(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】水中探知装置および気泡検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/02 20060101AFI20231025BHJP
G01S 15/60 20060101ALI20231025BHJP
G01S 15/04 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G01N29/02
G01S15/60
G01S15/04
(21)【出願番号】P 2019166681
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【氏名又は名称】大橋 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100203862
【氏名又は名称】西谷 香代子
(72)【発明者】
【氏名】山本 将也
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-071574(JP,A)
【文献】特開平02-218982(JP,A)
【文献】特開平10-073575(JP,A)
【文献】特開平03-113324(JP,A)
【文献】特開平07-229963(JP,A)
【文献】特開2015-102416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
G01S 1/72-G01S 1/82
G01S 3/80-G01S 3/86
G01S 5/18-G01S 5/30
G01S 7/52-G01S 7/64
G01S 15/00-G01S 15/96
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船に搭載される水中探知装置であって、
水中の第1領域に音波を送波する第1振動子と、
前記音波が前記第1領域に存在する気泡で反射され、さらに前記第1領域とは異なる第2領域に存在する気泡で反射された音波を受波する第2振動子と、
前記第1振動子による音波の送波に応じて前記第2振動子から出力される受信信号に基づいて、水中の気泡の状態を判定する気泡判定部と、を備える、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水中探知装置において、
前記第1振動子の送信ビームの中心軸と前記第2振動子の受信ビームの中心軸とが非平行である、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水中探知装置において、
前記第1振動子の送波面と前記第2振動子の受波面とが、互いに平行な状態から互いに向かい合う方向に所定の角度だけ傾いている、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の水中探知装置において、
船速を算出する速度算出部と、
前記速度算出部により算出された前記船速と、前記気泡判定部により判定された気泡の状態に関する情報とを表示する表示部と、をさらに備える、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項5】
請求項4に記載の水中探知装置において、
前記表示部に、前記船速と、前記気泡の状態に関する情報とを並べて表示させる、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項6】
請求項5に記載の水中探知装置において、
前記気泡判定部により判定された水中の気泡の状態に基づいて、前記表示部に表示される前記船速の表示の有無を切り替える、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項7】
請求項4ないし6の何れか一項に記載の水中探知装置において、
前記速度算出部は、前記気泡判定部が水中に気泡が存在しないと判定した場合、前記船速の算出を行う、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の水中探知装置において、
前記第2振動子が受波した受信信号を周波数変換して周波数データを生成する周波数変換部を備え、
前記気泡判定部は、前記周波数変換部が生成した前記周波数データに基づいて、水中の気泡の状態を判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項9】
請求項8に記載の水中探知装置において、
前記気泡判定部は、前記周波数データにおいて、所定の閾値以上の振幅が生じている場合に、水中に気泡が存在すると判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項10】
請求項9に記載の水中探知装置において、
前記気泡判定部は、前記周波数データにおいて、前記第1振動子から送波される音波の周波数を含む所定範囲の周波数帯に、前記所定の閾値以上の振幅が生じている場合に、水中に気泡が存在すると判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項11】
請求項8ないし10の何れか一項に記載の水中探知装置において、
前記気泡判定部は、前記周波数データにおいて、所定の閾値以上の振幅の信号量に基づいて、水中に存在する気泡の量を判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項12】
請求項1ないし11の何れか一項に記載の水中探知装置において、
前記第1領域と前記第2領域のうち、一方が船首方向に向けられ、他方が船尾方向に向けられている、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項13】
船底から水中の送波領域に音波を送波し、
送波した前記音波が前記送波領域に存在する気泡で反射され、さらに前記送波領域とは異なる受波領域に存在する気泡で反射された音波を受波し、
受波した前記音波の受波状態に基づいて、水中の気泡の状態を判定する、
ことを特徴とする気泡検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に音波を送波し、そのエコーに基づいて、水中の気泡の状態を検出する水中探知装置および気泡検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物によって反射された超音波を計測して、対象物までの距離や船舶の速度などを検出する船用の音響測深器やドップラーソナーが知られている。この種の装置では、気泡により超音波が遮蔽されると、対象物までの距離や船舶の速度などを適正に計測できなくなる。このような事態を回避するため、この種の装置では、気泡の発生状態を検出して測定動作を制御する構成が用いられ得る。
【0003】
気泡の発生状態を検出するための気泡検出装置として、たとえば、超音波を送波しその反射波を受波する振動子と、水中からの反射波に基づく受信信号を信号処理して、受信信号の周波数分布を算出する信号処理部と、気泡の状態を反映した基準周波数分布を記憶する記憶部と、を備えた気泡検出装置が知られている。この気泡検出装置では、取得された周波数分布に対して、記憶部に記憶された基準周波数分布との差分が算出され、差分が所定の範囲以内にある場合に、気泡の大きさや密度が、基準周波数分布の気泡の大きさや密度と同じであると判定される。たとえば、以下の特許文献1には、上記と同様の構成の気泡検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような装置では、気泡からの反射波と、水中に存在する気泡以外の物体からの反射波とが混在すると、気泡の状態を正確に検出することが困難になる。
【0006】
かかる課題に鑑み、本発明は、気泡の状態をより正確に検出することが可能な水中探知装置および気泡検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、船に搭載される水中探知装置に関する。本態様に係る水中探知装置は、水中の第1領域に音波を送波する第1振動子と、前記音波が前記第1領域に存在する気泡で反射され、さらに前記第1領域とは異なる第2領域に存在する気泡で反射された音波を受波する第2振動子と、前記第1振動子による音波の送波に応じて前記第2振動子から出力される受信信号に基づいて、水中の気泡の状態を判定する気泡判定部と、を備える。
【0008】
本態様に係る水中探知装置によれば、第1領域と第2領域とが異なっている。このため、水中に気泡が存在しない場合、第1振動子により送波された音波の反射波は第2振動子によってほぼ受波されず、第1領域に気泡以外の物体が存在したとしても、当該物体からの反射波は第2振動子にほぼ入射しない。一方、水中に気泡が存在する場合、第1振動子により送波された音波は、気泡に当たって乱反射を繰り返すことにより、第2領域へと伝搬する。これにより、第2領域に伝搬した反射波が、第2振動子に入射し、第2振動子によって受波される。この場合、第1領域に気泡以外の物体が混在したとしても、当該物体からの反射波は、直接第2振動子にほぼ入射しない。
【0009】
したがって、本態様に係る水中探知装置によれば、第1振動子から送波された音波が第1領域に存在する気泡で反射された後に第2領域に存在する気泡で反射されて第2振動子が受波した受信信号に基づいて、水中の気泡の状態を正確に判定できる。
【0010】
本態様に係る水中探知装置において、前記第1振動子の送信ビームの中心軸と前記第2振動子の受信ビームの中心軸とが非平行であるよう構成され得る。こうすると、第1振動子と第2振動子とが接近していても、第1領域と第2領域とを適切に分離させることができる。よって、第1振動子と第2振動子とを船底等に纏めて設置できる。また、第1振動子と第2振動子とを単一の送受波器に設置する場合に、第1振動子と第2振動子とを送受波器にコンパクトに収納できる。
【0011】
この場合に、前記第1振動子の送波面と前記第2振動子の受波面とが、互いに平行な状態から互いに向かい合う方向に所定の角度だけ傾くよう構成され得る。
【0012】
本態様に係る水中探知装置は、船速を算出する速度算出部と、前記速度算出部により算出された前記船速と、前記気泡判定部により判定された気泡の状態に関する情報とを表示する表示部と、をさらに備えるよう構成され得る。こうすると、ユーザは、船速を視覚的に把握する際に、気泡の状態を確認できる。よって、ユーザは、船速に対する気泡の影響を把握できる。
【0013】
この場合に、本態様に係る水中探知装置は、前記表示部に、前記船速と、前記気泡の状態に関する情報とを並べて表示させるよう構成され得る。こうすると、ユーザは、船速と気泡の状態に関する情報を視覚的に対照できる。よって、ユーザは、円滑に、船速に対する気泡の影響を把握できる。
【0014】
この場合に、本態様に係る水中探知装置は、前記気泡判定部により判定された水中の気泡の状態に基づいて、前記表示部に表示される前記船速の表示の有無を切り替えるよう構成され得る。水中に気泡が多く存在すると、速度算出部により算出される船速が不正確になる場合がある。このような場合に、たとえば、船速の表示を消失させることにより、不正確な船速が表示されることを抑制できる。
【0015】
本態様に係る水中探知装置において、前記速度算出部は、前記気泡判定部が水中に気泡が存在しないと判定した場合、前記船速の算出を行うよう構成され得る。水中に気泡が多く存在すると、速度算出部により算出される船速は不正確になる場合がある。このような場合に、船速の算出を行わないことにより、船速の無駄な算出処理を抑制できる。
【0016】
本態様に係る水中探知装置は、前記第2振動子が受波した受信信号を周波数変換して周波数データを生成する周波数変換部を備え、前記気泡判定部は、前記周波数変換部が生成した前記周波数データに基づいて、水中の気泡の状態を判定するよう構成され得る。こうすると、受信信号の強度を評価する手法に比べて、受波対象となる音波の周波数とは異なる周波数帯のノイズを排除できるため、精度よく水中の気泡の状態を判定できる。
【0017】
この場合に、前記気泡判定部は、前記周波数データにおいて、所定の閾値以上の振幅が生じている場合に、水中に気泡が存在すると判定するよう構成され得る。水中に気泡が存在しない場合、周波数データにはノイズに基づく振幅が生じるものの、所定の閾値以上の振幅が生じない。一方、水中に気泡が存在する場合、周波数データにはノイズに基づく振幅に気泡からの音波に基づく振幅が重畳される。したがって、この場合、周波数データにおいて所定の閾値以上の振幅が生じる。よって、所定の閾値以上の振幅が生じているか否かを判定することで、水中に気泡が存在するか否かを判定できる。
【0018】
この場合に、前記気泡判定部は、前記周波数データにおいて、前記第1振動子から送波される音波の周波数を含む所定範囲の周波数帯に、前記所定の閾値以上の振幅が生じている場合に、水中に気泡が存在すると判定するよう構成され得る。送波された音波が気泡で散乱されると、散乱された音波の周波数は、送波された音波の送信周波数付近に含まれる。したがって、送信周波数を含む所定範囲の周波数帯において判定が行われれば、水中に気泡が存在するか否かをより精度よく判定できる。
【0019】
本態様に係る水中探知装置において、前記気泡判定部は、前記周波数データにおいて、所定の閾値以上の振幅の信号量に基づいて、水中に存在する気泡の量を判定するよう構成され得る。こうすると、水中にどの程度の気泡が存在しているかをさらに判定できる。
【0020】
本態様に係る水中探知装置は、前記第1領域と前記第2領域のうち、一方が船首方向に向けられ、他方が船尾方向に向けられるよう構成され得る。
【0021】
本発明の第2の態様は、気泡検出方法に関する。本態様に係る気泡検出方法は、船底から水中の送波領域に音波を送波し、送波した前記音波が前記送波領域に存在する気泡で反射され、さらに前記送波領域とは異なる受波領域に存在する気泡で反射された音波を受波し、受波した前記音波の受波状態に基づいて、水中の気泡の状態を判定する。
【0022】
本態様に係る気泡検出方法によれば、第1の態様と同様の効果が奏される。
【発明の効果】
【0023】
以上のとおり、本発明によれば、気泡の状態をより正確に検出することが可能な水中探知装置および気泡検出方法を提供することができる。
【0024】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る、気泡検出装置の構成および動作を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る、気泡検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る、気泡検出処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態2に係る、船速測定装置の使用状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係る、送受波器の構成を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係る、船速測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、実施形態2に係る、信号処理回路の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、実施形態2に係る、第1送受波部の送波タイミングおよび受波タイミングと、第2送受波部の送波タイミングおよび受波タイミングとを模式的に示すタイミングチャートである。
【
図9】
図9(a)は、実施形態2に係る、水中に気泡がない場合に得られる、第1速度信号または第2速度信号に基づく周波数データの例を示す図である。
図9(b)は、実施形態2に係る、水中に気泡がない場合に得られる、第1気泡信号または第2気泡信号に基づく周波数データの例を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、実施形態2に係る、水中に気泡がある場合に得られる、第1速度信号または第2速度信号に基づく周波数データの例を示す図である。
図10(b)は、実施形態2に係る、水中に気泡がある場合に得られる、第1気泡信号または第2気泡信号に基づく周波数データの例を示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態2の実験に係る、気泡が生じていない状態において、第1速度信号から得られた周波数データのグラフである。
【
図12】
図12は、実施形態2の実験に係る、気泡が生じていない状態において、第2気泡信号から得られた周波数データのグラフである。
【
図13】
図13は、実施形態2の実験に係る、気泡が少量生じている状態において、第1速度信号から得られた周波数データのグラフである。
【
図14】
図14は、実施形態2の実験に係る、気泡が少量生じている状態において、第2気泡信号から得られた周波数データのグラフである。
【
図15】
図15は、実施形態2の実験に係る、気泡が多量に生じている状態において、第1速度信号から得られた周波数データのグラフである。
【
図16】
図16は、実施形態2の実験に係る、気泡が多量に生じている状態において、第2気泡信号から得られた周波数データのグラフである。
【
図17】
図17(a)は、実施形態2に係る、現時点の船速が算出された場合の表示装置の表示内容を模式的に示す図である。
図17(b)は、実施形態2に係る、現時点の船速が算出されなかった場合の表示装置の表示内容を模式的に示す図である。
【
図18】
図18は、実施形態2に係る、船速測定処理を示すフローチャートである。
【
図19】
図19(a)、
図19(b)は、実施形態2の変更例に係る、水中の気泡の状態の判定方法を説明するための図である。
【
図20】
図20(a)、
図20(b)は、実施形態2の変更例に係る、水中の気泡の状態の判定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。実施形態1は、気泡検出装置に本発明を適用した例であり、実施形態2は、船速測定装置に本発明を適用した例である。但し、以下の実施形態は、本発明の一実施形態あって、本発明は、以下の実施形態に何ら制限されるものではない。
【0027】
<実施形態1>
図1は、気泡検出装置1の構成および動作を説明するための模式図である。
図1の第1状態、第2状態および第3状態は、気泡に送波された音波が乱反射により伝搬する過程を示している。
【0028】
気泡検出装置1は、送波部11と受波部12を備える。送波部11と受波部12は、たとえば振動子である。送波部11と受波部12は、水中に位置付けられている。送波部11は、水中の送波領域11aに音波(たとえば、超音波)を送波する。受波部12は、送波領域11aとは異なる水中の受波領域12aから音波を受波する。気泡検出装置1は、受波部12の受波状態に基づいて、水中の気泡の状態を判定する。
【0029】
水中に気泡が存在する場合、第1状態に示すように、送波部11から送波された音波は、送波領域11a内の気泡により反射される。続いて、第2状態に示すように、送波領域11a内の気泡によって反射した音波は、水中を伝搬して他の気泡に到達し、他の気泡によって反射される。このような乱反射により、音波が複数の気泡の間で次々に伝搬する。そして、第3状態に示すように、受波領域12a内の気泡で反射された音波は、受波部12によって受波される。
【0030】
一方、水中に気泡が存在しない場合、送波部11から送波された音波は、送波領域11a内で気泡により反射されることがない。この場合、音波は受波領域12a内でほぼ再反射されないため、受波部12は音波をほぼ受波しない。
【0031】
図2は、気泡検出装置1の構成を示すブロック図である。
【0032】
気泡検出装置1は、送受波器10と、制御装置20と、表示装置30と、を備える。送受波器10は、送波部11と受波部12を備える。制御装置20は、送信アンプ21と、受信アンプ22と、送信信号生成回路23と、A/D変換回路24と、信号処理回路25と、を備える。
【0033】
信号処理回路25は、CPU等の演算処理回路とメモリ(記憶媒体)とを備え、メモリに保持されたプログラムによって、所定の機能を実行する。当該プログラムは、信号処理回路25に、気泡判定部25aの機能を実行させる。なお、気泡判定部25aの機能が、ソフトウエアでなく、ハードウエアの構成により実現されてもよい。
【0034】
信号処理回路25は、所定のタイミングで、送信信号生成回路23に指示信号を送信する。送信信号生成回路23は、信号処理回路25からの指示に応じて、送波部11を駆動するための送信信号を生成し、送信アンプ21に出力する。送信信号は、たとえば、所定周波数のパルス信号である。送信アンプ21は、送信信号を増幅して送波部11に出力する。これにより、送波部11は、水中の送波領域11a(
図1参照)に音波を送波する。
【0035】
受波部12は、水中の受波領域12a(
図1参照)からの音波を受波して、受信信号を受信アンプ22に出力する。受信アンプ22は、受信信号を増幅してA/D変換回路24に出力する。A/D変換回路24は、受波信号をアナログからデジタルに変換し、信号処理回路25に出力する。
【0036】
信号処理回路25の気泡判定部25aは、A/D変換回路24から入力された受信信号に基づいて、水中の気泡の状態を検出する。たとえば、気泡判定部25aは、送波部11から音波が送波されたことに応じて受波部12が音波を受波したか否かを、受信信号の強度に基づいて判定する。気泡判定部25aは、信号処理回路25が送信信号生成回路23に指示信号を出力した後、音波が受波されると想定される期間において、受波信号を監視する。そして、気泡判定部25aは、たとえば、受信信号の強度が閾値を超える場合に、水中に気泡が存在すると判定し、受信信号が閾値を超えない場合に、水中に気泡が存在しないと判定する。
【0037】
【0038】
図3に示す気泡検出処理は、気泡検出装置1の電源がオンされたことにより自動的に開始されるほか、ユーザが気泡検出装置1に対して開始指示を入力したことにより開始される。
【0039】
気泡検出処理が開始されると、送波部11により、水中の送波領域11aに音波が送波される(S1)。その後、一定期間、すなわち、水中の所定水深位置に気泡が存在する場合に当該気泡により反射された音波が受波部12に到達すると想定されるタイミングを含む期間において、受波部12により、水中の受波領域12aから音波を受波する動作が行われる(S2)。そして、気泡判定部25aにより、受波部12の受波状態に基づいて、水中の気泡の状態が判定される(S3)。具体的には、上記のように、受信信号の強度が閾値を超えるか否かによって、水中における気泡の有無が判定される。その後、信号処理回路25により、ステップS3の判定結果が、表示装置30に表示される(S4)。
【0040】
なお、ステップS3の判定は、気泡の有無の判定に限られるものではない。たとえば、閾値を超える受信信号の範囲(時間軸上の範囲)の広狭によって、どの深度に気泡が多いかを示す気泡の分布が判定されてもよい。また、気泡の状態の判定は、受信信号の強度以外の他のパラメータ値により行われてもよい。たとえば、信号処理回路25は、受信信号にFFT(Fast Fourier Transformation)等の処理を施して周波数データを生成し、生成した周波数データに基づいて、水中の気泡の状態を判定してもよい。この場合、たとえば、周波数データの振幅が閾値を超えるか否かによって、気泡の有無が判定されてもよい。また、特に、送信信号の周波数を含む所定範囲の周波数帯に閾値を超える振幅が生じているか否かによって、気泡の有無が判定されてもよい。この場合も、閾値を超える振幅の大きさや範囲(周波数軸上の範囲)によって、どの深度に気泡が多いかを示す気泡の分布が判定されてもよい。
【0041】
<実施形態1の効果>
実施形態1によれば、以下の効果が奏され得る。
【0042】
送波部11の送波領域11aと受波部12の受波領域12aとが異なっているため、水中に気泡が存在しない場合、送波部11により送波された音波の反射波は受波部12によってほぼ受波されない。この場合、送波領域11aに気泡以外の物体が存在したとしても、当該物体からの反射波は、受波部12にほぼ入射しない。一方、水中に気泡が存在する場合、送波部11により送波された音波は、気泡に当たって乱反射を繰り返すことにより、受波領域12aへと伝搬する。これにより、音波の反射波が、受波部12に入射し、受波部12によって受波される。この場合、送波領域11aに気泡以外の物体が混在したとしても、当該物体からの反射波は、直接受波部12にほぼ入射しない。
【0043】
したがって、気泡判定部25aは、受波部12の受波状態(たとえば、受波部12が音波を受波したか否か)に基づいて、水中における気泡の状態を正確に判定できる。このように、実施形態1の気泡検出装置1によれば、正確に気泡の状態を検出できる。
【0044】
<実施形態2>
実施形態2では、第1送受波部111および第2送受波部112の2つの送受波部が用いられる。第1送受波部111および第2送受波部112が交互に送波を行うことにより、船速が測定される。第1送受波部111および第2送受波部112は、船速の測定とともに、気泡の検出にも用いられる。気泡の検出原理は、上記実施形態1と同様である。すなわち、第1送受波部111および第2送受波部112のうち、一方から音波が送波された際に、他方において音波が受波されるか否かによって、水中における気泡の状態(気泡の有無等)が判定される。したがって、第1送受波部111および第2送受波部112のうち、送波を行う方の送受波部が気泡検出装置の送波部に対応し、他方の送受波部が気泡検出装置の受波部に対応する。すなわち、実施形態2では、気泡検出装置の送波部と受波部とが、船速検出のシーケンスに応じて、第1送受波部111と第2送受波部112との間で切り替わることになる。
【0045】
図4は、実施形態2に係る船速測定装置2の使用状態を示す模式図である。
【0046】
図4において、X-Y平面は水平面であり、Z軸正方向は鉛直下方向である。船体40の長手方向はX軸方向に向けられており、船体40の船首40aは、X軸正側に位置し、船体40の船尾40bは、X軸負側に位置している。
図4には、便宜上、船速測定装置2の構成のうち、送受波器110のみが図示されている。
【0047】
送受波器110は、たとえば、船体40の操舵室41の真下付近において、船体40の船底に設置される。
図4に示す例では、船体40の中央からやや後方よりの船底に送受波器110が位置付けられている。送受波器110から水中の第1領域111aおよび第2領域112aに音波が送波される。ここでは、超音波が第1領域111aおよび第2領域112aに送波される。第1領域111aは船首40a方向に向けられ、第2領域112aは船尾40b方向に向けられている。送波された超音波は、水中の物質によって反射され、水中の物質によって反射された反射波(エコー)が、送受波器110で受波される。船体40の操舵室41等に配置された制御装置120(
図6参照)により、船体40の対水船速(以下、単に「船速」と称する)が算出される。
【0048】
図5は、送受波器110の構成を示す模式図である。
図5には、
図4と同様のXYZ軸が示されている。
【0049】
送受波器110は、第1送受波部111と、第2送受波部112と、筐体113と、を備える。第1送受波部111は、水中の第1領域111aに音波を送波および第1領域111aからの音波を受波する振動子である。第2送受波部112も、水中の第1領域111aとは異なる第2領域112aに音波を送波および第2領域112aからの音波を受波する振動子である。第1送受波部111は、船尾40b側に位置付けられ、船首40a側に向かって第1音波を送波する。第2送受波部112は、船首40a側に位置付けられ、船尾40b側に向かって第2音波を送波する。
【0050】
筐体113は、円筒形の外形形状を有する。筐体113のZ軸正側には、円形の開口113aが形成されている。第1送受波部111から送波された第1音波および第2送受波部112から送波された第2音波は、開口113aを通って水中へと伝搬する。また、水中のプランクトン、微粒子、気泡等で反射された第1音波および第2音波は、開口113aを通って第1送受波部111および第2送受波部112で受波される。
【0051】
第1送受波部111は、水中の第1領域111a(
図4参照)に第1音波を送波するとともに、第1領域111aからの第1音波の反射波(エコー)を含む音波を受波する。第2送受波部112は、水中の第2領域112a(
図4参照)に第2音波を送波するとともに、第2領域112aからの第2音波の反射波(エコー)を含む音波を受波する。
【0052】
第1送受波部111の送波および受波のための面111bは、Z軸方向に対して角度θ1傾いている。これにより、第1送受波部111の送波方向および受波方向の俯角は、角度θ1となる。言い換えれば、第1領域111a(
図4参照)の中心軸111cは、船体40の長手方向(X軸方向)に対して角度θ1だけ傾いている。また、第2送受波部112の送波および受波のための面112bは、Z軸方向に対して角度θ2傾いている。これにより、第2送受波部112の送波方向および受波方向の俯角は、角度θ2となる。言い換えれば、第2領域112a(
図4参照)の中心軸112cは、船体40の長手方向(X軸方向)に対して角度θ2だけ傾いている。
【0053】
第1送受波部111の送信ビームおよび受信ビームの中心軸111cと、第2送受波部112の送信ビームおよび受信ビームの中心軸112cとは非平行である。第1送受波部111の面111bと第2送受波部112の面112bとは、互いに平行な状態から互いに向かい合う方向に、それぞれ、90°-θ1と90°-θ2だけ傾いている。
【0054】
実施形態2では、角度θ1と角度θ2は等しい。角度θ1、θ2は、たとえば50°~80°程度に設定される。
【0055】
第1送受波部111は、中心軸111cに対して所定の角度範囲に広がる指向性を有する。具体的には、第1送受波部111から送波される音波の広がり角と、第1送受波部111により受波される音波の広がり角は、1°~6°程度である。同様に、第2送受波部112は、中心軸112cに対して所定の角度範囲に広がる指向性を有する。具体的には、第2送受波部112から送波される音波の広がり角と、第2送受波部112により受波される音波の広がり角は、1°~6°程度である。
【0056】
第1送受波部111から送波された第1音波は、第1領域111a(
図4参照)内のプランクトンや微粒子等によって反射され、第1送受波部111に戻って受波される。また、第2送受波部112から送波された第2音波は、第2領域112a(
図4参照)内のプランクトンや微粒子等によって反射され、第2送受波部112に戻って受波される。このとき、船体40の船速に応じて、受波された音波の周波数がドップラー効果により変化する。したがって、第1送受波部111から送波され第1送受波部111で受波される第1音波に基づく信号(以下、「第1速度信号」と称する)、および、第2送受波部112から送波され第2送受波部112で受波される第2音波に基づく信号(以下、「第2速度信号」と称する)を用いて、船速を算出することができる。
【0057】
船速の算出においては、第1速度信号および第2速度信号の両方が用いられる。これにより、船体40に前後方向の傾きが生じても、船速を正確に算出できる。すなわち、波等の影響により、船体40が前後方向に傾くと、第1送受波部111および第2送受波部112から送波される音波の送波方向が変化し、これに伴い、各音波の反射波に生じるドップラーシフト量(送波時の周波数と受波時の周波数の差分)が変化する。たとえば、船体40の傾きに応じて、第1送受波部111により受波される反射波のドップラーシフト量が増加すると、第2送受波部112により受波される反射波のドップラーシフト量が減少する。したがって、第1速度信号および第2速度信号の周波数は、それぞれ、船体40の傾きに応じた周波数だけ増減する。よって、第1速度信号および第2速度信号の各周波数のドップラーシフト量からそれぞれ算出される速度を平均化することにより、船体40の傾きの影響が抑制された船速を算出できる。これにより、船体40の傾きに拘わらず、船速を正確に算出できる。
【0058】
さらに、水中に気泡がある場合、
図1で説明した場合と同様に、一方の送受波部から送波された音波は、水中の気泡によって乱反射することにより、他方の送受波部で受波される。
【0059】
すなわち、第1送受波部111から送波された第1音波は、第1領域111aと第2領域112aとの間に存在する複数の気泡によって繰り返し反射され、これら複数の気泡による乱反射により、第2領域112aへと伝搬する。こうして、第2領域112aへと伝搬した音波が、第2領域112aに存在する気泡で反射されて、第2送受波部112に受波される。同様に、第2送受波部112から送波された第2音波は、第2領域112aと第1領域111aとの間に存在する複数の気泡によって繰り返し反射され、これら複数の気泡による乱反射により、第1領域111aへと伝搬する。こうして、第1領域111aへと伝搬した音波が、第1領域111aに存在する気泡で反射されて、第1送受波部111に受波される。
【0060】
したがって、第1送受波部111から送波され第2送受波部112で受波される第1音波に基づく信号(以下、「第2気泡信号」と称する)、および、第2送受波部112から送波され第1送受波部111で受波される第2音波に基づく信号(以下、「第1気泡信号」と称する)を用いて、水中の気泡の状態を判定できる。
【0061】
図6は、船速測定装置2の構成を示すブロック図である。
【0062】
船速測定装置2は、送受波器110と、制御装置120と、表示装置130と、を備える。制御装置120は、第1切替回路201と、第2切替回路202と、第1送信アンプ211と、第2送信アンプ212と、送信信号生成回路213と、第1受信アンプ221と、第2受信アンプ222と、第1A/D変換回路231と、第2A/D変換回路232と、信号処理回路240と、を備える。制御装置120と表示装置130は、船体40の操舵室41(
図4参照)に設置される。
【0063】
送信信号生成回路213は、信号処理回路240からの指示に応じて、第1送受波部111を駆動するための送信信号を生成して第1送信アンプ211に出力し、第2送受波部112を駆動するための送信信号を生成して第2送信アンプ212に出力する。実施形態2では、送信信号生成回路213は、第1音波および第2音波の周波数がF(MHz)となるように、送信信号を生成する。第1送信アンプ211は、送信信号を増幅して第1切替回路201に出力する。第2送信アンプ212は、送信信号を増幅して第2切替回路202に出力する。
【0064】
第1送受波部111は、第1切替回路201からの送信信号に応じて、水中へ第1音波(超音波パルス)を送波する。第2送受波部112は、第2切替回路202からの送信信号に応じて、水中へ第2音波(超音波パルス)を送波する。第1送受波部111および第2送受波部112は、超音波パルスが水中のプランクトン、微粒子、気泡などで反射された反射波(エコー)を受波して、電気信号に変換する。これにより、受信信号が生成される。第1送受波部111および第2送受波部112は、それぞれ、受波した音波に応じた受信信号を第1切替回路201および第2切替回路202に出力する。
【0065】
第1切替回路201は、第1送信アンプ211から送信信号が出力された場合、送信信号を中継して第1送受波部111に出力する。また、第1切替回路201は、第1送受波部111から受信信号が出力された場合、受信信号を中継して第1受信アンプ221に出力する。同様に、第2切替回路202は、第2送信アンプ212から送信信号が出力された場合、送信信号を中継して第2送受波部112に出力する。また、第2切替回路202は、第2送受波部112から受信信号が出力された場合、受信信号を中継して第2受信アンプ222に出力する。
【0066】
第1受信アンプ221は、第1切替回路201から出力された受信信号を増幅させて第1A/D変換回路231に出力する。第2受信アンプ222は、第2切替回路202から出力された受信信号を増幅させて第2A/D変換回路232に出力する。第1A/D変換回路231は、第1受信アンプ221から出力されたアナログの受信信号をデジタルの受信信号に変換し、信号処理回路240に出力する。第2A/D変換回路232は、第2受信アンプ222から出力されたアナログの受信信号をデジタルの受信信号に変換し、信号処理回路240に出力する。
【0067】
信号処理回路240は、第1A/D変換回路231および第2A/D変換回路232から出力された受信信号に基づいて、船速を算出するともに、気泡の状態を判定する。そして、信号処理回路240は、算出した船速および気泡の状態の判定結果等を表示装置130に出力する。
【0068】
表示装置130は、液晶ディスプレイなどの表示器である。表示装置130は、信号処理回路240から出力された船速および判定結果等を表示する。表示装置130の表示内容については、追って
図17(a)、(b)を参照して説明する。
【0069】
図7は、信号処理回路240の構成を示すブロック図である。
【0070】
信号処理回路25は、CPU等の演算処理回路とメモリ(記憶媒体)とを備え、メモリに保持されたプログラムによって、所定の機能を実行する。
図7には、当該プログラムによって信号処理回路25が実行する機能が、機能ブロックとして示されている。なお、これらの機能の一部または全てが、ソフトウエアでなく、ハードウエアの構成により実現されてもよい。
【0071】
信号処理回路240は、タイミング設定部301と、第1周波数変換部311と、第2周波数変換部312と、第1ドップラー計測部321と、第2ドップラー計測部322と、気泡判定部330と、速度算出部340と、を備える。
【0072】
タイミング設定部301は、送信信号生成回路213に対して送信信号を生成させる指示を送信する。このとき、タイミング設定部301は、第1音波の送波タイミングと第2音波の送波タイミングとが相違するよう、送信信号を生成させる指示を送信する。送波タイミングについては、追って
図8を参照して説明する。
【0073】
第1周波数変換部311は、第1A/D変換回路231から入力された受信信号を高速フーリエ変換(FFT)により周波数変換する。第2周波数変換部312は、第2A/D変換回路232から入力された受信信号を高速フーリエ変換(FFT)により周波数変換する。
【0074】
ここで、第1送受波部111から入力される受信信号には、第1送受波部111が受波した第1音波の受信信号(第1速度信号)と、第1送受波部111が受波した第2音波の受信信号(第1気泡信号)とがある。第1周波数変換部311は、第1速度信号を周波数変換した周波数データを第1ドップラー計測部321に出力し、第1気泡信号を周波数変換した周波数データを気泡判定部330に出力する。
【0075】
同様に、第2送受波部112から入力される受信信号には、第2送受波部112が受波した第2音波の受信信号(第2速度信号)と、第2送受波部112が受波した第1音波の受信信号(第2気泡信号)とがある。第2周波数変換部312は、第2速度信号を周波数変換した周波数データを第2ドップラー計測部322に出力し、第2気泡信号を周波数変換した周波数データを気泡判定部330に出力する。
【0076】
第1ドップラー計測部321は、第1周波数変換部311から出力された第1速度信号の周波数データにおいて、ピーク(最大値)となる振幅の周波数と、第1音波の送信周波数Fとのずれ(ドップラーシフト量)を計測し、計測したずれ量を速度算出部340に出力する。同様に、第2ドップラー計測部322は、第2周波数変換部312から出力された第2速度信号の周波数データにおいて、ピーク(最大値)となる振幅の周波数と、第2音波の送信周波数Fとのずれ(ドップラーシフト量)を計測し、計測したずれ量を速度算出部340に出力する。
【0077】
気泡判定部330は、第1周波数変換部311から出力された第1気泡信号の周波数データと、第2周波数変換部312から出力された第2気泡信号の周波数データとに基づいて気泡の状態を判定する。具体的には、気泡判定部330は、第1気泡信号の周波数データにおいて所定の閾値以上の振幅が生じている場合、対応する第2速度信号の取得時に気泡が生じていると判定する。同様に、気泡判定部330は、第2気泡信号の周波数データにおいて所定の閾値以上の振幅が生じている場合に、対応する第1速度信号の取得時に気泡が生じていると判定する。気泡判定部330は、判定結果を速度算出部340と表示装置130に出力する。気泡の判定方法については、追って
図9(a)~
図10(b)を参照して説明する。
【0078】
速度算出部340は、第1ドップラー計測部321から出力された周波数のずれ量に基づいて、第1送受波部111に基づく船速を算出し、第2ドップラー計測部322から出力された周波数のずれ量に基づいて、第2送受波部112に基づく船速を算出する。そして、速度算出部340は、所定の周期分の第1送受波部111に基づく船速と、所定の周期分の第2送受波部112に基づく船速とを用いて、現時点における船速を算出する。速度算出部340は、こうして算出した現時点における船速を表示装置130に出力する。
【0079】
ここで、水中に気泡が存在する場合、プランクトンや微粒子等により反射された音波が、気泡の影響を受けることが起こり得る。この場合、第1速度信号および第2速度信号に劣化が生じ、適正な船速を取得できなくなる。このため、実施形態2では、気泡判定部330を設け、気泡が検出されたタイミングの第1速度信号および第2速度信号を当該タイミングにおける船速の算出には用いない。
【0080】
図8は、第1送受波部111の送波タイミングおよび受波タイミングと、第2送受波部112の送波タイミングおよび受波タイミングとを模式的に示すタイミングチャートである。
【0081】
図8には、第1送受波部111または第2送受波部112が音波を送波してから、この音波の反射波を受波するまでの時間間隔として周期P1~P4が示されている。周期P1、P3において、第1送受波部111が第1音波を送波し、周期P2、P4において、第2送受波部112が第2音波を送波する。
【0082】
時刻T1において第1送受波部111から第1音波が送波されると、第1音波は、水中のプランクトンや微粒子に反射されて、時刻T2付近において第1送受波部111に受波される。これにより、第1送受波部111から第1速度信号が出力される。このとき、水中に気泡が存在すると、第1音波は、気泡によって乱反射し、時刻T2付近において第2送受波部112に受波される。これにより、第2送受波部112から第2気泡信号が出力される。第2気泡信号は、気泡の状態を判定する際に用いられ、第2気泡信号に基づく気泡の判定結果により、第1速度信号に基づいて算出される船速が適正か否かが判定される。こうして、周期P1における送波および受波の処理が終了する。
【0083】
続いて、時刻T3において第2送受波部112から第2音波が送波されると、第2音波は、水中のプランクトンや微粒子に反射されて、時刻T4付近において第2送受波部112に受波される。これにより、第2送受波部112から第2速度信号が出力される。このとき、水中に気泡が存在すると、第2音波は、気泡によって乱反射し、時刻T4付近において第1送受波部111に受波される。これにより、第1送受波部111から第1気泡信号が出力される。第1気泡信号は、気泡の状態を判定する際に用いられ、第1気泡信号に基づく気泡の判定結果により、第2速度信号に基づいて算出される船速が適正か否かが判定される。こうして、周期P2における送波および受波の処理が終了する。
【0084】
このように、第1送受波部111により第1音波を送波する周期と、第2送受波部112により第2音波を送波する周期とが交互に繰り返される。
【0085】
次に、
図9(a)~
図10(b)を参照して、速度算出部340による船速の算出と、気泡判定部330による気泡の状態の判定とについて説明する。
【0086】
図9(a)のグラフは、水中に気泡がない場合に得られる、第1速度信号または第2速度信号に基づく周波数データの例を示す図である。
【0087】
水中に気泡がないと、第1音波および第2音波の送信周波数Fの近傍において振幅が顕著に大きくなり、振幅が大きい部分の周波数の幅は狭くなる。したがって、ピーク(最大値)となる振幅の周波数を容易かつ適正に特定できる。
【0088】
第1ドップラー計測部321は、
図9(a)に示すような第1速度信号を周波数変換した周波数データにおいて、振幅のピークが第1音波の送信周波数Fからどの程度ずれているかを計測する。速度算出部340は、周波数のずれ量(ドップラーシフト量)に基づいて、第1送受波部111に基づく船速を算出する。同様に、第2ドップラー計測部322は、
図9(a)に示すような第2速度信号を周波数変換した周波数データにおいて、振幅のピークが第2音波の送信周波数Fからどの程度ずれているかを計測する。速度算出部340は、周波数のずれ量(ドップラーシフト量)に基づいて、第2送受波部112に基づく船速を算出する。
【0089】
図9(b)のグラフは、水中に気泡がない場合に得られる、第1気泡信号または第2気泡信号に基づく周波数データの例を示す図である。
【0090】
気泡判定部330は、
図9(b)に示すような第1気泡信号に基づく周波数データにおいて、所定の閾値Ath以上の振幅が生じているか否かを判定する。閾値Athは、ノイズと気泡に基づく振幅とを区別可能に設定される。すなわち、閾値Athは、気泡が存在しない場合に生じるノイズの振幅よりも大きく、所定量の気泡が存在する場合に生じ得る振幅よりも小さく設定される。閾値Athは、どの程度の量の気泡の有無を検出するかに応じて適宜調整され得る。
【0091】
図9(b)のグラフの場合、閾値Ath以上の振幅が生じていないため、気泡は生じていないと判定される。したがって、この場合の第1気泡信号と同じタイミングで取得される第2速度信号は適正であり、この第2速度信号に基づく船速は適正であると判定される。
【0092】
同様に、気泡判定部330は、
図9(b)に示すような第2気泡信号に基づく周波数データにおいて、所定の閾値Ath以上の振幅が生じているか否かを判定する。
図9(b)のグラフの場合、閾値Ath以上の振幅が生じていないため、気泡は生じていないと判定される。したがって、この場合の第2気泡信号と同じタイミングで取得される第1速度信号は適正であり、この第1速度信号に基づく船速は適正であると判定される。
【0093】
図10(a)のグラフは、水中に気泡がある場合に得られる、第1速度信号または第2速度信号に基づく周波数データの例を示す図である。
【0094】
水中に気泡があると、気泡により反射された音波が、音波を送波した送受波部に戻ってしまうため、送信周波数Fの近傍において振幅が顕著に大きくなり、振幅が大きくなる周波数の幅が広くなってしまう。このため、ピーク(最大値)となる振幅の周波数を特定しにくくなり、船速の算出精度が低下する虞がある。
【0095】
図10(b)のグラフは、水中に気泡がある場合に得られる、第1気泡信号または第2気泡信号に基づく周波数データの例を示す図である。
【0096】
図10(b)に示すような第1気泡信号に基づく周波数データの場合、閾値Ath以上の振幅が生じているため、気泡が生じていると判定される。したがって、この場合の第1気泡信号と同じタイミングで取得される第2速度信号は速度の算出には劣化が大きく、この第2速度信号に基づく船速は不適正であると判定される。
【0097】
同様に、
図10(b)に示すような第2気泡信号に基づく周波数データの場合、閾値Ath以上の振幅が生じているため、気泡が生じていると判定される。したがって、この場合の第2気泡信号と同じタイミングで取得される第1速度信号は速度の算出には劣化が大きく、この第1速度信号に基づく船速は不適正であると判定される。
【0098】
次に、
図11~16を参照して、発明者が行った実験について説明する。
【0099】
発明者は、実際の海水に対して、気泡が生じていない状態と、気泡が少量生じている状態と、気泡が多量に生じている状態とを人工的に作り出した。このとき、対水船速は、気泡が生じていない状態において0kn、気泡が少量生じている状態において約4kn、気泡が多量に生じている状態において約5knであった。そして、発明者は、各状態において、第1送受波部111からF0(Hz)の送信周波数で第1音波を送波させ、反射波(エコー)を第1送受波部111と第2送受波部112で受波させた。そして、発明者は、第1送受波部111の第1速度信号と第2送受波部112の第2気泡信号とに基づいて、それぞれ、高速フーリエ変換(FFT)を行って周波数データを取得した。
【0100】
図11は、気泡が生じていない状態において、第1速度信号から得られた周波数データのグラフである。
図11には、所定の周期分の第1速度信号に基づく周波数データを平均した周波数データが示されている。上述したように、気泡が生じていない状態において船速は0knに設定されている。また、
図11に示す実験結果によれば、第1音波と同じ周波数F0において、狭い周波数の幅で振幅が大きくなっている。したがって、この場合、第1速度信号に基づいて適正に船速が得られることが分かる。
【0101】
図12は、気泡が生じていない状態において、第2気泡信号から得られた周波数データのグラフである。
図12には、所定の周期分の第2気泡信号に基づく周波数データを平均した周波数データが示されている。
図12に示すように、第2気泡信号に基づく周波数データにはノイズ成分があるものの、振幅が大きくなっている周波数帯が明確に存在しない。したがって、この場合、第2気泡信号に基づいて、適正に気泡の状態を判定できることが分かる。
【0102】
図13は、気泡が少量生じている状態において、第1速度信号から得られた周波数データのグラフである。上述したように、気泡が少量生じている状態において船速は約4knに設定されている。これにより、第1音波の送信周波数F0に対するドップラーシフト量ΔFc(Hz)が計算により算出される。また、
図13に示す実験結果によれば、第1音波の送信周波数F0からΔFa(Hz)程度ずれた周波数付近において、振幅が大きくなっている。そして、この場合のΔFcとΔFaを比較すると、ΔFcとΔFaはほぼ同じ値であることが分かった。したがって、この場合も、第1速度信号に基づいて適正に船速が得られることが分かる。
【0103】
図14は、気泡が少量生じている状態において、第2気泡信号から得られた周波数データのグラフである。
図14の場合、
図12と比較して、第1音波の送信周波数F0付近において振幅が大きくなっている。これは、水中に存在する少量の気泡によって、第1送受波部111で送波された第1音波が第2送受波部112で受波されたためと考えられる。この場合、
図14に示すように、振幅の閾値Athを設定することにより、気泡の状態を判定できる。すなわち、周波数データ全体の振幅が閾値Athよりも下にあるため、水中に船速の算出結果に影響を及ぼす気泡が実質的に存在しないと判断でき、第1速度信号に基づく船速が適正であることが分かる。
【0104】
図15は、気泡が多量に生じている状態において、第1速度信号から得られた周波数データのグラフである。上述したように、気泡が多量に生じている状態において船速は約5knに設定されている。これにより、第1音波の送信周波数F0に対するドップラーシフト量ΔFc(Hz)が計算により算出される。また、
図15に示す実験結果によれば、第1音波の送信周波数F0からΔFa(Hz)程度ずれた周波数付近において、振幅が大きくなっている。そして、この場合のΔFcとΔFaを比較すると、ΔFcとΔFaがほぼ同じ値であるとは言えないことが分かった。したがって、この場合、第1速度信号に基づいて適正に船速が得られないことが分かる。
【0105】
図16は、気泡が多量に生じている状態において、第2気泡信号から得られた周波数データのグラフである。
図16の場合、
図14と比較して、第1音波の送信周波数F0付近において振幅がさらに大きくなっている。この場合も、
図16に示すように、振幅の閾値Athを設定することにより、気泡の状態を判定できる。すなわち、周波数データの一部の振幅が閾値Ath以上であるため、水中に船速の算出結果に影響を及ぼす気泡が存在すると判断でき、同じタイミングで得られる船速が不適正であることが分かる。
【0106】
次に、
図17(a)、(b)を参照して、表示装置130の表示内容について説明する。
【0107】
実施形態2では、上述したように、第1気泡信号に基づいて、同じタイミングで取得される第2速度信号の適否が判定され、第2気泡信号に基づいて、同じタイミングで取得される第1速度信号の適否が判定される。さらに、実施形態2では、直前の所定の周期において適正と判定された第1速度信号および第2速度信号に基づいて平均が算出され、現時点の船速が算出される。このとき、気泡判定部330が、直前の所定の周期における第1気泡信号および第2気泡信号に基づいて水中に気泡が存在しないと判定した場合に限り、速度算出部340は、現時点の船速の算出を行う。すなわち、直前の所定の周期における第1気泡信号および第2気泡信号に基づいて、水中に気泡が存在し現在点の船速が適正でないと判定される場合は、現在点の船速は算出されず表示装置130に表示されない。
【0108】
図17(a)は、直前の所定周期の船速に基づいて現時点の船速が算出された場合の表示装置130の表示内容を模式的に示す図である。船速表示領域131は、船速を表示するための領域であり、気泡情報表示領域132は、気泡判定部330により判定された気泡の状態に関する情報を表示するための領域である。船速表示領域131と気泡情報表示領域132は、上下に並んでいる。
図17(a)の場合、現時点の船速が算出されているため、船速表示領域131には船速が表示され、気泡情報表示領域132には「気泡は発生していません。」とのメッセージが表示される。
【0109】
図17(b)は、直前の所定周期の船速に基づいて現時点の船速が算出されなかった場合の表示装置130の表示内容を模式的に示す図である。この場合、船速表示領域131には、現時点の船速が算出されなかったことを示す斜線が表示される。気泡情報表示領域132には、「気泡が発生しており、船速が不正確になっているおそれがあります。」とのメッセージが表示される。
【0110】
なお、船速と気泡の有無の表示方法は、
図17(a)、(b)の表示方法に限られるものではない。たとえば、船速が算出された場合は、気泡情報は表示されず、船速が算出できなかった場合のみ、気泡情報が表示されてもよい。この場合、単に、「気泡」との文字が、船速表示領域131またはその近傍に表示されてもよい。
【0111】
図18は、船速測定処理を示すフローチャートである。
【0112】
図18に示す船速測定処理は、船速測定装置2の電源がオンされたことにより自動的に開始される。あるいは、ユーザが船速測定装置2に対して船速測定の開始指示を入力したことにより、
図18の処理は開始されてもよい。
【0113】
船速測定処理が開始されると、信号処理回路240は、第1送受波部111により、水中の第1領域111aに第1音波を送波させる(S11)。そして、信号処理回路240は、第1送受波部111に、第1領域111aからの音波(第1音波の反射波)を受波させるとともに、第2送受波部112に、第2領域112aからの音波を受波させる(S12)。これにより、第1送受波部111から第1速度信号が出力され、第2送受波部112から第2気泡信号が出力される。ステップS11、S12の処理は、
図8に示した第1送受波部111の送波に基づく1つの周期に相当する。
【0114】
続いて、信号処理回路240は、第2送受波部112により、水中の第2領域112aに第2音波を送波させる(S13)。そして、信号処理回路240は、第2送受波部112に、第2領域112aからの音波(第2音波の反射波)を受波させるとともに、第1送受波部111に、第1領域111aからの音波を受波させる(S14)。これにより、第2送受波部112から第2速度信号が出力され、第1送受波部111から第1気泡信号が出力される。ステップS13、S14の処理は、
図8に示した第2送受波部112の送波に基づく1つの周期に相当する。
【0115】
続いて、信号処理回路240は、ステップS12で取得した第1速度信号に基づいて船速を算出し、ステップS14で取得した第2速度信号に基づいて船速を算出する。さらに、信号処理回路240は、ステップS12で取得した第2気泡信号に基づいて、気泡の状態を判定し、ステップS14で取得した第1気泡信号に基づいて、気泡の状態を判定する。信号処理回路240は、算出した船速と気泡の判定結果を互いに対応づけてメモリに記憶する(S15)。信号処理回路240は、船速算出動作が終了するまでステップS11~S15の処理を繰り返す(S16)。これにより、各周期で得られた船速と気泡の判定結果とが順次、信号処理回路240のメモリに記憶されていく。
【0116】
その後、上述したように、気泡判定部330が、所定の周期における第1気泡信号および第2気泡信号に基づいて水中に気泡が存在しないと判定した場合に限り、速度算出部340は、現時点の船速の算出を行う。速度算出部340は、所定の周期において適正と判定された第1速度信号および第2速度信号に基づいて平均を算出し、現時点の船速を算出する。そして、信号処理回路240は、現時点の船速を算出した場合に、算出した船速と気泡の判定結果に基づく気泡情報とを、
図17(a)に示したように表示装置130に表示させる。また、信号処理回路240は、現時点の船速を算出しなかった場合に、船速が算出されなかったことを示す斜線を、
図17(b)に示したように船速表示領域131に表示し、気泡情報を
図17(b)に示したように気泡情報表示領域132に表示する。
【0117】
<実施形態2の効果>
実施形態2によれば、以下の効果が奏され得る。
【0118】
第1送受波部111の第1領域111aと、第2送受波部112の第2領域112aとは異なっている。このため、水中に気泡が存在しない場合、第1送受波部111により送波された音波の反射波は第2送受波部112によってほぼ受波されず、第1領域111aに気泡以外の物体が存在したとしても、当該物体からの反射波は第2送受波部112にほぼ入射しない。同様に、水中に気泡が存在しない場合、第2送受波部112により送波された音波の反射波は第1送受波部111によってほぼ受波されず、第2領域112aに気泡以外の物体が存在したとしても、当該物体からの反射波は第1送受波部111にほぼ入射しない。
【0119】
一方、水中に気泡が存在する場合、第1送受波部111により送波された音波は、気泡に当たって乱反射を繰り返すことにより、第2領域112aへと伝搬する。これにより、第2領域112aに伝搬した反射波が、第2送受波部112に入射し、第2送受波部112によって受波される。この場合、第1領域111aに気泡以外の物体が混在したとしても、当該物体からの反射波は、直接第2送受波部112にほぼ入射しない。同様に、水中に気泡が存在する場合、第2送受波部112により送波された音波は、気泡に当たって乱反射を繰り返すことにより、第1領域111aへと伝搬する。これにより、第1領域111aに伝搬した反射波が、第1送受波部111に入射し、第1送受波部111によって受波される。この場合、第2領域112aに気泡以外の物体が混在したとしても、当該物体からの反射波は、直接第1送受波部111にほぼ入射しない。
【0120】
したがって、実施形態2によれば、第2送受波部112から送波された音波が第2領域112aに存在する気泡で反射された後に第1領域111aに存在する気泡で反射されて第1送受波部111が受波した第1受信信号(第1気泡信号)、および第1送受波部111から送波された音波が第1領域111aに存在する気泡で反射された後に第2領域112aに存在する気泡で反射されて第2送受波部112が受波した第2受信信号(第2気泡信号)の少なくとも一方に基づいて、水中の気泡の状態を正確に判定できる。
【0121】
また、第1送受波部111が受波した第1音波の反射波に基づく受信信号(第1速度信号)および第2送受波部112が受波した第2音波の反射波に基づく受信信号(第2速度信号)により船速を算出できる。すなわち、実施形態2では、第1送受波部111および第2送受波部112は、気泡の状態の判定と船速の算出の両方に用いられる。このため、第1送受波部111および第2送受波部112を備えた船速測定装置2において、別途構成を追加することなく気泡の状態を検出できる。
【0122】
図5に示したように、第1送受波部111の送信ビームおよび受信ビームの中心軸111cと、第2送受波部112の送信ビームおよび受信ビームの中心軸112cとが、非平行である。これにより、第1送受波部111と第2送受波部112とが接近していても、第1領域111aと第2領域112aとを適切に分離させることができる。よって、第1送受波部111と第2送受波部112とを船底等に纏めて設置できる。また、第1送受波部111と第2送受波部112とを単一の送受波器110に設置する場合に、第1送受波部111と第2送受波部112とを送受波器110にコンパクトに収納できる。
【0123】
図17(a)、(b)に示したように、信号処理回路240は、表示装置130に、速度算出部340により算出された船速と、気泡判定部330により判定された気泡の状態に関する情報とを表示させる。これにより、ユーザは、船速を視覚的に把握する際に、気泡の状態を確認できる。よって、ユーザは、船速に対する気泡の影響を把握できる。
【0124】
また、信号処理回路240は、表示装置130に、船速と、気泡の状態に関する情報とを並べて表示させる。これにより、ユーザは、船速と気泡の状態に関する情報を視覚的に対照できる。よって、ユーザは、円滑に、船速に対する気泡の影響を把握できる。
【0125】
図17(a)、(b)に示したように、信号処理回路240は、気泡判定部330により判定された水中の気泡の状態に基づいて、表示装置130に表示される船速の表示の有無を切り替える。具体的には、気泡判定部330は、所定の周期分の第1気泡信号および第2気泡信号に基づいて、現時点における気泡の有無を判定する。現時点において水中に気泡が生じていないと判定されると、速度算出部340は、現時点の船速として平均を算出する。他方、現時点において水中に気泡が生じていると判定されると、速度算出部340は、現時点の船速を算出しない。そして、
図17(a)、(b)に示したように、信号処理回路240は、気泡が生じていない場合、船速表示領域131に船速を表示し、気泡が生じている場合、船速表示領域131に斜線を表示する。水中に気泡が多く存在すると、速度算出部340により算出される船速が不正確になる場合がある。このような場合に、船速の表示を消失させることにより、不正確な船速が表示されることを抑制できる。
【0126】
また、不正確な船速が表示されることを避けるために、第1送受波部111および第2送受波部112を気泡の影響が少ない船首40aに設置する必要がないため、操舵室41等に設置される表示装置130等から船首40aに設置された第1送受波部111および第2送受波部112まで、長い距離にわたって配線を設ける必要がない。よって、第1送受波部111および第2送受波部112の設置コストを大幅に削減できる。
【0127】
速度算出部340は、気泡判定部330が水中に気泡が存在しないと判定した場合、現時点の船速(平均)の算出を行う。水中に気泡が多く存在すると、速度算出部340により算出される船速は不正確になる場合がある。実施形態2の構成によれば、このような場合に、船速の無駄な算出処理を抑制できる。また、この場合も、不正確な船速が算出されることを避けるために、第1送受波部111および第2送受波部112を船首40aに設置する必要がない。よって、第1送受波部111および第2送受波部112の設置コストを大幅に削減できる。
【0128】
第1周波数変換部311および第2周波数変換部312は、それぞれ、第1気泡信号および第2気泡信号を周波数変換する。そして、気泡判定部330は、第1気泡信号および第2気泡信号が周波数変換された周波数データに基づいて、水中の気泡の状態を判定する。これにより、第1気泡信号および第2気泡信号の強度を評価する手法に比べて、受波対象となる音波の周波数とは異なる周波数帯のノイズを排除できるため、精度よく水中の気泡の状態を判定できる。
【0129】
図9(b)および
図10(b)のグラフを参照して説明したように、気泡判定部330は、第1気泡信号および第2気泡信号に基づく周波数データにおいて、閾値Ath以上の振幅が生じている場合、水中に気泡が存在すると判定する。水中に気泡が存在しない場合、第1気泡信号および第2気泡信号に基づく周波数データには、ノイズに基づく振幅が生じるものの、閾値Ath以上の振幅が生じない。一方、水中に気泡が存在する場合、第1気泡信号および第2気泡信号に基づく周波数データには、ノイズに基づく振幅に気泡からの音波に基づく振幅が重畳される。したがって、この場合、周波数データにおいて閾値Ath以上の振幅が生じる。よって、閾値Ath以上の振幅が生じているか否かを判定することで、水中に気泡が存在するか否かを判定できる。
【0130】
第1送受波部111の第1領域111aが船首40a側に向けられ、第2送受波部112の第2領域112aが船尾40b側に向けられている。このように、2つの領域のうち一方が船首40a側に向けられ他方が船尾40b側に向けられると、各送受波部によって、船首40a方向に音波を送波した場合の送波と受波の周波数ずれと、船尾40b方向に音波を送波した場合の送波と受波の周波数ずれを、それぞれ測定できる。よって、航行時に船体40が前後に傾いても、各方向の周波数ずれを平均化することにより、船速を適正に算出することができる。また、このような目的で配置された2つの送受波部を、気泡の検出に共用できる。よって、構成の簡素化を図りながら、船速および気泡を、適正に検出できる。
【0131】
<変更例>
上記実施形態2では、
図9(b)および
図10(b)のグラフを参照して説明したように、周波数データにおいて、閾値Ath以上の振幅が生じている場合に、水中に気泡が存在すると判定された。しかしながら、気泡判定の手法はこれに限らず、たとえば、
図19(a)のグラフに示すように、周波数データにおいて、閾値Ath以上の振幅の信号面積(斜線部分)が所定値を越えている場合に、水中に気泡が存在すると判定されてもよい。また、
図19(b)のグラフに示すように、周波数データにおいて、閾値Ath以上の振幅の周波数帯F1における信号面積(斜線部分)が所定値を越えている場合に、水中に気泡が存在すると判定されてもよい。
【0132】
また、
図20(a)のグラフに示すように、周波数データにおいて、元の音波の送信周波数Fを含む所定範囲の周波数帯FBに、閾値Ath以上の振幅が生じている場合に、水中に気泡が存在すると判定されてもよい。送波された音波が気泡で散乱されると、散乱された音波の周波数は、送波された音波の送信周波数F付近に含まれる。したがって、送信周波数Fを含む所定範囲の周波数帯FBにおいて判定が行われれば、水中に気泡が存在するか否かをより精度よく判定できる。
【0133】
また、
図20(b)のグラフに示すように、周波数データの周波数帯FBにおいて、閾値Ath以上の振幅の信号面積(斜線部分)が所定値を越えている場合に、水中に気泡が存在すると判定されてもよい。
【0134】
また、上記実施形態1、2では、気泡により散乱された音波の受信信号に基づいて気泡の有無が判定されたが、判定される気泡の状態は、気泡の有無に限られるものではない。たとえば、気泡により散乱された音波の受信信号に基づいて、気泡の量が判定されてもよい。この場合、たとえば、実施形態2の構成では、
図10(b)のグラフに示す周波数データにおいて、閾値Ath以上の振幅の信号量に基づいて、水中に存在する気泡の量が、気泡判定部330において判定される。
【0135】
ここで、閾値Ath以上の振幅の信号量は、たとえば、
図19(b)のグラフにおいてハッチングが付された領域の面積(周波数帯F1に含まれる各周波数成分の振幅の総量)として取得され得る。あるいは、
図19(a)のグラフにおいてハッチングが付された領域の面積が、閾値Ath以上の振幅の信号量として用いられてもよい。
【0136】
このように、水中に存在する気泡の量が判定される場合、気泡の量に関する情報が、表示装置130に表示されてもよい。この場合、気泡の量が、多少に応じて連続的に変化するスケールによって表示されてもよく、あるいは、2つの閾値と気泡の量の判定結果との大小関係により、多、中、少の3段階で表示されてもよい。3段階に限らず、他の階数によって、気泡の量が表示されてもよい。こうすると、ユーザは、水中にどの程度の気泡が存在しているかを把握することができる。
【0137】
また、上記実施形態2では、振幅の閾値Athは固定値であったが、これに限らず、気泡信号に基づく判定を行うごとに、閾値Athが速度信号の信号強度に基づいて決定されてもよい。たとえば、第2気泡信号に基づく判定を行う場合、第1速度信号の信号強度に基づいて、第2気泡信号の判定で用いる閾値Athが決定されてもよい。同様に、第1気泡信号に基づく判定を行う場合、第2速度信号の信号強度に基づいて、第1気泡信号の判定で用いる閾値Athが決定されてもよい。
【0138】
また、上記実施形態1では、気泡判定の際に、受波部12の受信信号の強度が大きい場合に水中に気泡が存在すると判定したが、これに限らず、上記実施形態2の船速測定装置2と同様の気泡判定が行われてもよい。
【0139】
たとえば、気泡検出装置1において、周波数変換部が設けられ、受波部12の受信信号が周波数変換部により周波数変換されてもよい。そして、気泡判定部25aは、周波数変換部により周波数変換された周波数データに基づいて、水中の気泡の状態を判定してもよい。
【0140】
このとき、
図9(b)および
図10(b)のグラフを参照して説明したように、気泡判定部25aは、周波数データにおいて、所定の閾値以上の振幅が生じている場合に、水中に気泡が存在すると判定してもよい。また、
図20(a)のグラフを参照して説明したように、気泡判定部25aは、周波数データにおいて、送波部11が送波した音波の送信周波数を含む所定範囲の周波数帯に、所定の閾値以上の振幅が生じている場合に、水中に気泡が存在すると判定してもよい。また、
図19(a)、(b)および
図20(b)のグラフを参照して説明したように、気泡判定部25aは、信号面積が所定の所定値を越えている場合に、水中に気泡が存在すると判定してもよい。また、気泡判定部25aは、信号面積(信号量)に基づいて、水中に存在する気泡の量を判定してもよく、閾値Ath以上の振幅の信号量に基づいて、水中に存在する気泡の量を判定してもよい。
【0141】
また、上記実施形態2では、第1送受波部111および第2送受波部112は、音波の送波と受波の両方を行うよう構成されたが、第1送受波部111に代えて、第1送波部と第1受波部が設けられ、第2送受波部112に代えて、第2送波部と第2受波部が設けられてもよい。この場合、第1送波部で送波された第1音波は第1受波部で受波され、第1受波部から第1速度信号が出力される。同様に、第2送波部で送波された第2音波は第2受波部で受波され、第2受波部から第2速度信号が出力される。水中に気泡がある場合、第1送波部で送波された第1音波は、乱反射により第2受波部で受波され、第2受波部から第2気泡信号が出力される。同様に、第2送波部で送波された第2音波は、乱反射により第1受波部で受波され、第1受波部から第1気泡信号が出力される。
【0142】
また、第1送受波部111は、第1領域111aに対する音波の送波と、第1領域111aからの音波の受波のいずれか一方のみを行ってもよく、第2送受波部112は、第2領域112aに対する音波の送波と、第2領域112aからの音波の受波のいずれか一方のみを行ってもよい。第1送受波部111が音波の送波を行う場合、第2送受波部112は音波の受波を行い、第2送受波部112が音波の送波を行う場合、第1送受波部111が音波の受波を行えばよい。
【0143】
また、上記実施形態2では、
図5に示したように、第1送受波部111の面111bと、第2送受波部112の面112bとが、互いに平行な状態から互いに向かい合う方向に傾いていたが、これに限らず、面111bと面112bとが、互いに平行な状態から、互いに向かい合う方向とは逆の方向に傾いてもよい。
【0144】
また、第1領域111aの中心軸111cと第2領域112aの中心軸112cは、互いに平行であってもよい。すなわち、第1送受波部111の面111bと、第2送受波部112の面112bとが、互いに平行であってもよい。この場合、第1領域111aと第2領域112aとが重ならないように、第1送受波部111と第2送受波部112との間に所定の距離が空くように、第1送受波部111と第2送受波部112が配置される。
【0145】
また、上記実施形態1において、表示装置30が省略されてもよい。この場合、気泡判定部25aによる気泡の状態の判定結果は、外部の表示装置に送信され、外部の表示装置に気泡の状態の判定結果が表示される。また、上記実施形態2において、表示装置130が省略されてもよい。この場合、速度算出部340により算出された船速と、気泡判定部330による気泡の状態の判定結果とが、外部の表示装置に送信され、外部の表示装置に船速と気泡の状態の判定結果とが表示される。
【0146】
また、上記実施形態2では、速度算出部340において、船速として対水船速が算出されたが、対地船速が算出されてもよい。対水船速は、プランクトンや微粒子からの反射波に基づいて算出されるが、対地船速は、海底からの反射波に基づいて算出される。対地船速の場合も、対水船速と同様、第1速度信号および第2速度信号をそれぞれ周波数変換した周波数データにおいて、元の音波との周波数ずれが計測され、計測された周波数のずれ量に基づいて対地船速が算出される。
【0147】
このように対地船速が算出される場合も、対地船速を算出するための音波の送波に合わせて取得された気泡信号に基づいて、各周期で算出された対地船速の適否が判定される。そして、現時点までの複数周期における対地船速に基づいて、現時点の対地船速が算出される。
【0148】
なお、上記実施形態2において、さらに対地船速が算出される場合、対水船速と対地船速に基づいて潮流の速度が算出されてもよい。
【0149】
また、上記実施形態2では、水中の気泡の状態の判定は、第1送受波部111が受波した第2音波および第2送受波部112が受波した第1音波の両方に基づいて行われたが、第1送受波部111が受波した第2音波および第2送受波部112が受波した第1音波のいずれか一方に基づいて水中の気泡の状態の判定が行われてもよい。この場合、第1送受波部111が受波した第2音波の信号(第1気泡信号)および第2送受波部112が受波した第1音波の信号(第2気泡信号)のいずれか一方が周波数変換され、生成された周波数データに基づいて気泡の状態が判定される。
【0150】
また、上記実施形態2において、船速測定装置2は、第2気泡信号に基づいて第1速度信号を補正し、第1気泡信号に基づいて第2速度信号を補正する補正部をさらに備えてもよい。たとえば、補正部は、第1速度信号を周波数変換して生成された周波数データから、第2気泡信号を周波数変換して生成された周波数データを減算して、補正後の第1速度信号に基づく周波数データを算出し、第2速度信号を周波数変換して生成された周波数データから第1気泡信号を周波数変換して生成された周波数データを減算して、補正後の第2速度信号に基づく周波数データを算出する。そして、速度算出部340は、補正後の第1速度信号および第2速度信号に基づいて船速を算出する。こうすると、船速の算出に用いる信号(第1速度信号および第2速度信号)に対する気泡の影響が抑制され、より正確に船速が算出されることが期待され得る。
【0151】
なお、上記実施形態2では、気泡の状態に応じて船速の測定が中止されるため、船速の測定結果が気泡の影響を受けることがない。このため、気泡の影響を避けるために、第1送受波部111および第2送受波部112を船首40aに設置する必要がない。したがって、第1送受波部111および第2送受波部112と、操舵室41等に設置される制御装置120との間に、長い配線ケーブルを敷設する必要がなく、船速測定装置2の設置コストを大幅に削減できる。
【0152】
また、上記実施形態2では、
図7に示すように、第1A/D変換回路231および第2A/D変換回路232から直接、信号処理回路240に受信信号が入力されたが、第1A/D変換回路231および第2A/D変換回路232と信号処理回路240との間にバッファメモリが設けられてもよい。この場合、周波数変換部およびドップラー計測部は1系統とされ、バッファメモリから時分割で受信信号が読み出されて周波数変換部およびドップラー計測部により処理される。速度算出部340は、時分割で受信するドップラーシフト量から、第1速度信号および第2速度信号に基づく船速を算出する。また、気泡判定部330は、時分割で受信する周波数データから、第1気泡信号および第2気泡信号に基づく気泡の判定を行う。
【0153】
また、上記実施形態2では、本発明に係る気泡検出装置が船速測定装置2に適用された場合の構成が示されたが、本発明に係る気泡検出装置は、船速測定装置2に限らず、水中の物標を検出するための物標探知装置等や水中探知装置などの他の装置にも、適宜、適用され得る。たとえば、気泡検出装置が物標探知装置に適用される場合、水中に所定量以上の気泡が生じていることに応じて、物標の検出結果を示す画面(探知画面)が無効化されてもよい。
【0154】
本発明の実施形態は、特許請求の範囲に記載の範囲で適宜種々の変更可能である。
【符号の説明】
【0155】
1 気泡検出装置(水中探知装置)
2 船速測定装置(水中探知装置)
11 送波部(第1振動子)
11a 送波領域(第1領域)
12 受波部(第2振動子)
12a 受波領域(第2領域)
25a 気泡判定部
111 第1送受波部(第1振動子、第2振動子)
111a 第1領域(第1領域、第2領域)
111b 面(送波面、受波面)
111c 中心軸
112 第2送受波部(第1振動子、第2振動子)
112a 第2領域(第1領域、第2領域)
112b 面(送波面、受波面)
112c 中心軸
130 表示装置(表示部)
311 第1周波数変換部(周波数変換部)
312 第2周波数変換部(周波数変換部)
330 気泡判定部
340 速度算出部