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特許7372828レンズを被覆するためのラッカーシステムの使用、レンズのコバを被覆する方法、及びレンズ
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  • 特許-レンズを被覆するためのラッカーシステムの使用、レンズのコバを被覆する方法、及びレンズ 図1
  • 特許-レンズを被覆するためのラッカーシステムの使用、レンズのコバを被覆する方法、及びレンズ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】レンズを被覆するためのラッカーシステムの使用、レンズのコバを被覆する方法、及びレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20231025BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20231025BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231025BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20231025BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20231025BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20231025BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20231025BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20231025BHJP
【FI】
G02B3/00 Z
C09D7/20
C09D7/61
C09D133/04
C09D163/00
C09D175/04
G02B5/00 B
G02B7/02 B
G02B7/02 D
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019224723
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2020129104
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10 2018 132 471.5
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597114889
【氏名又は名称】ライカ カメラ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ディルク, ヴンダーリヒ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン, ベスト
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス, ディーテ
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-024988(JP,A)
【文献】特表2002-530183(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0255238(US,A1)
【文献】特開2005-169034(JP,A)
【文献】特開2017-179007(JP,A)
【文献】特表2014-519410(JP,A)
【文献】特開2016-180806(JP,A)
【文献】特開2015-114601(JP,A)
【文献】特開2003-314959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00、5/00、7/02
C09D 7/20
C09D 7/61
C09D 133/04
C09D 163/00
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ(1)のコバ(14)にラッカーコバ塗膜(16)を形成するためのラッカーシステムであって、
該ラッカーシステムは、少なくとも1種の第一成分及び1種の第二成分を含み、0.7~1.4μmの範囲の波長の光の照射によって硬化させることができ、
上記第一成分は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂成分と、有機溶剤の形態である少なくとも1種の希釈剤と、少なくとも1種以上の充填剤とを含み、
上記第一成分中における少なくとも1種のエポキシ樹脂及び/又は少なくとも1種のアクリル樹脂の含有量は、上記第一成分の全重量に対して20~65重量%であり、
上記希釈剤の含有量は、上記第一成分の全重量に対して5~70重量%であり、
上記充填剤の含有量は、上記第一成分の全重量に対して2重量%以上であり、
上記第二成分は、脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネート、アミノ基含有化合物及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤を含む、ラッカーシステム
【請求項2】
上記第一及び/又は第二成分は、上記充填剤として少なくとも1種の黒色充填剤を含む、請求項1に記載のラッカーシステム
【請求項3】
上記第一及び/又は第二成分は、少なくとも1種の白色充填剤を含む、請求項1又は2に記載のラッカーシステム
【請求項4】
上記第一成分は、上記樹脂成分としてエポキシ樹脂を含む、請求項1~3の少なくとも一項に記載のラッカーシステム
【請求項5】
上記第一成分中に芳香族溶剤が含まれておらず、上記第一成分中の上記希釈剤は少なくとも1種のエステルを含む、請求項1~4の少なくとも一項に記載のラッカーシステム
【請求項6】
上記第一成分は少なくとも1種の酸基含有ポリマーを含む、請求項1~5の少なくとも一項に記載のラッカーシステム
【請求項7】
上記ラッカーシステムの動的粘度は25℃で300~3000mPa・sである、請求項1~6の少なくとも一項に記載のラッカーシステム
【請求項8】
レンズ(1)のコバ(14)を被覆する方法であって、
工程(A):被覆対象のレンズのコバにラッカーシステムを塗布する工程であって、上記ラッカーシステムは請求項1~7のいずれか一項に記載のラッカーシステムである、工程;及び
工程(B):0.7μm~1.4μmの範囲の波長の光の照射によって上記ラッカーシステムを硬化させる工程
を有する方法。
【請求項9】
上記工程(B)における上記照射は30分未満の時間行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記工程(A)において、上記ラッカーシステムは1~50μmの層厚で塗布される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
硬化前に上記ラッカーシステムの層厚測定が行われる、請求項8~10の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項12】
上記工程(B)において、上記照射は、光の最大波長が0.7~1.4μmの範囲である少なくとも1つのNIR照射装置により行われる、請求項8~11の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項13】
0.7~1.4μmの範囲の波長の光を照射する間、上記レンズは冷却される、請求項8~12の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項14】
上記工程(B)を行う間、上記レンズは、0.7μm~1.4μmの範囲の波長の光を発する光源に対して回転される、請求項8~13の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項15】
上記工程(B)において、上記照射はパルス状に行われる、請求項8~14の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~7の少なくとも一項に記載のラッカーシステムにより得られる、ラッカーコバ塗膜(16)を有するレンズ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズを被覆するためのラッカーシステムの使用、レンズのコバを被覆する方法、及びレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ筒内の散乱光を回避及び低減するためにレンズのコバ(縁部)を黒塗りすることが知られている。この場合、黒塗りしたコバは複数の特性を有する必要がある。例えば、コバ黒塗りは十分な接着性を有さなければならない。溶剤が使用されることがあるレンズの取り付け時などのさらなる加工時にコバ黒塗りを損傷から守るために、非常に良好な耐溶剤性も必要である。さらに、上記特性に加えて、コバ黒塗りは、高いUV耐性、高温、低温及び温度変化に対する高い耐性、並びに湿熱、人工手汗、化粧品基材、及び塩に対する高い耐性を有することも必要である。
【0003】
コバ黒塗りを施すためにこれまで用いられてきたラッカー塗りシステムでは、上記特性が十分に達成されるまでに、ラッカーシステムをレンズのコバに塗布した後、高温で約48時間、室温でさらに48時間の長い乾燥時間が必要となる。この長い乾燥時間を経て施されたコバ黒塗りだけが、レンズをさらに加工するのに十分な安定性を有する。レンズのコバ黒塗りを施すと、これまで用いられてきたラッカーシステムでは乾燥時間が長いため、加工費が高くなってしまう。長い乾燥時間及びそれに伴う長い加工時間は、中間媒体として空気を用いた対流による熱伝達では低い効率しか得られないからだと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、十分な接着性、非常に良好な耐溶剤性、高いUV耐性、高温、低温及び温度変化に対する高い耐性、並びに湿熱、人工手汗、化粧品基材、及び塩に対する高い耐性が得られるような短時間でレンズのコバ黒塗りを施すことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、独立請求項に記載のラッカーシステムの使用者、方法及びレンズにより満たされる。
【0006】
本発明は、レンズのコバに塗膜を形成するためのラッカーシステムの使用であって、該ラッカーシステムは、少なくとも1種の第一成分及び1種の第二成分を含み、0.7μm~1.4μmの範囲の波長の光の照射によって硬化させることができ、上記第一成分は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂成分と、有機溶剤の形態である少なくとも1種の希釈剤と、少なくとも1種以上の充填剤とを含み、上記第一成分中における少なくとも1種のエポキシ樹脂及び/又は少なくとも1種のアクリル樹脂の含有量は、上記第一成分の全重量に対して20~65重量%であり、上記希釈剤の含有量は、上記第一成分の全重量に対して5~70重量%であり、上記充填剤の含有量は、上記第一成分の全重量に対して2重量%以上であり、上記第二成分は、脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネート、アミノ基含有化合物及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤を含む、使用に関する。
【0007】
また、本発明は、レンズのコバを被覆する方法であって、
工程(A):被覆対象のレンズのコバにラッカーシステムを塗布する工程であって、上記ラッカーシステムは、少なくとも1種の第一成分及び1種の第二成分を含み、0.7~1.4μmの範囲の波長の光の照射によって硬化させることができ、上記第一成分は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂成分と、有機溶剤の形態である少なくとも1種の希釈剤と、少なくとも1種以上の充填剤とを含み、上記第一成分中における少なくとも1種のエポキシ樹脂及び/又は少なくとも1種のアクリル樹脂の含有量は、上記第一成分の全重量に対して20~65重量%であり、上記希釈剤の含有量は、上記第一成分の全重量に対して5~70重量%であり、上記充填剤の含有量は、上記第一成分の全重量に対して2重量%以上であり、上記第二成分は、脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネート、アミノ基含有化合物及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤を含む、工程;及び
工程(B):0.7~1.4μmの範囲の波長の光の照射によって上記ラッカーシステムを硬化させる工程を有する方法に関する。
【0008】
さらに、本発明は、本発明に係るラッカーシステムの使用により得られる、及び/又は本発明に係る方法により得られるラッカーコバ塗膜を有するレンズに関する。
【0009】
本発明に係るラッカーシステムの使用によって、従来のラッカーシステムよりもかなり安価にレンズを製造することができる。十分な接着性、非常に良好な耐溶剤性、高いUV耐性、高温、低温及び温度変化に対する高い耐性、並びに湿熱、人工手汗、化粧品基材、及び塩に対する高い耐性が短時間で既に生じている。本発明に係るラッカーシステムの使用によれば、スキン層形成を引き起こすことなく、近赤外領域の光の照射によってラッカーシステムを硬化させることが可能である。被覆されたレンズは、硬化が速いため、さらなる加工工程に直接送ることができる。溶剤(エタノール、アセトン/湿らせた綿棒で10サイクル)、UV照射(96時間、500 DIN ISO9022-20-03-1)、低温(16時間、-40℃ DIN ISO9022-10-08-1)、熱(16時間、70℃/6時間、85° DIN ISO9022-11-05-1)、急速な温度変化(25℃/40℃ 5サイクル DIN ISO9022-15-02-1)、湿熱(21日間40℃相対湿度95~98% DIN ISO9022-12-04-1)、人工手汗(7日間 DIN ISO9022-86-02-1)、化粧品基材(7日間 9022-86-02-1)、及び塩水噴霧試験(24時間 DIN ISO9022-4の第40条)に対する耐性は、本発明に係るレンズにおける本発明に係るラッカーシステムの使用及び本発明に係る方法によって付与される。上記ラッカーシステムは、表面粗さRmaxが1~3μmであるガラス表面によく接着するので、クロスカット試験ではGT=0の値が得られる。クロスカット試験は、DIN EN ISO2409:2013に従って行われる。表面粗さは、DIN EN ISO25178に従って測定される。1~3μmの範囲の表面粗さRmaxを本発明に係るラッカーシステムの使用と組み合わせた場合、ラッカーの特に良好なオンフローを達成でき、さらに散乱光の最小化を特に有利に達成できる。
【0010】
本明細書において、近赤外領域(NIR)の光と言う場合、0.7~1.4μmの範囲の最大波長を有する光を意味する。NIR光の最大波長は0.7~1.2μmの範囲であることが好ましい。
【0011】
第一及び第二成分は互いに分離していてもよいが、必ずしもそうである必要はないことに留意しなければならない。これは、各成分が互いに分離して存在する必要はなく、互いに混合して貯蔵することもできることを意味する。各成分が互いに混合して貯蔵される場合には、高すぎる温度や光の照射などによって、ラッカーシステムの望ましくない早期硬化が起こらないようにだけ注意しなければならない。したがって、各成分を互いに分離して貯蔵することは、貯蔵の簡易化及び耐久性の理由から有利であり得る。
【0012】
本発明の好ましいさらなる展開は、従属請求項及び以下に記載される。以下に説明する本発明の好ましいさらなる展開は、互いに、特に請求項の特徴と、所望通り組み合わせることができることが理解される。ここで考えられ得る特徴の組み合わせは全て、本発明の好ましい実施形態とみなされるべきである。また、特許請求の範囲又は以下の説明に記載される全ての態様は、使用又は方法のみが明示的に記載される場合であっても、本発明に係る使用及び本発明に係る方法の両方に関するものであることが理解される。したがって、本発明に係るレンズについても同様である。
【0013】
本明細書に記載される規格についてどのバージョンを意味しているか示されていない場合、2018年10月1日において有効なバージョンを意味する。
【0014】
第一及び/又は第二成分は、充填剤として少なくとも1種の黒色充填剤、特にカーボンブラックを含むことが好ましい。特に可視領域の光を吸収しやすいことからレンズ筒内の散乱光が低減される黒色充填剤を使用して、レンズにコバラッカー塗膜を形成することができる。第一成分中に少なくとも1種の黒色充填剤、特にカーボンブラックが含まれることが特に好ましい。第一成分中にブラックカーボンが含まれることが最も好ましい。可視領域の光の吸収に加えて、ブラックカーボンはラッカーシステムのUV耐性を高めることもできる。光の吸収は、黒色充填材、特にブラックカーボンの投入量により制御することができるが、黒色成分の量が多すぎると、ラッカーの表面のみが加熱され、ラッカーシステムの均一な硬化が起こらない恐れがある。これに関連して、ラッカーシステムは、ラッカーシステムの固形分100質量部に対して3~18質量部のカーボンブラックを有することが好ましい。ラッカーシステムは、ラッカーシステムの固形分100質量部に対して4~16質量部のカーボンブラックを有することがさらに好ましい。ここで、ラッカーシステムの固形分100質量部は、希釈していないラッカーシステムの質量に関する。
【0015】
コールタール及びコールタールピッチは、毒性や発がん性を示したり、環境に対してダメージを与えたりするものもある様々な物質の物質混合物であるので、ラッカーシステムはコールタールもコールタールピッチも含まないことがさらに好ましい。したがって、ラッカーシステムは黒色充填剤としてカーボンブラックのみを含むことが特に好ましい。
【0016】
第一及び/又は第二成分は、少なくとも1種の白色充填剤、特にシリカ及び/又は硫酸バリウムを含むことが好ましい。白色充填剤を使用することによって、散乱光をさらに低減することができる。第一成分中に少なくとも1種の白色充填剤、特にシリカ及び/又は硫酸バリウムが含まれることが特に好ましい。第一成分中にシリカと硫酸バリウムとの組み合わせが含まれることが特に好ましい。白色充填剤の量が多すぎると、硬化のための光が下層に透過しない恐れがある。これに関連して、ラッカーシステムは、ラッカーシステムの固形分100質量部に対して4~28質量部の白色充填剤を有することが好ましい。ラッカーシステムは、ラッカーシステムの固形分100質量部に対して6~20質量部の白色充填剤を有することがさらに好ましい。ここで、ラッカーシステムの固形分100質量部は、希釈していないラッカーシステムの質量に関する。
【0017】
第一成分中に少なくとも1種の白色充填剤及び少なくとも1種の黒色充填剤が含まれることが好ましい。これにより、レンズ筒内の散乱光の低減に関して特に有利な黒色で且つ艶のないラッカーコバ塗膜を形成することができる。上記のように、白色充填剤はシリカ及び/又は硫酸バリウムであることが好ましく、シリカ及び硫酸バリウムであることが非常に好ましく、黒色充填剤はカーボンブラックであることが好ましい。
【0018】
また、ラッカーシステムの60°の硬化後光沢度が12以下、さらに好ましくは10以下であることが好ましい。光沢度試験は、DIN EN ISO2813:2015-02に従って測定される。このような光沢度を有するラッカーシステムは、レンズ筒内の散乱光の低減を支援する。
【0019】
また、第一成分は、樹脂成分としてエポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂は、ハロゲンフリーエポキシ樹脂、すなわち、ハロゲン含有量がエポキシ樹脂の重量に対して5重量%未満、好ましくは1重量%未満のエポキシ樹脂であることが特に好ましい。エポキシ樹脂に加えて、他の樹脂成分、特にアクリル樹脂が第一成分中に含まれていてもよい。それでもやはり、樹脂成分としてエポキシ樹脂のみを使用することが好ましい場合がある。
【0020】
また、第一成分中における少なくとも1種のエポキシ樹脂及び/又は少なくとも1種のアクリル樹脂の含有量は、第一成分の全重量に対して25~50重量%であることが好ましい。また、希釈剤の含有量は、第一成分の全重量に対して10~60重量%であることが好ましい。また、充填剤の含有量は10重量%以上であることが好ましい。当業者に理解されるように、エポキシ樹脂及び/又は少なくとも1種のアクリル樹脂の含有量、希釈剤の含有量、及び充填剤の含有量について示された好ましい各範囲を互いに組み合わせることができる。このことから、ラッカーシステムの第一成分中における少なくとも1種のエポキシ樹脂及び/又は少なくとも1種のアクリル樹脂の含有量は、第一成分の全重量に対して25~50重量%であること、希釈剤の含有量は、第一成分の全重量に対して10~60重量%であること、及び充填剤の含有量は、第一成分の全重量に対して10重量%以上であることが特に好ましいということになる。しかしながら、エポキシ樹脂及び/又はアクリル樹脂の含有量について示された好ましい範囲と、希釈剤の含有量及び充填剤の含有量の好ましいより一般的な範囲との組み合わせもまた、組み合わせて開示されることは明らかである。希釈剤の含有量及び充填剤の含有量の好ましい範囲についても同様である。
【0021】
また、第一成分中に芳香族溶剤が含まれないこと、及び第一成分中の希釈剤が少なくとも1種のエステルを含むことが好ましい。上記所望の特性を有するラッカーコバ塗膜は、エステル系希釈剤を用いて実現することができる。したがって、希釈剤は少なくとも1種のエステルを含むことが特に好ましい。
【0022】
上記好ましい態様に加えて、第一成分は少なくとも1種の酸基含有ポリマーを含むことが好ましい。このような酸基含有ポリマーは、分散剤として作用することができ、充填剤等のラッカーシステム中の固体成分の分散を安定化させて、均一なラッカーコバ塗膜を形成することができる。
【0023】
均一なラッカーコバ塗膜を形成するために、動的粘度が25℃で300~3000mPa・sである本発明に係るラッカーシステムが使用者において好ましく使用される。ラッカーシステムの動的粘度は25℃で400~1500mPa・sの範囲であることがさらに好ましい。ラッカーシステムの動的粘度は25℃で500~1100mPa・sの範囲であることがさらに好ましい。本明細書に記載される動的粘度は、DIN EN ISO2884-1:2006-09に従って測定される。上記動的粘度を有するラッカーシステムは、実際にコバが薄化することなく均一且つ滑らかにのびる、すなわち、塗膜の厚みが表面よりもコバにおいて実質的に薄くなることはない。上記範囲の動的粘度を有するラッカーシステムは、DIN ISO256-1に従ってIT-6品質で1μm~30μmの範囲の厚みで均一に塗布することができる。
【0024】
本発明に係る使用のためのラッカーシステムは、ブラシ、スポンジ又はスプレーによってレンズに塗布することができる。塗布に特に適した手段は、くさび形耐溶剤性スポンジ材料である。硬化は室温でも加熱下でも可能である。しかしながら、近赤外領域(NIR)からの光の照射によってラッカーシステムを硬化させることが、加工時間及びそれに伴う費用の削減という観点で有利であることが分かった。これに関連して、レンズのコバの塗膜は、近赤外領域(NIR)からの光によって硬化されることが特に好ましい。近赤外領域からの光の照射によって高エネルギー入力が達成される。この高エネルギー入力の結果、ラッカーシステムの架橋が従来の対流硬化の場合(短/長鎖)とは異なる形で起こる。対流加熱とは異なり、NIR照射による加熱では鎖が短くなる、すなわち、対流硬化の場合よりも平均してより短い鎖セグメントが2つの架橋点の間に存在する。その結果、NIR法によって、アセトン等の溶剤に対するラッカー安定性が向上する。
【0025】
本発明に係る方法において、工程(B)における照射は5分未満の時間行われることが好ましい。工程(B)における照射は、非常に短い時間、例えば1秒後にはラッカーシステムの十分な硬化及び上記特性が既に達成されているように非常に速く行うことができる。原理的には、5分を超える長時間の照射も可能であるが、経済面で賢明ではなく、レンズを加熱しすぎて破損する危険性が増す。また、ラッカーの過硬化及び燃焼が起こることにより、硬化したラッカーシステムの特性が悪化する危険性も増す。これに関連して、3分未満の照射がより好ましく、2分未満の照射がさらに好ましく、1分未満の照射が最も好ましい。ラッカーシステムの十分な硬化を確保するためには、1秒以上の照射が好ましく、5秒以上の照射がより好ましく、15秒以上の照射がさらにより好ましい。1秒、5秒及び15秒という上記下限は、5分、3分、2分及び1分という上記上限との任意の所望の組み合わせで開示されているとみなされるべきことに留意しなければならない。
【0026】
NIR照射装置の出力を高める硬化プロセスは、特にガラスS-FPL51等の熱に敏感な基材で特に有利であることが判明した。一方、非常に「敏感な」光学ガラスの使用が光学産業において標準となっているため、NIRでの硬化によるラッカー塗りプロセスはより困難となっている(歪み/薬品耐性値、ガラス硬度、熱膨張係数、熱伝導率等)。このような硬化プロセスでは、まず、NIR照射装置の最大出力に対応しない出力、例えば最大出力の70%以下で照射が行われる。次に、NIR照射装置の出力を前よりも高くして照射が行われる。NIR照射の出力の増加は、連続的に行うこともできるし、あるいは、まず一定出力のNIR照射装置で最初の照射工程を行った後、NIR照射装置の出力を高くしてさらなる照射工程を少なくとも1回行うこともできる。2つの連続した照射工程の間には、照射がパルス状に行われるように照射が行われない休止期間があってもよい。このようなパルス照射は、基材、例えば熱に敏感なガラスを過度に加熱することがなく、過度に速く加熱することもないため、ガラスに大きな歪みが発生することを回避できるという点で有利であり得る。ここで、各照射工程の継続時間又はパルス継続時間は、例えば1~5秒の範囲であってもよい。
【0027】
パルス照射の場合、最初の照射工程での照射は、その後の照射工程での照射と同じであってもよい。2つの連続した照射工程の間に1~5秒の休止期間を設けることが好ましい。
【0028】
方法の工程(B)において、レンズには単位表面積当たり250~600k/mの出力で照射することが好ましい。
【0029】
さらに、ラッカーシステムは、工程(A)において1~50μmの層厚で塗布されることが好ましい。1~50μmの層厚で塗布することによって、急速硬化が可能になり、同時に均一で不透明なラッカーコバ塗膜をレンズ上に実現できる。これに関連して、層厚は2~25μmであることが特に好ましく、2~15μmであることがさらに好ましい。
【0030】
また、本発明に係る方法では、硬化前に既にラッカーシステムの層厚測定を行っていることが好ましい。これにより、レンズの均一で不透明なラッカーコバ塗膜を確保することができ、発生する不良品の数を減らすことができる。層厚の測定は、例えば、赤外線センサを用いたレーザ支援測定システムによって行うことができる。層厚測定は、レーザ光熱放射測定により行われることが好ましい。層厚を測定可能な手段が、例えば国際特許出願WO2015/001210A1(その内容を本明細書に参照により援用する)に開示されている。
【0031】
さらに、工程(B)において、照射は、光の最大波長が0.7~1.4μmの範囲である少なくとも1つのNIR照射装置により行われることが好ましい。最大波長は0.7μm~1.2μmの範囲であることがより好ましく、0.85μm~0.95μmの範囲であることが最も好ましい。
【0032】
レンズの過熱を回避するために、0.7μm~1.4μmの範囲の波長の光を照射する間、レンズを冷却することが好ましい。冷却を行うことによって、レンズに歪みが発生することを防止することができるため、より温度に敏感なレンズの被覆も可能となる。冷却は、圧縮空気を用いて、例えば、いわゆる冷却カーテンを形成するファンノズルを使用して行われることが好ましい。また、これに関連して、レンズの温度が、1つ以上の高温計等を介して少なくとも照射中に測定されることが好ましく、場合によっては照射中のみに測定されることも好ましい。高温計の例としては、熱画像カメラが挙げられるが、他の高温計も使用可能である。温度測定によって、被覆プロセスが計画通りに実行されていることを確認できる。しかしながら、レンズの温度に関する情報は、NIR照射装置の出力、冷却、又はレンズの回転を制御するためにも使用できる。
【0033】
工程(B)を行う間、レンズは、0.7μm~1.4μmの範囲の波長の光を発する光源に対して回転するので、ラッカーの均一な硬化を達成することができる。レンズが回転軸を中心に回転することが特に好ましい。工程(B)中、好ましい回転速度は150~350rpm、特に好ましくは200~250rpmであることが判明した。また、ラッカーシステムを均一に塗布しやすくするために、レンズが工程(A)でも回転することが好ましい。工程(A)での回転速度は200~400rpmであることが好ましく、300~350rpmであることが特に好ましい。
【0034】
レンズは透明材料、好ましくはガラスで構成される。
【0035】
以下、例として添付の図面を参照して本発明を説明する。以下の図面はいずれの場合も模式的に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係るレンズの断面を示す。
図2】本発明に係る方法を実施するための装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1にレンズ1を模式的に示すが、該レンズの透明本体10は、縁部又はコバ14と境界を接しているアーチ面12を有する。コバ14には、ラッカーコバ塗膜16が塗布されている。ラッカーコバ塗膜16は、レンズ1のコバでの散乱光を最小限に抑えることができる。
【0038】
コバ14を被覆するための本発明に係る方法を実施するための装置を図2に模式的に示す。図2に示す装置は、まず、図1に示すレンズ1用のホルダ20を有する。ホルダ20は、軸Dを中心に回転可能に支持されており、例えば金属から作製されている。ホルダ20には、表面に合うようにアーチ形の表面を有するアダプタ21が設けられている。このアダプタは、例えばPEEK等のプラスチックから作製されていてもよい。上記装置は、ラッカーシステムを塗布してラッカーコバ塗膜16を形成する手段をさらに有する。しかしながら、これらの手段は図2には示されていない。さらに、図2に示す装置では、2つのNIR照射装置22が設けられており、これらのNIR照射装置は、レンズ1のコバ14の方向にNIR照射を放つことで、レンズを軸Dを中心に回転させながら、塗布されたラッカーシステムを硬化させる。NIR照射装置22による照射中のレンズ1の温度は、高温計24を介して監視することができる。必要に応じて、冷却装置26によって圧縮空気を吹き付けるなどして、レンズ1の本体10を冷却することができる。
【0039】
以下、本発明を実施例を参照してより詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明を限定するものと理解されるべきではない。
【0040】
本発明に係る使用に適したラッカーシステムは、以下の表1に示すような組成物を含んでいてもよい。
【0041】
表1に示す成分を記載した量で混合してから、表面粗さRmaxが1~3μmのガラスで構成されたレンズのコバに塗布した。最大波長0.9μm及び照射出力450kW/mのNIR光を照射して硬化を行った。
【0042】
硬化後、溶剤(エタノール、アセトン/湿らせた綿棒で10サイクル)、UV照射(96時間、500 DIN ISO9022-20-03-1)、低温(16時間、-40℃ DIN ISO9022-10-08-1)、熱(16時間、70℃/6時間、85° DIN ISO9022-11-05-1)、急速な温度変化(25℃/40℃ 5サイクル DIN ISO9022-15-02-1)、湿熱(21日間40℃相対湿度95~98% DIN ISO9022-12-04-1)、人工手汗(7日間 DIN ISO9022-86-02-1)、化粧品基材(7日間 9022-86-02-1)、及び塩水噴霧試験(24時間 DIN ISO9022-4の第40条)に対する耐性を試験したところ、実施例1~4のラッカーシステムはこれらを満たすものであった。
【0043】
原理的には、実施例に示すラッカーシステムは全て、均一なラッカー縁部又はコバ塗膜を作製するのに適している。しかしながら、溶剤、UV照射、低温、熱、急速な温度変化、湿熱、人工手汗、化粧品基材、及び塩水噴霧試験に対する耐性は、実施例1に係るラッカーシステムにおいて最も有利に顕著である。
【0044】
温度に敏感なガラスを特に良好に被覆できる照射計画例を表として以下に示す。
【0045】
【表0】
【0046】
上に示した照射計画では、100%の出力は450kW/mの照射出力(NIR照射装置の最大出力)に相当する。NIR照射装置の最大出力の50%での照射を最初に1秒間行った後、3秒間照射を休止する。次に、NIR照射装置の最大出力の70%で照射を1秒間行った後、再び3秒間照射を休止する。次いで、NIR照射装置の最大出力の90%での照射を3秒間行うが、各照射工程後には3秒間照射を休止する。
【0047】
【表1】
【0048】
表1の1~14の説明:
1 ビスフェノールA系エポキシ樹脂Araldit GT7004、Jubail Chemical Industries Companyから入手可能
2 Blanc Fixe N、Solvay S.A.から入手可能
3 Color black fw200、Orion Engineered Carbonsから入手可能
4 Aerosil200、Evonikから入手可能
5 Disperbyk180、BYK-CHEMIE GMBHから入手可能
6 Degalan560、Evonikから入手可能
7 Vinnapas5010N、Wacker Chemie AGから入手可能
8 1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル
9 ポリエーテル変性ポリシロキサン、Borchi Gol OL17、Borchers GmbHから入手可能
10 Setalux1122、Allnex Netherlands B.V.から入手可能
11 Aerosil R972、Evonikから入手可能
12 Desmodur N75、Covestroから入手可能
13 Versamin M1、Gabriel Performance Products,LLCから入手可能
14 Desmodur E17、Covestroから入手可能
【符号の説明】
【0049】
1 レンズ
10 本体
12 アーチ面
14 コバ
16 ラッカーコバ塗膜
20 ホルダ
21 アダプタ
22 NIR照射装置
24 高温計
26 冷却装置
D 軸
図1
図2