(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】接合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/14 20060101AFI20231025BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20231025BHJP
B29C 65/44 20060101ALI20231025BHJP
B29C 65/50 20060101ALI20231025BHJP
C09J 7/10 20180101ALI20231025BHJP
【FI】
B29C65/14
B01J19/08 E
B29C65/44
B29C65/50
C09J7/10
(21)【出願番号】P 2020518235
(86)(22)【出願日】2019-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2019017063
(87)【国際公開番号】W WO2019216182
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】522103410
【氏名又は名称】遠藤 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和弘
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147018(JP,A)
【文献】特開2019-014103(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124215(WO,A1)
【文献】特開2012-056308(JP,A)
【文献】特開2011-235570(JP,A)
【文献】特開2015-044301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
B01J 19/08
B32B 1/00-43/00
C09J 7/00- 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、5~40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5~3.5kVの電圧を印加して生じさせたプラズマを照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、
110℃で、剪断応力が0.5MPa以上となるように接着するステップと、
を備え、
前記2つの物体は、シリコーン変性樹脂を含有しないポリフェニレンサルファイド、又はシリコーン変性樹脂を含有しないポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと鉄との組合せの物体である
ことを特徴とする接合物の製造方法。
【請求項2】
前記2つの物体の双方と接合可能なフィルムの一方の面と前記2つの物体のうちの一方とを接合するステップと、
前記フィルムの他方の面と前記2つの物体のうちの他方とを接合するステップと、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の接合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を接合する技術に関し、とくに、2つの物体を接合して接合物を製造する方法、及び2つの物体を接合してなる接合物に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの物体を接合する方法として、接着剤により接合する方法、ボルトにより接合する方法、溶着により接合する方法などがある。物体の材質や要求される接合の強度などに応じて、適切な接合方法が選択される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の接合方法は、それぞれ課題を有している。例えば、接着剤を用いる場合には、接着剤の経年劣化や揮発性有機化合物(VOC)の発生などが問題となりうる。また、ボルトを用いる場合には、接合する物体の強度の低下が問題となりうる。また、溶着による場合には、加熱による物体の劣化などが問題となりうる。
【0004】
本発明はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところの一つは、物体を接合する技術を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の接合物の製造方法は、2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、2つの物体のそれぞれの接合面にプラズマを照射するステップと、プラズマが照射された接合面同士を、物体に含まれる物質の融点未満の温度で接着するステップと、を備える。
【0006】
この態様によると、2つの物体を、接着剤やボルトなどを用いることなく、容易かつ強固に接合することができる。したがって、接着剤を使用する場合における、接着剤の経年劣化や揮発性有機化合物の発生の問題、ボルトを用いる場合における、接合する物体の強度の低下の問題、溶着による場合における、加熱による物体の劣化の問題などを解決することができる。また、厚みのある物体、例えば1cm以上の厚さの板であっても、容易かつ強固に接合することができる。
【0007】
接着するステップは、室温で実行されてもよい。この態様によると、加熱又は冷却する必要がないので、接合に要する時間、費用、エネルギーなどを低減させることができるとともに、加熱又は冷却による物体への悪影響を防ぐことができる。
【0008】
2つの物体は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、酸化マグネシウム、又はガラスとの組合せ、ポリアミドと、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリフェニレンサルファイドと、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエチレンテレフタレートと、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリカーボネートと、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、酸化マグネシウム、又はガラスとの組合せ、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せのうちのいずれかの組合せの物体であってもよい。
【0009】
接着するステップは、室温で実行される場合、2つの物体は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドと、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリエチレンテレフタレートと、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリカーボネートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンとの組合せ、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミドとの組合せ、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンとの組合せのうちのいずれかの組合せの物体であってもよい。
【0010】
2つの物体の双方と接合可能なフィルムの一方の面と2つの物体のうちの一方とを接合するステップと、フィルムの他方の面と2つの物体のうちの他方とを接合するステップと、を更に備えてもよい。この態様によると、直接接合することが困難である2つの物体を接合したり、直接接合するために加熱が必要となるような2つの物体を室温で接合したりすることができる。
【0011】
本発明の別の態様は、接合物である。この接合物は、2つの物体のそれぞれの接合面にプラズマを照射することにより接合面に生成された官能基同士の化学結合により2つの物体が接合されてなる。
【0012】
この態様によると、2つの物体が、接着剤やボルトなどを用いることなく、容易かつ強固に接合されるので、接合物の強度を向上させることができるとともに、接合物の劣化を低減させることができる。
【0013】
2つの物体の間に配置されたフィルムを更に備えてもよい。接合物は、フィルムの一方の面と2つの物体のうちの一方とが接合されるとともに、フィルムの他方の面と2つの物体のうちの他方とが接合されてなってもよい。この態様によると、直接接合することが困難である2つの物体を接合したり、直接接合するために加熱が必要となるような2つの物体を室温で接合したりすることができる。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。また、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、物体を接合する技術を改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態に係る接合方法による接合の原理を模式的に示す図である。
【
図2】実施例において使用した回転ドラム式プラズマ照射装置の構成を概略的に示す図である。
【
図3】接合の強度を評価するために実施したT型剥離試験の原理を模式的に示す図である。
【
図4】接合の強度を評価するために実施した引張り剪断試験の原理を模式的に示す図である。
【
図5】プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す図である。
【
図6】プラズマ照射前後のPPSフィルムのX線光電子分光の測定結果を示す図である。
【
図7】プラズマ照射前後のAl板のX線光電子分光の測定結果を示す図である。
【
図8】プラズマ照射前後のPPSフィルムの走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図9】プラズマ照射回数と水の接触角の関係を示す図である。
【
図10】プラズマ照射回数と接合強度の関係を示す図である。
【
図11】PPSフィルムの示差熱分析の測定結果を示す図である。
【
図12】PPSフィルムのX線回折の測定結果を示す図である。
【
図13】接合温度と接合強度の関係を示す図である。
【
図14】プラズマ照射前後のCu板のX線光電子分光の測定結果を示す図である。
【
図15】全反射測定法により測定したCu板の表面の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【
図16】プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す図である。
【
図17】プラズマ照射回数と水の接触角の関係を示す図である。
【
図18】プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す図である。
【
図19】プラズマ照射前後のPCフィルムの走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図20】プラズマ照射回数と水の接触角の関係を示す図である。
【
図21】プラズマ照射回数と接合強度の関係を示す図である。
【
図22】プラズマ照射前後のPCフィルムのX線光電子分光の測定結果を示す図である。
【
図23】X線光電子分光の測定結果から算出した、プラズマ照射前後のPCフィルムの表面の結合の種類の変化を示す図である。
【
図24】プラズマ照射により物体の表面に導入された官能基の数を計算した結果を示す図である。
【
図25】プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す図である。
【
図26】プラズマ照射前後のPA6フィルムのX線光電子分光の測定結果を示す図である。
【
図27】プラズマ照射前後のPA6フィルムの和周波発生分光の測定結果を示す図である。
【
図28】プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す図である。
【
図29】プラズマ照射前後のPPフィルムのX線光電子分光の測定結果を示す図である。
【
図30】プラズマ照射前後のPA6を母材とする炭素繊維強化プラスチックのX線光電子分光の測定結果を示す図である。
【
図31】シングルラップ継手の引張試験に用いた試験片の寸法を示す図である。
【
図32】CF/PA6のシングルラップ継手の引張試験の結果を示す図である。
【
図33】CF/PA66のシングルラップ継手の引張試験の結果を示す図である。
【
図34】CF/PEEKのシングルラップ継手の引張試験の結果を示す図である。
【
図35】接合物の剪断応力の測定結果を示す図である。
【
図36】接合物の剪断応力の測定結果を示す図である。
【
図37】本実施例に係る接合物の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態は、2つの物体を接合する技術に関する。具体的には、接合する2つの物体のそれぞれの接合面にプラズマを照射した後、それぞれの物体に含まれる物質の融点未満の温度で接合面同士を接着させることにより、2つの物体を接合する。
【0018】
図1は、実施の形態に係る接合方法による接合の原理を模式的に示す。
図1(a)は、接合する2つの物体のそれぞれの接合面にプラズマを照射した後の様子を模式的に示す。プラズマの照射により、それぞれの接合面にカルボキシ基やヒドロキシ基などの官能基が生成される。
図1(b)は、接合面同士を接着させた後の様子を模式的に示す。接合面同士を接着させると、近接した位置にある官能基間で化学結合が形成され、形成された化学結合により2つの物体が接合される。本図の場合には、一方の物体の接合面にあるヒドロキシ基と他方の物体の接合面にあるカルボキシ基とが脱水縮合することにより形成されるエステル結合や、双方の物体の接合面にあるヒドロキシ基同士が脱水縮合することにより形成されるエーテル結合など、多数の共有結合により2つの物体が強固に接合される。官能基間の化学結合は、水素結合やファンデルワールス結合などであってもよいが、化学結合の中でも最も強固な結合である共有結合により官能基間が結合されることがより望ましい。
【0019】
このように、本実施の形態の方法によれば、接着剤を使用することなく2つの物体を接合することができるので、接着剤の劣化や揮発性有機化合物の発生などの問題が生じない。また、ボルトを使用することなく2つの物体を接合することができるので、2つの物体に穿孔などの加工をする必要がなく、2つの物体の強度の低下などの問題が生じない。更に、融点以上に加熱することなく2つの物体を接合することができるので、加熱による2つの物体の劣化などの問題が生じない。
【0020】
2つの物体の接合面にプラズマを照射するためのプラズマ照射装置は、任意のプラズマ発生技術を利用したプラズマ照射装置であってもよい。後述する実施例においては、ドラム型プラズマ照射装置を使用するが、その他の方式のプラズマ照射装置、例えば、平板型プラズマ照射装置が使用されてもよい。
【0021】
2つの物体の接合面にプラズマを照射する際の条件は、プラズマ照射装置の種類、接合する物体の種類、大きさ、要求される接合の強度、接合面の状態などに応じて選択されてもよい。後述するように、それぞれの接合面におけるエッチングの量を所定値未満に抑えつつ、それぞれの接合面に所定数以上の官能基が生成されるような条件でプラズマが照射されるのが好ましい。具体的な条件は、実施例に関連して後述する。
【0022】
2つの物体の接合面には、任意の物質のプラズマが照射されてもよい。例えば、二酸化炭素、酸素、窒素、水蒸気、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの常温で気体である物質のプラズマが照射されてもよいし、これらの物質のうちのいずれか2以上の混合物、例えば空気などのプラズマが照射されてもよい。
【0023】
2つの物体の接合面に生成させる官能基の種類は、接合する物体の種類、大きさ、要求される接合の強度、接合面の状態などに応じて選択されてもよい。2つの物体のそれぞれの接合面に、同種の官能基が生成されてもよいし、異種の官能基が生成されてもよい。後者の場合、接合する物体の種類、大きさ、要求される接合の強度、接合面の状態などに応じて、適切な官能基の組合せが選択されるのが好ましい。すなわち、接合面同士を接着させたときに化学反応が発生しやすい官能基がそれぞれの接合面に生成されるように、照射するプラズマの種類や、復圧する際に導入する気体の種類が選択されるのが好ましい。
【0024】
本実施の形態の方法により接合可能な物体は、樹脂、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、金属、金属酸化物、ガラスなどの物体を含む。より具体的には、樹脂の例として、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、PEI(ポリエーテルイミド)、エポキシ樹脂など、炭素繊維強化プラスチックの例として、CF/PP(ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック)、CF/PA(ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック)、CF/PPS(ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック)、CF/PET(ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック)、CF/PC(ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック)、CF/PEEK(ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック)、CF/PEI(ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック)、CF/epoxy(エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック)など、金属の例として、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Ti(チタン)、Fe(鉄)、ステンレス鋼(SUS)など、金属酸化物の例として、ストロンチウムタイタネート(STO)やランタンアルミネート(LAO)などのペロブスカイト型金属酸化物や酸化マグネシウム(MgO)などを含む、同種又は異種の物体を、上記の方法により接合可能である。また、複数の物質や材料により構成された物体も、上記の方法により接合可能である。
【0025】
とくに、炭素繊維強化プラスチックは、金属よりも軽量で、かつ、高強度であるために、自動車や航空機などの分野で広く応用が期待されているが、本実施の形態の方法によれば、炭素繊維強化プラスチック同士、又は、炭素繊維強化プラスチックと金属や樹脂などとの間で、上述したような問題を抑えつつ、高強度な接合を容易に実現することができる。
【0026】
接合する物体の形状は、接合面同士が接着可能な形状を有していれば、任意であってよい。例えば、フィルムとフィルム、フィルムと平板、平板と平板、曲面と曲面などであってもよい。
【0027】
本実施の形態の方法によれば、2つの物体を強固な共有結合により接合することができるので、輸送機関の部品など、非常に高い強度の接合が要求される分野にも応用できる。また、接合部分において高い気密性を確保することができるので、内部に水素を貯蔵するためのタンクや、内部を真空に保つ必要がある容器などにも応用できる。また、揮発性有機化合物を発生することがないので、医療検査、医薬品、細胞生物学研究、蛋白質結晶化などの分野において利用されるマイクロ流路チップを製造するための接合にも応用できる。
【0028】
PAは、吸水性を有することが実用上問題となりうるが、PAや、PAを母材とする炭素繊維強化プラスチックの表面に、水の侵入を防ぐためのPPSなどのフィルムを接合することにより、耐水性を向上させることができる。また、フッ素系樹脂のフィルムを表面に接合することにより、紫外線による劣化を防ぐことができ、耐候性を向上させることができる。このように、耐水性や耐候性に劣る材料であっても、表面に耐水性や耐候性を向上させることが可能なフィルムを接合することにより、過酷な環境においても長期にわたって使用可能な製品を実現することができる。
【0029】
[実施例]
本発明者は、様々な種類の物体を接合する実験を行った。以下に、実験の詳細について説明する。
【0030】
[プラズマ照射装置]
図2は、実施例において使用した回転ドラム式プラズマ照射装置の構成を概略的に示す。回転ドラム式プラズマ照射装置10は、図示しないモータなどの駆動機構により所定の角速度で回転される回転ドラム24と、放電を発生させるための電極22と、回転ドラム24の側面に設けられた試料ホルダー26と、これらの構成を内部に配置するベルジャー20と、ベルジャー20内に処理用の気体を導入するための気体導入口28と、処理用の気体を供給するためのボンベ30とを備える。プラズマ処理の対象となる試料32を試料ホルダー26に設置し、ベルジャー20内を真空に減圧した後、処理用の気体をベルジャー20内に導入し、電極22に高電圧を供給すると、処理用の気体が放電によりプラズマ状態となり、試料32の表面に照射される。試料32は、回転ドラム24と共に回転される。回転ドラム24を2回転以上回転させる場合は、試料32がプラズマの照射範囲を通過するたびに、試料32の表面にプラズマが照射される。
【0031】
[T型剥離試験]
図3は、接合の強度を評価するために実施したT型剥離試験の原理を模式的に示す。
図3(a)は、T型剥離試験において使用した試験片46の上面を示す。試験片46は、同じ大きさに切断した2つの物体を、斜線を付した部分で接合したものである。斜線を付していない部分は、接合されておらず、分離している。
図3(b)は、T型剥離試験装置40を概略的に示す。試験片46の接合していない部分の一方をつかみ具42に、他方を可動つかみ具44に取り付ける。つかみ具42を固定しつつ、可動つかみ具44を毎分10mmの速度で移動させ、剥離距離とつかみ具に加えられた力を記録した。
【0032】
[引張り剪断試験]
図4は、接合の強度を評価するために実施した引張り剪断試験の原理を模式的に示す。
図4(a)は、引張り剪断試験において使用した試験片56の上面を示す。試験片56は、同じ大きさに切断した2つの物体を、長辺方向にずらして重ね、斜線を付した部分で接合したものの両端に、つかみ具によりつかまれる部分を補強するためのタブ55を接着剤により接着させたものである。
図4(b)は、引張り剪断試験装置50を概略的に示す。試験片56の2つの物体の一方の端のタブ55をつかみ具52でつかみ、他方の端のタブ55をつかみ具54でつかむ。つかみ具52及びつかみ具54を一定速度(0.05mm/分、1.0mm/分、又は2.0mm/分)で移動させ、破断時の力の最高値を試験片56の破断力として記録した。剪断応力は、破断力を剪断面積で除して算出した。
【0033】
[実施例1]
本実施の形態に係る接合方法による接合の原理を確認するために、PPSのフィルムとAlの平板とを接合する実験を行った。PPSフィルムとAl板を切断して試験片を作成し、表面をエタノールで洗浄した。2つの試験片のそれぞれの接合面に、回転ドラム式プラズマ照射装置によりプラズマを照射した後、真空プレス機により接合面同士を接着させてAl板とPPSフィルムを接合し、接合物の引張り剪断応力を測定した。表1に実験条件を示す。
【表1】
【0034】
図5は、プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す。
図5(a)に示すように、プラズマ照射前のAl板の表面における水の接触角は94.59°であるのに対し、
図5(b)に示すように、プラズマ照射後のAl板の表面における水の接触角は38.60°である。また、
図5(c)に示すように、プラズマ照射前のPPSフィルムの表面における水の接触角は93.14°であるのに対し、
図5(d)に示すように、プラズマ照射後のPPSフィルムの表面における水の接触角は19.61°である。このように、Al板においてもPPSフィルムにおいても、プラズマの照射により表面における水の接触角は著しく小さくなっている。
【0035】
図6は、プラズマ照射前後のPPSフィルムのX線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)の測定結果を示す。
図6(a)に示すように、プラズマ照射後のPPSフィルムのX線光電子スペクトルにおいては、プラズマ照射前よりもO1sピークの強度が増加しており、プラズマ照射によりPPSフィルムの表面においてOが増加したことが示唆される。また、
図6(a)のスペクトルの150~170eV付近を拡大した
図6(b)及び
図6(c)、及び、280~300eV付近を拡大した
図6(d)及び
図6(e)に示すように、プラズマ照射後のX線光電子スペクトルにおいては、S2pピーク及びC1sピークの強度が変化しており、プラズマ照射によりPPSフィルムの表面においてヒドロキシ基の増加やスルホニル基の生成が示唆される。
【0036】
図7は、プラズマ照射前後のAl板のX線光電子分光の測定結果を示す。
図7に示すように、プラズマ照射後のAl板のX線光電子スペクトルにおいては、プラズマ照射前よりもC1sピークの強度が減少し、Alに由来するピークの強度が増加しており、Al板の表面の有機物が除去され、酸化被膜が露出されたことが示唆される。
【0037】
図8は、プラズマ照射前後のPPSフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。プラズマ照射前後の画像を比較すると、PPSフィルムの表面に付着していた有機物が除去されているのが分かる。PPSフィルムの表面においてプラズマ照射によるエッチングは見られない。
【0038】
このように、プラズマ照射前後のPPSフィルム及びAl板の表面の水の接触角、XPS、SEMの測定結果を考慮すると、樹脂では、プラズマ照射により表面に付着していた有機物が除去されるとともに親水性の官能基が生成されたことが示唆され、金属では、表面に付着していた有機物が除去されて酸化皮膜が露出されたことが示唆される。
【0039】
図9は、プラズマ照射回数と水の接触角の関係を示す。Al板においても、PPSフィルムにおいても、プラズマ照射回数を多くするほど接触角は小さくなるが、プラズマ照射前に比べると、1回のプラズマ照射により十分に接触角が小さくなっており、2回目以降のプラズマ照射による接触角の減少はわずかであった。PPSフィルムにおいては、プラズマ照射電圧を3kVとした場合の方が、プラズマ照射電圧を2kVとした場合よりも接触角が小さくなるが、Alにおいては、プラズマ照射電圧が3kVの場合も2kVの場合も接触角はほぼ同じであった。
【0040】
図10は、プラズマ照射回数と接合強度の関係を示す。プラズマ照射電圧を2kVとした場合も3kVとした場合も、プラズマを1回照射した場合より2回照射した場合の方が剪断応力が大きくなるが、プラズマを2回照射した場合と3回照射した場合の剪断応力はほぼ同じであった。
【0041】
このように、接合面における水の接触角と接合強度との間に相関があることから、親水性の官能基間の化学反応により共有結合、水素結合、ファンデルワールス結合が形成されていることが示唆される。
【0042】
図11は、PPSフィルムの示差熱分析(Differential Thermal Analysis:DTA)の測定結果を示す。131℃付近に結晶化による発熱ピークが見られ、277℃付近に融解による吸熱ピークが見られる。
【0043】
図12は、PPSフィルムのX線回折(X-ray Diffraction:XRD)の測定結果を示す。
図12(a)に示したX線回折データから算出した、PPSフィルムにおけるPPSの結晶化度を
図12(b)に示す。DTAにおいて結晶化による発熱ピークが見られた温度以上に加熱すると、PPSの再結晶化が進み、結晶化度が高くなることが分かる。
【0044】
図13は、接合温度と接合強度の関係を示す。PPSフィルムとAl板とを接合する際の接合温度を上昇させるとともに接合強度が向上し、110℃付近で最大となるが、それ以上接合温度を上昇させると、かえって接合強度が低下することが分かる。これは、PPSフィルムにおいてPPSが再結晶化することが原因であると考えられる。
【0045】
このように、PPSフィルムのDTA及びXRDの測定結果と、PPSフィルムとAl板の接合温度と接合強度との関係を考慮すると、それぞれの物体の表面の官能基同士の間で起こる化学反応の活性化エネルギーを超えて化学反応が進むのに十分な温度よりも高く、樹脂の結晶化温度よりも低い温度で2つの物体を接合することにより、高い接合強度が得られることが示唆される。
【0046】
なお、SUS板においても、Al板と同様に、プラズマの照射により表面における水の接触角が減少することを確認した。これも、プラズマの照射により表面に付着していた有機物が除去されて酸化皮膜が露出されたためと考えられる。また、SUS板及びTi板にプラズマを照射した後の表面のSEM画像を撮像し、表面においてプラズマ照射によるエッチングが見られないことを確認した。
【0047】
[実施例2]
実施例1と同様に、PPSのフィルムとCuの平板とを接合する実験を行った。実験条件は、表1と同様である。PPSフィルムとCu板とを110℃で接合すると、PPSフィルムとAl板の場合と同様に、強固に接合することができた。
【0048】
図14は、プラズマ照射前後のCu板のX線光電子分光の測定結果を示す。
図14(a)に示すように、プラズマ照射後のCu板のX線光電子スペクトルにおいては、プラズマ照射前よりもC1sピークの強度が減少しており、プラズマ照射によりCu板の表面から有機物が除去されたことが示唆される。また、プラズマ照射前後のCu2pピークの強度の変化から、プラズマ照射によりCu
2+がCu
+に還元されたことが示唆される。また、プラズマ照射前のO1sピークを示す
図14(b)と、プラズマ照射後のO1sピークを示す
図14(c)からも、プラズマ照射によりOH
-が減少し、O
2-が増加したことが示唆され、Cu
2+がCu
+に還元されたことが示唆される。
【0049】
図15は、全反射測定(Attenuated Total Reflection:ATR)法により測定したCu板の表面の赤外線吸収スペクトルを示す。数μm程度のもぐり込み深さにおけるATRスペクトルは、プラズマの照射前後でほとんど変化がない。
【0050】
このように、XPSスペクトルとATRスペクトルの測定結果を考慮すると、Cu板の表面の数nm程度のCuO被膜が、プラズマ照射によりCu2Oに変化したと考えられる。
【0051】
図16は、プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す。
図16(a)に示すように、プラズマ照射前のCu板の表面における水の接触角は83.33°であるのに対し、
図16(b)に示すように、プラズマ照射後のCu板の表面における水の接触角は49.90°である。このように、Cu板においても、
図5に示したAl板と同様に、プラズマの照射により表面における水の接触角は著しく小さくなっており、プラズマ照射により、表面に付着していた有機物が除去されて、酸化皮膜が露出したことが示唆される。
【0052】
図17は、プラズマ照射回数と水の接触角の関係を示す。Cu板においては、Al板やPPSフィルムとは異なり、2回以上プラズマを照射すると、1回プラズマを照射した場合よりも接触角が大きくなる。XPSの結果も考慮すると、これは、Cu
2+がプラズマ照射により還元されてCu
+に変化したためと考えられる。
【0053】
以上の実験結果から、Cu板とPPSフィルムを接合させる場合、Cu板の表面にプラズマを照射すると、数nm程度のCuO被膜がCu2Oに変化し、PPSフィルムと接合させると、Cu2OがPPSフィルムの表面のO原子と化学反応してCuOになることにより、Cu板とPPSフィルムが接合されると考えられる。
【0054】
このように、プラズマ照射条件によって、金属板の表面の金属原子の酸化状態や電子状態を変化させることができるので、接合する相手の物体の種類、接合する相手の物体の表面に導入された官能基の種類又は量、接合温度、接合時間などに応じて、金属の酸化状態や電子状態を適切に制御することにより、金属を容易かつ強固に他の物体と接合することができる。
【0055】
[実施例3]
実施例1と同様に、PCのフィルムとPETのフィルムとを接合する実験を行った。実験条件は、表1と同様である。PCフィルムとPETフィルムの組合せは、25℃においても100℃においても強固に接合することができた。
【0056】
図18は、プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す。
図18(a)に示すように、プラズマ照射前のPCフィルムの表面における水の接触角は95.6°であるのに対し、
図18(b)に示すように、プラズマを2回転照射した後のPCフィルムの表面における水の接触角は16.83°である。また、
図18(c)に示すように、プラズマ照射前のPETフィルムの表面における水の接触角は86.4°であるのに対し、
図18(d)に示すように、プラズマを2回転照射した後のPETフィルムの表面における水の接触角は18.81°である。このように、PCフィルムにおいてもPETフィルムにおいても、プラズマの照射により表面における水の接触角は著しく小さくなっている。
【0057】
図19は、プラズマ照射前後のPCフィルムの走査型電子顕微鏡画像を示す。プラズマ照射前後の画像を比較すると、PCフィルムの表面に付着していた有機物が除去されているのが分かる。PCフィルムの表面において、プラズマ照射によるエッチングは見られない。
【0058】
図20は、プラズマ照射回数と水の接触角の関係を示す。PCフィルムにおいても、PETフィルムにおいても、プラズマ照射回数を多くするほど水の接触角は小さくなる。
【0059】
図21は、プラズマ照射回数と接合強度の関係を示す。プラズマを照射しない場合にはPCフィルムとPETフィルムは接合しないが、プラズマを1回転照射するとPCフィルムとPETフィルムが接合し、プラズマを2回転照射すると剥離強度が更に増大した。
【0060】
このように、接合面における水の接触角と接合強度との間に相関があることから、親水性の官能基間の化学反応により共有結合、水素結合、ファンデルワールス結合が形成されていることが示唆される。
【0061】
図22は、プラズマ照射前後のPCフィルムのX線光電子分光の測定結果を示す。
図22に示すように、プラズマ照射後のPCフィルムのX線光電子スペクトルにおいては、C1sピークの強度が変化しており、プラズマ照射により、PCフィルムの表面においてCの結合状態が変化したことが示唆される。
【0062】
図23は、X線光電子分光の測定結果から算出した、プラズマ照射前後のPCフィルムの表面の結合の種類の変化を示す。
図23に示すように、プラズマ照射により、PCフィルムの表面のカーボネート基が減少し、カルボキシ基が増加したことが示唆される。
【0063】
このように、プラズマ照射前後のPCフィルム及びPETフィルムの表面の水の接触角、XPS、SEMの測定結果を考慮すると、PCフィルムにおいてもPETフィルムにおいても、プラズマ照射により表面に付着していた有機物が除去されるとともに、親水性の官能基が生成されたことが示唆される。とくに、PCフィルムにおいては、プラズマ照射により表面にカルボキシ基が生成されたことが示唆される。したがって、PCフィルムとPETフィルムとの間の強固な接合は、プラズマ照射によりPCフィルムに生成されたカルボキシ基と、プラズマ照射によりPETフィルムの表面に露出又は生成されたヒドロキシ基との間のエステル結合によりもたらされることが示唆される。
【0064】
図24は、プラズマ照射により物体の表面に導入された官能基の数を計算した結果を示す。XPSのピーク面積から原子組成百分率を算出し、原子組成百分率から最表面の1cm×1cm×10nmの体積中に含まれるヒドロキシ基及びカルボキシ基の数を算出した。なお、深さ方向に官能基が均一に存在しているわけではなく、表面に近いほど多くの官能基が存在していると推測される。PPS、PET、及びPCのいずれの樹脂においても、プラズマ照射後にヒドロキシ基とカルボキシ基が表面に生成している。これらの樹脂は、後述する実施例7において示すように、本実施の形態に係る方法により、同種又は異種の物体と接合することが可能である。したがって、
図24に示した数の官能基が接合面に生成されるように、接合面にプラズマを照射することにより、本実施の形態に係る方法により他の物体と接合することができることが分かる。
【0065】
[実施例4]
PA6フィルムにプラズマを照射して、表面状態の変化を観察する実験を行った。
【0066】
図25は、プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す。
図25(a)に示すように、プラズマ照射前のPA6フィルムの表面における水の接触角は79.83°であるのに対し、
図25(b)に示すように、プラズマ照射後のPA6フィルムの表面における水の接触角は19.19°である。このように、PA6フィルムにおいても、プラズマの照射により表面における水の接触角は著しく小さくなっている。
【0067】
図26は、プラズマ照射前後のPA6フィルムのX線光電子分光の測定結果を示す。
図26(a)は、プラズマ照射前のPA6フィルムのX線光電子分光スペクトルを示し、
図26(b)は、プラズマ照射後のPA6フィルムのX線光電子分光スペクトルを示す。プラズマ照射後のPA6フィルムのX線光電子スペクトルにおいては、C1sピークの強度が変化しており、C1sピーク中のC-N又はC-Oのピークと、C(=O)-N又はC(=O)-Oのピークが増加した。したがって、これらの結合を含む官能基が表面に生成したことにより、水の接触角が減少したと考えられる。
【0068】
図27は、プラズマ照射前後のPA6フィルムの和周波発生(Sum-Frequency Generation:SFG)分光の測定結果を示す。2800~3000cm
-1の波数領域において、プラズマ照射により2877cm
-1のバンドの強度が増大した。水の接触角の実験結果も考慮すると、プラズマ照射によりPA6のメチレン鎖がラジカル化されたことが示唆される。
【0069】
以上の実験結果から、PA6フィルムの表面にプラズマを照射することにより、表面にC-N又はC-O、及び、C(=O)-N又はC(=O)-Oを含む官能基が生成するとともに、メチレン鎖がラジカル化され、それらの官能基及びラジカルが接合相手の物体の表面の原子又は官能基と化学結合を形成することが示唆される。
【0070】
[実施例5]
PPフィルムにプラズマを照射して、表面状態の変化を観察する実験を行った。
【0071】
図28は、プラズマ照射前後の物体表面における水の接触角の変化を示す。
図28(a)に示すように、プラズマ照射前のPPフィルムの表面における水の接触角は99.82°であるのに対し、
図28(b)に示すように、プラズマ照射後のPPフィルムの表面における水の接触角は16.68°である。このように、PPフィルムにおいても、プラズマの照射により表面における水の接触角は著しく小さくなっている。
【0072】
図29は、プラズマ照射前後のPPフィルムのX線光電子分光の測定結果を示す。
図29(a)は、プラズマ照射前のPPフィルムのX線光電子分光スペクトルを示し、
図29(b)は、プラズマ照射後のPPフィルムのX線光電子分光スペクトルを示す。プラズマ照射後のPPフィルムのX線光電子スペクトルにおいては、C1sピークの強度が変化しており、C1sピーク中のC-Oのピークと、C(=O)-Oのピークが増加した。したがって、これらの結合を含む官能基が表面に生成したことにより、水の接触角が減少したと考えられる。
【0073】
これらの実験結果から、PPフィルムの表面にプラズマを照射することにより、表面にC-O、及び、C(=O)-Oを含む官能基が生成し、それらの官能基が接合相手の物体の表面の原子又は官能基と化学結合を形成することが示唆される。
【0074】
[実施例6]
炭素繊維強化プラスチック同士を接合する実験を行った。
【0075】
図30は、プラズマ照射前後のPA6を母材とする炭素繊維強化プラスチック(CF/PA6)のX線光電子分光の測定結果を示す。
図30(a)は、プラズマ照射前のCF/PA6のX線光電子分光スペクトルを示し、
図30(b)は、プラズマ照射後のCF/PA6のX線光電子分光スペクトルを示す。プラズマ照射後のCF/PA6のX線光電子スペクトルにおいては、C1sピークの強度が変化しており、C1sピーク中のC-N又はC-Oのピークと、C(=O)-N又はC(=O)-Oのピークが増加した。したがって、これらの結合を含む官能基が表面に生成したことが示唆される。
【0076】
図31は、引張試験に用いた試験片の寸法を示す。PA6を母材とする炭素繊維強化プラスチック(CF/PA6)、PA66を母材とする炭素繊維強化プラスチック(CF/PA66)、及びPEEKを母材とする炭素繊維強化プラスチック(CF/PEEK)について、JIS規格に準拠して
図31に示した試験片を作成し、表面にプラズマを照射して接合した後、シングルラップ継手の引張試験を実施した。試験結果を
図32~
図34に示す。
【0077】
これらのCFRTP同士の接合強度は、安全面から世界で最も厳しいとされる、金属同士の接合における飛行機用接着剤要求仕様「米国連邦規格MMM-A-132-A-Type1 Class1」の、常温で38MPaという値に迫るものであり、飛行機などの移動体の部材をCFRTPなどの材料で形成することが可能となる。また、CF/PA6、CF/PEEKについては、炭素繊維強化プラスチック同士を接合したシングルラップ継手の引張試験で世界一の値である。
【0078】
[実施例7]
樹脂、金属、炭素繊維強化プラスチック、金属酸化物、ガラスなどの物体を様々な組合せで接合した。実験条件を表2に示す。表2において、(融点)は、接合する物体の表面を構成する物質の融点であり、異種の物体を接合する場合には、融点が低い方の物質の融点である。一部の組合せについては、引張り剪断応力を測定し、その他の組合せについては、T型剥離試験又は試験片を手で引っ張ることにより接合の強度を評価した。結果を
図35、
図36、表3~8に示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0079】
接合面同士を接着させる際の温度、圧力、時間などの条件を適切に選択することにより、ほぼ全ての組合せの物体を接合することができることが分かった。具体的には、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、酸化マグネシウム、又はガラスとの組合せ、ポリアミドと、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリフェニレンサルファイドと、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエチレンテレフタレートと、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリカーボネートと、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチル、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、酸化マグネシウム、又はガラスとの組合せ、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せ、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、鉄、又はステンレス鋼との組合せを接合することができる。
【0080】
とくに、いくつかの物体の組合せにおいては、室温で接合面同士を接着させることによっても、2つの物体を接合することが可能である。室温とは、接合面同士を接着させるステップを実行する周囲の環境の温度であり、加熱も冷却も行わないことを意味するが、寒冷地、高地、冬季などの条件により室温が常温(5~35℃)よりも低い場合や、熱帯、日光、周囲の発熱体などの条件により室温が常温よりも高い場合などには、常温になるように加熱又は冷却してもよい。また、室温で接合可能な物体の組合せであっても、接合の強度や速度を向上させるために、適切な温度に接合面を加熱して接合してもよい。
【0081】
室温で接合可能な物体の組合せは、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドと、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリエチレンテレフタレートと、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリカーボネートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンとの組合せ、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレン、ポリアミドとの組合せ、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンとの組合せである。
【0082】
異種の物体を接合する際に、接合面を加熱して圧接すると、それぞれの物体の熱膨張率の差異により接合物が撓んだり変形したりすることがあるが、上記の組合せの物体は、室温で圧接することにより接合することが可能であるから、接合物の撓みや変形を抑えることができる。
【0083】
上述したように、本実施の形態に係る方法による物体の接合は、接合面に生成された官能基間の化学反応によりもたらされると考えられるので、一般に、反応温度を高くするほど、反応速度が速くなるとともに、反応する官能基の数が増加して、接合の強度が強くなる。したがって、要求される接合の強度に応じて、接合の温度、時間、圧力などが選択されればよい。表1及び表2に記載した条件とは異なる条件で接合が行われてもよく、例えば、接合の圧力や時間は、表1及び表2に記載した値よりも小さい値であってもよい。
【0084】
なお、本実施の形態に係る方法においては、2つの物体に含まれる物質の融点又は軟化点よりも低い温度で接合面を接着させることにより2つの物体を接合しているのであって、2つの物体を熱融着させているわけではない。接着する際に加熱が必要である場合であっても、官能基間の化学反応の反応速度を促進するために加熱しているだけであり、物体の表面は融解又は軟化されない。
【0085】
[実施例8]
直接接合することが困難である2つの物体を接合したり、直接接合するために加熱が必要となるような2つの物体を室温で接合したりすることを可能とするために、双方の物体と接合可能な物質のフィルム又はシートを間に挟んでなる接合物を作成した。
【0086】
図37は、本実施例に係る接合物の構成を概略的に示す。接合物60は、接合する2つの物体62及び64と、2つの物体62及び64の間に配置されるフィルム66とを備える。フィルム66の一方の面が物体62と接合されるとともに、フィルム66の他方の面が物体64と接合される。これにより、2つの物体62及び64が、直接接合することが困難であったとしても、2つの物体62及び64の双方と接合可能なフィルム66を選択すれば、フィルム66を介して2つの物体62及び64を強固に接合することができる。また、2つの物体62及び64が、直接接合するために加熱が必要であったとしても、2つの物体62及び64の双方と室温で接合可能なフィルム66を選択すれば、フィルム66を介して2つの物体62及び64を室温で接合することができる。また、平織りなどの織物シートを用いる炭素繊維強化プラスチックは、接合面が平坦ではないが、間にフィルム66を挟むことにより、他の物体と接合することができる。
図37に示す構造を有する接合物を作成し、2つの物体が強固に接合されていることを確認した。
【0087】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、2つの物体を接合して接合物を製造する方法、及び2つの物体を接合してなる接合物に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
10 回転ドラム式プラズマ照射装置、20 ベルジャー、22 電極、24 回転ドラム、26 試料ホルダー、28 気体導入口、30 ボンベ、32 試料。