(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】セラミックスコーティング、タービン部材及びガスタービン
(51)【国際特許分類】
C23C 4/11 20160101AFI20231025BHJP
F01D 25/00 20060101ALN20231025BHJP
F02C 7/00 20060101ALN20231025BHJP
【FI】
C23C4/11
F01D25/00 L
F02C7/00 C
(21)【出願番号】P 2020059326
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 芳史
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 泰治
(72)【発明者】
【氏名】妻鹿 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】小室 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】川澄 草介
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-530535(JP,A)
【文献】特表2009-542455(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103993254(CN,A)
【文献】国際公開第2016/129521(WO,A1)
【文献】特開2019-167603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/11
F01D 25/00
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成されるボンドコート層と、
前記ボンドコート層上に形成されるセラミックス層と、
を備え、
前記セラミックス層は、前記ボンドコート層との界面と接する第1領域と、前記第1領域よりも前記界面から遠い第2領域とを有し、
前記セラミックス層の厚さ方向に沿った断面において、前記セラミックス層内の2以上の亀裂が交差する亀裂交差点の単位面積当たりの数は、前記第2領域よりも前記第1領域の方が多い
セラミックスコーティング。
【請求項2】
前記第1領域における前記亀裂交差点の単位面積当たりの数は、15,000個/mm
2以上35,000個/mm
2以下である
請求項1に記載のセラミックスコーティング。
【請求項3】
前記第1領域の厚さは、20μm以上である
請求項2に記載のセラミックスコーティング。
【請求項4】
前記第1領域における前記亀裂交差点の単位面積当たりの数は、前記第2領域における前記亀裂交差点の単位面積当たりの数の1.2倍以上3倍以下である
請求項1乃至3の何れか一項に記載のセラミックスコーティング。
【請求項5】
前記第1領域の気孔率は、前記第2領域の気孔率よりも小さい
請求項1乃至4の何れか一項に記載のセラミックスコーティング。
【請求項6】
前記第1領域の気孔率は、3%以上40%以下である
請求項5に記載のセラミックスコーティング。
【請求項7】
前記第1領域の厚さは、前記第1領域と前記第2領域の厚さの和の3%以上である
請求項5又は6に記載のセラミックスコーティング。
【請求項8】
前記セラミックス層は、前記第2領域よりも前記界面から遠い第3領域を有し、
前記第3領域の気孔率は、前記第2領域の気孔率よりも小さい
請求項5乃至7の何れか一項に記載のセラミックスコーティング。
【請求項9】
請求項1乃至
8の何れか一項に記載のセラミックスコーティングを有するタービン部材。
【請求項10】
請求項
9に記載のタービン部材を有するガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックスコーティング、タービン部材及びガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンでは、その効率を向上させるために、使用するガスの温度を高く設定している。このような高温のガスに晒される動翼や静翼のようなタービン部材には、その表面に遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)が施されている。遮熱コーティングとは、被溶射物であるタービン部材の表面に、溶射により熱伝導率の小さい溶射材(例えば、熱伝導率の小さいセラミックス系材料)を被覆したものである。遮熱コーティングが表面に形成されることで、高温及び高圧の環境下に曝される高温部材の温度が下がり耐久性が向上する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスタービンは、一般に起動・停止が比較的多く繰り返されるため、遮熱コーティング(セラミックスコーティング)には、遮熱性等の他、熱サイクル耐久性が求められる。
【0005】
本開示の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みて、遮熱コーティングにおける熱サイクル耐久性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るセラミックスコーティングは、
基材上に形成されるボンドコート層と、
前記ボンドコート層上に形成されるセラミックス層と、
を備え、
前記セラミックス層は、前記ボンドコート層との界面と接する第1領域と、前記第1領域よりも前記界面から遠い第2領域とを有し、
前記セラミックス層の厚さ方向に沿った断面において、前記セラミックス層内の2以上の亀裂が交差する亀裂交差点の単位面積当たりの数は、前記第2領域よりも前記第1領域の方が多い。
【0007】
(2)本開示の少なくとも一実施形態に係るタービン部材は、上記(1)の構成のセラミックスコーティングを有する。
【0008】
(3)本開示の少なくとも一実施形態に係るガスタービンは、上記(2)の構成のタービン部材を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、セラミックスコーティングにおける熱サイクル耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るセラミックスコーティングを備えるタービン部材の断面の模式図である。
【
図2】他の実施形態に係るセラミックスコーティングを備えるタービン部材の断面の模式図である。
【
図3】タービン部材における界面近傍の断面を模式的に示した図である。
【
図4】亀裂交差点の単位面積当たりの数が15,000個/mm
2以上35,000個/mm
2以下である場合のセラミックス層の断面を示す図の一例である。
【
図5】亀裂交差点の単位面積当たりの数が15,000個/mm
2未満である場合のセラミックス層の断面を示す図の一例である。
【
図6】試験片の熱サイクル耐久性の例を示す棒グラフである。
【
図7】さらに他の実施形態に係るセラミックスコーティングを備えるタービン部材の断面の模式図である。
【
図11】一実施形態係るガスタービンの部分断面構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0012】
(セラミックスコーティング10)
図1は、一実施形態に係るセラミックスコーティング10を備えるタービン部材3の断面の模式図である。
図2は、他の実施形態に係るセラミックスコーティング10を備えるタービン部材3の断面の模式図である。
図7は、さらに他の実施形態に係るセラミックスコーティング10を備えるタービン部材3の断面の模式図である。
以下で説明する幾つかの実施形態では、セラミックスコーティング10の一例として、タービン部材3の遮熱のための遮熱コーティングについて説明する。
図1、
図2及び
図7に示すように、幾つかの実施形態では、後述するガスタービン6の動翼4や静翼5等のタービン部材3の耐熱基材(母材)11上に、金属結合層(ボンドコート層)12と、遮熱コーティングとしてのセラミックス層15が順に形成される。即ち、
図1及び
図2に示すように、幾つかの実施形態では、セラミックスコーティング10は、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating : TBC)層であり、セラミックス層15を含んでいる。
【0013】
ボンドコート層12は、MCrAlY合金(Mは、Ni,Co,Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組合せを示す)などで構成される。
【0014】
幾つかの実施形態におけるセラミックス層15は、ZrO2系の材料、例えば、Y2O3で部分安定化または完全安定化したZrO2であるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)で構成されているとよい。
【0015】
(亀裂交差点33の多寡と剥離亀裂の進展抑止効果との関係について)
図1及び
図2に示すように、幾つかの実施形態では、セラミックス層15は、ボンドコート層12との界面17と接する第1領域151と、第1領域151よりも界面17から遠い第2領域152とを有する。
図2に示した他の実施形態に係るセラミックスコーティング10では、セラミックス層15は、第2領域152よりも界面17から遠い第3領域153を有する。
幾つかの実施形態では、セラミックス層15の厚さ方向に沿った断面において、セラミックス層15内の2以上の亀裂が交差する亀裂交差点33(
図3参照)の単位面積当たりの数は、第2領域152よりも第1領域151の方が多い。これは、以下で詳述するように、セラミックス層15における剥離亀裂の進展を抑制するためである。
【0016】
図3は、
図1及び
図2に示すタービン部材3における界面17近傍の断面を模式的に示した図である。なお、
図3では、後述するスプラット30の形状を楕円形で模して表している。そのため、隣り合う楕円同士の間に隙間が存在しているが、実際には、この隙間はほとんど存在しないようにすることもできる。
耐熱基材11とセラミックス層15とでは線膨張係数が異なるため、温度の変化によって耐熱基材11及びセラミックス層15には熱応力が作用する。そのため、耐熱基材11及びセラミックス層15の加熱と冷却が繰り返されると、主にセラミックス層15における界面17近傍において、界面17に沿う方向に亀裂が延在する横割れ(剥離亀裂)37が生じるおそれがある。すなわち、第2領域152よりも第1領域151において剥離亀裂37が生じ易い。この剥離亀裂37の長さが長くなると、セラミックス層15が耐熱基材11から剥離して脱落するおそれがある。なお、
図3では、剥離亀裂37を太い実線で模式的に示している。
【0017】
例えばセラミックス層15を溶射によって形成する場合、溶射材料がボンドコート層12上に衝突して偏平化し固化することが繰り返されることで偏平化した粒子(スプラット)30が積層されて溶射被膜、すなわちセラミックス層15が生成される。
また、一般的に、セラミックス層15には、微小な亀裂31が複数存在する。この微小な亀裂31は、溶射材料がボンドコート層12上に衝突して偏平化し固化する過程でスプラット30に生じた亀裂や、隣接するスプラット30同士の境界が残留したもの等を含んでいる。これら微小な亀裂31の2つ以上が交差するように存在することもあり、以下の説明では、これら微小な亀裂31の2つ以上が交差する交差点を亀裂交差点33と称する。
なお、上述した微小な亀裂31の長さは、おおよそ5μmから100μm程度である。
【0018】
上述したように亀裂交差点33では2以上の亀裂31が交差するので、亀裂交差点33を中心として亀裂31は3方向以上に延在することとなる。すなわち、単位体積当たりの亀裂交差点33の数が比較的多い領域では、比較的小さな亀裂31が網目状に存在する傾向にある。なお、単位体積当たりの亀裂交差点33の数が多いほど、例えばセラミックスコーティング10の厚さ方向に沿った断面に表れる亀裂交差点33の単位面積当たりの数が多くなる傾向にある。
【0019】
熱応力の影響を受けて上述した剥離亀裂37が生じ、剥離亀裂37による亀裂が亀裂交差点33や亀裂交差点33に連なる亀裂31に到達すると、亀裂交差点33で交差している複数の亀裂31に沿って剥離亀裂37による亀裂を進展させるエネルギーが伝わって分散される。これにより、剥離亀裂37による亀裂の進展が抑制されることとなる。
したがって、
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態によれば、亀裂交差点33の単位面積当たりの数が第2領域152よりも第1領域151の方が多いので、第1領域151では、第2領域152よりも剥離亀裂37による亀裂の進展が抑制される。そのため、第2領域152よりも剥離亀裂37が生じ易い第1領域151において、剥離亀裂37による亀裂の進展を効果的に抑制でき、セラミックスコーティング10における熱サイクル耐久性を向上できる。
【0020】
(亀裂交差点33の数について)
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態では、第1領域151における亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、15,000個/mm
2以上35,000個/mm
2以下であるとよい。
【0021】
発明者らが鋭意検討した結果、第1領域151における亀裂交差点33の単位面積当たりの数が15,000個/mm2未満であると、セラミックスコーティング10の熱サイクル耐久性を向上する効果がほとんど得られないことが判明した。また、亀裂交差点33の単位面積当たりの数が35,000個/mm2を超えると、第1領域151の強度が低下するおそれがあることが判明した。
したがって、第1領域151における亀裂交差点33の単位面積当たりの数を上記の範囲内とすることで、セラミックス層15の強度低下を抑制しつつ、剥離亀裂37の進展を抑制できる。
【0022】
図4は、亀裂交差点33の単位面積当たりの数が15,000個/mm
2以上35,000個/mm
2以下である場合のセラミックス層15の断面を示す図の一例である。
図5は、亀裂交差点33の単位面積当たりの数が15,000個/mm
2未満である場合のセラミックス層15の断面を示す図の一例である。
図4及び
図5では、ボンドコート層12の一部と、セラミックス層15における第1領域151の一部とが図示されている。
図4及び
図5において、破線で囲んだ矩形の領域141内に存在する亀裂交差点33の位置に黒丸を付している。また、
図4及び
図5において、実線で囲まれた白抜きの領域は、気孔143である。
図4に示す例では、亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、約26,300個/mm
2である。また、
図5に示す例では、亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、約11,100個/mm
2である。
【0023】
なお、亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、次のようにして求める。
例えば、セラミックス層15の断面を研磨して電子顕微鏡で観察される像を撮影する。本明細書では、亀裂交差点33の単位面積当たりの数を求めるにあたり、観察倍率を1000倍とし、異なる3箇所の像を撮影する。そして、撮影によって得られた異なる3箇所の組織の写真(例えば
図4)のそれぞれにおいて、
図4に示すような亀裂交差点33の数を計測する領域141を設定し、例えば目視によって各領域141内の亀裂交差点33の数を計測する。そして、異なる3箇所の組織の写真における領域141内の亀裂交差点33の数を領域141の面積で除すことで、異なる3箇所の組織の写真のそれぞれについての亀裂交差点33の単位面積当たりの数を求める。このようにして求めた3箇所の亀裂交差点33の単位面積当たりの数の平均値を、その組織における亀裂交差点33の単位面積当たりの数とする。
【0024】
図6は、試験片の熱サイクル耐久性の例を示す棒グラフである。
図6において、縦軸は、ボンドコート層上に形成されたセラミックス層に剥離が生じるまでのサイクル数を表す。試験に用いられた試験片A乃至試験片Cは、それぞれ、ボンドコート層上に、ボンドコート層と、セラミックス層が順に形成された試験片である。
【0025】
試験片Aは、
図5示した断面図における亀裂交差点33の単位面積当たりの数と同等(約11,000個/mm
2)の組織を有するセラミックス層が形成された試験片である。
試験片Aでは、セラミックス層に剥離が生じるまでのサイクル数が実質的に剥離が生じないと判定される回数を超過している。
【0026】
試験片Bは、試験片Aと同様に、
図5示した断面図における亀裂交差点33の単位面積当たりの数と同等(約11,000個/mm
2)の組織を有するセラミックス層が形成された試験片である。試験片Bでは、遮熱性の向上を図るべく、試験片Aよりもセラミックス層の厚さが厚く、その厚さは試験片Aの1.2~2倍程度である。
試験片Bでは、セラミックス層が早期に剥離した。
すなわち、遮熱性の向上を図るべくセラミックス層の厚さを単に厚くするだけでは、セラミックス層の熱サイクル耐久性が低下する。
【0027】
試験片Cは、
図4示した断面図における亀裂交差点33の単位面積当たりの数と同等(約25,000個/mm
2)の組織を有するセラミックス層が形成された試験片である。試験片Cでは、遮熱性の向上を図るべく、試験片Aよりもセラミックス層の厚さが厚く、その厚さは試験片Aの1.2~2倍程度である。
試験片Cでは、セラミックス層に剥離が生じるまでのサイクル数が実質的に剥離が生じないと判定される回数を超過している。
すなわち、遮熱性の向上を図るべくセラミックス層の厚さを厚くしても、セラミックス層における亀裂交差点33の数を増やすことで、セラミックス層の熱サイクル耐久性を改善できる。
【0028】
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態では、第1領域151における亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、第2領域152における亀裂交差点の単位面積当たりの数の1.2倍以上3倍以下であるとよい。
【0029】
発明者らが鋭意検討した結果、第1領域151における亀裂交差点33の単位面積当たりの数が第2領域152における亀裂交差点33の単位面積当たりの数の1.2倍未満であると、セラミックスコーティング10の熱サイクル耐久性を向上する効果が薄れるおそれがあることが判明した。また、第1領域151における亀裂交差点33の単位面積当たりの数が第2領域152における亀裂交差点33の単位面積当たりの数の3倍を超えると、第1領域151の強度が低下するおそれがあることが判明した。
したがって、
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態によれば、セラミックス層15の強度低下を抑制しつつ、剥離亀裂37の進展を抑制できる。
【0030】
(第1領域151の厚さについて)
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態では、第1領域の厚さt1は、20μm以上であるとよい。
【0031】
発明者らが鋭意検討した結果、第1領域151の厚さが20μm未満であると、第2領域152にも剥離亀裂37が生じて、熱サイクル耐久性が低下するおそれがある。
したがって、
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態によれば、セラミックスコーティング10の熱サイクル耐久性を向上できる。
【0032】
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態では、第1領域151の厚さは、第1領域151と第2領域152の厚さの和の3%以上であるとよい。
【0033】
発明者らが鋭意検討した結果、第1領域151の厚さt1が第1領域151の厚さt1と第2領域152の厚さt2との和(t1+t2)の3%未満であると、セラミックスコーティング10の熱サイクル耐久性を向上する効果がほとんど得られないことが判明した。
したがって、
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態によれば、遮熱性を確保しつつ、剥離亀裂37の進展を抑制できる。
【0034】
なお、セラミックス層15の厚さは、特に限定されないが、0.1mm以上1mm以下などとされる。
【0035】
(気孔率について)
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態では、第1領域151の気孔率は、第2領域152の気孔率よりも小さいとよい。
剥離亀裂37が気孔143に到達すると、気孔143の大きさの分だけ剥離亀裂37が進展したことと同じことになる。また、剥離亀裂37が気孔143に到達しても、該気孔143に剥離亀裂37以外の亀裂31が複数接続されていなければ、剥離亀裂37を進展させるエネルギーを分散できない。
したがって、
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態によれば、第1領域151の気孔率が第2領域152の気孔率よりも小さいので、第1領域151では、第2領域152よりも剥離亀裂37の進展が抑制される。
【0036】
なお、気孔率は、セラミックス層15の断面における気孔143の面積の割合として定義され、気孔143の面積を断面の面積で除した値を百分率で表した値である。具体的には、次のようにして気孔率を求める。例えば、セラミックス層15の断面を研磨して光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察される像を撮影する。本明細書では、気孔率を求めるにあたり、観察倍率を100倍とし、異なる3箇所の像を撮影する。観察視野1箇所あたりの面積は約0.5平方ミリメートルである。そして、撮影によって得られた異なる3箇所の組織の写真(例えば
図4)のそれぞれに対して二値化処理を行うことで、気孔部(空隙部)と被膜部とを別々に抽出可能とする。そして、異なる3箇所の像を二値化した画像のそれぞれから気孔部の面積と被膜部の面積を算出し、気孔部の面積を気孔部と被膜部の面積の和、すなわち断面の面積で除して気孔率をそれぞれ算出する。または、二値化した画像のそれぞれから気孔部の面積と断面の面積を算出し、気孔部の面積を断面の面積で除して気孔率をそれぞれ算出する。このようにして求めた3箇所の気孔率の平均値を、その組織の気孔率とする。
【0037】
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態では、第1領域151の気孔率は、3%以上40%以下であるとよい。
【0038】
発明者らが鋭意検討した結果、第1領域151の気孔率を3%未満にするためには、例えば化学蒸着法によるコーティングのように、チャンバを備える大掛かりな装置が必要となる。また、第1領域151の気孔率を10%を超えると、セラミックス層15とボンドコート層12との密着性が不十分となるおそれがある。
したがって、
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態によれば、耐久性の高いセラミックスコーティング10が比較的容易に得られる。
【0039】
(第3領域153について)
図2に示した他の実施形態に係るセラミックスコーティング10では、上述したように、セラミックス層15は、第2領域152よりも界面17から遠い第3領域153を有する。
図2に示した他の実施形態に係るセラミックスコーティング10では、第3領域153の気孔率は、第2領域152の気孔率よりも小さいとよい。
図2に示した他の実施形態によれば、第2領域152によってセラミックスコーティングの遮熱性を確保しつつ、第2領域152の気孔率よりも小さく緻密な組織を有する第3領域153によって例えば燃焼ガスに含まれる腐食性物質の浸透を抑制できる。これにより、セラミックスコーティング10の劣化を抑止してセラミックスコーティング10の耐久性を向上できる。
【0040】
(さらに他の実施形態について)
上述したように、
図7に示すさらに他の実施形態に係るセラミックスコーティング10は、ボンドコート層12上に形成されるセラミックス層15を備える。
図7に示すさらに他の実施形態では、セラミックス層15の厚さ方向に沿った断面において、ボンドコート層12との界面17から少なくとも100μm以内の領域(基材側領域)154において2以上の亀裂31が交差する亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、15,000個/mm
2以上35,000個/mm
2以下であるとよい。
【0041】
上述した
図1及び
図2に示す幾つかの実施形態と同様に、基材側領域154における亀裂交差点33の単位面積当たりの数が15,000個/mm
2未満であると、セラミックスコーティング10の熱サイクル耐久性を向上する効果がほとんど得られない。また、亀裂交差点33の単位面積当たりの数が35,000個/mm
2を超えると、基材側領域154の強度が低下するおそれがある。
したがって、基材側領域154における亀裂交差点33の単位面積当たりの数を15,000個/mm
2以上35,000個/mm
2以下とすることで、セラミックス層15の強度低下を抑制しつつ、剥離亀裂37の進展を抑制できる。
【0042】
図7に示すさらに他の実施形態では、基材側領域154における気孔率は、3%以上40%以下であるとよい。
【0043】
上述したように、基材側領域154の気孔率を3%未満にするためには、例えば化学蒸着法によるコーティングのように、チャンバを備える大掛かりな装置が必要となる。また、基材側領域154の気孔率を40%を超えると、セラミックス層15とボンドコート層12との密着性が不十分となるおそれがある。
したがって、
図7に示すさらに他の実施形態によれば、耐久性の高いセラミックスコーティング10が比較的容易に得られる。
【0044】
(タービン部材及びガスタービン)
上述した幾つかの実施形態に係るセラミックスコーティング10は、産業用ガスタービンの動翼や静翼、あるいは燃焼器の内筒や尾筒、分割環などの高温部品に適用して有用である。また、産業用ガスタービンに限らず、自動車やジェット機などのエンジンの高温部品の遮熱コーティング膜にも適用することができる。これらの部材に上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングを設けることで、耐食性及び熱サイクル耐久性に優れるガスタービン翼や高温部品を構成することができる。
【0045】
図8乃至10は、上述した幾つかの実施形態に係るセラミックスコーティング10を適用可能なタービン部材3の構成例を示す斜視図である。
図11は、一実施形態係るガスタービン6の部分断面構造を模式的に示す図である。上述した幾つかの実施形態に係るセラミックスコーティング10を適用可能なタービン部材の構成例として、
図8に示すガスタービン動翼4や、
図9に示すガスタービン静翼5、
図10に示す分割環7、及び
図11に示すガスタービン6の燃焼器8を挙げることができる。
図8に示すガスタービン動翼4は、ディスク側に固定されるタブテイル41、プラットフォーム42、翼部43等を備えて構成されている。また、
図9に示すガスタービン静翼5は、内シュラウド51、外シュラウド52、翼部53等を備えて構成されており、翼部53にはシールフィン冷却孔54、スリット55等が形成されている。
【0046】
図10に示す分割環7は、環状の部材を周方向に分割した部材であり、ガスタービン動翼4の外側に複数配置され、タービン62のケーシングに保持される。
図10に示す分割環7には冷却孔71が形成されている。
図11に示すガスタービン6が備える燃焼器8は、ライナとして内筒81と尾筒82とを有する。
【0047】
次に、上述したタービン部材3を適用可能なガスタービン6について
図11を参照して以下に説明する。
図11は、一実施形態係るガスタービン6の部分断面構造を模式的に示す図である。このガスタービン6は、互いに直結された圧縮機61とタービン62とを備える。圧縮機61は、例えば軸流圧縮機として構成されており、大気又は所定のガスを吸込口から作動流体として吸い込んで昇圧させる。この圧縮機61の吐出口には、燃焼器8が接続されており、圧縮機61から吐出された作動流体は、燃焼器8によって所定のタービン入口温度まで加熱される。そして所定温度まで昇温された作動流体がタービン62に供給されるようになっている。
図11に示すように、タービン62のケーシング内部には、上述したガスタービン静翼5が、複数段設けられている。また、上述したガスタービン動翼4が、各静翼5と一組の段を形成するように主軸64に取り付けられている。主軸64の一端は、圧縮機61の回転軸65に接続されており、その他端には、図示しない発電機の回転軸が接続されている。
【0048】
このような構成により、燃焼器8からタービン62のケーシング内に高温高圧の作動流体を供給すれば、ケーシング内で作動流体が膨張することにより、主軸64が回転し、このガスタービン6と接続された図示しない発電機が駆動される。即ち、ケーシングに固定された各静翼5によって圧力降下させられ、これにより発生した運動エネルギーは、主軸64に取り付けられた各動翼4を介して回転トルクに変換される。そして、発生した回転トルクは、主軸64に伝達され、発電機が駆動される。
【0049】
一般に、ガスタービン動翼に用いられる材料は、耐熱合金(例えばIN738LC=インコ社の市販の合金材料)であり、ガスタービン静翼に用いられる材料は、同様に耐熱合金(例えばIN939=インコ社の市販の合金材料)である。即ち、タービン翼を構成する材料は、上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングにおいて耐熱基材11として採用可能な耐熱合金が使用されている。従って、上述した幾つかの実施形態に係るセラミックスコーティング10を、これらのタービン翼に適用すれば、遮熱効果と、耐食性及び耐久性に優れたタービン翼を得ることができるので、より高い温度環境で使用することができ、長寿命のタービン翼を実現することができる。また、より高い温度環境において適用可能であることは、作動流体の温度を高められることを意味し、これによりガスタービン効率を向上させることも可能となる。
このように、幾つかの実施形態に係るタービン部材3は、上述した幾つかの実施形態に係るセラミックスコーティング10を有するので、セラミックスコーティング10における熱サイクル耐久性を向上でき、タービン部材3の耐久性を向上できる。
また、幾つかの実施形態に係るガスタービン6は、上記タービン部材3を有するので、ガスタービン6におけるタービン部材3の耐久性を向上できる。
【0050】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0051】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るセラミックスコーティング10は、基材(耐熱基材11)上に形成されるボンドコート層12と、ボンドコート層12上に形成されるセラミックス層15とを備える。セラミックス層15は、ボンドコート層12との界面17と接する第1領域151と、第1領域151よりも界面17から遠い第2領域152とを有する。セラミックス層15の厚さ方向に沿った断面において、セラミックス層15内の2以上の亀裂31が交差する亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、第2領域152よりも第1領域151の方が多い。
【0052】
上記(1)の構成によれば、亀裂交差点33の単位面積当たりの数が第2領域152よりも第1領域151の方が多いので、上述したように、第1領域151では、第2領域152よりも剥離亀裂37の進展が抑制される。そのため、第2領域152よりも剥離亀裂37が生じ易い第1領域151において、剥離亀裂37の進展を効果的に抑制でき、セラミックスコーティング10における熱サイクル耐久性を向上できる。
【0053】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、第1領域151における亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、15,000個/mm2以上35,000個/mm2以下である。
【0054】
上記(2)の構成によれば、セラミックス層15の強度低下を抑制しつつ、剥離亀裂37の進展を抑制できる。
【0055】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、第1領域151の厚さは、30μm以上である。
【0056】
上記(3)の構成によれば、熱サイクル耐久性を向上できる。
【0057】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの構成において、第1領域151における亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、第2領域152における亀裂交差点33の単位面積当たりの数の1.2倍以上3倍以下である。
【0058】
上記(4)の構成によれば、セラミックス層の強度低下を抑制しつつ、剥離亀裂37の進展を抑制できる。
【0059】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの構成において、第1領域151の気孔率は、第2領域152の気孔率よりも小さい。
【0060】
上記(5)の構成によれば、第1領域151の気孔率が第2領域152の気孔率よりも小さいので、第1領域151では、第2領域152よりも剥離亀裂37の進展が抑制される。
【0061】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、第1領域151の気孔率は、3%以上40%以下である。
【0062】
上記(6)の構成によれば、耐久性の高いセラミックスコーティング10が比較的容易に得られる。
【0063】
(7)幾つかの実施形態では、上記(5)又は(6)の構成において、第1領域151の厚さt1は、第1領域151と第2領域152の厚さの和(t1+t2)の3%以上である。
【0064】
上記(7)の構成によれば、遮熱性を確保しつつ、剥離亀裂37の進展を抑制できる。
【0065】
(8)幾つかの実施形態では、上記(5)乃至(7)の何れかの構成において、セラミックス層15は、第2領域152よりも界面17から遠い第3領域153を有する。第3領域153の気孔率は、第2領域152の気孔率よりも小さい。
【0066】
上記(8)の構成によれば、第2領域152によってセラミックスコーティング10の遮熱性を確保しつつ、第3領域153によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
【0067】
(9)本開示の少なくとも一実施形態に係るセラミックスコーティング10は、基材上に形成されるボンドコート層12と、ボンドコート層12上に形成されるセラミックス層15とを備える。セラミックス層15の厚さ方向に沿った断面において、ボンドコート層12との界面17から少なくとも100μm以内の領域(基材側領域)154において2以上の亀裂31が交差する亀裂交差点33の単位面積当たりの数は、15,000個/mm2以上35,000個/mm2以下である。
【0068】
上記(9)の構成によれば、セラミックス層15の強度低下を抑制しつつ、剥離亀裂37の進展を抑制できる。
【0069】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、上記領域(基材側領域)154における気孔率は、3%以上40%以下である。
【0070】
上記(10)の構成によれば、耐久性の高いセラミックスコーティング10が比較的容易に得られる。
【0071】
(11)本開示の少なくとも一実施形態に係るタービン部材3は、上記(1)乃至(10)の何れかの構成のセラミックスコーティング10を有する。
【0072】
上記(11)の構成によれば、セラミックスコーティング10における熱サイクル耐久性を向上でき、タービン部材3の耐久性を向上できる。
【0073】
(12)本開示の少なくとも一実施形態に係るガスタービン6は、上記(11)の構成のタービン部材3を有する。
【0074】
上記(12)の構成によれば、ガスタービン6におけるタービン部材3の耐久性を向上できる。
【符号の説明】
【0075】
3 タービン部材
6 ガスタービン
10 セラミックスコーティング
11 耐熱基材(母材)
12 金属結合層(ボンドコート層)
15 セラミックス層
17 界面
31 亀裂
33 亀裂交差点
37 横割れ(剥離亀裂)
151 第1領域
152 第2領域
153 第3領域