(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20231025BHJP
F16J 15/3244 20160101ALI20231025BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/3244
(21)【出願番号】P 2019148939
(22)【出願日】2019-08-14
【審査請求日】2022-06-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄太
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-240996(JP,A)
【文献】特開2015-048923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 - 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成され一端が第1油封入室に開口し他端が第2油封入室に開口する軸孔の内周面と前記軸孔に挿入される回転軸の外周面との間に設けられる一対の密封体を含む密封装置であって、
前記一対の密封体は、
前記回転軸の前記外周面に装着された円筒状の第1装着部と、前記第1装着部の一端側から径方向外側に突出したフランジ部と、を有し、前記フランジ部における前記第1装着部の他端側の面であるフランジ背面において当該フランジ背面の中心から所定径を有する円環状領域を径方向に交差するように延びる溝が形成されている、スリンガーと、
前記軸孔の前記内周面に装着された円筒状の第2装着部と、前記第2装着部から径方向内側に延在した連結部と、前記連結部に接続された基端部及び前記フランジ背面における前記円環状領域に摺動自在に接触する先端部を有すると共に前記基端部から前記先端部に向かって拡径するテーパー筒状のリップ部と、を有するシール部材と、
をそれぞれ有すると共に、互いの前記第1装着部の他端側の端面が対向するように配置されており、
前記一対の密封体の少なくとも一方において、前記リップ部の内周面における前記先端部側の部位又は前記フランジ背面における前記円環状領域の内側の部位には突起が形成されて
おり、
前記突起は前記リップ部側に形成されると共に前記リップ部の径方向に所定の長さを有しており、
前記突起の前記径方向の前記所定の長さは前記溝の幅より長い、
密封装置。
【請求項2】
前記突起は前記回転軸の軸線周りの周方向に間隔を空けた複数の箇所に設けられている、請求項
1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記溝はスパイラル状に延びている、請求項1
又は2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記一対の密封体は、さらに、前記第1装着部の外周面と前記連結部の内周面との間に装着された通気性のダストリップ部をそれぞれ有し、
前記一対の密封体のうち一方の密封体の前記ダストリップ部と他方の密封体の前記ダストリップ部とは、前記一対の密封体の間の空間を挟んで互いに対向する
請求項1~
3のいずれか一つに記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに形成された軸孔の内周面と軸孔に挿入される回転軸の外周面との間に設けられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築機械、農業機械、自動車といった回転軸を有する機械において、二種類の油が機械内の潤滑に用いられる場合がある。このような機械では、回転軸がハウジングに形成された軸孔に挿入され、この軸孔の一端が一方の油の油封入室に開口し軸孔の他端が他方の油の油封入室に開口する構造を有するものがある。このような構造を有する機械には、一方の油封入室の油と他方の油封入室の油が互いに混じり合うことを防止するための密封装置が装着されている。
【0003】
この種の密封装置の一例として、例えば特許文献1に記載されたリップ型端面シール装置6が知られている。このリップ型端面シール装置6は、建築機械といった機械のエンジン系統に装着されており、クランク室S3のエンジンオイルと空間S5のクラッチオイルとの混合を防止するための密封装置である。装着対象の機械はハウジング2を有しており、このハウジング2には孔が開口されている。この孔の一端はクランク室S3に開口し孔の他端は空間S5に開口している。リップ型端面シール装置6は、ハウジング2に形成された孔の内周面2aとこの孔に挿入されるクランク軸3の後端部3aの外周面との間に設けられる一対の端面シール6A,6Bを含んでいる。クランク室S3側の端面シール6Aはクランク軸3の後端部3aの外周面に装着される第1スリンガー64とハウジング2の孔の内周面2aに装着されるケース61A及び第1シールリップ62とを有している。空間S5側の端面シール6Bはクランク軸3の後端部3aの外周面に装着される第2スリンガー65とハウジング2の孔の内周面2aに装着されるケース61B及び第2シールリップ63とを有している。そして、第1シールリップ62は第1スリンガー64のフランジ部64bに摺動自在に接触し、第2シールリップ63は第2スリンガー65のフランジ部65bに摺動自在に接触している。フランジ部64bやフランジ部65bには、クランク軸3の回転時にオイルや空気といった流体をリップ型端面シール装置6のシール内部空間S2から外部に排出する作用を発揮するスパイラル状の溝が形成されている。エンジンオイルがクランク室S3側からリップ型端面シール装置6のシール内部空間S2に流入した場合、シール内部空間S2に流入したエンジンオイルはスパイラル状の溝による排出作用やフランジ部64bの遠心力により、クランク室S3側に戻される。また、クラッチオイルが空間S5側からシール内部空間S2に流入した場合、シール内部空間S2に流入したクラッチオイルは前述の排出作用や遠心力により空間S5側に戻される。これらの場合、スパイラル状の溝の排出作用によって、オイルだけでなくシール内部空間S2内の空気もクランク室S3や空間S5に排出され、その結果、シール内部空間S2に過剰な負圧が発生するおそれがある。これを防止するため、ハウジング2にはシール内部空間S2と大気領域とを連通するベント孔22が形成されている。その結果、過剰な負圧に起因した第1シールリップ62や第2シールリップ63の早期摩耗が有効に防止されている。なお、リップ型端面シール装置6では、フランジ部64b,65bに形成される溝はスパイラル状に延びているが、溝はフランジ部64b,65bにおける各シールリップ62,63の接触領域である円環状領域を径方向に交差するように延びていればよく、このような溝であれば前述した排出作用を発揮し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたリップ型端面シール装置6では、負圧対策のベント孔22がハウジング2に形成される構成であるため、リップ型端面シール装置6の装着対象の機械に大気領域まで延びる孔を形成する必要がある。そのため、このリップ型端面シール装置6では、装着対象の機械側で構造変更や加工コストの増加を招くおそれがあり、その工夫が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、装着対象の機械に加工を施すことなく負圧に起因するリップ部の早期摩耗を有効に防止することのできる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、一対の密封体を含む密封装置が提供される。一対の密封体は軸孔の内周面と軸孔に挿入される回転軸の外周面との間に設けられる。軸孔はハウジングに形成され一端が第1油封入室に開口し他端が第2油封入室に開口している。一対の密封体はスリンガーとシール部材とをそれぞれ有する。スリンガーは円筒状の第1装着部とフランジ部とを有している。第1装着部は回転軸の外周面に装着されている。フランジ部は第1装着部の一端側から径方向外側に突出している。スリンガーのフランジ部における第1装着部の他端側の面であるフランジ背面において当該フランジ背面の中心から所定径を有する円環状領域を径方向に交差するように延びる溝が形成されている。シール部材は円筒状の第2装着部と連結部とテーパー筒状のリップ部とを有している。第2装着部は軸孔の内周面に装着されている。連結部は第2装着部から径方向内側に延在している。リップ部は連結部に接続された基端部及びフランジ背面における円環状領域に摺動自在に接触する先端部を有している。リップ部は基端部から先端部に向かって拡径している。一対の密封体は互いの第1装着部の他端側の端面が対向するように配置されている。一対の密封体の少なくとも一方において、リップ部の内周面における先端部側の部位又はフランジ背面における円環状領域の内側の部位には突起が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面による密封装置によれば、装着対象の機械に加工を施すことなく負圧に起因するリップ部の早期摩耗を有効に防止することのできる密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態における装着状態の密封装置の概略断面図である。
【
図2】一方の密封体のフランジ部のフランジ背面に向かって視た平面図である。
【
図3】他方の密封体のフランジ部のフランジ背面に向かって視た平面図である。
【
図4】一方の密封体の突起を含む要部の部分平面図である。
【
図7】密封装置のリップ部の弾性変形の一例を説明するための概念図である。
【
図8】密封装置のリップ部の弾性変形の一例を説明するための別の概念図である。
【
図9】突起の形成位置の変形例を説明するための部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[密封装置の概略構成]
以下、本発明に係る密封装置の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施形態における密封装置100の概略構成を説明するための図である。
図1には装着対象の機械に装着された密封装置100の状態の一例が示されている。
【0011】
密封装置100は、二種類の油を内部潤滑用に用いた建築機械、農業機械、自動車といった機械に装着され、二種類の油が互いに混じり合うことを防止又は効果的に抑制するために用いられるものである。二種類の油は特に限定されるものではないが以下ではエンジンオイルとクラッチオイルであるものとして説明する。エンジンオイルは図示を省略したクランク室H1(
図1では右側)内に封入(収容)され、クラッチオイルは図示省略したクラッチ室H2(
図1では左側)内に封入(収容)されているものとする。装着対象の機械はハウジング30を有しており、クランク室H1とクラッチ室H2はハウジング30に開口された軸孔31により連通されている。つまり、軸孔31はハウジング30に形成され一端がクランク室H1に開口し他端がクラッチ室H2に開口している。そして、この軸孔31には、装着対象の機械の回転軸40がその軸線Xを軸孔31の孔中心に合わせて挿入されている。なお、
図1において、上側が重力方向上側であり下側が重力方向下側である。
【0012】
密封装置100は、軸孔31の内周面31aと回転軸40の外周面40aとの間に設けられる一対の密封体1,2を含む。密封装置100は、クランク室H1のエンジンオイルとクラッチ室H2のクラッチオイルとの混合防止用の装置である。換言すると、密封装置100は二液分離用のオイルシールである。なお、本実施形態では、クランク室H1及びクラッチ室H2が本発明に係る「第1油封入室」及び「第2油封入室」に相当する。以下では、一対の密封体1,2のうちの一方を第1密封体1と呼び、他方を第2密封体2と呼ぶ。
【0013】
密封装置100において、例えば、軸孔31における軸線Xの延伸方向について、第1密封体1はクランク室H1側(図中右側)に配置され、第2密封体2はクラッチ室H2側(図中左側)に配置されているものとする。つまり、第1密封体1及び第2密封体2は互いに軸線Xの延伸方向に並列して設けられている。また、本実施形態では、第1密封体1の構造と第2密封体2の構造は、後述するスパイラル状溝3の巻方向が異なること及び突起4の有無を除いて同一である。
【0014】
第1密封体1及び第2密封体2はそれぞれ回転軸40の外周面40aに装着されるスリンガー10と軸孔31の内周面31aに装着されるシール部材20とを有している。本実施形態では、これら(10,20)が組み合されることにより第1密封体1と第2密封体2がそれぞれ別個に組み立てられている。
【0015】
スリンガー10は、第1装着部11とフランジ部12とを有している。スリンガー10は回転軸40の外周面40aに装着された状態で回転軸40とともに回転する。スリンガー10は例えば金属材からなるものである。スリンガー10用の金属材としては、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)やSPHC(熱間圧延鋼)といった材料群の中から選択した所定の材料が用いられる。スリンガー10は例えばプレス加工や鍛造によって形成される。
【0016】
第1装着部11は円筒状に形成され回転軸40の外周面40aに装着された部位である。第1装着部11は軸線Xに沿って直線的に延びる円筒状に形成されている。第1装着部11が回転軸40の外周面40aに沿って圧入されることによって、スリンガー10が回転軸40に固定されて装着される。
【0017】
フランジ部12は第1装着部11の一端側から径方向外側に突出した部位である。換言すると、フランジ部12は第1装着部11の外周面から軸線Xと直交する方向に広がる中空円盤状の部位である。フランジ部12は軸孔31の内周面31aの近傍まで突出しており、フランジ部12の外径は軸孔31の孔径より小さい。フランジ部12はその厚み方向の一方の面であるフランジ面12aと他方の面であるフランジ背面12bとを有する。換言すると、フランジ背面12bはフランジ部12における第1装着部11の他端側の面であり、フランジ面12aはフランジ背面12bと反対側の面である。また、本実施形態では、フランジ部12は第1装着部11の一端部から径方向外側に突出している。つまり、第1装着部11の一端部はフランジ部12のフランジ面12aから軸線Xの延伸方向に突出していない。
【0018】
シール部材20は、第2装着部21と連結部22とリップ部23とを有しており、これら(21,22,23)が一体的に形成されている。シール部材20はハウジング30の軸孔31の内周面31aに装着されてハウジング30に固定され、回転軸40が回転しても回転軸40とともに回転しない。
【0019】
第2装着部21は軸孔31の内周面31aに装着された円筒状の部位である。連結部22は第2装着部21から径方向内側に延在した部位である。リップ部23は連結部22に接続された基端部231及びフランジ背面12b(詳しくはフランジ背面12bにおける後述する円環状領域12b1)に摺動自在に接触する先端部232を有すると共に基端部231から先端部232に向かって拡径するテーパー筒状に形成された部位である。
【0020】
本実施形態では、シール部材20は金属材と弾性材との異種の材料からなる。材料別に要素を述べると、シール部材20は補強環20Aと弾性体部20Bとを有する。
【0021】
シール部材20について、その材料別の要素について詳述する。補強環20Aは金属材からなるものであり、弾性体部20Bは補強環20Aと一体的に形成された弾性材からなるものである。補強環20A用の金属材としては、スリンガー10と同様の材料が用いられ、補強環20Aも例えばプレス加工や鍛造によって形成される。弾性体部20B用の弾性材としては、ゴム又は熱可塑性エラストマーといった材料が用いられている。弾性材としてゴムを用いる場合は、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素化ゴム(FKM)といった材料群の中から選択した所定の材料が用いられる。弾性体部20Bは例えば成形型を用いて成形される。
【0022】
補強環20Aは、例えば概ねL字状断面を有して軸線X周りに環状に形成されており、弾性体部20Bを補強する部材である。補強環20Aは円筒部21aと外側円盤部22aと内側円盤部22bと傾斜部22cを含み、これらの部位(21a,22a,22b,22c)が一体に形成されている。円筒部21aは第2装着部21の一部を構成し、外側円盤部22a、内側円盤部22b及び傾斜部22cは連結部22の一部を構成している。
【0023】
円筒部21aは円筒状に形成され第1装着部11の径方向外側で軸孔31の内周面31aに装着された部位である。円筒部21aは軸線Xに沿って一方向に延びる円筒状に形成されている。円筒部21aの最大外径は軸孔31の孔径より僅かに大きく形成されている。円筒部21aが軸孔31の内周面31aに沿って圧入されることによって、シール部材20が軸孔31を有するハウジング30に固定されている。具体的には、特に限定されるものではないが、円筒部21aは全体として径方向外側に向かって膨出した湾曲形状に形成されている。円筒部21aの外周面における軸線Xの延伸方向の中央部位が直線的に延びている。この円筒部21aの外周面の中央部位が軸孔31の内周面31aに接している。また、円筒部21aにおけるフランジ部12と反対側の部位は円筒部21aにおけるフランジ部12側の部位よりも径方向内側に大きく湾曲している。なお、円筒部21aは前述の湾曲形状に限らず、軸線Xに沿って直線的に伸びる円筒状に形成されていてもよい。
【0024】
外側円盤部22aは円筒部21aにおけるフランジ部12と反対側の端部から径方向内側に延在した中空円盤状(換言すると円環状)の部分であり、軸線Xと直交する方向に延びている。内側円盤部22bは外側円盤部22aの径方向内側に位置する中空円盤状の部分であり、軸線Xと直交する方向に延びている。傾斜部22cは外側円盤部22aと内側円盤部22bとを接続する部位である。内側円盤部22bの内周縁が補強環20Aの中央部の孔の内周縁22dを構成し、この内周縁22dの内径は回転軸40の外径より大きい。このように、外側円盤部22a、内側円盤部22b及び傾斜部22cからなる部位が円筒部21aから径方向内側に延在している。なお、外側円盤部22a、内側円盤部22b及び傾斜部22cからなる部位が屈曲して延在しているが、これに限らず、これらの部位(22a,22b,22c)が軸線Xと直交する方向に直線的に延在してもよい。
【0025】
弾性体部20Bは、補強環20Aに一体的に取り付けられている。弾性体部20Bは、補強環20Aの一部を覆うように補強環20Aと一体的に成形されている。弾性体部20Bは円筒部21bと被覆部22eとシールリップ部23aとオイル受容部24を含み、これらの部位(21b,22e,23a,24)が一体に形成されている。円筒部21bは第2装着部21の一部を構成し、被覆部22eは連結部22の一部を構成し、シールリップ部23aはリップ部23を構成するものである。
【0026】
円筒部21bは、円筒状に形成され軸孔31の内周面31aに装着された部位であり、補強環20Aの円筒部21aの一部を径方向外側から被覆するように設けられている。円筒部21bは詳しくは補強環20Aの円筒部21aにおけるフランジ部12と反対側の大きく湾曲した部位の外周面と軸孔31の内周面31aとの間に位置している。円筒部21bの外周面における軸線Xの延伸方向の中央部は径方向外側に凸状に膨出している。この円筒部21bにおける膨出した部位が軸孔31の内周面31aに押し潰されることにより、シール部材20の外周面(円筒部21bの外周面)と軸孔31の内周面31aとの間の隙間が密封される。
【0027】
被覆部22eは、円筒部21bから径方向内側に延在する部位であり、円筒部21bから補強環20Aの内周縁22dまで延びている。被覆部22eは、補強環20Aの外側円盤部22a、内側円盤部22b及び傾斜部22cからなる部位におけるフランジ部12と反対側の面を覆っている。
【0028】
シールリップ部23aは、テーパー筒状に形成された部位であり、被覆部22eに接続された基端部231及びフランジ背面12b(詳しくはフランジ背面12bにおける後述する円環状領域12b1)に摺動自在に接触する先端部232を有する。シールリップ部23aは基端部231から先端部232に向かって拡径している。シールリップ部23aの基端部231は補強環20Aの内周縁22dを囲みつつ被覆部22eに接続している。シールリップ部23aの基端部231の内径は第1装着部11の外径より大きく、シールリップ部23aの基端部231の内周面と第1装着部11の外周面との間に隙間がある。
【0029】
オイル受容部24はシールリップ部23aの基端部231からフランジ部12側に向って直線的に円筒状に延びる部位であり、シールリップ部23aと一体に形成されている。
【0030】
本実施形態では、軸孔31の内周面31aに装着された円筒状の第2装着部21は、補強環20Aの円筒部21aと弾性体部20Bの円筒部21bとにより構成されている。また、この第2装着部21から径方向内側に延在した連結部22は、補強環20Aの外側円盤部22a、内側円盤部22b及び傾斜部22cと、弾性体部20Bの被覆部22eとにより構成されている。そして、この連結部22に接続された基端部231及びフランジ背面12bに摺動自在に接触する先端部232を有すると共に基端部231から先端部232に向かって拡径するテーパー筒状に形成されたリップ部23は弾性体部20Bのシールリップ部23aにより構成されている。
【0031】
また、第1密封体1及び第2密封体2は互いの第1装着部11の他端側(フランジ部12と反対側)の端面1a,2aを対向させて配置されている。本実施形態では、第1密封体1及び第2密封体2は互いに軸線Xの延伸方向に隙間を空けて配置されている。つまり、第1密封体1における第1装着部11の他端側の端面1aと第2密封体2における第1装着部11の他端側の端面2aとの間には隙間が設けられている。
【0032】
本実施形態では、シール部材20はダストリップ部25を更に有している。ダストリップ部25は不織布といった良好な通気性を有する部材からなるものである。ダストリップ部25は中空円盤状に形成されており、連結部22の被覆部22e側における径方向内側に形成された段差部22fの内周面とスリンガー10の第1装着部11の外周面との間に装着されている。ダストリップ部25の内周面はスリンガー10の第1装着部11の外周面に摺動自在に接触している。
【0033】
以上のように構成されたスリンガー10が回転軸40の外周面40aに装着されると共にシール部材20が軸孔31の内周面31aに装着されることにより、第1密封体1及び第2密封体2がそれぞれ組み立てられる。このとき、シール部材20におけるリップ部23の先端部232がスリンガー10におけるフランジ部12のフランジ背面12bに所定の締め代で接触するように、スリンガー10に対するシール部材20の軸線Xの延伸方向の位置が決められている。
【0034】
ここで、シール部材20の第2装着部21の一部を構成する円筒部21bの外周面の凸状に膨出した部位が軸孔31の内周面31aに接触しており、シール部材20のリップ部23の先端部232がスリンガー10のフランジ部12のフランジ背面12bに接触している。これにより、密封装置100の内部空間Sが画成されている。内部空間Sは、詳しくは、第1密封体1におけるスリンガー10とリップ部23とダストリップ部25とにより区画された第1領域S1と、第1密封体1のシール部材20の連結部22及びダストリップ部25と第2密封体2のシール部材の連結部22及びダストリップ部25とにより区画された第2領域S2と、第2密封体2におけるスリンガー10とリップ部23とダストリップ部25とにより区画された第3領域S3とに区分される。ダストリップ部25は通気性を有しているため、これらの領域(S1,S2,S3)は互いに連通している。
【0035】
[密閉装置の詳細構造]
次に、本実施形態における密封装置100の詳細構造について説明する。
図2は第1密封体1のフランジ部12のフランジ背面12bに向かって視た平面図であり、
図3は第2密封体2のフランジ部12のフランジ背面12bに向かって視た平面図である。
【0036】
第1密封体1のフランジ部12のフランジ背面12b及び第2密封体2のフランジ部12のフランジ背面12bには溝3がそれぞれ形成されている。溝3は、フランジ背面12bにおいてフランジ背面12bの中心から所定径を有する円環状領域12b1を径方向に交差するように延びている。この円環状領域12b1はフランジ背面12bにおけるリップ部23の先端部232が接触する部位に相当する。後に詳述するが、溝3は内部空間Sに流入したオイルを内部空間Sから外部に排出する機能を有するものである。本実施形態では、溝3はスパイラル状に延びており、以下では、溝3をスパイラル状溝3と呼ぶと共に、フランジ部12のフランジ背面12bにおけるスパイラル状溝3が形成された部位を溝形成部位12b2と呼ぶ。
【0037】
具体的には、スパイラル状溝3は、フランジ背面12bに向かって視た平面視で径方向の内側から外側に向かって回転軸40の回転方向Rと反対の巻方向でスパイラル状に延びている。スパイラル状溝3は径方向の内側から外側に向かうにしたがってその曲率半径が大きくなるように延びている。本実施形態では、回転軸40は例えば第1密封体1のフランジ背面12bに向かって視て右回りの回転方向Rで回転している。したがって、
図2に示すように、第1密封体1のスパイラル状溝3は、フランジ背面12bに向かって視た平面視で径方向の内側から外側に向かって左回りの巻方向でスパイラル状に延びている。また、
図3に示すように、第2密封体2のスパイラル状溝3は、フランジ背面12bに向かって視た平面視で径方向の内側から外側に向かって右回りの巻方向でスパイラル状に延びている。つまり、フランジ背面12bに向かって視た平面視で、第1密封体1のスパイラル状溝3の巻方向と第2密封体2のスパイラル状溝3の巻方向は互いに逆向きである。
【0038】
本実施形態では、各フランジ背面12bにおける溝形成部位12b2はフランジ背面12bにおける外周側で円環状の範囲として設定されている。
図2及び
図3ではフランジ背面12bにおける溝形成部位12b2の径方向内側と径方向外側が破線で示されている。このフランジ背面12bにおける溝形成部位12b2の範囲内に、リップ部23の先端部232が接触する円環状領域12b1が位置している。つまり、スパイラル状溝3は、フランジ背面12bにおけるリップ部23の先端部232が接触する部位である円環状領域12b1を、径方向の内外方向に横切るように(交差するように)延びている。フランジ背面12bにおける円環状領域12b1は径方向についての先端部232の接触幅に応じた僅かな幅を有したドーナツ状(円環状)の部位である。
図2及び
図3ではフランジ背面12bにおける円環状領域12b1の範囲の径方向内側と径方向外側が二点鎖線で示されている。
図1ではスパイラル状溝3の幅Wは誇張して示されているが、実際には、スパイラル状溝3は、
図2及び
図3に示したように平面視で線状に視えるほどの幅で形成されている。また、スパイラル状溝3は例えばV字状の断面を有して延びている。
【0039】
より具体的には、スパイラル状溝3は、特に限定するものではないが、複数の条数(図では4条)で形成されている。各スパイラル状溝3は互いに交わることなく独立して形成されている。各スパイラル状溝3はそれぞれの始点が互いに概ね90°ずつ離間した位置に設定されていると共に、それぞれの終点も互いに概ね90°ずつ離間した位置に設定されている。
【0040】
本実施形態では、
図1、
図4~
図6に示すように、第1密封体1において、リップ部23の内周面233における先端部232側の部位には突起4が形成されている。
図4は第1密封体1の突起4を含む要部の部分平面図であり、リップ部23の内周面233をフランジ部12側から視た図である。
図5は
図4に示すA-A矢視部分断面図であり、
図6は
図4に示すB-B矢視部分断面図である。
【0041】
突起4は、リップ部23の内周面233における先端部232の近傍の部位に形成されている。本実施形態では、フランジ部12のフランジ背面12bにおける溝形成部位12b2との関係では、突起4の形成位置は溝形成部位12b2に対応した内周面233における部位に設定されている。具体的には、突起4の突出端4aが溝形成部位12b2の円環状の範囲に対応した内周面233における部位(範囲)内に位置している(後述の
図7(a)参照)。また、突起4は、シール部材20をスリンガー10に組み付けた初期状態において、突起4の突出端4aがフランジ部12のフランジ背面12bに接触しないような高さで内周面233に突設されている。
【0042】
本実施形態では、突起4はリップ部23の内周面233において径方向に所定の長さを有して延びるように形成されている。突起4は
図4に示すA-A矢視断面で視た長手方向(径方向)の断面では径方向の内側(
図5では左側)に先細りの楔状断面を有し、
図5に示すB-B矢視断面で視た長手方向と直交する方向の断面で台形状断面を有している。本実施形態では、突起4の径方向の所定の長さLはスパイラル状溝3の幅Wより長い。
【0043】
本実施形態では、突起4は回転軸40の軸線X周りの周方向に間隔を空けた複数の箇所に設けられている。具体的には、軸線X周りの周方向に互いに間隔を空けて隣り合わせに設けられた一対の突起4,4を一単位とし、この一対の突起4,4が軸線X周りの周方向に等間隔(例えば3等配)で設けられている。つまり、本実施形態では、6個の突起4が設けられている。
図1では、便宜上、突起4がリップ部23の内周面233における重力方向の上側と下側にそれぞれ示されている。
【0044】
[オイルの流れとリップ部の弾性変形]
次に、回転軸40の回転時における各オイルの流れと密封装置100のリップ部23の弾性変形の一例について、
図1、
図7及び
図8を用いて説明する。
図7及び
図8はリップ部23の弾性変形の一例を説明するための概念図である。
図7は第1密封体1のリップ部23を含む部分断面である。リップ部23は
図7(a)、
図7(b)、
図7(c)の順に徐々に弾性変形している。
図8からリップ部23の先端部232とフランジ部12のフランジ背面12bとの接触状態が分かる。
図8(a)は
図7(a)に示すC1方向から視た部分側面図であり、
図8(b)は
図7(b)に示すC2方向から視た部分側面図であり、
図8(c)は
図7(c)に示すC3方向から視た部分側面図である。なお、
図7(a)及び
図8(a)には、回転軸40が回転していないときの状態が示されており、
図7(b)及び
図8(b)と
図7(c)及び
図8(c)には、回転軸40が回転しているときの状態がそれぞれ示されている。
図1では、回転軸40が回転していない状態が示されている。
【0045】
図7(a)及び
図8(a)に示す回転軸40の回転前の状態では、リップ部23の先端部232が初期設定された締め代でフランジ部12のフランジ背面12bに接触していると共に、突起4はフランジ背面12bに接触していない。図示を省略したが、第2密封体2の状態も第1密封体1の状態と同じである。この状態において、密封装置100の内部空間Sの圧力は、クランク室H1の圧力及びクラッチ室H2の圧力と同じ又は同程度である。
【0046】
ここで、クランク室H1側から密封装置100の内部空間S(詳しくは第1領域S1)へのエンジンオイルの流入(漏洩)が第1密封体1のリップ部23により抑制されていると共に、クラッチ室H2側から密封装置100の内部空間S(詳しくは第3領域S3)へのクラッチオイルの流入(漏洩)が第2密封体2のリップ部23により抑制されている。しかし、リップ部23の先端部232とフランジ部12のフランジ背面12bとの接触界面を通じて、微量のエンジンオイルが第1領域S1に流入したり、微量のクラッチオイルが第3領域S3に流入したりする場合がある。
【0047】
また、第1領域S1に流入したエンジンオイルの一部はフランジ背面12bを伝って中心側に流動しようとするが、回転軸40と伴に回転するフランジ部12の遠心力によって径方向の外側に戻され、リップ部23の先端部232まで到達する。このリップ部23の先端部232に到達したエンジンオイルは、スパイラル状溝3の排出作用によって、スパイラル状溝3を通じてクランク室H1側に戻される。また、第3領域S3内に流入したクラッチオイルについても、同様に、第2密封体2のフランジ部12のフランジ背面12bに形成れたスパイラル状溝3による流体の排出作用とフランジ部12の遠心力とによって、クラッチ室H2側に戻される。これにより、第1密封体1の第1領域S1内のエンジンオイルが第2領域S2及び第3領域S3を介してクラッチ室H2に排出されることが防止又は効果的に抑制されている。また、第2密封体2の第3領域S3内のクラッチオイルが第2領域S2及び第1領域S1を介してクランク室H1に排出されることが防止又は効果的に抑制されている。その結果、密封装置100の両側に存在するオイルが互いに混じり合うことが防止又は効果的に抑制されている。
【0048】
また、第1密封体1において、重力方向上側から第1領域S1に流入してリップ部23の内周面233に沿って下方に流れたエンジンオイルはオイル受容部24に受け容れられ、その後、オイル受容部24の外周面、軸線Xより重力方向下方のリップ部23の内周面233に沿って下方に流れる。このエンジンオイルは、その後、フランジ部12の遠心力とスパイラル状溝3の排出作用によって、クランク室H1側に戻される。第2密封体2においても、リップ部23の内周面233に沿って流れたクラッチオイルは、同様にして、クラッチ室H2側に戻される。
【0049】
ところで、回転軸40が回転すると、スパイラル状溝3の排出作用によって、オイルだけでなく内部空間Sの空気もクランク室H1やクラッチ室H2に排出され得る。その結果、内部空間Sに負圧が発生し始める。
【0050】
図7(b)は、内部空間S(第1領域S1)に負圧が発生し始めたときの第1密封体1の状態が示されている。この負圧によってリップ部23全体が内側に僅かに弾性変形し始めている。つまり、リップ部23の内周面233の先端部232側の部位は、負圧によってフランジ背面12bに近づくように弾性変形し始め、フランジ背面12bに対するリップ部23の内周面233の傾斜が小さくなり始めている。そして、
図7(b)に示すように、リップ部23の突起4の突出端4aがフランジ背面12bに当接し始めている。このとき、
図8(b)に示すように、第1密封体1のリップ部23の先端部232とフランジ背面12bとの接触は維持されている。図示を省略したが、第2密封体2のリップ部23の先端部232とフランジ背面12bとの接触も維持されている。第2密封体2のリップ部23には突起4が形成されていないが、第2密封体2は第1密封体1と同程度に弾性変形している。
【0051】
図7(c)は
図7(b)の状態から更に内部空間S内の空気がクランク室H1やクラッチ室H2に排出されたときの第1密封体1の状態が示されている。この状態では、第1密封体1において、フランジ背面12bに対するリップ部23の内周面233の傾斜が更に小さくなっている。このとき、リップ部23における突起4より径方向外側の少なくとも突起近傍の部位は、突起4の突出端4aを支点としてフランジ背面12bから離れる方向(
図7(c)及び
図8(c)では点線矢印で示す方向)に反り返り始めている。その結果、
図8(c)に示すように、少なくとも突起近傍におけるリップ部23の先端部232とフランジ部12のフランジ背面12bとの間に僅かな隙間Gが生じている。つまり、リップ部23の先端部232の周方向の全周又は突起近傍の部分において、フランジ部12との間に僅かな口開きが生じている。第2密封体2のリップ部23には突起4が形成されていないため、第2密封体2のリップ部23の先端部232とフランジ背面12bとの接触は維持されている。そして、第1密封体1側で僅かな隙間Gが生じた瞬間に密封装置100の内部空間Sの負圧は解消される。その結果、過剰な負圧の発生が防止される。このため、過剰な負圧に起因するリップ部23の早期摩耗が防止される。
【0052】
また、この負圧が解消すると、第1密封体1は
図1、
図7(a)及び
図8(a)に示す状態に瞬間的に戻り、リップ部23の先端部232がフランジ背面12bに再び接し、前述した口開きが解消する。第2密封体2においては負圧に起因するリップ部23の弾性変形が解消されて
図1に示す状態に戻る。その後、第1密封体1及び第2密封体2は再びスパイラル状溝3の排出作用による負圧に起因して内側に弾性変形し始め、以降、第1密封体1では弾性変形及び口開きとこれらの解消を繰り返し、第2密封体2では弾性変形とその解消を繰り返す。
【0053】
本実施形態による密封装置100によれば、このようにして、装着対象の機械に加工を施すことなく負圧に起因するリップ部23の早期摩耗を有効に防止することができる。
【0054】
本実施形態では、突起4はリップ部23側に形成されると共にリップ部23の径方向に所定の長さLを有しており、突起4の径方向の所定の長さLはスパイラル状溝3の幅Wより長い。これにより、突起4がスパイラル状溝3内に入り込むことが防止され、摺動抵抗をより効果的に低減することができる。
【0055】
本実施形態では、突起4は回転軸40の軸線X周りの周方向に間隔を空けた複数の箇所に設けられている。これにより、リップ部23が複数の突起4を支点としてより確実に反り返る方向に弾性変形する。また、本実施形態では、互いに隣接した一対の突起4,4が突起の一単位とされている。これにより、より確実にリップ部23が安定して反り返る方向に弾性変形すると共に、一対の突起4,4の間に流体の排出通路が確実且つ安定的に形成され、負圧が速やか且つより確実に解消される。また、突起4は周方向に等配に配置した。これにより、周方向について偏った弾性変形が生じることを抑制又は防止することができる。
【0056】
本実施形態では、突起4は二つの油封入室としてのクランク室H1及びクラッチ室H2の一方側(クランク室H1)の密封体(本実施形態では第1密封体1側)に設けられている。したがって、内部空間Sの負圧解消のために、一方の密封体(本実施形態では第1密封体1)側において突起4による口開き(隙間G)が生じたとしても、他方の密封体(本実施形態では密封体2)側におけるリップ部23とフランジ背面12bとの接触は維持されている。その結果、オイルが密封装置100の内部空間Sに流入(漏洩)することが効果的に抑制される。
【0057】
[変形例]
なお、本実施形態では突起4がリップ部23に形成されているものとしたが、これに限らず、スリンガー10のフランジ部12のフランジ背面12bに形成されてもよい。この場合、
図9に示すように、突起4は、フランジ背面12bにおける円環状領域12b1の内側の部位に形成される。具体的には、突起4は、
図9に示すように、径方向についてフランジ背面12bにおける円環状領域12b1の内側で且つ溝形成部位12b2の内側に形成される。また、図示省略するが、これに限らず、突起4は、フランジ背面12bにおける溝形成部位12b2の範囲内に突起4の全体又は突出端4aが位置するように形成されてもよい。つまり、フランジ背面12bにおいて、突起4の形成部位と溝形成部位12b2とが重複してもよい。この場合、スパイラル状溝3は突起4の部位だけ中断されることになるが、中断されたスパイラル状溝3であっても排出作用を有する。
【0058】
本実施形態では、第1密封体1と第2密封体2は互いに離間して配置されているものとしたが、これに限らず、第1密封体1における第1装着部11の他端側の端面1aが第2密封体2における第1装着部11の他端側の端面2aに接触していてもよい。また、第1密封体1の構造と第2密封体2の構造は、スパイラル状溝3の巻方向が異なること及び突起4の有無を除いて同一であるものとしたが、これに限らない。例えば、第1密封体1のスリンガー10の第1装着部11が第2密封体2側に延長され、第1密封体1の第1装着部11と第2密封体2の第1装着部11とが互いに嵌合し、第1密封体1及び第2密封体2が一体的に組み立てられてもよい。また、第1密封体1のシール部材20の第2装着部21が第2密封体2側に延長され、第1密封体1の第2装着部21と第2密封体2の第2装着部21とが互いに嵌合し、第1密封体1及び第2密封体2が一体的に組み立てられてもよい。また、シール部材20はダストリップ部25を有さなくてもよい。
【0059】
また、図示を省略するが、第1密封体1のフランジ部12における径方向の外縁部を軸線Xの延伸方向で第2密封体2側に全周に亘って折り返すように形成してもよい。これにより、リップ部23の先端部232の径方向外側に円環状のオイル流入抑制部が形成される。このオイル流入抑制部は、突起4による口開き(隙間G)が生じたときに、クランク室H1側から内部空間S(第1領域S1)に流入し得るエンジンオイルの量を低減する。
【0060】
本実施形態では、スパイラル状溝3はV字状の断面を有するものとしたが、これに限らず、U字状、矩形状といった適宜の断面形状を採用することができる。本実施形態では、スパイラル状溝3は始点から終点まで概ね1周分程度の渦巻きで形成されているが、これに限るものではない。スパイラル状溝3は半周程度、3/4周程度といった一周以下でもよいし、1周半程度以上の渦巻きで形成されてもよい。また、本実施形態では、溝3はスパイラル状溝3であるものとし、スパイラル状に延びているものとしたが、溝3はこれに限らない。溝3は、フランジ背面12bにおいてフランジ背面12bの円環状領域12b1を径方向に交差するように延びていればよい。例えば、溝3は、径方向に直線的に放射状に延びていてもよい。また溝3は周方向に間隔を空けて複数本形成されることが好ましいが、溝3は1本でもよい。
【0061】
また、突起4は全体として概ね楔状を有するものとしたがこれに限らない。突起4は例えば半球体状、柱体状といった適宜の形状を採用することができる。突起4は例えば
図5に相当する断面で半円状、台形状、矩形状を有し周方向に所定の幅を有して形成されてもよいし、
図6に相当する断面で半円状、矩形状を有して形成されてもよい。
【0062】
本実施形態では、突起4は第1密封体1及び第2密封体2のうちの一方である第1密封体1にのみ設けられているものとしたが、これに限らず、第1密封体1及び第2密封体2に設けられてもよいし、第2密封体2にのみ設けられていてもよい。つまり、突起4は第1密封体1及び第2密封体2の少なくとも一方において、リップ部23の内周面233における先端部232側の部位又はフランジ背面12bにおける円環状領域12b1の内側の部位に形成されていればよい。第2密封体2に突起4が形成される場合は、第2密封体2のフランジ部12に、前述したオイル流入抑制部を形成するとよい。また、本実施形態では、シール部材20は金属材と弾性材からなるものとしたがこれに限らず、弾性材のみからなるものとしてもよい。この場合、例えば、シール部材20の補強環20Aに相当する部位が弾性材に置き換えられる。また、フランジ部12は第1装着部11の一端部から突出しているものとしたが、これに限らず、第1装着部11の一端側から突出されていればよい。つまり、第1装着部11の一端部がフランジ部12のフランジ面12aから軸線Xの延伸方向に突出していてもよい。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施形態及びその変形例について幾つか説明したが、本発明は上記実施形態及び上記変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1,2…第1密封体及び第2密封体(一対の密封体)、1a…第1装着部の他端側の端面、2a…第1装着部の他端側の端面、3…溝(スパイラル状溝)、4…突起、10…スリンガー、11…第1装着部、12…フランジ部、12b…フランジ背面、12b1…円環状領域、12b2…溝形成部位、20…シール部材、21…第2装着部、22…連結部、23…リップ部、30…ハウジング、31…軸孔、31a…軸孔の内周面、40…回転軸、40a…回転軸の外周面、231…リップ部の基端部、232…リップ部の先端部、233…リップ部の内周面、H1…クランク室(第1油封入室)、H2…クラッチ室(第2油封入室)、X…回転軸の軸線、L…突起の径方向の所定の長さ、W…スパイラル溝の幅