(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】水封入カプセル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20231025BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20231025BHJP
A61K 8/11 20060101ALI20231025BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20231025BHJP
A61J 3/07 20060101ALI20231025BHJP
A23P 10/35 20160101ALI20231025BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/44
A61K8/11
A61K8/92
A61J3/07 D
A61J3/07 E
A23P10/35
(21)【出願番号】P 2023039340
(22)【出願日】2023-03-14
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2022175360
(32)【優先日】2022-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391010976
【氏名又は名称】富士カプセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】増田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 峻吾
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-188079(JP,A)
【文献】特許第7122495(JP,B2)
【文献】特許第6250211(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/48
A61K 47/44
A61K 8/11
A61K 8/92
A61J 3/07
A23P 10/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置された封入層を備えた2層水封入カプセルの製造方法であって、同心三重ノズルを用い、内側ノズルからは含水コアを、中間ノズルからは
固形油脂、又は固形油脂と液状油脂の混合物を用いた比重0.79~1.05の親油性組成物からなる封入層を、外側ノズルからは皮膜層を吐出させて3層液滴とし、かかる3層液滴を冷却用溶媒と接触させて皮膜液を硬化させることにより水封入プレカプセルを形成し、該水封入プレカプセルを乾燥工程を経ずに、皮膜層を剥ぎ取り排除し、水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置され膜厚の最薄部が80μm以上である封入層の2層とすることを特徴とする2層水封入カプセルの製造方法。
【請求項2】
含水コアに、粘性を付与する粘性付加剤を含有することを特徴とする請求項1記載の2層水封入カプセルの製造方法。
【請求項3】
親油性組成物が、親油性組成物の比重を0.79~1.05とする比重調整剤を含むことを特徴とする請求項1記載の2層水封入カプセルの製造方法。
【請求項4】
親油性組成物の融点が16℃以上であることを特徴とする請求項1記載の2層水封入カプセルの製造方法。
【請求項5】
親油性組成物が、30~70℃の融点を有する固形油脂を含むことを特徴とする請求項1記載の2層水封入カプセルの製造方法。
【請求項6】
親油性組成物が、20℃未満の融点を有する液状油脂を含むことを特徴とする請求項1記載の2層水封入カプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置された封入層を備えた水封入カプセル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水封入カプセルとしては、水を含む含水コアと、含水コアの外側に配置された内層と、内層の外側に配置された外層とを含む水封入カプセルであって、内層が、親油性材料から構成されており、外層が、親油性粒子又は非水溶性粒子が分散されている親水性材料から構成されている、水の耐蒸散性に優れる水封入カプセルが知られている(特許文献1)。
【0003】
また、タバコ物品に使用するためのフィルター要素に関し、このフィルター要素は、少なくとも1つのフィルター本体と、液体媒体を含むコア材料と水蒸気不透過性の重合シェルを備えたカプセルとを有し、コア材料の液体媒体が少なくとも1つの界面活性剤を含む、前記フィルター要素が知られている(特許文献2)。その他、タバコ製品内に組み込むのに有用な易破壊性の生カプセルを製造する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6250211号公報
【文献】特表2020-527953号公報
【文献】特表2011-512122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ソフトカプセルにて製剤化可能な内容液として、油や油溶性物質又は乳化液(親油性+親水性)がよく知られている。一方、水や水を主成分とした内容液のカプセル化は可能であっても、カプセル化後早々にカプセル皮膜を介して水が蒸散してしまい、長期的に内容液の水分を保持することはできないため、水や水溶液を封入したカプセル製品は出願人が知る限りでは世に流通していないのが現状である。そこで、本発明の課題は、長期的に内容液の水分をカプセル内に封じ込め保持することが可能な水封入シームレスカプセル技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決しうるべく鋭意検討し、水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置された封入層を備えた水封入カプセルにおいて、特定の範囲にした比重の親油性組成物からなる封入層とすることや、封入層の膜厚について一定の膜厚以上を保持範囲とすることにより、長期的に含水コアの水分をカプセル内に封じ込め保持することが可能となり、また、含水コアに粘性を付与する粘性付加剤を含ませることによりカプセルの製剤性が向上することが可能となることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明特定事項により特定されるとおりのものである。
[1]水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置された封入層を備えた水封入カプセルであって、前記封入層が比重0.79~1.05の親油性組成物からなり、封入層の膜厚の最薄部が80μm以上であることを特徴とする前記水封入カプセル。
[2]含水コアに粘性を付与する粘性付加剤を含有することを特徴とする上記[1]記載の水封入カプセル。
[3]親油性組成物が、親油性組成物の比重を0.79~1.05とする比重調整剤を含むことを特徴とする上記[1]記載の水封入カプセル。
[4]親油性組成物の融点が16℃以上であることを特徴とする請求項1記載の水封入カプセル。
[5]親油性組成物が、30~70℃の融点を有する固形油脂を含む組成物であることを特徴とする上記[1]記載の水封入カプセル。
[6]親油性組成物が、20℃未満の融点を有する液状油脂を含むことを特徴とする上記[1]記載の水封入カプセル。
[7]封入層の外側にさらに皮膜層が設けられていることを特徴とする上記[1]記載の水封入カプセル。
[8]同心三重ノズルを用い、内側ノズルからは前記含水コアを、中間ノズルからは前記封入層を、外側ノズルからは前記皮膜層を吐出させて三層液滴とし、かかる三層液滴を冷却用溶媒と接触させて水封入プレカプセルを形成することを特徴とする上記[1]~[7]のいずれかに記載の水封入カプセルの製造方法。
[9]水封入プレカプセルを乾燥する前に、皮膜層を剥ぎ取り排除し、水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置された封入層の2層とすることを特徴とする上記[8]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、室温・開放放置における水封入率の経時変化が小さく、長期的に内容液(含水コア)の水分をカプセル内に封じ込め保持することが可能な水封入シームレスカプセル、特に2層水封入シームレスカプセルを提供することができる。そして、水封入カプセルの用途に合わせ、封入層の物性設定を行い、皮膜層の有無を適宜選択することができる。また、含水コアの外側に配置された封入層の物性については、構成する油性物質により固く設定することも柔らかく設定することも可能である。例えば、封入層を柔らかく設定した場合、3層及び2層カプセル設計にて、手指で容易にすり潰して使用可能であることを特長とする水封入生カプセルとして、化粧品や医薬部外品用途などで利用可能である(生カプセルでは、3層カプセルであっても乾燥工程は不要)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水封入カプセルとしては、水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置された封入層を備えた水封入カプセルであって、前記封入層が、比重0.79~1.05の親油性組成物からなり、封入層の膜厚の最薄部が80μm以上である、水封入カプセルであれば特に制限されないが、前記含水コアに粘性を付与する粘性付加剤を含有する水封入カプセルが好ましく、2層水封入カプセルや3層水封入カプセルを好適に例示することができるが、4層以上の多層水封入カプセルであってもよい。
【0010】
本発明の水封入カプセルは、封入層の硬さで固形カプセルと生カプセルに大別することができ、封入層の硬さが固いのが固形カプセル、柔らかいのが生カプセルと一応分類することができるが、両者の物性差における境界線は明確にできないため、新たにレオメーターを用い、各封入層処方における硬さを測定し、その最大荷重を比較することとした。そこで本発明においては、以下の[測定使用機器]を用いた[測定方法]により、レオメーターにてアダプターを3mmまで押し込んだ際の最大荷重が、5kg以下の封入層にて形成されたものを生カプセル、5kgを超える封入層にて形成されたものを固形カプセルと便宜上分類することとする。
【0011】
[測定方法]
200mlガラスビーカーに封入層を150g調整し、60℃(硬化油eを含む場合は75℃)の水浴にて溶解し、良く撹拌する。溶解液をプラスチック製ポリ瓶に50g入れ、冷蔵にて3時間以上冷却し固化させた後、室温に戻るまで放置し、レオメーターにてポリ瓶の中心をアダプターで3mmまで押し込んだ際の最大荷重を測定した。
【0012】
[測定使用機器]
SUN RHEO METER CR-3000 EX-L (サン科学)
モード: MODE1(Depth) アダプター :No.1φ10mm
REAL/HOLD: HOLD 進入距離 :3.0mm
圧縮/引張り: PRESS テーブル移動速度:20.0mm/min
ロードセル最大応力:200N
【0013】
そして、固形水封入カプセルを作製するには、封入層の親油性組成物の一例として固形油脂、又は固形油脂と液状油脂が用いられ、封入層の融点(実測値)は例えば37℃以上であり、封入層の比重は例えば0.82~1.05である。他方、生カプセルを作製するには、封入層の親油性組成物の一例として固形油脂と液状油脂との混合油脂が用いられ、封入層の融点(実測値)は例えば16~36.8℃であり、封入層の比重は例えば0.79~0.82未満である。また、生カプセルは通常易崩壊性カプセルとなる。なお、固形油脂と液状油脂との混合油脂である封入層の融点は、固形油脂の融点と液状油脂の融点のダブルピークではなく、ほぼシングルピークを示すことがわかった。
融点の測定方法としては、示差走査熱量計「DSC7020」(日立ハイテクサイエンス社製)を用い、測定開始温度は0℃、昇温は5℃/minで行い、吸熱ピークを融点の実測値とした。
【0014】
上記含水コアとしては、水を含む限りは特に制限されず、水のみから構成されていてもよいが、粘性を付与する粘性付加剤を含有するものが好ましく、その他各種有効成分や各種添加物を含んでいてもよい。
【0015】
上記粘性付加剤としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩類、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸エステル類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、ゼラチン、カラギーナン、寒天、澱粉、加工澱粉、デキストラン、デキストリン、プルラン、グルコマンナン、アラビアゴム、ファーセレラン、トラガカントガム、グァーガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、キサンタンガム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、グルコサミン、ユーケマ藻類、大豆水溶性多糖類、ウェランガム、カシアガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、グァーガム酵素分解物、ガッティガム、アラビノガラクタン、カードラン、カラヤガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、タラガム、アマシードガム、こんにゃく粉(芋)、ヒドロキシプロピル化グァーガム、ペクチン等を挙げることができる。
【0016】
上記親油性組成物を構成する油性物質としては、第一に、融点が20℃以上の油性物質(以下「固形油脂」という。)を挙げることができ、具体的には硬化油(液状の動植物油脂を水素添加する事によって融点を高めたもの)、部分硬化油(液状の動植物油脂の一部のみを水素添加した硬化油もしくは水素添加していない油脂と硬化油との混合物)、ワックス類が挙げられる。固形油脂の具体例としては、硬化ヒマシ油、硬化大豆油、硬化菜種油、硬化ヤシ油、カカオ脂、バター、硬化パーム核油、ヘッド、牛脂硬化油、ラード、豚脂硬化油、ミツロウ(ビースワックス)、キャンデリラロウ(キャンデリラワックス)、コメヌカロウ(ライスワックス)、カルナウバロウ(カルナウバワックス)、モクロウ(ジャパンワックス、ウルシロウ)等又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0017】
上記親油性組成物を構成する油性物質としては、第二に、融点が20℃未満の油性物質(以下「液状油脂」という。)を挙げることができ、具体的にはサフラワー油、亜麻仁油、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、からし油、ナタネ油、コーン油、ヒマシ油、月見草油、パーム核油、ホホバ油、綿実油、ヤシ油、落花生油、EPA、DHA、DPA、スクワラン、サメ肝油、タラ肝油などの動植物油や、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)や、流動パラフィンなどが挙げられる。
【0018】
上記親油性組成物を構成する油性物質としては、グリセリン脂肪酸エステルや、ショ糖脂肪酸エステルや、脂肪酸アシルエステル等の界面活性剤のうち、親油性が高いもの(例えば、HLBが7未満のものやHLBが10未満のもの)もまた、親油性組成物を構成する油性物質として挙げることができる。この場合において、前記界面活性剤のうち、20℃で固体のものは固形油脂として、20℃未満で液体の油性物質は液状油脂として利用できる。本発明に用いる事ができる親油性組成物は、固形油脂及び液状油脂から適宜選択される1種又は2種類以上を混合して使用してもよく、また、市販品としては花王株式会社が販売する「エコナ」シリーズや、Gattefosse社が製造・販売する「GELUCIRE」シリーズ等を使用してもよい。
【0019】
上記親油性組成物を構成する油性物質としてはさらに、油性の各種機能性成分〔栄養機能、香料的機能、色素的機能等の各種機能を有する成分であって、油性のもの〕も使用可能である。本発明に使用できる油性栄養機能性成分としては例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸等のオメガ系脂肪酸、プロスタグランジン等の油性物質、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンK等の油溶性ビタミン等、及びこれらを含む油脂類を挙げることができる。香料的な機能を有する油性成分としては、オレンジ油、レモン油、シソ油、アンブレット種子油、オリス根油、カナンガ油、カラシ油、キャラウェイ油、キャロット種子油、グレープフルーツ油、ジンジャー油、ホップ油、ミルトル油、ローズ油、ローズマリー油等の天然精油類、オイゲノール、カプリル酸エチル、ゲラニオール、メントール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール等の合成又は天然の着香料を挙げることができる。色素的な機能を有する油性成分としては、アナトー色素、カロチン、オレオレジン等の油性着色料、等を挙げることができる。当然のことながら、これらは単独でも、複数の組合せでも使用可能である。
【0020】
上記親油性組成物には油不溶性成分を含めることができる。かかる油不溶性成分としては、油性成分に混和可能な成分であれば、使用可能である。油性成分に混和可能な油不溶性成分としては、例えば二酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、(微粒)二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機系粉体等が使用できる。
【0021】
上記親油性組成物を構成する油性物質の融点は特に制限されないが、水封入カプセルの性状が固形カプセルか生カプセルかで大まかに大別できる。固形カプセルの場合、親油性組成物が20℃以上、好ましくは30℃以上の融点を有し、そして100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下の融点を有すればよいが、中でも30℃~70℃の融点を有する固形油脂を用いるものを好適に例示することができる。他方、水封入カプセルの性状が生カプセルの場合、一例として上記固形油脂と融点20℃未満の液状油脂との混合油脂が用いられ、例えば、封入層の混合油脂の融点が16℃である水封入カプセルの場合、室温では液体であっても、冷蔵条件では半生状態をキープしており、冷蔵条件下での流通や使用を想定すれば、生カプセルと捉えることもできる。
【0022】
本発明における上記封入層の比重としては、0.79~1.05、0.79~1.0、0.795~1.05、0.795~1.0、0.8~1.05、0.8~1.0、0.83~1.05、0.83~1.0、0.85~1.05、0.85~1.0、中でも0.80~1.0を好適に例示することができる。なお、封入層として、低比重の親油性組成物[スクワランと硬化油、封入層比重:0.795の混合物]及び高比重の親油性組成物[SAIBと硬化油、封入層比重:1.03の混合物]を用いて、水封入カプセルの製剤化が可能であることを確認した。
【0023】
親油性組成物の比重を所定の範囲にするために比重調整剤を用いることができる。かかる比重調整剤は、親油性組成物と溶解又は混和することが可能であり、かつ、比重調整剤を添加する前の親油性組成物の比重とは、比重が異なる物質である。比重調整剤としては、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)、ウッドロジングリセリンエステル、ショ糖オクタアセテート等の比重が1以上の油性物質が好適に使用できる。また、二酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、(微粒)二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機系粉体も、添加前の親油性組成物と混和することによって比重を調整できれば、比重調整剤として使用できる。さらに、本発明の使用目的上許容される動植物油、合成油、エステル油、鉱物油なども、添加前の親油性組成物に添加することで比重を調整できれば、比重調整剤として使用することができる。
【0024】
上記封入層の膜厚に関しては、重要なのは最も薄い部分の厚みであり、それを最低限度以上、例えば80μm以上、好ましくは90μm以上、100μm以上、110μm以上、120μm以上、150μm以上、180μm以上、210μm以上、240μm以上、270μm以上、300μm以上、350μm以上、400μm以上、450μm以上、500μm以上にキープすれば、膜厚に偏りがあってもよい。
【0025】
上記封入層の外側にさらに皮膜層を設けることもできる。かかる皮膜層としては、シームレスカプセルの皮膜として通常使用されているものであればよく、例えば、ゼラチン、カゼイン、ゼイン、ペクチン及びその誘導体、アルギン酸又はその塩、寒天、ジェランガム、トラガントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、タマリンド、マンナン、ヘミロース、デンプン、キトサン等を基剤として含む皮膜層を挙げることができる。また、上記皮膜層には、基剤に加えて、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の可塑剤、リン酸ナトリウムなどのpH調整剤、クエン酸三ナトリウム、メタリン酸ナトリウムなどのキレート剤、乳酸カルシウム、塩化カリウムなどのゲル化促進剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチンなどの界面活性剤、甘味料、香料、防腐剤、着色剤などを含んでいてもよい。さらに、上記皮膜層には、天然色素、合成色素、各種甘味料、防腐剤、水分活性低下剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0026】
上記皮膜層に用いる皮膜液としては、C型粘度計(東機産業社製、VISCOMETER TVC-7)にてロータNo.1(上限500mPa・s)で測定した85℃における粘度が300mPa・s以下の皮膜液が好ましい。
【0027】
本発明の水封入カプセルの製造方法としては、上記本発明の水封入カプセルを製造する方法であって、同心三重ノズルを用い、内側ノズルからは前記含水コアを、中間ノズルからは前記封入層を、外側ノズルからは前記皮膜層を吐出させて三層液滴とし、かかる三層液滴を冷却用溶媒と接触させて水封入プレカプセルを形成する方法であれば特に制限されず、水封入プレカプセルを乾燥する前に、皮膜層を剥ぎ取り排除し、水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置された封入層の2層とする、2層水封入カプセルの製造方法を特に好適に例示することができる。
【実施例】
【0028】
[水封入カプセルの作製]
同心三重ノズル(富士カプセル社製)を用い、最も外側のノズルからは表1に示す組成からなる皮膜液を、最も内側のノズルからは表2,3に示す組成からなる含水コア液を、中間のノズルからは表2,3に示す組成からなる封入層液を吐出させて3層液滴とし、かかる3層液滴をMCTからなる冷却用溶媒と接触させて皮膜液を硬化させることにより、コアと、前記コアを被包する封入層と、前記封入層を被包する皮膜層とを備えた3層水封入プレカプセル(実施品)を作製した。乾燥工程を経ずに最外層のゼラチン皮膜層を剥き取り、2層水封入カプセル(実施品)を作製した。この2層水封入カプセル封入層が外層として存在していれば水封入は可能であり、ゼラチン皮膜層は必ずしも必要ないことを確認している。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
[実施例1~8]
実施例1~7の含水コアには、充填性を良くするために水をアルギン酸Naであるキミカアルギン IL-2 ((株)キミカ)で増粘させている。封入層には、固形油脂4種をベースにし、封入層の厚さを、70μmを超えることで水封入が可能になっている。実施例3~5においては、充填性を良くするために固形油脂に比重調整剤 S.A.I.B (ショ糖脂肪酸エステル Sucrose Acetate Isobutylate (Eastman Chemical))が添加されている。
【0033】
表2に示す水封入率テストは、22℃、18~45%RH(又は5℃、70%RH、25℃、8%RH)での開放放置における水封入率の4週間、8週間、12週間、16週間経過後の経時変化を測定した。水封入率の参考・目標評価基準として、比較例1[ポリエチレン袋:低密度ポリエチレン樹脂製、厚さ0.06mm]及び 比較例2[ゴム風船(水風船):天然ゴム製、厚さ0.10mm]にそれぞれ水100%を封入し、水封入率の経時変化を測定した。水封入率において、比較例2より比較例1のほうが優れており、実施例1~8については比較例1とほぼ同等、もしくはそれより優れた水封入率であった。
【0034】
実施例4は、3層にてシームレス充填して実施例5のカプセルを得た後、皮膜乾燥工程を経ずに外層のゼラチン皮膜層を剥き取り2層水封入カプセルにしたものであり、封入層が外層として存在していれば水封入は可能であり、皮膜層(ゼラチン)は必ずしも必要でなく、その製品用途に応じ皮膜層の有無は適宜選択される。また、実施例4及び5における水封入率経時変化の結果より、2層及び3層構造にて水封入率に差は生じない。
【0035】
[実施例9~13]
実施例9~13及び比較例3では水封入可能な封入層の最薄膜厚を把握するため、封入層の最薄膜厚を700~70μmまで変更させた2層カプセルを作製し、22℃、18~45%RHでの開放放置における水封入率の4週間、8週間、12週間、16週間経過後の経時変化を測定した。封入層の最薄部膜厚測定には、高分解能3DX線顕微鏡「NANO3DX」(リガク社製)を用い、非破壊による断面画像を撮影し膜厚を確認した。
水封入率において封入層の最薄部膜厚が70μmの場合著しく水封入率が低下したが、それを超える最薄部膜厚であれば、良好な水封入率を保持していた。
【0036】
【0037】
[レオメーター測定使用機器]
SUN RHEO METER CR-3000 EX-L (サン科学)
モード: MODE1(Depth) アダプター :No.1φ10mm
REAL/HOLD: HOLD 進入距離 :3.0mm
圧縮/引張り: PRESS テーブル移動速度:20.0mm/min
ロードセル最大応力:200N
【0038】
[実施例14~17]
封入層の比重を0.795及び0.815の低比重に設定し、得られた生カプセルを実施例14及び15とした。また、封入層の比重を0.825及び0.835の低比重に設定し、得られた固形カプセルを実施例16及び17とした。
水封入率経時変化テスト8週間後のデータについて実施例14(封入層比重0.795)にて、比較例2(ゴム風船(水風船))よりも優れた水封入率を保持している。
【0039】
[実施例18及び19]
封入層における親油性組成物の比重について、比重調整剤としてショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)を用いて、高比重0.99及び1.03に設定したものをそれぞれ実施例18及び19とした。水封入率経時変化テスト8週間後のデータについて実施例19(封入層比重1.030)にて、比較例2(ゴム風船(水風船))よりも優れた水封入率を保持している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の水封入カプセルは、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、家庭用日用品、嗜好品(例えば、紙巻きタバコ、嗅ぎタバコ、無煙タバコ、加熱式タバコ、電子タバコなど)、工業用品等の分野において、親水性揮発性物質を長期間安定に保持できる水封入カプセルとして利用可能である。
【要約】
【課題】長期的に内容液の水分をカプセル内に封じ込め保持することが可能な固形カプセル又は生カプセル形態の水封入シームレスカプセル技術を提供すること。
【解決手段】水を含む含水コアと、該含水コアの外側に配置された封入層を備えた水封入カプセルにおいて、比重を0.79~1.05とした親油性組成物を封入層とし、かつ封入層の膜厚の最薄部を80μm以上とする。含水コアとして、水に粘性を付与する粘性付加剤を含有させることや、親油性組成物として、親油性組成物の比重を含水コアの比重に近づける比重調整剤を含有させることもできる。
【選択図】なし