(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】導電性ポリエステル組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20231025BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20231025BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231025BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20231025BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K7/06
C08K3/04
C08L23/26
H01B1/24 B
(21)【出願番号】P 2022085663
(22)【出願日】2022-05-26
【審査請求日】2022-05-26
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】廖▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】曹俊哲
(72)【発明者】
【氏名】劉岳欣
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-097133(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102850735(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102942810(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103013057(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08K 7/06
C08K 3/04
C08L 23/26
H01B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの前記平均長さは、10μm~20μmであり、前記カーボンナノチューブの前記平均直径は、5nm~20nmであると共に、前記L/Dは、1,000~2,000である、請求項1に記載の導電性ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記導電性補強材における前記カーボンナノチューブは、多層の炭素原子構造を有する多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotubes,MWCNT)である、請求項1に記載の導電性ポリエステル組成物。
【請求項4】
前記相溶化剤の分子構造におけるメタクリル酸グリシジルは、混練において開環反応(ring cleavage)を起こし、且つ、前記メタクリル酸グリシジルにおけるエポキシ基は、前記開環反応の後に前記カーボンナノチューブの表面にある反応性官能基及び/又は前記ポリエステル基材の分子構造におけるエステル基(ester group)と化学反応を行い、それによって、前記カーボンナノチューブを前記ポリエステル基材に分散させ、
前記カーボンナノチューブの表面にある反応性官能基は、水酸基(-OH)及びカルボキシル基(-COOH)の少なくとも1つである、請求項1に記載の導電性ポリエステル組成物。
【請求項5】
前記導電性補強材における前記カーボンナノチューブは、ヒドロキシル化多層カーボンナノチューブ(hydroxylate multi walled carbon nanotubes)及びカルボキシル化多層カーボンナノチューブ(carboxylic multi walled carbon nanotubes)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の導電性ポリエステル組成物。
【請求項6】
前記相溶化剤は、エチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリシジル共重合体(E-MA-GMA)、メタクリル酸グリシジルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)及びメタクリル酸グリシジルをグラフトしたポリエチレン(PE-g-GMA
)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の導電性ポリエステル組成物。
【請求項7】
抗酸化剤と黒マスターバッチとを含み、前記導電性ポリエステル組成物の総重量に基づいて、前記抗酸化剤の含有量は、0.1wt%~1wt%であり、前記黒マスターバッチの含有量は、1wt%~5wt%である、請求項1に記載の導電性ポリエステル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリエステル組成物に関し、特に、導電特性が高い導電性ポリエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術において、ポリエステル材料の導電特性を向上させるために、ポリエステル材料に導電性グラファイト又は導電性カーボンブラックなどの球状導電性材料(L/Dが10未満である)を添加することが施されているが、グラファイト又はカーボンブラックを導電性添加剤として用いる場合、ポリエステル材料に導電性を与えるためには、極めて高い比率(例えば、20wt%を超える)で添加する必要がある。
【0003】
しかしながら、このような導電性ポリエステル材料の延伸性が不良であるため、粉落ち(例えば、グラファイト又はカーボンブラック)を起こしやすい。また、前記導電性ポリエステル材料は、高い倍率で延伸された後に、導電特性が極めて低くなる場合がある。
【0004】
そこで、本発明者は、上述した問題が改善可能であることに鑑みて、鋭意研究を行い、学理を併せて運用した結果、設計が合理的で且つ前記問題を効果的に改善することができる方法として本発明に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術課題は、従来技術の不足に対し、導電性ポリエステル組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、導電性ポリエステル組成物を提供する。前記導電性ポリエステル組成物は、ポリエステル基材と、前記ポリエステル基材に分散するカーボンナノチューブ(carbon nanotubes)を含む導電性補強材とを含有し、前記カーボンナノチューブのそれぞれにおいて、前記カーボンナノチューブの長さをLとし、前記カーボンナノチューブの直径をDとし、前記カーボンナノチューブの直径は1nm~30nmであると共に、前記カーボンナノチューブのL/Dは、300~2,000であり、前記カーボンナノチューブがお互いに接触することで接触点を形成することによって、前記導電性ポリエステル組成物は、107Ω/sq以下の表面抵抗値を有する。
【0007】
好ましくは、前記カーボンナノチューブの長さは、10μm~20μmであり、前記カーボンナノチューブの直径は、5nm~20nmであると共に、L/Dは、1,000~2,000である。
【0008】
好ましくは、前記導電性ポリエステル組成物の総重量に基づいて、前記ポリエステル基材の含有量は、70wt%~95wt%であると共に、前記導電性補強材の含有量は、1.5wt%~10wt%である。
【0009】
好ましくは、前記導電性補強材における前記カーボンナノチューブは、多層の炭素原子構造を有する多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotubes,MWCNT)である。
【0010】
好ましくは、前記導電性ポリエステル組成物は、前記カーボンナノチューブを前記ポリエステル基材に分散させるための、相溶化剤を更に含み、なかでも、前記導電性ポリエステル組成物の総重量に基づいて、前記相溶化剤の含有量は、1.5wt%~10wt%である。
【0011】
好ましくは、前記導電性補強材における前記カーボンナノチューブは、ヒドロキシル化カーボンナノチューブ及びカルボキシル化カーボンナノチューブからなる群の少なくとも1つから選択され、なかでも、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリルでグラフト(glycidyl methacrylate,GMA)、改質若しくは共重合されたポリオレフィン相溶化剤、又はシロキサン化合物である。
【0012】
好ましくは、前記相溶化剤の分子構造におけるメタクリル酸グリセリルは、混練において開環反応(ring cleavage)を起こし、且つ、前記メタクリル酸グリセリルにおけるエポキシ基は、前記開環反応の後に前記カーボンナノチューブの表面にある反応性官能基及び/又は前記ポリエステル基材の分子構造におけるエステル基(ester group)と化学反応を行い、それによって、前記カーボンナノチューブを前記ポリエステル基材に分散させ、なかでも、前記カーボンナノチューブの表面にある反応性官能基は、水酸基(-OH)及びカルボキシル基(-COOH)の少なくとも1つである。
【0013】
好ましくは、前記導電性補強材における前記カーボンナノチューブは、ヒドロキシル化多層カーボンナノチューブ(hydroxylate multi walled carbon nanotubes)及びカルボキシル化多層カーボンナノチューブ(carboxylic multi walled carbon nanotubes)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0014】
好ましくは、前記相溶化剤は、エチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリセリル共重合体(E-MA-GMA)、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)及びメタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリエチレン(PE-g-GMA)及びシロキサン化合物(siloxane)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0015】
好ましくは、前記導電性ポリエステル組成物は、抗酸化剤と黒マスターバッチとを含み、なかでも、前記導電性ポリエステル組成物の総重量に基づいて、前記抗酸化剤の含有量は、0.1wt%~1wt%であり、前記黒マスターバッチの含有量は、1wt%~5wt%である。
【0016】
好ましくは、前記導電性ポリエステル組成物は、二軸スクリュープロセスで混練変性を行い、前記二軸スクリュープロセスで混練変性された導電性ポリエステル組成物の表面抵抗値は、107Ω/sq以下である。
【0017】
好ましくは、前記導電性ポリエステル組成物は、前記二軸スクリュープロセスで混練変性を行った後に、導電性ポリエステルシート材料を形成し、なかでも、前記導電性ポリエステルシート材料が延伸される前に、前記導電性ポリエステルシート材料は103Ω/sq~104Ω/sqの表面抵抗値を有し、前記導電性ポリエステルシート材料が延伸方向に沿って200%~400%延伸された後に、前記導電性ポリエステルシート材料は104Ω/sq~107Ω/sqの表面抵抗値を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有利な効果として、本発明に係る導電性ポリエステル組成物は、「前記導電性補強材は、ポリエステル基材に分散するカーボンナノチューブ(carbon nanotubes)を含み、なかでも、前記カーボンナノチューブのそれぞれにおいて、前記カーボンナノチューブの長さをLとし、前記カーボンナノチューブの直径をDとし、前記カーボンナノチューブの直径は1nm~30nmであると共に、前記カーボンナノチューブのL/Dは、300~2,000である。なかでも、前記カーボンナノチューブがお互いに接触することで接触点を形成することによって、前記導電性ポリエステル組成物は、107Ω/sq以下の表面抵抗値を有する」といった技術特徴により、前記導電性ポリエステル組成物に少量の導電性補強材を添加する場合にも、高い導電特性を有すると共に、前記導電性ポリエステル組成物が延伸された後でも高い導電特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る導電性ポリエステル組成物を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る導電性ポリエステル組成物におけるカーボンナノチューブを示す模式図である。
【
図3】
図1に示す導電性ポリエステル組成物が延伸された後を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0021】
以下、所定の具体的な実施態様を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行又は適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲が制限されることはない。
【0022】
理解すべきことは、本明細書では、「第1」、「第2」、「第3」といった用語を用いて各種の素子又は信号を叙述することがあるが、これらの素子又は信号は、これらの用語によって制限されるものではない。これらの用語は主に、1つの素子と、もう1つの素子を、又は1つの信号と、もう1つの信号を区別するためのものである。また、本明細書において使用される「又は」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むことがある。
【0023】
[導電性ポリエステル組成物]
図1に示すように、本発明に係る実施形態は、導電性ポリエステル組成物100を提供する。前記導電性ポリエステル組成物100は、ポリエステル基材1及び導電性補強材2を含有する。本実施形態に係る導電性ポリエステル組成物100は、導電性補強材2の材料及び含有量の制御によって、高い導電特性を有する。なお、本実施形態に係る導電性ポリエステル組成物100は、高倍率で延伸された後でも高い導電特性を有する。このように、本実施形態に係る導電性ポリエステル組成物100は、延伸成形を用いる電気キャリア搬送用トレー(carrier tray)又は電気キャリアテープ(carrier tape)に好適である。
【0024】
本実施形態において、前記ポリエステル基材1は、導電性ポリエステル組成物100の基材である。前記ポリエステル基材1は、二塩基酸と二価アルコール又はその誘導体との縮合重合反応により得た高分子ポリマーである。即ち、前記ポリエステル基材1は、ポリエステル材料である。前記ポリエステル材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)であることが特に好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0025】
含有量について、前記導電性ポリエステル組成物100の総重量に基づいて、前記ポリエステル材料1の含有量は、70wt%~95wt%であることが好ましく、75wt%~95wt%であることが特に好ましい。説明すべきことは、本明細書における「基材」又は「マトリックス」は、組成物の割合が半分以上に占める材料であることによって、前記基材は、連続媒体で材料の特性(例えば、延伸成形の加工性)を表現することができる。
【0026】
前記ポリエステル材料を形成するための二塩基酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5-ナフタル酸、2,6-ナフタル酸、1,4-ナフタル酸、ジ安息香酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3-ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸及びドデカンジオン酸の中の少なくとも1つである。
【0027】
尚、前記ポリエステル材料を形成するための二価アルコールは、エチレングリコール、プロパンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,10-デカンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン及びビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンの中の少なくとも1つである。
【0028】
更に
図1に示すように、前記導電性ポリエステル組成物100に高い導電特性を与えるため、前記導電性補強材2は、複数条のカーボンナノチューブ21(carbon nanotubes)を含むと共に、前記カーボンナノチューブ21は、均一にポリエステル基材1に分散する。
【0029】
図2に示すように、前記カーボンナノチューブ21のそれぞれにおいて、前記カーボンナノチューブ21の長さをLとすると共に、5μm(micrometer)~30μmであり、且つ、前記カーボンナノチューブ21の直径をDとすると共に、1nm(nanometer)~30nmである。なお、前記カーボンナノチューブ21のカーボンナノチューブのL/D(若しくは、ロータ長さ比である)は、300~2,000である。
【0030】
特筆すべきことは、本実施形態において、
図1に示すように、前記カーボンナノチューブ21がポリエステル基材1に分散する場合に、前記カーボンナノチューブ21は、ポリエステル基材1で連続的に分散し、且つお互いに接触して、連続的に存在する複数個の接触点Pが形成される。それによって、複数条の前記カーボンナノチューブ21はお互いに接続することで、前記導電性ポリエステル組成物100は、高い導電特性及び低い表面抵抗値を有する。具体的に、前記導電性ポリエステル組成物100の表面抵抗値(surface impedance)は、10
7Ω/sq以下である。
【0031】
本発明の一つの実施形態において、前記導電性ポリエステル組成物100に延伸された後でも高い導電特性及び低い表面抵抗値を与えるため、前記カーボンナノチューブ21のサイズは、好ましい範囲を有する。具体的に説明すると、前記カーボンナノチューブ21において、前記カーボンナノチューブ21の長さLは、10μm~20μmであることが好ましく、前記カーボンナノチューブ21の直径Dは、3nm~20nmであることが好ましく、前記カーボンナノチューブ21のL/Dは、1,000~2,000であることが好ましい。本実施形態におけるカーボンナノチューブ21の長さLが十分に長く、且つL/Dが十分に高いため、
図3に示すように、本実施形態に係る導電性ポリエステル組成物100は、高倍率(例えば、200%~400%の延伸倍率)で延伸された後でも、連続的に存在する複数個の接触点Pを有して、高い導電特性を有する。
【0032】
含有量について、前記導電性ポリエステル組成物100の総重量に基づいて、前記導電性補強材2の含有量は、1.5wt%~10wt%であることが好ましく、2wt%~5wt%であることが特に好ましい。即ち、前記導電性補強材2における複数条のカーボンナノチューブ21は、導電性ポリエステル組成物100に少量に添加されても(10wt%以下)、前記導電性ポリエステル組成物100に高い導電特性及び低い表面抵抗値を与える。
【0033】
前記導電性補強材2の含有量が前記含有量の下限値より低くなると(例えば、1.5wt%未満)、前記カーボンナノチューブ21が導電性ポリエステル組成物100において十分な量の接触点を形成することができないため、前記導電性ポリエステル組成物100に高い導電特性及び低い表面抵抗値を与えることができない。一方、前記導電性補強材2の含有量が前記含有量の上限値より高くなる(例えば、10wt%を超える)と、前記カーボンナノチューブ21は導電性ポリエステル組成物100での分散性が不良となることがあると共に、前記導電性ポリエステル組成物100は加工性が不良となり、且つ延伸されにくいことがある。
【0034】
カーボンナノチューブ21として、単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotubes,SWCNT)、2層カーボンナノチューブ(double-walled carbon nanotubes,DWCNT)及び多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotubes,MWCNT)からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0035】
図2に示すように、本発明の一つの実施形態において、前記カーボンナノチューブ21は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)であることが好ましい。多層カーボンナノチューブを採用する利点として、多層カーボンナノチューブの構造的対称性が低いため、表面変性を行いやすく、カーボンナノチューブと樹脂材料との相容性及び分散性を向上させることができる。また、多層カーボンナノチューブの構造は、数層乃至数十層の単層チューブが同心となるように構成されるため、延伸において好適であると共に、延伸されても断裂又は構造が破壊されにくくなる。本実施形態に係る導電性ポリエステル組成物100を応用する時に、高倍率で延伸される必要があるため、多層カーボンナノチューブを用いると材料が比較的に広い延伸範囲を達成する。
【0036】
本発明の一つの実施形態において、前記導電性補強材2のポリエステル基材1での相容性及び分散性を向上するため、前記導電性ポリエステル組成物100は、相溶化剤を更に含む(図面なし)。なかでも、前記相溶化剤は、カーボンナノチューブ21をポリエステル基材1に分散させるように配合される。
【0037】
含有量について、前記導電性ポリエステル組成物100の総重量に基づいて、前記相溶化剤の含有量は、1.5wt%~10wt%であることが好ましく、2wt%~10wt%であることが特に好ましい。
【0038】
前記相溶化剤について、カーボンナノチューブ21のポリエステル基材1での分散性を向上させる効果を向上するために、前記相溶化剤及び前記カーボンナノチューブは、好ましい重量比を有する。
【0039】
具体的に説明すると、前記相溶化剤と前記カーボンナノチューブとの重量比は、2:1~1:1である。例えば、前記導電性ポリエステル組成物100では、前記相溶化剤の含有量は、例えば、6wt%であってもよく、また、前記カーボンナノチューブの含有量は、例えば、3wt%であってもよい。なお、前記相溶化剤の含有量は、例えば、3wt%であってもよく、前記カーボンナノチューブの含有量は、例えば、3wt%であってもよい。換言すると、前記相溶化剤の含有量は、好ましくはカーボンナノチューブの含有量以上であるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0040】
本発明の一つの実施形態において、前記導電性補強材2のポリエステル基材1での相容性及び分散性を向上するため、前記導電性補強材2におけるカーボンナノチューブ21は、ヒドロキシル化カーボンナノチューブ(hydroxylated carbon nanotubes)及びカルボキシル化カーボンナノチューブ(carboxylic carbon nanotubes)からなる群から選択される少なくとも1つである。即ち、前記カーボンナノチューブ21は、ヒドロキシル変性(-OH modified)又はカルボキシル変性(-COOH modified)を行ったカーボンナノチューブ21である。なお、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリル(glycidyl methacrylate,GMA)でグラフト、改質若しくは共重合されたポリオレフィン相溶化剤、又はシロキサン化合物である。
【0041】
上述した構成により、前記相溶化剤の分子構造におけるメタクリル酸グリセリル(GMA)は、混練において開環反応(ring cleavage)を起こし、且つ、前記メタクリル酸グリセリルにおけるエポキシ基(epoxy group)は、前記開環反応の後に前記カーボンナノチューブ21の表面にある反応性官能基及び/又は前記ポリエステル基材1の分子構造におけるエステル基(ester group)と化学反応(例えば、共有結合)を行い、それによって、前記カーボンナノチューブ21を前記ポリエステル基材1により相容且つ均一的に分散させる。
【0042】
なかでも、前記カーボンナノチューブ21の表面にある反応性官能基は、水酸基(-OH)及びカルボキシル基(-COOH)の少なくとも1つである。なお、前記メタクリル酸グリセリルにおけるエポキシ基(epoxy group)は、例えば、カーボンナノチューブ21の表面にある反応性官能基及び/又は前記ポリエステル基材1の分子構造におけるエステル基(ester group)と共有結合(covalent bonding)する。
【0043】
より具体的に説明すると、本発明の実施形態において、前記導電性補強材2におけるカーボンナノチューブ21は、ヒドロキシル化多層カーボンナノチューブ(hydroxylate multi walled carbon nanotubes)及びカルボキシル化多層カーボンナノチューブ(carboxylic multi walled carbon nanotubes)からなる群から選択される少なくとも1つであるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0044】
より具体的に説明すると、本発明の一つの実施形態において、前記相溶化剤は、エチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリセリル共重合体(E-MA-GMA)、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)及びメタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリエチレン(PE-g-GMA)及びシロキサン化合物(siloxane)からなる群から選択される少なくとも1つである。前記相溶化剤は、エチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリセリル共重合体(E-MA-GMA)とシロキサン化合物(siloxane)の組み合わせであることは好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0045】
特筆すべきことは、前記相溶化剤において、メタクリル酸グリセリル(以下、GMAと称す)の分子構造に反応性2官能基である炭素-炭素二重結合及びエポキシ基を有する。GMAは、非水溶性であり、且つ有機溶剤に溶解されやすい無色透明の液体である。GMAは、皮膚及び粘膜に刺激性を有するが、ほぼ無毒である。GMAは、2官能基を有し、フリーラジカル反応或いはイオン反応を行うことができるため、高い反応活性を有するので、高分子材料の合成及び改良に広く使われている。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン-オクテン(POE)などのポリオレフィンが挙げられ、GMAを介してグラフト・変性した後に、ポリマーの接着力、親水性及び高分子樹脂との相容性を顕著に向上させることができる。
【0046】
本発明の一つの実施形態において、前記導電性ポリエステル組成物100の抗酸化性を向上するため、前記導電性ポリエステル組成物100は、抗酸化剤(antioxidants)を更に含む。含有量について、前記導電性ポリエステル組成物100の総重量に基づいて、前記抗酸化剤の含有量は、0.1wt%~1wt%であるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0047】
前記抗酸化剤として、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、フェノール系抗酸化剤、混合抗酸化剤、亜リン酸系抗酸化剤及び複合抗酸化剤からなる群から選択される少なくとも1つである。好ましくは、前記抗酸化剤は、亜リン酸系抗酸化剤とヒンダードフェノール系抗酸化剤との複合物であることが好ましい。
【0048】
本発明の一つの実施形態において、前記導電性ポリエステル組成物100の黒色度を向上するため、前記導電性ポリエステル組成物100は、黒マスターバッチ(black master batches)を更に含む。含有量について、前記導電性ポリエステル組成物100の総重量に基づいて、前記黒マスターバッチの含有量は、1wt%~5wt%であるが、本発明はこれに制限されるものではない。黒マスターバッチを添加する目的は、導電性ポリエステルの色合いを制御する。
【0049】
前記導電性ポリエステル組成物100の材料及び含有量を制御することにより、本実施形態の導電性ポリエステル積層構造100は、二軸スクリュープロセスで混練変性を行うことによって、前記導電性補強材2を均一にポリエステル基材1に分散させた上で、前記導電性ポリエステル組成物100は高い導電特性及び低い表面抵抗値を有する。特筆すべきことは、前記二軸スクリュープロセスで混練変性された導電性ポリエステル組成物100の表面抵抗値は、107Ω/sq以下である。
【0050】
より具体的に説明すると、前記導電性ポリエステル組成物100は、二軸スクリュープロセスで混練変性された後に、導電性ポリエステルシート材料を形成し、電気キャリア搬送用トレー又は電気キャリアテープの製造に用いられる。
【0051】
なかでも、前記導電性ポリエステルシート材料が延伸される前に、前記導電性ポリエステルシート材料が10
3Ω/sq~10
4Ω/sqの表面抵抗値を有する。また、前記導電性ポリエステルシート材料が延伸方向(例えば、TD方向又はMD方向)に沿って200%~400%延伸(又は、引張)された後に、前記導電性ポリエステルシート材料が10
4Ω/sq~10
7Ω/sqの表面抵抗値を有する。特筆すべきことは、
図3に示すように、前記導電性ポリエステルシート材料が延伸された後に、カーボンナノチューブ21のお互いの分布密度が低くなるが、カーボンナノチューブ21は依然としてお互いに接触すると共に、複数個の接触点Pを形成するので、ある程度の導電性を提供する。
【0052】
本発明の一つの実施形態は、上述した導電性ポリエステル組成物100で製造され、且つ延伸成形された電気キャリアテープ(carrier tape)を提供する。
【0053】
本発明の一つの実施形態は、上述した導電性ポリエステル組成物100で製造され、且つ延伸成形された電気キャリア搬送用トレー(carrier tray)を提供する。
【0054】
[実験データの測定]
以下、実施例1及び比較例1及び2により、本発明の内容を詳しく説明するが、それらの実施例は、本発明を理解するためのものであり、本発明はこれに制限されるものではない。
【0055】
実施例1では、ポリエステル組成物に3wt%のカーボンナノチューブを添加した後に、前記ポリエステル組成物で導電性ポリエステルシート材料を製造した。実施例1のカーボンナノチューブの規格は、以下の通りであり、即ち、平均直径は5nm~15nmであり、平均長さは10μm~20μmであり、L/Dは1,000~2,000であり、表面積は200m2/g~300m2/gであり、純度は90%以上であり、且つ容積密度は0.950~0.150である多層カーボンナノチューブである。実施例1の電気測定結果によると、未延伸の導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は、103Ω/sq~104Ω/sqであり、200%延伸された導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は、104Ω/sq~105Ω/sqであり、400%延伸された導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は、106Ω/sq~107Ω/sqである。上記の測定結果によると、少量のカーボンナノチューブを添加することにより、導電性ポリエステル組成物に高い導電特性及び低い表面抵抗値を与える。なお、実施例1の導電性ポリエステル組成物は、高い倍率で延伸されても、依然として高い導電特性を有する。
【0056】
比較例1では、ポリエステル組成物に25wt%の導電性グラファイト球形材料を添加すると共に、ポリエステル組成物で導電性ポリエステルシート材料を製造する。比較例1の電気測定結果によると、未延伸の導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は約105Ω/sqであり、200%延伸された導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は約、1011Ω/sqであり、400%延伸された導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は約、1011Ω/sqである。上記の測定結果によると、導電性グラファイト材料を使用する場合、導電性ポリエステル組成物に高い導電特性を得るために、大量に添加する必要がある。しかしながら、比較例1の導電性ポリエステル組成物は、高い倍率で延伸された後に、高い導電特性を有しない。
【0057】
比較例2では、ポリエステル組成物に20wt%の導電性カーボンブラック球形材料を添加すると共に、ポリエステル組成物で導電性ポリエステルシート材料を製造する。比較例2の電気測定結果によると、未延伸の導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は約105Ω/sqであり、200%延伸された導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は、1010Ω/sqであり、400%延伸された導電性ポリエステルシート材料の表面抵抗値は、1011Ω/sqである。上記の測定結果によると、導電性カーボンブラック材料を使用する場合、導電性ポリエステル組成物に高い導電特性を得るために、大量に添加する必要がある。しかしながら、比較例2の導電性ポリエステル組成物は、高い倍率で延伸された後に、高い導電特性を有しない。
【0058】
上記表面抵抗値の測定方法は、表面抵抗試験機で導電性ポリエステルシート材料に対して測定を行う。
【0059】
【0060】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る導電性ポリエステル組成物は、「前記導電性補強材は、ポリエステル基材に分散するカーボンナノチューブ(carbon nanotubes)を含み、なかでも、前記カーボンナノチューブのそれぞれにおいて、前記カーボンナノチューブの長さをLとし、前記カーボンナノチューブの直径をDとし、前記カーボンナノチューブの直径は1nm~30nmであると共に、前記カーボンナノチューブのL/Dは、300~2,000である。なかでも、前記カーボンナノチューブがお互いに接触することで接触点を形成することによって、前記導電性ポリエステル組成物は、107Ω/sq以下の表面抵抗値を有する」といった技術特徴により、前記導電性ポリエステル組成物に少量の導電性補強材を添加する場合にも、高い導電特性を有すると共に、前記導電性ポリエステル組成物が延伸された後でも高い導電特性を有する。
【0061】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
100…導電性ポリエステル組成物
1…ポリエステル基材
2…導電性補強材
21…カーボンナノチューブ
P…接触点
L…長さ
D…直径