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特許7372814フォトマスク、フォトマスクの製造方法、および、電子デバイスの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】フォトマスク、フォトマスクの製造方法、および、電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20231025BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F7/20 521
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019192028
(22)【出願日】2019-10-21
(65)【公開番号】P2020067660
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2018198734
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 周平
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-058324(JP,A)
【文献】国際公開第2014/111983(WO,A1)
【文献】特開2013-246340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に形成された透過制御膜がパターニングされてなる転写用パターンを備えた、近接露光用のフォトマスクであって、
前記転写用パターンは、前記透明基板上に透過制御膜が形成されてなる、幅10μm以下のライン形状の透過制御部と、
前記透明基板が露出するとともに、前記透過制御部の両側にそれぞれ隣接する透光部とを含み、
前記透過制御部は、前記フォトマスクを露光する露光光に対して、下式を満たす位相シフト量φを有する
フォトマスク。
195≦φ≦345
【請求項2】
前記透過制御部の有する、露光光に対する位相シフト量φは、下式を満たす、請求項1に記載のフォトマスク。
225≦φ≦330
【請求項3】
前記透過制御部は、露光光に対する透過率が30%未満である、請求項1または請求項2に記載のフォトマスク。
【請求項4】
前記フォトマスクは、ポジ型感光性材料露光用である、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトマスク。
【請求項5】
前記フォトマスクは、波長313~365nmの波長域をもつ露光光によって近接露光するための、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトマスク。
【請求項6】
前記透過制御部は、3~10μmの幅をもつラインパターンである、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトマスク。
【請求項7】
前記転写用パターンは、ブラックマトリクス又はブラックストライプ形成用パターンである、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトマスク。
【請求項8】
透明基板上に形成された透過制御膜がパターニングされてなる転写用パターンを備えた、近接露光用のフォトマスクの製造方法であって、
前記透明基板上に、前記透過制御膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程と、
前記透過制御膜に対してパターニングを施し、前記転写用パターンを形成する、パターニング工程と、
を有し、
前記転写用パターンは、前記透明基板上に前記透過制御膜が形成されてなる、幅10μm以下のライン形状の透過制御部と、
前記透明基板が露出するとともに、前記透過制御部の両側にそれぞれ隣接して前記透過制御部を挟む透光部とを含み、
前記透過制御部は、前記フォトマスクを露光する露光光に対して、30%未満の透過率と、195度以上345度以下の位相シフト量を有する、
フォトマスクの製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一つに記載のフォトマスクを用意する工程と、
近接露光装置によって前記フォトマスクを露光し、被転写体上に形成したポジ型感光性材料膜に、前記転写用パターンを転写する転写工程と、
を有し、
前記転写工程では、プロキシミティギャップを50~150μmの範囲に設定した近接露光を適用する、フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク、フォトマスクの製造方法、および、電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイおよび半導体集積回路等の電子デバイスの製作には、透明基板の一主表面上に遮光膜等の光学膜をパターニングして形成された、転写用パターンを有するフォトマスクが使用される。
【0003】
特に、半導体集積回路(以下、LSI:Large-scale Integrated Circuit)製造用フォトマスクとして、ハーフトーン型位相シフトマスクが知られている。このフォトマスクは、バイナリマスクにおける遮光領域を、パターンが転写しない程度の透過率をもつものとし、透過する光の位相を180度シフトさせる構造として、解像性能を向上させるものである(非特許文献1)。
【0004】
一方、画像表示装置においても、画素数を増大させ、さらに高い解像度を有するものへの要望が生じたことから、LSI製造に用いられた位相シフトマスクを、画像表示装置の製造に使用する試みがなされている(特許文献1)。
【0005】
また、フラットパネルディスプレイの製造に使用される、多階調のハーフトーンマスクが知られている。多階調のハーフトーンマスクは、例えば、透明基板上に、透過率が20~50%、位相差が60~90度の半透過膜パターンと遮光膜パターンとを備える。このような多階調のハーフトーンマスクを使用することにより、1回の露光で、位置によって膜厚の異なるフォトレジストパターンを形成することができ、フラットパネルディスプレイの製造工程におけるリソグラフィーの工程数を削減し、製造コストを低減することができる。このような用途のハーフトーンマスクは、透明基板、半透過膜および遮光膜により、3階調を実現することができる。また、複数の透過率の半透過膜を用いた4階調以上のハーフトーンマスクを実現することもできる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】田邉功、竹花洋一、法元盛久著、「フォトマスク 電子部品製造の基幹技術」初版、東京電機大学出版局、2011年4月20日、p.245-246
【文献】特開2014-092727号公報
【文献】特開2018-005072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フラットパネルディスプレイの製造工程においては、近接(プロキシミティ)露光方式が適用される場合がある。近接露光装置は、投影(プロジェクション)露光装置と比較すると、解像性能においては及ばない一方、フォトマスクと被転写体(ディスプレイ基板など)の間に結像光学系を設けないことにより装置構成がシンプルであり、装置導入が比較的容易であり、また製造上のコストメリットが高い。近接露光装置は、液晶表示装置のカラーフィルタ(CF:Color Filter)に用いるブラックマトリクスやブラックストライプ(以下ブラックマトリクス等ともいう)、或いはフォトスペーサ(PS:Photo Spacer)の製造に主に適用される。また、有機EL表示装置のブラックマトリクス等の製造にも用いることができる。
【0008】
一方、フラットパネルディスプレイの画素密度増大や明るさの増大、省電力の要望により、製造工程に使用するフォトマスクにおいても転写用パターンの微細化傾向が顕著である。微細なパターンの転写に、投影露光方式を用いれば、解像力は有利であるが、近接露光による上記メリットが失われるため、近接露光方式を適用しつつ、微細なパターンを精緻に転写することが新たな課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、
透明基板上に形成された透過制御膜がパターニングされてなる転写用パターンを備えた、近接露光用のフォトマスクであって、
前記転写用パターンは、前記透明基板上に透過制御膜が形成されてなる、幅10μm以下のライン形状の透過制御部と、
前記透明基板が露出するとともに、前記透過制御部の両側にそれぞれ隣接して前記透過制御部を挟む透光部とを含み、
前記透過制御部は、前記フォトマスクを露光する露光光に対して、下式を満たす位相シフト量φを有する、フォトマスク
である。
195≦φ≦345
【0011】
本発明の第の態様は、
前記透過制御部の有する、露光光に対する位相シフト量φは、下式を満たす、第1の態様のフォトマスク
である。
225≦φ≦330
【0012】
本発明の第の態様は、
前記透過制御部は、露光光に対する透過率が30%未満である、第1または第2の態様のいずれか一つのフォトマスク
である。
【0013】
本発明の第の態様は、
前記フォトマスクは、ポジ型感光性材料露光用である、第1~第の態様のいずれか一つのフォトマスク
である。
【0014】
本発明の第の態様は、
前記フォトマスクは、波長313~365nmの波長域をもつ露光光によって近接露光するための、第1~第の態様のいずれか一つのフォトマスク
である。
【0015】
本発明の第の態様は、
前記透過制御部は、3~10μmの幅をもつラインパターンである、第1~第の態様のいずれか一つに記載のフォトマスク
である。
【0016】
本発明の第の態様は、
前記転写用パターンは、ブラックマトリクス又はブラックストライプ形成用パターンである、第1~第の態様のいずれか一つに記載のフォトマスク
である。
【0017】
本発明の第の態様は、
透明基板上に形成された透過制御膜がパターニングされてなる転写用パターンを備えた、近接露光用のフォトマスクの製造方法であって、
前記透明基板上に、前記透過制御膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程と、
前記透過制御膜に対してパターニングを施し、前記転写用パターンを形成する、パターニング工程と、
を有し、
前記転写用パターンは、前記透明基板上に前記透過制御膜が形成されてなる、幅10μm以下のライン形状の透過制御部と、
前記透明基板が露出するとともに、前記透過制御部の両側にそれぞれ隣接して前記透過制御部を挟む透光部とを含み、
前記透過制御部は、前記フォトマスクを露光する露光光に対して、30%未満の透過率と、195度以上345度以下の位相シフト量を有する、
フォトマスクの製造方法
である。
【0018】
本発明の第の態様は、
第1~第の態様のいずれか一つに記載のフォトマスクを用意する工程と、
近接露光装置によって前記フォトマスクを露光し、被転写体上に形成したポジ型感光性材料膜に、前記転写用パターンを転写する転写工程と、
を有し、
前記転写工程では、プロキシミティギャップを50~150μmの範囲に設定した近接露光を適用する、フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法
である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、近接露光装置を用いて、より微細な寸法をもつ転写用パターンを高解像度にて転写することができるフォトマスク等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ブラックマトリクス等形成用の転写用パターンの一例を示す模式図である。
図2】近接露光装置の構成を説明する説明図である。
図3】被転写体上にブラックマトリクス等が形成された状態の断面説明図である。
図4】被転写体上に形成されたブラックマトリクス等を例示する模式図である。
図5】被転写体上に形成される光強度分布を例示する説明図である。
図6】被転写体上の光強度分布のシミュレーション結果例を説明する説明図である。
図7】過シフト角位相シフトマスクの更に詳細な評価を、光学シミュレーションを用いて行なった結果を説明する説明図である。
図8】被転写体上の光強度分布の評価方法を説明する説明図である。
図9】先割れ形状の有無および先割れ部の深さの評価を説明する説明図である。
図10】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図11】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図12】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図13】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図14】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図15】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図16】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図17】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図18】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図19】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図20】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図21】近接露光のシミュレーション結果を説明する説明図である。
図22】実施の形態2のフォトマスクの模式拡大正面図である。
図23】実施の形態2の転写像(光強度分布)のシミュレーション結果例を説明する説明図である。
図24】近接露光において、遮光部と透光部を有するフォトマスクを透過した露光光が、被転写体上の一点に到達する様子を示す模式図である。
図25】近接露光において、所定の透過率、及び位相シフト作用のある透過制御部を設けたフォトマスクを透過した露光光が、被転写体上の一点に到達する様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
フラットパネルディスプレイなど、得ようとする電子デバイスの設計が高精細化し、密度が増大したとき、これを製造するために用いるフォトマスクの転写用パターンを、単純に微細化するのみでは、不都合が生じる。
【0022】
例えば、ラインアンドスペースパターンを含む転写用パターンを、近接露光方式を用いて露光するとき、そのパターン幅(CD:Critical Dimension)或いはピッチ幅が微細になるにともない、被転写体において、パターンの解像が困難になる。これは、微細化に伴って光の回折の影響が大きくなるためである。
【0023】
図1には、ブラックマトリクス等を形成するための転写用パターン35の一例を示す。この転写用パターン35は、透明基板21(図5参照)上に形成され、透過制御部36と透光部37とを有する。透光部37は、透明基板21の表面が露出したスペース部分であり、透過制御部36は、透明基板21上に透過制御膜が形成されたライン部分である。つまり、この転写用パターン35は、透過制御部36からなるラインパターンと、これに隣接する透光部37とが規則的に繰り返され、一定のピッチPで平行に配列している。
【0024】
ところで、従来のフォトマスクにおいては、透過制御部36に相当する領域は、透明基板上に、実質的に露光光を透過しない遮光膜を形成した遮光部として形成された。この場合、パターンが微細化し、CDが小さくなるに従い、近接露光によって被転写体上に形成される転写像のコントラストが劣化する。これは、ラインパターンのエッジにおいて、光の回折が生じ、この影響が、パターンの微細化とともに無視できないレベルに大きくなるためとみられる。
【0025】
このとき、被転写体上の感光性材料が露光、現像されて形成される感光性材料パターン(得ようとするデバイスの一部となる立体的な構造物、又はエッチングマスクとして利用するレジストパターン)の形状やサイズが設計と異なってしまう不都合が生じる。尚、被転写体上の感光性材料を、以下、便宜的にレジストともいう。
【0026】
一方、遮光膜の代わりに、露光光に対して所定範囲の光透過率をもち、露光光の位相を180度シフトさせる構造(位相シフト膜)を持つ、いわゆるハーフトーン型位相シフトマスクは、主として投影露光を適用する、半導体装置製造用マスク(LSIマスク)の分野で利用されている。そこで、このハーフトーン型位相シフトマスクを、近接露光用のフォトマスクとして用いることによって、転写用パターンをより正確に転写する可能性が考えられる。そこで、図1における透過制御部36に、透過光の位相を180度シフトする位相シフト膜を形成したときの、パターンの転写性の向上を検討した。しかしながら、後述の実施の形態に示すとおり、その効果は、必ずしも期待どおりではなかった。
【0027】
一般的に、近接露光によって転写像が形成される原理にはフレネル回折が作用することが知られている。図24は、近接露光において、遮光膜による遮光部と透光部を有するフォトマスクを透過した露光光が、被転写体上の一点に到達する様子を示す模式図である。光波は実線と破線の周期構造によって表されている。実線が波の山を、破線が波の谷を、それぞれ示す(山と谷とを逆転して考えても良い)。フォトマスクを通過した光が、エッジにて回折(散乱)されつつ進行することがわかる。図24に示したとおり、一部の回折光は遮光部に対応する被転写体上の領域にも到達しうる。
【0028】
次に、上記遮光部に代えて、所定の透過率、及び位相シフト作用のある透過制御膜による透過制御部を設けた場合を、図25に示す。ここでは、透光部に由来する回折光に加え、透過制御部の透過光(透光部を透過した光と異なる位相をもつ)も、被転写体上に到達する。図25では、透過制御部を透過した光が、その透過率に応じた光強度となるため、細い線(直線及び点線)で示している。
【0029】
上記いずれの場合も、被転写体上の一点(x,y)における、光の振幅情報U(x,y)は、以下のフレネル回折式(1)で近似される。(J.W.Goodman, Introduction to Fourier Optics (3rd Edition) ; Roberts & Company Publishers (2016) : 66-7)
【0030】
式(1)中、ξおよびηはそれぞれフォトマスク上のX座標およびY座標を表す。すなわちU(ξ,η)は、フォトマスク上の座標(ξ,η)における光の振幅情報である。また、zはプロキシミティギャップ、λは露光光の波長、kは波数、jは虚数単位を、それぞれ表す。
【0031】
【数1】
【0032】
そして、被転写体上の所定面内のすべての位置における上記振幅情報U(x,y)を統合したものが、転写像の光強度分布を決定し、被転写体上に転写される。
【0033】
上式(1)より、フォトマスクの転写用パターンを近接露光するときに、形成される転写像の解像性を向上するには、被転写体上の光の位相、振幅を最適化することが有用であることがわかる。これによって、既存のバイナリマスクにおいて生じていたフレネル回折に対して、より有利な光強度分布を生じさせ得る可能性が考えられる。
【0034】
本発明者の検討によると、上記を考察するとき、投影露光にて使用される、ハーフトーン型位相シフトマスクの位相シフト量(180度)が、必ずしも近接露光において最適ではないことが見出された。
【0035】
そして、検討の結果、近接露光用の転写用パターン(例えば図1における透過制御部36)を、位相シフト作用のある透過制御膜によって形成し、かつ、その位相シフト量を、既存のハーフトーン型位相シフトマスクの位相シフト量より大きいものとするとき、微細パターンの解像性の劣化をより有効に抑えられることが明らかになった。
【0036】
[実施の形態1]
図1図5を参照して、本実施の形態のフォトマスク10は、主面が長方形又は正方形の板状の透明基板21の一主面に、所定の転写用パターン35を設けて構成されている。透明基板は、合成石英などの透明材料を加工し、主表面を平坦、平滑に研磨したものが用いられる。フラットパネルディスプレイ用のフォトマスク基板としては、主面の短辺がたとえば300~2000mm、厚みが5~16mmのものが好適に使用される。
【0037】
フォトマスク10がもつ転写用パターン35を図1に例示する。この転写用パターン35は、透明基板21の表面に、透過制御膜が形成されてなるライン状の透過制御部36が、透光部37を介して所定のピッチで規則的に配列した、ラインアンドスペースパターンを形成している。
【0038】
転写用パターン35は、以下のような形状であることが好ましい。例えば、転写用パターン35は、透過制御部36からなるラインパターンを含み、その幅Bは、
3≦B≦10(μm)
であることが好ましく、より好ましくは、
3≦B≦8(μm)
更に好ましくは
3≦B≦6(μm)
である。
【0039】
上記により、フラットパネルディスプレイにおいて開口率の高い良好なブラックマトリクス又はブラックストライプ(以下、これらをまとめてブラックマトリクス52ともいう)が得られる。このような微細なCDをもつ高精細パターンであっても本発明を適用すると、解像性の劣化が低減され、効果が顕著である。
【0040】
また、転写用パターン35は、上記幅のラインパターンが、透光部37からなるスペースパターンを介して規則的に配列するラインアンドスペースパターンであってもよく、又は、更に、上記ラインパターンに交差(直角、鋭角又は鈍角で)する、他のラインパターンを有していても良い。すなわち、ラインアンドスペースパターンが縦横に配列する格子状パターンを形成していてもよい。こうした、他のラインパターンも、同様に透明基板上に透過制御部36からなるものとすることができる。他のラインパターンは、幅B’の遮光部からなるものとしてもよい。この場合、B’>Bであることが好ましい。
【0041】
ここで、図1のラインアンドスペースパターンにおいて、ラインパターンを構成する透過制御部36の幅はBであり、スペースパターンを構成する透光部37の幅はDである。したがって、ラインアンドスペースパターンのピッチPは、B+Dである。
【0042】
また、図1のラインアンドスペースパターンのピッチPは、
10≦P≦35(μm)
とすることができる。
より好ましくは、
15≦P≦35(μm)
とすることができる。ピッチPがこの程度であるとき、250ppiから、最大850ppi程度の、高精細なディスプレイに適切に利用できる。
【0043】
また、このような転写用パターンを用いて近接露光するとき、プロキシミティギャップGは、50~200μmが好適に用いられる。そして、本発明によれば、プロキシミティギャップGの面内不均一がある場合においても、それによって生じる転写像の面内不均一が低減される。近接露光のコリメーション角は1.5~2.5度程度が好ましい。
【0044】
上記のような転写用パターンを用いて、被転写体51上に、上記幅Bのライン状透過制御部36に対応して、幅10μm以下のライン状パターンを形成することを考える。例えば、3~10μm幅、より微細なものとしては、3~8μm幅、更には3~6μm幅のパターンを形成し、微細幅のブラックマトリクス52とすることができる。
【0045】
本実施の形態のフォトマスク10において、透過制御部36を形成するための透過制御膜は、フォトマスク10を露光する露光光に対し、その位相をφ(度)シフトする作用をもつ。すなわち、透過制御膜の位相シフト量φは、
φ>180(度)
である。
【0046】
尚、φ>180、すなわち180度を超える位相シフト量、とは、式(2)によって定義される位相シフト量φの範囲を表す。式(2)中のMは負でない整数を表す。
180+360M<φ<360+360M(度) ‥‥‥ (2)
【0047】
ここでフォトマスク10を露光する露光光とは、近接露光装置50(図2参照)によって、転写用パターン35を露光し、転写するために用いる光であり、313~365nmの範囲内の波長を含む露光光が好ましく用いられる。複数波長を含む露光光においては、上記波長範囲に含まれるいずれかの波長(好ましくは強度ピークをもつ波長)を、代表波長として、上記φの基準とすることができる。
【0048】
例えば、313~365nmの範囲内の波長を含む露光光を用いる場合、短波長側の313nmを代表波長としてもよく、上記波長域の中央値に近い334nmを代表波長としてもよい。あるいは、上記波長範囲の最長側にある365nmを代表波長とすることもできる。
【0049】
更に、露光光が、複数波長を含む場合に、上記波長範囲に含まれるすべての波長に対して、φ>180とすることが好ましい。
【0050】
従って、たとえば、フォトマスク10が、波長313~365nmの波長域を含む露光光によって近接露光するためのフォトマスク10である場合、上記透過制御部36は、もっとも長波長側の波長365nmの光に対し、180度を超える位相シフト量を有するフォトマスクとすることができる。この場合、実質的に、露光光に含まれる上記波長範囲のすべての波長に対して、透過制御部36の位相シフト量は180度を超えたものとなる。
【0051】
或いは、露光光の波長が、365~436nm(i線、h線、g線)を含むものとする場合には、もっとも長波長側の463nmを代表波長とし、これに対する、透過制御膜の位相シフト量φを、φ>180としてもよい。更には、使用する露光光の波長域において、もっとも強度の大きい波長を代表波長としてもよい。
【0052】
また、透過制御部36を形成するための透過制御膜は、露光光に対して、透過率Tを有する。この透過率Tは、透明基板を1.0(100%)としたときの数値である。また、ここでいう透過率は、上記位相シフト量に関して述べたものと同様の代表波長に対するものとすることができる。
【0053】
透過制御部36は、0.3(30%)未満の正の透過率Tとすることが好ましい。透過制御部36の透過率Tおよび位相シフト量φの詳細については、後述する。
【0054】
本実施の形態のフォトマスク10は、フラットパネルディスプレイを構成する各サブピクセル間を分離するブラックマトリクス52(図3参照)の作成に、好適に使用される。
【0055】
すなわち、フォトマスク10は、被転写体51上に、感光材料が残存する部分としない部分とを形成する2階調のフォトマスクであり、透過制御部36は、従来のバイナリマスクの遮光部に対応する。
【0056】
ブラックマトリクス52は、被転写体51(ディスプレイパネル基板など)上の、図1における透過制御部36に対応する位置に形成される。ブラックマトリクス形成工程については、後述する。なお、フラットパネルディスプレイは、本実施の形態のフォトマスク10を用いて製作される電子デバイスの一例である。
【0057】
フラットパネルディスプレイが、液晶ディスプレイである場合、対向配置されたカラーフィルタ基板と、TFT(Thin-Film-Transistor)基板との間に、液晶を封止して製作される。ブラックマトリクス52は、カラーフィルタ基板の一面に形成される。ブラックマトリクス52同士の間に、赤、緑および青のカラーフィルタが所定の順番に形成される。
【0058】
フラットパネルディスプレイが、有機EL(electro-luminescence)ディスプレイである場合は、ブラックマトリクス52同士の間に、赤、緑および青の有機EL発光素子が所定の順番に形成される。
【0059】
いずれの場合であっても、ブラックマトリクス52は、サブピクセル間の混色や光もれを防ぎ、フラットパネルディスプレイに表示される画像、映像を鮮明にする機能を果たす。高精細、すなわち個々の画素が小さく、画素密度が大きい上に、明るいフラットパネルディスプレイを実現するには、ブラックマトリクス52の幅を狭く(例えば、3~10μm、より好ましくは、3~8μm)を精緻に形成する必要がある。すなわち微細幅のパターンを、被転写体51上に解像できることが肝要である。
【0060】
以下においては、図1に示すBおよびDが表1に示す長さである場合を例にして、説明する。
【0061】
【表1】
【0062】
本発明のフォトマスク10の露光には、近接露光装置50が好ましく用いられる。図2は、近接露光装置50の構成を模式的に説明する説明図である。近接露光装置50は、光源57から出射した光を、照明系58を介して、フォトマスク10の裏面12の側に照射すると、転写用パターンが形成された表面11側に透過し、被転写体51に到達する。フォトマスク10と、被転写体51との間には、プロキシミティギャップGが設けられる。
【0063】
光源57は高圧水銀ランプとすることができる。高圧水銀ランプは、i線、h線、g線に強いピークを有するが、本実施の形態のフォトマスク10の露光には、i線(波長λ=365nm)及びそれより短波長側のスペクトル群を利用することが好ましい。例えば、365nm、334nm、及び313nmのピークに対して、良好な感度域をもつポジ型レジストを用いることが有用である。
【0064】
なお、図3および図4は、被転写体51上に形成されたブラックマトリクス52を例示する。ここに図示されたブラックマトリクス52は、ポジ型の感光性材料からなるライン部が、所定ピッチPで配列する、ラインアンドスペースパターンである。ライン部の幅(CD)をE(μm)、スペース部の幅(CD)をF(μm)とすると、ピッチPは、E+Fであり、上記転写用パターンのピッチP(つまりB+D)と同一、すなわち
P=E+F=B+D
である。
【0065】
一方、ブラックマトリクス52のライン部の幅Eは、図1におけるラインパターンの幅Bと同一でもよく、又は、Bより小さくてもよい。
すなわち、
E≦B
である。
E<Bの場合、
β=B-E(>0)
とすると、β(μm)(バイアス値)は、
0<β≦2
とすることができる。
【0066】
βの値は、露光の際の照射光量とレジスト感度閾値との相対関係によって調整することが可能である。
【0067】
ただし、被転写体51上に、ブラックマトリクス52のライン部Eとして、所望の幅の転写像を形成するとき、対応する光強度分布曲線上においてその幅を示す光強度値を、レジスト感度閾値とする。
【0068】
図5は、フォトマスク10がもつラインパターンを近接露光したときに、被転写体51上に形成される光強度分布の一例を説明する説明図である。
【0069】
すなわち、図5(a)は、図1を使用して説明した、透過制御部36からなるラインパターン(幅5μm)をもつフォトマスク10の断面、図5(b)は、該フォトマスク10を近接露光した時の、パターン位置と、それに対応する被転写体51上の光強度の分布を示す。図5(b)において、横軸はラインパターンの中心を中央とした位置を表わし、縦軸は、被転写体51上における光強度である。
【0070】
ここで、図5(b)の縦軸目盛の100(%)は、光強度が100%であることを意味し、これは、透明基板(すなわち、露光装置の解像限界に対して十分に大きいCDをもつ透光部37)を透過する光によって被転写体51が受ける光強度に等しい。他方、縦軸目盛のゼロは、被転写体51が実質的に露光光に曝露しないことを意味する。以下の光学シミュレーションは、上記基準をもとに定量化したものである。
【0071】
尚、図5において、光強度が100%を超える部分が見られるのは、被転写体51上の当該位置に到達する光の干渉の作用によるものである。
【0072】
このような光強度分布は、光学シミュレーションにより精度良く求めることができる。
【0073】
図6は、複数の転写用パターンのデザインに応じて得られる光強度分布のシミュレーション結果をそれぞれ示す。ここでは、プロキシミティギャップG、ラインパターンを構成する透過制御部36の透過率Tおよび位相シフト量φをそれぞれ変化させた際に生じる、被転写体51上の光強度分布の変化を示す。
【0074】
表2に、透過制御部36の透過率Tおよび位相シフト量φの組合せを示す。
【0075】
【表2】
【0076】
符号aからiにおいて、フォトマスク10のパターンは、図1を使用して説明したラインアンドスペースパターンを用い、無限に長いラインパターンが等ピッチで無限に配列するものとした。
【0077】
符号aは、透過制御部36を、実質的に露光光を透過しない遮光膜で形成した、いわゆるバイナリマスクである。
【0078】
符号bは、透過制御部36が露光光を一部透過し、かつ、位相シフト作用をもたないハーフトーンマスク(図6ではHTMと表示)である。
【0079】
符号cからiは、透過制御部36が透過光を一部透過するとともに、それぞれ異なる位相シフト量をもつフォトマスク10(図6ではPSMと表示)である。符号fで示す、位相シフト量φが180度である位相シフトマスクは、投影露光方式において、従来から使用されている。以下の説明においては、符号fで示す位相シフトマスクを180度位相シフトマスクと記載する。
【0080】
また、位相シフト量が180度より小さい、符合c、d、eのフォトマスク10は、低位相シフトマスクとし、180度より大きい符号g、h、iのフォトマスク10を、過シフト角位相シフトマスクとする。
【0081】
図6の右端には、光強度分布の凡例を示す。図5と同様に、横軸は、ラインパターンの中心を中央とした相対位置を表わし、縦軸は、被転写体51上における光強度を表わす。縦軸の範囲は、0%から180%までである。
【0082】
図6は、左端の列から順に、図2を使用して説明したプロキシミティギャップGを50μm、75μm、100μm、125μmおよび150μmにしたとき、被転写体51上に形成される光強度分布のシミュレーション結果を配列して示す。
【0083】
尚、近接露光装置50にセットされたフォトマスク10は、自重によるたわみを生じるために、フォトマスク10の中心付近と、外縁付近とでは、プロキシミティギャップが異なる数値となる場合が少なくない。或いは、このたわみを低減する目的で、フォトマスク10に加重をかける保持機構などにより、より複雑なプロキシミティギャップの面内分布(ばらつき)が生じる場合もある。特に、サイズの大きいフラットパネルディスプレイ用のフォトマスク10はその傾向が顕著である。図6において、プロキシミティギャップGの水準を変化させているのは、この影響を勘案したものである。
【0084】
すなわち、フォトマスク面内で、プロキシミティギャップの値に分布が生じることがある程度避けられない状況下、被転写体51上の転写像にどのような影響が生じるかについて、フレネル回折による光学シミュレーションを使用して検証を行なった。
【0085】
シミュレーションでは、波長が313nm、334nmおよび365nmの光(強度比0.25:0.25:0.5)を含むブロード波長域の露光条件を適用した。これらは、高圧水銀ランプの放射スペクトルのうち、ブラックマトリクス52の製造に適用されるレジストの感光域に適合する、i線以下の主要なピーク成分である。また、シミュレーションに際して、コリメーション角は2.0度とした。尚、透過制御部36の位相シフト量φは、図6のa~iの各フォトマスクごとに示すとおりである(シミュレータ特性により、波長ごとに所定φに一致している)。
【0086】
図6に示す、各条件下で得られた光強度分布を、以下の視点で評価する。これらの光強度分布曲線は、フォトマスク10の露光によって被転写体51上に得られるレジストパターン(上述のとおり、感光性材料からなる立体的な構造物を含む)の形状と相関する。まず、光強度分布のコントラストが高いことが望ましい。例えば、光強度分布曲線において、中央付近にある光強度のボトムにおける最小値が、両サイドにみられる最大値と比較して、十分に小さいことが好ましい。この点は、後述のMichelson Contrastによって、定量的に評価が可能である。
【0087】
一方、光強度分布曲線において、両サイドに対する中央のボトムが十分に低くない場合、ラインパターンの解像性が劣化する。例えば図6において、符号a、b、cのフォトマスク10(エリア(A)のフォトマスク)にはその傾向があり、特にプロキシミティギャップGが大きくなるに伴ない、ラインパターンの解像されにくい状態を示している。
【0088】
また、微細ラインパターン形成に際する光強度分布曲線においては、ボトム近傍の下向き凸形状がより、鋭いことが好ましい。
【0089】
更に、図6によると、符号dからfに示す、位相シフト量φが90度以上180度以下の低位相シフトマスク(エリア(B))では、プロキシミティギャップGが小さい場合(例えば50μm)、光強度分布曲線は中央に小さなピークをもつ先割れ形状(凹み形状)を示す。このような先割れ形状が生じた場合、凹みの深さによっては、フォトマスク10の露光によって被転写体51上に形成されるポジ型感光材料の構造物に不要な凹みが生じるなど、好ましくない場合もある。よって、被転写体51上に微細幅のパターンを形成するためには、先割れ形状が顕著に生じないフォトマスク10や条件を適用する方が好ましい。
【0090】
一方、符号gからiに示す過シフト角位相シフトマスク(エリア(C))では、光強度分布曲線において、両サイドの最大値に対するボトムの最小値が他のフォトマスク10に対して相対的に小さく、優れたプロファイルが示されている上、プロキシミティギャップGの変動についても、広い範囲で良好な解像性が得られている。更に、光強度分布に先割れ形状が出現していない。
【0091】
また、図6において、符号f(位相シフト量180度)と、符号g(位相シフト量225度)と比較すると、プロキシミティギャップによらず、前者より後者の光強度分布が、より有利であることがわかる。つまり透過制御部36の位相シフト量が180度を超えると、転写性が向上する方向に向かうことがわかる。
【0092】
以上により、図6には、180度を超える位相シフト量をもつ透過制御部36を有する、過シフト角位相シフトマスクが、その他のフォトマスク10に比べて有利であることが示されている。
【0093】
過シフト角位相シフトマスクの更に詳細な評価を、光学シミュレーションを用いて行なった結果を、図7に示す。
【0094】
図7には、図5に示すもののうち、プロキシミティギャップを50μmとした場合の、符号a、b、f、g、h、iのフォトマスク10による光強度分布を重ねたものである。これによって本発明の過シフト角位相シフトマスクによる、既存のフォトマスク10に対する利点が理解できる。
【0095】
図7によると、符号hで示す過シフト角位相シフトマスクにおいては、光強度の最小値が小さく、かつ、光強度の最大値も大きいため、露光光のコントラストCoが高くなっており、光強度分布に先割れ形状も生じていない。また、符号g、符号iで示す過シフト角フォトマスク10も、光強度の最大値と最小値に大きな差が形成され、有利である。
【0096】
過シフト角位相シフトマスク(g~i)の中でも、位相シフト量φが、225度を超え、315度未満の領域において、コントラスト(最大値に対する最小値の低さ)が優れることが理解できる。この領域では、特に、270≦φのときに、ボトム近傍の下向き凸形状が鋭く、ポジ型感光性材料に用いれば、引き締まった微細なパターンの形成に有利であり、微細幅のラインパターンの解像性に優れることがわかる。
【0097】
以下の方法により露光光のコントラストCoを定量的に評価することができる。本実施の形態におけるコントラストCoを、(3)式により定義する。
【0098】
【数2】
【0099】
コントラストの数値による評価に加え、光強度曲線の形状に関する評価を以下に示す。本評価は、過シフト角位相シフトマスクを用いて行なおうとするデバイス製造上の特性に関するものであるから、より多くの観点が望まれる。そこで、図8を参照して、光強度分布形状の評価方法を説明する。図5と同様に、横軸は位置、縦軸は被転写体51上の光強度を表わす。
【0100】
図8に示すL1~L3の3つの光強度分布曲線を想定する。ここで、両サイド(“肩”の部分)の最大値(Imax)はL2が最も高く、相対的に有利である。また、中央ボトム部分の最小値(Imin)が最も低いL2は、この点でも相対的に最も有利である。
【0101】
一方、本発明者の検討によると、これらの光強度分布曲線の形状も注目に値する。すなわち、微細なパターンを得るための解像性の観点では、光強度分布曲線の下向き凸形状が細いL3は非常に有利である。従って、微細パターンの形成しやすさの観点から、曲線に現れる変曲点Nの位置を、評価に用いることが有用である。具体的には、変曲点のNの位置がより内側(中央に近い)の場合に、より高い評価を対応づける。
【0102】
上記を定量的に表現するため、様々な条件で、過シフト角位相シフトマスクにより被転写体51上に形成される光強度分布曲線を、既存の参照マスク(バイナリマスク(a)、及び180°位相シフトマスク(f))の光強度分布曲線と比較し、表3に示すスコアリングを行なった。尚、表3において、2つの参照マスクとは、バイナリマスク(a)、及び180°位相シフトマスク(f)を指す。
【0103】
【表3】
【0104】
スコアの最大値は+3、最小値は-3である。それぞれの過シフト角位相シフトマスクのスコアを、表4に基づいてランク分けする。以下、このスコアリング結果を、形状ランクともいう。
【0105】
【表4】
【0106】
すなわち、Aランクであれば、既存の参照マスクよりも、被転写体51上に得られる光強度分布曲線のプロファイルが向上することに対応し、Bランクであれば同等、Cランクであれば、転写像の質がむしろ低下することに対応する。
【0107】
さらに、先割れ形状の有無および先割れ部の深さを評価した。図9に示すように、先割れ形状のある光強度分布において、光強度の最小値(Imin)(%)と、先割れ部の中央における小さなピークの光強度(Q)(%)との差を、先割れ部の深さδと定義する。
δ=Q-Imin (%ポイント) ・・・(4)
【0108】
図10から図21は、近接露光のシミュレーション結果の説明図である。図10は、透過率Tが5%である位相シフトマスクのコントラストCoを示す。例えば、最上行は、透過率Tが5%、位相シフト量φが180度である180度位相シフトマスクを示す。最下行は、透過率Tが0%であるバイナリマスクを示す。180度位相シフトマスクおよびバイナリマスクが、上述の参照マスクに相当する。下から二番目の行は、位相シフトのないハーフトーンマスクを示す。
【0109】
小数点以下4桁の数値は、透過制御部36の透過率T、位相シフト量φおよびプロキシミティギャップGごとのコントラストCoを示す。太枠の内側は、コントラストCoが参照マスクのいずれよりも高い領域を示す。
【0110】
この結果から、位相シフト量φが、
φ≧195 ・・・(5)
を満たす過シフト角位相シフトマスクにおいて、参照マスクを上回るコントラストが得られることがわかる。より好ましくは、
195≦φ≦345
とすることができる。
【0111】
更には、
225≦φ≦330 ・・・(6)
の場合に、プロキシミティギャップGが広い範囲で、参照マスクを上回るコントラストが得られる。すなわち、プロキシミティギャップGの面内変動にもかかわらず、優れたコントラストが得られることがわかる。
【0112】
一方、図11は、図10と同様のフォトマスク10を対象とし、その光強度分布曲線の形状について、上記のランク付を行った結果を示す。表のレイアウトおよび太枠は、図10と同一である。
【0113】
図11によると、上述の、(5)式の範囲では、参照マスクと同等以上に、有利な光強度分布曲線の形状が得られ、微細パターンを形成しやすいことがわかる。
【0114】
図12図14図16図18および図20は、それぞれ透過率Tが10%、15%、20%、30%および40%である位相シフトマスクについて、図10と同様にコントラストCoを示す。また、図13図15図17図19および図21は、同様にそれぞれ透過率Tが10%、15%、20%、30%および40%である位相シフトマスクの形状ランクを示す。
【0115】
尚、図13図15図17図19および図21のハッチングは、光強度分布曲線に先割れ部形状がみられる部分を示す。縦線のハッチングは、先割れ部の深さδが5%ポイントを越えて10%ポイント以下であることを示す。右下がりのハッチングは、先割れ部の深さδが10%ポイントを越えて15%ポイント以下であることを示す。左下がりのハッチングは、先割れ部の深さδが15%ポイントを越えることを示す。
【0116】
これらのシミュレーション結果より、過シフト角位相シフトマスクが有利であり、とりわけその位相シフト量φが(5)式を満たすときに、既存の参照マスク以上のコントラストCoや光強度分布曲線の形状ランク(以下、形状ランク)を得ることが明らかになる。
【0117】
特に、透過率Tが30%以下の場合に、プロキシミティギャップGの値の広い範囲で、参照マスク以上のコントラストCo及び形状ランクを得られる。
【0118】
位相シフト量φの範囲は、
φ≦330
とすることがより好ましい。これは特に、透過率Tが10%以上の場合にコントラストCoが有利である。
更には
φ≦315
であることが好ましい。これは特に、透過率Tが15%以上の場合に、有利なコントラストCoを得られる。
また
φ≦300
である場合には、更に優れたコントラストCoと、形状ランクを、広いプロキシミティギャップGの数値範囲で得られる。
【0119】
尚、位相シフト量φの範囲につき、形状ランクは、プロキシミティギャップGが小さい(例えば100μm以下)場合に良好である。但し、Gが小さい領域では、位相シフト量φの値によっては、光強度分布曲線に先割れ形状を生じる可能性があるので、これを勘案すれば、
φ≧210
より好ましくは
φ≧240
更に好ましくは、
φ≧255
とすることができる。
【0120】
また、この
φ≧255
の範囲であるとき、プロキシミティギャップGの値の広い範囲で、参照マスク以上のコントラスト及び形状ランクを得られる。
φ≧270
では、同様の効果が更に顕著である。
【0121】
例えば、
Tが5~15%であれば、
210≦φ≦315
のとき、参照マスクより優れたコントラストや形状ランクを示すことができ、
240≦φ≦315
のときに、プロキシミティギャップGのより広い範囲で、参照マスクより優れたコントラストや形状ランクが得られる。
【0122】
Tが5~20%であれば、
210≦φ≦315
のとき、参照マスクより優れたコントラストや形状ランクを示すことができ、
255≦φ≦315
において、プロキシミティギャップGのより広い範囲で、参照マスクより優れたコントラストや形状ランクが得られる。
【0123】
尚、先割れ形状の光強度分布が、T≧15%の過シフト角位相シフトマスクにおいてみられるが、T≧30%の過シフト角位相シフトマスクにおいては、先われ深さδが15%ポイントを超える部分が生じる。この観点からも、過シフト角位相シフトマスクの透過制御部36の透過率Tは、30%未満であることが好ましい。
【0124】
すなわち
T<30
が好ましく、
5≦T<30
がより好ましい。
Tが5%未満である場合、過シフト角位相シフトマスクの作用が十分に得られないリスクが生じる。
【0125】
但し、Tが30%以上であっても、過シフト角φの選択を、
φ≧240
とすれば、先割れについての問題を生じずに、パターン転写が行なえる。
【0126】
また、Tが30%以上の場合においてもそれぞれ、優れたコントラストや形状ランクを得られる領域が得られるが、この領域ではTが20%以下の場合に比べ、プロキシミティギャップの小さい領域(例えばG<100μm)において、太枠内の広さが減少し、また形状ランクAの領域が減少する傾向がある。この点を考慮すると、Tが20%以下である場合が有利である。
【0127】
一方、Tが30%以上の場合において、Gが大きい領域(例えばG≧100μm)では、Tが小さいものに比べても、コントラストCoの値が高いことが見受けられる。従って、近接露光装置50の条件や環境に応じて、中心ギャップ値の数値にあわせて、フォトマスク10の透過制御部36の透過率を使い分ける最適設計も可能である。
【0128】
本実施の形態によると、近接露光装置50を用いて、微細幅の転写用パターンを高解像度で転写するために有利なフォトマスク10を提供できる。すなわち、投影露光装置を用いることなく、近接露光装置50を用いることにより、コスト効率を高くして、高精細なフラットパネルディスプレイを生産可能な大型のフォトマスク10を提供することができる。
【0129】
本実施の形態によると、自重等により、フォトマスク面内におけるプロキシミティギャップGが変動することが避けられない状況下にあっても、高解像度のパターン転写を行なえるフォトマスク10を提供できる。特に、フラットパネルディスプレイに用いられる大型のフォトマスク10においては、撓みによるプロキシミティギャップGの変動が生じやすいため、本実施の形態のフォトマスク10の採用が有効である。
【0130】
本実施の形態によると、ポジ型感光性材料を用いたレジストを用いたフォトリソグラフィを行なう際、フレネル回折の特徴を有利に生かし、パターン転写を精緻に行なえるフォトマスク10を提供できる。
【0131】
転写用パターン35は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、透明基板が露出する透光部37、透過制御膜からなる透過制御部36に加えて、実質的に露光光を透過しない遮光膜により形成された遮光部など、付加的なパターンを含んでも良い。付加的なパターンとしては、更に、上記透過制御部36とは異なる透過率、位相シフト量を有する、半透光部等であっても良い。
【0132】
フォトマスク10は、ポジ型の感光性材料を用いたブラックマトリクス52の形成に特に有利に用いられるが、用途はこれらに限定されない。
【0133】
本態様のフォトマスク10は、上記で触れたラインアンドスペースパターン以外にも、格子パターンのように、光学的に互いに影響を及ぼす距離にある単位パターンが規則的に繰返される、いわゆる密集パターンを含む転写用パターンに、好適に適用することができる。
【0134】
[実施の形態2]
図22は、実施の形態2のフォトマスク10がもつ転写用パターンの模式拡大正面図である。図1は、ラインアンドスペースパターン、すなわち、同一形状のラインパターンとスペースパターンが規則的に配列した密集パターンであったのに対し、図22は、孤立ラインパターンである。尚、複数の単位パターンが規則的に配列することにより、互いに光学的な作用を及ぼす場合に密集パターンと呼ばれることが多いが、その様な作用のないパターンを孤立パターンとする。本実施の形態のフォトマスク10が有する転写用パターンは、一定幅Bを有する孤立したラインパターンであり、ここではBは5μmである。
【0135】
図22の転写用パターンにおいても、上記形態1と同様、近接露光のシミュレーションを行い、過シフト角位相シフトマスクによる転写性を考察した。孤立ラインパターンにおける、コントラスト、光強度分布曲線形状の挙動は、上記形態1におけるものと同様であり、従って、孤立パターンにおいても、過シフト角位相シフトマスクが有用であることが確認された。
【0136】
図23は、実施の形態2のフォトマスク10による、被転写体51上の露光量分布のシミュレーション結果例を説明する説明図である。
【0137】
尚、ここでは、孤立パターンであって、繰返しパターン同士の光の干渉が生じないため、Imaxの値は、ラインアンドスペースパターンの場合よりも低くなっている。しかしながら、ここでも、符号g、h、iで示される過シフト角位相シフトマスクは、図7と同様、既存のフォトマスクに比べて、優れた転写性能を示すことがわかる。
【0138】
上記の実施の形態1および2に示すとおり、過シフト角位相シフトマスクによると、近接露光装置50を用いて、微細なラインパターンを安定して解像できるフォトリソグラフィを行なえるフォトマスク10を提供できることが明らかになった。
【0139】
また、発明者の検討によると、フォトマスク10が備える転写用パターンが孤立パターンであっても、上記実施の形態1で述べたと同様に、優れた作用効果が得られることがわかった。すなわち、本発明によって、フォトマスク10の面内位置によってプロキシミティギャップGが変動した場合であっても、それによる転写像の形状(CDを含む)の変化を低減することが可能なフォトマスク10を提供できる。
【0140】
特に、フラットパネルディスプレイに用いられる大型のフォトマスク10においては、面内におけるプロキシミティギャップGの変化が避けられない状況にあるとき、本実施の形態1及び2のフォトマスク10の採用が有効である。
【0141】
更に、上記実施の形態1および2によると、ポジ型感光材料を用いたレジストを用いて、高解像度の転写を行なえるフォトマスク10を提供できる。
【0142】
透過制御部36を構成する透過制御膜は、所定の露光光透過率と位相シフト量を有するものとするために、その組成や膜厚が決定されたものであり、その組成は膜厚方向に均一でもよく、又は、異なる組成や異なる膜物性の膜が積層されてひとつの透過制御膜を構成するものでもよい。
【0143】
但し、本発明の作用効果を損なわない限りにおいて、付加的に、異なる膜(遮光膜、エッチングストッパ膜等)を有してもよく、付加的な膜による膜パターンを、透過制御膜のパターンの上面側又は下面側に有していてもよい。
【0144】
また、転写用パターン35の外周側に、付加的な膜パターン(例えば、遮光膜パターン)を有していても良く、このような付加的な膜パターンに、フォトマスク10の露光時やハンドリング時に参照されるマークパターンを形成してもよい。
【0145】
上記2つの実施の形態に共通して、本発明のフォトマスク10は、例えば以下の製造方法によって製造することができる。
【0146】
まず、透明基板21上に透過制御膜が成膜された、フォトマスクブランクを用意する。透過制御膜の成膜においては、露光光に対して所定の透過率、および位相シフト量を満足するように、その素材と膜厚を選択する。成膜方法はスパッタ法など、公知の成膜方法を適用することができる。
【0147】
次いで、透過制御膜上にレジスト膜が形成された、レジスト付フォトマスクブランクを用意する。レジストは、ポジ型でもネガ型でもよいが、ポジ型が好ましい。
【0148】
そして、上記レジスト付フォトマスクブランクに対して、パターニングを施す。具体的には、レーザ描画装置等の描画装置を用い、所定のパターンデータによる描画を行ない、現像を行なう。更に、現像により形成されたレジストパターンをマスクとして、透過制御膜にドライ又はウェットエッチングを施し、転写用パターン35を形成する。そして、レジストパターンを剥離する。
【0149】
以上の工程によれば、1回のみのパターニング(すなわち1回のみの描画)によってフォトマスク10を形成することができる。すなわち、透過制御膜のみをパターニングしてなるフォトマスク10であることが好ましい。必要に応じて、付加的な膜の形成、およびパターニングを行なってもよい。
【0150】
透過制御膜の材料は、例えば、Si、Cr、Ta、Zrなどを含有する膜とすることができ、これらの化合物から適切なものを選択することができる。
【0151】
Si含有膜としては、Siの化合物(SiONなど)、又は遷移金属シリサイド(MoSi、TaSi、ZrSiなど)や、その化合物(酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化窒化炭化物など)を用いることができる。
【0152】
Cr含有膜としては、Crの化合物(酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物、酸化窒化炭化物)を使用することができる。
【0153】
本発明は、フォトマスク10を用いた、フラットパネルディスプレイ用電子デバイスの製造方法を含む。
【0154】
すなわち、上記の過シフト角位相シフトマスクを用意する工程と、近接露光装置50によってこれを露光し、被転写体51上に前記転写用パターン35を転写する転写工程とを有し、前記転写工程では、プロキシミティギャップが50~200μmの近接露光を適用する、フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法である。
【0155】
フォトマスク10の用途は、ブラックマトリクス又はブラックストライプの製造に好適に使用することができるが、これらに限定しない。但し、本発明のフォトマスク10は、被転写体51上に、感光性材料による立体構造物を形成する目的に、特に好適に利用できる。これは、微細幅をもつ立体構造物を、確実に解像し、安定した条件で形成できることが、極めて有意義であるためである。
【0156】
各実施例で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組合せ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものでは無いと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0157】
10 フォトマスク
21 透明基板
35 転写用パターン
36 透過制御部
37 透光部
50 近接露光装置
51 被転写体
52 ブラックマトリクス又はブラックストライプ
56 ガラス基板
57 光源
58 照明系

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