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特許7372995光透過性導電層積層体の製造方法および光透過性導電層積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】光透過性導電層積層体の製造方法および光透過性導電層積層体
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20231025BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20231025BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20231025BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20231025BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
H01B13/00 503B
B32B7/025
B32B9/00 A
C23C14/08 D
H01B5/14 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022025297
(22)【出願日】2022-02-22
(62)【分割の表示】P 2021517074の分割
【原出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022067102
(43)【公開日】2022-05-02
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2020074853
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020200421
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】鴉田 泰介
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-334924(JP,A)
【文献】特開平10-036961(JP,A)
【文献】特開2007-080806(JP,A)
【文献】特開2000-038654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
B32B 7/025
B32B 9/00
C23C 14/08
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と、光透過性導電層とを厚み方向に順に備える光透過性導電層積層体の製造方法であり、
前記光透過性導電層は、第1主面、および、前記第1主面の厚み方向一方側に間隔を隔てて対向配置される第2主面を有し、前記厚み方向に直交する面方向に延びる層を有し、
前記第1主面および前記第2主面のいずれか一方が前記樹脂層に接触し、
前記光透過性導電層は、導電性酸化物を含み、
前記導電性酸化物が、アルゴンと、前記アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを含有し、
前記光透過性導電層は、スパッタリングにより成膜されるスパッタリング層であり、
前記希ガスを含む第1領域と、前記アルゴンを含む第2領域とを厚み方向に順に有し、
前記第1領域における前記希ガスの含有割合R rg1 は、前記第2領域における前記希ガスの含有割合R rg2 より高く、
前記第2領域におけるアルゴンの含有割合R Ar2 は、前記第1領域における前記アルゴンの含有割合R Ar1 より高く、
前記第1領域および前記第2領域のそれぞれは、前記第1主面または前記第2主面を有し、
前記第1領域が前記第1主面を有するときには、前記第2領域が前記第2主面を有し、
前記第1領域が前記第2主面を有するときには、前記第2領域が前記第1主面を有し、
前記第1領域および前記第2領域は、互いに接触することを特徴とする、光透過性導電層積層体の製造方法。
【請求項2】
前記希ガスが、クリプトンであることを特徴とする、請求項1に記載の光透過性導電層積層体の製造方法。
【請求項3】
前記導電性酸化物が、インジウムおよびスズをさらに含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の光透過性導電層積層体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂層が、前記希ガスを含む前記第1領域に含まれる前記第1主面に接触することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の光透過性導電層積層体の製造方法。
【請求項5】
樹脂層と、光透過性導電層とを厚み方向に順に備える光透過性導電層積層体であり、
前記光透過性導電層は、第1主面、および、前記第1主面の厚み方向一方側に間隔を隔てて対向配置される第2主面を有し、前記厚み方向に直交する面方向に延びる層を有し、
前記第1主面および前記第2主面のいずれか一方が前記樹脂層に接触し、
前記光透過性導電層は、導電性酸化物を含み、
前記導電性酸化物が、アルゴンと、前記アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを含有し、
前記光透過性導電層は、スパッタリング層であり、
前記希ガスを含む第1領域と、前記アルゴンを含む第2領域とを厚み方向に順に有し、
前記第1領域における前記希ガスの含有割合R rg1 は、前記第2領域における前記希ガスの含有割合R rg2 より高く、
前記第2領域におけるアルゴンの含有割合R Ar2 は、前記第1領域における前記アルゴンの含有割合R Ar1 より高く、
前記第1領域および前記第2領域のそれぞれは、前記第1主面または前記第2主面を有し、
前記第1領域が前記第1主面を有するときには、前記第2領域が前記第2主面を有し、
前記第1領域が前記第2主面を有するときには、前記第2領域が前記第1主面を有し、
前記第1領域および前記第2領域は、互いに接触することを特徴とする、光透過性導電層積層体。
【請求項6】
前記希ガスが、クリプトンであることを特徴とする、請求項に記載の光透過性導電層積層体。
【請求項7】
前記導電性酸化物が、インジウムおよびスズをさらに含有することを特徴とする、請求項またはに記載の光透過性導電層積層体。
【請求項8】
前記樹脂層が、前記希ガスを含む前記第1領域に含まれる前記第1主面に接触することを特徴とする、請求項のいずれか一項に記載の光透過性導電層積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性導電層積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板と、その上面に形成され、アルゴンまたはクリプトンが混入したITOからなる透明導電膜とを備える積層構造体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-262829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、積層構造体の用途によって、樹脂層(例えば、ポリマー基板)を用いる場合がある。しかし、特許文献1に記載のガラス基板を、樹脂層に変更すれば、そのような樹脂層は、耐熱性に劣り、熱による寸法変形が大きくなるため、それに透明導電膜が追従すれば、透明導電膜にクラックを生じるという不具合がある。
【0005】
本発明は、耐クラック性に優れる光透過性導電層積層体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、樹脂層と、光透過性導電層とを厚み方向に順に備え、前記光透過性導電層は、第1主面、および、前記第1主面の厚み方向一方側に間隔を隔てて対向配置される第2主面を有し、前記厚み方向に直交する面方向に延びる単一の層を有し、前記第1主面および前記第2主面のいずれか一方が前記樹脂層に接触し、前記光透過性導電層は、導電性酸化物を含み、前記導電性酸化物が、アルゴンと、前記アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを含有する、光透過性導電層積層体を含む。
【0007】
本発明(2)は、前記希ガスを含む第1領域と、前記アルゴンを含む第2領域とを厚み方向に順に有する、(1)に記載の光透過性導電層積層体を含む。
【0008】
本発明(3)は、前記希ガスが、クリプトンである、(1)または(2)に記載の光透過性導電層積層体を含む。
【0009】
本発明(4)は、前記導電性酸化物が、インジウムおよびスズをさらに含有する、(1)~(3)のいずれか一項に記載の光透過性導電層積層体を含む。
【0010】
本発明(5)は、前記樹脂層が、前記光透過性導電層の前記第1主面に接触する、(1)~(4)のいずれか一項に記載の光透過性導電層積層体を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光透過性導電層積層体は、耐クラック性が優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の光透過性導電層積層体の一実施形態である光透過性導電フィルムの断面図である。
図2図2は、図1に示す光透過性導電層の拡大断面図である。
図3図3は、図1に示す光透過性導電フィルムを製造するためのスパッタリング装置の概略図である。
図4図4は、図1に示す光透過性導電フィルムの変形例の断面図である。
図5図5A図5Cは、図2に示す光透過性導電層の変形例の拡大断面図であり、図5Aおよび図5Bは、第1領域と第2領域とが交互に配置される変形例、図5Cは、アルゴンとアルゴンより原子番号が大きい希ガスとが混在する変形例である。
図6図6は、非晶質の光透過性導電層をスパッタリング形成する時に、導入する酸素の量と、非晶質の光透過性導電層の表面抵抗との関係を示すグラフである。
図7図7A図7Bは、本発明の光透過性導電層積層体の他の例の断面図であり、図7Aが、光透過性導電層が機能層に積層される態様、図7Bが、光透過性導電層が透明基材フィルムに積層される態様である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[光透過性導電フィルムの一実施形態]
本発明の光透過性導電層積層体の一実施形態である光透過性導電フィルムを、図1を参照して説明する。
【0014】
光透過性導電フィルム10は、後述するタッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ、電磁波シールド部材、画像表示装置、ヒータ部材(光透過性ヒータ)、および、照明などに備えられる一部材であって、光透過性導電フィルム10は、それらを製造するための中間部材である。光透過性導電フィルム10は、単独で流通し、産業上利用可能な層である。
【0015】
図1に示すように、光透過性導電フィルム10は、厚み方向に直交する面方向に向かって延びるフィルム形状(フィルム)を有する。光透過性導電フィルム10は、樹脂層11と、光透過性導電層1とを、厚み方向一方側に向かって順に備える。
【0016】
[樹脂層]
樹脂層11は、光透過性導電フィルム10の厚み方向他方面を形成する。樹脂層11は、面方向に向かって延びるフィルム形状を有する。樹脂層11は、基材層である。樹脂層11は、可撓性を有する。例えば、樹脂層11は、透明基材フィルム13と、機能層14とを厚み方向一方側に向かって順に備える。樹脂層11は、好ましくは、ガラス基板と隣接しない。
【0017】
透明基材フィルム13は、面方向に向かって延びるフィルム形状を有する。透明基材フィルム13は、樹脂層11の厚み方向他方面を形成する。透明基材フィルム13の材料は、ポリマーである。ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー(COP)などのオレフィン樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、例えば、ポリアクリレートおよび/またはポリメタクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂および/またはメタクリル樹脂)、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂などの樹脂が挙げられ、好ましくは、ポリエステル樹脂、より好ましくは、PETが挙げられる。上記材料からなる透明基材フィルム13は、耐熱性が低いため、結晶化のための200℃以上の加熱(後述)に供することが困難となる場合があるが、上記材料からなる透明基材フィルム13によれば、平滑性に優れ、加熱安定性を有する光透過性導電フィルム10を得ることができる。透明基材フィルム13の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、30μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下、より好ましくは、100μm以下、さらに好ましくは、75μm以下である。
【0018】
透明基材フィルム13の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上であり、また、100%以下である。
【0019】
機能層14は、樹脂層11の厚み方向一方面を形成する。機能層14は、透明基材フィルム13の厚み方向一方面に配置されている。具体的には、機能層14は、透明基材フィルム13の厚み方向一方面の全部に接触する。機能層14は、面方向に延びる。機能層は、樹脂を含む層である。機能層14としては、例えば、ハードコート層が挙げられる。このような場合には、樹脂層11は、透明基材フィルム13と、ハードコート層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える。以下の説明では、機能層14がハードコート層である場合について、説明する。
【0020】
ハードコート層は、光透過性導電層1に擦り傷を生じ難くするための擦傷保護層である。ハードコート層は、樹脂層11の厚み方向一方面を形成する。ハードコート層は、透明基材フィルム13の厚み方向一方面の全部に接触している。ハードコート層の材料としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート組成物(アクリル樹脂、ウレタン樹脂など)の硬化物が挙げられる。ハードコート層の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上であり、また、例えば、10μm以下、好ましくは、5μm以下である。
【0021】
[樹脂層の物性]
樹脂層11の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、15μm以上、さらに好ましくは、30μm以上であり、また、例えば、310μm以下、好ましくは、210μm以下、より好ましくは、110μm以下、さらに好ましくは、80μm以下である。
【0022】
樹脂層11の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上であり、また、例えば、100%以下である。
【0023】
[光透過性導電層]
光透過性導電層1は、光透過性導電フィルム10の厚み方向一方面を形成する。光透過性導電層1は、その厚み方向他方側から、樹脂層11に支持されている。光透過性導電層1は、樹脂層11の厚み方向一方面の全部に接触している。
【0024】
また、この光透過性導電層1は、第1主面2、および、第1主面2に対して厚み方向に間隔を隔てて対向配置される第2主面3を有する。光透過性導電層1は、面方向に延びる単一の層である。
【0025】
本実施形態では、光透過性導電層1の第1主面2が、樹脂層11の厚み方向一方面に接触する。一方、光透過性導電層1の第2主面3は、厚み方向一方側に露出している。
【0026】
[光透過性導電層の材料]
光透過性導電層1は、導電性酸化物を含む組成からなり、好ましくは、導電性酸化物からなる。導電性酸化物は、光透過性導電層1の主成分であって、アルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを微量含有する。具体的には、導電性酸化物には、アルゴンとアルゴンより原子番号が大きい希ガスとが微量混入している。
【0027】
[アルゴン]
アルゴンは、後述する製造方法においてスパッタリングガスに含まれるアルゴンに由来して、導電性酸化物中に混入している。図2において、アルゴンが、白丸で描画される。
【0028】
[アルゴンより原子番号が大きい希ガス]
アルゴンより原子番号が大きい希ガスとしては、例えば、クリプトン、キセノン、ラドンなどが挙げられる。これらは、単独または併用できる。好ましくは、クリプトン、キセノンが挙げられ、より好ましくは、コストと優れた電気伝導性とを両立する観点から、クリプトン(具体的には、クリプトンの単独使用)が挙げられる。アルゴンより原子番号が大きい希ガスは、後述する製造方法においてスパッタリングガスに含まれる希ガスに由来して、導電性酸化物中に混入している。図2において、アルゴンより原子番号が大きい希ガスが、黒丸で描画される。
【0029】
[導電性酸化物]
導電性酸化物は、上記したアルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを分散するマトリクスである。導電性酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属または半金属を含む金属酸化物が挙げられる。金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子および/または半金属原子をドープしていてもよい。
【0030】
導電性酸化物としては、具体的には、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)などの金属酸化物が挙げられる。導電性酸化物として、好ましくは、透明性および電気伝導性を向上する観点から、インジウムおよびスズの両方を含有するインジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。導電性酸化物がITOであれば、透明性および導電性により一層優れる。
【0031】
導電性酸化物がITOである場合、当該ITOにおける酸化インジウム(In)および酸化スズ(SnO)の合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、7質量%以上、ことさらに好ましくは、10質量%以上である。用いられるITOにおけるインジウム原子数に対するスズ原子数の比率(スズ原子数/インジウム原子数)は、例えば、0.001以上、好ましくは、0.03以上、より好ましくは、0.05以上、さらに好ましくは、0.07以上、ことさらに好ましくは、0.10以上である。インジウム原子数に対する酸化スズの含有量の割合が上記した下限以上であり、および/または、スズ原子数の比率が上記した下限以上であれば、光透過性導電層1の耐久性を確保できる。
【0032】
用いられるITOにおける酸化インジウム(In)および酸化スズ(SnO)の合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、例えば、20質量%以下、好ましくは、15質量%以下、より好ましくは、13質量%以下、さらに好ましくは、12質量%以下である。用いられるITOにおけるインジウム原子数に対するスズ原子数の比率(スズ原子数/インジウム原子数)は、例えば、0.23以下、好ましくは、0.16以下、より好ましくは、0.14以下、さらに好ましくは、0.13以下である。酸化スズの含有量の割合が上記した上限以下にあり、および/または、インジウム原子数に対するスズ原子数の比率が上記した上限以下にあれば、加熱により結晶化しやすい光透過性導電層1を得ることができる。
【0033】
ITOにおけるインジウム原子数に対するスズ原子数の比率は、例えば、測定対象物について、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)によってインジウム原子とスズ原子との存在比率を特定することにより、求められる。ITOにおける酸化スズの上記含有割合は、例えば、そのようにして特定されたインジウム原子とスズ原子との存在比率から、求められる。ITOにおけるインジウム原子とスズ原子との存在比率および酸化スズの上記含有割合は、スパッタ成膜時に用いるITOターゲットの酸化インジウム(In)と酸化スズ(SnO)含有割合から判断してもよい。
【0034】
[第1領域、第2領域]
本実施形態では、図2に示すように、光透過性導電層1は、アルゴンより原子番号が大きい希ガスを含む第1領域4と、アルゴンを含む第2領域5とを厚み方向に順に備える。
【0035】
[第1領域]
第1領域4は、例えば、第1主面2を含む。そのため、第1領域4は、樹脂層11に接触する。第1領域4では、導電性酸化物に対して、アルゴンより原子番号が大きい希ガスが厚み方向および面方向にたって分散されている。
【0036】
第1領域4において、アルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合は、例えば、0.0001atom%以上であり、好ましくは、0.001atom%以上であり、また、例えば、1.0atom%以下、より好ましくは、0.7atom%以下、さらに好ましくは、0.5atom%以下、ことさらに好ましくは、0.3atom%以下、とくに好ましくは、0.2atom%以下、もっとも好ましくは、0.15atom%以下である。アルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合が、上記範囲であれば、光透過性導電層1の耐クラック性(特に、加湿環境下での耐クラック性)に優れる。
【0037】
なお、図2において図示しないが、第1領域4では、アルゴンの混入が許容される。但し、この場合、第1領域4におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合Rrg1は、第2領域5におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合Rrg2より高い。具体的には、Rrg1/Rrg2は、例えば、1超過、好ましくは、1.2以上、より好ましくは、1.5以上であり、また、例えば、10,000以下である。第1領域4におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスは、例えば、ラザフォード後方散乱分析(Rutherford Backscattering Spectrometry)、二次イオン質量分析法やレーザー共鳴イオン化質量分析法、および/または、蛍光X線分析により、同定される(存否が判断される)が、好ましくは、分析簡易性の観点から、蛍光X線分析で、同定される。蛍光X線分析の詳細は、実施例に記載する。第1領域4、および、第1領域4を含む光透過性導電層1において、ラザフォード後方散乱分析を実施すると、希ガス原子含有量が検出限界値(下限値)以上でないために定量できない一方、蛍光X線分析を実施すると、希ガス原子の存在が同定される場合には、当該光透過性導電層1はKr含有割合が0.0001atom%以上である領域を含む、と判断する。
【0038】
厚み方向で、光透過性導電層1における第1領域4が占める比R1(厚み比)は、例えば、0.99以下、好ましくは、0.95以下、より好ましくは、0.9以下、さらに好ましくは、0.8以下、とりわけ好ましくは、0.7以下であり、また、例えば、0.01以上、好ましくは、0.05以上、より好ましくは、0.1以上、さらに好ましくは、0.2以上、とりわけ好ましくは、0.3以上である。第1領域4が占める比R1が上記した上限以下であれば、光透過性導電層1の耐クラック性に優れ、例えば、常温(24℃)で長期間(170時間)保存後の高温(175℃、1時間)加熱における耐クラック性(実施例のクラックの評価(A)参照)に優れる。第1領域4が占める比R1が上記した下限以上であれば、光透過性導電層1が透明性および電気伝導性に優れる。
【0039】
[第2領域]
第2領域5は、第2主面3を含む。第2領域5では、導電性酸化物に対して、アルゴンが厚み方向および面方向にわたって分散されている。また、光透過性導電層1において、アルゴンの含有割合は、例えば、0.001atom%以上、好ましくは、0.01atom%以上であり、また、例えば、0.5atom%以下、好ましくは、0.4atom%以下、より好ましくは、0.3atom%以下、さらに好ましくは、0.2atom%以下である。アルゴンの含有割合が、上記範囲であれば、光透過性導電層1の耐クラック性(特に、加熱環境下での耐クラック性)に優れる。
【0040】
なお、図2において図示しないが、第2領域5では、アルゴンより原子番号が大きい希ガスの混入が許容される。但し、この場合には、第2領域5におけるアルゴンの含有割合RAr2は、第1領域4におけるアルゴンの含有割合RAr1より高い。具体的には、RAr2/RAr1は、例えば、1超過、好ましくは、1.2以上、より好ましくは、1.5以上であり、また、例えば、10,000以下である。光透過性導電層1における、アルゴンは、例えば、ラザフォード後方散乱分析法(RBS、Rutherford Backscattering Spectrometry)により同定され(存否が判断され)、併せて、定量される。ラザフォード後方散乱分析法の詳細は、実施例に記載する。
【0041】
厚み方向で、光透過性導電層1における第2領域5が占める比(厚み比)R2は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.05以上、より好ましくは、0.1以上、さらに好ましくは、0.2以上、とりわけ好ましくは、0.3以上であり、また、例えば、0.99以下、好ましくは、0.95以下、より好ましくは、0.9以下、さらに好ましくは、0.8以下、とりわけ好ましくは、0.7以下である。第2領域5が占める比R2が上記した下限以上であれば、光透過性導電層1の耐クラック性に優れる。第2領域5が占める比R2が上記した上限以下であれば、光透過性導電層1が透明性および電気伝導性に優れる。
【0042】
なお、図2において、第1領域4および第2領域5の境界を仮想線(2点鎖線)で描画している。しかし、実際には、第1領域4および第2領域5の境界を判別できない場合がある。この場合には、第1領域4および第2領域5のうち、アルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合R3が高い領域が第1領域4であり、アルゴンの含有割合R4が高い領域が第2領域5である。
【0043】
[光透過性導電層の物性]
光透過性導電層1は、例えば、非晶質、または、結晶質である。光透過性導電層1の結晶質性は、光透過性導電フィルム10の用途および目的に応じて、適宜選択される。
【0044】
光透過性導電層1の結晶質性は、例えば、光透過性導電層1を塩酸(20℃、濃度5質量%)に15分間浸漬し、続いて、水洗および乾燥した後、光透過性導電層1の第2主面3に対して15mm程度の間の端子間抵抗を測定することにより判断する。上記浸漬・水洗・乾燥後の光透過性導電層1において、15mm間の端子間抵抗(2端子間抵抗)が10kΩ以下である場合、光透過性導電層1が結晶質であり、一方、上記抵抗が10kΩを超過する場合、光透過性導電層1が非晶質である。
【0045】
光透過性導電層1の厚みは、例えば、5nm以上、好ましくは、20nm以上、より好ましくは、50nm以上、さらに好ましくは、100nm以上であり、また、例えば、1000nm以下であり、好ましくは、300nm未満、より好ましくは、250nm以下、さらに好ましくは、200nm以下、ことさらに好ましくは、160nm以下、特に好ましくは、150nm未満、最も好ましくは、148nm以下である。光透過性導電層1の厚みが、上記範囲であれば、光透過性導電層1の耐クラック性に優れる。樹脂層11の厚みに対する光透過性導電層1の厚みの比は、例えば、0.00001以上、好ましくは、0.01以上、より好ましくは、0.1以上であり、また、例えば、0.5以下、好ましくは、0.25以下である。
【0046】
光透過性導電層1(非晶質または結晶質の光透過性導電層1)の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上であり、また、例えば、100%以下である。
【0047】
光透過性導電層1(非晶質または結晶質の光透過性導電層1)の表面抵抗は、例えば、200Ω/□以下、好ましくは、100Ω/□以下、より好ましくは、50Ω/□以下、さらに好ましくは、15Ω/□以下、とりわけ好ましくは、13Ω/□以下であり、また、例えば、0Ω/□超過、さらには、1Ω/□以上である。表面抵抗は、JIS K7194に準拠して、4端子法により測定することができる。
【0048】
光透過性導電層1(非晶質または結晶質の光透過性導電層1)の比抵抗は、例えば、例えば、5.0×10-4Ω・cm以下、好ましくは、2.5×10-4Ω・cm以下、より好ましくは、2.0×10-4Ω・cm以下、さらに好ましくは、さらに好ましくは、2.0×10-4Ω・cm未満、とりわけ好ましくは、1.8×10-4Ω・cm以下であり、また、例えば、0.1×10-4Ω・cm以上、さらには、0.5×10-4Ω・cm以上、さらには、1.0×10-4Ω・cm以上である。比抵抗は、表面抵抗に厚みを乗じて得られる。
【0049】
光透過性導電層1(非晶性または結晶性の光透過性導電層1)におけるアルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとの合計の含有割合は、厚さ方向の全域において、例えば、1.2atom%以下、好ましくは、1.1atom%以下、より好ましくは、1.0atom%以下、さらに好ましくは、0.8atom%以下、とりわけ好ましくは、0.5atom%以下、ことさらに好ましくは、0.4atom%以下、最も好ましくは、0.3atom%以下、特に好ましくは、0.2atom%以下である。アルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとの合計の含有割合が上記した上限以下であれば、光透過性導電層1内の不純物原子(つまり、アルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスと)の合計の含有割合が少ないため、耐クラック性に優れ、かつ、低比抵抗の光透過性導電層1を得ることができる。
【0050】
[光透過性導電フィルムの製造方法]
次に、光透過性導電フィルム10の製造方法を、図3を参照して説明する。この方法では、例えば、ロール-トゥ-ロール方式で、樹脂層11に光透過性導電層1を成膜する。
【0051】
この方法では、まず、樹脂層11を準備する。具体的には、ハードコート組成物を、透明基材フィルム13の厚み方向一方面に塗布および乾燥後、ハードコート組成物を硬化させる。これにより、透明基材フィルム13と、ハードコート層(機能層14)とを厚み方向一方側に順に備える樹脂層11を準備する。
【0052】
その後、必要により、樹脂層11を脱ガス処理する。樹脂層11を脱ガス処理するには、樹脂層11を、例えば、1×10-1Pa以下、好ましくは、1×10-2Pa以下、また、例えば、1×10-6Pa以上の減圧雰囲気下に放置する。具体的には、スパッタリング装置30のポンプ(後述)を用いて、樹脂層11の周囲の雰囲気を減圧する。
【0053】
次いで、光透過性導電層1を、スパッタリングによって成膜する。具体的には、樹脂層11をスパッタリング装置30で搬送しながら、光透過性導電層1を成膜する。
【0054】
[スパッタリング装置]
スパッタリング装置30は、繰出部35と、スパッタ部36と、巻取部37とを順に備える。
【0055】
繰出部35は、繰出ロール38と、繰出側ポンプ33の排出口とを備える。
【0056】
スパッタ部36は、成膜ロール40と、第1成膜室41と、第2成膜室42とを備える。
【0057】
成膜ロール40は、成膜ロール40を冷却するように構成される図示しない冷却装置を備える。
【0058】
第1成膜室41は、第1ターゲット51と、第1ガス供給機61と、第1ポンプ71の排出口とを収容する。第1ターゲット51と、第1ガス供給機61と、第1ポンプ71の排出口とは、成膜ロール40に対して間隔を隔てて対向配置されている。
【0059】
第1ターゲット51の材料としては、上記した導電性酸化物と同様の材料が挙げられる。なお、第1ターゲット51の材料は、導電性酸化物の焼結体を含む。ただし、これら導電性酸化物には、まだ、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとアルゴンとの混入がない。第1ターゲット51は、電力を印加するように構成されている。
【0060】
第1ターゲット51に対する成膜ロール40の反対側には、マグネット(図示せず)が配置されている。第1ターゲット51表面上の水平磁場強度は、例えば、10mT以上、好ましくは、60mT以上であり、また、例えば、300mT以下である。マグネットを配置し、第1ターゲット51表面上の水平磁場強度を上記範囲とすることで、後述の第1非晶質導電膜81(第1領域4)に含まれ、アルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有量を、調整できる。
【0061】
第1ガス供給機61は、第1のスパッタリングガスを、第1成膜室41に供給するように構成されている。第1のスパッタリングガスとしては、アルゴンより原子番号が大きい希ガスを含む。具体的には、第1のスパッタリングガスとしては、例えば、アルゴンより原子番号が大きい希ガス、また、例えば、アルゴンより原子番号が大きい希ガスと、酸素などの反応性ガスとを含む第1混合ガスなどが挙げられる。好ましくは、第1混合ガスが挙げられる。
【0062】
スパッタリングが第1混合ガスである場合には、第1ガス供給機61は、希ガス供給機63と、第1酸素ガス供給機64とを含み、それぞれから、アルゴンより原子番号が大きい希ガスと、酸素とが第1成膜室41に供給される。なお、希ガス供給機63における「希ガス」は、アルゴンを含まず、アルゴンより原子番号が大きい希ガスを意味する。
【0063】
第2成膜室42は、成膜ロール40の周方向において、第1成膜室41に隣接して配置される。これにより、第1成膜室41と第2成膜室42とが、周方向において順に配置される。第2成膜室42は、第2ターゲット52と、第2ガス供給機62と、第2ポンプ72の排出口とを収容する。第2ターゲット52と、第2ガス供給機62と、第2ポンプ72の排出口とは、成膜ロール40に対して間隔を隔てて対向配置されている。
【0064】
第2ターゲット52の材料としては、上記した導電性酸化物と同様の材料が挙げられる。なお、第2ターゲット52の材料は、導電性酸化物の焼結体を含む。ただし、これら導電性酸化物には、まだ、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとアルゴンとの混入がない。第2ターゲット52は、電力を印加するように構成されている。
【0065】
第2ターゲット52に対する成膜ロール40の反対側には、マグネット(図示せず)が配置されている。第2ターゲット52表面上の水平磁場強度は、例えば、10mT以上、好ましくは、60mT以上であり、また、例えば、300mT以下である。マグネットを配置し、第2ターゲット52表面上の水平磁場強度を上記範囲とすることで、後述の第2非晶質導電膜82(第2領域5)に含まれるアルゴンの含有量を調整できる。
【0066】
第2ガス供給機62は、第2のスパッタリングガスを、第2成膜室42に供給するように構成されている。第2のスパッタリングガスとしては、例えば、アルゴン、また、例えば、アルゴンと、酸素などの反応性ガスとを含む第2混合ガスなどが挙げられる。好ましくは、第2混合ガスが挙げられる。第2のスパッタリングガスが第2混合ガスであれば、第2ガス供給機62は、アルゴン供給機65と、第2酸素ガス供給機66とを含み、それぞれから、アルゴンと、酸素とが第2成膜室42に供給される。
【0067】
巻取部37は、巻取ロール39と、巻取側ポンプ34の排出口とを備える。
【0068】
[光透過性導電フィルムの製造]
このスパッタリング装置30を用いて、光透過性導電層1を樹脂層11に成膜するには、まず、樹脂層11を、繰出ロール38、成膜ロール40および巻取ロール39に掛け渡す。
【0069】
第1ポンプ71を駆動しながら、第1ガス供給機61からスパッタリングガスを第1成膜室41に供給する。アルゴンより原子番号が大きい希ガスの圧力(スパッタリングガスが第1混合ガスであれば、アルゴンより原子番号が大きい希ガスの分圧)は、例えば、0.01Pa以上、好ましくは、0.05Pa以上であり、また、例えば、0.8Pa以下、好ましくは、0.5Pa以下、より好ましくは、0.2Pa以下である。
【0070】
第2ポンプ72を駆動しながら、第2ガス供給機62からスパッタリングガスを第2成膜室42に供給する。アルゴンの圧力(スパッタリングガスが第2混合ガスであれば、アルゴンの分圧)は、例えば、0.02Pa以上、好ましくは、0.1Pa以上であり、また、例えば、1Pa以下、好ましくは、0.5Pa以下である。
【0071】
また、冷却装置を駆動して、成膜ロール40(の表面)を冷却する。成膜ロール40の温度(表面温度)は、例えば、20.0℃以下、好ましくは、10.0℃以下、より好ましくは、0.0℃以下であり、また、例えば、-50℃以上、好ましくは、-25℃以上である。
【0072】
続いて、繰出ロール38および巻取ロール39を駆動することにより、繰出ロール38から樹脂層11が繰り出される。樹脂層11は、成膜ロール40の表面に接触しながら、第1成膜室41と第2成膜室42とを順に移動する。この際、樹脂層11は、成膜ロール40の表面との接触によって、冷却される。樹脂層11を十分に冷却することにより、スパッタリング時の樹脂層11の熱膨張を抑制でき、耐クラック性に優れる光透過性導電層1を得られる。
【0073】
第1ターゲット51の近傍において、スパッタリングガスをイオン化させて、イオン化ガスを生成する。続いて、イオン化ガスが、第1ターゲット51に衝突し、第1ターゲット51のターゲット材料が粒子となって叩き出され、粒子が、樹脂層11に付着(堆積)して、第1非晶質導電膜81が形成される。この時、粒子とともに、スパッタリングガスに含まれる希ガス(アルゴンより原子番号が大きい希ガス、好ましくは、クリプトン)が第1非晶質導電膜81に取り込まれる。第1非晶質導電膜81に取り込まれる希ガスの量は、磁場強度、第1ターゲット51に印加する電力の電力密度、および/または、第1成膜室41内の圧力により調整する。また、第1非晶質導電膜81の厚みは、第1ターゲット51に印加する電力の電力密度で調節する。
【0074】
続いて、第2ターゲット52の近傍において、スパッタリングガスをイオン化させて、イオン化ガスを生成する。続いて、イオン化ガスが、第2ターゲット52に衝突し、第2ターゲット52のターゲット材料が粒子となって叩き出され、粒子が、第1非晶質導電膜81に付着(堆積)して、第2非晶質導電膜82が形成される。この時、粒子とともに、スパッタリングガスに含まれるアルゴンが第2非晶質導電膜82に取り込まれる。第2非晶質導電膜82に取り込まれる希ガスの量は、磁場強度、第2ターゲット52に印加する電力の電力密度、および/または、第2成膜室42内の圧力により調整する。また、第2非晶質導電膜82の厚みは、第2ターゲット52に印加する電力の電力密度で調節する。
【0075】
これによって、樹脂層11と、第1非晶質導電膜81と、第2非晶質導電膜82とを備える非晶質の光透過性導電フィルム10が得られる。
【0076】
第1非晶質導電膜81と、第2非晶質導電膜82とのそれぞれは、第1領域4と第2領域5とのそれぞれをなす。第1非晶質導電膜81と、第2非晶質導電膜82とは、それぞれが、主成分として同一の導電性酸化物を含有することから、それらの境界は観察されない場合がある。
【0077】
これにより、図1に示すように、光透過性導電層1(非晶質の光透過性導電層1)が、樹脂層11の厚み方向一方面に形成される。これにより、樹脂層11と光透過性導電層1とを備える光透過性導電フィルム10が製造される。
【0078】
この光透過性導電フィルム10(具体的には、非晶質の光透過性導電フィルム10)の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、70%以上、より好ましくは、80%以上であり、また、例えば、95%以下である。
【0079】
なお、必要により、非晶質の光透過性導電層1を加熱して、光透過性導電層1を結晶化する。加熱条件として、加熱温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、110℃以上、より好ましくは、150℃以上であり、また、例えば、200℃未満、好ましくは、180℃以下であり、また、加熱時間は、例えば、5分間以上、好ましくは、10分間以上、より好ましくは、30分間以上、さらに好ましくは、1時間以上であり、また、例えば、5時間以下、好ましくは、3時間以下である。
【0080】
非晶質の光透過性導電層1を加熱した後の、結晶質の光透過性導電フィルム10の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、65%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、83%以上であり、また、例えば、100%以下、好ましくは、95%以下である。
【0081】
この光透過性導電フィルム10は、種々の物品に用いられる。物品としては、例えば、タッチセンサ、電磁波シールド、調光素子(例えば、PDLC、PNLC、SPDなどの電圧駆動型調光素子、例えば、エレクトロクロミック(EC)などの電流駆動型調光素子)、光電変換素子(有機薄膜太陽電池や色素増感太陽電池に代表される太陽電池素子の電極など)、熱線制御部材(例えば、近赤外線反射および/または吸収部材、例えば、遠赤外線反射および/または吸収部材)、アンテナ部材(光透過性アンテナ)、ヒータ部材(光透過性ヒータ)、画像表示装置、照明などに用いられる。
【0082】
物品は、光透過性導電フィルム10と、各物品に対応する部材とを備える。
【0083】
このような物品は、光透過性導電フィルム10と、各物品に対応する部材とを固定することにより得られる。
【0084】
具体的には、例えば、光透過性導電フィルム10における光透過性導電層1(パターン形状を有する光透過性導電層1を含む)と、各物品に対応する部材とを、固着機能層を介して固定する。
【0085】
固着機能層としては、例えば、粘着層および接着層が挙げられる。
【0086】
固着機能層としては、透明性を有するものであれば特に材料の制限なく使用できる。固着機能層は、好ましくは、樹脂から形成されている。樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、天然ゴム、および、合成ゴムが挙げられる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性および接着性などの粘着特性を示し、耐候性および耐熱性などにも優れるという観点から、樹脂として、好ましくは、アクリル樹脂が選択される。
【0087】
固着機能層を形成する樹脂には、光透過性導電層1の腐食およびマイグレーション抑制するために、公知の腐食防止剤、および、マイグレーション防止剤(例えば、特開2015-022397号に開示の材料)を添加することもできる。また、固着機能層(固着機能層を形成する樹脂)には、物品の屋外使用時の劣化を抑制するために、公知の紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、サリチル酸化合物、シュウ酸アニリド化合物、シアノアクリレート化合物、および、トリアジン化合物が挙げられる。
【0088】
また、光透過性導電フィルム10における樹脂層11と、各物品に対応する部材とを、固着機能層を介して固定することもできる。このような場合には、光透過性導電フィルム10において、光透過性導電層1(パターン形状を有する光透過性導電層1を含む)が露出する。そのため、光透過性導電層1の厚み方向一方面にカバー層を配置することもできる。
【0089】
カバー層は、光透過性導電層1を被覆する層であり、光透過性導電層1の信頼性を向上させ、キズによる機能劣化を抑制できる。
【0090】
カバー層の材料は、好ましくは、誘電体である。カバー層は、樹脂および無機材料の混合物から形成されている。樹脂としては、固着機能層で例示する樹脂が挙げられる。無機材料としては、後述する中間層の材料で例示する材料が挙げられる。
【0091】
また、上記した樹脂および無機材料の混合物には、上記した固着機能層と同様の観点から、腐食防止剤、マイグレーション防止剤、および、紫外線吸収剤を添加することもできる。
【0092】
上記した物品は、上記した光透過性導電フィルム10を備えるため、信頼性に優れる。具体的には、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ、電磁波シールド部材、画像表示装置、ヒータ部材、および、照明は、上記した光透過性導電フィルム10を備えるため、信頼性に優れる。
【0093】
[作用効果]
そして、光透過性導電フィルム10における光透過性導電層1は、導電性酸化物からなり、かかる導電性酸化物が、アルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとを含有するので、耐クラック性に優れる。
【0094】
しかるに、非晶質の光透過性導電フィルム10を比較的低温(例えば、40℃以下、さらには、30℃以下であり、また、例えば、10℃以上、)で長時間(例えば、100時間以上)保管し、次いで、高温(例えば、130℃以上)で加熱することによって、クラックを生じ易い。または、非晶質の光透過性導電フィルム10を、高温(例えば、130℃以上)で加熱し、次いで、高温高湿雰囲気(例えば、温度が、50℃以上、100℃以下で、湿度が、70%RH以上、さらには、90%RH以上)で、長時間(例えば、200時間以上)経過すると、クラックを生じ易い。
【0095】
しかし、この一実施形態では、光透過性導電層1に、アルゴンより原子番号が大きい希ガスと、アルゴンとが混入されているので、上記したクラックの生成を抑制できる。
【0096】
このようなタッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ、電磁波シールド部材、ヒータ部材、画像表示装置、および、ヒータは、クラックが抑制された上記した光透過性導電フィルム10を備えるため、信頼性に優れる。
【0097】
[変形例]
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0098】
一実施形態では、アルゴンより原子番号が大きい希ガスが混入した第1領域4が、樹脂層11に接触する第1主面2を含む。
【0099】
しかし、図4に示すように、アルゴンが混入した第2領域5が、第1主面2を含んでもよい。第2領域5は、樹脂層11に接触する。
【0100】
例えば、図5Aおよび図5Bに示すように、第1領域4と第2領域5とが交互に繰り返し配置されてもよい。具体的には、図5Aの変形例では、第1領域4と、第2領域5と、第1領域4と、第2領域5とが、厚み方向一方側に向かって順に配置される。図5Bの変形例では、第2領域5と、第1領域4と、第2領域5と、第1領域4とが、厚み方向一方側に向かって順に配置される。また、図示しないが、厚み方向一方側に向かって、第1領域4と第2領域5とが交互に繰り返し配置された構成に、さらに第1領域4が配置されていてもよい。厚み方向一方側に向かって、第2領域5と第1領域4とが交互に繰り返し配置された構成に、さらに第2領域5が配置されていてもよい。また、第1領域4と、第2領域5と、第1領域4とが、厚み方向に順に配置されていてもよい。また、第2領域5と、第1領域4と、第2領域5とが、厚み方向に順に配置されていてもよい。
【0101】
さらには、図5Cに示すように、第1領域4および第2領域5を有さず、アルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとが、混在(均一に分散)されていてもよい。図5Cに示す光透過性導電層1を形成するには、ガス供給機から、アルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとの両方を含むスパッタリングガスを成膜室に供給する。より具体的には、希ガス供給機63から、アルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとの両方を供給する。アルゴンより原子番号が大きい希ガスとアルゴンガスとの合計体積に対する、アルゴンより原子番号が大きい希ガスの体積割合は、例えば、1体積%以上、好ましくは、10体積%以上、より好ましくは、30体積%以上、さらに好ましくは、60体積%以上、とりわけ好ましくは、70体積%以上、もっとも好ましくは、80体積%以上であり、また、例えば、99体積%以下、好ましくは、90体積%以下、より好ましくは、88体積%以下である。
【0102】
スパッタリング直後の、非晶質の光透過性導電層1は、第3非晶質導電膜83からなる。第3非晶質導電膜83では、アルゴンと、アルゴンより原子番号が大きい希ガスとが、混在(均一に分散)する。成膜後、第3非晶質導電膜83を加熱し、これを結晶化する。
【0103】
一実施形態では、光透過性導電フィルム10において、光透過性導電層1は、樹脂層11の厚み方向一方面の全部に接触しているが、光透過性導電層1は、図示しないが、任意の領域が残存するように、パターニングされていてもよい。すなわち、光透過性導電層1が、樹脂層11上に、存在しない領域があってもよい。パターニングにより、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子などに、好適に使用できる。
【0104】
樹脂層11は、他の機能層をさらに備えることができる。例えば、図1および図4の仮想線で示すように、透明基材フィルム13の厚み方向他方面に配置されるアンチブロッキング層12を備えることができる。アンチブロッキング層12は、光透過性導電フィルム10を厚み方向に積層した場合などに、互いに接触する複数の光透過性導電フィルム10のそれぞれの表面に耐ブロッキング性を付与する。
【0105】
また、樹脂層11が、アンチブロッキング層12と、透明基材フィルム13との間に、さらに、易接着層を備えることもできる。
【0106】
また、樹脂層11は、透明基材フィルム13の一方側に、無機層からなる中間層(図示せず)を備えることもできる。中間層は、樹脂層11の表面硬度を向上したり、光透過性導電フィルム10の光学物性(具体的には、屈折率)を調整したり、光透過性導電層1が樹脂層11から受ける応力を中間地点で緩和する機能を有する。中間層は、透明基材フィルム13、機能層14、および、アンチブロッキング層12に対し、光透過性導電フィルム10の厚み方向一方側に対し、任意の位置に備えることができ、複数層備えていてもよい。例えば、樹脂層11は、透明基材フィルム13と、機能層14と、中間層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える。また、樹脂層11は、例えば、中間層と、アンチブロッキング層12と、透明基材フィルム13と、機能層14とを厚み方向一方側に向かって順に備える。中間層は、好ましくは、無機誘電体であり、その表面抵抗値が、例えば、1×10Ω/□以上、好ましくは、1×10Ω/□以上である。中間層の材料は、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、酸化カルシウムなどの無機酸化物やフッ化マグネシウムなどのフッ化物を含有する組成からなる。なお、無機機能層の組成は、化学両論組成であってもなくてもよい。
【0107】
機能層14が、光学調整層(図示せず)でもよい。この変形例では、樹脂層11は、透明基材フィルム13と、光学調整層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える。光学調整層は、光透過性導電層1から形成されるパターンの視認を抑制して、光透過性導電フィルム10の光学物性(具体的には、屈折率)を調整する層である。
【0108】
機能層14が、剥離機能層(図示せず)でもよい。この変形例では、樹脂層11は、透明基材フィルム13と、剥離機能層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える。剥離機能層は、透明基材フィルム13に対して剥離が容易な層(易剥離層)である。樹脂層11が、剥離機能層を備えれば、透明基材フィルム13から、光透過性導電層1を剥離することができる。剥離された光透過性導電層1は、例えば、タッチセンサを構成する他の部材に転写及び貼り合せすることで用いることができる。
【0109】
機能層14が、易接着層(図示せず)でもよい。この変形例では、樹脂層11は、透明基材フィルム13と、易接着層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える。易接着層は、透明基材フィルム13と光透過性導電層1との密着性を向上する。
【0110】
機能層14は、複層であってもよい。つまり、機能層14は、ハードコート層、光学調整層、剥離機能層および易接着層からなる群から選択される2つ以上の層を任意に含むことができる。詳しくは、樹脂層11は、透明基材フィルム13と、易接着層と、ハードコート層と、光学調整層とを厚み方向一方側に向かって順に備えることもでき、また、樹脂層11は、透明基材フィルム13と、剥離機能層と、ハードコート層および/または光学調整層とを厚み方向一方側に向かって順に備えることもできる。
【0111】
樹脂層11が、透明基材フィルム13と、剥離機能層と、ハードコート層および/または光学調整層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える場合には、光透過性導電フィルム10から、ハードコート層および/または光学調整層と光透過性導電層1とを備える積層体を剥離することができる。
【0112】
図7Aおよび図7Bに示すように、樹脂層11は、機能層14および透明基材フィルム13のうち、いずれか一方のみを備えることができる。図7Aおよび図7Bは、光透過性導電層を含む積層体の他の例を描画する。
【0113】
例えば、図7Aに示すように、この光透過性導電層積層体20では、樹脂層11が、透明基材フィルム13を備えず、機能層14のみからなることもできる。光透過性導電層積層体20は、フィルム形状を有さず、樹脂層11(ハードコート層および/または光学調整層)と、光透過性導電層1とを厚み方向に順に有する。
【0114】
他方、図7Bに示すように、光透過性導電フィルム10は、フィルム形状を有する。樹脂層11は、機能層14を備えず、透明基材フィルム13のみからなることもできる。つまり、光透過性導電フィルム10は、透明基材フィルム13と、光透過性導電層1とを厚み方向に順に有する。
【0115】
また、樹脂層11には、ガラスを含む透明基材(図示せず)が機能層14に設けられてもよい。つまり、図示しないが、光透過性導電フィルム10は、光透過性導電層1と、透明基材フィルム13と、ガラス基板とを厚み方向に順に備えることができる。この際、固着機能層が、ガラス基板と透明基材フィルム13との間に介在される。つまり、光透過性導電フィルム10は、光透過性導電層1と、透明基材フィルム13と、固着機能層(好ましくは、粘着層)と、ガラス基板とを厚み方向に順に備えることができる。
【0116】
一実施形態では、光透過性導電フィルム10における光透過性導電層1の好適な数として1を例示しているが、例えば、図示しないが、2であってもよい。この変形例では、2つの光透過性導電層1のそれぞれが、樹脂層11の厚み方向両側のそれぞれに配置される。つまり、この変形例では、1つの樹脂層11に対する光透過性導電層1の数は、好ましくは、2である。
【実施例
【0117】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。また、以下の記載において特に言及がない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0118】
実施例1
長尺のPETフィルム(東レ社製、厚み50μm)からなる透明基材フィルム13の厚み方向一方面に、アクリル樹脂を含む紫外線硬化性のハードコート組成物を塗布し、これを紫外線照射して硬化させて、厚みが2μmである機能層14の一例であるハードコート層を形成した。これにより、透明基材フィルム13と、ハードコート層とを備える樹脂層11を準備した。
【0119】
次いで、樹脂層11をスパッタリング装置30にセットした。続いて、スパッタリング装置30において、繰出側ポンプ33と、巻取側ポンプ34と、第1ポンプ71と、第2ポンプ72とを駆動して、到達真空度を0.9×10-4Paにし、樹脂層11を脱ガス処理した。また、成膜ロール40の温度を、-8℃にした。スパッタリング装置30において、第1ターゲット51と第2ターゲットとの材料は、いずれも、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体であった。焼結体において、酸化インジウムと酸化スズとの合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、10質量%であった。焼結体において、インジウム原子数に対するスズ原子数の比率(スズ原子数/インジウム原子数)は、0.102である。
【0120】
その後、樹脂層11を、成膜ロール40に沿うように、繰出部35から巻取部37に向けて搬送した。
【0121】
第1成膜室41では、第1ポンプ71を駆動しながら、クリプトンを希ガス供給機63から供給し、酸素を第1酸素ガス供給機64から供給した。第1成膜室41の圧力を、0.2Paとし、第1ターゲット51をスパッタリング(電源:DC、第1ターゲット上の水平磁場強度:90mT)することで、厚み66nmの第1非晶質導電膜81(第1領域4)を形成した。
【0122】
第2成膜室42では、第2ポンプ72を駆動しながら、アルゴンをアルゴン供給機65から供給し、酸素を第2酸素ガス供給機66から供給した。第2成膜室42の圧力を、0.4Paとし、第2ターゲット52をスパッタリング(電源:DC、第2ターゲット上の水平磁場強度:90mT)することで、厚み64nmの第2非晶質導電膜82(第2領域5)を形成した。
【0123】
なお、第1酸素ガス供給機64および第2酸素ガス供給機66からの酸素導入量は、図6に示すように、表面抵抗-酸素導入量曲線の第1領域X、かつ、非晶質の光透過性導電層1の表面抵抗が50Ω/□になるように調整した。この際、クリプトンガスと酸素ガスとの合計導入量に対する酸素ガスの割合は、約2.5流量%とした。アルゴンガスと酸素ガスとの合計導入量に対する酸素ガスの割合は、約1.5流量%とした。
【0124】
これにより、図1に示すように、第1非晶質導電膜81と、第2非晶質導電膜82とを、樹脂層11の厚み方向一方側に順に形成した。
【0125】
これによって、樹脂層11と、非晶質の光透過性導電層1とを光透過性導電フィルム10を得た。
【0126】
実施例2
第1成膜室41に第2混合ガス(Ar、O含有)を供給して、第1成膜室41の圧力を0.4Paとし、厚み42nmの第2非晶質導電膜82(第2領域5)をスパッタリングで形成した後、第2成膜室42に第1混合ガス(Kr、O含有)を供給して第2成膜室42の圧力を0.2Paとし、厚み75nmの第1非晶質導電膜81(第1領域4)をスパッタリングで形成した以外は、実施例1と同様にして、光透過性導電フィルム10を得た。実施例2の光透過性導電フィルム10は、図4に示す光透過性導電フィルム10に対応する。
【0127】
実施例3
第1非晶質導電膜81(第1領域4)の厚みと第2非晶質導電膜82(第2領域5)の厚みとが、表1に記載の通りになるように、第1ターゲット51および第2ターゲット52の電力密度を調節した以外は、実施例1と同様にして、光透過性導電フィルム10を得た。
【0128】
実施例4~実施例5
第1酸素ガス供給機64および第2酸素ガス供給機66からの酸素導入量を、図6に示す表面抵抗-酸素導入量曲線の領域X、かつ、非晶質の光透過性導電層1の表面抵抗が65Ω/□になるように調整し、第1非晶質導電膜81(第1領域4)の厚みと第2非晶質導電膜82(第2領域5)の厚みとが、表1に記載の通りになるように、第1ターゲット51および第2ターゲット52の電力密度を調節した以外は、実施例1と同様にして、光透過性導電フィルム10を得た。
【0129】
比較例4
希ガス供給機63から、クリプトンおよびアルゴンの混合ガス(クリプトン85体積%、アルゴン15体積%)を供給し、第1酸素ガス供給機64から酸素を供給し、第1酸素ガス供給機64の酸素導入量を、図6に示す表面抵抗-酸素導入量曲線の第1領域X、かつ、非晶質の光透過性導電層1の表面抵抗が39Ω/□(クリプトンガスと酸素ガスの合計導入量に対する酸素ガスの割合は、約2.6流量%)になるように調整し、また、第1ターゲット51の電力密度を調節することで、第1成膜室41において、厚み148nmの第3非晶質導電膜83を形成し、かつ、第2成膜室42では第2非晶質導電膜82(第2領域5)を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、光透過性導電フィルム10を得た。比較例4の光透過性導電フィルム10は、図5Cに示す光透過性導電フィルム10に対応する。
【0130】
比較例1
第1成膜室41および第2成膜室42のそれぞれに、第2混合ガス(Ar、O含有)を供給し、第1成膜室41および第2成膜室42の圧力を0.4Paに変更した以外は、実施例1と同様にして、光透過性導電フィルム10を得た。
【0131】
比較例2
第1成膜室41および第2成膜室42のそれぞれに、第1混合ガス(Kr、O含有)を供給し、第1成膜室41および第2成膜室42の圧力を0.2Paに変更した以外は、実施例1と同様にして、光透過性導電フィルム10を得た。
【0132】
比較例3
第1成膜室41および第2成膜室42のそれぞれに、第1混合ガス(Kr、O含有)を供給し、第1成膜室41および第2成膜室42の圧力を0.2Paに変更し、第1非晶質導電膜81(第1領域4)の厚みが、表1に記載の通りになるように、第1ターゲット51および第2ターゲット52の電力密度を調節した以外は、実施例4と同様にして、光透過性導電フィルム10を得た。
【0133】
[評価]
各実施例および比較例の光透過性導電フィルム10について、下記の事項を評価した。その結果を表1に記載する。
【0134】
[厚み]
[光透過性導電層の厚み]
FIBマイクロサンプリング法により、各実施例および比較例の光透過性導電層1の断面観察用サンプルを作製し、その後、FE-TEM観察(断面観察)により、断面観察用サンプルにおける光透過性導電層1の厚みを測定した。装置および測定条件の詳細は、以下の通りである。
【0135】
FIBマイクロサンプリング法
FIB装置:Hitachi製 FB2200
加速電圧:10kV
【0136】
FE-TEM観察
FE-TEM装置:JEOL製 JEM-2800
加速電圧:200kV
【0137】
[実施例1および3~5の第1非晶質導電膜の厚みと、第2非晶質導電膜の厚み]
実施例1および3~5において、第1非晶質導電膜81を形成した直後であって、まだ、第2非晶質導電膜82を形成していないサンプルを採取し、サンプルの第1非晶質導電膜81(第1領域4)の厚みをFE-TEM観察(断面観察)により求めた。
【0138】
続いて、実施例1および3~5の第2非晶質導電膜82(第2領域5)の厚みを次式により求めた。
【0139】
第2非晶質導電膜82の厚み=光透過性導電層1の厚み-第1非晶質導電膜81の厚み
【0140】
[実施例2の第1非晶質導電膜の厚みと、第2非晶質導電膜の厚み]
実施例2において、第2非晶質導電膜82を形成した直後であって、まだ、第1非晶質導電膜81を形成していないサンプルを採取し、サンプルの第2非晶質導電膜82(第2領域5)の厚みをFE-TEM観察(断面観察)により求めた。
【0141】
続いて、実施例2の第1非晶質導電膜81(第1領域4)の厚みを次式により求めた。
【0142】
第1非晶質導電膜81の厚み=光透過性導電層1の厚み-第2非晶質導電膜82の厚み
【0143】
比較例4の第3非晶質導電膜の厚み]
比較例4において、スパッタリング直後の第3非晶質導電膜83の厚みをFE-TEM観察(断面観察)により求めた。
【0144】
[Krの同定(存否の判断))
走査型蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX PrimusIV)を用いて、光透過性導電層1内にKrが混入されたか否かを確認した。具体的には、以下の条件にて、5回繰り返し測定を行って各走査角度の平均値を算出し、X線スペクトルを作成した。作成したX線スペクトルの、28.2°近傍にピークが出ていることを確認することでKrを特定する。その結果、実施例1~および比較例2、3、4で、Krの混入を確認した。一方、比較例1では、Krの混入が確認されなかった。
【0145】
<測定条件>
スペクトル: Kr-KA
測定径: 30mm
雰囲気:真空
ターゲット: Rh
管電圧50 kV
管電流60 mA
1次フィルタ: Ni40
走査角度(deg): 27.0-29.5
ステップ(deg): 0.020
速度(Deg/min):0.75
アッテネータ: 1/1
スリット: S2
分光結晶: LiF(200)
検出器: SC
PHA: 100-300
【0146】
[KrおよびArの同定(定量)]
実施例1~および比較例1~の光透過性導電層1内に含有されるKrおよびAr原子の含有量を、ラザフォード後方散乱分析法(RBS、Rutherford Backscattering Spectrometry)によって分析した。検出元素である、In+Sn(ラザフォード後方散乱分光法では、InとSnを分離しての測定が困難であるため、2元素の合算として評価した)、O、Ar、Krの5元素に関して、元素比率を求めることにより、光透過性導電層1におけるKr原子およびAr原子の含有量(atom%)を求めた。具体的な使用装置および測定条件は下記のとおりである。分析結果として、Kr含有量(atom%)、Ar含有量(atom%)、および希ガス(Kr+Ar)含有量(atom%)を表1に掲げる。
【0147】
Kr含有量の分析に関し、実施例1~および比較例2~では、検出限界値(下限値)以上の確かな測定値が得られなかった(検出限界値は、測定に付される光透過性導電層1の厚さによって異なりうる)。そのため、表1では、光透過性導電層1のKr含有量について、光透過性導電層1の厚さにおける検出限界値を下回っていることを示すため、「<測定に付された光透過性導電層1の厚さにおける具体的な検出限界値」と表記する(希ガス(Kr+Ar)含有量の表記の仕方についても同様である)。
【0148】
なお、比較例1では、上記した走査型蛍光X線分析装置を用いるKrの定量分析によって、Krの混入が確認されなかったことから、表1には、実施例1~および比較例2~に記載した「<測定に付された光透過性導電層1の厚さにおける具体的な検出限界値」を表記しない。
【0149】
<使用装置>
Pelletron 3SDH(National Electrostatics Corporation製)
【0150】
<測定条件>
入射イオン: 4He++
入射エネルギー: 2300keV
入射角: 0 deg
散乱角: 160deg
試料電流:6nA
ビーム径:2mmφ
面内回転:無
照射量:75μC
【0151】
[耐クラック性(A)]
光透過性導電フィルム10を24℃環境下で170時間保管した。その後、5cm×50cmのサイズに切り出した光透過性導電フィルム10を3枚準備し、175℃の熱風オーブンで1時間加熱した。これにより、光透過性導電フィルム10における光透過性導電層1を結晶化した。その後、光透過性導電フィルム10は5cm×10cmのサイズで15区画に分け、各区画の光透過性導電層1の表面を目視で観察し、以下の基準にてクラックのレベルを評価した。
【0152】
<基準>
〇: クラックが観察される区画が、0区画以上、6区画以下であった。
△: クラックが観察される区画が、7区画以上、12区画以下であった。
×: クラックが観察される区画が、13区画以上であった。
【0153】
[耐クラック性(B)]
5cm×50cmのサイズに切り出した光透過性導電フィルム10を3枚準備し、165℃の熱風オーブンで1時間加熱した。これにより、光透過性導電フィルム10における光透過性導電層1を結晶化した。その後、光透過性導電フィルム10を、60℃95%RHの湿熱環境に240時間暴露した後、5cm×10cmのサイズで15区画に分け、各区画の光透過性導電層1の表面を目視で観察し、以下の基準にてクラックのレベルを評価した。
<基準>
〇: クラックが観察される区画が、0区画以上、6区画以下であった。
△: クラックが観察される区画が、7区画以上、12区画以下であった。
×: クラックが観察される区画が、13区画以上であった。
【0154】
【表1】
【0155】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の光透過性導電層積層体は、例えば、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ、電磁波シールド部材、画像表示装置、ヒータ部材、および、照明に用いられる。
【符号の説明】
【0157】
1 光透過性導電層
2 第1主面
3 第2主面
4 第1領域
5 第2領域
10 光透過性導電フィルム(光透過性導電層積層体)
11 樹脂層
13 透明基材フィルム
14 機能層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7