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特許7372974間葉系幹細胞を含むバイオインプラントを含む、肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞を含むバイオインプラントを含む、肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20231025BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231025BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231025BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231025BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20231025BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231025BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20231025BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20231025BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20231025BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P1/16
A61P43/00 105
A61K47/34
A61K9/00
A61K48/00
C12N5/0775 ZNA
C12N15/113 Z
C12N5/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021533351
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 KR2019017692
(87)【国際公開番号】W WO2020122666
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】10-2018-0162386
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521253745
【氏名又は名称】トート サイエンス インク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノ,スンクォン
(72)【発明者】
【氏名】イ,チョルギュ
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2018-0099069(KR,A)
【文献】欧州特許出願公開第02554176(EP,A1)
【文献】Acta Biomaterialia, Vol.15, 2015, pp.65-76
【文献】Molecular Therapy,2016年,Vol.24, No.10,p.1848-1859
【文献】Cell Biol. Int.,2018年08月,Vol.42,No.10,p.1370-1376
【文献】Journal of Digestive Diseases, 2015, Vol.16, No.SUPPL. 1, p.76. Abstract Number:PO-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 -35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞を含むバイオインプラントを含む、肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物であって、移植のための前記バイオインプラントは、生体親和性の膜から作製された薄膜ポリマーチャンバーであり、前記肝線維症の予防又は治療は、前記肝線維症を改善するためにインプラントを肝臓から離れた部位である皮下に挿入することを含み、前記間葉系幹細胞は、その中にmiR29及びmiR34が導入された間葉系幹細胞である、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞が前記バイオインプラント中に1×105~1×109の数で含まれている、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【請求項3】
PCNA、HGF、p-STAT、又はTIMPの発現を増大させる、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【請求項4】
α-SMA、MMP、又はTGFの発現を低減させる、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【請求項5】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)又は肝細胞増殖因子(HGF)の分泌を増大させる、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【請求項6】
乳酸脱水素酵素(LDH)の分泌を低減させる、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【請求項7】
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)及びALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)のレベルを低減させる、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【請求項8】
肝実質におけるコラーゲン線維で占拠された面積の割合を低減させる、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【請求項9】
変性した肝細胞の数を低減させる、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【請求項10】
浸潤した炎症細胞の数を低減させる、請求項1に記載の肝線維症を予防し又は治療するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
肝疾患は種々の理由、例えばウイルス又は細菌の感染、アルコール、種々の薬物、毒性化学物質、脂肪又は重金属の過度の蓄積、及び異常な免疫応答によって惹起される。これらの理由によって、ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪肝、毒物性肝炎、及び自己免疫性肝疾患が起こる。さらに、ゆっくりと進行する慢性肝疾患は、それに気づかないままに肝線維症が徐々に進行するとともに、肝硬変及び肝がんに進行する。韓国における肝硬変の原因は主としてウイルス性肝炎又はアルコール性肝疾患である。いかなる原因であれ肝臓の損傷が連続的に繰り返されれば、症状の有無に関わらず肝硬変、肝線維症、又は肝がんに進行する高いリスクが存在する。いったん肝硬変が起きれば、硬化した肝臓が治療後であっても元の状態に回復することは困難である。
【0003】
脂肪肝はそれ自体、病的な状態ではなく、原因物質が除去されれば自然に回復する可逆的な症状である。しかし、肝組織における過剰な脂肪の蓄積が連続的に維持されれば脂肪性肝炎が起こり、その結果として肝細胞の壊死と再生が繰り返し生じ、このプロセスの中で線維性細胞外マトリックス(ECM)が増大し、肝線維症がもたらされる。このプロセスでは、内毒素血症、酸化ストレス、及び肝臓の再生能力の低下が重要な役割を果たす。特に、好中球の浸潤、ネクローシス、アポトーシス、反応性酸素種(ROS)及び反応性窒素種(RNS)の産生、炎症促進性のサイトカイン及びケモカインの増大が関与していることが知られている(Bedossa P, Paradis V, J Pathol, 200, 504-515, 2003)。特に肝星細胞(HSC)は種々のサイトカイン、増殖因子、及び可溶性メディエーターによって活性化されてコラーゲンを合成し、細胞外マトリックス中に蓄積して線維成長を増大させる。
【0004】
肝臓の損傷がある段階に達して慢性的になると、原因因子の種類に関わらずECMの蓄積が増大し、肝細胞の連続的な破壊及び再生の結果として再生結節が形成され、不可逆的な肝硬変がもたらされる。しかし多くの研究にも関わらず、肝疾患の進行の中で比較的良性で可逆的な疾患である脂肪肝が悪化して不可逆的な肝線維症又は肝硬変になる機構は、未だ明確には特定されていない。さらに、肝線維症及び肝硬変の効果的な治療薬は現在まで開発されていない。
【0005】
現在のところ、肝線維症及び肝硬変の治療は症状の進行を遅くすること、及び結果としての肝機能の低下をできるだけ防止することを目的としている。肝硬変の場合には、病因に応じて薬物、例えばPEGインターフェロン又は抗ウイルス剤が用いられ、重篤な場合には肝移植によって治癒に達する方法がある。しかし薬物治療の場合には治療耐性が現れることがあり、肝移植の場合にはドナー不足並びに手術に伴うリスク及びコストがあるという限界があり、そのため新規な治療方法へのニーズが浮上している。
【0006】
幹細胞を用いる肝再生療法には最近多くの注目が集まっており、損傷を受けた肝臓において注射された幹細胞が分化して機能性肝細胞を再構成し、それにより治療効果を呈することが知られている。現在までに、幹細胞が高効率で機能性肝細胞に分化するという結果がインビトロで報告されている(韓国特許第10-1542849号)。しかし、幹細胞を動物モデル又はヒトに移植した場合には、肝細胞の分化の効率が実際には低いという問題がある。さらに、肝幹細胞の正確なマーカーが定義されていないので、増殖して肝細胞に分化する幹細胞を正確に知ることが可能でないという不利益がある。
【0007】
さらに、従来の幹細胞治療の最大の問題は、インビボにおける細胞のグラフト速度及び生存率が患者によって一定でなく、したがって正確な有効性が証明できないということである。また幹細胞ががん化する可能性も除外できない。したがって、幹細胞を用いる肝疾患の治療の問題を解決することができる新たな治療方法を開発するニーズがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は間葉系幹細胞を含むバイオインプラントを含む、肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の間葉系幹細胞を含むバイオインプラントは、肝線維症の動物モデルにおいて皮下又は腹腔内にインプラントとして1回挿入されて、肝臓の損傷の指標であるAST及びALTのレベル、並びに肝実質においてコラーゲン線維によって占拠された面積の割合、変性した肝細胞の数、及び浸潤した炎症細胞の数を低減させることができ、肝臓の再生、肝線維症の阻止、及び増殖因子の発現の増大に効果的であり、したがって肝疾患の予防又は治療に有益に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、脂肪由来幹細胞(ASC)を含むバイオインプラント(以後INBS-ASC-Therと称する)のインキュベーション時間に従って分泌されたHGFの濃度を測定した結果を示すグラフである。
図2図2は、INBS-ASC-Therのインキュベーション時間に従って分泌されたVEGFの濃度を測定した結果を示すグラフである。
図3図3は、肝線維症の動物モデルに対するINBS-ASC-Therの投与後1日目、5日目、12日目、及び18日目に測定した血清ASTレベルを示すグラフである。(G1:正常群、G2~G4:DMNの投与によって誘起された肝臓の損傷を有する実験群、G2:非処理群、G3:低酸素条件で培養したINBS-ASC-Ther処理群、及びG4:低酸素条件で培養しなかったINBS-ASC-Ther処理群)
図4図4は、肝線維症の動物モデルに対するINBS-ASC-Therの投与後1日目、5日目、12日目、及び18日目に測定した血清ALTレベルを示すグラフである。
図5図5は、肝線維症の動物モデルに対するINBS-ASC-Therの投与後1日目、5日目、12日目、及び18日目に測定した血清TGレベルを示すグラフである。
図6図6は、肝線維症の動物モデルに対するINBS-ASC-Therの投与後18日目に摘出し、H&E(ヘマトキシリン-エオジン)染色及びMassonのトリクローム染色した肝組織の画像を示す一連の写真である。(H&E:40倍、Massonのトリクローム:200倍A:G1(正常群)、B:G2(非処理群)、C:G3(低酸素条件で培養したINBS-ASC-Ther処理群)、D:G4(低酸素条件で培養しなかったINBS-ASC-Ther処理群)、CV:中心静脈、PT:門脈三管領域、及びスケールバー:100μm)
図7a図7aは、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を処理した場合に肝細胞株における細胞増殖に関与する、肝臓の再生に関与する因子であるp-STAT、HGF、及びPCNAのウェスタンブロットによって測定した発現を示すダイヤグラムである。
図7b図7bは、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を処理した場合に肝臓の再生に関連する因子であるp-STATの発現が肝細胞株において増大することを確認するグラフである。
図7c図7cは、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を処理した場合に肝臓の再生に関連する因子であるHGFの発現が肝細胞株において増大することを確認するグラフである。
図7d図7dは、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を処理した場合に肝臓の再生に関連する因子であるPCNAの発現が肝細胞株において増大することを確認するグラフである。
図8a図8aは、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を処理した場合の、肝線維症に関連する因子であるα-SMA及び線維化阻害因子であるTIMPのウェスタンブロットによって測定した肝星細胞株における発現を示すダイヤグラムである。
図8b図8bは、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を処理した場合に肝線維症に関連する因子であるα-SMAの発現が肝星細胞株において低減することを確認するグラフである。
図8c図8cは、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を処理した場合に線維化阻害因子であるTIMPの発現が肝星細胞株において増大することを確認するグラフである。
図9a図9aは、miR29を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合の、肝線維症に関与する因子であるα-SMA、MMP2、及びTGF-β1のウェスタンブロットによって測定した肝星細胞株における発現を示すダイヤグラムである。
図9b図9bは、miR29を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合にMMP2の発現が肝星細胞株において低減することを確認するグラフである。
図9c図9cは、miR29を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合にSMAの発現が肝星細胞株において低減することを確認するグラフである。
図9d図9dは、miR29を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合にTGFの発現が肝星細胞株において低減することを確認するグラフである。
図10a図10aは、miR34を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合の、肝線維症に関与する因子であるMMP2及びα-SMAのウェスタンブロットによって測定した肝星細胞株における発現を示すダイヤグラムである。
図10b図10bは、miR34を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合にMMP2の発現が肝星細胞株において低減することを確認するグラフである。
図10c図10cは、miR34を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合にα-SMAの発現が肝星細胞株において低減することを確認するグラフである。
図11a図11aは、miR150を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合の、肝線維症に関与する因子であるα-SMA及びTIMP-1のウェスタンブロットによって測定した肝星細胞株における発現を示すダイヤグラムである。
図11b図11bは、miR150を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合にα-SMAの発現が肝星細胞株において低減することを確認するグラフである。
図11c図11cは、miR150を導入したASCを富化した培養培地を処理した場合にTIMP-1の発現が肝星細胞株において増大することを確認するグラフである。
図12図12は、増殖因子であるVEGFの分泌が、miR29を導入したASCを含むバイオインプラント、miR34を導入したASCを含むバイオインプラント、及びmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて、ASCを含むバイオインプラントと比較して増大することを確認するグラフである。
図13図13は、増殖因子であるHGFの分泌が、miR29を導入したASCを含むバイオインプラント、miR34を導入したASCを含むバイオインプラント、及びmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて、ASCを含むバイオインプラントと比較して増大することを確認するグラフである。
図14図14は、肝疾患のマーカーである乳酸脱水素酵素(LDH)の分泌が、miR2 9を導入したASCを含むバイオインプラント、miR34を導入したASCを含むバイオインプラント、及びmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて、ASCを含むバイオインプラントと比較して低減することを確認するグラフである。
図15a図15aは、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内投与した群において、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、ASTレベルが低下していることを示すグラフである。
図15b図15bは、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内投与した群において、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、ALTレベルが低下していることを示すグラフである。
図15c図15cは、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを皮下投与した群において、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、ASTレベルが低下していることを示すグラフである。
図15d図15dは、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを皮下投与した群において、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、ALTレベルが低下していることを示すグラフである。
図16図16は、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを投与した群において、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、肝線維症の誘起因子であるMMP2及び肝線維症の阻害因子であるTIMP1のウェスタンブロットによって測定した発現を示すダイヤグラムである。miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを投与した群は、TAAによる線維化因子を調節することによって、MMP2の発現を低下させることによって、及びTIMP1の発現を増大させることによって、抗線維化効果を示す。
図17図17は、H&E染色及びMassonのトリクローム染色による実験群における肝組織の線維化の程度を確認する一連の写真である。TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内投与した群において、MMP2の発現が低下し、その結果、TAAによって誘起されるフィブリンの低下がもたらされる。
図18図18は、免疫組織化学染色による実験群におけるMMP2の発現を確認する一連の写真である。TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内投与した群において、肝線維症の誘起因子であるMMP2の発現が低下し、その結果、TAAによって誘起されるフィブリンの低下がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
これ以降、本発明を詳細に記載する。
【0013】
本発明は、間葉系幹細胞を含むバイオインプラントを含む、肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物を提供する。
【0014】
バイオインプラントは、インビボで生体親和性の膜から作製された薄膜ポリマーチャンバーであってもよい。バイオインプラントはインビボインプランテーションのための容器、即ち移植容器であり、幹細胞を注入するための空間を有し、幹細胞によって産生された物質、特にサイトカインを、インプラントから薄膜を通して外に分泌することができる。バイオインプラントは幹細胞をレシピエントによる拒絶から保護し、皮下に埋め込まれた場合に膜に近い毛細血管の形成を誘起する血管形成機能を有し得る。この血管形成機能によって、バイオインプラントは薄膜中の幹細胞に栄養及び血液を提供することができる。バイオインプラントは生体に優しい材料、即ち免疫応答を誘起しない材料、例えばポリウレタンから作製することができるが、必ずしもそれらに限定されない。バイオインプラントは、その中で表面に複数の微細孔が位置する多孔質表面を有し得る。このとき、細孔は大きな物質、例えば細胞を通過させない大きさであるが、タンパク質又は栄養を通過させる大きさを有し得る。したがって、細孔を通って、インプラントに注入される幹細胞はインプラントから出てくることができず、したがって幹細胞によるがんの誘起は防止される。他方、幹細胞の分泌物である増殖促進因子は血液中に放出されてその周囲に血管を形成し、それにより酸素及び栄養をインプラントに供給することができる。バイオインプラントは移植後、長期を経過した後でも容易に取り出すことができる。バイオインプラントは上記の条件を満足する市販の製品を購入することによって使用することができ、又は製造して使用することができ、具体的にはTheraCyte(商標)であってもよい。バイオインプラントとしては、上記の条件を満足する市販の製品を購入し又は製造することができ、バイオインプラントは具体的にはTheraCyte(商標)であってもよい。
【0015】
間葉系幹細胞は脂肪由来幹細胞(ASC)であってもよいが、必ずしもそれに限定されない。
【0016】
間葉系幹細胞は、肝疾患を予防し又は治療することができる因子を分泌することができる。間葉系幹細胞をバイオインプラントの中に含ませることによって、幹細胞に対する拒絶反応から保護することができる。間葉系幹細胞は生体に投与された後、散乱することなく自己更新し、インプラント内に蓄積し、生体の肝臓の損傷のシグナルに応答し、肝疾患を予防し又は治療することができる因子をより連続的に分泌することができる。さらに、間葉系幹細胞の培養条件を調節することによって、肝疾患の治療又は予防により適した幹細胞を得ることが可能である。
【0017】
バイオインプラントは、1×102~1×1012個の間葉系幹細胞を含んでいてもよい。特に、1×104~1×1010個、より詳細は1×105~1×109個の細胞を含んでいてもよいが、必ずしもそれに限定されない。
【0018】
肝疾患は、肝炎、肝線維症、及び肝硬変からなる群から選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【0019】
間葉系幹細胞は、その中にmiRNA(マイクロRNA)が導入された間葉系幹細胞である。
【0020】
前記miRNAは種々の遺伝子の発現を制御する非コーディングRNAを意味し、転写後の段階における遺伝子の発現を阻害し、又はmRNAの翻訳を抑制すること若しくはmRNAの分解を誘起することによって標的RNAの分解を誘起することができる。転写後制御は、正確かつ精密な遺伝子の発現を必要とするプロセス、例えば細胞内シグナル伝達における強力な制御方法として用いられている。外部刺激によって惹起される遺伝子発現における変化の約半分は転写後の段階において制御されているので、転写後制御は遺伝子全体の発現の制御において極めて重要な役割を果たしていることが報告されている。多くの生物学的プロセス、例えば細胞の分化、増殖、アポトーシス、発育、免疫、代謝、及び幹細胞の維持の制御においてmiRNAが重要な役割を果たしていることが、多くの研究によって示されている。miRNAはペプチド又は抗体治療剤と異なり、開発期間が短いという利点を有しており、ある種の疾患目標遺伝子が特定されさえすれば理論的には全ての治療剤を開発することができる。さらに、miRNAは一般に、1つよりはむしろ多数の標的遺伝子の発現を同時に制御することによって、極めて高い特異性及び有効性を有している。
【0021】
miRNAはmiR29miR34、又はmiR150であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0022】
組成物は、PCNA、HGF、又はp-STAT3の発現を増大させる。
【0023】
PCNA、HGF、又はp-STAT3は肝臓の再生に関連する因子であり、その発現が増大すれば、損傷を受けた肝細胞が改善されていると判定することができる。
【0024】
組成物は、α-SMA、MMP、TGF-β1、又はTIMP-1の発現を低下させる。
【0025】
α-SMA、MMP、TGF-β1、又はTIMP-1は肝線維症のインデューサーであり、その発現が低減すれば、肝線維症は抑制されていると判定することができる。
【0026】
組成物は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)又は肝細胞増殖因子(HGF)の分泌を増大させる。
【0027】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)又は肝細胞増殖因子(HGF)の分泌量が増大すれば、損傷を受けた肝組織が再生したと判定することができる。
【0028】
組成物は、乳酸脱水素酵素(LDH)の分泌量を低減させる。
【0029】
細胞が破壊されると、乳酸脱水素酵素(LDH)のレベルが血中で増大し、乳酸脱水素酵素(LDH)の活性は悪性腫瘍、肝疾患、心疾患、及び血液疾患においてしばしば高くなる。LDHの分泌量が肝疾患のために増大している場合には、LDHの分泌量が低減すれば、肝疾患が改善されたと判定することができる。
【0030】
組成物は、肝臓の損傷によって増大したALTのレベルを低減させることができる。さらに、組成物は肝実質におけるコラーゲン線維で占拠された面積の割合を低減させることができ、変性した肝細胞の数又は浸潤した炎症細胞の数を低減させることができる。
【0031】
組成物は皮下に注射することができる。特に組成物は背部皮下に注射することができるが、注射部位は限定されない。
【0032】
本発明の具体的な実施例として、脂肪由来幹細胞をTheraCyte(商標)に注入し(これ以降INBS-ASC-Therと称する)、これを肝線維症動物モデルの背部皮下に挿入して、血液生化学検査、生検、及び病理組織学検査を実施した。結果として、低酸素条件下で培養したINBS-ASC-Ther実験群は、未処理群と比較して血液生化学及び病理組織学検査で相違を示さなかった。血液生化学検査では、低酸素条件で培養しなかったINBS-ASC-Ther実験群において肝臓の損傷の指標であるALTレベルが低下する傾向が確認された。病理組織学検査では、肝実質におけるコラーゲン線維で占拠された面積の割合、変性した肝細胞の数、及び浸潤した炎症細胞の数が有意に減少した(図1図6を参照)。さらに、INBS-ASC-Therは、疾患の領域である肝臓からはるかに離れた部位である背部皮下に注射しても、肝機能を改善する効果を有することができる。
【0033】
本発明者らは、3種類のmiRNAを導入した脂肪由来幹細胞を富化した培養培地で肝細胞株を処理した場合に、肝臓の再生に関与する因子であるp-STAT3、HGF、及びPCNAの発現が増大し(図7a図7dを参照)、肝線維症に関与する因子であるα-SMAの発現が低減し、線維化阻害因子であるTIMPの発現が増大する(図8a図8cを参照)ことを確認した。さらに、miR29を導入した脂肪由来幹細胞、miR34を導入した脂肪由来幹細胞、及びmiR150を導入した脂肪由来幹細胞をそれぞれ肝星細胞に処理した場合に、肝線維症に関与する因子であるα-SMA及びMMP2の発現が低減したことが確認された(図9a図11cを参照)。miR29miR34、又はmiR150を導入した脂肪由来幹細胞をTheraCyte(商標)に注入することによって産生されたバイオインプラント(miR29-ASC-Theracyte、miR34-ASC-Theracyte、miR150-ASC-Theracyte)の中のマイクロRNAを導入した脂肪由来幹細胞が血管上皮増殖因子(VEGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)の分泌を増大させ、乳酸脱水素酵素(LDH)の分泌を低減させることも確認された(図12図14)。
【0034】
さらに、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内又は皮下に投与した場合に、AST及びALTのレベルを低減させる効果が確認された(図15a図15d)。miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを投与した群が、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、TAAによる線維化因子を調節することによって、MMP2の発現を低下させることによって、及びTIMP1の発現を増大させることによって、抗線維化効果を示すことも確認された(図16)。
【0035】
さらに、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内投与した群においてMMP2の発現が低下し、その結果、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、TAAによって誘起されるフィブリンの低下がもたらされたことが確認された(図17及び図18)。
【0036】
したがって、本発明の間葉系幹細胞を含むバイオインプラント又はmi-RNAを導入した間葉系幹細胞を含むバイオインプラントは、肝疾患を予防し又は治療するために効果的に用いることができる。
【0037】
本発明による医薬組成物は、活性成分である間葉系幹細胞を含むバイオインプラントを、組成物の全重量の10~95重量%の濃度で含有してもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、上記の活性成分に加えて同じ又は同様の機能を有する1つ以上の活性成分をさらに含んでもよい。
【0038】
本発明の医薬組成物は、生物学的調製物において一般的に用いられる担体、希釈剤、賦形剤、又はそれらの混合物を含んでもよい。薬学的に許容される担体は限定なく、本発明の組成物を生体内に送達できる任意の担体であってもよく、Merck Index 13版、Merck & Co. Inc.に記載されている化合物、例えば生理食塩液、滅菌水、リンゲル液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、又はそれらの混合物によって例示される。必要であれば、一般的な添加物、例えば抗酸化剤、緩衝剤、及び静菌剤をさらに添加することができる。
【0039】
組成物を製剤化する場合には、一般的に用いられる希釈剤又は賦形剤、例えば充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、及び界面活性剤を添加することができる。
【0040】
本発明の組成物は経口又は非経口調製物として製剤化することができる。経口調製物は固体製剤及び液体製剤を含み得る。固体製剤は錠剤、ピル、粉末、顆粒、カプセル、又はトローチを含み得る。そのような固体製剤は組成物に少なくとも1つの賦形剤を添加することによって調製することができる。賦形剤はデンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチン、又はそれらの混合物であってもよい。さらに、固体調製物は滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム及びタルクを含有し得る。液体製剤は懸濁液、溶液、エマルジョン、又はシロップであってもよい。この場合には、液体製剤は賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、香料、及び保存剤を含有し得る。
【0041】
非経口調製物は注射剤、坐剤、呼吸器吸入のための粉末、噴霧エアロゾル、粉末、及びクリームを含み得る。注射剤は滅菌水性溶液、非水溶媒、懸濁液、エマルジョン等を含み得る。このとき、非水溶媒又は懸濁液として、植物油、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びオリーブ油、又は注射可能なエステル、例えばオレイン酸エチルを用いることができる。
【0042】
本発明の組成物は、所望の方法に従って経口又は非経口で投与することができる。非経口投与は腹腔内注射、直腸注射、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、又は胸郭内注射を含み得る。
【0043】
組成物は薬学的に有効な量で投与することができる。有効量は、疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する患者の感受性、投与の時間、投与の経路、治療の継続期間、同時に用いる薬物等に従って決定することができる。しかし、所望の効果のために、本発明による医薬組成物に含まれる間葉系幹細胞の量は、細胞1×102~1×1012個/回、好ましくは1×104~1×1010個/回、より好ましくは1×105~1×109個/回であってもよいが、これらに限定されない。投与の頻度は1日1回又は1日数回である。
【0044】
本発明の組成物は、単独で、又は他の治療剤と組み合わせて、投与することができる。組合せ投与の場合、投与は逐次的でも同時であってもよい。
【0045】
[いくつかの実施例の詳細な説明]
これ以降、以下の実施例によって本発明を詳細に説明する。
【0046】
しかし、以下の実施例は本発明を説明するためのみであり、本発明の内容はこれに限定されない。
【0047】
[実施例1]脂肪由来幹細胞(ASC)の培養
脂肪由来幹細胞(ASC)は、手術室において健常人から得た脂肪組織から、脂肪由来幹細胞を分離する一般的な方法に従って洗浄、細切、消化、中和、遠心分離、及び濾過を実施することによって分離し、培養した。細胞の形態はフローサイトメトリーによって確認した。次いで継代培養を実施して大量の脂肪由来幹細胞(脂肪幹細胞)を確保した。得られた脂肪幹細胞を、DMEM(低グルコース、10%FBS、1%P/S)を含有するT75フラスコで70~80%フルになるまで培養し、以下の実験に用いた。
【0048】
[実施例2]バイオインプラントに含有される脂肪由来幹細胞(INBS-ASC-Ther)の調製
実施例1で培養した脂肪由来幹細胞をバイオインプラントTheraCyte(商標)に注入した。
【0049】
詳しくは、実施例1で培養した脂肪由来幹細胞を2つの実験群に分割した。一方の実験群では、実施例1で培養した1×107個の脂肪由来幹細胞を、TheraCyte(商標)(TheraCyte Inc.、PD20.0、Ported TheraCyte(登録商標)Device)に注入した。他方の実験群では、低酸素チャンバー内で24時間培養した1×107個の脂肪由来幹細胞を同様の方法でTheraCyte(商標)に注入した。
【0050】
[実験実施例1]バイオインプラントに含有される脂肪由来幹細胞(INBS-ASC-Ther)におけるHGF及びVEGFの分泌の測定
実施例2で調製した2つの実験群のINBS-ASC-Therを、DMEM(低グルコース、10%FBS、1%P/S)を含有する100mmのプレートに浸漬するように設置し、7日間培養した。培養の1日目、3日目、及び7日目に500μlの培養液を取り出し、それぞれELISAキットを用いてHGF及びVEGFの分泌量を測定した。
【0051】
結果として、INBS-ASC-Therの2つの実験群の両方ともHGF及びVEGFを分泌し、HGF又はVEGFの大部分は7日目に分泌された。さらに、INBS-ASC-Therは低酸素で培養した場合にHGF及びVEGFの分泌を増大させた(図1及び図2)。
【0052】
[実験実施例2]肝線維症動物モデルの構築
OrientBioから購入したSDラット(雄)を5日間馴化し、動物にDMN(ジメチルニトロソアミン)を10mg/kgの用量で、3日連続で週3回、合計3週間にわたって腹腔内投与した。DMNの投与の2週後に血液を採取し、採取した血清について肝ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)のレベルを確認した。あるレベルを超えて肝線維症が誘起された動物を選択することによって、以下の実験を実施した。
【0053】
[実験実施例3]バイオインプラントに含有される脂肪由来幹細胞の肝線維症動物モデルに対する治療効果
実験実施例2において、ALT値の結果によって各群の平均値が均一になるように実験群をランダムに分割した。実験群はDMNを投与しなかった正常群(G1)及びDMNを投与した実験群であった。DMNを投与した実験群は、非処理群(G2)、低酸素で培養したINBS-ASC-Therを投与した群(G3)、及びINBS-ASC-Therを投与した群(G4)にさらに分割した。G3及びG4の実験群では、低酸素処理又は非処理の1×107個の脂肪由来幹細胞を含む1つのINBS-ASC-Therを、DMNの投与の2週目の終了の5日後に、マウスの背部皮下に注射した。次いで各実験群について臨床病理検査、生検、及び病理組織学検査を実施した。
【0054】
<3-1>血液生化学検査
低酸素処理又は非処理のINBS-ASC-Therの投与の1日目、5日目、12日目、及び18日目に血液を採取し、各実験群について血液生化学検査を実施した。1日目の場合には、検査は低酸素処理又は非処理のINBS-ASC-Therの投与の1時間後に実施した。詳しくは、各動物の頸静脈からシリンジを用いて各回に約700μlの血液を得て、得られた血液を、血栓活性化剤を含有するバキュテーナーチューブに注入し、室温で30分凝血させた。凝固した血液を3,000rpmで10分遠心分離して血清を分離し、分析まで血清を凍結保存した。生検の日(18日目)にイソフルランの吸入によって動物モデルを麻酔し、シリンジを用いて下大静脈から血液を採取した。
【0055】
得られた血清中のAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)及びTG(トリグリセリド)のレベルを測定した。
【0056】
AST測定の結果として、ASTのレベルが非処理群(G2)において正常群(G1)と比較して1日目に有意に増大したことが確認された(P<0.05)。他の測定日では統計的有意差はなかったが、増大する傾向が観察された。低酸素処理又は非処理のINBS-ASC-Ther群(G3及びG4)では、非処理群(G2)と比較して統計的有意差はなかったが、12日目まで低下する傾向が観察された(図3)。
【0057】
ALT測定の結果として、ALTのレベルが非処理群(G2)において正常群(G1)と比較して1日目及び12日目に有意に増大したことが確認された(P<0.05)。他の測定日では統計的有意差はなかったが、増大する傾向が観察された。低酸素処理群(G3)では、非処理群(G2)と比較して統計的有意差はなかった。低酸素非処理INBS-ASC-Ther群(G4)では、非処理群(G2)と比較して統計的有意差はなかったが、低下する傾向が観察された(図4)。
【0058】
TG測定の結果として、TGのレベルが非処理群(G2)において正常群(G1)と比較して5日目、12日目、及び18日目に有意に低減したことが確認された(P<0.01)。低酸素処理又は非処理のINBS-ASC-Ther群(G3及びG4)では、非処理群(G2)と比較して統計的有意差はなかったが、1日目を除いてレベルは正常群(G1)のレベルまで増大したことが確認された(図5)。
【0059】
上記の結果から、肝機能に高度に関連するAST及びALTのレベルが、非処理群(G2)において正常群(G1)と比較して有意に増大したことが確認され、肝臓の損傷がDMNによって誘起されたことを示している。低酸素処理INBS-ASC-Ther群(G3)においては、非処理群(G2)と比較して、肝臓の損傷の指標であるAST及びALTのレベルが低下する傾向があったが、生検の日にはレベルは何ら差を示さず、肝臓の損傷には改善がなかったことを示している。低酸素非処理INBS-ASC-Ther群(G4)においては、ASTのレベルは非処理群(G2)と比較して低下する傾向を示したが、生検の日にはレベルは何ら差を示さなかった。しかしALTのレベルは連続的に低下する傾向を示し、肝機能が改善されたことを示している。
【0060】
<3-2>病理組織学検査
各実験群についての病理組織学検査のため、低酸素処理又は未処理のINBS-ASC-Therの投与の18日目に血液を採取し、腹部大動脈及び下大静脈を切断して出血/死亡させた。動物から肝臓を摘出して、10%中性緩衝ホルマリン固定液で固定した。固定した組織を、H&E染色及びMassonのトリクローム染色を用いる病理組織学検査のためにCollege of Korean Medicineに委託した。詳しくは、コラーゲン線維で占拠された領域、変性した肝細胞の数、及び炎症細胞の数を測定した。顕微鏡としてEclipse 80i(ニコン、日本)を使用し、解析のためにiSolution FL ver 9.1 (iSolution, Inc.、Canada)を用いた。
【0061】
結果として、非処理群(G2)では、肝実質においてコラーゲン線維で占拠された面積の割合、変性した肝細胞の数、及び浸潤した炎症細胞の数が、正常群(G1)と比較して有意に増大していた(P<0.01)。したがって、肝臓の損傷がDMNによって誘起されたことが確認された。低酸素処理INBS-ASC-Ther群(G3)では非処理群(G2)と比較して全ての測定項目で差がない一方、低酸素非処理INBS-ASC-Ther群(G4)では非処理群(G2)と比較して全ての測定項目が有意に減少した(P<0.05又はP<0.01)。したがって、低酸素非処理INBS-ASC-Therは損傷を受けた肝臓の改善に有効であることが確認された(表1及び図6)。
【0062】
【表1】
【0063】
上記の結果から、DMNによって惹起された肝臓の損傷を有するSDラットにINBS-ASC-Therを1回皮下注射した場合に、低酸素処理INBS-ASC-Ther群(G3)と非処理群(G2)との間で血液学検査及び病理組織学検査において差がないことが確認された。低酸素非処理INBS-ASC-Ther群(G4)では、生検の日に基づく血液生化学検査で肝臓の損傷の指標の低下が確認され、病理組織学検査でも肝臓の損傷の指標の有意な低下が確認された。したがって、低酸素非処理INBS-ASC-Ther群(G4)において、肝臓の損傷による肝臓の機能不全の改善が確認された。上記の結果は、INBS-ASC-Therが、疾患の領域である肝臓からはるかに離れた部位である背部の皮下に注射しても、肝機能を改善する効果を有することができることを示唆している。
【0064】
[実施例3]抗線維化効果を有するマイクロRNA(miRNA)の選択
バイオインフォマティクス、例えばPubMed、miRNAベース、及びCochraneを用いる文献検索により、線維化を阻害することが報告されているmiRNAを選択した。
【0065】
結果として、抗線維化効果を有するマイクロRNAとして3つのmiRNA、即ちmiR-29(配列番号1)、miR-34(配列番号2)、及びmiR150(配列番号3)を選択した。
【0066】
【表2】
【0067】
[実施例4]脂肪由来幹細胞へのマイクロRNAの導入及び培地の濃縮
実施例1に記載したものと同じ方法及び条件で、脂肪由来幹細胞(ASC)を培養した。細胞をそれぞれmiR29miR34、及びmiR150でトランスフェクトし、さらに培養した。次いで、超遠心フィルター(Millipore Amicon)を用いて、マイクロRNAを導入したASC培養培地を25倍に濃縮した。
【0068】
[実施例5]バイオインプラントに含有されるマイクロRNAを導入したASCの調製
実施例4で培養したマイクロRNAを導入したASCを、TheraCyte(商標)バイオインプラントに注入した。
【0069】
詳しくは、低酸素チャンバー内で24時間培養した1×106個のASCを、TheraCyte(TheraCyte Inc.、PD20.0、Ported TheraCyte(登録商標)Device)に注入した。
【0070】
[実験実施例4]マイクロRNAを導入した脂肪由来幹細胞のインビトロ肝細胞再生効果の確認
<4-1>肝細胞株(AML12)における肝細胞再生効果の確認
実施例4で調製したマイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を用いて、肝細胞を再生する効果を確認した。
【0071】
詳しくは、実施例4で得られた、ASCを富化した培地(NCM)、miR29を導入したASCを富化した培地(MCM-29)、miR34を導入したASCを富化した培地(MCM-34)、及びmiR150を導入したASCを富化した培地(MCM-150)を、50mMのチオアセトアミドで処理し又は処理しなかった肝細胞株(AML12、ATCC)に処理し、肝臓の再生に関連する因子であるPCNA、HGF、及びp-STAT3の発現レベルをウェスタンブロットによって測定した。
【0072】
ウェスタンブロットのため、EzRIPA溶解キット(アトー株式会社(Ato Corporation)、東京、日本)を用いてAML12細胞を溶解した。一次抗体(1:1,000)を用いて4℃、一夜で、次いでHRPコンジュゲート二次抗体(1:2,000)を用いて25℃、1時間でタンパク質を可視化した。HRPコンジュゲート二次抗ウサギIgG及びHRPコンジュゲート抗マウスIgG(Cell Signaling、Beverly、Massachusetts)とともに、肝細胞増殖因子(HGF)(Abcam、Cambridge、Massachusetts)、増殖細胞核抗原(PCNA)、p-STAT3、及びβ-アクチンに対する抗体を用いた。
【0073】
結果として、図7a図7dに示すように、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地で処理した群において、TAAのみで処理した対照群及びASCのみで処理した群と比較して、肝臓の再生に関与し、細胞増殖に関与する因子であるp-STAT(図7b)、HGF(図7c)、及びPCNA(図7d)の発現が増大したことが確認された。
【0074】
<4-2>肝星細胞株(LX2)における肝線維症阻害効果の確認
実施例4で調製したマイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地を用いて、肝細胞を再生する効果を確認した。
【0075】
詳しくは、5mMのチオアセトアミドを処理したこと、肝星細胞株(LX2、Korea Advanced Institute of Science and TechnologyのJeong教授から提供された)を用いたこと、及び肝線維症に関連する因子であるα-SMA及び線維化阻害因子であるTIMPの発現レベルを測定したことを除いて、実験実施例<4-1>に記載したものと同じ方法及び条件で、α-SMA及びTIMPの発現レベルを測定した。
【0076】
結果として、図8a図8cに示すように、マイクロRNAを導入したASCを富化した培養培地で処理した群において、TAAのみで処理した対照群及びASCのみで処理した群と比較して、肝線維症に関連する因子であるα-SMAの発現が低減し(図8b)、線維化阻害因子であるTIMPの発現が増大した(図8c)。
【0077】
[実験実施例5]マイクロRNA処理群における肝線維症阻害効果の確認
実験実施例4の肝星細胞株(LX2)を用いて、それぞれmiR29を導入したASCで処理した群、miR34を導入したASCで処理した群、及びmiR150を導入したASCで処理した群における肝線維症に関連する因子の発現を測定した。
【0078】
<5-1>miR29を導入したASCで処理した群における肝線維症阻害効果の確認
肝星細胞(LX2)を5mMのチオアセトアミドで処理し又は処理せず、これに実施例4で調製したmiR29を導入したASCを富化した培地を処理した。次いで、実験実施例<4-1>に記載したものと同じ方法及び条件で、肝線維症に関連する因子であるMMP2、SMA、及びTGFの発現レベルを測定した。
【0079】
結果として、図9a図9dに示すように、miR29を導入したASCで処理した群において、TAAのみで処理した対照群及びASCのみで処理した群と比較して、肝線維症に関与する因子であるMMP2(図9b)、α-SMA(図9c)、及びTGF(図9d)の発現レベルが低減した。したがって、miR29を導入したASCは肝線維症に対する阻害効果を有していることが確認された。
【0080】
<5-2>miR34を導入したASCで処理した群における肝線維症阻害効果の確認
肝星細胞(LX2)を5mMのチオアセトアミドで処理し又は処理せず、これに実施例4で調製したmiR34を導入したASCを富化した培地を処理した。次いで、実験実施例<4-1>に記載したものと同じ方法及び条件で、肝線維症に関連する因子であるMMP2及びα-SMAの発現レベルを測定した。
【0081】
結果として、図10a図10cに示すように、miR34を導入したASCで処理した群において、TAAのみで処理した対照群及びASCのみで処理した群と比較して、肝線維症に関与する因子であるMMP2(図10b)及びα-SMA(図10c)の発現レベルが低減した。したがって、miR34を導入したASCは肝線維症に対する阻害効果を有していることが確認された。
【0082】
<5-3>miR150を導入したASCで処理した群における肝線維症阻害効果の確認
肝星細胞(LX2)を5mMのチオアセトアミドで処理し又は処理せず、これに実施例4で調製したmiR150を導入したASCを富化した培地を処理した。次いで、実験実施例<4-1>に記載したものと同じ方法及び条件で、肝線維症に関連する因子であるα-SMA及びTIMP-1の発現レベルを測定した。
【0083】
結果として、図11a図11cに示すように、miR150を導入したASCで処理した群において、TAAのみで処理した対照群及びASCのみで処理した群と比較して、肝線維症に関連する因子であるα-SMAの発現が低減し(図11b)、線維化阻害因子であるTIMP-1の発現が増大した(図11c)。したがって、miR150を導入したASCは肝線維症に対する阻害効果を有していることが確認された。
【0084】
[実験実施例6]バイオインプラントに含有されるマイクロRNAを導入したASCにおけるVEGF、HGF、及びLDHの分泌の測定
実施例5で調製したmiR29miR34、及びmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおける血管上皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、及び乳酸脱水素酵素(LDH)の分泌量を測定することによって、肝再生効果を確認した。
【0085】
詳しくは、培養培地中のVEGF、HGF、及びLDHの分泌量を、ELISAキット(Biolegend、San Diego、California)を用いてメーカー推奨の方法によって測定した。
【0086】
結果として、図12に示すように、miR29を導入したASCを含むバイオインプラント、miR34を導入したASCを含むバイオインプラント、及びmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて、ASCを含むバイオインプラントと比較して、増殖因子VEGFの分泌が増大したことが確認された。VEGFの分泌量を増大させる効果は、miR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて最良であった。
【0087】
図13に示すように、miR29を導入したASCを含むバイオインプラント、miR34を導入したASCを含むバイオインプラント、及びmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて、ASCを含むバイオインプラントと比較して、増殖因子HGFの分泌が増大したことが確認された。HGFの分泌量を増大させる効果は、miR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて最良であった。
【0088】
図14に示すように、miR29を導入したASCを含むバイオインプラント、miR34を導入したASCを含むバイオインプラント、及びmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて、ASCを含むバイオインプラントと比較して、肝疾患マーカーLDHの分泌が低減したことが確認された。LDHの分泌量を低減させる効果は、miR150を導入したASCを含むバイオインプラントにおいて最良であった。
【0089】
[実験実施例7]肝線維症動物モデルの構築
7~8週齢のマウス(BALB/c)に週3回、5週間、TAA(200mg/kg)を腹腔内投与することによって、肝線維症を誘起した。
【0090】
肝線維症の誘起の6週後に、マウスの肝組織についてRT-PCR、ウェスタンブロット、及び免疫染色を実施して、肝線維症の誘起を確認した。
【0091】
[実験実施例8]肝線維症動物モデルにおけるバイオインプラントに含有されるマイクロRNAを導入したASCの治療効果の確認
実験群を、(1)何ら処理をしない対照群(対照)、(2)チオアセトアミド(TAA)のみで処理することによって肝線維症を誘起した群(TAAのみ)、(3)TAAで処理することによって肝線維症を誘起し、ASCを含むバイオインプラントを付着させた群(TAA+ASC+Theracyte)、(4)TAAで処理することによって肝線維症を誘起し、miR29を導入したASCを含むバイオインプラントを付着させた群(miR29-ASC+Theracyte+腹腔)、(5)TAAで処理することによって肝線維症を誘起し、miR34を導入したASCを含むバイオインプラントを付着させた群(miR34-ASC+Theracyte+腹腔)、(6)TAAで処理することによって肝線維症を誘起し、miR150を導入したASCを含むバイオインプラントを付着させた群(miR150-ASC+Theracyte+腹腔)、(7)TAAで処理することによって肝線維症を誘起し、miR29を導入したASCを含むバイオインプラントを付着させた群(miR29-ASC+Theracyte+皮下)、(8)TAAで処理することによって肝線維症を誘起し、miR34を導入したASCを含むバイオインプラントを付着させた群(miR34-ASC+Theracyte+皮下)、及び(9)TAAで処理することによって肝線維症を誘起し、miR150を導入したASCを含むバイオインプラントを付着させた群(miR150-ASC+Theracyte+皮下)に分割した。
【0092】
その後、バイオインプラントに含有されるマイクロRNAを導入したASCを肝線維症動物モデルの上皮に植え付け、肝酵素レベルの変化、線維症の指標、肝機能の再生、及び回復因子を測定し、病理組織学解析を実施した。
【0093】
<8-1>肝酵素レベルの変化の測定
実験群(1)~(9)において、肝細胞の破壊によって分泌される酵素として肝疾患を判定するためのインジケーターであるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)のレベルを測定した。
【0094】
詳しくは、血清を採取し、肝臓の損傷のインジケーターであるアミノ酸トランスフェラーゼ、即ちアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の濃度を、Idexx VetTestケミカルアナライザーを用いて測定した。
【0095】
結果として、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内又は皮下に投与した群において、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、AST及びALTのレベルが低下した。したがって、TAAによって惹起された肝機能の低下が回復したことが確認された(図15a図15d)。
【0096】
<8-2>線維化のインジケーター及び回復因子の発現の測定
実験群(1)~(9)から肝組織を得て、線維化のインジケーターであるMMP2及び肝線維症の阻害因子であるTIMP-1の発現レベルの変化をウェスタンブロットによって確認した。
【0097】
詳しくは、EzRIPA溶解キット(アトー株式会社、東京、日本)を用いて肝組織を溶解し、12,000rpmで15分遠心分離した後、上清を採取した。溶解緩衝液(Roche Diagnostics Life Science、Indianapolis、Indiana、USA)を用いて肝組織を溶解した。Bradford試薬(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA、USA)を用いて溶解物中のタンパク質濃度を測定した。SDS-PAGEによって1ウェルあたり同量のタンパク質(30μg)を分離し、5%の脱脂乳でブロックしたニトロセルロース膜に室温で1時間、電気移動した。プレートを、TIMP2、プロコラーゲン、TGF-β1、HGF、PCNA、p-STAT3、Bcl-2、及びβ-アクチンに対する一次抗体(1:1,000)と4℃で一夜インキュベートした。プレートを、HRPコンジュゲートした二次抗ウサギIgG及び抗マウスIgG(1:2,000)(Cell Signaling、Beverly、Massachusetts、USA)と室温で1時間インキュベートした。ウェスタンブロット及び化学発光試薬(Millipore)を用いて、ある種の免疫複合体を検出した。
【0098】
結果として、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを投与した群は、TAA単独で処理することによって肝線維症を誘起した群と比較して、TAAによる線維化因子を調節することによって、MMP2の発現を低下させることによって、及びTIMP1の発現を増大させることによって、抗線維化効果を示した(図16)。
【0099】
<8-3>病理組織学検査
各実験群の動物から肝臓を摘出して、10%中性緩衝ホルマリン固定液で固定した。固定した組織をH&E染色、Massonのトリクローム染色、及びMMP2免疫化学染色に供して形態解析を行なった。
【0100】
詳しくは、摘出した肝組織を、10%のホルマリンを含有する0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.2、Sigma)で固定し、パラフィンに包埋して、切片を作製した。調製したパラフィン切片(厚さ4μm)を脱脂し、水和し、0.01%のプロテアーゼXXIV(Sigma)を含有するリン酸緩衝食塩水中で37℃、20分間処理し、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。
【0101】
Massonのトリクローム染色のため、5μmの厚さの切片に加工したパラフィン包埋組織からパラフィンを除去し、組織をエチルアルコールで再水和し、水道水で洗浄し、Bouin液で56℃、1時間、再固定した。水道水の流水中で組織を10分間すすぎ、Weigertの鉄ヘマトキシリン作動液を用いて10分間染色した後、スライドをBiebrichのスカーレット酸性フクシン液で15分間染色し、水道水で洗浄した。断片をリンモリブデン酸-リンタングステン酸溶液中で15分間分化し、アニリンブルー液に移して10分間染色した。水道水で軽く洗浄した後、スライドを1%の酢酸溶液と5分間反応させた。デジタル画像解析(MetaMorph version 4.6r5、Universal Imaging Corp.、Downingtown、PA、USA)を用いて染色強度の半定量値を決定し、400倍の拡大で各断片について少なくとも5つの区域を検査した。
【0102】
免疫組織化学アッセイによってMMP2を分析した。このため、ホルマリン固定しパラフィン包埋した組織切片をキシレン中で脱パラフィンし、アルコールのグレードによって再水和した。抗原は標準的な手順によって回収した。本発明による一次抗体はPCNA抗体(1:300、Abcam)である。組織切片をヘマトキシリンで対染色した。レーザー走査顕微鏡(Eclipse TE300、ニコン、東京、日本)の下で、20個のランダムな視野の中で手作業で細胞を計数することにより、MMP2陽性細胞の数を決定した。
【0103】
H&E染色及びMassonのトリクローム染色の結果として、図17に示すように、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内に投与した群において、TAA単独で処理することによって肝線維症、即ち青く染色される区域を誘起した群と比較して、青く染色される区域が低減し、TAAによって誘起されたフィブリンが低減したことが示された。図18に示すように、miR29miR34、又はmiR150を導入したASCを含むバイオインプラントを腹腔内に投与した群において、TAA単独で処理することによってMMP2、即ち肝線維症の誘起因子の発現が増大した群と比較して、MMP2の発現が低下し、TAAによって誘起されたフィブリンが低減したことが示された。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]間葉系幹細胞を含むバイオインプラントを含む、肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態2]前記間葉系幹細胞が前記バイオインプラント中に1×105~1×109の数で含まれている、実施形態1に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態3]前記肝疾患が、肝炎、肝線維症、及び肝硬変からなる群から選択されるいずれか1つ以上である、実施形態1に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態4]前記間葉系幹細胞が、その中にmiRNA(マイクロRNA)が導入された間葉系幹細胞である、実施形態1に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態5]前記miRNAがmiR24、miR39、又はmiR150である、実施形態4に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態6]PCNA、HGF、p-STAT、又はTIMPの発現を増大させる、実施形態4に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態7]α-SMA、MMP、又はTGFの発現を低減させる、実施形態4に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態8]血管内皮細胞増殖因子(VEGF)又は肝細胞増殖因子(HGF)の分泌を増大させる、実施形態4に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態9]乳酸脱水素酵素(LDH)の分泌を低減させる、実施形態4に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態10]AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)及びALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)のレベルを低減させる、実施形態1又は4に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態11]肝実質におけるコラーゲン線維で占拠された面積の割合を低減させる、実施形態1に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態12]変性した肝細胞の数を低減させる、実施形態1に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態13]浸潤した炎症細胞の数を低減させる、実施形態1に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態14]皮下又は腹腔内に注射される、実施形態1から9及び11から13のいずれかに記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態15]背部皮下に注射される、実施形態14に記載の肝疾患を予防し又は治療するための医薬組成物。
[実施形態16]間葉系幹細胞を含むバイオインプラントを対象に投与するステップを含む、肝疾患を予防し、改善し、又は治療する方法。
[実施形態17]肝疾患の予防、改善、又は治療のための医薬の製造のための、間葉系幹細胞を含むバイオインプラントの使用。
図1
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【配列表】
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