(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】状態監視装置および状態監視プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20231025BHJP
【FI】
G08G1/00 D
(21)【出願番号】P 2019130995
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 義基
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-041304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の現在の状態を監視するための状態監視装置であって、
予め定めた複数の負荷カテゴリにそれぞれ対応する前記乗物の複数の負荷評価指標を記憶する記憶器と
、
前記乗物に搭載された複数のセンサの検出値を受信する受信器と、
制御器とを備え、
前記制御器は、
前記複数のセンサの前記検出値を用いて、前記乗物の走行に関する使用状況を示す予め定めた複数の状況カテゴリの中から、一以上の前記状況カテゴリを特定する状況特定部と、
特定された前記状況カテゴリと前記複数のセンサの前記検出値に基づいて、前記複数の負荷カテゴリの中から1以上の負荷カテゴリを特定し、前記記憶器に記憶された、特定した前記負荷カテゴリに対応する前記負荷評価指標を更新する指標更新部と、を備え
、
前記複数の状況カテゴリは、前記乗物の走行操作に関係する走行操作の種類を示す複数の走行操作カテゴリ、または、前記乗物が走行する走行路に関係するフィールドの種類を示す複数の走行フィールドカテゴリを含み、
前記負荷カテゴリは、前記乗物の部位を示している、状態監視装置。
【請求項2】
前記負荷カテゴリは、予め定めた前記乗物の複数の部位の中の1の部位と、負荷の種類を示す予め定めた複数の負荷項目の中の1の負荷項目とに対応するカテゴリであり、
前記複数の負荷項目は、環境負荷、熱負荷、繰り返し疲労、衝撃負荷のいずれかを含む、請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記複数の状況カテゴリは
、3つ以上の
前記走行操作カテゴリを含む、請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記複数の状況カテゴリは
、3つ以上の
前記走行フィールドカテゴリを含む、請求項1または2に記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記複数の状況カテゴリは、前
記複数の走行操作カテゴリ、および、前
記複数の走行フィールドカテゴリを含み、
前記状況特定部は、
前記複数のセンサの前記検出値を用いて、前記走行操作カテゴリおよび前記走行フィールドカテゴリのうちの一方の種類の前記状況カテゴリである第1状況カテゴリを特定する第1特定部と、
前記複数のセンサの前記検出値と、前記第1特定部により特定された前記第1状況カテゴリとを用いて、前記走行操作カテゴリおよび前記走行フィールドカテゴリのうちの他方の種類の前記状況カテゴリである第2状況カテゴリを特定する第2特定部と、を含み、
前記指標更新部は、前記複数のセンサの前記検出値と、前記第1特定部により特定された前記第1状況カテゴリと、前記第2特定部により特定された前記第2状況カテゴリとに基づいて、前記複数の負荷カテゴリの中から1以上の負荷カテゴリを特定し、前記記憶器に記憶された、特定した前記負荷カテゴリに対応する前記負荷評価指標を更新する、請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項6】
前記制御器は、前記状況カテゴリごとに、前記状況特定部により特定された頻度を前記記憶器に記憶し、特定された頻度を用いて、前記乗物のユーザを、前記乗物の使用状況に関連する予め定めた複数のユーザカテゴリのいずれかに分類するユーザ分類部を更に備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項7】
前記受信器により受信された前記複数のセンサの前記検出値を前記記憶器に記録し、前記状況特定部による前記状況カテゴリの特定に用いられた前記複数のセンサの前記検出値のうちの少なくとも一部を前記記憶器から消去するデータ管理部を更に備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項8】
前記負荷評価指標は、前記負荷カテゴリに対して設定された累積負荷値を含み、
前記指標更新部は、
前記特定された前記状況カテゴリと前記複数の検出値とに基づいて、前記複数の負荷カテゴリの中から1以上の負荷カテゴリを特定し、
前記特定された状況カテゴリと前記複数の検出値とに基づいて、前記特定された負荷カテゴリの各々につい
て重み値を決定し、
前記特定された負荷カテゴリに対応する前記累積負荷値ごとに、前記決定された重み値を加算することにより前記累積負荷値を更新する、請求項1~7のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項9】
前記複数の負荷カテゴリは、エンジン駆動系部位、動力伝達系部位、緩衝系部位および操舵系部位、電動駆動系部位の少なくとも1つを含む、請求項8に記載の状態監視装置。
【請求項10】
前記乗物には、所定のサーバ装置に搭載されたサーバ側通信器との間で情報の送受信が可能な乗物側通信器が搭載されており、
前記制御器は、前記乗物に搭載された乗物側制御器と、前記サーバ装置に搭載されたサーバ側制御器とを含み、
前記乗物側制御器は、前記乗物側通信器を制御して、前記指標更新部により更新された前記負荷評価指標を前記乗物から前記サーバ装置へ送信し、
前記サーバ側制御器は、前記サーバ側通信器が受信した前記負荷評価指標に基づき、前記乗物のメンテナンス情報を出力する、請求項1~9のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項11】
前記制御器は、前記負荷評価指標に基づき、前記乗物を制御する、請求項1~10のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項12】
前記乗物には、所定のサーバ装置に搭載されたサーバ側通信器との間で情報の送受信が可能な乗物側通信器が搭載されており、
前記記憶器、前記受信器および前記制御器は、前記サーバ装置に設けられている、請求項1~11のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項13】
前記負荷評価指標は、モータ、バッテリ、インバータの少なくとも1つを含む電動駆動ユニットに対して設定された負荷評価指標を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項14】
乗物の現在の状態を監視するための状態監視プログラムであって、
予め定めた複数の負荷カテゴリにそれぞれ対応する前記乗物の複数の負荷評価指標を記憶器に記憶する指標記憶ステップと
、
前記乗物に搭載された複数のセンサの検出値を受信する受信ステップと、
前記複数のセンサの前記検出値を用いて、前記乗物の走行に関する使用状況を示す予め定めた複数の状況カテゴリの中から、一以上の前記状況カテゴリを特定する状況特定ステップと、
特定された前記状況カテゴリと前記複数のセンサの前記検出値に基づいて、前記複数の負荷カテゴリの中から1以上の負荷カテゴリを特定し、前記記憶器に記憶された、特定した前記負荷カテゴリに対応する前記負荷評価指標を更新する指標更新ステップと、
をコンピュータに実行させ
、
前記複数の状況カテゴリは、前記乗物の走行操作に関係する走行操作の種類を示す複数の走行操作カテゴリ、または、前記乗物が走行する走行路に関係するフィールドの種類を示す複数の走行フィールドカテゴリを含み、
前記負荷カテゴリは、前記乗物の部位を示している、状態監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物の状態を監視するための状態監視装置および状態監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、建設機械のエンジン回転数および燃料噴射量のデータを収集し、このようなエンジン稼動パラメータに基づいてエンジンの寿命を予測することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、過去のエンジン稼動状況が同じであれば同じ寿命予想となる。しかしながら過去のエンジン稼働状況が同じでも、乗物ごとに寿命が異なる場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、乗物ごとの負荷の蓄積を精度よく推定できる状態監視装置および状態監視プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る状態監視装置は、乗物の現在の状態を監視するための状態監視装置であって、前記乗物の負荷評価指標を記憶する記憶器と前記乗物に搭載された複数のセンサの検出値を受信する受信器と、制御器とを備え、前記制御器は、前記複数のセンサの前記検出値を用いて、前記乗物の走行に関する使用状況を示す予め定めた複数の状況カテゴリの中から、一以上の前記状況カテゴリを特定する状況特定部と、特定された前記状況カテゴリに基づいて、前記記憶器に記憶された前記負荷評価指標を更新する指標更新部と、を備える。
【0007】
前記状態監視装置によれば、複数のセンサから取得した検出値から一旦乗物の走行に関する使用状況を示す状況カテゴリを特定する。つまり、複数のセンサの各々によって検知した局所的事象から、乗物の走行に関する使用状況という乗物全体に関わる事象を特定する。このように複数のセンサを用いることで、各センサの検出対象である局所的事象よりも上位の事象となる乗物の走行に関する使用状況を精度よく推定できる。
【0008】
さらに、前記状態監視装置によれば、状況特定部により特定した状況カテゴリを用いて負荷評価指標を更新する。すなわち、ユーザによる乗物の走行に関する使用状況を加味して、乗物全体に蓄積した負荷や、乗物の各部位に蓄積された負荷などを負荷評価指標として更新する。これにより、乗物ごとの負荷の蓄積を精度よく推定できる。また、例えば状況特定部により特定されたユーザによる乗物の走行に関する使用状況の傾向が分かれば、今後の乗物の使用によって乗物の各部位に蓄積されるであろう将来の負荷量や、乗物の各部位の寿命を予測しやすい。
【0009】
前記複数の状況カテゴリは、前記乗物の走行操作に関係する走行操作の種類を示す複数の走行操作カテゴリを含んでもよい。これにより、ユーザによる乗物の走行操作を加味した乗物の負荷評価指標を得ることができる。
【0010】
前記複数の状況カテゴリは、前記乗物が走行する走行路に関係するフィールドの種類を示す複数の走行フィールドカテゴリを含んでもよい。これにより、ユーザが乗物を走行させるフィールドの種類を加味した乗物の負荷評価指標を得ることができる。
【0011】
前記複数の状況カテゴリは、前記乗物の走行操作に関係する走行操作の種類を示す複数の走行操作カテゴリ、および、前記乗物が走行する走行路に関係するフィールドの種類を示す複数の走行フィールドカテゴリを含み、前記状況特定部は、前記複数のセンサの前記検出値を用いて、前記走行操作カテゴリおよび前記走行フィールドカテゴリのうちの一方の種類の前記状況カテゴリである第1状況カテゴリを特定する第1特定部と、前記複数のセンサの前記検出値と、前記第1特定部により特定された前記第1状況カテゴリとを用いて、前記走行操作カテゴリおよび前記走行フィールドカテゴリのうちの他方の種類の前記状況カテゴリである第2状況カテゴリを特定する第2特定部と、を含み、前記指標更新部は、前記複数のセンサの前記検出値と、前記第1特定部により特定された前記第1状況カテゴリと、前記第2特定部により特定された前記第2状況カテゴリとに基づいて、前記記憶器に記憶された前記負荷評価指標を更新してもよい。
【0012】
前記制御器は、前記状況カテゴリごとに、前記状況特定部により特定された頻度を前記記憶器に記憶してもよい。乗物の使用状況を示す状況カテゴリごとに頻度が記憶されるため、乗物の使用状況で乗物のユーザを分類するための情報として利用できる。例えば、メンテナンス会社は、この頻度情報を用いて、乗物のメンテナンス時期などのアドバイスをユーザに適切に行うことができる。また、乗物の開発者は、この頻度情報を用いて、乗物の使用状況を考慮した設計・開発に利用することができる。
【0013】
前記指標更新部は、特定された前記状況カテゴリと前記複数の検出値とに基づいて、前記記憶器に記憶された前記負荷評価指標を更新してもよい。これにより、より精度良く乗物ごとの負荷の蓄積を推定できる。
【0014】
前記受信器により受信された前記複数のセンサの前記検出値を前記記憶器に記録し、前記状況特定部による前記状況カテゴリの特定に用いられた前記複数のセンサの前記検出値のうちの少なくとも一部を前記記憶器から消去するデータ管理部を更に備えてもよい。これにより、記憶器の記憶容量の低減を図ることができる。
【0015】
前記負荷評価指標は、前記乗物の部位を示す予め定めた複数の部位カテゴリの各々に対して設定された累積負荷値を含み、前記指標更新部は、前記特定された前記状況カテゴリと前記複数の検出値とに基づいて、前記複数の部位カテゴリの中から1以上の部位カテゴリを特定し、前記特定された状況カテゴリと前記複数の検出値とに基づいて、前記特定された部位カテゴリの各々について前記重み値を決定し、前記特定された部位カテゴリに対応する前記累積負荷値ごとに、前記決定された重み値を加算することにより前記累積負荷値を更新してもよい。前記状態監視装置によれば、乗物の走行に関する使用状況を加味して、乗物の部位ごとに負荷度の重み付けができる。
【0016】
前記複数の部位カテゴリは、エンジンの駆動系部位、動力伝達系部位、緩衝系部位および操舵系部位、電動駆動系部位の少なくとも1つを含んでもよい。
【0017】
前記乗物には、所定のサーバ装置に搭載されたサーバ側通信器との間で情報の送受信が可能な乗物側通信器が搭載されており、前記制御器は、前記乗物に搭載された乗物側制御器と、前記サーバ装置に搭載されたサーバ側制御器とを含み、前記乗物側制御器は、前記乗物側通信器を制御して、前記指標更新部により更新された前記負荷評価指標を前記乗物から前記サーバ装置へ送信し、前記サーバ側制御器は、前記サーバ側通信器が受信した前記負荷評価指標に基づき、前記乗物のメンテナンス情報を出力してもよい。
【0018】
前記制御器は、前記負荷評価指標に基づき、前記乗物を制御してもよい。
【0019】
前記乗物には、所定のサーバ装置に搭載されたサーバ側通信器との間で情報の送受信が可能な乗物側通信器が搭載されており、前記記憶器、前記受信器および前記制御器は、前記サーバ装置に設けられていてもよい。これにより、前記制御器での演算に、サーバ装置が取得した他車両の情報を用いたり、サーバ装置に蓄積されたデータを用いた機械学習などを進めたりすることができる。したがって、乗物に前記記憶器、前記受信器および前記制御器設けられている場合に比べて、制御器の演算ロジックの更新や、制御器の演算に使用する情報の追加などを図り易い。
【0020】
前記負荷評価指標は、モータ、バッテリ、インバータの少なくとも1つを含む電動駆動ユニットに対して設定された負荷評価指標を含んでもよい。これにより、乗物の電動駆動ユニットの負荷を推定できる。
【0021】
本発明の別の態様に係る状態監視装置は、乗物の現在の状態を監視するための状態監視装置であって、前記乗物の情報を記憶する記憶器と前記乗物に搭載された複数のセンサの検出値を受信する受信器と、前記複数のセンサの前記検出値を用いて、前記乗物が走行する走行路に関係するフィールドの種類を示す予め定めた複数の走行フィールドカテゴリの中から、一以上の前記走行フィールドカテゴリを特定し、特定した前記走行フィールドカテゴリを前記記憶器に記憶する制御器と、を備える。
【0022】
本発明の一態様に係る状態監視プログラムは、乗物の現在の状態を監視するための状態監視プログラムであって、前記乗物の負荷評価指標を記憶器に記憶する指標記憶ステップと前記乗物に搭載された複数のセンサの検出値を受信する受信ステップと、前記複数のセンサの前記検出値を用いて、前記乗物の使用状況を示す予め定めた複数の状況カテゴリの中から、一以上の前記状況カテゴリを特定する状況特定ステップと、特定された前記状況カテゴリに基づいて、前記記憶器に記憶された前記負荷評価指標を更新する指標更新ステップと、をコンピュータに実行させる。
【0023】
なお前記状態監視プログラムは、記憶装置に記憶される。前記記憶装置は、コンピュータに内蔵または外付けされる読み書き可能または読み取り可能な装置であり、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ、光ディスク等を用いることができる。前記記憶装置に記憶されたプログラムは、前記記憶装置が直接接続されるコンピュータにおいて実行されてもよいし、前記記憶装置とネットワーク(例えば、インターネット)を介して接続されたコンピュータにおいてダウンロードされて実行されてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、乗物ごとの負荷の蓄積を精度よく推定できる状態監視装置および状態監視プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態に係る状態監視装置を備えたシステム全体の概略的な構成を示す模式図である。
【
図2】
図1に示すシステムのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示すビークルECUの構成を示すブロック図である。
【
図4】状況特定部による特定方法を説明するための模式図である。
【
図5】乗物の部位および負荷項目に対応する負荷評価指標を説明するための表である。
【
図6】(A)は、センサ検出値から走行操作カテゴリを出力する学習済みのニューラルネットワークであり、(B)は、センサ検出値および走行操作カテゴリから走行フィールドカテゴリを出力する学習済みのニューラルネットワークであり、(C)は、センサ検出値、走行操作カテゴリおよび走行フィールドカテゴリから負荷カテゴリを出力する学習済みのニューラルネットワークである。
【
図7】走行フィールドと使用頻度の関係を示すヒストグラムであり、(A)は、ある乗物についてのヒストグラムで、(B)は、(A)とは別の乗物についてのヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
【0027】
[システムの概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る状態監視装置を備えた状態監視システム100の概略的な構成を示す模式図である。例えば乗物1は、整地されていない路面、いわゆる不整地の走行に用いられる不整地走行車である。この種の不整地走行車として、本実施形態ではユーティリティビークルが例示される。不整地走行車は、整地を走行する乗物に比べて凹凸路面を走行することがある。この場合、乗物1の走行する走行路面や運転者の走行操作の影響によって、路面から乗物に与えられる衝撃が大きく変化する。このことから同じ乗物であっても走行状況に応じて部品寿命が大きく異なる。また不整地を走行することから、設計上の負荷許容値を大きく越えることもある。
【0028】
本実施形態では、乗物1にビークルECU(Electronic Control Unit)40が搭載されている。本実施形態では、ビークルECU40は、乗物1の走行に関する使用状況を監視するための状態監視装置として機能する。ビークルECU40は、乗物1に搭載された複数のセンサが検出したセンサ検出値に基づいて、乗物の走行に関する使用状況を特定する。本実施例では、ビークルECU40は、乗物1の使用状況とともに乗物1に生じた負荷に関する負荷評価指標を演算し、演算結果として記憶する。ビークルECU40が演算した、使用状況および負荷評価指標は、乗物1を構成する構成部品のメンテナンスや、構成部品の構造設計に有用となる有用データとして用いることができる。
【0029】
ビークルECU40は、乗物1に搭載された通信器16(
図2参照)を介して、乗物1外に設けられる所定の端末装置20との間でデータの送受信が可能となっている。例えば端末装置20は、乗物1の乗員が携帯する情報端末装置であって、例えばスマートフォン(多機能携帯電話)である。端末装置20は、公衆回線を介して接続される所定のサーバ装置30との間でデータの送受信が可能となっている。これによってビークルECU40は、通信器16、端末装置20を経由して、記憶した有用データを、乗物1外に設けられたサーバ装置30へ記憶させることができる。
【0030】
サーバ装置30には、分類わけされて有用データが記憶される。例えばサーバ装置30には、ビークルECU40ごとまたは乗物1のユーザごとに、ビークルECU40が送信する有用データが記憶されてもよい。また、サーバ装置30には、乗物1の種類ごと、乗物1が属する地域グループごと、あるいは所定の条件で分類分けされたユーザグループごとに、有用データが記憶されてもよい。サーバ装置30に記憶された有用データは、乗物1のユーザをサポートするための情報として、あるいは、乗物1の開発者に対する開発フィードバックのための情報として利用されてもよい。
【0031】
[ハードウェア構成]
次に、
図1に示すシステムのハードウェア構成、具体的には乗物1、端末装置20およびサーバ装置30のハードウェア構成について、
図2を参照して説明する。
【0032】
(乗物)
上述したように、本実施形態において乗物1は、ユーティリティビークルであり、図示しない車体フレームを備える。車体フレームの前部には、左右一対の前輪2aが支持されており、車体フレームの後部には、左右一対の後輪2bが支持されている。前輪2aには前輪ブレーキ(図示せず)が設けられている。後輪2bには後輪ブレーキ(図示せず)が設けられている。一対の前輪2aには、左右方向に延びる一対の前駆動シャフト3aがそれぞれ連結されている。一対の後輪2bには、左右方向に延びる一対の後駆動シャフト3bがそれぞれ連結されている。
【0033】
また、乗物1は、走行駆動源であるエンジンユニットを備える。エンジンユニットは、エンジン4、減速器5および変速器6を一体的に備えており、車体フレームに支持されている。エンジン4は、例えばガソリンエンジンである。変速器6は、例えばベルト式無段変速器である。エンジンの回転動力は、減速器5および無段変速器6を介して変速されて出力軸6aに伝達される。出力軸6aに伝達された回転動力は、前輪差動装置7aを介して一対の前駆動シャフト3aに、後輪差動装置7bを介して一対の後駆動シャフト3bにそれぞれ伝達される。前輪差動装置7aは、一対の前輪2aの回転差を許容する機構であり、後輪差動装置7bは、一対の後輪2bの回転差を許容する機構である。前輪差動装置7aおよび後輪差動装置7bは、例えば差動固定装置(デフロック)である。
【0034】
また、乗物1は、進行方向を変えるためのステアリング8を備える。ステアリング8は、運転席に設けられたステアリングホイールおよび当該ステアリングホイールの回転に応じて前輪2aの向きを変えるステアリング機構を備える。
【0035】
また、乗物1は、4つの車輪2a,2bの各々に対して設けられたサスペンション9を備える。サスペンション9は、路面の凹凸が車体に伝わるのを抑制する緩衝装置である。各サスペンション9は、車体フレームに対して車輪2a,2bを揺動可能に支持する揺動アーム9aと、車輪2a,2bから伝わる衝撃を吸収するスプリング(図示せず)と、揺動アーム9aに連結され、当該スプリングの振動を減衰するショックアブソーバ(図示せず)とを含む。例えば揺動アーム9aは、ダブルウイッシュボーン式サスペンションのアッパー側アーム、いわゆるAアームである。
【0036】
乗物1には、多数のセンサが搭載されている。以下の説明では、乗物1に搭載された多数のセンサを、まとめてセンサ群10と称する。例えばセンサ群10により検出される検出値には、乗物1の走行距離、乗物1の走行速度および速度変化、乗物1に搭載された走行駆動源の回転速度および速度変化、スロットルポジション、ギアポジション、車輪速度および速度変化、減速器・無段変速器・油圧クラッチなどの前後速度および速度変化、ステアリング角および角度変化、サスペンションストロークおよびストローク変化、乗物1の前後方向の加速度(前後加速度)、乗物1の左右方向の加速度(横加速度)、乗物1の上下方向の加速度(上下加速度)、ブレーキ圧および圧力変化などが含まれる。このようにセンサによって検出された計測対象に関する情報を直接検出情報と称する。本実施形態では、これらの直接検出情報に基づいて、乗物の走行に関する使用状況を推定可能となっている。乗物1の走行に関する使用状況は、例えば乗物1の走行状態である。具体的には、乗物の走行に関する使用状況には、乗物1の走行する走行路面の状況、乗物1の走行操作の状況、および乗物1の走行状況の少なくとも1つを含む。
【0037】
また、乗物1には、上述したビークルECU40の他、エンジンECU11、サスペンションECU12、ブレーキECU13、IMU14、HMIメータ15、および通信器16が搭載されている。各構成物11~16,40は、CANバス10aで相互にデータ伝送可能に接続されている。
【0038】
ビークルECU40、エンジンECU11、サスペンションECU12およびブレーキECU13は、それぞれ、マイコン等や各種のメモリ等を含む演算装置により構成される。ビークルECU40、エンジンECU11およびサスペンションECU12は、それぞれ、センサ群10のうちの一部または全部のセンサと接続されており、各センサにて検出した検出値が送られる。ビークルECU40と他のECU11,12,13は、同じハードウェアによって実現されても良いし、別々のハードウェアによって実現されてもよい。
【0039】
エンジンECU11は、エンジン4を電子制御する。本実施形態では、エンジンECU11は、乗物1が搭載するエンジン4に設けられた燃料噴射装置を電子制御するFI(Fuel Injection)-ECUである。
【0040】
サスペンションECU12は、サスペンション9を電子制御する。また、ブレーキECU13は、前輪ブレーキおよび後輪ブレーキに発生させる制動力を制御する。
【0041】
IMU(Inertial Measurement Unit)14は、乗物1の前後方向、左右方向および上下方向にそれぞれ延びる3軸の角速度および加速度を検出する装置である。これによって乗物1の3軸回りの姿勢を判断したり、加減速力、遠心力、慣性力、および障害物と衝突した時の衝撃力など、走行中の乗物1に生じる力を検出したりすることができる。
【0042】
HMI(Human Machine Interface)メータ15は、センサ群10の検出値または検出値を加工して得られる値などを乗物1の運転者へ提示する機器である。
【0043】
通信器16(乗物側通信器)は、端末装置20の第1通信器23と無線通信を行うものである。例えば、通信器16は、HMIメータ15と一体的に構成されている。通信器16および第1通信器23は、アンテナやRF(Radio Frequency)回路等から構成される。本実施形態では、通信器16および第1通信器23が行う無線通信は、ブルートゥース(登録商標)通信であり、ペアリングされることにより無線通信可能となる。ペアリングとは、近くにいる無関係な機器と通信しないように、機器同士(本実施形態では、通信器16と第1通信器23との間)で通信可能であるように相互認証を行うことである。なお、通信器16と第1通信器23とは、有線で互いに通信を行うものであってもよい。
【0044】
(端末装置)
端末装置20は、ハードウェア面において、制御器21、タッチスクリーン22、第1通信器23、および第2通信器24を備える。これら各構成物21~24が相互にデータ伝送可能に接続されている。
【0045】
制御器21は、端末装置20の動作を制御する。制御器21は、例えば演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)を含む。
【0046】
タッチスクリーン22は、ユーザからの操作入力を受け付ける入力器、およびユーザに視認可能な画面を表示する表示器を兼ねている。具体的に、タッチスクリーン22は、半透過型のディスプレイおよびバックライトLED(表示器)と、ディスプレイ上に配設されたタッチパネル(入力器)とを含む。なお、端末装置20の入力器および表示器は、一体的でなくてもよく、別体であってもよい。
【0047】
第1通信器23は、乗物1に設けられた通信器33と無線通信を行うものである。第1通信器23は、通信器16と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0048】
第2通信器24は、無線通信によってネットワークNWを介してサーバ装置30の通信器33との間でデータ通信を行う。
【0049】
(サーバ装置)
サーバ装置30は、ハードウェア面において、制御器31、記憶器32および通信器33を備える。これら各構成物31~33が相互にデータ伝送可能に接続されている。
【0050】
制御器31(サーバ側制御器)は、サーバ装置30の動作を制御する。制御器31は、例えば演算処理装置を含む。記憶器32は、例えば、ハードディスクやROM等の不揮発性メモリやRAM等の揮発性メモリを含む。記憶器32には、ビークルECU40から端末装置20を経由して送られたデータが記憶される。通信器33(サーバ側通信器)は、ネットワークNWを介して各端末装置20の第1通信器23との間で通信する。
【0051】
通信器33は、乗物1から受信した後述の負荷評価指標を記憶器32に記憶する。例えばメンテナンス会社に設置された端末装置101からメンテナンス情報の要求があったときに、制御器31は、記憶器32に記憶した負荷評価指標に基づき、乗物1のメンテナンス情報を出力する。
【0052】
[ビークルECUの構成]
次に、ビークルECU40の具体的構成について、
図3を参照して説明する。
【0053】
ビークルECU40は、ハードウェア面において、制御器41(乗物側制御器)、記憶器42、受信器43およびCAN通信器44を備える。制御器41は、ビークルECU40の動作を制御する。制御器41は、例えば演算処理装置やROMやRAM等のメモリを含む。記憶器42は、例えば、ハードディスクやROM等の不揮発性メモリやRAM等の揮発性メモリを含む。記憶器42には、後述するように、乗物1の負荷評価指標が記憶されている。受信器43は、センサ群10から検出値を受信するインタフェースである。また、CAN通信器44は、上述したCANバス10aを通じて上述した他の要素と信号を送受信するインタフェースである。これによって、CAN通信規格によって接続される他の機器からの情報を取得することができる。本実施例では、各種のECUがCAN通信によって相互に情報伝達可能に構成される。
【0054】
なお、本実施形態において、受信器43およびCAN通信器44は、本発明における「受信器」に対応する。すなわち、IMU14で取得した検出値や他のECUから取得する値も、本発明の「複数のセンサの検出値」に対応する。
【0055】
図3には、ビークルECU40の制御器41の機能的構成も示される。制御器41は、機能面において、データ管理部51、走行状態特定部52、走行フィールド特定部53、指標更新部54、車両制御部55、駆動制御部56、補機制御部57、およびユーザ分類部58を備える。例えば制御器41のメモリまたは記憶器42などビークルECU40が備える記憶装置には、状態監視プログラムが記憶されており、これら機能部51~58は、状態監視プログラムを制御器41が実行することにより実現される。
【0056】
データ管理部51は、受信器43により受信されたセンサ群10の検出値を記憶器42に記録する。また、データ管理部51は、後述の走行状態特定部52および走行フィールド特定部53の各々による状況カテゴリの特定に用いられた複数のセンサの検出値のうちの少なくとも一部を記憶器42から消去する。データ管理部51は、複数のセンサの検出値の消去を、後述するように当該複数のセンサの検出値が有用データの生成に用いられた後に実行する。なお、データ管理部51は、複数のセンサの検出値の消去を予め定めた時間間隔で実行してもよい。
【0057】
走行状態特定部52(第1特定部)および走行フィールド特定部53(第2特定部)は、センサ群10の検出値を用いて、乗物1の走行に関する使用状況を示す予め定めた複数の状況カテゴリの中から、一以上の状況カテゴリを特定する状況特定部を構成する。状況カテゴリには、走行操作カテゴリおよび走行フィールドカテゴリが含まれる。以下の説明では、走行操作カテゴリおよび走行フィールドカテゴリを総称して、状況カテゴリと呼ぶこともある。
【0058】
具体的には、走行状態特定部52は、センサ群10の検出値を用いて、状況カテゴリとして予め定めた複数の走行操作カテゴリ(第1状況カテゴリ)の中から、一以上の走行操作カテゴリを特定する。走行操作カテゴリは、乗物1の走行操作の種類を示す。複数の走行操作カテゴリには、例えば下記の(a1)~(a8)の操作が含まれる。
【0059】
(a1)加速操作、
(a2)減速操作、
(a3)定速走行操作、
(a4)制動操作、
(a5)変速操作、
(a6)旋回操作、
(a7)照明操作、
(a8)走行モード切替操作(2輪駆動/4輪駆動の切替え操作、差動装置7a,7bの作動と解除との切替え操作、ABS(Antilock Brake System)設定、エンジン4の出力モード切替操作、サスペンション9のモード切替操作)
【0060】
また、走行状態特定部52は、このような走行操作カテゴリに加えてまたは代わりに、乗物1の状態を特定してもよい。例えば、本実施形態では、走行状態特定部52は、乗物1の状態が、(c1)汎用走行状態、(c2)不整地走行状態、および(c3)異常走行状態のいずれの走行状態にあるかを判断する。走行状態特定部52は、例えば、IMU14、車輪回転センサ、サスペンションストロークセンサなどの車両センサを用いることで特定する。汎用走行状態は、乗物1が走行する路面が整地か不整地かに関係なく生じる状態である。不整地走行状態は、乗物1が不整地を走行する際に頻繁に生じる走行状態である。異常走行状態は、乗物1に対して異常が生じた場合に発生する走行状態である。これら(c1)~(c3)の状態は、更に下記のように細分化される。
【0061】
(c1)の汎用走行状態は、(c11)乗物の加減速状態、(c12)傾斜面走行状態、(c13)高速走行状態、(c14)中速走行状態、(c15)低速走行状態、(c16)旋回走行状態、(c17)後進走行状態、(c18)高負荷走行状態、(c19)変速状態、などを含む。なお、「高速走行状態」は、乗物1の速度が所定の第1速度以上の速度に維持されている状態である。「中速走行状態」は、乗物1の速度が、前記第1速度より遅い所定の第2速度以上で、前記第1速度未満の速度に維持されている状態である。「低速走行状態」は、乗物1の速度が前記第2速度未満の速度に維持されている状態である。汎用走行状態については、車速センサ・IMU14などセンサ計測対象に関する情報を直接検出情報として用いて推定することができる。
【0062】
(c2)の不整地走行状態(非接地輪発生状態)は、(c21)乗り上げ状態(例えば岩などに乗り上げた状態)、(c22)片輪走行状態、(c23)ジャンプ状態、(c24)落下状態、(c25)空転走行状態(窪み通過時など車輪の少なくとも1つが路面に接地していない状態)、(c26)スタック状態(駆動輪がスリップして進まない状態)、などを含む。乗り上げ状態、片輪走行状態、ジャンプ状態等については、車輪ごとに設けられるストロークセンサやIMU14の検出値に基づいて推定することができる。空転状態およびスタック状態については、複数の車輪速センサの出力値に基づいて、推定することができる。
【0063】
(c3)の異常走行状態(衝撃発生走行状態)は、(c31)障害物との衝突、(c32)乗物同士の追突、(c33)転倒状態、(c34)乗物1にかかる衝撃または荷重が所定値を超える状態、などを含む。このような異常走行状態については、IMU14の検出値に基づいて推定することができる。
【0064】
走行状態特定部52は、上述した乗物1の状態を同時的かつ複合的に特定できることが好ましい。また、走行状態特定部52は、乗物1の状態の移行も特定できるよう、短い時間間隔で乗物1の状態を特定できることが好ましい。
【0065】
走行フィールド特定部53(第2特定部)は、センサ群10の検出値を用いて、状況カテゴリとして予め定めた複数の走行フィールドカテゴリ(第2状況カテゴリ)の中から、一以上の走行フィールドカテゴリを特定する。走行フィールドカテゴリは、乗物1が走行する走行路に関係する路面状態の種類を示す。上述したように不整地を走行する場合には、走行領域に応じて、走行路面の路面状態が大きく変化する。複数の走行フィールドカテゴリには、例えば下記の(b1)~(b5)に示すフィールドが含まれる。
【0066】
(b1)舗装路、
(b2)デューン(dune)、
(b3)オープン・デザート(open desert)、
(b4)ロック・セクション(rock section)、
(b5)アクロバット用フィールド
【0067】
なお、「舗装路」は、整地されて凹凸の比較的少ない路面である。「デューン」は、砂丘である。「オープン・デザート」は、岩石や砂礫(砂や小石)でできた広大な荒地・砂漠である。「ロック・セクション」は、例えば数十センチメートルの石や岩が並ぶフィールドである。「アクロバット用フィールド」は、アクロバット走行するためのフィールドであり、例えば乗物1がジャンプするためのジャンプ台などが設置されたフィールドである。その他、複数の走行フィールドカテゴリには、「マッド」、「林間」、「山岳」、「水路横断」など(b1)~(b5)のいずれにも該当しないフィールドが含まれてもよい。
【0068】
また、複数の走行フィールドカテゴリは、上記の(b1)~(b5)のような路面状態の種類である必要はなく、走行する路面に応じて乗物に生じる状況の種類を示すカテゴリであってもよい。例えば、複数の走行フィールドカテゴリには、(d1)サスペンション負荷フィールド、(d2)駆動輪負荷フィールド、(d3)衝撃フィールド、(d4)エンジン高温フィールドなどが含まれてもよい。
【0069】
(d1)のサスペンション負荷フィールドは、サスペンションストローク量またはストローク速度が大きいフィールドである。サスペンション負荷フィールドは、例えば上記の(b3)、(b4)、(b5)などに対応する。
【0070】
(d2)の駆動輪負荷フィールドは、スリップやスタックなど車輪の空転が生じやすいフィールドである。駆動輪負荷フィールドは、例えば上記の(b2)、(b3)、(b4)などに対応する。
【0071】
(d3)の衝撃フィールドは、障害物の衝突、乗物1がジャンプした場合など車輪が路面から一定以上の衝撃を受けるフィールドである。衝撃フィールドは、例えば上記の(b3)、(b4)、(b5)などに対応する。
【0072】
(d4)のエンジン高温フィールドは、乗物1に搭載されたエンジンが高温になりやすいフィールドである。例えばエンジン高温フィールドは、砂丘、マッド、草原などラジエータへの送風が妨げられやすいフィールドである。エンジン高温フィールドは、上記の(b1)、(b2)などに対応する。
【0073】
なお、上記に挙げた走行操作カテゴリや走行フィールドは、例示されたにすぎない。すなわち、複数の走行操作カテゴリは、上記に示す状態にするための操作の一部を含まなくてもよいし、上記に示す状態にするための操作以外の操作が含まれてもよい。例えば、走行させない状態(すなわち乗物1を操作しない状態)も、走行操作カテゴリに含まれてもよい。また、複数の走行フィールドカテゴリは、上記に示すフィールドの一部または全部を含まなくてもよいし、上記以外のフィールドが含まれてもよい。
【0074】
例えばビークルECU40は、それぞれの走行フィールドを走行する場合の走行パターンや操作パターンを予め記憶している。例えばビークルECU40は、実際の走行/操作パターンと、予め記憶している走行フィールド毎のパターンとを比較することで、実際に走行しているフィールドを推定することができる。例えば走行フィールド特定部53は、走行中のサスペンションストロークのストローク変化のパターンがロック・セクションに特有の変化を生じている場合には、ロック・セクションとして判断してもよい。また例えば走行フィールド特定部53は、傾斜走行が続く場合には、デューン路面として判断してもよい。実際には、運転者は、個別の走行路面に応じた運転操作を行なう。このことから、走行フィールド特定部53は、は、走行状況とともに走行路面に応じた運転操作パターンに基づいて走行路面を判断してもよい。例えばジャンプ前に加速するなど、アクロバット用フィールド特有の運転者の操作に基づいて、アクロバット用フィールドを判断してもよい。
【0075】
図4(A)~(C)は、走行状態特定部52および走行フィールド特定部53による特定方法を説明するための模式図である。
図4(A)は、センサ群10の検出値のうちの走行速度X1と前後加速度X2とを、それぞれ横軸および縦軸とした図が示されている。
図4(B)は、センサ群10の検出値のうちの走行速度X1と横加速度X3とを、それぞれ横軸および縦軸とした図が示されている。
図4(C)は、センサ群10の検出値のうちのサスペンションストローク変化率X4とサスペンションストローク量X5とを、それぞれ横軸および縦軸とした図が示されている。ストローク変化率は、ストローク速度としてもよい。
【0076】
図4(A)~(C)には、各検出値に対応した一部の走行操作カテゴリおよび走行フィールドカテゴリが示されている。
図4(A)~(C)に例示的に示された、センサからの検出値と走行操作カテゴリとの対応関係、センサからの検出値と走行フィールドカテゴリとの対応関係は、予めビークルECU40の記憶器42に記憶されており、走行状態特定部52および走行フィールド特定部53は、予め記憶された対応関係を用いて、データ管理部51から取得した検出値から、走行操作カテゴリおよび走行フィールドカテゴリを特定する。すなわち、記憶器42には、複数のセンサの検出値と、状況カテゴリとの対応関係を示す状況対応関係情報が記憶されており、状況特定部は、この状況対応関係情報に基づき、取得した複数のセンサの検出値に対応する状況カテゴリを特定する。
【0077】
図4(A)~(C)は、状況カテゴリの特定方法の概念の理解を容易にするために二次元座標で簡易的に示されたにすぎず、実際には、2つの検出値ではなく、多数のセンサの検出値から、1つの状況カテゴリ、または複数の状況カテゴリ(走行操作カテゴリと走行フィールドカテゴリなど)が特定される。基本的には、用いられるセンサ検出値の数が多いほど、状況カテゴリを特定する精度は向上する。例えば走行に関する直接検出情報とともに、走行への関係が低い間接検出情報を加えて走行路面を推定してもよい。たとえば周囲温度、周囲気圧、乗物の位置情報などに基づくことで、走行路面を更に精度よく推定しやすくできる。また時間変化ごとのパターンや頻度パターンとの比較によって、走行路面を推定してもよい。
【0078】
また、1の状況カテゴリを特定するために用いられるセンサ検出値には、同じセンサで異なる時間に計測された検出値が含まれる。すなわち、状況カテゴリの特定には、1つまたは複数のセンサ検出値の時間的変化も用いられる。
【0079】
また状況カテゴリの特定には、例えば機械学習を利用してもよい。例えば実際に走行路面を走行させた場合に、各種センサの検出値をそれぞれ入力値とし、実際の走行路面を出力値とするような判断式をニューラルネットワークなどの機械学習によって求めてもよい。この場合、上述した状況対応関係情報は、学習済みのニューラルネットワークである。機械学習の利用について、詳細は後述する。
【0080】
指標更新部54は、特定された状況カテゴリと複数の検出値とに基づいて、記憶器42に記憶された負荷評価指標を更新する。本実施形態では、指標更新部54は、複数のセンサの検出値と、走行状態特定部52により特定された走行操作カテゴリと、走行フィールド特定部53により特定された走行フィールドカテゴリとに基づいて、記憶器42に記憶された負荷評価指標を更新する。
【0081】
負荷評価指標は、乗物1または乗物1の各部位の負荷の蓄積度合い(疲労度)を示す指標である。負荷評価指標は、乗物1の部位を示す予め定めた複数の部位カテゴリの各々に対して設定された累積負荷値を含む。指標更新部54は、受信器43が検出値を受信するたびに、あるいは所定の時間間隔で、累積負荷値を更新する。
【0082】
図5を参照して、累積負荷値の更新について説明する。
図5は、乗物1の部位および負荷項目に対応する負荷評価指標を説明するための表である。本実施形態では、複数の負荷項目Y1、Y2、…Ynと乗物1の複数の部位Z1、Z2、…Znとが予め定められている(なお、
図5では、負荷項目として、環境負荷Y1、熱負荷Y2、繰り返し疲労Y3、および衝撃負荷Y4が例示されており、部位として、エンジン駆動系部位Z1、動力伝達系部位Z2、および緩衝系部位Z3が示されている)。1の部位と1の負荷項目に対応した1の負荷評価指標が記憶器42に記憶されている。以下の説明では、1の部位と1の負荷項目に対応するカテゴリを、「負荷カテゴリ」と称する。
【0083】
予め定めた複数の負荷項目の各々は、負荷の種類を示している。予め定めた複数の負荷項目には、例えば「環境負荷」、「熱負荷」、「繰り返し疲労」、「衝撃負荷」などが含まれる。「環境負荷」とは、乗物1の周囲の環境またはその変化から受ける対象部位の負荷(強度低下)である。例えば乗物1の周囲の環境またはその変化には、乗物1が受ける水や路面の荒れ、乗物1の周りの気温やその変化などが含まれる。「熱負荷」とは、対象部位で発生したまたは対象部位が外部から受けた熱による対象部位の負荷(強度低下)である。「繰り返し疲労」とは、力学的応力を繰り返し受けることによる対象部位の疲労度(強度低下)である。「衝撃負荷」とは、外部から直接または間接的に受けた衝撃力によって生じる対象部位の負荷(強度低下)である。なお、これら負荷項目は例示したにすぎない。予め定めた複数の負荷項目には、上記の項目の一部または全部が含まれなくてもよいし、別の項目が含まれてもよい。例えば、負荷項目に、誤信号や誤情報を除くための項目(例えば上記のいずれの負荷項目にも分類されない情報を累積するための項目)が含まれてもよい。また、負荷項目はなくてもよく、乗物1の部位ごとに、1の累積負荷値が設定されていてもよい。
【0084】
予め定めた複数の部位Z1、Z2、…Znには、例えば「エンジン駆動系部位」が含まれる。「エンジン駆動系部位」には更に「エンジン」、「減速器」、「変速器」などが含まれる。また、予め定めた複数の部位Z1、Z2、…Znには、例えば「動力伝達系部位」が含まれる。「動力伝達系部位」には更に、「前駆動シャフト」、「後駆動シャフト」、「前輪差動装置」、「後輪差動装置」、「ホイール」などが含まれる。また、予め定めた複数の部位Z1、Z2、…Znには、例えば「緩衝系部位」が含まれる。「緩衝系部位」には更に、サスペンションの構成要素である「揺動アーム」、「ショックアブサーバ」、「スプリング」などが含まれる。また、予め定めた複数の部位Z1、Z2、…Znには、例えば「操舵系部位」が含まれる。「操舵系部位」には更に、ステアリング8のステアリング機構の構成要素である「ステアリング軸」、「ステアリングジョイント」、「タイロッドエンド」などが含まれる。また、予め定めた複数の部位Z1、Z2、…Znには、例えば「シャーシ系部位」が含まれる。「シャーシ系部位」には更に、「フロントフレーム」、「リヤフレーム」、「サイドフレーム」、「キャビンフレーム」、「クロスフレーム」、「リヤガセットフレーム」、「カーゴキャリア」などが含まれる。また、予め定めた複数の部位Z1、Z2、…Znには、「電動駆動部位(電動駆動ユニット)」が含まれる。「電動駆動部位」には更に、電動車の電動駆動ユニットが備える要素、すなわち、「モータ」、「バッテリ」、「インバータ」などが含まれる。また、予め定めた複数の部位Z1、Z2、…Znには、「ブレーキ系部位」が含まれる。なお、
図5に示した部位や上述した部位は例示したにすぎない。予め定めた複数の部位には、上記の部位の一部または全部が含まれなくてもよいし、別の部位が含まれてもよい。
【0085】
例えば、複数の負荷項目および複数の部位は、メンテナンス項目に基づいて設定されてもよい。エンジン駆動系部位において、熱負荷に対応する累積負荷値が高いようであれば、熱負荷の影響で点検や交換が必要な部位を優先的にメンテナンスすべきことが容易に認識される。また例えばサスペンション系部位において、衝撃的負荷の累積負荷値が高いようであれば、ダンパ特性の検査タイミングを早める必要があることが容易に認識される。このように対象部位の点検・交換のタイミングが把握できることで、点検により故障状態となることを防ぎやすい。また点検・交換タイミングの適正化を計りやすく、点検・交換頻度に過不足が生じることを防ぐことができる。
【0086】
指標更新部54は、特定された状況カテゴリ(つまり走行操作カテゴリと走行フィールドカテゴリ)と受信器43が受信した複数の検出値とに基づいて、複数の負荷カテゴリの中から1以上の負荷カテゴリを特定する。
【0087】
入力としての状況カテゴリ(つまり走行操作カテゴリと走行フィールドカテゴリ)と、出力としての1以上の負荷カテゴリとの対応関係は、予めビークルECU40の記憶器42に記憶されている。指標更新部54は、予め記憶された対応関係を用いて、1以上の負荷カテゴリを特定する。すなわち、記憶器42には、状況カテゴリと負荷カテゴリとの対応関係を示す負荷対応関係情報が記憶されており、指標更新部54は、この負荷対応関係情報に基づき、状況カテゴリに対応する負荷カテゴリを特定する。負荷対応関係情報には、状況カテゴリと負荷カテゴリと複数のセンサの検出値との対応関係を含んでもよい。そして、指標更新部54は、特定された状況カテゴリと複数の検出値とに基づいて、特定された負荷カテゴリの各々について重み値(例えば「1」や「3」など)を決定する。負荷対応関係情報に、特定された状況カテゴリおよび/または複数の検出値に応じた重み値についての情報が含まれていてもよい。指標更新部54は、特定された負荷カテゴリに対応する累積負荷値ごとに、決定された重み値を加算することにより累積負荷値を更新する。指標更新部54が複数の負荷カテゴリを特定した場合、特定された複数の負荷カテゴリの重み値は互いに異なる値であってもよい。
【0088】
なお、このような負荷カテゴリの特定には、例えば機械学習を利用することも可能である。これについて、
図6(A)~(C)を参照しながら、機械学習を用いた状況カテゴリの特定についての説明と併せて説明する。
【0089】
図6(A)は、入力層と出力層とを備え、入力層の入力データを受信器43により受信した受信データ(センサ検出値)とし、出力層の出力データを走行状態カテゴリデータとするニューラルネットワークが示されている。
【0090】
図6(A)は、センサ検出値から走行操作カテゴリを出力する学習済みのニューラルネットワーク(以下、「第1状況特定モデル」)である。この第1状況特定モデルは、上述した状況対応関係情報に対応する。この学習済みの第1状況特定モデルは、入力層および出力層を備え、複数のセンサが検出した検出値を入力層への入力データとし、走行操作カテゴリデータを出力層からの出力データとする。この学習済み第1状況特定モデルは、走行操作カテゴリデータと、その走行操作カテゴリデータに対応した走行を乗物1で行ったときに複数のセンサが検出した検出値とを、教師データとして機械学習させることにより得られる。走行状態特定部52は、この第1状況特定モデルの入力層へ、入力データとしての複数のセンサの検出値を入力することにより、入力データに対応した一以上の走行操作カテゴリを出力する。
【0091】
図6(B)は、センサ検出値および走行操作カテゴリから走行フィールドカテゴリを出力する学習済みのニューラルネットワーク(以下、「第2状況特定モデル」)である。この第2状況特定モデルも、第1状況特定モデルと同様、上述した状況対応関係情報に対応する。この学習済みの第2状況特定モデルは、入力層および出力層を備え、複数のセンサが検出した検出値、およびそれら検出値を用いて走行状態特定部52が出力した走行操作カテゴリデータを入力層への入力データとし、走行フィールドカテゴリデータを出力層からの出力データとする。つまり、この学習済み第2状況特定モデルの入力データは、
図6(A)に示された学習済み第1状況特定モデルの入力データと出力データである。学習済み第2状況特定モデルは、走行操作カテゴリデータと、走行フィールドカテゴリデータと、その走行フィールドカテゴリデータに対応した走行フィールドで、その走行操作カテゴリデータに対応した走行を乗物1で行ったときに複数のセンサが検出した検出値とを、教師データとして機械学習させることにより得られる。走行フィールド特定部53は、この第2状況特定モデルの入力層へ、
図6(A)に示された学習済み第1状況特定モデルの入力データおよび出力データを入力することにより、入力データに対応した一以上の走行フィールドカテゴリを出力する。
【0092】
図6(C)は、センサ検出値、走行操作カテゴリおよび走行フィールドカテゴリから負荷カテゴリを出力する学習済みのニューラルネットワーク(以下、「負荷特定モデル」)である。この負荷特定モデルは、上述した負荷対応関係情報に対応する。この学習済みの負荷特定モデルは、入力層および出力層を備え、複数のセンサが検出した検出値、走行操作カテゴリデータ、走行フィールドカテゴリデータを入力層への入力データとし、負荷カテゴリデータを出力層からの出力データとする。つまり、この学習済み負荷特定モデルの入力層への入力データは、
図6(B)に示された学習済みの第2状況特定モデルの入力データと出力データである。
【0093】
この負荷特定モデルの教師データは、乗物1の様々な部位に歪みゲージなどの負荷検出器を取り付けて、様々な走行を乗物1で行うことにより取得される。例えば、ある走行フィールドをある走行操作で走行したときの各負荷検出器の値をモニタして、負荷検出器の検出値が所定の閾値を超えた部位を、負荷指標値を更新する対象となる負荷カテゴリとして特定してもよい。この場合、閾値は部位ごとに設定してもよい。学習済み負荷特定モデルは、走行操作カテゴリデータと、走行フィールドカテゴリデータと、その走行フィールドカテゴリデータに対応した走行フィールドで、その走行操作カテゴリデータに対応した走行を乗物1で行ったときに得られる複数のセンサの検出値と、負荷がかかっていると判断された部位に対応する負荷カテゴリデータと、教師データとして機械学習させることにより得られる。
【0094】
負荷特定モデルは、負荷カテゴリデータだけでなく、歪みゲージの検出値に対応する重み値を、出力層からの出力データとしてもよい。この場合、歪みゲージの検出値に対応する重み値も負荷特定モデルの教師データに含まれる。また、負荷特定モデルの入力層への入力データは、走行操作カテゴリデータと走行フィールドカテゴリデータの双方でなく、一方のみであってもよい。例えば、学習済みの負荷特定モデルは、入力層および出力層を備え、複数のセンサが検出した検出値および状況特定部が特定した状況カテゴリを示す状況カテゴリデータを入力層への入力データとし、負荷カテゴリデータを出力層からの出力データとしてもよい。この場合、負荷特定モデルの教師データは、複数のセンサの検出値、状況カテゴリデータ、負荷カテゴリデータである。
【0095】
指標更新部54は、この学習済み負荷特定モデルの入力層へ、
図6(B)に示された学習済み第2状況特定モデルの入力データおよび出力データを入力することにより、入力データに対応した一以上の負荷カテゴリを出力する。
【0096】
例えば、乗物1をフラットな走行路を直進状態で高速走行させている場合、複数のセンサで検出された検出値から、走行状態特定部52は、第1状況特定モデルを用いて「高速状態」および「直進状態」などを特定し、走行フィールド特定部53は、第2状況特定モデルを用いて「舗装路」を特定する。指標更新部54は、負荷特定モデルを用いて、例えば負荷項目「熱負荷」、部位「エンジン駆動系」など負荷カテゴリを特定するとともに、負荷カテゴリの重み値を決定する。指標更新部54は、特定した負荷カテゴリに対応する累積負荷値ごとに、決定された重み値(例えば「1」など)を加算することにより累積負荷値を更新する。
【0097】
図3に戻って、車両制御部55は、乗物1の安全面に関連する車載機器を制御する。例えば車両制御部55は、灯火器、ヒーター、シートベルトセンサ、転倒センサなどを制御する。駆動制御部56は、乗物1の駆動に関連する車載機器を制御する。例えば駆動制御部56は、二輪駆動と四輪駆動の切替、デフロックの状態切替、クラッチなどを制御する。補機制御部57は、乗物1に搭載された補機を制御する。例えば補機制御部57は、ラジエータファンやエアコンを制御する。
【0098】
これら車両制御部55、駆動制御部56および補機制御部57は、指標更新部54により更新される負荷評価指標を用いて、乗物1に搭載された各種機器を制御する。すなわち、制御器41は、負荷評価指標に基づき、乗物1を制御する。例えば補機制御部57は、予め定めた負荷評価指標が所定の値を超えた場合に、負荷評価指標から、ラジエータの温度上昇を予測し、ラジエータの温度上昇に先行してラジエータファンを駆動させてもよい。
【0099】
また、車両制御部55、駆動制御部56および補機制御部57は、状況カテゴリ情報を用いて、乗物1に搭載された各種機器を制御してもよい。例えば、車両制御部55は、走行操作カテゴリ情報および/または走行フィールドカテゴリ情報に基づき、灯火器のON/OFFの切替を行ってもよい。車両制御部55、駆動制御部56および補機制御部57は、乗物1に搭載された各種機器の制御を、たとえば各走行フィールドに適したものに切替えてもよい。具体的には、状況特定部により乗物1がデューンセクションなどのスタックが生じる可能性が高い走行路を走行していると判断された場合に、ビークルECU40は、二輪駆動から四輪駆動に変更したり、デフロックの機能を解除したりしてもよいし、また急加速を抑えるようエンジン4などを制御してもよい。また状況特定部により乗物1が路面の凹凸が大きいロック・セクションを走行中であると判断された場合に、ビークルECU40は、路面の凹凸が車体に伝わることを抑えるよう、サスペンション9を制御してもよい。
【0100】
ユーザ分類部58は、状況カテゴリごとに、状況特定部により特定された頻度を記憶器42に記憶する。すなわち、ユーザ分類部58は、走行状態カテゴリごとに、走行状態特定部52により特定された頻度を記憶器42に記憶し、走行フィールドカテゴリごとに、走行フィールド特定部53により特定された頻度を記憶器42に記憶する。ここで、特定された頻度(頻度情報)は、その状況カテゴリであると特定されている期間や特定された回数など、状況カテゴリに対応する使用頻度が把握できる態様であれば、いかなる態様で記憶されてもよい。さらに、ユーザ分類部58は、乗物1のユーザを、乗物1の使用状況に関連する予め定めた複数のユーザカテゴリのいずれかに分類する。
【0101】
ユーザ分類部58による頻度の記憶およびユーザ分類について、
図7を参照して説明する。
図7(A)は、ある乗物について、走行フィールド特定部53により特定された走行フィールドと、特定された頻度(使用頻度)の関係を示すヒストグラムである。
図7(A)からは、舗装路で使用された頻度が、他のフィールドで使用された頻度に比べて多いことが確認される。このため、ユーザ分類部58は、この乗物のユーザを、舗装路での使用が多いユーザカテゴリに相当する「第1ユーザカテゴリ」に分類する。
【0102】
図7(B)は、
図7(A)に対応する乗物とは別の乗物について、走行フィールド特定部53により特定された走行フィールドと、特定された頻度(使用頻度)の関係を示すヒストグラムである。
図7(B)からは、舗装路で使用された頻度に対して、ロック・セクションやアクロバット用フィールドなど別のフィールドでの使用が多いことが確認される。このため、ユーザ分類部58は、この乗物のユーザを、舗装路での使用に比べて別のフィールドでの使用が多いユーザカテゴリに相当する「第2ユーザカテゴリ」に分類する。このように乗物1のユーザを分類することで、乗物1のメンテナンス時期などのアドバイスをユーザに適切に行うことができる。
【0103】
指標更新部54により更新された負荷カテゴリごとの累積負荷値や、状況カテゴリに対応する使用頻度、ユーザ分類部58により分類した情報は、記憶器42に記憶され、定期的または不定期に有用データとしてサーバ装置30へ送られる。有用データは、サーバ装置30の記憶器32にユーザごとに記憶される。
【0104】
以上に説明したように、本実施形態に係る状態監視装置としてのビークルECU40によれば、複数のセンサから取得した検出値から一旦乗物1の走行に関する使用状況を示す状況カテゴリを特定する。つまり、複数のセンサの各々によって検知した局所的事象から、乗物1の走行に関する使用状況という乗物1全体に関わる事象を特定する。このように複数のセンサを用いることで、各センサの検出対象である局所的事象よりも上位の事象となる乗物1の走行に関する使用状況を精度よく推定できる。
【0105】
さらに、本実施形態では、状況特定部により特定した状況カテゴリを用いて負荷評価指標を更新する。すなわち、ユーザによる乗物の走行に関する使用状況を加味して、乗物1全体に蓄積した負荷や、乗物1の各部位に蓄積された負荷などを負荷評価指標として更新する。これにより、乗物1ごとの負荷の蓄積を精度よく推定できる。また、例えば状況特定部により特定されたユーザによる乗物の走行に関する使用状況の傾向が分かれば、今後の乗物1の使用によって乗物1の各部位に蓄積されるであろう将来の負荷量や、乗物1の各部位の寿命を予測しやすい。
【0106】
また、本実施形態では、走行状態特定部52は、複数のセンサの検出値を用いて、一以上の走行操作カテゴリを特定し、走行フィールド特定部53は、複数のセンサの検出値を用いて、一以上の走行フィールドカテゴリを特定する。これにより、ユーザによる乗物1の走行操作およびユーザが乗物1を走行させるフィールドの種類を加味した乗物1の負荷評価指標を得ることができる。
【0107】
また、本実施形態では、乗物1の使用状況を示す状況カテゴリごとに、使用頻度が記憶される。このため、乗物1の使用状況で乗物1のユーザを分類するための情報として利用できる。例えば、メンテナンス会社は、この頻度情報を用いて、乗物1のメンテナンス時期などのアドバイスをユーザに適切に行うことができる。また、乗物1の開発者は、この頻度情報を用いて、乗物1の使用状況を考慮した設計・開発に利用することができる。
【0108】
サーバ装置30の記憶器32に、状況カテゴリに対応する使用頻度がユーザごとに記憶される。すなわち、サーバ装置30にアクセスすることで、ユーザごとに走行操作や利用される走行フィールドを把握することができる。これによって、例えばユーザサポートに従事する者が、サーバ装置30に記憶されたデータに基づき、運転操作に対するアドバイスや、関連装置の紹介などをユーザに対して行ないやすくなる。またサーバ装置30には多数のユーザの有用データが記憶されることで、ユーザの乗物1の利用状況を把握することができる。このような利用状況に関する情報は、製品開発へのフィードバックとして非常に有用である。
【0109】
また、サーバ装置30に記憶された負荷カテゴリごとの累積負荷値から、メンテナンス会社等が、その乗物1の異常を把握して、メンテナンス会社からユーザに対応を図ることも可能である。サーバ装置30に記憶された負荷カテゴリごとの累積負荷値から、乗物1にアクシデント(転倒・追突・落下など)があったことが判断可能であってもよい。また、状況特定部は、崩壊、座屈、破断、局部破損など、乗物1の破壊に至る状況をカテゴリ分類してもよく、指標更新部54は、その状況カテゴリごとに、重み値(つまり過去の指標値に加算する値)を設定してもよい。
【0110】
なお、ビークルECU40は、記憶器42に記憶された負荷カテゴリごとの累積負荷値に基づき、乗物1の各部位の点検タイミングを判断してもよい。また、ビークルECU40は、その判断結果を、HMIメータ15に表示してもよい。これにより、乗物1の各部位の機械的疲労に応じたタイミングで、乗物1のメンテナンスを行いやすくなる。
【0111】
また、本実施形態では、データ管理部51は、受信器43により受信された複数のセンサの検出値を記憶器42に記録する。データ管理部51は、後述の走行状態特定部52および走行フィールド特定部53の各々による状況カテゴリの特定に用いられた複数のセンサの検出値のうちの少なくとも一部を記憶器42から消去する。つまり、複数のセンサで得られる検出値は、負荷カテゴリごとの負荷評価指標や状況カテゴリごとの使用頻度など、利用価値のある有用データの生成に利用された後に部分的にまたは全部消去される。これにより、記憶器42の記憶容量の低減を図ることができる。
【0112】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0113】
状況特定部は、走行状態特定部52および走行フィールド特定部53の双方を含んでいたが、状況特定部は、走行状態特定部52および走行フィールド特定部53の一方のみを含んでいてもよい。状況特定部は、走行状態特定部52および走行フィールド特定部53のいずれも含まなくてもよく、走行操作カテゴリや走行フィールドカテゴリとは異なる種類の状況カテゴリの中から一以上のカテゴリを特定するものであればよい。すなわち、本発明の状況特定部は、複数のセンサの検出値を用いて、乗物の使用状況を示す予め定めた複数の状況カテゴリの中から、一以上の状況カテゴリを特定するものであればよい。
【0114】
本発明の記憶器は、ビークルECU40になくてもよく、乗物1における別の個所に設けられていてもよい。ビークルECU40は、端末装置20と通信するための通信器を備えてもよい。また、ビークルECU40は、端末装置20を介することなくサーバ装置3と通信可能であってもよい。
【0115】
また、本発明の記憶器、受信器および制御器は、サーバ装置30に設けられていてもよい。これにより、前記制御器での演算に、サーバ装置が取得した他車両の情報を用いたり、サーバ装置に蓄積されたデータを用いた機械学習などを進めたりすることができる。したがって、乗物に前記記憶器、前記受信器および前記制御器設けられている場合に比べて、制御器の演算ロジックの更新や、制御器の演算に使用する情報の追加などを図り易い。本発明の記憶器、受信器および制御器のうちの記憶器のみサーバ装置30に設けられていてもよく、残りは乗物1に設けられていてもよい。
【0116】
また、本発明の制御器は、乗物1のビークルECU40の制御器41と、サーバ装置30の制御器31とを含む構成であってもよい。すなわち、本発明の記憶器、受信器および制御器は、それぞれ、互いに分離した複数の装置により構成されてもよい。例えば、乗物1のビークルECU40の制御器41は、状況特定部および指標更新部を備え、サーバ装置30の制御器31は、ユーザ分類部58を備えてもよい。上記実施形態では、状態監視プログラムが、ビークルECU40が備える記憶装置に記憶されていたが、本発明の状態監視プログラムは、複数の記憶器に分散して記憶されていてもよい。例えば、本発明の状態監視プログラムは、その一部が乗物1に設けられた記憶器に記憶され、残りがサーバ装置30の記憶器に記憶されていてもよい。
【0117】
また、本発明の制御器は、指標更新部を備えなくてもよい。例えば制御器は、複数のセンサの検出値を用いて、乗物が走行する走行路に関係するフィールドの種類を示す予め定めた複数の走行フィールドカテゴリの中から、一以上の走行フィールドカテゴリを特定し、特定した走行フィールドカテゴリを記憶器に記憶してもよい。あるいは、制御器は、指標更新部を備えず、状況カテゴリ特定部とユーザ分類部とを備えてもよい。状況カテゴリ特定部は、1つの状況カテゴリを特定してもよいし、複数の状況カテゴリを特定してもよい。
【0118】
上記実施形態では、乗物の一例として、ユーティリティビークルを例示したが、本発明は、ユーティリティビークル以外の乗物、例えば自動二輪車、PWC(パーソナルウォータークラフト)、乗用芝刈り機等にも適用可能である。乗物の駆動源も特に限定されない。乗物は、エンジン車であってもよいし、電動車であってもよい。なお、本発明は、様々な利用状況が想定されるオフロード走行車に特に好適である。
【符号の説明】
【0119】
1 :乗物
2 :端末装置
3 :サーバ装置
4 :端末装置
10 :センサ群
40 :ビークルECU(状態監視装置)
41 :制御器
42 :記憶器
43 :受信器
44 :CAN通信器
51 :データ管理部
52 :走行状態特定部
53 :走行フィールド特定部
54 :指標更新部
55 :車両制御部
56 :駆動制御部
56 :機能部
57 :補機制御部
58 :ユーザ分類部