(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】エレベーターの作業安全装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20231025BHJP
【FI】
B66B5/00 D
(21)【出願番号】P 2021005716
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 才明
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-125773(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第106829663(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第03640183(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの乗場ドアを開扉状態として、乗場出入口から昇降路内に降下するときに乗場床に配置して用いるエレベーターの作業安全装置であって、
前記乗場出入口の左右方向に延在し、前記乗場出入口の左右方向の幅よりも小さい幅を有する正面部、及び、前記正面部の両端部に設けられ、前記乗場出入口の奥行方向に延在する一対の側面部から構成されて、作業時に作業者が手を掛ける手掛部と、
前記手掛部を挟んで対向する位置に設けられ、前記手掛部の両端部から前記乗場出入口の左右方向に延在し、前記乗場出入口に設けられた三方枠に係止可能な一対の係止部と、
前記手掛部と乗場床との間に隙間を形成するために、少なくとも前記手掛部の一部において前記手掛部の乗場床側に固定された台座部と、
を有するエレベーターの作業安全装置。
【請求項2】
前記乗場出入口の奥行方向における前記手掛部の幅は、前記三方枠の前記係止部が係止される面から閉扉状態時における乗場ドアの乗場側表面までの距離よりも小さい
請求項1に記載のエレベーターの作業安全装置。
【請求項3】
前記一対の係止部のそれぞれは、前記乗場出入口の左右方向の幅と、前記乗場出入口の左右方向における前記手掛部の長さとの差分よりも長い棒状部材で構成されている
請求項1に記載のエレベーターの作業安全装置。
【請求項4】
前記手掛部及び前記一対の係止部は一体に構成されており、前記側面部と前記一対の係止部との間の接続部分は湾曲している
請求項1に記載のエレベーターの作業安全装置。
【請求項5】
前記手掛部、及び、前記係止部は、それぞれ、長さ調整の可能な長さ調整部を有する部材で構成されている
請求項1に記載のエレベーターの作業安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの作業安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に設置された昇降機、例えばエレベーターでは、利用者が乗り込む乗りかごが、建築物に設けられた昇降路内を昇降する。昇降路の上下方向における上部には、乗りかごに接続されたロープを駆動するモータが設置される機械室が設けられている。また、昇降路には、ロープに接続された釣合い重りが配置されており、昇降路の上下方向における下部には、乗りかごや釣合いおもりの緩衝器を設置するピットが設けられている。そして、ピットには、作業者がピットの出入りするための梯子が壁面に取り付けられている。
【0003】
エレベーターの保全作業は、機械室内や昇降路、かご上機器など多岐の場所での作業が必要となる。その中で、緩衝器などが設置されているピット内の点検作業を行う場合、作業者は、最下階の乗り場ドアを開扉した状態で、梯子を使用してピットに移動する。
【0004】
ピット内の梯子に手掛けがない場合、作業者は、最下階の乗場ドアの三方枠に設けられた敷居溝や、乗場ドアを掴んで体勢を確保した様態で、梯子の最上段に一歩を踏み出すこととなる。しかしながら、三方枠に設けられた敷居溝や乗場ドアは滑りやすく、また、安全帯を掛ける場所も無い。このため、作業者が不意に体勢を崩してピットに落下した場合、重篤な災害になる可能性があった。このような問題を解決するため、特許文献1では、エレベーターピット点検用の梯子装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の梯子装置では、最下階の敷居直下に手掛けに相当する部品を収納している。このため、作業者は、作業前に手掛け部品を取り出す際、ピットに向かって身を乗り出す体勢になり、転落の危険性がある。また、乗場ドア等に手掛け部品を固定するための取付穴を設ける必要があり、既存のエレベーターにこの梯子装置を適用する場合には、取付穴を設けるための工事が必要となり、作業が大掛かりである。
【0007】
また、特許文献1の梯子装置は、設置時には乗場ドアが開扉状態となるため、エレベーターの乗場に居る乗客、例えば子供などのいたずらにより、ピットに転落する可能性がある。したがって、梯子を使いピットに降りた際には、第三者がピットに転落するのを防ぐため、乗場ドアを閉めなければならない。
【0008】
しかしながら、特許文献1の梯子装置では、手掛けに相当する部分が乗場ドアを閉める際に乗場ドアと干渉するため、再度取り外す必要があり、この場合には、作業者は、梯子に上った状態で手掛けを取り外すことになる。また、仮に、乗場ドア前に作業柵を設置して仮囲いをし、第三者の侵入を防止する場合にも、ピット内の作業が終了した際には、手掛けを再度取り外す必要がある。そして、作業終了後には、取り外した手掛けを敷居直下に収納しなければならず、作業者は再度不安定な体勢をとる必要がある。
【0009】
さらに、手掛けの収納を忘れたり、手掛けが正規位置に収納されなかった状態で、エレベーターの通常運転を復帰させたりすることによって、最下位に降りてきた乗りかごに手掛けが衝突する恐れがある。これを回避するため、手掛けが正規位置に収納されたことを確認する収納確認スイッチを設ける必要があった。収納確認スイッチの導入にはコストがかかるため、導入が進まないという課題もある。
【0010】
そこで、本発明は、作業者がピットに降りる際に、簡単に設置することができるエレベーターの作業安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のエレベーターの作業安全装置は以下の構成を有する。本発明のエレベーターの作業安全装置は、エレベーターの乗場ドアを開扉状態として、乗場出入口から昇降路内に降下するときに乗場床に配置して用いる。本発明のエレベーターの作業安全装置は、手掛部と、係止部と、台座部を有する。手掛部は、乗場出入口の左右方向に延在し、乗場出入口の左右方向の幅よりも小さい幅を有する正面部、及び、正面部の両端部に設けられ、乗場出入口の奥行方向に延在する一対の側面部から構成される。この手掛部には、作業時に作業者の手が掛けられる。係止部は、手掛部を挟んで対向する位置に設けられ、手掛部の両端部から乗場出入口の左右方向に延在し、乗場出入口に設けられた三方枠に係止可能に一対設けられている。台座部は、手掛部と乗場床との間に隙間を形成するために、少なくとも手掛部の一部において手掛部の乗場床側に固定されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作業者がピットに降りる際に、乗場床に設置するだけで簡単に使用することができるため、導入コストの削減を図ると共に、作業者がピットに降りる際の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の作業安全装置を適用する対象のエレベーターの一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る作業安全装置17を上面側から見たときの概略斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る作業安全装置17を裏面側から見たときの概略斜視図である。
【
図4】
図4Aは、第1の実施形態の作業安全装置17を乗場に設置した際に、上面から見たときの概略構成図である。
図4Bは、第1の実施形態の作業安全装置17を、乗場に設置した際に、乗場の正面側から見たときの概略構成図である。
図4Cは、第1の実施形態の作業安全装置17を裏面側から見たときの概略構成図である。
【
図5】
図5A~
図5Cは、作業者Iが作業安全装置17を使用して、ピット13内に降りるときの手順を示した図(その1)である。
【
図6】
図6D~
図6Fは、作業者Iが作業安全装置17を使用して、ピット13内に降りるときの手順を示した図(その2)である。
【
図7】作業者Iが作業安全装置17を使用してピット13内に降りるときの様子を示した図である。
【
図8】
図8A及び
図8Bは、第1の実施形態の作業安全装置17の設置状態の一例を示す上面図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る作業安全装置30を上面から見たときの概略斜視図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る作業安全装置30を裏面側から見たときの概略斜視図である。
【
図11】第2台座部32の長さ調整部40の部分を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るエレベーターの作業安全装置の一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。以下で説明する各図において、共通の部材には同一の符号を付している。
【0015】
1.エレベーター
まず、本発明のエレベーターの作業安全装置の説明に先立ち、本発明の作業安全装置を適用する対象のエレベーターの一例について説明する。
図1は、本発明の作業安全装置を適用するエレベーターの一例を示す概略構成図である。
【0016】
図1に示すように、エレベーター1は、建築構造物内に形成された昇降路4に設けられている。エレベーター1は、昇降路4内を昇降動作し、人や荷物を載せる乗りかご3と、主ロープ6と、釣合いおもり5とを備える。以下では、乗りかご3が昇降移動する方向を上下方向として説明する。
【0017】
[昇降路]
昇降路4は、乗りかご3が昇降するための空間であり、建物内部の各階を上下方向に貫いて設けられている。昇降路4の内壁面には、乗りかご3の昇降を案内するガイドレール(図示を省略する)が取り付けられている。また、昇降路4の壁面における各階に相当する高さ位置には、各階から乗りかご3への出入りのための乗場出入口25が設けられ、乗場出入口25には、乗場ドア11が設けられている。
図1では、一番下の階の乗場ドア11のみを図示している。乗場ドア11が設けられる乗場15には、乗場出入口25を囲う三方枠10が設けられている。以下の説明では、乗場ドア11が設けられる乗場出入口25の上下方向に直交する方向であって、乗場ドア11の扉開方向を左右方向とし、上下方向及び左右方向に直交する方向を奥行方向とする。
【0018】
三方枠10は、乗場ドア11が設けられる乗場出入口25の左右方向に設けられた一対の縦枠と、乗場出入口25の上下方向の上側に設けられた上枠とで構成されている。三方枠10は、乗場出入口25の奥行方向における側壁を覆うと共に、乗場側正面においても所定の幅を有して構成されている。三方枠10の縦枠の乗場側正面が、後述する作業安全装置17を係止する係止面10a(
図4A参照)となる。
【0019】
また、昇降路4の上下方向の上部には、機械室23が設けられている。機械室23には、各部を制御する制御盤9や、巻上機8及び反らせ車7等が配置されている。その他、機械室23には、本実施形態の作業安全装置17が収納されている。
【0020】
一方、昇降路4の上下方向の下部には、ピット13が設けられている。ピット13は、一番下の階の乗場ドア11が設けられる位置よりもさらに下側に設けられており、乗りかご3や釣合いおもり5の緩衝器14や、各機器が配置されている。また、ピット13内の乗場ドア11下方向における側壁には、作業者Iがピット13内に降りるときに用いる梯子16が設置されている。
【0021】
[乗りかご]
乗りかご3は、主ロープ6を介して、釣合おもり5と連結され、昇降路4内を昇降する。この乗りかご3は、昇降路4内の壁面に設けられたガイドレール(図示を省略する)に案内され、昇降路4内の上下方向に昇降する。後述するが、乗りかご3の前面には、乗場ドア11に対応する位置に、かごドア(図示を省略する)が設けられており、各階に乗りかご3が停止した際に、かごドア及び乗場ドア11が開くことで、乗りかご3への乗客2や荷物の乗り降りが行われる。
【0022】
[主ロープ]
主ロープ6は、一端が乗りかご3に接続されていると共に、巻上機8及び反らせ車7を介して、他端が釣合いおもり5に接続されている。主ロープ6が巻上機8により巻き上げられることにより、乗りかご3が昇降動作する。
【0023】
2.第1の実施形態
[作業安全装置]
次に、本発明の第1の実施形態に係る作業安全装置17について説明する。
図2は、本実施形態の作業安全装置17を上面側から見たときの概略斜視図である。また、
図3は、本実施形態の作業安全装置17を裏面側から見たときの概略斜視図である。また、
図4Aは、本実施形態の作業安全装置17を乗場15に設置した際に、上面から見たときの概略構成図である。
図4Bは、本実施形態の作業安全装置17を、乗場15に設置した際に、乗場15の正面側から見たときの概略構成図である。
図4Cは、本実施形態の作業安全装置17を裏面側から見たときの概略構成図である。
【0024】
本実施形態の作業安全装置17は、
図2に示すように、作業安全装置本体19と、台座部22とで構成されている。
【0025】
以下に、作業安全装置本体19及び台座部22について説明する。
【0026】
[作業安全装置本体]
まず、作業安全装置本体19について説明する。作業安全装置本体19は、手掛部18と、手掛部18を挟んで両側に延在するように設けられる一対の係止部20とで構成されている。手掛部18は、作業時に作業者が手を掛けるため部位であり、円柱状の部材で構成されている。
【0027】
手掛部18は、正面部18aと、側面部18bとで構成されている。正面部18aは、作業安全装置17を乗場15の乗場床21に配置した際に、乗場出入口25の左右方向に延在する部位である。
図4Aに示すように、正面部18aは、乗場出入口25の左右方向における正面部18aの幅W1が、乗場出入口25の左右方向の幅W5よりも小さくなるように構成されている。
【0028】
側面部18bは、正面部18aを挟んで対向する位置に一対設けられており、それぞれ、正面部18aの両端部から連続して設けられた棒状部材で構成されている。また、一対の側面部18bは、正面部18aの延在方向に対してほぼ垂直な方向に延在するように設けられている。側面部18bは、作業安全装置17を乗場床21に配置した際に、乗場出入口25の奥行方向(すなわち、三方枠10の奥行方向)に延在する部位である。正面部18aと一対の側面部18b、18bとは一体に構成されており、正面部18aと側面部18bとの接続部分は、湾曲するように構成されている。
【0029】
また、
図4Aに示すように、乗場出入口25の奥行方向における手掛部18の幅W2は、後述する係止部20が係止される三方枠10の係止面10aから閉扉状態時における乗場ドア11の乗場側表面までの距離W4よりも小さくなるように構成されている。本実施形態では、係止部20を、三方枠10の係止面10aに係止させて作業安全装置17を配置する。
【0030】
係止部20は、手掛部18の両端部において、手掛部18を挟んで対向する位置に一対設けられており、一対の側面部18b、18bのそれぞれの正面部18aとは反対側の端部から連続して設けられた円筒形状の棒状部材で構成されている。一対の係止部20、20は、それぞれ、正面部18aの延在方向と略平行に延在するように設けられている。
【0031】
また、一対の係止部20、20は、作業安全装置17を乗場床21に配置した際に、乗場出入口25の左右方向に延在し、乗場出入口25に設けられた三方枠10に係止可能な長さW3に構成されている。本実施形態では、手掛部18及び一対の係止部20、20を含む全長W3は、乗場出入口25の左右方向の幅W5よりも大きく形成されている。また、本実施形態では、それぞれの係止部20、20の長さW7は、乗場出入口25の左右方向の幅W5と正面部18aの延在方向の長さW1との差分に所定の余裕代を加算した寸法に設定されている。
【0032】
手掛部18と一対の係止部20、20とは、一体に構成されており、手掛部18と、一対の係止部20、20とのそれぞれの接続部分は湾曲するように構成されている。本実施形態の作業安全装置17は、使用時において、係止部20を、三方枠10の縦枠の係止面10aに係止させ、手掛部18が、乗場ドア11側に来るように乗場床21に配置される。
【0033】
手掛部18の正面部18aにおいては、後述する第1台座部22aが設けられていない部分が、作業者が作業時に主に手掛けとして用いる部分となる。また、側面部18bにおいても、後述する第1台座部22aが設けられていない部分が、作業者が作業時に主に手掛けとして用いる部分となる。
【0034】
[台座部]
次に台座部22について説明する。台座部22は、手掛部18の裏面側に設けられた第1台座部22aと、係止部20の裏面側に設けられた第2台座部22bとで構成されている。第1台座部22aは、手掛部18の正面部18aと、一対の側面部18b、18bとの接続部分となる角部の2箇所に設けられている。そして、第1台座部22aは、作業安全装置17を乗場床21に配置した際に床面側に位置するように設けられている。この第1台座部22aは、正面部18aと側面部18b、18bとの接続部分と同様、湾曲した円筒部材で構成されており、正面部18aと側面部18bとの接続部分に重なるように手掛部18の裏面側に接着されている。
【0035】
第2台座部22bは、係止部20の延在方向と同方向に延在する棒状部材で構成されており、一方の係止部20の中間位置から他方の係止部20の中間位置に達する長さを有する。第2台座部22bは、第1台座部22aと同様、作業安全装置17を乗場床21に配置した際に床面側に位置するように設けられている。そして、第2台座部22bの一方の端部は、一方の係止部20の裏面側に接着され、他方の端部は、他方の係止部20の裏面側に接着されている。
【0036】
本実施形態では、台座部22が設けられることにより、作業安全装置本体19が床面に3点で支持されるため、作業安全装置本体19と床面との間に隙間が形成される。特に、手掛部18の正面部18aにおいては、2つの第1台座部22a、22aの間に形成される部分と床面との隙間を利用して、作業者が正面部18aを安全に把持することができると共に、安全帯を取り付けることができる。また、側面部18bにおいても、第1台座部22a、22aが設けられていない部分と床面との間の隙間を利用して、作業者が側面部18bを安全に把持することができる。このため、作業者が把持するのに十分な幅を確保できるように、それぞれの第1台座部22a、22aの長さが設計されている。
【0037】
また、本実施形態では、第2台座部22bが設けられることで、作業安全装置本体19の強度を高めることができる。第2台座部22bは、一方の係止部20から他方の係止部20に達する長さであれば特に限定されない。ところで、本実施形態の作業安全装置17は、強度が必要である一方、作業時に、作業者が持ち運ぶ必要があるため、軽量化も重要である。したがって、第2台座部22bは、一方の係止部20の端部から他方の係止部20の端部に達する長さであってもよいが、より短い部材で構成することにより軽量化した状態で、作業安全装置17の強度の向上を図ることができる。
【0038】
本実施形態の作業安全装置17は、例えば、鋼鉄製の単管パイプを用いて構成することができる。その他、強度の高いプラスチック素材を用いて構成してもよく、その材料については種々の変更が可能である。プラスチック素材を用いる場合には、製造時に型を使用する必要があるが、鋼鉄製の単管パイプを用いることにより、曲げ加工が容易に行えるため、生産コストを下げることができる。また、作業者の安全性を確保するため、強度を確保できる鋼鉄製の材料を用いることが好ましい。
【0039】
その他、作業安全装置本体19を鋼鉄製の材料で構成し、台座部22を、弾性部材や緩衝部材で構成してもよい。台座部22は、床面に接触する部位であるため、台座部22を弾性部材や緩衝部材で構成することにより、作業時に床面に傷がつくのを防ぐことができる。台座部22に弾性部材や緩衝部材を適用する場合には、作業時に、台座部22が潰れない固さの材料を使用することで、作業安全装置本体19と床面との間に隙間を作ることができる。
【0040】
また、本実施形態では、円柱の棒状部材で構成する例としたが、これに限られるものではなく、例えば、断面が四角形状の棒状部材など種々の変更が可能である。本実施形態のように、円柱の棒状部材で構成することにより、角部がある部材で構成する場合に比較して、持ち運びの際の建物や人に対する安全性を確保することができる。
【0041】
さらに、一対の係止部20、20のそれぞれに、緩衝部材を巻き付ける構成としてもよい。係止部20、20は、三方枠10の縦枠の正面に係止される部位であるため、係止部20、20に緩衝部材を巻き付けておくことで、作業時に、三方枠10に傷がつくのを防ぐことができる。また、係止部20、20に巻き付ける緩衝部材は、その摩擦抵抗が、三方枠10の表面の摩擦抵抗や床面の摩擦抵抗よりも大きい材料で構成することが好ましい。これにより、作業時において、三方枠10や床面に対する係止部20のずれを防ぐことができる。
【0042】
3.作業安全装置を使用したときの作業方法
次に、本実施形態の作業安全装置17を使用したときの作業方法について説明する。
図5A~
図6Fは、作業者Iが作業安全装置17を使用して、ピット13内に降りるときの手順を示した図である。また、
図7は、作業者Iが作業安全装置17を使用してピット13内に降りるときの様子を示した図である。
【0043】
作業安全装置17は、通常、
図1に示すように、制御盤9やモータが設置される機械室23に保管されている。ピット13内の作業を行う作業者Iは、まず、機械室23に設置される作業安全装置17を最下階の乗場に移動させる。
図5Aは、作業安全装置17を設置していない状態の乗場15を上面から見た図である。
図5Aに示すように、作業安全装置17を設置する際には、乗場ドア11を閉めた状態にしておく。
【0044】
次に、最下階の乗場15に移動した作業者Iは、乗場ドア11を閉めた状態で、乗場床21に、作業安全装置17を設置する。作業安全装置17は、台座部22を床面側に配置するとともに、一対の係止部20、20を三方枠10の縦枠の正面側に接触させ、手掛部18が乗場ドア11側に来るように設置する。本実施形態の作業安全装置17において、係止部20、20に緩衝部材が設けられている場合には、緩衝部材が三方枠10に接触した状態となる。また、係止部20、20に緩衝部材が設けられていない場合には、係止部20と三方枠10との間に別途緩衝部材を挟んだ状態で、係止部20を三方枠10に係止させてもよい。
【0045】
本実施形態では、乗場出入口25の奥行方向における手掛部18の幅W2は、三方枠10の縦枠の乗場側の面から閉扉状態時における乗場ドア11の乗場側表面までの距離W4よりも小さくなるように構成されている。このため、
図5Bに示すように、作業安全装置17が乗場ドア11に接触することがない。したがって、作業者が、作業安全装置17の撤去を忘れてしまった場合にも高速で昇降路4を昇降する乗りかごと干渉することがない。このため、作業者による作業安全装置17の収納忘れを防止するための検出スイッチ等の取付が不要となる。
【0046】
次に、
図5Cに示すように、作業者Iは、正面部18aの第1台座部22aが設けられていない部分に安全帯26を取り付ける。正面部18aは、安全帯26を取り付けたとしても、作業者Iが問題なく正面部18aを把持することができる幅に構成されている。
【0047】
次に、
図6Dに示すように、乗場ドア11を開ける。その後、作業者Iは、側面部18bを把持したり(
図6E参照)、正面部18aを把持したり(
図6F、
図7)して、ピット13内に降りる。本実施形態では、第1台座部22a、22aによって、手掛部18と乗場床21との間に隙間ができるため、この隙間に指を掛けることができる。
【0048】
図6Eに示すように、作業者Iがピット13内に降り始めると、作業安全装置17には、昇降路4側に荷重が掛かる。このため、作業者Iが作業安全装置17を把持してピット13内に降りている間、作業安全装置17は、三方枠10に係止された状態で固定される。このため、作業者Iは安定した状態で作業安全装置17を把持し、ピット13内に降りることができる。
【0049】
本実施形態では、作業安全装置17を使用することにより、作業者Iは、乗場ドア11が開いた後、昇降路4内に移動して梯子16(
図1参照)の最上段に第一歩を踏み出す際、安定した体勢を確保することができる。この場合には、例えば、一対の側面部18b、18bを両手で把持しながら安定した体勢を確保し、その後、両手で把持する位置を、正面部18aに移動させることで、常に安全な体勢を確保することができる。これにより、作業安全性が向上する。
【0050】
作業者Iが、両手両足を昇降路4の梯子16に掛けるところまで移動した場合、作業者Iは、片手で作業安全装置17に掛けてある安全帯を外して、昇降路4内の梯子16に付け替えることができる。この場合においても、作業者Iは常に三点支持体勢で作業を進めることができるため、作業者Iが昇降路4内に移動した後に、乗場ドア11を閉める作業においても常に安定して作業を進めることができる。
【0051】
ところで、作業安全装置17の配置の仕方については、作業者Iによってばらつきが出てくる。
図8A、
図8Bは、本実施形態の作業安全装置17の設置状態の一例を示す上面図である。
【0052】
図8Aに示すように、乗場ドア11に対して、作業安全装置17が斜めに設置された場合、斜めに配置された状態で作業者Iが手掛部18を把持して昇降路4側に降りると、昇降路4側(
図8Aの矢印A方向に)に荷重が掛かる。このため、作業安全装置17の係止部20、20が三方枠10に接触するまで昇降路4側に引き寄せられる。また、このとき、手掛部18と係止部20との接続部分は湾曲形状に構成されているため、三方枠10の角部に接触した場合でも滑らかに作業安全装置17を動かすことができる。これにより、三方枠10への傷の発生を防ぐことができる。
【0053】
さらに、
図8Aから
図8Bの状態に作業安全装置17がずれる場合、左右方向のずれは、左右の三方枠10に自動的に拘束されることとなる。このため、本実施形態の作業安全装置は、多少ずれて配置されている場合にも、使用時に、
図8Bに示すように位置が補正され、作業者Iの荷重により乗場ドア11に対する前後方向に移動することなく、また、左右方向の移動も、三方枠10によって拘束される。これにより、作業安全装置17を三方枠10に固定するための専用の治具等が必要ない。
【0054】
また、本実施形態では、それぞれの係止部20、20の長さW7が、乗場出入口25の左右方向の幅W5と正面部18aの延在方向の長さW1との差分W8(
図8B)に余裕代を加算した寸法に設定している。これにより、
図8Aに示すように、作業安全装置17が斜めに設置されてしまった場合にも、三方枠10と手掛部18との間の隙間W6が、係止部20の長さW7よりも短いため、係止部20が三方枠10に係止されずに乗場ドア11側に移動するのを防ぐことができる。
【0055】
4.第2の実施形態
次に、本発明の第2の実施形態に係る作業安全装置30について説明する。
図9は、第2の実施形態に係る作業安全装置30を上面から見たときの概略斜視図である。また、
図10は、第2の実施形態に係る作業安全装置30を裏面側から見たときの概略斜視図である。
図9、
図10において、
図2、
図3に対応する部分には、同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0056】
第2の実施形態に係る作業安全装置30の作業安全装置本体39は、正面部18a、一対の係止部20、20のそれぞれの中間部において長さ調整部40が設けられている。そして、作業安全装置本体39は、それぞれの長さ調整部40において分解可能な第1部材39a、第2部材39b、第3部材39c、第4部材39dで構成されている。第2部材39bの一端部は、第1部材39aに挿入され、第2部材39bの他端部は、第3部材39cの一端部に挿入される。また、第4部材39dは、第3部材39cの他端部に挿入される。
【0057】
また、第2の実施形態に係る作業安全装置30における台座部22は、第1台座部22aと第2台座部32とで構成され、第2台座部32は、中間部において長さ調整部40が設けられている。第2台座部32は、長さ調整部40において分解可能な第1部材32a、第2部材32bで構成されている。
【0058】
正面部18a、一対の係止部20、20、第2台座部32に設けられたそれぞれの長さ調整部40は同様の構成を有する。ここでは、第2台座部32の長さ調整部40を例に説明する。
【0059】
図11は、第2台座部32の長さ調整部40の部分を拡大して示した図である。
図11に示すように、第2台座部32は、分解可能な2本の円柱状の第1部材32aと、第2部材32bとで構成されている。第1部材32aは、端部に嵌合部33を有する管状部材で構成されている。また、第2部材32bは、端部に、嵌合部33の内部に嵌合可能な太さの被嵌合部34を有する菅状部材で構成されている。第1部材32aの嵌合部33には、ネジ穴40aが第1部材32a設けられると共に、第2部材32bの被嵌合部34には、第2部材32bの軸方向に適当な間隔で設けられた複数のネジ穴40bが設けられている。
【0060】
第1部材32aの嵌合部33に、第2部材32bの被嵌合部34を嵌合させると共に、第2台座部32の全長が所望の長さとなるように、第2部材32bの被嵌合部34のネジ穴40bの位置を第1部材32aの嵌合部33のネジ穴40aの位置に合わせ、ネジ40cで固定する。これにより、所望の長さの第2台座部32を構成することができる。
【0061】
第2の実施形態では、正面部18a、一対の係止部20、20においても、同様の構成を有する長さ調整部40を設けて置くことにより、組立時に所定のサイズの作業安全装置30を組み立てることができる。エレベーターは、各建物に応じてサイズが異なるため、作業安全装置も、エレベーターの乗場出入口25に設けられた三方枠10のサイズに合わせて作業安全装置のそれぞれの部分の長さを変更して製造する必要があり、大量生産することが難しい。これに対し、第2の実施形態に係る作業安全装置30では、組立時に、各エレベーターの乗場に合わせて、各寸法を調整することができる。このため、作業安全装置30では、各部品を大量生産することができるため、コストの低減を図ることができる。
【0062】
なお、第2の実施形態に係る作業安全装置30は、組み立てた後、出荷前にネジ40cを調整不可能な状態としておくこが好ましい。これにより、作業者Iが不用意にネジ40cを外してしまうことで、作業安全装置30の安全性が損なわれるのを防ぐ。
【0063】
なお、第2の実施形態では、正面部18a、係止部20、20、第2台座部32に長さ調整部40を設ける構成としたが、一対の側面部18b、18bにおいても長さ調整部40を設けることもできる。この場合には、乗場出入口25の奥行方向に対する作業安全装置30のサイズを調整することができる。
【0064】
上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成について他の構成を加えることも可能である。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…エレベーター、4…昇降路、6…主ロープ、8…巻上機、9…制御盤、10…三方枠、10a…係止面、11…乗場ドア、13…ピット、14…緩衝器、15…乗場、16…梯子、17…作業安全装置、18…手掛部、18a…正面部、18b…側面部、19…作業安全装置本体、20…係止部、21…乗場床、22…台座部、22a…第1台座部、22b…第2台座部、23…機械室、25…乗場出入口、26…安全帯、30…作業安全装置