(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞由来の胸腺オルガノイドのインビトロ生成
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20231025BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231025BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231025BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231025BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231025BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20231025BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231025BHJP
【FI】
C12N5/078
C12N5/0783
A61P35/00
A61P37/02
A61P31/00
A61P7/00
A61K35/17
(21)【出願番号】P 2020516436
(86)(22)【出願日】2018-09-19
(86)【国際出願番号】 US2018051625
(87)【国際公開番号】W WO2019060336
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-21
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510002280
【氏名又は名称】アメリカ合衆国
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ヴィズカルド、ラウル イー.
(72)【発明者】
【氏名】レスティフォ、ニコラス ピー.
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/143529(WO,A1)
【文献】Mol. Ther.,2015年,Vol. 23, No. 7,p. 1262-1277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロで胸腺オルガノイドを調製する方法であって、
(i)インビトロで多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させることと;
(ii)インビトロで前記内胚葉細胞を第3咽頭嚢内胚葉(PPE)細胞に分化させることと;
(iii)インビトロで前記第3PPE細胞を胸腺上皮前駆様細胞(TEPLC)に分化させることと;
(iv)インビトロ三次元培養で前記TEPLCを胸腺上皮前駆細胞(TEPC)に分化させることと;
(v)骨形成タンパク質4(BMP4)の存在下においてインビトロ三次元培養で前記TEPCを胸腺上皮細胞(TEC)に分化させることと;
(vi)インビトロ三次元培養で前記TECから胸腺オルガノイドを形成させることとを含み、
前記胸腺オルガノイドが、β5t、DLL4、及びインターロイキン7のうちのいずれか1つ以上を発現し、
前記方法が、前記細胞を間葉又は間質細胞と共培養することを含まない方法。
【請求項2】
(v)が、Wnt3a及び線維芽細胞成長因子7(FGF7)の一方又は両方の存在下においてインビトロ三次元培養で前記TEPCをTECに分化させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)の前に少なくとも1日間、哺乳類細胞基底マトリクスにおいて前記多能性幹細胞を培養することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記TEPLCが、ケラチン5
+/ケラチン8
+/FOXN1
-である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞を継代することを含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(iii)が、前記細胞を解離させることなく前記第3PPE細胞をTEPLCに分化させることを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記胸腺オルガノイドが、ケラチン5
+/ケラチン8
+/FOXN1
+細胞を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記胸腺オルガノイドが、ケラチン5
+/ケラチン8
+/胸腺プロテオソームβ5t
+細胞を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記胸腺オルガノイドが、ケラチン5
高/ケラチン8
低細胞を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記胸腺オルガノイドが、ケラチン5
低/ケラチン8
高細胞を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(i)~(vi)のうちのいずれか1つ以上がゼノフリー培地で実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記胸腺オルガノイドを培養して、T細胞の分化を促進する1つ以上の自己タンパク質を過剰発現させることを更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
T細胞の分化を促進する1つ以上の前記自己タンパク質が、DLL4及びIL-7のうちの1つ以上を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(iv)が、1つ以上の間葉系幹細胞(MSC)因子の存在下で前記TEPLCをTEPCに分化させることを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ以上のMSC因子が、FGF7、BMP4、Wnt3a、線維芽細胞成長因子10(FGF10)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、線維芽細胞成長因子8(FGF8)、トランスフォーミング成長因子β阻害剤(TGFβ
inh)、及びシクロパミンのうちの1つ以上を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記MSC因子のうちの1つ以上が、FGF10、IGF-1、FGF8、TGFβ
inh、及びシクロパミンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
インビトロで胸腺移出T細胞を調製する方法であって:
胸腺オルガノイドを請求項1~16のいずれか一項に記載の方法によりインビトロで調製することと;
前記細胞を前記胸腺オルガノイドから放出させることであって、前記胸腺オルガノイドから放出される前記細胞が、胸腺移出T細胞であることと;
前記胸腺オルガノイドから前記胸腺移出T細胞を単離することとを含む方法。
【請求項18】
哺乳類における病態の治療又は予防のための剤を製造する方法であって:
請求項1~16のいずれか一項に記載の方法により胸腺オルガノイドを調製することと;
前駆細胞を前記胸腺オルガノイドに遊走させることと;
前記
胸腺オルガノイドに遊走した細胞を前記胸腺オルガノイドから放出させることであって、前記胸腺オルガノイドから放出され
る細胞が、胸腺移出T細胞であることと;
前記胸腺オルガノイドから前記胸腺移出T細胞を単離することとを含み、
前記胸腺移出T細胞が前記剤に製剤化される、方法。
【請求項19】
前記病態が、がん、免疫不全、自己免疫病態、感染症、又は血液病態である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、その開示全体が参照により本明細書に組み入れられる、2017年9月20日出願の米国仮出願第62/560,908号の利益を主張する。
【0002】
連邦支援の研究又は開発に関する記述
本発明は、米国国立衛生研究所、国立がん研究所、外科部門によって、プロジェクト番号Z01BC010763の下、政府の支援を受けて成された。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
T細胞系列の細胞を使用する養子細胞療法(ACT)は、様々な病態、例えばがんの治療において良好な臨床結果をもたらすことができる。しかし、インビトロ又はエクスビボにおけるT細胞系列の細胞の生成は、困難であり得る。従って、ACT用の細胞を調製するのに有用な改善された材料及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施形態は、インビトロで胸腺オルガノイドを調製する方法であって、(i)インビトロで多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させることと;(ii)インビトロで該内胚葉細胞を第3咽頭嚢内胚葉(PPE)細胞に分化させることと;(iii)インビトロで該第3PPE細胞を胸腺上皮前駆様細胞(TEPLC)に分化させることと;(iv)インビトロ三次元培養で該TEPLCを胸腺上皮前駆細胞(TEPC)に分化させることと;(v)骨形成タンパク質4(BMP4)の存在下においてインビトロ三次元培養で該TEPCを胸腺上皮細胞(TEC)に分化させることと;(vi)インビトロ三次元培養で該TECから胸腺オルガノイドを形成させることとを含み、該胸腺オルガノイドが、β5t、DLL4、及びインターロイキン7のうちのいずれか1つ以上を発現し、該方法が、該細胞を間葉又は間質細胞と共培養することを含まない方法を提供する。
【0005】
本発明の更なる実施形態は、本発明の方法によって調製される胸腺オルガノイドを提供する。
【0006】
本発明の別の実施形態は、インビトロで胸腺移出T細胞(thymic emigrant cell)を調製する方法であって、前駆細胞を本発明の胸腺オルガノイドに遊走させることと;該細胞を該胸腺オルガノイドから放出させることであって、該胸腺オルガノイドから放出される該細胞が、胸腺移出T細胞であることと;該胸腺オルガノイドから該胸腺移出T細胞を単離することとを含む方法を提供する。
【0007】
本発明の別の実施形態は、哺乳類における病態を治療又は予防する方法であって、本発明の方法によってインビトロで胸腺移出T細胞を調製することと;該哺乳類における該病態を治療又は予防するのに有効な量の該胸腺移出T細胞を該哺乳類に投与することとを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る、インビトロで胸腺オルガノイドを生成する方法を示す概略図である。
【
図2】
図2Aは、フローサイトメトリーによる、アイソタイプ対照IgG(488)及びアロフィコシアニン(APC)で染色されたIgGの検出を示す実験データを示す。
図2Bは、CD34+ヒト臍帯血細胞(HCB)由来の人工多能性幹細胞(iPS)によるK5及びK8の発現を示す実験データを示す。
図2Cは、T細胞由来のiPS(T-iPS)によるK5及びK8の発現を示す実験データを示す。
図2Dは、フローサイトメトリーによるアイソタイプ対照IgG(488)の検出を示す実験データを示す。ヒストグラムの左上隅の数字は、アイソタイプ対照IgG(488)を使用して検出されなかった細胞の百分率である。右上隅の数字は、アイソタイプ対照IgG(488)を使用して検出された細胞の百分率を表す。
図2Eは、CD34+HCB-iPS細胞によるFOXN1の発現を示す実験データを示す。ヒストグラムの左上隅の数字は、FOXN1を発現していない細胞の百分率である。右上隅の数字は、FOXN1を発現している細胞の百分率を表す。
図2Fは、T-iPS細胞によるFOXN1の発現を示す実験データを示す。ヒストグラムの左上隅の数字は、FOXN1を発現していない細胞の百分率である。右上隅の数字は、FOXN1を発現している細胞の百分率を表す。
【
図3】
図3Aは、15日目のアイソタイプ対照IgG(488)におけるK5及びK8の細胞発現を示す実験データを示す。
図3Bは、21日目のXF培地におけるHCB-iPS細胞によるK5及びK8の細胞発現を示す実験データを示す。
図3Cは、50ng/mL FGF7及び50mg/mL Wnt3aを含む21日目のXF培地におけるT-iPS細胞によるK5及びK8の細胞発現を示す実験データを示す。
図3Dは、15日目の対照細胞のFOXN1の細胞発現を示す実験データを示す。ヒストグラムの左上隅の数字は、FOXN1を発現していない細胞の百分率である。右上隅の数字は、FOXN1を発現している細胞の百分率を表す。
図3Eは、21日目のXF培地におけるFOXN1の細胞発現を示す実験データを示す。ヒストグラムの左上隅の数字は、FOXN1を発現していない細胞の百分率である。右上隅の数字は、FOXN1を発現している細胞の百分率を表す。
図3Fは、50ng/mL FGF7及び50mg/mL Wnt3aを含むXF培地における21日目のFOXN1の細胞発現を示す実験データを示す。ヒストグラムの左上隅の数字は、FOXN1を発現していない細胞の百分率である。右上隅の数字は、FOXN1を発現している細胞の百分率を表す。
【
図4】本発明の実施形態に係る、ヒトiPS(0日目)の原始内胚葉(5~9日目)、第3咽頭嚢(9~13日目)、及び胸腺上皮前駆様細胞(14日目)への分化を示す概略図である。
【
図5】
図5Aは、本発明の実施形態に係る、次にK5+K8+FOXN1+胸腺オルガノイドに分化するK5+K8+FOXN1-細胞スフェロイドへのTEPLCの分化を示す概略図である。
図5Bは、3つの因子(3F):BMP4、Wnt3a、及びFGF7(KGF)の存在下又は非存在下で成長させたTECの体積(μm3)を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係る、生存人工多能性幹細胞胸腺オルガノイド(iTO)へのTEPLCの分化(下)と比較した、最終的に崩壊する胸腺オルガノイドへのTEPLCの分化(上)を示す概略図である。「A」と名付けられた細胞は、より古く、より分化した細胞を示す。「B」と名付けられた細胞は、より若く、あまり分化していない細胞を示す。
【
図7】様々な培地で成長させたオルガノイドの全オルガノイド面積と比較したβ5t発現の比を示す実験データを示すグラフである。Y軸は、全オルガノイド面積と比較したβ5t発現の比を表す。X軸は、オルガノイドを成長させるために使用した様々な培養培地を表す。3F培地は、TEC増幅培地+100ng/mL Wnt3a+100ng/mL FGF7+50ng/mL BMP4を含む。5F培地は、TEC増幅培地+100mg/mL FGF8、100ng/mL FGF10、100ng/mL IGF-1、KAAD-シクロパミン 0.5μM、及びTGFβ-RIキナーゼ阻害剤 5μM(LY364947、Tocris、Bio-Techne Corporation,Minneapolis,MN)を含む。5F培地+FGF8は、線維芽細胞成長因子8が添加された上記5F培地を含む。5F+阻害剤培地は、TGFβ-RIキナーゼ阻害剤が添加された上記5F培地を含む。
【
図8】本発明の実施形態に係る、ヒトMSC因子の添加がオルガノイド形成を改善することができるかどうかを検証するための実験設計プロトコルを示す概略図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る治療方法を示す概略図である。
【
図10A】DAPI染色による細胞核の検出を示す、7日間の3D培養後に共焦点顕微鏡で撮影されたhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図10B】ALEXA FLUOR二次抗体染色とコンジュゲートした抗FOXN1抗体の検出を示す、7日間の3D培養後に共焦点顕微鏡で撮影された
図10Aと同じhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図11A】DAPIで染色された細胞核の検出を示す、42日間の3D培養後に共焦点顕微鏡で撮影されたhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図11B】ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗ケラチン-8抗体の検出を示す、共焦点顕微鏡で撮影された
図11Aに示したのと同じhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図12A】DAPIで染色された細胞核の検出を示す、
図11Aに示した42日間の3D培養後に共焦点顕微鏡で撮影されたhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図12B】ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗ケラチン-5抗体の検出を示す、共焦点顕微鏡で撮影された
図12Aに示したのと同じhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図13A】DAPIで染色された細胞核の検出を示す、
図11Aに示した42日間の3D培養後に共焦点顕微鏡で撮影されたhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図13B】ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした胸腺プロテオソーム(thymoproteosome)β5t抗体の検出を示す、共焦点顕微鏡で撮影された
図13Aに示したのと同じhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図14A】DAPIで染色された細胞核の検出を示す、42日間の3D培養後に共焦点顕微鏡で撮影されたhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図14B】ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗HLA-DR抗体の検出を示す、共焦点顕微鏡で撮影された
図14Aに示したのと同じhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図15A】DAPIで染色された細胞核の検出を示す、42日間の3D培養後に共焦点顕微鏡で撮影されたhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図15B】ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗DLL4抗体の検出を示す、共焦点顕微鏡で撮影された
図15Aに示したのと同じhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【
図16A】DAPIで染色された細胞核の検出を示す、
図14Aに示した、42日間の3D培養後に共焦点顕微鏡で撮影されたhiPSC由来のオルガノイドの画像である。この画像のために調製されたスライドは、
図14Aに示した組織切片と比較して、該オルガノイドの異なる組織切片のものである。
【
図16B】ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗IL-7抗体の検出を示す、共焦点顕微鏡で撮影された
図16Aに示したhiPSC由来のオルガノイドの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態は、インビトロで胸腺オルガノイドを調製する方法を提供する。オルガノイドは、臓器のインビトロ三次元ミニチュアバージョンである。本発明の方法によって生成される胸腺オルガノイドは、ヒト胸腺の生理及び機能を模倣することができる。本発明の実施形態は、様々な利点のうちのいずれか1つ以上を提供することができる。例えば、本発明の方法によって生成される、ヒトiPS(人工多能性幹細胞)由来の胸腺オルガノイド(hiTO)は、哺乳類における病態、例えばがんを治療又は予防するのに有用であり得るT細胞系列の細胞(例えば、胸腺移出T細胞)を生成することができる。あるいは又は更に、本発明の方法は、胸腺で生じるポジティブセレクションプロセシングを模倣することができるオルガノイドを提供することができる。ポジティブセレクションプロセスとは、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)を認識し、相互作用する、新たに形成された胸腺細胞の能力を指す。ヒト胸腺におけるポジティブセレクションの間、MHCに結合することができる胸腺細胞のみが生き延び、髄質に遊走し、成熟T細胞に分化することができる。本発明の方法の実施形態は、ヒト胸腺に類似している胸腺上皮細胞を三次元(3D)組織化で生成することができる。実施形態では、本発明の方法は、インビトロでT細胞を分化させることができる機構を有するオルガノイドを生成することができる。実施形態では、本発明は、自己T細胞を生成する方法を提供することができる。本発明の実施形態は、血液貯蔵のため、並びに病態、例えば、貧血及び他の血球減少症を治療するための、稀な血液型のT及びNKT細胞産物を生成する方法を提供することができる。幾つかの実施形態では、本発明の方法は、免疫不全の患者のためのT及びNKT細胞を生成することができる。
【0010】
実施形態では、本発明の方法は、インビトロで多能性幹細胞を胚体内胚葉細胞に分化させることを含み得る。これに関して、該方法は、多能性幹細胞を胚体内胚葉細胞に分化させるのに十分な時間及び条件下で、多能性幹細胞を培養することを含み得る。例えば、該方法は、約3~約6日間、例えば約5日間、TGFβスーパーファミリーのメンバーの存在下で多能性幹細胞を培養することを含み得る。本発明の方法において有用であり得るTGFβスーパーファミリーの好適なメンバーとしては、例えば、アクチビンA、又はWntファミリーメンバー3A(Wnt3A)と骨形成タンパク質4(BMP4)と線維芽細胞成長因子(FGF)との組み合わせが挙げられる。実施形態では、該方法は、約3~約6日間、例えば約5日間、アクチビンAの存在下で多能性幹細胞を培養することを含み得る。
【0011】
あるいは又は更に、インビトロにおける多能性幹細胞の胚体内胚葉細胞への分化は、PCLポリ(ε-カプロラクトン、ナノファイバー足場)において、好適な低分子、例えばRhoK阻害剤又はiDE1(胚体内胚葉の誘導因子1)の存在下で多能性幹細胞を培養することを含み得る。実施形態では、該方法は、約3~約6日間、例えば約5日間、RhoK阻害剤の存在下で多能性幹細胞を培養することを含み得る。
【0012】
別の実施形態では、インビトロにおける多能性幹細胞の胚体内胚葉細胞への分化は、例えば、アクチビン経路における上流又は下流の遺伝子を標的とすることを含み得る。
【0013】
好適な多能性幹細胞は、任意の多能性幹細胞であってよい。多能性幹細胞は、3つの胚葉:内胚葉、中胚葉、及び外胚葉のいずれかを生じさせる能力を有する。多能性幹細胞は、例えば、幹細胞、例えば胚幹細胞、核移植由来の胚幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)等を含み得る。多能性幹細胞は、(i)自己再生能及び(ii)多能性を含む幹細胞の表現型を有し得る。例えば、多能性幹細胞、例えばiPSCは、胚幹細胞(ESC)と形態的に識別不可能であり得る。例えば、多能性幹細胞、例えばiPSCは、円形の大きな核小体及び小さな体積の原形質のうちのいずれか1つ以上を有し得る。あるいは又は更に、多能性幹細胞、例えばiPSCは、有糸分裂的に活性がある、活発に自己再生する、増殖する、及び分裂するの、うちの1つ以上であってよい。あるいは又は更に、多能性幹細胞、例えばiPSCは、様々な多能性関連遺伝子のうちのいずれか1つ以上を発現し得る。多能性関連遺伝子としては、Oct-3/4、Sox2、Nanog、GDF3、REX1、FGF4、ESG1、DPPA2、DPPA4、hTERT、及びSSEA1を挙げることができるが、これらに限定されない。あるいは又は更に、多能性細胞、例えばiPSCは、様々な多能性関連マーカーのうちのいずれか1つ以上を発現し得る。例えば、ヒトiPSCは、マーカーSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、及びNanogのうちのいずれか1つ以上を発現し得る。マウスiPSCは、マーカーSSEA-1を発現し得る。
【0014】
実施形態では、本発明の方法は、インビトロで多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる前に少なくとも1日間、哺乳類細胞基底マトリクスにおいて多能性幹細胞を培養することを含み得る。本発明の方法において有用であり得る哺乳類細胞基底マトリクスの例は、MATRIGEL膜マトリクス(BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ)である。本発明の実施形態では、哺乳類細胞基底マトリクスは、RhoK阻害剤を含む。本発明の実施形態では、細胞基底マトリクスは、多能性幹細胞を培養するのに好適な培地(例えば、ESSENTIAL8培地(Gibco,Waltham,MA))を含む。特定の理論又は機序に縛られるものではないが、インビトロで多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させる前に少なくとも1日間、RhoK阻害剤と共に哺乳類細胞基底マトリクスにおいて多能性幹細胞を培養すると、該細胞のアポトーシスを低減又は阻止することができると考えられる。
【0015】
実施形態では、該方法は、インビトロで内胚葉細胞を第3PPE細胞に分化させることを含む。これに関して、該方法は、内胚葉細胞を第3PPE細胞に分化させるのに十分な時間及び条件下で、内胚葉細胞を培養することを含み得る。例えば、該方法は、約3~約6日間、例えば約5日間、レチノイン酸、wnt/カテニンシグナル伝達阻害剤、例えばIWR-1、又は関連する小さな化学物質、例えば、JW67、JW74、NSC668036、AMBMP塩酸塩、FH535、カルジオノーゲン1、IWP4、PNU74654、iCRT14、KY02111、ICG001、及びCCT031374臭化水素酸塩のうちの1つ以上の存在下で内胚葉細胞を培養することを含み得る。あるいは又は更に、該方法は、約3~約6日間、例えば約5日間、wnt/カテニン経路を阻害するか又はwnt/カテニン経路における上流若しくは下流の遺伝子を阻害するために、アプタマー及び/又は抗体の存在下で内胚葉細胞を培養することを含み得る。実施形態では、該方法は、約3~約6日間、例えば約5日間、レチノイン酸及びIWR-1の存在下で内胚葉細胞を培養することを含み得る。第3咽頭嚢は、ヒト胸腺における胸腺上皮の一部を生じさせる構造である。咽頭嚢は、一過性の胚構造であり、そして、胸腺及び副甲状腺を含む頭蓋顔面器官を生じさせる。予定胸腺及び副甲状腺は、それぞれ、転写因子Foxn1及びGcm2の発現によって特徴付けられる。
【0016】
実施形態では、該方法は、インビトロで第3PPE細胞をTEPLCに分化させることを含む。これに関して、該方法は、第3PPE細胞をTEPLCに分化させるのに十分な時間及び条件下で、第3PPE細胞を培養することを含み得る。例えば、該方法は、約3~約6日間、Wnt経路における1つ以上の分子、例えば、Wnt3a及びWnt4、並びに/又はTGFβスーパーファミリーのメンバー、例えば、BMP2、BMP3、BMP5、BMP6、BMP7、アクチビン、TGFβ及び/若しくはインヒビン、又は関連する経路を誘発若しくは阻害する剤の存在下で第3PPE細胞を培養することを含み得る。実施形態では、該方法は、約3~約6日間、例えば約5日間、BMP4及びWnt3aの存在下で第3PPE細胞を培養することを含み得る。
【0017】
本発明の実施形態では、TEPLCは、ケラチン5+/ケラチン8+/FOXN1-である。本発明の実施形態では、TEPLCは、ケラチン5+/ケラチン8+/FOXN1-/β5t-である。ヒト胸腺における細胞の大部分は、ケラチン5及びケラチン8を発現する。ケラチン5及びケラチン8を高発現する細胞の集団は、TEC両能性又は前駆体領域と称される。特定の理論又は機序に縛られるものではないが、ケラチン5+/ケラチン8+TEC両能性又は前駆体領域は、胸腺皮質及び胸腺髄質を生じさせると考えられる。
【0018】
別の実施形態では、本発明の方法は、(i)インビトロで多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させること;(ii)インビトロで該内胚葉細胞を第3PPE細胞に分化させること;及び/又は(iii)該細胞を解離させることなく、インビトロで該第3PPE細胞をTEPLCに分化させることを含む。好ましい実施形態では、該方法は、該細胞を解離させることなく、インビトロで第3PPE細胞をTEPLCに分化させることを含む。
【0019】
実施形態では、該方法は、インビトロ三次元培養でTEPLCをTEPCに分化させることを含む。これに関して、該方法は、TEPLCをTEPCに分化させるのに十分な時間及び条件下で、TEPLCを培養することを含み得る。例えば、該方法は、TEC増幅培地においてTEPLCを培養することを含み得る。TEC増幅培地は、例えば、EBMB、B27血清代替物、ヒドロコルチゾン、コレラ毒素B、及びヒト上皮成長因子(EGF)を含み得る。TEC増幅培地は、追加の因子を含んでいてもよい。該追加の因子は、例えば、Wnt3a、FGF7、及びBMP4を含み得る。TEPLCは、約60日間~約150日間、又は約6~約60日間、又は約20~約45日間、例えば、約7日間又は42日間培養してよい。培養期間は限定されず、例えば、数ヶ月間であってもよい。TEPLCを培養した結果、例えばTEPLCの多層領域の中心に位置し得る三次元スフェロイドが得られ得る。該スフェロイドの一部を取り出し、3D培養に移してもよく、そこで、該細胞はTEPCに更に分化し得る。マウス胎児胸腺内のTEPC集団は、K5+K8+TEC、汎サイトケラチン+EpCAM+又は汎サイトケラチン+MTS24+又はEpCAM1+MTS24+、MTS20+、EpCAM1+CD205+CD40-、及びClaudin3/4loUEA1-を含む、幾つかの表面マーカーで区別されている。
【0020】
特定の理論又は機序に縛られるものではないが、3D培養は、二次元(2D)培養、例えば、単層培養における胸腺間質細胞(TSMC)の2D培養と比較して、胸腺オルガノイドの発生の促進により有効であり得ると考えられる。好適な3D培養系は、任意の3D培養系、例えば、ハンギングドロッププレート及び超低接着マルチウェルプレートを含み得る。ハンギングドロッププレートは市販されており、例えば、Biospherix,Parish,NYから入手可能なPERFECTA3Dハンギングドロッププレートである。超低接着マルチウェルプレートも市販されており、例えば、Stemcell Technologies,Vancouver,Canadaから入手可能なAGGREWELL超低接着マルチウェルプレートである。
【0021】
実施形態では、該方法は、BMP4の存在下においてインビトロ三次元培養でTEPCをTECに分化させることを含む。これに関して、該方法は、TEPCをTECに分化させるのに十分な時間及び条件下で、TEPCを培養することを含み得る。実施形態では、本発明の方法は、BMP4、Wnt3a、及び線維芽細胞成長因子7(FGF7)のうちの1つ以上の存在下でインビトロ三次元培養においてTEPCをTECに分化させることを含む。好ましくは、該方法は、BMP4、Wnt3a、及びFGF7の全ての存在下においてインビトロ三次元培養でTEPCをTECに分化させることを含む。本明細書で使用するとき、「Wnt3a」とは、Wntファミリーメンバー3Aを指す。WNT遺伝子ファミリーは、上皮間葉転換を含む特定の上皮の形態学的プロセスに関与する分泌型シグナル伝達タンパク質をコードしている、構造的に関連する遺伝子を含む。
【0022】
胚発生中、サイトケラチン5及びサイトケラチン8を共発現するTECの小さな集団が存在し、このことは、皮質及び髄質のTECを両方生じさせ得る前駆細胞(TEPC)の存在を示す。E10.5における第3咽頭嚢の上皮細胞の全てが、cTEC及びmTECをそれぞれ特徴付ける4F1及びIVC4の両方を発現することを示すことによって、幾つかの系統の証拠が、共通の前駆体の存在を支持している。ヒトTECはBMP4を生成し、胸腺細胞及び胸腺上皮はいずれも、このタンパク質に対する応答に関与する分子機構を発現する。更に、ヒト胸腺における皮質胸腺上皮細胞(cTEC)は、分化シグナルを提供し、未成熟Tリンパ球の指向性遊走及び集団増幅を制御し、そして、自己主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を認識することができるCD4+CD8+胸腺細胞の正の選択を行う。胸腺の上皮成分(TEC)は、最終的に、ヒト胸腺の髄質を生じさせる。TECは、共通のリンパ球前駆細胞からのT細胞の分化及び成熟を促進する、基本的な三次元構造を形成する。様々なTECの適切な分化及び組織化は、胸腺細胞の発生及びT細胞レパートリーの選択の両方に関与している。TEC関連遺伝子としては、サブユニットベータ-5t(Pmsb11によってコードされている)、Ly-51/CD249(Enpep)、デルタ様リガンド4(Dll4)、及びセリンプロテアーゼ16(Prss16)、及びCD205(DEC-205,Ly75)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0023】
実施形態では、本発明の方法は、インビトロ三次元培養でTECから胸腺オルガノイドを形成することを含み得る。胸腺オルガノイドは、β5t、DLL4、及びインターロイキン7のうちのいずれか1つ以上を発現し得る。本明細書で使用するとき、用語「β5t」とは、発生中の胸腺細胞のポジティブセレクションに関与する皮質胸腺上皮細胞でのみ発現する遺伝子マーカーを指す。本明細書で使用するとき、用語「DLL4」とは、デルタ様カノニカルNotchリガンド4を指す。デルタ遺伝子ファミリーは、DSLドメイン、EGFリピート、及び膜貫通ドメインを特徴とするNotchリガンドをコードしている。本明細書で使用するとき、用語「インターロイキン7」又は「IL-7」とは、ヒトT細胞の発生に関与する、胸腺によって分泌される成長因子を指す。
【0024】
本発明の実施形態では、該方法は、(i)より若く、あまり分化していないTEPLC及び(ii)より古く、より分化した細胞(例えば、TEPC又はTEC)のコレクションを一緒に三次元培養に移し、そして、三次元培養で該細胞を培養して胸腺オルガノイドを形成させることを含み得る(
図6)。より若く、あまり分化していないTEPLCは、3Dスフェロイドにおいて、より古く、より分化した細胞(例えば、TEPC又はTEC)を取り囲み得る。特定の理論又は機序に縛られるものではないが、球形構造を形成するより古く、より分化した細胞は、下層のより若く、あまり分化していない細胞よりも分化している可能性があると考えられる。より古く、より分化した細胞は、連続増幅後に疲弊している可能性がある。下層の細胞は、あまり分化していないので、後期のオルガノイド成長に寄与する可能性があると考えられる。
【0025】
本発明の方法は、細胞を間葉又は間質細胞と共培養することを含み得、好ましい実施形態では、本発明の方法は、細胞を間葉又は間質細胞と共培養することを含まない。これに関して、本発明の方法は、本発明の方法の細胞のいずれか、すなわち、多能性幹細胞、内胚葉細胞、第3PPE細胞、TEPLC、TEPC、TEC、又は胸腺オルガノイドを間葉又は間質細胞と共培養することを含まない。本明細書で使用するとき、用語「間葉」とは、細胞外マトリクスに埋め込まれている疎性細胞(loose cells)で構成される組織の種類を指す。間葉は、細胞接触及び短時間作用型因子を通して発生中の器官の器官特異的特徴の確定において決定力のある役割を与える。間葉は、一次胚葉が発生し、細胞集団がその接着特性を失って、上皮のシートから剥離する前に形成される。上皮間葉転換と呼ばれるこのプロセスによって、胚の中胚葉層が生じる。上皮間葉転換は、細胞の増殖及び組織の修復において役割を果たし、多くの病理学的プロセスにおいて示されている。実施形態では、本発明の方法は、該細胞を間葉系幹細胞と共培養することを含まない。これに関して、本発明の方法は、本発明の方法における細胞のいずれか、すなわち、多能性幹細胞、内胚葉細胞、第3PPE細胞、TEPLC、TEPC、TEC、又は胸腺オルガノイドを間葉系幹細胞と共培養することを含まない。
【0026】
本明細書で使用するとき、用語「間質細胞」とは、骨、軟骨、造血支持間質、及び脂肪細胞等の骨格組織成分の前駆体を指す。間質細胞は、様々な細胞型への分化を受けるように実験的に誘導することができる。更に、間質細胞は、胚幹細胞(ESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)から生成され得る。
【0027】
実施形態では、本発明の方法は、該細胞を継代することを含まない。これに関して、(i)インビトロで多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させること;(ii)インビトロで該内胚葉細胞を第3PPE細胞に分化させること;(iii)インビトロで該第3PPE細胞をTEPLCに分化させること;(iv)インビトロ三次元培養で該TEPLCをTEPCに分化させること;(v)BMP4の存在下においてインビトロ三次元培養で該TEPCをTECに分化させること;及び(vi)インビトロ三次元培養で該TECから胸腺オルガノイドを形成させることのうちのいずれか1つ以上は、該細胞を継代することを含まない。継代は、培養細胞において実施される一般的な操作である。継代(継代培養、細胞の増幅又は分割とも称される)は、少数の細胞を新しい容器に移すことを伴う。細胞を定期的に分割した場合、継代によって、より長い期間にわたって該細胞を培養することが可能になるが、その理由は、長期にわたる高い細胞密度に関連する老化が回避されるためである。接着培養の場合、継代は、細胞を解離させることを伴う。継代は、一般的に、トリプシン-EDTAの混合物又は他の酵素ミックスを用いて行われる。継代は、少数の解離させた細胞を新たな培地に播種することを伴い得る。実施形態では、本発明の方法は、該細胞を継代及び解離することを回避する。
【0028】
実施形態では、本発明の方法は、ゼノフリー培地で実施される。本明細書で使用するとき、用語「ゼノフリー」とは、非ヒト動物成分への直接又は間接的な曝露が存在しないことを指す。ゼノフリー培地の利点としては、潜在的な夾雑物が存在しない、並びに培養培地の性能及び品質の両方において一貫性が向上することが挙げられる。これに関して、(i)インビトロで多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させること;(ii)インビトロで該内胚葉細胞を第3PPE細胞に分化させること;(iii)インビトロで該第3PPE細胞をTEPLCに分化させること;(iv)インビトロ三次元培養で該TEPLCをTEPCに分化させること;(v)BMP4の存在下においてインビトロ三次元培養で該TEPCをTECに分化させること;及び(vi)インビトロ三次元培養で該TECから胸腺オルガノイドを形成させることのうちのいずれか1つ以上(好ましくは全て)が、ゼノフリー培地で実施される。
【0029】
実施形態では、本発明の方法は、1つ以上の間葉系幹細胞(MSC)因子の存在下で、以下のうちのいずれか1つ以上を実施することを含み得る:(i)インビトロで多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化させること;(ii)インビトロで該内胚葉細胞を第3PPE細胞に分化させること;(iii)インビトロで該第3PPE細胞をTEPLCに分化させること;(iv)インビトロ三次元培養で該TEPLCをTEPCに分化させること;(v)BMP4の存在下においてインビトロ三次元培養で該TEPCをTECに分化させること;及び(vi)インビトロ三次元培養で該TECから胸腺オルガノイドを形成させること。好ましくは、該方法は、1つ以上のMSC因子の存在下でTEPLCをTEPCに分化させることを含む。MSC因子は、MSC及び間葉から単離又は精製することができる。MSC因子としては、線維芽細胞成長因子7(FGF7又はKGF7)、骨形成タンパク質4(BMP4)、タンパク質Wnt-3a(Wnt3a)、線維芽細胞成長因子10(FGF10)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、線維芽細胞成長因子8(FGF8)、トランスフォーミング成長因子β(TGFβinh)、及びシクロパミンのうちの1つ以上を挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、1つ以上のMSC因子は、FGF10、IGF-1、FGF8、TGFβ阻害剤、及びシクロパミンを含む。
【0030】
他の実施形態では、本発明の方法は、胸腺オルガノイドを培養して、T細胞の分化に関与する1つ以上の自己タンパク質を過剰発現させることを含み得る。特定の実施形態では、T細胞の分化に関与する1つ以上の自己タンパク質は、DLL4及びIL-7のうちの1つ以上を含む。実施形態では、本発明の方法は、T細胞の分化に関与する1つ以上の分子、抗体、又は薬物と共に胸腺オルガノイドを培養することを含み得る。T細胞の分化に関与する1つ以上の分子、抗体、又は薬物としては、例えば、Il-7、Flt3L、SCF、IL-2、IL-1b、IFN、アスコルビン酸、T細胞活性化抗体(特に、抗Cd-3、抗TCRa又はTCRb、抗CD28、抗CD49d)及び/又は免疫抑制薬を挙げることができる。
【0031】
本発明の別の実施形態は、本発明の他の態様に関して本明細書に記載される本発明の方法のいずれかによって生成される胸腺オルガノイドを提供する。
【0032】
実施形態では、本発明の方法によって生成される胸腺オルガノイドは、ケラチン5+/ケラチン8+/FOXN1+細胞を含む。転写因子フォークヘッドボックスN1(FOXN1)は、胸腺上皮細胞の発生に関与している。
【0033】
実施形態では、本発明の方法によって生成される胸腺オルガノイドは、ケラチン5+/ケラチン8+/胸腺プロテオソームβ5t+細胞を含み得る。上述の通り、β5tは、発生中の胸腺のポジティブセレクションに関与している。これも上述の通り、特定の理論又は機序に縛られるものではないが、ケラチン5+/ケラチン8+TEC両能性又は前駆体領域は、ヒト胸腺において胸腺皮質及び胸腺髄質を生じさせると考えられる。
【0034】
特定の実施形態では、胸腺オルガノイドは、ケラチン5高/ケラチン8低細胞を含む。
【0035】
特定の実施形態では、胸腺オルガノイドは、ケラチン5低/ケラチン8高細胞を含む。
【0036】
本明細書で使用するとき、用語「陽性」(「+」と略される場合もある)は、指定の細胞マーカーの発現に関連して、細胞が、例えば低い(が検出可能な)レベルの発現及び高い(高)レベルの発現を含み得る任意の検出可能なレベルで指定の細胞マーカーを発現することを意味する。用語「陰性」(「-」と称される場合もある)は、指定の細胞マーカーの発現に関連して本明細書で使用するとき、細胞が、任意の検出可能なレベルでは指定の細胞マーカーを発現しないことを意味する。用語「高い」(「高」と略される場合もある)は、指定の細胞マーカーの発現に関連して本明細書で使用するとき、免疫組織化学的方法(例えば、FACS、フローサイトメトリー、免疫蛍光アッセイ、及び顕微鏡)を使用して、指定の細胞マーカーの発現について陽性である他の細胞よりも明るく指定の細胞マーカーが染色される、指定の細胞マーカーの発現について陽性である細胞のサブセットを指す。例えば、指定の細胞マーカーが「高」レベルで発現する細胞は、指定の細胞マーカーの発現について陽性である他の細胞の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、若しくは約95%、又は前述の値のうちのいずれか2つの範囲よりも明るく染色され得る。用語「低い」は、指定の細胞マーカーの発現に関連して本明細書で使用するとき、免疫組織化学的方法を使用して、指定の細胞マーカーの発現について陽性である他の細胞よりも暗く指定の細胞マーカーが染色される、指定の細胞マーカーの発現について陽性である細胞のサブセットを指す。例えば、指定の細胞マーカーが「低」レベルで発現する細胞は、指定の細胞マーカーの発現について陽性である他の細胞の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、若しくは約95%、又は前述の値のうちのいずれか2つの範囲よりも暗く染色され得る。
【0037】
本発明の方法によって生成される胸腺オルガノイドは、養子細胞療法のためのT細胞系列の細胞(例えば、胸腺移出T細胞)を生成するのに有用であり得る。従って、本発明の実施形態は、インビトロで胸腺移出T細胞を調製する方法を提供する。
【0038】
該方法は、前駆細胞を本発明の胸腺オルガノイドに遊走させることを含み得る。例えば、T細胞系列へと発生する能力を有する任意の前駆細胞が、本発明の胸腺オルガノイドに遊走させるのに好適であり得る。好適な前駆細胞の例としては、原始中胚葉細胞、造血前駆体、多能性幹細胞由来細胞、造血幹細胞、T細胞前駆体、ダブルポジティブT細胞、及び未成熟T細胞系列細胞を挙げることができる。実施形態では、前駆細胞の遊走は、前駆細胞を胸腺オルガノイドに播種することを伴い得る。
【0039】
該方法は、支持細胞を胸腺オルガノイドに遊走させることを更に含み得る。本発明の胸腺オルガノイドに遊走させるのに好適であり得る支持細胞としては、例えば、間葉系幹細胞、又は胸腺に一般的に存在し、TEPCから直接には生成されない任意の他の細胞を挙げることができる。TEPCから直接には生成されない好適な支持細胞の例としては、例えば、特に内皮細胞及び樹状細胞が挙げられる。支持細胞の遊走は、支持細胞を胸腺オルガノイドに播種することを伴い得る。
【0040】
胸腺移出T細胞を調製する方法は、胸腺オルガノイドから該細胞を放出させることを含み得、該胸腺オルガノイドから放出される細胞は、胸腺移出T細胞である。胸腺オルガノイドからの細胞の放出は、例えば解剖顕微鏡を使用して、直接可視化の下で観察することができる。該細胞は、播種の約2~約5日間後に胸腺オルガノイドから放出され始める場合があり、そして、約4~約5週間又はそれ以上にわたって放出され続け得る。該細胞は、数ヶ月間又はそれ以上にわたって放出され続け得ると考えられる。
【0041】
胸腺移出T細胞を調製する方法は、胸腺オルガノイドから胸腺移出T細胞を単離することを含み得る。胸腺オルガノイドからの胸腺移出T細胞の単離は、任意の好適な方法で実施してよい。例えば、該方法は、胸腺オルガノイドの3D培養物、例えば、ハンギングドロップから(例えば、ピペッティングによって)培地を取り出すことによって、放出されている細胞を穏やかに取り出すことを含み得る。好ましくは、胸腺オルガノイドからの胸腺移出T細胞の単離は、例えば、解剖顕微鏡を使用して、直接可視化の下で実施され得る。好ましくは、胸腺移出T細胞は、胸腺オルガノイドを吸引することもなく、破壊することもなく単離される。該方法は、胸腺オルガノイド培養物から取り出された培地を新鮮培地に交換することを含み得る。続いて、更なる胸腺移出T細胞の放出について、胸腺オルガノイドを観察してよい。
【0042】
胸腺移出T細胞は、CD8α+CD8β+CD4-又はCD8α-CD8β-CD4+であり得る。あるいは又は更に、胸腺移出T細胞は、CCRX4-、CD3+、CD69-、MHC-I+、CD62L+、及びCCR7+のうちのいずれか1つ以上である。好ましくは、胸腺移出T細胞は、CCRX4-、CD3+、CD69-、MHC-I+、CD62L+、及びCCR7+の全てである。あるいは又は更に、胸腺移出T細胞は、TCRα+TCRβ+である。好ましくは、胸腺移出T細胞は、TCRα+TCRβ+である。
【0043】
該方法は、胸腺移出T細胞をT細胞系列の任意の所望の細胞型に分化させることを更に含み得る。胸腺移出T細胞を分化させることによって調製され得る細胞型の例としては、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、T細胞(例えば、ナイーブT細胞、制御性T細胞、T幹細胞記憶細胞、エフェクタT細胞、エフェクタ記憶RA細胞(EMRA)、Th1細胞、Th2細胞、又はTh17細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の方法は、胸腺移出T細胞の単離又は精製された集団を生成することができる。本発明の方法によって調製される胸腺移出T細胞は、養子細胞療法のための細胞を調製するのに有用であり得る。用語「単離された」は、本明細書で使用するとき、その天然環境から取り出されたことを意味する。用語「精製された」は、本明細書で使用するとき、純度が増大したことを意味し、「純度」は、相対的な用語であり、必ずしも絶対純度と解釈されるべきではない。例えば、純度は、少なくとも50%であってよく、60%超、70%超、又は80%超であってもよく、100%であってもよい。
【0045】
本発明の別の実施形態は、単離又は精製された細胞の集団を提供することができる。胸腺移出T細胞の集団は、胸腺移出T細胞以外の細胞、例えば、PBMC、B細胞、マクロファージ、好中球、赤血球、肝細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋肉細胞、脳細胞等に加えて胸腺移出T細胞を含む不均質な集団であってよい。あるいは、該細胞の集団は、胸腺移出T細胞を主に含む(例えば、から本質的になる)、実質的に均質な集団であってもよい。本発明の実施形態では、該細胞の集団の約1%~約100%、例えば、約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、若しくは約100%、又は前述の値のうちのいずれか2つによって規定される範囲が、胸腺移出T細胞を含む。
【0046】
本発明の実施形態では、胸腺移出T細胞をインビトロで増幅する。細胞数の増幅は、例えば、米国特許第8,034,334号、同第8,383,099号、及び米国特許出願公開第2012/0244133号に記載されている通り、当技術分野において公知の多数の方法のいずれかによって実現することができる。例えば、細胞数の増幅は、該細胞をOKT3抗体、IL-2、及びフィーダーPBMC(例えば、放射線照射された同種PBMC)と共に培養することによって実施することができる。本発明の別の実施形態では、哺乳類に投与する前に、胸腺移出T細胞をインビトロで増幅しない。
【0047】
本発明の実施形態では、抗原刺激後かつ胸腺移出T細胞の数の増幅後に、胸腺移出T細胞は、CD8α+CD8β+CD4-又はCD8α-CD8β-CD4+である。
【0048】
胸腺移出T細胞の集団を組成物、例えば医薬組成物に製剤化してもよい。これに関して、医薬組成物は、本明細書に記載の胸腺移出T細胞の集団のいずれかと薬学的に許容し得る担体とを含み得る。該医薬組成物は、別の薬学的に活性のある剤(複数可)又は薬物(複数可)、例えば、化学療法剤、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン等と組み合わせて、胸腺移出T細胞の集団を含み得る。
【0049】
好ましくは、担体は、薬学的に許容し得る担体である。医薬組成物に関して、担体は、検討中の特定の細胞の集団に従来使用されているもののうちのいずれかであってよい。このような薬学的に許容し得る担体は、当業者に周知であり、公的に容易に入手可能である。薬学的に許容し得る担体は、使用条件下で有害な副作用も毒性も有しないものであることが好ましい。
【0050】
担体の選択は、具体的な胸腺移出T細胞の集団によって、並びに該胸腺移出T細胞の集団を投与するために使用される具体的な方法によって部分的に決定される。従って、本発明の医薬組成物の様々な好適な製剤が存在する。好適な製剤は、非経口、皮下、腫瘍内、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、又は腹腔内に投与するもののうちのいずれかを含み得る。1つを超える経路を使用して胸腺移出T細胞の集団を投与してもよく、特定の例では、特定の経路が別の経路よりも即時かつより有効な応答を提供する場合がある。
【0051】
好ましくは、胸腺移出T細胞の集団は、例えば静脈内に注射することによって投与される。胸腺移出T細胞の集団が投与されるとき、注射用の胸腺移出T細胞のための薬学的に許容し得る担体としては、任意の等張担体、例えば、通常生理食塩水(水中約0.90%w/v NaCl、水中約300mOsm/L NaCl、又は水1リットルあたり約9.0g NaCl)、NORMOSOL R電解質溶液(Abbott,Chicago,IL)、PLASMA-LYTE A(Baxter,Deerfield,IL)、水中約5%デキストロース、又は乳酸リンゲル液を挙げることができる。実施形態では、薬学的に許容し得る担体にヒト血清アルブミンを補給する。
【0052】
本発明の目的のために、投与される胸腺移出T細胞の集団又は医薬組成物の量又は用量(例えば、細胞の集団を投与する場合は細胞数)は、合理的な期間にわたって患者において、例えば治療的又は予防的応答をもたらすのに十分でなければならない。例えば、細胞の集団又は医薬組成物の用量は、投与時点から約2時間又はそれ以上、例えば、12~24時間又はそれ以上の期間、病態を治療又は予防するのに十分でなければならない。特定の実施形態では、期間は更に長くてもよい。用量は、治療される患者の体重に加えて、投与される具体的な細胞の集団又は医薬組成物の有効性、及び患者の病態によって決定される。
【0053】
投与される用量を決定するための多くのアッセイが、当技術分野において公知である。本発明の目的のために、それぞれ異なる用量の胸腺移出T細胞を与えた哺乳類のセットの中で、所与の用量のこのような細胞を哺乳類に投与した際に標的細胞が溶解する程度を比較することを含むアッセイを使用して、患者に投与する開始用量を決定することができる。特定の用量を投与した際に標的細胞が溶解する程度は、当技術分野において公知の方法によってアッセイすることができる。
【0054】
細胞の集団又は医薬組成物の用量は、特定の細胞の集団又は医薬組成物の投与に付随し得る任意の有害な副作用の存在、性質、及び程度によっても決定される。典型的には、主治医は、様々な要因、例えば、年齢、体重、全体的な健康状態、食事、性別、投与される細胞の集団又は医薬組成物、投与経路、及び治療される病態の重篤度を考慮して、各個々の患者を治療する細胞の集団又は医薬組成物の投与量を決定する。
【0055】
任意の好適な数の本発明の胸腺移出T細胞を哺乳類に投与することができる。理論的には1個の本発明の胸腺移出T細胞が増殖し、治療効果を与えることができるが、約102個以上、例えば、約103個以上、約104個以上、約105個以上、約108個以上の胸腺移出T細胞を投与することが好ましい。あるいは又は更に、約1012個以下、例えば、約1011個以下、約109個以下、約107個以下、又は約105個以下の胸腺移出T細胞を哺乳類に投与してよい。上記端点のうちのいずれか2つによって定められる量、例えば、約102~約105個、約103~約107個、約103~約109個、又は約105~約1010個の数の胸腺移出T細胞を哺乳類に投与してよい。例えば、約107~約108個の胸腺移出T細胞を投与してよい。特定の理論又は機序に縛られるものではないが、本発明の方法によって生成される胸腺移出T細胞は、疲弊した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)よりも強力であり得ると考えられる。
【0056】
また、本発明の実施形態は、哺乳類における病態を治療又は予防する方法であって、インビトロで胸腺移出T細胞を調製することと;該哺乳類における該病態を治療又は予防するのに有効な量の該胸腺移出T細胞を該哺乳類に投与することとを含む方法を提供する。
【0057】
該方法は、哺乳類における病態を治療又は予防するのに有効な量の、本明細書に記載の胸腺移出T細胞の集団のいずれか又は本明細書に記載の該集団のいずれかを含む医薬組成物を該哺乳類に投与することを含む。本発明の実施形態では、該病態は、がん、免疫不全、自己免疫病態、感染症、又は血液病態である。
【0058】
がんは、例えば、急性リンパ球性がん、急性骨髄性白血病、胞巣状横紋筋肉腫、骨がん、脳がん、乳がん、肛門、肛門管、又は肛門直腸のがん、眼のがん、肝内胆管のがん、関節のがん、頸部、胆嚢、又は胸膜のがん、鼻、鼻腔、又は中耳のがん、口腔のがん、外陰部のがん、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性がん、結腸がん、食道がん、子宮頸がん、消化管カルチノイド腫瘍、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、腎臓がん、喉頭がん、肝臓がん、肺がん、悪性中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫、上咽頭がん、非ホジキンリンパ腫、卵巣がん、膵臓がん、腹膜、網、及び腸間膜のがん、咽頭がん、前立腺がん、直腸がん、腎がん(例えば、腎細胞がん(RCC))、小腸がん、軟組織がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、尿管がん、及び膀胱がんのいずれかを含む任意のがんであってよい。
【0059】
免疫不全は、外部病原体に対して自身を防御する身体の能力が破壊された任意の病態であり得る。免疫不全は、放射線照射又は化学療法による免疫展開(immunodeployment)後に患者の免疫系が無防備状態になり、再構築の必要がある任意の病態であり得る。免疫不全としては、例えば、高齢者集団における枯渇した適応免疫系を挙げることができる。特定の理論又は機序に縛られるものではないが、本発明の胸腺オルガノイドは、原発性及び続発性の免疫不全の両方を治療するのに有用であり得る胸腺移出T細胞を生成することができると考えられる。治療又は予防することができる免疫不全の例としては、X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)、分類不能型免疫不全(CVID)、重症複合型免疫不全(SCID)、AIDS、及び肝炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
自己免疫病態は、身体の免疫系が健常細胞を攻撃する任意の病態であり得る。特定の理論又は機序に縛られるものではないが、本発明の胸腺オルガノイドは、自己免疫病態を治療するのに有用であり得る胸腺移出T細胞を生成することができると考えられる。治療又は予防することができる自己免疫病態の例としては、関節リウマチ、ループス、1型糖尿病、多発性硬化症、セリアック病、側頭動脈炎、血管炎、円形脱毛症、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、及びリウマチ性多発筋痛が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
感染症は、例えば、ウイルス病態、細菌病態、真菌病態、又は原生動物病態等の感染性病態であり得る。がんは、本発明の他の態様に関して本明細書に記載されるがんのいずれかであってよい。
【0062】
本明細書における目的のために、「ウイルス病態」は、ヒトからヒトへ又は生物から生物へと伝染し得、ウイルスによって引き起こされる病態を意味する。本発明の実施形態では、ウイルス病態は、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス、パピローマウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、フラビウイルス、及びカリシウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる。例えば、ウイルス病態は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、水痘ウイルス、サイトメガロウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス、カリシウイルス、アデノウイルス、及びアレナウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされ得る。
【0063】
ウイルス病態は、例えば、インフルエンザ、肺炎、ヘルペス、肝炎、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、慢性疲労症候群、突発性急性呼吸器症候群(SARS)、胃腸炎、腸炎、心炎、脳炎、細気管支炎、呼吸器乳頭腫症、髄膜炎、HIV/AIDS、及び単核球症であり得る。
【0064】
血液病態は、血液で発症する任意の非がん性病態であってよい。血液病態は、例えば、血球減少症(例えば、貧血、白血球減少症、及び好中球減少症)、出血性障害、例えば血友病、及び血餅であってよい。
【0065】
用語「治療する」及び「予防する」、並びにこれらから派生する語は、本明細書で使用するとき、必ずしも100%、すなわち、完全な治療又は予防を意味するものではない。どちらかといえば、当業者が潜在的な利益又は治療効果を有すると認識する、様々な程度の治療又は予防が存在する。これに関して、本発明の方法は、患者における病態の任意の量の任意のレベルの治療又は予防を提供することができる。更に、本発明の方法によって提供される治療又は予防は、治療又は予防される病態の1つ以上の状態又は症状の治療又は予防を含み得る。例えば、治療又は予防は、腫瘍の退縮を促進することを含み得る。また、本明細書における目的のために、「予防」は、病態の再発を防ぐこと、病態又はその症状若しくは状態の発生を遅らせることを包含し得る。
【0066】
用語「哺乳類」は、本明細書で使用するとき、マウス、ハムスター、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、サル、類人猿、及びヒトを含むがこれらに限定されない任意の哺乳類を指す。好ましくは、哺乳類は、ヒトである。
【0067】
図9は、本発明の実施形態に係る治療方法の例を示す。第1の実施形態では、
図9を参照すると、患者の腫瘍反応性T細胞をT細胞由来の人工多能性幹細胞(hT-iPSC)に再プログラミングすることができる。ヒトT-iPSCの複数のコロニーを培養下で成長させることができ、そして、T細胞前駆体に分化させることができる。該T細胞前駆体を使用して、本発明の他の態様に関して本明細書に記載される本発明の方法のいずれかによって調製された胸腺オルガノイドを播種することができる。
【0068】
胸腺オルガノイドは、胸腺移出T細胞(例えば、誘導性胸腺移出T細胞(iRTE))又はナイーブT細胞を生成することができ、これらは、次いで、患者に再導入され得る。
【0069】
別の実施形態では、
図9を参照すると、患者の腫瘍反応性T細胞をhT-iPSCに再プログラミングすることができる。hT-iPSCの複数のコロニーを培養下で成長させることができる。次いで、iPSCから胸腺オルガノイドを調製する本発明の方法を実施してよく、その結果、胸腺オルガノイドが得られる。次いで、T細胞前駆体を使用して胸腺オルガノイドを播種してよく、これは、次いで、iRTE又はナイーブT細胞を生成することができ、次に、
図9に示す通り患者に再導入され得る。
【0070】
以下の実施例は、本発明を更に説明するが、無論、いかなる方法でもその範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0071】
実施例1~13で使用される材料及び方法を以下に提供する。
【0072】
hiPSCのTEPLCへの分化(0~15日目)
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)(NL5-GFP)をESSENTIAL8培地(Gibco,Waltham,MA)で維持した。hiPSCを増幅及び維持するために、培地を毎日交換し、2~3日間ごとに1:3又は1:6の比でMATRIGELマトリクス(BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ)コーティングされた皿に細胞を機械的に継代した後、該細胞は胸腺上皮細胞に分化し始める(1日目の前)。hiPSCのTEPLCへの分化については、Sun et al.,Cell Stem Cell,13:230-236(2013)に教示されているプロトコルを改変した。要約すると、ゼノフリー条件で培養された細胞の生存を改善するために、ESSENTIAL8培地+RhoK阻害剤の入ったMATRIGELマトリクスでコーティングされた皿にhiPSCを播種した(
図1、0~1日目)。以下の分化工程は、hiPSCに3D構造を形成させ、胸腺上皮細胞への分化を継続させるために、解離せずに、3日目に再プレーティング工程を加えたこと以外は、Sun et al.に記載の通りである。
【0073】
幹細胞の培養及び分化
誘導前に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を軽く洗浄した。100ng/mL ACTIVIN Aタンパク質(PeproTech,Rocky Hill,NJ)を補給した既知組成の無血清X-VIVO10培地(Lonza,Basel,Switzerland)でhiPSCを3日間培養した。次いで、0.25%トリプシンで細胞を解離させ、5000~10,000細胞/cm
2の密度でMATRIGELコーティングされた皿に再プレーティングした。更に2日間、細胞を同じ分化培地で培養した(
図1、1~6日目)。分化した細胞を1μM 全trans型RA(Sigma,St.Louis,MO)及び25μM IWR1(Tocris,Bristol,UK)で4日間処理した(
図1、6~10日目)。次いで、10ng/mL BMP4及び50ng/mL WNT3a(R&D Systems,Minneapolis,MN)をTEPCの誘導のために使用した(
図1、10~15日目)。X-VIVO10培地を基本培地として使用した。全ての培地及び添加剤は、特に断りのない限り、Invitrogen(Waltham,MA)から購入した。
【0074】
TEPLCのK5+K8+FOXN1+3D胸腺構造への分化
位相差顕微鏡下で顕微鏡下手術用ハサミを使用して、15日間インビトロで分化させた後の3D胸腺構造を機械的にピッキングした。2D培養物を3mm×3mmの正方形に切り出し、37℃で超低接着V字底96ウェルプレートにおけるTEC増幅培地(MEBM(Lonza,Basel,Switzerland)+10% B27(Gibco,Waltham,MA)+GLUTAMAX(X1)補給剤(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)+20ng/mL hEGF+0.1pM コレラ毒素B+0.4ng/mL ヒドロコルチゾン+2.5μg/mL インスリン)中で一晩懸濁培養した。オルガノイドを形成するために、15日目に多層の分化したhiPSCからハサミを使用して3D構造をピッキングし、TEC増幅+100ng/mL Wnt3a+100ng/mL FGF7+50ng/mL BMP4中で培養した。間葉因子を同定するために、以下の試薬を前述の培地に添加した:100mg/mL FGF8、100ng/mL FGF10、100ng/mL IGF-1、KAAD-シクロパミン0.5μM、及びTGFb RIキナーゼ阻害剤5μM。MSCが再集合した場合、3回継代したヒト間葉系幹細胞を20,000細胞/オルガノイドで超低接着V字底96ウェルプレートに播種した。
【0075】
FTOCの共焦点顕微鏡観察
一次抗体、二次抗体、及びIgGアイソタイプは、Abcam(Cambridge,UK)から入手した。60℃で1時間加熱し、続いて、10分間キシレンで洗浄し、次いで、漸減エタノール系列に再水和することによって、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を脱脂した。脱脂後、マイクロ波を使用して、1×Antigen Retrieval CITRA PLUSバッファ(カタログ番号HK086,BioGeneX,Fremont,CA)中で15分間スライドを煮沸した。脱イオン水で激しく洗浄した後、該スライドを1×PBSに浸漬した。染色前に、細胞及び組織切片の両方をブロッキングし、PBS+1% FBS+0.1% TRITON X-100界面活性剤(T-FBS)によって4℃で2時間透過処理した。T-FBSバッファで1:100希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートした。T-FBSで3回洗浄した後、T-FBSバッファで1:200希釈したALEXA FLUORコンジュゲート二次抗体と共にサンプルを4℃で一晩インキュベートし、続いて、T-FBSで激しく洗浄した。据え付ける前に、DAPI(Vectorshield,Burlingame,CA)で核を対比染色した。オルガノイド全体を免疫蛍光染色するために、オルガノイド全体を一晩固定し、ブロッキングし、PBS+1% FBS+0.1% TritonX-100(T-FBS)によって4℃で一晩透過処理した。T-FBSバッファで1:1000希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートした。T-FBSで3回洗浄した後、T-FBSバッファで1:1000希釈したAlexa Fluorコンジュゲート二次抗体と共にサンプルを4℃で一晩インキュベートし、続いて、T-FBSで激しく洗浄した。据え付ける前に、DAPI(Vectorshield,Burlingame,CA)で核を対比染色した。20×Plan-アポクロマート(開口数0.8)対物レンズを備えるZEISS LSM880レーザー走査顕微鏡(Carl Zeiss,Inc.,Thornwood,NY)で蛍光画像を収集した。
【0076】
実施例1
この実施例は、ゼノフリー培養でヒトiPSCから初期胸腺上皮前駆様細胞(TEPLC)が生成されることを立証する。
【0077】
2種類のヒトiPSC((1)HCB:CD34+ヒト臍帯血細胞及び(2)T-iPS:T細胞由来iPS)をiPS ESSENTIAL8培地(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)及びRhoキナーゼ阻害剤中で一晩培養して、アポトーシスを阻害し、該細胞を一晩MATRIGELプレートコーティングに付着させた(
図1、0~1日目)。iPSCをゼノフリー培地で培養した。
図1に示す通り、該細胞をアクチビンA中で5日間培養した(
図1、1~6日目)。レチノイン酸及びWntシグナル伝達阻害剤であるIWRを6日目に添加し、該細胞を更に4日間培養した(
図1、6~10日目)。BMP4及びWnt3aを10日目に添加し、次いで、細胞を更に5日間培養し(
図1、10~15日目)、合計15日間培養した。5日目までに、該細胞は胚体内胚葉を形成していた。15日目に顕微鏡下手術用ハサミを使用して切片をピッキングし、蛍光活性化細胞選別(FACS)に供した。対照フローサイトメトリー実験で、IgG(488)及びIgG(APC)の検出を測定した(
図2A及び2D)。15日目にFACSによって同定されたhiPS由来初期胸腺上皮前駆様細胞は、
図2B~2C及び2E~2Fに示す通り、異なる種類のヒトiPS細胞からK5
+/K8
+/FOXN1
-TEPLCのロバストな分化を示した。
【0078】
実施例2
この実施例は、FOXN1発現がTEPLCの拡大培養によって誘導され得ることを立証する。
【0079】
15日目にピッキングしなかったことを除いて、実施例1に記載の通りヒトiPSCを培養した。その代わり、一方の培地にXF培地を添加したが、第2の培地にはXF培地+50ng/mL FGF7及び50ng/mL Wnt3aを添加した。培養21日目に、各培養において形成された細胞の切片を収集し、FACSに供した。結果を
図3A~3Fに示す。
図3A~3Fに示す通り、XF培地のみ及びXF+FGF7+Wnt3a培地の両方において、15日目の細胞と比較して21日目の細胞ではより多数がFOXN1を発現している。21日目の細胞の顕微鏡分析から、ヒト胎児胸腺皮質でみられる細胞に類似している星状細胞様構造が明らかになった。
【0080】
実施例3
この実施例は、TEPLCから3Dスフェロイドが発生することを立証する。
【0081】
細胞を解離させることなく、また、細胞を継代することなく、実施例1に記載の通りヒトiPSCからTEPLCを分化させた。
図4に示す通り、培養13~14日目までに、細胞は、TEPLCの多層領域における過剰成長の中心に3Dスフェロイドを形成し始めた。
【0082】
実施例4
この実施例は、3Dスフェロイドの胸腺オルガノイドへの分化、及びhiPS由来のオルガノイドが42日間でケラチン5及びケラチン8を生成する三次元網目構造を形成したことを立証する。
【0083】
実施例3に記載の通り、ヒトiPSCを三次元スフェロイドに分化させた。多層で成長している細胞を、顕微鏡下手術用ハサミを使用して正方形に切り出し、上皮細胞の増幅用に設計された培地:EBMB、B27血清補給剤、ヒドロコルチゾン、コレラ毒素B、及びヒト上皮成長因子(EGF)中において42日間3D培養で培養した。42日目に、オルガノイドを回収し、測定し、DAPIで染色した。形成されたオルガノイドは、直径約1mmであり、K5+/K8+である細胞(胸腺上皮細胞)の薄い多層を特徴としていた。また、染色から、オルガノイドの小さな領域が胸腺プロテオソームβ5tの小さな層を示すことが明らかになった。
【0084】
この実施例に記載の方法は、細胞が平坦な表面上で対称でなければならないという前提に基づく二次元(2D)培養法とは対照的であった。2D培養では、細胞が第1の培養表面の全てを覆うのに十分な程度まで成長したとき、該細胞を収集し、第2の培養表面上でより低密度になるように継代する。
【0085】
実施例5
この実施例は、特定の培地を添加することによって、iPS由来の胸腺オルガノイドのエクスビボ成長の継続が可能になったことを立証する。
【0086】
TECの増幅を維持するのにどの因子が役立つかを決定するために、多様なサイトカイン及び成長因子をスクリーニングした。試験したサイトカイン及び成長因子の組み合わせとしては、特に、線維芽細胞成長因子21(FGF21)、ケラチノサイト成長因子(KGF、FGF7としても知られている)、Wnt3a、及びBMP4の組み合わせが挙げられる。胸腺上皮前駆細胞の小さなスフェロイドを実施例3に記載の通り成長させた。15日目に、多層皿で形成された小さなK5
+/K8
+/FOXN1
-スフェロイドを位相差顕微鏡下で顕微鏡下手術用ハサミを使用して機械的にピッキングし、例えば、RPMI+L-グルタミン+10%FCS、aMEM+20%FCS+PS、MEBM+B27+Glutamax(1:100)+CTB(1:1000)+0.5mg/mL HC(1:1000)+20ng/mL hEGF(1:1000)+5μg/mL インスリン(1:2000)、EBMB+B27+ヒドロコルチゾン+コレラ毒素+hEGF、及びMEBM+B27+0.5mg/mL HC(1:1000)+20ng/mL hEGF(1:1000)+5μg/mL インスリン(1:2000)+20ng/mL hbFGF(1:500)+4ng/mL ヘパリン(1:500)を含む様々なバリエーションの培地組成下で培養した。BMP4、Wnt3a、及びFGF7をTEC培地に添加すると、スフェロイドが更に7日間成長し続けることができ、その結果、
図5A~5Bに示す通り、分離したiPS由来の胸腺オルガノイドが得られることが見出された。顕微鏡下での実験から、星状細胞様構造が明らかになった。DAPI及びGFPによる染色から、K5及びK8の発現が明らかになった。IHCから、核におけるFOXN1転写因子の発現が更に明らかになった。
【0087】
実施例6
この実施例は、あまり分化していない胸腺上皮前駆体に取り囲まれているスフェロイドが、該スフェロイドのより長い成長期間にわたる成長を可能にすることを立証する。実施例5に記載の通り、スフェロイドを成長させた。1週間超にわたって成長させたスフェロイドの3D培養によって、
図6に示す通り、崩壊するオルガノイドが生成されることが見出された。球形構造を形成する細胞(「初期TEPC」)は、より低いレベルの細胞(TEPLC)よりも分化しており、該初期TEPCは、連続増幅によって疲弊していると仮定した。更に、下層の細胞はあまり分化していないので、この層は、後期のオルガノイド成長に寄与し得ると仮定した。これら仮説を検証するために、
図6に示す通り、多層構造の14日目の胸腺上皮前駆様細胞を手術用ハサミで正方形に切り出し、TEC培地+BMP4、Wnt3a、及びFGF7中で42日間3D培養した。該正方形は、
図6のより分化した細胞(A)及びあまり分化していない細胞(B)を含んでいた。42日目に、切片を切り出し、DAPIで染色し、免疫組織化学的検査に供した。得られたオルガノイドの染色から、胸腺オルガノイドが3D構造のケラチン5
+/ケラチン8
+細胞を生成することが明らかになった。また、切り出し領域の一部がK5又はK8のシングルポジティグ細胞になり始めることも明らかになった。特定の理論又は仮説に縛られるものではないが、TEPCは成長し、胸腺に主に機能を与える細胞である髄質及び皮質のTECに分化すると仮定される。皮質(シングルポジティブK8)及び髄質(シングルポジティブK5)は、通常、発生の後期に胸腺組織へと発生する。
【0088】
実施例7
この実施例は、胸腺オルガノイドが、ヒトTEC前駆体領域に類似しているK5+K8+集団を生成することを立証する。
【0089】
実施例6に記載の通り胸腺オルガノイドを成長させ、56日目に切片を切り出した。切片を染色し、16週齢のヒト胎児胸腺と比較した。この比較から、胸腺オルガノイドの細胞の大部分がヒト胸腺上皮細胞前駆体の段階の細胞(16週目)と同等の量でケラチン5及びケラチン8を発現することが明らかになった。また、染色から、56日目の胸腺オルガノイドの切片は胸腺プロテオソームβ5tも発現するが、ヒト胸腺皮質よりも少量であることが明らかになり、このことは、これら細胞が前駆体段階から移行中の胸腺上皮細胞である可能性があることを示唆している。染色から、胸腺オルガノイドがDLL4及びIL-7(インビトロT細胞生成で使用されるサイトカイン)を発現することが更に明らかになった。
【0090】
実施例8
この実施例は、間葉系幹細胞(MSC)因子の添加によって、β5t発現細胞の領域を有する胸腺オルガノイドが生成できることを立証する。
【0091】
実施例5に記載の通り、KGF(FGF7)、BMP4、及びWnt3aがオルガノイドの成長に寄与しており、これら因子はMSCによって発現するので、追加のMSC因子がオルガノイドの発生を促進することができると仮定した。従って、表1に示す通り、以下の追加の因子のうちの1つ以上を培地に添加した:FGF10、IGF-1、FGF8(間葉系幹細胞によって分泌される因子)、及びTGFβ阻害剤又はシクロパミン(TEC増幅を損なわせる阻害剤又は因子)。これら追加の因子を用いて成長させたオルガノイドから切片を切り出した。DAPIによる染色から、これらMSC因子及び阻害剤のうちの1つ以上を添加した結果、
図7に示す通り、β5t発現細胞の領域を有するオルガノイドが再現性よく得られることが明らかになった。
【0092】
以下の表は、hiTO生成に対する特定のMSC因子の効果に関するデータを提示する。
【0093】
【0094】
実施例9
この実施例は、MSC因子の添加がオルガノイド形成の再現性を改善することを立証する。
【0095】
ヒトMSC因子の添加がオルガノイド形成の再現性を改善するかどうかを検証するために、
図8に示す実験設計を確立した。胸腺オルガノイドを実施例5に記載の通り生成し、MSCを添加して42日間3D培養した。これらオルガノイドが再現性よく生成されることはなく、このことは、MSCが、実施例8に列挙した分泌型ヒトMSC因子に加えて、オルガノイドの成長及び生存を制限し得る因子を含有している可能性があることを示す。従って、TGFβ阻害剤(TEC生存を低下させることが報告されている因子)を使用した。補給的にTGFβ阻害剤を添加した後、オルガノイドを切り出し、56日目に染色した。明確な皮質領域を有する56日目の胸腺オルガノイドが再現性よく形成され、16週齢のヒト胎児胸腺と同じ強度で胸腺プロテオソームβ5tを発現していた。従って、MSC因子+TGFβ阻害剤の添加は、TECの胸腺オルガノイドへの分化を促進する。
【0096】
実施例10
この実施例は、hiPSC由来のオルガノイドがFOXN1を発現することを立証する。
【0097】
実施例5に記載の通り、hiPSC由来のオルガノイドを調製し、7日間3D培養で培養した。7日目に、共焦点顕微鏡で画像を撮影し、この画像から、DAPIによる染色が細胞核の検出を示すことが明らかになった(
図10A)。対照IgGアイソタイプ(isotope)をネガティブコントロールとして使用し(図示せず)、ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗FOXN1抗体を検出した(
図10B)。
【0098】
実施例11
この実施例は、hiTO細胞がケラチン5、ケラチン8、及び胸腺プロテオソームβ5tを発現することを立証する。
【0099】
実施例4に記載の通り、hiPSC由来のオルガノイドを調製し、42日間3D培養で培養した。42日目に、共焦点顕微鏡で画像を撮影した。この画像から、DAPIで染色された核の検出が明らかになった(
図11A)。対照IgGアイソタイプ(isotope)をネガティブコントロールとして使用し(図示せず)、ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗ケラチン8抗体(
図11B)、ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗ケラチン5抗体(
図12B)、及びALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした胸腺プロテオソームβ5t(
図13B)が全て検出された。
【0100】
実施例12
この実施例は、hiTO細胞がMHCクラスII細胞表面受容体HLA-DRを発現することを立証する。
【0101】
実施例4に記載の通り、hiPSC由来のオルガノイドを調製し、42日間3D培養で培養した。42日目に、共焦点顕微鏡で画像を撮影し、この画像は、HLA-DRに特異的な抗体の陽性染色を示した。この画像から、DAPIで染色された核の検出が明らかになった(
図14A)。対照IgGアイソタイプ(isotope)はバックグラウンドレベルとしてのみ検出され(図示せず)、ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗HLA-DR抗体が検出された(
図14B)。
【0102】
実施例13
この実施例は、hiTO細胞がDLL4及びIL-7を発現することを立証する。
【0103】
実施例4に記載の通り、hiPSC由来のオルガノイドを調製し、42日間3D培養で培養した。42日目に、共焦点顕微鏡で画像を撮影し、この画像は、DAPIで染色された核の検出を示し(
図15A及び16A)、そして、IgG対照アイソタイプ(isotope)をネガティブコントロールとして使用した(図示せず)。
図15Bは、ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗DLL4抗体の検出を示す。
図16Bは、ALEXA FLUOR二次抗体とコンジュゲートした抗IL-7抗体の検出を示す。
【0104】
比較例1
この比較例は、失敗した胸腺オルガノイドを生成する試みを示すものである。
【0105】
胸腺オルガノイドを形成する方法を試みた。ヒト間葉系幹細胞(hMSC)、HUVEC(ヒト臍帯内皮細胞)及びヒト造血幹細胞(HSC)の組み合わせを使用して、遠心分離、ヒドロゲル、又は懸濁によってTECを再集合させた。この方法は、胸腺オルガノイドを得ることに失敗した。
【0106】
比較例2
この比較例は、失敗した胸腺オルガノイドを生成する試みを示すものである。
【0107】
ヒト胎児組織を、iPS由来のTEPLCと再集合させた。この方法は、胸腺オルガノイドを得ることに失敗した。
【0108】
本明細書に引用した刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参照文献は、各参照文献が個々にかつ具体的に参照によって組み入れられると示されており、その全体が本明細書に記載されているかのように、参照によって本明細書に組み入れられる。
【0109】
本発明の説明に関連して(特に以下の特許請求の範囲に関連して)用語「a」及び「an」及び「the」及び「少なくとも1つ」、並びに類似の参照対象の使用は、本明細書において他の指定がない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、単数形及び複数形の両方を網羅すると解釈されるべきである。1つ以上の項目のリストの後の用語「少なくとも1つ」の使用(例えば、「A及びBのうちの少なくとも1つ」)は、本明細書において他の指定がない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、列挙される項目から選択される1つの項目(A又はB)又は列挙される項目のうちの2つ以上の任意の組み合わせ(A及びB)を意味すると解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」は、特に断らない限り、オープンエンドな用語である(すなわち、「含むがこれらに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において他の指定がない限り、単に、範囲内の各別個の値を個々に参照する省略法として機能することを意図し、各別個の値が、本明細書に個々に列挙されているかのように明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書において他の指定がない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書に提供される任意の及び全ての例又は例示的な表現(例えば、「など」)の使用は、特に主張しない限り、単に本発明をより深く解明することを意図し、本発明の範囲の限定を提起するものではない。明細書中の表現はいずれも、任意の請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示すと解釈されるべきではない。
【0110】
本発明の好ましい実施形態は、本発明を実施するための本発明者らに公知の最良の形態を含む、本明細書に記載される。好ましい実施形態の変形は、前述の記載を読んだときに当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者がこのような変形を適宜使用すると予想し、そして、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されているのとは別の方法で本発明が実施されることを意図している。従って、本発明は、準拠法によって認められている通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に列挙される発明主題の全ての変形及び等価物を含む。更に、その全ての可能な変形における上記要素の任意の組み合わせは、本明細書において他の指定がない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、本発明によって包含される。