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特許7372864ガスセンサの試験方法およびガスセンサの耐久試験用システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ガスセンサの試験方法およびガスセンサの耐久試験用システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20231025BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G01N27/26 391Z
G01N27/416 331
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020057580
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021156745
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】関谷 高幸
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008558(JP,A)
【文献】特開2015-172545(JP,A)
【文献】特開2013-228283(JP,A)
【文献】特開2019-158758(JP,A)
【文献】特開2021-156883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0125090(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26,27/41,
G01N 27/416,27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体からなるセンサ素子の内部に被測定ガスを導入し、前記被測定ガス中のNOxの濃度を特定するガスセンサに対する、試験方法であって、
NOxを含む排ガスを排出するエンジンからの排気経路途中のあらかじめ定められた取付位置に検査対象のガスセンサを取り付ける取り付け工程と、
前記ガスセンサが前記排ガスに曝される状態で前記ガスセンサを所定の時間連続的に駆動する駆動工程と、
NOx濃度が0ppmに設定された評価用ガスと、NOx濃度が300ppm以上の所定値に設定された評価用ガスとの2種類の評価用ガスが少なくとも含まれる、NOx濃度の設定が相異なる少なくとも3種類の評価用ガスを、前記排気経路において前記ガスセンサの前記取付位置に向けて供給可能に用意する評価用ガス供給準備工程と、
前記駆動工程の少なくとも開始時と終了時に、さらには前記駆動工程の途中においても任意的に、前記少なくとも3種類の評価用ガスを順次に前記排気経路に流し、それぞれの評価用ガスが流れる度に、前記ガスセンサから出力されるNOx濃度値を取得するとともに、前記排気経路の前記ガスセンサの前記取付位置の近傍から当該評価用ガスをそれぞれサンプリングしてガス分析計に分析させ、前記ガス分析計から出力されるNOx濃度値を取得する、NOx濃度値取得工程と、
前記NOx濃度値取得工程における取得結果に基づいて、前記ガスセンサから出力されたNOx濃度値と前記ガス分析計から出力されたNOx濃度値との相関関係を示す回帰直線の傾きを、濃度一致度として算出したうえで、前記駆動工程の前記開始時における前記濃度一致度を基準としたときの、前記開始時以外における前記濃度一致度の変化率に基づいて、前記ガスセンサにおける劣化の度合いを評価する評価工程と、
を備えることを特徴とする、ガスセンサの試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサの試験方法であって、
前記エンジンの運転サイクルが、運転条件の相異なる複数のシーケンスから構成されており、
前記複数のシーケンスのそれぞれにおいて前記排気経路に流れる前記排ガスのそれぞれを、前記少なくとも3種類の評価用ガスとして用いる、
ことを特徴とする、ガスセンサの試験方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガスセンサの試験方法であって、
一のシーケンスから次のシーケンスに移行する直前の所定時間においてのみ、前記ガスセンサによるNOxの検知と、前記ガス分析計による前記評価用ガスのサンプリングとを行う、
ことを特徴とする、ガスセンサの試験方法。
【請求項4】
請求項1に記載のガスセンサの試験方法であって、
前記評価用ガス供給準備工程においては、前記排気経路において前記ガスセンサの前記取付位置よりも前記エンジン側に、複数種類の単体ガスを任意の混合比にて混合したモデルガスを外部へと供給可能な所定のモデルガス供給装置からの供給配管を接続することにより、前記エンジンから排出される前記排ガスと、前記モデルガス供給装置から供給される前記モデルガスとを、選択的に前記ガスセンサの前記取付位置に向けて流せるようにし、
前記NOx濃度値取得工程においては、前記エンジンからの前記排ガスの排出を遮断し、前記少なくとも3種類の評価用ガスとして、前記モデルガス供給装置から供給されるNOx濃度が3種類既知である前記モデルガスを用いる、
ことを特徴とする、ガスセンサの試験方法。
【請求項5】
請求項1に記載のガスセンサの試験方法であって、
前記評価用ガス供給準備工程においては、前記排気経路において前記ガスセンサの前記取付位置よりも前記エンジン側に、それぞれにガス濃度が既知である複数種類のスパンガスを選択的に外部へと供給可能な所定のスパンガス供給装置からの供給配管を接続することにより、前記エンジンから排出される前記排ガスと、前記スパンガス供給装置から供給される前記スパンガスとを、選択的に前記ガスセンサの前記取付位置に向けて流せるようにし、
前記NOx濃度値取得工程においては、前記エンジンからの前記排ガスの排出を遮断し、前記少なくとも3種類の評価用ガスとして、前記スパンガス供給装置から供給されるNOx濃度が既知であるスパンガスを用いる、
ことを特徴とする、ガスセンサの試験方法。
【請求項6】
固体電解質体からなるセンサ素子の内部に被測定ガスを導入し、前記被測定ガス中のNOxの濃度を特定するガスセンサを、NOxを含む排ガスを排出するエンジンからの排気経路途中のあらかじめ定められた取付位置に取り付け、前記排ガスに曝される状態で所定の時間連続的に駆動させることにより行う、ガスセンサの耐久試験のためのシステムであって、
前記排気経路の前記ガスセンサの取付位置の近傍に接続されたサンプリング配管を通じて分析対象をサンプリングして分析するガス分析計と、
運転条件の相異なる複数のシーケンスから構成される運転サイクルにて運転されるように、前記エンジンの運転条件を制御するエンジン制御手段と、
前記ガスセンサから出力されるNOx濃度値と、前記ガス分析計から出力されるNOx濃度値とに基づいて、前記ガスセンサにおける劣化の度合いを評価する評価手段と、
を備え、
前記エンジン制御手段は、前記耐久試験の少なくとも開始時と終了時に、さらには前記耐久試験の途中においても任意的に、前記運転サイクルが前記複数のシーケンスとして、NOx濃度が0ppmに設定された前記排ガスを排出するシーケンスと、NOx濃度が300ppm以上の所定値に設定された前記排ガスを排出するシーケンスとを含む、前記排ガスにおけるNOx濃度の設定が相異なる少なくとも3つの評価用シーケンスを実行するように、前記エンジンを制御し、
前記評価手段は、前記少なくとも3つの評価用シーケンスが実行される度に、前記ガスセンサから出力されるNOx濃度値を取得するとともに、前記ガス分析計が当該評価用シーケンスにおいて排出される前記ガスをそれぞれサンプリングして分析することにより特定された当該ガスのNOx濃度値を取得し、前記ガスセンサから出力されたNOx濃度値と前記ガス分析計から出力されたNOx濃度値との相関関係を示す回帰直線の傾きを、濃度一致度として算出したうえで、前記耐久試験の前記開始時における前記濃度一致度を基準としたときの、前記開始時以外における前記濃度一致度の変化率に基づいて、前記ガスセンサにおける劣化の度合いを評価する、
ことを特徴とする、ガスセンサの耐久試験用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサの試験方法に関し、特に、耐久試験の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン伝導性の固体電解質を主たる構成成分とするセンサ素子を用いた、限界電流型のガスセンサ(NOxセンサ)がすでに公知である。係るガスセンサは、主として、自動車のエンジンからの排ガスに含まれるNOxの濃度測定に用いられる。このようなガスセンサを量産するにあたっては、通常、これに先立ち、組み立てられたガスセンサが耐久試験に供され、試験前後での特性変化の程度が評価される(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。あるいは、試験途中で特性が評価されることもある。
【0003】
耐久試験は、例えば、ガスセンサをエンジンの排気経路(配管)の途中に取り付け、エンジンからの排ガス雰囲気のなかで連続的に、例えば1000時間以上の長時間、当該ガスセンサを駆動させることにより実施される。
【0004】
また、特性の評価は、エンジンの排気経路とは独立したモデルガス装置から供給される、濃度が既知のモデルガス雰囲気下で、ガスセンサを駆動すること(以下、モデルガス評価と称する)により、行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4520427号公報
【文献】特許第5767158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、試験途中でモデルガス評価を実施するためには、ガスセンサをエンジン配管からいったん取り外す必要があるため、評価に時間を要してしまうことがあり、耐久試験の連続性に問題が生じる場合があった。
【0007】
また、モデルガス評価のためにガスセンサをエンジン配管からいったん取り外す際や、モデルガス評価の実施中に、ガスセンサの保護カバー等に付着している煤などの付着物が脱離してしまうことによって、特性値が正常と異なる値を示すことがあった。このような付着物の脱離は、評価値にばらつきを生じさせる要因となるため、好ましくない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、モデルガス評価を伴う耐久試験を、従来よりも効率的に行うことができ、かつ、評価ばらつきの生じにくい、ガスセンサの試験方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、固体電解質体からなるセンサ素子の内部に被測定ガスを導入し、前記被測定ガス中のNOxの濃度を特定するガスセンサに対する、試験方法であって、NOxを含む排ガスを排出するエンジンからの排気経路途中のあらかじめ定められた取付位置に検査対象のガスセンサを取り付ける取り付け工程と、前記ガスセンサが前記排ガスに曝される状態で前記ガスセンサを所定の時間連続的に駆動する駆動工程と、NOx濃度が0ppmに設定された評価用ガスと、NOx濃度が300ppm以上の所定値に設定された評価用ガスとの2種類の評価用ガスが少なくとも含まれる、NOx濃度の設定が相異なる少なくとも3種類の評価用ガスを、前記排気経路において前記ガスセンサの前記取付位置に向けて供給可能に用意する評価用ガス供給準備工程と、前記駆動工程の少なくとも開始時と終了時に、さらには前記駆動工程の途中においても任意的に、前記少なくとも3種類の評価用ガスを順次に前記排気経路に流し、それぞれの評価用ガスが流れる度に、前記ガスセンサから出力されるNOx濃度値を取得するとともに、前記排気経路の前記ガスセンサの前記取付位置の近傍から当該評価用ガスをそれぞれサンプリングしてガス分析計に分析させ、前記ガス分析計から出力されるNOx濃度値を取得する、NOx濃度値取得工程と、前記NOx濃度値取得工程における取得結果に基づいて、前記ガスセンサから出力されたNOx濃度値と前記ガス分析計から出力されたNOx濃度値との相関関係を示す回帰直線の傾きを、濃度一致度として算出したうえで、前記駆動工程の前記開始時における前記濃度一致度を基準としたときの、前記開始時以外における前記濃度一致度の変化率に基づいて、前記ガスセンサにおける劣化の度合いを評価する評価工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサの試験方法であって、前記エンジンの運転サイクルが、運転条件の相異なる複数のシーケンスから構成されており、前記複数のシーケンスのそれぞれにおいて前記排気経路に流れる前記排ガスのそれぞれを、前記少なくとも3種類の評価用ガスとして用いる、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の態様は、第2の態様に係るガスセンサの試験方法であって、一のシーケンスから次のシーケンスに移行する直前の所定時間においてのみ、前記ガスセンサによるNOxの検知と、前記ガス分析計による前記評価用ガスのサンプリングとを行う、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1の態様に係るガスセンサの試験方法であって、前記評価用ガス供給準備工程においては、前記排気経路において前記ガスセンサの前記取付位置よりも前記エンジン側に、複数種類の単体ガスを任意の混合比にて混合したモデルガスを外部へと供給可能な所定のモデルガス供給装置からの供給配管を接続することにより、前記エンジンから排出される前記排ガスと、前記モデルガス供給装置から供給される前記モデルガスとを、選択的に前記ガスセンサの前記取付位置に向けて流せるようにし、前記NOx濃度値取得工程においては、前記エンジンからの前記排ガスの排出を遮断し、前記少なくとも3種類の評価用ガスとして、前記モデルガス供給装置から供給されるNOx濃度が既知であるモデルガスを用いる、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第5の態様は、第1の態様に係るガスセンサの試験方法であって、前記評価用ガス供給準備工程においては、前記排気経路において前記ガスセンサの前記取付位置よりも前記エンジン側に、それぞれにガス濃度が既知である複数種類のスパンガスを選択的に外部へと供給可能な所定のスパンガス供給装置からの供給配管を接続することにより、前記エンジンから排出される前記排ガスと、前記スパンガス供給装置から供給される前記スパンガスとを、選択的に前記ガスセンサの前記取付位置に向けて流せるようにし、前記NOx濃度値取得工程においては、前記エンジンからの前記排ガスの排出を遮断し、前記少なくとも3種類の評価用ガスとして、前記スパンガス供給装置から供給されるNOx濃度が既知であるスパンガスを用いる、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第6の態様は、固体電解質体からなるセンサ素子の内部に被測定ガスを導入し、前記被測定ガス中のNOxの濃度を特定するガスセンサを、NOxを含む排ガスを排出するエンジンからの排気経路途中のあらかじめ定められた取付位置に取り付け、前記排ガスに曝される状態で所定の時間連続的に駆動させることにより行う、ガスセンサの耐久試験のためのシステムであって、前記排気経路の前記ガスセンサの取付位置の近傍に接続されたサンプリング配管を通じて分析対象をサンプリングして分析するガス分析計と、運転条件の相異なる複数のシーケンスから構成される運転サイクルにて運転されるように、前記エンジンの運転条件を制御するエンジン制御手段と、前記ガスセンサから出力されるNOx濃度値と、前記ガス分析計から出力されるNOx濃度値とに基づいて、前記ガスセンサにおける劣化の度合いを評価する評価手段と、を備え、前記エンジン制御手段は、前記耐久試験の少なくとも開始時と終了時に、さらには前記耐久試験の途中においても任意的に、前記運転サイクルが前記複数のシーケンスとして、NOx濃度が0ppmに設定された前記排ガスを排出するシーケンスと、NOx濃度が300ppm以上の所定値に設定された前記排ガスを排出するシーケンスとを含む、前記排ガスにおけるNOx濃度の設定が相異なる少なくとも3つの評価用シーケンスを実行するように、前記エンジンを制御し、前記評価手段は、前記少なくとも3つの評価用シーケンスが実行される度に、前記ガスセンサから出力されるNOx濃度値を取得するとともに、前記ガス分析計が当該評価用シーケンスにおいて排出される前記ガスをそれぞれサンプリングして分析することにより特定された当該ガスのNOx濃度値を取得し、前記ガスセンサから出力されたNOx濃度値と前記ガス分析計から出力されたNOx濃度値との相関関係を示す回帰直線の傾きを、濃度一致度として算出したうえで、前記耐久試験の前記開始時における前記濃度一致度を基準としたときの、前記開始時以外における前記濃度一致度の変化率に基づいて、前記ガスセンサにおける劣化の度合いを評価する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1ないし第6の態様によれば、耐久試験の開始に際してエンジンの配管に取り付けられたガスセンサを、試験途中で取り外すことなく耐久試験を継続することが出来る。特に、耐久試験を実施している途中に特性の評価を行う場合については、その実施を中断することなく、当該特性評価を行うことが出来る。これにより、耐久試験実行前後あるいはさらに実行途中における特性評価に要する時間が短縮される。また、特性評価のためにガスセンサを取り外すことに伴って、ガスセンサに付着していた煤などの不純物が脱離することに起因した、評価値のばらつきが生じないため、従来よりも耐久試験の信頼性が向上する。
【0016】
特に、第2、第3、および第6の態様によれば、エンジンを運転状態に保ち、その排ガス雰囲気にガスセンサを曝した状態のまま、特性評価を行うことが出来るので、特性評価に要する時間がより短縮される。
【0017】
また、第4および5の態様によれば、試験前後さらには途中に行う特性評価にはNOx濃度既知のモデルガスを用いるので、試験時間を従来よりも短縮しつつ、特性検査の信頼性が確保された劣化試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】センサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】第1の実施の形態においてガスセンサ100の耐久試験を行うための構成を、概略的に示す図である。
図3】エンジン2000運転サイクルの設定例を示すグラフである。
図4】ガス分析計1200からの出力とガスセンサ100からの出力との相関関係を示す直線を、模式的に示す図である。
図5】試験開始時における、ガスセンサ100により検知されたNOxの濃度プロファイルPF1aと、ガス分析計1200により検知されたNOxの濃度プロファイルPF2aとを示す図である。
図6】耐久試験開始時のガスセンサ100の出力とガス分析計1200の出力との間の濃度一致度を求めるための図である。
図7】2000時間経過した時点における、ガスセンサ100により検知されたNOxの濃度プロファイルPF1bと、ガス分析計1200により検知されたNOxの濃度プロファイルPF2bとを示す図である。
図8】耐久試験の開始から2000時間経過後の、ガスセンサ100の出力とガス分析計1200の出力との間の濃度一致度を求めるための図である。
図9】全21種類のガスセンサ100を対象に耐久試験を行い、それぞれについて算出した濃度一致度の変化率を、耐久試験の経過時間に対してプロットした図である。
図10】第2の実施の形態においてガスセンサ100の耐久試験を行うための構成を、概略的に示す図である。
図11】第3の実施の形態においてガスセンサ100の耐久試験を行うための構成を、概略的に示す図である。
図12】センサ素子201の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ200の構成の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施の形態>
<ガスセンサの概略構成>
初めに、本実施の第1の実施の形態において試験対象とされるガスセンサ100の概略構成について説明する。本実施の形態において、ガスセンサ100は、センサ素子101によってNOxを検知し、その濃度を測定する、限界電流型のNOxセンサである。また、ガスセンサ100は、各部の動作を制御するとともに、センサ素子101を流れるNOx電流に基づいてNOx濃度を特定するコントローラ110をさらに備える。
【0020】
図1は、センサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。
【0021】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(ZrO)からなる(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などからなる)、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの固体電解質層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する、平板状の(長尺板状の)素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。なお、以降においては、図1におけるこれら6つの層のそれぞれの上側の面を単に上面、下側の面を単に下面と称することがある。また、センサ素子101のうち固体電解質からなる部分全体を基体部と総称する。
【0022】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0023】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0024】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間(領域)である。
【0025】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
【0026】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0027】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0028】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0029】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0030】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0031】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0032】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0033】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0034】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0035】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面(センサ素子101の一方主面)の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側(空所外)ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0036】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)に形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成されてなる。これら天井電極部22aと底部電極部22bとは、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0037】
天井電極部22aおよび底部電極部22bは、平面視矩形状に設けられてなる。ただし、天井電極部22aのみ、あるいは、底部電極部22bのみが設けられる態様であってもよい。
【0038】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極として形成される。特に、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。例えば、5%~40%の気孔率を有し、Auを0.6wt~1.4wt%程度含むAu-Pt合金とZrOとのサーメット電極として、5μm~20μmの厚みに形成される。Au-Pt合金とZrOとの重量比率は、Pt:ZrO=7.0:3.0~5.0:5.0程度であればよい。
【0039】
一方、外側ポンプ電極23は、例えばPtあるいはその合金とZrOとのサーメット電極として、平面視矩形状に形成される。
【0040】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向に主ポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。なお、主ポンプセル21において内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に印加されるポンプ電圧Vp0を、主ポンプ電圧Vp0とも称する。
【0041】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセルである主センサセル80が構成されている。
【0042】
主センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0043】
さらに、コントローラ110が、起電力V0が一定となるように主ポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することで、主ポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0044】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0045】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定ポンプセル41が動作することによりなされる。
【0046】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0047】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0048】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様の形態にて、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成されてなり、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成されてなる。これら天井電極部51aと底部電極部51bは、平面視矩形状をなしているとともに、第2内部空所40の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0049】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0050】
補助ポンプセル50においては、コントローラ110による制御のもと、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧(補助ポンプ電圧)Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0051】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセルである補助センサセル81が構成されている。
【0052】
この補助センサセル81にて検出される、第2内部空所40内の酸素分圧に応じた起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0053】
また、これとともに、その補助ポンプ電流Ip1が、主センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、補助ポンプ電流Ip1は、制御信号として主センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0054】
測定ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0055】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。例えばPtあるいはその合金とZrOとのサーメット電極として形成される。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0056】
第4拡散律速部45は、アルミナ(Al)を主成分とする多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。
【0057】
測定ポンプセル41においては、コントローラ110による制御のもと、測定電極44の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0058】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセルである測定センサセル82が構成されている。測定センサセル82にて検出される、測定電極44の周囲の酸素分圧に応じた起電力V2に基づいて、可変電源46が制御される。
【0059】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中のNOxは還元されて(2NO→N+O)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧(測定ポンプ電圧)Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中のNOxの濃度に比例するものであるから、測定ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中のNOx濃度が算出されることとなる。以降、係るポンプ電流Ip2のことを、NOx電流Ip2とも称する。
【0060】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0061】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0062】
センサ素子101は、さらに、基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。
【0063】
ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72aと、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、図1においては図示を省略するヒータ抵抗検出リードとを、主として備えている。また、ヒータ部70は、ヒータ電極71を除いて、センサ素子101の基体部に埋設されてなる。
【0064】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(センサ素子101の他方主面)に接する態様にて形成されてなる電極である。
【0065】
ヒータエレメント72は、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、図1においては図示を省略する、センサ素子101の外部に備わる図示しないヒータ電源から、通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されることより、発熱する。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、センサ素子101のガス流通部が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向においてガス流通部と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、10μm~20μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0066】
センサ素子101においては、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、センサ素子101の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、センサ素子101は、ガス流通部付近の固体電解質および電極の温度が700℃~900℃程度になるように加熱される。係る加熱によって、センサ素子101において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサ100が使用される際の(センサ素子101が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、センサ素子駆動温度と称する。
【0067】
ヒータエレメント72による発熱の程度(ヒータ温度)は、ヒータエレメント72の抵抗値の大きさ(ヒータ抵抗)によって把握される。
【0068】
<耐久試験の概要>
次に、本実施の形態に係るガスセンサ100の耐久試験について説明する。図2は、本実施の形態においてガスセンサ100の耐久試験を行うための構成を、概略的に示す図である。
【0069】
本実施の形態において、ガスセンサ100の耐久試験とは、従来と同様、ガスセンサ100が長期間に渡って連続的に使用された場合の、特性の劣化の程度を把握するべく行う、加速試験である。ガスセンサ100は主として、自動車のエンジンからの排ガスに含まれるNOxの濃度測定に用いられることから、本実施の形態に係る耐久試験も、図2に示すように、エンジン2000の排気経路(配管)2001の途中にガスセンサ100を取り付け、エンジン2000からの排ガス雰囲気に曝した状態でガスセンサ100を(より詳細にはセンサ素子101を)、例えば1000時間以上の長時間、連続的に駆動することにより行う。そして、少なくとも試験開始時と終了時、好ましくは、試験の途中の任意のタイミングで、ガスセンサ100の状態を特定し、開始時以外については、開始時を基準とした劣化の度合いを評価する。ただし、以降において、(耐久)試験の開始時とは、排ガス雰囲気に曝した状態でガスセンサ100の駆動を開始した時点を指し示すものとし、終了時とは、当該状態でのガスセンサ100の駆動を停止した時点を指し示すものとし、(耐久)試験の途中とは、当該状態でのガスセンサ100の駆動が進行している間を指し示すものとする。
【0070】
なお、本実施の形態においては、エンジン2000はECU(エンジンコントロールユニット)2100にて制御されるディーゼルエンジンであるとし、その排気経路2001には、DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)3000とSCR(選択還元触媒)4000とが上流側から順に配設されてなるものとする。
【0071】
そして、ガスセンサ100は、DPF3000よりも上流側の取付位置Pos1に取り付けられて、耐久試験に供されるものとする。係る取付は、センサ素子101のガス導入口10が備わる一先端部側が排ガス雰囲気と接触可能とされ、ガス導入口10からガス流通部に排ガスが導入され得る態様にて行われる。
【0072】
なお、図2においては、排気経路2001においてDPF3000とSCR4000との間と、SCR4000よりも下流側にもそれぞれ、取付位置Pos2、Pos3が設定されており、耐久試験に際しこれらの取付位置が使用される態様であってもよい。また、各取付位置には3つのガスセンサ100が取り付けられるようになっているが、これはあくまで例示である。
【0073】
また、ガスセンサ100は、図1に示すような構成のセンサ素子101の外側に、図示しないハウジングや保護カバーなどの保護部材や、センサ素子101とコントローラ110や外部電源などとの電気的接続を確保するためコネクタ部材などが組み付けられたうえで、いずれかの取付位置Pos1~Pos3に取り付けられる。
【0074】
耐久試験の実施には、図2に示す耐久試験システム1000Zが用いられる。耐久試験システム1000Zは、試験制御装置1100Zと、ガス分析計1200とを備える。
【0075】
ガス分析計1200は、公知のCLD(化学発光分析計)である。ガス分析計1200には、排気経路2001においてガスセンサ100に設定された3つの取付位置Pos1、Pos2、Pos3の下流側近傍位置からそれぞれ分岐されたサンプリング配管1201、1202、1203が接続されてなる。また、それぞれのサンプリング配管1201、1202、1203にはバルブ1201B、1202B、1203Bが設けられてなる。これにより、ガス分析計1200においては、3つの取付位置Pos1、Pos2、Pos3を通過した排ガスを選択的にサンプリングして、その成分を分析し、その結果を出力できるようになっている。
【0076】
また、試験制御装置1100Zは、耐久試験を実施する際のエンジン2000の動作制御や、ガスセンサ100およびガス分析計1200からのデータの取得や、係る取得データに基づく評価などを担う。試験制御装置1100Zは例えば、汎用のあるいは専用のコンピュータによって実現されるものであり、統括制御部1101と、表示操作部1102と、記憶部1103と、エンジン制御部1104と、センサ出力処理部1105と、分析計出力処理部1106と、評価処理部1107とを主として備える。このうち、表示操作部1102と、記憶部1103とを除く他の構成要素は、記憶部1103に記憶されてなる所定の動作プログラムが読み込まれ実行されることにより、コンピュータに備わる図示しないCPU、メモリなどにより仮想的に実現される、機能的構成要素である。
【0077】
統括制御部1101は、試験制御装置1100Zの各部の動作を統括的に制御する部位である。
【0078】
表示操作部1102は、試験条件や試験結果を表示する際や、操作者が試験条件の入力や試験結果の分析などの操作を行う際に使用される部位である。表示操作部1102は例えば、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイ等の表示手段あるいはそれらを兼用するタッチパネルなどからなる。
【0079】
記憶部1103は、種々の動作プログラムや、特性評価の条件などが記憶される部位である。記憶部1103は、ハードディスク等の記憶媒体からなる。
【0080】
エンジン制御部1104は、耐久試験の際に、ECU2100に対しエンジン2000の動作制御に係る指示を与える部位である。エンジン制御部1104は、ECU2100と電気的に接続されてなり、耐久試験の際には、エンジン制御部1104からの制御指示のもと、ECU2100がエンジン2000の運転を制御する。
【0081】
センサ出力処理部1105は、耐久試験の前後あるいはさらに試験の途中において、ガスセンサ100の特性評価が行われる際に、ガスセンサ100から(より詳細にはコントローラ110から)出力されるNOx濃度値を取得する、インタフェースである。
【0082】
分析計出力処理部1106は、耐久試験の前後あるいはさらに試験の途中において、ガスセンサ100の特性評価が行われる際に、ガス分析計1200に分析処理を実行させるとともに、係る分析処理によって特定されたNOx濃度値(分析値)をガス分析計1200から取得する、インタフェースである。さらには、分析計出力処理部1106は、バルブ1201B、1202B、1203Bの開閉を制御する態様であってもよい。
【0083】
なお、本実施の形態においては、係る特性の評価に、従来のようなモデルガスを使用せず、エンジン2000からの排ガスをそのまま利用する。この点については後述する。
【0084】
評価処理部1107は、センサ出力処理部1105が取得したNOx濃度値と分析計出力処理部1106が取得したNOx濃度値(分析値)とに基づいて、耐久試験の対象とされてなるガスセンサ100の特性評価を行う。
【0085】
<特性評価の詳細>
次に、耐久試験システム1000Zにおいて、耐久試験の開始時と終了時、好ましくは、試験の途中において行う、ガスセンサ100の特性評価につき、その詳細を説明する。
【0086】
耐久試験を実施している間のエンジン2000の運転は通常、同一条件を保つのではなく、実際の自動車の運転状態を模擬するべく、数分から十数分程度の所定のインターバルにて運転条件を違えた運転サイクルを周期的に繰り返すことにより行われる。
【0087】
本実施の形態においては、このことを利用し、エンジン制御部1104からECU2100への制御指示のもと、少なくとも特性評価を行う間においては、それぞれに相異なる濃度のNOxが排出される複数の運転条件を設定した運転サイクルにて、エンジン2000を運転するようにする。
【0088】
図3は、係る運転サイクルの設定例を示すグラフである。横軸は時間を示しており、縦軸は、エンジン2000からの排気における(狙いの)NOx濃度を示している。ただし、縦軸のNOx濃度については、0<Nmd(1)<Nmd(2)<Nmd(3)<Nmaxとする。なお、以降の説明では、一の運転サイクルにおける個々の運転条件あるいは当該運転条件のもとでの運転をシーケンス(SQ)と称する。図3においては、第1シーケンスSQ1~第7シーケンスSQ7の7つのシーケンスにて1つの運転サイクルが構成されている場合を例示している。
【0089】
具体的には、第1シーケンスSQ1では、時間δt1の間、Nmd(1)なる狙い濃度にてNOxが排出されるようにエンジン2000が運転される。以下同様に、第2シーケンスSQ2では、時間δt2の間、Nmd(3)なる狙い濃度にてNOxが排出されるようにエンジン2000が運転される。第3シーケンスSQ3では、時間δt3の間、Nmaxなる狙い濃度にてNOxが排出されるようにエンジン2000が運転される。第4シーケンスSQ4では、時間δt4の間、0なる狙い濃度にてNOxが排出されるように(つまりはNOxが排出されないように)エンジン2000が運転される。第5シーケンスSQ5では、時間δt5の間、Nmd(2)なる狙い濃度にてNOxが排出されるようにエンジン2000が運転される。第6シーケンスSQ6では、時間δt6の間、Nmd(1)なる狙い濃度にてNOxが排出されるようにエンジン2000が運転される。第7シーケンスSQ7では、時間δt7の間、0なる狙い濃度にてNOxが排出されるように(つまりはNOxが排出されないように)エンジン2000が運転される。なお、δt1~δt7の値は全て違ってもよいが、特性評価を行うという観点からは、最小でも数分程度であるとする。
【0090】
このような第1シーケンスSQ1~第7シーケンスSQ7からなる運転サイクルを繰り返すようにした場合、0、Nmd(1)、Nmd(2)、Nmd(3)、Nmaxという5水準の狙い濃度にてNOxがエンジン2000から排出されることになる。これはすなわち、特性評価のためにNOx濃度の設定が異なる5種類の評価用ガスが、排気経路2001に向けて繰り返し供給されることを意味する。
【0091】
そして、図2に示した場合であれば、この排出されたNOxが、取付位置Pos1に取り付けられたガスセンサ100と、その下流側近傍から分岐させられたサンプリング配管1201を通じて該排ガスをサンプリングしたガス分析計1200とにおいて、検出される。これらガスセンサ100とガス分析計1200とからはそれぞれ、検出したNOxの濃度に相当する出力が、試験制御装置1001Zのセンサ出力処理部1105または分析計出力処理部1106に与えられる。
【0092】
図4は、エンジン2000からの排ガスにおける狙いのNOx濃度を0とNmaxとの間で違えた場合における、ガス分析計1200からの出力とガスセンサ100からの出力との相関関係を示す直線を、模式的に示す図である。図4においては、前者を横軸に取り、後者を縦軸に取っている。
【0093】
ガス分析計1200からの出力とガスセンサ100からの出力との間には、図4に示すように直線的な相関がある。これは、実際の出力値に基づく(単)回帰分析を行うことで確認される。
【0094】
しかしながら、ガス分析計1200における分析値は原理上、サンプリングのタイミングによらず、エンジン2000から実際に排出された排ガスにおける実際のNOxの濃度をほぼ正確に反映したものと考えられる一方で、ガスセンサ100のNOx電流に基づいて特定されるNOx濃度は、ガスセンサ100が劣化している場合には初期状態で得られる値よりも低い値となる。耐久試験が進行するにつれて、ガスセンサ100の劣化も進んでいくことから、耐久試験の開始後、時間が経過するにつれて、図4に示すように、当該直線の傾きは低下する傾向がある。
【0095】
それゆえ、係る傾きは、ガスセンサ100の劣化度合いの評価指標として利用され得る。いま、この傾きを濃度一致度と称することとする。なお、理想的な場合には、濃度一致度は1となるはずであるが、通常は、測定開始時点においても、濃度一致度の値は1をやや下回る。
【0096】
本実施の形態においては、これらの点を踏まえ、耐久試験開始時の濃度一致度を基準とした、耐久試験の終了時、あるいは、実施途中における濃度一致度の変化率を、耐久試験におけるガスセンサ100の劣化度合いの評価指標として設定する。そして、この変化率の値として許容される範囲の上限値を、あらかじめ閾値(最大許容変化率)として、記憶部1103に記憶しておくようにする。なお、耐久試験の実施時間(経過時間)に応じて最大許容変化率が設定される態様であってもよい。
【0097】
実際に耐久試験を実行する際には、エンジン制御部1104による制御のもと、少なくとも耐久試験の開始時と終了時に、図3に例示するような運転サイクルが少なくとも1回は行われるようにエンジン2000を運転する。そして、当該運転サイクルのそれぞれのシーケンスにおいて、ガスセンサ100とガス分析計1200によってエンジン2000からの排ガス中のNOxを検知する。好ましくは、試験途中の所定のタイミングにおいても、同様の運転および検知を行う。
【0098】
ガスセンサ100とガス分析計1200はそれぞれ、検知したNOxの濃度値を、センサ出力処理部1105と分析計出力処理部1106に対し出力する。特性評価を実施するための運転サイクルの繰り返し回数は、後述するサンプリング時間SPを考慮しつつ、適宜に定められてよい。
【0099】
続いて、ガスセンサ100とガス分析計1200が取得したそれらの出力値は評価処理部1107に与えられる。評価処理部1107は、それらの出力値をシーケンス毎に平均化する。これにより、各シーケンスについて、(x、y)=(ガス分析計からの主力値の平均値、ガスセンサからの主力値の平均値)というデータセットが生成されるので、それらのデータセットを対象として最小二乗近似(直線近似)を行う。そして、係る最小二乗近似により得られた回帰直線(図4の直線に相当)に基づいて濃度一致度を算出する。耐久試験開始時以外の算出値についてはさらに、開始時の濃度一致度からの変化率も算出する。
【0100】
係る変化率が算出されると、評価処理部1107は、当該算出値と、記憶部1103に記憶されてなる閾値(最大許容変化率)とを対比する。算出された変化率が閾値を上回るような場合、当該ガスセンサ100は許容範囲を超えた特性劣化(感度劣化)が生じていると評価することができ、閾値以下である場合には、ガスセンサ100の特性劣化(感度劣化)の度合いは許容範囲内に留まっていると評価することができる。
【0101】
以上のような態様にて行う、ガスセンサ100の劣化度合いの評価は、耐久試験用の排ガスを、特性評価にも利用するようにすることで、耐久試験の開始時にエンジン2000の排気経路2001の取付位置Pos1に取り付けられたガスセンサ100を、試験途中で取り外すことなく試験を継続することが出来る、という点で特徴的である。特に、耐久試験を実施している途中における特性の評価については、その実施を中断することなく、換言すれば、エンジン2000を運転状態に保ち、その排ガス雰囲気にガスセンサ100を曝した状態のまま、当該特性評価のための測定を行うことが出来る。
【0102】
その結果として、耐久試験実行後あるいは実行途中における特性評価に要する時間が短縮される。さらには、ガスセンサ100を取り外す際に、耐久試験の過程において当該ガスセンサ100に付着した煤などの不純物が脱離することに起因した、評価値のばらつきが生じないため、従来よりも耐久試験の信頼性が向上する、という作用効果も得られる。
【0103】
より詳細には、特性評価を伴う耐久試験を行うにあたっては、エンジン2000として、排ガスにおけるNOの濃度を0ppm~10000ppmの範囲で可変可能なものを採用する。
【0104】
また、エンジン2000の運転サイクルは、少なくとも特性評価を行う際には、狙いのNOx濃度の最小値が0ppmであり、最大値Nmaxが300ppm以上の所定値となるように設定する。なお、図3に例示する場合では、0と最大値Nmaxとの間に3水準の狙い濃度Nmd(1)~Nmd(3)が設定されているが、これはあくまで例示であり、少なくとも1水準が設定されればよい。換言すれば、特性評価を行う際には、NOx濃度の設定値が0ppmである場合と、300ppm以上の所定値である場合とを少なくとも含む、NOx濃度の設定値が相異なる少なくとも3種類の排ガスが、相異なるシーケンスにて排出されるように、運転サイクルが設定されればよい。それら少なくとも3種類の排ガスが、評価用ガスとして使用されることになる。
【0105】
また、ガスセンサ100とガス分析計1200によるNOxの検知(サンプリング)は、運転サイクルを構成する個々のシーケンスごとに、かつ、当該シーケンスから次のシーケンスへと移行する直前の所定の時間にのみ行うようにする。図3には、係る検知がなされる時間をサンプリング時間SPとして例示している。これは、当該シーケンスにおいてエンジン2000の運転状態が最も安定している時間を、NOxの検知対象とする意図である。サンプリング時間SPは、10秒~200秒程度であればよい。また、サンプリングは連続的に行う必要はなく、0.1秒から10秒程度のインターバルにて行う態様であってもよい。
【0106】
また、ガスセンサ100は耐久試験の実施中、絶えず駆動状態とされてなるが、ガス分析計1200については、特性評価を行う間においてのみ、あるいは、サンプリング時間SPにおいてのみ、稼働される態様であってもよく、あるいは、それらの間においてのみ、サンプリング配管1201のバルブ1201Bが解放されて、ガス分析計1200による排ガスのサンプリングが可能とされる、という態様であってもよい。
【0107】
また、図3に例示するようなエンジン2000の運転サイクルは、特性評価を実施している間と、それ以外の時間とで、違えられてもよい。
【0108】
<具体例>
上述した態様にて行われる、耐久試験における特性評価の具体例を、以下に示す。
【0109】
図5は、あるガスセンサ100に対し上述した態様にて耐久試験を行ったときの、試験開始時における、当該ガスセンサ100により検知されたNOxの濃度プロファイルPF1aと、ガス分析計1200により検知されたNOxの濃度プロファイルPF2aとを示す図である。
【0110】
より具体的には、図5に示すのは、第1シーケンスSQ1~第7シーケンスSQ7までの7つのシーケンスによって構成されたある一の運転サイクルにて、エンジン2000を運転した場合の、プロファイル例である。濃度プロファイルPF1aおよび濃度プロファイルPF2aの双方に生じている濃度変動は、それら7つのシーケンスに対応したものとなっている。ただし、係る運転サイクルは、図3で想定した運転サイクルとはシーケンス毎の濃度の上下関係が異なっている。
【0111】
図5からは、NOx濃度が200ppm以下の範囲では、両プロファイルが示す濃度差にはほとんど差がみられないが、NOx濃度が800ppm以上の範囲では、濃度プロファイルPF1aの濃度値が濃度プロファイルPF2aを下回っていることが、確認される。
【0112】
図5にはさらに、それぞれのシーケンスにおけるサンプリング時間SPについても示している。なお、サンプリング時間SPは100秒とし、10秒ごとにサンプリングを行っている。
【0113】
図6は、耐久試験開始時のガスセンサ100の出力とガス分析計1200の出力との間の濃度一致度を求めるべく、図5に示した濃度プロファイルPF1aと濃度プロファイルPF2aのそれぞれについて、個々のシーケンスごとにサンプリング時間SPにおける出力値の平均値を算出し、これにより得られたシーケンスごとのデータセットを、ガス分析計1200の出力値を横軸(x軸)とし、ガスセンサ100の出力値を縦軸(y軸)として、プロットした図である。また、図6には、プロットしたデータに基づいて最小二乗法により求めた回帰直線およびその式についても、併せて示している。
【0114】
図中にも示すように、回帰直線の式はy=0.9063xと求められた。それゆえ、その傾き0.9063なる値が、耐久試験開始時の濃度一致度ということになる。
【0115】
一方、図7は、試験開始時に図5に示す濃度プロファイルPF1aおよびPF2aが得られたガスセンサ100に対する耐久試験の実施が、2000時間経過した時点において、試験開始時と同一の運転サイクルにてエンジン2000が運転されたときの、ガスセンサ100により検知されたNOxの濃度プロファイルPF1bと、ガス分析計1200により検知されたNOxの濃度プロファイルPF2bとを示す図である。
【0116】
図7図5とを対比すると、狙いのNOx濃度が0ppmであったシーケンスSQ6を除く全てのシーケンスにおいて、2つのプロファイルの差が広がっていることが確認される。
【0117】
また、図8は、耐久試験の開始から2000時間経過後の、ガスセンサ100の出力とガス分析計1200の出力との間の濃度一致度を求めるべく、図7に示した濃度プロファイルPF1bと濃度プロファイルPF2bのそれぞれについて、個々のシーケンスごとにサンプリング時間SPにおける出力値の平均値を算出し、これにより得られたシーケンスごとのデータセットを、ガス分析計1200の出力値を横軸(x軸)とし、ガスセンサ100の出力値を縦軸(y軸)として、プロットした図である。また、図8には、プロットしたデータに基づいて最小二乗法により求めた回帰直線およびその式についても、併せて示している。
【0118】
図中にも示すように、回帰直線の式はy=0.8558xと求められた。それゆえ、その傾き0.8558なる値が、耐久試験の開始から2000時間経過した地点での濃度一致度ということになる。この値は、試験開始時の濃度一致度である0.9063なる値よりも小さいことから、2000時間の耐久試験の前後における濃度一致度の変化率は100×(0.9063-0.8558)/0.9063=5.6%と求められる。
【0119】
係る変化率を、あらかじめ定められ記憶部1103に記憶されてなる閾値(最大許容変化率)と比較し、その結果に基づいて、ガスセンサ100の劣化の度合いを許容範囲内であるか否かが判断される。
【0120】
図9は、全21種類のガスセンサ100を対象に耐久試験を行い、それぞれについて、試験途中および試験終了時に求めた濃度一致度の変化率を算出し、係る算出値を耐久試験の経過時間に対してプロットした図である。具体的には、500時間経過時点、1000時間経過時点、1500時間経過時点、および2000時間経過時点(試験終了時点)のそれぞれのタイミングで、濃度一致度の変化率を算出している。なお、変化率の値が負となっているのは、ガス分析計1200の出力値とガスセンサ100の出力値の差分値を、負の値として求めていることによる。
【0121】
図9からは、全てのガスセンサ100について、試験時間の経過とともに濃度一致度の変化率が緩やかに変化し、耐久試験が1000時間経過した時点で、最低でもおよそ5%は初期値から値が変化していること、および、個々のガスセンサ100の間においては、変化率におよそ3%程度のばらつきがあることがわかる。
【0122】
図9に示す結果は、濃度一致度の変化率が、相異なるガスセンサ100の間における劣化の程度を比較する指標として使用できることを、示唆している。
【0123】
また、上述したように、あらかじめ最大許容変化率が閾値として設定されることで、個々のガスセンサ100について、許容範囲を超えた劣化が生じているか否かを、判断することも可能である。
【0124】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサを長時間、エンジンからの排ガス雰囲気に曝した状態で連続的に駆動する耐久試験において、その開始時および終了時さらには途中において行う、当該ガスセンサの劣化度合いの評価に際し、耐久試験用の排ガスを評価用ガスとして利用する。そして、係る排ガス雰囲気に曝された状態のガスセンサからのNOx濃度の出力値と、ガスセンサの近傍においてサンプリングした雰囲気をガス分析計で分析することにより特定されるNOx濃度の出力値とに基づいて算出される両者の濃度一致度の変化率を、劣化度合いの評価指標として用いるようする。これにより、耐久試験の開始に際してエンジンの配管に取り付けられたガスセンサを、試験途中で取り外すことなく耐久試験を継続することが出来る。特に、耐久試験を実施している途中における特性の評価については、その実施を中断することなく、エンジンを運転状態に保ち、その排ガス雰囲気にガスセンサを曝した状態のまま、当該特性評価を行うことが出来る。
【0125】
結果として、耐久試験実行前後あるいはさらに実行途中における特性評価に要する時間が短縮される。また、特性評価のためにガスセンサを取り外すことに伴って、ガスセンサに付着していた煤などの不純物が脱離することに起因した、評価値のばらつきが生じないため、従来よりも耐久試験の信頼性が向上する。
【0126】
<耐久試験システムの応用例>
上述の実施の形態では、耐久試験システム1000Zを用いて、耐久試験におけるガスセンサ100の劣化度合いを評価するようにしていた。その際には、エンジン2000の運転サイクルにおける個々のシーケンスでの狙いのNOx濃度を違えるようにしていた。
【0127】
これに代わり、排ガスにおける狙いのNOx濃度をいずれのシーケンスにおいても100ppm以上の所定値に保つ一方で、酸素濃度を個々のシーケンスにおいて2%~20.5%(大気中濃度近傍値)の範囲で違えるようにした場合、ガスセンサ100からの出力値(NOx濃度値)は、本来的には一定であるべきところ、実際には、酸素濃度に依存した値となることが、わかっている。また、ガス分析計1200においては、酸素も検知されるので、NOx濃度に係る出力値に代えて、酸素濃度に係る出力値を得ることも可能である。
【0128】
これらのことを利用し、耐久試験システム1000Zにおいては、上述の実施の形態における評価手法の応用として、ガスセンサ100からの酸素濃度に応じた出力値と、ガス分析計1200から得られる酸素濃度に係る出力値とに基づいて、ガスセンサ100の酸素濃度依存性の、耐久試験前後あるいは途中における変化を、把握することも出来る。
【0129】
<第2の実施の形態>
上述した第1の実施の形態における、耐久試験の際の特性評価は、エンジン2000からの排ガスをそのまま、特性評価用のガスとしても利用することで、ガスセンサ100をエンジン2000の排気経路2001から取り外すことを不要とし、時間短縮や不純物の脱離防止を得るというものであった。しかしながら、係る態様の場合、エンジン2000の排ガスをそのまま利用するという性質上、たとえ個々のシーケンスにおいてエンジン2000の運転条件を一定に制御したとしても、排ガスの圧力や温度、流速などの変動により、実際に排ガスに含まれるNOx濃度が変動して、狙いのNOx濃度からずれてしまう余地がある。
【0130】
本実施の形態においては、ガスセンサ100を取り外すことなく耐久試験における特性評価を行えるという第1の実施の形態の特徴を活かしつつ、特性評価に供するNOxの濃度をより安定させる態様について、説明する。
【0131】
図10は、本発明の第2の実施の形態においてガスセンサ100の耐久試験を行うための構成を、概略的に示す図である。
【0132】
図10に示すように、本実施の形態においては、図2に示した第1の実施の形態にて用いていた耐久試験システム1000Zに代えて、耐久試験システム1000Aを用いるようにする。それゆえ、第1の実施の形態と同様の構成要素については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0133】
耐久試験システム1000Aは、主たる構成要素として、第1の実施の形態に係る耐久試験システム1000Zの試験制御装置1100Zと類似する試験制御装置1100Aと、ガス分析計1200とを主たる構成要素として備えるほか、モデルガス供給装置1300をさらに備える。
【0134】
モデルガス供給装置1300は、複数種類の単体の気体(ガス)をあらかじめ定めた任意の混合比(濃度比)で混合して、成分比が既知の混合ガスであるモデルガスをモデルガス供給装置1300の外部へと供給可能なガス混合器1301を備える。
【0135】
また、モデルガス供給装置1300には液体を気化する気化器1302も備わっており、液体を気化したうえでガス混合器1301にて混合することも可能とされてなる。
【0136】
図10においては、単体の気体として一酸化炭素(NO)、酸素(O)、窒素(N)を供給するNOガス供給源S1、Oガス供給源S2、Nガス供給源S3と、液体として水(HO)を供給するHO供給源S4とが用意された場合を例示している。NOガス供給源S1とOガス供給源S2とはそれぞれ、モデルガス供給装置1300に備わるマスフローコントローラ(MFC)M1、M2に接続されている。また、Nガス供給源S3は、2つのマスフローコントローラM3a、M3bに分岐接続されている。さらに、HO供給源S4は液体マスフローコントローラM4に接続されている。
【0137】
さらに、マスフローコントローラM1、M2、M3aはそれぞれ、ガス混合器1301に接続されている。
【0138】
一方、マスフローコントローラM3bと液体マスフローコントローラM4とは、気化器1302に接続されている。これにより、気化器1302においては、後者によって流量が調節された水が前者によって流量が調節された窒素によってバブリングされ、窒素ともども気体状態にてガス混合器1301へと供給されるようになっている。
【0139】
それゆえ、ガス混合器1301においては、マスフローコントローラM1、M2、M3aによって所定の流量に調整された一酸化炭素、酸素、および窒素と、あらかじめ所定の流量にて気化器1302に供給され気化された水(およびバブリングに用いた窒素)とが、それぞれの流量に応じた混合比(濃度比)で混合され、モデルガス供給装置1300の外部へと排出されるようになっている。
【0140】
具体的には、モデルガス供給装置1300と(より詳細にはガス混合器1301と)、エンジン2000の排気経路2001の途中であってガスセンサ100の3箇所の取付位置Pos1、Pos2、およびPos3のそれぞれの上流側の位置との間には、供給配管1311、1312、および1313が設けられてなる。より詳細には、供給配管1312はDPF3000よりも下流側に、供給配管1313はSCR4000よりも下流側に、それぞれ接続される。そして、供給配管1311、1312、および1313にはそれぞれ、バルブ1311B、1312B、および1313Bが備わっている。
【0141】
これらバルブ1311B、1312B、および1313Bを選択的に開放することによって、供給配管1311、1312、および1313のいずれかから選択的に、排気経路2001に対して混合比(濃度比)が既知のモデルガスを供給することが出来るようになっている。
【0142】
加えて、耐久試験システム1000Aにはモデルガス供給装置1300に接続されたNガス供給源S3とは別のNガス供給源S0が備わっている。また、Nガス供給源S0と、排気経路2001の途中であってエンジン2000の下流側近傍位置との間には、供給配管(以降、Nパージラインと称する)2002が設けられてなる。Nパージライン2002の途中にはバルブ2002Bが設けられており、エンジン2000の排気経路2001の途中であって、Nパージライン2002の接続位置よりも上流側にもバルブ2001Bが設けられてなる。
【0143】
これにより、バルブ2001Bとバルブ2002Bとを選択的に開放することによって、排気経路2001の下流側に対し、エンジン2000からの排ガスの排出と、Nガス供給源S0からの窒素ガスの供給とを、選択的に行えるようになっている。
【0144】
試験制御装置1100Aは、試験制御装置1100Zと同じ構成要素を備えるほか、モデルガス供給制御部1108をさらに備える。
【0145】
モデルガス供給制御部1108は、上述したモデルガス供給装置1300からのモデルガスの供給を制御する。具体的には、モデルガス供給装置1300から排気経路2001に対し供給するモデルガスにおけるガスの混合比(濃度比)が、所望される値となるように、マスフローコントローラM1、M2、M3a、およびM3bと液体マスフローコントローラM4の流量を制御する制御指示を、モデルガス供給装置1300に対して与える。
【0146】
また、モデルガス供給制御部1108は、排気経路2001に設けられたバルブ2001Bと、Nパージライン2002に設けられたバルブ2002Bと、モデルガス供給装置1300と排気経路2001の間を接続する供給配管1311、1312、および1313に設けられたバルブ1311B、1312B、および1313Bの開閉についても制御可能に、構成されていてもよい。
【0147】
以上のような構成を有する耐久試験システム1000Aを用いて行うガスセンサ100の耐久試験も、図10に示すように、エンジン2000の排気経路(配管)2001の途中にガスセンサ100を取り付けた状態で、エンジン2000からの排ガス雰囲気に曝された状態のガスセンサ100を連続的に長時間(1000時間以上)駆動する点、および、試験前後あるいは途中における特性評価の実施を、ガスセンサ100を排気経路2001に取り付けたままの状態において行うという点においては、第1の実施の形態と同様である。
【0148】
ただし、本実施の形態においては、特性評価を、エンジン2000からの排ガスではなく、モデルガス供給装置1300から供給されるNOx濃度が既知のモデルガスを用いて行う点で、第1の実施の形態とは相違する。
【0149】
概略的にいえば、ガスセンサ100を排ガスに曝す際には排気経路2001に備わるバルブ2001Bを開放してエンジン2000からガスセンサ100が取り付けられてなる下流側に向けて排ガスを排出するようにする。その際、モデルガス供給装置1300と接続された供給配管1311、1312および1313のバルブ1311B、1312B、1313Bと、Nパージライン2002のバルブ2002Bはいずれも閉じておく。
【0150】
一方、耐久試験の開始時、終了時さらには途中において特性評価を実施する際には、まず、排気経路2001に備わるバルブ2001Bを閉じて排ガスの供給を遮断し、代わって、Nパージライン2002のバルブ2002Bを開放して排気経路2001に窒素を供給し、排気経路2001に残留している排ガスを全て排出させるようにする。係る排出がなされた時点で、バルブ2002Bを閉じ、代わって、供給配管1311、1312および1313のいずれかのうち、直近にガスセンサ100が取り付けられてなる配管のバルブ1311B、1312B、または1313Bを開放して、排気経路2001にモデルガスが流れるようにする。特性評価が終了すれば、開放していた供給配管を閉じ、排気経路2001のバルブ2001Bを開放して、排ガスの供給(排出)を再開する。
【0151】
係るモデルガスの供給に際しては、試験制御装置1100Aのモデルガス供給制御部1108が、モデルガスにNOxとして濃度既知のNOが含まれるように、モデルガス供給装置1300におけるガス流量を制御する。
【0152】
排気経路2001にモデルガスが供給され、ガスセンサ100およびガス分析計1200が当該モデルガスを対象とする測定が可能な状態になると、以降は、第1の実施の形態と同様に、両者によるNOxの検出がなされ、濃度一致度さらにはその変化率が算出される。
【0153】
より具体的には、モデルガス供給装置1300からは、NOx濃度が相異なる少なくとも3種類のモデルガスが、順次に供給されるようにする。その際、NOx濃度の最小値は0ppmとされ、最大値は300ppm以上の所定値とされる。そして、それぞれの場合について、ガスセンサ100およびガス分析計1200による検出が行われ、センサ出力処理部1105と分析計出力処理部1106に与えられたそれぞれからの出力値に基づき、評価処理部1107において濃度一致度および変化率が算出される。これは、第1の実施の形態における運転サイクルのシーケンス設定の際の、狙いのNO濃度の設定と、その後の処理とに類似している。
【0154】
本実施の形態の場合も、評価処理部1107において算出された濃度一致度の変化率が閾値と比較され、その結果に基づいて、ガスセンサ100の特性劣化の程度が判断される。また、本実施の形態の場合、モデルガス供給装置1300から供給されるNOx濃度既知のモデルガスを特性評価に用いるので、濃度一致度の変化率は、第1の実施形態よりもさらに、ガスセンサの100の劣化の程度をより正確に反映した値になっているものと考えられる。それゆえ、ガスセンサ100の劣化の度合いの判定に対する信頼性が確保されてなるものといえる。
【0155】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様、耐久試験の開始に際してエンジンの配管に取り付けられたガスセンサを、試験途中で取り外すことなく耐久試験を継続することが出来る。これに加えて、試験前後さらには途中に行う特性評価には従来と同様にNOx濃度既知のモデルガスを用いるので、特性評価に供するNOxの濃度が第1の実施の形態よりも安定化される。これにより、試験時間を従来よりも短縮しつつ、特性検査の信頼性が確保された劣化試験を行うことができる。
【0156】
なお、モデルガス供給装置1300においては、混合に使用する単体の気体の供給源さえ接続されていれば、それらを用いて任意の混合ガスを生成し、外部へと供給可能であるので、第1の実施の形態の応用例のように、NOx濃度を一定とする一方で酸素濃度を違えた複数種類のガスを生成し、供給することも可能である。それゆえ、本実施の形態に係る耐久試験システム1000Aにおいても、ガスセンサ100の酸素濃度依存性の、耐久試験前後あるいは途中における変化を、把握することが出来る。
【0157】
<第3の実施の形態>
本実施の形態においても、第2の実施の形態と同様、ガスセンサ100を取り外すことなく耐久試験における特性評価を行えるという第1の実施の形態の特徴を活かしつつも、第2の実施の形態とは異なる構成にて、特性評価に供するNOxの濃度をより安定させる態様について、説明する。
【0158】
図11は、本発明の第3の実施の形態においてガスセンサ100の耐久試験を行うための構成を、概略的に示す図である。
【0159】
図11に示すように、本実施の形態においては、図10に示した第2の実施の形態にて用いていた耐久試験システム1000Aに代えて、耐久試験システム1000Bを用いるようにする。それゆえ、第1および第2の実施の形態と同様の構成要素については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0160】
耐久試験システム1000Bは、主たる構成要素として、第2の実施の形態に係る耐久試験システム1000Aの試験制御装置1100Aと類似する試験制御装置1100Bと、ガス分析計1200とを主たる構成要素として備えるほか、スパンガス供給装置1400をさらに備える。また、Nパージライン2002にてエンジン2000の排気経路2001に接続されたNガス供給源S0も、耐久試験システム1000Aと同様に設けられてなる。
【0161】
スパンガス供給装置1400は、所定のガス成分があらかじめ既知の濃度にて含まれている複数種類のスパンガスを選択的にスパンガス供給装置1400の外部へと供給可能なガス切り替え器1401を備える。
【0162】
図11においては、一酸化窒素(NO)がそれぞれ2000ppm、1000ppm、500ppm、100ppmの濃度にて含まれている(残余は窒素)4種類のNOスパンガスをそれぞれに供給するNOスパンガス供給源SG1a~SG1dと、酸素(O)がそれぞれ20%、10%、5%、1%の濃度にて含まれている(残余は窒素)4種類の酸素スパンガスをそれぞれに供給する酸素スパンガス供給源SG2a~SG2dとに加えて、窒素のみを供給する窒素ガス供給源SG3が用意され、ガス切り替え器1401にて選択的に供給可能とされてなる場合を例示している。なお、窒素のみからなり他のガス成分を含まないガスは厳密にはゼロガスと称されるが、本実施の形態においては便宜上、これを含めてスパンガスと称することとする。
【0163】
スパンガス供給装置1400と(より詳細にはガス切り替え器1401と)、エンジン2000の排気経路2001の途中であってガスセンサ100の3箇所の取付位置Pos1、Pos2、およびPos3のそれぞれの上流側の位置との間には、供給配管1411、1412、および1413が設けられてなる。これらの接続位置は、第2の実施の形態における供給配管1311、1312、および1313の接続位置と同じである。そして、供給配管1411、1412、および1413にはそれぞれ、バルブ1411B、1412B、および1413Bが備わっている。
【0164】
これらバルブ1411B、1412B、および1413Bを選択的に開放することによって、供給配管1411、1412、および1413のいずれかから選択的に、排気経路2001に対して、スパンガスを供給することが出来るようになっている。
【0165】
試験制御装置1100Bは、モデルガス供給制御部1108に代えて、スパンガス供給制御部1109を備えるほかは、試験制御装置1100Aと同様の構成を有する。
【0166】
スパンガス供給制御部1109は、上述したスパンガス供給装置1400からのスパンガスの供給を制御する。具体的には、スパンガス供給装置1400から排気経路2001に対し供給するスパンガスを選択する制御指示を、スパンガス供給装置1400に対して与える。
【0167】
また、スパンガス供給制御部1109は、排気経路2001に設けられたバルブ2001Bと、Nパージライン2002に設けられたバルブ2002Bと、スパンガス供給装置1400と排気経路2001の間を接続する供給配管1411、1412、および1413に設けられたバルブ1411B、1412B、および1413Bの開閉についても制御可能に、構成されていてもよい。
【0168】
以上のような構成を有する耐久試験システム1000Bを用いて行うガスセンサ100の耐久試験も、図11に示すように、エンジン2000の排気経路(配管)2001の途中にガスセンサ100を取り付けた状態で、エンジン2000からの排ガス雰囲気に曝された状態のガスセンサ100を連続的に長時間(1000時間以上)駆動する点、および、試験前後あるいは途中における特性評価の実施を、ガスセンサ100を排気経路2001に取り付けたままの状態において行うという点においては、第1および第2の実施の形態と同様である。
【0169】
ただし、本実施の形態においては、特性評価を、エンジン2000からの排ガスではなく、モデルガス供給装置1300にて混合されたモデルガスでもなく、スパンガス供給装置1400から供給されるNOx濃度が既知のスパンガスを用いて行う点で、第1および第2の実施の形態とは相違する。
【0170】
概略的にいえば、ガスセンサ100を排ガスに曝す際の態様、および、耐久試験の開始時、終了時さらには途中において特性評価を実施するに先立って、Nパージライン2002から排気経路2001に窒素を供給し、排気経路2001に残留している排ガスを全て排出させる態様については、第2の実施の形態と同様である。
【0171】
排ガスの排出がなされた時点で、バルブ2002Bを閉じ、代わって、供給配管1411、1412、および1413のいずれかのうち、直近にガスセンサ100が取り付けられてなる配管のバルブ1411B、1412B、または1413Bを開放する。併せて、ガス切り替え器1401によって4種類のNOスパンガス供給源SG1a~SG1dのいずれかを選択し、選択されたスパンガス供給源から供給配管1411、1412、または1413を通じて、排気経路2001に対し、NOxとして所定濃度値のNOが含まれるスパンガスを供給する。
【0172】
排気経路2001にスパンガスが供給され、ガスセンサ100およびガス分析計1200が当該スパンガスを対象とする測定が可能な状態になると、以降は、第1の実施の形態と同様に、両者によるNOxの検出がなされ、濃度一致度さらにはその変化率が算出される。
【0173】
より具体的には、スパンガス供給装置1400からは、NOx濃度が相異なる少なくとも3通りのスパンガスが、順次に供給されるようにする。その際、NOx濃度の最小値は0ppmとされる。これは、窒素ガス供給源SG3から窒素を供給することで実現される。一方、最大値は300ppm以上の所定値とされる。これは、NOスパンガス供給源SG1a~SG1cのいずれかから、係る要件に見合うスパンガスを供給することで実現される。そして、それぞれの場合について、ガスセンサ100およびガス分析計1200による検出が行われ、センサ出力処理部1105と分析計出力処理部1106に与えられたそれぞれからの出力値に基づき、評価処理部1107において濃度一致度および変化率が算出される。
【0174】
本実施の形態の場合も、評価処理部1107において算出された濃度一致度の変化率が閾値と比較され、その結果に基づいて、ガスセンサ100の特性劣化の程度が判断される。また、本実施の形態の場合、スパンガス供給装置1400から供給されるNOx濃度既知のスパンガスを特性評価に用いるので、濃度一致度の変化率は、第1の実施形態よりもさらに、ガスセンサの100の劣化の程度をより正確に反映した値になっているものと考えられる。それゆえ、ガスセンサ100の劣化の度合いの判定に対する信頼性が確保されてなるものといえる。
【0175】
以上、説明したように、本実施の形態の場合も、第1および第2の実施の形態と同様、耐久試験の開始に際してエンジンの配管に取り付けられたガスセンサを、試験途中で取り外すことなく耐久試験を継続することが出来る。これに加えて、試験前後さらには途中に行う特性評価には従来と同様にNOx濃度既知のスパンガスを用いるので、第2の実施の形態と同様、特性評価に供するNOxの濃度が第1の実施の形態よりも安定化される。これにより、試験時間を従来よりも短縮しつつ、特性検査の信頼性が確保された劣化試験を行うことができる。
【0176】
なお、スパンガス供給装置1400においては、使用したいスパンガスの供給源さえ接続されていれば、それを外部へと供給可能であるので、第1の実施の形態の応用例のように、NOx濃度を一定とする一方で酸素濃度を違えた複数種類のスパンガス供給源を用意し、供給することも可能である。それゆえ、本実施の形態に係る耐久試験システム1000Bにおいても、ガスセンサ100の酸素濃度依存性の、耐久試験前後あるいは途中における変化を、把握することが出来る。
【0177】
<変形例>
上述の第2および第3の実施の形態では、モデルガスあるいはスパンガスにおけるNOx濃度を、0を含む少なくとも3水準にて違えた場合における、ガス分析計1200からの出力とガスセンサ100からの出力との相関関係を示す回帰直線の傾きである濃度一致度を、ガスセンサ100の劣化度合いの評価指標として用いているが、これに代わり、少なくとも耐久試験の開始時と終了時に、好ましくはさらに試験途中において、NOx濃度が0ではない任意の既知の値である一のモデルガスあるいはスパンガスを供給し、それぞれの時点におけるガス分析計1200からの出力に対するガスセンサ100からの出力の比を算出し、係る算出値をガスセンサの劣化度合いの評価指標として用いるようにしてもよい。係る場合、試験開始時の当該算出値に対する、試験終了時さらには試験途中における当該算出値の変化率に基づいて、ガスセンサの劣化度合いを評価することができる。
【0178】
上述の実施の形態において耐久試験の対象とされるガスセンサ100のセンサ素子101は、測定電極44が、多孔質の保護膜として機能するとともに被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する第4拡散律速部45に被覆される態様にて第2内部空所40に配置されてなり、該第4拡散律速部45によって、測定電極44に流入するNOxの量が制限されていたが、これに代わり、被測定ガスに対し第4拡散律速部45と同等の拡散抵抗を付与する、例えばスリット状のあるいは多孔質の拡散律速部にて第2内部空所40と連通する第3内部空所を設け、該第3内部空所に測定電極44を設けるようにしてもよい。
【0179】
図12は、そのようなセンサ素子201の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ200の構成の一例を概略的に示す図である。なお、センサ素子201は、図1に示すセンサ素子101の構成要素と作用・機能が共通する構成要素を有している。そのような構成要素については、図1に示された対応する構成要素と同一の符号を付して、必要ある場合を除き、詳細な説明は省略する。また、コントローラ110については図示を省略している。
【0180】
センサ素子201においては、第1拡散律速部11がガス導入口10を兼ねている点、第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、および第3拡散律速部30と同様のスリット状をなす第5拡散律速部60によって第2内部空所40と連通する第3内部空所61が設けられてなる点、測定電極44が係る第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられてなる点、および、測定電極44が第3内部空所61に対し露出してなる点において、図1に示したセンサ素子101と相違する。ただし、第2の内部空所40と測定電極44との間に拡散律速部が介在するという点では、センサ素子201もセンサ素子101と同様である。
【0181】
このような構成のセンサ素子201を備えるガスセンサ200についても、ガスセンサ100と同様、上述した第1ないし第3の実施の形態に開示された態様での、特性評価を伴う耐久試験の対象と、することができる。
【符号の説明】
【0182】
10 ガス導入口
11 第1拡散律速部
12 緩衝空間
13 第2拡散律速部
20 第1内部空所
21 主ポンプセル
22 内側ポンプ電極
23 外側ポンプ電極
30 第3拡散律速部
40 第2内部空所
41 測定ポンプセル
42 基準電極
43 基準ガス導入空間
44 測定電極
45 第4拡散律速部
50 補助ポンプセル
51 補助ポンプ電極
100、200 ガスセンサ
101、201 センサ素子
1000A、1000B、1000Z 耐久試験システム
1201、1202、1203 サンプリング配管
1311、1312、1313 (モデルガスの)供給配管
1411、1412、1413 (スパンガスの)供給配管
2001 排気経路
2002 Nパージライン
Ip2 NOx電流
Pos1、Pos2、Pos3 (ガスセンサの)取付位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12