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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20231025BHJP
   B60Q 1/04 20060101ALI20231025BHJP
   F21S 41/16 20180101ALI20231025BHJP
   F21S 41/67 20180101ALI20231025BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20231025BHJP
   F21W 102/20 20180101ALN20231025BHJP
【FI】
B60Q1/14 Z
B60Q1/04 E
F21S41/16
F21S41/67
F21Y115:30
F21W102:20
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020534756
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2019030375
(87)【国際公開番号】W WO2020027301
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018147127
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018147126
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018147128
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 壮宜
(72)【発明者】
【氏名】本橋 和也
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179093(WO,A1)
【文献】特開2016-008043(JP,A)
【文献】特開2007-045407(JP,A)
【文献】特表2016-528695(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016223674(DE,A1)
【文献】国際公開第2015/159764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
B60Q 1/04
F21S 41/16
F21S 41/67
F21Y 115/30
F21W 102/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、
前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記光源から出射するレーザ光の強度を調節して前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節し、
前記位相変調パターンが変化することで、前記灯具ユニットから出射する光の配光パターンがロービームの配光パターンとハイビームの配光パターンとに変化し、
前記ロービームの配光パターンから前記ハイビームの配光パターンに変化する場合に、前記灯具ユニットは、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加し、
前記ハイビームの配光パターンから前記ロービームの配光パターンに変化する場合に、前記灯具ユニットは、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、
前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記光源から出射するレーザ光の強度を調節して前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節し、
車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、前記位相変調素子は、前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、
前記灯具ユニットは、前記特定の領域が暗くされる前記配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項3】
前記灯具ユニットは、前記特定の領域の広さが所定の広さを越える場合に、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する
ことを特徴とする請求項に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記灯具ユニットは、暗くされる前における前記特定の領域の光の全光束量が所定の量を越える場合に、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する
ことを特徴とする請求項に記載の車両用前照灯。
【請求項5】
前記特定の領域は、中央側が縁側よりも暗くされる
ことを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項6】
前記特定の領域が暗くされる前記配光パターンにおいて、前記特定の領域以外における強度分布は、暗くされる前における前記特定の領域以外における強度分布と同じである
ことを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項7】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、
前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記光源から出射するレーザ光の強度を調節して前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節し、
車両の操舵に応じて、前記位相変調素子は、左右方向に広げられた配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、
前記灯具ユニットは、左右方向に広げられた前記配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項8】
左右方向に広げられた前記配光パターンにおける広げられた領域の左右方向の幅は、前記車両の操舵角に応じた幅とされる
ことを特徴とする請求項に記載の車両用前照灯。
【請求項9】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、
前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記光源から出射するレーザ光の強度を調節して前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節し、
車両のターンスイッチからの信号に応じて、前記位相変調素子は、左右方向に広げられた配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、
前記灯具ユニットは、左右方向に広げられた前記配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項10】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、前記光源から出射するレーザ光の光路上または前記位相変調素子から出射する光の光路上に配置される偏光フィルタと、を有する灯具ユニットを備え、
前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記偏光フィルタを回転して前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項11】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、前記光源から出射するレーザ光の光路上または前記位相変調素子から出射する光の光路上に配置される減光フィルタと、を有する灯具ユニットを備え、
前記減光フィルタは、当該減光フィルタを透過する光の量が互いに異なる複数の減光領域を有し、
前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記減光フィルタを移動して光が入射する前記減光領域を変化させることで前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項12】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、
車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、前記位相変調素子は、前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、
前記灯具ユニットは、前記特定の領域の広さが所定の広さを越える場合に、前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項13】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、
車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、前記位相変調素子は、前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、
前記灯具ユニットは、暗くされる前における前記特定の領域の光の全光束量が所定の量を越える場合に、前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項14】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、
車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、前記位相変調素子は、前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、
前記特定の領域は、中央側が縁側よりも暗くされ、
前記灯具ユニットは、前記特定の領域が暗くされる前記配光パターンに応じて前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項15】
レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、
車両のターンスイッチからの信号に応じて、前記位相変調素子は、左右方向に広げられた配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、
前記灯具ユニットは、左右方向に広げられた前記配光パターンに応じて前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項16】
レーザ光を出射する光源と、
変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、
を備え、
車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、前記位相変調素子は、前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされるとともに前記特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとする
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項17】
前記所定の領域は、前記配光パターンにおけるホットゾーンの少なくとも一部と重なる
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項18】
前記所定の領域は、前記特定の領域の縁の少なくとも一部と接する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項19】
前記対象物は、人間とされ、
前記特定の領域は、前記人間の頭部の少なくとも一部と重なる領域とされ、
前記所定の領域は、前記人間の胴部の少なくとも一部と重なる領域とされる
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項20】
前記特定の領域は、中央側が縁側よりも暗くされる
ことを特徴とする請求項1から19のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項21】
前記特定の領域において減少する光の全光束量と、前記所定の領域において増加する光の全光束量とが互いに同じである
ことを特徴とする請求項1から2のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項22】
光源及び位相変調素子を有する複数の発光光学系を備え、
それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる波長のレーザ光を出射し、
それぞれの前記発光光学系における前記位相変調素子は、変更可能な位相変調パターンでそれぞれの前記発光光学系における前記光源から出射する前記レーザ光を回折して前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射し、
それぞれの前記発光光学系から出射する光が合成された光によって所定の配光パターンが形成され、
車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、それぞれの前記発光光学系における前記位相変調素子は、それぞれの前記発光光学系から出射する光が合成された光によって前記所定の配光パターンにおける前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域の色が当該特定の領域以外の色と異なる色とされる配光パターンが形成される前記位相変調パターンとする
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項23】
それぞれの前記発光光学系は、出射する光の全光束量を前記検知装置からの情報に基づいて調節する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用前照灯。
【請求項24】
前記特定の領域以外の色と異なる色とされる前記特定の領域の光の全光束量は、前記所定の配光パターンにおける前記特定の領域の光の全光束量よりも少ない
ことを特徴とする請求項2または2に記載の車両用前照灯。
【請求項25】
前記特定の領域以外の色と異なる色とされる前記特定の領域の光の全光束量は、前記所定の配光パターンにおける前記特定の領域の光の全光束量よりも多い
ことを特徴とする請求項2または2に記載の車両用前照灯。
【請求項26】
前記検知装置は、複数種類の前記対象物を検知し、
前記特定の領域の色は、前記対象物の種類に対応する所定の色とされる
ことを特徴とする請求項2から2のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項27】
前記特定の領域は、前記対象物の外縁に沿った環状とされる
ことを特徴とする請求項2から2のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項28】
前記対象物は道路標識とされ、
前記特定の領域は、前記道路標識おける所定の色の領域と重なり、
前記特定の領域の色は、前記道路標識おける前記所定の色と同系色とされる
ことを特徴とする請求項2から2のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項29】
少なくとも2つの前記発光光学系は、前記位相変調素子を共有し、
前記位相変調素子を共有する前記発光光学系では、それぞれの前記発光光学系の前記光源ごとに交互に前記レーザ光が出射され、前記位相変調素子は、それぞれの前記発光光学系の前記光源ごとの前記レーザ光の出射の切り換りに同期して前記位相変調パターンを変更する
ことを特徴とする請求項2から2のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ヘッドライトに代表される車両用前照灯では、出射する光の配光パターンを所定の配光パターンとするために様々な構成が検討されている。例えば、下記特許文献1には、回折格子の一種であるホログラム素子を用いて所定の配光パターンを形成することが記載されている。
【0003】
下記特許文献1に記載の車両用前照灯は、参照光を出射する光源と、複数のホログラム素子と、参照光の進行方向を変化させて複数のホログラム素子のいずれか1つに参照光を照射させる液晶プリズムと、を備えている。この複数のホログラム素子には、ロービームの配光パターンを形成するように計算されたホログラム素子と、配光パターンにおける左右方向の幅がロービームの配光パターンの左右方向の幅よりも広い市街地用の配光パターンを形成するように計算された別のホログラム素子と、が含まれている。このため、この車両用前照灯は、参照光を照射させるホログラム素子が切り替えられることで、出射する光の配光パターンをロービームの配光パターンと市街地用の配光パターンとに変化させることができるとされている。
【0004】
また、車両用前照灯として、車両の前方の状況に応じて出射する光の配光パターンを変化させるものが知られている。例えば、下記特許文献2には、複数のハイビームユニットと、検出手段と、検出手段からの情報に基づいて複数のハイビームユニットを制御する制御手段とを備える車両用前照灯が記載されている。
【0005】
下記特許文献2に記載の車両用前照灯では、複数のハイビームユニットのそれぞれは、車両前方に配列される複数のハイビーム照射エリアのうち対応するハイビーム照射エリアへ向けて光を照射する。検出手段は、複数のハイビーム照射エリアのいずれかに照射禁止対象が存在しているか否かを検出する。制御手段は、検出手段が照射禁止対象の存在を検出したときには照射禁止対象が存在しているハイビーム照射エリア用のハイビームユニットを消灯する。このため、この車両用前照灯は、照射禁止対象とされる先行車や対向車などの他の車両、及び歩行者へのハイビームの照射を抑制でき、他の車両の乗員、及び歩行者が車両用前照灯から出射する光を眩しく感じることを抑制できるとされている。
【0006】
【文献】特開2012-146621号公報
【文献】特開2008-37240号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様による車両用前照灯は、レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節する。
【0008】
このような車両用前照灯では、位相変調素子は、変更可能な位相変調パターンで光源から出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。このため、位相変調パターンを変更することで灯具ユニットから出射する光の配光パターンを変更でき、車両用前照灯から出射する光の配光パターンを変更できる。また、この車両用前照灯では、上記のように、位相変調素子から出射する光の配光パターンに応じて灯具ユニットから出射する光の全光束量が調節される。このため、この車両用前照灯では、例えば、車両から所定の距離離れた鉛直面上において車両用前照灯から出射する光が照射される領域の広さに応じて、灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節することができる。従って、この車両用前照灯は、出射する光の配光パターンを変化させた際に光が照射される領域の明るさが意図せずに全体的に変化することを抑制でき、運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。なお、位相変調パターンは、位相変調素子に入射する光の位相を変調するパターンを示すものである。
【0009】
前記位相変調パターンが変化することで、前記灯具ユニットから出射する光の配光パターンがロービームの配光パターンとハイビームの配光パターンとに変化し、前記ロービームの配光パターンから前記ハイビームの配光パターンに変化する場合に、前記灯具ユニットは、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加し、前記ハイビームの配光パターンから前記ロービームの配光パターンに変化する場合に、前記灯具ユニットは、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少することとしても良い。
【0010】
車両から所定の距離離れた鉛直面上においてロービームが照射される領域は、ハイビームの配光パターンの光が照射される領域よりも狭い。この車両用前照灯では、上記のように、ロービームの配光パターンからハイビームの配光パターンに変化する場合に、灯具ユニットは、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加し、ハイビームの配光パターンからロービームの配光パターンに変化する場合に、灯具ユニットは、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する。このため、この車両用前照灯は、出射する光の配光パターンをロービームの配光パターンとハイビームの配光パターンとで変化させた際に、ロービームやハイビームが照射される領域の明るさが意図せずに全体的に変化することを抑制でき、運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0011】
或いは、車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、前記位相変調素子は、前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、前記灯具ユニットは、前記特定の領域が暗くされる前記配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少することとしても良い。
【0012】
この車両用前照灯では、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化する。例えば、検知装置が検知する対象物が歩行者とされる場合、歩行者に照射される光の全光束量を低減することができ、歩行者が車両用前照灯から出射する光を眩しく感じることを抑制し得る。また、この車両用前照灯では、灯具ユニットは、特定の領域が暗くされる配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少する。このため、この車両用前照灯は、対象物に照射される光の全光束量を低減した分、灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少させることができ、特定の領域が暗くされる配光パターンのうち特定の領域以外の領域が意図せずに全体的に明るくなることを抑制し得る。従って、この車両用前照灯は、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0013】
対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンの光を位相変調素子が出射する場合、前記灯具ユニットは、前記特定の領域の広さが所定の広さを越える場合に、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少することとしても良い。或いは、前記灯具ユニットは、暗くされる前における前記特定の領域の光の全光束量が所定の量を越える場合に、当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少することとしても良い。
【0014】
この車両用前照灯では、灯具ユニットは、閾値に基づいて灯具ユニットから出射する光の全光束量を減少したり減少しなかったりするため、灯具ユニットから出射する光の全光束量の調節が煩雑になることを抑制し得る。
【0015】
対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンの光を位相変調素子が出射する場合、前記特定の領域は、中央側が縁側よりも暗くされることとしても良い。
【0016】
このような構成にすることで、対象物に照射される光の全光束量を低減しつつも、対象物が視認し難くなることを抑制し得る。
【0017】
対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンの光を位相変調素子が出射する場合、前記特定の領域が暗くされる前記配光パターンにおいて、前記特定の領域以外における強度分布は、暗くされる前における前記特定の領域以外における強度分布と同じであることとしても良い。
【0018】
このような構成にすることで、出射する光の配光パターンの変化に応じて、暗くされる特定の領域以外における強度分布が変化しないため、運転者が違和感を覚えることをより抑制し得る。
【0019】
或いは、車両の操舵に応じて、前記位相変調素子は、左右方向に広げられた配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、前記灯具ユニットは、左右方向に広げられた前記配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加することとしても良い。
【0020】
この車両用前照灯では、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化する。例えば、この車両用前照灯は、曲路において進行先にも光を照射し得るため、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが変化しない場合と比べて、曲路における視認性を向上し得る。また、この車両用前照灯では、灯具ユニットは、左右方向に広げられた配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加する。このため、左右方向に広げられた配光パターンのうち広げられた領域以外の領域が意図せずに全体的に暗くなることを抑制し得る。従って、この車両用前照灯は、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0021】
左右方向に広げられた配光パターンの光を位相変調素子が出射する場合、左右方向に広げられた前記配光パターンにおける広げられた領域の左右方向の幅は、前記車両の操舵角に応じた幅とされることとしても良い。
【0022】
この車両用前照灯では、車両の進行方向の変化の度合いに応じて出射する光の配光パターンが変化する。このため、この車両用前照灯は、曲路の曲がりの度合いに応じて照射される領域を変化させ得るため、曲路における視認性をより向上し得る。
【0023】
或いは、車両のターンスイッチからの信号に応じて、前記位相変調素子は、左右方向に広げられた配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとし、前記灯具ユニットは、左右方向に広げられた前記配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加することとしても良い。
【0024】
この車両用前照灯では、車両のターンスイッチからの信号に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化する。このため、この車両用前照灯は、交差路等において進行先にも光を照射し得るため、車両のターンスイッチからの信号に応じて出射する光の配光パターンが変化しない場合と比べて、交差路等における視認性を向上し得る。また、この車両用前照灯では、灯具ユニットは、左右方向に広げられた配光パターンに応じて当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を増加する。このため、左右方向に広げられた配光パターンのうち広げられた領域以外の領域が意図せずに全体的に暗くなることを抑制し得る。従って、この車両用前照灯は、車両のターンスイッチからの信号に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0025】
前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記光源から出射するレーザ光の強度を調節して当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節することとしても良い。
【0026】
このような構成にすることで、減光フィルタ等を備えなくても灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節することができ、車両用前照灯を簡易な構成とし得る。
【0027】
或いは、前記灯具ユニットは、前記光源から出射するレーザ光の光路上または前記位相変調素子から出射する光の光路上に配置される偏光フィルタを更に有し、前記配光パターンに応じて前記偏光フィルタを回転して当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節することとしても良い。或いは、前記灯具ユニットは、前記光源から出射するレーザ光の光路上または前記位相変調素子から出射する光の光路上に配置される減光フィルタを更に有し、前記減光フィルタは、当該減光フィルタを透過する光の量が互いに異なる複数の減光領域を有し、前記灯具ユニットは、前記配光パターンに応じて前記減光フィルタを移動して光が入射する前記減光領域を変化させることで当該灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節することとしても良い。
【0028】
このような構成にすることで、光源から出射するレーザ光の強度を調節しなくても灯具ユニットから出射する光の全光束量を安定して調節することができる。
【0029】
本発明の第2の態様による車両用前照灯は、レーザ光を出射する光源と、変更可能な位相変調パターンで前記光源から出射するレーザ光を回折し、前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を備え、車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、前記位相変調素子は、前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされるとともに前記特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンの光を出射する前記位相変調パターンとすることを特徴とする。
【0030】
このような車両用前照灯では、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化する。例えば、検知装置が検知する対象物が歩行者とされる場合、歩行者に照射される光の全光束量を低減することができ、歩行者が車両用前照灯から出射する光を眩しく感じることを抑制し得る。また、車両用前照灯では、上記のように、出射する光の配光パターンは、対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされるとともに所定の領域が明るくされる配光パターンとされる。このため、この車両用前照灯は、配光パターンのうち暗くされる領域以外の領域が意図せずに全体的に明るくされることを抑制し得る。また、この車両用前照灯は、明るくされる所定の領域を特定の位置にすることによって、この所定の領域を目立ちにくくして運転者が違和感を覚えることを抑制したり、この所定の領域を目立つようにして注意喚起能を高くしたりし得る。従って、この車両用前照灯は、運転し易くし得る。
【0031】
また、第2の態様による車両用前照灯では、前記所定の領域は、前記配光パターンにおけるホットゾーンの少なくとも一部と重なることとしても良い。
【0032】
ホットゾーンは、配光パターンにおけるホットゾーン以外の領域よりも明るいため、配光パターンにおいて所定の領域が際立って明るくなることを抑制し得る。従って、この車両用前照灯は、運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0033】
或いは、前記所定の領域は、前記特定の領域の縁の少なくとも一部と接することとしても良い。
【0034】
このような構成にすることで、歩行者等の対象物に照射される光の全光束量を低減しつつも、当該対象物の存在を強調し得る。このため、この車両用前照灯は、明るくされる所定の領域が特定の領域と離間している場合と比べて、車両の前方に位置する対象物に対する注意喚起能を高くし得る。
【0035】
或いは、前記対象物は、人間とされ、前記特定の領域は、前記人間の頭部の少なくとも一部と重なる領域とされ、前記所定の領域は、前記人間の胴部の少なくとも一部と重なる領域とされることとしても良い。
【0036】
このような構成にすることで、車両の前方に位置する人間が車両用前照灯から出射する光を眩しく感じることを抑制し得るとともに、この人間における胴部を強調し得る。従って、この車両用前照灯は、所定の領域が人間の胴部の少なくとも一部と重なる領域とされない場合と比べて、車両の前方に位置する人間に対する注意喚起能を高くし得る。
【0037】
また、第2の態様による車両用前照灯では、前記特定の領域は、中央側が縁側よりも暗くされることとしても良い。
【0038】
このような構成にすることで、対象物に照射される光の全光束量を低減しつつも、対象物が視認し難くなることを抑制し得る。
【0039】
また、第2の態様による車両用前照灯では、前記特定の領域において減少する光の全光束量と、前記所定の領域において増加する光の全光束量とが互いに同じであることとされても良い。
【0040】
このような構成にすることで、光源から出射するレーザ光の強度を変化させなくても、特定の領域を暗くするとともに所定の領域を明るくし得る。このため、この車両用前照灯は、光源から出射するレーザ光の強度を変化させる場合と比べて、簡易な制御によって動作し得る。
【0041】
本発明の第3の態様による車両用前照灯は、光源及び位相変調素子を有する複数の発光光学系を備え、それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる波長のレーザ光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記位相変調素子は、変更可能な位相変調パターンでそれぞれの前記発光光学系における前記光源から出射する前記レーザ光を回折して前記位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射し、それぞれの前記発光光学系から出射する光が合成された光によって所定の配光パターンが形成され、車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置からの情報に基づいて、それぞれの前記発光光学系における前記位相変調素子は、それぞれの前記発光光学系から出射する光が合成された光によって前記所定の配光パターンにおける前記対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域の色が当該特定の領域以外の色と異なる色とされる配光パターンが形成される前記位相変調パターンとすることを特徴とする。
【0042】
このような車両用前照灯では、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化し、対象物の少なくとも一部に照射される光の色が他の領域に照射される光の色と異なる色とされる。例えば、検知装置が検知する対象物が歩行者とされる場合、歩行者に照射される光の色は、他の領域に照射される光の色と異なる色とされる。人間の目の光を感じる感覚は波長依存性を有している。人間の目の光を感じる感覚は光の波長が黄緑色の光の波長よりも増加または減少するについて低下する傾向にある。つまり、人間の目は黄緑色の光を最も明るく感じ、黄緑色の光よりも青色や赤色の光を暗く感じ易い傾向にある。このため、歩行者に照射される光の色が人間の目の光を感じる感覚の低い色、例えば青色とされる場合、車両用前照灯は、歩行者が車両用前照灯から出射する光を眩しく感じることを抑制し得る。また、この車両用前照灯では、歩行者等の対象物に照射される光の色は、他の領域に照射される光の色と異なるものの、対象物には光が照射される。このため、この車両用前照灯は、対象物に光が照射されない場合と比べて、対象物が視認し難くなることを抑制し得る。また、例えば、検知装置が検知する対象物が道路標識とされる場合、道路標識に照射される光の色は、他の領域に照射される光の色と異なる色とされる。例えば、この道路標識に照射される光の色が人間の目の光を感じる感覚の高い色、例えば黄色が強められた色とされる場合、車両用前照灯は、道路標識の視認性を向上し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、運転し易くし得る。
【0043】
また、第3の態様による車両用前照灯では、それぞれの前記発光光学系は、出射する光の全光束量を前記検知装置からの情報に基づいて調節することとしても良い。
【0044】
この車両用前照灯は、出射する光の配光パターンにおける対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域の色に応じて、それぞれの発光光学系から出射する光の全光束量を調節することができる。このため、この車両用前照灯は、特定の領域の色が特定の領域以外の領域の色とされる配光パターンにおける特定の領域以外の領域の色合いや明るさが意図せずに変化することを抑制し得る。従って、この車両用前照灯は、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0045】
また、第3の態様による車両用前照灯では、前記特定の領域以外の色と異なる色とされる前記特定の領域の光の全光束量は、前記所定の配光パターンにおける前記特定の領域の光の全光束量よりも少ないこととしても良い。
【0046】
この車両用前照灯では、例えば、検知装置が検知する対象物が歩行者とされる場合、歩行者に照射される光の全光束量を低減することができ、歩行者が車両用前照灯から出射する光を眩しく感じることをより抑制し得る。
【0047】
或いは、前記特定の領域以外の色と異なる色とされる前記特定の領域の光の全光束量は、前記所定の配光パターンにおける前記特定の領域の光の全光束量よりも多いこととしても良い。
【0048】
この車両用前照灯では、例えば、検知装置が検知する対象物が道路標識とされる場合、道路標識に照射される光の全光束量を増加することができ、道路標識の視認性をより向上し得る。
【0049】
また、第3の態様による車両用前照灯では、前記検知装置は、複数種類の前記対象物を検知し、前記特定の領域の色は、前記対象物の種類に対応する所定の色とされることとしても良い。
【0050】
このような構成にすることで、運転者は、対象物を明確に視認できない状況、例えば対象物が遠方にある状況でも特定の領域の色に応じて対象物の種類を想定し得る。従って、この車両用前照灯は、特定の領域の色が対象物の種類に対応する所定の色とされない場合と比べて、運転し易くし得る。
【0051】
また、第3の態様による車両用前照灯では、前記特定の領域は、前記対象物の外縁に沿った環状とされることとしても良い。
【0052】
このような構成にすることで、対象物の存在を強調し得る。
【0053】
また、第3の態様による車両用前照灯では、前記対象物は道路標識とされ、前記特定の領域は、前記道路標識おける所定の色の領域と重なり、前記特定の領域の色は、前記道路標識おける前記所定の色と同系色とされることとしても良い。
【0054】
このような構成にすることで、対象物である道路標識の視認性を向上し得る。
【0055】
また、第3の態様による車両用前照灯では、少なくとも2つの前記発光光学系は、前記位相変調素子を共有し、前記位相変調素子を共有する前記発光光学系では、それぞれの前記発光光学系の前記光源ごとに交互に前記レーザ光が出射され、前記位相変調素子は、それぞれの前記発光光学系の前記光源ごとの前記レーザ光の出射の切り換りに同期して前記位相変調パターンを変更することとしても良い。
【0056】
この車両用前照灯では、上記のように、少なくとも2つの発光光学系は位相変調素子を共有するため、部品点数を減少し得る。なお、この車両用前照灯では、位相変調素子を共有する発光光学系から順次異なる波長の光が出射される。ところで、人の視覚の時間分解能よりも短い周期で波長の異なる光つまり色の異なる光が繰り返し照射される場合、人は残像現象によってこの異なる色の光が合成された光が照射されていると認識し得る。このため、人の視覚の時間分解能よりも短い周期で位相変調素子を共有する発光光学系から異なる波長の光が出射される場合には、これら発光光学系から出射する光を人の視覚的に合成させることができ、これら発光光学系を含むそれぞれの発光光学系から出射する光によって所定の配光パターンを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本発明の第1の態様としての第1実施形態における車両用前照灯を概略的に示す図である。
図2図1に示す光学系ユニットの拡大図である。
図3図2に示す位相変調素子の正面図である。
図4図3に示す位相変調素子の一部の厚さ方向の断面を概略的に示す図である。
図5】本発明の第1の態様としての第1実施形態における車両用前照灯の一部と灯具制御システムとを含むブロック図である。
図6】本発明の第1の態様としての第1実施形態におけるテーブルを示す図である。
図7】本発明の第1の態様としての第1実施形態における配光パターンの例を示す図である。
図8】本発明の第1の態様としての第1実施形態における制御部の制御フローチャートを示す図である。
図9】検知装置によって検知された対象物と暗くされる特定の領域とが重なる配光パターンの光が車両用前照灯から出射する状態の例を示す図である。
図10】本発明の第1の態様としての第2実施形態におけるロービームの配光パターンを示す図である。
図11】本発明の第1の態様としての第2実施形態における制御部の制御フローチャートを示す図である。
図12】本発明の第1の態様としての第3実施形態における車両用前照灯の一部と灯具制御システムとを含むブロック図である。
図13】本発明の第1の態様としての第3実施形態におけるテーブルを示す図である。
図14】本発明の第1の態様としての第3実施形態における配光パターンの例を示す図である。
図15】本発明の第1の態様としての第3実施形態における制御部の制御フローチャートを示す図である。
図16】本発明の第1の態様としての第4実施形態における車両用前照灯の一部と灯具制御システムとを含むブロック図である。
図17】本発明の第1の態様としての第4実施形態におけるテーブルを示す図である。
図18】本発明の第1の態様としての第4実施形態における配光パターンの例を示す図である。
図19】本発明の第1の態様としての第5実施形態における車両用前照灯を図1と同様に示す図である。
図20図19に示す光学フィルタを概略的に示す正面図である。
図21】第1の態様としての第5実施形態の変形例における光学系ユニットの一部を示す図である。
図22】本発明の第1の態様としての第6実施形態における光学系ユニットを図2と同様に示す図である。
図23】本発明の第1の態様としての変形例における光学系ユニットを図2と同様に示す図である。
図24】本発明の第1の態様としての別の変形例における配光パターンの強度分布に関する情報を説明するための図である。
図25】本発明の第1の態様としての別の変形例におけるテーブルを示す図である。
図26】本発明の第2の態様としての第7実施形態におけるテーブルを示す図である。
図27】本発明の第2の態様としての第7実施形態における配光パターンの例を示す図である。
図28】本発明の第2の態様としての第7実施形態における制御部の制御フローチャートを示す図である。
図29】検知装置によって検知された対象物と暗くされる特定の領域とが重なるとともに特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンの光が前照灯から出射する状態の例を示す図である。
図30】本発明の第2の態様としての変形例における配光パターンを示す図である。
図31】本発明の第2の態様としての別の変形例における配光パターンの強度分布に関する情報を説明するための図である。
図32】本発明の第3の態様としての第8実施形態におけるテーブルを示す図である。
図33】本発明の第3の態様としての第8実施形態における配光パターンの例を示す図である。
図34】検知装置によって検知された対象物と特定の領域とが重なる配光パターンの光が前照灯から出射する状態の例を示す図である。
図35】本発明の第3の態様としての第9実施形態における光学系ユニットを図2と同様に示す図である。
図36図35に示す第1発光光学系における光学フィルタを概略的に示す正面図である。
図37】本発明の第3の態様としての変形例における配光パターンの光が前照灯から出射する状態の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明に係る車両用前照灯を実施するための形態が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。
【0059】
(第1実施形態)
図1は、第1の態様としての第1実施形態における車両用前照灯を示す図であり、車両用前照灯の鉛直方向の断面を概略的に示す図である。本実施形態の車両用前照灯は自動車用の前照灯1とされる。自動車用の前照灯は、一般的に車両の前方の左右方向のそれぞれに備えられるものであり、左右の前照灯は左右方向に概ね対称の構成とされる。従って、本実施形態では、一方の前照灯について説明する。図1に示すように、本実施形態の前照灯1は、筐体10と、灯具ユニット20とを主な構成として備える。
【0060】
筐体10は、ランプハウジング11、フロントカバー12及びバックカバー13を主な構成として備える。ランプハウジング11の前方は開口しており、当該開口を塞ぐようにフロントカバー12がランプハウジング11に固定されている。また、ランプハウジング11の後方には前方よりも小さな開口が形成されており、当該開口を塞ぐようにバックカバー13がランプハウジング11に固定されている。
【0061】
ランプハウジング11と、当該ランプハウジング11の前方の開口を塞ぐフロントカバー12と、当該ランプハウジング11の後方の開口を塞ぐバックカバー13とによって形成される空間は灯室Rであり、この灯室R内に灯具ユニット20が収容されている。
【0062】
本実施形態の灯具ユニット20は、ヒートシンク30と、冷却ファン40と、光学系ユニット50とを主な構成として備え、不図示の構成により筐体10に固定されている。
【0063】
ヒートシンク30は、概ね水平方向に延在する金属製のベース板31を有し、当該ベース板31の下方の面側には複数の放熱フィン32がベース板31と一体に設けられている。冷却ファン40は放熱フィン32と隙間を隔てて配置され、ヒートシンク30に固定されている。この冷却ファン40の回転による気流によりヒートシンク30は冷却される。
【0064】
ヒートシンク30におけるベース板31の上面には光学系ユニット50が配置されている。光学系ユニット50は、第1発光光学系51Rと、第2発光光学系51Gと、第3発光光学系51Bと、合成光学系55と、カバー59とを備える。
【0065】
図2は、図1に示す光学系ユニットの拡大図である。図2に示すように、第1発光光学系51Rは、光源52Rと、コリメートレンズ53Rと、位相変調素子54Rとを備える。光源52Rは、所定の波長のレーザ光を出射するレーザ素子とされ、本実施形態では、パワーのピーク波長が例えば638nmの赤色のレーザ光を出射する。なお、光学系ユニット50は、不図示の回路基板を有しており、光源52Rは当該回路基板に実装されている。
【0066】
コリメートレンズ53Rは、光源52Rから出射するレーザ光のファスト軸方向、スロー軸方向をコリメートするレンズである。このコリメートレンズ53Rに替わって、レーザ光のファスト軸方向をコリメートするコリメートレンズとスロー軸方向をコリメートするコリメートレンズとが個別に設けられていても良い。
【0067】
位相変調素子54Rは、入射する光を回折して出射するとともに出射する光の配光パターンや出射する光が照射される領域を変化できるようにされている。本実施形態の位相変調素子54Rは、入射する光を反射しつつ回折して出射する反射型の位相変調素子とされ、例えば、反射型の液晶パネルであるLCOS(Liquid Crystal on Silicon)とされる。位相変調素子54Rには、コリメートレンズ53Rから出射する赤色のレーザ光が入射し、この位相変調素子54Rは、この赤色のレーザ光を回折して出射する。こうして、位相変調素子54Rから赤色である第1の光DLRが出射し、この光DLRが第1発光光学系51Rから出射する。
【0068】
第2発光光学系51Gは、光源52Gと、コリメートレンズ53Gと、位相変調素子54Gとを備え、第3発光光学系51Bは、光源52Bと、コリメートレンズ53Bと、位相変調素子54Bとを備える。光源52G,52Bは、それぞれ所定の波長のレーザ光を出射するレーザ素子とされる。本実施形態では、光源52Gはパワーのピーク波長が例えば515nmの緑色のレーザ光を出射し、光源52Bはパワーのピーク波長が例えば445nmの青色のレーザ光を出射する。光源52G,52Bは、上記の光源52Rと同様に、それぞれ上記の回路基板に実装されている。
【0069】
コリメートレンズ53Gは、光源52Gから出射するレーザ光のファスト軸方向、スロー軸方向をコリメートするレンズであり、コリメートレンズ53Bは、光源52Bから出射するレーザ光のファスト軸方向、スロー軸方向をコリメートするレンズである。これらコリメートレンズ53G,53Bに替わって、レーザ光のファスト軸方向をコリメートするコリメートレンズとスロー軸方向をコリメートするコリメートレンズとがそれぞれ個別に設けられていても良い。
【0070】
位相変調素子54G及び位相変調素子54Bは、位相変調素子54Rと同様に、入射する光を回折して出射するとともに出射する光の配光パターンや出射する光が照射される領域を変化できるようにされている。これら位相変調素子54G,54Bは、例えば、反射型の液晶パネルであるLCOSとされる。位相変調素子54Gには、コリメートレンズ53Gから出射する緑色のレーザ光が入射し、位相変調素子54Gは、この緑色のレーザ光を回折して出射する。位相変調素子54Bには、コリメートレンズ53Bから出射する青色のレーザ光が入射し、位相変調素子54Bは、この青色のレーザ光を回折して出射する。こうして、位相変調素子54Gから緑色である第2の光DLGが出射し、この光DLGが第2発光光学系51Gから出射する。また、位相変調素子54Bから青色である第3の光DLBが出射し、この光DLBが第3発光光学系51Bから出射する。このような本実施形態の灯具ユニット20では、光源52Rと位相変調素子54R、光源52Gと位相変調素子54G、及び光源52Bと位相変調素子54Bがそれぞれ1対1で対応している。
【0071】
合成光学系55は、第1光学素子55fと第2光学素子55sとを有する。第1光学素子55fは、第1発光光学系51Rから出射する第1の光DLRと、第2発光光学系51Gから出射する第2の光DLGとを合成する光学素子である。本実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光DLRを透過すると共に第2の光DLGを反射することで第1の光DLRと第2の光DLGとを合成する。また、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光DLR及び第2の光DLGと、第3発光光学系51Bから出射する第3の光DLBとを合成する光学素子である。本実施形態では、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光DLR及び第2の光DLGを透過すると共に第3の光DLBを反射することで第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとを合成する。このような第1光学素子55f、第2光学素子55sとして、ガラス基板上に酸化膜が積層された波長選択フィルタを挙げることができる。この酸化膜の種類や厚みをコントロールすることで、所定の波長よりも長い波長の光と透過し、この波長よりも短い波長の光を反射する構成とすることができる。
【0072】
こうして、合成光学系55において第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとが合成された光は白色の光となり、この白色の光が合成光学系55から出射する。なお、図1図2では、第1の光DLRは実線で示され、第2の光DLGは破線で示され、第3の光DLBは一点鎖線で示され、これら光DLR,DLG,DLBはずらして示されている。
【0073】
カバー59は、ヒートシンク30のベース板31上に固定されている。カバー59は概ね矩形の形状をしており、例えばアルミニウム等の金属から成る。カバー59の内側の空間には、上記の第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51B、合成光学系55が配置されている。また、カバー59の前方には合成光学系55から出射する光が透過可能な開口59Hが形成されている。なお、カバー59の内壁は、黒アルマイト加工等による光吸収性とされることが好ましい。カバー59の内壁が光吸収性とされることで、意図しない反射や屈折等によりカバー59の内壁に照射された光が反射して開口59Hから意図しない方向に出射することを抑制することができる。
【0074】
次に、位相変調素子54R、位相変調素子54G、及び位相変調素子54Bの構成について詳細に説明する。
【0075】
本実施形態では、位相変調素子54R、位相変調素子54G、及び位相変調素子54Bは同様の構成とされる。このため、以下では位相変調素子54Rについて説明し、位相変調素子54G及び位相変調素子54Bについてはその説明を適宜省略する。
【0076】
図3は、図2に示す位相変調素子の正面図である。なお、図3にはコリメートレンズ53Rから出射するレーザ光が入射する領域53Aが破線で示されている。位相変調素子54Rは、長方形の外形を有し、当該長方形内にマトリックス状に配置された複数の変調ユニットを有しており、それぞれの変調ユニットは、当該変調ユニットに入射する光を回折して出射する。それぞれの変調ユニットは、マトリックス状に配置された複数のドットを含んでいる。この変調ユニットは、コリメートレンズ53Rから出射するレーザ光が入射する領域53A内に一つ以上位置するように形成される。また、図3に示すように、位相変調素子54Rには駆動回路60Rが電気的に接続され、この駆動回路60Rは、位相変調素子54Rの横側に接続される走査線駆動回路と、位相変調素子54Rの上下方向の一方側に接続されるデータ線駆動回路とを有する。
【0077】
図4は、図3に示す位相変調素子の一部の厚さ方向の断面を概略的に示す図である。本実施形態の位相変調素子54Rは、図4に示すように、シリコン基板62、駆動回路層63、複数の電極64、反射膜65、液晶層66、透明電極67、透光性基板68を主な構成として備える。
【0078】
複数の電極64は、シリコン基板62の一方の面側に上記の変調ユニットの各ドットに対応してマトリックス状に配置されており、ドットはそれぞれ電極64を含んでいる。駆動回路層63は、図3に示す駆動回路60Rの走査線駆動回路及びデータ線駆動回路に接続される回路が配置される層であり、シリコン基板62と複数の電極64との間に配置される。透光性基板68は、シリコン基板62の一方の側で当該シリコン基板62と対向するように配置され、例えばガラス基板とされる。透明電極67は、透光性基板68のシリコン基板62側の面上に配置される。液晶層66は、液晶分子66aを有し、複数の電極64と透明電極67との間に配置される。反射膜65は、複数の電極64と液晶層66との間に配置され、例えば誘電体多層膜とされる。コリメートレンズ53Rから出射するレーザ光は、透光性基板68におけるシリコン基板62側と反対側の面から入射する。
【0079】
図4に示すように、透光性基板68におけるシリコン基板62側と反対側の面から入射する光LRは、透明電極67及び液晶層66を透過し、反射膜65で反射され、液晶層66及び透明電極67を透過して透光性基板68から出射される。ここで、特定の電極64と透明電極67との間に電圧が印加されると、当該電極64と透明電極67との間に位置する液晶層66の液晶分子66aの配向が変化し、当該電極64と透明電極67との間に位置する液晶層66の屈折率が変化する。液晶分子66aの配向は、印加される電圧に応じて変化するため、この電圧に応じて屈折率も変化する。液晶層66の屈折率が変化されることで上記のように当該液晶層66を透過する光LRの光路長が変化するため、当該液晶層66を透過して位相変調素子54Rから出射する光の位相を変化させることができる。上記のように、複数の電極64は、変調ユニットの各ドットに対応して配置されているため、各ドットに対応する電極64と透明電極67との間に印加される電圧が制御されることで、各ドットから出射する光の位相の変化量がそれぞれ調整される。位相変調素子54Rは、このように各ドットにおける液晶層66の屈折率を調整することで、入射する光を回折して出射するとともに出射する光の配光パターンを所望の配光パターンにし得る。また、位相変調素子54Rは、各ドットにおける液晶層66の屈折率を変化させることで、出射する光の配光パターンを変化させたり、出射する光の向きを変えてこの光が照射される領域を変化させたりできる。
【0080】
本実施形態では、位相変調素子54Rは、当該位相変調素子54Rにおけるそれぞれの変調ユニットに同じ位相変調パターンを形成する。また、位相変調素子54Gは、当該位相変調素子54Gにおけるそれぞれの変調ユニットに同じ位相変調パターンを形成し、位相変調素子54Bは、当該位相変調素子54Bにおけるそれぞれの変調ユニットに同じ位相変調パターンを形成する。なお、本明細書では、位相変調パターンは、入射する光の位相を変調するパターンを示すものとされる。本実施形態では、位相変調パターンは、各ドットにおける液晶層66の屈折率のパターンである。この位相変調パターンを調整することで、出射する光の配光パターンを所望の配光パターンにし得る。つまり、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、当該位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。
【0081】
図5は、第1の態様としての本実施形態における車両用前照灯の一部と灯具制御システムとを含むブロック図である。図5に示すように、本実施形態の灯具制御システム70では、駆動回路60R,60G,60B、電源回路61R,61G,61B、検知装置72、ライトスイッチ73、記憶部74等が制御部71に電気的に接続される。この制御部71は、灯具ユニット20に備えられても良く、車両の電子制御装置の一部とされても良い。制御部71は、例えば、マイクロコントローラ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路やNC(Numerical Control)装置を用いることができる。また、制御部71は、NC装置を用いた場合、機械学習器を用いたものであってもよく、機械学習器を用いないものであってもよい。以下に説明するように、前照灯1の幾つかの構成が制御部71により制御される。また、記憶部74として、例えばROM等の半導体メモリ、磁気ディスク等が挙げられる。
【0082】
駆動回路60Gは位相変調素子54Gに電気的に接続され、駆動回路60Bは位相変調素子54Bに電気的に接続される。駆動回路60G,60Bは、駆動回路60Rと同様に、位相変調素子54G,54Bの横側に接続される走査線駆動回路と、位相変調素子54R,54Bの上下方向の一方側に接続されるデータ線駆動回路とを有する。駆動回路60R,60G,60Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bに印加する電圧を調整する。位相変調素子54R,54G,54Bは、駆動回路60R,60G,60Bによって印加される電圧に応じた位相変調パターンを形成する。
【0083】
本実施形態では、位相変調素子54R,54G,54Bにおけるそれぞれの位相変調パターンは、位相変調素子54Rから出射する第1の光DLRと位相変調素子54Gから出射する第2の光DLGと位相変調素子54Bから出射する第3の光DLBとが合成光学系55で合成された白色の光によって所望の配光パターンが形成される位相変調パターンとされる。この所望の配光パターンには強度分布も含まれる。このため、本実施形態では、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された白色の光によって特定の配光パターンを形成する場合、光DLR,DLG,DLBのそれぞれは、この特定の配光パターンと重なると共にこの特定の配光パターンの強度分布に基づいた強度分布とされる。また、光DLR,DLG,DLBが合成された白色の光によって形成される配光パターンにおける強度が高い部位では、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBの強度もそれぞれ高くなる。なお、位相変調素子54R,54G,54Bは波長依存性を有するため、本実施形態では、位相変調素子54R,54G,54Bにおけるそれぞれの位相変調パターンは、互いに異なる位相変調パターンとされる。なお、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された白色の光によって配光パターンを形成した結果、これら位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンが互いに同じ位相変調パターンとされても良い。
【0084】
図1図2に示すように、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBは、合成光学系55で合成され、この合成された光は、カバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して前照灯1から出射する。この光は、位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンに基づく配光パターンの光であるため、位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを調節することで、前照灯1から出射する光の配光パターンを所望の配光パターンにし得る。
【0085】
電源回路61Rは光源52Rに電気的に接続され、電源回路61Gは光源52Gに電気的に接続され、電源回路61Bは光源52Bに電気的に接続される。これら電源回路61R,61G,61Bには不図示の電源が接続されている。電源回路61R,61G,61Bのそれぞれは、制御部71から入力する信号に基づいて、電源から光源52R,52G,52Bに供給される電力を調整して、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を調節する。なお、電源回路61R,61G,61Bは、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって光源52R,52G,52Bに供給される電力を調整しても良い。この場合、デューティーサイクルを調節することによって、これら光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度が調節される。
【0086】
検知装置72は、車両前方に位置する所定の対象物を検知する。検知装置72が検知する対象物として、例えば、先行車や対向車等の車両、歩行者、標識等が挙げられる。また、検知装置72の構成として、例えば、図示せぬカメラ、画像処理部、検知部等を備える構成が挙げられる。カメラは車両前方を撮影し、このカメラによって撮影される画像には、前照灯1から出射する光が照射される領域の少なくとも一部が含まれる。画像処理部は、カメラによって撮影された画像に画像処理を施す。検知部は、画像処理部によって画像処理された情報から対象物の存在及び対象物の存在位置を検知する。検知装置72は、車両前方に位置する所定の対象物を検知した場合に、対象物の存在及び対象物の存在位置の情報を制御部71に送る。この対象物の存在位置は、例えば、車両から所定の距離離れた鉛直面上における前照灯1から出射する光の配光パターンに対する対象物の相対的な位置とされ、この鉛直面上における対象物が位置している領域も含まれる。なお、検知装置72が検知する対象物、対象物の種類の数、及び検知装置72の構成は特に限定されるものではない。例えば、検知装置72は、カメラに替わって、例えばミリ波レーダ、赤外線レーダなどを用いて対象物と非接触で当該対象物の存在及び存在位置を検知するものとされも良く、カメラとミリ波レーダや赤外線レーダとを組み合わせて対象物と非接触で当該対象物の存在及び存在位置を検知するものとされても良い。
【0087】
ライトスイッチ73は、運転者が前照灯1からの光の出射または非出射を指示するスイッチである。例えば、ライトスイッチ73がオンされる場合、ライトスイッチ73は前照灯1からの光の出射を指示する信号を出力する。
【0088】
記憶部74には、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンに関する情報が格納される。この配光パターンの数は複数とされ、それぞれの配光パターンに関する情報が記憶部74に格納されている。具体的には、図6に示すように、それぞれの配光パターンに対して、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、及び当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を関連付けたテーブルTBが記憶部74に格納される。
【0089】
図7は第1の態様としての本実施形態における配光パターンの例を示す図である。具体的には、図7(A)はハイビームの配光パターンを示す図であり、図7(B)はハイビームの配光パターンにおける特定の領域が暗くされる配光パターンを示す図であり、図7(C)はハイビームの配光パターンにおける別の特定の領域が暗くされる配光パターンを示す図である。図7においてSは水平線を示し、配光パターンが太線で示され、この配光パターンは、車両から25m離れた鉛直面上に形成される配光パターンとされている。
【0090】
図7(A)に示されるハイビームの配光パターンPHのうち、領域LA1は最も強度が高い領域であり、領域LA2、領域LA3、領域LA4の順に強度が低くなる。つまり、それぞれの位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンは、合成された光がハイビームの強度分布を含む配光パターンを形成する位相変調パターンとされる。
【0091】
図7(B)に示される配光パターンP1は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1が暗くされる配光パターンである。つまり、配光パターンP1における特定の領域AR1の光の強度は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1の光の強度よりも低く、配光パターンP1における特定の領域AR1の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1の光の全光束量よりも少ない。また、配光パターンP1における特定の領域AR1以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1以外における強度分布と同じとされる。なお、図7(A)において、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1は破線で示されている。本実施形態では、配光パターンP1の特定の領域AR1は、領域LA2内に位置し、この特定の領域AR1おける中央側領域AR1aが縁側領域AR1bよりも暗くされている。また、配光パターンP1における特定の領域AR1の中央側領域AR1a及び縁側領域AR1bの光の強度は、領域LA3の強度よりも低くされる。
【0092】
図7(C)に示される配光パターンP2は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1と異なる別の特定の領域AR2が暗くされる配光パターンである。つまり、配光パターンP2における特定の領域AR2の光の強度は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR2の光の強度よりも低く、配光パターンP2における特定の領域AR2の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR2の光の全光束量よりも少ない。また、配光パターンP2における特定の領域AR2以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR2以外における強度分布と同じとされる。なお、図7(A)において、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR2は破線で示されている。本実施形態では、配光パターンP2における特定の領域AR2は、領域LA2内に位置し、この特定の領域AR2の光の強度は、領域LA2の強度よりも低くされる。
【0093】
このように、本実施形態における前照灯1から出射される光の配光パターンは、ハイビームの配光パターンPH、または、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1,AR2が暗くされる配光パターンP1,P2とされる。なお、配光パターンP1,P2における特定の領域AR1,AR2の位置、形状、数、及び広さは特に限定されるものではない。また、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1,AR2が暗くされる配光パターンP1,P2の数も限定されるものではない。また、配光パターンP1,P2における特定の領域AR1,AR2の光の強度は特に限定されるものではなく、特定の領域AR1,AR2の光の強度がゼロ、つまり、特定の領域AR1,AR2へ光が非出射とされても良い。また、特定の領域AR1,AR2における暗さの度合いは当該特定の領域AR1,AR2内の全体において概ね一定とされも良く、特定の領域AR1,AR2における暗さの度合いが当該特定の領域AR1,AR2内の位置に応じて変化していても良い。また、配光パターンP1,P2における特定の領域AR1,AR2以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1,AR2以外における強度分布と異なっていても良い。また、配光パターンP1,P2の外形は、ハイビームの配光パターンPHの外形と異なっていても良い。
【0094】
次に、本実施形態の前照灯1の動作について説明する。具体的には、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンをハイビームの配光パターンPHから別の配光パターンに変化する動作について説明する。図8は、制御部71の制御フローチャートを示す図である。
【0095】
まず、ステップSP1において、ライトスイッチ73がオンされ、ライトスイッチ73から光の出射を指示する信号が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローはステップSP2に進む。一方、ステップSP1において、この信号が制御部71に入力されない場合、制御部71の制御フローはステップSP8に進む。
【0096】
ステップSP2において、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知せず、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力されない場合、制御部71の制御フローはステップSP3に進む。一方、ステップSP2においてこの情報が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローはステップSP5に進む。
【0097】
ステップSP3において、制御部71は、記憶部74に格納されるテーブルTBにおけるハイビームの配光パターンPHに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。具体的には、制御部71は、この情報に基づく信号を駆動回路60R,60G,60Bに出力し、駆動回路60R,60G,60Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bに印加する電圧を調整する。この電圧は、位相変調素子54R,54G,54Bが光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンを形成する電圧とされる。このため、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンにする。つまり、ステップSP3において、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、テーブルTBにおけるハイビームの配光パターンPHに関連付けられた情報に基づいて、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンにすると理解できる。
【0098】
次にステップSP4において、制御部71は、テーブルTBおけるハイビームの配光パターンPHに関連付けられた情報に基づいて、光源52R,52G,52Bを制御する。具体的には、制御部71は、この情報に基づく信号を電源回路61R,61G,61Bに出力し、電源回路61R,61G,61Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、電源から光源52R,52G,52Bに供給される電力を調整する。この電力は、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度がテーブルTBにおいてハイビームの配光パターンPHに関連付けられた強度となる電力とされる。このため、ステップSP4において、光源52R,52G,52Bは、テーブルTBにおいてハイビームの配光パターンPHに関連付けられた強度のレーザ光を出射する。このように強度が調整された光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された白色の光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ハイビームの配光パターンPHとなるため、ハイビームの配光パターンPHの光が前照灯1から出射する。
【0099】
ところで、上記のように、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度はハイビームの配光パターンPHに関連付けられた強度とされる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光のそれぞれにおける全光束量は、ハイビームの配光パターンPHに応じた全光束量であり、これらレーザ光に起因する光DLR,DLG,DLBが灯具ユニット20から出射する。従って、灯具ユニット20から出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量は、ハイビームの配光パターンPHに応じた全光束量に調整されている。
【0100】
なお、ステップSP2において、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力されない場合、制御部71は、ステップSP3とステップSP4とにおける制御を同時に行っても良い。また、制御部71の制御フローは、ステップSP4、ステップSP3の順に進み、ステップSP1に戻っても良い。
【0101】
ステップSP2において、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローは上記のようにステップSP5に進む。ステップSP5において、制御部71は、検知装置72から入力されるこの情報に基づいて、テーブルTBにおける配光パターンの中から1つの配光パターンを選択する。具体的には、制御部71は、検知装置72によって検知された対象物の少なくとも一部と、配光パターンにおける特定の領域とが重なる1つの配光パターンをテーブルTBにおける配光パターンの中から選択する。
【0102】
次にステップSP6において、制御部71は、テーブルTBにおけるステップSP5で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。この場合、位相変調素子54R,54G,54Bは、上記ステップSP3と同様にして、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがステップSP5で選択された配光パターンとなる位相変調パターンにする。ここで、上記のように、ステップSP5で選択された配光パターンは、検知装置72からの情報に基づいて選択され、暗くされる特定の領域と対象物の少なくとも一部とが重なる配光パターンである。従って、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、検知装置72からの情報に基づいて、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされる配光パターンとなる位相変調パターンにすると理解できる。
【0103】
次にステップSP7において、制御部71は、テーブルTBにおけるステップSP5で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、光源52R,52G,52Bを制御する。この場合、光源52R,52G,52Bは、上記ステップSP4と同様にして、テーブルTBにおいてステップSP5で選択された配光パターンに関連付けられた強度のレーザ光を出射する。このように強度が調整された光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された白色の光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ステップSP5で選択された配光パターンとなるため、ステップSP5で選択された配光パターンの光が前照灯1から出射する。
【0104】
ところで、上記のように、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度はテーブルTBにおいてステップSP5で選択された配光パターンに関連付けられた強度とされる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光のそれぞれにおける全光束量は、ステップSP5で選択された配光パターンに応じた全光束量であり、これらレーザ光に起因する光DLR,DLG,DLBが灯具ユニット20から出射する。従って、灯具ユニット20から出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量は、ステップSP5で選択された配光パターンに応じた全光束量に調節されている。
【0105】
本実施形態では、テーブルTBにおいて配光パターンに関連付けられたレーザ光の強度は、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度を基準として、それぞれの配光パターンにおいて暗くされる特定の領域における光の全光束量の減少量に応じて下げられた強度とされる。つまり、暗くされる特定の領域における光の全光束量の減少量が多い場合、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の低下の度合いが大きい。一方、暗くされる特定の領域における光の全光束量の減少量が少ない場合、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の低下の度合いが小さくされる。
【0106】
図9は、検知装置によって検知された対象物と暗くされる特定の領域とが重なる配光パターンの光が前照灯から出射する状態の例を示す図である。具体的には、図9(A)は検知装置72によって対象物として歩行者PEが検知された際の配光パターンの光が前照灯1から出射する状態の例を示す図である。図9(B)は検知装置72によって対象物として対向車OVが検知された際の配光パターンの光が前照灯1から出射する状態の例を示す図である。図9(A)に示される配光パターンは、図7(B)に示される配光パターンP1であり、上記のように、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1が暗くされる配光パターンである。なお、図9(A)では、特定の領域AR1における中央側領域AR1aと縁側領域AR1bとの記載が省略されている。この特定の領域AR1は、歩行者PEの全体と重なっている。このため、歩行者PEに照射される光の全光束量は、前照灯1からハイビームが出射される場合と比べて減少されている。図9(B)に示される配光パターンは、図7(C)に示される配光パターンP2であり、上記のように、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR2が暗くされる配光パターンである。この特定の領域AR2は、対向車OVの全体と重なっている。このため、対向車OVに照射される光の全光束量は、前照灯1からハイビームが出射される場合と比べて減少されている。
【0107】
上記のように、図9(A)では歩行者PEの全体と特定の領域AR1とが重なる配光パターンP1の光が前照灯1から出射する状態が示され、図9(B)では対向車OVの全体と特定の領域AR2とが重なる配光パターンP2の光が前照灯1から出射する状態が示された。しかし、第1の態様としての前照灯1から出射する光は、検知装置72によって検知された対象物の少なくとも一部と暗くされる特定の領域とが重なる配光パターンの光であれば良い。例えば、前照灯1から出射する光は、対象物である歩行者PEの頭部全体と暗くされる特定の領域とが重なり、歩行者PEの胴部がこの暗くされる特定の領域以外の領域と重なる配光パターンの光とされても良い。また、前照灯1から出射する光は、対象物である対向車OVのフロントガラス全体と暗くされる特定の領域とが重なり、対向車OVのフロントガラスよりも下側部分がこの暗くされる特定の領域以外の領域と重なる配光パターンの光とされても良い。つまり、ステップSP5において、制御部71がこのような配光パターンを選択しても良い。
【0108】
また、上記ステップSP2において、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力される場合、制御部71は、ステップSP6とステップSP7とにおける制御を同時に行っても良い。また、制御部71の制御フローは、ステップSP5、ステップSP7、ステップSP6の順に進み、ステップSP1に戻っても良い。
【0109】
上記のようにステップSP1においてライトスイッチ73から光の出射を指示する信号が制御部71に入力されずに制御部71の制御フローがステップSP8に進んだ場合、制御部71は、光源52R,52G,52Bを制御して光源52R,52G,52Bからのレーザ光を非出射にする。この場合、電源回路61R,61G,61Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、電源から光源52R,52G,52Bへの電力の供給を停止する。このため、光源52R,52G,52Bはレーザ光を非出射とし、前照灯1は光を非出射とする。
【0110】
このように、本実施形態の前照灯1は、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知しない場合、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する。一方、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知する場合、この前照灯1は、対象物の少なくとも一部と暗くされる特定の領域とが重なる配光パターンP1,P2の光を出射する。
【0111】
ところで、上記特許文献1に記載の車両用前照灯では、車両から所定の距離離れた鉛直面上においてロービームが照射される領域の広さと市街地用の配光パターンの光が照射される領域の広さとは、互いに異なっている。このため、この車両用前照灯では、出射する光の配光パターンを変化させた際に、光が照射される領域の明るさが意図せずに全体的に変化する傾向にあり、運転者が違和感を覚える場合がある。
【0112】
そこで、第1の態様としての本実施形態の前照灯1は、レーザ光を出射する光源52R,52G,52Bと、位相変調素子54R,54G,54Bと、を有する灯具ユニット20を備える。位相変調素子54Rは、変更可能な位相変調パターンで光源52Rから出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。位相変調素子54Gは、変更可能な位相変調パターンで光源52Gから出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。位相変調素子54Bは、変更可能な位相変調パターンで光源52Bから出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。灯具ユニット20では、位相変調素子54Rから出射する第1の光DLRと、位相変調素子54Gから出射する第2の光DLGと、位相変調素子54Bから出射する第3の光DLBとが合成された光によって配光パターンが形成される。この配光パターンの光が灯具ユニット20から出射する。
【0113】
このため、第1の態様としての本実施形態の前照灯1では、位相変調素子54R,54G,54Bにおけるそれぞれの位相変調パターンを変更することで灯具ユニット20から出射する光の配光パターンを変更でき、前照灯1から出射する光の配光パターンを変更できる。
【0114】
また、第1の態様としての本実施形態の前照灯1では、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、検知装置72からの情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域AR1,AR2が暗くされる配光パターンP1,P2となる位相変調パターンにする。このため、第1の態様としての本実施形態の前照灯1では、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化する。例えば、図9(A)に示すように、検知装置72が検知する対象物が歩行者PEとされる場合、歩行者PEに照射される光の全光束量を低減することができ、歩行者PEが前照灯1から出射する光を眩しく感じることを抑制し得る。また、図9(B)に示すように、検知装置72が検知する対象物が対向車OVとされる場合、対向車OVに照射される光の全光束量を低減することができ、対向車OVの運転者が前照灯1から出射する光を眩しく感じることを抑制し得る。
【0115】
また、第1の態様としての本実施形態の前照灯1では、灯具ユニット20は、特定の領域AR1,AR2が暗くされる配光パターンP1,P2に応じて当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少する。このため、第1の態様としての本実施形態の前照灯1は、対象物に照射される光の全光束量を低減した分、灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少させることができ、特定の領域AR1,AR2が暗くされる配光パターンP1,P2のうち特定の領域AR1,AR2以外の領域が意図せずに全体的に明るくなることを抑制し得る。従って、第1の態様としての本実施形態の前照灯1は、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0116】
また、第1の態様としての本実施形態の前照灯1では、配光パターンP1,P2における特定の領域AR1,AR2以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1,AR2以外における強度分布と同じとされる。このため、本実施形態の前照灯1は、出射する光の配光パターンの変化に応じて、暗くされる特定の領域AR1,AR2以外における強度分布が変化しないため、運転者が違和感を覚えることをより抑制し得る。なお、複数の参照点における光の強度が同じであれば、強度分布も同じであると推定することができ、例えば、複数の参照点における輝度または照度が同じであれば、強度分布も同じであると推定することができる。複数の参照点には、最大の強度となる点が含まれることが好ましい。
【0117】
また、第1の態様としての本実施形態の前照灯1では、灯具ユニット20は、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を下げ、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を低減する。このため、灯具ユニット20は、減光フィルタ等を備えなくても当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節することができ、前照灯1を簡易な構成とし得る。
【0118】
また、第1の態様としての本実施形態では、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1が暗くされる配光パターンP1において、特定の領域AR1の中央側領域AR1aが縁側領域AR1bよりも暗くされている。このため、対象物である歩行者PEに照射される光の全光束量を低減しつつも、歩行者PEが視認し難くなることを抑制し得る。
【0119】
また、第1の態様としての本実施形態では、上記のように、テーブルTBにおいて配光パターンに関連付けられたレーザ光の強度は、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度を基準として、それぞれの配光パターンにおいて暗くされる特定の領域における光の全光束量の減少量に応じて下げられた強度とされる。しかし、灯具ユニット20から出射する光の全光束量の調節が煩雑になることを抑制する観点において、テーブルTBにおいて配光パターンに関連付けられたレーザ光の強度は、特定の領域AR1,AR2の広さが所定の広さを越える場合に、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度を基準として、それぞれの配光パターンにおいて暗くされる特定の領域における光の全光束量の減少量に応じて下げられた強度とされても良い。つまり、灯具ユニット20は、特定の領域AR1,AR2の広さが所定の広さを越える場合に、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少することとしても良い。これは、灯具ユニット20が、前照灯1から出射する光の配光パターンの広さが所定の広さ以下になる場合に、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少することと同義である。このような構成にすることで、灯具ユニット20は、閾値に基づいて灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少したり減少しなかったりするため、灯具ユニット20から出射する光の全光束量の調節が煩雑になることを抑制し得る。なお、ここでの広さとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に配光パターンが形成される場合における広さとされる。また、運転者が違和感を覚えることをより抑制する観点において、特定の領域AR1,AR2における光の全光束量の減少量と、灯具ユニット20から出射する光の全光束量の減少量とが概ね同じであることが好ましい。
【0120】
また、テーブルTBにおいて配光パターンに関連付けられたレーザ光の強度は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR1,AR2の光の全光束量が所定の量を越える場合に、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度を基準として、それぞれの配光パターンにおいて暗くされる特定の領域AR1,AR2における光の全光束量の減少量に応じて下げられた強度とされても良い。つまり、灯具ユニット20は、暗くされる前における特定の領域AR1,AR2の光の全光束量、つまりハイビームの配光パターンPHにおけるこの特定の領域AR1,AR2の光の全光束量が所定の量を越える場合に、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少することとしても良い。このような構成にすることで、灯具ユニット20は、閾値に基づいて灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少したり減少しなかったりするため、灯具ユニット20から出射する光の全光束量の調節が煩雑になることを抑制し得る。
【0121】
(第2実施形態)
次に、本発明の第1の態様としての第2実施形態について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0122】
本実施形態の車両用灯具は、第1実施形態と同様に、自動車用の前照灯1とされる。また、本実施形態の前照灯1の構成は、第1実施形態における前照灯1と同様の構成とされるため、図1図2を参照して本実施形態の前照灯1について説明する。
【0123】
本実施形態の記憶部74に格納されるテーブルTBは第1実施形態のテーブルTBと異なり、本実施形態の前照灯1から出射される光の配光パターンは第1実施形態の前照灯1から出射される光の配光パターンと異なる。
【0124】
具体的には、本実施形態のテーブルTBでは、図7(A)に示されるハイビームの配光パターンPH及びロービームの配光パターンのそれぞれに対して、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、及び当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度が関連付けられる。このテーブルTBが記憶部74に格納される。
【0125】
図10は、本実施形態におけるロービームの配光パターンを示す図である。図10においてSは水平線を示し、配光パターンが太線で示され、この配光パターンは、車両から25m離れた鉛直面上に形成される配光パターンとされている。図10に示されるロービームの配光パターンPLのうち、領域LA11は最も強度が高い領域であり、領域LA12、領域LA13の順に強度が低くなる。つまり、それぞれの位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンは、合成された光がロービームの強度分布を含む配光パターンを形成する位相変調パターンとされる。また、このロービームの配光パターンPLの広さは、ハイビームの配光パターンPHの広さよりも狭い。なお、ここでの広さとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に配光パターンが形成される場合における広さとされる。
【0126】
テーブルTBにおいてロービームの配光パターンPLに関連付けられたレーザ光の強度は、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度よりも低い強度とされる。
【0127】
次に、本実施形態の前照灯1の動作について説明する。具体的には、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンをハイビームの配光パターンPHとロービームの配光パターンPLとに変化する動作について説明する。図11は、本実施形態における制御部の制御フローチャートを示す図である。
【0128】
本実施形態における制御フローは、第1実施形態における制御フローにおけるステップSP5とステップSP6とステップSP7に替わって、ステップSP16とステップSP17とを有する点で、第1実施形態における制御フローと異なる。
【0129】
本実施形態では、ステップSP2において、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知し、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローは、ステップSP16に進む。なお、本実施形態では、検知装置72から制御部71に送られる情報には、対象物の存在位置の情報が含まれていなくても良い。つまり、検知装置72は、車両前方に位置する所定の対象物を検知したことを知らせる信号のみを制御部71に送っても良い。このような場合、ステップSP2において検知装置72から対象物の存在を知らせる信号が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローがステップSP16に進むこととしても良い。
【0130】
ステップSP16において、制御部71は、テーブルTBにおけるロービームの配光パターンPLに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。この場合、位相変調素子54R,54G,54Bは、第1実施形態のステップSP6と同様にして、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがロービームの配光パターンPLとなる位相変調パターンにする。つまり、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、検知装置72からの情報に基づいて、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがロービームの配光パターンPLとなる位相変調パターンにすると理解できる。
【0131】
次にステップSP17において、制御部71は、テーブルTBおけるロービームの配光パターンPLに関連付けられた情報に基づいて、光源52R,52G,52Bを制御する。この場合、光源52R,52G,52Bは、第1実施形態のステップSP7と同様にして、テーブルTBにおいてロービームの配光パターンPLに関連付けられた強度のレーザ光を出射する。このように強度が調整された光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された白色の光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ロービームの配光パターンPLとなるため、ロービームの配光パターンPLの光が前照灯1から出射する。
【0132】
上記のように、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度はロービームの配光パターンPLに関連付けられた強度とされる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光のそれぞれにおける全光束量は、ロービームの配光パターンPLに応じた全光束量であり、これらレーザ光に起因する光DLR,DLG,DLBが灯具ユニット20から出射する。従って、灯具ユニット20から出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量は、ロービームの配光パターンPLに応じた全光束量に調節されている。
【0133】
このようにして、本実施形態の前照灯1は、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知する場合、この前照灯1は、ロービームの配光パターンPLの光を出射する。一方、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知しない場合、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する。
【0134】
このように出射する光の配光パターンが変化する際、位相変調素子54R,54G,54Bにおけるそれぞれの変調パターンは変化する。つまり、本実施形態の前照灯1では、位相変調素子54R,54G,54Bにおけるそれぞれの変調パターンが変化することで、灯具ユニット20から出射する光の配光パターンがロービームの配光パターンPLとハイビームの配光パターンPHとに変化する。本実施形態の前照灯1では、上記のように、テーブルTBにおいてロービームの配光パターンPLに関連付けられたレーザ光の強度は、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度よりも低い強度とされる。このため、ロービームの配光パターンPLの光を出射する場合の灯具ユニット20から出射する光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する場合の灯具ユニット20から出射する光の全光束量よりも少なくされる。つまり、ハイビームの配光パターンPHからロービームの配光パターンPLに変化する場合に、灯具ユニット20は、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少する。一方、ロービームの配光パターンPLからハイビームの配光パターンPHに変化する場合に、灯具ユニット20は、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を増加する。
【0135】
ところで、車両から所定の距離離れた鉛直面上においてロービームが照射される領域は、ハイビームの配光パターンの光が照射される領域よりも狭い。本実施形態の前照灯1では、上記のように、ロービームの配光パターンPLからハイビームの配光パターンPHに変化する場合に、灯具ユニット20は、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を増加し、ハイビームの配光パターンPHからロービームの配光パターンPLに変化する場合に、灯具ユニット20は、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少する。このため、本実施形態の前照灯1は、出射する光の配光パターンをロービームの配光パターンPLとハイビームの配光パターンPHとで変化させた際に、ロービームやハイビームが照射される領域の明るさが意図せずに全体的に変化することを抑制でき、運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0136】
なお、上記ステップSP2において、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力される場合、制御部71は、ステップSP16とステップSP17とにおける制御を同時に行っても良い。また、制御部71の制御フローは、ステップSP17、ステップSP16の順に進み、ステップSP1に戻っても良い。また、出射する光の配光パターンの切り替えは、検知装置72による車両前方に位置する所定の対象物の検知に応じるものに限定されるものではない。例えば、ライトスイッチ73が前照灯1からの光の出射または非出射の指示、及び出射する光の配光パターンの指示をするスイッチとされ、運転者によるライトスイッチ73の操作に応じて出射する光の配光パターンが切り替えられても良い。
【0137】
(第3実施形態)
次に、本発明の第1の態様としての第3実施形態について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0138】
本実施形態の車両用灯具は、第1実施形態と同様に、自動車用の前照灯1とされる。また、本実施形態の前照灯1の構成は、第1実施形態における前照灯1と同様の構成とされるため、図1図2を参照して本実施形態の前照灯1について説明する。
【0139】
本実施形態の記憶部74に格納されるテーブルTBは第1実施形態のテーブルTBと異なり、制御部71に入力される情報は第1実施形態の制御部71に入力される情報と異なり、本実施形態の前照灯1から出射される光の配光パターンは第1実施形態の前照灯1から出射される光の配光パターンと異なる。
【0140】
図12は、第1の態様としての本実施形態における車両用前照灯の一部と灯具制御システムとを含むブロック図である。図12に示すように、本実施形態の制御部71には、検知装置72に替わってステアリングセンサ75が電気的に接続される。ステアリングセンサ75は、車両のステアリングホイールの回転角度、つまり車両の操舵角を検知し、検知した操舵角の信号を制御部71に送る。このステアリングセンサ75は、右の操舵角と左の操舵角とを異なる操舵角と識別しつつこれらの操舵角を検知する。
【0141】
図13は第1の態様としての本実施形態におけるテーブルを示す図である。図13に示すように、本実施形態のテーブルTBでは、図7(A)に示されるハイビームの配光パターンPH、ハイビームの配光パターンPHが右側に広げられた右操舵配光パターン、及びハイビームの配光パターンPHが左側に広げられた左操舵配光パターンのそれぞれに対して、情報が関連付けられる。それぞれの配光パターンに関連付けられる情報として、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度、及び車両の操舵角が挙げられる。本実施形態では、右操舵配光パターン及び左操舵配光パターンのそれぞれには、広げられる領域の左右方向の幅が異なる複数の配光パターンが含まれる。このテーブルTBが記憶部74に格納される。
【0142】
図14は第1の態様としての本実施形態における配光パターンの例を示す図である。具体的には、図14(A)は、ハイビームの配光パターンPHが右側に広げられた右操舵配光パターンPSR1を示す図であり、図14(B)は、ハイビームの配光パターンPHが右側に広げられた別の右操舵配光パターンPSR2を示す図である。図14においてSは水平線を示し、配光パターンが太線で示され、この配光パターンは、車両から25m離れた鉛直面上に形成される配光パターンとされている。また、図14では、ハイビームの配光パターンPHと広げられた領域ARS1,ARS2との境界が破線で示されている。右操舵配光パターンPSR2における広げられた領域ARS2の左右方向の幅W2は、右操舵配光パターンPSR1における広げられた領域ARS1の左右方向の幅W1よりも広い。なお、領域ARS1の左右方向の幅W1は、ハイビームの配光パターンPHにおける右側端から領域ARS1の右側端まで左右方向の幅とされる。領域ARS2の左右方向の幅W2は、ハイビームの配光パターンPHにおける右側端から領域ARS2の右側端まで左右方向の幅とされる。また、右操舵配光パターンPSR2における広げられた領域ARS2は、右操舵配光パターンPSR1における広げられた領域ARS1よりも広い。なお、ここでの広いとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に形成される配光パターンを比べた際に広いことを表している。また、右操舵配光パターンPSR1,PSR2における広げられた領域ARS1,ARS2以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける強度分布と同じとされる。
【0143】
本実施形態では、広げられた領域ARS1,ARS2における光の強度は、ハイビームの配光パターンPHにおける外周側の領域である領域LA4における光の強度と概ね同じとされる。なお、広げられた領域ARS1,ARS2における光の強度は、特に限定されるものではなく、ハイビームの配光パターンPHにおける領域LA3における光の強度よりも高くされても良い。また、右操舵配光パターンPSR1,PSR2における広げられた領域ARS1,ARS2以外の領域、つまり、ハイビームの配光パターンPHに対応する領域の強度分布がハイビームの配光パターンPHにおける強度分布と異なっていても良い。
【0144】
次に、本実施形態の前照灯1の動作について説明する。具体的には、車両の操舵角に応じて出射する光の配光パターンをハイビームの配光パターンPHからハイビームの配光パターンPHが左右方向に広げられた配光パターンに変化する動作について説明する。図15は、第1の態様としての本実施形態における制御部の制御フローチャートを示す図である。
【0145】
本実施形態における制御フローは、第1実施形態における制御フローにおけるステップSP2、ステップSP3、ステップSP4、ステップSP5、ステップSP6、及びステップSP7に替わって、ステップSP25、ステップSP26、及びステップSP27を有する点で、第1実施形態における制御フローと異なる。
【0146】
本実施形態では、ステップSP1において、ライトスイッチ73がオンされ、ライトスイッチ73から光の出射を指示する信号が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローは、ステップSP25に進む。一方、ステップSP1において、この信号が制御部71に入力されない場合、制御部71の制御フローは、ステップSP8に進む。
【0147】
ステップSP25において、制御部71は、ステアリングセンサ75から出力される車両の操舵角の信号に基づいて、テーブルTBにおける配光パターンの中から1つの配光パターンを選択する。ここで、本実施形態のテーブルTBでは、各配光パターンに対して操舵角の所定の範囲が関連づけられている。各配光パターンに関連付けられる操舵角の所定の範囲は、他の配光パターンに関連付けられる操舵角の所定の範囲と異なっている。本実施形態では、ハイビームの配光パターンPHに関連付けられる操舵角の範囲は、ゼロを含む連続した範囲とされる。また、複数の右操舵配光パターンに関連付けられる操舵角は右の操舵角であり、複数の右操舵配光パターンのうち広げられた領域の幅が最も狭い右操舵配光パターンに関連付けられる右の操舵角の範囲の下限は、ハイビームの配光パターンPHに関連付けられる操舵角の範囲における右の操舵角の上限より大とされる。また、広げられた領域の幅が最も狭い右操舵配光パターンに関連付けられる右の操舵角の範囲の上限は、広げられた領域の幅が2番目に狭い右操舵配光パターンに関連付けられる右の操舵角の範囲の下限未満とされる。また、広げられた領域の幅が2番目に狭い右操舵配光パターンに関連付けられる右の操舵角の範囲の上限は、広げられた領域の幅が3番目に狭い右操舵配光パターンに関連付けられる右の操舵角の範囲の下限未満とされる。このように、複数の右操舵配光パターンに関連付けられる右の操舵角の範囲の上限と下限は、広げられた領域の幅が狭い順に大きくなるように決められる。つまり、広げられた領域の幅が狭い右操舵配光パターンには、小さい右の操舵角が関連付けられ、広げられた領域の幅が広い右操舵配光パターンには、大きい右の操舵角が関連付けられる。また、複数の左操舵配光パターンに関連付けられる操舵角は左の操舵角である。複数の左操舵配光パターンに関連付けられる左の操舵角の範囲の上限と下限は、複数の右操舵配光パターンと同様にして、広げられた領域の幅が狭い順に大きくなるように決められる。このため、広げられた領域の幅が狭い左操舵配光パターンには、小さい左の操舵角が関連付けられ、広げられた領域の幅が広い左操舵配光パターンには、大きい左の操舵角が関連付けられる。そして、本実施形態の制御部71は、このように各配光パターンに対して操舵角の所定の範囲が関連付けられたテーブルTBにおける配光パターンの中から、ステアリングセンサ75によって検知された操舵角が含まれる操舵角の範囲に対応する配光パターンを選択する。従って、制御部71は、操舵角に応じて、左右方向に広げられた配光パターンを選択し、選択された配光パターンにおける広げられた領域の左右方向の幅は、操舵角に応じた幅とされる。具体的には、制御部71は、右の操舵角が大きい場合には、左右方向の幅が広い右操舵配光パターンを選択し、右の操舵角が小さい場合には、左右方向の幅が狭い右操舵配光パターンを選択する。また、制御部71は、左の操舵角が大きい場合には、左右方向の幅が広い左操舵配光パターンを選択し、左の操舵角が小さい場合には、左右方向の幅が狭い左操舵配光パターンを選択する。また、制御部71は、操舵が殆どされない場合には、ハイビームの配光パターンPHを選択する。
【0148】
次にステップSP26において、制御部71は、テーブルTBにおけるステップSP25で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。この場合、位相変調素子54R,54G,54Bは、第1実施形態のステップSP6と同様にして、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがステップSP25で選択された配光パターンとなる位相変調パターンにする。ステップSP25で選択された配光パターンは、上記のように、操舵角に応じた配光パターンである。このため、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、操舵角に応じて、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンとなる位相変調パターンにすると理解できる。
【0149】
次にステップSP27において、制御部71は、テーブルTBおけるステップSP25で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、光源52R,52G,52Bを制御する。この場合、光源52R,52G,52Bは、第1実施形態のステップSP7と同様にして、テーブルTBにおいてステップSP25で選択された配光パターンに関連付けられた強度のレーザ光を出射する。このように強度が調整された光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された白色の光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ステップSP25で選択された配光パターンとなるため、ステップSP25で選択された配光パターンの光が前照灯1から出射する。
【0150】
上記のように、制御部71は操舵角に応じた配光パターンを選択するため、前照灯1は、ハイビームの配光パターンPHが左右方向に広げられた配光パターンの光を操舵に応じて出射する。従って、この前照灯1では、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化する。例えば、図14に示すように、この前照灯1は、曲路WRにおいて進行先にも光を照射し得る。このため、この前照灯1は、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが変化しない場合と比べて、曲路WRにおける視認性を向上し得る。
【0151】
また、上記のように、制御部71によって選択された配光パターンにおける広げられた領域の左右方向の幅は、操舵角に応じた幅とされる。従って、本実施形態の前照灯1が出射する光の配光パターンにおける広げられた領域の左右方向の幅は、操舵角に応じた幅となる。このため、本実施形態の前照灯1では、車両の進行方向の変化の度合いに応じて出射する光の配光パターンが変化する。従って、この前照灯1は、曲路WRの曲がりの度合いに応じて照射される領域を変化させ得るため、曲路WRにおける視認性をより向上し得る。
【0152】
なお、制御部71は、ステップSP26とステップSP27とにおける制御を同時に行っても良い。また、制御部71の制御フローは、ステップSP27、ステップSP26の順に進み、ステップSP1に戻っても良い。また、本実施形態の前照灯1が出射する光の配光パターンにおける広げられた領域の左右方向の幅は、概ね一定とされても良い。つまり、テーブルTBは、ハイビームの配光パターンPH、ハイビームの配光パターンPHが右側に広げられた1つの右操舵配光パターン、及びハイビームの配光パターンPHが左側に広げられた1つの左操舵配光パターンのそれぞれに対して、情報が関連付けられたテーブルとされても良い。それぞれの配光パターンに関連付けられる情報として、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度、及び車両の操舵角が挙げられる。このような構成であっても、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化し、曲路WRにおける視認性を向上し得る。
【0153】
ところで、上記のように、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度はテーブルTBにおいてステップSP25で選択された配光パターンに関連付けられた強度とされる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光のそれぞれにおける全光束量は、ステップSP25で選択された配光パターンに応じた全光束量であり、これらレーザ光に起因する光DLR,DLG,DLBが灯具ユニット20から出射する。従って、灯具ユニット20から出射する光の全光束量は、ステップSP25で選択された配光パターンに応じた全光束量に調節されている。
【0154】
本実施形態では、テーブルTBにおいて右操舵配光パターン及び左操舵配光パターンに関連付けられたレーザ光の強度は、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度を基準として、それぞれの配光パターンにおける左右方向に広げられた領域の広さに応じて高くされた強度とされる。つまり、広げられた領域が広い場合、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の上昇の度合いが大きい。一方、広げられた領域が狭い場合、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の上昇の度合いが小さくされる。従って、灯具ユニット20は、左右方向に広げられた配光パターンに応じて当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を増加する。このため、本実施形態の前照灯1は、左右方向に広げられた配光パターンのうち広げられた領域以外の領域が意図せずに全体的に暗くなることを抑制し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0155】
本実施形態では、全光束量の増加量は、左右方向に広げられた領域の広さに応じた量とされる。つまり、左右方向に広げられた領域の広さが大きい場合、全光束量の増加量が多く、左右方向に広げられた領域の広さが小さい場合、全光束量の増加量が少ない。このため、本実施形態の前照灯1は、左右方向に広げられた配光パターンのうち広げられた領域以外の領域が意図せずに全体的に明るくなることを抑制し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることをより抑制し得る。なお、運転者が違和感を覚えることをより抑制する観点において、広げられた領域における光の全光束量と灯具ユニット20から出射する光の全光束量の増加量とが概ね同じであることが好ましい。
【0156】
本実施形態では、左右方向に広げられた右操舵配光パターンPSR1,PSR2における広げられた領域ARS1,ARS2以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける強度分布と同じとされる。このため、本実施形態の前照灯1は、出射する光の配光パターンの変化に応じて、左右方向に広げられた領域ARS1,ARS2以外における強度分布が変化しないため、運転者が違和感を覚えることをより抑制し得る。
【0157】
(第4実施形態)
次に、本発明の第1の態様としての第4実施形態について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0158】
本実施形態の車両用灯具は、第1実施形態と同様に、自動車用の前照灯1とされる。また、本実施形態の前照灯1の構成は、第1実施形態における前照灯1と同様の構成とされるため、図1図2を参照して本実施形態の前照灯1について説明する。
【0159】
本実施形態の記憶部74に格納されるテーブルTBは第1実施形態のテーブルTBと異なり、制御部71に入力される情報は第1実施形態の制御部71に入力される情報と異なり、本実施形態の前照灯1から出射される光の配光パターンは第1実施形態の前照灯1から出射される光の配光パターンと異なる。
【0160】
図16は、第1の態様としての本実施形態における車両用前照灯の一部と灯具制御システムとを含むブロック図である。図16に示すように、本実施形態の制御部71には、検知装置72に替わってターンスイッチ76が電気的に接続される。ターンスイッチ76は、運転者が車両のターンランプの状態の選択をするスイッチである。例えば、ターンスイッチ76は、左のターンランプが点滅する状態が選択された場合、この状態を指示する信号を出力し、右のターンランプが点滅する状態が選択された場合、この状態を指示する信号を出力し、左右のターンランプが非点灯とされる状態が選択された場合、信号を出力しない。
【0161】
図17は第1の態様としての本実施形態におけるテーブルを示す図である。図17に示すように、本実施形態のテーブルTBは、図10に示されるロービームの配光パターンPL、ロービームの配光パターンPLが右側に広げられた右折配光パターン、及びロービームの配光パターンPLが左側に広げられた左折配光パターンのそれぞれに対して、情報が関連付けられたテーブルとされる。それぞれの配光パターンに対して関連付けられる情報として、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度、及びターンランプの状態の選択を関連付けたテーブルとされる。このテーブルTBが記憶部74に格納されている。
【0162】
図18は第1の態様としての本実施形態における配光パターンの例を示す図である。具体的には、図18(A)は、ロービームの配光パターンPLが右側に広げられた右折配光パターンPTRを示す図であり、図18(B)は、ロービームの配光パターンPLが左側に広げられた左折配光パターンPTLを示す図である。図18においてSは水平線を示し、配光パターンが太線で示され、この配光パターンは、車両から25m離れた鉛直面上に形成される配光パターンとされている。また、図18では、ロービームの配光パターンPLと広げられた領域ART1,ART2との境界が破線で示されている。右折配光パターンPTRにおける広げられた領域ART1の広さと、左折配光パターンPTLにおける広げられた領域ART2の広さは異なる。なお、ここでの広さとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に配光パターンが形成される場合における広さとされる。また、右折配光パターンPTR及び左折配光パターンPTLにおける広げられた領域ART1,ART2以外における強度分布は、ロービームの配光パターンPLにおける強度分布と同じとされる。
【0163】
本実施形態では、広げられた領域ART1,ART2における光の強度は、ロービームの配光パターンPLにおける外周側の領域である領域LA13における光の強度と概ね同じとされる。なお、広げられた領域ART1,ART2における光の強度は、特に限定されるものではなく、ロービームの配光パターンPLにおける領域LA13における光の強度よりも高くされても良い。また、右折配光パターンPTR及び左折配光パターンPTLにおける広げられた領域ART1,ART2以外の領域、つまり、ロービームの配光パターンPLに対応する領域の強度分布がロービームの配光パターンPLにおける強度分布と異なっていても良い。
【0164】
次に、本実施形態の前照灯1の動作について説明する。具体的には、ターンスイッチ76の操作に応じて出射する光の配光パターンをロービームの配光パターンPLからロービームの配光パターンPLが左右方向に広げられた配光パターンに変化する動作について説明する。本実施形態では、制御部の制御フローチャートは、第3実施形態における制御部の制御フローチャートと同様とされるため、図15を参照して説明する。
【0165】
本実施形態では、ステップSP25、ステップSP26、及びステップSP27における制御部71による制御が、第3実施形態におけるステップSP25、ステップSP26、及びステップSP27における制御部71による制御と異なる。
【0166】
本実施形態では、ステップSP25において、制御部71は、ターンスイッチ76から出力される信号に基づいて、テーブルTBにおける配光パターンの中から1つの配光パターンを選択する。ここで、本実施形態のテーブルTBでは、上記のように各配光パターンに対してターンスイッチ76によるターンランプの状態の選択が関連付けられている。具体的には、図17に示すように、ロービームの配光パターンPLには、左右のターンランプが非点灯とされる状態の選択が関連付けられている。また、右折配光パターンPTRには、右のターンランプが点滅する状態の選択が関連付けられ、左折配光パターンPTLには、左のターンランプが点滅する状態の選択が関連付けられる。そして、本実施形態の制御部71は、このように各配光パターンに対してターンランプの状態の選択が関連付けられたテーブルTBにおける配光パターンの中から、ターンスイッチ76から出力される信号に基づいて配光パターンを選択する。従って、選択される配光パターンは、ターンスイッチ76によるターンランプの状態の選択に応じた配光パターンである。なお、本実施形態では、ターンスイッチ76は、左右のターンランプが非点灯とされる状態が選択された場合、信号を出力しない。このため、制御部71は、ターンスイッチ76からの信号の入力がない場合、ロービームの配光パターンPLを選択する。
【0167】
次に本実施形態では、ステップSP26において、制御部71は、テーブルTBにおけるステップSP25で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。この場合、位相変調素子54R,54G,54Bは、第3実施形態のステップSP26と同様にして、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがステップSP25で選択された配光パターンとなる位相変調パターンにする。ステップSP25で選択された配光パターンは、上記のように、ターンスイッチ76からの信号に応じた配光パターンである。このため、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、ターンスイッチ76からの信号に応じて、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンとなる位相変調パターンにすると理解できる。
【0168】
次に本実施形態では、ステップSP27において、制御部71は、テーブルTBおけるステップSP25で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、光源52R,52G,52Bを制御する。この場合、光源52R,52G,52Bは、第3実施形態のステップSP27と同様にして、テーブルTBにおいてステップSP25で選択された配光パターンに関連付けられた強度のレーザ光を出射する。このように強度が調整された光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された白色の光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ステップSP25で選択された配光パターンとなるため、ステップSP25で選択された配光パターンの光が前照灯1から出射する。
【0169】
上記のように、制御部71はターンスイッチ76から出力される信号に基づいて配光パターンを選択する。このため、前照灯1は、ターンスイッチ76から出力される信号に基づいて右折配光パターンPTRまたは左折配光パターンPTLを出射する。従って、この前照灯1では、車両のターンスイッチ76からの信号に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化する。このため、この前照灯1は、交差路等において進行先にも光を照射し得るため、車両のターンスイッチ76からの信号に応じて出射する光の配光パターンが変化しない場合と比べて、交差路等における視認性を向上し得る。
【0170】
なお、制御部71は、ステップSP26とステップSP27とにおける制御を同時に行っても良い。また、制御部71の制御フローは、ステップSP27、ステップSP26の順に進み、ステップSP1に戻っても良い。
【0171】
ところで、上記のように、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度はテーブルTBにおいてステップSP25で選択された配光パターンに関連付けられた強度とされる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光のそれぞれにおける全光束量は、ステップSP25で選択された配光パターンに応じた全光束量であり、これらレーザ光に起因する光DLR,DLG,DLBが灯具ユニット20から出射する。従って、灯具ユニット20から出射する光の全光束量は、ステップSP25で選択された配光パターンに応じた全光束量に調節されている。
【0172】
本実施形態では、テーブルTBにおいて右折配光パターンPTR及び左折配光パターンPTLに関連付けられたレーザ光の強度は、ロービームの配光パターンPLの光を出射する際の強度を基準として、それぞれの配光パターンにおける左右方向に広げられた領域ART1,ART2の広さに応じて高くされた強度とされる。つまり、広げられた領域ART1,ART2が広い場合、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の上昇の度合いが大きい。一方、広げられた領域ART1,ART2が狭い場合、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の上昇の度合いが小さくされる。従って、灯具ユニット20は、左右方向に広げられた配光パターンに応じて当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を増加する。このため、本実施形態の前照灯1は、左右方向に広げられた配光パターンのうち広げられた領域ART1,ART2以外の領域が意図せずに全体的に暗くなることを抑制し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、車両のターンスイッチ76からの信号に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0173】
本実施形態では、灯具ユニット20から出射する光の全光束量の増加量は、左右方向に広げられた領域ART1,ART2の広さに応じた量とされる。つまり、左右方向に広げられた領域ART1,ART2の広さが大きい場合、この全光束量の増加量が多く、左右方向に広げられた領域ART1,ART2の広さが小さい場合、この全光束量の増加量が少ない。このため、本実施形態の前照灯1は、左右方向に広げられた配光パターンのうち広げられた領域ART1,ART2以外の領域が意図せずに全体的に明るくなることを抑制し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、車両のターンスイッチ76からの信号に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることをより抑制し得る。なお、運転者が違和感を覚えることを抑制する観点において、広げられた領域ART1,ART2における光の全光束量と灯具ユニット20から出射する光の全光束量の増加量とが概ね同じであることが好ましい。
【0174】
本実施形態では、左右方向に広げられた右折配光パターンPTR及び左折配光パターンPTLにおける広げられた領域ART1,ART2以外における強度分布は、ロービームの配光パターンPLにおける強度分布と同じとされる。このため、本実施形態の前照灯1は、出射する光の配光パターンの変化に応じて、左右方向に広げられた領域ART1,ART2以外における強度分布が変化しないため、運転者が違和感を覚えることをより抑制し得る。
【0175】
(第5実施形態)
次に、本発明の第1の態様としての第5実施形態について図19を参照して詳細に説明する。図19は、本発明の第1の態様としての第5実施形態における車両用前照灯を図1と同様に示す図である。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0176】
図19に示すように、本実施形態の灯具ユニット20は、光学フィルタ80とモータ81とを更に備える点において、上記実施形態の灯具ユニット20と異なる。光学フィルタ80は、入射する光の一部を遮り、当該光学フィルタ80を透過する光の量を減少させるフィルタである。本実施形態では、光学フィルタ80は、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBの光路上に配置されており、具体的には、この光路における合成光学系55よりも下流側に配置されている。このため、合成光学系55から出射する光DLR,DLG,DLBは、光学フィルタ80を透過した後、フロントカバー12を介して前照灯1から出射する。
【0177】
図20は、図19に示す光学フィルタを概略的に示す正面図である。なお、図20では、光DLR,DLG,DLBが入射する領域83が破線で示されている。本実施形態では、光学フィルタ80の正面視の外形は概ね円形とされ、光学フィルタ80の中心にはモータ81の出力シャフト82の一端部が固定されている。このため、光学フィルタ80は、モータ81の出力シャフト82を回転軸として回転する。このモータ81には、制御部71が電気的に接続されており、モータ81はこの制御部71によって制御される。モータ81として、例えばステッピングモータやAC(Alternating Current)サーボモータ等を用いることができる。
【0178】
本実施形態の光学フィルタ80は、透過する光の量が互いに異なる複数の減光領域84を有し、この複数の減光領域84は、光学フィルタ80の正面視において、モータ81の出力シャフト82を中心とする円Cの円周上に配置されている。なお、これら減光領域84の円Cの円周方向への並び順は、特に限定されない。円Cの円周は、光DLR,DLG,DLBが入射する領域83を横切っている。このため、モータ81によって光学フィルタ80が所定の角度回転することにより、複数の減光領域84と光DLR,DLG,DLBが入射する領域83とがそれぞれ重なり得る。このため、モータ81によって光学フィルタ80を所定の角度回転させることにより、光DLR,DLG,DLBが入射する減光領域84を切り替えることができる。
【0179】
このような光学フィルタ80として、例えば、ガラス基板上に金属膜等の光学膜が積層された減光フィルタを挙げることができる。この光学膜の種類や厚みをそれぞれの減光領域84に応じてコントロールすることで、それぞれの減光領域84における透過する光の量を互いに異ならせることができる。
【0180】
なお、複数の減光領域84を有する光学フィルタ80は、光DLR,DLG,DLBが入射する減光領域84を切り替えることができれば良い。このような光学フィルタ80は、例えば、複数の減光領域84が直線状に配列されるとともに、この配列方向にスライド移動可能とされても良い。このような構成であっても、光DLR,DLG,DLBが入射する減光領域84を切り替えることができる。
【0181】
本実施形態のテーブルTBでは、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンのそれぞれに対して、情報が関連付けられている。それぞれの配光パターンに関連付けられる情報として、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、及び位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが透過する光学フィルタ80における減光領域84が挙げられる。つまり、本実施形態では、光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度に替わって光学フィルタ80における減光領域84がそれぞれの配光パターンに関連付けられている。本実施形態の灯具ユニット20は、配光パターンに応じて光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度を変化しないものの、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが透過する減光領域84を変化する。具体的には、制御部71がモータ81を制御して光学フィルタ80を所定の角度まで回転させて光DLR,DLG,DLBが透過する減光領域84を変化する。光DLR,DLG,DLBは、透過する減光領域84に応じて減光され、この減光された光DLR,DLG,DLBが前照灯1から出射する。
【0182】
このようにして、本実施形態では、光学フィルタ80を透過して灯具ユニット20から出射する光の全光束量は、配光パターンに関連付けられた光学フィルタ80における減光領域84に応じた全光束量となる。つまり、この灯具ユニット20は、配光パターンに応じて当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節できる。従って、このような構成の灯具ユニット20であっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、このような構成にすることで、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を調節しなくても灯具ユニット20から出射する光の全光束量を安定して調節することができる。
【0183】
なお、光学フィルタ80は、灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節することができれば良い。例えば、光源52Rから出射して位相変調素子54Rに至るまでの光源52Rから出射するレーザ光の光路上、光源52Gから出射して位相変調素子54Gに至るまでの光源52Gから出射するレーザ光の光路上、及び光源52Bから出射して位相変調素子54Bに至るまでの光源52Bから出射するレーザ光の光路上のそれぞれに、複数の減光領域84を有する光学フィルタ80が配置されても良い。このような構成の灯具ユニット20であっても、光源52R,52G,52Bから出射するそれぞれのレーザ光の全光束量を対応する光学フィルタ80によって調節することができ、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節することができる。
【0184】
また、光学フィルタ80は、偏光フィルタとされても良い。図21は、第1の態様としての本実施形態の変形例における光学系ユニットの一部を示す図である。具体的には、図21は、光学系ユニット50における第1発光光学系51Rを示している。図21に示すように、本変形例における第1発光光学系51Rは、偏光フィルタとされた光学フィルタ80とモータ81とを備える点において、上記実施形態の第1発光光学系51Rと異なる。この光学フィルタ80は、光源52Rから出射して位相変調素子54Rに至るまでの光源52Rから出射するレーザ光の光路上に配置されている。具体的には、この光路におけるコリメートレンズ53Rと位相変調素子54Rとの間に配置される。また、この光学フィルタ80は、減光フィルタとされた上記光学フィルタ80と同様にモータ81の出力シャフト82に固定され、このモータ81の出力シャフト82を回転軸として回転可能とされる。なお、図示による説明は省略するが、本変形例の第2発光光学系51G、及び第3発光光学系51Bは、第1発光光学系51Rと同様に、偏光フィルタとされた上記光学フィルタ80とモータ81とを備える。
【0185】
この光学系ユニット50は、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンに応じて偏光フィルタとされる光学フィルタ80を所定の角度まで回転して光学フィルタ80の偏光方向を変化させる。光源52R,52G,52Bから出射する光はレーザ光であり、レーザ光は概ね直線偏光である。このため、光学フィルタ80の偏光方向の変化に応じて、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の減光量を調節できる。つまり、光学フィルタ80を透過した光の全光束量を調節することができる。このように、光源52R,52G,52Bから出射する光は、対応する光学フィルタ80で光の全光束量が調整され、位相変調素子54R,54G,54Bに入射する。このため、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBは、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンに応じて全光束量が調整された光であり、この光DLR,DLG,DLBが灯具ユニット20から出射する。従って、このような構成の灯具ユニット20であっても、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節することができる。なお、偏光フィルタとされる光学フィルタ80は、図19に示す減光フィルタとされる光学フィルタ80と同様に、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBの光路上に配置されても良く、この光路における合成光学系55よりも下流側に配置されても良い。なお、合成光学系55よりも下流側に配置される場合、光DLR,DLG,DLBの偏光方向が概ね同じとなるように、光源52R,52G,52B及び位相変調素子54R,54G,54Bが調節される。また、位相変調素子54R,54G,54Bは波長依存性を有する。このため、偏光フィルタとされる光学フィルタ80は、上記のように、光源52Rから出射して位相変調素子54Rに至るまでの光源52Rから出射するレーザ光の光路上、光源52Gから出射して位相変調素子54Gに至るまでの光源52Gから出射するレーザ光の光路上、及び光源52Bから出射して位相変調素子54Bに至るまでの光源52Bから出射するレーザ光の光路上のそれぞれに配置されることが好ましい。このような構成にすることで、位相変調素子54R,54G,54Bに入射する光のそれぞれにおける位相のばらつきを低減することができる。このため、所定の配光パターンを形成するための光DLR,DLG,DLBとは異なる不要な光が位相変調素子54R,54G,54Bから出射することを抑制し得る。
【0186】
また、図示による説明は省略するが、光学フィルタ80は、電圧や電流が印加されることで透過光の拡散の度合いが変化する調光シートとされても良い。電圧が印加される調光シートの構成として、例えば、液晶分子を有する液晶層と、透光性を有しこの液晶層を挟むように配置される一対の透明電極と、透光性を有しこの一対の透明電極を挟み込むように配置される一対の保護層とを備える構成を挙げることができる。このような調光シートでは、一対の透明電極に電圧が印加されることによって液晶層の液晶分子の配向が変化する。この液晶分子の配向の変化によって、液晶層を透過する光の透過の際における拡散の度合いが変化し、透過する光の量を変化させることができる。一方、電流が印加される調光シートの構成として、例えば、上記の電圧が印加される調光シートにおける液晶層に替わって、酸化タングステン等の薄膜層及び電解質層等を備える構成を挙げることができる。このような調光シートでは、一対の透明電極に電流が印加されることによって薄膜層が電気的な酸化反応または還元反応することで、この薄膜層を透過する光の透過の際における拡散の度合いが変化し、透過する光の量を変化させることができる。従って、光学フィルタ80が電圧や電流が印加されることで透過光の拡散の度合いが変化する調光シートとされても、灯具ユニット20は、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンに応じて当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節することができる。また、灯具ユニット20は、モータを用いなくても光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンに応じて当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節することができる。
【0187】
(第6実施形態)
次に、本発明の第1の態様としての第6実施形態について図22を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0188】
図22は、本発明の第6実施形態における光学系ユニットを図2と同様に示す図である。なお、図22では、ヒートシンク30、カバー59等の記載が省略されている。図22に示すように、本実施形態の光学系ユニット50は、3つの位相変調素子54R,54G,54Bに替わって、1つの位相変調素子54Sを備える点において、第1実施形態の光学系ユニット50と主に異なる。
【0189】
本実施形態では、位相変調素子54Sの構成は第1実施形態の位相変調素子54R,54G,54Bと同様の構成とされる。第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとがこの位相変調素子54Sを共有し、合成光学系55から出射する光がこの位相変調素子54Sに入射する。具体的には、第1発光光学系51Rの光源52Rから出射するレーザ光は、コリメートレンズ53Rでコリメートされ、合成光学系55の第1光学素子55f及び第2光学素子55sを透過して、位相変調素子54Sに入射する。第2発光光学系51Gの光源52Gから出射するレーザ光は、コリメートレンズ53Gでコリメートされ、合成光学系55の第1光学素子55fで反射され、第2光学素子55sを透過して、位相変調素子54Sに入射する。第3発光光学系51Bの光源52Bから出射するレーザ光は、コリメートレンズ53Bでコリメートされ、合成光学系55の第2光学素子55sで反射されて、位相変調素子54Sに入射する。なお、これら光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光は、位相変調素子54Sに入射すれば良く、合成光学系55の構成は限定されない。例えば、これらレーザ光は、合成光学系55を介さずに位相変調素子54Sに入射されても良い。つまり、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が合成光学系55を介さずに位相変調素子54Sに入射するように、光源52R,52G,52B、コリメートレンズ53R,53G,53B、及び位相変調素子54Sが配置されても良い。
【0190】
本実施形態では、光源52R,52G,52Bに供給される電力が調整されて、これら光源52R,52G,52Bごとに交互にレーザ光が出射される。つまり、光源52Rがレーザ光を出射しているときは光源52Gと光源52Bはレーザ光を非出射とし、光源52Gがレーザ光を出射しているときは光源52Rと光源52Bはレーザ光を非出射とし、光源52Bがレーザ光を出射しているときは光源52Rと光源52Gはレーザ光を非出射とする。そして、このような光源52R,52G,52Bごとのレーザ光の出射が順次切り換えられる。このため、これら光源52R,52G,52Bから出射する互いに異なる波長のレーザ光が順次位相変調素子54Sに入射する。
【0191】
次に、本実施形態の位相変調素子54Sの動作について説明する。具体的には、第1実施形態のテーブルTBにおける特定の配光パターンの光を前照灯1が出射する場合を例に説明する。
【0192】
本実施形態では、位相変調素子54Sは、上記のような光源52R,52G,52Bごとのレーザ光の出射の切り換りに同期して位相変調パターンを変更する。具体的には、位相変調素子54Sは、光源52Rから出射するレーザ光が入射する場合には、この光源52Rに対応する位相変調パターンであって、第1実施形態のテーブルTBにおける特定の配光パターンに関連付けられた位相変調素子54Rの位相変調パターンにする。このため、位相変調素子54Sは、光源52Rから出射するレーザ光が入射する場合には、第1実施形態において特定の配光パターンの光を前照灯1が出射する際の位相変調素子54Rから出射する第1の光DLRを出射する。また、位相変調素子54Sは、光源52Gから出射するレーザ光が入射する場合には、この光源52Gに対応する位相変調パターンであって、第1実施形態のテーブルTBにおける特定の配光パターンに関連付けられた位相変調素子54Gの位相変調パターンにする。このため、位相変調素子54Sは、光源52Gから出射するレーザ光が入射する場合には、第1実施形態において特定の配光パターンの光を前照灯1が出射する際の位相変調素子54Gから出射する第2の光DLGを出射する。また、位相変調素子54Sは、光源52Bから出射するレーザ光が入射する場合には、この光源52Bに対応する位相変調パターンであって、第1実施形態のテーブルTBにおける特定の配光パターンに関連付けられた位相変調素子54Bの位相変調パターンにする。このため、位相変調素子54Sは、光源52Bから出射するレーザ光が入射する場合には、第1実施形態において特定の配光パターンの光を前照灯1が出射する際の位相変調素子54Bから出射する第3の光DLBを出射する。
【0193】
位相変調素子54Sは、このように光源52R,52G,52Bごとのレーザ光の出射の切り換りに同期して位相変調パターンを変更することで、第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとを順次出射する。つまり、位相変調素子54Sを共有する第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから順次第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBが出射される。これら光DLR,DLG,DLBは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して前照灯1の外部に順次照射される。このとき、第1の光DLR、第2の光DLG、及び第3の光DLBは、車両から所定の距離離れた焦点位置において、それぞれの光が照射される領域が互いに重なるように照射される。この焦点位置は、例えば車両から25m離れた位置とされる。なお、第1の光DLR、第2の光DLG、及び第3の光DLBは、この焦点位置においてそれぞれの光DLR,DLG,DLBが照射される領域の外形が概ね一致するように照射されることが好ましい。また、本実施形態では、光源52R,52G,52Bから出射されるレーザ光のそれぞれの出射時間の長さは概ね同じとされるため、光DLR,DLG,DLBのそれぞれの出射時間の長さも概ね同じとなる。また、光源52R,52G,52Bから出射されるレーザ光の強度は、テーブルTBにおける特定の配光パターンに関連付けられた強度とされる。
【0194】
ところで、人の視覚の時間分解能よりも短い周期で色の異なる光が繰り返し照射される場合、人は残像現象によってこの異なる色の光が合成された光が照射されていると認識し得る。本実施形態において、光源52Rがレーザ光を出射してから再度光源52Rがレーザ光を出射するまでの時間が人の視覚の時間分解能よりも短くされた場合、人の視覚の時間分解能よりも短い周期で位相変調素子54Sから出射する光DLR,DLG,DLBが繰り返し照射され、赤色の光DLRと緑色の光DLGと青色の光DLBとが残像現象によって合成される。上記のように、この光DLR,DLG,DLBのそれぞれの出射時間の長さは概ね同じであり、光源52R,52G,52Bから出射されるレーザ光の強度は、テーブルTBにおける特定の配光パターンに関連付けられた強度とされる。このため、残像現象によって合成される光の色は、第1実施形態における光DLR,DLG,DLBが合成された光と同じ白色となる。また、光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、テーブルTBにおける特定の配光パターンとなるため、光DLR,DLG,DLBが残像現象によって合成された光の配光パターンも特定の配光パターンとなる。このようにして、この特定の配光パターンの光が前照灯1から出射する。
【0195】
光源52R,52G,52Bからレーザ光を繰り返し出射する周期は、残像現象によって合成される光のちらつきを感じることを抑制する観点から、1/15s以下とされることが好ましい。人の視覚の時間分解能は概ね1/30sである。車両用灯具であれば、光の出射の周期が2倍程度であれば光のちらつきを感じることを抑制できる。この周期が1/30s以下であれば、人の視覚の時間分解能を概ね超える。従って、光のちらつきを感じることをより抑制できる。また、光のちらつきを感じることをより抑制する観点では、この周期は1/60s以下であることが好ましい。
【0196】
本実施形態では、上記のように、光源52R,52G,52Bから出射されるレーザ光の強度は、テーブルTBにおける特定の配光パターンに関連付けられた強度とされる。このため、本実施形態の灯具ユニット20は、第1実施形態と同様に、光DLR,DLG,DLBが残像現象で合成された光によって形成される配光パターンに応じて、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度をそれぞれ調節し、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節する。なお、本実施形態の灯具ユニット20は、上記第5実施形態と同様に光学フィルタ80を用いて、当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節しても良い。本実施形態の前照灯1によれば、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとがこの位相変調素子54Sを共有するため、部品点数を減少し得る。
【0197】
なお、第1の態様としての車両用前照灯は、変更可能な位相変調パターンで光源から出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する位相変調素子と、を有する灯具ユニットを備え、灯具ユニットは、配光パターンに応じて灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節する限りにおいて、特に限定されるものではない。このような構成の車両用前照灯では、位相変調素子は、変更可能な位相変調パターンで光源から出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。このため、位相変調パターンを変更することで灯具ユニットから出射する光の配光パターンを変更でき、車両用前照灯から出射する光の配光パターンを変更できる。また、この車両用前照灯では、上記のように、位相変調素子から出射する光の配光パターンに応じて灯具ユニットから出射する光の全光束量が調節される。このため、この車両用前照灯では、例えば、車両から所定の距離離れた鉛直面上において車両用前照灯から出射する光が照射される領域の広さに応じて、灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節することができる。従って、この車両用前照灯は、出射する光の配光パターンを変化させた際に光が照射される領域の明るさが意図せずに全体的に変化することを抑制でき、運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0198】
また、第1の態様としての第1から第6実施形態及び変形例では、位相変調素子54R,54G,54B,54Sは、反射型の位相変調素子とされた。しかし、位相変調素子は、変更可能な位相変調パターンで入射する光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射することができれば良い。例えば、位相変調素子は、液晶パネルであるLCD(Liquid Crystal display)や、シリコン基板上に複数の反射体が形成されたGLV(Grating Light Valve)とされも良い。LCDは、透過型の位相変調素子である。このLCDは、上記の反射型の液晶パネルであるLCOSと同様に、各ドットにおいて液晶層を挟み込む一対の電極の間に印加される電圧を制御することで、各ドットから出射する光の位相の変化量が調整され、出射する光の配光パターンを所望の配光パターンにし得る。なお、この一対の電極は透明電極とされる。また、GLVは、反射型の位相変調素子である。このGLVは、反射体のたわみを電気的に制御することによって、入射する光を回折して出射するとともに出射する光の配光パターンを所望の配光パターンにし得る。
【0199】
また、第1の態様としての第1から第5実施形態及び変形例では、第1光学素子55fは、第1の光DLRを透過すると共に第2の光DLGを反射することで第1の光DLRと第2の光DLGとを合成し、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光DLR及び第2の光DLGを透過すると共に第3の光DLBを反射することで第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとを合成した。しかし、例えば、第1光学素子55fにおいて第3の光DLBと第2の光DLGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の光DLB及び第2の光DLGと第1の光DLRとが合成される構成とされても良い。この場合、上記実施形態において、光源52R、コリメートレンズ53R、及び位相変調素子54Rを備える第1発光光学系51Rと、光源52B、コリメートレンズ53B、及び位相変調素子54Bを備える第3発光光学系51Bとの位置が入れ替わる。また、上記実施形態及び変形例において、所定の波長帯域の光を透過し、他の波長帯域の光を反射するバンドパスフィルタが第1光学素子55fや第2光学素子55sに用いられても良い。また、第1実施形態から第5実施形態及び変形例では、合成光学系55は、それぞれの発光光学系から出射する光を合成すれば良く、上記実施形態の構成や上記構成に限定されない。
【0200】
また、第1の態様としての第1から第5実施形態及び変形例では、光学系ユニット50は、第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとを合成する合成光学系55を備えていた。しかし、光学系ユニット50は、合成光学系55を備えていなくても良い。図23は、本発明の第1の態様としての変形例における光学系ユニットを図2と同様に示す図である。
【0201】
図23に示すように本変形例の光学系ユニット50は、合成光学系55を備えず、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成されない状態で、カバー59から光を出射する点、及び位相変調素子54R,54G,54Bが透過型の位相変調素子とされる点において、第1実施形態における光学系ユニット50と異なる。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。本変形例では、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bは、光の出射方向がカバー59の開口59H側とされている。
【0202】
本変形例においても、第1実施形態と同様にして、位相変調素子54R,54G,54Bは、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成される配光パターンがテーブルTBにおけるいずれかの配光パターンとなるように、コリメートレンズ53R,53G,53Bから出射するレーザ光をそれぞれ回折する。位相変調素子54Rから出射する第1の光DLR、位相変調素子54Rから出射する第2の光DLG、及び位相変調素子54Bから出射する第3の光DLBは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して前照灯1の外部に照射される。このとき、第1の光DLR、第2の光DLG、及び第3の光DLBは、車両から所定の距離離れた焦点位置において、それぞれの光が照射される領域が互いに重なり、テーブルTBにおけるいずれかの配光パターンが形成されるように照射される。この焦点位置は、例えば車両から25m離れた位置とされる。なお、第1の光DLR、第2の光DLG、及び第3の光DLBは、この焦点位置においてそれぞれの配光パターンの外形が概ね一致するように照射されることが好ましい。また、本変形例においても、上記実施形態と同様に、灯具ユニット20は、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成される配光パターンに応じて、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度をそれぞれ調節し当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を調節する。本変形例の前照灯1によれば、第1実施形態の合成光学系55を用いないため、簡易な構成とすることができる。
【0203】
また、第1の態様としての第1から第6実施形態及び変形例では、複数の変調ユニットを有する位相変調素子54R,54G,54B,54Sを例に説明した。しかし、変調ユニットの数、大きさ、外形等は特に限定されるものではない。例えば、位相変調素子は1つの変調ユニットを有し、この1つの変調ユニットによって入射する光を回折させても良い。
【0204】
また、第1の態様としての第1から第5実施形態及び変形例では、互いに異なる波長の光を出射する3つの光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bに一対一で対応する3つの位相変調素子54R,54G,54Bとを備える光学系ユニット50を例に説明した。しかし、3つの位相変調素子54R,54G,54Bは、一体に形成されても良い。このような位相変調素子の構成として、位相変調素子が光源52Rに対応する領域、光源52Gに対応する領域、及び光源52Bに対応する領域に分割される構成を挙げることができる。このような構成の場合、光源52Rに対応する領域に光源52Rから出射するレーザ光が入射し、光源52Gに対応する領域に光源52Gから出射するレーザ光が入射し、光源52Bに対応する領域に光源52Bから出射するレーザ光が入射する。光源52Rに対応する領域の位相変調パターンは光源52Rから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされ、光源52Gに対応する領域の位相変調パターンは光源52Gから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされ、光源52Bに対応する領域の位相変調パターンは光源52Bから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされる。このような前照灯1によれば、3つの位相変調素子54R,54G,54Bが一体に形成されるため、部品点数を減少し得る。
【0205】
また、第1の態様としての第6実施形態では、全ての発光光学系51R,51G,51Bが位相変調素子54Sを共有する光学系ユニット50を例に説明した。しかし、少なくとも2つの発光光学系が位相変調素子54Sを共有していれば良い。この場合、位相変調素子を共有する発光光学系から出射する光は残像現象によって合成され、この残像現象によって合成される光と他の発光光学系から出射する光とが合成されて、所定の配光パターンが形成される。
【0206】
また、第1の態様としての第1から第6実施形態及び変形例における記憶部74に格納される情報は特に限定されるものではない。例えば、第1の態様としての第3実施形態において、ハイビームの配光パターンPH、ロービームの配光パターンPLが右側に広げられた右操舵配光パターン、及びロービームの配光パターンPLが左側に広げられた左操舵配光パターンのそれぞれに対して、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度、及び車両の操舵角を関連付けたテーブルが記憶部74に格納されても良い。また、第1の態様としての第3実施形態におけるテーブルTBとこのテーブルとが組み合わされたテーブルが記憶部74に格納されても良い。また、第1の態様としての第3実施形態のテーブルTBにおいてそれぞれの配光パターンに対して更に車両の速度が関連付けられるとともに、車両の車速センサが制御部71に電気的に接続されも良い。このような場合、制御部71は、車両の操舵角と車両の車速を含む情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御し得る。このため、このような前照灯1は、車両の進行方向の変化及び車両の速度に応じて出射する光の配光パターンを左右方向に広げられた配光パターンに変化することができ、曲路における視認性をより向上し得る。
【0207】
また、第1の態様としての第1及び第2実施形態における前照灯1は車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンを変化していた。第1の態様としての第3実施形態における前照灯1は車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化していた。第1の態様としての第4実施形態における前照灯1では、車両のターンスイッチからの信号に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化していた。しかし、本発明の第1の態様としての車両用前照灯は、これらの前照灯1が組み合わされたものとされても良い。例えば、第1の態様としての車両用前照灯は、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンを変化するとともに、車両の進行方向の変化に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化しても良い。また、第1の態様としての車両用前照灯は、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンを変化するとともに、車両のターンスイッチからの信号に応じて出射する光の配光パターンが左右方向に広げられた配光パターンに変化しても良い。
【0208】
また、第1の態様としての第1から第6実施形態及び変形例では、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度は、灯具ユニット20から出射する光の全光束量の変化に応じて調節されていた。しかし、灯具ユニットは、灯具ユニットから出射する光の配光パターンに応じて灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節すれば良い。例えば、灯具ユニットは、灯具ユニットから出射する光の配光パターンの広さの変化に応じて灯具ユニットから出射する光の全光束量を調節しても良い。なお、ここでの広さとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に配光パターンが形成される場合における広さとされる。
【0209】
また、第1の態様としての第1から第6実施形態及び変形例では、テーブルTBにおけるいずれかの配光パターンの光を出射する前照灯1を例に説明した。しかし、前照灯1は、テーブルTBにおける配光パターンとは異なる配光パターンの光を出射しても良い。例えば、第1の態様としての第1実施形態における制御部71は、記憶部74に格納される情報、及び検知装置72から入力される対象物の存在及び対象物の存在位置の情報等に基づいて、対象物の一部と重なる領域が暗くされる配光パターンを形成するための位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、及び当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を演算しても良い。この場合、記憶部74には、例えば、ハイビームの配光パターンPHを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンと、ハイビームの配光パターンPHを形成する際の光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度とが関連付けられたテーブルとともに、ハイビームの配光パターンPHの強度分布に関する別のテーブルが格納される。図24は、このような変形例における配光パターンの強度分布に関する情報を説明するための図である。具体的には、図24(A)は、ハイビームの配光パターンPHにおける一部が拡大された図であり、ハイビームの配光パターンPHと歩行者PEとが重なっている部分が拡大された図である。図24(A)では、歩行者PEは太線で示されるとともに、複数の区画線CLが記載されている。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0210】
図24(A)に示すように、本変形例のハイビームの配光パターンPHは、区画線CLによって上下方向及び左右方向に概ね等間隔で区画された区画領域CAの集合体によって形成される。それぞれの区画領域にはアドレスと光の強度が予め設定されている。アドレスは、例えば、区画領域CAが位置する行の番号と列の番号とによって表される。上下方向における区画領域CAの幅は、前照灯1を基準とした上下方向への角度に対応する幅で表され、左右方向における区画領域CAの幅は、前照灯1を基準とした左右方向への角度に対応する幅で表される。これらの幅は、例えばそれぞれ0.1度に対応する幅とされる。
【0211】
図25は、本変形例におけるテーブルを示す図である。具体的には、図25(A)は位相変調パターンとレーザ光の強度に関するテーブルTB1を示す図である。図25(B)はハイビームの配光パターンPHの強度分布に関する別のテーブルTB2を示す図である。本変形例のテーブルTB1では、ハイビームの配光パターンPHに対して、ハイビームの配光パターンPHを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンと、ハイビームの配光パターンPHを形成する際の光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度とが関連付けられている。本変形例の別のテーブルTB2では、区画領域CAのアドレスと当該区画領域CAにおける光の強度としての全光束量とが関連付けられている。
【0212】
本変形例の制御部71は、検知装置72から入力される対象物の存在及び対象物の存在位置の情報に基づいて、対象物の少なくとも一部と重なる区画領域CAを抽出する。図24(B)は、抽出する区画領域を示す図である。図24(B)に示すように、例えば歩行者PEと重なる全ての区画領域CAが抽出されても良い。なお、図24(B)において、歩行者PEは破線で示され、抽出された区画領域CAは、抽出領域AREとされ、この抽出領域AREには斜めのハッチングが施されている。
【0213】
制御部71は、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが抽出領域AREが暗くされる配光パターンとなる位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを演算する。なお、形成する配光パターンにおける抽出した抽出領域AREの明るさは、例えば所定の明るさとされる。制御部71は、この演算結果に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。つまり、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが抽出領域AREが暗くされる配光パターンとなる位相変調パターンにすると理解できる。抽出領域AREは、対象物の少なくとも一部と重なるため、灯具ユニット20から出射される光の配光パターンは、対象物の少なくとも一部と重なる領域が暗くされる配光パターンとなる。
【0214】
また、制御部71は、上記の別のテーブルTB2に基づいて、抽出した区画領域CAのそれぞれの全光束量を足し合わした合計全光束量を演算する。制御部71は、この演算結果に基づいて、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を下げる。具体的には、制御部71は、合計全光束量が多い場合、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の低下の度合いを大きくし、合計全光束量が少ない場合、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の低下の度合いを小さくする。つまり、本変形例における灯具ユニット20は、抽出領域AREが暗くされる配光パターンに応じて当該灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少する。このため、この前照灯1は、対象物に照射される光の全光束量を低減した分、灯具ユニット20から出射する光の全光束量を減少させることができ、抽出領域AREが暗くされる配光パターンのうち抽出領域ARE以外の区画領域CAが意図せずに全体的に明るくなることを抑制し得る。従って、この前照灯1は、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0215】
また、第1の態様としての第1から第6実施形態及び変形例では、灯具ユニット20は、結像レンズを含む結像レンズ系を備えていなかった。しかし、灯具ユニット20は、結像レンズ系を備え、光学系ユニット50から出射する光をこの結像レンズ系を介して出射させても良い。このような構成にすることで、出射する光の配光パターンをより広い配光パターンにし易くし得る。なお、ここでの広いとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に形成される配光パターンを比べた際に広いことを表している。
【0216】
また、第1の態様としての第1から第5実施形態及び変形例では、互いに異なる波長の光を出射する3つの光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bに一対一で対応する3つの位相変調素子54R,54G,54Bとを備える光学系ユニット50を例に説明した。また、第1の態様としての第6実施形態では、位相変調素子54Sを共有する3つの発光光学系51R,51G,51Bを備える光学系ユニット50を例に説明した。しかし、光学系ユニットは、少なくとも1つの光源と、この光源に対応する位相変調素子とを備えれば良い。例えば、光学系ユニットは、白色のレーザ光を出射する光源と、この光源から出射する白色のレーザ光を回折して出射する位相変調素子とを備えていても良い。
【0217】
(第7実施形態)
次に、本発明の第2の態様としての第7実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同様の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。本実施形態における前照灯1の構成は、上記第1実施形態における前照灯1の構成と同じであるものの、本実施形態の前照灯1が出射する光の配光パターンは、上記第1実施形態の前照灯1が出射する光の配光パターンと異なる。
【0218】
本実施形態では、図26に示すように、それぞれの配光パターンに対して、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを関連付けたテーブルTBが記憶部74に格納される。
【0219】
図27は本実施形態における配光パターンの例を示す図である。具体的には、図27(A)はハイビームの配光パターンを示す図である。図27(B)はハイビームの配光パターンにおける特定の領域が暗くされるとともの所定の領域が明るくされる配光パターンを示す図である。図27(C)はハイビームの配光パターンにおける別の特定の領域が暗くされるとともに別の所定の領域が明るくされる配光パターンを示す図である。図27においてSは水平線を示し、配光パターンが太線で示され、この配光パターンは、車両から25m離れた鉛直面上に形成される配光パターンとされている。
【0220】
図27(A)に示されるハイビームの配光パターンPHのうち、領域LA1は最も強度が高い領域であり、領域LA2、領域LA3、領域LA4の順に強度が低くなる。また、領域LA1内には、ホットゾーンHZが位置している。つまり、それぞれの位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンは、合成された光がハイビームの強度分布を含む配光パターンを形成する位相変調パターンとされる。
【0221】
図27(B)に示される配光パターンP1は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11が暗くされるとともに特定の領域AR11と異なる所定の領域AR21が明るくされる配光パターンである。つまり、配光パターンP1における特定の領域AR11の光の強度は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11の光の強度よりも低い。また、配光パターンP1における所定の領域AR21の光の強度は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域AR21の光の強度よりも高い。このため、配光パターンP1における特定の領域AR11の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11の光の全光束量よりも少なく、配光パターンP1における所定の領域AR21の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域AR21の光の全光束量よりも多い。また、配光パターンP1における特定の領域AR11及び所定の領域AR21以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11及び所定の領域AR21以外における強度分布と同じとされる。ここで、複数の参照点における光の強度が同じであれば、強度分布も同じであると推定することができ、例えば、複数の参照点における輝度または照度が同じであれば、強度分布も同じであると推定することができる。複数の参照点には、最大の強度となる点が含まれることが好ましい。なお、図27(A)において、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11及び所定の領域AR21は破線で示されている。本実施形態では、配光パターンP1の特定の領域AR11は、領域LA2内に位置し、この特定の領域AR11おける中央側領域AR11aが縁側領域AR11bよりも暗くされている。また、配光パターンP1における特定の領域AR11の中央側領域AR11a及び縁側領域AR11bの光の強度は、領域LA3の強度よりも低くされる。また、所定の領域AR21は、領域LA2内に位置し、特定の領域AR11を囲むとともに特定の領域AR11の縁の全周と接している。
【0222】
図27(C)に示される配光パターンP2は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11と異なる別の特定の領域AR12が暗くされるとともに特定の領域AR12と異なる所定の領域AR22が明るくされる配光パターンである。つまり、配光パターンP2における特定の領域AR12の光の強度は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR12の光の強度よりも低い。また、配光パターンP1における所定の領域AR22の光の強度は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域AR22の光の強度よりも高い。このため、配光パターンP2における特定の領域AR12の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR12の光の全光束量よりも少なく、配光パターンP1における所定の領域AR22の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域AR21の光の全光束量よりも多い。また、配光パターンP2における特定の領域AR12及び所定の領域AR22以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR12及び所定の領域AR22以外における強度分布と同じとされる。なお、図27(A)において、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR12及び所定の領域AR22は破線で示されている。本実施形態では、配光パターンP2の特定の領域AR12は、領域LA2内に位置し、この特定の領域AR12の光の強度は、領域LA2の強度よりも低くされる。また、所定の領域AR21は、配光パターンP2におけるホットゾーンHZ内に位置している。上記のように、配光パターンP2における特定の領域AR12及び所定の領域AR22以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR12及び所定の領域AR22以外における強度分布と同じとされている。このため、ハイビームの配光パターンPHにおけるホットゾーンHZの位置と配光パターンP2におけるホットゾーンHZの位置は同じであり、所定の領域AR21は、ハイビームの配光パターンPHにおけるホットゾーンHZに対応する領域内に位置している。
【0223】
このように、本実施形態における前照灯1から出射される光の配光パターンは、ハイビームの配光パターンPH、または、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11,AR12が暗くされるととともに特定の領域AR11,AR12と異なる所定の領域AR21,AR22が明るくされる配光パターンP1,P2とされる。
【0224】
なお、配光パターンP1,P2における特定の領域AR11,AR12及び所定の領域AR21,AR22の位置、形状、数、及び広さは特に限定されるものではない。また、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11,AR12が暗くされるとともに所定の領域AR21,AR22が明るくされる配光パターンP1,P2の数も限定されるものではない。また、配光パターンP1,P2における特定の領域AR11,AR12の光の強度は特に限定されるものではなく、特定の領域AR11,AR12の光の強度がゼロ、つまり、特定の領域AR11,AR12へ光が非出射とされても良い。また、特定の領域AR11,AR12における暗さの度合いは当該特定の領域AR11,AR12内の全体において概ね一定とされも良く、特定の領域AR11,AR12における暗さの度合いが当該特定の領域AR11,AR12内の位置に応じて変化していても良い。また、配光パターンP1,P2における所定の領域AR21,AR22の光の強度は特に限定されるものではない。また、所定の領域AR21,AR22における明るさの度合いは当該所定の領域AR21,AR22内の全体において概ね一定とされも良く、所定の領域AR21,AR22における明るさの度合いが当該所定の領域AR21,AR22内の位置に応じて変化していても良い。また、配光パターンP1,P2における特定の領域AR11,AR12及び所定の領域AR21,AR22以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11,AR12及び所定の領域AR21,AR22以外における強度分布と異なっていても良い。また、配光パターンP1,P2の外形は、ハイビームの配光パターンPHの外形と異なっていても良い。
【0225】
次に、本実施形態の前照灯1の動作について説明する。具体的には、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンをハイビームの配光パターンPHから別の配光パターンに変化する動作について説明する。図28は、制御部71の制御フローチャートを示す図である。
【0226】
まず、ステップSP31において、ライトスイッチ73がオンされ、ライトスイッチ73から光の出射を指示する信号が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローはステップSP32に進む。一方、ステップSP31において、この信号が制御部71に入力されない場合、制御部71の制御フローはステップSP36に進む。
【0227】
ステップSP32において、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知せず、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力されない場合、制御部71の制御フローはステップSP33に進む。一方、ステップSP32においてこの情報が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローはステップSP34に進む。
【0228】
ステップSP33において、制御部71は、記憶部74に格納されるテーブルTBにおけるハイビームの配光パターンPHに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。具体的には、制御部71は、この情報に基づく信号を駆動回路60R,60G,60Bに出力し、駆動回路60R,60G,60Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bに印加する電圧を調整する。この電圧は、位相変調素子54R,54G,54Bが光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンを形成する電圧とされる。このため、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンにする。つまり、ステップSP33において、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、テーブルTBにおけるハイビームの配光パターンPHに関連付けられた情報に基づいて、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンにすると理解できる。
【0229】
また、制御部71は、光源52R,52G,52Bを制御して光源52R,52G,52Bからレーザ光を出射させる。具体的には、制御部71は、電源回路61R,61G,61Bに信号を出力し、電源回路61R,61G,61Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、電源から光源52R,52G,52Bに電力を供給する。この電力は、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度が所定の強度となる所定の電力とされる。光源52R,52G,52Bは、電源から所定の電力が供給されることによって所定の強度のレーザ光を出射する。このように光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された白色の光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ハイビームの配光パターンPHとなるため、ハイビームの配光パターンPHの光が前照灯1から出射する。
【0230】
なお、ステップSP33において、制御部71は、位相変調素子54R,54G,54Bの制御と光源52R,52G,52Bの制御とを同時に行うものの、これらの制御を順次行っても良い。これらの制御を順次行う場合、その順番は特に限定されるものではない。
【0231】
ステップSP32において、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローは上記のようにステップSP34に進む。ステップSP34において、制御部71は、検知装置72から入力されるこの情報に基づいて、テーブルTBにおける配光パターンの中から1つの配光パターンを選択する。具体的には、制御部71は、検知装置72によって検知された対象物の少なくとも一部と、配光パターンにおける暗くされた特定の領域とが重なる1つの配光パターンをテーブルTBにおける配光パターンの中から選択する。
【0232】
次にステップSP35において、制御部71は、テーブルTBにおけるステップSP34で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。この場合、位相変調素子54R,54G,54Bは、上記ステップSP33と同様にして、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがステップSP34で選択された配光パターンとなる位相変調パターンにする。ここで、上記のように、ステップSP34で選択された配光パターンは、検知装置72からの情報に基づいて選択され、暗くされる特定の領域と対象物の少なくとも一部とが重なる配光パターンである。また、本実施形態における配光パターンは、上記のように、特定の領域が暗くされるとともに特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンである。従って、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、検知装置72からの情報に基づいて、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされるとともに特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンとなる位相変調パターンにすると理解できる。
【0233】
また、制御部71は、上記ステップSP33と同様にして、光源52R,52G,52Bを制御して光源52R,52G,52Bから所定の強度のレーザ光を出射させる。本実施形態では、このレーザ光の強度は、ステップSP33において光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度と同じとされる。つまり、電源回路61R,61G,61Bによって電源から光源52R,52G,52Bに供給される電力は、ステップSP3において光源52R,52G,52Bに供給される電力と同じとされる。光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された白色の光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ステップSP34で選択された配光パターンとなるため、ステップSP34で選択された配光パターンの光が前照灯1から出射する。
【0234】
図29は、検知装置によって検知された対象物と暗くされる特定の領域とが重なるとともに特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンの光が前照灯から出射する状態の例を示す図である。具体的には、図29(A)は検知装置72によって対象物として歩行者PEが検知された際の配光パターンの光が前照灯1から出射する状態の例を示す図である。図29(B)は検知装置72によって対象物として対向車OVが検知された際の配光パターンの光が前照灯1から出射する状態の例を示す図である。図29(A)に示される配光パターンは、図27(B)に示される配光パターンP1であり、上記のように、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11が暗くされるとともに所定の領域AR21が明るくされる配光パターンである。なお、図29(A)では、特定の領域AR11における中央側領域AR11aと縁側領域AR11bとの記載が省略されている。この特定の領域AR11は、歩行者PEの全体と重なっている。このため、歩行者PEに照射される光の全光束量は、前照灯1からハイビームが出射される場合と比べて減少されている。また、所定の領域AR21は、上記のように、特定の領域AR11を囲むとともに特定の領域AR11の縁の全周と接しているため、この所定の領域AR21は歩行者PEを囲んでいる。図29(B)に示される配光パターンは、図27(C)に示される配光パターンP2であり、上記のように、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR12が暗くされるとともに所定の領域AR22が明るくされる配光パターンである。この特定の領域AR12は、対向車OVの全体と重なっている。このため、対向車OVに照射される光の全光束量は、前照灯1からハイビームが出射される場合と比べて減少されている。また、所定の領域AR21は、上記のように、配光パターンP2におけるホットゾーンHZ内に位置している。
【0235】
ここで、本実施形態では、上記のように、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度は所定の強度とされる。また、配光パターンP1における特定の領域AR11及び所定の領域AR21以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11及び所定の領域AR21以外における強度分布と同じとされる。このため、特定の領域AR11において減少する光の全光束量と、所定の領域AR21において増加する光の全光束量とが互いに概ね同じとされる。また、上記のように、配光パターンP2における特定の領域AR12及び所定の領域AR22以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR12及び所定の領域AR22以外における強度分布と同じとされる。このため、特定の領域AR12において減少する光の全光束量と、所定の領域AR22において増加する光の全光束量とが互いに概ね同じとされる。
【0236】
上記のように、図29(A)では歩行者PEの全体と特定の領域AR11とが重なる配光パターンP1の光が前照灯1から出射する状態が示され、図29(B)では対向車OVの全体と特定の領域AR12とが重なる配光パターンP2の光が前照灯1から出射する状態が示された。しかし、第2の態様としての前照灯1から出射する光は、検知装置72によって検知された対象物の少なくとも一部と暗くされる特定の領域とが重なるとともにこの特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンの光であれば良い。例えば、前照灯1から出射する光の配光パターンにおける暗くされる特定の領域は、対象物である歩行者PEの頭部全体と重なり、歩行者PEの胴部の一部と重なるものとされても良い。また、前照灯1から出射する光の配光パターンにおける暗くされる特定の領域は、対象物である対向車OVのフロントガラス全体と重なり、対向車OVのフロントガラスよりも下側部分の一部と重なるものとされても良い。つまり、ステップSP34において、制御部71がこのような特定の領域を有する配光パターンを選択しても良い。
【0237】
上記のようにステップSP31においてライトスイッチ73から光の出射を指示する信号が制御部71に入力されずに制御部71の制御フローがステップSP36に進んだ場合、制御部71は、光源52R,52G,52Bを制御して光源52R,52G,52Bからのレーザ光を非出射にする。この場合、電源回路61R,61G,61Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、電源から光源52R,52G,52Bへの電力の供給を停止する。このため、光源52R,52G,52Bはレーザ光を非出射とし、前照灯1は光を非出射とする。
【0238】
このように、本実施形態の前照灯1は、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知しない場合、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する。一方、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知する場合、この前照灯1は、対象物の少なくとも一部と暗くされる特定の領域とが重なるとともに特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンの光を出射する。
【0239】
ここで、上記のように、特許文献1に記載の車両用前照灯では、出射する光の配光パターンを変化させた際に、光が照射される領域の明るさが意図せずに全体的に変化する傾向にある。このため、運転者が違和感を覚える場合があり、運転をより容易にしたいとの要請がある。
【0240】
そこで、第2の態様としての本実施形態の前照灯1は、レーザ光を出射する光源52R,52G,52Bと、位相変調素子54R,54G,54Bと、を有する灯具ユニット20を備える。位相変調素子54Rは、変更可能な位相変調パターンで光源52Rから出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。位相変調素子54Gは、変更可能な位相変調パターンで光源52Gから出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。位相変調素子54Bは、変更可能な位相変調パターンで光源52Bから出射するレーザ光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。灯具ユニット20では、位相変調素子54Rから出射する第1の光DLRと、位相変調素子54Gから出射する第2の光DLGと、位相変調素子54Bから出射する第3の光DLBとが合成された光によって配光パターンが形成される。この配光パターンの光が灯具ユニット20から出射する。
【0241】
このため、本実施形態の前照灯1では、位相変調素子54R,54G,54Bにおけるそれぞれの位相変調パターンを変更することで灯具ユニット20から出射する光の配光パターンを変更でき、前照灯1から出射する光の配光パターンを変更できる。
【0242】
また、第2の態様としての本実施形態の前照灯1では、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、検知装置72からの情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域AR11,AR12が暗くされるとともに特定の領域AR11,AR12と異なる所定の領域AR21,AR22が明るくされる配光パターンP1,P2となる位相変調パターンにする。このため、本実施形態の前照灯1では、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化する。例えば、図29(A)に示すように、検知装置72が検知する対象物が歩行者PEとされる場合、歩行者PEに照射される光の全光束量を低減することができ、歩行者PEが前照灯1から出射する光を眩しく感じることを抑制し得る。また、図29(B)に示すように、検知装置72が検知する対象物が対向車OVとされる場合、対向車OVに照射される光の全光束量を低減することができ、対向車OVの運転者が前照灯1から出射する光を眩しく感じることを抑制し得る。
【0243】
また、第2の態様としての本実施形態の前照灯1では、上記のように、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域AR11,AR12が暗くされるとともに特定の領域AR11,AR12と異なる所定の領域AR21,AR22が明るくされる配光パターンP1,P2とされる。このため、本実施形態の前照灯1は、配光パターンP1,P2のうち暗くされる特定の領域AR11,AR12以外の領域が意図せずに全体的に明るくされることを抑制し得る。また、この前照灯1は、明るくされる所定の領域AR21,AR22を特定の位置にすることによって、この所定の領域AR21,AR22を目立ちにくくして運転者が違和感を覚えることを抑制したり、この所定の領域AR21,AR22を目立つようにして注意喚起能を高くしたりし得る。従って、本実施形態の前照灯1は、運転し易くし得る。
【0244】
例えば、図29(A)に示すように、明るくされる所定の領域AR21を暗くされる特定の領域AR11の縁の全周と接するようにする場合、この所定の領域AR21は検知装置72が検知する対象物である歩行者PEを囲む。従って、本実施形態の前照灯1は、歩行者PEに照射される光の全光束量を低減しつつも、この歩行者PEの存在を強調し得る。このため、本実施形態の前照灯1は、明るくされる所定の領域AR21が特定の領域AR11と離間している場合と比べて、歩行者PEに対する注意喚起能を高くし得る。なお、この所定の領域AR21は特定の領域AR11の縁と接しないで特定の領域AR11を囲っていても良い。検知装置72が検知する対象物の存在を強調する観点において、明るくされる所定の領域は、暗くされる特定の領域の縁の少なくとも一部と接していることが好ましい。しかし、図29(A)に示すように、所定の領域AR21は、暗くされる特定の領域AR11の縁の全周と接していることがより好ましい。
【0245】
また、例えば、図29(B)に示すように、明るくされる所定の領域AR22を配光パターンP2におけるホットゾーンHZ内に位置するようにする場合、ホットゾーンは、配光パターンにおけるホットゾーン以外の領域よりも明るいため、配光パターンP2において所定の領域AR22が際立って明るくなることを抑制し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。なお、運転者が違和感を覚える観点において、明るくされる所定の領域AR22は、配光パターンにおけるホットゾーンの少なくとも一部と重なっていることが好ましい。しかし、図29(B)に示すように、所定の領域AR22は、配光パターンP2におけるホットゾーンHZ内に位置していることがより好ましい。
【0246】
また、第2の態様としての本実施形態では、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR11が暗くされる配光パターンP1において、特定の領域AR11の中央側領域AR11aが縁側領域AR11bよりも暗くされている。このため、対象物である歩行者PEに照射される光の全光束量を低減しつつも、歩行者PEが視認し難くなることを抑制し得る。
【0247】
また、第2の態様としての本実施形態では、暗くされる特定の領域AR11において減少する光の全光束量と、明るくされる所定の領域AR21において増加する光の全光束量とが互いに概ね同じとされる。また、暗くされる特定の領域AR12において減少する光の全光束量と、明るくされる所定の領域AR22において増加する光の全光束量とが互いに概ね同じとされる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を変化させなくても、特定の領域AR11,AR12を暗くするとともに所定の領域AR21,AR22を明るくし得る。このため、本実施形態の前照灯1は、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を変化させる場合と比べて、簡易な制御によって動作し得る。
【0248】
なお、検知装置72が検知する対象物が人間とされる場合、例えば、暗くされる特定の領域及び明るくされる所定の領域は、図29(C)に示すような領域とされても良い。図29(C)は、検知装置72によって対象物として歩行者PEが検知された際の配光パターンの光が前照灯1から出射する状態の別の例を示す図である。図29(C)に示される配光パターンP3では、暗くされる特定の領域AR13は、歩行者PEの頭部PEHの全体と重なる領域とされ、明るくされる所定の領域AR23は、歩行者PEの胴部PEBの一部と重なる領域とされている。つまり、ステップSP34において、制御部71がこのような配光パターンP3を選択する。この場合、車両の前方に位置する歩行者PEが前照灯1から出射する光を眩しく感じることを抑制し得るとともに、この歩行者PEにおける胴部PEBを強調し得る。従って、このような前照灯は、明るくされる所定の領域が歩行者PEの胴部PEBの少なくとも一部と重なる領域とされない場合と比べて、車両の前方に位置する歩行者PEに対する注意喚起能を高くし得る。なお、暗くされる特定の領域AR13は、歩行者PEの頭部PEHの少なくとも一部と重なる領域とされていれば良い。しかし、歩行者PEが前照灯1から出射する光を眩しく感じることを抑制する観点では、暗くされる特定の領域AR13は、歩行者PEの頭部PEHの全体と重なる領域とされることが好ましい。また、歩行者PEに対する注意喚起能を高くする観点において、所定の領域AR23は特定の領域AR13の縁の少なくとも一部と接することがより好ましい。
【0249】
なお、第2の態様としての第7実施形態では、前照灯1は、検知装置72が対象物を検知しない場合、ハイビームの配光パターンPHの光を出射し、検知装置72が対象物を検知する場合、この前照灯1は、ハイビームの配光パターンPHにおいて対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域AR11,AR12,AR13が暗くされるとともに特定の領域と異なる所定の領域AR21,AR22,AR23が明るくされる配光パターンP1,P2,P3の光を出射していた。しかし、第2の態様としての車両用前照灯は、検知装置72が対象物を検知する場合、対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされるとともに特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンの光を出射すれば良い。例えば、第2の態様としての前照灯1は、検知装置72が対象物を検知しない場合、ロービームの配光パターンの光を出射し、検知装置72が対象物を検知する場合、ロービームの配光パターンにおいて対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域が暗くされるとともに特定の領域と異なる所定の領域が明るくされる配光パターンの光を出射するものとされても良い。
【0250】
また、第2の態様としての車両用前照灯では、明るくされる所定の領域は、所定の位置が明るくされる前の配光パターンと重ならない領域とされても良い。例えば、明るくされる所定の領域は、車両の運転者の視界が車両により妨げられる領域の少なくとも一部と重なっていても良い。図30は、このような変形例における配光パターンを示す図である。
【0251】
図30に示すように、配光パターンP4は、明るくされる所定の領域の位置が異なる点で、図27(C)に示される配光パターンP2と異なる。配光パターンP4では、明るくされる所定の領域AR24は、車両の運転者の視界が車両により妨げられる領域ARP内に位置している。なお、図30において、領域ARPには斜めのハッチングが施されている。この領域ARPは、例えば車両のボンネット等によって運転者の視界が妨げられる領域であり、図30ではその一部が示されている。明るくされる所定の領域AR24の位置をこのようにすることで、運転者は明るくされるこの所定の領域AR24を視認することがなく、運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0252】
また、第2の態様としての車両用前照灯では、検知装置72が検知する対象物に標識が含まれる場合、明るくされる所定の領域は、検知装置72によって検知された標識の少なくとも一部と重なっていても良い。このようにすることで、検知装置72によって検知された標識の存在を強調し得る。
【0253】
また、第2の態様としての第7実施形態では、位相変調素子54R,54G,54B,54Sは、反射型の位相変調素子であるLCOSとされていた。しかし、位相変調素子は、変更可能な位相変調パターンで入射する光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射することができれば良い。例えば、位相変調素子は、透過型の位相変調素子とされてもよく、シリコン基板上に複数の反射体が形成されたGLVとされも良い。
【0254】
また、第2の態様としての車両用前照灯は、図22に示される第1の態様としての前照灯1と同様の構成とされてもよい。つまり、光学系ユニット50は、3つの位相変調素子54R,54G,54Bに替わって、1つの位相変調素子54Sを備える構成としてもよい。この場合、光源52R,52G,52Bから出射する互いに異なる波長のレーザ光が順次位相変調素子54Sに入射する。また、位相変調素子54Sは、このように光源52R,52G,52Bごとのレーザ光の出射の切り換りに同期して位相変調パターンを変更することで、第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとを順次出射する。そして、この前照灯1では、残像現象によるこれら光DLR,DLG,DLBの合成によって所定の配光パターンが形成される。なお、このように残像現象を用いる場合、少なくとも2つの発光光学系が位相変調素子54Sを共有していれば良い。この場合、位相変調素子を共有する発光光学系から出射する光は残像現象によって合成され、この残像現象によって合成される光と他の発光光学系から出射する光とが合成されて、所定の配光パターンが形成される。
【0255】
また、第2の態様としての車両用前照灯は、図23に示される第1の態様としての前照灯1と同様の構成とされてもよい。つまり、光学系ユニット50は、合成光学系55を備えず、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成されない状態で、カバー59から光を出射する構成とされてもよい。この場合、第1の光DLR、第2の光DLG、及び第3の光DLBは、車両から所定の距離離れた焦点位置において、それぞれの光が照射される領域が互いに重なる。
【0256】
また、第2の態様としての第7実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光DLRを透過すると共に第2の光DLGを反射することで第1の光DLRと第2の光DLGとを合成し、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光DLR及び第2の光DLGを透過すると共に第3の光DLBを反射することで第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとを合成した。しかし、例えば、第1光学素子55fにおいて第3の光DLBと第2の光DLGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の光DLB及び第2の光DLGと第1の光DLRとが合成される構成とされても良い。この場合、第7実施形態において、光源52R、コリメートレンズ53R、及び位相変調素子54Rを備える第1発光光学系51Rと、光源52B、コリメートレンズ53B、及び位相変調素子54Bを備える第3発光光学系51Bとの位置が入れ替わる。また、上記第7実施形態において、所定の波長帯域の光を透過し、他の波長帯域の光を反射するバンドパスフィルタが第1光学素子55fや第2光学素子55sに用いられても良い。また、第2の態様としての第7実施形態では、合成光学系55は、それぞれの発光光学系から出射する光を合成すれば良く、上記第7実施形態の構成や上記構成に限定されない。
【0257】
また、第2の態様としての第7実施形態及び変形例では、複数の変調ユニットを有する位相変調素子54R,54G,54B,54Sを例に説明した。しかし、変調ユニットの数、大きさ、外形等は特に限定されるものではない。例えば、位相変調素子は1つの変調ユニットを有し、この1つの変調ユニットによって入射する光を回折させても良い。
【0258】
また、第2の態様としての第7実施形態では、互いに異なる波長の光を出射する3つの光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bに一対一で対応する3つの位相変調素子54R,54G,54Bとを備える光学系ユニット50を例に説明した。しかし、3つの位相変調素子54R,54G,54Bは、一体に形成されても良い。このような位相変調素子の構成として、位相変調素子が光源52Rに対応する領域、光源52Gに対応する領域、及び光源52Bに対応する領域に分割される構成を挙げることができる。このような構成の場合、光源52Rに対応する領域に光源52Rから出射するレーザ光が入射し、光源52Gに対応する領域に光源52Gから出射するレーザ光が入射し、光源52Bに対応する領域に光源52Bから出射するレーザ光が入射する。光源52Rに対応する領域の位相変調パターンは光源52Rから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされ、光源52Gに対応する領域の位相変調パターンは光源52Gから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされ、光源52Bに対応する領域の位相変調パターンは光源52Bから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされる。このような前照灯1によれば、3つの位相変調素子54R,54G,54Bが一体に形成されるため、部品点数を減少し得る。
【0259】
また、第2の態様としての第7実施形態では、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度は一定とされていた。しかし、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度は、前照灯1から出射される光の配光パターンに応じて調整されても良い。このような場合、例えば、それぞれの配光パターンに対して、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、及び当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度が関連付けられたテーブルを記憶部74に格納させる。そして、制御部71は、上記のステップSP3及びステップSP5において、このテーブルに関連付けられた情報に基づいて、光源52R,52G,52Bを制御する。具体的には、制御部71は、この情報に基づく信号を電源回路61R,61G,61Bに出力し、電源回路61R,61G,61Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、電源から光源52R,52G,52Bに供給される電力を調整する。このような構成にすることで、明るくされる所定の領域における光の全光束量を調節することができる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を調整しない場合と比べて、明るくされる所定の領域をより目立ちにくくして運転者が違和感を覚えることを抑制したり、この所定の領域をより目立つようにして注意喚起能を高くしたりし得る。
【0260】
また、第2の態様としての第7実施形態では、テーブルTBにおけるいずれかの配光パターンの光を出射する前照灯1を例に説明した。しかし、前照灯1は、テーブルTBにおける配光パターンとは異なる配光パターンの光を出射しても良い。例えば、第1実施形態における制御部71は、前照灯1から出射する光の配光パターンを形成するための位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを演算しても良い。具体的には、制御部71は、記憶部74に格納される情報、及び検知装置72から入力される対象物の存在及び対象物の存在位置の情報等に基づいて、対象物の一部と重なる領域が暗くされるととものこの領域と異なる領域が明るくされる配光パターンを形成するための位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを演算しても良い。この場合、記憶部74には、例えば、ハイビームの配光パターンPHを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンの情報と、ハイビームの配光パターンPHの強度分布に関するテーブルが格納される。図31は、このような変形例における配光パターンの強度分布に関する情報を説明するための図である。具体的には、図31(A)は、ハイビームの配光パターンPHにおける一部が拡大された図であり、ハイビームの配光パターンPHと歩行者PEとが重なっている部分が拡大された図である。図31(A)では、歩行者PEは太線で示されるとともに、複数の区画線CLが記載されている。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0261】
図31(A)に示すように、本変形例のハイビームの配光パターンPHは、区画線CLによって上下方向及び左右方向に概ね等間隔で区画された区画領域CAの集合体によって形成される。それぞれの区画領域にはアドレスと光の強度が予め設定されている。アドレスは、例えば、区画領域CAが位置する行の番号と列の番号とによって表される。上下方向における区画領域CAの幅は、前照灯1を基準とした上下方向への角度に対応する幅で表され、左右方向における区画領域CAの幅は、前照灯1を基準とした左右方向への角度に対応する幅で表される。これらの幅は、例えばそれぞれ0.1度に対応する幅とされる。
【0262】
本変形例におけるハイビームの配光パターンの強度分布に関するテーブルTB2では、図25(B)に示されるテーブルTB2と同様に、区画領域CAのアドレスと当該区画領域CAにおける光の強度としての全光束量とが関連付けられている。
【0263】
本変形例の制御部71は、検知装置72から入力される対象物の存在及び対象物の存在位置の情報に基づいて、対象物の少なくとも一部と重なる区画領域CAを抽出する。図31(B)は、抽出する区画領域を示す図である。図31(B)に示すように、例えば歩行者PEと重なる全ての区画領域CAが抽出されても良い。なお、図31(B)において、歩行者PEは破線で示され、抽出された区画領域CAは、第1抽出領域ARE1とされ、この第1抽出領域ARE1には斜めのハッチングが施されている。また、変形例の制御部71は、この抽出された第1抽出領域ARE1と異なる区画領域CAを抽出する。図31(B)に示すように、例えば第1抽出領域ARE1の外周縁と接する全ての区画領域CAが抽出されても良い。なお、図31(B)において、この抽出された区画領域CAは、第2抽出領域ARE2とされ、この第2抽出領域ARE2には第1抽出領域ARE1と異なる斜めのハッチングが施されている。
【0264】
制御部71は、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが第1抽出領域ARE1が暗くされるとともに第2抽出領域ARE2が明るくされる配光パターンとなる位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを演算する。なお、形成する配光パターンにおける抽出した第1抽出領域ARE1の区画領域CAのそれぞれにおける光の全光束量は、例えば同じ所定の値とされる。具体的には、制御部71は、上記の別のテーブルTB2とこの所定の値とに基づいて、第1抽出領域ARE1の全体における光の全光束量の減少量を演算する。次に制御部71は、この全光束量の減少量と第2抽出領域ARE2の全体における光の全光束量の増加量が同じとなるような第2抽出領域ARE2の区画領域CAのそれぞれにおける光の全光束量の増加量を演算する。なお、第2抽出領域ARE2の区画領域CAのそれぞれにおける光の全光束量の増加量は、例えば同じとされる。このようにして、制御部71は、第1抽出領域ARE1及び第2抽出領域ARE2の区画領域CAのそれぞれにおける光の全光束量の演算を行い、この演算結果に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。つまり、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが第1抽出領域ARE1が暗くされるとともに第2抽出領域ARE2が明るくされる配光パターンとなる位相変調パターンにすると理解できる。また、制御部71は、光源52R,52G,52Bを制御して光源52R,52G,52Bから所定の強度のレーザ光を出射させる。上記のように、第1抽出領域ARE1は、対象物の少なくとも一部と重なり、第2抽出領域ARE2は第1抽出領域ARE1と異なる。このため、灯具ユニット20から出射される光の配光パターンは、対象物の少なくとも一部と重なる領域が暗くされ、この暗くされる領域と異なる領域が明るくされる配光パターンとなる。この前照灯1では、上記のように、第1抽出領域ARE1において光の全光束量を低減した分、第2抽出領域ARE2において光の全光束量を増加させる。このため、この前照灯1は、第1抽出領域ARE1以外の区画領域CAが意図せずに全体的に明るくなることを抑制し得る。また、この前照灯1は、第2抽出領域ARE2を特定の位置にすることによって、この第2抽出領域ARE2を目立ちにくくして運転者が違和感を覚えることを抑制したり、この第2抽出領域ARE2を目立つようにして注意喚起能を高くしたりし得る。
【0265】
また、第2の態様としての第7実施形態では、灯具ユニット20は、結像レンズを含む結像レンズ系を備えていなかった。しかし、灯具ユニット20は、結像レンズ系を備え、光学系ユニット50から出射する光をこの結像レンズ系を介して出射させても良い。このような構成にすることで、出射する光の配光パターンをより広い配光パターンにし易くし得る。なお、ここでの広いとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に形成される配光パターンを比べた際に広いことを表している。
【0266】
また、第2の態様としての第7実施形態では、互いに異なる波長の光を出射する3つの光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bに一対一で対応する3つの位相変調素子54R,54G,54Bとを備える光学系ユニット50を例に説明した。しかし、光学系ユニットは、少なくとも1つの光源と、この光源に対応する位相変調素子とを備えれば良い。例えば、光学系ユニットは、白色のレーザ光を出射する光源と、この光源から出射する白色のレーザ光を回折して出射する位相変調素子とを備えていても良い。
【0267】
(第8実施形態)
次に、本発明の第3の態様としての第8実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同様の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。本実施形態における前照灯1の構成は、上記第1実施形態における前照灯1の構成と同じであるものの、本実施形態の前照灯1が出射する光の配光パターンは、上記第1実施形態の前照灯1が出射する光の配光パターンと異なる。
【0268】
本実施形態では、位相変調素子54R,54G,54Bにおけるそれぞれの位相変調パターンは、位相変調素子54Rから出射する第1の光DLRと位相変調素子54Gから出射する第2の光DLGと位相変調素子54Bから出射する第3の光DLBとが合成光学系55で合成された光によって所望の配光パターンが形成される位相変調パターンとされる。この所望の配光パターンには強度分布及び色分布も含まれる。このため、本実施形態では、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって特定の配光パターンを形成する場合、光DLR,DLG,DLBのそれぞれは、この特定の配光パターンと重なると共にこの特定の配光パターンの強度分布及び色分布に基づいた強度分布とされる。なお、位相変調素子54R,54G,54Bは波長依存性を有する。このため、本実施形態では、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成される配光パターンの色が白色であった場合であっても、位相変調素子54R,54G,54Bにおけるそれぞれの位相変調パターンは、互いに異なる位相変調パターンとされる。なお、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって配光パターンを形成した結果、これら位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンが互いに同じ位相変調パターンとされても良い。
【0269】
また、本実施形態では、図32に示すように、それぞれの配光パターンに対して、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、当該配光パターンを形成する際の光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度、及び検知装置72によって検知される対象物を関連付けたテーブルTBが記憶部74に格納される。
【0270】
図33は本実施形態における配光パターンの例を示す図である。具体的には、図33(A)はハイビームの配光パターンを示す図である。図33(B)はハイビームの配光パターンにおける特定の領域の色がこの特定の領域以外の色と異なる色とされる配光パターンを示す図である。図33(C)はハイビームの配光パターンにおける別の特定の領域の色がこの別の特定の領域以外の色と異なる色とされる配光パターンを示す図である。図33においてSは水平線を示し、配光パターンが太線で示され、この配光パターンは、車両から25m離れた鉛直面上に形成される配光パターンとされている。
【0271】
図33(A)に示されるハイビームの配光パターンPHの色は白色とされる。このハイビームの配光パターンPHのうち、領域LA1は最も強度が高い領域であり、領域LA2、領域LA3、領域LA4の順に強度が低くなる。つまり、それぞれの位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンは、合成された光がハイビームの強度分布を含む配光パターンを形成する位相変調パターンとされる。
【0272】
図33(B)に示される配光パターンP1は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の色がこの特定の領域AR15以外の色である白色と異なる色とされる配光パターンである。本実施形態では、配光パターンP1における特定の領域AR15の色は、青色とされる。また、配光パターンP1における特定の領域AR15の赤色の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の赤色の光の強度よりも低くされ、配光パターンP1における特定の領域AR15の緑色の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の緑色の光の強度よりも低くされ、配光パターンP1における特定の領域AR15の青色の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の青色の光の強度と概ね同じとされている。このため、配光パターンP1における特定の領域AR15の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の光の強度よりも低くされており、配光パターンP1における特定の領域AR15の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の光の全光束量よりも少ない。また、配光パターンP1における特定の領域AR15以外の色及び強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15以外の色及び強度分布と同じとされる。ここで、複数の参照点における光の色及び強度が同じであれば、色及び強度分布も同じであると推定することができる。なお、図33(A)において、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15は破線で示されている。本実施形態では、配光パターンP1の特定の領域AR15は、領域LA2内に位置している。
【0273】
図33(C)に示される配光パターンP2は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15と異なる別の特定の領域AR25がこの特定の領域AR25以外の色である白色と異なる色とされる配光パターンである。本実施形態では、配光パターンP2における特定の領域AR25の色は、この特定の領域AR25以外の色よりも黄色が強められた色とされる。また、配光パターンP2における特定の領域AR25の赤色の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の赤色の光の強度よりも高くされ、配光パターンP2における特定の領域AR25の緑色の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の緑色の光の強度よりも高くされ、配光パターンP1における特定の領域AR15の青色の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の青色の光の強度と概ね同じとされている。このため、配光パターンP2における特定の領域AR25の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の光の強度よりも高くされており、配光パターンP2における特定の領域AR25の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の光の全光束量よりも多い。また、配光パターンP2における特定の領域AR25以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25以外における強度分布と同じとされる。なお、図33(A)において、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25は破線で示されている。本実施形態では、配光パターンP2の特定の領域AR25は、領域LA2内に位置している。
【0274】
このように、本実施形態における前照灯1から出射される光の配光パターンは、ハイビームの配光パターンPH、または、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15,AR25が特定の領域AR15,AR25以外の色と異なる色とされる配光パターンP1,P2とされる。
【0275】
なお、配光パターンP1,P2における特定の領域AR15,AR25の色、位置、形状、数、及び広さは特に限定されるものではない。また、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15,AR25が特定の領域AR15,AR25以外の色と異なる色とされる配光パターンP1,P2の数も限定されるものではない。また、配光パターンP1,P2における特定の領域AR15,AR25の光の強度は特に限定されるものではい。例えば、青色とされる特定の領域AR15における赤色の光の強度と緑色の光の強度はゼロとされても良く、青色の光の強度がハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の青色の光の強度よりも高くされても良い。また、黄色が強められた色とされる特定の領域AR25における赤色の光の強度がハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の赤色の光の強度と同じとされるとともに、特定の領域AR25における緑色の光の強度がハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の緑色の光の強度と同じとされても良い。この場合、特定の領域AR25における青色の光の強度はハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の青色の光の強度よりも低くされる。また、特定の領域AR15,AR25における光の強度は当該特定の領域AR15,AR25内の全体において概ね一定とされも良く、特定の領域AR15,AR25に光の強度が当該特定の領域AR15,AR25内の位置に応じて変化していても良い。また、配光パターンP1,P2における特定の領域AR15,AR25以外における強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15,AR25以外における強度分布と異なっていても良い。また、配光パターンP1,P2の外形は、ハイビームの配光パターンPHの外形と異なっていても良い。
【0276】
次に、本実施形態の前照灯1の動作について説明する。具体的には、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンをハイビームの配光パターンPHから別の配光パターンに変化する動作について説明する。本実施形態の制御部71の制御フローチャートは、図8に示す第1の態様における第1実施形態の制御部71の制御フローチャートと同じとなる。このため、図8を参照して説明する。
【0277】
まず、ステップSP1において、ライトスイッチ73がオンされ、ライトスイッチ73から光の出射を指示する信号が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローはステップSP2に進む。一方、ステップSP1において、この信号が制御部71に入力されない場合、制御部71の制御フローはステップSP8に進む。
【0278】
ステップSP2において、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知せず、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力されない場合、制御部71の制御フローはステップSP3に進む。一方、ステップSP2においてこの情報が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローはステップSP5に進む。
【0279】
ステップSP3において、制御部71は、記憶部74に格納されるテーブルTBにおけるハイビームの配光パターンPHに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。具体的には、制御部71は、この情報に基づく信号を駆動回路60R,60G,60Bに出力し、駆動回路60R,60G,60Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bに印加する電圧を調整する。この電圧は、位相変調素子54R,54G,54Bが光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンを形成する電圧とされる。このため、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンにする。つまり、ステップSP3において、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、テーブルTBにおけるハイビームの配光パターンPHに関連付けられた情報に基づいて、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがハイビームの配光パターンPHとなる位相変調パターンにすると理解できる。
【0280】
次にステップSP4において、制御部71は、テーブルTBおけるハイビームの配光パターンPHに関連付けられた情報に基づいて、光源52R,52G,52Bを制御する。具体的には、制御部71は、この情報に基づく信号を電源回路61R,61G,61Bに出力し、電源回路61R,61G,61Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、電源から光源52R,52G,52Bに供給される電力を調整する。この電力は、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度がテーブルTBにおいてハイビームの配光パターンPHに関連付けられた強度となる電力とされる。このため、ステップSP4において、光源52R,52G,52Bは、テーブルTBにおいてハイビームの配光パターンPHに関連付けられた強度のレーザ光を出射する。このように強度が調整された光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ハイビームの配光パターンPHとなるため、ハイビームの配光パターンPHの光が前照灯1から出射する。
【0281】
ところで、上記のように、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度はハイビームの配光パターンPHに関連付けられた強度とされる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光のそれぞれにおける全光束量は、ハイビームの配光パターンPHに応じた全光束量である。光源52Rから出射するレーザ光に起因する第1の光DLRが第1発光光学系51Rから出射し、光源52Gから出射するレーザ光に起因する第2の光DLGが第2発光光学系51Gから出射し、光源52Bから出射するレーザ光に起因する第3の光DLBが第3発光光学系51Bから出射する。従って、これら発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量のそれぞれは、ハイビームの配光パターンPHに応じた全光束量に調整されている。
【0282】
なお、ステップSP2において、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力されない場合、制御部71は、ステップSP3とステップSP4とにおける制御を同時に行っても良い。また、制御部71の制御フローは、ステップSP4、ステップSP3の順に進み、ステップSP1に戻っても良い。
【0283】
ステップSP2において、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力される場合、制御部71の制御フローは上記のようにステップSP5に進む。ステップSP5において、制御部71は、検知装置72から入力されるこの情報に基づいて、テーブルTBにおける配光パターンの中から1つの配光パターンを選択する。具体的には、制御部71は、検知装置72によって検知された対象物の少なくとも一部と配光パターンにおける特定の領域とが重なるとともにこの特定の領域の色が検知された対象物に対応する色である1つの配光パターンをテーブルTBにおける配光パターンの中から選択する。
【0284】
次にステップSP6において、制御部71は、テーブルTBにおけるステップSP5で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。この場合、位相変調素子54R,54G,54Bは、上記ステップSP3と同様にして、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンがステップSP5で選択された配光パターンとなる位相変調パターンにする。ここで、上記のように、ステップSP5で選択された配光パターンは、検知装置72からの情報に基づいて選択され、特定の領域と対象物の少なくとも一部とが重なるとともにこの特定の領域の色が対象物に対応する色とされる配光パターンである。従って、検知装置72からの情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、光DLR,DLG,DLBが合成された光によってハイビームの配光パターンPHにおける対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域の色が当該特定の領域以外の色である白色と異なる色とされる配光パターンが形成される位相変調パターンとすると理解できる。そして、この特定の領域の色は対象物に対応する色とされている。
【0285】
次にステップSP7において、制御部71は、テーブルTBにおけるステップSP5で選択された配光パターンに関連付けられた情報に基づいて、光源52R,52G,52Bを制御する。この場合、光源52R,52G,52Bは、上記ステップSP4と同様にして、テーブルTBにおいてステップSP5で選択された配光パターンに関連付けられた強度のレーザ光を出射する。このように強度が調整された光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が対応する位相変調素子54R,54G,54Bに入射し、位相変調素子54R,54G,54Bから光DLR,DLG,DLBが出射する。これら光DLR,DLG,DLBは合成光学系55で合成され、この合成された光が前照灯1から出射する。光DLR,DLG,DLBが合成された光の配光パターンは、ステップSP5で選択された配光パターンとなるため、ステップSP5で選択された配光パターンの光が前照灯1から出射する。
【0286】
ところで、上記のように、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度はテーブルTBにおいてステップSP5で選択された配光パターンに関連付けられた強度とされる。このため、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光のそれぞれにおける全光束量は、ステップSP5で選択された配光パターンに応じた全光束量である。光源52Rから出射するレーザ光に起因する第1の光DLRが第1発光光学系51Rから出射し、光源52Gから出射するレーザ光に起因する第2の光DLGが第2発光光学系51Gから出射し、光源52Bから出射するレーザ光に起因する第3の光DLBが第3発光光学系51Bから出射する。従って、これら発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量のそれぞれは、ステップSP5で選択された配光パターンに応じた全光束量に調整されている。
【0287】
本実施形態では、テーブルTBにおいて配光パターンに関連付けられた光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度のそれぞれは、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度を基準として、それぞれの配光パターンにおける特定の領域の色に応じて変化される強度とされる。配光パターンにおける特定の領域の色が青色とされる場合、例えば、光源52Rから出射するレーザ光の強度及び光源52Gから出射するレーザ光の強度が下げられ、光源52Bから出射するレーザ光の強度は変化されない。また、配光パターンにおける特定の領域の色がこの特定の領域以外の色よりも黄色が強められた色とされる場合、例えば、光源52Rから出射するレーザ光の強度及び光源52Gから出射するレーザ光の強度が高められ、光源52Bから出射するレーザ光の強度は変化されない。なお、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度のそれぞれは、配光パターンにおける特定の領域の赤色の光、緑色の光、及び青色の光の強度に応じた強度とされることが好ましい。つまり、特定の領域における強度が高められる光に対応するレーザ光の強度が高められ、特定の領域における強度が下げられる光に対応するレーザ光の強度が下げられることが好ましい。また、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度の変化量は、関連付けられた配光パターンにおける特定の領域の広さに応じて変化しても良い。なお、ここでの広さとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に配光パターンが形成される場合における広さとされる。また、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度は、所定の強度に変化されても良い。
【0288】
図34は、検知装置によって検知された対象物と特定の領域とが重なる配光パターンの光が前照灯から出射する状態の例を示す図である。具体的には、図34(A)は検知装置72によって対象物として歩行者PEが検知された際の配光パターンの光が前照灯1から出射する状態の例を示す図である。図34(B)は検知装置72によって対象物として道路標識RSが検知された際の配光パターンの光が前照灯1から出射する状態の例を示す図である。図34(A)に示される配光パターンは、図33(B)に示される配光パターンP1であり、上記のように、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の色が青色とさた配光パターンである。また、配光パターンP1における特定の領域AR15の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の光の全光束量よりも少ない。このような特定の領域AR15は、歩行者PEの全体と重なっている。このため、歩行者PEに照射される光の色は青色とされ、歩行者PEに照射される光の全光束量は前照灯1からハイビームが出射される場合と比べて減少されている。
【0289】
図34(B)に示される配光パターンは、図33(C)に示される配光パターンP2であり、上記のように、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の色がこの特定の領域AR25以外の色よりも黄色が強められた色とさた配光パターンである。また、配光パターンP2における特定の領域AR25の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の光の全光束量よりも多い。このような特定の領域AR25は、道路標識RS及び道路標識RSを支える支持部SUの全体と重なっている。このため、道路標識RSに照射される光の色は黄色が強められた色とされ、道路標識RSに照射される光の全光束量は前照灯1からハイビームが出射される場合と比べて増加されている。また、道路標識RSと重なる特定の領域AR25の色は、歩行者PEと重なる特定の領域AR15の色と異なり、特定の領域AR15,AR25の色は、対象物の種類に対応する所定の色とされている。
【0290】
上記のように、図34(A)では歩行者PEの全体と特定の領域AR15とが重なる配光パターンP1の光が前照灯1から出射する状態が示され、図34(B)では道路標識RS及び支持部SUの全体と特定の領域AR25とが重なる配光パターンP2の光が前照灯1から出射する状態が示された。しかし、前照灯1から出射する光は、検知装置72によって検知された対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域の色が当該特定の領域以外の色と異なる色とされる配光パターンの光であれば良い。例えば、前照灯1から出射する光は、対象物である歩行者PEの一部と色が変化される特定の領域とが重なる配光パターンの光とされても良い。つまり、ステップSP5において、制御部71がこのような配光パターンを選択しても良い。
【0291】
また、上記ステップSP2において、検知装置72から対象物の存在及び対象物の存在位置の情報が制御部71に入力される場合、制御部71は、ステップSP6とステップSP7とにおける制御を同時に行っても良い。また、制御部71の制御フローは、ステップSP5、ステップSP7、ステップSP6の順に進み、ステップSP1に戻っても良い。
【0292】
上記のようにステップSP1においてライトスイッチ73から光の出射を指示する信号が制御部71に入力されずに制御部71の制御フローがステップSP8に進んだ場合、制御部71は、光源52R,52G,52Bを制御して光源52R,52G,52Bからのレーザ光を非出射にする。この場合、電源回路61R,61G,61Bは、制御部71から入力する信号に基づいて、電源から光源52R,52G,52Bへの電力の供給を停止する。このため、光源52R,52G,52Bはレーザ光を非出射とし、前照灯1は光を非出射とする。
【0293】
このように、本実施形態の前照灯1は、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知しない場合、ハイビームの配光パターンPHの光を出射する。一方、検知装置72が車両前方に位置する所定の対象物を検知する場合、この前照灯1は、対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域の色が当該特定の領域以外の色と異なる色とされる配光パターンP1,P2の光を出射する。
【0294】
ところで、上記特許文献2に記載の車両用前照灯のように、他の車両、及び歩行者等への光の照射が抑制されることによって、運転者がこれら他の車両、及び歩行者を視認し難くなる場合があり、運転をより容易にしたいとの要望がある。
【0295】
そこで、第3の態様としての本実施形態の前照灯1は、光源52R及び位相変調素子54Rを有する第1発光光学系51Rと、光源52G及び位相変調素子54Gを有する第2発光光学系51Gと、光源52B及び位相変調素子54Bを有する第3発光光学系51Bと、を備える。光源52R,52G,52Bは互いに異なる波長のレーザ光を出射する。位相変調素子54Rは、変更可能な位相変調パターンで光源52Rから出射するレーザ光を回折して位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。位相変調素子54Gは、変更可能な位相変調パターンで光源52Gから出射するレーザ光を回折して位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。位相変調素子54Bは、変更可能な位相変調パターンで光源52Bから出射するレーザ光を回折して位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射する。また、本実施形態の前照灯1では、第1発光光学系51Rから出射する第1の光DLRと、第2発光光学系51Gから出射する第2の光DLGと、第3発光光学系51Bから出射する第3の光DLBとが合成された光によってハイビームの配光パターンPHが形成される。また、車両前方に位置する所定の対象物を検知する検知装置72からの情報に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bは、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によってハイビームの配光パターンPHにおける対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域AR15,AR25の色が当該特定の領域AR15,AR25以外の色と異なる色とされる配光パターンP1,P2が形成される位相変調パターンとする。
【0296】
本実施形態の前照灯1では、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化し、対象物の少なくとも一部に照射される光の色が他の領域に照射される光の色と異なる色とされる。例えば、図34(A)に示すように、検知装置72が検知する対象物が歩行者PEとされる場合、歩行者PEに照射される光の色が他の領域に照射される光の色と異なる色とされる。ここで、人間の目の光を感じる感覚は光の波長が黄緑色の光の波長よりも増加または減少するについて低下する傾向にある。つまり、人間の目は黄緑色の光を最も明るく感じ、黄緑色の光よりも青色や赤色の光を暗く感じ易い傾向にある。本実施形態の前照灯1では、配光パターンP1における歩行者PEと重なる特定の領域AR15の色は、青色とされているため、歩行者PEには青色の光が照射される。このため、本実施形態の前照灯1は、歩行者PEが前照灯1から出射する光を眩しく感じることを抑制し得る。また、本実施形態の前照灯1では、歩行者PE等の対象物に照射される光の色は、他の領域に照射される光の色と異なるものの、対象物には光が照射される。このため、本実施形態の前照灯1は、対象物に光が照射されない場合と比べて、対象物が視認し難くなることを抑制し得る。
【0297】
また、例えば、図34(B)に示すように、検知装置72が検知する対象物が道路標識RSとされる場合、道路標識RSに照射される光の色が他の領域に照射される光の色と異なる色とされる。本実施形態の前照灯1では、配光パターンP2における道路標識RSと重なる特定の領域AR25の色は、この特定の領域AR25以外の色よりも黄色が強められた色とされているため、人間の目の光を感じる感覚の高い色である黄色が強められた色の光が道路標識RSに照射される。このため、本実施形態の前照灯1は、道路標識RSの視認性を向上し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、運転し易くし得る。
【0298】
また、第3の態様としての本実施形態の前照灯1では、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bは、出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を検知装置72からの情報に基づいて調節する。このため、本実施形態の前照灯1は、出射する光の配光パターンP1,P2における対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域AR15,AR25の色に応じて、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を調節することができる。このため、本実施形態の前照灯1は、特定の領域AR1,AR2の色が変化する配光パターンP1,P2における特定の領域AR15,AR25以外の領域の色合いや明るさが意図せずに変化することを抑制し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0299】
また、第3の態様としての本実施形態の前照灯1では、配光パターンP1における特定の領域AR15の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR15の光の全光束量よりも少ない。このため、本実施形態の前照灯1では、例えば、検知装置72が検知する対象物が歩行者PEとされる場合、歩行者PEに照射される光の全光束量を低減することができ、歩行者PEが前照灯1から出射する光を眩しく感じることをより抑制し得る。
【0300】
また、第3の態様としての本実施形態の前照灯1では、配光パターンP2における特定の領域AR25の光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける特定の領域AR25の光の全光束量よりも多い。このため、本実施形態の前照灯1では、例えば、検知装置72が検知する対象物が道路標識RSとされる場合、道路標識RSに照射される光の全光束量を増加することができ、道路標識RSの視認性をより向上し得る。
【0301】
また、第3の態様としての本実施形態の前照灯1では、検知装置72は、歩行者PE、道路標識RS等の複数種類の対象物を検知し、特定の領域AR15,AR25の色は、対象物の種類に対応する所定の色とされる。このため、運転者は、対象物を明確に視認できない状況、例えば対象物が遠方にある状況でも、特定の領域の色に応じて対象物の種類を想定し得る。従って、本実施形態の前照灯1は、特定の領域AR15,AR25の色が対象物の種類に対応する所定の色とされない場合と比べて、運転し易くし得る。
【0302】
(第9実施形態)
次に、本発明の第3の態様としての第9実施形態について図35を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0303】
図35は、本発明の第3の態様としての第9実施形態における光学系ユニットを図2と同様に示す図である。なお、図35では、ヒートシンク30、カバー59等の記載が省略されている。図35に示すように、本実施形態の光学系ユニット50は、第1発光光学系51R,第2発光光学系51G、及び第3発光光学系51Bのそれぞれが、光学フィルタ180R,180G,180Bとモータ181R,181G,181Bとを更に備える点において、第1実施形態の光学系ユニット50と異なる。
【0304】
光学フィルタ180R,180G,180Bは、入射する光の一部を遮り、当該光学フィルタ180R,180G,180Bを透過する光の量を減少させるフィルタである。本実施形態では、光学フィルタ180Rは、光源52Rから出射して位相変調素子54Rに至るまでの光源52Rから出射するレーザ光の光路上に配置されている。具体的には、この光路におけるコリメートレンズ53Rと位相変調素子54Rとの間に配置される。このため、光源52Rから出射するレーザ光は、光学フィルタ180R及びコリメートレンズ53Rを透過し、位相変調素子54Rに入射する。本実施形態では、光学フィルタ180Rの正面視の外形は概ね円形とされ、光学フィルタ180Rの中心にはモータ181Rの出力シャフト182Rの一端部が固定されている。このため、光学フィルタ180Rは、モータ181Rの出力シャフト182Rを回転軸として回転する。このモータ181Rには、制御部71が電気的に接続されており、モータ181Rはこの制御部71によって制御される。
【0305】
光学フィルタ180G,180Bは、光学フィルタ180Rと同様に、光源52G,52Bから出射して位相変調素子54G,54Bに至るまでの光源52G,52Bから出射するレーザ光の光路上に配置されている。具体的には、この光路におけるコリメートレンズ53G,53Bと位相変調素子54G,54Bとの間に配置される。このため、光源52G,52Bから出射するレーザ光は、光学フィルタ180G,180B及びコリメートレンズ53G,53Bを透過し、位相変調素子54G,54Bに入射する。光学フィルタ180Rと同様に、光学フィルタ180G,180Bの正面視の外形は概ね円形とされる。また、光学フィルタ180G,180Bは、制御部71によって制御されるモータ181G,181Bによって、出力シャフト182G,182Bを回転軸として回転する。光学フィルタ180R,180G,180Bを回転させるモータ181R,181G,181Bとして、例えばステッピングモータやACサーボモータ等を用いることができる。
【0306】
次に、光学フィルタ180R、光学フィルタ180G、及び光学フィルタ180Bの構成について詳細に説明する。本実施形態では、光学フィルタ180R、光学フィルタ180G、及び光学フィルタ180Bは同様の構成とされる。このため、以下では光学フィルタ180Rについて説明し、光学フィルタ180G及び光学フィルタ180Bについてはその説明を適宜省略する。
【0307】
図36は、図35に示す第1発光光学系における光学フィルタを概略的に示す正面図である。なお、図36では、光源52Gから出射するレーザ光が入射する領域183Rが破線で示されている。本実施形態の光学フィルタ180Rは、透過する光の量が互いに異なる複数の減光領域184Rを有し、この複数の減光領域184Rは、光学フィルタ180Rの正面視において、モータ181Rの出力シャフト182Rを中心とする円C1の円周上に配置されている。なお、これら減光領域184Rの円C1の円周方向への並び順は、特に限定されない。円C1の円周は、光源52Gから出射するレーザ光が入射する領域183Rを横切っている。このため、モータ181Rによって光学フィルタ180Rが所定の角度回転することにより、複数の減光領域184Rとこの領域183Rとがそれぞれ重なり得る。このため、モータ181Rによって光学フィルタ180Rを所定の角度回転させることにより、光源52Gから出射するレーザ光が入射する減光領域184Rを切り替えることができる。
【0308】
このような光学フィルタ180R,180G,180Bとして、例えば、ガラス基板上に金属膜等の光学膜が積層された減光フィルタを挙げることができる。この光学膜の種類や厚みをそれぞれの減光領域に応じてコントロールすることで、それぞれの減光領域における透過する光の量を互いに異ならせることができる。
【0309】
なお、複数の減光領域を有する光学フィルタ180R,180G,180Bは、光源52R,52G,52Bから出射する光が入射する減光領域を切り替えることができれば良い。このような光学フィルタ180R,180G,180Bは、例えば、複数の減光領域が直線状に配列されるとともに、この配列方向にスライド移動可能とされても良い。このような構成であっても、光源52R,52G,52Bから出射する光が入射する減光領域を切り替えることができる。
【0310】
本実施形態のテーブルTBでは、発光光学系51R,51G、51Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンのそれぞれに対して、情報が関連付けられている。それぞれの配光パターンに関連付けられる情報として、当該配光パターンを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターン、光源52R,52G,52Bから出射する光が透過する光学フィルタ180R,180G,180Bにおける減光領域、及び検知装置72によって検知される対象物が挙げられる。つまり、本実施形態では、光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度に替わって光学フィルタ180R,180G,180Bにおける減光領域がそれぞれの配光パターンに関連付けられている。本実施形態では、発光光学系51R,51G、51Bのそれぞれは、配光パターンに応じて光源52R,52G,52Bのレーザ光の強度を変化しないものの、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が透過する光学フィルタ180R,180G,180Bにおける減光領域を変化する。具体的には、制御部71がモータ181R,181G,181Bをそれぞれ制御して光学フィルタ180R,180G,180Bを所定の角度までそれぞれ回転させて光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光が透過する減光領域をそれぞれ変化する。光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光は、透過する減光領域に応じてそれぞれ減光され、これら減光された光が位相変調素子54R,54G,54Bに入射する。位相変調素子54R,54G,54Bからは、これら減光された光に起因する光DLR,DLG,DLBが出射し、この光DLR,DLG,DLBが発光光学系51R,51G,51Bから出射する。
【0311】
このようにして、本実施形態では、発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量のそれぞれは、光学フィルタ180R,180G,180Bにおける減光領域に応じた全光束量となる。つまり、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bは、出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を配光パターンに応じて調節することができ、これら発光光学系51R,51G,51Bは、検知装置72からの情報に基づいて調節することができると理解できる。従って、このような構成の光学系ユニット50であっても、第3の態様としての第8実施形態と同様の効果を得ることができる。また、このような構成にすることで、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を調節しなくても発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を安定して調節することができる。
【0312】
なお、光学フィルタ180R,180G,180Bは、発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を調節することができれば良い。例えば、光学フィルタ180Rは、第1発光光学系51Rにおける位相変調素子54Rから出射する光DLRの光路上に配置されても良い。また、光学フィルタ180Gは、第2発光光学系51Gにおける位相変調素子54Gから出射する光DLGの光路上に配置されても良い。光学フィルタ180Bは、第3発光光学系51Bにおける位相変調素子54Bから出射する光DLBの光路上に配置されても良い。
【0313】
また、光学フィルタ180R,180G,180Bは、偏光フィルタとされても良い。この場合、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bは、配光パターンに応じて偏光フィルタとされる光学フィルタ180R,180G,180Bを所定の角度まで回転して光学フィルタ180R,180G,180Bの偏光方向を変化させる。光源52R,52G,52Bから出射する光はレーザ光であり、レーザ光は概ね直線偏光である。このため、光学フィルタ180R,180G,180Bの偏光方向の変化に応じて、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の減光量をそれぞれ調節できる。つまり、光学フィルタ180R,180G,180Bを透過した光の全光束量をそれぞれ調節することができる。従って、このような構成の光学系ユニット50であっても、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bは、出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を調節することができる。なお、偏光フィルタとされる光学フィルタ180R,180G,180Bは、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bにおける位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBの光路上に配置されても良い。また、位相変調素子54R,54G,54Bは波長依存性を有する。このため、偏光フィルタとされる光学フィルタ180Rは、光源52Rから出射して位相変調素子54Rに至るまでの光源52Rから出射するレーザ光の光路上に配置されることが好ましい。偏光フィルタとされる光学フィルタ180G,180Bは、光源52G,52Bから出射して位相変調素子54G,54Bに至るまでの光源52G,52Bから出射するレーザ光の光路上に配置されることが好ましい。このような構成にすることで、位相変調素子54R,54G,54Bに入射する光のそれぞれにおける位相のばらつきを低減することができる。このため、所定の配光パターンを形成するための光DLR,DLG,DLBとは異なる不要な光が位相変調素子54R,54G,54Bから出射することを抑制し得る。
【0314】
また、図示による説明は省略するが、光学フィルタ180R,180G,180Bは、電圧や電流が印加されることで透過光の拡散の度合いが変化する調光シートとされても良い。電圧が印加される調光シートの構成として、例えば、液晶分子を有する液晶層と、透光性を有しこの液晶層を挟むように配置される一対の透明電極と、透光性を有しこの一対の透明電極を挟み込むように配置される一対の保護層とを備える構成を挙げることができる。このような調光シートでは、一対の透明電極に電圧が印加されることによって液晶層の液晶分子の配向が変化する。この液晶分子の配向の変化によって、液晶層を透過する光の透過の際における拡散の度合いが変化し、透過する光の量を変化させることができる。一方、電流が印加される調光シートの構成として、例えば、上記の電圧が印加される調光シートにおける液晶層に替わって、酸化タングステン等の薄膜層及び電解質層等を備える構成を挙げることができる。このような調光シートでは、一対の透明電極に電流が印加されることによって薄膜層が電気的な酸化反応または還元反応することで、この薄膜層を透過する光の透過の際における拡散の度合いが変化し、透過する光の量を変化させることができる。従って、光学フィルタ180R,180G,180Bが電圧や電流が印加されることで透過光の拡散の度合いが変化する調光シートとされても、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bは、出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を配光パターンに応じて調節することができる。また、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bは、モータ181R,181G,181Bを用いなくても出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を配光パターンに応じて調節することができる。
【0315】
なお、第3の態様としての第8及び第9実施形態では、前照灯1は、検知装置72が対象物を検知しない場合、ハイビームの配光パターンPHの光を出射し、検知装置72が対象物を検知する場合、この前照灯1は、ハイビームの配光パターンPHにおいて対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域AR15,AR25の色が特定の領域AR15,AR25以外の色と異なる色とされる配光パターンP1,P2の光を出射していた。しかし、第3の態様としての前照灯1は、検知装置72が対象物を検知する場合、対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域の色が当該特定の領域以外の色と異なる色とされる配光パターンの光を出射すれば良い。例えば、第3の態様としての前照灯1は、検知装置72が対象物を検知しない場合、ロービームの配光パターンの光を出射し、検知装置72が対象物を検知する場合、ロービームの配光パターンにおいて対象物の少なくとも一部と重なる特定の領域の色が当該特定の領域以外の色と異なる色とされる配光パターンの光を出射するものとされても良い。
【0316】
また、第3の態様としての車両用前照灯は、図22に示される第1の態様としての前照灯1と同様の構成とされてもよい。つまり、光学系ユニット50は、3つの位相変調素子54R,54G,54Bに替わって、1つの位相変調素子54Sを備える構成としてもよい。この場合、光源52R,52G,52Bから出射する互いに異なる波長のレーザ光が順次位相変調素子54Sに入射する。また、位相変調素子54Sは、このように光源52R,52G,52Bごとのレーザ光の出射の切り換りに同期して位相変調パターンを変更することで、第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとを順次出射する。そして、この前照灯1では、残像現象によるこれら光DLR,DLG,DLBの合成によって所定の配光パターンが形成される。なお、このように残像現象を用いる場合、少なくとも2つの発光光学系が位相変調素子54Sを共有していれば良い。この場合、位相変調素子を共有する発光光学系から出射する光は残像現象によって合成され、この残像現象によって合成される光と他の発光光学系から出射する光とが合成されて、所定の配光パターンが形成される。
【0317】
また、第3の態様としての車両用前照灯は、図23に示される第1の態様としての前照灯1と同様の構成とされてもよい。つまり、光学系ユニット50は、合成光学系55を備えず、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成されない状態で、カバー59から光を出射する構成とされてもよい。この場合、第1の光DLR、第2の光DLG、及び第3の光DLBは、車両から所定の距離離れた焦点位置において、それぞれの光が照射される領域が互いに重なる。
【0318】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態及び変形例では、位相変調素子54R,54G,54B,54Sは、反射型の位相変調素子であるLCOSとされていた。しかし、位相変調素子は、変更可能な位相変調パターンで入射する光を回折し、位相変調パターンに基づく配光パターンの光を出射することができれば良い。例えば、位相変調素子は、透過型の位相変調素子とされてもよく、シリコン基板上に複数の反射体が形成されたGLVとされも良い。
【0319】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光DLRを透過すると共に第2の光DLGを反射することで第1の光DLRと第2の光DLGとを合成し、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光DLR及び第2の光DLGを透過すると共に第3の光DLBを反射することで第1の光DLRと第2の光DLGと第3の光DLBとを合成した。しかし、例えば、第1光学素子55fにおいて第3の光DLBと第2の光DLGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の光DLB及び第2の光DLGと第1の光DLRとが合成される構成とされても良い。この場合、第3の態様としての第8実施形態において、光源52R、コリメートレンズ53R、及び位相変調素子54Rを備える第1発光光学系51Rと、光源52B、コリメートレンズ53B、及び位相変調素子54Bを備える第3発光光学系51Bとの位置が入れ替わる。また、第3の態様としての第8及び第9実施形態において、所定の波長帯域の光を透過し、他の波長帯域の光を反射するバンドパスフィルタが第1光学素子55fや第2光学素子55sに用いられても良い。また、第8実施形態及び第9実施形態では、合成光学系55は、それぞれの発光光学系から出射する光を合成すれば良く、上記第8実施形態の構成や上記構成に限定されない。
【0320】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態では、複数の変調ユニットを有する位相変調素子54R,54G,54B,54Sを例に説明した。しかし、変調ユニットの数、大きさ、外形等は特に限定されるものではない。例えば、位相変調素子は1つの変調ユニットを有し、この1つの変調ユニットによって入射する光を回折させても良い。
【0321】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態では、互いに異なる波長の光を出射する3つの光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bに一対一で対応する3つの位相変調素子54R,54G,54Bとを備える光学系ユニット50を例に説明した。しかし、3つの位相変調素子54R,54G,54Bは、一体に形成されても良い。このような位相変調素子の構成として、位相変調素子が光源52Rに対応する領域、光源52Gに対応する領域、及び光源52Bに対応する領域に分割される構成を挙げることができる。このような構成の場合、光源52Rに対応する領域に光源52Rから出射するレーザ光が入射し、光源52Gに対応する領域に光源52Gから出射するレーザ光が入射し、光源52Bに対応する領域に光源52Bから出射するレーザ光が入射する。光源52Rに対応する領域の位相変調パターンは光源52Rから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされ、光源52Gに対応する領域の位相変調パターンは光源52Gから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされ、光源52Bに対応する領域の位相変調パターンは光源52Bから出射するレーザ光に対応する位相変調パターンとされる。このような前照灯1によれば、3つの位相変調素子54R,54G,54Bが一体に形成されるため、部品点数を減少し得る。
【0322】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態では、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bは、出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を検知装置72からの情報に基づいて調節していた。しかし、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量は、一定とされても良い。つまり、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bは、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度を調節しなくても良く、第9実施形態における光学フィルタ180R,180G,180Bを備えなくても良い。このような構成にすることによって、前照灯1は、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bから出射する光DLR,DLG,DLBの全光束量を調節する場合と比べて、簡易な制御によって動作し得る。
【0323】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態では、テーブルTBにおけるいずれかの配光パターンの光を出射する前照灯1を例に説明した。しかし、第3の態様としての前照灯1は、テーブルTBにおける配光パターンとは異なる配光パターンの光を出射しても良い。例えば、図24図23を用いて説明された第1の態様としての変形例と同様に、第3の態様としての第8実施形態における制御部71は、前照灯1から出射する光の配光パターンを形成するための位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを演算しても良い。具体的には、第3の態様としての変形例における制御部71は、記憶部74に格納される情報、及び検知装置72から入力される対象物の存在及び対象物の存在位置の情報等に基づいて、対象物の一部と重なる領域の色が当該領域以外の領域と異なる色とされる配光パターンを形成するための位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを演算しても良い。この場合、記憶部74には、例えば、ハイビームの配光パターンPHを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンの情報と、検知装置72が検知する対象物の種類に対応する所定の色の情報と、ハイビームの配光パターンPHの強度分布に関するテーブルが格納される。ここで、この第3の態様としての変形例で演算される位相変調パターンは、例えば、図24図25を用いて説明された第1の態様としての変形例で演算される位相変調パターンと同様の方法で演算される。このため、図24図25を参照してこの第3の態様としての変形例について説明する。
【0324】
図24(A)に示すように、第3の態様としての変形例のハイビームの配光パターンPHは、第1の態様としての変形例と同様に、区画線CLによって上下方向及び左右方向に概ね等間隔で区画された区画領域CAの集合体によって形成される。それぞれの区画領域にはアドレスと光の強度が予め設定されている。アドレスは、例えば、区画領域CAが位置する行の番号と列の番号とによって表される。上下方向における区画領域CAの幅は、前照灯1を基準とした上下方向への角度に対応する幅で表され、左右方向における区画領域CAの幅は、前照灯1を基準とした左右方向への角度に対応する幅で表される。これらの幅は、例えばそれぞれ0.1度に対応する幅とされる。
【0325】
図25(A)に示すように、第3の態様としての変形例のテーブルTB1では、第1の態様としての変形例と同様に、ハイビームの配光パターンPHに対して、ハイビームの配光パターンPHを形成する際の位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンと、ハイビームの配光パターンPHを形成する際の光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度とが関連付けられている。本変形例の別のテーブルTB2では、区画領域CAのアドレスと当該区画領域CAにおける光の強度としての全光束量とが関連付けられている。
【0326】
本変形例の制御部71は、検知装置72から入力される対象物の存在及び対象物の存在位置の情報に基づいて、対象物の少なくとも一部と重なる区画領域CAを抽出する。図24(B)に示すように、第1の態様としての変形例と同様に、例えば歩行者PEと重なる全ての区画領域CAが抽出されても良い。
【0327】
第3の態様としての変形例では、制御部71は、位相変調素子54R,54G,54Bから出射する光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが抽出領域AREの色が抽出領域ARE以外の色と異なる色とされる配光パターンとなる位相変調素子54R,54G,54Bにおける位相変調パターンを演算する。なお、形成する配光パターンにおける抽出した抽出領域AREの色は、検知装置72によって検知された対象物に対応する所定の色とされる。制御部71は、この演算結果に基づいて、位相変調素子54R,54G,54Bを制御する。つまり、位相変調素子54R,54G,54Bのそれぞれは、光DLR,DLG,DLBが合成された光によって形成する配光パターンが抽出領域AREの色が抽出領域ARE以外の色と異なる色とされる配光パターンとなる位相変調パターンにすると理解できる。抽出領域AREは、対象物の少なくとも一部と重なるため、灯具ユニット20から出射される光の配光パターンは、対象物の少なくとも一部と重なる領域の色がこの領域以外の色と異なる色とされる配光パターンとなる。
【0328】
また、第3の態様としての変形例では、制御部71は、図25(B)に示されるテーブルTB2に基づいて、抽出領域AREの全光束量を足し合わした合計全光束量を演算する。制御部71は、この演算結果及び抽出領域AREの色に基づいて、光源52R,52G,52Bから出射するレーザ光の強度をそれぞれ調節する。例えば、この調節は、テーブルTB1のハイビームの配光パターンPHの光を出射する際の強度を基準とした増加や減少とされる。具体的には、制御部71は、抽出領域AREの色に基づいて、出射するレーザ光の強度を変化させる光源52R,52G,52Bを決定する。また、制御部71は、合計全光束量が多い場合、強度を変化させるレーザ光における強度の変化量を大きくする。一方、制御部71は、合計全光束量が少ない場合、強度を変化させるレーザ光における強度の変化量を小さくする。つまり、第3の態様としての変形例では、発光光学系51R,51G,51Bのそれぞれは、抽出領域AREの色が抽出領域ARE以外の色と異なる色とされる配光パターンに応じて出射する光の全光束量を調節する。従って、これら発光光学系51R,51G,51Bは、検知装置72からの情報に基づいて調節することができると理解できる。このため、この前照灯1は、特定の領域の色が変化した配光パターンにおける特定の領域以外の領域の色合いや明るさが意図せずに変化することを抑制し得る。従って、この前照灯1は、車両前方の状況に応じて出射する光の配光パターンが変化しても運転者が違和感を覚えることを抑制し得る。
【0329】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態及び変形例では、灯具ユニット20は、結像レンズを含む結像レンズ系を備えていなかった。しかし、灯具ユニット20は、結像レンズ系を備え、光学系ユニット50から出射する光をこの結像レンズ系を介して出射させても良い。このような構成にすることで、出射する光の配光パターンをより広い配光パターンにし易くし得る。なお、ここでの広いとは、車両から所定の距離離れた鉛直面上に形成される配光パターンを比べた際に広いことを表している。
【0330】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態では、検知装置72によって対象物としての道路標識RSが検知された際には、道路標識RS及び支持部SUの全体と色が変化される特定の領域AR2とが重なる配光パターンの光が前照灯1から出射する例を挙げて説明していた。しかし、第3の態様としての前照灯1から出射する光は、対象物としての道路標識RSの一部と色が変化される特定の領域AR2とが重なる配光パターンの光とされても良い。図37は、このような変形例における配光パターンの光が前照灯から出射する状態の例を示す図であり、道路標識の近傍が拡大されて示された図である。なお、図37では、色が変化される特定の領域AR25は破線で示されている。
【0331】
図37(A)に示すように、例えば、特定の領域AR25は、道路標識RSの外縁RSEに沿った環状とされても良い。このような構成にすることで、対象物である道路標識RSの存在を強調し得る。なお、このような場合に検知装置72が検知する対象物は道路標識RSに限定されるものではない。例えば、対象物は歩行者とされても良く、この場合、特定の領域は、歩行者の外縁に沿った環状とされる。このようにすることで、道路標識RSと同様に、対象物である歩行者の存在を強調し得る。なお、検知装置72が検知する対象物の存在を強調する観点では、特定の領域AR25の色は、人間の目の光を感じる感覚の高い色である黄色が強められた色とされることが好ましい。また、本変形例では、特定の領域AR2は、道路標識RSの外縁RSEの全周と重なっているが、外縁RSEの全周と重なっていなくても良い。
【0332】
また、検知装置72が道路標識の種類を識別すると当該道路標識の色の分布を認識できるように構成される場合、特定の領域が検知される道路標識おける所定の色の領域と重なり、特定の領域の色がこの所定の色と同系色とされても良い。例えば、図37(B)に示すように、検知装置72によって検知される道路標識RSが車両進入禁止を示す標識とされる場合、特定の領域AR25は、この道路標識RSにおける赤色の領域RSAR1と重なり、この特定の領域AR25の色は、道路標識RSにおける領域RSAR1と同系色、例えば同じ赤色とされても良い。つまり、特定の領域AR25は、道路標識RSおける所定の色の領域と重なり、特定の領域AR25の色は、道路標識RSおける所定の色と同系色とされることとしても良い。このような構成にすることで、対象物である道路標識の視認性を向上し得る。なお、道路標識RSの視認性を向上する観点では、特定の領域AR25は、道路標識RSにおける所定の色である赤色の領域RSAR1とのみ重なり、所定の色と異なる色である白色の領域RSAR2と重ならないことが好ましい。また、この特定の領域AR25は、道路標識RSにおける所定の色である赤色の領域RSAR1の全体と重なることがより好ましい。
【0333】
また、第3の態様としての第8及び第9実施形態では、赤色の第1の光DLRを出射する第1発光光学系51Rと、緑色の第2の光DLGを出射する第2発光光学系51Gと、青色の第3の光DLBを出射する第3発光光学系51Bとを備えた。しかし、本発明の第3の態様としての車両用前照灯は、少なくとも2つの発光光学系が、それぞれ互いに異なる波長のレーザ光を出射する光源とこの光源から出射するレーザ光を回折する位相変調素子とを有し、それぞれの発光光学系から出射する光が合成された光によって所定の配光パターンが形成される限りにおいて、発光光学系の数や、光源から出射する光は、第3の態様としての第8及び第9実施形態に限定されない。例えば、発光光学系が2つの場合、一方の発光光学系が緑色の光を出射し、他方の発光光学系が赤色の光を出射して、合成された光によって所定の配光パターンが形成されても良い。或いは、一方の発光光学系が青色の光を出射し、他方の発光光学系が黄色の光を出射して、合成された光によって所定の配光パターンが形成されても良い。
【0334】
また、発光光学系は3つ以上であっても良い。この場合、例えば、黄色の光を出射する第4発光光学系を備えても良い。例えば、上記の赤色、緑色、青色の発光光学系に加えて、黄色の光を出射する第4発光光学系を備え、これら4つの発光光学系から出射する光が合成された光によって所定の配光パターンが形成されても良い。また、赤色、緑色、青色の発光光学系から出射する光の一部の強度が低い場合、第4発光光学系が強度の低い色と同じ色の光を出射するものとしても良い。
【0335】
本発明の第1の態様によれば、違和感を覚えることを抑制し得る車両用前照灯が提供され、本発明の第2の態様及び第3の態様によれば、運転し易い車両用前照灯が提供され、自動車等の車両用灯具の分野などにおいて利用可能である。
【符号の説明】
【0336】
1・・・前照灯(車両用前照灯)
10・・・筐体
20・・・灯具ユニット
50・・・光学系ユニット
51R・・・第1発光光学系
51G・・・第2発光光学系
51B・・・第3発光光学系
52R,52G,52B・・・光源
53R,53G,53B・・・コリメートレンズ
54R,54G,54B,54S・・・位相変調素子
55・・・合成光学系
55f・・・第1光学素子
55s・・・第2光学素子
70・・・灯具制御システム
71・・・制御部
72・・・検知装置
74・・・記憶部
75・・・ステアリングセンサ
76・・・ターンスイッチ
80,180R,180G,180B・・・光学フィルタ
AR1,AR2,AR11,AR12,AR13,AR15,AR25,・・・特定の領域
AR21,AR22,AR23,AR24・・・所定の領域
図1
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