)対RBC-PI(4:1)の場合に140から55へと減少した。同様に、PI NPSとRBC-PIの両方について用量依存性ROS産生が観察された。RBC-PI(4:1)は、それの最低の消光効果と一致して、最高のROS産生を有した。興味深いことに、RBC小胞も光の照射によってROSを産生したため、このROS産生は部分的にRBC膜の成分も一因となり得る(
図17d)。
【0199】
最後に、PI NPSsとRBX-PIナノ粒子の両方において光の照射による用量依存性温度上昇が観察された(
図17e)。PI分子が自己集合しそして消光する時、それは構造的な再構成を誘導することができ、消光の比率によって大部分の光エネルギーが熱へと変換された。従って、細胞膜の量が増加すると共に分子運動により消光比が減少すると、熱発生能力が減少した(
図17e)。興味深いことに、ROS産生と同様、RBC膜小胞はRBC-PIでの熱発生に何らかの役割を果たすと思われた。よって、PI NPSとRBC:PI(1:1)とで類似した消光比においては、RBC:PI(1:1)の方が著しく高い熱発生を有した(
図17e)。このような現象は恐らく、RBC内在性のヘモグロビンに結合したプロトポルフィリンと鉄に起因するのであろう。RBC膜中のタンパク質の存在を、赤血球とRBC膜のSDS-PAGE分析において検出した(
図16e)。まとめると、これらの結果は、RBC膜がPIナノ粒子に物理的および機能的変化をもたらす能力を授けたが、別の報告された細胞膜被覆コア-シェル型ナノ粒子のような単純な表面被覆ではないという我々の見解を強力に裏付けた。
【0200】
PIのナノ構造は、種々の溶液中でイオン交換に遭うと凝集を引き起こした。広大な表面積を有する純粋な小型サイズのナノ医薬は、引力と凝集を引き起こし得る、十分に高い自由エネルギーまたは表面電荷をもたらし、それはより大きい粒子への再結晶に至る。これはオストワルド熟成としても知られる。更に、水不溶性薬物から成る純粋なナノ医薬は、常に体内への投与後に血液、胃液および他の体液中での希釈による沈澱を受けやすい。従って、純粋な薬物自己送達システムでは、賦形剤や安定剤がまだ必要である。本発明者らは、ウシ胎仔血清(FBS)の存在下でのPBS(pH 7.4)溶液中のRBC-PIの安定性を調べた。
図17fに示されるように、RBC-PIは、サイズとPDIの面で30日間を通して優れた安定性を示した。対照的に、PI NPSsは長期安定ではなく(
図18)、FBSの存在下で7日間以内に沈澱した。これに基づいて、本明細書中に記載の新規細胞膜複合化技術は、それらの純粋な薬物自己送達システムの生体内安定性を増強する、理想的な溶液を提供する。
【0201】
RBC-PIの生体外(in vitro)光誘起性化学光線療法。RBC-PI(1:1)は血清の存在下でさえも非常に安定であり、最大の薬物封入比と、潜在的に有益な組織浸透性のために最小のサイズを有したので、本発明者らはその後の生体外および生体内研究のためにこの製剤を選んだ。最初に、RBC-PIとPIの細胞取込みを評価したところ、RBC-PIがPIと同等の量においてA549ヒト肺癌細胞により効率的に取り込まれ得ることがわかった(
図19a)。レーザー照射により、RBC-PI処置細胞は、PI NPSs処置細胞に比較してより高い細胞内ROS産生を有し(
図19b)、これはRBC-PIがPI NPSsに比較してより優れたROS産生効率を有するという観察結果(
図17d)と一致していた。遊離型イリノテカンで処置した細胞は、光線処置により細胞内ROSを産生しなかった。
【0202】
PaとIrを、酸性pH(例えばリソソーム中のpH 5.4)の存在下で開裂可能であり薬物放出をもたらす、エステル結合で複合体化(コンジュゲート)した。本発明者らの以前の知見と同様に、RBC-PIからのIr放出は、中性pHに比較して酸性pHにおいてより高い効率で、レーザー処置により誘起された(
図19c)。薬物放出動態は、蛍光顕微鏡の下、細胞系レベルでモニタリングすることができた。A549細胞をRBC-PIで処置し、続いてレーザー処置を施したまたは施さなかった。
図20bは、増加したポルフィリンシグナルにより証明される、時間依存性RBC-PI取込みを表し、このシグナルは、RBC-PIの解離後にPI複合体から開裂された遊離型Pa分子に由来した。青色蛍光Irは、Paと複合体化すると消光したが、光線処理によってPI複合体から開裂された後には回復した。対照的に、光線処置なしの場合は、PaとIrシグナルの両方のレベル低下が認められ、取込み量は同じはずであるから、光線処置なしでは薬物放出プロセスがより遅いことを示す。これらの結果は、PI NPSsと同様に、レーザーがRBC-PIからの薬物放出を著しく促進できたことを確証する。
【0203】
薬物動態とマクロファージ取込み。
図17fに示される通り、RBC-PIが、30日間の期間を通して優れた安定性を示し、サイズとPDIの両方の点で最小の変化を有することを証明した。免疫系による認識のため起こる血液からのナノ粒子の迅速なクリアランスは、EPR効果を介したそれらの受動的腫瘍内集積のための時間枠を明らかに制限する。加えて、強力な正の表面電荷もマクロファージ取込みを強化した。PIナノ粒子は、一部は強い正電荷のために血清安定性が低くかつ迅速なクリアランスを有していたが、それに対しRBC-PIナノ複合体はそれらの欠点を大幅に克服するだろう。
図20aに見られるように、RBC-PIは、PI NPSsよりも有意に長い半減期(17.3時間対9.1時間)を有し、曲線下面積(AUC)はほぼ10倍大きかった(58824対5902.7 ug/L×h)。
【0204】
高められた血清安定性の特性に加えて、本発明者らは、RBC膜の修飾がマクロファージ取込みを更に減少させ、より遅いクリアランスをもたらすと考えた。従って、RBC-PIとPIをホルボール12-ミリスチン酸13-アセテート(PMA)活性化ヒトU937マクロファージ様細胞系と共に2、4および8時間インキュベートした。RBC-PIとPIのマクロファージ貧食作用を、Paの蛍光強度に基づいて定量した。PI NPSsの時間依存性マクロファージ取込みが認められた(
図20b)。8時間目には、RBC-PIはPIに比較して8倍以上低い(1/8より低い)マクロファージ取込みを有した。マウスのマクロファージ様細胞系RAW 264.7を使った場合にも同様な結果が観察されたが、差はより少なかった(2倍低い取り込み(1/2の取込み)。RBC-PIはマウスマクロファージによって認識されるように見えた。これは、マウスマクロファージがヒトRBC表面抗原上で種間差をまだ認識できるためであろう。この結果は十分に予想されたことであり、別の研究は上記の実験に通常げっ歯類RBCを使用するので、このような現象に遭遇しなかった。CD47やCD59のような機能的RBC細胞膜タンパク質は、マクロファージに活発にシグナル伝達しかつそれらの取込みを防止する自己マーカーとしてRBC表面上に同定された。それらの固有の表面マーカーは、細胞膜で被覆されたナノ粒子を免疫サーベイランスから保護することができる。従って、RBC-PIの免疫回避機能は、次の2つの要因に起因するものであった:1) PI NPSsの強力な正電荷に比較して、RBC-PIの負の表面電荷は、マクロファージ細胞による貧食作用にあまり好ましくないこと;ii) RBC-PI表面上のRBCから受け継がれた「貧食せず(don’t eat me)」表面マーカーがマクロファージ取込みを防止しうること。
【0205】
生体外(in vitro)化学光線療法効果。遊離型薬物、PI NPSsおよびRBC-PIのin vitro細胞毒性効果をA549細胞において評価した。遊離型薬物、PI NPSsおよびRBC-PIは全て、光線処置無しでは無視できる細胞毒性を示し、RBC膜が毒性を引き起こさなかったことと、Ir放出がそのような条件下で制限されたことを表した(
図21a~
図21b)。対照的に、光線処置のもとでは、遊離型Pa、PI NPSsおよびRBC-PI群において用量依存性抗腫瘍活性が観察された。PI NPSs、PaおよびRBC-PIのIC
50値は、それぞれ12.7、7.0および5.4μMである。上記結果は、RBC-PIがPI NPSsの化学光線療法効果を保持していることを示した。
【0206】
生体外化学光線療法効果。遊離型薬物、PI NPSsおよびRBC-PIのin vitro細胞毒性効果をA549細胞において評価した。遊離型薬物、PI NPSsおよびRBC-PIは全て、光線処置なしでは無視できる細胞毒性を示し、RBC膜が毒性を引き起こさなかったことと、Ir放出がそのような条件下で制限されたことを表した(
図21a~
図21b)。対照的に、光線処置のもとでは、遊離型Pa、PI NPSsおよびRBC-PI群において用量依存性抗腫瘍活性が観察された。PI NPSs、PaおよびRBC-PIのIC
50値は、それぞれ12.7、7.0および5.4μMである。上記結果は、RBC-PIがPI NPSsの化学光線療法効果を保持していることを示した。
【0207】
生体内(in vivo)抗腫瘍効果。生体内抗腫瘍効果を評価するために、A549腫瘍担持マウスに遊離型Pa+Ir、PI NPSsおよびRBC-PIを1日目、7日目および21日目に投与した;注射後24時間、48時間、72時間および96時間目に腫瘍をレーザー(680 nm、1.2 W/cm
2)で3分間処置した。
図21cに示されるように、遊離型Pa+IrおよびPI NPSs処置群は、PBS対照よりも優れた腫瘍萎縮を示した。全ての処置群の中で、RBC-PI群が最高の抗腫瘍効果を示した。マウスの体重は治療の最中、無視できるほどの変化を示し(
図21d)、この結果は全ての群で一般に低毒性を示唆している。
【0208】
局所的熱発生は、PI媒介光線療法のため局所腫瘍を破壊する主要因の1つであり、よって本発明者らは注射後様々な時点で腫瘍表面温度を記録した(
図21e)。Pa+Ir、PI NPSおよびRBC-PI群における腫瘍表面温度は、PBS対照群のものに比較して全て増加した。上記日数の中で、48時間の時点が全処置群のピークに達するように見え、その時間以降は温度が降下し始めた。最も重要な点は、RBC-PI処置群が96時間以後であっても、PI NPS群とPa+Ir群の両者よりも有意に高い腫瘍温度増加を有したことである。これは恐らく、RBC小胞の複合体形成後に、腫瘍部位における顕著に高い薬物集積を可能にする、より長い循環時間のためであった。この結果は体内分布研究によっても確証された(
図21f)。一方、この結果は、RBC-PI(1:1)が、同濃度のPI NPSsよりも優れた熱発生能力を有したという本発明者らの以前の所見と一致した。残念ながら、RBC-PI処置群では肝臓取込みにおいて僅かだが有意でない減少傾向が観察された。上述したように、これは、マウスのマクロファージが種差のためにヒト表面抗原をまだ認識しうるためであろう。
【0209】
全身毒性の評価のため体重変化を利用することに加えて、組織病理学的検査のために主要な臓器を回収した。検査した臓器には最小のオフターゲット毒性が検出された。遊離型Pa+Ir、PI NPSsおよびRBC-PI媒介化学光線療法から回収された腫瘍も評価した。PBS対照群に比較して、遊離型Pa+Ir処置腫瘍はある程度の細胞分離を有し、一方でPI NPS群とRBC-PI群は細胞密度に明白な減少を示した。核内での濃縮と断片化および細胞形態の喪失は、いずれも処置後のアポトーシスと壊死の進行を暗示していた。総合すると、RBC-PIは、高い生体適合性と低い全身毒性と共に、優れた生体内抗腫瘍治療効果を有することが証明された。
【0210】
生体内(in vivo)抗腫瘍効果。生体内抗腫瘍効果を評価するために、A549腫瘍担持マウスに遊離型Pa+Ir、PI NPSおよびRBC-PIを1日目、7日目および21日目に投与した;注射後24時間、48時間、72時間および96時間目に腫瘍をレーザー(680 nm、1.2 W/cm
2)で3分間処置した。
図21cに示すように、遊離型Pa+IrおよびPI NPS処置群は、PBS対照よりも優れた腫瘍萎縮を示した。全ての処置群の中で、RBC-PI群が最高の抗腫瘍効果を示した。マウスの体重変化は治療期間中無視できるほどであり(
図21d)、このことは全ての群で一般に低毒性を示唆している。
【0211】
局所的熱発生は、PI媒介光線療法のため局所腫瘍を破壊する主要因の1つであり、よって本発明者らは注射後様々な時点で腫瘍表面温度を記録した(
図21e)。Pa+Ir、PI NPSおよびRBC-PI群における腫瘍表面温度は、PBS対照群のものに比較して全て増加した。上記日数の中で、48時間の時点が全処置群のピークに達するように見え、その時間以降は温度が降下し始めた。最も重要な点は、RBC-PI処置群が96時間以後であっても、PI NPSとPa+Ir群の両者よりも有意に高い腫瘍温度増加を有したことである。これは恐らく、RBC小胞の複合体形成後に、腫瘍部位における顕著に高い薬物集積を可能にする、より長い循環時間のためであった。この結果は体内分布研究によっても確証された(
図21f)。一方、この結果は、RBC-PI(1:1)が、同濃度のPI NPSよりも優れた熱発生能力を有したという本発明者らの以前の所見と一致した。残念ながら、RBC-PI処置群では、肝臓取込みにおいて僅かだが有意でない減少傾向が観察された。上述したように、これは、マウスのマクロファージが種差のためにヒト表面抗原をまだ認識しうるためであろう。
【0212】
全身毒性の評価のため体重変化を利用することに加えて、組織病理学的検査のために主要な臓器を回収した。検査した臓器には最小のオフターゲット毒性が検出された。遊離型Pa+Ir、PI NPsおよびRBC-PI媒介化学光線療法から回収された腫瘍も評価した。PBS対照群に比較して、遊離型Pa+Ir処置腫瘍はある程度の細胞分離を有し、一方でPI NPS群とRBC-PI群は細胞密度に明白な減少を示した。核内での濃縮と断片化および細胞形態の喪失は、いずれも処置後のアポトーシスと壊死の進行を暗示していた。総合すると、RBC-PIは、高い生体適合性と低い全身毒性と共に、優れた生体内抗腫瘍治療効果を有することが証明された。
【0213】
上記発明は、理解の明確化のために説明と実施例により幾らか詳細に記載してきたが、当業者は、添付の特許請求の範囲内で一定の変更と改良を実施できることを認識するだろう。加えて、本明細書中に提供される各参考文献は、あたかも各々の参考文献が参照により個別に組み込まれたのと同程度にその全内容が参考により組み込まれる。本出願と本明細書中に提供される参考文献との間に矛盾が存在する場合には、本出願が優先するだろう。