(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】インフルエンザヘマグルチニンに対するヒト抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231025BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20231025BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231025BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231025BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231025BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231025BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231025BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20231025BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231025BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20231025BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231025BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20231025BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/10 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P31/16
A61K39/395 S
A61K31/215
A61P43/00 121
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020539709
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 US2019015029
(87)【国際公開番号】W WO2019147867
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-28
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】パーセル, リサ エー.
(72)【発明者】
【氏名】ビアウ, ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】オルソン, ウィリアム
【審査官】茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/051010(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/164835(WO,A1)
【文献】特表2016-516090(JP,A)
【文献】国際公開第2015/120097(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/192589(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/073647(WO,A1)
【文献】SCIENCE,2011年,Vol.333,p.843-850 & Supporting Online Material
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
A61P
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グループ2インフルエンザAヘマグルチニン(HA)に特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片であって、前記抗体またはその抗原結合性断片が、(i)配列番号2に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)であって、ここで、前記HCVRは、三つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)を含む、HCVR、ならびに
配列番号10に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)であって、ここで、前記LCVRは、三つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、LCVR;あるいは、
(ii)配列番号18に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)であって、ここで、前記HCVRは、三つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)を含む、HCVR、ならびに
配列番号26に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)であって、ここで、前記LCVRは、三つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、LCVR
を含む、グループ2インフルエンザAヘマグルチニン(HA)に特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
前記抗体またはその抗原結合性断片が、以下の特徴:
(a) 完全ヒトモノクローナル抗体である;
(b) 表面プラズモン共鳴で測定した場合、インフルエンザAグループ2HAに10
-8M未満の解離定数(K
D)で結合する;
(c) 75分を超える解離半減期(t
1/2)を示す;
(d) H3N2株およびH7N9株から選択されたインフルエンザAグループ2ウイルスの、200nM未満および500nM未満のIC50でのそれぞれの中和を示す;
(e) インフルエンザウイルス感染細胞の、150nM未満のEC50での補体媒介性溶解を示す;
(f) レポーターバイオアッセイを用いたウイルス感染した標的細胞の、0.9nM未満のEC50での抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を示す;
(g) ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の存在下でのウイルス感染した標的細胞の、0.180nM未満のEC50での抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を示す;
(h) ウイルス攻撃後、24、48、72、または96時間で投与した場合のインフルエンザ感染動物の生存率の増加を示す;または
(i) 感染後96時間でオセルタミビルと組み合わせて投与した場合のインフルエンザ感染動物の生存率の増加を示す
のうちの1つ以上を有する、
請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に、感染後3日目に開始して、7~15mg/kgの単回静脈内用量として投与した場合、感染後3日目に開始して、感染後7日目まで継続して、2mg/kgの用量で一日二回を5日間投与する、オセルタミビルの経口投与を受けたインフルエンザウイルス感染哺乳類よりも、高い程度で前記感染から前記哺乳類を保護する、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
感染後96時間で15mg/kgの単回投与として、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に投与した場合、前記哺乳類が100%の生存率を有する、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
15mg/kgの単回投与として、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に投与した場合、前記哺乳類が100%の生存率を有する、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項6】
インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に投与する場合、感染後96時間でオセルタミビルを投与すると、前記哺乳類における相加的保護効果を示す、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項7】
インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に、オセルタミビルを2mg/kgの用量で一日二回、5日間の経口投与と組み合わせて、7mg/kg~15mg/kgの範囲の単回静脈内用量として投与する場合に、哺乳類において相加的保護効果を示す、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項8】
配列番号2および18からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項9】
配列番号10または26からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項10】
(i)(a) 配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b) 配列番号6のアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c) 配列番号8のアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d) 配列番号12のアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e) 配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;および、
(f) 配列番号16のアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインを含むか、
あるいは、
(ii)(a) 配列番号20のアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b) 配列番号22のアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c) 配列番号24のアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d) 配列番号28のアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e) 配列番号30のアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;および、
(f) 配列番号32のアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインを含む
請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項11】
(a) 配列番号4のHCDR1、
(b) 配列番号6のHCDR2、
(c) 配列番号8のHCDR3、
(d) 配列番号12のLCDR1、
(e) 配列番号14のLCDR2、および
(f) 配列番号16のLCDR3を含む、請求項10に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項12】
(a) 配列番号20のHCDR1、
(b) 配列番号22のHCDR2、
(c) 配列番号24のHCDR3、
(d) 配列番号28のLCDR1、
(e) 配列番号30のLCDR2、および
(f) 配列番号32のLCDR3を含む、請求項10に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項13】
前記抗体またはその抗原結合性断片が、インフルエンザウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入を防止する、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項14】
請求項1に記載のインフルエンザHAに結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片、および薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項15】
グループ2インフルエンザAヘマグルチニン(HA)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片を形成するための組成物であって、前記抗体
またはその抗原結合性断片の
重鎖可変領域(HCVR
)または
軽鎖可変領域(LCVR
)をコードす
る単離されたポリヌクレオチド分子
を含み、前記抗体または抗原結合性断片が、
(i)配列番号2の三つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)を含むHCVR、ならびに、配列番号10の三つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含むLCVR;あるいは、
(ii)配列番号18の三つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)を含むHCVR、ならびに、配列番号26の三つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含むLCVR
を含む、組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の
組成物に含まれる単離されたポリヌクレオチド
分子を含むベクター。
【請求項17】
請求項1
5に記載の
組成物に含まれる請求項15(i)または請求項15(ii)のHCVRをコードする単離されたポリヌクレオチド分子を含むベクター
、および、請求項15に記載の組成物に含まれる請求項15(i)または請求項15(ii)のLCVRをコードする単離されたポリヌクレオチド分子を含むベクター、を発現する細胞。
【請求項18】
インフルエンザ感染の少なくとも一つの症状を防止、治療または改善するための、請求項1に記載の抗体または抗原結合性断片を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物が、インフルエンザ感染の少なくとも一つの症状の防止、治療または改善を必要とする対象に、投与されることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項19】
前記少なくとも一つの症状が、熱、咳、体の痛み、鼻漏、息切れ、肺炎および気管支炎からなる群から選択される、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記医薬組成物が、投与を必要とする前記対象に予防的に投与されることを特徴とする、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記医薬組成物が、免疫不全個体、高齢者(65歳以上)、医療従事者、および病歴または基礎疾患を有する人からなる群から選択される対象に予防的に投与されることを特徴とする、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記医薬組成物が、第二の治療剤と組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記第二の治療剤が、抗ウイルス薬、抗炎症薬、グループ1またはグループ2のインフルエンザHAに特異的に結合する異なる抗体、インフルエンザ用ワクチン、栄養補助食品、およびインフルエンザ感染を治療するための他の任意の緩和療法からなる群から選択される、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記第二の治療剤が、医薬組成物として異なる投与経路を介して投与されることを特徴とする、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記第二の治療剤が経口投与されることを特徴とする、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記抗ウイルス薬がオセルタミビルである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記オセルタミビルが、前記抗体の投与前に、同時に、または投与後に投与されることを特徴とする、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記医薬組成物が、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、鼻腔内、または経口投与されることを特徴とする、請求項18に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年1月26日に出願され、その全体が参照により本明細書に援用される米国仮特許出願第62/622,480号明細書の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、インフルエンザAグループ2ヘマグルチニン(HA)に特異的に結合するヒト抗体およびその抗原結合性断片、これらの抗体を含む組成物、ならびにこれらの抗体を使用する治療法および診断法に関する。
【0003】
配列表
配列表の公的な写しは、ASCIIフォーマットの配列表としてEFS-Webを介して電子的に本明細書と同時に提出された。当該写しのファイル名は「10201WO01_SEQ_LIST.txt」、2019年1月24日が作成日であり、サイズはおよそ21KBである。このASCIIフォーマット書面に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
インフルエンザは伝染性の高い疾患であり、パンデミック、流行、再流行および大流行の波によって特徴づけられる長い歴史を有する。毎年のワクチン接種の取り組みにもかかわらず、インフルエンザ感染症は実質的な罹患率および死亡率をもたらす。
【0005】
インフルエンザウイルスは、A、BおよびCの三つの型からなる。さらに、インフルエンザAウイルスは、ウイルスの宿主細胞への付着および侵入に必要とされる、表面糖タンパク質である、ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)をコードする二つの遺伝子の抗原性領域内の対立遺伝子変異に基づいてサブタイプに分類することができる。
【0006】
ヘマグルチニンは、二つの構造ドメイン、受容体結合部位(すなわち、頻繁な抗原ドリフトの影響を受ける)からなる球状頭部ドメイン、およびステム領域(インフルエンザウイルスのさまざまな株の間でより保存される)を含む、三量体糖タンパク質である。HAタンパク質は、前駆体(HA0)として合成され、タンパク質分解処理を受けて、二つのサブユニット(HA1およびHA2)を生成し、これらは互いに関連付けられ、ステム/球状頭部構造を形成する。HA1ペプチドは、ウイルスの細胞表面への付着に関与する。HA2ペプチドは、エンドソーム内でのウイルス膜と細胞膜との融合を媒介するステム様構造を形成し、リボ核タンパク質複合体の細胞質への放出を可能にする。
【0007】
現在、それらのヘマグルチニンタンパク質によって定義される十八個のサブタイプ(H1~H18)がある。18個のHAは、二つのグループに分類できる。グループ1は、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16、H17およびH18サブタイプからなり、グループ2はH3、H4、H7、H10、H14およびH15サブタイプを含む。
【0008】
同じサブタイプの新しい株は、抗原ドリフトと呼ばれる現象、または新しい異なるエピトープを生成するHA分子またはNA分子の変異の結果として生じうる。この結果、発生すると予測されるウイルスに対して毎年新しいワクチンを製造しなければならず、このプロセスはコストがかかるばかりでなく、非常に非効率的である。技術の進歩により、ワクチン組成物のための改善されたインフルエンザ抗原を製造する能力が改善されたが、インフルエンザの新たなサブタイプおよび株に対処するための追加的な保護源を提供する必要性が残っている。
【0009】
対象の抗原(例えば、HAおよび/またはNA)を含むワクチン組成物を用いて、患者において広く中和する抗体を生成するというアイデアは、一般的には良好なアプローチであると考えられているが、特定の患者集団でこのアプローチを使用することが必ずしも望ましいとは限らない。例えば、対象の抗原を含むワクチン組成物は、高齢の患者、非常に若い患者、免疫不全患者などの特定の患者では、必ずしも有効であるとは限らない。これらの患者集団、または効果的な免疫応答を開始できない任意の患者では、グループ1および/またはグループ2のサブタイプ内のさまざまな株に共通するエピトープを標的としうる、広く中和する抗体を既に含有する組成物を提供することがより有益な場合がある。
【0010】
今日まで、インフルエンザウイルスを広く中和または阻害するそのような抗体を特定することにおいて、限られた成功しかなかった。Okunoらは、インフルエンザA/Okuda/57(H2N2)を用いてマウスを免疫化し、C179と呼ばれる抗体を単離し、これはインビトロおよびインビボで、HA2中の保存された立体構造エピトープに結合し、グループ1のH2、H1およびH5サブタイプのインフルエンザAウイルスを中和した(Okuno et al.(1993)J.Virol.67(5):2552-2558)。Throsbyらは、グループ1サブタイプに対して広範な活性を有するヒトB細胞から13個のモノクローナル抗体を特定した(Throsby et al.(2008),PLOS one 3(2):e3942)。Suiらは、H5および他のグループ1ウイルスに結合する、ヒトモノクローナル抗体(F10)を特定した(Sui,et al.(2009),Nat.Struct.Mol.Biol.16(3):265-273)。Tharakaramanらは、VIS410と呼ばれる広く中和する抗体を特定し、これはH3N2株およびH7N9株を含む、インフルエンザウイルスのグループ2株をインビトロおよびインビボで中和するのに有効であった(Tharakaraman,K,et al.,(2015),Proc Natl Acad Science 112(35):10890-10895)。
しかし、この分野での数十年にわたる研究の後、現在、異なるサブタイプのインフルエンザウイルスを中和する能力を評価するためにわずかな抗体のみが臨床試験中であるが(例えば、Crucell Holland((US2012/0276115、US2014/0065156、US8470327、US2014/0120113、EP2731967、US8691223、US2013/0243792、US2014/0065165、WO2008/028946およびWO2010/130636);Osaka University(US2011/0319600、EP2380976、US2012/0058124、US2012/0058124)、Celltrion(US2013/0004505、EP2545074;WO2014/158001);Vanderbilt University(US2013/0289246)、SeaLane Biotechnologies(US2012/0128671)、Trellis Bioscience,Inc.(US2012/0020971 EP2582721);Visterra,Inc.(US2013/0302349);Burnham Institute/Dana Farber(US2014/011982、EP2222701、WO2010/027818);Temasek(US8444986、US8574581、US 8637644、US8637645、US8383121、US8540996、US8574830、US8540995);HUMABS Biosciences/Institute for Research in Biomedicine(US8871207、US8685402、EP2313433);MedImmune(WO2015/051010);AIMM Therapeutics(WO2013/081463、EP12798020)および Genentech(US2014/0161822)により開発中の抗体を参照のこと)、インフルエンザAウイルスの感染を広く中和もしくは阻害、またはこのウイルスのさまざまなサブタイプにより生じる疾病を弱める市販の抗体はまだない。したがって、インフルエンザウイルス感染を防止または治療するために使用できるインフルエンザAウイルスの複数のサブタイプを中和する新しい抗体を特定するためのニーズが、当技術分野において依然としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2012/0276115号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0065156号明細書
【文献】米国特許第8470327号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0120113号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、インフルエンザAグループ2のヘマグルチニン(HA)に結合する抗体およびその抗原結合性断片を提供する。本発明の抗体は、特にインフルエンザAグループ2HAの活性を阻害または中和するのに有用である。いくつかの実施形態では、抗体は、インフルエンザウイルスの宿主細胞への付着を遮断する、および/またはインフルエンザウイルスの宿主細胞への侵入を防止するのに有用である。いくつかの実施形態では、抗体は、ウイルスの細胞間の伝達を阻害することによって機能する。特定の実施形態では、抗体は、対象におけるインフルエンザウイルス感染の少なくとも一つの症状の防止、治療、または回復に有用である。特定の実施形態では、抗体は、インフルエンザウイルス感染を有するか、またはこれにかかるリスクがある対象に、予防的または治療的に投与することができる。特定の実施形態では、本発明の少なくとも一つの抗体を含有する組成物は、ワクチンが禁忌である対象、または例えば高齢患者、非常に若い患者、ワクチンの一つまたは複数の成分に対してアレルギーの可能性がある患者など、ワクチンの有効性が低い対象、またはワクチンの免疫原に対して非反応性の免疫不全患者に投与することができる。特定の実施形態では、本発明の少なくとも一つの抗体を含有する組成物は、インフルエンザ流行中に、医療スタッフ、入院患者または高齢者施設居住者、または他の高リスク患者に投与されてもよい。特定の実施形態では、本発明の少なくとも一つの抗体を含有する組成物は、毎年のワクチンが無効であると予測される場合、または主要な抗原シフトを受けた株でのパンデミックの場合に、第一選択治療として患者に投与されうる。
【0013】
本発明の抗体は、全長(例えば、IgG1抗体もしくはIgG4抗体)であってもよいか、または抗原結合性部分(例えば、Fab断片、F(ab’)2断片、もしくはscFv断片)のみを含んでいてもよく、かつ、例えば、宿主における持続性を増加させる、またはエフェクター機能を増加させる、または残存するエフェクター機能を排除するなど、機能性に影響を及ぼすために修飾されていてもよい(Reddy et al.,2000,J.Immunol.164:1925-1933)。特定の実施形態では、抗体は二重特異性であってもよい。
【0014】
第一の態様では、本発明は、インフルエンザAグループ2ヘマグルチニン(HA)に特異的に結合する、単離された組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0015】
一実施形態では、本発明は、インフルエンザAグループ2HAに特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片を提供し、この抗体は、以下の特徴:
(a) 完全ヒトモノクローナル抗体である;
(b) 表面プラズモン共鳴で測定した場合、インフルエンザAグループ2HAに10-8M未満の解離定数(KD)で結合する;
(c) 75分を超える解離半減期(t1/2)を示す;
(d) H3N2株およびH7N9株から選択されたインフルエンザAグループ2ウイルスの、200nM未満および500nM未満のIC50でのそれぞれの中和を示す;
(e) インフルエンザウイルス感染細胞の、約150nM未満のEC50での補体媒介性溶解を示す;
(f) レポーターバイオアッセイを用いたウイルス感染した標的細胞の、約0.9nM未満のEC50での抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を示す;
(g) ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の存在下でのウイルス感染した標的細胞の、約0.180nM未満のEC50での抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を示す;
(h) ウイルス攻撃後、24、48、72、または96時間で投与した場合のインフルエンザ感染動物の生存率の増加を示す;
(i) 感染後96時間でオセルタミビルと組み合わせて投与した場合のインフルエンザ感染動物の生存率の増加を示す;または
(j) 抗体またはその抗原結合性断片は、表1に記載された重鎖可変領域(HCVR)配列のいずれか一つに含まれる三つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、および表1に記載された軽鎖可変領域(LCVR)配列のいずれか一つに含まれる三つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、のうちの二つ以上を有する。
【0016】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、インフルエンザウイルス感染哺乳類に、感染後3日目に開始して約7~15mg/kgの単回静脈内用量として投与した場合、感染後3日目に開始して(感染後7日目まで継続)約2mg/kgの用量で、一日二回5日間投与されるオセルタミビルの経口投与と比較して、保護の増加を示す。
【0017】
関連実施形態では、本発明の抗体は、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に、皮下または静脈内のいずれかに投与した場合および/またはインフルエンザウイルスの感染前もしくは感染後に投与した場合、保護の増加をもたらす。
【0018】
一実施形態では、本発明の抗体は、感染した哺乳類に約5mg/kg~約15mg/kgの範囲の単回皮下または静脈内用量として投与された場合、アイソタイプ(陰性)対照抗体を投与された動物と比較して、保護の増加を示す。
【0019】
一実施形態では、本発明の抗体は、インフルエンザウイルス感染哺乳類に、約7mg/kg~約15mg/kgの単回静脈内用量として投与した場合、約2mg/kgの用量で、一日二回5日間投与されるオセルタミビルの経口投与と比較して、保護の増加を示す。
【0020】
一実施形態では、本発明の抗体は、感染後24時間以上で約15mg/kgの単回投与として投与された場合、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類で約100%の生存率を示す。
【0021】
一実施形態では、本発明の抗体は、感染後24、48、72、または96時間で約15mg/kgの単回静脈内用量として投与された場合、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類で100%の生存率を示す。
【0022】
一実施形態では、本発明の抗体は、インフルエンザウイルス感染哺乳類に、約15mg/kgの単回静脈内用量として投与した場合、約2mg/kgの用量で、一日二回5日間経口投与されるオセルタミビルで観察された80%の生存率と比較して、100%の生存率を示す。
【0023】
一実施形態では、本発明の抗体は、感染後48時間を超えてオセルタミビルと共に投与された場合、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に相加的な保護効果を提供する。
【0024】
一実施形態では、本発明の抗体は、感染後72時間でオセルタミビルと共に投与された場合、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に相加的な保護効果を提供する。
【0025】
一実施形態では、本発明の抗体は、インフルエンザウイルス感染哺乳類に、約7mg/kg~約15mg/kgの範囲の単回静脈内用量として投与され、オセルタミビルが約2mg/kgの用量で、一日二回5日間経口投与される場合に、オセルタミビルと組み合わせて使用すると、相加的保護効果を提供する。
【0026】
関連実施形態では、本発明の抗体は、インフルエンザウイルス感染後96時間でオセルタミビルと組み合わせて使用し、抗体は約7mg/kg~約15mg/kgの範囲の単回静脈内用量として投与され、オセルタミビルは約2mg/kgの用量で、一日二回5日間経口投与される場合に、相加的保護効果を提供する。
【0027】
一実施形態では、本発明の抗体は、静脈内、鼻腔内、皮下、皮内、または筋肉内投与されてもよく、オセルタミビルは経口投与されてもよい。
【0028】
一実施形態では、オセルタミビルは、本発明の抗体の投与前に、同時に、または投与後に投与される。
【0029】
一実施形態では、抗体および/またはオセルタミビルは、単回投与として、または複数用量として投与してもよい。
【0030】
本発明の例示的な抗インフルエンザAグループ2HA抗体は、本明細書の表1および表2に記載されている。表1には、例示的な抗インフルエンザHA抗体の重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)、重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)、および軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)のアミノ酸配列識別子が記載されている。表2には、例示的な抗インフルエンザHA抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3の核酸配列識別子が記載されている。
【0031】
本発明は、表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含むHCVRを含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0032】
一実施形態では、本発明は、配列番号2または18のアミノ酸配列を有するHCVRを含み、インフルエンザAグループ2HAを特異的に結合する、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0033】
本発明はまた、表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含むLCVRを含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0034】
一実施形態では、本発明は、配列番号10または26のアミノ酸配列を有するLCVRを含み、インフルエンザAグループ2HAを特異的に結合する、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0035】
一実施形態では、インフルエンザAグループ2HAを特異的に結合する単離された抗体または抗原結合性断片は、配列番号2/10、または18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0036】
特定の実施形態では、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号2/10(例えば、H1H14611N2)または18/26(例えば、H1H14612N2)からなる群から選択される。
【0037】
一実施形態では、単離された抗体または抗原結合性断片は、
(a) 配列番号4または20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b) 配列番号6または22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c) 配列番号8または24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d) 配列番号12または28からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e) 配列番号14または30からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;および
(f) 配列番号16または32からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメイン;
【0038】
一実施形態では、インフルエンザAグループ2HAに特異的に結合する単離された抗体または抗原結合性断片は、(a)配列番号4のHCDR1、(b)配列番号6のHCDR2、(c)配列番号8のHCDR3、(d)配列番号12のLCDR1、(e)配列番号14のLCDR2、および(f)配列番号16のLCDR3を含む。
【0039】
一実施形態では、インフルエンザAグループ2HAに特異的に結合する単離された抗体または抗原結合性断片は、(a)配列番号20のHCDR1、(b)配列番号22のHCDR2、(c)配列番号24のHCDR3、(d)配列番号28のLCDR1、(e)配列番号30のLCDR2、および(f)配列番号32のLCDR3を含む。
【0040】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR1アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0041】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR2アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0042】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR3アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0043】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR1アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)を含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0044】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR2アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0045】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0046】
本発明はまた、表1に列挙されたHCDR3アミノ酸配列のいずれかと、表1に列挙されたLCDR3アミノ酸配列のいずれかの対を含む、HCDR3およびLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性断片も提供する。特定の実施形態によれば、本発明は、表1に列挙された例示的な抗インフルエンザAグループ2HA抗体のいずれかの中に含有されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。特定の実施形態では、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号8/16(例えば、H1H14611N2)または24/32(例えば、H1H14612N2)からなる群から選択される。
【0047】
本発明はまた、表1に列挙される例示的な抗インフルエンザAグループ2HA抗体のいずれかの中に含有される六個のCDR(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)のセットを含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。特定の実施形態では、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号4-6-8-12-14-16(例えば、H1H14611N2)、または配列番号20-22-24-28-30-32(例えば、H1H14612N2)からなる群から選択される。
【0048】
関連の実施形態では、本発明は、表1に列挙される例示的な抗インフルエンザAグループ2HA抗体のいずれかにより定義されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含有される六個のCDR(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)のセットを含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。例えば、本発明は、配列番号2/10(例えば、H1H14611N2)、または配列番号18/26 (例えば、H1H14612N2)からなる群から選択される、HCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含有されるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットを含む、抗体またはその抗原結合性断片を含む。HCVRおよびLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法および技法は当該技術分野で周知であり、本明細書に開示の特定のHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するために使用することができる。CDRの境界を同定するために使用することができる例示的な慣習としては、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義が挙げられる。一般的な条件では、Kabat定義は配列変動性に基づき、Chothia定義は構造ループ領域の位置に基づき、AbM定義はKabatとChothia手法との間の折衷物である。例えば、Kabat,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);Al-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948(1997);およびMartin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268-9272(1989)を参照されたい。パブリックデータベースもまた、抗体内のCDR配列を同定するために利用可能である。
【0049】
本発明はまた、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含み、HCVRおよびLCVRはそれぞれ、表1に記載されたHCVRおよびLCVR配列から選択されるアミノ酸配列を有する、抗体または抗原結合性断片と、インフルエンザAグループ2HAとの特異的な結合について競合する抗体およびその抗原結合性断片も提供する。
【0050】
本発明はまた、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含み、HCVRおよびLCVRはそれぞれ、表1に記載されたHCVRおよびLCVR配列から選択されるアミノ酸配列を有する、参照抗体またはその抗原結合性断片と、インフルエンザAグループ2HAヘの結合について交差競合する、またはインフルエンザAグループ2HA上の同じエピトープに結合する、抗体および抗原結合性断片も提供する。
【0051】
本発明はまた、インフルエンザAグループ2HAの宿主細胞への付着および/または侵入を遮断する、単離された抗体およびその抗原結合性断片を提供する。
【0052】
特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合性断片は、インフルエンザAグループ2HAにおける第一のエピトープに対する第一の結合特異性および別の抗原に対する第二の結合特異性を含む二重特異性である。
【0053】
第二の態様では、本発明は、抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその一部をコードする核酸分子を提供する。例えば、本発明は、表2に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0054】
本発明はまた、表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0055】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCDR1核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0056】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCDR2核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0057】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCDR3核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0058】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるLCDR1核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0059】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるLCDR2核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0060】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるLCDR3核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0061】
本発明はまた、HCVRをコードする核酸分子も提供し、ここにおいて、HCVRは、三つのCDR(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3)のセットを含み、ここにおいて、HCDR1-HCDR2-HCDR3アミノ酸配列のセットは、表1に列挙された例示的な抗インフルエンザHA抗体のいずれかによって定義される。
【0062】
本発明はまた、LCVRをコードする核酸分子も提供し、ここにおいて、LCVRは、三つのCDR(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)のセットを含み、ここにおいて、LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列のセットは、表1に列挙された例示的な抗インフルエンザHA抗体のいずれかによって定義される。
【0063】
本発明はまた、HCVRとLCVRの両方をコードする核酸分子も提供し、HCVRは、表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、かつLCVRは、表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列と、表2に列挙されるLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列とを含む。本発明のこの態様による特定の実施形態では、核酸分子は、HCVRおよびLCVRをコードし、HCVRおよびLCVRは両方とも、表1に列挙された同じ抗インフルエンザAグループ2HA抗体から誘導される。
【0064】
本発明は、表1に列挙された重鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。本発明はまた、表1に列挙された軽鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。
【0065】
関連する態様では、本発明は、抗インフルエンザAグループ2HA抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することのできる組換え発現ベクターを提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子、すなわち、表1に記載されるようなHCVR配列、LCVR配列、および/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子のいずれかを含む、組換え発現ベクターを含む。また、本発明の範囲内に含まれるのは、そのようなベクターが導入されている宿主細胞、ならびに抗体または抗体断片の産生を可能にする条件下で宿主細胞を培養することによって抗体またはその一部分を生産する方法ならびにそうして生産された抗体および抗体断片を回収する方法である。
【0066】
第三の態様では、本発明は、インフルエンザAグループ2HAおよび医薬的に許容可能な担体に特異的に結合する、少なくとも一つの組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片の治療有効量を含む医薬組成物を提供する。関連の態様では、本発明は、抗インフルエンザAグループ2HA抗体と第二の治療剤との組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態では、第二の治療剤は、抗インフルエンザAグループ2HA抗体と有利に組み合わされた任意の薬剤である。抗インフルエンザAグループ2HA抗体と有利に組み合わせることができる例示的な薬剤としては、インフルエンザHA活性に結合し、かつ/もしくはインフルエンザHA活性を阻害する他の薬剤(他の抗体もしくはそれらの抗原結合性断片など)、および/またはインフルエンザHAには直接結合しないにもかかわらず、宿主細胞の感染性を含むウイルス活性を阻害する薬剤が挙げられるが、これらに限定しない。特定の実施形態では、本発明は、(a)第一の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片、(b)第二の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片であって、第一の抗体はインフルエンザAグループ2HAの第一のエピトープに結合し、第二の抗体はインフルエンザAグループ2HAの第二のエピトープに結合し、第一および第二のエピトープは別個の重複しない、第二の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片、および(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む、医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、本発明は、(a)第一の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片、(b)第二の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片であって、第一の抗体は、インフルエンザAグループ2HAへの結合について、第二の抗体と交差競合しない、第二の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片、および(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む、医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、本発明は、(a)第一の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片、(b)異なるインフルエンザ抗原と相互作用する、第二の抗インフルエンザ抗体またはその抗原結合性断片であって、第一の抗体は、インフルエンザAグループ2HAのエピトープと結合し、第二の抗体は異なるインフルエンザ抗原のエピトープと結合する、異なるインフルエンザ抗原と相互作用する、第二の抗インフルエンザ抗体またはその抗原結合性断片、および(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む、医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、本発明は、(a)第一の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片、(b)異なるウイルス(非インフルエンザ)抗原と相互作用する、第二の抗体またはその抗原結合性断片であって、第一の抗体は、インフルエンザAグループ2HAのエピトープと結合し、第二の抗体は異なるウイルス(非インフルエンザ)抗原のエピトープと結合する、異なるウイルス(非インフルエンザ)抗原と相互作用する、第二の抗体またはその抗原結合性断片、および(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む、医薬組成物を提供する。本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体が関与する追加的な併用療法および合剤は、本明細書の他の場所で開示されている。
【0067】
第四の態様では、本発明は、インフルエンザAグループ2HAに関連する疾患または障害(対象のウイルス感染など)またはウイルス感染に関連する少なくとも一つの症状を、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体または抗体の抗原結合性部分を使用して、治療するための治療方法であって、本発明の抗体または抗体の抗原結合性断片を含む医薬組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、治療方法を提供する。治療される障害は、インフルエンザHA活性の阻害によって、改善、寛解、抑制、または防止される任意の疾患または容態である。特定の実施形態では、本発明は、インフルエンザA感染の少なくとも一つの症状を防止、治療または改善する方法であって、本発明の抗インフルエンザHA抗体またはその抗原結合性断片の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明は、対象におけるインフルエンザ感染の少なくとも一つの症状を、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体を投与することによって、重症度、期間、または発生頻度を改善または低減させる方法であって、少なくとも一つの症状は、頭痛、発熱、痛み、鼻漏(鼻づまり)、悪寒、倦怠感、脱力感、喉の痛み、咳、息切れ、嘔吐、下痢、肺炎、気管支炎、および死亡からなる群から選択される方法を提供する。
【0069】
特定の実施形態では、本発明は、対象におけるウイルス量を減少させる方法であって、インフルエンザAグループ2HAに結合し、インフルエンザウイルスの結合および/または宿主細胞への侵入を遮断する本発明の抗体またはその断片の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0070】
特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、インフルエンザ感染を有する、またはその危険性がある、またはインフルエンザ感染を発症しやすい対象に予防的または治療的に投与されうる。危険性のある対象としては、免疫不全の人、例えば、自己免疫疾患による免疫不全の人、または免疫抑制療法を受けている人(例えば、臓器移植後)、またはヒト免疫不全症候群(HIV)もしくは後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患している人、白血球を枯渇または破壊する特定の形態の貧血、放射線療法または化学療法を受けている人、または炎症性障害に罹患している人が挙げられるが、これらに限定されない。インフルエンザ感染のリスクがある他の対象には、高齢者(65歳以上)、2歳未満の子ども、医療従事者、および肺感染症、心疾患、または糖尿病などの基礎疾患を有する人々が含まれる。また、感染した個人と身体的に接触または身体的に接近した人はだれでも、インフルエンザウイルス感染のリスクが高くなる。さらに、対象は、疾患の発生に接近、例えば、人口密集都市に在住、インフルエンザウイルスの感染が確認された、もしくは疑われた対象に接近、または職業の選択、例えば、病院従事者、医薬品研究者、感染地域への旅行者、または飛行機を頻繁に利用する人により、インフルエンザ感染のリスクがある。
【0071】
特定の実施形態では、本発明の本抗体またはその抗原結合性断片は、それを必要とする対象に第二の治療剤と組み合わせて投与される。第二の治療剤は、抗炎症薬(コルチコステロイド、および非ステロイド性抗炎症薬など)、抗感染薬、インフルエンザHAに対する異なる抗体、異なるインフルエンザ抗原への抗体(例えば、ノイラミニダーゼ)、抗ウイルス薬、充血緩和剤、抗ヒスタミン剤、インフルエンザ用ワクチン、抗酸化剤などの栄養補助食品、およびインフルエンザ感染の少なくとも一つの症状を改善、または患者のウイルス量の低減に有用な当技術分野で公知の任意の他の薬剤もしくは療法からなる群から選択されうる。特定の実施形態では、第二の治療剤は、本発明の抗体またはその抗原結合性断片に関連する任意の起こり得る副作用が生じるであろう場合、この副作用に対処するか、またはこれを軽減するのを助ける薬剤でありうる。本抗体またはその断片は、皮下に、静脈内に、皮内に、腹腔内に、経口で、鼻腔内に、筋肉内に、または頭蓋内に投与することができる。一実施形態では、抗体は、対象の血清中の抗体の最大濃度のために、単回静脈内注入として投与されてもよい。抗体またはその断片は、対象の体重1kgあたり約0.01mg~約100mgの用量で投与されうる。特定の実施形態では、本発明の抗体は、50mg~5000mgを含む一つまたは複数の用量で投与されてもよい。
【0072】
本発明はまた、インフルエンザHA結合および/または活性の遮断から利益を得るであろう疾患または障害を治療するための、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片の使用を含む。本発明はまた、インフルエンザHA結合および/または活性の遮断から利益を得るであろう疾患または障害の治療のための薬剤の製造における、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片の使用を含む。
【0073】
他の実施形態は、次の発明を実施するための形態の検討から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1A】
図1A、1B、1C:H1H14611N2およびH1H14612N2の単回投与が、グループ2インフルエンザAウイルスの三つの異なる株をインビトロで強力に中和することを示す。1A:A/Aichi/02/1968-PR8-X31(H3N2);1B:A/Philippines/01/1982(H3N2)および1C:A/Shanghai/01/2013-PR8(H7N9)。
【0075】
【
図2】
図2:H1H14611N2およびH1H14612N2が、A/Aichi/02/1968-PR8-X31感染細胞の補体依存性細胞傷害を媒介することを示す。
【0076】
【
図3】
図3:FcγRIIIA活性化アッセイにおける抗グループ2HA抗体、H1H14611N2およびH1H14612N2の用量反応曲線を示す。
【0077】
【
図4】
図4:ヒトドナーPBMCを用いたADCCアッセイにおける抗グループ2HA抗体、H1H14611N2およびH1H14612N2の用量反応曲線を示す。
【0078】
【
図5A】
図5A、5B、5C:5 X MLD
50のA/Aichi/02/1968-PR8-X31(H3N2)に感染後、24(A)、48(B)または72(C)時間で、15mg/kgの単回投与された場合、抗グループ2HA抗体、H1H14611N2およびH1H14612N2の単回投与が、致命的インフルエンザ感染に対する完全な保護を示すことを示す。
【0079】
【
図6】
図6:感染後96時間でオセルタミビルと組み合わせて投与された場合、抗グループ2HA抗体H1H14611N2が、インフルエンザ感染の治療に相加的な効果を有することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本方法について記述する前に、本発明が本明細書に記述された特定の方法および実験条件に限定されず、それはこのような方法および条件が変化する場合があるからであることが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって制限されるので、本明細書に使用される用語は、特定の実施形態のみを記述する目的で使用されており、制限することを意図しないことも理解されるべきである。
【0081】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記述したものと類似または同等な任意の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料をこれから記述する。本明細書に述べたすべての出版物はその全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0082】
用語の定義
「インフルエンザヘマグルチニン」という用語はまた「インフルエンザHA」とも呼ばれ、ウイルスの宿主細胞への付着(α-2,3シアル酸またはα-2,6シアル酸へのHA1結合を介して)および侵入(構造変化による)を媒介する、インフルエンザウイルス粒子表面に見られる三量体糖タンパク質である。HAは、二つの構造ドメイン、受容体結合部位を含む球状頭部ドメイン(高頻度の抗原性変異の影響を受けやすい)およびステム領域(インフルエンザウイルスのさまざまな株の間でより保存される)からなる。インフルエンザHAは、前駆体(HA0)として合成され、タンパク質分解処理を受けて、二つのサブユニット(HA1およびHA2)を生成し、これらは互いに関連付けられ、ステム/球状頭部構造を形成する。ウイルスHAは、ウイルス(18のサブタイプは二つのグループに分類可能)で最も変化しやすい抗原であるが、ステム(HA2)は各グループ内で高度に保存されている。
【0083】
全長インフルエンザHAのアミノ酸配列は、GenBankにおいて登録番号ACF41911.1(ここでは配列番号33としても示される)またはH7N7A/chicken/Netherlands/01/2003、登録番号AAR02640.1(ここでは配列番号34としても示される)として提供される、インフルエンザ分離株H3N2A/Wisconsin/67/X-161/2005のアミノ酸配列によって例示されている。「インフルエンザ-HA」という用語はまた、異なるインフルエンザ分離株から単離されたインフルエンザHAのタンパク質バリアントを含む。「インフルエンザ-HA」という用語はまた、組換えインフルエンザHAまたはその断片を含む。この用語はまた、例えば、ヒスチジンタグ、マウスもしくはヒトFc、またはシグナル配列に結合された、インフルエンザHAまたはその断片を包含する。
【0084】
「インフルエンザ感染」という用語は、本明細書で使用される場合、「flu」としても特徴付けられ、インフルエンザウイルスによって引き起こされる重度の急性呼吸器疾患を指す。この用語には、呼吸器感染症、ならびに高熱、頭痛、全身の痛みおよび疼痛、疲労および衰弱、いくつかの場合には極度の疲労、鼻づまり、くしゃみ、喉の痛み、胸部不快感、咳、息切れ、気管支炎、肺炎、および重度の場合は死亡を含む、症状が含まれる。
【0085】
本明細書で使用する「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された四つのポリペプチド鎖、二つの重(H)鎖、および二つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにこれらの多量体(例えば、IgM)またはこれらの抗原結合性断片を指すことが意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「VH」)および重鎖定常領域(CH1ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインからなる)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVRまたは「VL」)および軽鎖定常領域(CL)からなる。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、超可変領域へとさらに細分することができる。各VHおよびVLは、以下の順序、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された、三つのCDRおよび四つのFRからなる。本発明の特定の実施形態では、抗体(またはその抗原結合性断片)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよいか、または天然にもしくは人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、二つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義されうる。
【0086】
一つまたは複数のCDR残基の置換または一つまたは複数のCDRの省略も可能である。抗体は、一つまたは二つのCDRが結合のために省かれることができると科学文献に説明されている。Padlan et al.(1995 FASEB J.9:133-139)は、公開されている結晶構造に基づいて、抗体とこれらの抗原との間の接触領域を分析し、CDR残基の約1/5~1/3のみが実際に抗原と接触すると結論付けた。Padlanは、一つまたは二つのCDRが抗原と接触しているアミノ酸を有しない多くの抗体も発見した(Vajdos et al.2002 J Mol Biol 320:415-428も参照されたい)。
【0087】
抗原と接触していないCDR残基は、先行研究に基づいて、ChothiaのCDRの外側にあるKabatのCDRの領域から、分子モデリングによって、かつ/または演繹的に識別することができる(例えば、CDRH2中の残基H60~H65はしばしば必要ではない)。CDRまたはその残基が省略される場合、このCDRまたはその残基は、通常、別のヒト抗体配列またはこのような配列のコンセンサスにおける対応する位置を占有するアミノ酸と置換される。CDR内の置換のための位置および置換すべきアミノ酸も演繹的に選択することができる。演繹的な置換は、保存的置換または非保存的置換でありうる。
【0088】
本明細書に開示する完全ヒト抗インフルエンザHAモノクローナル抗体は、対応する生殖系列配列と比較して、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域に一つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含みうる。そのような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認されうる。本発明は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体、およびこれらの抗原結合性断片を含み、一つまたは複数のフレームワークおよび/またはCDR領域内の一つまたは複数のアミノ酸は、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基、または対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異する(そのような配列変化は、本明細書において集合的に「生殖細胞系変異」と称される)。当業者であれば、本明細書に開示される重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列から開始して、一つまたは複数の個々の生殖系列変異またはそれらの組合わせを含む、多くの抗体および抗原結合性断片を容易に産生することができる。特定の実施形態では、VHおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基のすべてが、抗体が由来する元の生殖系列配列に見られる残基に再び変異する。他の実施形態では、特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内、もしくはFR4の最後の8個のアミノ酸内に見られる変異残基のみ、またはCDR1、CDR2、もしくはCDR3内に見られる変異残基のみが、元の生殖系列配列に変異する。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基のうちの一つまたは複数は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が元々由来する生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基に変異する。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に二つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基が、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異する一方で、元の生殖系列配列とは異なる、ある特定の他の残基が維持されるか、または異なる生殖系列配列の対応する残基に変異する。いったん得られれば、一つまたは複数の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合性断片は、結合特異性の改善、結合親和性の増大、アンタゴニストまたはアゴニストの生物学的特性の改善または亢進(場合により得る)、免疫原性の低下などの一つまたは複数の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な様式で得られた抗体および抗原結合性断片は、本発明に包含される。
【0089】
本発明は、一つまたは複数の保存的置換を有する本明細書に開示するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む、完全ヒト抗インフルエンザHAモノクローナル抗体も含む。例えば、本発明は、本明細書に開示されるHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば、10個以下、8個以下、6個以下、または4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗インフルエンザ-HA抗体を含む。
【0090】
用語「ヒト抗体」は、本明細書にて使用される場合、ヒト生殖系列イムノグロブリン配列由来の可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。本発明のヒトmAbは、例えばCDRおよび特定のCDR3において、ヒト生殖系列イムノグロブリン配列によってコード化されていないアミノ酸残基(例えば、ランダムもしくはインビトロでの部位特異的変異によって、またはインビボでの体細胞突然変異によって導入された変異)を含みうる。しかしながら、用語「ヒト抗体」とは、本明細書にて使用される場合、別の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖系列由来のCDR配列がヒトFR配列上に移植されているmAbを含むようには意図されていない。この用語は、非ヒト哺乳類において、または非ヒト哺乳類の細胞において組換え産生された抗体を含む。この用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象において生成された抗体を含むよう意図されるものではない。
【0091】
「組換え」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、DNAスプライシングおよびトランスジェニック発現を含む、組換えDNA技術として当技術分野で公知の技術または方法により作製、発現、単離、または得られた、本発明の抗体またはその抗原結合性断片を指す。この用語は、非ヒト哺乳類(例えば、トランスジェニックマウスなどのトランスジェニック非ヒト哺乳類を含む)または細胞(例えば、CHO細胞)発現系で発現されるか、または組換え型コンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離された抗体を指す。
【0092】
「~を特異的に結合する」という用語もしくは「~へ特異的に結合する」という用語、またはこれらに類するものは、抗体またはその抗原結合性断片が、生理学的条件下で比較的安定である抗原と複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1x10-8M以下の平衡解離定数を特徴とすることができる(例えば、より小さなKDはより緊密な結合を示す)。二つの分子が特異的に結合するかどうかを判定するための方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。本明細書に記載されるように、抗体は、インフルエンザ-HAに特異的に結合する、Octet(登録商標)HTXバイオセンサーでのリアルタイム無標識バイオレイヤー干渉アッセイで同定されている。さらに、インフルエンザ-HAの一つのドメインおよび一つまたは複数のさらなる抗原に結合する多重特異性抗体、またはインフルエンザ-HAの二つの異なる領域に結合する二重特異性抗体は、それにもかかわらず、本明細書で使用される場合、「特異的に結合する」抗体とみなされる。
【0093】
「高親和性」抗体という用語は、リアルタイム無標識バイオレイヤー干渉アッセイ、例えば、Octet(登録商標)HTXバイオセンサー、または表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)、または溶液-親和性ELISAによって測定される、少なくとも10-8M、好ましくは10-9M、より好ましくは10-10M、さらにより好ましくは10-11M、さらにより好ましくは10-12MのKDとして表される、インフルエンザ-HAに対する結合親和性を有するそれらのmAbを指す。
【0094】
「スローオフレート」、「Koff」または「kd」という用語は、リアルタイム無標識バイオレイヤー干渉アッセイ、例えば、Octet(登録商標)HTXバイオセンサー、または表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)によって決定される場合、1x10-3s-1以下、好ましくは1x10-4s-1以下の速度定数で、インフルエンザ-HAから解離する抗体を意味する。
【0095】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合性部分」、抗体の「抗原結合性断片」などという用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子的に操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書で使用する場合、抗体の「抗原結合性断片」、または「抗体断片」という用語は、インフルエンザHAに結合する能力を保持する抗体の一つまたは複数の断片を指す。
【0096】
特定の実施形態では、本発明の抗体または抗体断片は、インフルエンザウイルスによって生じる感染症の治療に有用な抗ウイルス薬、第二の抗インフルエンザ抗体、またはその他任意の治療用部分など、リガンドまたは治療用部分(「免疫コンジュゲート」)などの部分にコンジュゲートされてもよい。
【0097】
本明細書で使用する場合、「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)を実質的に含まない抗体を指すことが意図される(例えば、インフルエンザHAに特異的に結合する単離された抗体またはその断片は、インフルエンザHA以外の抗原を特異的に結合するAbを実質的に含まない。
【0098】
本明細書で使用される場合、「遮断抗体」または「中和抗体」(または「インフルエンザ-HA活性を中和する抗体」または「アンタゴニスト抗体」)は、インフルエンザ-HAへの結合がインフルエンザ-HAの少なくとも一つの生物学的活性の阻害をもたらす抗体を指すことを意図する。例えば、本発明の抗体は、インフルエンザの宿主細胞への付着または侵入を防止または遮断しうる。さらに、「中和抗体」は、病原体が宿主における感染を開始および/または永続させる能力を中和、すなわち、防止、阻害、低減、妨害または干渉することができるものである。「中和抗体」および「中和する抗体」という用語は、本明細書では互換的に使用される。これらの抗体は、単独でまたは他の抗ウイルス剤と組合わせて、適切な処方の際に、または積極的なワクチン接種と関連して、予防剤または治療剤として、または診断ツールとして使用することができる。
【0099】
「表面プラズモン共鳴」という用語は、例えばBIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB、スウェーデン国ウプサラ市およびニュージャージー州ピスカタウェイ郡区)を用いて、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出によってリアルタイムでの生体分子相互作用の分析を可能にする光学現象を指す。
【0100】
バイオレイヤー干渉法は、生体分子の相互作用を測定するための無標識技術である。これは、バイオセンサー先端上の固定化タンパク質層および内部参照層の二つの表面から反射される白色光の干渉パターンを分析する光学分析技術である。バイオセンサー先端に結合した分子数の変化により、リアルタイムで測定できる干渉パターンのシフトが生じる(Abdiche、Y.N.、et al.Analytical Biochemistry、(2008)、377(2)、209-217)。本発明の特定の実施形態では、「リアルタイムのバイオレイヤー干渉計に基づくバイオセンサー(Octet HTXアッセイ」を使用して、特定の抗インフルエンザHA抗体の結合特性を評価した。
【0101】
「KD」という用語は、本明細書で使用する場合、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すよう意図される。
【0102】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は二つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる領域へ結合することができ、異なる生物学的効果を有することができる。「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位も指す。この用語は、抗体が結合する抗原の領域も指す。エピトープは、構造的または機能的と定義されうる。機能的エピトープは概して、構造エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接寄与する残基を有する。エピトープは、立体配座的でもあってもよく、すなわち、非線形アミノ酸から構成されてもよい。特定の実施形態では、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基などの分子の化学的に活性のある表面群である決定基を含む場合があり、特定の実施形態では、特異的三次元構造特徴および/または比電荷特徴を有する場合がある。
【0103】
本明細書で使用される場合、「交差競合」という用語は、抗原に結合し、別の抗体またはその抗原結合性断片の結合を阻害または遮断する、抗体またはその抗原結合性断片を意味する。この用語はまた、二つの抗体間の両方向の競合、すなわち、第一の抗体が結合し、かつ第二の抗体の結合を遮断し、またその逆も含む。特定の実施形態では、第一の抗体および第二の抗体は、同じエピトープに結合してもよい。あるいは、第一および第二の抗体は、異なるが重複するエピトープに結合することができ、その結果、一つの結合が、例えば、立体障害を介して、第二の抗体の結合を阻害または遮断する。抗体間の交差競合は、当技術分野で公知の方法、例えば、リアルタイム無標識バイオレイヤー干渉アッセイによって測定されうる。試験抗体が、本発明の参照抗インフルエンザAグループ2抗体と交差競合するかどうかを判定するために、参照抗体は、飽和条件下で、インフルエンザウイルスHAまたはペプチドに結合することができる。次にインフルエンザウイルスHAに結合する試験抗体の能力が評価される。試験抗体が、参照抗インフルエンザウイルスHA抗体との飽和結合後に、インフルエンザウイルスHAに結合することができる場合、試験抗体は、参照抗インフルエンザウイルスHA抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。一方で、試験抗体が、参照抗インフルエンザウイルスHA抗体との飽和結合後に、インフルエンザウイルスHAに結合できない場合、試験抗体は、本発明の参照抗インフルエンザウイルスHA抗体により結合されるエピトープと同じエピトープに結合してもよい。
【0104】
「実質的な同一性」または「実質的に同一である」という用語は、核酸またはその断片を指す場合、別の核酸(またはその相補鎖)との適切なヌクレオチド挿入または欠失と最適に整列した場合、以下で説明するように、FASTA、BLAST、またはGAPなど、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定したときに、ヌクレオチド塩基の少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%においてヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、特定の場合では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードしてもよい。
【0105】
ポリペプチドへ適用される場合、「実質的な類似性」または「実質的に類似の」という用語は、二つのペプチド配列が、既定のギャップ重みを用いてプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも90%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%、98%または99%の配列同一性を共有する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換だけ異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能性特性を実質的に変化させない。二つ以上のアミノ酸配列が保存的置換だけ互いに異なる場合、相同性の百分率または程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに7)含硫側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443~1445に開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度行列において負以外の値を有する何らかの変化である。
【0106】
ポリペプチドについての配列類似性は、典型的には、配列解析ソフトウェアを用いて測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む種々の置換、欠失および他の修飾へ割り当てられた類似性の測定値を用いて類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を判定するための既定パラメータとともに使用することができるGAPおよびBESTFITなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列との間の最良重複の領域の整列および配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)上述)。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを用いるコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、それぞれが、参照により本明細書に組み込まれる、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410および(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402を参照されたい。
【0107】
「治療有効量」という句によって意味されるのは、所望の効果のために投与されて所望の効果を生じる量である。正確な量は、治療の目的によることになっており、公知の技術を用いて当業者によって確認できることになっている(例えば、Lloyd(1999)The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照されたい)。
【0108】
本明細書で使用する場合、「対象」という用語は、ウイルス感染症などの疾患または障害の寛解、防止、および/または治療を必要とする動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。対象はインフルエンザ感染を有するか、またはインフルエンザウイルス感染を発症しやすい場合がある。「インフルエンザウイルス感染を発症しやすい」対象、または「インフルエンザウイルス感染にかかるリスクが高い可能性のある」対象とは、自己免疫疾患により免疫系が損なわれている対象、免疫抑制療法を受けている人(例えば、臓器移植後)、ヒト免疫不全症候群(HIV)または後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患している人、白血球を枯渇または破壊する特定の形態の貧血、放射線療法または化学療法を受けている人、または炎症性障害に罹患している人である。さらに、極めて若年または高齢の対象は、リスクが高まる。感染した個人と身体的に接触または身体的に接近した人はだれでも、インフルエンザウイルス感染のリスクが高くなる。さらに、対象は、疾患の発生に接近、例えば、人口密集都市に在住、インフルエンザウイルスの感染が確認された、もしくは疑われた対象に接近、または職業の選択、例えば、病院従事者、医薬品研究者、感染地域への旅行者、または飛行機を頻繁に利用する人により、インフルエンザ感染のリスクがある。
【0109】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、本発明の抗体などの治療剤を、それを必要とする対象に投与することによる、インフルエンザ感染の少なくとも一つの症状または兆候の重症度の軽減または改善を指す。この用語には、疾患の進行の阻害または感染の悪化の阻害が含まれる。この用語は、疾患の肯定的な予後も含み、すなわち、対象は感染していないか、または本発明の抗体などの治療剤の投与に際し、ウイルス力価が低下しているか、またはない場合がある。治療剤は、治療用量で対象に投与されてもよい。
【0110】
「防止する」、「防止すること」または「防止」という用語は、本発明の抗体の投与に際し、インフルエンザ感染の顕在化、またはインフルエンザ感染の任意の症状もしくは兆候の阻害を指す。この用語は、ウイルスに曝された、またはインフルエンザ感染のリスクのある対象における感染拡大の防止を含む。
【0111】
本明細書で使用される場合、「保護効果」は、抗ウイルス剤などの薬剤、または本発明の抗インフルエンザ-HA抗体などの抗体が、例えば、感染病原体への曝露後の生存率の増加、ウイルス量の減少、または感染病原体に関連する少なくとも一つの症状の改善のうちの一つまたは複数を実証できるかどうかを決定するために、当技術分野で公知の任意の標準的手順によって実証されてもよい。
【0112】
本明細書で使用される場合、「抗ウイルス薬」という用語は、対象のウイルス感染を治療、防止、または改善するために使用される任意の抗感染薬または治療を指す。「抗ウイルス薬」という用語には、TAMIFLU(登録商標)(オセルタミビル)、RELENZA(登録商標)(ザナミビル)、リバビリン、またはインターフェロンアルファ2bが含まれるが、これらに限定されない。本発明では、治療される感染症はインフルエンザウイルスによって引き起こされる。
【0113】
概要
インフルエンザは、オルトミクソウイルス科のRNAウイルス(インフルエンザウイルス)によって引き起こされる感染疾患である。インフルエンザウイルスは、コアタンパク質に基づいて、三つの属A、BおよびCに分類され、さらに、ウイルスエンベロープ糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)によって決定されるサブタイプに分割される。インフルエンザAウイルスは、哺乳類および鳥類のさまざまな種に感染するが、B型およびC型の感染は主にヒトに限定されている。A型およびB型のみが、懸念されるヒト疾患を引き起こす。
【0114】
インフルエンザウイルスの高い突然変異率および頻繁な遺伝子再集合は、HAおよびNA抗原の大きな変動に寄与する。小さな変化を引き起こす小さな点突然変異(「抗原ドリフト」)は、比較的頻繁に起こる。抗原ドリフトは、ウイルスが免疫認識を回避することを可能にし、大流行間期に繰り返されるインフルエンザの発生をもたらす。HA抗原の主な変化(「抗原シフト」)は、異なるインフルエンザAサブタイプからの遺伝物質の再集合によって引き起こされる。新しいパンデミック株を生じる抗原シフトは、例えば、共感染したブタなど、動物とヒトのサブタイプ間の再集合を通して発生する、稀な事象である。
【0115】
インフルエンザAウイルスに対する中和抗体応答は、典型的には、所与のウイルスサブタイプに対して特異的である。それらのヘマグルチニン(「HA」)タンパク質によって定義されるインフルエンザAサブタイプは18個ある。18個のHA、H1~H18は、二つのグループに分類できる。グループ1は、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16、H17およびH18サブタイプからなり、グループ2はH3、H4、H7、H10、H14およびH15サブタイプを含む。これらの理由から、すべてのインフルエンザAウイルスサブタイプおよびその年毎のバリアントを中和することができる、広く中和する抗体を誘導する、ワクチンを有することが非常に望ましい。さらに、広く中和するヘテロサブタイプ抗体は、インフルエンザA感染の防止または治療のための薬剤として投与されうる。
【0116】
HAはホモ三量体前駆体ポリペプチドHA0として合成される。各モノマーは、翻訳後に独立して切断され、単一のジスルフィド結合によって連結された二つのポリペプチド、HA1およびHA2を形成することができる。より大きなN末端断片(HAL 320-330アミノ酸)は、受容体結合部位、およびウイルス中和抗体によって認識されるほとんどの決定因子を含有する、膜遠位球状ドメインを形成する。HAのHA1ポリペプチドは、ウイルスの細胞表面への付着に関与する。より小さなC末端部分(HA2、約180アミノ酸)は、球状ドメインを細胞膜またはウイルス膜に固定する、ステム様構造を形成する。HA2ポリペプチドは、ウイルスと細胞膜とのエンドソーム内での融合を媒介し、リボ核タンパク質複合体の細胞質への放出を可能にする。
【0117】
インフルエンザAウイルスの二つ以上のサブタイプを中和する抗体を特定するには、限られた成功しかなかった。さらに、これまでに特定された抗体の中和の息は細く、その効力は低い。Okunoらは、インフルエンザウイルスA/Okuda/57(H2N2)を用いてマウスを免疫化し、動物モデルにおいて、インビトロおよびインビボで、HA2中の保存された立体構造エピトープに結合し、インフルエンザAウイルスのグループ1のH2、H1およびH5サブタイプを中和する、モノクローナル抗体(C179)を単離した((Okuno et al.、J.Virol.67:2552-8、1993)。
【0118】
数十年にわたる研究にもかかわらず、インフルエンザAウイルス感染を広く中和もしくは阻害する、またはインフルエンザAウイルスによって引き起こされる疾患を減弱する市販の抗体はない。したがって、インフルエンザAウイルスの複数のサブタイプを中和し、インフルエンザA感染の防止または治療のための薬剤として使用することができる、新しい抗体を特定する必要性がある。
【0119】
感染症の防止または治療のための受動的免疫療法は、通常は高力価の中和抗体を含有する回復期ヒト血清の形態で、一世紀以上にわたって使用されてきた(Good et al.1991;Cancer 68:1415-1421)。今日、複数の精製されたモノクローナル抗体が、抗微生物薬として使用するために、現在前臨床および臨床開発中である(Marasco et al.2007;Nature Biotechnology 25:1421-1434)。
【0120】
発明者らは、本明細書において、インフルエンザヘマグルチニンに特異的に結合し、インフルエンザウイルスと宿主細胞との相互作用を調節する、完全ヒト抗体およびその抗原結合性断片について記載した。抗インフルエンザAグループ2HA抗体は、インフルエンザウイルスHAに高親和性で結合しうる。特定の実施形態では、本発明の抗体は、遮断抗体であり、抗体はインフルエンザHAに結合し、かつウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入を遮断する場合がある。いくつかの実施形態では、本発明の遮断抗体は、インフルエンザウイルスの細胞への結合を遮断することができ、そのため宿主細胞のウイルス感染を阻害または中和することができる。いくつかの実施形態では、遮断抗体は、インフルエンザウイルス感染に罹患している対象を治療するのに有用でありうる。抗体は、それを必要とする対象に投与された場合、対象におけるインフルエンザなどのウイルスによる感染を減少させうる。これらは、対象におけるウイルス量を減少させるために使用されうる。これらは単独で、またはウイルス感染を治療するための当技術分野で公知の他の治療用部分またはモダリティと共に補助療法として使用することもできる。特定の実施形態では、これらの抗体は、ウイルスHAのステム領域のエピトープに結合しうる。さらに、特定された抗体は、感染から哺乳類を保護するために、(感染前に)予防的に使用されるか、または以前に確立された感染を改善するために、または感染と関連する少なくとも一つの症状を改善するために、(感染が確立された後)治療的に使用することができる。
【0121】
二つの例示的なインフルエンザAグループ2HAの全長アミノ酸配列は、GenBankにおいて登録番号ACF41911.1(A/Wisconsin/67/X-161/2005(H3N2)から、配列番号33も参照)および登録番号AAR02640.1(A/chicken/Netherlands/01/2003(H7N7)から、(配列番号34も参照)として示されている。
【0122】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、全長インフルエンザHAなどの一次免疫原を用いて、または組換え型のインフルエンザHAまたはその断片を用いて免疫し、その後、二次免疫原を用いて、またはインフルエンザHAの免疫原性活性断片を用いて免疫したマウスから得られる。特定の実施形態では、抗体は、インフルエンザワクチン組成物を用いて免疫し、その後、一つまたは複数の組換えによって生成されたHAペプチドを用いて追加免疫したマウスから得られる。
【0123】
特定の実施形態では、マウスはA/Hong Kong/08/1968(H3N2)に続いてA/Hong Kong/05/1972-PR8-X36(H3N2)を用いて免疫し、次いでA/Hong Kong/08/1968(H3N2)を用いて再度免疫された。すべてのマウスを、A/Wisconsin/67/X-161/2005(H3N2)およびA/chicken/Netherlands/01/2003(H7N7)からのHAをコードするDNAの1:1混合物を用いて追加免疫した。
【0124】
免疫原は、インフルエンザHAの生物学的活性および/もしくは免疫原性断片、またはその活性断片をコードするDNAであってもよい。断片は、HAタンパク質のステム領域に由来するものであってもよい(Sui et.al.,Nature Struct.and Mol.Biol.Published online 22 Feb.2009;Pages 1-9を参照のこと)。
【0125】
ペプチドは、タグ付けまたはKLHなどの担体分子へのコンジュゲートのために、特定の残基の付加または置換を含むように修飾されてもよい。例えば、ペプチドのN末端またはC末端のいずれかにシステインを付加するか、またはリンカー配列を付加して、免疫のために、例えばKLHとコンジュゲートするためにペプチドを調製してもよい。
【0126】
本発明の特定の抗インフルエンザAグループ2HA抗体は、インビトロアッセイまたはインビボアッセイによって決定されるとおり、インフルエンザ-HAに結合し、その活性を中和することができる。本発明の抗体のインフルエンザAグループ2HAに結合し、その活性、したがってウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入、その後につづくウイルス感染を中和する能力は、本明細書に記載される結合アッセイ、または活性アッセイを含む、当業者に公知の任意の標準方法を使用して測定することができる。
【0127】
結合活性を測定するための非限定的で例示的なインビトロアッセイを、本明細書の実施例3に示す。実施例3では、抗インフルエンザAグループ2HA抗体のインフルエンザAグループ2HAに対する結合親和性および解離定数を、Biacore測定器を使用した表面プラズモン共鳴によって決定した。実施例4では、中和アッセイを使用して、インフルエンザウイルスの多様なグループ2株の感染性を決定した。実施例5では、特定の抗体が、補体依存性細胞傷害(CDC)を媒介することが示され、または実施例6では、特定の抗体が、インビトロで、ウイルス感染細胞の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を媒介することが示された。実施例7は、本発明の特定の抗体が、インビボで、インフルエンザA感染を中和する能力があることを示す。
【0128】
インフルエンザAグループ2HAに特異的な抗体は、追加の標識または部分を含有しないか、またはN末端もしくはC末端の標識または部分を含有してもよい。一実施形態では、標識または部分はビオチンである。結合アッセイでは、標識(ある場合)の位置が、ペプチドが結合する表面に対するペプチドの配向を決定する場合がある。例えば、表面がアビジンで被覆される場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端部分が表面から遠位になるように配向される。一実施形態では、標識は、放射性核種、蛍光色素またはMRI検出可能な標識であってもよい。特定の実施形態では、こうした標識抗体は、撮像アッセイを含む診断アッセイで使用されうる。
【0129】
抗体の抗原結合性断片
別段の具体的な記載がない限り、本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、二つの免疫グロブリン重鎖および二つの免疫グロブリン軽鎖を含む抗体分子(すなわち、「完全抗体分子」)ならびにその抗原結合性断片を包含すると理解される。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合性部分」、抗体の「抗原結合性断片」などという用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子的に操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書で使用する場合、抗体の「抗原結合性断片」または「抗体断片」という用語は、本明細書で使用する場合、インフルエンザAグループ2HAに特異的に結合する能力を保有する抗体の一つまたは複数の断片を指す。抗体断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片、dAb断片、CDRを含有する断片、または単離されたCDRを含みうる。特定の実施形態では、「抗原結合性断片」という用語は、多重特異性抗原結合分子のポリペプチド断片を指す。抗体の抗原結合性断片は、例えば、抗体可変ドメインおよび(任意に)定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴うタンパク質消化技術または組換え遺伝子操作技術などの任意の適切な標準的技術を用いて、完全抗体分子から得られうる。このようなDNAは公知であり、かつ/または例えば、市販の供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、もしくは合成されうる。DNAを配列決定し、化学的にまたは分子生物学技法を使用することによって操作して、例えば、一つまたは複数の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを好適な構成に配置するか、またはコドンを導入する、システイン残基を作成する、アミノ酸を修飾、付加、もしくは欠失させるなどが可能である。
【0130】
抗体結合性断片の非限定例としては、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基、または拘束FR3‐CDR3‐FR4ペプチドからなる最小認識単位が挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失した抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子もまた、本明細書で使用される場合、「抗原結合性断片」という表現に包含される。
【0131】
抗体の抗原結合性断片は、典型的に、少なくとも一つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成物であってもよく、概して、一つまたは複数のフレームワーク配列に隣接しているか、または一つまたは複数のフレームワーク配列とともにインフレームである、少なくとも一つのCDRを含むであろう。VLドメインと結合したVHドメインを有する抗原結合性断片において、VHドメインおよびVLドメインは、任意の好適な配置で互いに対して配置されうる。例えば、可変領域は二量体であり、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有しうる。代替的に、抗体の抗原結合性断片は、モノマーVHまたはVLドメインを含有しうる。
【0132】
特定の実施形態では、抗体の抗原結合性断片は、少なくとも一つの定常ドメインに共有結合された少なくとも一つの可変ドメインを含有しうる。本発明の抗体の抗原結合性断片内に見られ得る可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的な構成には、(i)VH-CH1、(ii)VH-CH2、(iii)VH-CH3、(iv)VH-CH1-CH2、(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3、(vii)VH-CL、(viii)VL-CH1、(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2、(xii)VL-CH1-CH2-CH3、(xiii)VL-CH2-CH3、および(xiv)VL-CLが含まれる。上に列挙される例示的な構成のうちのいずれかを含む可変ドメインおよび定常ドメインのいずれの構成において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結され得るか、または完全もしくは部分的ヒンジもしくはリンカー領域によって連結されうる。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間に可撓性または半可撓性の結合をもたらす少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60、またはそれ以上の)アミノ酸からなりうる。さらに、本発明の抗体の抗原結合性断片は、互いにおよび/または一つまたは複数のモノマーVHもしくはVLドメインとの(例えば、ジスルフィド結合による)非共有会合で上に列挙される可変ドメイン構成および定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含みうる。
【0133】
完全抗体分子と同様に、抗原結合性断片は単一特異性または多重特異性(例えば、二重特異性)であってもよい。抗体の多重特異性抗原結合性断片は、典型的に、少なくとも二つの異なる可変ドメインを含み、各々の可変ドメインは、別個の抗原、または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体フォーマットを含む任意の多重特異性抗体フォーマットは、当技術分野で利用可能な常套的な技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合性断片に関する使用のために適合されうる。
【0134】
ヒト抗体の調製
トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を生成するための方法は、当該技術分野で知られている。インフルエンザAグループ2HAに特異的に結合するヒト抗体を作製するために、任意のこのような公知の方法が、本発明の状況において使用されうる。以下のいずれか一つを含む免疫原を使用して、インフルエンザAグループ2HAに対する抗体を生成することができる。特定の実施形態では、本発明の抗体は、全長で天然のインフルエンザAグループ2HA(例えば、GenBank登録番号ACF41911.1、またはAAR02640.1を参照)、または弱毒化ウイルスもしくは不活性化ウイルス、またはタンパク質もしくはその断片をコードするDNAを用いて免疫したマウスからから得られる。あるいは、インフルエンザAグループ2HAタンパク質またはその断片は、標準的な生化学技術を使用して、産生され、改変され、免疫原として使用されうる。一実施形態では、免疫原は、組換えによって産生されたインフルエンザAグループ2HAタンパク質またはその断片であってもよい。本発明の特定の実施形態では、免疫原はインフルエンザウイルスワクチンであってもよい。特定の実施形態では、一つまたは複数の追加免疫注射が投与されてもよい。特定の実施形態では、追加免疫注射は、一つまたは複数のインフルエンザウイルス株、またはこれらの株に由来するヘマグルチニン、例えば、A/Hong Kong/08/1968(H3N2)、次いでA/Hong Kong/05/1972-PR8-X36(H3N2)、次いで再度A/Hong Kong/08/1968(H3N2)を含んでもよい。すべてのマウスを、A/Wisconsin/67/X-161/2005(H3N2)およびA/chicken/Netherlands/01/2003(H7N7)からのHAをコードするDNAの1:1混合物を用いて追加免疫した。特定の実施形態では、追加免疫注射は、インフルエンザ株の1:1混合物、または株に由来するヘマグルチニンの1:1混合物、またはHAをコードするDNAを含有しうる。特定の実施形態では、免疫原は、大腸菌、または中国のハムスターの卵巣(CHO)細胞などの他の真核細胞もしくは哺乳類細胞、またはインフルエンザウイルス自体で発現した組換えインフルエンザHAペプチドでありうる。
【0135】
モノクローナル抗体を生成するためにVELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標)を参照されたい)または任意の他の公知の方法を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有するインフルエンザAグループ2HAに対する高親和性キメラ抗体を最初に単離する。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に応答してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内在性マウス定常領域座に操作可能に連結されたヒト重鎖可変領域とヒト軽鎖可変領域とを含むゲノムを有するトランスジェニックマウスを生成することを伴う。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖定常領域およびヒト軽鎖定常領域をコードするDNAに動作可能に連結する。次に、完全ヒト抗体を発現することができる細胞においてDNAを発現させる。
【0136】
概して、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに関心対象の抗原を負荷し、抗体を発現するマウスからリンパ細胞(B細胞など)を回収する。リンパ細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死化ハイブリドーマ細胞株を調製し得、関心対象の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定するためにこのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングおよび選択する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し得、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域へ連結することができる。このような抗体タンパク質は、CHO細胞などの細胞において産生されうる。代替的に、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAを抗原特異的リンパ球から直接単離することができる。
【0137】
まず、ヒト可変領域とマウス定常領域とを有する高親和性キメラ抗体を単離する。以下の実験セクションと同様に、抗体を、親和性、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付け、選択する。マウス定常領域を、所望のヒト定常領域で置換して、本発明の完全ヒト抗体、例えば、野生型のまたは修飾されたIgG1またはIgG4を生成する。選択される定常領域は特定の用途に応じて異なりうるが、高親和性抗原結合特徴および標的特異性特徴は可変領域に存在する。
【0138】
生物学的等価物
本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体および抗体断片は、説明された抗体のアミノ酸配列とは異なるがインフルエンザHAに結合する能力を保有するアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。このようなバリアント抗体および抗体断片は、親配列と比較してアミノ酸の一つまたは複数の付加、欠失、または置換を含むが、説明された抗体の生物学的活性とは本質的に等価である生物学的活性を呈する。同様に、本発明の抗体コードDNA配列は、開示される配列と比較してヌクレオチドの一つまたは複数の付加、欠失、または置換を含むが、本発明の抗体または抗体断片と本質的に生物学的に等価である抗体または抗体断片をコードする配列を包含する。
【0139】
二つの抗原結合タンパク質、または抗体は、例えば類似の実験条件下、同じモル用量で、単回投与または複数回投与のいずれかで投与されたとき、吸収の速度および程度が著しい差異を示さない薬学的等価物または薬学的代替物である場合、生物学的等価物であるとみなされる。いくつかの抗体は、これらの吸収の程度は同等であるがこれらの吸収速度は同等ではない場合、等価物または薬学的代替物とみなされ、さらに、吸収速度のこのような差異が、意図的であり、標識に反映されており、例えば、慢性使用において有効身体薬物濃度の獲得に不可欠ではなく、研究した特定の薬剤製品にとって医学的に有意ではないとみなされるため、生物学的等価物であるとみなされる。
【0140】
一実施形態では、二つの抗原結合タンパク質は、これらの安全性、純度、または効力において臨床的に意味のある差がない場合、生物学的に等価である。
【0141】
一実施形態では、二つの抗原結合タンパク質は、参照製品と生物学的製品の間での一回または複数回の切り替えを行わない持続的療法と比較して、免疫原性の臨床的に有意な変化を含む有害作用のリスクの予想される上昇または有効性の減退が生じずに、患者がその様な切り替えを行うことができる場合、生物学的に等価である。
【0142】
一実施形態では、二つの抗原結合タンパク質は、これらが両方とも、一つまたは複数の使用条件について、一つのまたは複数の共通の作用機序によって、このような機序が公知である程度まで作用する場合、生物学的に等価である。
【0143】
生物学的等価性は、インビボおよび/またはインビトロの方法によって実証されうる。生物学的等価性測定法には、例えば、(a)抗体またはその代謝産物の濃度が血液、血漿、血清または他の生物学的流体中で時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボでの試験、(b)ヒトのインビボでの生物学的利用能データと相関し、このデータを合理的に予測しているインビトロ試験、(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理学的効果が時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験、および(d)抗体の安全性、効能、または生物学的利用能もしくは生物学的等価性を確立する、十分に管理された臨床試験が含まれる。
【0144】
本発明の抗体の生物学的に等価なバリアントは、例えば、残基もしくは配列の種々の置換を生じること、または生物活性に必要とされない末端もしくは内部の残基もしくは配列を欠失することによって構築されうる。例えば、生物学的活性にとって必須ではないシステイン残基は、再生の際の不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために、欠失または他のアミノ酸で置換することができる。他の文脈では、生物学的に等価の抗体には、抗体のグリコシル化特徴を修飾するアミノ酸変化、例えば、グリコシル化を排除または除去する変異を含む、抗体バリアントが含まれうる。
【0145】
Fcバリアントを含む抗インフルエンザ-HA抗体
本発明の特定の実施形態によると、例えば、中性pHと比較して酸性pHで、FcRn受容体への抗体結合を増強または減少させる一つまたは複数の突然変異を含むFcドメインを含む、抗インフルエンザAグループ2HA抗体が提供される。例えば、本発明は、FcドメインのCH2またはCH3領域に変異を含む抗インフルエンザHA抗体を含み、変異は、酸性環境において(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲のエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。そのような突然変異は、動物に投与されたときに抗体の血清半減期の増加をもたらしうる。このようなFc修飾の非限定的な例には、例えば、250位(例えば、EまたはQ)、250位および428位(例えば、LまたはF)、252位(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254位(例えば、SまたはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)における修飾、または428位および/もしくは433位(例えば、H/L/R/S/P/QまたはK)および/もしくは434位(例えば、A、W、H、F、またはY[N434A、N434W、N434H、N434F、またはN434Y])における修飾、あるいは250位および/もしくは428位における修飾、あるいは307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、および434位における修飾が含まれる。一実施形態では、修飾は、428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)修飾、428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)修飾、433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)修飾、252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)修飾、250Qおよび428L修飾(例えば、T250QおよびM428L)、ならびに307および/または308修飾(例えば、308Fおよび/または308P)を含む。さらに別の実施形態では、修飾は、265A(例えば、D265A)および/または297A(例えば、N297A)修飾を含む。
【0146】
例えば、本発明は、以下からなる群から選択される変異の一つまたは複数の対または群を含むFcドメインを含む抗インフルエンザAグループ2HA抗体を含む:250Qおよび248L(例えば、T250QおよびM248L);252Y、254Tおよび256E(例えば、M252Y、S254TおよびT256E);428Lおよび434S(例えば、M428LおよびN434S);257Iおよび311I(例えば、P257IおよびQ311I);257Iおよび434H(例えば、P257IおよびN434H);376Vおよび434H(例えば、D376VおよびN434H);307A、380Aおよび434A(例えば、T307A、E380AおよびN434A);ならびに433Kおよび434F(例えば、H433KおよびN434F)。前述のFcドメイン変異、および本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の他の変異のすべての可能な組み合わせが、本発明の範囲内であることが企図される。
【0147】
本発明は、キメラ重鎖定常(CH)領域を含む抗インフルエンザAグループ2HA抗体を含み、キメラCH領域は、二つ以上の免疫グロブリンアイソタイプのCH領域に由来するセグメントを含む。例えば、本発明の抗体は、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子またはヒトIgG4分子に由来するCH3ドメインの一部または全部と組み合わせて、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子またはヒトIgG4分子に由来するCH2ドメインの一部または全部を含むキメラCH領域を含みうる。特定の実施形態によると、本発明の抗体は、キメラヒンジ領域を有するキメラCH領域を含む。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列(EU番号付けによる位置228~236のアミノ酸残基)と組み合わされた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」アミノ酸配列(EU番号付けによる位置216~227のアミノ酸残基)を含むことができる。特定の実施形態によると、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1上部ヒンジまたはヒトIgG4上部ヒンジに由来するアミノ酸残基と、ヒトIgG2下部ヒンジに由来するアミノ酸残基とを含む。本明細書に説明されるキメラCH領域を含む抗体は、特定の実施形態では、抗体の治療特性または薬物動態学的特性に負に影響を与えることなく修飾Fcエフェクター機能を呈しうる。(例えば、2013年2月1日出願の米国仮出願第61/759,578号を参照されたい。その開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される)。
【0148】
抗体の生物学的特徴
一般に、本発明の抗体は、インフルエンザAグループ2HAに結合することにより機能する。例えば、本発明は、インフルエンザAグループ2HAに(例えば、25oCまたは37oCで)、Biacore測定器での表面プラズモン共鳴、またはリアルタイムバイオレイヤー干渉計に基づくバイオセンサー(Octet HTXアッセイ)によって測定される、10nM未満のKDで結合する抗体および抗原結合性断片を含む。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、インフルエンザAグループ2HAに、例えば、本明細書に記載のアッセイフォーマット、または実質的に類似したアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定した、約5nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約500pM未満、250pM未満、または100pM未満のKDで結合する。
【0149】
本発明はまた、例えば、本明細書で定義されるようなアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して、37℃で表面プラズモン共鳴により測定したときに、約75分を超える解離半減期(t1/2)で、インフルエンザAグループ2HAに結合する、抗体およびその抗原結合性断片を含む。特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合性断片は、インフルエンザHAに、例えば本明細書に定義されるアッセイフォーマット(例えば、mAb捕捉形式または抗原捕捉形式)、または実質的に類似したアッセイを使用して、25℃で表面プラズモン共鳴により測定された、約200分超、約300分超、約400分超、約500分超、約600分超、約700分超、約800分超、約900分超、または約1000分超のt1/2で結合する。
【0150】
本発明はまた、その宿主細胞に対するインフルエンザウイルスの感染性を中和する抗体またはその抗原結合性断片を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、さまざまな代表的なグループ2インフルエンザウイルスA/Aichi/02/1968-PR8-X31(H3N2);A/Philippines/01/1982(H3N2)およびA/Shanghai/01/2013-PR8(H7N9)に対して、例えば、実施例4、または実質的に類似したアッセイに示されるように、マイクロ中和アッセイにおいて、約5.7nM~約405nMの範囲のIC50で中和効力を示す。
【0151】
本発明はまた、感染細胞の補体依存性細胞傷害を、最大溶解78.3%で140nMのEC50で媒介する、抗体またはその抗原結合性断片を含む(実施例5を参照)。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、レポーターアッセイおよび末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、HA装飾細胞を溶解する能力によって示されるように、感染細胞の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を媒介する。レポーターアッセイでは、EC50は、H1H14611N2については0.8714nM、H1H14612N2については0.6882nMであった。PBMCタイプアッセイでは、EC50は、H1H14611N2については0.1463nM、H1H14612N2については0.1762nMであった(実施例6を参照)。
【0152】
本発明はまた、インビボで、インフルエンザA感染の保護の増加、または強力な中和を示す、抗インフルエンザAグループ2HA抗体を含む。特定の抗体は、治療的に投与されたときに強力な中和を示す(感染後、実施例7を参照)。一実施形態では、感染後96時間で投与された7mg/kgまたは15mg/kgのH1H14611N2の一回投与量は、治療的に投与されたとき、マウス(それぞれ)の80%および100%の生存率をもたらした。特定の例示的抗体(H1H14611N2およびH1H14612N2)が感染後24、48、または72時間で15mg/kgの単回投与として投与された場合も、100パーセントの生存率が観察された。一実施形態では、H1H14611N2は、抗ウイルス薬であるオセルタミビルと組合わせたとき、インフルエンザ感染哺乳類において相加的な保護効果を示した。
【0153】
一実施形態では、本発明は、インフルエンザAグループ2HAに特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片であって、以下の特徴:(a)完全ヒトモノクローナル抗体である、(b)表面プラズモン共鳴によって測定される場合、10-8未満の解離定数(KD)でインフルエンザAグループ2HAに結合する、(c)75分超の解離半減期(t1/2)を示す、
。(d)H3N2株およびH7N9株から選択されるインフルエンザAグループ2ウイルスの、それぞれ200nM未満および500nM未満のIC50での中和を示す、(e)インフルエンザウイルス感染細胞の、約150nM未満のEC50での補体媒介性溶解を示す、(f)レポーターバイオアッセイを用いたウイルス感染標的細胞の、約0.9nM未満のEC50での抗体依存性細胞媒介細胞障害を示す、(g)ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の存在下でのウイルス感染標的細胞の、約0.180nM未満のEC50での抗体依存性細胞媒介細胞毒性を示す、(h)インフルエンザ感染動物での、ウイルス攻撃後24、48、72または96時間で投与した場合の生存率の増加を示す、(i)インフルエンザ感染動物での、感染後96時間でオセルタミビルと組合わせて投与した場合の生存率の増加を示す、または(j)抗体またはその抗原結合性断片が、表1に記載の重鎖可変領域(HCVR)配列のいずれか一つに含有される三つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、および表1に記載の軽鎖可変領域(LCVR)配列のいずれか一つに含有される三つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、のうちの二つ以上を有する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0154】
本発明の抗体は、前述の生物学的特徴、またはそれらの任意の組み合わせのうちの二つ以上を有してもよい。本発明の抗体のその他の生物学的特徴は、本明細書の作業実施例を含む本開示の検討から当業者に明らかであろう。
【0155】
エピトープマッピングおよび関連技術
本発明は、インフルエンザAグループ2HA分子の一つまたは複数のドメイン内に見られる一つまたは複数のアミノ酸と相互作用する、抗インフルエンザAグループ2HA抗体を含む。抗体が結合するエピトープは、インフルエンザHA分子内に位置する3つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20以上)のアミノ酸の単一の連続配列からなりうる(例えば、ドメイン内の直線状エピトープ)。あるいは、エピトープは、インフルエンザAグループ2HA分子内に位置する複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなりうる(例えば、立体構造エピトープ)。
【0156】
当業者にとって公知のさまざまな技術を使用して、抗体が、ポリペプチドまたはタンパク質内の「一つまたは複数のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技術としては、例えば、Antibodies、Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY)に記載されたものなどの常套的な交差遮断アッセイが挙げられる。他の方法としては、アラニンスキャニング変異解析、ペプチドブロット分析(Reineke(2004)Methods Mol.Biol.248:443-63)、ペプチド切断解析結晶学的研究およびNMR分析が挙げられる。さらに、抗原のエピトープ切り出し、エピトープ抽出、および化学修飾などの方法を用いることができる(Tomer(2000)Prot.Sci.9:487-496)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析により検出される水素/重水素交換である。一般的な用語において、水素/重水素交換方法は、対象タンパク質を重水素で標識すること、続いて重水素で標識したタンパク質に抗体を結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体は、水に移され、抗体複合体によって保護されるアミノ酸内の交換可能なプロトンは、界面の一部ではないアミノ酸内の交換可能なプロトンよりも遅い速度で、重水素から水素への逆交換を受ける。結果として、タンパク質/抗体界面の一部を形成するアミノ酸は、重水素を保持しうるため、界面に含まれないアミノ酸と比較して、比較的高い質量を呈する。抗体の解離後、標的タンパク質はプロテアーゼ切断および質量分析解析を受け、それと抗体が相互作用する特異的なアミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267:252-259;Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照のこと。
【0157】
「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、連続的なアミノ、またはタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続的なアミノ酸のどちらからも形成されることができる。連続したアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒への露出に際して保持されるのに対して、三次フォールディングにより形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒による処理に際して損なわれる。典型的にはエピトープは、固有の空間構造にある少なくとも3個、より一般的には少なくとも5個、または8~10個のアミノ酸を含む。
【0158】
抗原構造に基づく抗体プロファイリング(ASAP)としても公知の修飾補助プロファイリング(MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性にしたがって、同一抗原に対して方向付けられた多数のモノクローナル抗体(mAbs)を分類する方法である(US2004/0101920を参照のこと。参照によりその全体が本明細書に具体的に組み込まれる)。各カテゴリーは、別のカテゴリーによって表されるエピトープと明瞭に異なるか、または部分的に重複する固有エピトープを反映しうる。本技術は、遺伝的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にし、その結果、特性評価は遺伝的に異なる抗体に焦点を当てることができる。ハイブリドーマスクリーニングに適用する場合、MAPは、所望の特性を有するmAbを産生する希少なハイブリドーマクローンの識別を容易にしうる。MAPを使用して、本発明の抗体を、異なるエピトープに結合する抗体のグループに分類することができる。
【0159】
特定の実施形態では、インフルエンザウイルスAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片は、エピトープを、天然形態または組換えによって産生された、インフルエンザHAに例示される領域のうちの一つまたは複数内に、またはその断片へ結合させる。
【0160】
本発明は、同じエピトープまたはエピトープの一部に結合する、抗インフルエンザAグループ2HA抗体を含む。同様に、本発明は、インフルエンザAグループ2HAまたはその断片への結合を、本明細書に記載される特定の例示的な抗体のいずれかと競合する、抗インフルエンザAグループ2HA抗体も含む。例えば、本発明は、インフルエンザAグループ2HAへの結合を、表1に記載された抗体から得られた一つまたは複数の抗体と交差競合する、抗インフルエンザAグループ2HA抗体を含む。
【0161】
当該技術分野で公知の通常の方法を使用することにより、抗体が、参照抗インフルエンザAグループ2HA抗体と同じエピトープに結合するか、または結合について競合するかを簡単に判断できる。例えば、試験抗体が、本発明の参照抗インフルエンザAグループ2HA抗体と同じエピトープに結合するかどうかを判定するために、参照抗体を、飽和条件下で、インフルエンザAグループ2HAまたはペプチドに結合させることができる。次に、インフルエンザAグループ2HA分子に結合する試験抗体の能力が評価される。試験抗体が、参照抗インフルエンザAグループ2HA抗体との飽和結合後に、インフルエンザAグループ2HAに結合することができる場合、試験抗体は、参照抗インフルエンザAグループ2HA抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。一方で、試験抗体が、参照抗インフルエンザAグループ2HA抗体との飽和結合後に、インフルエンザAグループ2HAに結合できない場合、試験抗体は、本発明の参照抗インフルエンザAグループ2HA抗体により結合されるエピトープと同じエピトープに結合してもよい。
【0162】
抗体が、参照抗インフルエンザAグループ2HA抗体との結合について競合するかどうかを判断するために、上述の結合方法論が二つの方向性で実施される:第一の方向性では、参照抗体は、飽和条件下でインフルエンザAグループ2HAに結合させ、その後にインフルエンザAグループ2HA分子への試験抗体の結合を評価する。第二の方向性では、試験抗体は、飽和条件下でインフルエンザAグループ2HA分子に結合させ、その後にインフルエンザAグループ2HA分子への参照抗体の結合を評価する。両方の方向性で、第一の(飽和する)抗体のみがインフルエンザAグループ2HA分子に結合することができる場合、試験抗体および参照抗体はインフルエンザAグループ2HAへの結合について競合すると結論付けられる。当分野の当業者によって理解されるように、参照抗体への結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープに結合しなくてよく、重複または隣接するエピトープを結合することによって参照抗体の結合を立体的に遮断しうる。
【0163】
二つの抗体は、それぞれが他方の抗原への結合を競合的に阻害(遮断)する場合、同じまたは重複したエピトープに結合する。すなわち、1、5、10、20、または100倍の過剰な一方の抗体は、競合結合アッセイで測定する場合、他方の結合を、少なくとも50%であるが好ましくは75%、90%またはさらに99%阻害する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990 50:1495-1502を参照のこと)。あるいは、一方の抗体の結合を減少または除去する抗原中の本質的に全てのアミノ酸突然変異が、他方の抗体の結合を減少または除去する場合、二つの抗体は同一エピトープを有する。一方の抗体の結合を減少または除去するいくつかのアミノ酸突然変異が、他方の抗体の結合を減少または除去する場合、二つの抗体は重複するエピトープを有する。
【0164】
追加的な通常の実験(例えば、ペプチド突然変異および結合分析)が、試験抗体の結合の観察された欠如が、実際に、参照抗体と同じエピトープに結合することによるのかどうか、または立体遮断(または別の現象)が観察された結合の欠如に責任を負うかどうか、を確認するために実行されうる。この種類の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当該技術分野で利用可能な任意の他の定量的または定性的抗体結合アッセイを使用して実施することができる。
【0165】
免疫コンジュゲート
本発明は、インフルエンザウイルス感染を治療するためのトキソイドまたは抗ウイルス薬などの治療用部分とコンジュゲートした、ヒト抗インフルエンザAグループ2 HAモノクローナル抗体(「免疫コンジュゲート」)を包含する。本明細書で使用される場合、「免疫コンジュゲート」という用語は、放射性薬剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドもしくはタンパク質、または治療剤と化学的または生物学的に連結する抗体を指す。抗体は、その標的に結合できる限り、分子に沿った任意の場所で、放射性薬剤、サイトカイン、インターフェロン、標的またはレポーター部分、酵素、ペプチドまたは治療剤に連結されてもよい。免疫コンジュゲートの例には、抗体薬物コンジュゲートおよび抗体-毒素融合タンパク質が含まれる。一実施形態では、薬剤はインフルエンザ-HAに対する第二の異なる抗体であってもよい。特定の実施形態では、抗体は、ウイルス感染細胞に特異的な薬剤とコンジュゲートされてもよい。抗インフルエンザ-HA抗体にコンジュゲートされうる治療用部分のタイプは、治療される状態および達成される望ましい治療効果を考慮する。免疫コンジュゲートを形成するための適切な薬剤の例は、当該技術分野で公知である;例えば、WO05/103081を参照のこと。
【0166】
多重特異性抗体
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性、または多重特異性であってもよい。多重特異性抗体は、一つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であってもよく、または二つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有してもよい。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60-69;Kufer et al.,2004,Trends Biotechnol.22:238-244を参照のこと。
【0167】
本発明の多重特異性抗原結合分子またはそのバリアントはいずれも、当業者に公知であろう、標準的な分子生物学的技法(例えば、組換えDNAおよびタンパク質発現技術)を用いて構築することができる。
【0168】
いくつかの実施形態では、インフルエンザAグループ2HA特異的抗体は、インフルエンザAグループ2HAの別個のドメインに結合する可変領域が連結して、単一結合分子内に二重ドメイン特異性を与える、二重特異的フォーマット(「二重特異性」)で生成される。適切に設計された二重特異性体は、特異性および結合親和性の両方を増大させることにより、全体的なインフルエンザAグループ2HA-タンパク質阻害有効性を増強しうる。個別ドメイン(例えば、N末端ドメインのセグメント)に対する特異性を有する可変領域、または一つのドメイン内の異なる領域に結合できる可変領域を、各領域が別個のエピトープ、または一つのドメイン内の異なる領域に同時に結合することを可能にする、構造的足場上でペアリングされる。一例では、二重特異性のために、一つのドメインに対する特異性を有する結合由来の重鎖可変領域(VH)を、第二のドメインに対する特異性を有する一連の結合由来の軽鎖可変領域(VL)で組換えて、元のVHとそのVHの元の特異性を妨げることなくペアリングさせることが可能な非同族VLパートナーを特定する。このように、単一のVLセグメント(例えば、VL1)を、二つの異なるVHドメイン(例えば、VH1およびVH2)と組合わせて、二つの結合「アーム」(VH1~VL1およびVH2~VL1)からなる二重特異性体を生成することができる。単一のVLセグメントの使用は、二重特異性体を生成するために使用されるクローニング、発現、および精製プロセスにおいて、系の複雑さを低減し、それによって単純化し、効率を向上させる(例えば、USSN13/022759およびUS2010/0331527を参照のこと)。
【0169】
あるいは、二つ以上のドメイン、および限定されないが、例えば、第二の異なる抗インフルエンザAグループ2HA抗体などの第二の標的に結合する抗体は、本明細書に記載される技術、または当業者に公知の他の技術を使用して、二重特異性フォーマットで調製されてもよい。別個の領域に結合する抗体可変領域は、例えば、インフルエンザウイルスの関連部位に結合する可変領域と連結して、単一結合分子内に二重抗原特異性を付与することができる。この性質の適切に設計された二重特異性は、二重の機能を果たす。細胞外ドメインに対する特異性を有する可変領域は、細胞外ドメインの外部に対する特異性を有する可変領域と組合わされ、各可変領域が別々の抗原に結合することを可能にする構造的足場上でペアリングされる。
【0170】
本発明の文脈で使用できる例示的な二重特異性抗体フォーマットは、第一のイムノグロブリン(Ig)CH3ドメインと第二のIgCH3ドメインの使用を含み、ここにおいて、第一および第二のIgCH3ドメインは、少なくとも一つのアミノ酸によって互いに異なり、またここにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の差異は、アミノ酸の差異を欠いている二重特異性抗体と比較して、二重特異性抗体のタンパク質Aへの結合を減少させる。一実施形態では、第一のIgCH3ドメインは、プロテインAに結合し、第二のIgCH3ドメインは、H95R改変(IMGTエクソンナンバリングによる、EUナンバリングではH435R)などのプロテインA結合を減少または無効にする変異を含有する。第二のCH3はさらに、Y96F改変(IMGTによる、EUではY436F)を含んでもよい。第二のCH3に見出されうるさらなる改変としては、以下が挙げられる:IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる、EUではD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGT、EUではN384S、K392N、およびV422I)、ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる、EUではQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)。上述の二重特異性抗体フォーマットの変形は、本発明の範囲内で意図されている。
【0171】
本発明に関して使用することのできる他の例示的な二重特異性のフォーマットとしては、非限定的に、例えば、scFvベースまたはダイアボディ二重特異性のフォーマット(diabody bispecific format)、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ(Quadroma)、ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)、共通軽鎖(例えば、ノブ・イントゥ・ホールを有する共通軽鎖など)、CrossmAb、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、デュオボディ(Duobody)、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)-IgG、およびMab2二重特異性フォーマット(例えば、Klein et al.2012、mAbs 4:6、1~11、およびそこで引用される参考文献を、前述のフォーマットの考察のために参照)が挙げられる。二重特異性抗体は、例えば、次いで、定義された組成、結合価および幾何学的形状を有する多量体複合体に自己組織化する、部位特異的な抗体-オリゴヌクレオチドコンジュゲートを生成するために、直交化学反応を有する非天然アミノ酸を使用する場合、ペプチド/核酸コンジュゲーションを使用して構築することもできる(例えば、Kazane et al.,J.Am.Chem.Soc.[Epub:Dec.4,2012]を参照のこと)。
【0172】
治療用の投与および製剤
本発明は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体またはその抗原結合性断片を含む治療用組成物を提供する。本発明による治療用組成物は、移行、送達、耐性などの改善をもたらすために製剤に組み込まれる、適切な担体、賦形剤、および他の薬剤と共に投与される。多数の適切な製剤は、全ての薬学的化学において公知の処方集、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAにおいて見出されうる。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、小胞を含有する脂質(カチオン性またはアニオン性)(LIPOFECTIN(商標)など)、DNA共役体、無水吸収ペースト、水中油および油中水乳剤、乳剤カルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカルボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0173】
抗体の用量は、投与されることになっている対象の年齢およびサイズ、標的疾患、容態、投与経路などによって変わりうる。本発明の抗体が、成人患者の疾患または障害を治療するために、またはこのような疾患を防止するために使用される場合、本発明の抗体を、通常、体重1kg当たり約0.1~約60mg、より好ましくは体重1kg当たり約5~約60mg、約10~約50mg、または約20~約50mgの単回投与で投与することが有利である。状態の重症度に応じて、治療の頻度および期間を調節できる。特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合性断片は、少なくとも約0.1mg~約5000mg、約1~約2000mg、約5~約1000mg、または約10~約500mg、~約100mg、または~約50mgの初回用量として投与されうる。特定の実施形態では、初回用量の後に、当初の用量とおよそ同量か、または当初の用量より少ない用量でありうる量の抗体またはその抗原結合性断片の第二または複数回のその後の用量の投与が続いてもよく、ここにおいて、その後の用量は、少なくとも1日~3日に;少なくとも1週間に、少なくとも2週間に、少なくとも3週間に;少なくとも4週間に;少なくとも5週間に;少なくとも6週間に;少なくとも7週間に;少なくとも8週間に;少なくとも9週間に;少なくとも10週間に;少なくとも12週間に;または少なくとも14週間の間をあける。
【0174】
さまざまな送達系が公知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用されうる。例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、突然変異ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスなど(例えば、Wu et al.(1987)J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照のこと)。導入方法には、皮内経路、経皮経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、任意の好都合な経路によって、例えば、注入もしくはボーラス注射によって、上皮もしくは粘膜皮膚内層(linings)(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜および腸粘膜など)を介した吸収によって投与することができ、かつ他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身性または局所性であってもよい。医薬組成物は、ベシクル、特にリポソームで送達されうる(例えば、Langer(1990)Science 249:1527-1533を参照のこと)。
【0175】
本発明の抗体を送達するためのナノ粒子の使用も本明細書で意図されている。抗体とコンジュゲートしたナノ粒子は、治療用途および診断用途の両方で使用されうる。抗体とコンジュゲートしたナノ粒子、および調製方法および使用方法は、参照により本明細書に組み込まれる、Arruebo、M.、et al.2009(“Antibody-conjugated nanoparticles for biomedical applications”in J.Nanomat.Volume 2009,Article ID 439389,24 pages,doi:10.1155/2009/439389)に詳細に記載されている。ウイルス感染細胞を標的にするために、ナノ粒子は開発され、医薬組成物中に含有される抗体にコンジュゲートされてもよい。薬物送達のためのナノ粒子はまた、例えば、US8257740、またはUS8246995号に記載され、その全体がそれぞれ本明細書に組み込まれる。
【0176】
ある特定の状況では、医薬組成物は、制御放出系で送達されうる。一実施形態では、ポンプを使用することができる。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。さらに別の実施形態では、制御放出系を組成物の標的の近傍に配置することができ、したがって全身用量のほんの一部しか必要としない。
【0177】
注入可能な調製物は、静脈内、皮下、皮内、頭蓋内、腹腔内および筋肉内注射、点滴などの投与形態を含みうる。これらの注射可能な調製物は、公知の方法によって調製されてもよい。例えば、注入可能な調製物は、例えば、注入に従来使用される無菌水性媒体または油性媒体に、上述される抗体またはその塩を溶解、懸濁、または乳化させることによって調製されうる。注射用水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースを含有する等張液、および他の助剤などがあり、これらは、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加物)]などの適切な可溶化剤と併用されうる。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが採用され、これらは安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と併用されうる。このようにして調製した注射液は、好ましくは、適切なアンプル中に充填される。
【0178】
本発明の医薬組成物は、標準的な針およびシリンジを用いて、皮下または静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本発明の医薬組成物の送達において、容易に用途を見出す。そのようなペン型送達デバイスは、再利用可能であるか、または使い捨てでありうる。再利用可能なペン型送達デバイスは、概して、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内部の医薬組成物の全てが投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジは、容易に廃棄することができ、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと交換されうる。次に、ペン型送達デバイスは再利用することができる。使い捨てペン型送達デバイスでは、交換可能なカートリッジはない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、医薬組成物がデバイス内部のリザーバ内に保持された事前に充填された状態で販売される。いったんリザーバの医薬組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0179】
多数の再利用可能なペン型および自動注入装置送達デバイスは、本発明の医薬組成物の皮下送達において用途を見出す。例としては、ほんの数例を挙げると、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.,Woodstock,UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems,Burghdorf,Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.,Indianapolis,IN)、NOVOPEN(商標)I、II、およびIII(Novo Nordisk,Copenhagen,DenMark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk,Copenhagen,DenMark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(Sanofi-Aventis,Frankfurt,Germany)が挙げられるが、決してこれらに限定されない。本発明の医薬組成物の皮下送達において用途を見出す使い捨てペン型送達デバイスの例としては、ほんの数例を挙げると、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-Aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)Autoinjector(Amgen,Thousand Oaks,CA)、PENLET(商標)(Haselmeier,Stuttgart,Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)Pen(Abbott Labs,Abbott Park,IL)が挙げられるが、決してこれらに限定されない。
【0180】
有利に、上述の経口または非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量を適合させるのに適した単位用量で剤形に調製される。単位用量におけるこのような剤形には、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル剤)、坐剤などが含まれる。含有される抗体の量は、一般的に単位用量で剤形あたり約5~約5000mgであり、特に注射の形態では、抗体は約5~約500mgに含有されることが好ましく、およびその他の剤形に対しては約10~約250mgに含有されることが好ましい。
【0181】
抗体の治療用途
本発明の抗体は、インフルエンザウイルス感染に関連する疾患または障害または状態の治療、および/または防止、ならびに/またはかかる疾患、障害または状態に関連する少なくとも一つの症状を改善するために有用である。
【0182】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、インフルエンザウイルスに起因する重度および急性の呼吸器感染症を患う対象を治療するために有用である。いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、宿主中のウイルス力価の低下またはウイルス量の減少に有用である。一実施形態では、本発明の抗体または抗原結合性断片は、インフルエンザウイルス感染を有する患者に対して治療用量で投与されてもよい。
【0183】
本発明の一つまたは複数の抗体を投与して、疾患または障害の一つまたは複数の症状または状態の重症度を改善または防止または低減させることができる。抗体は、これらに限定されないが、発熱、咳、喉の痛み、頭痛、体の痛み、疲労、極度の疲労、息切れ、気管支炎、肺炎、および死亡を含む、インフルエンザウイルス感染の少なくとも一つの症状の重症度を改善または低減するために使用されうる。
【0184】
また、本発明の一つまたは複数の抗体を、免疫不全個体、高齢者(65歳以上)、2歳未満の子供、医療従事者、インフルエンザウイルス感染患者の極めて近くにいる家族、および病歴(例えば、肺感染症、心疾患または糖尿病のリスクの上昇)のある患者など、インフルエンザウイルス感染の発症のリスクのある対象に予防的に使用することも意図されている。
【0185】
本発明のさらなる実施形態では、本抗体は、インフルエンザウイルス感染症を患う患者を治療するための医薬組成物の調製に使用される。本発明の別の実施形態では、本抗体は、インフルエンザウイルス感染の治療または改善に有用な当業者に公知の任意の他の薬剤または任意の他の治療と共に、補助療法として使用される。
【0186】
併用療法
併用療法は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体、および本発明の抗体または本発明の抗体の生物学的に活性な断片と有利に組み合わせられうる、任意の追加的治療剤を含みうる。本発明の抗体は、インフルエンザウイルスを治療するために使用される一つまたは複数の薬物または薬剤(例えば、抗ウイルス剤)と相乗的に組み合わせられうる。
【0187】
例えば、例示的抗ウイルス剤には、例えば、ワクチン、ノイラミニダーゼ阻害剤またはヌクレオシド類似体が含まれる。本発明の抗体と組み合わせて使用されうる他の例示的抗ウイルス剤には、例えば、ジドブジン、ガンシクロビル(gangcyclovir)、ビダラビン、イドクスウリジン、トリフルリジン、ホスカルネット、アシクロビル、リバビリン、アマンタジン、リマンタジン(remantidine)、サキナビル、インジナビル、リトナビル、アルファ-インターフェロンおよび他のインターフェロン、ノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、ザナミビル(RELENZA(登録商標))、オセルタミビル(TAMIFLU(登録商標))ラニナミビル、ペラミビル)、またはリマンタジンが含まれる。
【0188】
他の例示的抗ウイルス薬には、HA阻害剤、シアル酸阻害剤およびM2イオンチャネル阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、M2イオンチャネル阻害剤はアマンタジンまたはリンタジンである。
【0189】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、インフルエンザウイルス感染を有する患者のウイルス量を減少させるために、または感染の一つまたは複数の症状を改善するために、第二の治療剤と組み合わされてもよい。
【0190】
本発明の抗体は、抗炎症薬(例えば、コルチコステロイド、および非ステロイド性抗炎症薬)、充血緩和剤、抗ヒスタミン薬、抗感染薬、インフルエンザウイルスに対する異なる抗体、抗ウイルス薬、FLUMIST(登録商標)またはFLUVIRIN(登録商標)などのインフルエンザウイルスに対するワクチン、抗酸化剤などの栄養補助食品、またはインフルエンザウイルス感染を治療するための他の任意の緩和療法と組み合わせて使用されてもよい。
【0191】
特定の実施形態では、第二の治療剤はインフルエンザに対する別の抗体である。特定の実施形態では、第二の治療剤は、インフルエンザヘマグルチニンに対する別の抗体である。特定の実施形態では、第二の治療剤は、ノイラミニダーゼ、またはマトリクスタンパク質2の四量体外部ドメイン(M2eタンパク質)などの異なるインフルエンザタンパク質に対する別の抗体である。特定の実施形態では、第二の治療剤は、宿主膜貫通プロテアーゼ、セリン2(TMPRSS2)などの異なるタンパク質に対する抗体である。第二の抗体は、ウイルスの異なるサブタイプまたは株に由来する一つまたは複数の異なるインフルエンザウイルスタンパク質に対して特異的であってもよい。本明細書では、インフルエンザウイルスに対する広範な中和活性または阻害活性を有する抗体の併用(「カクテル」)を使用することが意図されている。いくつかの実施形態では、非競合抗体を組み合わせて、それを必要とする対象に投与し、選択圧力の結果としての急速な突然変異により、インフルエンザウイルスの逃げる能力を低下させることができる。いくつかの実施形態では、組合わせを含む抗体は、HAタンパク質上の別個の重複しないエピトープに結合する。組合わせを含む抗体は、ウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入および/または宿主細胞との融合を遮断しうる。抗体は、H3、H4、H7、H10、H14およびH15のサブタイプを含む、グループ2インフルエンザAサブタイプのいずれか一つまたは複数から選択されるヘマグルチニンと相互作用することができ、単独で、または上記の薬剤のいずれか一つまたは複数と組み合わせて使用される場合、以下に限定されないが、以下:H3N2、H7N9を含む、グループ2インフルエンザサブタイプのいずれか一つまたは複数を中和することができる。
【0192】
本明細書では、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体の組合わせの使用も意図されており、組合わせは、交差競合しない一つまたは複数の抗体を含み、いくつかの実施形態では、組合せは、広範な中和活性を有する第一の抗体と、狭いスペクトルの分離株に対する活性を有し、第一の抗体と交差競合しない第二の抗体とを含む。
【0193】
本明細書で使用される場合、「組み合わせ」という用語は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体の投与前、同時に、または投与後に、投与されうる追加の治療上活性な成分を意味する。「組み合わせ」という用語はまた、抗インフルエンザ-HA抗体および第二の治療剤の逐次投与または同時投与も含む。
【0194】
追加の治療上活性な成分は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体の投与前に対象に投与されてもよい。例えば、第一の成分が、第二の成分の投与の1週間前、72時間前、60時間前、48時間前、36時間前、24時間前、12時間前、6時間前、5時間前、4時間前、3時間前、2時間前、1時間前、30分前、15分前、10分前、5分前、または1分未満前に投与される場合に、第一の成分は、第二の成分の「前に」投与されると見なされうる。他の実施形態では、追加の治療上活性な成分は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体の投与後に対象に投与されてもよい。例えば、第一の成分が、第二の成分の投与の1分後、5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後、72時間後に投与される場合に、第一の成分は、第二の成分の「後に」投与されると見なされうる。さらに他の実施形態では、追加の治療上活性な成分は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体の投与と同時に対象に投与されてもよい。本発明の目的のために「同時に」投与することは、例えば、抗インフルエンザAグループ2HA抗体および追加の治療上活性な成分を単一剤形で対象に投与すること、または別個の剤形で互いに約30分以内に対象に投与することを含む。別個の剤形で投与する場合、各剤形は同じ経路を介して投与することができ(例えば、抗インフルエンザAグループ2HA抗体および追加の治療上活性な成分の両方を静脈内に投与することができるなど)、別の方法として、各剤形は異なる経路を介して投与することができる(例えば、抗インフルエンザAグループ2HA抗体は静脈内に投与されてもよく、追加の治療上活性な成分は経口投与されてもよい)。いずれの場合でも、成分を、単一の剤形を同じ経路で、別個の剤形を同じ経路で、または別個の剤形を異なる経路で投与することはすべて、本開示の目的のための「同時投与」とみなされる。本開示の目的のために、追加の治療上活性な成分の投与の「前に」、「同時に」または「後に」、抗インフルエンザAグループ2HA抗体投与することは、抗インフルエンザAグループ2HA抗体を、追加の治療上活性な成分と「組み合わせて」投与することとみなされる。
【0195】
本発明は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体が、本明細書の他の場所に記載される追加の治療上活性な成分のうちの一つまたは複数と共製剤化される医薬組成物を含む。
【0196】
投与レジメン
特定の実施形態によると、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体(または抗インフルエンザAグループ2HA抗体と本明細書で言及される追加の治療上活性な薬剤のいずれかとの組合わせを含む医薬組成物)の単回投与を、それを必要とする対象に投与することができる。本発明の特定の実施形態によると、抗インフルエンザAグループ2HA抗体(または抗インフルエンザAグループ2HA抗体と本明細書で言及される追加の治療上活性な薬剤のいずれかとの組合わせを含む医薬組成物)の複数回用量を、対象に定義された時間コースにわたって投与することができる。本発明の本態様による方法は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体の複数回用量を対象に逐次的に投与することを含む。本明細書で使用される場合、「逐次的に投与する」とは、抗インフルエンザAグループ2HA抗体の各用量が、例えば所定の間隔(例えば、時間、日、週または月)をあけた異なる日など、異なる時点で対象に投与されることを意味する。本発明は、抗インフルエンザAグループ2HA抗体の単一の初回用量、次いで抗インフルエンザAグループ2HA抗体の一つまたは複数の二次用量を、および任意選択で、その後、抗インフルエンザAグループ2HA抗体の一つまたは複数の三次用量を、患者に逐次的に投与することを含む方法を含む。
【0197】
「初回用量」、「二次用量」、および「三次用量」という用語は、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体の投与の時間配列を指す。したがって、「初回用量」は、治療レジメンの開始時に投与される用量である(また「ベースライン用量」とも呼称される)、「二次用量」は初回用量の後に投与される用量であり、「三次用量」は二次用量の後に投与される用量である。初回用量および二次用量および三次用量はすべて、同じ量の抗インフルエンザ-HA抗体を含有するが、投与頻度に関しては一般的に互いに異なっていてもよい。しかしながら、特定の実施形態では、初回用量、二次用量および/または三次用量に含有される抗インフルエンザAグループ2HA抗体の量は、治療過程の間、互いに異なる(例えば、適宜調整して加減する)。特定の実施形態では、二回以上(例えば、2、3、4、または5)の用量は、治療レジメンの開始時に「負荷用量」として投与され、その後に続く用量が、より低い頻度ベースで投与される(例えば、「維持用量」)。
【0198】
本発明の特定の例示的実施形態では、各二次用量および/または三次用量は、直前の用量の1~48時間後(例えば、1時間後、1時間半後、2時間後、2時間半後、3時間後、3時間半後、4時間後、4時間半後、5時間後、5時間半後、6時間後、6時間半後、7時間後、7時間半後、8時間後、8時間半後、9時間後、9時間半後、10時間後、10時間半後、11時間後、11時間半後、12時間後、12時間半後、13時間後、13時間半後、14時間後、14時間半後、15時間後、15時間半後、16時間後、16時間半後、17時間後、17時間半後、18時間後、18時間半後、19時間後、19時間半後、20時間後、20時間半後、21時間後、21時間半後、22時間後、22時間半後、23時間後、23時間半後、24時間後、24時間半後、25時間後、25時間半後、26時間後、26時間半後、またはそれ以上)に投与される。本明細書で使用される場合、「直前の用量」という語句は、一連の複数回投与において、間に用量を挟まずに、一連の中のすぐ次の用量の投与前に患者に投与される、抗インフルエンザAグループ2HA抗体の用量を意味する。
【0199】
本発明の本態様による方法は、抗インフルエンザAグループ2HA抗体の二次用量および/または三次用量の任意の数を患者に投与することを含みうる。例えば、特定の実施形態では、患者に単一の二次用量のみが投与される。他の実施形態では、二つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上)の二次用量を患者に投与する。同様に、特定の実施形態では、患者に単一の三次用量のみが投与される。他の実施形態では、二つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上)の三次用量を患者に投与する。
【0200】
本発明の特定の実施形態では、二次用量および/または三次用量が患者に投与される頻度は、治療レジメンの過程で変化する可能性がある。投与の頻度は、臨床検査後の個々の患者のニーズに応じて、医師による治療過程の間に、調節されうる。
【0201】
抗体の診断上の使用
本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体は、例えば、診断上の目的のために、試料中のインフルエンザAグループ2HAを検出および/または測定するために使用されうる。いくつかの実施形態は、ウイルス感染などの疾患または障害を検出するアッセイにおける、本発明の一つまたは複数の抗体の使用を企図している。インフルエンザAグループ2HAの例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を、本発明の抗インフルエンザAグループ2HA抗体と接触させることを含み、抗インフルエンザAグループ2HA抗体は、検出可能な標識またはレポーター分子で標識されるか、またはインフルエンザAグループ2HAを患者試料から選択的に単離するための捕捉リガンドとして使用される。あるいは、標識されていない抗インフルエンザAグループ2HA抗体は、それ自体が検出可能に標識された二次抗体との組み合わせで、診断用途に使用することができる。検出可能な標識またはレポーター分子は、3H、14C、32P、35S、または125Iなどの放射性同位体、フルオレセインイソチオシアネートもしくはローダミンなどの蛍光部分もしくは化学発光部分、またはアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼなどの酵素でありうる。試料中のインフルエンザAグループ2HAを検出または測定するために使用することのできる具体的な例示的アッセイには、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光標識細胞分取(FACS)が含まれる。
【0202】
本発明によるインフルエンザAグループ2 HA診断アッセイで使用できる試料には、正常な状態または病理学的状態下で、検出可能な量のインフルエンザAグループ2HA、またはその断片のいずれかを含有する、患者から得ることができる任意の組織または流体試料が含まれる。一般的に、健康な患者(例えば、インフルエンザに関連する疾患に罹患していない患者)から得られた特定の試料中のインフルエンザAグループ2HAのレベルは、初期的にベースラインまたは標準のインフルエンザAグループ2HAのレベルを確立するために測定される。インフルエンザAグループ2HAのこのベースラインレベルは、インフルエンザAグループ2HA関連症状、またはこうした状態に関連する症状を有する疑いがある個体から得られた試料で測定されたインフルエンザAグループ2HAのレベルと比較されうる。
【0203】
インフルエンザAグループ2HAに特異的な抗体は、追加の標識または部分を含有しないか、またはN末端もしくはC末端の標識または部分を含有してもよい。一実施形態では、標識または部分はビオチンである。結合アッセイでは、標識(ある場合)の位置が、ペプチドが結合する表面に対するペプチドの配向を決定する場合がある。例えば、表面がアビジンで被覆される場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端部分が表面から遠位になるように配向される。
【実施例】
【0204】
実施例
以下の実施例は、本発明の方法および組成物をどのように作成し使用するかを当業者へ完全に開示するために提供されており、発明者がその発明として見なすものの範囲を限定することを意図していない。使用した数字(例えば、量、温度等)に対する正確さを確保するために努力がなされているが、一部の実験誤差および偏差を考慮に入れるべきである。別途示さない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏であり、室温は約25oCであり、圧力は大気圧または大気圧に近い。
【0205】
実施例1:インフルエンザAグループ2ヘマグルチニン(HA)に対するヒト抗体の生成
インフルエンザAグループ2HAに対するヒト抗体が、ヒトイムノグロブリン重鎖可変領域およびカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスで生成された。マウスはA/Hong Kong/08/1968(H3N2)に続いてA/Hong Kong/05/1972-PR8-X36(H3N2)を用いて免疫し、次いでA/Hong Kong/08/1968(H3N2)を用いて再度免疫された。すべてのマウスを、A/Wisconsin/67/X-161/2005(H3N2)およびA/chicken/Netherlands/01/2003(H7N7)からのHAをコードするDNAの1:1混合物を用いて追加免疫した。抗体の免疫応答を、インフルエンザAグループ2HA特異的イムノアッセイによってモニタリングした。所望の免疫応答が達成されたとき、脾細胞を収集し、マウス骨髄腫細胞と融合させて、それらの生存率を維持し、ハイブリドーマ細胞株を形成した。ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングおよび選択して、インフルエンザAグループ2HA特異的抗体を産生する細胞株を識別した。この技術と上記のさまざまな免疫原を使用して、数種のキメラ抗体(すなわち、ヒト可変ドメインとマウス定常ドメインを保有する抗体)が取得された。
【0206】
また抗インフルエンザAグループ2HA抗体は、米国特許第7582298号に記載されるように、ミエローマ細胞との融合を行うことなく、抗原陽性マウスB細胞から直接単離された。当該文献は、その全体で参照により本明細書に明確に援用される。この方法を使用し、数種の完全ヒト抗インフルエンザHA抗体(すなわち、ヒト可変ドメインとヒト定常ドメインを保有する抗体)が取得された。
【0207】
本明細書に記載される二つの例示的抗体は、H1H14611N2およびH1H14612N2と呼ばれる。
【0208】
この実施例の方法にしたがって生成された例示的な抗体の生物学的特性を、以下に記載した実施例において詳細に説明する。
【0209】
実施例2:重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列
表1は、本発明の選択された抗インフルエンザAグループ2HA抗体の重鎖および軽鎖の可変領域ならびにCDRのアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子を表2に記載する。
表1:アミノ酸配列識別子
【表1】
表2:核酸配列識別子
【表2】
【0210】
抗体は通常、以下の命名法にしたがって本明細書で言及される:Fc接頭辞(例えば、「H1H」、「H2M」など)、その後に数値識別子(例えば、表1または2に示されるように、「14611」、「14612」など)、その後に「P」、「P2」、「N」、N2、または「B」の接尾辞。したがって、この命名法によると、抗体は、本明細書において、例えば、「H1H14611N2」、「H1H14612N2」などと呼ばれうる。本明細書で使用される抗体の名称におけるH1HまたはH2M接頭辞は、抗体の特定のFc領域アイソタイプを示す。例えば、「H1M」抗体は、マウスIgG1 Fcを有し、また「H2M」抗体は、マウスIgG2 Fc(aまたはbアイソタイプ)を有する(すべての可変領域は、抗体の名称の最初の「H」で示されるように、完全ヒトである)。当業者によって理解されるように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換することができる(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体は、ヒトIgG4を有する抗体に変換することができる、など)が、いずれの場合でも、表1および2に示される数値識別子によって示されている可変ドメイン(CDRを含む)は変わらず、抗原に対する結合特性はFcドメインの性質に関わらず同一または実質的に類似していると予想される。
【0211】
実施例3:モノクローナル抗インフルエンザAグループ2HA抗体の結合親和性および動力学的定数
ヒトモノクローナル抗インフルエンザAグループ2HA抗体の結合親和性および動力学的定数は、抗原捕捉フォーマットを用いた表面プラズモン共鳴によって決定された。測定はBiacore測定器で行われた。このフォーマットでは、Biacore高密度センサ表面が、モノクローナルマウス抗ヒトFc抗体とのアミンカップリングによって誘導体化され、ヒトFc定常領域で発現した抗インフルエンザAグループ2HA抗体を捕捉した。全てのHAタンパク質の捕捉されたmAbそれぞれに対する関連付けを、標準的な方法を使用してモニタリングした。この実験で利用されたフォールドン(foldon)タンパク質は、以下の表3に示すように、BEI Resources またはInfluenza Reagent Resource(IRR)から得た。結合解離平衡定数(K
D)および解離半減期(t
1/2)を、動力学的速度定数から以下のように計算した:
【数1】
【0212】
37℃での表面結合抗HA抗体に対するHAタンパク質の結合動態パラメータを表3にまとめる。
表3:37℃でのHAフォールドンタンパク質へのH1H14611N2結合の結合親和性および動態パラメータ。
【表3】
【0213】
結果
H1H14611N2は、グループ2、H3 HAに高親和性で結合する(表3)。平衡解離定数(KD値)は、A/Hiroshima/52/2005のnM範囲が低かった(H3N2;KD=8.22E-09)。H1H14611N2は、グループ1株に結合しなかった。
【0214】
実施例4:H1H14611N2およびH1H14612N2、広範囲のグループ2インフルエンザAウイルスを強力に中和
例示的モノクローナル抗体(mAb)H1H14611N2およびH1H14612N2は、二つの異なるフォーマットを使用して、インビトロで、マイクロ中和アッセイのために選択され、抗体の幅および効力を評価した。
【0215】
細胞生存能力マイクロ中和アッセイ
モノクローナル抗体をマイクロ中和アッセイで試験し、幅および効力を評価した。簡潔に述べると、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞を、96ウェルプレートに6.0×103細胞/ウェルで播種した。ウイルス希釈剤のみをバックグラウンド対照ウェルに添加した。細胞を、5%のCO2、37℃で4~5時間インキュベートした。モノクローナル抗体を、ウイルス希釈剤で最終濃度の4倍に希釈した。抗体を二連で1:3に希釈した。ウイルスを氷上で解凍し、適切な所定濃度まで希釈した。希釈ウイルスを希釈したmAbに添加した。mAb-ウイルス混合物を、MDCK細胞に直ちに移し、5%のCO2、37℃で72時間インキュベートした。ウイルス対照および非感染細胞対照ウェルも含まれた。4日目に、プレートを1200RPMで3分間遠心分離した。細胞を、100μLのCelTiter-Glo基質を使用して溶解し、発光(Victor X3、PerkinElmer)を使用してATP放出を測定した。非感染対照と比較して生存率を判定した。生存率値を、非線形4PL回帰を用いて分析して、IC50値を決定した(GraphPad Prism)。
【0216】
HAマイクロ中和アッセイ
簡潔に述べると、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞を播種し、一晩インキュベートして、翌日80~100%の培養密度を得た。モノクローナル抗体をウイルス感染培地(VIM)中で、50μg/mLまで希釈し、三連または四連で1:2に希釈した。H5N1 A/Vietnam/1203/2004またはH1N1 A/California/07/2009をVIMで希釈し、希釈抗体に添加し、1時間インキュベートした。その後、試料をMDCKに移し、48時間インキュベートした。インキュベーション後、50μLの上清を新しい96ウェルプレートに移した。希釈したシチメンチョウまたはウマ赤血球を上清に加え、30分間または60分間、室温でインキュベートした。血球凝集力価は、血球凝集を完全に阻害する最後の希釈の逆数として記録された。
【0217】
結果
結果は、H1H14611N2およびH1H14612N2が、マイクロ中和アッセイにおいて、多数の多様なグループ2インフルエンザAウイルス分離株を中和したことを示した。三つの異なる株のインフルエンザの中和に関して、H1H14611N2およびH1H14612N2のIC
50(nM)(A/Aichi/02/1968-PR8-X31(H3N2)、A/Philippines/01/1982(H3N2)およびA/Shanghai/01/2013-PR8(H7N9))が表4に示されており、A/Aichi/02/1968-PR8-X31(H3N2)、A/Phillipines/02/1982(H3N2)、およびA/Shanghai/01/2013(H7N9)を含む、株の用量反応曲線も、それぞれ、
図1A、BおよびCに示されている(三角形で示されるH1H14611N2、逆三角形で示されるH1H14612N2、ひし形で示される無関連hIgG1)。血球凝集の読み出しを使用したインフルエンザ株A/Victoria/316/2011(H3N2)に対する追加の中和試験の結果を表5に示す。表5に示されるのは、RBC血球凝集が検出されなかったmAb(nM)の最低濃度である。また、これらの研究には負のhIgG1対照が含まれた。
表4:いくつかのインフルエンザ株に対する抗グループ2HA mAbの中和活性の概要(IC
50 nM)
【表4】
表5:インフルエンザ株A/Victoria/316/2011(H3N2)に対する抗グループ2HA mAbの中和活性の概要
【表5】
【0218】
実施例5.H1H14611N2およびH1H14612N2、補体依存性細胞傷害(CDC)を介してグループ2HAウイルス感染細胞の殺傷を媒介
例示的モノクローナル抗体(mAb)H1H14611N2およびH1H14612N2は、補体依存性細胞傷害(CDC)アッセイのために、インビトロで選択された。簡潔に述べると、アッセイの30時間前に、感染多重度(MOI)が3で、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞を、A/Aichi/02/1968-PR8-X31(H3N2)に感染させた。標的細胞を、指定された濃度で、指定したmAbと組み合わせた。正常なヒト血清補体(NHSC)を、CDCアッセイ培地中の最終濃度(15%)で三回調製した。CytoTox-Glo(Promega)を使用して、細胞毒性の割合を測定した。洗剤で溶解した対照および血清バックグラウンド対照を使用して、最大溶解値およびバックグラウンド溶解値を決定した。
図2に示すのは、H1H14611N2(三角形)、H1H14612N2(逆三角形)、とともに対照としての無関連なhIgG1(ひし形)である。特異的溶解の割合を、((mAb+NHSCによる溶解)-(NHSCのみによる溶解))/((洗剤の最大溶解)-(NHSCのみによる溶解))×100として計算した。
【0219】
結果
H1H14611N2およびH1H14612N2は、補体保存ヒト血清の存在下で、A/Aichi/02/1968-PR8-X31(H3N2)に感染したMDCKをCDCアッセイで試験した場合、ウイルス感染細胞を特異的に溶解する能力において用量依存性増加を示した。三つのうち一つの代表的なCDCアッセイの結果を
図2に示す。この実験では、無関連/陰性のhIgG1対照も使用された。H1H14611N2およびH1H14612N2は、細胞溶解を媒介するのに有効であり、それぞれ最大溶解は78.3%および86.3%、EC
50は140nMおよび126nMであった。
【0220】
実施例6:H1H14611N2およびH1H14612N2、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を介してグループ2HA発現細胞を強力に殺傷
例示的モノクローナル抗体、H1H14611N2およびH1H14612N2は、二つの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害アッセイにおいて、HA装飾細胞を特異的に溶解する能力を試験するために選択された。
【0221】
A.FcγRIIIA活性化アッセイ
A/Wisconsin/67/200(H3N2)過剰発現3T3細胞を用いたADCC-Gloレポーターバイオアッセイ(Promega)を使用したFcγRIIIA活性化アッセイを最初に使用して、HA装飾細胞を特異的に溶解するH1H14611N2およびH1H14612N2抗体の能力を試験した。標的細胞を、指定された濃度で、指定したmAbと組み合わせた。次いで、標的細胞およびエフェクター細胞を、5:1のE:T比で組み合わせた。
図3に示すのは、H1H14611N2(三角形)、H1H14612N2(逆三角形)、とともに対照としての無関連なhIgG1(ひし形)を用いたこのアッセイの結果である。
【0222】
B.ヒトドナー末梢血単核細胞(PBMC)を使用したADCCアッセイ
次いで二つの例示的な抗グループ2HA抗体、H1H14611N2およびH1H14612N2を、ヒトドナーPBMCを用いたADCCアッセイで試験した。PBMCを、ヒトドナーバフィーコートから単離し、使用前に10~12時間、IL-2(5ng/mL)で刺激した。A/Wisconsin/67/2005(H3N2)過剰発現3T3標的細胞を、指示された濃度で指示されたmAbと組み合わせた。次いで、標的細胞およびエフェクター細胞を、30:1のE:T比で組み合わせた。CytoTox-Glo(Promega)を使用して、細胞毒性の割合を測定した。
図4に示すのは、H1H14611N2(丸)、H1H14612N2(逆三角形)、とともに対照としての無関連なhIgG1(ひし形)を用いたこのアッセイの結果である。
【0223】
結果
H1H14611N2およびH1H14612N2は、両方のADCCアッセイで、HA装飾細胞を特異的に溶解する能力において用量依存性増加を示した。
【0224】
H1H14611N2およびH1H14612N2は、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)過剰発現3T3細胞を用いたADCC-Gloレポーターバイオアッセイ(Promega)で、FcγRIIIA活性化の用量依存性増加を示した(
図3)。H1H14611N2のEC
50は0.8714nMであり、H1H14612N2のは0.6882nMであった。
【0225】
感染細胞および過剰発現細胞の直接PBMC媒介性細胞傷害を使用して、ADCC活性を確認した。ヒトドナーPBMCを用いて、H1H14611N2およびH1H14612N2は、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)過剰発現3T3細胞にADCCを媒介した(
図4)。H1H14611N2のEC
50は0.1463nMであり、H1H14612N2のは0.1762nMであった。
【0226】
30:1のエフェクター対標的(E:T)の比が、ドナーPBMCを使用するすべての実験に使用される一方で、5:1のE:Tがレポーターバイオアッセイに使用された。
【0227】
実施例7:選択されたグループ2特異的インフルエンザAヘマグルチニンモノクローナル抗体、致死性インフルエンザウイルス感染をインビボで効果的に治療
ヒトにおけるインフルエンザウイルス感染の治療または防止のための改善された標準治療法に対するまだ対処されていない実質的なニーズがある。現在、アダマンタンおよびノイラミニダーゼ阻害剤(NAI)の二つのクラスの薬剤のみが利用可能である。アダマンタン(アマンタジンおよびリマンタジン)は、薬剤耐性株の急速な出現と関連付けられており、インフルエンザ治療にはもはや推奨されていない。オセルタミビルのようなNAI(TAMIFLU(登録商標))は、インフルエンザの治療および防止のための最先端の薬剤であるが、有効性の範囲は限定される:NAIは、抗ウイルス剤が、症状発症から48時間内に投与された場合、治療状況において発熱および疾病症状の持続時間を約一日短縮させることが示されているが、48時間以降に投与された場合、有効性の臨床的証拠はほとんどない。
【0228】
重度インフルエンザの治療におけるH1H14611N2およびH1H14612N2のインビボでの有効性を評価するために、以下の目的で実験が行われた:
【0229】
試験1:H1H14611N2およびH1H14612N2の単回投与の有効性を評価する。
【0230】
試験2:オセルタミビルと組み合わせて投与されたH1H14611N2の有効性を判断する。
【0231】
これらの試験で使用された株は、マウスに適合されたA/Aichi/02/1968-X31(H3N2)インフルエンザAウイルスグループ2分離株であった。すべての実験を、6週齢の野生型(BALB/c)メスマウスで行った。マウスを、5×MLD50(10,000 PFU)のA/Aichi/02/1968-X31(H3N2)に曝露した。治療モデルでは、0日目に、マウスは鼻内に曝露され(IN)、感染後(p.i.)の特定の日に、固定IV用量のmAbを与えた。オセルタミビルは、メーカーの指示にしたがって再懸濁させ、マウスに、12時間ごとに(すなわち、一日二回、BID)5日間、経口胃管を介して投与し、4日目に初回用量を投与した。感染後14日目まで毎日マウスの体重を測定し、観察を行った。開始体重から20%減少した時点で安楽死させた。結果は、生存率として報告される。
【0232】
第一の実験では、5X MLD
50のA/Aichi/02/1968-X31(H3N2)に感染後24、48または72時間で開始した、H1H14611N2(15mg/kg;三角形)またはH1H14612N2(15mg/kg;逆三角形)のいずれかの単回投与の有効性を比較し、これらの時点でのマウスモデルにおける効果を評価した。感染後24時間で、15mg/kgのアイソタイプ対照を受けたすべてのマウスは、7日目までに死亡した(
図5Aにはグレーの実線のみで表示)。対照的に、感染後24時間(
図5A)、48時間(
図5B)、またはさらに72時間(
図5C)で投与された場合、H1H14611N2またはH1H14612N2の単回投与(15mg/kg)を受けたすべてのマウスは生存した。
【0233】
第二の実験では、マウスは、5 x MLD
50のA/Aichi/02/1968-X31(H3N2)に感染後96時間、7mg/kg(正方形、点線)もしくは15mg/kgのH1H14611N2(丸、点線)、対照IgG(三角形)、2mg/kgのBIDオセルタミビル(ひし形、実線)の単回サブ有効用量を5日間、または7(正方形、実線)もしくは15mg/kgのH1H14611N2(丸、実線)とオセルタミビルの単回投与の組み合わせを5日間受けた(
図6を参照)。H1H14611N2を、15mg/kgおよび7mg/kgで単回投与すると、それぞれ100%および80%の生存率を得、2mg/kgのオセルタミビルのみで処置したマウスの80%が生存した。H1H14611N2をオセルタミビルと組み合わせることで、H1H14611N2投与グループ(15mg/kgまたは7mg/kg)の両方で生存率が100%に増加し、組み合せによりH1H14611N2の低用量でも強力な治療効果を達成できることが示された(
図6)。
【0234】
まとめると、H1H14611N2およびH1H14612N2は、過去のインフルエンザ株に感染したマウスの治療において強力な有効性を示し、さらにH1H14611N2は、オセルタミビルと組み合わせて投与された場合、相加的な有効性を示した。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
グループ2インフルエンザAヘマグルチニン(HA)に特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片であって、前記抗体が、以下の特徴:
(a) 完全ヒトモノクローナル抗体である;
(b) 表面プラズモン共鳴で測定した場合、インフルエンザAグループ2HAに10
-8
M未満の解離定数(K
D
)で結合する;
(c) 75分を超える解離半減期(t
1/2
)を示す;
(d) H3N2株およびH7N9株から選択されたインフルエンザAグループ2ウイルスの、200nM未満および500nM未満のIC50でのそれぞれの中和を示す;
(e) インフルエンザウイルス感染細胞の、約150nM未満のEC50での補体媒介性溶解を示す;
(f) レポーターバイオアッセイを用いたウイルス感染した標的細胞の、約0.9nM未満のEC50での抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を示す;
(g) ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の存在下でのウイルス感染した標的細胞の、約0.180nM未満のEC50での抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を示す;
(h) ウイルス攻撃後、24、48、72、または96時間で投与した場合のインフルエンザ感染動物の生存率の増加を示す;
(i) 感染後96時間でオセルタミビルと組み合わせて投与した場合のインフルエンザ感染動物の生存率の増加を示す;または
(j) 前記抗体またはその抗原結合性断片が、
配列番号2または18に記載されるアミノ酸配列を含む、重鎖可変領域(HCVR)内に含有される、三つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、および
配列番号10または26に記載されるアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域(LCVR)内に含有される、三つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、のうちの二つ以上を有する、グループ2インフルエンザAヘマグルチニン(HA)に特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片。
(項目2)
インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に、感染後3日目に開始して、約7~15mg/kgの単回静脈内用量として投与した場合、感染後3日目に開始して、感染後7日目まで継続して、約2mg/kgの用量で一日二回を5日間投与する、オセルタミビルの経口投与を受けたインフルエンザウイルス感染哺乳類よりも、高い程度で前記感染から前記哺乳類を保護する、項目1に記載の単離された抗体。
(項目3)
感染後96時間で約15mg/kgの単回投与として、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に投与した場合、前記哺乳類が約100%の生存率を有する、項目1に記載の単離された抗体。
(項目4)
約15mg/kgの単回投与として、インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に投与した場合、前記哺乳類が約100%の生存率を有する、項目1に記載の単離された抗体。
(項目5)
前記インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に投与する場合、感染後96時間でオセルタミビルを投与すると、前記哺乳類における相加的保護効果を示す、項目1に記載の単離された抗体。
(項目6)
インフルエンザウイルスに感染した哺乳類に、オセルタミビルを約2mg/kgの用量で一日二回、5日間の経口投与と組み合わせて、約7mg/kg~約15mg/kgの範囲の単回静脈内用量として投与する場合に、哺乳類において相加的保護効果を示す、項目1に記載の単離された抗体。
(項目7)
配列番号2および18からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、項目1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目8)
配列番号10または26からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目9)
(a) 配列番号4および20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b) 配列番号6および22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c) 配列番号8および24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d) 配列番号12および28からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e) 配列番号14および30からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;
(f) 配列番号16および32からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインを含む、項目1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目10)
(a) 配列番号4のHCDR1、
(b) 配列番号6のHCDR2、
(c) 配列番号8のHCDR3、
(d) 配列番号12のLCDR1、
(e) 配列番号14のLCDR2、および
(f) 配列番号16のLCDR3を含む、項目9に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目11)
(a) 配列番号20のHCDR1、
(b) 配列番号22のHCDR2、
(c) 配列番号24のHCDR3、
(d) 配列番号28のLCDR1、
(e) 配列番号30のLCDR2、および
(f) 配列番号32のLCDR3を含む、項目9に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目12)
配列番号2/10および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、項目1に記載の単離された抗体または抗原結合性断片。
(項目13)
配列番号2および18からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRの前記CDRと、
配列番号10および26からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRの前記CDRと、を含む、インフルエンザHAへの結合をめぐって抗体または抗原結合性断片と競合する単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目14)
配列番号2および18からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRの前記CDRと、
配列番号10および26からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRの前記CDRと、を含む、抗体または抗原結合性断片と同じエピトープに結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片。
(項目15)
前記抗体が、インフルエンザウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入を防止する、項目1に記載の単離された抗体。
(項目16)
項目1に記載のインフルエンザHAに結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片、および薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
(項目17)
項目1に記載の抗体のHCVRまたはLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
(項目18)
項目17に記載の前記ポリヌクレオチドを含むベクター。
(項目19)
項目18に記載の前記ベクターを発現する細胞。
(項目20)
それを必要とする対象におけるインフルエンザ感染の少なくとも一つの症状を防止、治療または改善する方法であって、それを必要とする前記対象に、項目1に記載の抗体もしくは抗原結合性断片、または前記抗体もしくはその抗原結合性断片を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
(項目21)
前記少なくとも一つの症状が、熱、咳、体の痛み、鼻漏、息切れ、肺炎および気管支炎からなる群から選択される、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記医薬組成物が、それを必要とする前記対象に予防的に投与される、項目20に記載の方法。
(項目23)
前記医薬組成物が、免疫不全個体、高齢者(65歳以上)、医療従事者、および病歴または基礎疾患を有する人からなる群から選択される対象に予防的に投与される、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記医薬組成物が、第二の治療剤と組み合わせて投与される、項目20に記載の方法。
(項目25)
前記第二の治療剤が、抗ウイルス薬、抗炎症薬、グループ1またはグループ2のインフルエンザHAに特異的に結合する異なる抗体、インフルエンザ用ワクチン、栄養補助食品、およびインフルエンザ感染を治療するための他の任意の緩和療法からなる群から選択される、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記第二の治療剤が、前記抗体またはその抗原結合性断片として異なる投与経路を介して投与される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記第二の治療剤が経口投与される、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記抗ウイルス薬がオセルタミビルである、項目25に記載の方法。
(項目29)
前記オセルタミビルが、前記抗体の投与前に、同時に、または投与後に投与される、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記医薬組成物が、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、鼻腔内、または経口投与される、項目20に記載の方法。
【配列表】