(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】吸収性物品用伸縮シート及びこれを備える吸収性物品、並びに吸収性物品用伸縮シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 13/51 20060101AFI20231025BHJP
B32B 3/16 20060101ALI20231025BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
A61F13/51
B32B3/16
B32B5/26
(21)【出願番号】P 2020049959
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 侑吾
(72)【発明者】
【氏名】大西 玲子
(72)【発明者】
【氏名】浦山 優輔
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-005925(JP,A)
【文献】特表平10-501195(JP,A)
【文献】特開2010-269025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/51
B32B 3/16
B32B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と、該不織布の表面に接合された複数の弾性繊維とを備え、少なくとも一方向に伸縮性を有する伸縮シートであって、
前記弾性繊維は前記不織布の表面に直接接合されており
、
前記断面視において、該弾性繊維の最大差し渡し長さの線分を長軸とし、該長軸に平行な二辺を有し且つ該弾性繊維の外周に外接する仮想長方形の他辺の線分を短軸としたときに、前記短軸の長さに対する前記長軸の長さの比で表されるアスペクト比が1超1.1以下であ
り、
前記弾性繊維の長手方向に直交するように前記伸縮シートを断面視したときに、前記長軸の仮想延長線と、前記不織布の面とのなす鋭角側の角度が45度以下である、吸収性物品用伸縮シート。
【請求項2】
複数の前記弾性繊維が前記伸縮方向に延びるように配列している、請求項
1に記載の吸収性物品用伸縮シート。
【請求項3】
前記不織布がスパンボンド不織布である、請求項1
又は2に記載の吸収性物品用伸縮シート。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の吸収性物品用伸縮シートを備える吸収性物品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法であって、
溶融状態の弾性繊維を不織布の表面に接触させて、該弾性繊維が該不織布の表面に接合した接合体を形成し、
前記接合体を流体によって冷却する、吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【請求項6】
冷却した前記接合体に弾性増加処理を施す、請求項
5に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【請求項7】
前記不織布としてスパンボンド不織布を用いる、請求項
5又は
6に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【請求項8】
前記弾性繊維と前記不織布とを接触させてから0.15秒以内に前記接合体を冷却する、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品用伸縮シート及びこれを備える吸収性物品、並びに吸収性物品用伸縮シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、使い捨ておむつ等の吸収性物品の外装体等に好適に用いられる伸縮シートを提案した(特許文献1)。この伸縮シートは、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した多数の弾性フィラメントが、実質的に非伸長状態で、それらの全長にわたり、伸長可能な2枚の不織布間に接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使い捨ておむつに伸縮シートが用いられる場合、使い捨ておむつは、育児者又は介護者によってウエスト周りが伸長され、その状態で着用者に着用させる作業を行うので、着用作業を効率化する観点から、伸縮シートには高い伸長率が望まれる。
【0005】
特許文献1に記載の伸縮シートは、伸縮特性に優れるものであるが、より高い伸長率を有する伸縮シートを得る際に、伸縮シートの外観をより良好にすることについても改善の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、優れた伸長率を有したまま、外観が良好な吸収性物品用伸縮シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、不織布と、該不織布の表面に接合された複数の弾性繊維とを備え、少なくとも一方向に伸縮性を有する伸縮シートであって、
前記弾性繊維は前記不織布の表面に直接接合されており、
前記弾性繊維の長手方向に直交する断面視において、該弾性繊維の形状が真円であるか、又は
前記断面視において、該弾性繊維の最大差し渡し長さの線分を長軸とし、該長軸に平行な二辺を有し且つ該弾性繊維の外周に外接する仮想長方形の他辺の線分を短軸としたときに、前記短軸の長さに対する前記長軸の長さの比で表されるアスペクト比が1超1.1以下である、吸収性物品用伸縮シートを提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記吸収性物品用伸縮シートを備える吸収性物品を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、溶融状態の弾性繊維を不織布の表面に接触させて、該弾性繊維が該不織布の表面に接合した接合体を形成し、
前記接合体を流体によって冷却する、吸収性物品用伸縮シートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた伸長率を有したまま、外観が良好な吸収性物品用伸縮シート及びこれを備える吸収性物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1(a)に示す吸収性物品用伸縮シートのA-A線における長手方向に沿う断面を模式的に示す要部拡大図である。
【
図3】
図3は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造に好適に用いられる製造装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す製造装置を側面から見た状態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1(a)及び(b)には、本発明の吸収性物品用伸縮シートの一実施形態が示されている。同図は、いずれも外力が加わっていない自然状態(非伸長状態)のものである。
【0013】
図1(a)及び(b)に示す吸収性物品用伸縮シート1(以下、これを単に「伸縮シート1」ともいう。)は、その厚み方向Zにおいて不織布2と複数の弾性繊維3とが接合されているものである。
【0014】
図1(a)及び(b)に示す伸縮シート1は、第1の不織布21と第2の不織布22との間に、複数の弾性繊維3が接合された態様となっている。同図に示す伸縮シート1は、その幅方向Xと、該方向に直交する長手方向Yを有しており、少なくとも長手方向Yで示す方向に伸縮性を有し、伸縮可能となっている(以下、長手方向Yを「伸縮方向Y」ともいう。)。
【0015】
各不織布21,22はいずれも伸長可能なものであり、弾性繊維3の延びる方向と少なくとも同一の方向に伸長可能になっている。不織布2が伸長可能であるとは、(イ)各不織布21,22の構成繊維自体が伸長する場合と、(ロ)構成繊維自体は伸長しなくても、交点において結合していた繊維どうしが離れたり、繊維どうしの結合等により複数本の繊維で形成された立体構造が構造的に変化したり、構成繊維がちぎれたり、繊維のたるみが引き伸ばされたりして、不織布全体として伸長する場合とを包含する。不織布2は、不織布2全体として実質的に非弾性であることが好ましい。「非弾性」とは、伸ばすことができ且つ元の長さに対して100%伸ばした状態(元の長さの200%の長さになる)から力を解放したときに、元の長さの175%以下の長さには戻らない性質をいう。
【0016】
上述のとおり、伸縮シート1は、弾性繊維3を複数有している。弾性繊維3の配置形態としては、例えば、
図1(a)に示すように、互いに交差せずに伸縮方向Yに延びるように且つ所定の間隔を空けて配列した複数の弾性フィラメントと不織布2の少なくとも一方の面とが直接接合されている形態や、
図1(b)に示すように、面状に拡がる弾性繊維3の繊維層の少なくとも一方の面に不織布2が直接接合されている形態が挙げられる。いずれの場合であっても、弾性繊維3は実質的に非伸長状態で不織布2の表面に圧着又は融着の態様で接合されており、好ましくは融着によって接合されている。
【0017】
詳細には、
図1(a)に示す弾性繊維3は、弾性フィラメントであり、これらの繊維は互いに交差しないように長手方向Yに延びており、幅方向Xに間隔を置いて複数本配されている。幅方向Xにおいて隣り合う弾性繊維3どうしの間の距離は同じでもよく、あるい
は異なっていてもよい。また、
図1(b)に示す弾性繊維3は、複数の弾性繊維3がランダムに配置され、シート状となっているものである。
図1(b)における形態の弾性繊維3は互いに交差していてもよい。
【0018】
弾性繊維3の伸縮する方向は、
図1(a)に示すように、複数の弾性繊維3が互いに平行に配されている場合には弾性繊維3の延在方向と同一の方向であり、また伸縮シートの伸縮方向Yと弾性繊維3の延在方向とは互いに一致している。また、
図1(b)に示すように、複数の弾性繊維3が交差して配されている場合には、弾性繊維3の伸縮する方向は、伸縮シートの伸縮方向Yを含む任意の方向であり、伸縮シートの伸縮方向Yと弾性繊維3の延在方向とが一致する場合と、一致しない場合とがある。
【0019】
伸縮シート1は、該シート1を構成する弾性繊維3の横断面形状に特徴の一つを有している。
図2には、
図1(a)における伸縮シート1の幅方向Xに沿う断面の模式図が示されている。つまり、同図は、伸縮シート1における弾性繊維3の長手方向Yに直交する断面の模式図である。
【0020】
図2に示すように、伸縮シート1を弾性繊維3の長手方向(伸縮方向Y)に直交するように断面視したときに、弾性繊維3の断面形状は真円であってもよい。この場合、後述するアスペクト比は1とする。
これに代えて、アスペクト比が1超であることが好ましい。アスペクト比の定義は、まず、伸縮シート1を弾性繊維3の伸縮方向Yに直交するように断面視したときに、弾性繊維3の最大差し渡し長さの線分を長軸A1とし、長軸A1に平行な二辺を有し且つ該弾性繊維の外周に外接する仮想長方形S1の他辺の線分を短軸A2とする。つまり、短軸A2は、長軸A1に直交する方向における最大差し渡し長さの線分である。このとき、短軸A2の長さに対する長軸A1の長さの比で表されるA1/A2がアスペクト比である。アスペクト比は、より好ましくは1.1以下、更に好ましくは1.05以下である。アスペクト比が1に近くなるほど、弾性繊維3の断面形状は、真円形状であることを示す。
弾性繊維3の断面形状が真円であるか、又は該断面形状のアスペクト比が上述の範囲にあることによって、不織布2と弾性繊維3との接触面積を低減させることができるので、後述する弾性増加処理を行った場合であっても、外観が良好となり、また伸長率が高いシートを得ることができる。
【0021】
長軸A1の長さ及び短軸A2の長さ並びにアスペクト比の算出方法は、以下の方法で行う。詳細には、伸縮シート1を弾性繊維3の延在方向に直交する方向(X方向)に沿って断面視する。そして、シート断面において、伸縮方向Yに延びている弾性繊維3を対象として、該弾性繊維3の伸縮方向Yに直交する断面における長軸A1の長さ及び短軸A2の長さを、一本の弾性繊維3につき任意の1箇所を電子顕微鏡(日本電子株式会社製、走査型電子顕微鏡JCM-600、倍率200倍。本明細書における電子顕微鏡は全てこれである。)を用いて測定し、アスペクト比(長軸A1の長さ/短軸A2の長さ)を算出する。この測定及び算出を任意の弾性繊維3(弾性フィラメント)5つに対して行い、アスペクト比の算術平均値を、本発明におけるアスペクト比とする。
【0022】
以上の構成を有する伸縮シートは、弾性繊維3の断面形状におけるアスペクト比が上述した範囲となっていることによって、不織布2と弾性繊維3との接触面積を低減させることができる。その結果、従来と同等以上の伸長率を有し、実使用に耐えうる強度を発現しながらも、シートの外観が良好なシートを得ることができる。特に、後述する製造方法において、ギアロールによる弾性増加処理を施した場合であっても、弾性増加処理に起因する不織布の穴あき等の不具合が生じにくくなるので、シートの外観と伸長率との更なる向上とを両立できる点で有利である。
【0023】
上述した効果を顕著なものとする観点から、長軸A1の仮想延長線と不織布2の面L2とのなす鋭角側の角度θが所定の範囲となっていることが好ましい。詳細には、
図2に示すように、弾性繊維3の長手方向Yに直交するように伸縮シート1を断面視したときに、長軸A1の仮想延長線L1を考える。このとき、仮想延長線L1と不織布2の面L2とのなす鋭角側の角度θが、好ましくは45度以下、より好ましくは30度以下、更に好ましくは15度以下である。この場合、上述したアスペクト比は好ましくは1超であり、好ましくは1.1以下である。仮想延長線L1と不織布の面L2とが互いに平行である場合、角度θはゼロとする。
【0024】
長軸A1の仮想延長線と不織布2の面L2とのなす鋭角側の角度θの算出方法は、以下の方法で行うことができる。詳細には、長軸A1及び短軸A2の測定方法と同様に、伸縮シート1をX方向に沿って断面視する。そして、電子顕微鏡を用いて、観察視野の水平線と不織布2の面L2とを互いに平行に配置した状態で、長軸A1の仮想延長線と、不織布2の面L2とのなす鋭角側の角度θを測定する。この測定を任意の弾性繊維3(弾性フィラメント)5本に対して行い、鋭角側の角度の算術平均値を、本発明における角度θとする。電子顕微鏡に付属するソフトウェアが角度を算出する機能を有する場合には、画面上に表示された角度をそのまま読み取って、本発明の角度θとすることができる。
【0025】
伸縮シート1の良好な外観、強度及び伸縮性を兼ね備える観点から、伸縮シート1は、複数の弾性繊維3が伸縮方向Yに延びるように配列していることが好ましい。詳細には、
図1(a)に示すように、弾性繊維3は、複数の弾性フィラメントからなるものであることも好ましい。このような構成となっていることによって、不織布2と弾性繊維3との接触面積を少なくすることができるので、製造時における弾性増加処理に起因する不織布の穴あき等の不具合が生じにくくなり、シートの外観と伸長率とを両立して向上させることができる。
【0026】
不織布2は、例えばスパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、スパンレース不織布、メルトブローン不織布及びエアスルー不織布等の各種不織布を用いることができる。これらのうち、不織布2として、スパンボンド不織布を用いることが好ましい。これによって、製造時における弾性増加処理に起因する不織布の穴あき等の不具合が生じにくくなり、シートの外観と伸長率とを両立して向上させることができる。
【0027】
伸縮シートの伸縮性と強度とを両立する観点から、不織布2と弾性繊維3とは融着によって接合されていることが好ましい。このような構成となっていることによって、不織布2と弾性繊維3とを接合するための接合剤を別途使用しなくても両者を一体化することができるので、接合剤を別途用いた場合と比較して、伸縮シートの柔軟性を高めることができるという利点もある。
【0028】
伸縮シート1の伸長の程度は、伸長倍率で表すと、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上であり、好ましくは400%以下、より好ましくは200%以下である。このような構成となっていることによって、伸縮シート1を吸収性物品の構成部材として適用したときに、伸縮性を効果的に発現させることができる。
【0029】
伸長倍率は、以下のように測定することができる。まず、測定対象の伸縮シート又は該シートを備える製品の伸縮シートを対象として、不織布2と該不織布に直接接合した弾性繊維3とを備える伸縮シート1を伸縮方向Y及び伸縮方向に直交する方向Xに沿って、Y方向150mm×X方向50mmとなるようにハサミを用いて切り出し、これを試験片とする。前記製品が測定対象となる伸縮シート1以外の構成部材も含んで構成される場合には、測定対象の伸縮シートが壊れないように、手等で伸縮シートを構成する部材以外の構成部材をすべて剥離して、伸縮シートを得て、その後、上述した方法及び寸法で切り出し
て、試験片とする。
この試験片を、引張圧縮試験機(株式会社島津製作所製、AG-IS)を用いて、チャック間距離を100mmとし、試験片の伸縮方向Yに伸長させるように引張速度300mm/minで引張り、3N/50mm負荷時のシート長さを測定する。この測定を5回行い、その算術平均値をシート伸度(mm)とする。そして、得られたシート伸度に基づいて、以下の式から伸長倍率を算出する。
[伸長倍率(%)]=[シート伸度(mm)]/100(mm)
Y方向150mm×X方向50mmの寸法の試験片が取り出せない場合は、可能な限り該寸法に近い寸法となるように試験片を切り出し、チャック間距離を可能な限り大きくしたうえで、3(N)/50(mm)×[採取した試験片のX方向の幅(mm)]負荷時のシート長さを測定し、シート伸度を算出する。
上述の算出方法に基づいて具体例を説明すると、例えば10cmの試験片をチャックに装着して、上述の手順で引張試験を行った結果、試験片が20cmに伸長するとき、伸長倍率は100%と算出される。
【0030】
不織布2の坪量は、好ましくは10g/m2以上、より好ましくは12g/m2以上、更に好ましくは15g/m2以上であり、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは50g/m2以下、更に好ましくは30g/m2以下である。不織布は単独で使用してもよく、これに加えて、必要に応じて、不織布、織布、紙などの繊維シート、合成樹脂製のフィルムなどを積層して用いることができる。第1の不織布21及び第2の不織布22を用いる場合は、上述した坪量は、それぞれ独立して満たすことが好ましい。
【0031】
不織布の坪量は、以下の方法で測定する。まず、測定対象の伸縮シート又は該シートを備える製品の伸縮シートを対象として、伸縮シートの自然状態で不織布2と該不織布に直接接合している弾性繊維3とを含む領域を、以下に示す寸法でハサミを用いて切り出し、試験片を作成する。前記製品が測定対象となる伸縮シート以外の構成部材も含んで構成される場合には、測定対象の伸縮シートが壊れないように、手等で伸縮シートを構成する部材以外の構成部材をすべて剥離して伸縮シートを得て、試験片とする。
次いで、試験片中の弾性繊維を、有機溶剤を用いて十分溶解させて除去し、溶解せず残存した不織布の質量(g)を測定し、以下の式から不織布の坪量を算出する。
図1(a)及び(b)に示すように、測定対象の伸縮シート1が、2枚の不織布21,22間に複数の弾性繊維3が直接接合された態様である場合、不織布の坪量は、第1の不織布21及び第2の不織布22につき、それぞれ独立して測定するものとする。
[不織布坪量(g/m
2)]=[不織布質量(g)]/(切り出したときの自然状態の試験片長さ(m)×切り出したときの自然状態の試験片幅(m))
この測定を5つの試験片に対して行い、その算術平均値を不織布坪量(g/m
2)とする。このとき、試験片は1つの伸縮シート当たり長さ100mm×幅100mmの寸法にて切り出すとともに、坪量の測定を5枚の伸縮シートを用いて行うことが好ましいが、該寸法が切り出せない場合は、長さ又は幅を適宜増減したり、あるいは同一の伸縮シートから複数枚のサンプルを切り出したりすることで、その合計面積が試験片1つ当たり0.01m
2となるように調整したものを用いる。
【0032】
不織布2を構成する繊維は、実質的に非弾性の繊維を含んでなるものであり、不織布2全体として実質的に非弾性であることが好ましい。不織布2の構成繊維として、非弾性繊維の原料としては、各種の熱可塑性樹脂を用いることができ、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリスチレンやポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂、アクリル等のアクリロニトリル系樹脂、メタクリル樹脂、ビニリデン系樹脂、天然繊維のコットン、パルプ、ポリ乳酸などの生分解性プラスチック等から構成することができる。また、これらの樹脂の2種以上を混合して繊維を構成し
たり、これらの樹脂を2種以上組み合わせた複合繊維(芯鞘型繊維やサイド・バイ・サイド型繊維、偏芯したクリンプを有する芯鞘型繊維、分割繊維)を用いたりすることもできる。また、繊維に繊維着色剤、静電気防止特性剤、潤滑剤、及び親水剤などの添加物の少なくとも一種以上を付与した繊維を用いることもできる。
【0033】
弾性繊維3は、例えば熱可塑性エラストマーや合成ゴム、天然ゴムなどの弾性樹脂を原料とするものである。伸縮シートの製造効率の観点から、弾性繊維3の原料として、熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。このようなエラストマーとしては、例えばSBS(スチレン-ブタジエン-スチレン)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレン)、SEBS(スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン)、SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン)等のスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー(エチレン系のα-オレフィンエラストマー、エチレン・ブテン・オクテン等を共重合し
たプロピレン系エラストマー)、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーを挙げることができる。これらは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。またこれらの樹脂からなる芯鞘型又はサイド・バイ・サイド型の複合繊維を用いることもできる。特にスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、又はそれらを組み合わせて用いることが、弾性フィラメントの成形性、伸縮特性及びコストの面で一層好ましい。
【0034】
伸縮シートの伸縮性、外観及び強度を兼ね備えたものとする観点から、弾性繊維3を
図1(a)に示す弾性フィラメントとしたときの弾性繊維3の繊維径D1は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、また、300μm以下であることが好ましく、160μm以下であることがより好ましい。弾性繊維3の繊維径は、伸縮シート1の弾性繊維3の長手方向に直交する断面を、上述したアスペクト比に関する測定方法と同様の方法にて顕微鏡を用いて弾性繊維3の長軸長さと短軸長さとをそれぞれ測定し、これらの算術平均値を繊維径とする。この測定を、任意の5本の弾性繊維3を対象として行い、これらの繊維径の算術平均値を、本発明の弾性繊維3の繊維径D1とする。
【0035】
図2に示す断面視において、弾性繊維3を
図1(a)に示す弾性フィラメントとしたときの弾性繊維3の長軸A1の長さは、弾性繊維3の繊維径D1以上であることを前提として、好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上であり、好ましくは300μm以下、更に好ましくは160μm以下である。
また弾性繊維3を弾性フィラメントとしたときの短軸A2の長さは、弾性繊維3の繊維径D1以下であることを前提として、好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上であり、好ましくは300μm以下、更に好ましくは160μm以下である。
【0036】
同様の観点から、弾性繊維3を
図1(b)に示すシート状の弾性繊維層としたときの弾性繊維3の繊維径D2は、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、また、30μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。繊維径D2は、上述した繊維径D1の測定方法と同様に測定することができる。
【0037】
図2に示す断面視において、弾性繊維3を
図1(b)に示すシート状の弾性繊維層としたときの弾性繊維3の長軸A1の長さは、弾性繊維3の繊維径D2以上であることを前提として、好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上であり、好ましくは30μm以下、更に好ましくは15μm以下である。
また弾性繊維3をシート状の弾性繊維層としたときの短軸A2の長さは、弾性繊維3の繊維径D2以下であることを前提として、好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上であり、好ましくは30μm以下、更に好ましくは15μm以下である。本形態
における弾性繊維3の繊維径は、上述したアスペクト比に関する測定方法と同様に、弾性繊維3の長手方向に直交する断面を対象として、顕微鏡を用いて弾性繊維3の長軸長さと短軸長さとをそれぞれ測定し、これらの算術平均値を繊維径とする。
【0038】
弾性繊維3は、それを
図1(a)に示す弾性フィラメントとしたときの坪量は、5g/m
2以上であることが好ましく、更に好ましくは6g/m
2以上、また、40g/m
2以下であることが好ましく、更に好ましくは20g/m
2以下である。
【0039】
弾性繊維3の坪量は、以下の方法で測定する。まず、測定対象の伸縮シート又は該シートを備える製品の伸縮シートを対象として、伸縮シートの自然状態で不織布2と該不織布に直接接合している弾性繊維3とを含む領域を、以下に示す寸法でハサミを用いて切り出し、試験片を作成する。前記製品が測定対象となる伸縮シート以外の構成部材も含んで構成される場合には、測定対象の伸縮シートが壊れないように、手等で伸縮シートを構成する部材以外の構成部材をすべて剥離して伸縮シートを得て、試験片とする。
次いで、試験片の質量(g)を測定した後、有機溶剤を用いて試験片中の弾性繊維を十分溶解させて除去し、溶解せず残存した不織布の質量(g)を測定する。そして、以下の式から弾性繊維の坪量を算出する。
図1(a)及び(b)に示すように、測定対象の伸縮シート1が、2枚の不織布21,22間に複数の弾性繊維3が直接接合された態様である場合、不織布の質量は、両不織布21,22の総質量とする。
[弾性繊維坪量(g/m
2)]=([試験片質量(g)]―[不織布質量(g)])/(切り出したときの自然状態の試験片長さ(m)×切り出したときの自然状態の試験片幅(m))
この測定を5つの試験片に対して行い、その算術平均値を弾性繊維の坪量(g/m
2)とする。このとき、試験片は1つの伸縮シート当たり長さ100mm×幅100mmの寸法にて切り出すとともに、坪量の測定を5枚の伸縮シートを用いて行うことが好ましいが、該寸法が切り出せない場合は、長さ又は幅を適宜増減したり、あるいは同一の伸縮シートから複数枚のサンプルを切り出すことで、その合計面積が試験片1つ当たり0.01m
2となるように調整したものを用いる。
【0040】
弾性繊維3は、それを
図1(b)に示すシート状の弾性繊維層としたときの坪量は、5g/m
2以上であることが好ましく、更に好ましくは8g/m
2以上、また、40g/m
2以下であることが好ましく、更に好ましくは20g/m
2以下である。
【0041】
上述した伸縮シート1は、これをそのまま用いてもよく、伸縮シート1を吸収性物品の構成部材として用いることもできる。典型的には、吸収性物品は、表面シートと、裏面シートとを備え、表面シートと裏面シートとの間に配された吸収体を備えており、これに加えて、所定の部位に伸縮シート1を配した状態で用いることができる。吸収性物品としては、例えば使い捨ておむつ、尿漏れパッド、生理用ナプキン、パンティライナ等が包含されるが、これらに限定されるものではなく、人体から排出される液の吸収に用いられる物品を広く包含する。本発明の伸縮シートは、生理用ナプキンや使い捨ておむつなどの吸収性物品の構成材料として好ましく用いられ、特に、パンツ型使い捨ておむつの外装体として好適に用いられる。
【0042】
以上は、本発明の伸縮シートに関する説明であったところ、以下に本発明の伸縮シートの好適な製造方法を
図3及び
図4を参照して説明する。伸縮シート1は、例えば
図3及び
図4に示す製造装置100を用いて製造することができる。以下の説明では、
図1(a)に示す実施形態の伸縮シート1の製造方法を例にとり説明する。また、以下に説明する製造装置及び製造方法では、不織布2及び接合体1Aの搬送方向MDと、製造される伸縮シート1の伸縮方向Yとは一致させた状態で行うことが好ましい。
【0043】
図3及び
図4に示す製造装置100は、第1の不織布21を搬送方向MDに繰り出す第1原反ロール110と、第2の不織布22を搬送方向MDに繰り出す第2原反ロール120とを備える。同図に示すように、各不織布21,22はそれぞれ対向する方向に繰り出される。
【0044】
製造装置100は、第1原反ロール110及び第2原反ロール120の搬送方向MDの下流側に、ニップロール50と、ニップロール50と対向して配され、周面が冷却されているチルロール60とを備えている。
図3及び
図4に示す形態では、ニップロール50は、第2の不織布22をニップロール50の周面に沿うように搬送できるようになっている。チルロール60は、第1の不織布21をチルロール60の周面に沿うように搬送できるようになっている。また、ニップロール50とチルロール60とは、ニップロール50の周面とチルロール60の周面との最短距離が所定の間隔を有するように配置されており、溶融状態の弾性繊維3が各不織布21,22の表面に接触できるようになっている。ニップロール50の周面とチルロール60の周面との距離が最短である部位は、各不織布21,22と弾性繊維3とが合流する合流位置Cである(
図4参照)。
【0045】
製造装置100は、弾性繊維3を紡糸するための紡糸装置130を備える。紡糸装置130は、その下方に、弾性繊維3の原料樹脂を溶融状態で吐出するノズル(図示せず)を複数備えており、溶融状態の弾性繊維3を鉛直方向下方へ吐出できるようになっている。紡糸装置130から吐出される弾性繊維3は、原料樹脂の吐出速度及びノズル径を適宜変更することにより、繊維どうしが交差せず一方向に延びるよう配列した弾性フィラメントとすることができる。紡糸装置130におけるノズルの吐出口における形状は、製造される伸縮シート1における弾性繊維3のアスペクト比を上述の範囲にする観点から、好ましくは真円形である。
【0046】
また製造装置100は、冷却装置70を備えていることが好ましい。冷却装置70は、溶融状態の弾性繊維3が各不織布21,22の表面に接触して形成された接合体1Aに対して流体を接触させて冷却し、溶融状態又は軟化状態の弾性繊維3を冷却固化するためのものである。冷却装置70は、流体を吐出できるようになっている。流体としては、液体及び気体の少なくとも一方を用いることができ、乾燥等の追加の工程を必要とせずに製造可能とする観点から、流体として気体を用いることが好ましい。
【0047】
図3及び
図4に示す実施形態では、冷却装置70は、流体として気体を吐出するエアノズルの形態となっている。エアノズルは、その先端部と、チルロール60の周面とが対向するように配されており、搬送されている接合体1Aに対して気体を吹き付けられるようになっている。気体を用いる場合は、該気体の温度は、好ましくは5℃以上40℃以下とすることができる。また、気体の種類としては空気を用いることができる。
【0048】
製造装置100は、延伸装置140を備えていることが好ましい。延伸装置140は、接合体1Aを延伸して、弾性を増加させる処理を行うためのものである。詳細には、延伸装置140は、周方向に沿って規則的に配置された複数の歯溝を有する一対のギアロール40,40を備えており、一方のギアロール40に形成された歯が他方のギアロールの歯間に入るように噛み合わせた状態で配置されている。この状態で、両ギアロール40,40間に接合体1Aを導入して、ギアロール40の回転方向、すなわち搬送方向MDに沿って延伸させることができるようになっている。これらのギアロール40は、その両方が駆動源(図示せず)によって回転していてもよく、一方のギアロールのみが駆動源によって回転している連れ回りの態様となっていてもよい。
【0049】
製造装置100は、ニップロール50とは別に、第2ニップロール(図示せず)を更に備えていることが好ましい。第2ニップロールを備える場合、第2ニップロールは、チル
ロール60と対向するように配されている。また第2ニップロールは、搬送方向MDに沿って見たときに、冷却装置70と延伸装置140との間に配置されることが好ましい。これによって、弾性増加処理に当たり、接合体1Aに対して張力を付与しやすくして、延伸効率を更に高めることができる。
【0050】
以下に、
図3及び
図4に示す製造装置100を用いた伸縮シート1の製造方法を説明する。まず、不織布2と溶融状態の弾性繊維3との接合体を製造する(接合工程)。本工程では、第1原反ロール110及び第2原反ロール120からそれぞれ第1及び第2の不織布21,22を互いに同速度で搬送方向MDに繰り出して、合流させる。これとともに、両不織布21,22の合流位置Cにおいて、紡糸装置130から鉛直方向下方に吐出された溶融状態の複数の弾性繊維3と合流させる。このとき、弾性繊維3を弾性フィラメントの態様とする場合、紡糸された溶融状態の弾性繊維3は鉛直方向下方に吐出されることになるので、該弾性繊維3は少なくとも一方向に沿って延びるように配される。
【0051】
これとともに、各不織布21,22並びに溶融状態の弾性繊維3は、ニップロール50とチルロール60との間に導入されて、溶融状態の弾性繊維3が、各不織布21,22の表面に接触しつつ、両不織布21,22間に保持される。これによって、弾性繊維3が不織布2の表面に直接接合した接合体1Aが形成される。この接合体1Aは、両不織布21,22間に弾性繊維3が介在配置された構造となっている。
【0052】
ニップロール50の周面とチルロール60の周面との間隔は、弾性繊維3が不織布2の表面に接合できる程度に低く設定することが好ましい。詳細には、各ロール50,60の周面間の最短距離が、好ましくは0.2mm以上、更に好ましくは0.6mm以上であり、好ましくは2mm以下、更に好ましくは1.3mm以下である。このような構成となっていることによって、各不織布21,22と弾性繊維3とが接合した状態を維持しながら、紡糸された弾性繊維3の断面形状を維持して冷却することができるので、上述のアスペクト比を有する弾性繊維3を容易に得ることができる。また得られた接合体1Aに対して後述する弾性増加処理を施した場合でも、不織布の穴あき等の外観上の不具合を低減しつつ、伸長倍率の高い伸縮シート1を製造することができる。
【0053】
次いで、得られた接合体1Aを流体によって冷却する(冷却工程)。本工程は、合流位置Cの下流側に搬送された接合体1Aに対して、冷却装置70から吐出された流体を接触させて、接合体1Aを冷却しつつ、溶融状態又は軟化状態の弾性繊維3を冷却固化させる。溶融状態又は軟化状態の弾性繊維3は、接合体1Aの搬送過程で冷却されながら、両不織布21,22の構成繊維と接合する。本工程によって、溶融状態の弾性繊維3が各不織布21,22の表面に接触したあと早期に冷却することができるので、紡糸装置130から吐出された時点での弾性繊維3の断面形状を維持した状態で早期に冷却固化することができる。その結果、冷却後に得られる接合体1Aに配される弾性繊維3は、そのアスペクト比が上述の範囲となるように容易に制御することができる。このような工程を経て、各不織布21,22と弾性繊維3とが融着によって接合された連続シート状の接合体1Aが得られる。
【0054】
冷却工程においては、各不織布21,22と溶融状態の弾性繊維3とを接触させてから、所定の時間以内に接合体1Aの冷却を行うことが好ましい。詳細には、各不織布21,22と溶融状態の弾性繊維3とを接触させる部位である合流位置Cを起点としたときに、好ましくは0.15秒以内、更に好ましくは0.1秒以内に接合体1Aを冷却する。このような時間で冷却することによって、アスペクト比が上述の範囲である弾性繊維3を備える接合体1Aを効率良く得ることができる。また、この接合体1Aに対して後述する弾性増加処理を施す際に、弾性増加処理によって発生する不織布の穴あき等の外観上の不具合を防ぎつつ、伸縮性の高い伸縮シートを生産性高く得ることができる。
【0055】
冷却工程を開始する時間は、例えば、接合体1Aの搬送速度、チルロール60の断面直径、冷却装置70の配置位置、及び冷却装置70から吐出される流体の速度等の少なくとも一つを適宜調整することによって制御することができる。これらの条件の具体例は後述する実施例にて詳述するが、冷却工程を開始する時間が上述の範囲となるような条件であれば、実施例に示す条件に限られない。
【0056】
冷却工程を経た後、必要に応じて、第2ニップロールによる押圧処理を施してもよい。この場合、第2ニップロールとチルロール60との間に生じる圧力は、線圧として、好ましくは0.5N/cm以上、更に好ましくは1N/cm以上であり、好ましくは50N/cm以下、更に好ましくは30N/cm以下である。このような圧力は、第2ニップロールとチルロール60との間隔を適宜調整することによって変更可能である。
【0057】
伸縮性を更に高める観点から、冷却装置70を経て冷却した接合体1Aを延伸する弾性増加処理を施すことが好ましい。弾性増加処理は、接合体1Aを延伸装置140における一対のギアロール40,40の噛み合い部分に通過させて、接合体1Aを搬送方向MDに沿って延伸させることによって行われる。本工程では、接合体1Aに張力が付与されていることが弾性増加処理の効率を高める観点から好ましい。
【0058】
一般的に、上述したギアロール40を用いて延伸する弾性増加処理を行う場合、得られるシートの伸長倍率を高くすることを目的として強く延伸すると、不織布2と弾性繊維3との接触部位に外力が加わりやすくなり、接触部位及びその近傍に位置する不織布2が破れやすくなる。その結果、得られる伸縮シート1は、外観が損なわれたものとなり得る。
この点に関して、本発明によれば、冷却後の接合体1Aは、弾性繊維3のアスペクト比が上述の範囲となっているので、不織布2と弾性繊維3との接触面積が少なくなっている。このような接合体1Aを強く延伸すると、不織布2と弾性繊維3との接触部位が少ないので、該接触部位に外力が加わりにくくなる。その結果、良好な外観が維持された伸縮シート1を得ることができる。また、外観を損なうことなく、高い延伸力を付与して弾性増加処理を施すことができるので、伸縮シート1の伸長倍率が更に高い伸縮シート1を製造することができる。良好な外観と高い伸長倍率を有する伸縮シート1を効率良く形成する観点から、不織布21,22として、スパンボンド不織布を用いることが好ましい。
【0059】
接合体1Aの延伸度合は、ギアロール40の歯丈に応じて適宜調整することができる。詳細には、両ギアロール40,40において歯丈を高くした場合、歯丈の高い歯が互いに噛み合った領域では、歯丈が高い歯どうしによって発生した強い延伸力によって、歯に当接していない接合体1Aの部位が大きく延伸されるようになる。その結果、接合体1Aの当該部位に高い伸縮性が付与される。また、両ギアロール40,40において歯丈を低くした場合、歯丈の低い歯が互いに噛み合った領域では、歯丈が高い歯どうしが噛み合った領域と比較して、発生する延伸力は弱くなり、その結果、歯丈の低い歯に当接していない接合体1Aの部位の延伸の程度は小さくなる。その結果、接合体1Aの当該部位に低い伸縮性が付与される。
【0060】
接合体1Aに延伸が施されると、弾性繊維3はそれ自体が有する伸縮力に応じて伸縮する。詳細には、弾性繊維3は、ギアロール40の噛み合いによって発生した延伸力によって伸長し、また、噛み合いが解除されることで収縮する。したがって、弾性繊維3は、接合体1Aの延伸後には、接合体の延伸前と同様に実質的に非伸長の状態に戻り、そのアスペクト比も略変化しない。これに対して、接合体1Aの不織布2は、その構成繊維が非弾性又は弾性繊維3よりも低弾性のものであるので、ギアロールどうしの噛み合いによって、構成繊維が細径となるように引き伸ばされて塑性変形したり、該構成繊維どうしが破断したり、該構成繊維と弾性繊維3との接合が弱くなったりする(以下、この状態を「塑性
変形等」という。)。塑性変形等した不織布の構成繊維は、接合体の延伸後における弾性繊維3の収縮とともに、不織布2の外方に突出する。不織布2の構成繊維が塑性変形等されている領域は、該領域の不織布2の構成繊維の繊維径が、塑性変形等されていない領域における不織布2の構成繊維よりも細いものとなり、また非伸長状態では塑性変形等されている領域の不織布の密度が低いものとなる。
【0061】
また、ギアロール40における歯に当接している領域の接合体1Aは、延伸力が付与されないので延伸されず、不織布2の構成繊維が塑性変形等されていない領域となる。つまり、当該領域は、延伸前の接合体1Aと実質的に同一の領域となる。このようにして、接合体1Aには、塑性変形等されている領域と塑性変形等されていない領域とが伸縮方向Yに沿って交互に形成される。
【0062】
弾性繊維3を弾性フィラメントの態様とした場合、伸縮性を更に向上させる観点から、弾性繊維3の紡糸装置130からの引き取り速度は、紡糸装置における樹脂の吐出速度に対し、その延伸倍率が好ましくは1.1倍以上、更に好ましくは4倍以上、また好ましくは400倍以下、更に好ましくは100倍以下となるように調整されることが好ましい。
【0063】
弾性繊維3として、シート状の弾性繊維層を形成する場合には、例えばメルトブローン法を用いることができる。詳細には、溶融した樹脂をノズルから押し出し、押し出された溶融樹脂を熱風によって伸長させながら、溶融状態で不織布間に挟持させることによって、構成繊維がランダムに配置されたシート状の弾性繊維層を形成することができる。シート状の弾性繊維層における弾性繊維3の繊維径は、紡糸装置130における原料樹脂の溶融温度及び吐出速度、ノズル径並びに熱風の吹出速度等によって調整可能である。
【0064】
以上の工程を経て、本発明の好適な伸縮シート1が製造される。伸縮シート1は、必要に応じて、以後の工程にて、所望の寸法となるように成形されたり、吸収性物品の構成部材に組み込まれたりする。
【0065】
本発明の伸縮シート及びその製造方法は、前記実施形態に限定されない。本発明の伸縮シートは、2枚の不織布を用いて、これらの不織布の間に弾性繊維が配されて接合したものとして説明したが、この形態に限られない。例えば、一枚の不織布を用いて、該不織布の一方の面に弾性繊維を接合したものを伸縮シートとして用いることができる。
【0066】
また、製造装置100における一対のギアロール40,40のうち少なくとも一方に配される歯は、単一の長さを有する歯丈によって形成されていてもよく、異なる長さを有する歯丈によって形成されていてもよい。これによって、1枚の伸縮シート1に異なる伸縮倍率を有する伸縮シート1を製造することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0068】
〔実施例1〕
図3及び
図4に示す製造装置100を用いて、
図1(a)に示す構造の伸縮シート1を製造した。まず、第1の不織布21と第2の不織布22との間に、複数の弾性繊維3として弾性フィラメントを配して、弾性繊維3が溶融して各不織布21,22の表面に融着して直接接合した接合体1Aとした。弾性フィラメントは、紡糸ノズルのノズル径を450μmに設定して、延伸倍率を11倍、フィラメント直径を120μmとなるように製造した。
第1及び第2の不織布21,22としては、ポリプロピレン製の平均繊維径16μmの
繊維からなる坪量18g/m
2のスパンボンド不織布を用い、弾性繊維3は、SEPS樹脂(重量平均分子量5万g/mol、MFR60g/10分(230℃、2.16kg)を用いた。
【0069】
実施例1では、
図4に示す製造装置100の側面視において、ニップロール50の周面とチルロール60の周面との間隔(最短距離)を0.6mm、チルロール60の断面直径を310mmとし、冷却開始の位置が合流位置Cからチルロール60の周方向に且つ搬送方向MD下流側に200mm離間した位置となるように冷却装置70を配置し、接合体1Aの搬送速度を150m/minとした。以上の条件にて、各不織布21,22と弾性繊維3とが接触した合流位置Cから0.08秒で接合体1Aを冷却できるようにした。冷却装置70は気体を吹き付け可能なエアノズルであり、該気体の温度は16℃とし、該気体の種類は空気とした。
その後、接合体1Aを一対のギアロール40の噛み合い部分に通して、伸長倍率が150%となるように弾性増加処理を行って、目的とする伸縮シート1を得た。一対のギアロール40は、5mmの歯丈を有する歯が周方向に規則的に配置されているものを用いた。
【0070】
〔実施例2〕
冷却開始の位置が合流位置Cからチルロール60の周方向且つ搬送方向MD下流側に120mm離間した位置となるように冷却装置70を配置し、各不織布21,22と弾性繊維3とが接触した合流位置Cから0.05秒で接合体1Aを冷却できるようにした以外は、実施例1と同様の方法で、
図1(a)に示す構造の伸縮シート1を製造した。
【0071】
〔比較例1〕
本比較例では、
図3及び
図4に示す製造装置100において、冷却装置70を配置せず、第2ニップロールを配置した以外は、実施例1と同様に伸縮シート1を製造した。つまり、本比較例では、冷却工程を行っていない。第2ニップロールとチルロール60との間における線圧は、1.9N/cmとした。
【0072】
〔比較例2〕
本比較例では、
図3及び
図4に示す製造装置100において、冷却装置70を配置しなかった以外は、実施例1と同様に伸縮シート1を製造した。つまり、本比較例では、冷却工程を行っていない。本比較例は、特許文献1(特開2008-179128号公報)の実施例相当のものである。
【0073】
〔比較例3〕
本比較例では、
図3及び
図4に示す製造装置100において、冷却開始の位置が合流位置Cからチルロール60の周方向に且つ搬送方向MD下流側に450mm離間した位置となるように冷却装置70を配置し、各不織布21,22と弾性繊維3とが接触した合流位置Cから0.18秒で接合体1Aを冷却できるようにした。これ以外は、実施例1と同様に伸縮シート1を製造した。
【0074】
〔弾性繊維3のアスペクト比〕
実施例及び比較例の伸縮シート1について、弾性繊維3(弾性フィラメント)を断面視したときのアスペクト比を、上述の方法で測定及び算出した。結果を表1に示す。
【0075】
〔シート外観の評価〕
実施例及び比較例の伸縮シート1に対して、以下の方法でシート外観の評価を行った。
まず、実施例及び比較例の伸縮シート1を、自然状態で、伸縮方向Yの長さが150mm、幅方向Xの長さが200mmとなるようにそれぞれ切り出して、試験片とした。この試験片について、2つの線状の印を、自然状態で試験片の伸縮方向に100mmの間隔を
あけて、且つ幅方向Xに延びるように付けた。次いで、印間の距離が250mmとなるまで試験片を伸長させ、その状態で、シート平面の画像データを取得した。得られた画像データを、画像処理ソフトウェア(Image-Pro)を用いて二値化処理した後、基準面積R1に対するシートに穴が開いている領域の総面積R2(mm2)の百分率(穴面積率;%)を算出した。
基準面積R1は、試験片伸長時における2つの線状の印と、試験片伸長時における幅方向Xの両端縁とで画成される領域の面積とした。
穴が開いている領域の総面積R2は、画像処理ソフトによって抽出された、面積が0.0314mm2以上(半径0.1mmの円の面積以上)である領域の面積の合計値とした。
同一試験片につき2回測定したときの算術平均値としたときの穴面積率の結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1に示すように、実施例の伸縮シート1は、比較例のものと比較して、冷却工程を好適な位置で行うことによって、弾性繊維のアスペクト比が好適な範囲となり、且つ弾性増加処理後もシート外観が良好なものとなる。したがって、本発明によれば、良好な外観を有し、且つ伸縮性の高い伸縮シートを得ることができ、またこのようなシートを生産性高く製造できる。
【符号の説明】
【0078】
1 伸縮シート
1A 接合体
2,21,22 不織布
3 弾性繊維
40 ギアロール
100 製造装置
130 紡糸装置
140 延伸装置
X 幅方向
Y 長手方向(伸縮方向)